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countability - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-12-05 10:22

2021-11-18 Thu

#4588. OED による複数形の Englishes の初例 [world_englishes][variety][oed][countability][number][plural]

 普通,言語名というものは不可算名詞であり English, French, Japanese のように無冠詞で用いる.一方,日常言語生活においても言語学においても,各言語のなかに様々な変種(方言)があるということは常識的に知られており,形容詞を冠して American English, Old French, written Japanese などという表現があることは暗黙の了解事項となっている.これらは丁寧にパラフレーズするならば an American variety of English, an ancient variety of French, a written variety of Japanese などとなるだろうか.この丁寧なフレーズから,冠詞と variety of を省略したのが American English, Old French, written Japanese などの表現となっていると考えられる.
 このように,あくまで表現上のショートカットととらえるのであれば,それ以上議論する余地もないかもしれない.便宜上の省略表現にすぎないからだ.しかし,Englishes のような表現は,あえてこうした発想を形式の上にも反映させようとしたところに,新しさを感じさせる.実は Englishes という複数形だけがポイントなのではなく,an English という明示的な単数形も重要なポイントなのである.要するに English の可算名詞化こそが新しいのだ.
 American EnglishBritish English を合わせて two Englishes と表現できるようになった背景には,人々の英語観の転換がある.それまでも two varieties of English という言い方はできたわけで,ここから varieties of を省いて two Englishes という新しい表現を作った,ということだが,単に形式上の変化として済まされる問題ではない.認識の変化が関わっているのだ.英語を可算名詞と解釈しなおしたことのインパクトは大きい.
 OED の English, adj. (and adv.) and n. の II. 2. d によると,English の可算名詞としての初例は1910年の H. L. Mencken である.この項を再現しよう.

d. As a count noun: a variety of English used in a particular context or (now esp.) a certain region of the world; (in plural) regional varieties of English considered together, often in contradistinction to the concept of English as a language with a single standard or correct form.

1910 H. L. Mencken in Evening Sun (Baltimore) 10 Oct. 6/8 (heading) The two Englishes.
1941 W. Barkley (title) Two Englishes; being some account of the differences between the spoken and the written English languages.
1964 Eng. Stud. 45 21 Many people side-step the recognition of a plurality of Englishes by such judgments as: 'Oh, that's not English, that's American.'
1978 J. Pride Communicative Needs in Learning & Use of Eng. 1 The role of literature in non-native Englishes may be focal.
1984 Eng. World-wide 5 248 An overview of some aspects of various Englishes suggesting areas of possible research.
2000 Independent (Nexis) 28 June 11 It was one of the first places to be settled in the Plantations; there's an English spoken there that's unique.


 初例がアメリカ英語に関する名著 The American Language を著わしたジャーナリスト・批評家の H. L. Mencken だとは知らなかった.アメリカ英語とイギリス英語を別ものと見ていた Mencken の英語観に照らせば,彼が The two Englishes と表現したことはまったく不思議ではないが,初耳だった.
 OED の例文選びのクセはあるかもしれないが,学術雑誌や新聞という堅めのメディアからの引用が多いように見受けられる.English の可算名詞としての用法が,英語研究という学術的な文脈で使い始められ,それが少しずつ一般にも広がってきたという傾向を読み取ることができそうだ.
 Englishes のように複数形で用いられ得る,という英語観の変化の種が蒔かれてから,たかだか100余年.多少なりとも広く知られてきたものの,いまだ主として学術の分野で用いられるにすぎない特殊な用法とみることもできる.今後どれだけ人口に膾炙していくのか.見守っていきたい.

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2020-11-10 Tue

#4215. 強意複数 (2) [plural][intensive_plural][semantics][number][category][noun][terminology][countability][poetry][latin][rhetoric]

 昨日の記事 ([2020-11-09-1]) に引き続き強意複数 (intensive_plural) の話題について.この用語は Quirk et al. などには取り上げられておらず,どうやら日本の学校文法で格別に言及されるもののようで,たいていその典拠は Kruisinga 辺りのようだ.それを参照している荒木・安井(編)の辞典より,同項を引用する (739--40) .昨日の記事の趣旨を繰り返すことになるが,あしからず.

