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最終更新時間: 2024-12-22 08:43

2023-12-12 Tue

#5342. 切り取り (clipping) による語形成の類型論 [word_formation][shortening][abbreviation][clipping][terminology][polysemy][homonymy][morphology][typology][apostrophe][hypocorism][name_project][onomastics][personal_name][australian_english][new_zealand_english][emode][ame_bre]

 語形成としての切り取り (clipping) については,多くの記事で取り上げてきた.とりわけ形態論の立場から「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]) で詳しく紹介した.
 先日12月8日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) の配信回にて「#921. 2023年の英単語はコレ --- rizz」と題して,clipping による造語とおぼしき最新の事例を取り上げた.



 この配信回では,2023年の Oxford Word of the Year が rizz に決定したというニュースを受け,これが charisma の clipping による短縮形であることを前提として charisma の語源を紹介した.
 rizzcharisma の clipping による語形成であることを受け入れるとして,もとの単語の語頭でも語末でもなく真ん中部分が切り出された短縮語である点は特筆に値する.このような語形成は,それほど多くないと見込まれるからだ.「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]) の "Mesonym" で取り上げたように,例がないわけではないが,やはり珍しいには違いない.以下の解説によると "fore-and-aft clipping" と呼んでもよい.
 heldio のリスナーからも関連するコメント・質問が寄せられたので,この問題と関連して McArthur の英語学用語辞典より "clipping" を引用しておきたい (223--24) .

CLIPPING [1930s in this sense]. Also clipped form, clipped word, shortening. An abbreviation formed by the loss of word elements, usually syllabic: pro from professional, tec from detective. The process is attested from the 16c (coz from cousin 1559, gent from gentleman 1564); in the early 18c, Swift objected to the reduction of Latin mobile vulgus (the fickle throng) to mob. Clippings can be either selective, relating to one sense of a word only (condo is short for condominium when it refers to accommodation, not to joint sovereignty), or polysemic (rev stands for either revenue or revision, and revs for the revolutions of wheels). There are three kinds of clipping:

(1) Back-clippings, in which an element or elements are taken from the end of a word: ad(vertisement), chimp(anzee), deli(catessen), hippo(potamus), lab(oratory), piano(forte), reg(ulation)s. Back-clipping is common with diminutives formed from personal names Cath(erine) Will(iam). Clippings of names often undergo adaptations: Catherine to the pet forms Cathie, Kate, Katie, William to Willie, Bill, Billy. Sometimes, a clipped name can develop a new sense: willie a euphemism for penis, billy a club or a male goat. Occasionally, the process can be humorously reversed: for example, offering in a British restaurant to pay the william.
(2) Fore-clippings, in which an element or elements are taken from the beginning of a word: ham(burger), omni(bus), violon(cello), heli(copter), alli(gator), tele(phone), earth(quake). They also occur with personal names, sometimes with adaptations: Becky for Rebecca, Drew for Andrew, Ginny for Virginia. At the turn of the century, a fore-clipped word was usually given an opening apostrophe, to mark the loss: 'phone, 'cello, 'gator. This practice is now rare.
(3) Fore-and-aft clippings, in which elements are taken from the beginning and end of a word: in(flu)enza, de(tec)tive. This is commonest with longer personal names: Lex from Alexander, Liz from Elizabeth. Such names often demonstrate the versatility of hypocoristic clippings: Alex, Alec, Lex, Sandy, Zander; Eliza, Liz, Liza, Lizzie, Bess, Betsy, Beth, Betty.

Clippings are not necessarily uniform throughout a language: mathematics becomes maths in BrE and math in AmE. Reverend as a title is usually shortened to Rev or Rev., but is Revd in the house style of Oxford University Press. Back-clippings with -ie and -o are common in AusE and NZE: arvo afternoon, journo journalist. Sometimes clippings become distinct words far removed from the applications of the original full forms: fan in fan club is from fanatic; BrE navvy, a general labourer, is from a 19c use of navigator, the digger of a 'navigation' or canal. . . .


 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2022-12-28 Wed

#4993. 呼称は短化しやすい [address_term][abbreviation][shortening][disguised_compound][personal_pronoun][vocative][honorific]

 呼称 (address_term) や称号の類いは音形が短くなりやすいという.言われてみればそのように思われる.Bybee (42) の短い説明だが,なるほどと思った.

Terms of address also tend to undergo special reduction. Spanish usted 2nd person singular developed out of the longer and more elegant phrase vuestra merced 'your grace'. Old English hlafweard which contains the roots hlaf 'loaf' and weard 'keeper' is reduced to hlaford and eventually lord. Both Mrs. [mɪsɨz] or [mɪzɨz] and Miss [mɪs] are reduced forms of mistress.


 呼称が短化しやすいのは,1つには日常的によく発せられる表現だからだろう.人々の口に頻繁にのぼるからこそ,音形に弱化や短縮が起こりやすいといえそうだ.一般に英語の人称代名詞(一種の呼称といってよい語類)には弱形と強形があるが,高頻度だからこそ短化にさらされやすいわけだし,極端に短化する,つまりゼロになることを嫌い,かえって強化する必要にもさらされるのだろう (cf. 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1]),「#1198. icI」 ([2012-08-07-1]),「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]).
 もう1つは,特に LordMrs. のように称号として用いられ,次に人名が続く場合には,個人を強く特定する力をもつ人名の部分にこそ強勢が置かれるのが自然で,前置される称号が相対的に弱く発音されやすいという事情があるのではないか.
 ところで,上記の lord (古英語の原義は「パンを守る男」)のみならず,lady も古英語の原義が「パンをこねる女」だったように,実は複合語だった.現代英語の共時的な観点からは複合語に見えないため,このような語を偽装複合語 (disguised_compound) と呼んでいる (cf. 「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]),「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1])).英語史ではおもしろい語源の話題としてよく知られているが,なぜこの2語がここまで短化したのかという理由を考えたことはなかった.今回,Bybee の指摘にハッとした次第.呼称は短化しやすいのだ.
 今回の話題と関連して,「#895. Miss は何の省略か?」 ([2011-10-09-1]),「#1950. なぜ BillWilliam の愛称になるのか?」 ([2014-08-29-1]),「#1951. 英語の愛称」 ([2014-08-30-1]),「#3408. Elizabeth の数々の異名」 ([2018-08-26-1]),「#4404. 日本語由来の敬称 san」 ([2021-05-18-1]) なども参照.

