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alliteration - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2018-12-15 06:52

2018-11-10 Sat

#3484. 英詩の形式の変遷 [poetry][prosody][literature][alliteration][rhyme][meter][shakespeare]

 岡崎 (71) によれば,古英語以来,英詩の形式は,リズム,押韻方法,詩行構造,種類という点において大きな変化を遂げてきた.

 a. リズム:強弱から弱強へ
 b. 押韻:頭韻から脚韻へ
 c. 詩行構造:不定の長さ(音節数)から定まった長さ(音節数)へ
 d. 種類:単一の形式から多様な形式へ


 古英語期から中英語期へ,そして近代英語期以降へと,英詩の形式は確かに大変化に見舞われてきた.背景には,英語の音変化や外来の詩型からの影響というダイナミックな要因が関与している.それぞれの時代の代表的な詩型の種類と特徴を,岡崎の要約により示そう.

[ 古英語頭韻詩 ](p. 71)

 a. 1行(長行,long-line)は,二つの半行 (half-line) から構成されている.
 b. 半行の音節数は3音節以上だが,一定していない.
 c. 頭韻する分節音は,第1半行(前半)に最大二つ,第2半行(後半)に一つ.
 d. 半行中で頭韻する分節音を含む音節が強音部となり,強弱の韻律が実現される.

[ 中英語頭韻詩 ](p. 73)

 a. 音節数不定の長行が基本単位(の可能性が高い).
 b. 頭韻する子音を含む語が1行に最小で二つ,最大で四つ.三つの場合が多い.
 c. 頭韻詩ごとに個々の独自の詩型がある.

[ 中英語の様々な脚韻詩 ](p. 75)

 a. 8詩脚の脚韻付連句:1行16音節.弱強8詩脚.2行1組.第4詩脚のあとに行中休止 (caesura) .半行末で脚韻.
 b. アレグザンダー詩行 (Alexandrine) :1行12音節.弱強6詩脚.行末で脚韻.
 c. 弱強5歩格 (iambic pentameter) :1行10音節.弱強5詩脚.行末で脚韻.
 d. 弱強4歩格 (iambic tetrameter) :1行8音節.弱強4詩脚.行末で脚韻.
 e. 弱強3歩格 (iambic trimeter) :1行6音節.弱強3詩脚.アレグザンダー詩行を二分割したもの.
 f. (stanza) :複数行からなる詩行の意味上のまとまり.
 g. 2行連 (couplet) :2行から構成される詩行の意味上のまとまり.
 h. 尾韻 (tail rhyme) :6行1組で脚韻型が aabccb の詩.ラテン語の賛美歌から.
 i. 帝王韻 (rhyme royal) :7行連の弱強5歩格の詩で,脚韻型が abcbbcc.
 j. ボブ・ウィール連 (bob-wheel stanza) :5行の脚韻詩行で,第1行のボブは1強勢,それに続く4行のウィールの各行は3強勢.脚韻型は ababa.
 k. バラッド律 (ballad meter) :4行連 (quatrain) が基本の詩型.弱強4歩格と弱強3歩格の2行連二つから構成される.3歩格詩行の行末が脚韻.

[ 近代英語以降の脚韻詩 ](pp. 76--79)

 ・ 弱強(5歩)格 (iambic pentameter) を中心としつつも,弱弱強格 (anapestic meter),強弱格 (trochaic meter),強弱弱格 (dactylic meter),無韻詩 (blank verse),自由詩 (free verse) など少なくとも11種類の詩型が出現した.
 ・ 詩脚と実際のリズムの間に不一致 (mismatch) がある.詩脚のW位置に強勢音節が配置される不一致型には規則性があり,統語構造をもとに一般化できる.
 ・ Shakespeare のソネット:弱強5歩格「4行連×3+2行」という構成で,ababcdcdefefgg の脚韻型を示す.
 ・ 句またがり (enjambment) の使用:詩行末が統語節末に対応しない現象.行末終止行 (end-stopped line) と対比される.

 英詩の種類の豊富さは,歴史のたまものである.これについては「#2751. T. S. Eliot による英語の詩の特性と豊かさ」 ([2016-11-07-1]) も参照.

 ・ 岡崎 正男 「第4章 韻律論の歴史」 服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.71--88頁.

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2018-06-01 Fri

#3322. Many a mickle makes a muckle [proverb][phonaesthesia][sound_symbolism][alliteration][folk_etymology]

 「塵も積もれば山となる」に対応する英語の諺について「#564. Many a little makes a mickle」 ([2010-11-12-1]) で取り上げた.強弱音節が繰り返される trochee の心地よいリズムの上に,語頭音として m が3度繰り返される頭韻 (alliteration) も関与しており,韻律的にも美しいフレーズである.
 この諺には標記の「崩れた」ヴァージョンがあり,そちらもよく聞かれるようだ.muckle は語源的には mickle の異なる方言形にすぎず,同義語といってよい.
「#1557. mickle, much の語根ネットワーク」 ([2013-08-01-1]) で述べたように,古英語の myċel と同根だが,中英語では方言によって第1母音と第2子音が様々に変異し,多くの異形態が確認される.大雑把にいえば,mickle は北部方言寄り,muckle は中部方言寄りととらえておいてよい(MEDmuchel (adj.) の異綴字を参照).
 だが,micklemuckle が同義語ということになると,標記のヴァージョンは「山も積もれば山となる」ということになり,諺として意味をなさない.これが有意義たり得るためには,micklelittle が同義語であると勘違いされていなければならない.そして,このヴァージョンは,実際にそのような誤解のもとに成り立っているに違いない.民間語源 (folk_etymology) の1例とみなせそうだ.
 しかし,この誤解なり勘違いに基づく民間語源は,なかなかよくできた例である.まず,結果的に正しいヴァージョンよりも1つ多くの頭韻を踏んでいることになり,リズム的には完璧に近い.さらに,mickle が「小」で muckle が「大」という理解(あるいは誤解)は,「#242. phonaesthesia と 遠近大小」 ([2009-12-25-1]) で触れたように,英語の音感覚性 (phonaesthesia) に対応している.英語には,前舌母音の /ɪ/ が小さなものを, 後舌母音の /ʊ/ (現在の /ʌ/ はこの後舌母音からの発達)が大きなものを象徴する例が少なくない.かくして,「崩れた」ヴァージョンは,英語話者の音象徴 (sound_symbolism) の直感にも適っているのである.こちらのヴァージョンは初例が1793年となっており,正しいヴァージョンの1250年(より前)と比べればずっと新しいものだが,今後も人気を上げていく可能性があるかも!?

