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最終更新時間: 2024-04-24 16:18

2022-11-22 Tue

#4957. heldio 生放送(岡本&堀田の対談)のお知らせ! 11月26日(土)午前10:00--11:00「ヴァナキュラーな『グリーン・ナイト』」 [voicy][heldio][notice][khelf][literature][romance][sggk][link]

 今週末11月26日(土)の午前10:00--11:00に,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で標記の生放送を配信します.立命館大学の岡本広毅先生との対談という形式でお届けします.

heldio_live_20221126



 内容は,生放送の前日11月25日(金)に全国で封切りとなる映画『グリーン・ナイト』と,その原作である中英語ロマンス『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) について,その語りの媒体となっているヴァナキュラー,すなわち中英語イングランド北西方言に焦点を当てつつディープに雑談する予定です.映画公開直後ということですので,気を遣いつつも少々のネタバレはOK!?というノリで行きたいと思います(私もまだ観ていないままの対談なのです).緩く次のようなトピックで対談をお届けできればと思っています.

 ・ ヴァナキュラーな『グリーン・ナイト』について
 ・ 中英語原典『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) とその時代背景
 ・ 言語的特色(英語とローカリティ,方言)
 ・ 原典の紹介,読みどころ
 ・ 映画『グリーン・ナイト』に関して(ネタバレ注意)

 26日(土)の生放送に向けて,事前に岡本先生に対するご質問やコメントなどがあれば,ぜひ上記の Voicy 配信案内を通じてお寄せください.また,生放送時の投げ込み質問にもなるべく対応したいと思っています.生放送に参加できない場合にも,翌朝の heldio レギュラー回で収録の様子をアーカイヴとして一般配信もしますので,そちらで聴取いただければ幸いです.
 岡本先生より教えていただいた映画『グリーン・ナイト』の関連情報を,以下に貼り付けておきます.

 ・ 映画公式サイト
 ・ 本映画の映像制作・配給会社 Transformer
 ・ 本映画の特設ツイッター
 ・ 「A24が贈るダーク・ファンタジー『グリーン・ナイト』,大塚明夫がナレーションを務めた解説動画解禁」
 ・ 「山田南平が映画「グリーン・ナイト」のイラスト描き下ろし、奈須きのこらコメントも」

 heldio では,これまでも岡本先生と3度ほど対談しています.今度の生放送に向けて,以下を聴取し復習・予習していただけると,理解度が倍増すると思います.実際,話す内容は過去回からの延長線上となる予定です.

 ・ heldio 「#173. 立命館大学、岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」 (2021/11/20)
 ・ heldio 「#386. 岡本広毅先生との雑談:サイモン・ホロビンの英語史本について語る」 (2022/06/21)
 ・ heldio 「#478. 英語ヴァナキュラー談義(岡本広毅&堀田隆一)」 (2022/09/21)

 さらに,今回の対談でも中心的な話題となるはずの vernacular についても,予習していただけると絶対におもしろくなると思います.以下に hellog の関連記事へのリンクを張っておきます.

 ・ 「#4804. vernacular とは何か?」 ([2022-06-22-1])
 ・ 「#4809. OED で vernacular の語義を確かめる」 ([2022-06-27-1])
 ・ 「#4812. vernacular が初出した1601年前後の時代背景」 ([2022-06-30-1])
 ・ 「#4814. vernacular をキーワードとして英語史を眺めなおすとおもしろそう!」 ([2022-07-02-1])
 ・ 「#4885. 「英語ヴァナキュラー談義(岡本広毅&堀田隆一)」のお知らせ(9月20日(火)14:50--15:50 に Voicy 生放送)」 ([2022-09-11-1])

 ぜひ肩の力を抜いて11月26日(土)の生放送をお聴きください!

Referrer (Inside): [2022-11-26-1]

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2017-08-22 Tue

#3039. 連載第8回「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」 [grimms_law][consonant][loan_word][sound_change][phonetics][french][latin][indo-european][etymology][cognate][germanic][romance][verners_law][sgcs][link][rensai]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第8回の記事「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」が公開されました.グリムの法則 (grimms_law) について,本ブログでも繰り返し取り上げてきましたが,今回の連載記事では初心者にもなるべくわかりやすくグリムの法則の音変化を説明し,その知識がいかに英語学習に役立つかを解説しました.
 連載記事を読んだ後に,「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) および「#102. hundredグリムの法則」 ([2009-08-07-1]) を読んでいただくと,復習になると思います.
 連載記事では,グリムの法則の「なぜ」については,専門性が高いため触れていませんが,関心がある方は音声学や歴史言語学の観点から論じた「#650. アルメニア語とグリムの法則」 ([2011-02-06-1]) ,「#794. グリムの法則と歯の隙間」 ([2011-06-30-1]),「#1121. Grimm's Law はなぜ生じたか?」 ([2012-05-22-1]) をご参照ください.
 グリムの法則を補完するヴェルネルの法則 (verners_law) については,「#104. hundredヴェルネルの法則」 ([2009-08-09-1]),「#480. fatherヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1]),「#858. Verner's Law と子音の有声化」 ([2011-09-02-1]) をご覧ください.また,両法則を合わせて「第1次ゲルマン子音推移」 (First Germanic Consonant Shift) と呼ぶことは連載記事で触れましたが,では「第2次ゲルマン子音推移」があるのだろうかと気になる方は「#405. Second Germanic Consonant Shift」 ([2010-06-06-1]) と「#416. Second Germanic Consonant Shift はなぜ起こったか」 ([2010-06-17-1]) のをお読みください.英語とドイツ語の子音対応について洞察を得ることができます.

