3週間後の10月31日(土)の13:00〜16:00に,英語史研究会が主催するオンライン特別企画「英語史コンテンツ展覧会」が開催されます.詳細な案内はこちらのPDFをご覧ください.
同研究会の会員か否かは問わず,英語史に関心のあるすべての大学(学部)生・院生に開かれた英語史ファンイベントです.お互いに「英語史の小ネタ」を披露し,ツイート風にコメントしあい,楽しく英語史を学ぼうという企画です.コロナ下でオンライン授業の続いている大学も多いかと思いますが,英語史への関心を共有する全国からの大学生どうしが横につながることのできる貴重な機会となるのではないでしょうか.
原則として審査はなく,参加費もかからず,本番ではコンテンツも匿名で出されるので,学生の皆さんは安心して「出展」できます.本ブログもいわば「英語史の小ネタ」集ですので,このブログを講読している大学(院)生の方は,ぜひ出展を検討してみてはいかがでしょうか.
出展希望者は,1週間後の10月17日(土)までにこちらのフォームより事前登録をどうぞ.事前登録では,名前,メールアドレス,所属大学(院),コンテンツの仮題等の記入が求められます.その後,10月24日(土)までにコンテンツの完成品をオンラインで提出し,10月31日(土)午後の「展覧会」で互いに鑑賞し合うという流れです.ふるってご出展ください.
一昨日の9月20日(日),2020年度駒場英語史研究会にて,特別企画「電子コーパスやオンライン・リソースを使った英語史研究 ― その実践と可能性」に発表者として参加しました.Zoom でのオンライン大会でしたが,円滑に会が進行しました.(企画のご提案から会の主催までお世話になりました寺澤盾先生(東京大学),発表者の家入葉子先生(京都大学)と菊地翔太先生(明海大学),および参加者すべての方々には,貴重な機会とインスピレーションをいただきました.お礼申し上げます.)
トップバッターの私自身の発表では「LAEME & LALME を用いた英語史研究入門」と題して,中英語を代表する2つの姉妹コーパス LAEME と eLALME を紹介しました.続いて,家入先生の「データベースの利用によるコーパス言語学 --- Early English Books Onlineを中心に」と題する発表では,初期近代英語期を代表するコーパス EEBO Online corpus が紹介されました.最後に,菊地先生による「Corpus of Global Web-Based English(GloWbE)を用いた World Englishes 研究の可能性」という発表により,21世紀の World Englishes 時代を象徴する GloWbE が導入されました(←私にとって未知だったので驚きの連続でした).
各々の発表はコーパスの紹介とデモにとどまらず,その可能性や「利用上の注意」にまで触れた内容であり,発表後のディスカッションタイムでは,英語史研究においてコーパス利用はどのような意義をもつのかという方法論上の肝心な議論にまで踏み込めたように思います(時間が許せば,もっと議論したいところでした!).
中英語,近代英語,21世紀英語という3つの異なる時代の英語を対象としたコーパスを並べてみたわけですが,研究会が終わってからいろいろと考えが浮かんできました.同じ英語のコーパスとはいえ,対象とする時代が異なるだけで,なぜ検索の仕方も検索の結果もインターフェースもここまで異なるのだろうかということです.その答えは「各々の時代における英語の(社会)言語学的事情が大きく異なっているから,それと連動して(現代の研究者が編纂する)コーパスのあり方も大きく異ならざるを得ない」ということではないかと思い至りました.
逆からみれば,各時代のコーパスがどのように編纂され,どのように使用されているかを観察することにより,その時代の英語の(社会)言語学的事情が浮き彫りになってくるのではないか,ということです.そうして時代ごとの特徴がきれいに浮き彫りになってくるようであれば,それを並べてみれば,ある種の英語史記述となるにちがいない.換言すれば,各時代のコーパス検索に伴うクセや限界みたいなものを指摘していけば,その時代の背後にある言語事情が透けて見えてくるのではないかと.ここから「コーパスのあり方からみる英語史」のような試みが可能となってきそうです.
時代順にみていきます.中英語期は標準形が不在なので,ある単語を検索しようとしても,そもそもどの綴字で検索すればよいのかという出発点からして問題となります (cf. 「#1450. 中英語の綴字の多様性はやはり不便である」 ([2013-04-16-1])).実際,中英語辞書 MED である単語を引くにしても,そこそこ苦労することがあります.LAEME や LALME でも検索インターフェースには様々な工夫はなされていますが,やはり事前の知識や見当づけが必要ですので,検索が簡単であるとは口が裂けても言えません.現実に標準形がないわけですから,致し方がありません.
次に初期近代英語期ですが,EEBO は検索インターフェースが格段にとっつきやすく,一見すると検索そのものに問題があるようには見えません.しかし,英語史的にはあくまで標準化を模索している時代にとどまり,標準化が達成された現代とは事情が異なります.つまり,標準形とおぼしきものを検索欄に入れてクリックしたとしても,実は拾い漏れが多く生じてしまうのです.公式には実装されているとされる lemma 検索も,実際には思うほど精度は高くありません.落とし穴がいっぱいです.
最後に,21世紀英語の諸変種を対象とする GloWbE については,(ポスト)現代英語が相手ですから,当然ながら標準形を入力して検索できます.しかし,BNC や COCA のような「普通の」コーパスと異なるのは,返される検索結果が諸変種に由来する多様な例だということです.
大雑把にまとめると次のようになります.
代表コーパス | 検索法などに反映される「コーパスのあり方」 | (社会)言語学的事情 | |
---|---|---|---|
中英語 | LAEME, LALME | 検索法が難しい | 標準形がない |
初期近代英語 | EEBO | 検索法が一見すると易しい | 標準形が中途半端にしかない |
21世紀英語 | GloWbE | 検索法が易しい | 標準形はあるが,その機能は変種によって多様 |
先週のことになりますが,例年の2泊3日の対面ゼミ合宿に代えて,本年度は Zoom を用いた初のオンライン・ゼミ合宿を9月8日(火),9日(水)の両日にわたって敢行しました.参加者一同の協力のもと,対面合宿に勝るとも劣らない濃密な英語史漬けの2日間を過ごすことができました.総勢30名近くの参加でしたが,トラブルもなくスムーズに進行しました.