Referrer (Inside): [2018-08-22-1]

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2018-01-24 Wed

#3194. ノルマン征服後,英語が用いられなくなったことへの嘆き [norman_conquest][me_text][scribe][manuscript][alliteration][laeme][bible]

 Worcester Cathedral, Dean and Chapter Library F 174 という写本の Fol. 63r, lines 14--28 に,緩い頭韻を示す短いテキストが収められている.オリジナルは古英語で書かれていたようだが,このテキストの言語はすでに初期中英語的な特徴を示している.写本はおそらく13世紀の第2四半世紀 (C13a2) に成立した.このテキストの直前には Ælfic の GrammarGlossary が,直後には "Body and Soul" に関する頭韻詩が収められている.写本全体が "Worcester tremulous hand" として知られる写字生によって書かれている.
 テキストの内容は,標題に示唆したように,ノルマン征服後に教育などの公的な場面で英語が用いられなくなってしまったことへの嘆きである.征服前の古英語期には英語で教育が行なわれ,イングランドは文化的に反映していたのに,今や英語を話さないノルマン人が教師となってしまっている,嗚呼,嘆かわしいことよ,という趣旨だ.
 ポイントは,l. 15 と l. 18 の対比である.古英語期にはアングロサクソン人の教師が英語で人々を教育していたが (l. 15),ノルマン征服後の今では「他の人々」,すなわち大陸から渡ってきたノルマン人が(他の言語で)人々を教育していると,書き手は嘆いている.英語が公的な地位から振り落とされ,学問からも遠ざけられた様子がわかる.Dickins and Wilson 版 (2) のテキストを示そう.

[S]anctus Beda was iboren her on Breotene mid us, 
And he wisliche [bec] awende 
Þet þeo Englise leoden þurh weren ilerde. 
And he þeo c[not]ten unwreih, þe questiuns hoteþ, 
Þa derne diȝelnesse þe de[or]wurþe is.5
Ælfric abbod, þe we Alquin hoteþ, 
He was bocare, and þe [fif] bec wende, 
Genesis, Exodus, Vtronomius, Numerus, Leuiticus, 
Þu[rh] þeos weren ilærde ure leoden on Englisc. 
Þet weren þeos biscop[es þe] bodeden Cristendom,10
Wilfrid of Ripum, Iohan of Beoferlai, Cuþb[ert] of Dunholme, 
Oswald of Wireceastre, Egwin of Heoueshame, Æld[elm] of 
Malmesburi, Swiþþun, Æþelwold, Aidan, Biern of Wincæstre, 
[Pau]lin of Rofecæstre, S. Dunston, and S. Ælfeih of Cantoreburi. 
Þeos læ[rden] ure leodan on Englisc,15
Næs deorc heore liht, ac hit fæire glod. 
[Nu is] þeo leore forleten, and þet folc is forloren. 
Nu beoþ oþre leoden þeo læ[reþ] ure folc, 
And feole of þen lorþeines losiæþ and þet folc forþ mid. 
Nu sæiþ [ure] Drihten þus, Sicut aquila prouocat pullos suos ad volandum, et super eo[s uolitat.]20
This beoþ Godes word to worlde asende, 
Þet we sceolen fæier feþ [festen to Him.] 


 l. 20 のラテン語は,Deuteronomy 32:11 より.The King James Version から対応箇所を引用すると "As an eagle stirs up her nest, flutters over her young, spreads abroad her wings, takes them, bears them on her wings: / So the Lord alone did lead him, and there was no strange god with him." (ll. 11--12) とある.よそから来た「神」が疎ましい,という引っかけか.
 この写本については,LAEME よりこちらの情報も参照.

 ・ Dickins, Bruce and R. M. Wilson, eds. Early Middle English Texts. London: Bowes, 1951.

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2017-10-30 Mon

#3108. ノルマン征服がなかったら,英語は・・・? [hel_education][history][loan_word][spelling][stress][rsr][gsr][rhyme][alliteration][gender][inflection]