 ・ Bybee, Joan. Language Change. Cambridge: CUP, 2015.

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2021-12-15 Wed

#4615. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第10回「なぜ英語には省略語が多いの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][abbreviation][shortening][blend][word_formation][morphology][japanese]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の1月号のテキストが発売となりました.連載中の「英語のソボクな疑問」の第10回は「なぜ英語には省略語が多いの?」です.piano, bus, cute, sport, Paralympics, AI, CEO, GDP, EU, USA などの英単語は,ほぼそのまま日本語にも入ってきている日常語といってよいですが,なんといずれも何らかの点で省略されている語なのです.それぞれオリジナルの長い形を復元できるでしょうか.かなり難しいのではないでしょうか.

『中高生の基礎英語 in English』2022年1月号



 英語にも日本語にもその他の言語にも省略語は存在します.すべてを口にするには長ったらしいけれども情報量が詰まっていて有用な表現というものは,たくさんあるものですね.そのような表現をぐっと約めて簡潔な1単語に省略できれば,便利に違いありません.言語には省略語が付きものです.
 省略の方法についていえば種類は限られています.連載記事で詳しく述べていますが,基本となるのは「切り落とし」「切り貼り」「イニシャル取り」の3種です.それぞれの例をたくさん挙げていますので,どうぞご覧ください.
 言語には省略語が付きものとは述べましたが,英語に関する限り,とりわけ20世紀以降におびただしい省略語が生み出されてきたという事情があります.過去にもまして現代は省略語の時代といってもよいほどです.なぜなのでしょうか.連載記事では,この謎解きも披露しています.

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2021-04-28 Wed

#4384. goodbye と「さようなら」 [interjection][euphemism][subjunctive][optative][etymology][personal_pronoun][abbreviation][khelf_hel_intro_2021]

 昨日,学部生よりアップされた「英語史導入企画2021」の20番目のコンテンツは,goodbye の語源を扱った「goodbye の本当の意味」です.
 God be with ye (神があなたとともにありますように)という接続法 (subjunctive) を用いた祈願 (optative) の表現に由来するとされます.別れ際によく用いられる挨拶となり,著しく短くなって goodbye となったという次第です.ある意味では「こんにちはです」が「ちーす」になるようなものです.
 しかし,ここまでのところだけでも,いろいろと疑問が湧いてきますね.例えば,

 ・ なぜ Godgood になってしまったのか?
 ・ なぜ bebye になってしまったのか?
 ・ なぜ with ye の部分が脱落してしまったのか?
 ・ そもそも you ではなく ye というのは何なのか?
 ・ なぜ祝福をもって「さようなら」に相当する別れの挨拶になるのか?

 いずれも英語史的にはおもしろいテーマとなり得ます.上記コンテンツでは,このような疑問のすべてが扱われているわけではありませんが,God be with ye から goodbye への変化の道筋について興味をそそる解説が施されていますので,ご一読ください.
 とりわけおもしろいのは,別れの挨拶として日本語「さようなら(ば,これにて失礼)」に感じられる「みなまで言うな」文化と,英語 goodbye (< God be with ye) にみられる「祝福」文化の差異を指摘しているところです.
 確かに英語では (I wish you) good morning/afternoon/evening/night から bless you まで,祝福の表現が挨拶その他の口上となっている例が多いように思います.高頻度の表現として形態上の縮約を受けやすいという共通点はあるものの,背後にある「発想」は両言語間で異なっていそうです.

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2021-04-18 Sun

#4374. No. 1 を "number one" と読むのは英語における「訓読み」の例である [abbreviation][latin][spelling][japanese][kanji][sobokunagimon][grammatology][khelf_hel_intro_2021]

 英語の話題を扱うのに,日本語的な「訓読み」(や「音読み」)という用語を持ち出すのは奇異な印象を与えるかもしれないが,実は英語にも音訓の区別がある.そのように理解されていないだけで,現象としては普通に存在するのだ.表記のように No. 1 という表記を,英語で "number one" と読み下すのは,れっきとした訓読みの例である.
 議論を進める前に,そもそもなぜ "number one" が No. 1 と表記されるのだろうか.多くの人が不思議に思う,この素朴な疑問については,「英語史導入企画2021」の昨日のコンテンツ「Number の略語が nu.ではなく, no.である理由」に詳しいので,ぜひ訪問を.本ブログでも「#750. number の省略表記がなぜ no. になるか」 ([2011-05-17-1]) や「#4185. なぜ number の省略表記は no. となるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-11-1]) で取り上げてきたので,こちらも確認していただきたい.
 さて,上記のコンテンツより,No. 1 という表記がラテン語の奪格形 numerō の省略表記に由来することが確認できたことと思う.英語にとって外国語であるラテン語の慣習的な表記が英語に持ち越されたという意味で,No. 1 は見映えとしては完全によそ者である.しかし,その意味を取って自言語である英語に引きつけ,"number one" と読み下しているのだから,この読みは「訓読み」ということになる.
 これは「昨日」「今日」「明日」という漢語(外国語である中国語の複合語)をそのまま日本語表記にも用いながらも,それぞれ「きのう」「きょう」「あした」と日本語に引きつけて読み下すのと同じである.日本語ではこれらの表記に対してフォーマルな使用域で「さくじつ」「こんにち」「みょうにち」という音読みも行なわれるが,英語では No. 1 をラテン語ばりに "numero unus" などと「音読み」することは決してない.この点においては英日語の比較が成り立たないことは認めておこう.
 しかし,原理的には No. 1 を "number one" と読むのは,「明日」を「あした」と読むのと同じことであり,要するに「訓読み」なのである.この事実を文字論の観点からみれば,No.1 も,ここでは表音文字ではなく表語文字として,つまり漢字のようなものとして機能している,と言えばよいだろうか.漢字の音訓に慣れた日本語使用者にとって,No. 1 問題はまったく驚くべき問題ではないのである.
 関連して「#1042. 英語における音読みと訓読み」 ([2012-03-04-1]) も参照.

