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latin - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-01-18 05:57

2018-12-02 Sun

#3506. ラテン語系接尾辞と本来語接尾辞の音素配列論的対立 [suffix][latin][phonotactics]

 ラテン語系接尾辞には母音で始まるものが多く,本来語接尾辞には子音で始まるものが多い.輿石 (113--14) を読むまで,この事実には気づかなかった.この差異の背景には,各言語の形態論的な特徴と,それと関連する音素配列論上の事情があるようだ.

PE のラテン語系の接頭辞には母音で始まるものが圧倒的に多いが,これはラテン語系の形態素構造制約・音素配列論に従っていた借用語から,派生語の語幹を保つことを優先して,滲出により語幹に子音を残した分析をするためであると考えられる.たとえば,divinity の場合,形容詞 divine との派生関係が意識され,divin-ity というふうに母音の前で切ることで,-ity という接尾辞が生じたと考えられる.Lieber (2005: 384--388) のリストでは,ラテン語系の接尾辞として以下の26個があげられているが,-ment /mənt/ と -ure /jə/ の2個以外はすべて母音で始まっている(下つき数字は同音異義の接尾辞を便宜的に区別したもの).

 -able, -age, -al1, -al2, -an/-ian, -ance/-ence, -ant, -ate, -ation, -ee, -ery, -esque, -ess, -ette, -ic, -ify, -ism, -ist, -ite, -ity, -ive, -ize, -ment, -ory, -ous, -ure

 一方,本来語の接尾辞は子音で始まるものが多いが,それは元来独立性のある要素が膠着化して接尾辞になったためであると考えられる.上記の Lieber のリストで本来語の接尾辞としてあげられている14個のうち,かつて独立した語であったと考えられるものは以下の7個ある.それぞれ括弧で語源を示した.

 -dom (< dōm 'jurisdiction, state, statute'), -ed, -en1, -en2, -er, -ful (< full), -hood (< hād 'state, rank, order, condition, character'), -ish, -less (< lēas 'devoid of'), -ly (< līc 'body'), -ness, -ship (< -scipe 'shape'), -some (< -sum 'same, one'), -y


 本来語にも母音で始まる接尾辞は少ないわけではなく,上記の対立はあくまで傾向として理解する必要があるが,背景に各言語の形態音韻論上の特徴があるという指摘は意味深長である.
 上の解説で使われている「滲出」「膠着」という用語については,「#3480. 膠着と滲出」 ([2018-11-14-1]) を参照.

 ・ 輿石 哲哉 「第6章 形態変化・語彙の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.106--30頁.

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2018-11-19 Mon

#3493. address の <dd> について (2) [etymological_respelling][latin][prefix][spelling]

 昨日の記事 ([2018-11-18-1]) に引き続いての話題.ラテン語の接頭辞 ad- は,続く語根の頭音に応じて ac-, af-, ag-, al-, ap-, as-, at- などと姿を変える.対応する音声の同化 (assimilation) ゆえの異形態 (allomorph) である.例として,accuse, affirm, aggression, allude, appeal, assemble, attend などが挙げられる.逆にいえば,語根の頭音との関係で音便が生じない場合に,基底形の ad- が用いられるということだ.address にせよ,上記の単語群にせよ,接頭辞の子音字が重なって綴られている.おそらくこれらのほとんどが語源的綴字 (etymological_respelling) なのではないかと睨んでいる.つまり,古フランス語や中英語では問題の子音字はおよそ1つだけで綴られていたが,初期近代英語期にかけて,語源であるラテン語形を参照して子音字をダブらせたのではないかと.
 この点について,Barnhart が断言的な記述を与えている.まずは,ズバリ address について.

The present spelling with -dd- is a refashioning of the prefix a- into ad- in English, after the Latin form, and occasionally occurs in Middle French.


 そして,より一般的な解説が ad- の見出しのもとに与えられている.

Words formed with ad- found in modern English do not always reflect a direct passage from Latin into English. The prefix ad- was transformed to a- in Old French, and so appeared in words that entered Middle English through Old French. In the 15th century many of these words were respelled with the ad- to restore the connection with Latin. . . . When the process went too far, as in advance, English acquired a d that had no historical justification.


 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.

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2018-11-18 Sun

#3492. address の <dd> について (1) [etymological_respelling][latin][prefix][spelling][sobokunagimon]

 なぜ address では <dd> と重子音字が用いられているのかというナゾについての回答が,数日前のYahoo!知恵袋でバズっていた(住所という英単語adressとaddressどちらが正しいスペルでしょうか?).真の答えは,大名氏のツイートに端的に示されている通りだろう.初期近代英語期にバズった語源的綴字 (etymological_respelling) である.
 この発問の問題意識はわかる.フランス語や中英語では adresser, adressen などと <d> は1つであり,それでも良さそうなのに,現代英語ではなぜ <d> を重ねるのか.さらに語源的には同じラテン語の接頭辞 ad- を付したものでも,adapt, admire, adnominal, adopt, adverb などでは <d> が重なっていないという事情もある.
 Upward and Davidson (101) に,ラテン語の接頭辞 ad- の付加と関連して次の記述がみられる.

 ・ Lat AD- attached to a stem beginning with D results in Lat and ModE -DD-: add (< Lat addere), addiction, address, adduce. (OFr and ME often wrote such words with single D.)
 ・ D has been doubled in developments from Fr where there has been a stress shift to the first syllable in ModE: boudin > podyng > pudding, sodein > sodayn > sudden.
 ・ Some words with single medial D (e.g. hideous, medal, model, study) were occasionally written with DD in EModE.