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2016-03-04 Fri

#2503. 中英語文学 [me][literature][chaucer][norman_conquest][romance][reestablishment_of_english][wycliffe][bible][langland][sggk][pearl][lydgate]

 中英語期の英語で書かれた文学について,主として Baugh and Cable の110節 "Middle English Literature" (149--51) に依拠し,英語史に関連する範囲内で大雑把に概括したい.
 中英語が社会言語的にたどった運命と,中英語文学は密接にリンクしている.ノルマン征服により,フランス語を話す上流階級の文学的嗜好は,当然ながらフランス語で書かれた書物へ向かっており,英語で書かれたものにパトロンが付く可能性は皆無だった.しかし,英語で物する者がいたことは確かであり,彼らは別の目的で書くという行為を行なっていたのである.それは,英語しか解さない一般庶民にキリスト教を布教しようという情熱に駆られた宗教者たちだった.したがって,1150--1250年に相当する初期中英語期に英語で書かれたものは,ほぼすべてが宗教的・説諭的な文学である.Ancrene RiwleOrmulum (c. 1200) のような聖書の福音書の解釈本や,古英語に由来する聖者伝や説教集の焼き直しが,この時代の英語文学だった.例外的に Layamon's Brut (c. 1200) や The Owl and the Nightingale (c. 1195) のような非宗教的な文学も出たが,例外と言ってよい.この時代は,原則として "Period of Religious Record" と呼べるだろう.
 次の100年間は,フランス語に対して英語が徐々に復権の兆しを示し初め,英語がより広く文学として表わされるようになってきた.フランス語で書かれた文学が翻訳されるなどして,14世紀にかけて英語の文学は勢いを増してきた.具体的には,非宗教的なロマンス (romance) というジャンルが英語という媒体に乗せられるようになった.1250--1350年の英語文学の時代は,"Period of Religious and Secular Literature" と呼ぶことができるだろう.
 14世紀の後半までには,イングランドにおいて英語はほぼ完全な復活 (reestablishment_of_english) を果たし,この時期は中世英語文学史における華を体現することになる.Canterbury TalesTroilus and Criseyde といった大著を残した Geoffrey Chaucer (1340--1400) を初めとして,社会的寓話 Piers Plowman (1362--87) を著わした William Langland,聖書翻訳で物議をかもした John Wycliffe (d. 1384),Sir Gawain and the Green Knight ほか3つの寓意的・宗教的な珠玉の詩を残した詩人が現われ,まさに "Period of Great Individual Writers" と言ってよいだろう.
 15世紀は,Chaucer などの偉大な先人の影響下で,英語文学史上,影が薄い時期となっており,"Imitative Period",あるいは初期近代の Shakespeare までのつなぎの時期という意味で "Transition Period" などと呼ばれている.文学史的には相対的に過小評価されてきたきらいがあるが,Lydgate, Hoccleve, Skelton, Hawes などの傑物が現われている.スコットランドでも,Henryson, Dunbar, Gawin Douglas, Lindsay などが著しい活躍をなした.世紀末には Malory や Caxton が現われるが,この15世紀の語学や文学はもっと真剣に扱われてしかるべきである.この最後の時代の語学・文学的事情については,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) および「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]) も要参照.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2016-08-05-1] [2016-03-27-1]

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2012-11-10 Sat

#1293. Sir Orfeo の関連サイト [link][romance][sir_orfeo][literature][auchinleck]

 大学院の授業で,"Breton lay" と呼ばれるジャンルに属する中英語ロマンス Sir Orfeo を,Burrow and Turville-Petre 版に基づいて読み始める.比較として,Bliss, Sisam, Treharne による版を使用.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.
 ・ Sisam, Kenneth, ed. Fourteenth Century Verse and Prose. Oxford: OUP, 1921.
 ・ Treharne, Elaine, ed. Old and Middle English c. 890--c. 1450: An Anthology. 3rd ed. Malden, Mass.: Wiley-Blackwell, 2010.

 Web上で関連するリソースを探したので,以下にまとめておく.

 ・ Page from the Online Database of the Middle English Verse Romances: 中英語ロマンスの総合サイトより粗筋と刊本の情報.
 ・ Page from Middle English Compendium HyperBibliography: MED よりテキスト情報.
 ・ Page from Wikipedia

 ・ Text and Manuscript from the Auchinleck Manuscript: Auchinleck 版のテキストと写本画像.研究書誌はこちら
 ・ Text: Laskaya and Salisbury's edition (based on Auchinleck): イントロや研究書誌はこちら.Auchinleck MS については,「#744. Auchinleck MS の重要性」 ([2011-05-11-1]) も参照.
 ・ Text: Shuffleton's edition (based on Ashmole): イントロはこちら
 ・ Introduction and Text: Hostetter's edition

 ・ Modern English translation in the Hannah Scot Manuscripts
 ・ Modern English translation by Hunt

Referrer (Inside): [2014-05-18-1]

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2012-09-19 Wed

#1241. 語彙的にみれば Anglo-Saxon 語の終わりは13世紀? [periodisation][lexicology][french][loan_word][romance]

 英語史の時代区分について,periodisation の記事で扱ってきた.とりわけ,いつ古英語が終わり,中英語が始まったかについては,[2012-06-12-1], [2012-06-13-1]の記事で諸説を見た.中英語の開始時期については,いずれの議論も屈折の衰退という形態的な基準に拠っているが,あえてその伝統的な基準を退け,語彙的な基準を採用すると,様相は一変する.昨日の記事「#1240. ノルマン・コンクェスト後の法律用語の置換」 ([2012-09-18-1]) で取り上げた Lutz の論文では,語彙の観点からの時代区分がやんわりと提案されている.
 Lutz は,(1) よく知られているようにフランス語彙の流入のピークは13世紀以降であり([2009-08-22-1]の記事「#117. フランス借用語の年代別分布」,[2012-08-14-1]の記事「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」を参照),(2) 初期中英語期の英語テキストは古英語テキストの伝統を引き継ぐものが多く,フランス借用語はそれほど顕著に反映しておらず,(3) 他言語に比べ英語ロマンスの出現が遅れた,という事実を示しながら,古英語(あるいは Lutz の呼ぶように Anglo-Saxon)の終わりを,伝統的な区分での初期中英語の終わりに置くことができるのではないかと提案する.