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2021-04-13 Tue

#4369. Brexit --- 現代の病理と遊びの語形成 [blend][morphology][shortening][lexicology][neologism][abbreviation][word_play][word_formation][khelf_hel_intro_2021]

 この4月に立ち上げた「英語史導入企画2021」にて,昨日「Brexitと「誰うま」新語」と題する大学院生によるコンテンツがアップされた.混成語 Brexit に焦点を当てた学術論文を紹介しつつ,言語学的および社会学的な観点から要約したレビュー・コンテンツといってよいだろう.取っつきやすい話題でありながら,密度の濃い議論となっている.本企画の趣旨を意識して導入的ではありながらも本格派のコンテンツである.
 混成語 (blend) とは,混成 (blending) と呼ばれる語形成 (word_formation) によって作られた語のことである.簡単にいえば2語を1語に圧縮した語のことで,brunch (= breakfast + lunch) や smog (= smoke + fog) が有名である.複数のものを強引に1つの入れ物に詰め込むイメージから,かばん語 (portmanteau word) と呼ばれることもある.混成(語)の特徴など言語学的な側面については,「#630. blend(ing) あるいは portmanteau word の呼称」 ([2011-01-17-1]),「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]),「#3722. 混成語は右側主要部の音節数と一致する」 ([2019-07-06-1]) などを参照されたい.
 問題の Brexit は,いわずとしれた Britain + exit の混成語だが,それが表わす国際政治上の出来事があまりに衝撃的だったために,それをもじった Bregret (= Britain + regret) や Regrexit (regret + exit) のような半ば冗談の混成語が次々と現われ,半ば本気で定着してきた.上記のコンテンツと論文(および「#2624. Brexit, Breget, Regrexit」 ([2016-07-03-1]))で考察されているのは,まさにこの本気のような冗談のような現象である.
 混成は,英語史において比較的新しい語形成であり,本質的には現代英語的な語形成といってもよい.「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1]) で挙げたように多数の例が身近に見出せるため,このことはにわかには信じられないかもしれないが,事実である.これについては「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#940. 語形成の生産性と創造性」 ([2011-11-23-1]) などでも論じてきた通りである.
 実のところ,混成のみならず,より広く短縮 (shortening) という語形成がおよそ近現代的な現象なのである.こちらについても「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」 ([2011-09-22-1]),「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1]),「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1]),「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) を確認されたい.
 では,なぜ現代にかけて混成を含めた短縮を旨とする諸々の語形成が,これほど著しく成長してきたのだろうか.「#3329. なぜ現代は省略(語)が多いのか?」 ([2018-06-08-1]) で挙げた3点を,ここに再掲しよう.

 (1) 時間短縮,エネルギー短縮の欲求の高まり.情報の高密度化 (densification) の傾向.
 (2) 省略表現を使っている人は,元の表現やその指示対象について精通しているという感覚,すなわち「使いこなしている感」がある.そのモノや名前を知らない人に対して優越感のようなものがあるのではないか.元の表現を短く崩すという操作は,その表現を熟知しているという前提の上に成り立つため,玄人感を漂わせることができる.
 (3) 省略(語)を用いる動機はいつの時代にもあったはずだが,かつては言語使用における「堕落」という負のレッテルを貼られがちで,使用が抑制される傾向があった.しかし,現代は社会的な縛りが緩んできており,そのような「堕落」がかつてよりも許容される風潮があるため,潜在的な省略欲求が顕在化してきたということではないか.

 (1) は,混成(語)のなかに,あらゆる物事に効率性を求める情報化社会の精神の反映をみる立場である.これまで2語で表わしていた意味や情報を,混成語ではただ1語で表現することができるのだ.まさに時短,効率,節約.しかし,これが行き過ぎると,人生や生活と同様に,何ともせわしく殺伐としてくるものである.
 しかし,この情報化社会の病理というべき負の力とバランスを取るべく,正の力も同時に働いているように思われるのだ.(3) に指摘されている「緩み」がその1つだろう.これは,上記コンテンツ内で触れられている「遊び心」にも近い.混成語は,「Brexit って何の略でしょうか?」――「答えは,Britain + exit の略でした!」というようなナゾナゾが似合う代物でもあるのだ(cf. 「#3595. ことば遊びの3つのタイプ」 ([2019-03-01-1]) でいう「技巧型」のことば遊び).ここには,せわしなさや殺伐とした気味はなく,むしろ健全な「遊び心」が宿っているように思われる.英語の混成(語)は,一見すると現代社会の病理の反映ようにもみえるが,別の観点からは,むしろ健全な遊びでもあるのだ.
 語形短縮の意義を巡っては「#1946. 機能的な観点からみる短化」 ([2014-08-25-1]),「#3708. 省略・短縮は形態上のみならず機能上の問題解決法である」 ([2019-06-22-1]) の議論も参照されたい.

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2021-01-03 Sun

#4269. なぜ digital transformation を略すと DX となるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][abbreviation][grammatology][prefix][word_game][x][information_theory][preposition][latin]

 本年も引き続き,大学や企業など多くの組織で多かれ少なかれ「オンライン」が推奨されることになるかと思います.コロナ禍に1年ほど先立つ2018年12月に,すでに経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」 (PDF) を発表しており,この DX 路線が昨今の状況によりますます押し進められていくものと予想されます.
 ですが,digital transformation の略が,なぜ *DT ではなく DX なのか,疑問に思いませんか? DX のほうが明らかに近未来的で格好よい見映えですが,この X はいったいどこから来ているのでしょうか.
 実は,これは一種の言葉遊びであり文字遊びなのです.音声解説をお聴きください



 trans- というのはラテン語の接頭辞で,英語における throughacross に相当します.across に翻訳できるというところがポイントです.trans- → acrosscross → 十字架 → X という,語源と字形に引っかけた一種の言葉遊びにより,接頭辞 trans- が X で表記されるようになったのです.実は DX = digital transformation というのはまだ生やさしいほうで,XMIT, X-ing, XREF, Xmas, Xian, XTAL などの略記もあります.それぞれ何の略記か分かるでしょうか.
 このような X に関する言葉遊び,文字遊びの話題に関心をもった方は,ぜひ##4219,4189,4220の記事セットをご参照ください.X は実におもしろい文字です.