 2点目と3点目の記述からわかることは,強勢位置に応じて,現代的な「綴字規則」どおりに子音字を重ねたり重ねなかったりする例が近代英語期に見られたということだ.一方,目下の話題に直接触れている1点目では,中英語や古フランス語では強勢位置の考慮がなされていたようだが,近代英語以降にはなされておらず,むしろラテン語の綴字に引きずられた結果であることが示されている.結果として成立した address, addict, adduce などの綴字は,強勢位置や母音の長さなどを反映する表音的な綴字というよりは,ad- までが接頭辞であり,それ以降の部分が語根であることを示す表形態素的な綴字というべきだろう.そして,それは語源的な綴字でもあった.
 英語史の教科書などでは,接頭辞 ad- を参照して d を復元した語源的綴字の典型例として admonish, advance, advantage, adventure, advise などがしばしば挙げられる(最後の語については「#1153. 名詞 advice,動詞 advise」 ([2012-06-23-1]) を参照).しかし,語根がすでに d で始まる今回のような語において,接頭辞にまで d を復元し,結果として <dd> となる事例にはこれまで気づかなかった.むしろ,これこそラテン語の模倣欲が炸裂した語源的綴字の好例ということができるかもしれない.とまれ,一般的に ad- 語において語源的綴字として d が挿入された事例は,これまで私が思っていたよりもかなり多いようである.

 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

Referrer (Inside): [2018-11-19-1]

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2018-11-02 Fri

#3476. 曜日名の語源 [etymology][greek][latin][mythology][calendar][mythology]

 英語の月名の語源について,「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]),あるいはより詳しく「#3229. 2月,February,如月」 ([2018-02-28-1]) とそのリンク先で取り上げてきた.一方,曜日名については「#2595. 英語の曜日名にみられるローマ名の「借用」の仕方」 ([2016-06-04-1]) や「#1261. Wednesday の発音,綴字,語源」 ([2012-10-09-1]) で取り上げてきたが,今回は参照に便利なようにシップリーの語源辞典 (674) より一覧を掲げたい.

 Sunday (日曜日) ---the day of the sun (太陽の日)
 Monday (月曜日) ---the day of the moon (月の日)
 Tuesday (火曜日) ---the day of Tiw (ティウの日).Tiw はゲルマン人の戦争の神であり,ローマの Martis dies (マルスの日)の代わりとして使われるようになった.ちなみにフランス語では mardi である.Tiw はラテン語 deus (神)やギリシア語 Zeus と同族語である.
 Wednesday (水曜日) ---Woden's day (ウォーディンの日).Woden は北欧の神々の王である.
 Thursday (木曜日) ---Thor's day (トールの日).Thor は雷神 (thunderer) である.かつては同義語として Thunderday があった.
 Friday (金曜日) ---the day of Friya or Frigga (フリヤもしくはフリッガの日).フリヤは北欧の愛の女神であり,フリッガはウォーディンの妻である.
 Saturday (土曜日) ---the day of Saturn (サターンの日).サターンはローマの農業の神である.


 week 自体は古英語 wicu, wucu (週)に遡り,これは wīce (奉仕、義務)から派生している.さらに遡れば,ゲルマン祖語の *wikōn "turning, succession" に由来する.時間を司る7曜の神々の「奉仕・義務の交替順序」ということらしい.OED によると,

It has been argued that the Germanic base underlying the attested words had an earlier sense referring to changes of duty, which was then applied to the sequence of deities governing the weekly cycle, and finally transferred to the week itself. Such an earlier sense may be reflected by Old Icelandic vika unit of distance travelled at sea (perhaps with reference to the periodical change of rowing teams, although this cannot be independently substantiated), Gothic wiko order in which something happens (in an isolated example in Luke 1:8 with reference to the allocation of religious duties, translating ancient Greek τάξις order, arrangement . . .), and also Old English wīce office, duty, function . . . .


 「週」という単位や概念の起源は印欧語族にはなく東洋のものだが,ユダヤ人を介してギリシア人,ローマ人に伝わり,そこからキリスト教の伝播とともにヨーロッパに広がった.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

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2018-10-29 Mon

#3472. 慶友会講演 (1) --- 「歴史上の大事件と英語」 [keiyukai][hel_education][slide][christianity][runic][latin][loan_word][bible][norman_conquest][french][ame_bre][spelling][webster][history]

 一昨日,昨日と「#3464. 大阪慶友会で講演します --- 「歴史上の大事件と英語」と「英語のスペリングの不思議」」 ([2018-10-21-1]) で案内した大阪慶友会での講演が終了しました.参加者のみなさん,そして何よりも運営関係者の方々に御礼申し上げます.懇親会も含めて,とても楽しい会でした.
 1つめの講演「歴史上の大事件と英語」では「キリスト教伝来と英語」「ノルマン征服と英語」「アメリカ独立戦争と英語」の3点に注目し「英語は,それを話す人々とその社会によって形作られてきた歴史的な産物である」ことを主張しました.休憩を挟んで180分にわたる長丁場でしたが,熱心に聞いていただきました.通時的な視点からみることで,英語が立体的に立ち上がり,今までとは異なった見え方になったのではないかと思います.
 この講演で用いたスライドを,以下にページごとに挙げておきます.

   1. 「歴史上の大事件と英語」
   2. はじめに
   3. 英語史の魅力
   4. 取り上げる話題
   5. I. キリスト教伝来と英語
   6. 「キリスト教伝来と英語」の要点
   7. ブリテン諸島へのキリスト教伝来
   8. 1. ローマン・アルファベットの導入
   9. ルーン文字とは?
   10. ルーン文字の起源
   11. 知られざる真実 現存する最古の英文はルーン文字で書かれていた!
   12. 古英語アルファベットは27文字
   13. 2. ラテン語の英語語彙への影響
   14. ラテン語からの借用語の種類と謎
   15. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響の比較
   16. 3. 聖書翻訳の伝統の開始
   17. 各時代の英語での「主の祈り」の冒頭
   18. 聖書に由来する表現
   19. 「キリスト教伝来と英語」のまとめ
   20. II. ノルマン征服と英語
   21. 「ノルマン征服と英語」の要点
   22. 1. ノルマン征服とは?
   23. ノルマン人の起源
   24. ノルマン人の流入とイングランドの言語状況
   25. 2. 英語への言語的影響は?
   26. 語彙への影響
   27. 英語語彙におけるフランス借用語の位置づけ
   28. 語形成への影響
   29. 綴字への影響
   30. 3. 英語への社会的影響は?
   31. 堀田,『英語史』 p. 74 より
   32. 「ノルマン征服と英語」のまとめ
   33. III. アメリカ独立戦争と英語
   34. 「アメリカ独立戦争と英語」の要点
   35. 1. アメリカ英語の特徴
   36. 綴字発音 (spelling pronunciation)
   37. アメリカ綴字
   38. アメリカ英語の社会言語学的特徴
   39. 2. アメリカ独立戦争(あるいは「アメリカ革命」 "American Revolution")
   40. アメリカ英語の時代区分
   41. 独立戦争とアメリカ英語
   42. 3. ノア・ウェブスターの綴字改革
   43. ウェブスター語録 (1)
   44. ウェブスター語録 (2)
   45. ウェブスターの綴字改革の本当の動機
   46. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめ
   47. おわりに
   48. 参考文献

