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latin - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-08-28 00:27

2026-08-01 Sat

#6305. B&C の第65節 "The Application of Native Words to New Concepts" (3) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][borrowing][semantic_change][christianity][lexicology][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][helwa]



 Baugh and Cable の精読シリーズ,第65節を読み進め,議論を重ねています.helwa の仲間たちとともにテキストを念入りに読み解いた北千住オフ会での音声を,Voicy heldio にて公開しております.今回もナビゲーターとして全体を引っ張ってくださったのは,お馴染みの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)です.「#1889. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (65-3) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」をぜひお聴きください.
 今回は,キリスト教的な「説教する」「祈る」といった宗教的行為を表わす動詞・名詞において,ラテン語からの直接の借用を避け,アングロサクソン人が元々持っていた本来語の意味を転用させたが扱われています.精読した本文の該当箇所は1文のみで,以下の通りです(Baugh and Cable, p. 86).

Instead of borrowing the Latin word praedicāre (to preach), the English expressed the idea with words of their own, such as lǣran (to teach) or bodian (to bring a message); to pray (L. precāre) was rendered by biddan (to ask) and other words of similar meaning, prayer by a word from the same root, gebed.


 今回注目したのは1文のみですが,the English の定冠詞がもつ意味・意義に注目し,著者の英語史や言語変化に対する姿勢を読み解くというエキサイティングな議論が展開しました.改めてキリスト教の布教と用語の問題,それから読書会に立ち会われたヘルメイトからの質問などについても検討し,豊かな議論の時間を過ごすことができました.
 これまでの B&C 超精読会のアーカイブは,体系的にまとめられており,いつでもさかのぼって学習することができます.「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) に全回へのリンクが整備されておりますので,未聴の回がある方はぜひご参照ください.原書を手元に用意し,音声を副読本のように活用することで,英語史の原典購読の醍醐味を味わっていただけるはずです(使用テキストは最新の第7版ではなく第6版となっております).また,このような精読の輪の中に加わり,一緒に学びを深めたいとお考えの方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」へお越しください.8月の helwa もちょうど本日からスタートです.刺激的で充実した学びの時間が待っています!


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-07-31 Fri

#6304. deeranimal を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん [notice][kdee][hel_education][helkatsu][khelf][terasawashiho][voicy][heldio][semantic_change][etymology][french][latin][borrowing][kenkyusha]



 今朝の Voicy heldio にて「#1888. deer と animal --- 『英語語源辞典』読み解きシリーズ by 寺澤さん&lacolacoさん」を配信しました.前回の beast 編に対応する hellog 記事「#6301. beast を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん」 ([2026-07-28-1])) に続く,『英語語源辞典』 (= KDEE) 読み解きシリーズの後半戦となります.
 今回も khelf(慶應英語史フォーラム)の寺澤志帆さんと,heldio/helwa コアリスナーの lacolaco さんによる対談形式でお届けしています.研究社さんのご許可のもと,今回の精読対象である2語の辞典項目画像を以下に掲載します.


kdee_deer_animal.png



 今回の後半戦は,beast の記事の白ダイヤ(注釈部)に突如現れた2つの重要語 deeranimal へと接続・深掘りしていく展開となりました.
 まず,lacolaco さんがリード役となり deer の項目を読み解いていきます.古英語の本来語 dēor は,もともと一般的な「動物」を意味していました.それが中英語期にフランス語から入ってきた beast に押され,やがて「鹿」という特定の動物へと語義が特殊化していった経緯が紐解かれます.lacolaco さんの精読を受け,寺澤さんが補足やコメントを加える形で解説と議論が深まっていきます.
 後半では,寺澤さんがリード役を務めて animal の項目を精読していきます.ラテン語 anima 「空気,息,命,魂」に由来するこの語が,16世紀の近代英語期に(再)導入され,やがて beast に代わって「動物」の代表表現の座に就いていくプロセスの記述を読み解きます.その後,お二人による beast, deer, animal 全体を俯瞰した総合的なディスカッションへと発展していきます.意味変化が実際にはストレートな過程ではなく,複雑な現象であるという重要な洞察も得られました.
 「本来語 deer > フランス借用語 beast > ラテン借用語 animal」という勢力図の遷移と意味変化のグラデーションが,辞書記述を通じて立体的に浮かび上がってきます.「動物」とはいったい何なのか,という悩ましい問いも立ち上がってきました.解説の最後で突如現れた古英語の家畜を表す単語 nēat に,お二人が「これは何だ?」と困惑する一幕もあり,精読のライブ感が伝わってきます.
 なお,lacolaco さんはご自身の note 過去記事でで deeranimal について整理されていますので,合わせてお読みください.

 ・ 「英語語源辞典通読ノート D (deduce-deictic)」
 ・ 「英語語源辞典通読ノート A (angle-animal)」

 語源辞典を1項目ずつ丁寧に読み解くことで,単なる単語の暗記を超えた英語史のドラマが立ち現れてきますね.ぜひお手元に『英語語源辞典』をご用意の上,または本配信をきっかけに1部入手していただき,この知的な冒険の音源をお楽しみください!


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-07-29 Wed

#6302. B&C の第65節 "The Application of Native Words to New Concepts" (2) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][borrowing][semantic_change][christianity][lexicology][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][helwa]



 Baugh and Cable の第6版をじっくりと読み解いていく「超」精読シリーズの続編です.前日に引き続いて,helwa のオフ会で収録した熱気あふれる音声を Voicy heldio にて共有いたします.今回も解説の進行役を務めてくださっているのは,helwa/heldio でお馴染みの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)です.ぜひ「#1886. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (65-2) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」をお聴きいただければと思います.
 今回の該当箇所では,ラテン語のキリスト教概念を導入するにあたり,英語がどのような本来語を用いてこれらを表現しようとしたのか,その具体例が多数挙げられています.外来語をそのまま取り入れるのではなく,すでにある自言語の語彙を組み合わせて翻訳借用したり,意味を拡張させたりする手法が観察されます.今回精読した英文3文を提示します(Baugh and Cable, p. 86).

Patriarch was rendered literally by hēahfæder (high father), prophet by wītega (wise one), martyr often by the native word þrōwere (one who suffers pain), and saint by hālga (holy one). Specific members of the church organization such as pope, bishop, and priest, or monk and abbot represented individuals for which the English had no equivalent and therefore borrowed the Latin terms; however, they did not borrow a general word for clergy but used a native expression, ðæt gāstlice folc (the spiritual folk). The word Easter is a Germanic word taken over from a pagan festival, likewise in the spring, in honor of Eostre, the goddess of dawn.