Referrer (Inside): [2023-01-05-1]

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2020-11-14 Sat

#4219. なぜ DXdigital transformation の略記となるのか? [sobokunagimon][abbreviation][grammatology][prefix][word_game][x][information_theory][latin]

 本日11月14日の朝日新聞朝刊のコラム「ことばサプリ」に,標題に関連する話題が掲載されています.この問題について事前に取材を受け調査した経緯がありますので,せっかくですし,このタイミングでその詳細を以下に記しておきたいと思います.  *




 日本でも日常生活のなかで「デジタルトランスフォーメーション」 (= digital transformation = DX ) という言葉を耳にしたり,目にしたりする機会が増えてきた.デジタルによる変革の推奨である.経済産業省が2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」 (PDF) を発表しており,DX という略称も表記もすでに国のお墨付きを得ていることになる.だが,そもそもなぜ digital transformation の略記が DX なのだろうか.確かに DT よりカッコよく見えるかもしれないが・・・.
 transformation (変形,変質)は,trans- (= across, through, over, beyond) + formation という語形成で,中英語期にフランス語を経由して入ってきたラテン語由来の単語である.ラテン語の接頭辞 trans- は,上記の通り英語でいうところの acrossthrough に相当し,実に後者 through とは印欧祖語のレベルで同根である.このように trans- 自体に「?を超えて(突き抜けて)」という含みがあるために,「変化,変形,変革,変換,変異」などと意味的に相性がよい.transcend, transfer, transfigure, transit, translate, transmit, transport, transpose 等の単語が思い浮かぶ.漢字でいえば「変」のもつ字義に近接する接頭辞といってよいだろう.変革の時代にはもてはやされるはずだ.
 さて,上記のように trans- はラテン語由来の接頭辞だが,英語に翻訳するとおよそ across に相当する.この across は「#4189. acrossa + cross」 ([2020-10-15-1]) で見たとおり,接頭辞 a- に「十字(架)」を意味する cross を付加した語である.ここで,十字(架)をかたどった文字としての X の出番となる.文字 X といえば英語の名詞・動詞 cross, cross といえば英語の前置詞 acrossacross といえばラテン語の接頭辞 trans- という理屈で,いつの間にか trans- が X で表記される慣習となってしまった.EnglandEngl& と記したり,See you later.CUL8R としたりするのと同じ一種の文字遊び (rebus) の類いといってよい.日本語の戯書にも通じる(cf. 「#2789. 現代英語の Engl&,中英語の 7honge」 ([2016-12-15-1]),「#2790. Engl&, 7honge と訓仮名」 ([2016-12-16-1]).
 X の文字は以上の経緯によりラテン語接頭辞 trans- と結びつけられたが,他にも (a)cross に結びつけられたり,Christ (英語の <ch> はギリシア語の <Χ> に対応することから)を表象したり,発音の類似から cryst- の略記としても用いられることがある.XMIT (= transmit), X-ing (= crossing), XREF (= cross-reference), Xmas (= Christmas), Xian (= Christian), XTAL (= crystal) の如くである.また,X はもっとストレートに ex- の略記でもある (ex. XL (= extra large), XOR (= exclusive-or)) .<x> の多機能性,恐るべし!
 英語において,x は「#3654. x で始まる英単語が少ないのはなぜですか?」 ([2019-04-29-1]) で論じたように,語頭で用いられることが少ない.したがって,たまに語頭に現われると,他の文字よりも「情報価値」が高い.否,語頭ならずとも x は目を引く.注目を集めるための宣伝文句やキャッチフレーズに最適なのである.しかも,未知を表わす x という用法もある(cf. 「#2918. 「未知のもの」を表わす x」 ([2017-04-23-1])).変革の時代には,未知への挑戦という意味でポジティヴに評価されるのも頷ける.
 日本語における DX という略称・表記は,上記のような背景をもちつつ,近年とみに持ち上げられるようになってきた.だが,英語においても同じように流行語的な位置づけにある略称・表記であるかどうかは疑問である.現代英語コーパスに当たってみると確かに使用例は認められ,そこそこ流行っている表現・概念であるとは言えるかもしれないが,英語圏において日本で盛り上がっているほどの特別な存在かどうかは怪しい.もう少し調査が必要である.

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2020-10-11 Sun

#4185. なぜ number の省略表記は no. となるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][doublet][abbreviation][latin]

 今回もよく尋ねられる素朴な疑問です.number の省略表記であれば nu. などとなりそうなところですが,なぜか no. となっています.この o はいったいどこから来たのでしょうか.これは英語史が得意とするタイプの問題です.音声の解説を聴いてください.



 いかがだったでしょうか.no.number を省略したものではなく,number の語源であるラテン語 numerus の奪格単数形である numero を省略したものだったのです.numberno. の関係は,したがって,直系の母娘関係ではなく,従姉妹くらいの関係ということになります.究極的には同語源であり,語頭の n- も共通しているので,かえって紛らわしいわけですが,上記のような背景がありました.
 解説のなかで関連して触れた i.e (= id est "that is") や e.g. (= exempli gratia "for example") などは,省略表記と元の表現があまりに異なっており,直接の省略であるわけがないとすぐに分かるのですが,no. (= numero "in number") の場合にはなまじ似ているだけに,だまされてしまいますね.英語に「音読み」と「訓読み」があったという事実にも驚いたのではないでしょうか.
 この問題と関連して,##750,1042の記事セットを是非ご一読ください.

Referrer (Inside): [2021-04-18-1]

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2020-08-11 Tue

#4124. OMG = "oh my God" は100年の歴史を誇る [abbreviation][shortening][net_speak][initialism][oed]

 ネット上の書き言葉では,ASAP = "as soon as possible" や CUL8R = "see you later" などのアルファベット頭字語 (initialism) と呼ばれる独特な省略記法が頻用される.「#817. Netspeak における省略表現」 ([2011-07-23-1]) で様々な例を示したが,これらは「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1]) や「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1]) で触れたように,すぐれて現代的な言語変化の傾向を反映するものとして注目されている.
 一方,このようなアルファベット頭字語そのものは実は古代から存在しており,発想そのものが新しいわけではないことにも注意すべきである.これについては「#3935. アルファベット頭字語の浮き沈みの歴史」 ([2020-02-04-1]) で見たとおりだ.
 標題の OMG = "oh my God" も,一見すると近年のネット上の新記法かと思われるかもしれないが,OED によると初例はなんと1917年のことである.

   Quot. 1917 is perhaps with punning reference to the Order of St. Michael and St. George, which at this point had had no Grand Master or Chancellor for several years: these were appointed on 4 Oct. 1917.

