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beowulf - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-23 15:39

2023-09-16 Sat

#5255. Voicy heldio の「ゼロから学ぶはじめての古英語」シリーズへご好評いただいています [oe][masanyan][ogawashun][hel_education][voicy][heldio][runic][anglo-saxon][link][notice][alfred][beowulf][proverb][heldio_community][hajimeteno_koeigo]

 毎朝6時に音声配信している Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「ゼロから学ぶはじめての古英語」シリーズが始まっています(不定期で無料の配信です).第3回まで配信してきましたが,嬉しいことにリスナーの皆さんにはご好評いただいています.各配信回の概要欄やチャプターに紐付けられたリンク先に,題材となっている古英語のテキストなども掲載していますので,そちらを参照しながら聴いていただければと思います.これまでの3回では,アルフレッド大王,古英語の格言,叙事詩『ベオウルフ』に関係する文章が取り上げられています.本当に「初めての方」に向けての講座となっていますので,お気軽にどうぞ.



 ナビゲーターは英語史や古英語を専攻する次の3人です.小河舜さん(フェリス女学院大学ほか)khelf(慶應英語史フォーラム)元会長の「まさにゃん」こと森田真登さん(武蔵野学院大学),および堀田隆一です.3人で楽しそうに話しているのが魅力,との評価もいただいています.
 毎回,厳選された古英語の短文を取り上げ,文字通り「ゼロから」解説しています.日本語による解説つきで気軽に始められる「古英語講座」なるものは,おそらくこれまでどの媒体においても皆無だったのではないでしょうか(唯一の例外は,まさにゃんによる「毎日古英語」かもしれません).このたびのシリーズは,その意味では本邦初といってよい試みとなります.ナビゲーター3人も,肩の力を抜いておしゃべりしていますので,それに見合った気軽さで聴いていただければと思います.
 本シリーズのサポートページとして,まさにゃんによる note 記事「ゼロから学ぶはじめての古英語(#1~#3)」が公開されています.また,X(旧ツイッター)上の「heldio コミュニティ by 堀田隆一」にて関連情報も発信しています.このコミュニティは承認制ですが,基本的にはメンバーリクエストをいただければお入りいただけますので,ぜひご参加ください.
 シリーズの第4弾もお楽しみに!

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2023-08-18 Fri

#5226. アングロサクソン人名の名付けの背景にある2つの動機づけ [name_project][onomastics][personal_name][anglo-saxon][oe][bede][beowulf]

 昨日の記事「#5225. アングロサクソン人名の構成要素 (2)」 ([2023-08-17-1]) で,Clark を参照して Bede にみられる古英語人名の傾向を確認した.そこでの人名を構成する "themes" に対応する語彙は,古英詩 Beowulf でもよく用いられている単語群であり,古英語における文化的キーワードを表わすものといえるかもしれない.
 一方で,名付けの実際に当たっては,それぞれの themes の意味が,古英語期に共時的に理解されていたかどうかは分からない.当初は名前に込められていた「意味」が形骸化するのはよくあることだし,Beowulf の語彙は詩の語彙であり,古英語当時ですら古風だったことは,よく指摘されきたことである.アングロサクソンの文化的キーワードというよりも文化遺産的キーワードといったほうがよいようにも思われる.
 この点について,Clark も慎重な見解を示している (457--58) .

Name themes thus largely parallel the diction of heroic verse . . . . Kindred elements in the diction of Beowulf include common items such as beorht, cēne, cūð, poetic ones such as brego and torht, and also, more strikingly, compounds like frēawine 'lord and friend', gārcēne 'bold with spear', gūðbeorn 'battle-warrior', heaðomǣre 'renowned in battle', hildebill 'battle-blade', wīgsigor 'victorious in battle' . . . . Parallels must not be pressed; for rules of formation differed and, more crucially, such 'meaning' as name-compounds possessed was not in practice etymological. Name-themes might, besides, long out-live related items of daily, even literary, vocabulary: non-onomastic Old English usage shows no cognate of the feminine deuterotheme -flǣd 'beauty' and, as cognates of Tond- 'fire', only the mutated derivatives ontendan 'kindle' and tynder 'kindling wood'. Resemblances between naming and heroic diction nonetheless suggest motivations behind the original Germanic styles: hopes and wishes appropriate to a warrior society, and perhaps belief in onomastic magic . . . .