 キリスト教宣教団にとって,イングランドの布教のためには,ラテン語の用語を使わずに,土着の人々の言語である古英語を最大限に活用する必要があったにちがいありません.精読会では,この観点を踏まえて突っ込んだ議論が繰り広げられました.皆さんにも一緒にお考えいただき,heldio のコメント欄よりご意見やご質問を寄せていただければと思います.
 この B&C 精読会配信回のバックナンバーは,すべて整理されて保存されています.「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) に過去の配信回がリスト化されていますので,復習や聞き返しにご活用ください.テキストを片手に音声を聴き進めることで,英語史の理解が着実に深まっていきます(読書会では最新の第7版ではなく第6版を使用していますので,お持ちの版をご確認ください).
 さらに,「この濃密な読書会の空間に直接参加してみたい」という方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定チャンネル「英語史の輪 (helwa)」へのご参加をご検討ください.皆さんとともに英語史を深掘りする有意義な時間を共有できます.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-07-28 Tue

#6301. beast を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん [notice][kdee][hel_education][helkatsu][khelf][terasawashiho][voicy][heldio][semantic_change][etymology][french][latin][borrowing][gvs][kenkyusha]



 今朝の Voicy heldio にて「#1885. beast --- 『英語語源辞典』読み解きシリーズ by 寺澤さん&lacolacoさん」を配信しました.先日の「#6298. 好評のうちに完結 --- heldio 『英語語源辞典』読み方シリーズ bear 編」 ([2026-07-25-1]) が好評だったことを受け,heldio での『英語語源辞典』 (=KDEE) の読み解きシリーズを本格的に継続することにしました.
 今回も解説を担当してくれるのは,khelf(慶應英語史フォーラム)のメンバーで「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」を日々連載中の寺澤志帆さんです.そして,もう一方,強力な助っ人にもご参加いただきました.heldio/helwa コアリスナーで「英語語源辞典通読ノート」を執筆されている lacolaco さんです.KDEE 通読・精読のトップランナーのお二人による対談という,実に豪華で魅力的なコラボレーションが実現しました.
 今回注目した単語は beast です.研究社さんのご許可のもと,該当する辞典項目を画像として以下に掲載していますので,ぜひ画像を眺めながら,またお手元に辞書がある方は該当ページを開きながら,じっくりお聴きいただければと思います.


kdee_beast_small.png



 beast の項目の精読・解説は,英語史の深さとおもしろさが凝縮された内容となっています.英語史における初出は1200年より前とされる中英語の文献 Ancrene Riwle に遡ります.まず注目すべきは語義の記述順です.KDEE では「動物」が最初にあがり,続いて「獣;野獣」と記載されています.一般的な英和辞典とは異なり,KDEE では歴史的に古く用いられた意味の順に配列されているため,beast は英語に入ってきた当初,現在の animal に相当する一般的・広義の「動物」を意味していたことが分かります.
 語源としては,中英語の best(e) から大母音推移 (gvs) を経て現代の発音・綴字に至っています.この単語自体は古フランス語 beste (現代フランス語 bête)からの借用であり,それは俗ラテン語 *besta(m) に遡ると考えられ,古典ラテン語 bēstia(m) に対応します.対談では,俗ラテン語(話し言葉)と古典ラテン語(書き言葉)を結ぶ「=」記号の持つ深い意味合いや,凡例の読み解きをめぐり,音源を聴いた私も大いに唸らされる精密な議論が交わされました.
 さらに興味深いのは,beast をめぐる意味変化と「取って代わる関係」のドラマです.beast はもともと古英語の本来語 dēor (現代の deer)に取って代わって一般的名称「動物」の座に就きました.しかし近代英語期になると,今度はラテン語由来の animal にその座を追われ,自身の語義は「野獣,獣」へと限定・縮小していったのです.1611年の近定訳聖書では,まだこの過渡期の様相,すなわち一般の「動物」と「野獣」の両義で使われている状態が観察できます.
  なお,おおもとの印欧祖語としては *dhwes- (息をする)にさかのぼる説も示唆されていますが,これは animal の語根の意味「息をするもの」とも響き合い,言語のロマンを感じさせます.
 語源辞典の記号ひとつにまで目を配る精密な読み解きと,そこから広がる言語変化のダイナミズムを,ぜひ音声でお楽しみください.今回の配信は beast をめぐるお二人の対談の前半戦となりますので,近日公開予定の後半戦もお楽しみに!
 また,寺澤さんの直接の記事「386. beast ―『英語語源辞典』読み解き解説第2弾―」もお読みください.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

Referrer (Inside): [2026-07-31-1]

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2026-07-27 Mon

#6300. B&C の第65節 "The Application of Native Words to New Concepts" (1) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][borrowing][semantic_change][christianity][lexicology][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][helwa]



 英語史の名著,Baugh and Cable のテキスト(第6版)を,helwa のメンバーと「超」精読していくシリーズです.先日土曜日の午後に開催された豊かな読書会の音声を,そのまま Voicy heldio でお届けします.いつものように helwa/heldio の盛り上げ役の Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に読書会をリードしていただいています.「#1884. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (65-1) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」をお聴きください.
 今回は,"The Application of Native Words to New Concepts" と題する節を読み始めています.前節までにみてきたように,古英語期にはラテン語からの借用語が多く流れ込んできました.しかし,ラテン語の影響の大きさはは,そのような直接の借用語だけをみているだけでは,正確につかめません.ラテン語は,英語本来語にも目に見えにくい間接的な影響を少なからず与えているのです.精読対象となった英文を以下に掲げます(Baugh and Cable, pp. 85--86).最初5文をじっくり読んでいきます.

The words that Old English borrowed in this period are only a partial indication of the extent to which the introduction of Christianity affected the lives and thoughts of the English people. The English did not always adopt a foreign word to express a new concept. Often an old word was applied to a new thing and by a slight adaptation made to express a new meaning. The Anglo-Saxons, for example, did not borrow the Latin word deus because their own word God was a satisfactory equivalent. Likewise, heaven and hell express conceptions not unknown to Anglo-Saxon paganism and are consequently English words.


 この B&C 超精読シリーズの過去回は,すべてアーカイヴに保存されており,いつでもお聴きいただけます.「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) にリンクがまとまっているので,ご参照ください.バックナンバーみ聴いた上で,この英語史の古典的テキストを一緒に読んでみたいという方は,ぜひ本書をお手元にご用意ください(最新版は第7版ですが,読書会では第6版を読み進めているので,ご注意ください).また,「超精読会に自分も加わりたい」という方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネルである「英語史の輪 (helwa)」へお越しください.限りなく豊かな時間を過ごすことができます.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-07-17 Fri

#6290. 月刊誌『英語教育』の「いのほた連載」第5回 --- 英語と日本語の語彙の3層構造 [inohota][youtube][inohota_rensai][notice][lexical_stratification][lexicology][japanese][loan_word][french][latin][synonym][nazesantangen][contact]


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  *

 7月14日,大修館書店より月刊誌『英語教育』7月号が刊行されました.今年度,同雑誌において,YouTube 「いのほた言語学チャンネル」でご一緒している同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)とともに,連載企画「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点」を担当しています.
 最新号の第5回の記事は,私が主に執筆しました.タイトルは「英語と日本語の語彙の3層構造」です.新刊『英語語源で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書,通称『なぜさんたんげん』)の第4章第1節「なぜ英語には類義語が多いのか」で注目した話題をご紹介しています.
 英語は語彙が豊富で,類義語も多い言語です.諸言語の最大の辞書の見出し語数で比べてみても,英語は少なく見積もっても60万語(実際には優にその数倍はあると予想されます)と,他の主要な言語を大きく引き離しています.たとえば「尋ねる」を意味する基本的な動詞に ask がありますが,ほかにも inquireinterrogate といった類義語がいくつも存在します.英語に類義語が多い理由は,歴史における他言語との接触の累積によって,語彙の階層構造ができあがってきたことにあります.
 古英語期には,アングロサクソン人が用いていた本来の英単語 ask だけで,一般的な「尋ねる」の意味がおよそまかなわれていました.しかし,1066 年のノルマン征服(フランス北部のノルマン人がイングランドを征服した事件)の余波により,支配層の言語となったフランス語から inquire という語が英語に流入しました.さらに初期近代英語期に入ると,ルネサンス期を特徴づける古典語への関心の高まりにより,権威あるラテン語から interrogate が持ち込まれました.こうして,文化的香りの高いラテン借用語を頂点とし,その下にノルマン征服を象徴するフランス借用語が位置づけられ,さらにその下に被支配者の言語としての英語本来語が置かれる,ピラミッド風の3層構造が英語語彙において確立したのです.
 記事では,他の具体的な例を列挙し,対応する日本語における語彙階層についても触れました.両言語に見られる語彙の階層構造は,各言語の言語接触の歴史の生き証人なのです.過去から現代に至るまで,ことばがいかに社会の影響を受けて変容してきたのかに関心のある方は,ぜひ今回の『英語教育』の連載記事や新刊『なぜさんたんげん』の扉も叩いてみてください.