intensive plural (強意複数(形)) 意味を強調するために用いられる複数形のこと.質量語 (mass word) に見られる複数形で,複数形の個物という意味は含まず,散文よりも詩に多く見られる.抽象物を表す名詞の場合は程度の強いことを表し,具象物を表す名詞の場合は広がり・集積・連続などを表す: the sands of Sahara---[Kruisinga, Handbook] / the waters of the Nile---[Ibid.] / The moon was already in the heavens.---[Zandvoort, 19757] (月はすでに空で輝いていた) / I have my doubts.---[Ibid.] (私は疑念を抱いている) / I have fears that I may cease to be Before my pen has glean'd my teeming brain---J. Keats (私のペンがあふれんばかりの思いを拾い集めてしまう前に死んでしまうのではないかと恐れている) / pure and clear As are the frosty skies---A Tennyson (凍てついた空のように清澄な) / Mrs. Payson's face broke into smiles of pleasure.---M. Schorer (ペイソン夫人は急に喜色満面となった) / To think is to be full of sorrow And leaden-eyed despairs---J. Keats (考えることは悲しみと活気のない目をした絶望で満たされること) / His hopes to see his own And pace the sacred old familiar fields, Not yet had perished---A. Tennyson (家族に会い,なつかしい故郷の神聖な土地を踏もうという彼の望みはまだ消え去っていなかった) / All the air is blind With rosy foam and pelting blossom and mists of driving vermeil-rain.---G. M. Hopkins (一面の大気が,ばら色の泡と激しく舞い落ちる花と篠つく朱色の雨のもやで眼もくらむほどになる) / The cry that streams out into the indifferent spaces, And never stops or slackens---W. H. Auden (冷淡な空間に流れ出ていって,絶えもしないゆるみもしない泣き声).


 同様に,石橋(編)の辞典より,Latinism の項から関連する部分 (477) を引用する.

 (3) 抽象名詞を複数形で用いる表現法
 いわゆる強意複数 (Intensive Plural) の一種であるが,とくにラテン語の表現法を模倣した16世紀後半の作家の文章に多く見られ,その影響で後代でも文語的ないし詩的用法として維持されている.たとえば,つぎの例に見られるような hopes, fears は,Virgil (70--19 B.C.) や Ovid (43 B.C.--A.D. 17?) に見られるラテン語の amōrēs [L amor love の複数形], metūs [L metus fear の複数形] にならったものとみなされる.Like a young Squire, in loues and lusty-hed His wanton dayes that ever loosely led, . . . (恋と戯れに浮き身をやつし放蕩に夜も日もない若い従者のような…)---E. Spenser, Faerie Qveene I. ii. 3 / I will go further then I meant, to plucke all feares out of you. (予定以上のことをして,あなたの心配をきれいにぬぐい去って上げよう)---Sh, Meas. for M. IV. ii. 206--7 / My hopes do shape him for the Governor. (どうやらその人はおん大将と見える)---Id, Oth. II. i. 55.


 ほほう,ラテン語のレトリックとは! それがルネサンス・イングランドで流行し,その余韻が近現代英語に伝わるという流れ.急に呑み込めた気がする.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ Kruisinga, E A Handbook of Present-Day English. 4 vols. Groningen, Noordhoff, 1909--11.
 ・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
 ・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.

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2020-11-09 Mon

#4214. 強意複数 (1) [plural][intensive_plural][semantics][number][category][noun][terminology][countability]

 英語(やその他の言語)における名詞の複数形 (plural) とは何か,さらに一般的に言語における数 (number) という文法カテゴリー (category) とは何か,というのが私の研究におけるライフワークの1つである.その観点から,不思議でおもしろいなと思っているのが標題の強意複数 (intensive_plural) という現象だ.以下,『徹底例解ロイヤル英文法』より.
 まず,通常は -s 複数形をとらないはずの抽象概念を表わす名詞(=デフォルトで不可算名詞)が,強意を伴って強引に複数形を取るというケースがある.この場合,意味的には「程度」の強さを表わすといってよい.

 ・ It is a thousand pities that you don't know it.
 ・ She was rooted to the spot with terrors.

 このような例は,本来の不可算名詞が臨時的に可算名詞化し,それを複数化して強意を示すという事態が,ある程度慣習化したものと考えられる.可算/不可算の区別や単複の区別をもたない日本語の言語観からは想像もできない,ある種の修辞的な「技」である.心理状態を表わす名詞の類例として despairs, doubts, ecstasies, fears, hopes, rages などがある.
 一方,上記とは異なり,多かれ少なかれ具体的なモノを指示する名詞ではあるが,通常は不可算名詞として扱われるものが,「連続」「広がり」「集積」という広義における強意を示すために -s を取るというケースがある.