初日の午前は,夏休み中に準備を進めた学部生グループによる「OEDセミナー」の実施に始まり,それを受けて院生による「OEDに関するラウンド・テーブル・ディスカッション」も開催しました.改めてOEDについて深く考える機会となりました.
初日の午後は,参加者一人ひとりがお題としてランダムな英単語を与えられ,90分間でそのお題についてOEDを用いて「何か」を書かなければならないという,デスマッチ的なイベントを行ないました(←私も参加して,果てしなく消耗).そして,晩にかけては例年と変わらぬ懇親会でした(要するに今回はオンライン飲み会).
2日目の午前は,個人研究発表会(いわゆる口頭発表ではなく,昨今のオンライン学会やウェブ・カンファレンスでしばしば見かける,発表資料に音声を付したものを視聴するという形態でしたが).それから,卒業論文執筆予定者を一人ひとり Zoom の小部屋に招き,先輩の院生たちよりアドバイスを受けるという趣旨の,有意義な面談も行ないました.
2日目の午後は,外部より知り合いの研究者を4名お招きし,インフォーマルに英語史について対談を行なうという時間帯を設けました.徐々に対談が乗ってきて,予定の時間をずいぶん延長してしまいました.
企画を詰め込みすぎたかと思うほど盛りだくさんの2日間でしたが,オンラインでも十分に合宿らしいことができるということが分かりました.参加者は皆,知恵熱が出るほど学んだことと思います.私自身も,今回の新スタイルでのゼミ合宿を通じて,参加者の皆さんから広く英語史(とりわけOED)に関して様々なインスピレーションを得たので,その成果は今後の hellog 記事にも徐々に反映していきたいと思います.その意味で,ゼミの学部生・院生を含め参加したすべての方に感謝します.
対面ゼミ合宿はやはり捨てがたいですが,このスタイルでもまたやってみたいと思ったほどです.ということで,お疲れ様でした.
来たる3月28日(木)の13:30より,学習院大学において歴史社会言語学・歴史語用論の研究会,HiSoPra* (= HIstorical SOciolinguistics and PRAgmatics) の第3回大会が開催されます.プログラム等の詳細はこちらの案内 (PDF) をご覧ください.今回の目玉は「諸言語の標準化における普遍性と個別性 ―〈対照言語史〉の提唱」と題する特別企画です.私も司会として薄く参加させていただきますが,3名の素晴らしすぎる登壇者による鼎談です(はっきりいって鼻血が出そうな面々です).
鼎談のほかにも,もちろん研究発表や懇親会もあり,充実の時間となるはずです.英語史関係としては片見彰夫先生(青山学院大学)によるご発表があります.
対照言語史,歴史言語学,社会言語学,英語史,日本語史,類型論,対照言語学,言語の標準化などの分野のいずれか(あるいはすべて)に関心のある方々にとっては,貴重な機会になることと思います.参加は登録制となっていますが,上記の案内に記載の方法で3月25日までにメールにてお名前等をお知らせするという簡単な手続きとなっていますので,ぜひお気軽に(しかし刮目して)ご参加ください(参加費500円は必要です).
過去の第1回,第2回 HiSoPra* 研究会については,「#2883. HiSoPra* に参加して (1)」 ([2017-03-19-1]) と「#2884. HiSoPra* に参加して (2)」 ([2017-03-20-1]) など hisopra の各記事もご参照ください.以下,今回の研究会のプログラム(簡易版)を転記します.詳しくは上記の案内をどうぞ.
第3回 「HiSoPra*研究会(歴史社会言語学・歴史語用論研究会)」のご案内[ ツイート | 固定リンク | 印刷用ページ ]
日時:2019年3月28日(木)、13:30〜17:50(開場は12:45〜)
場所:学習院大学 北2号館(文学部研究棟)10階、大会議室(http://www.gakushuin.ac.jp/mejiro.html の15番の建物)
参加費:500円(資料代等)
総合司会:小野寺典子(青山学院大学)、森 勇太(関西大学)
13:30-13:40 (総合司会者による) 導入
13:40-14:25 《研究発表》
朱 冰(関西学院大学 常勤講師):「中国語における禁止表現から接続詞への変化」
司会:堀江 薫(名古屋大学)
14:35-15:20 《研究発表》
片見彰夫(青山学院大学 准教授):「イギリス宗教散文における指示的発話行為の変遷」
司会: 堀田隆一(慶應義塾大学)
15:50-17:50 特別企画 《鼎談》
「諸言語の標準化における普遍性と個別性 ―〈対照言語史〉の提唱」
田中克彦(一橋大学 名誉教授)
寺澤 盾(東京大学 教授)
田中牧郎(明治大学 教授)
司会:高田博行(学習院大学)、堀田隆一(慶應義塾大学)
本鼎談では、モンゴル語、ロシア語、英語、日本語という個別の言語の歴史を専門とされる3人の言語学者の先生方に登壇願い、社会の近代化に伴い各言語が辿ってきた標準化の歴史に関してお話しいただきます。個別言語の歴史を対照することによって、標準化のタイミングと型、綴字の固定化や話しことばと書きことばとの関係等に関して言語間の相違のほかに、言語の違いを超えた共通性が浮かび上がってくると思われます。言語史研究者が新たな知見を得て、従来とはひと味もふた味も違った切り口で各個別言語史を捉え直す契機のひとつになれば幸いです。
18:30-20:30 懇親会:会費4000円(学生は2500円),会場はJR目白駅すぐ
とある経緯により,今週末の1月19日(土)の15時より慶應義塾大学三田キャンパス(南校舎446番教室)にて,日本語用論学会関東地区の講演会にてお話しすることになっています.タイトルは「英語の may 祈願文の起源と発達」です.事前申込不要,参加費無料ですので,ご関心の向きはお運びください.
May the Force be with you! (フォースが共にあらんことを!)に代表される may を用いた祈願文の歴史については,ここ数年間,関心を持ち続けてきました.拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)の4.5節でも取り上げましたし,本ブログでも「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]),「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]),「#2484. 「may 祈願文ができるまで」」 ([2016-02-14-1]) など optative の各記事で話題にしてきた通りです.
なぜよりによって may という助動詞が用いられているのか,なぜ VS 語順になる必要があるのかなど,共時的に謎が多い問題なのですが,通時的にみるとある程度は理由が分かってきます.しかし,通時的にみても依然として不明な部分が多々残っており,研究の余地があります.本格的に調べてみようと思い立ったのは比較的最近ですので,今度の講演会ではこれまでに分かっていることをまとめたり,目下考えているところをお話しするということになりますが,この不可思議で魅力的な構文について,語用論的な視点も含めつつ議論してみたいと思っています.