1917 J. A. F. Fisher Let. 9 Sept. in Memories (1919) v. 78 I hear that a new order of Knighthood is on the tapis---O.M.G. (Oh! My God!)---Shower it on the Admiralty!!


 その次に挙げられている例は飛んで1994年のものであり,現在の本格的な使用の発端が Netspeak にあることは間違いなさそうだが,(この例では古代からとは言えないものの)100年ほどの歴史を誇っているとは言えるだろう.
 このアルファベット頭字語については,目下 OED のこちらのページで特集グラフィック・コンテンツとして取り上げられている.非常におもしろいコンテンツなので,ぜひどうぞ.上記の1917年の初例が,かの Winston Churchill に宛てられた手紙での使用例だったとは!

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2020-02-04 Tue

#3935. アルファベット頭字語の浮き沈みの歴史 [initialism][abbreviation][shortening][punctuation]

 「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) などの記事で,現代語において隆盛を極めるアルファベット頭字語 (initialism) という略語法の話題を取り上げてきた.英語の例でいえば CEO, GDP, EU などがすぐに挙がるし,aka (= "also known as"), asap (= "as soon as possible"), imho (= "in my humble opinion") などもよく知られている.
 英語に関していえば,このような略語法 (abbreviation) の氾濫は確かに20世紀以降に顕著であり,すぐれて現代的な現象といってよいだろう(cf. 「#875. Bauer による現代英語の新語のソースのまとめ」 ([2011-09-19-1]),「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」 ([2011-09-22-1])).しかし,それ以前にも見られなかったわけではない.アルファベット文化圏を全体的に調べたわけではなが,少なくともヨーロッパ世界においては,アルファベット頭字語の使用そのものはローマ時代にも確認される.よく知られているのは,ラテン語で「ローマの元老院と人民」を意味する Senatus Populusque Romanus を頭字語化した SPQR である.ラテン語原文では各文字の後に点が打たれ,それによっても略語法であることが分かるが,これは後の英語における Prof., Dr. などの省略を表わすピリオドに連なるものといえる.
 アルファベット頭字語には,1文字で1語を表わせるという便利さがある.とりわけ漢字の利点をよく知っている私たちにとって,この表語文字特有の便利さは,たやすく理解できるだろう.古代ローマでも,この便利さが昂じて法律文書で多用されるようになったようだが,皮肉なことに,厳密さが要求される法律文書で,ときに複数の解釈を許すアルファベット頭字語はふさわしくないと判断され,結局は帝国により使用が禁止されることになった.この影響が持続したのか,その後10世紀までアルファベット頭字語は冬の時代を迎えることになった.
 しかし,10世紀になると復活の兆しを示しだした.とりわけ11--12世紀には,頭文字を用いた記憶術の発展に伴い,聖書に関係する用語や固有人名などがアルファベット頭字語で表現されるようになった.この慣習は,中世後期を通じて続いたが,初期刊本時代の終わりに至って再び衰退していった.そしてその後,先に述べた通り,20世紀に再び復活・拡大してきたというのが歴史の流れである.このように,アルファベット頭字語は何度も浮き沈みの歴史を経てきたのだ.
 以上は,Saenger (64--65) の解説に依拠した.なお,Saenger はアルファベット頭字語のことを "suspension abbreviation" と呼んでいる.

 ・ Saenger, P. Space Between Words: The Origins of Silent Reading. Stanford, CA: Stanford UP, 1997.

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2020-01-17 Fri

#3917. 『英語教育』の連載第11回「なぜ英語には省略語が多いのか」 [rensai][notice][sobokunagimon][shortening][abbreviation][blend][acronym][compound][compounding][derivation][derivative][conversion][disguised_compound][word_formation][lexicology][borrowing][link]

 1月14日に,『英語教育』(大修館書店)の2月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第11回となる今回は「なぜ英語には省略語が多いのか」という話題です.

『英語教育』2020年2月号



 今回の連載記事は,タイトルとしては省略語に焦点を当てているようにみえますが,実際には英語の語形成史の概観を目指しています.複合 (compounding) や派生 (derivation) などを多用した古英語.他言語から語を借用 (borrowing) することに目覚めた中英語.品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生 (zero-derivation) と呼ばれる玄人的な技を覚えた後期中英語.そして,近現代英語にかけて台頭してきた省略 (abbreviation) や短縮 (shortening) です.
 英語史を通じて様々に発展してきたこれらの語形成 (word_formation) の流れを,四則計算になぞらえて大雑把にまとめると,(1) 足し算・掛け算の古英語,(2) ゼロの後期中英語,(3) 引き算・割り算の近現代英語となります.現代は省略や短縮が繁栄している引き算・割り算の時代ということになります.
  英語の語形成史を上記のように四則計算になぞらえて大づかみして示したのは,今回の連載記事が初めてです.荒削りではありますが,少なくとも英語史の流れを頭に入れる方法の1つとしては有効だろうと思っています.ぜひ原文をお読みいただければと思います.
  省略や短縮について,連載記事と関連するブログ記事へリンクを集めてみました.あわせてご一読ください.

 ・ 「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1])
 ・ 「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1])
 ・ 「#887. acronym の分類」 ([2011-10-01-1])
 ・ 「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1])
 ・ 「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1])
 ・ 「#894. shortening の分類 (2)」 ([2011-10-08-1])
 ・ 「#1946. 機能的な観点からみる短化」 ([2014-08-25-1])
 ・ 「#2624. Brexit, Breget, Regrexit」 ([2016-07-03-1])
 ・ 「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1])
 ・ 「#3075. 略語と暗号」 ([2017-09-27-1])
 ・ 「#3329. なぜ現代は省略(語)が多いのか?」 ([2018-06-08-1])
 ・ 「#3708. 省略・短縮は形態上のみならず機能上の問題解決法である」 ([2019-06-22-1])

 ・ 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第11回 なぜ英語には省略語が多いのか」『英語教育』2020年2月号,大修館書店,2020年1月14日.62--63頁.