 「#119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!?」 ([2009-08-24-1]) や「#3097. ヤツメウナギがいなかったら英語の復権は遅くなっていたか,早くなっていたか」 ([2017-10-19-1]) に続き,歴史の if を語る妄想シリーズ.ノルマン征服がなかったら,英語はどうなっていただろうか.
 まず,語彙についていえば,フランス借用語(句)はずっと少なく,概ね現在のドイツ語のようにゲルマン系の語彙が多く残存していただろう.関連して,語形成もゲルマン語的な要素をもとにした複合や派生が主流であり続けたに違いない.フランス語ではなくとも諸言語からの語彙借用はそれなりになされたかもしれないが,現代英語の語彙が示すほどの多種多様な語種分布にはなっていなかった可能性が高い.
 綴字についていえば,古英語ばりの hus (house) などが存続していた可能性があるし,その他 cild (child), cwic (quick), lufu (love) などの綴字も保たれていたかもしれない.書き言葉における見栄えは,現在のものと大きく異なっていただろうと想像される.<þ, ð, ƿ> などの古英語の文字も,近現代まで廃れずに残っていたのではないか (cf. 「#1329. 英語史における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-16-1]) や「#1330. 初期中英語における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-17-1])) .
 発音については,音韻体系そのものが様変わりしたかどうかは疑わしいが,強勢パターンは現在と相当に異なっていたものになっていたろう.具体的にいえば,ゲルマン的な強勢パターン (Germanic Stress Rule; gsr) が幅広く保たれ,対するロマンス的な強勢パターン (Romance Stress Rule; rsr) はさほど展開しなかったろうと想像される.詩における脚韻 (rhyme) も一般化せず,古英語からの頭韻 (alliteration) が今なお幅を利かせていただろう.
 文法に関しては,ノルマン征服とそれに伴うフランス語の影響がなかったら,英語は屈折に依拠する総合的な言語の性格を今ほど失ってはいなかったろう.古英語のような複雑な屈折を純粋に保ち続けていたとは考えられないが,少なくとも屈折の衰退は,現実よりも緩やかなものとなっていた可能性が高い.古英語にあった文法性は,いずれにせよ消滅していた可能性は高いが,その進行具合はやはり現実よりも緩やかだったに違いない.また,強変化動詞を含めた古英語的な「不規則な語形変化」も,ずっと広範に生き残っていたろう.これらは,ノルマン征服後のイングランド社会においてフランス語が上位の言語となり,英語が下位の言語となったことで,英語に遠心力が働き,言語の変化と多様化がほとんど阻害されることなく進行したという事実を裏からとらえた際の想像である.ノルマン征服がなかったら,英語はさほど自由に既定の言語変化の路線をたどることができなかったのではないか.
 以上,「ノルマン征服がなかったら,英語は・・・?」を妄想してみた.実は,これは先週大学の演習において受講生みんなで行なった妄想である.遊び心から始めてみたのだが,歴史の因果関係を確認・整理するのに意外と有効な方法だとわかった.歴史の if は,むしろ思考を促してくれる.

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2016-11-07 Mon

#2751. T. S. Eliot による英語の詩の特性と豊かさ [literature][alliteration][rhyme][meter][stress][prosody][french][poetry]

 宇野重規(著)『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』を読んでいて,次の文章に出会った.T. S. Eliot (1888--1965) が英語の詩の特性と豊かさについて述べている箇所である.

 一国の文化は多様な階級や地域の文化によって構成されると同時に,さらに上位の世界文化と接続していなければならない。エリオットにとって,アイルランドやスコットランド,ウェールズの文化がイングランド文化と結びついた上で,さらにより大きなヨーロッパの文化の一端を担うことが重要であった。逆に言えば,ヨーロッパ文化とは画一的なものであってはならないというのが,エリオットの確信であった。
 このことは詩人であるエリオットにとって,本質的な重要性をもっていた。というのも,彼の見るところ,英語の詩の特性と豊かさは,英語がヨーロッパの多様な言語から合成されたものであることに由来するからである。作存続(アングル族とともにブリテン島に侵入したゲルマン民族の一つ,英国の基礎をつくる)の韻律,ノルマンフランス(ノルマン・コンクェストの中心となったフランス化したノルマン人)の韻律,ウェールズの韻律,さらにはラテン語やギリシア語の詩の研究によって,英国の詩は豊かなものになったことをエリオットは強調する。 (75)


 英語の雑種性は,語学的には特に語彙,綴字,韻律に色濃く反映されているが,韻律を接点として韻文文学にもおおいに反映している.上で述べられている「ノルマンフランス」の影響は特に大きく,古英語以来の頭韻 (alliteration) の伝統を,中英語以降に脚韻 (rhyme) の伝統に事実上置き換えるという大転換をもたらすことになった.ここでは,フランス語における脚韻詩が英語の詩作に直接影響を及ぼしたということはいうまでもないが,そのほかにも,「#796. 中英語に脚韻が導入された言語的要因」 ([2011-07-02-1]) で触れたように,中英語期にフランス借用語が大量に流入したことにより,フランス語式の強勢パターンがもたらされ,脚韻に都合のよい条件が整ったという事情もあった.
 しかし,頭韻の伝統も,水面下において中英語期以降,現代まで脈々と受け継がれてきたことも事実である (see 「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1]),「#1560. Chaucer における頭韻の伝統」 ([2013-08-04-1])) .とすれば,近現代の詩の形式について,アングロ・サクソンの伝統とノルマン・フレンチの伝統が混合していると表現することは,まったく妥当なことである.

 ・ 宇野 重規 『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』 中央公論新社〈中公新書〉,2016年.