自身の拙い発表の宣伝はしにくいのですが,慶應大学文学部の同僚であり,日本語用論学会関東地区を仕切られている井上逸兵先生からのプッシュもあり紹介してみました.ちなみに井上先生は,昨年12月1--2日に開催の日本語用論学会第21回全国大会の2日目に行なわれた第1回 語用論グランプリにて,なんと総合優勝されました.強者です.こちらの右下の勝利の写真を参照.
「#3222. 第2回 HiSoPra* 研究会で英語史における標準化について話します」 ([2018-02-21-1]) で案内しましたが,一昨日開かれた同研究会のなかで英語の標準化 (standardisation) の歴史について少しお話しました.「スタンダードの形成 ―個別言語の歴史を対照して見えてくるもの☆」と題するシンポジウムの一環として,英語史の立場から話題を提供しました.このような場を設けてくださった学習院の高田博行先生をはじめ,研究会の開催に携わった各位に感謝いたします.
シンポジウムの資料として,以下のようなマインドマップを作りました.詳しくは配付したこちらの資料 (PDF: 582KB) をどうぞ.
シンポジウムでは日英独の3言語における標準化の過程を比較対照しました.議論を通じて,「標準化」という同じラベルを掲げたとしても必ずしも同じ土俵で議論できるわけでもないことを痛感しましたが,互いにズレているなという感覚と,何がどうズレているのだろうかと疑問を抱けたこと自体が成果だったように思います.各言語の専門家が集まって言語横断的な議論をすることで,普段とは異なる新鮮な刺激を得ることができました.頭を柔らかくしなければ.
英語の標準化に関する話題は,本ブログでも standardisation の諸記事で書いてきましたので,そちらもご覧ください.
[2018-02-12-1]の記事で通知したように,昨日3月4日に桜美林大学四谷キャンパスにて「言語と人間」研究会 (HLC)の春期セミナーの一環として,「『良い英語』としての標準英語の発達―語彙,綴字,文法を通時的・複線的に追う―」と題するお話しをさせていただきました.足を運んでくださった方々,主催者の方々に,御礼申し上げます.私にとっても英語の標準化について考え直すよい機会となりました.
スライド資料を用いて話し,その資料は上記の研究会ホームページ上に置かせてもらいましたが,資料へのリンクをこちらからも張っておきます.スライド内からは本ブログ内外へ多数のリンクを張り巡らせていますので,リンク集としてもどうぞ.
1. 「言語と人間」研究会 (HLC) 第43回春季セミナー 「ことばにとって『良さ』とは何か」「良い英語」としての標準英語の発達--- 語彙,綴字,文法を通時的・複線的に追う---
2. 序論:標準英語を相対化する視点
3. 標準英語 (Standard English) とは?
4. 標準英語=「良い英語」
5. 標準英語を相対化する視点の出現
6. 言語学の様々な分野と方法論の発達
7. 20世紀後半〜21世紀初頭の言語学の関心の推移
8. 標準英語の形成の歴史
9. 標準語に軸足をおいた Blake の英語史時代区分
10. 英語の標準化サイクル
11. 部門別の標準形成の概要
12. Milroy and Milroy による標準化の7段階
13. Haugen による標準化の4段階
14. ケース・スタディ (1) 語彙 -- autumn vs fall
15. 両語の歴史
16. ケース・スタディ (2) 綴字 -- 語源的綴字 (etymological spelling)
17. debt の場合
18. 語源的綴字の例
19. フランス語でも語源的スペリングが・・・
20. その後の発音の「追随」:fault の場合
21. 語源的綴字が出現した歴史的背景
22. EEBO Corpus で目下調査中
23. ケース・スタディ (3) 文法 -- 3単現の -s
24. 古英語の動詞の屈折:lufian (to love) の場合
25. 中英語の屈折
26. 中英語から初期近代英語にかけての諸問題
27. 諸問題の意義
28. 標準化と3単現の -s
29. 3つのケーススタディを振り返って
30. 結論
31. 主要参考文献
昨年の3月14日に立ち上げられ,学習院大学で開催された歴史社会言語学・歴史語用論の研究会 HiSoPra* (= HIstorical SOciolinguistics and PRAgmatics) の第2回が,来る3月13日に同じく学習院大学にて開かれる予定です.プログラム等の詳細はこちらの案内 (PDF)をご覧ください.
昨年の第1回研究会については,私も討論に参加させていただいた経緯から,本ブログ上で「#2883. HiSoPra* に参加して (1)」 ([2017-03-19-1]),「#2884. HiSoPra* に参加して (2)」 ([2017-03-20-1]) にて会の様子を報告しました.今度の第2回でも,「スタンダードの形成 ―個別言語の歴史を対照して見えてくるもの☆」と題するシンポジウムで,英語の標準化の過程に関して少しお話しさせていただくことになりました.諸言語のスタンダード形成の歴史を比較対照して,フロアの方々と議論しながら知見を深め合うという趣旨です.議論に先立って,日本語について東京大学名誉教授の野村剛史先生に講演していただき,その後を受ける形で堀田が英語について,そして学習院大学の高田博行先生がドイツ語について,話題を提供するという構成になっています.3言語(プラスα)における標準化の過程を,いわば歴史対照言語学的にみるという試みですが,企画の話し合いの段階から,実に興味深い言語間の異同ポイントが複数あると判明し,本番が楽しみです.その他,研究発表や研究報告も予定されています.
英語の標準化に関する話題は,本ブログでも standardisation の諸記事で書きためてきました.今回の企画を契機に,改めて考えて行く予定です.
来る3月3日(土)と4日(日)に桜美林大学四谷キャンパスにて開催される「言語と人間」研究会 (HLC)の春期セミナーにおいて,「『良い英語』としての標準英語の発達―語彙,綴字,文法を通時的・複線的に追う―」と題するお話しをさせていただくことになりました.プログラム (PDF) はこちらです.