 引用の最後にあるように,Clark はアングロサクソン人名の名付けの背景にある2つの動機づけとして (1) 戦士社会にふさわしい望みと願い,(2) 名前の魔法への信仰,を挙げている.アングロサクソン特有という見方もできるが,一歩引いて見ればある意味で名付けの普遍的動機づけともとらえられそうだ.
 上で少し触れた名前における「意味」をめぐる問題については,以下も参照.
 
 ・ hellog 「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1])
 ・ hellog 「#5197. 固有名に意味はあるのか,ないのか?」 ([2023-07-20-1])
 ・ heldio 「#665. 固有名詞には指示対象はあるけれども意味はないですよネ」(2023年3月27日)

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

Referrer (Inside): [2023-08-19-1]

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2023-08-08 Tue

#5216. Beowulf について専門家にアレコレ尋ねてみました [beowulf][oe][literature][voicy][heldio][manuscript][rhetoric]

 先日の hellog 「#5206. Beowulf の冒頭11行を音読」 ([2023-07-29-1]) や Voicy heldio 「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」を通じて,古英語で書かれた代表的な英雄詩 Beowulf に関心をもたれた方もいるかと思います.
 前回に引き続き,古英語を専門とする唐澤一友氏(立教大学),和田忍氏(駿河台大学),小河舜氏(フェリス女学院大学ほか)の3名と,酒を交わしながら Beowulf 談義を繰り広げました.とりわけこの作品の専門家である唐澤氏に,Beowulf はいかにして現代に伝わってきたのか,その言葉遣いの特徴は何か,その物語はいつ成立したのか等の質問を投げかけ,回答をいただきました.
 本編のみで40分ほどの長尺となっており(しかも終わりの方は少々荒れてい)ますが,時間のあるときにお聴きいただければ.

 ・ heldio 「#797. 唐澤一友さんに Beowulf のことを何でも質問してみました with 和田忍さん and 小河舜さん」



 この作品に関心を抱いた方は,本ブログの beowulf の各記事もご覧下さい.

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2023-07-30 Sun

#5207. 朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」を終えました [asacul][writing][grammatology][alphabet][notice][spelling][oe][literature][beowulf][runic][christianity][latin][alliteration][distinctiones][punctuation][standardisation][voicy][heldio]

 先日「#5194. 7月29日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」」 ([2023-07-17-1]) でご案内した通り,昨日,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回となる「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」を開講しました.多くの方々に対面あるいはオンラインで参加いただきまして感謝申し上げます.ありがとうございました.
 古英語期中に,いかにして英語話者たちがゲルマン民族に伝わっていたルーン文字を捨て,ローマ字を受容したのか.そして,いかにしてローマ字で英語を表記する方法について時間をかけて模索していったのかを議論しました.ローマ字導入の前史,ローマ字の手なずけ,ラテン借用語の綴字,後期古英語期の綴字の標準化 (standardisation) ,古英詩 Beowulf にみられる文字と綴字について,3時間お話ししました.
 昨日の回をもって全4回シリーズの前半2回が終了したことになります.次回の第3回は少し先のことになりますが,10月7日(土)の 15:00~18:45 に「中英語の綴字 --- 標準なき繁栄」として開講する予定です.中英語期には,古英語期中に発達してきた綴字習慣が,1066年のノルマン征服によって崩壊するするという劇的な変化が生じました.この大打撃により,その後の英語の綴字はカオス化の道をたどることになります.
 講座「文字と綴字の英語史」はシリーズとはいえ,各回は関連しつつも独立した内容となっています.次回以降の回も引き続きよろしくお願いいたします.日時の都合が付かない場合でも,参加申込いただけますと後日アーカイブ動画(1週間限定配信)にアクセスできるようになりますので,そちらの利用もご検討ください.
 本シリーズと関連して,以下の hellog 記事をお読みください.