 ・ 井上 逸兵・堀田 隆一 「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点 第5回 「英語と日本語の語彙の3層構造」『英語教育』2026年8月号,大修館書店,2026年7月14日.44--45頁.
 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-07-07 Tue

#6280. B&C の第64節 "Influence of The Benedictine Reform on English" (3) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][benedictine_reform][christianity][lexicology][borrowing][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][philology]



 昨日に続き,英語史の古典的名著 Baugh and Cable (第6版)を helwa の熱心な仲間たちと1文ずつ解剖していく超精読会の実況録音シリーズです.Voicy heldio の配信と連動しながら,名著の行間から立ち上る歴史の息吹を再現する試みを続けています.
 今朝の heldio 最新回では,第64節 "Influence of The Benedictine Reform on English" の締めくくりとなる後半部分 (p. 85) の精読をお届けしています.今回も,精読のリード役は,helwa/heldio コミュニティに欠かせないヘルメイトであり,同志である Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)です.
 昨日までに見てきたように,ベネディクト改革期に英語へ流入したラテン語借用語の多くは,本を通じて導入された書物的・学術的な用語でした.本日のターゲットとなる英文では,これらの単語が当時の古英語の語彙体系においてどのような位置づけにあったのか,そして文献学的な視点から借用時期をどのように特定・推定すべきなのか,というテーマが議論されます.ラテン語形のまま用いられており完全に同化しなかった単語のリストを眺めながら,文献上の沈黙をどのように解釈すべきかという,文献学や歴史言語学の方法論に関する問題にまで踏み込んで議論しています.ぜひお付き合いください

It would be possible to extend these lists considerably by including words that were taken over in their foreign form and not assimilated. Such words as epactas, corporale, confessores, columba (dove), columne, cathedra, catacumbas, apostata, apocalipsin, acolitus, absolutionem, invitatorium, unguentum, cristalla, cometa, bissexte, bibliothece, basilica, adamans, and prologus show at once by their form their foreign character. Although many of them were later reintroduced into the language, they do not constitute an integral part of the vocabulary at this time. In general, the later borrowings of the Christian period come through books. An occasional word assigned to this later period may have been in use earlier, but there is nothing in the form to indicate it, and in the absence of any instance of its use in the literature before Alfred it is safer to put such borrowings in the latter part of the Old English period.


 この B&C 超精読シリーズの過去回のリンク集へは,「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) からアクセスできます.ぜひ過去回も含めてお聴きになり,本書の精読を通じて,豊穣なる英語史の世界に足を踏み入れていただければ.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-07-06 Mon

#6279. B&C の第64節 "Influence of The Benedictine Reform on English" (2) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][benedictine_reform][christianity][lexicology][borrowing][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][helwa]



 前回の関連記事 ([2026-06-19-1]) に引き続き,Voicy heldio の収録会の形をとりながら,英語史の名著,Baugh and Cable のテキスト(第6版)を,helwa の志高き仲間たちとともに徹底的に精読していく会の記録をお届けします.この熱気あふれる読書会の音声をそのままお届けする heldio 配信シリーズは,コアなリスナーの皆さんの応援に支えられて,ゆっくりとではありますが順調に進んでいます.
 今朝配信の heldio 最新回では,引き続き第64節の精読を進めています.本日のブログ記事はこの音声配信とリンクした内容となります.今回も,helwa/heldio のコミュニティを熱く盛り上げてくださっているヘルメイトであり,コアリスナーの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に,精読をリードしていただきました.
 前回の heldio 配信「#1846. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (64-1) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」では,ベネディクト改革がもたらした宗教関係のラテン借用語に焦点を当てました.今回はさらにその外側に広がる書物的・学術的な語彙へと突入します.古英語期の借用語といえば,キリスト教伝来に伴う初期の日常的・一般的なラテン借用語が想起されますが,ベネディクト改革期にラテン語から流入した語彙の性質はそれらとは一線を画しています.きわめて学術的な専門用語が目立つようになるのです.今回の精読のターゲットとなった英文を以下に掲げます (p. 85) .植物名や医学用語,動物の名称など,当時の知識階級が本を通じて導入した語彙の数々を味わいました.

But we miss the group of words relating to everyday life characteristic of the earlier period. Literary and learned words predominate. Of the former kind are accent, brief (the verb), decline (as a term of grammar), history, paper, pumice, quatern (a quire or gathering of leaves in a book), and term(inus), title. A great number of plant names are recorded in this period. Many of them are familiar only to readers of old herbals. Some of the better known include celandine, centaury, coriander, cucumber, ginger, hellebore, lovage, periwinkle, petersili (parsley), and verbena.9 A few names of trees might be added, such as cedar, cypress, fig, laurel, and magdala (almond).10 Medical terms, like cancer, circulādl (shingles), paralysis, scrofula, plaster, and words relating to the animal kingdom, like aspide (viper), camel, lamprey, scorpion, and tiger, belong apparently to the same category of learned and literary borrowings.

9 A number of interesting words of this class have not survived in modern usage, such as aprotane (wormwood), armelu (wild rue), caric (dry fig), elehtre (lupin), mānrūfie (horehound), nepte (catnip), pollegie (pennyroyal), and hymele (hop-plant).
10 Most of these words were apparently bookish at this time and had to be reintroduced later from French.


 この B&C 超精読シリーズの過去の足跡については,すべてアーカイヴに網羅されており,いつでもバックナンバーにアクセス可能です.各回へのナビゲーションは,「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.この超精読シリーズを通じて知的好奇心をくすぐられた方は,ぜひ本書をお手元にご用意の上,この音声を道しるべに精読体験を味わっていただければ幸いです.さらに,「ただ聴くだけでなく,自分も対面やオンラインの現場に飛び込んでリアルタイムに議論の輪に加わりたい!」という熱量をお持ちの方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネルである「英語史の輪 (helwa)」へのご参加をご検討ください.月額800円,初月無料のサブスクです.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-06-19 Fri

#6262. B&C の第64節 "Influence of The Benedictine Reform on English" (1) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][benedictine_reform][christianity][lexicology][borrowing][latin][loan_word][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate]



 昨日に引き続き,英語史の名著,Baugh and Cable のテキスト(第6版)を,helwa の志高き仲間たちと徹底的に腑に落としていく「超精読会」の記録です.この熱気あふれる現場の音声をそのままお届けする Voicy heldio の配信シリーズも,おかげさまで息長く続いています.
 今朝配信の heldio 最新回では,新しい節の冒頭を精読する回をお届けしています.「#1846. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (64-1) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」 です.本日のブログ記事はこの最新音源と密接にリンクした誌上実況中継となります.
 今回も,helwa/heldio のコミュニティを熱く盛り上げてくださっている重要ヘルメイトであり,コアリスナーの Taku さんことhttps://www.ntu.ac.jp/research/kyoin/kodomo/gakoukyouiku/kaneta_t.html">金田拓さん(帝京科学大学)に,水先案内人として精読をリードしていただきました.
 さて,今回からはいよいよ "Influence of The Benedictine Reform on English" と題された新セクションへ突入します.前回まで追ってきた「ベネディクト改革」という歴史的うねりが,実際の英語の語彙にどのような変化をもたらしたのか,具体的な借用語 (loan_word) のリストとともに検証していくことになります.今回の精読のターゲットとなった英文を以下に掲げます(Baugh and Cable, pp. 84--85).第64節の冒頭から,およそ30分弱をかけて計6文の細部を解剖していきました.