標準英語の発達を一般的に概説するというよりは,後期中英語から近代英語にかけての語彙,綴字,文法に関する個別で具体的な事例を取り上げ,現代標準英語で定着している形式が,いかなる歴史的過程を経て「良い」ものとして選ばれ,採用されてきたかを覗き見するという趣旨です.今回のセミナーのメイン・テーマが「ことばにとって『良さ』 とは何か」ということで,かっこ付きの「良さ」を具現するといえる標準(英)語のメイキングに光を当てようと考えた次第です.また,通時的な研究への導入という点も意識して,話しを構成するつもりです.
要旨として作成した文章を,以下に掲載しておきます.まだ少々時間があるので,関連する調査を進めていく予定です・・・.
私たちが英語について語るとき,暗黙の前提として「標準英語」を念頭においているのが普通だろう.標準英語は「良い英語」でもあるから,対象として最もふさわしい変種であるにちがいないはずだと.しかし,標準英語とは何かと具体的に考えていくと,明快な答えを出すことは難しい.標準英語は非標準英語との対比により規定されるといってよく,その非標準英語は過去から現在に至るまで常に変化と変異を繰り返しつつ様々な形で存在してきたのである.また,標準英語自身も,そのような複数の変種のなかから現われてきた歴史上の産物だった.標準英語=「良い英語」という暗黙の前提の根拠を探るには,通時的で複線的な視点をとる必要がある.
本講義の序論では,標準英語を相対化する視点の概略を,20世紀以降の言語学史に照らして示す.20世紀半ばまでの言語学は共時的理論が主であり,考察の対象となる言語変種はほぼ常に標準変種だった.しかし,20世紀後半から21世紀にかけて,社会言語学や語用論といった諸変種の存在を前提とする言語学が徐々に盛んとなり,多種多様な言語資料を扱うことのできる電子コーパスとその技術の普及も追い風となって,variationism と呼ばれる複線的な言語観が立ち現れてきた.英語学・英語史においても標準英語が相対化される契機が生じたのである.近年,英語史の分野では現代に近い(後期)近代英語期の研究が著しく活気を帯びてきているが,それはこのような過去数十年間の言語学の様々な潮流が合流した結果とみることができる.
近年,標準英語を相対化できるようになってきたということは,裏を返せば,それまで標準英語が絶対視される風潮があったということである.では,そのような絶大な威信をもつ標準英語は,いつ,どこで,どのように,なぜ出現したのだろうか.標準英語の起源・形成・発達の歴史はひどく曲がりくねっており,記述も一筋縄ではいかないが,後期古英語のウェストサクソン方言に基づく緩い書き言葉標準の形成から,初期中英語における標準英語の完全なる崩壊と後期中英語における新たな標準英語の形成への胎動を経由して,近代英語期に数々の問題を抱えながらも,私たちの知る標準英語が発達してきた歴史を概観する.
続いて,語彙,綴字,文法の各部門から英語の標準化に関わる具体的な事例を,主として近代英語期より取り上げ,標準英語の歴史がいかに込み入っており,複線的な視点で読み解く必要があるかを示す.語彙については,イギリス英語とアメリカ英語においてそれぞれ「秋」を表わす標準的な語となった autumn と fall の「物別れ」の経緯を追う.綴字の問題としては,doubt の <b> のような「黙字」の挿入を取り上げ,当時の歴史社会言語学上の舞台裏について考察する.文法の話題としては,標準英語における3単現の -s の定着に関わる諸問題を検討し,非標準変種における発達と比較しながら,この文法問題に新たな視点を提供したい.
最後に,以上の議論を踏まえ,現代の標準英語が言語学的な産物である以上に歴史社会言語学的な産物であること,そして後者の意味においてのみ「良い英語」であることを確認する.全体として,標準英語やそれを構成する個々の言語項を眺める際に,通時的・複線的な視点をとることで新たな発見が得られる可能性を示したい.
昨日の記事[2017-03-19-1]に続いて,3月14日に参加した HiSoPra* の話題.大討論会「社会と場面のコンテクストから言語の歴史を見ると何が見えるか?―歴史社会言語学・歴史語用論の現在そして未来」で,10分程度の発言の機会をいただいた.僭越ながら私が掲げた「テーゼ」は,「21世紀の歴史社会言語学は,古くからある問題に新たな衝撃を与え,言語変化を含む歴史言語学の諸問題に活気をもたらすものである」というもの.特に資料もなしでの口頭発表だったので,以下に備忘録的に内容の概要を残しておきたい.
テーゼをさらに短く要約すると,「古い問題に対する新しいアプローチ」である.これはいろいろなところで聞くフレーズかもしれないが,歴史社会言語学・歴史語用論について,私が考えていることを端的に表現すると,これに行き着く.特に英語史の分野では,HiSoPra 的な研究は連綿と続いてきており,知見も蓄積されてきている.日本語史の立場から,もう1人の討論者である青木氏が「とっくにやってる」と述べた通り,英語史でも「とっくにやってる」のである.ただ,「歴史社会言語学」や「歴史語用論」というラベルが貼られていなかっただけである.しかし,ここで問題は,「たかがラベル」なのか「されどラベル」なのか,である.実際のところは「たかが」かつ「されど」の解釈が正解だと思っているが,討論会の題に「未来」が入っていることもあり,新しい分野としてのラベル貼りは重要だという方向で議論を運んだ.「とっくにやってる」こと,すなわち既存の研究に名前と場所を与えることによって,新たな見方や対し方が生まれ,今まで見えなかった周辺の問題との関連が見えるようになり,思いも寄らない化学反応が生じてくる可能性がある.
18世紀末からの近代言語学の歴史は,「歴史的視点 vs 非歴史視点」「中心領域 vs 周辺領域」の2つの対立軸でみると,きれいに整理できる.以下のマトリックスで表わされるように,19世紀から20世紀後半にかけて,言語学の主たる関心は I → II → III の順序で変化してきて,21世紀に残されたのは第IVステージしかない.このステージは,空白ではあるが,未知のものではない.既存の2つの項「歴史的視点」「周辺領域」を掛け合わせることによって,必然的に埋まるはずの空白である.しかし,意識的な2項の掛け合わせは,歴史上初のものであり,その意味において「新しい」とは言える(以下,伏せ字部分をクリック).