 ・ hellog 「#5088. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」 ([2023-04-02-1])
 ・ hellog 「#5194. 7月29日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」」 ([2023-07-17-1])

 同様に,シリーズと関連づけた Voicy heldio 配信回もお聴きいただければと.

 ・ heldio 「#668. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」(2023年3月30日)
 ・ heldio 「#778. 古英語の文字 --- 7月29日(土)の朝カルのシリーズ講座第2回に向けて」(2023年7月18日)


Referrer (Inside): [2024-02-03-1] [2023-09-24-1]

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2023-07-29 Sat

#5206. Beowulf の冒頭11行を音読 [voicy][heldio][beowulf][oe][literature][oe_text][popular_passage][manuscript]

 「#2893. Beowulf の冒頭11行」 ([2017-03-29-1]) と「#2915. Beowulf の冒頭52行」 ([2017-04-20-1]) で,古英詩の傑作 Beowulf の冒頭を異なるエディションより紹介しました.今回は Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」と連動させ,この詩の冒頭11行を Jack 版から読み上げてみたので,ぜひ聴いていただければと思います.「#789. 古英詩の傑作『ベオウルフ』の冒頭11行を音読」です.以下に,Jack 版と忍足による日本語訳のテキスト,および写本画像を掲げておきます.



1Hwæt, wē Gār-Dena     in geārdagum, いざ聴き給え,そのかみの槍の誉れ高きデネ人の勲,民の王たる人々の武名は,
2þēodcyninga     þrym gefrūnon,貴人らが天晴れ勇武の振舞をなせし次第は,
3hū ðā æþelingas     ellen fremedon.語り継がれてわれらが耳に及ぶところとなった.
4     Oft Scyld Scēfing     sceaþena þrēatum, シェーフの子シュルドは,初めに寄る辺なき身にて
5monegum mǣgþum     meodosetla oftēah,見出されて後,しばしば敵の軍勢より,
6egsode eorl[as],     syððan ǣrest wearð数多の民より,蜜酒の席を奪い取り,軍人らの心胆を
7fēasceaft funden;     hē þæs frōfre gebād,寒からしめた.彼はやがてかつての不幸への慰めを見出した.
8wēox under wolcnum,     weorðmyndum þāh,すなわち,天が下に栄え,栄光に充ちて時めき,
9oðþæt him ǣghwylc þ[ǣr]     ymbsittendra遂には四隣のなべての民が
10ofer hronrāde     hȳran scolde,鯨の泳ぐあたりを越えて彼に靡き,
11gomban gyldan.     Þæt wæs gōd cyning!貢を献ずるに至ったのである.げに優れたる君王ではあった.



Beowulf MS, fol. 132r



 Beowulf については,本ブログでも beowulf の各記事で取り上げてきました.また,この作品については,先日 Voicy heldio で専門家との対談を収録・配信したので,そちらもお聴き下さい.「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」です.



 古英語の響きに関心を持った方は,ぜひ Voicy heldio より以下もお聴きいただければ.

 ・ 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」
 ・ 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」
 ・ 「#735. 古英語音読 --- マタイ伝「種をまく人の寓話」より毒麦の話」
 ・ 「#766. 古英語をちょっとだけ音読 「キャドモンの賛歌」」

 ・ Jack, George, ed. Beowulf: A Student Edition. Oxford: Clarendon, 1994.
 ・ 忍足 欣四郎(訳) 『ベーオウルフ』 岩波書店,1990年.

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2021-10-12 Tue

#4551. 19世紀に Beowulf の価値が高騰した理由 [beowulf][oe][literature][language_myth][manuscript][history][reformation][philology][linguistic_imperialism][oed]

 「#4541. 焼失を免れた Beowulf 写本の「使い途」」 ([2021-10-02-1]) でみたように,Beowulf 写本とそのテキストは,"myth of the longevity of English" を創出し確立するのに貢献してきた.主に文献学的な根拠に基づいて,その制作時期を紀元700年頃と推定することにより,英語と英文学の歴史的時間幅がぐんと延びることになったからだ.しかも,文学的に格調の高い叙事詩とあっては,うってつけの宣伝となる.
 Beowulf の価値が高騰し,この「神話」が醸成されたのは,19世紀だったことに注意が必要である.なぜこの時期だったのだろうか.なぜ,例えばアングロサクソン学が始まった16世紀などではなかったのだろうか.Watts (52) は,これが19世紀的な現象であることを次のように説明している.

