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contrastive_linguistics - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-10-23 21:31

2021-04-20 Tue

#4376. 現代日本で英語と向き合っている生徒・学生と17世紀イングランドでラテン語と向き合っていた庶民 [renaissance][emode][loan_word][borrowing][latin][japanaese][contrastive_linguistics][inkhorn_term][khelf_hel_intro_2021]

 4月5日にスタートした「英語史導入企画2021」も,3週目に突入しました.学部・院のゼミ生を総動員しての,5月末まで続く少々息の長い企画なのですが,本ブログ読者の皆さんにも懲りずにお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます.毎日,コンテンツを提供する学生のガッツを感じながら,私自身がおおいにインスピレーションをゲットしています.年度初めとして,なかなかフレッシュでナイスなオープニングです.
 さて,上の段落では,いやらしいほどにカタカナ語を使い倒してみました.英語が嫌いな人,横文字が嫌いな人には,ケッと吐いて捨てたくなるような文章だろうと思います(うーむ,我ながら軽薄な文章).昨日,本企画ために院生よりアップされたコンテンツは「英語嫌いな人のための英語史」と題する,このカタカナ語嫌いに寄り添った考察です.その冒頭の2つの段落の出だしが,何とも歯切れよく心地よいですね.

「一生英語を使わなくてもいい環境で暮らしてやる」……このような恨みつらみのこもった台詞は、英語嫌いの人間ならば一度は発したことがあるだろう。そして、何を隠そう、十年ほど前、中学生・高校生だったころの筆者自身が毎日のようにこぼしていた言葉でもあった。


英語嫌いの人間が辟易するのは、まずもって、世の中に氾濫している横文字の多さであるだろう。レガシー、コミット、アカウンタビリティ……なぜそこで英語を(あるいは英語由来の和製英語を)使わなければならないのかと、ニュースなどを見ながら突っ込みたくなる日々である。


 これは読みたくなるコンテンツではないでしょうか.内容としては,現代日本で英語と向き合っている生徒・学生と,17世紀イングランドでラテン語と向き合っていた庶民とを,空間・時間を超えて比較した英語史の好コンテンツとなっています.
 現代日本語におけるカタカナ語とルネサンス期イングランドのラテン借用語を巡る比較対照は,対照言語史 (contrastive_linguistics) の観点から興味の尽きないテーマです.一般に2つのものを比較しようとする際には,共通点だけでなく相違点に留意することも重要です.上記コンテンツでは,意図的に両者の共通点を拾い出して近づけて見せているわけですが,あえて相違点に注目することで,先の共通点の意義を浮かび上がらせることができます.以下に2点指摘しておきましょう.
 1点目.現代日本で英語と向き合っている生徒・学生,とりわけ「英語なんて嫌い」と吐き捨てるタイプと,17世紀イングランドでラテン語と向き合っていた庶民とでは,各言語に対する思いがかなり異なります.「英語なんて嫌い」の背景には,逆説的に英語に対する「憧れ」があるのではないかというコンテンツでの指摘は当たっていると私も思います.しかし,17世紀イングランドの庶民はラテン語を「嫌い」と吐き捨ててはいなかったでしょう.ラテン語は,もっと純粋な「憧れ」,手に届かないところにいる「スター」に近いものではなかったでしょうか.
 両者の違いは,端的にいえば,むりやり学ばされているか否かにあります.現代日本では,たとえ英語が「憧れ」だったとしても,義務教育で強制的に学ばされるという意味では,現実の学習上の「苦労」がセットになっています.学校で学ぶべき「科目」となっていては,好きなものも好きではなくなるはずです.17世紀イングランドでは,庶民にとってラテン語学習はおろか教育の機会そのものがまだ高嶺の花であり,現実の学習上の「苦労」とは無縁なために,「憧れ」は純然たる憧れとして生き延び得たのです.
 2点目は,17世紀イングランドではラテン借用語が inkhorn_term として批判されたというのは事実ですが,批判の主は,若い生徒・学生でもなければ庶民でもなく,バリバリの知識人でした.Sir John Cheke (1514--57) のようなケンブリッジ大学の古典語教授が,借用語を批判していたほどなのです.この状況は,どう控えめにみても,日本の英語嫌いの生徒・学生がカタカナ語に悪態をついているのとは比較できないように思われます.
 もちろん,2つのものを比較対照するときに,共通点を重視して「比較」の議論にもっていくか,相違点を重視して「対照」の議論にもっていくかは,論者の方針次第でもあり,言ってしまえばレトリックの問題でもあります.いずれにしても比較する場合には相違点に,対照する場合には共通点に注意しておくと考察が深まる,ということを述べておきましょう.
 関連する話題は,本ブログとしては「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1]),「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) その他の記事で扱ってきました.いろいろとリンクを張っているので,是非そちらをどうぞ.

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2020-12-18 Fri

#4253. 「対照言語学」と「比較言語学」は似て非なる分野 [contrastive_linguistics][comparative_linguistics][linguistics]

 標記の2つの分野はよく間違えられるが,まったく異なる分野であることを指摘しておきたい.英語では対照言語学contrastive linguistics と呼ばれ,比較言語学は comparative linguistics と呼ばれる.いずれも2つ以上の言語を比較・対照する言語学の下位分野であるには違いなく,ややこしい名称であることは確かである.
 分かりやすさを重視して,ざっくりと区別するならば,対照言語学は系統的に無関係の言語どうし(例えば日本語と英語)を比べて,言語現象の異同を明らかにする分野である.基本的には共時的な観点に立ち,語学教育,翻訳論,言語普遍性,言語タイポロジーなどと近しい関係にある.
 一方,比較言語学は系統的に関係がある言語や方言どうし(例えば英語とドイツ語)を比べて,その歴史的な類縁関係を明らかにしようとする分野である.原則として通時的な視点をもっており,言語変化論と相性がよい.
 このように,2つの分野は,ある意味で立場が180度異なる分野といってよい.英語史は本質的に通時的な分野なので,本ブログも相当程度に比較言語学寄りのスタンスを取っているといえる.
 上記の説明ではあまりに大雑把なので,McArthur の用語辞典からしっかりした解説を引用しておこう.まずは対照言語学から.

CONTRASTIVE LINGUISTICS, ALSO contrastive analysis [Mid-20c]. A branch of linguistics that describes similarities and difference among two or more languages at such levels as phonology, grammar, and semantics, especially in order to improve language teaching and translation. The study began in Central Europe before the Second World War and developed afterwards in North America. In the US in the later 1950s, Robert Lado proposed contrastive analysis as a means of identifying areas of difficulty for language learners that could then be managed with suitable exercises. Critics have pointed out that such areas of difficulty are already widely known and discussed by experienced professionals, and that, while headway has been made in analysing English, few other languages have been sufficiently studied to allow balanced comparison. Teachers, however, generally agree that mother tongue and target language merit comparison, many courses incorporate the results of contrastive study, and linguists involved in the area consider that the study is still in its infancy and continued research is likely to bear fruit.


 次に比較言語学について.見出しでは "comparative philology" となっており,こちらの用語ほうが誤解を招かないようにも思うが,昨今は上記の通り "comparative linguistics" のほうが普通である.

COMPARATIVE PHILOLOGY. The branch of philology that deals with the relations between languages descended from a common original, now generally known as comparative linguistics.


 ということで,間違いなきよう.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.

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