The influence of Latin upon the English language rose and fell with the fortunes of the church and the state of learning so intimately connected with it. As a result of the renewed literary activity just described, a new series of Latin importations took place. These differed somewhat from the earlier Christian borrowings in being words of a less popular kind and expressing more often ideas of a scientific and learned character. They are especially frequent in the works of Ælfric and reflect not only the theological and pedagogical nature of his writings but also his classical tastes and attainments. His literary activity and his vocabulary are equally representative of the movement. As in the earlier Christian borrowings, a considerable number of words have to do with religious matters: alb, Antichrist, antiphoner, apostle, canticle, cantor, cell, chrism, cloister, collect, creed, dalmatic, demon, dirge, font, idol, nocturn, prime, prophet, sabbath, synagogue, troper.


 この B&C 超精読シリーズの過去の足跡については,すべてアーカイヴに網羅されており,いつでもバックナンバーにアクセス可能です.各回へのナビゲーションは,「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をハブとしてご利用ください.英語史のロマンに知的好奇心をくすぐられた方は,ぜひ本書をお手元にご用意の上,この音声を道しるべに深い読書体験を味わっていただければ幸いです.さらに,「ただ聴くだけでなく,自分も対面やオンラインの現場に飛び込んでリアルタイムに議論の輪に加わりたい!」という熱量をお持ちの方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネルである「英語史の輪 (helwa)」へのご参加をご検討ください.知的なお祭りをともに楽しめる仲間を,いつでもお待ちしております.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2026-05-09 Sat

#6221. 医学専門家と『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)について対談しました [heldio][helwa][review][notice][kenkyusha][etymology][vocabulary][latin][greek][lexicology][scientific_english][word_formation][combining_form][etymology][grimms_law]


野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.



 上掲書については,hellog でも「#6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』」 ([2026-04-27-1]) で紹介しました.そこで少し触れていたように,その後,この本をめぐって,医学専門家で heldio/helwa のコアリスナーの「無職さん」こと,佐久間泰司さんと対談する機会を得ました.そちらの音源を heldio 対談として公開していますので,「#1800. 『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)を片手に「無職さん」と対談」をお聴きください(53分ほどの対談です).



 対談では,専門家である無職さんの視点から,本書の画期的な特徴について多角的に語っていただきました.まず驚かされたのは,従来の医学ラテン語の教本は,格変化などの文法事項から入るものが多く,専門外の学生にはきわめてハードルが高かったという実態です.それに対して本書は,語源 (etymology) と連結形 (combining_form) に特化しており,理系人間にとって非常に馴染みやすく,とっつきやすい構成になっているとのことです.
 医学用語の世界では,解剖学用語はラテン語,疾患名はギリシア語が主流であるという興味深い住み分けについても議論が及びました.無職さんによれば,解剖学用語は国際的にラテン語で統一されている一方,ルネサンス期以降に発達した疾患名などにはギリシア語由来の語彙が流入したという背景があるようです.私のような英語史研究者の視点からは,これらが近代英語期以降の科学語彙の爆発的な増加とどのように関わっているのかという点が最大の関心事となりますが,従来の医学の現場では,これらを単なる記号として「丸暗記」してきたという実情も浮き彫りになりました.
 本書の魅力の一つとして,ギリシア神話に絡めたコラムの充実が挙げられます .例えば眠りの神 Hypnoshypnosis(催眠)の関係など,神話という人間臭い物語から説き起こされる語源解説は,私のような文系人間にとっても読み物としておもしろいものです.無職さんも,こうしたコラムがあることで本を開く心理的障壁が下がり,学習の継続につながると太鼓判を押してくれました.
 一方で,専門家の立場からの要望として,発音記号やアクセント表示の有無,あるいは dent-tooth のような一般語と専門語の結びつきを説明してくれる「グリムの法則」 (grimms_law) の解説があればさらに有意義だったのではないか,といった贅沢なツッコミも飛び出しました.しかし,全体としては,無数の医学用語を要素の足し算で効率よく学べる,これまでにない体系的なハンドブックに仕上がっているという評価で一致しました.
 医学英語はもちろん,科学英語 (scientific_english) や語形成 (word_formation) に興味のある方はもちろん,英語史の観点から語彙の国際性を考えてみたい方にとっても,本書は示唆に富む一冊です.医学関係者ならずとも,ぜひ手に取って,その重厚な語源の世界に触れてみてください.
 また,佐久間さんご自身による関連する note 記事「『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』に見る,医学英語教育の新たな地平」も公開されています.そちらもぜひお読みください.

 ・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.

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2026-04-27 Mon

#6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』 [notice][kenkyusha][review][hee][etymology][vocabulary][latin][greek][renaissance][heldio][combining_form][word_formation][lexicology][scientific_english][neologism]

 4月23日に,研究社より英単語の語源に関する書籍が同時に2冊発売されました.研究社からは,昨年6月に,いまもご好評いただいている『英語語源ハンドブック』が出ていますので,この1年の間に3冊も「英語語源本」が上梓されたことになります.英語語源が活況を呈しているといってよいでしょう.
 新しく刊行されたのは次の2冊です.いずれも公式ページから「試し読み」できます.

 ・ 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』(試し読みあり)
 ・ 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』(試し読みあり)

 以下,各々について簡単にご紹介します.


『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』



 まずは池田和夫氏による『語根で覚えるコンパスローズ英単語〈新装版〉』です.本書は2019年に刊行され好評を博した旧版の装いを新たにしたもので,その名の通り「語根」にフォーカスした単語集です.ベースとなっているのは同社の『コンパスローズ英和辞典』の語源コラムですが,本書ではそこに200以上の項目が大幅に加筆されており,計300の「(最)重要語根」が網羅されています.
 特筆すべきは,語彙学習における語源の実用性を数値で示している点です.1001語レベル以上の単語の7割以上は語源知識が役立つとされており,とりわけ中上級者にとってのボキャビルには語根学習が極めて有効であることが強調されています.音声ダウンロードサービスや,お馴染みの「赤シート」も完備されており,受験対策から一般の学び直しまで幅広く対応する,まさに語源学習の完成版といえる一冊です.


野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.



 続いて,木下晃吉氏(監修),野中泉氏・森田勝之氏(編著)による『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』です.一見すると専門的な医学徒向けの書に見えますが,英語史の観点からも興味深い一冊です.医学英単語は,ルネサンス期以降に大量に流入してきたラテン語・ギリシア語の要素の宝庫であり,いわば「連結形」 (combining_form) の見本市のような世界だからです.
 本書の構成は言語学の観点からも医学の観点からも論理的です.「接頭辞+語根+接尾辞」というパーツ分解の解説に始まり,後半では「Body System 別」(脳神経,呼吸器など)」に語彙が整理されています.専門用語が多用される実用的で長めの例文も付されており,音声ダウンロードを活用することで,難解な合成語のアクセントも効率的に習得できるよう工夫されています.付録の「処方箋用語」などは,医学の門外漢の私にとっては,新鮮な切り口でした.また,編著者の目線に立ち,医学語彙を導入する複数の切り口を,本のなかにいかに配置していくかという問題について考えてみたのも,おもしろい体験となりました.医学については何も分からない私ですが,情報量の多い,密度の高い医学英単語ハンドブックであることは確認できました.