As a whole the longevity of English myth, consisting of the ancient language myth and the unbroken tradition myth, was a nineteenth-century phenomenon that lasted almost till the end of the twentieth century. The need to establish a linguistic pedigree for English was an important discourse archive within the framework of the growth of the nation-state and the Age of Imperialism. In the face of competition from other European languages, particularly French, it was perhaps necessary to construct English as a Kultursprache, and one way to do this was to trace English to its earliest texts.


 端的にいえば,イギリスは,イギリス帝国の威信を対外的に喧伝するために,その象徴である英語という言語が長い伝統を有することを,根拠をもって示す必要があった,ということだ.歴史的原則に立脚した OED の編纂も,この19世紀の文脈のなかでとらえる必要がある(cf. 「#3020. 帝国主義の申し子としての比較言語学 (1)」 ([2017-08-03-1]),「#3021. 帝国主義の申し子としての比較言語学 (2)」 ([2017-08-04-1]),「#3376. 帝国主義の申し子としての英語文献学」 ([2018-07-25-1])).
 16世紀には,さすがにまだそのような動機づけは存在していなかった.その代わりに16世紀のイングランドには別の関心事があった.それは,ヘンリー7世によって開かれたばかりのテューダー朝をいかに権威づけるか,そしてヘンリー8世によって設立された英国国教会をいかに正当化するか,ということだった.この目的のために,ノルマン朝より古いアングロサクソン時代に,キリスト教文典や法律が英語という土着語で書かれていたという歴史的事実が利用されることになった.テューダー朝はとりわけ宗教改革に揺さぶられていた時代であるから,宗教的なテキストの扱いには慎重だった.一方,Beowulf のような民族叙事詩のテキストには,相対的にいってさほどの関心が注がれなかったというわけだ.Watts (52) は次のように述べている.

The dominant discourse archive at this particular moment of conjunctural time [= the sixteenth century] was religious. It was the struggle to assert Protestantism after the break with the Church of Rome that determined the focus on religious, legal, constitutional and historical texts of the Anglo-Saxon era. The Counter-Reformation in the seventeenth century sustained this dominant discourse and relegated interest in the longevity of the language and the poetic value of texts like Beowulf till a much later period.


 ・ Watts, Richard J. Language Myths and the History of English. Oxford: OUP, 2011.

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2021-10-02 Sat

#4541. 焼失を免れた Beowulf 写本の「使い途」 [beowulf][oe][literature][language_myth][manuscript]

 1731年10月23日,ウェストミンスターのアシュバーナム・ハウスが火事に見舞われた.そこに収納されていたコットン卿蔵書 (Cottonian Library) も焼けたが,辛くも焼失を免れた古写本のなかに古英語の叙事詩 Beowulf のテキストを収めた写本があった.これについて Watts (29) が次のように述べている.

The loss of Beowulf would have meant the loss of the greatest literary work and one of the most puzzling and enigmatic texts produced during the Anglo-Saxon period.


 仮定法の文だが,裏を返せば英文学を代表する最も偉大な作品が奇跡的にも火事から救われたという趣旨の文である.英文学者や英語史学者ならずとも,ほとんどの人々が,この写本が消失を免れて本当によかったと思うだろう.
 しかし,「言語の神話」の解体をもくろむ Watts の考えは異なる.焼失したほうがよかったと主張するわけでは決してないが,驚くことに次のように文章を続けるのだ.

But it would also have made one of the most powerful linguistic myths focusing on the English language, the myth of the longevity of English, immeasurably more difficult to construct. This is not because other Anglo-Saxon texts have not come down to us; it is, rather, because of the perceived literary and linguistic value of Beowulf. To construct the longevity myth one needs to locate such texts, and the further back in time they can be located, the "older" the language becomes and the greater is the "cultural" significance that can be associated with that language.