 ・ We had gray skies throughout our vacation.
 ・ They walked on across the burning sands of the desert.
 ・ Where are the snows of last year?

 ほかにも,気象現象に関連するものが多く,clouds, fogs, heavens, mists, rains, waters などの例がみられる.
 「強意複数」 (intensive plural) というもったいぶった名称がつけられているが,thanks (ありがとう),acknowledgements (謝辞),millions of people (何百万もの人々)など,身近な英語表現にもいくらでもありそうだ.英語における名詞の可算/不可算の区別というのも,絶対的なものではないと考えさせる事例である.

 ・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.

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2017-09-04 Mon

#3052. そのような用法は昔からあった,だから何? [hel_education][countability]

 昨日の記事「#3051. 「less + 複数名詞」はダメ?」 ([2017-09-03-1]) で,「less + 複数名詞」が古くから用いられてきたことに触れた.だが,古くからの用法であるという歴史的事実は,この用法を規範からの逸脱として煙たがる保守派にとって,またそのような保守派に対抗して言語使用における寛容さを説く論者にとって,どのような意味をもつのだろうか.
 そのような用法は昔からあった,だから現在でも認められるべきだ,という議論には説得力はない.議論の前半部分はさも歴史言語学に精通しており,そこに肩入れしているかのようにみえて,後半部分はむしろ言語変化を否認しているかのような言い方であるからだ.言語変化の普遍性という歴史言語学の公理ともいうべきものを理解していない.「昔は○○だった,だから今も○○であるべきだ」,あるいは逆に「昔は○○でなかった,だから今も○○であるべきではない」というのは,保守主義というよりは無変化主義と呼ぶべきだろう.
 「そのような用法は昔からあった」という歴史的事実を指摘することの意義は,現在しばしば誤用として批判にさらされている「そのような用法」が行なわれている理由を考えさせてくれる点にある.たいてい言語上の誤用とされるものは,現代の話者の不注意や無教養のせいとされたり,規範遵守精神の欠如の現われであるとして非難される.しかし,少なくとも「現代の」話者にのみそのような非難が向けられるというのは,おかしいだろう.そのような用法は古くからあったのだから.実際,当該の用法が歴史的に長い間連綿と続いてきたということは,その用法が不注意や無教養の現われであるというよりは,むしろ自然な言語使用を体現していると考えるほうが自然であり,現在の現象に対する見方を再考する機会を提供してくれるのである.
 「less + 複数名詞」のケースでいえば,例えば「最近の若者は,可算名詞と不可算名詞の区別がわかっておらん,けしからん」という非難がありそうだが,実はそれを用いているのは「最近の若者」にかぎらず,「昔の大人」も普通に使ってきたと指摘することができる.このことは,だから最近の若者も使ってよいのだという理由には特にならないが,少なくとも可算名詞と不可算名詞の区別がなぜ存在するのか,その区別は昔からあったのか,その区別は他の関連する表現においても明確につけられているものなのかなど,別次元の関心を呼び覚まさせてくれる.そのような情報を十分に得た後で再び件の用法の問題に戻ってくれば,きっと異なる視点からコメントできるようになっているだろう.

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2017-09-03 Sun

#3051. 「less + 複数名詞」はダメ? [prescriptive_grammar][comparison][countability]

 現代の規範文法では,原則として「less + 複数名詞」は認められないということになっている.less men, less things はしばしば聞かれるが,誤用であり,fewer men, fewer things と言い換えるべきであると説かれる.
 しかし,(no) less than のような慣用的な文脈では,可算名詞の複数形が後続しても許容されることがある.とりわけ期間や金額が関わる場合には,許容度が高い.例えば,It is less than seventy miles to London., It costs less than £50. などは,問題なく使えるという.(可算名詞的な)数というよりも(不可算名詞的な)量の性質が強いからだろうと思われるが,一応の原則をもちながらも,完全には慣用を除外することのできない規範文法のアドホックさを感じざるを得ない.Times の1991年から Indira Gandhi supported sterilisation in the belief that fewer children meant less poverty. という規則に美しく従った文が例証されるが,規則遵守の極みとして,私などはむしろ薄気味悪いと感じる.
 たいていこのようなアドホックな匂いのする規範文法の項目は,歴史を遡ってみるとおもしろい.案の定,less が可算名詞の複数形と共起する例は古英語から確認される.やはり,18世紀の規範文法が(屁)理屈を押して「less + 複数名詞」をこき下ろし,それが現代の規範的な用法に深い爪痕を残しているといって間違いない.
 Fowler の less の項に,歴史的解説がある.有用なので,引用しておこう.