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2016-08-24 Wed

#2676. 古英詩の頭韻 [alliteration][oe][consonant][stress][prosody][germanic]

 英語には,主に語頭の子音を合わせて調子を作り出す頭韻 (alliteration) の伝統がある.本ブログでは,「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1]) をはじめ,alliteration の各記事で,主に現代英語に残る頭韻の現象を扱ってきた.
 しかし,英語史で「頭韻」といえば,なによりも古英詩における韻律規則としての頭韻が思い出される.頭韻は,古英語のみならず,古アイスランド語,古サクソン語,古高地ドイツ語などゲルマン諸語の韻文を特徴づける韻律上の手段であり,ラテン語・ロマンス諸語の脚韻 (rhyme) と際立った対比をなす.すぐれてゲルマン的なこの韻律手段について,古英詩においていかに使用されたかを,Baker (124--26) に拠って概説したい.
 古英詩の1行 (line) は2つの半行 (verse) からなっており,前半行を on-verse (or a-verse),後半行を off-verse (or b-verse) と呼ぶ.その間には統語上の行間休止 (caesura) が挟まっており,現代の印刷では長めの空白で表わされるのが慣例である.各半行には2つの強勢音節(それぞれを lift と呼ぶ)が含まれており,その周囲には弱音節 (drop) が配置される.このように構成される詩行において,on-verse の2つの lifts の片方あるいは両方の語頭音と,off-verse の最初の lift の語頭音は,同じものとなる.これが古英詩の頭韻である.
 頭韻の基本は語頭子音によるものだが,実際には語頭母音によるものもある.母音による頭韻では母音の音価は問わないので,例えば ei でも押韻できる.また,子音による頭韻については,sc, sp, st の子音群に限って,その子音群自身と押韻しなければならず,例えば stānsāriġ は押韻できない (see 「#2080. /sp/, /st/, /sk/ 子音群の特異性」 ([2015-01-06-1])) .一方,gġcċ は音価こそ異なれ,通常,互いに韻を踏むことができる.
 頭韻が行に配置されるパターンには,いくつかのヴァリエーションがある.基本は以下の3種類である.

 ・ xa|ay: þæt biþ in eorle   indryhten þēaw
 ・ ax|ay: þæt hē his ferðlocan   fæste binde.
 ・ aa|ax: ne se hrēo hyġe   helpe ġefremman

 時々,以下のような ab|ab の型 (transverse alliteration) や ab|ba の型 (crossed alliteration) も見られるが,特別に修辞的な響きをもっていたと考えられる.

 ・ ab|ab: Þær æt hȳðe stōd   hringedestefna
 ・ ab|ba: brūnfāgne helm,   hringde byrnan

 古英語頭韻詩の詩行は,上記の構造を基本として,その上で様々な細則に沿って構成されている.関連して,「#1897. "futhorc" の acrostic」 ([2014-07-07-1]),「#1560. Chaucer における頭韻の伝統」 ([2013-08-04-1]) も参照.

 ・ Baker, Peter S. Introduction to Old English. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.

Referrer (Inside): [2016-08-25-1]

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2015-01-06 Tue

#2080. /sp/, /st/, /sk/ 子音群の特異性 [phonetics][phoneme][phonology][alliteration][grimms_law][consonant][sonority][homorganic_lengthening]

 標記の /s/ + 無声破裂音の子音群は,英語史上,音韻論的に特異な振る舞いを示してきた.その特異性は英語音韻論の世界では広く知られており,様々な考察と分析がなされてきた.以下,池頭 (132--33, 136--38) に依拠して解説しよう.
 まず,グリムの法則 (grimms_law) は,この子音群の第2要素として現われる破裂音には適用されなかったことが知られている.「#641. ゲルマン語の子音性 (3)」 ([2011-01-28-1]) と「#662. sp-, st-, sk- が無気音になる理由」 ([2011-02-18-1]) でみたように,[s] の気息の影響で後続する破裂音の摩擦音化がブロックされたためである.
 次に,古英語や古ノルド語の頭韻詩で確認されるように,sp-, st-, sc- をもつ単語は,この組み合わせをもつ別の単語としか頭韻をなすことができなかった.つまり,音声学的には2つの分節音からなるにもかかわらず,あたかも1つの音のように振る舞うことがあるということだ.
 また,「#2063. 長母音に対する制限強化の歴史」 ([2014-12-20-1]) の (6) でみた「2子音前位置短化」 (shortening before two consonants) により,fīfta > fifta, sōhte > sohte, lǣssa > læssa などと短化が生じたが,prēstes では例外的に短化が起こらなかった.いずれの場合においても,/s/ とそれに続く破裂音との相互関係が密であり,合わせて1つの単位として振る舞っているかのようにみえる.
 加えて,/sp/, /st/, /sk/ は,Onset に起こる際に子音の生起順序が特異である.Onset の子音結合では,聞こえ度 (sonority) の低い子音に始まり,高い子音が続くという順序,つまり「低→高」が原則である.ところが,[s] は [t] よりも聞こえ度が高いので,sp- などでは「高→低」となり,原則に反する.
 最後に付け加えれば,言い間違いの研究からも,当該子音群に関わる言い間違いに特異性が認められるとされる.
 以上の課題に直面し,音韻論学者は問題の子音群を,(1) あくまで2子音として扱う,(2) 2子音ではあるが1つのまとまり (複合音素; composite phoneme)として扱う,(3) 1子音として扱う,などの諸説を提起してきた.新しい考え方として,池頭 (138) は,依存音韻論 (dependency phonology) の立場から,当該の子音結合は /s/ を導入部とし,破裂音を主要部とする "contour segment" であるとする分析を提案している."contour segment" の考え方は,初期中英語で起こったとされる同器性長化 (homorganic_lengthening) に関係する /mb/ などの子音結合にも応用できるようである.

 ・ 池頭(門田)順子 「"Consonant cluster" と音変化 その特異性と音節構造をめぐって」『生成言語研究の現在』(池内正幸・郷路拓也(編著)) ひつじ書房,2013年.127--43頁.