 以上,2冊を簡単にご紹介しました.4月24日には,heldio でも「#1790. 研究社より2冊の英語語源本が出ました --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』」と題する配信回でお話ししていますので,そちらも合わせてお聴きいただければ幸いです.また,とりわけ『医学英単語ハンドブック』については,近々に本書をめぐる対談も heldio 配信を予定していますので,ぜひご期待ください.
 そして,『英語語源ハンドブック』もお忘れなく!

 ・ 池田 和夫 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』 研究社,2026年.
 ・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

Referrer (Inside): [2026-05-09-1]

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2026-04-23 Thu

#6205. Scots の歴史に注目すべき理由 [scottish_english][scots][standard_english][sociolinguistics][variety][dialect][language_shift][contact][gvs][oe][literature][aureate_diction][old_norse][french][latin][celtic]

 私たちが日頃英語と呼んでいるものは,たいていイングランド南部の方言に基づいて発展してきた標準英語 (Standard English) にほかなりません.しかし,一歩視点を北へ転じ,スコットランドで話されてきた/いる英語変種 (Scots or Scottish English) に目を向けると,そこには標準英語のパラレルワールドというべき世界と歴史が広がっています.
 本記事では,スコットランドに暮らした/暮らしている経験のある私の贔屓目が効いていることを認めつつ,なぜ Scots とその歴史について知っておくとよいのか,ポイントを整理してみたいと思います.
 Scots とその歴史に注目すべき第1の理由は,Scots が標準英語を相対化するための鏡になり得るという点です.Scots は,イングランドの英語変種を除けば,古英語に直接由来する唯一の英語変種です.ある角度から評すれば,Scots は比較言語学的に English と最も近い言語といえるのです.私たちが学習の目標としている英語が現在の姿になったのは,歴史の必然ではなく,偶然の結果にすぎません.例えば,Scots では大母音推移 (gvs) が部分的にしか起こっておらず,house を古英語以来の音に近い [huːs] と発音したり,長音を表すのに <i> の母音字を添える独自の綴字習慣を持っていたりします.また,現在形の動詞には,主語の人称に限らず軒並み -is が現われるなど,Scots は文法面でも独自の変化を遂げてきています.歴史が異なっていれば,標準英語もあるいはこうなっていたかもしれない,という仮の姿を Scots に見ることで,私たちは標準英語を絶対視せず,斜めから眺める視点を手に入れることができるのです.
 第2に,Scots の歴史は English の歴史に負けず劣らず,言語接触の効果を評価する格好の材料である,という点です.Scots の語彙や表現には,8世紀後半から11世紀のヴァイキング侵攻と関連する古ノルド語の影響,13--14世紀のスコットランド独立運動と関係の深いフランスとの「古来の同盟」(Auld Alliance)がもたらした独自のフランス借用語,そして15世紀に花咲いたラテン語を駆使した華麗な文体 (aureate diction) が刻み込まれています.さらに古くは,ケルト語の基盤もあるわけで,Scots はこの土地における英語史の複雑さを体現する存在となっているのです.
 第3に,Scots には豊かな文学的伝統があります.Robert the Bruce や William Wallace といった中世の英雄に関する物語から,近代の夜明けである15--16世紀の Robert Henryson や William Dunbar などのスコットランドにおけるチョーサーを信奉する詩人たち,そして後期近代の国民的詩人 Burns や作家 Scott に至るまで,Older/Modern Scots で書かれた珠玉の作品が残っています.Scots を学ぶことで,このような言葉の宝ものを直接味わうことができる喜びは格別です.Scots 特有の音楽的な響きは,単なる情報伝達の道具を超えた言語の魅力を,私たちに教えてくれます.
 さらにいえば,Scots の歴史はスコットランドという枠を超えて世界史ともつながっています.Scots-Irish がアメリカ移民史に果たした役割は,いうまでもなく重要です.また,近代日本に計り知れない政治的・経済的影響を与えた,Thomas Blake Glover をはじめとするスコットランドの起業家たちの足跡を考えるとき,彼らの背景にあった言語的アイデンティティを無視することはできません.Scots という英語変種には,国家アイデンティティと言語の関係,あるいは書き言葉と話し言葉が異なるメディアとしていかに機能するかという社会言語学的諸問題が凝縮されてといってよいでしょう.
 Scots とその歴史を学ぶことは,単に1つの非標準英語変種に詳しくなることではありません.それは,英語という言語が示し得た別の可能性,パラレルワールドに思いを馳せ,言語接触,言語交替,規範化の過程を批判的に捉え直す機会でもあるのです.
 以上,スコットランド贔屓の目線から書きました.お目こぼしを.関連して「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]) も参照.

Referrer (Inside): [2026-04-24-1]

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2026-02-15 Sun

#6138. Rome の母音の歴史的変化 [latin][french][italian][pronunciation][vowel][mond]

 「#6128. 1月の mond で10件の問いに回答しました」 ([2026-02-05-1]) のリストで触れたが,先月,知識共有プラットフォーム mond にて次の質問をいただいた.

英語の Rome の o は二重母音 [ou] を持っていますが,古英語の長母音oは現代語で [u:] になるはずなので,この語は古英語からロームと発音されたのではない,中英語以降の再度の借用語なのでしょうか?

 回答をお読みいただければ分かるとおり,なかなか込み入った事情がある.この回答を作成するために周辺を調べ,メモを残しておいたので,それをこちらに残しておきたい.
 まず,現代の Rome の発音は /rəʊm || roʊm/ だが,LPD3 では "Formerly also /ruːm/" とあった.また,OED によると,次のようにあった.

This pronunciation [= /ruːm/] survived in regional speech into the 20th cent. (compare quots. 1873, 1909 at sense 2a; Sc. National Dict. (at Room) records the pronunciation /rum/ as still in use in Banffshire in 1968). It shows the regular reflex of Middle English long close ō, in turn reflecting Old English ō. By contrast, the modern standard pronunciation was influenced by the pronunciation of the Latin and Italian forms of the place name.


 さて,現代ではほぼ聞かれない /ruːm/ は,いつから用いられていたのだろうか.Walker の辞書の1827年版では,この語の発音を /ruːm/ として示しつつ,次の記述を与えている.

The o in this word is irrevocably fixed in the English sound of that letter in move, prove, &c. Pope, indeed, rhymes it with dome,
"Thus when we view some well-proprition'd dome,
"The word's just wonder, and ev'n thine, O Rome!"
But, as Mr. Nares observes, it is most probable that he pronounced this word as if written doom, as he rhymes Rome with doom afterwards in the same poem.
"From the same foes at last both felt their doom;
"And the same age saw learning fall and Rome."
                              Essay on Criticism, v. 685.
The truth is, nothing certain can be concluded from the rhyming of poets. It may serve to confirm an established usage, but can never direct us where usage is various and uncertain. But the pun which Shakespeare puts into the mouth of Cassius in Julius Cæsar decidedly shows what was the pronunciation of this word in his time:
  "Now it is Rome, indeed, and rom enough,
  "When there is in it but one only man."
And the Grammar in Queen Anne's time, recommended by Steele, says the city Rome is pronounced like Room; and Dr. Jones, in his Spelling Dictionary, 1704, gives it the same sound.


 一方,Dobson の示している証拠と,それに基づく解釈は精妙だ (Vol. 2, §154) .