Referrer (Inside): [2018-10-31-1] [2018-10-30-1]

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2018-10-11 Thu

#3454. なぜイングランドにラテン語の地名があまり残らなかったのか? [latin][roman_britain][anglo-saxon][toponymy][onomastics]

 昨日の記事「#3453. ノルマン征服がイングランドの地名に与えた影響」 ([2018-10-10-1]) に引き続きイングランド地名の話題.ローマン・ブリテン時代には,当然ながら建設された都市にはラテン名が付けられていた.その代表が「#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布」 ([2018-09-27-1]) でみたように,-chester を含む都市名だったわけである.しかし,5世紀のアングロサクソンの渡来を受けて,既存のラテン地名の多くが捨て去られ,後世まで残らなかった.これはなぜだろうか.
 デイヴィスとレヴィット (82--83) は,ローマ人とアングロサクソン人では,ブリテン島にやってきた目的が異なっていた点に注目している.

ラテン語の地名は,英語が流入してきた地域では英語の浸透によって消滅した.これまでこれまで述べてきたことに付け加えて,ラテン語の地名が残らなかったもうひとつの重要な原因は,アングロ・サクソン人はローマ人とはかなり異なった文化を持っていたということである.アングロ・サクソン人は,居住するための都市を求めて来たのではなく耕すための土地を求めてきたのである.アングロ・サクソン人は自分たちの作った新しいムラの名前を必要とした.ローマ人の作った砦や都市はアングロ・サクソン人の役には立たなかった.ローマ軍の砦は,ローマ軍の撤回からアングロ・サクソン人の到来に至る間に,北方から来た野蛮人に略奪されたか,アングロ・サクソン人の戦争の仕方に合わなかったため放置されたかである.都市と同様に砦は廃れ,それらの名前までも忘れ去られた.


 例えば,Dee 川のほとりのローマ軍駐屯地 Deva は,ローマン・ブリテン時代の長きにわたって軍団を収容してきた砦だったが,『アングロ・サクソン年代記』では「廃墟のチェスター」と言及されている.ローマの遺産は,砦もろとも名前も捨て去られたのである.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

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2018-09-27 Thu

#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布 [toponym][latin][loan_word][oe_dialect][roman_britain]

 「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]) や「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1]) で触れたように,ローマン・ブリテン時代にローマ軍が建設したと考えられる町の名には,ラテン語 castrum (野営地)に由来する要素を含むものが少なくない.このラテン単語は,すでに大陸時代にゲルマン諸語に借用されていたと考えられる.
 標題のように,英語の地名要素としてはいくつかの異形があり,その異形の分布には傾向がある.サクソン系が定住したイングランドの比較的南部の地域では,-chester となるものが多い (ex. Colchester, Dorchester, Manchester, Rochester, Winchester) .
 一方,アングル系が定住し,後にデーン人が入り込んだ北部・北西部・東部では -caster となるところが多い (ex. Doncaster, Lancaster, Tadcaster) .
 また,サクソン系とアングル系が融合したとされる中部地域では -cester が多く,発音はつづまって /-stə/ となる (ex. Bichester, Gloucester, Leicester, Worcester) .『英語語源辞典』によると,この発音は Anglo-French の発音を反映しているといわれる.さらに,ウェールズとの境界近くでは語頭子音が x となり,Exeter, Wroxeter などの例が見られる.
 上記の分布は,あくまで傾向を示すにすぎず,必ずしもきれいにはいかないようだが,地名学,方言(音声)学,歴史学の交差点を見ているようで興味が尽きない.以上,デイヴィスとレヴィットの25--26ページを参照して執筆した.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

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2018-09-26 Wed

#3439. St. Ives の「通り」の表現 [toponym][loan_word][french][latin][old_norse][italian]

 英語の通りの名前に用いられる「通り」に相当する名詞は,種類が豊富である.日本語では「〜通り」「〜道」「〜街道」がある程度だが,英語では様々な語源に由来する種々の名前が用いられる.以下は,デイヴィスとレヴィットの英語地名の著書 (8--9) で紹介されている Cambridgeshire の町,St. Ives に見られる数々の「通り」を表わす語を語源ごとに整理した一覧である.

[ 英語 ]
  mews (うま屋,あるいは鳥小屋のあった通り),road (馬場,ride の母音交替による名詞形),lane (小路),yard,row (家の列),hill,way,walk,drove (家畜の群を追う際に通る道,drive の名詞形),grove (小森,神の森),lea,ley (共に,農地,耕地)

[ フランス語(<ラテン語<ギリシア語) ]
  place, gardens, court, avenue, square, crescent (三日月形の通り),close (袋小路),terrace (山の手に建てられた家並み),passage,market (市場のある通り)

[ ラテン語 ]
  street, circus (そこから道が放射状に延びている広場)

[ 古ノルド語 ]
  gate (通り,あるいは門)

[ イタリア語 ]
  villa (領主の邸宅のある通り)

 St. Ives では,1つの町のなかに様々な言語に由来する「通り」の表現が混在している.St. Ives が特別なわけではなく,むしろイギリスの町並みと地名を象徴する1例にすぎないととらえるべきだろう.地名の1つひとつに,その土地の歴史が刻まれているのだ.地名学の魅力を感じさせる.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