Referrer (Inside): [2016-08-24-1] [2015-01-07-1]

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2014-07-07 Mon

#1897. "futhorc" の acrostic [runic][game_of_language][acronym][oe][alphabet][alliteration]

 「#1875. acrostic と折句」 ([2014-06-15-1]) の記事で,現代英語と日本語から acrostic なる言葉遊びの例をみたが,古英語にも acrostic の詩がある.The Rune Poem と呼ばれる6節からなる詩で,各節の開始文字を取り出すと,アングロサクソン系ルーン文字一式の呼称である "FUÞORC" という単語が浮かび上がる(「#1006. ルーン文字の変種」 ([2012-01-28-1]) を参照).Crystal (13) より,The Rune Poem を味読しよう.各詩行の頭韻 (alliteration) も規則的である.

Feoh byþ frofur   fira gehwylcum---Wealth is a joy to every man---
sceal ðeah manna gehwylc   miclun hyt dælan  but every man must share it well
gif he wile for Drihtne   domes hleotan.  if he wishes to gain glory in the sight of the Lord.
  
Ur byþ anmod 7 oferhyrned,Aurochs is fierce, with gigantic horns,
felafrecne deor,   feohteþ mid hornum,  a very savage animal, it fights with horns,
mære morstapa:   þæt is modig wuht!  a well-known moor-stepper: it is a creature of courage!
  
Þorn byþ ðearle scearp,   ðegna gehwylcumThorn is very sharp, harmful to every man
anfeng ys yfyl,   ungemetun reþe  who seizes it, unsuitably severe
manna gehwylcun   ðe him mid resteð.  to every man who rests on it.
  
Os byþ ordfruma   ælcre spræce,Mouth is the creator of all speech,
wisdomes wraþu   and witena frofur  a supporter of wisdom and comfort of wise men,
and eorla gehwam   eadnys and tohiht.  and a blessing and hope to every man.
  
Rad byþ on recyde   rinca gehwylcumJourney is to every warrior in the hall
sefte, and swiþhwæt   ðam ðe sitteþ onufan  pleasant, and bitingly tough to him who sits
meare mægenheardum   ofer milpaþas.  on a mighty steed over the mile-paths.
  
Cen byþ cwicera gehwam   cuþ on fyre,Torch is to every living thing known by its fire;
blac and beorhtlic,   byrneþ oftust  bright and brilliant, it burns most often
ðær hi æþelingas   inne restaþ.  where the princes take their rest within.


 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

Referrer (Inside): [2017-07-05-1] [2016-08-24-1]

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2013-08-04 Sun

#1560. Chaucer における頭韻の伝統 [alliteration][rhyme][chaucer]

 Chaucer の韻律といえばまず脚韻 (rhyme) が思い浮かぶが,英詩として頭韻 (alliteration) の伝統が完全に忘れられたわけではない.体系的には現われずとも,ここぞというところで効果的に用いられることはある.
 例えば,地村 (5) によれば,The Knight's Tale より,パラモンとアルシーテの決闘の場面で頭韻が効果的に用いられている.

Ther is namoore to seyn, but west and est
In goon the speres ful sadly in arrest;
In gooth the sharpe spore into the syde.
Ther seen men who kan juste and who kan ryde;
Ther shyveren shaftes upon sheeldes thikke;
He feeleth thurgh the herte-spoon the prikke.
Up spryngen speres twenty foot on highte;
Out goon the swerdes as the silver brighte;
The helmes they tohewen and toshrede;
Out brest the blood with stierne stremes rede;
With myghty maces the bones they tobreste.
He thurgh the thikkeste of the throng gan threste;
Ther stomblen steeds stronge, and doun gooth al,
He rolleth under foot as dooth a bal;
He foyneth on his feet with his tronchoun,
And he hym hurtleth with his hors adoun;
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Out renneth blood on bothe hir sydes rede. (I(A)2601--35)


 地村 (6) は,/s/ 音は素早い動きを,/h/ 音は剣の高らかなこだまを,/b/ 音は血のほとばしる様子を表わしており,恋のための決闘の燃え上がる感情を効果的に示していると分析している.また,地村 (13) は別の箇所で,頭韻について次のように述べている.(ほかに,頭韻については (alliteration) の各記事を参照.)

文学作品は言うに及ばず、神学、ジャーナリズム、政治、標語、格言、慣用句及び慣用句的語法、複合詞、公告、書名及び標題、命名などに頭韻が見られるという。このことは、いかに頭韻が英国文化に浸透しているかを証明しているだけでなく、英語という言語に備わっている強い意志表現の手段としての頭韻の重要性を示している。インターネットを通して現代英語に見られる頭韻の例を探してみると、早口言葉の "Peter Piper picked a peck of pickled peppers" から、Big Ben, Coca-Cola, Super Sonic, Donald Duck, Mickey Mouse などよく耳にするものがあげてある。またイギリスの町の中で "Pen to Paper" や "Marie Curie Cancer Care" のような頭韻を使った店頭の看板に目が行った。このように、英語と英語圏の人々にとって、頭韻は切ってもきれない必要欠くべからざる表現手段と考えることが出来る。


 大陸からもたらされた脚韻という刷新に,本来的な頭韻という伝統の継承を混ぜ合わせた Chaucer の英語使用は注目に値するだろう.Chaucer の英語の伝統と刷新に関する議論としては,関連して「#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは?」 ([2010-01-09-1]), 「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2) 」 ([2010-02-19-1]), 「#524. Chaucer の用いた英語本来語 --- stevene」 ([2010-10-03-1]), 「#525. Chaucer の用いた英語本来語 --- drasty」 ([2010-10-04-1]), 「#526. Chaucer の用いた英語本来語 --- 接頭辞 for- をもつ動詞」 ([2010-10-05-1]) を参照されたい.

 ・ 地村 彰之 『チョーサーの英語の世界』 溪水社,2011年.