A special case of this variation is Rome, from OE Rōm reinforced by OF Rome. In this word [u:] is normal in the sixteenth and seventeenth centuries, as in Bullokar, Robinson (see further below), Willis, Price (contrast his 'homophone' list; see below), Poole, Lye (following Price), WSC-RS, Brown's 'phonetically spelt' list, and the 'homophone' lists from Butler's onwards, including those of Hodges, Coles's Schoolmaster, and Cooper (which are the best), but with two exceptions (see below). The word has [o:] only in Hart, Price's 'homophone' list (paired with roam; contrast his text, which gives [u:]), and Coles's least selective list, that of the Engl.-Lati. Dict. Cooper in 'editing' the material of earlier 'homophone' lists removes the pairing of Rome with roam to a list of words which are pronounced 'differently' (and not even 'near alike'). Robinson, though he gives [u:] in transcribing Rome in an English text, gives [o:] in Romam in his Latin poem; this important evidence shows that the usual view, that the [o] pronunciation (whence PresE [ou]) in Rome is due to French or Italian influence, is inexact; it is more immediately derived from the English pronunciation of Latin, in which [o] in Roma may show ME substitution of ǭ for ō even in the neighbourhood of a labial, but is more likely to be due to the 'reformed pronunciation', which was based to some extent on foreign models.


 mond の回答でも述べたとおり,Dobson のいう 'reformed pronunciation' (改良発音)が何を指すのかは私には分からないので,この説を適切に評価することができない.ただ,著名な都市名をめぐる発音の問題について,このように熱い議論が交わされていることは知ることができた.

 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
 ・ Walker, John. Critical Pronouncing Dictionary and Expositor of the English Language. London: 1827.
 ・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.

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2026-02-10 Tue

#6133. 日英語の「語彙の3層構造」で大喜利をしました [word_play][lexical_stratification][lexicology][japanese][twitter][loan_word][old_english][middle_english][french][latin][synonym][heldio][notice][kochushoho][kenkyusha][kochukoneta30][hel_ogiri]



 先日2月6日(金)の正午より,Voicy heldio にて「【生配信】日英語「語彙の3層構造」大喜利!皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.
 目下,2月25日に研究社より刊行予定の『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を盛り上げるべく,私の X アカウント @chariderryu より,カウントダウン企画「古中英語30連発」を展開しています.その No. 11 として「英語の語彙は「3階建て」の構造」を紹介したところ,多くの反響をいただきました.
 英語の「英・仏・羅」の3層構造は,日本語の「和語・漢語・外来語」に緩く対応します.そこで,X より呼びかけて,日本語でも英語でも「きれいな3層構造」の例をお寄せくださいと募ったところ,言語センスの光る傑作が続々と寄せられました.その傑作選を声で読み上げたのが,上記の配信回です.私が独断と偏見でおもしろいと思った例(金賞・銀賞・特別賞あり)を取り上げさせていただきましたが,それを hellog にも記録として残しておきたいと思います.日本語の3層構造の事例が中心となりましたが,英語についてもいくつかお寄せいただきました.

【 概念・抽象語部門 】

 ・ ぐちゃぐちゃ・混乱・カオス
 ・ おそれ・恐怖・パニック
 ・ こい(したう)・恋愛/愛情・ラブ

【 日常生活・道具部門 】

 ・ 音入れ・録音機・レコーダー(金賞:TAKAHASHI さん)
 ・ かぎ・錠・キー
 ・ こしかけ・椅子・チェアー
 ・ かなづち・鉄槌・ハンマー
 ・ おたより・郵便・メール
 ・ まなびや・教室・クラスルーム
 ・ つれあい・配偶者・パートナ

【 身体・自然部門 】

 ・ からだ・身体・ボディー
 ・ あたま・頭部・ヘッド
 ・ 天の川・銀河・ギャラクシー
 ・ すばる・昴星・プレアデス
 ・ たから・宝物・トレジャー(銀賞:mozhi gengo さん)

【 動詞部門 】

 ・ 見張る・監視する・モニタリングする(モーラ数の配置が美しい例)
 ・ 車に乗る・運転する・ドライブする
 ・ 繰り返す・復唱する・リピートする
 ・ 打ち込む・入力する・タイプする

【 特異な三層(あるいはそれ以上)部門 】

 ・ パクチー・香菜(こうさい)・シャンツァイ・コリアンダー・コエンドロ(特別賞:川上さん)
 ・ 盲腸・虫垂炎・アッペ(俗称・学術語・ジャーゴンの重なり)

【 英語の3層構造 】

 ・ hurly-burly - confusion - chaos
 ・ fear - terror - panic/phobia
 ・ love - affection - eros/philia
 ・ grasp - seize - capture
 ・ hallow - deify - consecrate
 ・ say - mention - refer
 ・ teacher - tutor - evangelist
 ・ old - ancient - senior
 ・ wonderful - surprising - terrific
 ・ bright - sparkling - splendid
 ・ great - excellent - superb

 いかがでしょうか.「きれいな例」を探すのは意外と難しいものです.単なる言い換えではなく,下層から上層へ向かうにつれて「日常」から「公的」,そして「専門的」あるいは「モダン」へと語感が変わっていくグラデーションが感じられるかどうかがポイントになります.モーラ数・音節数の違いなども意識するとおもしろいですね.
 英語史の観点からいえば,このような語彙の層の厚みは,その言語が歩んできた歴史の厚みそのものでもあります.かつて古英語期には1階建てだった語彙の家が,中英語期にフランス語という2階部分が増築され,さらに近代英語期にかけてはラテン語(やギリシア語)の3階が積み上がってきました.
 拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』の第5章でも詳しく解説していますが,中英語期はまさに1階と2階が混ざり合っていくダイナミズムを観察できる時代です.近刊書『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を通して,ぜひその歴史の現場を追体験してみてください.

 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

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2026-01-27 Tue

#6119. falconl は発音されるかされないか [sobokunagimon][notice][l][silent_letter][etymological_respelling][emode][renaissance][french][latin][spelling_pronunciation_gap][eebo][pronunciation]

 昨日の記事「#6118. salmonl はなぜ発音されないのですか? --- mond の質問」 ([2026-01-26-1]) では,salmon (鮭)の黙字 l の背景にある語源的綴字 (etymological_respelling) の問題を取り上げました.今回は,その関連で,よく似た経緯をたどりながらも現代では異なる結果となっている falcon (ハヤブサ)について話しをしましょう.
 falconsalmon と同様,ラテン語 (falcōnem) に由来し,古フランス語 (faucon) の諸形態を経て中英語に入ってきました.したがって,当初は英語でも l の文字も発音もありませんでした.ところが,16世紀にラテン語綴字を参照して <l> の綴字が人為的に挿入されました.ここまでは salmon とまったく同じ道筋です.
 しかし,現代英語の標準的な発音において,salmon の <l> が黙字であるのに対し,falconl は /ˈfælkən/ や /ˈfɔːlkən/ のように,綴字通りに /l/ と発音されるのが普通です.これは,綴字の発音が引力となって発音そのものを変化させた事例となります.
 ところが,事態はそう単純ではありません.現代の発音実態を詳しく調べてみると,興味深い事実が浮かび上がってきます.LPD3 に掲載されている,英米の一般話者を対象とした Preference Poll の結果を見てみましょう.


falcon_LPD.png



 圧倒的多数が /l/ を発音していますが,英米ともに3%ほどの話者は,現在でも /l/ を響かせない /ˈfɔːkən/ などの古いタイプの発音を使用していることが確認されます.この場合の <l> は黙字となります.さらに興味深いのは,CEPD17 の記述です.この辞書には,特定のコミュニティにおける慣用についての注釈があります.

Note: /ˈfɔː-/ is the usual British pronunciation among people who practise the sport of falconry, with /ˈfɔː-/ and /ˈfɔːl-/ most usual among them in the US.