中心領域(音声,音韻,形態,統語,意味) | 周辺領域(社会,語用) | |
---|---|---|
非歴史的視点 | II. 共時的言語理論(構造主義,生成文法)(20世紀) | III. 社会言語学,語用論など(20世紀後半) |
歴史視点 | I. 比較言語学,文献学(19世紀) | IV. 歴史社会言語学,歴史語用論など (21世紀) |
3月14日に学習院大学にて,歴史社会言語学・歴史語用論の研究会 HiSoPra* (= HIstorical SOciolinguistics and PRAgmatics) の第1回研究会が開催された.2つの比較的新しい,緩く関連づけられた分野における国内初のフォーラムである.40名ほどの参加者があり,2つの個人発表と,「社会と場面のコンテクストから言語の歴史を見ると何が見えるか?―歴史社会言語学・歴史語用論の現在そして未来」と題する2時間にわたる「大討論会」がプログラムに組まれていた.
私は,討論会の5名の指定討論者の1人ということで参加する機会をいただいた(学習院の高田博行先生をはじめ,開催と準備に関わる各位に感謝いたします).各指定討論者が,この分野の現在と未来にむけて「提題」を提示し,それをネタにフロア全体で議論し,意見交換して盛り上がる,という趣旨の会である.司会の先生方も裁き方が難しかったのではないかと思うけれども,事前打ち合わせも特になかったために本音トークや自由意見が活発に飛び交い,刺激的な会となった.
いくつかの議論がなされたが,(1) 中黒やスラッシュで結ばれた「歴史社会言語学」と「歴史語用論」がいかなる関係にあり,各々がいかに定義づけられるのか,(2) これらが(特に日本語史や英語史の分野において)本当に「新しい」分野なのか,(3) (少なくとも名前としては)新しいこれらの学問分野は,どのような新たな知見をもたらしてくれると見込まれるのか,といったところが主たる話題だった.
討論を通じて,上記のような疑問への「答え」が必ずしも明らかになったわけではないが,この分野に緩く関係している研究者諸氏の間に様々な見解があり,そうした見解が諸々の言葉に対する姿勢や学問的伝統を反映しているのだということを知ることができた.この点だけでも,大きな収穫だったのではないか.
少なくとも,「○○さんの研究って,基本的に HiSoPra ぽいよね」などと一言で表現できるようになるのはとても便利だと思っている.
先日,東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催の第3回ワークショップ「内省判断では得られない言語変化・変異の事実と言語理論」に参加してきた(主催の先生方,大変お世話になりました!).形態論がご専門の東北大学の長野明子先生の発表「英語の接頭辞 a- の生産性の変化について」では,接辞の生産性 (productivity) の諸問題や測定法について非常に分かりやすく説明していただいた.今回の記事では,長野先生の許可を得て,そのときのハンドアウトから「生産性に関する仮説」を要約したい.
接辞の生産性には availability と profitability が区別される.前者は,その接辞を用いた語形成規則が存在することを指し,それにより形成される潜在的な語がある状態をいう.それに対して後者は,その語形成規則が実際に使用され,単語として具現化している状態をいう.つまり,接辞の生産性を考える際には,新語を作る潜在能力と実際に新語を作った顕在能力を区別しておく必要がある.
接辞の生産性の測定ということになると,潜在能力たる availability の測定は難しい.実際の単語として具現化されていないのだから,客観的に測りようがないのである.したがって,せめて顕在能力である profitability を測り,そこから availability を推し量ってみよう,ということになる.profitability の主要な測定法として3つほどが提案されている.いずれも,コーパスや辞書を用いることが前提となっている.
(1) その接辞をもつ派生語のタイプ数.端的には辞書に登録されていたり,コーパスで文証される単語の語彙素 (lexeme) レベルで数えた個数.
(2) 特定期間での,その接辞をもつ新語の数.
(3) その接辞の派生語が hapax_legomenon である確率.ある程度の規模のコーパスにある派生語が1度しか現われないということと,その語形成の生産性の高さとは相関関係にあるとされている(see 「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1])).
(1), (2), (3) の測定法には一長一短あり,どれが最も優れているかを決めることはたやすくない.また,これらで測定できる profitability と最終的に求めたい availability との間にいかなる関係があるのかもよく分かっていない.例えば,(1) の値が高くとも availability は高くないとみなせる例がある.例えば,接尾辞 -th, -ment をもつ単語のタイプ数は多いが,現在,生産性のある接辞とはみなすことができないだろう (cf. 「#1787. coolth」 ([2014-03-19-1])) .逆に,(2) の値が低かったとしても,それをもってすぐに availability も低いだろうと予測するのは早計と考えられるケースもある(名詞+動詞の複合など).また,(3) で高い値を示すとしても,母語話者の直観的な生産性とは矛盾するケースがあるようだ.
母語話者の直観として,生産性なるものがあるらしいことは確かだろう.しかし,それを客観的に測定するにはどうすればよいのか,理論的にも実践的にも問題は残されている.
生産性の問題については,本ブログでも以下の記事その他で扱ってきたので要参照.「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1]),「#936. 語形成の生産性 (2)」 ([2011-11-19-1]),「#937. 語形成の生産性 (3)」 ([2011-11-20-1]),「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#940. 語形成の生産性と創造性」 ([2011-11-23-1]),「#2363. hapax legomenon」 ([2015-10-16-1]) .
2016年8月22--26日にドイツの University of Duisburg-Essen で開催された ICEHL19 (19th International Conference on English Historical Linguistics) に参加した.
私は,ここ2年間ほど研究している etymological_respelling について "Etymological Spelling Before and After the Sixteenth-Century" という題で発表してきたが,この英語史分野における最大の国際学会に参加することにより,学界の潮流がよく把握できることを改めて認識した.ICEHL19の学会参加と学界の潮流について,東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻の駒場英語史研究会で報告する機会があったので,報告内容の概略を本ブログにも載せておきたい(前回のICEHL18の報告については,「#2004. ICEHL18 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2014-10-22-1]) を参照).以下にICEHL19の研究発表等に関するPDFを挙げておく.