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2018-09-25 Tue

#3438. なぜ初期近代英語のラテン借用語は増殖したのか? [emode][renaissance][loan_word][borrowing][latin][inkhorn_term][lexicography]

 16世紀後半にピークに達するルネサンス期のラテン借用語の流入について,本ブログで様々に取り上げてきた.英語史上もっとも密度の濃い語彙借用の時代だったといわれるが,なぜこれほどまでに借用語が増殖したのだろうか.貧弱だった英語の語彙を補うためという必要不可欠論も部分的には当たっているが,ラテン語の威を借りるという虚飾的な理由が特に大きかったと思われる.なにしろ,「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) で見たように,むやみやたらに取り込んだのだ.
 Görlach (162--62) が,この辺りの事情をうまく説明している.この時代より前にはラテン語そのものをマスターすることがステータスだった.しかし,俗語たる英語の地位が徐々に上昇し,ある程度のラテン借用語が蓄積してきた16世紀後半からは,ラテン語そのものというよりも,英語に取り込まれたラテン借用語を使いこなすことが社会的に重要なスキルとなった.とはいえ,ラテン語を学習しているわけではない多くの人々にとって,ラテン借用語を「正しい」形式と意味で使いこなすことは簡単ではない.形式上の勘違いは頻繁に起こったし,意味についても,緩く対応する既存語とのニュアンスの差を正確に習得することはたやすくなかった.そのような状況下でも,人々はある意味では勘違いを恐れず,積極的にラテン借用語を使おうとした.なぜならば,その試み自体が,話者のステータスを高めると信じていたからである.
 例えば,Hart は以下のような形式上の間違いを挙げながら,この風潮を非難している(カッコの中の形式が当時としては「正しい」もの).temporall (temperate), sullender (surrender), statute (stature), obiect (abiect), heier (heare), certisfied (certified or satisfied), dispence (suspence), defende (offende), surgiant (surgian). 内容に関しては,ancientantique を 'old と同義に,つまり old の単なる見栄えのよい言い換えとして用いている例があるという.
 17世紀初めから続出する難語辞書は,このような誤用を正し,適切なラテン借用語を教育するために出版されたともいえるが,実のところ,むしろ虚飾的な借用語の使用を促す役割を果たしたのかもしれない.結果として,ラテン借用語は,当時の人々の言葉遣いの風潮にいわば培養される形で,自己増殖していったと考えられるだろう.この経緯を,Görlach (162) がうまく表現している.

To judge by the success of Cockeram and his imitators . . ., there was a large market in the seventeenth century for dictionaries translating common expressions into elevated diction. This indicates how difficult it must have been to limit loanwords to a moderate number. The issue was obviously not the objective need to fill lexical gaps for the sake of unambiguous reference, but the pairing of common words with their Latinate equivalents, the implication being that use of the elevated term was more prestigious --- even if it was unintelligible and therefore useless for communication.


 ・ Görlach, Manfred.
Introduction to Early Modern English''. Cambridge: CUP, 1991.

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2018-09-21 Fri

#3434. 近代英語期までもつれこんだ英語の公用語化 [reestablishment_of_english][me][french][latin][law_french][norman_conquest]

 ノルマン征服により,イングランドの公用語はフランス語およびラテン語となった.英語は非公式の言語として地下に潜ったわけだが,その後の数世紀をかけてゆっくりと,しかし着実に復権を遂げていった.この経緯については,reestablishment_of_english の数々の記事で取り上げてきたが,とりわけ以下の記事を挙げておこう.

 ・ 「#131. 英語の復権」 ([2009-09-05-1])
 ・ 「#324. 議会と法廷で英語使用が公認された年」 ([2010-03-17-1])
 ・ 「#336. Law French」 ([2010-03-29-1])
 ・ 「#1207. 英語の書き言葉の復権」 ([2012-08-16-1])
 ・ 「#3096. 中英語期,英語の復権は徐ろに」 ([2017-10-18-1])
 ・ 「#3265. 中世から初期近代まで行政の書き言葉標準はずっとラテン語だった」 ([2018-04-05-1])

 君塚 (134--35) は,公用語としての英語の復権を13世紀以降の流れのなかで描いているが,その終点はといえば,近代に入った1649年である.

 なお,「ノルマン征服」以後,イングランド貴族の日常言語はフランス語であり,公式の文書などにはラテン語が用いられてきた.これがジョンによる「ノルマン喪失」以降,貴族間でも英語が日常的に使われ,エドワード3世治世下の一三六三年からは議会での日常語は正式に英語と定められた.庶民院にはフランス語ができない層が数多くいたこととも関わっていた.
 議会の公式文書のほうは,一五世紀前半まではラテン語とともにフランス語が使われていたが,一四八九年からは法令の草稿も英語となった(議会制定法自体はラテン語のまま).最終的に法として認められる「国王による裁可」(ロイヤル・アセント)も,一七世紀前半まではフランス語が使われていたが,共和制の到来(一六四九年)とともに英語に直され,以後今日まで続いている.


 だが,さらに後の話題もある.法律を含めた公文書が英語で書かれなければならなくなる,いわゆる「ラテン語の全廃」は,ハノーヴァー朝の1713年のことである.イングランドは,ノルマン征服以降,英語を公的な場に完全に取り戻すのに,ざっと650年を要したことになる.

 ・ 君塚 直隆 『物語 イギリスの歴史(上下巻)』 中央公論新社〈中公新書〉,2015年.

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2018-07-24 Tue

#3375. 「語彙層累重の法則」 [lexicology][french][latin][loan_word][lexical_stratification]

 「#3373. 「示準語彙」」 ([2018-07-22-1]),「#3374. 「示相語彙」」 ([2018-07-23-1]) に引き続き,地質学の概念を歴史言語学に応用してみるシリーズの第3弾.今回は,「地層累重の法則」をもじって「語彙層累重の法則」を考えてみたい.
 「地層累重の法則」 (law of superposition) とは,『世界大百科事典第2版』によれば,次の通りである.