 Watts の主張は,焼失を免れた Beowulf 写本は,英語に関する最も強力な神話,すなわち「英語長寿神話」を創出し,確立させるのに利用されてきたということだ.Beowulf 写本が生き残ったことにより「英語は歴史のある偉大な言語である」と言いやすくなったというわけだ.
 現に Beowulf 写本が生き残ったのは偶然である.別の棚に保存されていたら焼失していたかもしれない.そして,もし焼けてしまっていたならば,英文学や英語はさほど歴史がないことになり,さほど偉大でもなくなるだろう.英文学や英語は別の「売り」を探さなければならなかったに違いない.
 この見方は,英文学や英語が偉大かそうでないかは火事の及んだ範囲という偶然に依存しており,必然的に,あるいは本質的に偉大なわけではないという洞察につながる.これが,Watts が神話の解体によって行なおうとしていることなのだろう.

 ・ Watts, Richard J. Language Myths and the History of English. Oxford: OUP, 2011.

Referrer (Inside): [2021-10-12-1]

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2017-04-20 Thu

#2915. Beowulf の冒頭52行 [beowulf][link][oe][literature][popular_passage][oe_text]

 「#2893. Beowulf の冒頭11行」 ([2017-03-29-1]) で挙げた11行では物足りなく思われたので,有名な舟棺葬 (ship burial) の記述も含めた Beowulf 冒頭の52行を引用したい.舟棺葬とは,6--11世紀にスカンディナヴィアとアングロサクソンの文化で見られた高位者の葬法である.
 原文は Jack 版で.現代英語訳は Norton Anthology に収録されているアイルランドのノーベル文学賞受賞詩人 Seamus Heaney の版でお届けする.