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2013-04-29 Mon

#1463. euphuism [style][literature][inkhorn_term][johnson][emode][renaissance][alliteration][rhetoric]

 「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) で,15世紀に発生したラテン借用語を駆使する華麗語法について見た.続く16世紀には,inkhorn_term と呼ばれるほどのラテン語かぶれした語彙が押し寄せた.これに伴い,エリザベス朝の文体はラテン作家を範とした技巧的なものとなった.この技巧は John Lyly (1554--1606) によって最高潮に達した.Lyly は,Euphues: the Anatomy of Wit (1578) および Euphues and His England (1580) において,後に標題にちなんで呼ばれることになった euphuism (誇飾体)という華麗な文体を用い,初期の Shakespeare など当時の文芸に大きな影響を与えた.
 euphuism の特徴としては,頭韻 (alliteration),対照法 (antithesis),奇抜な比喩 (conceit),掛けことば (paronomasia),故事来歴への言及などが挙げられる.これらの修辞法をふんだんに用いた文章は,不自然でこそあれ,人々に芸術としての散文の魅力をおおいに知らしめた.例えば,Lyly の次の文を見てみよう.

If thou perceive thyself to be enticed with their wanton glances or allured with their wicket guiles, either enchanted with their beauty or enamoured with their bravery, enter with thyself into this meditation.


 ここでは,enticed -- enchanted -- enamoured -- enter という語頭韻が用いられているが,その間に wanton glanceswicket guiles の2重頭韻が含まれており,さらに enchanted . . . beautyenamoured . . . bravery の組み合わせ頭韻もある.
 euphuism は17世紀まで見られたが,17世紀には Sir Thomas Browne (1605--82), John Donne (1572--1631), Jeremy Taylor (1613--67), John Milton (1608--74) などの堂々たる散文が現われ,世紀半ばからの革命期以降には John Dryden (1631--1700) に代表される気取りのない平明な文体が優勢となった.平明路線は18世紀へも受け継がれ,Joseph Addison (1672--1719), Sir Richard Steele (1672--1729), Chesterfield (1694--1773),また Daniel Defoe (1660--1731), Jonathan Swift (1667--1745) が続いた.だが,この平明路線は,世紀半ば,Samuel Johnson (1709--84) の荘重で威厳のある独特な文体により中断した.
 初期近代英語期の散文文体は,このように華美と平明とが繰り返されたが,その原動力がルネサンスの熱狂とそれへの反発であることは間違いない.ほぼ同時期に,大陸諸国でも euphuism に相当する誇飾体が流行したことを付け加えておこう.フランスでは préciosité,スペインでは Gongorism,イタリアでは Marinism などと呼ばれた(ホームズ,p. 118).

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ 石橋 幸太郎 編 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
 ・ U. T. ホームズ,A. H. シュッツ 著,松原 秀一 訳 『フランス語の歴史』 大修館,1974年.

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2012-06-09 Sat

#1139. 2項イディオムの順序を決める音声的な条件 (2) [phonetics][syllable][binomial][idiom][prosody][alliteration][phonaesthesia]

 昨日の記事[2012-06-08-1]に続いて,binomial (2項イディオム)の構成要素の順序と音声的条件の話題.昨日は「1音節語 and 第1音節に強勢のある2音節語」という構成の binomial が多く存在することを見た.この著しい傾向の背景には,強弱強弱のリズムに適合するということもあるが,Bolinger の指摘するように,「短い語 and 長い語」という一般的な順序にも符合するという要因がある.もっとも典型的な長短の差異は2要素の音節数の違いということだが,音節数が同じ(単音節の)場合には,長短の差異は音価の持続性や聞こえ度の違いとしてとらえることができる.Bolinger の表現でいえば,"openness and sonorousness" (40) の違いである.
 分節音を "open and sonorous" 度の高いほうから低いほうへと分類すると,(1) 母音,(2) 有声持続音,(3) 有声閉鎖音・破擦音,(4) 無声持続音,(5) 無声閉鎖音・破擦音,となる.この観点から「短い語 and 長い語」を言い換えれば,「openness and sonorousness の低い語 and 高い語」ということになろう.Bolinger (40--44) は,現実には存在しない語により binomial 形容詞をでっちあげ,構成要素の順序を替えて,英語母語話者の被験者にどちらが自然かを選ばせた."He lives in a plap and plam house." vs "He lives in a plam and plap house." のごとくである.結果は,統計的に必ずしも著しいものではなかったが,ある程度の傾向は見られたという.
 でっちあげた binomial による実験以上に興味深く感じたのは,p. 40 の注記に挙げられていた一連の頭韻表現である(関連して,[2011-11-26-1]の記事「#943. 頭韻の歴史と役割」を参照).flimflam, tick-tock, rick-rack, shilly-shally, mishmash, fiddle-faddle, riffraff, seesaw, knickknack. ここでは,2要素の並びは,それぞれの母音の聞こえ度が「低いもの+高いもの」の順序になっている.この順序については,phonaesthesia の観点から,心理的に「近いもの+遠いもの」とも説明できるかもしれない (see ##207,242,243) .
 音節数,リズム,聞こえ度,頭韻,phonaesthesia 等々,binomial という小宇宙には英語の音の不思議がたくさん詰まっているようだ.

 ・ Bolinger, D. L. "Binomials and Pitch Accent." Lingua (11): 34--44.