W. スミスによって始められた層位学の二つの基本法則の一つで,もし一連の岩石が他の岩石の上に重なっており,構造的に逆転などしていない場合には,上にのる岩石が新しいという意味である.相重なる二つの地層の空間的上下関係から時間的前後関係を読みとることができる.


 きわめて常識的で理解しやすい原理である.では,これを若干のひねりを加えながら語彙に応用してみよう.語彙について空間的上下関係というのはナンセンスなので,文体的上下関係(フォーマリティの高低)と読み替えてみる.

もし一連の語彙が他の語彙の上に重なっており,構造的に逆転などしていない場合には,上にのる語彙が新しいという意味である.相重なる2つの語彙層の文体的上下関係から時間的前後関係を読みとることができる.


 昨日の記事 ([2018-07-23-1]) でも少しく触れた英語語彙の3層構造を念頭において考えてみよう.一般に英語語彙はピラミッド状の3層構造をなしているといわれ,本来語,フランス借用語,ラテン・ギリシア借用語がそれぞれ下層・中層・上層を構成する.同じ「尋ねる」を意味する語でも ask -- question -- interrogate のように文体(フォーマリティ)の程度によって3段階の区別がある(類例については「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]),「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1]) などを参照).
 このような文体的上下関係の事実は受け入れるとして,では,その上下関係ははたして時間的な前後関係を示唆するのか,という問題に移ろう.事実,ask は本来語として古英語(以前)に遡る歴史をもつが,フランス借用語 question は初出が15世紀後半,ラテン借用語 interrogate はやや遅れて15世紀後半となっている.個々の単語の厳密な初出年代は別として,フランス借用語の大半は中英語期に,ラテン・ギリシア借用語の大半は近代英語期に流入したことを勘案すれば,先の文体的上下関係と時間的前後関係はおよそ一致すると考えられる.
 ただし,英語の語彙階層にはある程度うまく適用できたものの,「語彙層累重の法則」が一般的に通用するかどうかはよくわからない.後の時代に加わった語彙ほど文体的な上層を構成する傾向がある,ということになるのかもしれないが,これは必ずしも自明なことではない.
 とりあえず思考実験ということで「語彙層類従の法則」を試してみた.

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2018-07-23 Mon

#3374. 「示相語彙」 [lexicology][old_norse][french][latin][loan_word][lexical_stratification][contact][link][methodology]

 昨日の記事「#3373. 「示準語彙」」 ([2018-07-22-1]) に引き続き,地質学の概念を歴史言語学に応用できるかどうか,もう1つの事例で考えてみる.地層の年代推定に資する示準化石とは別に,示相化石 (facies fossile) という種類の化石がある.これは時代推定ではなく環境推定に資する種類の化石のことで,例えばサンゴ化石は,かつてその地が温暖で透明な浅海域であったことを伝える.では,これを言語に応用して「示相語彙」なるものについて語ることはできるだろうか.
 思いついたのは,借用語彙の日常性やその他の位相の差に注目するという観点である.「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1]) で見たように,古ノルド語からの借用語には,本来語と見まがうほど日常的で卑近な語彙が多い.この驚くべき事実について,英語史では一般に次のような説明がなされる.古英語話者と古ノルド語話者は,同じゲルマン民族として生活習慣もおよそ類似しており,互いの言語もある程度は理解できた.文化レベルもおよそ同等であり,社会的な関係もおおむね対等であった.だからこそ,基礎レベルの語彙が互いの言語に流れ込み得たのだと.つまり,このような日常的な借用語の存在は,両者のあいだの親密で濃厚な言語接触があったことを示唆する.
 もう1つの「示相語彙」となりうる例は,「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1]) でみたような英語本来語とフランス借用語との差に関するものである.動物を表わす calf, deer, fowl, sheep, swine, ox などの本来語に対して,その肉を表わす単語は veal, venison, poultry, mutton, pork, beef などの借用語である.伝統的な解釈によれば,この語彙的な対立は,庶民階級アングロサクソン人と上流階級ノルマン人という社会的な対立を反映する.このような語彙(語彙そのものというよりは語彙分布)は,借用語の借用当時の環境推定を示唆するものとして示相的であるといえるのではないか.
 より一般的にいえば,英語語彙の3層構造を典型とする語彙階層 (lexical_stratification) の存在も,かつての言語接触や社会状況のなにがしかを伝える点で示相的である.実際のところ,語彙史研究において「示相語彙」という発想は,その用語こそ使わずとも,当然のように受け入れられてきたようにも思われる.
 上で触れた動物と肉の話題と3層構造の話題については,以下の記事も参照されたい.

 ・ 「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1])
 ・ 「#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話」 ([2010-03-25-1])
 ・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
 ・ 「#1603. 「動物とその肉を表す英単語」を最初に指摘した人」 ([2013-09-16-1])
 ・ 「#1604. 「動物とその肉を表す英単語」を次に指摘した人たち」 ([2013-09-17-1])
 ・ 「#1966. 段々おいしくなってきた英語の飲食物メニュー」 ([2014-09-14-1])
 ・ 「#1967. 料理に関するフランス借用語」 ([2014-09-15-1])
 ・ 「#2352. 「動物とその肉を表す英単語」の神話 (2)」 ([2015-10-05-1])

 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1])
 ・ 「#2643. 英語語彙の三層構造の神話?」 ([2016-07-22-1])
 ・ 「#387. trisociationtriset」 ([2010-05-19-1])
 ・ 「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1])

Referrer (Inside): [2018-07-24-1]