For the lexicon, we need a . . . bipartite periodization distinguishing Anglo-Saxon (comprising Old and Early Middle English) from English (comprising all later stages), which reflects the lexical and cultural facts. . . . During this extended period of time, several generations of inhabitants of post-Conquest England preserved their Anglo-Saxon lexicon and, more generally, seem to have looked back to their Anglo-Saxon cultural heritage when they expressed themselves in their own tongue. . . . / By contrast, the English we are familiar with is basically a creation of the late thirteenth to fifteenth centuries when the French-speaking ruling classes of England gradually switched to the language of those they governed and, in the course of that process, imported their superstratal lexicon in large quantities. (161--62)


 Lutz の論考は,結果として,ノルマン・コンクェストとフランス借用語の本格的流入のあいだには時差があるという事実を強調していることになるだろう.

 ・ Lutz, Angelika. "When did English Begin?" Sounds, Words, Texts and Change. Ed. Teresa Fanego, Belén Méndez-Naya, and Elena Seoane. Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins, 2002. 145--71.

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2012-05-06 Sun

#1105. 美女の形容としての grey eyes (2) [romance][adjective][collocation][bnc][corpus]

 昨日の記事[2012-05-05-1]に引き続き grey eyes の話題.昨日は,中英語ロマンスの grey eyes について考えたが,この共起表現は現代にも続いている.BNCWeb で,"(grey|gray) {eye/N}" として検索すると,287例がヒットした.grey eyes がさらに別の形容詞に先行されている例をみると,clear, dark, deep, pale が比較的多い.beautifulbright の例もわずかながらあった.
 このような例から判断すると,grey 自体は輝きの有無を表わす意味を担当していないように思われる.もし担当しているとすれば,むしろ pale 寄りの「薄い,輝きのない」という解釈に引き寄せられるだろう.英英辞書で確認する限り,現代英語の grey の一般的な語感は,日本語のそれとよく似て,negative だからだ.老年,陰気,病気,憂鬱,退屈,悪天候のイメージだ.したがって,現代英語の grey eyes は,negative なニュアンスを特に含意しない読みを求めるとするならば,純粋に色としての「灰色」あるいは「青みのいくぶん混じった灰色」を表わすものと考えられる.あるいは,grey eyes は,意味の薄まった共起表現の伝統として用いられているにすぎないという可能性もあるかもしれない.
 すると,ますます中英語の美女の典型的な描写としての grey eyes がわからない.もし,MED や Silverstein が述べている通り,中英語の grey が輝きを表わしたのだとすれば,現代英語の輝きのない grey は180度の意味変化を経たことになる.
 色は gradation を描くものであり,かつて覆っていた範囲や意味を推定して復元することは,なかなか難しい.英語のみならず日本語においても,色彩語を巡る議論は厄介である.
 なお,中世の美女の典型的な描写を示しておこう.Brewer (258) は,Matthew of Vandôme による Helen of Troy の描写が,以下の要約の通り,1つの型であるとしている.

. . . her hair is golden, forehead white as paper, eyebrows black and thin. The space between the eyes (in contrast to the Greek ideal) is white and clear, a 'milky way'; the face is a shining star; the eyes are like stars. She has a little smile, a nose neither too big nor too small. Her face is rosy, her colouring white and red, like rose and snow. Teeth are like ivory, lips are small, slightly swelling, honeyed. Her mouth smells like a rose, her neck is smooth, shoulders radiant, well-spaced (dispatiati), breasts small, and figure incomparable.


 こんな女性,いるんでしょうか,ぜひ会ってみたい・・・.

 ・ Silverstein, Theodore, ed. Sir Gawain and the Green Knight. Chicago: U of Chicago P, 1983.
 ・ Brewer, D. S. "The Ideal of Feminine Beauty in Medieval Literature, Especially 'Harley Lyrics', Chaucer, and Some Elizabethans." The Modern Language Review 50 (1955): 257--69.

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2012-05-05 Sat

#1104. 美女の形容としての grey eyes (1) [romance][adjective][sggk]

 中英語ロマンスを読んでいると,ヒロインが grey eyes をもつ美女として描写されることが多い.美女の描写であるから,grey eyes が具体的にどのような瞳を表わしているのか,ぜひ知りたいと思うのだが,これが案外と難しい問題である.中世と現代とで美的感覚が異なることはおおいにあり得るとしても,「灰色の瞳」とは本当に美しいものなのだろうか.あるいは,中英語の grey の表わす意味が,現代英語の grey とは異なっていたという可能性はないだろうか.
 例えば,Sir Gawain and the Green Knight の ll. 81--84 の "wheel" 部では,アーサー王妃 Guenevere が grey eyes をもつ美女として描かれている(Andrew and Waldron 版より引用).

Þe comlokest to discrye
Þer glent with yȝen gray;
A semloker þat euer he syȝe
Soth moȝt no mon say.