OEPDE translation
a-verseb-verse
Hwæt, wē Gār-Denain geārdagum,So. The Spear-Danes in days gone by
þēodcyningaþrym gefrūnon,and the kings who ruled them had courage and greatness.
hū ðā æþelingasellen fremedon.We have heard of those princes' heroic campaigns.
   Oft Scyld Scēfingsceaþena þrēatum,   There was Shield Sheafson, scourge of many tribes,
5monegum mǣgþummeodosetla oftēah,a wrecker of mead-benches, rampaging among foes.
egsode eorl[as],syððan ǣrest wearðThis terror of the hall-troops had come far.
fēasceaft funden;hē þæs frōfre gebād,A foundling to start with, he would flourish later on
wēox under wolcnum,weorðmyndum þāh,as his powers waxed and his worth was proved.
oðþæt him ǣghwylc þ[ǣr]ymbsittendraIn the end each clan on the outlying coasts
10ofer hronrādehȳran scolde,beyond the whale-road had to yield to him
gomban gyldan.Þæt wæs gōd cyning!and begin to pay tribute. That was one good king.
Ðǣm eafera wæsæfter cenned   Afterward a boy-child was born to Shield,
geong in geardum,þone God sendea cub in the yard, a comfort sent
folce tō frōfre;fyrenðearfe ongeatby God to that nation. Hew knew what they had tholed,
15þ[e] hīe ǣr drugonaldor[lē]asethe long times and troubles they'd come through
lange hwīle.Him þæs Līffrēa,without a leader; so the Lord of Life,
wuldres Wealdendworoldāre forgeaf;the glorious Almighty, made this man renowned.
Bēowulf wæs brēme---blǣd wīde sprang---Shield had fathered a famous son:
Scyldes eaferaScedelandum in.Beow's name was known through the north.
20Swā sceal [geong g]umagōde gewyrcean,And a young prince must be prudent like that,
fromum feohgiftumon fæder [bea]rme,giving freely while his father lives
þæt hine on yldeeft gewunigenso that afterward in age when fighting starts
wilgesīþasþonne wīg cume,steadfast companions will stand by him
lēode gelǣsten;lofdǣdum scealand hold the line. Behavior that's admired
25in mǣgþa gehwǣreman geþēon.is the path to power among people everywhere.
   Him ðā Scyld gewāttō gescæphwīle,   Shield was still thriving when his time came
felahrōr fēranon Frēan wǣre.and he crossed over into the Lord's keeping.
Hī hyne þā ætbǣrontō brimes faroðe,His warrior band did what he bade them
swǣse gesīþas,swā hē selfa bæd,when he laid down the law among the Danes:
30þenden wordum wēoldwine Scyldinga;they shouldered him out to the sea's flood,
lēof landfrumalange āhte.the chief they revered who had long ruled them.
Þǣr æt hȳðe stōdhringedstefnaA ring-whorled prow rode in the harbor,
īsig ond ūtfūs,æþelinges fær;ice-clad, outbound, a craft for a prince.
ālēdon þālēofne þēoden,They stretched their beloved lord in his boat,
35bēaga bryttanon bearm scipes,laid out by the mast, amidships,
mǣrne be mæste.Þǣr wæs mādma felathe great ring-giver. Far-fetched treasures
of feorwegum,frætwa gelǣded;were piled upon him, and precious gear.
ne hȳrde ic cȳmlīcorcēol gegyrwanI never heard before of a ship so well furbished
hildewǣpnumond heaðowǣdum,with battle-tackle, bladed weapons
40billum ond byrnum;him on bearme lægand coats of mail. The massed treasure
mādma mænigo,þā him mid scoldonwas loaded on top of him: it would travel far
on flōdes ǣhtfeor gewītan.on out into the ocean's sway.
Nalæs hī hine lǣssanlācum tēodan,They decked his body no less bountifully
þēodgestrēonum,þon þā dydonwith offerings than those first ones did
45þe hine æt frumsceafteforð onsendonwho cast him away when he was a child
ǣnne ofer ȳðeumborwesende.and launched him alone out over the waves.
Þā gȳt hie him āsettonsegen g[yl]denneAnd they set a gold standard up
hēah ofer hēafod,lēton holm beran,high above his head and let him drift
gēafon on gārsecg.Him wæs geōmor sefa,to wind and tide, bewailing him
50murnende mōd.Men ne cunnonand mourning their loss. No man can tell,
secgan tō sōðe,selerǣden[d]e,no wise man in hall or weathered veteran
hæleð under heofenum,hwā þǣm hlæste onfēng.knows for certain who salvaged that load.


 ・ Jack, George, ed. Beowulf: A Student Edition. Oxford: Clarendon, 1994.
 ・ Greenblatt, Stephen, ed. The Norton Anthology of English Literature. 8th ed. New York:: Norton, 2006.

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2017-03-29 Wed

#2893. Beowulf の冒頭11行 [beowulf][link][oe][literature][popular_passage][oe_text][hel_education]

 Beowulf は,古英語で書かれた最も長い叙事詩(3182行)であり,アングロサクソン時代から現存する最も重要な文学作品である.スカンディナヴィアの英雄 Beowulf はデンマークで怪物 Grendel を殺し,続けてその母をも殺した.Beowulf は後にスウェーデン南部で Geat 族の王となるが,年老いてから竜と戦い,戦死する.
 この叙事詩は,古英語で scop と呼ばれた宮廷吟遊詩人により,ハープの演奏とともに吟じられたとされる.現存する唯一の写本(1731年の火事で損傷している)は1000年頃のものであり,2人の写字生の手になる.作者は不詳であり,いつ制作されたかについても確かなことは分かっていない.8世紀に成立したという説もあれば,11世紀という説もある.
 冒頭の11行を Crystal (18) より,現代英語の対訳付きで以下に再現しよう.

