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breton_lai - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-11 06:35

2023-04-25 Tue

#5111. チョーサーによるブルトン・レ「地方地主の話の序」を読む [chaucer][canterbury_tales][franklins_tale][breton_lai][me_text][celtic][breton][voicy][heldio][me_text][literature][brittany_exhibition]

 今回は Geoffrey Chaucer (1340?--1400) の傑作 The Canterbury Tales より The Franklin's Tale 「地方地主の話の序」を読んでみたい.
 この作品は,ブルターニュ地方が舞台となっている.ブルターニュといえば,ブリテン島のケルト人の一派が,5--6世紀にアングロサクソン人による侵攻から逃れ,イギリス海峡を南に越えてたどり着いたフランス側の土地である.その地には現在もブルトン人が住んでおり,ブルトン語 (Breton) を話している.
 ブルトン人たちは Breton lai (ブルトン・レ)と呼ばれる短い物語詩のジャンルを生み出し,そのジャンルは海峡の両側に伝わっている.フランス側では Marie de France (c. 1160--1215) がフランス語で書いた作品が有名だが,ブリテン島側でも翻案作品が著わされた.今回のチョーサーによる「地方地主の話」は,その1つである.
 「地方地主の話の序」の中英語原文を The Riverside Chaucer より,日本語訳を『カンタベリ物語 共同新訳版』より引用する.

          THE FRANKLIN'S PROLOGUE
          
          Prologe of the Frankeleyns Tale.

l. 709   Thise olde gentil Britouns in hir dayes
710Of diverse aventures maden layes,
711Rymeyed in hir firste Briton tonge,
712Whiche layes with hir instrumentz they songe
713Or elles redden hem for hir plesaunce;
714And oon of hem have I in remembraunce,
715Which I shal seyn with good wyl as I kan.
716   But, sires, by cause I am a burel man,
717At my bigynnyng first I yow biseche,
718Have me excused of my rude speche.
719I lerned nevere rethorik, certeyn;
720Thyng that I speke, it moot be bare and pleyn.
721I sleep nevere on the Mount of Pernaso,
722Ne lerned Marcus Tullius Scithero.
723Colours ne knowe I none, withouten drede,
724But swiche colours as growen in the mede,
725Or elles swiche as men dye or peynte.
726Colours of rethoryk been to me queynte;
727My spirit feeleth noght of swich mateere.
728But if yow list, my tale shul ye heere.


 地方地主の話の序

 今は昔,雅びなブルターニュの人たちは,さまざまなできごとを歌に詠み,いにしえのケルトの言葉で技をこらし,楽器に合わせて歌ったり,読み語りを楽しんだりしておりました.そのような話をひとつ覚えていますので,微力を尽くしてお話ししたいと思っております.
 けれども,何しろ学がないもので,乱暴な言葉遣いをお許しいただくよう,まずは皆さんにお願いします.まったく,修辞学なんぞ習ったこともなく,あからさまな話し方しかできんのです.パルナッソス山で眠ったこともなければ,マルクス・トゥリウス・キケロを学んだこともない.言葉のあやなどさっぱりで,目もあやな野の花や,染めたり織ったりのあやしか知らんのです.語りのあやは解らんし,その類のセンスも持ちあわせておらん.でも,よろしければ話をお聞き下さい.


 なお,上記の中英語原文を今朝の Voicy heldio で読み上げている.中英語に関心がある方,読解に挑戦してみたいと思う方は,ぜひ「#694. チョーサーによるブルトン・レ「地方地主の話の序」を原文で味わってみませんか?」をお聴きください.



 ・ Benson, Larry D., ed. The Riverside Chaucer. 3rd ed. Oxford: OUP, 1987.
 ・ ジェフリー・チョーサー(著),池上 忠弘(監訳) 『カンタベリ物語 共同新訳版』 悠書館,2021年.
 ・ 池上 昌・堀田 隆一・狩野 晃一 「チョーサーの英語」 『チョーサー巡礼 古典の遺産と中世の新しい息吹に導かれて』(池上 忠弘(企画),狩野 晃一(編)) 悠書館,2022年.93--124頁.

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2023-04-24 Mon

#5110. 国立西洋美術館「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けての予習 [museum][seminar][khelf][celtic][breton][voicy][heldio][breton_lai][contact][literature][linguistic_imperialism][language_death][brittany_exhibition]

 目下,東京・上野の国立西洋美術館にて「憧憬の地 ブルターニュ ー モネ,ゴーガン,黒田清輝らが見た異郷」展覧会が開催中です.開催期間は3月18日から6月11日までとなっています.


「憧憬の地 ブルターニュ ー モネ,ゴーガン,黒田清輝らが見た異郷」



 この開催の機会をとらえ,今学期の私のゼミでは「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」をテーマとして,事前に予習した上で,5月末辺りに課外活動としてゼミの皆で展覧会を訪れる予定です.今後,本ブログでも Voicy heldio でも,関係する話題がチラホラ出てくるかと思います.本記事をお読みの皆さんも,ぜひブルターニュ(展)に関心を寄せていただければと.
 フランス北西部ブルターニュ地方では,ケルト語派のブルトン語 (Breton) が伝統的に話されています.ただし,地域の強大言語であるフランス語に押されているという事実があります.これはブリテン諸島の北や西のコーナーで,ケルト系諸語が英語に圧迫されているのと平行的な状況です.
 ケルト諸語の分布や歴史については「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1]),「#778. P-Celtic と Q-Celtic」 ([2011-06-14-1]),「#779. Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]),「#3113. アングロサクソン人は本当にイングランドを素早く征服したのか?」 ([2017-11-04-1]),「#3761. ブリテンとブルターニュ」 ([2019-08-14-1]),「#4491. 1300年かかったイングランドの完全英語化」 ([2021-08-13-1]) を含む celtic の記事を参照してください.また,昨日の Voicy heldio では,関連して「#692. ケルト語派を紹介します」を配信しています.
 展覧会訪問までの「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」のための予習事項は,主として以下の3点です.

 1. 歴史的にみる英語の拡大とケルト諸語の縮小
 2. 中英語で書かれたブルトン・レ (Breton lai)
 3. 英語とケルト語の言語接触

 今朝の Voicy heldio では,本記事と同様の内容でおしゃべりしています.「#693. 英語史とケルト,英語史とブルターニュ --- 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けて」です,ぜひお聴きください.



 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」,およびこれから1ヶ月ほど追いかけていく「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」というテーマについて,ぜひご注目ください.

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