 鷹匠の間では,イギリスでは /l/ を発音しない形が普通であり,アメリカでもその傾向が見られるというのです.専門家の間では,数世紀前の伝統的な発音が「業界用語」のように化石化して残っているというのは興味深い現象です.
 では,歴史的に見てこの <l> の綴字はいつ頃定着したのでしょうか.Hotta and Iyeiri では,EEBO corpus (Early English Books Online) を用いて,初期近代英語期における falcon の綴字変異を詳細に調査しました.その調査によれば,単数形・複数形を含めて,以下のような37通りもの異形が確認されました (147) .<l> の有無に注目してご覧ください.

falcon, falcons, faulcon, faucon, fawcons, faucons, fawcon, faulcons, falkon, falcone, faukon, faulcone, faukons, falkons, faulcones, faulkon, faulkons, falcones, faulken, fawlcon, fawkon, faucoun, fauken, fawcoun, fawken, falken, fawkons, fawlkon, falcoun, faucone, faulcens, faulkens, faulkone, fawcones, fawkone, fawlcons, fawlkons


 まさに百花繚乱の様相ですが,時系列で分析すると明確な傾向が見えてきます.論文では次のようにまとめています (152) .

FALCON is one of the most helpful items for us in that it occurs frequently enough both in non-etymological spellings without <l> and etymological spellings with <l>. The critical point in time for the item was apparently the middle of the sixteenth century. Until the 1550s and 1560s, the non-etymological type (e.g., <faucon> and <fawcon>) was by far the more common form, whereas in the following decades the etymological type (e.g., <faulcon> and <falcon>) displaced its non-etymological counterpart so quickly that it would be the only spelling in effect at the end of the century.


 つまり,16世紀半ば(1550年代~1560年代)が転換点でした.それまでは faucon のような伝統的な綴字が優勢でしたが,その後,急速に falcon などの語源的綴字が取って代わり,世紀末にはほぼ完全に置き換わったのです.
 salmonfalcon.同じ時期に同じような動機で l が挿入されながら,一方は黙字となり,他方は(専門家を除けば,ほぼ)発音されるようになった.英語の歴史は,こうした予測不可能な個々の単語のドラマに満ちています.
 falcon について触れている他の記事もご参照ください.

 ・ 「#192. etymological respelling (2)」 ([2009-11-05-1])
 ・ 「#488. 発音の揺れを示す語の一覧」 ([2010-08-28-1])
 ・ 「#2099. faultl」 ([2015-01-25-1])
 ・ 「#5981. 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」 ([2025-09-11-1])

 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
 ・ Roach, Peter, James Hartman, and Jane Setter, eds. Cambridge English Pronouncing Dictionary. 17th ed. Cambridge: CUP, 2006.
 ・ Hotta, Ryuichi and Iyeiri Yoko. "The Taking Off and Catching On of Etymological Spellings in Early Modern English: Evidence from the EEBO Corpus." Chapter 8 of English Historical Linguistics: Historical English in Contact. Ed. Bettelou Los, Chris Cummins, Lisa Gotthard, Alpo Honkapohja, and Benjamin Molineaux. Amsterdam: Benjamins, 2022. 143--63.

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2026-01-26 Mon

#6118. salmonl はなぜ発音されないのですか? --- mond の質問 [mond][sobokunagimon][notice][l][silent_letter][etymological_respelling][emode][renaissance][french][latin][spelling_pronunciation_gap][eebo][pronunciation]

salmon はつづりに l があるのに l を発音しないことからして,16~17世紀あたりのつづりと発音の混乱が影響している臭いがします.salmonの発音と表記の歴史について教えてください.


 知識共有プラットフォーム mond にて,上記の質問をいただきました.日常的な英単語に潜む綴字と発音の乖離 (spelling_pronunciation_gap) に関する疑問です.
 結論から言えば,質問者さんの推察は当たっています.salmonl は,いわゆる語源的綴字 (etymological_respelling) の典型例であり,英国ルネサンス期の学者たちの古典回帰への憧れが具現化したものです.
 hellog でもたびたび取り上げてきましたが,英語の語彙の多くはフランス語を経由して入ってきました.ラテン語の salmō (acc. salmōnem) は,古フランス語で l が脱落し saumon などの形になりました.中英語期にこの単語が借用されたとき,当然ながら英語でも l は綴られず,発音もされませんでした.当時の文献を見れば,samonsamoun といった綴字が一般的だったのです.
 ところが,16世紀を中心とする初期近代英語期に入ると,ラテン語やギリシア語の素養を持つ知識人たちが,英語の綴字も由緒正しいラテン語の形に戻すべきだ,と考え始めました.彼らはフランス語化して「訛った」綴字を嫌い,語源であるラテン語の形を参照して,人為的に文字を挿入したのです.
 debtdoubtbreceiptp,そして salmonl などは,すべてこの時代の産物です.これらの源的綴字は,現代英語に多くの黙字 (silent_letter) を残すことになりました.
 しかし,ここで英語史のおもしろい(そして厄介な)問題が生じます.綴字が変わったとして,発音はどうなるのか,という問題です.綴字に引きずられて発音も変化した単語(faultassault など)もあれば,綴字だけが変わり発音は古いまま取り残された単語(debtdoubt など)もあります.salmon は後者のグループに属しますが,この綴字と発音のねじれた対応関係が定着したのは,いつ頃のことだったのでしょうか.
 回答では,EEBO corpus (Early English Books Online) のコーパスデータを駆使して,salmon の綴字に l が定着していく具体的な時期(10年刻みの推移)をグラフで示しました.調査の結果,1530年代から1590年代にかけてが変化の中心期だったことが分かりました.1590年代以降,現代の対応関係が確立したといってよいでしょう.
 回答では,1635年の文献に見られる,あるダジャレの例も紹介しています.また,話のオチとして「鮭」そのものではありませんが,この単語に関連するある細菌(食中毒の原因として有名なアレです)の名前についても触れています.
 なぜ salmonl を発音しないままなのか.その背後にある歴史ドラマと具体的なデータについては,ぜひ以下のリンク先の回答をご覧ください.


mond_20260117.png



 ・ Hotta, Ryuichi and Iyeiri Yoko. "The Taking Off and Catching On of Etymological Spellings in Early Modern English: Evidence from the EEBO Corpus." Chapter 8 of English Historical Linguistics: Historical English in Contact. Ed. Bettelou Los, Chris Cummins, Lisa Gotthard, Alpo Honkapohja, and Benjamin Molineaux. Amsterdam: Benjamins, 2022. 143--63.

Referrer (Inside): [2026-01-31-1] [2026-01-27-1]

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2026-01-08 Thu

#6100. ラテン語やフランス語の命令形に由来する英単語 [latin][french][borrowing][loan_word][imperative]

 英語語彙にはラテン語やフランス語からの借用語が多く含まれているが,元言語の動詞の命令形がそのまま英語に入ってきたという変わり種がいくつか存在する.
 よく知られているのは,tennis だろう.フランス語で「取って」を意味する teneztenetz などの語形が中英語期に借用されたものである.球技での掛け声がそのままゲームの名前になっている.
 以下,気づいた範囲内でいくつか紹介したい.