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2019-09-16 Mon

#3794. 英語史で用いる諸言語名の略形 [abbreviation][periodisation][etymology][terminology]

 本ブログで英語史の話題を提供するのに,語源解説などでしばしば諸言語を参照する必要があるが,その際に用いる言語名の略形を一覧する.これまでの記事では必ずしも略形を統一させてこなかったが,今後はなるべくこちらに従いたい.ソースとしては『英語語源辞典』の「言語名の略形」 (xvi--xvii) に依拠する.主要な(歴史的)言語については,同辞典の xiv より年代区分も挙げておく.略形関係としては「#1044. 中英語作品,Chaucer,Shakespeare,聖書の略記一覧」 ([2012-03-06-1]) も参照.

Aeol.Aeolic 
AFAnglo-French1100--1500
Afr.African 
Afrik.Afrikaans 
Akkad.Akkadian 
Alb.Albanian 
Aleut.Aleutian 
Am.American 
Am.-Sp.American Spanish 
Anglo-LAnglo-Latin 
Arab.Arabic 
Aram.Aramaic 
Arm.Armenian 
Assyr.Assyrian 
Austral.Australian 
Aves.Avestan 
Braz.Brazilian 
Bret.Breton 
Brit.Brittonic/Brythonic 
Bulg.Bulgarian 
Canad.Canadian 
Cant.Cantonese 
Cat.Catalan 
Celt.Celtic 
Central-FCentral French 
Chin.Chinese 
Corn.Cornish 
Dan.Danish 
Drav.Dravidian 
Du.Dutch 
EEnglish 
E-Afr.East African 
Egypt.Egyptian 
FFrench 
Finn.Finnish 
Flem.Flemish 
Frank.Frankish 
Fris.Frisian 
GGerman 
Gael.(Scottish-)Gaelic 
Gaul.Gaulish 
GkGreek--200
GmcGermanic 
Goth.Gothic 
Heb.Hebrew 
Hitt.Hittite 
Hung.Hungarian 
Icel.Icelandic 
IEIndo-European 
Ind.Indian 
Ir.Irish(-Gaelic) 
Iran.Iranian 
It.Italian 
Jamaic.-EJamaican English 
Jav.Javanese 
Jpn.Japanese 
LLatin75 B.C.--200
Latv.Latvian 
Lett.Lettish 
LGLow German 
LGkLate Greek200--600
Lith.Lithuanian 
LLLate Latin200--600
MDu.Middle Dutch1100--1500
MEMiddle English1100--1500
Mex.Mexican 
Mex.-Sp.Mexican Spanish 
MGkMedieval Greek600--1500
MHeb.Medieval Hebrew 
MHGMiddle High German1100--1500
MIr.Middle Irish950--1300
Mish. Heb.Mishnaic Hebrew 
MLMedieval Latin600--1500
MLGMiddle Low German1100--1500
ModEModern English 
ModGkModern Greek 
ModHeb.Modern Hebrew 
MPers.Middle Persian 
MWelshMiddle Welsh1150--1500
N-Am.-Ind.North American Indian 
NGkNeo-Greek 
NHeb.Neo-Hebrew 
NLNeo-Latin 
Norw.Norwegian 
ODu.Old Dutch 
OEOld English700--1100
OFOld French800--1550
OFris.Old Frisian1200--1550
OHGOld High German750--1100
OIr.Old Irish600--950
OIt.Old Italian 
OLOld Latin500--75 B.C.
OLGOld Low German800--1100
OLith.Old Lithuanian 
ONOld Norse800--1300
ONFOld Norman French 
OPers.Old Persian 
OProv.Old Provençal 
OPruss.Old Prussian1400--1600
OSOld Saxon800--1000
Osc.Oscan 
Osc.-Umbr.Osco-Umbrian 
OSlav.Old (Church) Slavonic900--1100
OSp.Old Spanish 
OWelshOld Welsh700--1150
PEPresent-Day English 
Pers.Persian 
Phoen.Phoenician 
Pidgin-EPidgin English 
Pol.Polish 
Port.Portuguese 
Prov.Provençal 
Rum.Rumanian 
Russ.Russian 
S-Afr.South African 
S-Am.-Ind.South American Indian 
Scand.Scandinavian 
Sem.Semitic 
Serb.Serbian 
Serbo-Croat.Serbo-Croatian 
Siam.Siamese 
SktSanskrit 
Slav.Slavonic, Slavic 
Sp.Spanish 
Sumer.Sumerian 
Swed.Swedish 
Swiss-FSwiss French 
Syr.Syriac 
Tibet.Tibetan 
Toch.Tocharian 
Turk.Turkish 
Umbr.Umbrian 
Ved.Vedic 
VLVulgar Latin 
W-Afr.West African 
W-Ind.West Indies 
WSWest Saxon 
Yid.Yiddish 


 ・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2019-06-22 Sat

#3708. 省略・短縮は形態上のみならず機能上の問題解決法である [abbreviation][shortening][slang]

 授業でディスカッションなどをしていると,ときに学生から驚くような発想が飛び出し,感じ入ることがある.先日,造語法としての省略 (abbreviation) や短縮 (shortening) という話題を取り上げ,話者は何のために語を切り詰めたがるのだろうかということを議論した.
 授業では,話者には頻用する表現を短く楽に発音したいといった実際的な欲求があり,省略・短縮という形態的手段を通じて,その欲求を満たすのだろうという議論をしようと思っていた.つまり,話者は純粋に形態的な簡便さを目指して言語行動を行なうことがしばしばある,ということを論じようと考えていた.
 ところが,ある学生が思ってもみない方面からコメントをくれた.省略・短縮はそのような形態的な問題であるばかりではなく,それ自体が独自の機能をもっているのではないかというのだ.たとえば,「コンビニ」は「コンビニエンスストア」を簡単に短く言うために作られた省略語であるという議論は確かに受け入れられるが,一方でそれが単なるコンビニエンスストア(=便利店)にとどまらず,独自の店舗形態と個性をもった「コンビニ」という固有の存在であることを明示するために,あえて「コンビニエンスストア」とは異なる形態,この場合には縮約された形態を取っているのではないかと.つまり,省略・短縮には機能的な役割があるという指摘だ.
 確かに元の表現をベースにしながらも,それとは異なる表現を作り出すことは,機能的独立を目指す造語行為といえる.そのような造語法には借用,派生,合成,転換を含めて様々な形態的手段があり得るが,最も手近で実用的な方法の1つに省略・短縮があるだろう.発音も楽になるし,元の表現とは似ていながらも一応異なる形態になるという点では,省略・短縮は複合的なニーズを満たしてくれる語形成上の優等生といえそうだ.
 俗語,隠語などの生成動機の問題にもつながる重要な視点である.素晴らしい.