 この gray の解釈は,編者によっても異なっている.Andrew and Waldron はグロッサリーで "(of eyes) blue-grey" としており,「青みがかった灰色」と解釈している.Gollancz, Barron, Tolkien and Gordon は,現代英語の grey と同一であるとしており,「青み」を積極的に排除しているわけではないが,基本的には「灰色」とみなしていることになる.grey eyes は灰色の瞳を指すという素直な解釈は,OED でも語義3において "Having a grey iris" として採用されている.
 しかし,MED では grei (adj. & n.) では,異なる解釈が示されている.語義 2 (b) で,"of eyes: bright, gleaming (of indeterminate color)" とあり,色合いではなく光り輝く様を記述する形容詞とされている.同じ解釈は Silverstein によっても示されており,"With lively, sparkling eyes" として注が与えられている.中英語には,greye as glas (The General Prologue, l. 152 の Prioress や,The Reeve's Tale, l. 3974 の粉屋の娘の形容)や grey as crystalle stone などの表現もみつかるし,「星のような目」という描写も広く見られることから,瞳の色合いそのものよりはその輝きに注目して美しさを表現するという伝統があったのかもしれない.
 西洋中世における美女描写の伝統については Brewer が詳しいが,12世紀より前には,文学上,さして重要な伝統とはされていなかったという.しかし,以降は,典型的な描写の伝統が中世の終わりまで続いた.その伝統の上に,時に革新的な表現が現われた.例えば,"whiter than the swan" のような美女の形容は中英語における創案とされる (Brewer 262) .一方,grey eyes はフランス語で創案された des yeux vaires の翻訳だろうといわれている.ただし,この vaires なる形容詞の解釈も,色合いと輝きのいずれを表わしたのか不明であり,grey eyes の解釈に必ずしもヒントを与えてくれない.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
 ・ Gollancz, Israel, ed. Sir Gawain and the Green Knight. EETS os 250. 1950.
 ・ Tolkien, J. R. R. and E. V. Gordon, eds. Sir Gawain and the Green Knight. 2nd ed. Rev. Norman Davis. Oxford: Clarendon, 1967.
 ・ Barron, W. R. J., ed. Sir Gawain and the Green Knight. Manchester: Manchester UP, 1974.
 ・ Silverstein, Theodore, ed. Sir Gawain and the Green Knight. Chicago: U of Chicago P, 1983.
 ・ Brewer, D. S. "The Ideal of Feminine Beauty in Medieval Literature, Especially 'Harley Lyrics', Chaucer, and Some Elizabethans." The Modern Language Review 50 (1955): 257--69.

Referrer (Inside): [2012-05-06-1]

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2011-05-11 Wed

#744. Auchinleck MS の重要性 [auchinleck][manuscript][romance][scribe][link]

 The Auchinleck Manuscript (National Library of Scotland Advocates' MS. 19.2.1) は,中世イングランドの語学,文学,写本,読書文化などを論じる際に最も重要な写本の1つといっていいだろう.今日は,この写本の重要性を何点か指摘したい.以下は,Pearsall and Cunningham のイントロ部の "LITERARY AND HISTORICAL SIGNIFICANCE OF THE MANUSCRIPT" (vii--xi) から要点を抜き出してノートしたものである.

 ・ 1330--40年という早い時期に作成されており,様々なジャンルのテキストを寄せ集めた写本としては,群を抜いて最初期のものである.
 ・ 納められているテキストの大多数が,各テキストの現存する最古のヴァージョンを提供している.例外は,nos. 4, 7, 8, 13, 19, 29, 34, 35, 40 のみである.
 ・ テキストのほとんどが英語で書かれている.例外は,no. 20 の Anglo-Norman の混交体と nos. 8, 10, 36 の Latin の挿入部のみである.Auchinleck MS 以前の編纂もの (Jesus College, Oxford, MS. 29; British Library Cotton Caligula A.ix; Trinity College, Cambridge, MS. 323; Bodleian Library Digby 2; Bodleian Library Digby 85; British Library Harley 2253) には,Anglo-Norman と Latin のテキストも普通に見られた.
 ・ 以前の編纂もの写本には,主として学者層を対象としたテキストが含まれていた,Auchinleck MS には世俗的で洗練されていないテキストが多く含まれており,新しいタイプの読者層の存在が浮かび上がってくる.
 ・ テキストのジャンルの幅が広い(全44テキスト).no. 21 以外はすべて韻文で書かれている.
  - saint's legends: nos. 1, 4, 5, 12
  - other types of religious narrative: nos. 3, 6, 8, 9, 13, 16, 29
  - religious debates: nos. 7, 34
  - homiletic and monitory pieces: nos. 10, 35, 39
  - poems of religious instruction: nos. 14, 15, 36
  - a chronicle: no. 40
  - a list of names of Norman barons: no. 21 (not in verse)
  - humorous tales: nos. 27, 28
  - poems of satire and complaint: nos. 20, 42, 44
  - romances: nos. 2, 11, 17, 18, 19, 22, 23, 24, 25, 26, 30, 31, 32, 33, 37, 38, 41, 43 (accounting for three-quarters of the bulk of MS)
 ・ 非ロマンスの26テキストのうち15テキストが,現存する唯一の写しである.
 ・ ロマンスの18テキストのうち8テキストが,現存する唯一の写しであり,9テキストが現存する最も古い写しである.残りの1テキスト (no. 19 = Floris ) のみが例外.
 ・ 対象読者層は "popular" とまではいかないが,"the aspirant middle-class citizen, perhaps a wealthy merchant" (viii) だったと想定される.
 ・ ロンドンの "bookshop" で,複数の写字生が共同作業で作り上げたと考えられる.共同作業は高度に洗練されていたわけではないが,ある程度は組織化されていた.
 ・ 6人の写字生が以下の分布で共同写本作りに貢献している.scribe 1 が全体の72%を担当している.
Gatherings Item nos. Texts Scribe
1--6 1--9 Religious poems (incl. King of Tars) 1
7--10 10 Speculum Gy de Warewyke 2
11--13 Religious poems (incl. Amis) 1
11--16 14--19 Miscellaneous 3
20 Sayings of the Four Philosophers 2
21 List of names of Norman barons 4
17(?)--25 22--23 Guy of Warwick and continuation 1
24 Reinbrun 5
26--36 25 Beues of Hamtoun 5
26--29 Arthour and Merlin plus 3 fillers 1
37 30--31 Lay le freine, Roland and Vernagu 1
38--[?] 32 Otuel (and other poems?) 6
[?]--41 33--36 Kyng Alisaunder plus 3 fillers 1
42--44 37--39 Tristrem and Orfeo plus 1 filler 1
45--47 40--42 Chronicle and Horn childe plus 1 filler 1
48--[?] 43 Richard 1
52 44 The Simonie 2