 ・ recipe (調理法;処方箋): ラテン語で「受け取れ」「服用せよ」ほどを意味する動詞の命令形に由来する.14世紀以降の英語で,薬の処方箋の冒頭に Recipe と書かれるようになったことから.これについては,mond のこちらの回答記事で紹介している.
 ・ permit (許可(証)):『英語語源辞典』によれば「名詞用法は本来は動詞の命令形で,公認書の最初の語に由来する (cf. F Iaissez-passer a permit) 」とのこと.
 ・ ave (アベマリアの祈り;歓迎・別れの挨拶):ラテン語の「元気でいる」を意味する avēre の命令形 avē に由来するとされる.
 ・ occupy (占有する): 『英語語源辞典』によれば「語尾 -y (ME -ie(n)) は非語源的.この種の動詞としては,bandy (<- F bander, levy (<- lever), parry (<- parer) などがあるが,これらは過去分詞または命令形の借用と考えられている」とある.OED はこれらの語形の説明は難しいとしている.

 借用語ではなく本来語の語句ではあるが,riddlemeree (くだらない話し)が Riddle me a riddle! (私のかけた謎を解いてごらん)という命令文に由来するとも知った.こちらは Addison (1719) に初出.
 このような単語は意外と多く存在するのかもしれない.よい集め方はあるだろうか.

(以下,後記:2026/01/09(Fri))
 本記事公開後,読者の方々より X を通じてmemento, facsimile, Audi の事例を教えていただきました.ありがとうございます.

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2025-12-12 Fri

#6073. B&C の第62節 "The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary" (5) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][latin][borrowing][loan_word][christianity][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][oe]



 今朝の Voicy heldio にて「#1657. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-5) with Taku さん --- オンライン超精読会より」をお届けしました.本ブログでも3日前にご案内した「#6070. B&C の第62節 "The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary" (4) --- Taku さんとの超精読会」 ([2025-12-09-1]) の続編となります.
 引き続き,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)の進行のもと,B&C の第62節の最後の3文をじっくりと精読しています.具体的な単語が多く列挙されている箇所なので『英語語源辞典』などを引きながら読むと勉強になるはずです.
 では,今回の精読対象の英文を掲載しましょう(Baugh and Cable, p. 82) .

Finally, we may mention a number of words too miscellaneous to admit of profitable classification, like anchor, coulter, fan (for winnowing), fever, place (cf. market-place), spelter (asphalt), sponge, elephant, phoenix, mancus (a coin), and some more or less learned or literary words, such as calend, circle, legion, giant, consul, and talent. The words cited in these examples are mostly nouns, but Old English borrowed also a number of verbs and adjectives such as āspendan (to spend; L. expendere), bemūtian (to exchange; L. mūtāre), dihtan (to compose; L. dictāre), pīnian (to torture; L. poena), pīnsian (to weigh; L. pēnsāre), pyngan (to prick; L. pungere), sealtian (to dance; L. saltāre), temprian (to temper; L. temperāre), trifolian (to grind; L. trībulāre), tyrnan (to turn; L. tornāre), and crisp (L. crispus, 'curly'). But enough has been said to indicate the extent and variety of the borrowings from Latin in the early days of Christianity in England and to show how quickly the language reflected the broadened horizon that the English people owed to the church.


 B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.B&C 全体でみれば,まだまだこの超精読シリーズも序盤といってよいです.今後もゆっくりペースで続けていくつもりです.ぜひ皆さんも本書を入手し,超精読にお付き合いください.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2025-12-13-1]

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2025-12-09 Tue

#6070. B&C の第62節 "The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary" (4) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][latin][borrowing][loan_word][christianity][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][oe]



 本日 Voicy heldio にて「#1654. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-4) with Taku さん --- オンライン超精読会より」をお届けしました.一昨日,12月7日(日)の午前中にオンラインで開催した超精読会の様子を収録したものの一部です.
 今回も前回に引き続き,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に進行役を務めていただき,さらにヘルメイト数名にもお立ち会いいただきました.おかげさまで,日曜日の朝から豊かで充実した時間を過ごすことができました.ありがとうございます.超精読会の本編だけで1時間半ほど,その後の振り返りでさらに1時間超という長丁場でした.今後 heldio/helwa で複数回に分けて配信していく予定です.
 さて,今朝の配信回でカバーしているのは,B&C の第62節の後半の始まりとなる "But the church . . ." からの4文です.以下に,精読対象の英文を掲載します(Baugh and Cable, p. 82) .

But the church also exercised a profound influence on the domestic life of the people. This is seen in the adoption of many words, such as the names of articles of clothing and household use: cap, sock, silk, purple, chest, mat, sack;6 words denoting foods, such as beet, caul (cabbage), lentil (OE lent), millet (OE mil), pear, radish, doe, oyster (OE ostre), lobster, mussel, to which we may add the noun cook;7 names of trees, plants, and herbs (often cultivated for their medicinal properties), such as box, pine,8 aloes, balsam , fennel, hyssop, lily, mallow, marshmallow, myrrh, rue, savory (OE sæperige), and the general word plant. A certain number of words having to do with education and learning reflect another aspect of the church's influence. Such are school, master, Latin (possibly an earlier borrowing), grammatic(al), verse, meter, gloss, and notary (a scribe).


6 Other words of this sort, which have not survived in Modern English, are cemes (shirt), swiftlere (slipper), sūtere (shoemaker), byden (tub, bushel), bytt (leather bottle), cēac (jug), læfel (cup), orc (pitcher), and strǣl (blanket, rug).
7 Cf. also OE cīepe (onion, ll. cēpa), nǣp (turnip; L. nāpus), and sigle (rye, V.L. sigale).
8 Also sæppe (spruce-fir) and mōrbēam (mulberry tree).


 B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.今後もゆっくりペースですが,続けていきます.ぜひ本書を入手し,超精読にお付き合いいただければ.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2025-12-13-1] [2025-12-12-1]

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2025-09-19 Fri

#5989. B&C の第62節 "The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary" (3) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][latin][borrowing][christianity][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate][oe][hellive2025][loan_word]



 先日 Voicy heldio でお届けした「#1548. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-2) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」の続編を,今朝アーカイヴより配信しました.「#1573. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-3) with Taku さん --- 「英語史ライヴ2025」より」です.これは去る9月13日(土)の「英語史ライヴ2025」にて,朝の7時過ぎから生配信でお届けしたものです.
 今回の超精読会も前回と同様に,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に司会を務めていただきました.現場には,私のほか数名のヘルメイトもギャラリーとして参加しており,早朝からの熱い精読会となっています.40分ほどの時間をかけて,18文ほどを読み進めました.2人の精読にかける熱い想いを汲み取りつつ,ぜひお付き合いいただければ.
 以下に,精読対象の英文を掲載します(Baugh and Cable, pp. 81--82) .

It is obvious that the most typical as well as the most numerous class of words introduced by the new religion would have to do with that religion and the details of its external organization. Words are generally taken over by one language from another in answer to a definite need. They are adopted because they express ideas that are new or because they are so intimately associated with an object or a concept that acceptance of the thing involves acceptance also of the word. A few words relating to Christianity such as church and bishop were, as we have seen, borrowed earlier. The Anglo-Saxons had doubtless plundered churches and come in contact with bishops before they came to England. But the great majority of words in Old English having to do with the church and its services, its physical fabric and its ministers, when not of native origin were borrowed at this time. Because most of these words have survived in only slightly altered form in Modern English, the examples may be given in their modern form. The list includes abbot, alms, altar, angel, anthem, Arian, ark, candle, canon, chalice, cleric, cowl, deacon, disciple, epistle, hymn, litany, manna, martyr, mass, minster, noon, nun, offer, organ, pall, palm, pope, priest, provost, psalm, psalter, relic, rule, shrift, shrive, shrive, stole, subdeacon, synod, temple, and tunic. Some of these were reintroduced later.


 B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.今後もゆっくりペースですが,続けていきます.ぜひ本書を入手し,超精読にお付き合いいただければ.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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