Historical note. The account given above . . . is an attempt to describe current attitudes towards the use of less and fewer. It should be borne in mind, however, that there is ample historical warrant for the type less roads, less people, etc. Such uses originate 'from the OE construction of lǽs adv. (quasi-sb.) with a partitive genitive' (OED). In OE, lǽs worda meant literally 'less of words'. When the genitive plural case vanished at the end of the OE period the type less words took its place, and this type has been employed ever since: e.g. there are few Vniuersities that haue lesse faultes than Oxford---Lyly, 1579. Hostility to the use emerged in the 18C., but 'folk memory' of the medieval type has ensured that there has been no break in the use of the type which I have branded as 'incorrect'. It is of interest to set down the way in which the problem of less and fewer is presented in CGEL, the standard descriptive grammar of current English (§5.24): . . . 'There is a tendency to use less (instead of fewer) and least (instead of fewest) also with count nouns: You've made less mistakes than last time. This usage is however often condemned. No less than is more generally accepted: No less than fifty people were killed in the accident.'


 「#624. 現代英語の文法変化の一覧」 ([2011-01-11-1]) と「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1]) では,「less + 複数名詞」を言語変化の1例として挙げた.ただし,言語変化といっても,上記のように古くから連綿として用いられてきたことを考えると,頻度や使用域の変化ととらえるべきだろう.標準英文法の一画へと侵入しつつある現象という意味における言語変化とみておきたい.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.

Referrer (Inside): [2017-09-04-1]

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2017-01-03 Tue

#2808. Jackendoff の概念意味論 [semantics][componential_analysis][noun][countability]

 Ray Jackendoff の提唱している概念意味論 (conceptual semantics) においては,意味とは人間が頭のなかでコード化した情報構造である.以下の原理は "the Mentalist Postulate" と呼ばれている.

Meaning in natural language is an information structure that is mentally encoded by human beings. (qtd. in Saeed 278)


 Jackendoff は,文の意味は構成要素たる各語の意味からなると考えているため,概念意味論では語の意味に特別の注意が払われることになる.名詞の意味の分析を通じて,概念意味論の一端を覗いてみよう.以下,Saeed (283--84) を参照する.
 Jackendoff は,名詞の意味特徴として [±BOUNDED] と [±INTERNAL STRUCTURE] を提案している.[±BOUNDED] は,典型的には可算名詞 (count noun) と質量名詞 (mass noun) を区別するのに用いられる.可算名詞は明確な境界をもつ単位を指示する.例えば,a cara banana の指示対象を物理的に切断したとき,切断された各々のモノはもはや a cara banana とは呼べない.それに対して,wateroxygen のような質量名詞は,複数の部分に分割したとしても,各々の部分は wateroxygen と呼び続けることができる.したがって,可算名詞は [+b] として,質量名詞は [-b] として記述することができる.
 次に [±INTERNAL STRUCTURE] について見てみよう.可算名詞の複数,例えば carsbananas は,内部に構造があるとみなし,[+i] と表わす.対して,wateroxygen のような質量名詞は内部構造なしとみなし,[-i] となる.
 2つの意味特徴 [±BOUNDED], [±INTERNAL STRUCTURE] を掛け合わせると,4通りの組み合わせができるだろう.そして,この4通りの各々に相当する名詞が存在することが期待される.実際,英語にはそれがある.これを図示してみよう.

                            [ Material Entity ]
                                    │
    ┌──────────┬────┴────┬─────────┐
    │                    │                  │                  │
individuals             groups             substances          aggregates
(count nouns)     (collective nouns)      (mass nouns)       (plural nouns)
    │                    │                  │                  │
    │                    │                  │                  │
 [+b, -i]              [+b, +i]            [-b, -i]            [-b, +i]
    │                    │                  │                  │
    │                    │                  │                  │
 a banana,           a government,          water,              bananas,
  a car              a committee            oxygen               cars


 可算名詞が [+b, -i],質量名詞が [-b, -i] であることは上の説明から了解されると思われるが,他の2つについては補足説明が必要だろう.a governmenta committee のような集合名詞 (collective noun) は,それ自体が1つの単位であり,切断するとアイデンティティを失ってしまうが,複数の構成員からなっているという意味において,内部構造はあると考えられる.したがって,[+b, +i] と記述できるだろう.また,bananascars のような可算名詞複数 (plural noun) については,具体的に何個と決まっているのなら別だが,ただ複数形で表わされると,茫漠と「多くのバナナ,車」を意味することになり,境界はぼやけている.しかし,内部構造はあると考えられるので,[-b, +i] と表現されることになる.
 この分析は,4種類の名詞を2つの意味特徴でスマートに仕分けできるとともに,各々が主語となるときの動詞の一致など,統語的振る舞いにも関与してくるという点で,有用な分析となっている.