・ 主要な2人の写字生 scribe 1 (全体の72%を担当) と scribe 3 (11%) の言語が14世紀前半のロンドン方言を代表していることが知られている.同世紀後半以降にロンドン方言に基づく書き言葉が標準化していくが,Auchinleck MS はそれ以前のロンドン方言の実態を知る上で重要な証拠を提供している ([2010-02-27-1]).( scribes 2, 4, 5, 6 はそれぞれ全体の約4%, 1%, 10%, 2%を担当).
・ 写本内部の同一著者推定については,Kyng Alisaunder, Richard, The Seven Sages が同じロンドンの著者に帰せられる.同様に,OrfeoLay le freine もおそらく1人の著者によるものであり,St MargaretSt Katherine も同様とされる.
・ この写本はかつて Chaucer が所有していた可能性があるという興味深い説が Loomis によって唱えられている.

 このように,Auchinleck MS とそのテキストは尽きざる魅力を秘めている.Web上のリソースとしては,以下を参照.

 ・ The Auchinleck Manuscript : National Library of Scotland: 特に写本の重要性については,Importance of the Auchinleck Manuscript を参照.
 ・ Auchinleck MS Home Page: 電子化されたテキスト (transcription) へのリンクがこちらにあり.

 下に,The Auchinleck Manuscript : National Library of Scotland の各テキスト (eds. David Burnley and Alison Wiggins) へのリンクを張っておく.

  1. The Legend of Pope Gregory (ff.1r-6v)
  2. f.6Ar / f.6Av (thin stub)
  3. The King of Tars (ff.7ra-13vb)
  4. The Life of Adam and Eve (E ff.1ra-2vb; ff.14ra-16rb)
  5. Seynt Mergrete (ff.16rb-21ra)
  6. Seynt Katerine (ff.21ra-24vb)
  7. St Patrick's Purgatory (ff.25ra-31vb)
  8. þe Desputisoun Bitven þe Bodi and þe Soule (ff.31vb-35ra stub)
  9. The Harrowing of Hell (ff.?35rb-?37rb or 37va stub)
  10. The Clerk who would see the Virgin (ff.?37rb or 37va stub-38vb)
  11. Speculum Gy de Warewyke (ff.39ra-?48rb stub)
  12. Amis and Amiloun (ff.?48rb stub-?61va stub)
  13. The Life of St Mary Magdalene (ff.?61Ava stub-65vb)
  14. The Nativity and Early Life of Mary (ff.65vb-69va)
  15. On the Seven Deadly Sins (ff.70ra-72ra)
  16. The Paternoster (ff.72ra-?72rb or ?72va stub)
  17. The Assumption of the Blessed Virgin (?72rb or ?72va stub-78ra)
  18. Sir Degare (ff.78rb-?84rb stub)
  19. The Seven Sages of Rome (ff.?84rb stub-99vb)
  20. Gathering missing (c1400 lines of text)
  21. Floris and Blancheflour (ff.100ra-104vb)
  22. The Sayings of the Four Philosophers (ff.105ra-105rb)
  23. The Battle Abbey Roll (ff.105v-107r)
  24. f.107Ar / f.107Av (thin stub)
  25. Guy of Warwick (couplets) (ff.108ra-146vb)
  26. Guy of Warwick (stanzas) (ff.145vb-167rb)
  27. Reinbroun (ff.167rb-175vb)
  28. leaf missing.
  29. Sir Beues of Hamtoun (ff.176ra-201ra)
  30. Of Arthour & of Merlin (ff.201rb-256vb)
  31. þe Wenche þat Loved þe King (ff.256vb-256A thin stub)
  32. A Peniworþ of Witt (ff.256A stub-259rb)
  33. How Our Lady's Sauter was First Found (ff.259rb-260vb)
  34. Lay le Freine (ff.261ra-262A thin stub)
  35. Roland and Vernagu (ff.?262va stub-267vb)
  36. Otuel a Knight (ff.268ra-277vb)
  37. Many leaves lost, but some recovered as fragments.
  38. Kyng Alisaunder (L f.1ra-vb; S A.15 f.1ra-2vb; L f.2ra-vb; ff.278-9)
  39. The Thrush and the Nightingale (ff.279va-vb)
  40. The Sayings of St Bernard (f.280ra)
  41. Dauid þe King (ff.280rb-280vb)
  42. Sir Tristrem (ff.281ra-299A thin stub)
  43. Sir Orfeo (ff.299A stub-303ra)
  44. The Four Foes of Mankind (f.303rb-303vb)
  45. The Anonymous Short English Metrical Chronicle (ff.304ra-317rb)
  46. Horn Childe & Maiden Rimnild (ff.317va-323vb)
  47. leaf missing.
  48. Alphabetical Praise of Women (ff.324ra-325vb)
  49. King Richard (f.326; E f.3ra-vb; S R.4 f.1ra-2vb; E f.4ra-vb; f.327)
  50. Many leaves lost.
  51. þe Simonie (ff.328r-334v)

・ Pearsall, Derek and I. C. Cunningham, eds. The Auchinleck Manuscript: National Library of Scotland Advocates' MS. 19.2.1. London: Scholar P, 1979.