・ プログラム
・ 研究発表一覧
・ ワークショップ一覧
・ 発表要旨の小冊子
(1) 学会の沿革
・ ICEHL-1 (1979)
・ ICEHL-2 (1981, Odense)
・ ICEHL-3 (1983, Sheffield)
・ ICEHL-4 (1985, Amsterdam)
・ ICEHL-5 (1987, Cambridge)
・ ICEHL-6 (1990, Helsinki)
・ ICEHL-7 (1992, Valencia)
・ ICEHL-8 (1994, Edinburgh)
・ ICEHL-9 (1996, Poznan)
・ ICEHL-10 (1998, Manchester)
・ ICEHL-11 (2000, Santiago De Compostela)
・ ICEHL-12 (2002, Glasgow)
・ ICEHL-13 (2004, Vienna)
・ ICEHL-14 (2006, Bergamo)
・ ICEHL-15 (2008, Munich)
・ ICEHL-16 (2010, Pécs)
・ ICEHL-17 (2012, Zurich)
・ ICEHL-18 (2014, Leuven)
・ ICEHL-19 (2016, Essen)
・ ICEHL-20 to come (2018, Edinburgh)
・ ICEHL-21 to come (2020, Leiden)
(2) 基調講演
・ Gabriella Mazzon (University of Innsbruck) --- Shift in politeness values of English Discourse markers: a cyclical tendency?
・ Simon Horobin (University of Oxford) --- 'No gentleman goes on a bus': H. C. Wyld and the historical study of English
・ Erik Smitterberg (University of Uppsala) --- Late Modern English: Demographics, Prescriptivism, and Myths of Stability
・ Ingrid Tieken-Boon van Ostade (University of Leiden) --- Usage guides and the Age of Prescriptivism
・ Daniel Schreier (University of Zurich) --- Reconstructing variation and change in English: the importance of dialect isolates
(3) 研究発表の部屋
・ Phonology
・ Stress
・ Metrical matters
・ Inflectional Morphology
・ Morphosyntax
・ Word-formation
・ Lexicon
・ Syntax
・ Modals/modality
・ Semantics
・ Pragmatics
・ Discourse
・ Orthography
・ Style
・ Texts
・ Variation
・ Dialects
・ Relationships
・ Multilingual Texts
・ Glosses/Glossaries
・ Visual Text
・ Grammar and Usage books
・ Usage and errors
・ Identity
・ Types of Change
(4) ワークショップ
・ The Dynamics of Speech Representation in the History of English (Peter J. Grund and Terry Walker)
・ Intersubjectivity and the Emergence of Grammatical Patterns in the History of English (Silvie Hancil and Alexander Haselow)
・ Diachronic Approaches to the Typology of Language Contact (Olga Timofeeva and Richard Ingham)
・ Early American Englishes (Merja Kytó and Lucia Sievers)
(5) 学界の潮流など気づいた点
・ 前回の ICEHL-18 に見られた「historical sociopragmatics の研究を corpus で行う」という際だった潮流がさらに推し進められている(基調講演とワークショップのメニューを参照).
・ 文法化や認知言語学のアプローチも盤石.
・ 「周辺的な」変種への関心が一層強化している.
・ 「初期の学会では,"Standard English", "phonology", "morphology", "syntax" などがキーワードであり,"corpus", "xxx English", "pragmatics" などは出ていなかった」 (R. Hickey)
・ 伝統的でコアな分野である phonology, morphology, syntax なども健在(研究者の出身地や出身大学などとの関連あり?).
・ 一方,生成文法は目立たなくなっている.
・ 前回に引き続きワークショップが4つ用意されており,充実していた.
・ 時代としては,古英語と後期近代英語の話題は多かったが,その間の中英語と初期近代英語は比較的少なかった.
・ 言語接触の話題と関連して語源(語彙・意味)の発表が非常に多かった.例えば,
- "Food for thought: Bread vs Loaf in Old and Early Middle English texts" (Sara M. Pons-Sanz)
- "Buried Treasure: In Search of the Old Norse Influence on Middle English Lexis" (Richard Dance and Brittany Schorn)
- "The Penetration of French Lexis in Middle English Occupational Domains" (Louise Sylvester, Richard Ingham and Imogen Marcus)
・ 研究チームがプロジェクトを進める場としての学会,という位置づけ.
- 国際的なメンバーを組んでのワークショップ(後に論文集を出版?).
- プロジェクトの企画,経過報告,宣伝など.
・ 古い問題や「定説」を新しく見直す傾向(例えば,上記の Bread vs Loaf など).
・ 日本人による発表が4人と残念ながら少なかった・・・
国際学会の参加については,「#2327. 国際学会に参加する長所と短所」 ([2015-09-10-1]),「#2326. SHEL-9 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2015-09-09-1]),「#2325. ICOME9 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2015-09-08-1]) なども参照.
以下の記事で,国際学会の参加報告を行ってきた.
・ 「#2004. ICEHL18 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2014-10-22-1])
・ 「#2325. ICOME9 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2015-09-08-1])
・ 「#2326. SHEL-9 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2015-09-09-1])
報告をまとめながら,大学院生や若手研究者の立場に立って,英語史分野に関する国際学会に参加する長所と短所をブレストしてみた.多分に個人的な意見も混じっているが,何かの参考になるかもしれないと思い,箇条書きで綴っておきたい.
[長所]
・ 関心を共有する世界中の人々が1つの部屋に集まるので,エネルギー密度が高い
・ 世界的研究者の過去・現在の関心が目の前で開陳される(著書を読むきっかけになったり,既読の著書の理解向上にも)
・ 発表,司会,懇親会への参加を通じて,学会(学界)の主要人物と知り合えたり,誰が何を研究しているか等を知ることができる
・ 日本国内で会う機会の少ない日本人研究者と海外で出会えることもある
・ Proceedings に投稿する権利を得られる(論文執筆のペースメーカーに)
・ 論文執筆を意識しつつ英語の口頭発表の準備をすることで二度手間を省ける
・ 新著購入の割引のチャンスを得られる
・ 応募にあたっての敷居は,日本国内の学会と比べて著しく高いわけではない
・ (少なくとも私がこれまで出席した国際学会ではどこでも)聴衆が,若手・新人に対して温かく教育的に接してくれる
・ 国際的に発表すると自信がつく
[短所]
・ 渡航費などの負担
・ 開催時期が,日本では学期中など,タイミングがよくないことも
・ 応募締切が早い
・ 英語で発表する必要がある
旅行好きであれば,ほかにも他愛もない長所が多数挙げられるはずである.経済的な問題をはじめ短所もあるが,多くの長所を買えると思えば,個人的には安いと思う.国際学会で(も),お会いしましょう.
昨日の記事「#2325. ICOME9 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2015-09-08-1]) に引き続き,今回は SHEL-9 の学会参加報告を.