 ・ Saeed, John I. Semantics. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.

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2016-09-14 Wed

#2697. fewa few の意味の差 [semantics][antonymy][article][countability]

 9月8日付けで掲示板に標題に関する質問が寄せられた.一般には,不定冠詞のない裸の few は可算名詞について「ほとんどない」と否定的な含意をもって用いられ,不定冠詞付の a few は「少しある」と肯定的な意味を有するとされる.この理解が誤りというわけではないが,日本語になおして理解するよりも,英英辞典における定義を参考にすると理解が深まるように思われる.例えば OALD8 によれば,few は "used with plural nouns and a plural verb to mean 'not many'" とあり, a few は "used with plural nouns and a plural verb to mean 'a small number', 'some'" とある.つまり,fewmany の否定・対義としての位置づけ,a fewsome と同義としての位置づけである.ここから few が否定的に傾き,a few は肯定的に傾くという傾向が発するのだろうと考えられる.
 歴史を遡ってみよう.few という語は,古英語より fēawa, fēawe, fēa などの形で,原則として複数形の形容詞として(また不定代名詞的にも)普通に用いられていた.当時の意味はまさしく many (多い; OE maniġ)の対義語としての「少ない」であり,現代英語の不定冠詞なしの few と同等である.
 一方,a few に相当する表現については,古英語では不定冠詞は未発達だったために,そもそも確立していなかった.つまり,現代のような fewa few の対立はまだ存在していなかったのである.中英語に入り,不定冠詞が徐々に発達してくると,ようやく "a small number of" ほどの意味で a few が現われてくる.OED での初例は1297年の "1297 R. Gloucester's Chron. (1724) 18 Þe kyng with a fewe men hym~self flew at þe laste." が挙げられている.
 問題は,なぜこのような意味上の区別が生じたかということである.裸の few については,古英語より many の対義語として,つまり "not many" としての位置づけが,以降,現在まで連綿と受け継がれたと考えればよいだろう.一方,a few については,不定冠詞の本来的な「(肯定的)存在」の含意が few に付け加えられたと考えられるのではないか.「#86. one の発音」 ([2009-07-22-1]) でみたように,不定冠詞 a(n) の起源は数詞の ān (one) である.そして,この語に否定辞 ne を付加して否定語を作ったものが,nān (< ne + ān) であり,これが none さらには no へと発達する.つまり,不定冠詞 a(n) は,数詞としての1を積極的に示すというよりは,否定の no に対置されるという点で,肯定や存在の含意が強い.
 以上をまとめると,few そのものは many の否定として位置づけられ,もとより否定的な含意をもっているが,a の付加された a few は不定冠詞のもつ肯定・存在の含意を帯びることになった,ということではないか.同じことは,不可算名詞の量を表わす littlea little についても言える.前者は much の否定として,後者はそれに a が付くことで肯定的な含意をもつことになったと考えられる.
 参考までに OED の few, adj. の第1語義の定義を挙げておきたい.

1. Not many; amounting to a small number. Often preceded by but, †full, so, too, very, †well.
Without prefixed word, few usually implies antithesis with 'many', while in a few, some few the antithesis is with 'none at all'. Cf. 'few, or perhaps none', 'a few, or perhaps many'.

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2014-11-22 Sat

#2035. 可算名詞は he,不可算名詞は it で受けるイングランド南西方言 [dialect][personal_pronoun][gender][countability]

 Trudgill (94--95) によると,イングランド南西部の伝統方言 (Traditional Dialects),具体的には「#1029. England の現代英語方言区分 (1)」 ([2012-02-20-1]) で示した Western Southwest, Northern Southwest, Eastern Southwest では,他の変種にはみられない独特な人称代名詞の用法がある.無生物を指示するのに標準変種では人称代名詞 it を用いるが,この方言ではその無生物を表わすのが可算名詞 (countable noun) であれば he を,不可算名詞 (uncountable noun or mass noun) であれば it を用いるのが規則となっている.可算・不可算という文法カテゴリーに基づいて人称代名詞を使い分けるという点では,一種の文法性 (grammatical gender) を構成しているとも考えられるかもしれない.
 例えば,この方言で "He's a good hammer." というとき,he はある男性を指すのではなく,あくまで可算名詞である無生物を指す(標準変種では it を用いるところ).また,loaf は可算名詞であるから,"Pass the loaf --- he's over there." のように he で受けられる.一方,bread は不可算名詞であるから,"I likes this bread --- it's very tasty." のように it を用いる.次の Dorset 方言詩において,he は直前の可算名詞 dress を指す (Trudgill 95 より再掲) .