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2011-02-28 Mon

#672. 構造主義的にみる中英語ロマンス [literature][romance][formula]

 [2011-02-26-1], [2011-02-27-1]の記事で参照した Wittig は,中英語ロマンスの formula を機能的な単位として位置づけた研究者である.Wittig の議論には構造主義の視点が色濃く反映されており,それは特に次の2点において見られる.
 1つは,formula を "a kind of mental template, in the mind of the poet, a pattern-making device which generates a series of derivative forms" (Wittig 29) とみなしている点である.この考えによると,formula とは統合関係 ( syntagm ) を表わす「型」のことであり,そこに選択関係 ( paradigm ) にある交替可能な語句群から1つを選んで流し込んでゆくことによってある表現が実現されるとする.例えば al thus in boke as as we rede という決まり文句は,以下の「型」の各スロットに適当な語句を選択して当てはめていった結果であると考える.

Romance Formula: Syntagm and Paradigm

 もう1つすぐれて構造主義的なのは,上記のような統語レベルの型を "syntagmeme" と名付けてロマンスの構造をなす最小単位と位置づけたあとで,「交替可能な選択肢の中からの選択」という考え方をより大きな単位へと拡張してゆく点である.例えば,ロマンスには「主人公の父の死」という場面がある.この場面を構成するのは「悪者による殺害の企み」「父の登場」「敵の挑戦」「敵との戦い」「死」という一連の出来事であり,それぞれの出来事の単位は "motifeme" と呼ばれる.各 motifeme には様々な variation が用意されており,また motifeme 間の順番は決まっている.型に流し込むかのように場面が構成されてゆく.次に,「主人公の父の死」という場面それ自体がより大きな構成単位 "type-scene" となり,「主人公の追放」というもう1つの type-scene と合わさって,さらに大きな構成単位 "type-episode" となる.いずれの規模の単位においても「交替可能な選択肢の中からの選択」という同一原則が適用されており,小さい単位の積み重ねにより最終的な物語が構成されるという意味で,きわめて構造主義的な考え方といえる.
 Wittig は,"Dame," he said のような単純な formula の分析から始め,より大きな単位へと分析へと積み上げてゆき,結論として中英語ロマンスに共通する2対の type-episode 連鎖を突き止めた."love-marriage" 連鎖と "separation-restoration" 連鎖である.Wittig (177) は,中英語ロマンスの形式上の定義はこの2対の連鎖が組み合わさっているということであると言い切る.
 中英語ロマンスでは,love と marriage の間に必ず困難が伴い,separation (追放によるアイデンティティの喪失)と restoration (その回復)にも苦難が付随する.2対の連鎖こそが中英語ロマンスの主要な "generating forces" であり,深層構造から,鋳型へ内容物を注入しつつ,表層構造を産出してゆく原動力なのである.
 最後に,Wittig の議論は壮大な speculation へと及ぶ.中英語ロマンスの聴衆の関心の根底に love-marriage と separation-restoration があったと仮定すると,それはなぜなのか.その答えの1つとして,love-marriage が象徴する女系家族制と separation-restoration が象徴する男系家族制との融和が,かれらの大きな関心事だったからではないか.
 formula の言語的分析から中世イングランドの家族観へと展開する Wittig の議論を読んで,構造主義というのは,小さな部品を1つの原理で組み合わせて大きな機械を作りあげることなのかと学んだ.

 ・ Wittig, Susan. Stylistic and Narrative Structures in the Middle English Romances. Austin and London: U of Texas P, 1978.

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2011-02-27 Sun

#671. 中英語ロマンスにおける formula の機能 [literature][romance][auchinleck][formula]

 昨日の記事[2011-02-26-1]で,中英語ロマンスの言語において formula がいかに大きな割合で用いられているかを見た.ロマンスに formula が多用される背景には,いくつかの説明が提案されている.1つは,有名な The Auchinleck Manuscript のロマンス群に関連して特に言われていることで,ロンドンの写本製作所が「売れ筋本」を大量生産するために,formula を機械的に多用したという "a theory of bookshop composition and extensive textual borrowing" である (Wittig 13) .もう1つは,ロマンスは,吟遊詩人が口頭で聴衆へ伝えるという意図で作成されたものであり,語りの効果と暗唱のために繰り返しが多くなるのは自然だとする "the oral-transmission theory" である (Wittig 14) .
 しかし,Wittig は上の2つの説明では説得力がないと主張する.ロマンスが中世イングランドの聴衆に受けたのは,分かりきった物語の筋や予測可能な formula を何度も聞かされることにより,物語が描く社会の現状を確認し,是認し,安心感を得ることができたからではないか.ロマンスの語り手と聞き手はともに社会の秩序に対する信頼感をもっており,ロマンスを受容することによって,その秩序を保守することに賛意を表明しているのではないか.したがって,社会が変革すればロマンスというジャンル自体も変容を迫られるか衰退することになる.ロマンスの言語は,語り手と聞き手のスタンスの言語 "a language of stance" (Wittig 46) である.Wittig のこの主張が要約された一節を引く.