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2018-07-19 Thu

#3370. frequent の意味変化 [semantic_change][latin][french][loan_word][cawdrey][johnson]

 frequent (頻繁な,たびたびの)は,文字通り頻繁に用いられる常用語だが,この語義が発生したのは意外と新しく,初例は近代に入ってからの1596年のことだと知った.この語は,ラテン語の動詞 frequentāre (詰め込む)から派生した形容詞 frequēns (混み合った)がフランス語 fréquent を経て,15世紀半ばに英語に入ってきた.当初の語義は,フランス語に倣った「おびただしい,豊富な」であり,「混み合った,多人数の」の語義でも19世紀まで使われた.「混み合った,多人数の」の例としては,Discourse concerninge the Spanish Fleet Invadinge Englande (1590) の18世紀翻訳において,"There was generally made throughout the whole realm a most frequent assembly of all sorts of people." と見える.
 その後,frequent は「ありふれた」ほどの否定的な含意を発達させ,Shakespeare ではさらに "addicted" 「常習的に耽溺している」 ほどの語義で使われている.The Winter's Tale (1611) からの例として,"I have missingly noted he is of late much retired from court, and is less frequent to his princely exercises than formerly he hath appeared".
 さらにその後,否定的な含意を中立化し,現在通用される「常習的な」「頻繁な」の語義を発達させたが,初例は上述のように16世紀終わりである.ただし,1604年の 英語史上初の英語辞書 A Table Alphabeticall の定義では "often, done many times: ordinarie, much haunted, or goe too" とあり,すでに新しい語義が定着していたようである.
 一方,1755年の Johnson の辞書でも,以下のように「混み合った,多人数の」という古い語義もまだ収録されている(とはいっても,そこに例として挙げられていた句 frequent and full は17世紀の Milton からのものではあったが).

1. Often done; often seen; often occurring.
2. Used often to practise any thing.
3. Full of concourse


 当たり前の単語にも,意味変化の歴史が潜んでいるものである."Chaque mot a son histoire." (= "Every word has its own history.") .

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2018-07-17 Tue

#3368. 「ラテン語系」語彙借用の時代と経路 [contact][latin][greek][french][borrowing][lexicology][loan_word]

 「ラテン語系」 (Latinate) 借用語とは,主としてラテン語とフランス語をソースとする借用語を指す.緩く解釈して,他のロマンス諸語からの借用語を含むこともあれば,ギリシア語もラテン語を経由して英語に取り込まれることが多かったことから,ギリシア借用語(直接借用されたものも)を含んで言われることもある.英語史上,ラテン語系の語彙借用が見られた時代と経路は,以下のように図示できる(輿石,p. 113 の図を参照した).

┌───────────────────────────────────┐
│                               Greek                                  │
└──────┬──────────────────────────┬─┘
              │                                                    │
              ↓                                                    │
        ┌─────┬────────────┬────────┐  │
        │  Latin   │ Old and Middle French  │ Modern French  │  │
        └──┬──┴─────┬──────┴────┬───┘  │
              │                │                      │          │
              │                └─────┐          └──┐    │
              │                            │                │    │
      ┌───┴─┬──────┬───────┬─────┐│    │
      │          │            │          │  │          ││    │
      │          │            │          │  │          ││    │
      ↓          ↓            ↓          ↓  ↓          ↓↓    ↓
┌────┬───────┬──────┬───────┬───────┐
│Germanic│Prehistoric OE│Old English │Middle English│Modern English│
└────┴───────┴──────┴───────┴───────┘

 図を見ると,借用元言語のレパートリーは変わっていないものの,時代によって経路を含めた英語との関わり方がそれぞれ特徴的であることが,改めてよく分かる.英語の語彙にとりわけ強い影響を及ぼしてきた言語といえば,上記の "Latinate" languages を除けば古ノルド語の名前が挙がるくらいであり,「ラテン語系」の存在感の著しさが再確認できるだろう.
 ラテン語系に限らない語彙借用の経路図としては,「#1930. 系統と影響を考慮に入れた西インドヨーロッパ語族の関係図」 ([2014-08-09-1]) も参照.

 ・ 輿石 哲哉 「第6章 形態変化・語彙の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.106--30頁.

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2018-06-27 Wed

#3348. 初期近代英語期に借用系の接辞・基体が大幅に伸張した [word_formation][prefix][suffix][neologism][french][latin][loan_word][lexicology][renaissance][emode]

 Wersmer (64, 67) や Nevalainen (352, 378, 391) を参照した Cowie (610--11) によれば,接辞を用いた新語形成において,本来系の接辞を利用したものと借用系のものと比率が,初期近代英語期中に大きく変化したという.

The relative frequency of nonnative affixes to native affixes in coined words rises from 20% at the beginning of the Early Modern English period to 70% at the end of it . . . . The proportion of Germanic to French and Latin bases in new coinages falls from about 32% at the beginning of the Early Modern period to some 13% at the end . . . . Together these measures confirm the emergence of non-native affixes as independent English morphemes over the Early modern period. They also seem to contradict claims that the native affixes in Early Modern English are just as, if not more productive, than ever . . . , although it is always less likely that words coined with native affixes would be recorded in a dictionary . . . .


 この時期の初めには借用系は20%だったが,終わりには70%にまで増加している.一方,基体に注目すると,借用系に対する本来系の比率は,期首で32%ほど,期末で13%ほどに落ち込んでいる.全体として,初期近代英語期中に,借用系の接辞および基体が目立つようになってきたことは疑いない.ただし,引用の最後の但し書きは重要ではある.
 関連して,「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]),「#3165. 英製羅語としての conspicuousexternal」 ([2017-12-26-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]),「#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1)」 ([2018-03-29-1]),「#3259. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (2)」 ([2018-03-30-1]) を参照.

 ・ Wersmer, Richard. Statistische Studien zur Entwicklung des englischen Wortschatzes. Bern: Francke, 1976.
 ・ Nevalainen, Terttu. "Early Modern English Lexis and Semantics." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 332--458.
 ・ Cowie, Claire. "Early Modern English: Morphology." Chapter 38 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 604--20.