Zo I 'ad me 'air done, Lor' what a game!
I thought me 'ead were on vire.
But 'twas worth it, mind, I looked quite zmart ---
I even got a glance vrom the Squire.

I got out me best dress, but he were tight,
Zo I bought meself a corset.
Lor', I never thought I'd breathe agin,
But I looked zo zlim 'twas worth it.


 可算名詞と不可算名詞の区別は標準変種でも認められる文法カテゴリーだが,そこでは冠詞の選択(不定冠詞が付きうるか),形態的な制約(複数形の語尾が付きうるか),共起制限(数量の大きさを表わすのに manymuch か)などにおいて具現化していた.南西部方言で特異なのは,同じ文法カテゴリーがそれに加えて人称代名詞の選択にも関与するという点においてである.この方言では,同カテゴリーの文法への埋め込みの度合いが他の変種よりもいっそう強いということになる.

 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

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2011-06-07 Tue

#771. 名詞の単数形と複数形の頻度 [corpus][statistics][plural][countability]

 Biber et al. (Section 4.5.6 [pp. 291--22]) に,一般名詞の単数形と複数形の頻度に関する記述がある.現代英語における大雑把な分布ではあるが,LSWE Corpus の500万語サブコーパスを用いた信頼できる数値なので参考までにメモしておく.まず,各サブコーパスで100万語当たりの生起数に換算してのグラフの再現から(数値データは与えられていなかったのでグラフから概数を読み取っての再現).

Distribution of Plural v. Singular Common Nouns Across Registers by LGSWE


 (1) conversation transcription (CONV), fiction text (FICT), newspaper text (NEWS), academic text (ACAD) の4サブコーパス間の差が激しい.
  - 原則として複数形をとらない不可算名詞も含めているとはいえ,すべてのサブコーパスで単数形が複数形よりも頻度が高い.
  - 会話では単数形の頻度が比較的高い.
  - 書き言葉では話し言葉よりも複数形の頻度が3--4倍も高い.
 (2) 個々の名詞でみると,多くの名詞が単数形あるいは複数形のいずれかへの強い偏りを示す.
 (3) 例えば,次の名詞は75%以上の割合で単数形をとる.ex. car, god, government, grandmother, head, house, theory.
 (4) 例えば,次の名詞は75%以上の割合で複数形をとる.ex. grandchildren, parents, socks, circumstances, eyebrows, onlookers, employees, perks.

 (1) に関して,単数形が圧倒的に多いこと自体はまったく不思議ではない.上述のように不可算名詞は原則として単数形しかあり得ない.また,ほとんどの可算名詞では単数形が lemma そのものであるし無標の形態でもある.ほかには,数の概念が中立化される場合,例えば hand in hand, from time to time などの慣用表現においては,単数形が用いられるのが普通である.
 (2)--(4) に関して,名詞によって単数形か複数形への偏りを示すというのも驚くに当たらない.それぞれの語群を眺めれば,そこに "the communicative needs of the language user" (291) が反映されていることがはっきりと分かるだろう.名詞全体をならせば,「コミュニケーション上の必要性」が単数形に偏りそうだということも直感される.
 では,会話で単数形の使用が多いというのは,どういうわけだろうか.Biber et al. (291--92) は次のように述べている.

In general, the high frequency of singular nouns in conversation probably follows from the concern of speakers with individuals: a person, a thing, an event. Writers of academic prose, on the other hand, are more preoccupied with generalizations that are valid more widely (for people, things, events, etc.). This same tendency applies not only to nouns, but also to determiners and pronouns (4.4.3.1, 4.12.1, 4.14.1, 4.15.2.1).


 コーパス全体としては,複数形は一般名詞の2割程度しか占めないことになる.複数形の研究を専門とする(つまり複数形の例をなるべく多く集めなければならない)私にとっては,なかなか厳しい数値だなあ・・・.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

Referrer (Inside): [2012-12-09-1]

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