If the language does not serve to carry information, what then is its primary function? In addition to carrying a minimal amount of narrative information, the language carries at least one other level of social meaning as well. That is, it carries the additional messages which are encoded within the semiology of social gestures, the language of social ritual: leave-takings, greetings, meals and banquets, marriages and knightings and tournaments. Each one of the highly ritualized events to which the formulas themselves refer is also a kind of formulaic language, a complex system of significations which is as thoroughly understood and articulated in its own culture as that culture's natural language and which is indeed a language even though it may not be a verbal one. In the romances the language of the verse refers much of the time to this second-order system, and its message-bearing function is then doubled. The language of these narratives functions not only as a medium of narrative, but as a powerful social force which supports, reinforces, and perpetuates the social beliefs and customs held by the culture, perhaps long past their normal time of decline. (Wittig 45)


 上で触れた The Auckinleck Manuscript については以下のサイトが有用である.

 ・ The Auchinleck Manuscript : National Library of Scotland
 ・ Auchinleck MS Home Page

 ・ Wittig, Susan. Stylistic and Narrative Structures in the Middle English Romances. Austin and London: U of Texas P, 1978.

Referrer (Inside): [2011-02-28-1]

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2011-02-26 Sat

#670. 中英語ロマンスにおける formula の割合 [literature][romance][statistics][formula]

 中世ロマンスの言語上の大きな特徴の1つに,formula の多用がある.stock phrase とも言われ「決まり文句,常套句」を指す.formula の定義には,表現の幅を限定したきわめて狭いものから,語彙や統語のレベルでの型に適合していればよいとする広いものまであるが,多くの formula 研究は Milman Parry の次の定義から出発している.

A formula is "a group of words which is regularly employed under the same metrical conditions to express a given essential idea." (qtd in Wittig, p. 15 as from "Studies in the Epic Technique of Oral Verse-Making. I: Homer and Homeric Style." Harvard Studies in Classical Philology 41 (1930). page 80.)


 formula の具体例を挙げればきりがないが,"'Dame,' he said", "that hendi knight", "feyre and free" などの短いものから,"He was a bolde man and a stowt", "And he were neuer so blythe of mode", "For to make the lady glade / That was bothe gentyll and small" などの長いものまで様々である.Wittig によれば,中英語の韻文ロマンス25作品から Parry の条件を厳密に満たす formula を含む行を抜き出したところ,以下のような結果が得られた.

POEMLENGTHVERSE TYPEFORMULA RATE
Lai le freine340 linescouplet10%
Sir Landeval500couplet11
Sir Launfal1044tail-rhyme16
King Horn1644couplet18
Sir Degare1076couplet21
Havelok2822couplet21
Sir Isumbras804tail-rhyme22
Sir Amadace864tail-rhyme22
Sir Perceval2288tail-rhyme22
Horn Child1138tail-rhyme24
Roswall and Lillian885couplet25
Ocatvian (southern)1962tail-rhyme25
Sir Triamour1719tail-rhyme25
Earl of Toulous1224tail-rhyme26
Ywain and Gawayn4032couplet27
Sir Eglamour1377tail-rhyme29
Squyr of Lowe Degre1131couplet30
Lebeaus Desconus2131tail-rhyme30
Sir Torrent2669tail-rhyme31
Bevis of Hampton4332couplet34
Eger and Grime1474couplet35
Sir Degrevant1920tail-rhyme38
Octavian (northern)1731tail-rhyme39
Floris and Blancheflur1083couplet41
Emare1030tail-rhyme42


 平均をとると,各テキストを構成する行数の26.56%が formula を含んでいることになる.couplet では平均が24.82%,tail-rhyme では27.93%だが,大差はない.また,テキストの長さと formula 行の割合には強い相関はない.Wittig の研究では,Arthur,Troy,Alexander ものなどの "cycle" は含まれていない.参照テキストを限定し,定義を厳密にし,あくまで低めに抑えられた数え上げなので,定義を緩くすれば相当に数値が上がるはずだという.
 ロマンスのテキストの約1/4が formula から成っているとすると,聴衆にとって次にどのような文言が現われるかは予測可能ということになる.また,ロマンスは物語としての筋もおよそ決まっているので,聴衆にとって「新情報」を得る機会は非常に少ないと考えられる.では,そのようなロマンスが中世に大流行したのはなぜか.聴衆はロマンスに何を期待していたのだろうか.

 ・ Wittig, Susan. Stylistic and Narrative Structures in the Middle English Romances. Austin and London: U of Texas P, 1978.

Referrer (Inside): [2011-02-28-1] [2011-02-27-1]

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2011-02-15 Tue

#659. 中英語 Romaunce の意味変化とジャンルとしての発展 [literature][romance][semantic_change]