2015年6月5日〜7日にカナダのバンクーバー (University of British Columbia) で開催された DSNA-20 & SHEL-9 Dual Conference への参加報告として,学会の発表や発表者の概要をつかむのに役立つと思われる情報を示す.学会詳細は SHEL-9 (Studies in the History of the English Language) よりアクセス可.
(1) 学会の沿革
ヨーロッパで開催される国際学会 ICEHL (International Conference on English Historical Linguistics) の北米版.SHEL と ICEHL は毎年交互に開催されることになっているが,SHEL は他の関連学会との抱き合わせとなることが多い.私は初めての参加.SHEL-9 と DSNA-20 で合わせて107の発表と120名の発表者(キャンセルも含め)が4部屋並行で行われた.英語史分野の全体の2/3くらいか.
・ 第1回 UCLA (2000)
・ 第2回 University of Washington, Seattle (2002)
・ 第3回 University of Michigan, Ann Arbor (2004); jointly with GLAC (= Germanic Linguistics Annual Conference)
・ 第4回 University of Northern Arizona (2006)
・ 第5回 University of Georgia, Athens (2007)
・ 第6回 Universities of Calgary and British Columbia at Banff, Alberta (2009); jointly with GLAC
・ 第7回 Indian University, Bloomington (2012); jointly with GLAC
・ 第8回 Brigham Young University in Provo, Utah (2013)
・ 第9回 University of British Columbia, Vancouver (2015); held jointly with DSNA (= Dictionary Society of North America Meeting)
(2) 基調講演
・ Nikolaus Ritt (Vienna University)
"Language Change as Cultural Evolution: From Theory to Practice"
・ Charlotte Brewer (Oxford University)
"Mapping the OED: The Changing Record of the English Language"
・ Colette Moore (University of Washington)
"Sociopragmatics in Middle English Manuscripts"
(3) 研究発表の部屋(下線は,今回の学会あるいは現在の潮流に照らして特徴的と思われた部屋)
・ OED
・ Bilingual Lex I & II
・ Medieval English
・ HEL Workshop
・ Lex in South Asia
・ Metre and Stress
・ Lex in Canada
・ Historical Special Registers
・ Language Contact I & II
・ Phonology Workshop
・ Earlier Modern English
・ Lex. Semantics & Usage
・ Contact and Onomastics
・ Syntax & Lexis
・ Middle English
・ Literary Sources Workshop
・ Language Rights
・ Long-Term Change
・ Online Lexis
・ Varieties & Diachrony
・ Word-Formation
・ Sketch Engine Workshop
・ Old English
・ Early Phonology
・ Special Lexicography
・ Grammatical Change
・ Digital Resources
・ Caribbean Lexicography
・ MOOC Workshop (Corpus linguistics: Method, Analysis, Interpretation)
・ Lex. Aspects
・ Usage
・ History of Lexicography
(4) 学会の潮流など気づいた点
・ 英語史分野に限っても,ICEHL と同様に幅広いジャンルが扱われている
・ コーパスや電子媒体の利用に関する方法論への関心が強かった
・ 北米ならではの関心
- 特定の地域変種 (Caribbean and Asian varieties)
- カナダ英語部屋
- 英語史教育のワークショップ
- 言語権
・ 他学会との共催で化学反応も?
・ 予想していたよりもヨーロッパからの参加者が多く,意外と国際色豊か
先日,東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻主催の駒場英語史研究会で,今年度の国際学会への参加報告をする機会があった.昨年度の「#2004. ICEHL18 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2014-10-22-1]) に引き続き,今年度は春に ICOME9 と SHEL-9 に参加してきたので,本ブログ上でもその報告をしたい.今日は ICOME-9 について.
2015年4月29〜5月3日にポーランドのブロツワフ (Philological School of Higher Education) で開催された The 9th International Conference on Middle English (ICOME9) へ参加してきた.以下に,学会の発表や発表者の概要をつかむのに役立つと思われる情報を示す.
(1) 学会の沿革
Jacek Fisiak 教授の立ち上げた,中英語に関する文学と語学の国際学会.今回と合わせて過去3回(第7回,第8回,第9回)参加したが,参加者は毎回50〜70名ほど.文学系に比して語学系が多いが,フィロロジーの色彩が濃い.今回は,講演と個人研究発表を含めて3部屋並行で,49の発表と69名の発表者(キャンセルも含め)があった.
・ 第1回 Rydzyna, Poland (1994)
・ 第2回 Helsinki, Finland (1997)
・ 第3回 Dublin, Ireland (1999)
・ 第4回 Vienna, Austria (2002)
・ 第5回 Naples, Italy (2005)
・ 第6回 Cambridge, UK (2008)
・ 第7回 Lviv, Ukraine (2011)
・ 第8回 Murcia, Spain (2013)
・ 第9回 Wrocław, Poland (2015)
(2) 基調講演
・ Hans Sauer (University of Munich) and David Scott-Macnab (University of Jahannesburg)
"The Names of a Thousand-and-One Hunting-Hounds in a 15th-Century List"
・ Marcin Krygier (Adam Mickiewicz University, Poznan)
"Laȝamon's Foreigners"
・ Michiko Ogura (Tokyo Woman's Christian University, Japan)
"What Really Happened to 'Impersonal' and 'Reflexive' Constructions in Medieval English"
・ Rafał Borysławski (University of Silesia, Sosnowiec)
"'Dreaming of the Middle Ages'?: Dream-Visions and Transgression from Marie de France to Chaucer"
(3) 特別セッション
・ The recipe in the history of English (cf. Bator, Magdalena. Culinary Verbs in Middle English. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2014.)
・ Translating Middle English literature
(4) 研究発表者の所属研究機関の国籍
以下は,研究発表者の所属機関の国別分布.日本勢も健闘している.
Poland (33) ************************************ Germany ( 6) ****** Japan ( 4) **** Austria ( 3) *** France ( 3) *** Norway ( 3) *** Spain ( 3) *** Belgium ( 2) ** Russia ( 2) ** Switzerland ( 2) ** Ukraine ( 2) ** USA ( 2) ** Finland ( 1) * Italy ( 1) * South Africa ( 1) * United Kingdom ( 1) *
今日の記事は,報告というか,感謝というか,宣伝というか,そんな記事です.