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2011-12-23 Fri

#970. Money makes the mare to go. [proverb][causative][infinitive][syntax][alliteration]

 標記の文は,「お金は(しぶとい)雌馬をも歩かせる(=地獄のさたも金次第)」という諺である.m の頭韻が効いているほか,一見非文法的にみえる to があることにより強弱のリズム (trochee) が実現しており,韻律的には完璧な諺だ.
 現代標準英語の規範文法では,使役の maketo 不定詞が連なることは許されていないが,古い英語では可能だった.諺という固定表現において化石的に残存した珍しい例である.使役の maketo 不定詞が可能だったことは,現代英語でも受動態では He was made to wait for some time. のように to が「復活」することと関連する.かつては原形不定詞も to 不定詞もあり得た,しかしやがて前者が優勢となり,後者は受動態という限定された統語環境で生き残るのみとなった.これが,make における不定詞選択の歴史の概略である.
 中英語での make の不定詞選択について,Mustanoja (533) を参照しよう.

. . . both forms of the infinitive occur with this causative verb: --- heo makede him sunegen on hire (Ancr. 24); --- she maketh men mysdo many score tymes (PPl. B iii 122); --- þe veond hit makede me to don (Ancr. 136); --- alwey the nye slye Maketh the ferre leeve to be looth (Ch. CT A Mil. 3393). In the Book of London English 1384--1425, make is accompanied by the plain infinitive in three cases and by the infinitive with to in five.


 MED "māken (v. (1))" では,15. (b) が使役の make を扱っているが,多くの用例を眺めると,to 不定詞の使用も普通にみられる.OED では,"make", v.1 53.a. が to 不定詞との構造を,53.b. が原形不定詞との構造を記述している.いずれも中英語最初期から用例が見られる.
 関連する話題について一言.現代英語に起こっている統語変化に,helpto 不定詞でなく原形不定詞を伴う傾向が強まってきているという現象がある.だが,help でも受動態ではいまだに to 不定詞が優勢のようであり,これは make の不定詞選択の歴史と平行しているようにみえ,興味深い.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2011-12-06 Tue

#953. 頭韻を踏む2項イディオム [binomial][alliteration][corpus][coca][collocation][euphony][n-gram]

 [2011-07-26-1]の記事「#820. 英仏同義語の並列」で,2項イディオム (binomial idiom) を紹介した.and, but, or などの等位接続詞で結ばれる2項からなる表現は現代英語でも顕在であり,よく見られるものには,語呂のよいもの (euphony) が多い.英語において語呂の良さといえば,[2011-11-26-1]の記事「#943. 頭韻の歴史と役割」で取り上げた頭韻 (alliteration) が,典型の1つとして挙げられる.
 ところで,11月22日に,大規模オンライン・コーパス COCA ( Corpus of Contemporary American English ) などで知られるコーパス言語学者 Mark Davies が,COCA に基づく n-gram を無償で公開した.2, 3, 4, 5語からなる,それぞれ最頻100万の共起表現 (collocation) を,頻度数とともに列挙したデータベースで,ダウンロードしてオフラインで自由に処理できる.

 ・ Visit N-GRAMS: from the COCA and COHA corpora of American English. For downloading, directly visit Free lists.
 ・ Also visit Word frequency lists and dictionary: from the Corpus of Contemporary American English for other COCA-derived n-grams and frequency lists.

 ここで,COCA n-gram から現代英語の2項イディオムに見られる頭韻を探して出してみようと思い立った.3-gram データベースを利用し,"A and/but/or B" の形の共起表現を探った.話者の意識していないところでも,頭韻は日常表現のなかに相当活用されているはずだとの予想のもとでの検索だったが,実際に多数の例を拾い出すことができた.検索結果のテキストファイルはこちら.2項の語頭の子音字が一致しているものを取り出しただけなので,それが表わす子音が一致しているとは限らず,注意が必要である.それでも,相当数の生きた日常的な頭韻の例を拾い出すことができた.
 検索結果上位には,his or her, four or five, six or seven, this or that, Saturday and Sunday など,なるほどとは思わせるが,それほど興味深く感じられない例が少なくない.しかし,イディオム的な性格のもう少し強い,次のような共起表現も次々と挙がり,検索の甲斐があったと満足した.

public and private, rules and regulations, pots and pans, command and control, flora and fauna, free and fair, death and destruction, go and get, safety and security, signs and symptoms, fame and fortune, families and friends, fresh or frozen, peace and prosperity, past and present, quantity and quality, morbidity and mortality, slowly but surely, professional and personal, name and number, facts and figures, pencil and paper, state and society, small but significant, clear and convincing


 n-gram については,[2010-12-25-1]の記事「#607. Google Books Ngram Viewer」も参照.

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2011-11-26 Sat

#943. 頭韻の歴史と役割 [alliteration][reconstruction][germanic][glottal_stop]

 [2011-07-02-1]の記事「#796. 中英語に脚韻が導入された言語的要因」で,ゲルマン語派に特徴的な韻の様式としての頭韻 (alliteration) について付随的に触れた.頭韻とは,古アイスランド語の韻文体 Edda や古英語の韻文に典型的に見られる「同一の子音(ときに母音)が近接して強勢を受ける音節に反復されること」(『新英語学辞典』)を特徴とする形式である.古英語の典型的な頭韻長行には aa:ax という構成が見られる.
 中英語期には大陸より脚韻がもたらされ,頭韻は影が薄くなったが,14世紀にはイングランド中西部・北西部方言で限定的に復活した.そこでは,頭韻の前半行 (a-verse) の aa 型が標準化し,頭韻句 (alliterative phrase) と呼ばれる独特の固定表現が生まれた.例えば,いずれも "man on earth" を表わす gome vnder Gode, man vpon molde, segge vnder sunne などが繰り返し用いられた.中英語における頭韻の「復活」が文字通りの復活なのか,あるいは古英語の伝統の継承なのか,その背景については詳しく分かっておらず,英語史上,英文学史上の謎となっている.
 近代英語期に入ると,頭韻は詩行の構成原理としては廃れ,もっぱら装飾的要素となった.しかし,チャイム効果 (chiming effect) をもたらす頭韻の技法は,ある意味では言語に普遍的とも言え,韻文に限らず,諺,慣用句,標語,表題,広告,早口ことばなどにおいて,現在にいたるまで広く利用され続けている.現代英語からの例を挙げよう.