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2018-06-12 Tue

#3333. なぜ doubt の綴字には発音しない b があるのか? [indo-european][etymological_respelling][latin][french][renaissance][spelling_pronunciation_gap][silent_letter]

 語源的綴字 (etymological_respelling) については,本ブログでも広く深く論じてきたが,その最たる代表例といってもよい b を含む doubt (うたがう)を取り上げよう.
 doubt の語源をひもとくと,ラテン語 dubitāre に遡る.このラテン単語は,印欧祖語で「2」を表わす *dwo- の語根(英語の two と同根)を含んでいる.「2つの選択肢の間で選ばなければならない」状態が,「ためらう」「おそれる」「うたがう」などの語義を派生させた.
 その後,このラテン単語は,古フランス語へ douter 「おそれる」「うたがう」として継承された.母音に挟まれたもともとの b が,古フランス語の段階までに音声上摩耗し,消失していることに注意されたい.したがって,古フランス語では発音においても綴字においても b は現われなくなっていた.
 この古フランス語形が,1200年頃にほぼそのまま中英語へ借用され,英単語としての doute(n) が生まれた(フランス語の不定詞語尾の -er を,対応する英語の語尾の -en に替えて取り込んだ).正確にいえば,13世紀の第2四半世紀に書かれた Ancrene Wisse に直接ラテン語綴字を参照したとおぼしき doubt の例がみつかるのだが,これは稀な例外と考えてよい.
 その後,15世紀になると,英語でも直接ラテン語綴字を参照して b を補う語源的綴字 (etymological_respelling) の使用例が現われる.16世紀に始まる英国ルネサンスは,ラテン語を中心とする古典語への傾倒が深まり,一般に語源的綴字も急増した時代だが,実際にはそれに先駆けて15世紀中,場合によっては14世紀以前からラテン語への傾斜は見られ,語源的綴字も散発的に現われてきていた.しかし,b を新たに挿入した doubt の綴字が本格的に展開してくるのは,確かに16世紀以降のことといってよい.
 このようにして初期近代にdoubt の綴字が一般化し,後に標準化するに至ったが,発音については従来の b なしの発音が現在にまで継続している.b の発音(の有無)に関する同時代の示唆的なコメントは,「#1943. Holofernes --- 語源的綴字の礼賛者」 ([2014-08-22-1]) で紹介した通りである.
 もう1つ触れておくべきは,実はフランス語側でも,13世紀末という早い段階で,すでに語源的綴字を入れた doubter が例証されていることだ.中英語期に英仏(語)の関係が密だったことを考えれば,英語については,直接ラテン語綴字を参照したルートのほかに,ラテン語綴字を参照したフランス語綴字に倣ったというルートも想定できることになる.これについては,「#2058. 語源的綴字,表語文字,黙読習慣 (1)」 ([2014-12-15-1]) や Hotta (51ff) を参照されたい.

 ・ Hotta, Ryuichi. "Etymological Respellings on the Eve of Spelling Standardisation." Studies in Medieval English Language and Literature 30 (2015): 41--58.

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2018-05-24 Thu

#3314. 英語史における「言文一致運動」 [japanese][terminology][medium][writing][emode][latin][style]

 言葉は,媒体の観点から大きく「話し言葉」と「書き言葉」に分かれる.書き言葉はさらに,フォーマリティの観点から「口語体」と「文語体」に分かれる.野村 (5) を参照して図示すると次の通り.

          ┌── 話し言葉
言葉 ──┤                    ┌── 口語体
          └── 書き言葉 ──┤
                                └── 文語体

 言語史を考察する場合には,しばしば後者の区分について意識的に理解しておくことが肝心である.現在の日本語でいえば,書き言葉といえば,通常は口語体のことを指す.この記事の文章もうそうだし,新聞でも教科書でも小説でも,日常的に読んでいるもののほとんどが,日常の話し言葉をもとにした口語体である.しかし,明治時代までは漢文や古典日本語に基づいた文語体が普通だった.言文一致運動は,文語体から口語体への移行を狙う運動だったわけだ.
 英語史においても,口語体と文語体の区別を意識しておくのがよい.中世から近代初期にかけて,イングランドにおける主たる書き言葉といえばラテン語(およびフランス語)だった.日常的には話し言葉で英語を使っていながら,筆記する際にはそれに基づいた口語体ではなく,外国語であるラテン語を用いていたのである.英語史における文語体とは,すなわち,ラテン語のことである.
 日英語における文語体の違いは,日本語では古典日本語に基づいたものであり,英語では外国語に基づいたものであるという点だ.だが,日常的に用いている話し言葉からの乖離が著しい点では一致している.近代初期にかけてのイングランドでは,書き言葉がラテン語から英語へと切り替わったが,この動きはある種の言文一致運動と表現することができる.なお,厳密な表音化を目指す綴字改革 (spelling_reform) も言文一致運動の一種とみなすことができるが,ここでは古典語たるラテン語が俗語たる英語にダイナミックに置き換わっていく過程,すなわち書き言葉の vernacularisation を指して「言文一致運動」と呼んでおきたい.
 この英語史における「言文一致運動」については,とりわけ「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) や「#2580. 初期近代英語の国語意識の段階」 ([2016-05-20-1]),「#2611. 17世紀中に書き言葉で英語が躍進し,ラテン語が衰退していった理由」 ([2016-06-20-1]) を参照されたい.

 ・ 野村 剛史 『話し言葉の日本史』 吉川弘文館,2011年.

Referrer (Inside): [2018-08-29-1]

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2018-05-14 Mon

#3304. 規範主義が18世紀に成長した背景,2点 [language_myth][prescriptive_grammar][sociolinguistics][johnson][latin]