先週末の土日に,日本中世英語英文学会の第30回大会が同志社大学で開催されました.その土曜日の午後に,2013年に Does Spelling Matter? を上梓したオックスフォード大学の Simon Horobin 教授を特別ゲストとして招き,"Does Spelling Matter in Pre-Standardised Middle English?" と題するシンポジウムを催しました.そのシンポジウムの司会(と発表者)の役を務めさせていただきましたが,当日は大勢の方に会場にお越しいただきました.大会関係者の方々も含めて,深く御礼申し上げます.
さて,今日はそのシンポジウムに関連して,いくつか話題を提供します.Simon Horobin 教授については,本ブログでもいろいろなところで参照してきました(cf. Simon Horobin) .特に著書 Does Spelling Matter? からは英語綴字に関する話題を引き出しては,本ブログでも取り上げてきたので,大変お世話になった(多分今後もお世話になる)本です.実は,その Horobin 教授自身も2012年より Spelling Trouble と題するブログを書き綴っています.かなりおもしろいので,ぜひ購読をお勧めします! 本人も書いていて楽しいと述べていました.
シンポジウムで私が話したのは,本ブログでもたびたび扱ってきた語源的綴字 (etymological (re)spelling) についてでした.これまでばらばらに書き集めてきたことを少し整理して示そうと思ったわけですが,まとめるにしてもまだまだ多くの作業が必要なようです.関心のある方は,これまでに書きためてきた個々の記事を是非ご参照ください.関連記事はこれからも書いていこうと思います.セッションで質疑応答くださった方々,及びその後に個人的にコメントをくださった方々には感謝いたします.
また,シンポジウムでは,Horobin 教授が著書を出されたときから私もずっと気になっていた質問 "Does Spelling Matter?" に対する答えが明らかにされました.結論からいえば,"Yes" ということでした.隣に座っていた私も連鎖的に "Yes" と答え,他のパネリストの新川先生も高木先生も持論に即してお答えになっていました.いずれにせよ,綴字1つとっても十分におもしろい英語史上のテーマになり得ることを,改めて確認し確信しました.「綴字の社会言語学」 (sociolinguistics of spelling) なるものを構想することができるのではないかと・・・.
いずれにしましても,大会関係者のすべての方々へ,ありがとうございました!
・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
2014年7月14--18日にベルギーのルーベン (KU Leuven) で開催された ICEHL18 (18th International Conference on English Historical Linguistics) に参加してきた.私も "The Ebb and Flow of Historical Variants of Betwixt and Between" というタイトル (cf. ##1389,1393,1394,1554,1807) でつたない口頭発表をしてきたが,それはともかくとして英語史分野での最大の国際学会に定期的に参加することは,学界の潮流をつかむ上でたいへん有用である.先日,学会参加を振り返って英語史研究の潮流について気づいた点を簡易報告としてまとめる機会(←駒場英語史研究会)があったので,その要点を本ブログにも掲載しておきたい.いずれも粗い分析なので,あくまで参考までに.
(1) Plenary talks
1. Robert Fulk (Indiana University, Bloomington)
English historical philology past, present, and future: A narcissist's view
2. Charles Boberg (McGill University)
Flanders Fields and the consolidation of Canadian English
3. Peter Grund (University of Kansas)
Identifying stances: The (re)construction of strategies and practices of stance in a historical community
4. María José López-Couso (University of Santiago de Compostela)
On structural hypercharacterization: Some examples from the history of English syntax
(2) Rooms
・ Code-switching & Scribal practices
・ Discourse & Information structure
・ Dialectology & Varieties of English
・ Grammaticalization (Noun Phrase)
・ Grammaticalization (Verb Phrase)
・ Historical sociolinguistics
・ Lexicology & Language contact
・ Morphology & Lexical change
・ Phonology
・ Pragmatics & Genre
・ Reported speech
・ Syntax & Modality
・ VP syntax
(3) Workshops
・ Cognitive approaches to the history of English
・ Early English dialect morphosyntax
・ Exploring binomials: History, structure, motivation and function
・ (De)Transitivization: Processes of argument augmentation and reduction in the history of English
(4) 研究発表のキーワード
以下は、ICEHL18での講演、個人研究発表、ワークショップでの発表、ポスター発表を含めた166の発表(キャンセルされたものを除く)の内容に関するキーワードとその分布を整理したもの.キーワードは、各発表につきタイトルおよび(実際に参加したものについては)内容を勘案したうえで、数個ほど適当なものをあてがったもので、多かれ少なかれ私の独断と偏見が混じっているものと思われる.
syntax (48) ******************************************************** ME (38) ******************************************** ModE (30) *********************************** OE (27) ******************************* genre (23) ************************** pragmatics (22) ************************* corpus (16) ****************** morphology (14) **************** grammaticalisation (13) *************** semantics (13) *************** construction (12) ************** dialectology (12) ************** discourse (10) *********** sociolinguistics ( 8) ********* lexicology ( 7) ******** inflection ( 6) ******* phonology ( 6) ******* contact ( 5) ***** modality ( 5) ***** deixis ( 4) **** derivation ( 4) **** manuscript ( 4) **** stylistics ( 4) **** code-switching ( 4) **** Chaucer ( 3) *** cognitive ( 3) *** grammatology ( 3) *** scribe ( 3) *** Caxton ( 2) ** etymology ( 2) ** generative ( 2) ** lexicography ( 2) ** OED ( 2) ** phonetics ( 2) ** runics ( 2) ** Scots_English ( 2) ** subjectification ( 2) ** variety ( 2) ** American_English ( 1) * Canadian_English ( 1) * Irish_English ( 1) * diffusion ( 1) * evidentiality ( 1) * gender ( 1) * methodology ( 1) * metrics ( 1) * onomastics ( 1) * preposition ( 1) * standardisation ( 1) * typology ( 1) *
Germany (34) *************************************** Poland (18) ********************* England (17) ******************* Switzerland (15) ***************** Belgium (13) *************** Japan (13) *************** Netherlands (13) *************** Scotland (11) ************ Finland (10) *********** Spain (10) *********** US ( 9) ********** Norway ( 5) ***** France ( 4) **** Austria ( 3) *** Italy ( 3) *** Canada ( 2) ** Hungary ( 2) ** Sweden ( 2) ** Bulgaria ( 1) * Greece ( 1) * Hong_Kong ( 1) * UAE ( 1) * Ukraine ( 1) * Wales ( 1) *
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