 (1) 語: flimflam, tittle-tattle
 (2) 対句・慣用句: bed and breakfast, birds and beasts, cash and carry, confidence and cowardice, footloose and fancy-free, from top to toe, house and home, part and parcel, through thick and thin, with might and main
 (3) 強意的直喩 (intensifying simile) あるいは俚諺的直喩 (proverbial simile): as blind as a bat, as bold as brass, as brisk as a bee, as clear as crystal, as cool as a cucumber, as dead as a door-nail, as dry as dust, as fit as a fiddle, as good as gold, as green as grass, as hungry as a hawk, as mad as a March hare, as queer as a Quaker, as strong as Samson, as sweet as summer
 (4) 諺: Birth is much but breeding is more; Care killed the cat; Hold with the hare, and hunt with the hound; Look before you leap; Soon ripe, soon rotten; Wilful waste makes woeful want
 (5) 早口ことば (tongue-twister): Peter Piper picked a peck of pickled peppers
 (6) 公告・宣伝: Guinness is good for you, You can be sure of Shell
 (7) 文学的修辞: fixed fate, free will, foreknowledge absolute (Milton); solid, so still and stable (J. Conrad); the great grey-green, greasy Limpopo River (Kipling)
 (8) 表題: Love's Labour's Lost (Shakespeare); Mice and Men (J. Steinbeck); Pride and Prejudice (J. Austen); Twice-Told Tales (N. Hawthorne)

 以上のように,現代でも頭韻には韻律的,修辞的,文体的な役割が認められるが,頭韻のもつゲルマン語比較言語学上の意義を忘れてはならない.古英語などで異なる母音により頭韻が形成されている事実は,母音に先行して声門閉鎖 (glottal stop) が行なわれていたことを示唆しており,文献には明示されない音韻の再建 (reconstruction) に寄与している.また,/sp/, /st/, /sk/ はそれ自身としか頭韻しないことから,2音合わせて音韻的単位をなしていたらしいことがわかる.頭韻は,このように古音の推定という比較言語学上の重要な問題に光を当ててくれるのである.
 関連して,[2010-07-08-1]の記事「いかにして古音を推定するか」と[2011-05-25-1]の記事「#758. いかにして古音を推定するか (2)」を参照.

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2011-07-02 Sat

#796. 中英語に脚韻が導入された言語的要因 [rhyme][alliteration][meter][stress][prosody][romancisation][french]

 英語の韻律の型の変遷は,英語の言語的変化そのものと連動している.
 古英語の典型的な韻律は,詩行に一定数の強勢が配される強勢韻律 (accentual meter) であり,かつ語頭子音を合わせる頭韻 (alliteration) に特徴づけられていた.ところが,中英語になると韻律の主流は古英語以来の強勢韻律に加え,詩行に一定数の音節が配される音節韻律 (syllabic meter) の要素が入り込んでくる.なおかつ,語末の母音(+子音群)を合わせる脚韻 (rhyme) が一世を風靡した.見方によれば,古英語から中英語にかけて韻律が180度の転換を経験したかのようであり,この転換の背後には相応の言語的変化があったのではないかと疑われる.
 古英語から中英語にかけての時代は,英語史において劇的な変化の時代だが,韻律の転換にかかわる項目を厳選すれば以下の2点に絞り込める.

 (1) 屈折の衰退に伴い単音節語が増えた
 (2) フランス語からの大量の借用語により,最終音節あるいは最後から2番目の音節に強勢をもつ語が増えた

 まず (1) についてだが,古英語の後の強勢は,接頭辞を除き原則として第1音節に落ちた ([2009-10-26-1], [2009-10-31-1]) .この特徴は頭韻にとっては都合がよかったが,脚韻にとっては不都合だった.脚韻を担当する語尾部分が,強勢のない屈折語尾により占められることが多かったからだ.ところが,中英語期にかけて屈折が衰退してくると,それ自身が強勢をもつ単音節語が多くなる.これは頭韻にとって特に不利になる変化ではないが,脚韻にとっては有利は変化となった.また,屈折の衰退は付随的に前置詞や助動詞の発達を生みだし,統語的にも「前置詞+名詞」や「助動詞+動詞」のような弱強格 (iamb) が増加し,脚韻にとって好都合な条件が整っていった.
 次に (2) についてだが,これは,フランス語からの大量借用により,英語にフランス語型の強勢パターンがもたらされたということを意味する ([2011-04-15-1], [2009-11-13-1]) .語の後方に強勢をもつフランス借用語は脚韻にはうってつけの材料となった.この (1) と (2) の要因によって,全体として語の終わりのほうに強勢をもつ語が増え,脚韻に利用できる語彙資源が豊富になった.
 英語の詩における音節韻律と脚韻は,直接的にはフランス・イタリア詩の伝統に倣っての導入である.しかし,言語的に相応の受け入れ態勢が整っていなければ,中英語にみられたような円滑な導入と定着はなかっただろう.古英語から中英語にかけての言語変化は,新しい韻律を積極的に呼び寄せたとは言えずとも,それが活躍する舞台を設定したとは言えるだろう.

Referrer (Inside): [2016-11-07-1] [2011-11-26-1]

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