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2019-05-02 Thu

#3657. mountain, mount, Mt. [etymology][latin][french][loan_word][abbreviation]

 Mt. Fuji is the highest mountain in Japan. には,Mt. (= mount) と mountain という「山」を意味する2つの単語が現われる.固有名詞とともに現われる場合には mount (表記上はたいてい省略して Mt.)を用い,一般名詞としては mountain を用いる.
 古英語で普通に「山」を意味する語は本来語の beorg (ドイツ語 Berg)だった.しかし,すでに古英語期から,ラテン語で「山」を意味する mōns, mont- が借用語 munt として入っており,用いられることはあった.さらに中英語期になると,同語源で古フランス語の語形 mont にも強められるかたちで通用されるようになった(MEDmount n.(1) を参照).現代英語では,一般名詞としては文語・古語としての響きを有し,上記のように Mt. として固有名詞の一部として用いられるのが普通である.
 一方,mountain は13世紀後半に初出する.語源は先にもあげたラテン語 mōns, mont- の形容詞形ともいうべきもので,俗ラテン語の *montānea(m) (regiōnem) (= "mountainous region") から古フランス語形 montagne を経て,英語に mountain(e n. として入ってきたものである.現在までに最も普通の「山」を表わす一般名詞として発展してきた.(考えてみると,mountainous という形容詞は,語源的には形容詞の,そのまた形容詞ということになっておもしろい.)
 実は Mt. という省略表記の使用の歴史について知りたいと思い,いくつかの歴史辞書でこれらの語を引いてみたのだが,ほとんど情報がない.別の資料にあたって調べてみる必要がありそうだ.ちなみに,関連するかもしれないと思って調べてみた MrMrs などの表記については,およそ初期近代に遡るという(cf. 「#895. Miss は何の省略か?」 ([2011-10-09-1])).

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2019-04-15 Mon

#3640. 語頭音(節)省略による2重語 [doublet][aphaeresis][shortening][abbreviation]

 英語史には,語頭音(節)省略 (aphaeresis) と呼ばれる音韻形態過程を示すの事例は少なくない.it is'tis, beneath'neath, advantagevantage, racooncoon, acutecute などである.さらに「#548. example, ensample, sample は3重語」 ([2010-10-27-1]) のような例もある.
 しばしば,このような過程のビフォーとアフターの両形が互いに意味を違えつつ併存することがあり,その場合には語源を同じくする2重語 (doublet) が生じたことになる.すでに挙げた (ad)vantage(a)cute がその例だが,他にもいくつか挙げてみよう.

 ・ complot (共謀)/ plot (陰謀)
 ・ defence (防衛)/ fence (囲い)
 ・ disport (気晴らし;楽しませる)/ sport (運動,スポーツ)
 ・ distrain (差し押さえる)/ strain (引っ張る,緊張させる)

 私たちにもなじみ深い sport =「スポーツ」の語義は,比較的新しい発達である.原形 disport は14世紀後半の Chaucer の時代に Anglo-French から借用した単語で,当初は「娯楽;気晴らし」の語義で用いられた.語頭音節省略形 sport もすぐに発達したが,語義が「運動ゲーム」へ変化するのは16世紀前半からであり.しかもこの語義の本格的な使用は19世紀後半になってからである.
 この種の2重語はボキャビルにも活用できる.「#1723. シップリーによる2重語一覧」 ([2014-01-14-1]) や「#1724. Skeat による2重語一覧」 ([2014-01-15-1]) も活用されたい.

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2018-08-26 Sun

#3408. Elizabeth の数々の異名 [onomastics][personal_name][shortening][abbreviation][hebrew][hypocorism]

 標題の Elizabeth は,英国史の最も偉大な2人の女性に代表される典型的な英語の女性人名である.旧約聖書に現われるたいへん古い名前であり,語源もよく分かっていないようだが,ヘブライ語で「神の誓い」「神は完全なり」を表わす Elisheba に由来するのではないかと言われる.
 英国では16世紀後半の Elizabeth I の治世が契機となり,後の3世紀間,英語女性名としては絶大な人気を誇ったが,20世紀になると(Elizabeth II の治世にもかかわらず)古めかしい名前と評価されるようになったからか,かつてのような人気は博していないようだ.
 聖書にも現われる古い名前だけに,英国のみならずヨーロッパ諸国で同名,およびそこから派生した名前が人名として広く採用されているが,それらが改めて英語人名として英語社会に入ってくると,Elizabeth ファミリーと呼ぶべき種々の異名が行なわれることになった.あまつさえ,英語内部で省略形,愛称形 (hypocorism),地方方言形も発達してきたので,英語では多種多様な Elizabeth が流通していることになる.以下に,Crystal (148) に拠って,代表的なものを挙げよう.

 ・ Short forms: Bess, Bet, Beth, Eliza, Elsa, Liza, Lisbet, Lisbeth, Liz, Liza
 ・ Pet forms (hypocorism): Bessie, Bessy, Betsy, Bette, Betty, Elsie, Libby, Lilibet, Lizzie, Lizzy, Tetty
 ・ Regional forms: Elspet, Elspeth, Elspie (Scottish)
 ・ Foreign forms: Elizabeth (common European spelling); Babette, Elise, Lise, Lisette (French); Elsa, Else, Ilse, Liesel (German); Bettina, Elizabetta (Italian); Isabel, Isabella, Isbel, Isobel, Izzie, Sabella (Spanish/Portuguese); Elilís (Irish Gaelic); Ealasaid (Scottish Gaelic); Bethan (Welsh)

 歴史的には,これらの異名の各々に対して綴字も様々あり得たわけであり,とりわけ標準的な綴字が普及する18世紀より前には,個人名の「正しい」綴字へのこだわりは稀薄だったので,綴字の多様性は著しい.「#1720. Shakespeare の綴り方」 ([2014-01-11-1]) で示唆したとおりである.Elizabeth (および他の多くの名前)について,歴史的にどれだけ多くのヴァリエーションがあったことだろうか.「斉藤」「斎藤」「齋藤」「齊藤」の比ではない!?