 [2010-11-06-1]の記事で romance という語の語源と romance という文学ジャンルの発生との関係を見た.ジャンルとしての romance は12世紀後半のフランスに始まり,英文学では13世紀終わりになってようやく現われた.フランスでもイギリスでも romans あるいは romaunce は,ジャンルとして成長するにつれ,多義的になっていった.逆にいえば語義の発展の仕方を見ることで,ジャンルとしてどのように発展していったかも分かるということである.
 まずフランスではどのように捉えられたか.[2010-11-06-1]の記事で見たとおり,romans は文字通りには「ロマンス語」を原義とした.具体的にはラテン語に対する土着語 ( vernacular language ) としての古フランス語 ( Old French ) を指す.フランスの書き手たちは,Statius の Thebaid, Virgil の Aeneid, Benoît de Sainte-Maure のトロイ陥落,Wace のブリテン史など,主にラテン語で伝えられた古代の物語 ( romans d'antiquité ) を,ラテン語を解さない人々にも理解できるように romans (土着のフランス語)で書き直した.ここから,romans は「フランス語で書かれた物語」を意味するようになった.この初期の romans の書き手たちは,後にジャンルとしてのロマンスと結びつけられる種々の特徴を特に意図していたわけではなかったが,情事,登場人物の心理,奇妙で不思議な出来事といった主題に光を当てる独創性を示していたのは確かである.romans の語義がある特徴をもった物語の主題を指すようになるのは12世紀の終わり,ロマンスのジャンルを明確に切り開いた Chrétien de Troyes 辺りからと考えられる.口承法と詩形の観点からも,歌われる chançon ではなく語られる物語として,武勲詩の節 laisse ではなく8音節詩行 ( octosyllabic ) として,romans は独自性を帯びてくるようになる.こうして,フランス語の romans は,「フランス語」,「フランス語で書かれた物語」,「内容的にある特徴をもった物語」,「形式的にある特徴をもった物語」へと意味を発展させ,文学ジャンルを表わす一般呼称として徐々に定着していった.
 意味変化の用語で整理すると,「言語」から「その言語で書かれたもの」への換喩 ( metonymy ) と,「その言語で書かれたもの」から「内容的にある特徴をもった物語」への意味の特殊化 ( specialisation ) が生じていることになる.
 次に,イギリスにおける romaunce の語義の発展はどうだったろうか.フランスの romans 作品は,Anglo-Norman という媒体を通じて早くからイギリスにもたらされていたが,英語という媒体に乗せられるのは13世紀も終わり頃のことである.ほぼすべてがフランス語からの翻訳であったので,英語 romaunce は当初は「フランス語で書かれた物語」を広く指す意味として出発した.しかし,時間をおかずに,媒体言語ではなく主題に注目する新たな語義も派生した.媒体言語が英語であっても,ある人物に焦点を当てた物語は広く romaunce と呼ばれるようになった.ある人物の人生が描かれる際に,しばしば幻想的な脚色や色事が付加されたが,説教文学はその点を取り上げて romaunce を世俗的なものとして非難した.興味深いことに,説教文学が自らを romaunce と対立させたその観点こそが romaunce という文学を後に特徴づけることになったのである.中世(そして現代)におけるロマンス文学の世俗的な人気を考えると,皮肉なことである.こうして,英語の romaunce は「フランス語で書かれた物語」,「ある人物に焦点を当てた物語」,「内容的にある特徴をもった物語」へと語義を発展させていった.ここでも,意味の特殊化 ( specialisation ) が生じている.

・ Strohm, Paul. "The Origin and Meaning of Middle English Romaunce." Genre 10.1 (1977): 1--28.

Referrer (Inside): [2011-06-16-1]

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2010-11-06 Sat

#558. Romance [literature][romance][etymology]

 日本語で「ロマンス」といって一般的に想起されるのは恋愛物語だろう.文学のジャンルとしてのロマンスは,中世以来様々な発展を遂げながら現代にまで強い影響力を及ぼしている.一方で,比較言語学の分野で「ロマンス」といえば,インドヨーロッパ語族のイタリック語派の主要な諸言語を含むロマンス語派のことを指す.具体的には,ラテン語とそこから派生したフランス語,スペイン語,ポルトガル語,イタリア語,プロバンス語,レト=ロマンシュ語,ルーマニア語,カタルニア語などの総称である.では,「ロマンス」のこの2つの語義は関連しているのだろうか.
 答えは Yes .深く関連している.英語 romance は古フランス語 romanz からの借用語で,後者は俗ラテン語 *Rōmānicē 「ロマンス語で」,さらにラテン語 Rōmānicus 「ローマの」に遡るとされる.古フランス語では,この語はラテン語に対してラテン語から発達した土着語であるフランス語を指す表現として用いられた.この土着のフランス語 ( = Romance ) で書かれた土着の文学は騎士道,恋愛,冒険,空想,超自然を主題とした緩やかなまとまりを示しており,新しい文学ジャンルを発達させることになった.こうして「ロマンス」は,ラテン語から派生した土着語を指すとともに,同時にそれで書かれた中世の独特な文学を指すことになった.
 文学ジャンルとしてのロマンスは12世紀半ばにフランスで生まれたが,英語に入ってきたのは1世紀以上も遅れてのことである.この遅れは,ノルマン征服によってイングランドにおける英語の社会的地位が下落し,書き言葉としての英語が再び復活するまでにしばらく時間がかかったことによる.イングランドでは英語より先にラテン語,フランス語,アングロ・ノルマン語によるロマンス作品が生まれており,後にこれら先発の作品を翻訳するという形で英語のロマンスが登場してきた.こうして13世紀後半から15世紀にかけて英語のロマンス作品が広く著わされることとなったが,ロマンスの流行は近代に入って衰退する.しかし,ロマンスはジャンルとして廃れることはなく脈々と現在にまで受け継がれている.18世紀にはゴシック・ロマンスという形で復活を果たしたし,20世紀以降の J. R. R. Tolkien, C. S. Lewis, J. K. Rowling などの作品に代表されるファンタジーの要素はロマンスの型を現在に伝えている.
 ロマンスの定義は難しい.慣用的な表現形式や騎士道,冒険,空想といった主題の点で共通要素をもった作品の集合体とみることはできるが,その具体的な現われは国・地域や時代とともに実に多岐にわたる.この多様性,柔軟性,個別性こそがロマンス人気の息の長さを説明しているように思われる.Chism (57) が,ロマンスの特性についての Cooper の言及を紹介している.

Helen Cooper suggests that romance is best conceived as a family, branching and evolving in different directions, rather than as manifestations or "clones of a single Platonic idea," and this family metaphor is useful because it stresses the genre's existence in time.


 ロマンスは,ジャンルとして常に進化し枝葉を展開してきたからこそ,時代を超えて読者を惹きつけるのだろう.

 ・ Chism, Christine. "Romance." Chapter 4 of The Cambridge Companion to Medieval English Literature 1100-1500. Ed. Larry Scanlon. Cambridge: CUP, 2009. 57--69.

Referrer (Inside): [2011-04-27-1] [2011-02-15-1]

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