 18世紀のイギリスに規範主義が急成長した背景について,「#1244. なぜ規範主義が18世紀に急成長したか」 ([2012-09-22-1]) をはじめとして prescriptive_grammar の記事で取り上げてきた. Aitchison は,2つの強力な社会的要因が背景にあり,規範主義がある種の宗教的な教義にまで持ち上げられたのだと考えている.その2つとは,"The first was a long-standing admiration for Latin, and the second was powerful class snobbery" (10) である.
 まず,ラテン語への憧憬について.西洋においてラテン語の威信がすこぶる高かったのは,中世においてキリスト教会の言語であったこと,そして近代のルネサンス以降に学問の言語となったことによる.すでにラテン語は誰の母語でもなかったにもかかわらず,キケロのように正しく書くことが理想とされ,ラテン語教育が盛んに行なわれてきた.Ben Jonson をして "queen of tongues" と言わしめたほどであり,実際,俗語の文法が記述される際には,常にラテン語文法がモデルとされた.
 このラテン語の圧倒的な威信ゆえに,俗語に対して3つの態度が生じることになった.1つは,言語には固定された正しい語法があるものだという考え方である.もう1つには,ラテン語が専ら書き言葉だったために,話し言葉に対する書き言葉の優越という見方が生じた.最後に,ラテン語が豊富な屈折を示す言語であるために,屈折を大幅に失った英語のような言語は堕落した言語であるという神話が生まれた.
 規範主義が18世紀に成長した2点目の要因は,上流崇拝である.Samuel Johnson がその典型である.Johnson は Dictionary を編纂する際に,上流階級や最良の著者が書き言葉で用いる語(法)を選んで採用し,逆に下層の人々の話し言葉についてはこき下ろした.
 このような時代背景のなかで発展した規範主義と規範文法は,その後の19世紀,20世紀,21世紀にも受け継がれ,いまなお健在である.一つの神話の誕生と成長といってよいだろう.

 ・ Aitchison, Jean. Language Change: Progress or Decay. 4th ed. Cambridge: CUP, 2013.

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2018-05-06 Sun

#3296. stateestate (2) [french][latin][phonetics][euphony][loan_word][doublet]

 かつての記事「#1571. stateestate」 ([2013-08-15-1]) に補足.昨日の記事「#3295. study の <u> が短母音のわけ」 ([2018-05-05-1]) で取り上げた study は,ラテン語の studiāre に端を発し,古フランス語の estudie を経て英語に借用された語である(cf. 現代フランス語 étudier) .今回は,Upward and Davidson (114--15) に依拠し,古フランス語形に見られる類の e- に注目したい.
 ラテン語において sc-, sp-, st- で始まる語は,そのままの形態で英語に借用された場合もあるが,多くはフランス語やスペイン語などを経由して esc-, esp-, est- の形態で英語に入ってきた.フランス語やスペイン語では,ラテン語の問題の2重子音の前に音便 (euphony) として e 音が挿入されるのが常だった(典型的な語頭音添加 (prosthesis) の例;「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1]) を参照).
 ついでに,ラテン語の exc-, exp-, ext- もそれぞれ esc-, esp-, est- へと簡略化されたため,後にはもともとの sc-, sp-, st- と同じ末路をたどることになった(以下では,exc-, exp-, ext- に由来するものに + 記号を付した).
 語頭にこのような形態をもつ語群が少なからず英語に借用され,結果として英語では次の3つのケースが認められる.

 (1) まれなケースではあるが,語頭に e- をもつ語のみが伝わった (ex. eschew, +escord, esplanade)
 (2) しばしば,語頭に e- を持つ語と持たない語が2重語 (doublet) として共存している (ex. +escape/scapegoad, escalope/scallop, escarpment/scarp, especial/special, espy/spy, espouse/spouse, estate/state, +estranged/strange)
 (3) 最も多いのは,語頭に e- を示さない語例である (ex. +scaffold (< OFr eschafalt), +scald (< OFr eschalder), spine (< OFr espine), stage (< OFr estage), stew (< OFr estuve), study (< OFr estudie))

 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2018-04-05 Thu

#3265. 中世から初期近代まで行政の書き言葉標準はずっとラテン語だった [latin][french][standardisation][chancery_standard][reestablishment_of_english][statute_of_pleading]

 15世紀前半に Chancery Standard という書き言葉英語の変種が芽生えたことについて,「#3214. 1410年代から30年代にかけての Chancery English の萌芽」 ([2018-02-13-1]) をはじめとする chancery_standard の記事で述べてきた.これは行政上の文書を記すために用いられた英語変種を指すが,行政の書き言葉標準ということでいえば,イングランド(及びその後の英国)におけるそれは18世紀前半に至るまでラテン語であり続けたという事実は押さえておく必要がある.つまり,真の "Chancery Standard" とは,英語の1変種のことなどではなく,ラテン語のことなのである.Schaefer (214) が次のように書いている.

English was not the language of the administration, but rather the minor partner of French and Latin. As Benskin (2004: 38) unmistakably states: "Chancery Standard was Latin, and save for nine years during the Commonwealth, it remained so until 1731, when for official purposes it was abolished altogether by Act of Parliament.


 英語の書き言葉標準の元祖といわれる Chancery Standard は,"Standard" と呼ばれこそすれ,実際にはより威信の高いラテン語やフランス語の書き言葉に比べれば,マイナーな位置づけにすぎなかったという指摘がおもしろい.
 このように中世から初期近代にかけてのイングランドの公的な書き言葉を巡る状況を俯瞰的に眺めると,しばしば英語の復権 (reestablishment_of_english) を象徴するとみなされている1362年の "Statute of Pleading" (裁判所における訴訟手続の英語化を定めた法律)も,所詮はラテン語とフランス語の盤石な権威に対する小さな抵抗にすぎないとも見えてくる(cf. 「#324. 議会と法廷で英語使用が公認された年」 ([2010-03-17-1])).Schaefer (217) より,関連する言及を引く.

The so-called "Statute of Pleading" of 1362 --- which is so often judged as having considerably raised the status of English --- indeed mandates that English be the (spoken) language of pleading at court. Yet it does so in French --- and in the complicated left-branching syntax of "courtly style" --- because, at the time, French was the language in which royal statutes where (sic) published; and it also regulates that the pleas be "entered and enrolled" in Latin, because this was the language of permanent record.


 ・ Schaefer, Ursula. "Standardization." Chapter 11 of The History of English. Vol. 3. Ed. Laurel J. Brinton and Alexander Bergs. Berlin/Boston: De Gruyter, 2017. 205--23.
 ・ Benskin, Michael. "Chancery Standard." New Perspectives on English Historical Linguistics. Selected Papers from 12 ICEHL, Glasgow, 21--26 August 2002. Vol. 2. Lexis and Transmission. Ed. Christian Kay, Carole Hough, and Irené Wotherspoon. Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins, 2004. 1--40.

Referrer (Inside): [2018-09-21-1]

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