1HǷÆT ǷE GARDEna in ȝeardaȝum .Lo! we spear-Danes in days of old
2þeodcyninȝa þrym ȝefrunonheard the glory of the tribal kings,
3hu ða æþelinȝas ellen fremedon .how the princes did courageous deeds.
4oft scyld scefing sceaþena þreatumOften Scyld Scefing from bands of enemies
5monegū mæȝþum meodo setla ofteahfrom many tribes took away mead-benches,
6eȝsode eorl[as] syððan ærest ƿearðterrified earl[s], since first he was
7feasceaft funden he þæs frofre ȝebadfound destitute. He met with comfort for that,
8ƿeox under ƿolcum, ƿeorðmyndum þah,grew under the heavens, throve in honours
9oðþ[æt] him æȝhƿylc þara ymbsittendrauntil each of the neighbours to him
10ofer hronrade hyran scoldeover the whale-road had to obey him,
11ȝomban ȝyldan þ[æt] ƿæs ȝod cyninȝ.pay him tribute. That was a good king!


 冒頭部分を含む写本画像 (Cotton MS Vitellius A XV, fol. 132r) は,こちらから閲覧できる.その他,以下のサイトも参照.

 ・ Cotton MS Vitellius A XV, Augustine of Hippo, Soliloquia; Marvels of the East; Beowulf; Judith, etc.: 写本画像を閲覧可能.
 ・ Beowulf: BL による物語と写本の解説.
 ・ Beowulf Readings: 古英語原文と「読み上げ」へのアクセスあり.
 ・ Beowulf Translation: 現代英語訳.
 ・ Diacritically-Marked Text of Beowulf facing a New Translation (with explanatory notes): 古英語原文と現代英語の対訳のパラレルテキスト.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

Referrer (Inside): [2023-07-29-1] [2017-04-20-1]

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2016-08-25 Thu

#2677. Beowulf にみられる「王」を表わす数々の類義語 [synonym][oe][lexicology][compounding][kenning][beowulf][metonymy]

 古英語は複合 (compounding) による語形成が非常に得意な言語だった.これは「#1148. 古英語の豊かな語形成力」 ([2012-06-18-1]) でも確認済みだが,複合語はとりわけ韻文において最大限に活用された.実際 Beowulf に代表される古英詩においては「王」「勇士」「戦い」「海」などの頻出する概念に対して,様々な類義語 (synonym) が用いられた.これは,単調さを避けるためでもあったし,昨日の記事「#2676. 古英詩の頭韻」 ([2016-08-24-1]) で取り上げた頭韻の規則に沿うために種々の表現が必要だったからでもあった.
 以下,Baker (137) より,Beowulf (及びその他の詩)に現われる「王,主君」を表わす類義語を列挙しよう(複合語が多いが,単形態素の語も含まれている).

bēagġyfa, masc. ring-giver.
bealdor, masc. lord.
brego, masc. lord.
folcāgend, masc. possessor of the people.
folccyning, masc. king of the people.
folctoga, masc. leader of the people.
frēa, masc. lord.
frēadrihten, masc. lord-lord.
frumgār, masc. first spear.
godlgġyfa, masc. gold-giver.
goldwine, masc. gold-friend.
gūðcyning, masc. war-king.
herewīsa, masc. leader of an army.
hildfruma, masc. battle-first.
hlēo, masc. cover, shelter.
lēodfruma, masc. first of a people.
lēodġebyrġea, masc. protector of a people.
mondryhten, masc. lord of men.
rǣswa, masc. counsellor.
siġedryhten, masc. lord of victory.
sincġifa, masc. treasure giver.
sinfrēa, masc. great lord.
þenġel, masc. prince.
þēodcyning, masc. people-king.
þēoden, masc. chief, lord.
wilġeofa, masc. joy-giver.
wine, masc. friend.
winedryhten, masc. friend-lord.
wīsa, masc. guide.
woroldcyning, masc. worldly king.


 ここには詩にしか現われない複合語も多く含まれており,詩的複合語 (poetic compound) と呼ばれている.第1要素が第2要素を修飾する folccyning (people-king) のような例もあれば,両要素がほぼ同義で冗長な frēadrihten (lord-lord) のような例もある.さらに,メトニミーを用いた謎かけ・言葉遊び風の bēagġyfa (ring-giver) もある.最後に挙げた類いの比喩的複合語は kenning と呼ばれ,古英詩における大きな特徴となっている(「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).

 ・ Baker, Peter S. Introduction to Old English. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.

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