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2018-06-08 Fri

#3329. なぜ現代は省略(語)が多いのか? [abbreviation][shortening][acronym][blend][lexicology][word_formation][productivity][sociolinguistics][sobokunagimon]

 経験的な事実として,英語でも日本語でも現代は一般に省略(語)の形成および使用が多い.現代のこの潮流については,「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1]),「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」 ([2011-09-22-1]),「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1]),「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1]),「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) などの記事で触れてきた.現代英語の新語形成として,各種の省略 (abbreviation) を含む短縮 (shortening) は破竹の勢いを示している.
 では,なぜ現代は省略(語)がこのように多用されるのだろうか.これについて大学の授業でブレストしてみたら,いろいろと興味深い意見が集まった.まとめると,以下の3点ほどに絞られる.

 ・ 時間短縮,エネルギー短縮の欲求の高まり.情報の高密度化 (densification) の傾向.
 ・ 省略表現を使っている人は,元の表現やその指示対象について精通しているという感覚,すなわち「使いこなしている感」がある.そのモノや名前を知らない人に対して優越感のようなものがあるのではないか.元の表現を短く崩すという操作は,その表現を熟知しているという前提の上に成り立つため,玄人感を漂わせることができる.
 ・ 省略(語)を用いる動機はいつの時代にもあったはずだが,かつては言語使用における「堕落」という負のレッテルを貼られがちで,使用が抑制される傾向があった.しかし,現代は社会的な縛りが緩んできており,そのような「堕落」がかつてよりも許容される風潮があるため,潜在的な省略欲求が顕在化してきたということではないか.

 2点目の「使いこなしている感」の指摘が鋭いと思う.これは,「#1946. 機能的な観点からみる短化」 ([2014-08-25-1]) で触れた「感情的な効果」 ("emotive effects") の発展版と考えられるし,「#3075. 略語と暗号」 ([2017-09-27-1]) で言及した「秘匿の目的」にも通じる.すなわち,この見解は,あるモノや表現を知っているか否かによって話者(集団)を区別化するという,すぐれて社会言語学的な機能の存在を示唆している.これを社会学的に分析すれば,「時代の流れが速すぎるために,世代差による社会の分断も激しくなってきており,その程度を表わす指標として省略(語)の多用が認められる」ということではないだろうか.

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2017-09-27 Wed

#3075. 略語と暗号 [cryptology][abbreviation][shortening][acronym][initialism][writing]

 略語表記は英語でも日本語でも花盛りである.「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1]),「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) でみたように,頭字語と呼ばれる acronyminitialism などは新聞や雑誌などに溢れている.確かに略語表記は現代に顕著だが,その存在は古くから確認される.西洋ではギリシア・ローマの時代に遡り,その起こりこそ筆記に要する空間・時間の節約や速記といった実用的な用途にあったかもしれないが,やがて宗教的な目的,秘匿の目的にも用いられるようになった.長田 (43--44) は,暗号との関連から略語について次のように論じている.

 略語は,このように第三者に対する秘匿とは別の目的から使用され,発達してきたが,略語そのものがあまり慣用されていないものであったり,略語の種類が増加してくると,略語表を見ないと元の意味がとれない場合が生じる.また,簡略化によるものや書き止めによる略語(書きかけのまま中途で止めて略語とするもの)には,それが略語であることを示すために単語上や語末に傍線を入れて注意を喚起するようなことが行なわれた.
 じつは,この不便さが一方では秘匿の目的に略語が使用されることにつながるのである.


 AIDSEU であれば多くの人が見慣れており相当に実用的といえるが,最近目につくようになったばかりの EPA(Economic Partnership Agreement; 経済連携協定)や ICBM(Inter-Continental Ballistic Missile; 大陸間弾道弾)では,必ずしも多くの人が何の略語なのか,何を指すのかを認識していないかもしれない.かすかなヒントがあると言い張ることはできるかもしれないが,暗号に近いといえるだろう.
 では,AIDSEU はなぜ認知されやすいのかといえば,繰り返し用いられてきたからである.当初は事実上の暗号に等しかったろうが,それでも構わずに使い続けられていくうちに,多くの人々が慣れ,認知するに到ったということである.これは非暗号化の過程とみることもできるだろう.「これらの略語も繰り返し使用したのでは,秘匿の効果が薄れてしまうことはいうまでもない」(長田,p. 45).

 ・ 長田 順行 『暗号大全 原理とその世界』 講談社,2017年.

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2017-04-23 Sun

#2918. 「未知のもの」を表わす x [x][grapheme][arabic][spanish][abbreviation][history]

 「#2280. <x> の話」 ([2015-07-25-1]) の最後に触れたが,x には「未知数;未知の人(もの)」という意味がある.代数でお馴染みの未知数 x は,英語としての初出は1660年だが,大陸では Descartes が Géométrie (1637) の中で,すでに用いている.一説によれば,既知数を表わす a, b, c に対して,未知数はアルファベットの後ろから x, y, z を取ったものではないかとも言われる.「未知の人(もの)」の意味では,1797年に初出している.
 別の由来説によれば,アラビア語で「何か,あるもの」を表わす šay がスペイン語に xei として受け入れられたものとされる.中世ヨーロッパでは,イスラーム学者から高度な数学が伝わったが,とりわけ影響力の大きかったのはフワーリズミー (Muhammad ibn Musa al-Khwarizmi; c. 780--c. 850) によって著わされた『代数学』 (Kitab al-Jabr wal Muqabala) である.この書名の一部から algebra (代数)という語が後に借用されているし,著者名の一部から algorism なる語も出ている.この代数学書においては未知数を導き出す方程式の解法が解説されており,アラビア語で未知数を表わした前述の šay が,本書のスペイン語訳に際して xay と表記されたものらしい.それが1文字の x に短縮されたという.
 代数においては x は未知数を表わす記号として用いられるが,x にはその他の記号としての用法もある.ローマ数字で X は「10」を表わす(「#1823. ローマ数字」 ([2014-04-24-1]) を参照).手紙の最後などで Love from Kathy XXX. と記せば,キスマークとなる.チェックボックスに記入するチェックマークとしても用いられるし,マルバツのバツをも表わす.地図上に印を付けるにも,x が用いられる.リストからある項目を除外するときに x out sth と動詞として用いられるのは,記号用法から派生したものである.

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