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literature - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-04-11 07:53

2021-03-29 Mon

#4354. 擬人法の典型例 [personification][metaphor][rhetoric][stylistics][literature][toponymy]

 昨日の記事「#4353. 擬人法」 ([2021-03-28-1]) に引き続き,擬人法 (personification) について.昨日からもう少し調べてみているが,擬人法の言語学的な扱いはやはり少ないようだ.あくまで修辞学や詩学の領域にとどまっている.今回は『大修館英語学事典』 (844) より,詩語の1特徴としての擬人法の解説を引用する.伝統的で典型的な例が挙げられているので,参照用に便利.

擬人法
 擬人法 (personification) も好んで用いられた技法である.言うまでもなく人間でないものを人間(時に神)にたとえて表現するものである.
a) 自然現象を神話の神の名で表現する
 Zephyr (西風),Phoebus (太陽),Cynthia (月),Diana (月),Apollo (太陽),Neptune (海),Boreas (北風),Hesper (宵の明星),など.
b) 抽象名詞の擬人化
 たとえば 'ambitious people' という時 'Ambition' にように表現するもので,一種の寓意的表現である.
 Gladness danc'd along the sky---Thompson, Epithalanium (喜びは空を踊りながら進んで行った) / Let not Ambition mock their useful toils---Gray, Elegy Written in a Country Church-Yard (野心をして彼らの有益な労役を侮らせるなかれ) / O stretch thy reign, fair Peace---Pope, Windsor Forest (うるわしの平和よ,汝の領土を広げよ).
c) 地名または一般の事物の擬人化
 That Thame's glory to the stars shall rise!---Pope, Windsor Forest (テムズの栄光よ星まで届け) / Thy forest, Windsor!---Pope, ibid. (汝の森,ウインザーよ) / And weary waves, withdraw[n]ing from the Fight, die lull'd and panting on the silent Shore (疲れた波は戦いより退きて,物言わぬ岸の上でなだめられ,あえぎながらその身を横たえる).


 ・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.

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2021-03-28 Sun

#4353. 擬人法 [personification][metaphor][rhetoric][stylistics][terminology][literature][gender]

 擬人法 (personification) は,文学的・修辞的な技法として知られているが,専門用語というよりは一般用語としても用いられるほどによく知られた用語・概念でもある.広く認知されているがゆえに,学術的に扱おうとするとなかなか難しい種類の話題かもしれない.
 とりわけ言語学的に扱おうとする場合,どのようなアプローチが可能なのだろうか.この問題について本格的に考えたこともないので,まず取っ掛かりとして,種々の英語学辞典に当たってみた.最初は『英語学要語辞典』から.

personification 〔体〕(擬人化,擬人法) Fair science frowned not on his humble birth.---T. Gray, Elegy (美しき学問は彼の卑しい素性をいといはしなかった)のように,抽象概念や無生物に人間と同様の性質を与える修辞上の技巧.隠喩の一種で,英文学においては古英詩(特に謎詩)で用いられ始め,中世の道徳劇,寓意詩にもみられる.小説でもその用法は散見され,ゴシック小説では表現上の重要な特性とされている.なお,<+有生><−有生>など名詞の素性および選択規則という変形理論の適用により,擬人法を統一的に記述・説明することが可能である.


 次に『新英語学辞典』より.

 personification 〔修〕(擬人化,擬人法)
 無生物や抽象概念を生物扱いしたり,感情など人間特有の性質を持つものとして表現する修辞技巧.擬人化は prosopropeia とも呼ばれ,隠喩 (METAPHOR) の一種で詩で古くから用いられた.Leech (1969) は 'an angry sky' や 'graves yawned' のように,無生物に生物の属性を付与するものを the animistic metaphor, 'this friendly river' や 'laughing valeys' のように,人間以外のものに人間特有の性質を付与するものを the humanizing [anthropomorphic] metaphor と名づけている.I. A. Richards (1929) が指摘しているように,人間以外の生物や無生物に対して抱く感情や思考は,人間相互の感情や思考と共通するもので,従って日常の言語ではもっぱら人間について用いる形容詞・動詞・代名詞を人間以外のものに適用するのはきわめて自然と言えよう.
 擬人化は中世の寓意詩にまで遡ることができるが,その伝統を受けついだ Milton は "all things smil'd, With fragrance and with joy my heart oreflowd"---Paradise Lost 8: 265--66 のように,この修辞法を好んで用いた.擬古典主義の時代に入ると,Thomas Parnell, Richard Savage, Edward Young など,18世紀の詩人の言語の大きな特色となり,ますます装飾的な性格を帯びるようになった.しかし,やがてロマン派が台頭し,'the very language of men' を詩の言語たらしめることを標榜した Wordsworth は,慣習的な擬人化を 'a mechanical device of style' として斥けた (Preface to Lyrical Ballads, 1798).
 このように,擬人化は詩の言語の伝統的手法であって,散文における比喩表現は直喩 (SIMILE) の形式をとるのがふつうであるが,詩的な散文では効果的に用いられることがある.例えば,Thomas Hardy が Egdon Heath を描写している次のパラグラフでは,観察者の存在を暗示する appeared, seemed, could be imagined 以外の動詞は,闇夜の荒野を擬人化して描き出している: The place became full of watchful intentness now; for when other things sank brooding to sleep the heath appeared slowly to awake and listen. Every night its Titanic form seemed to await something; but it had waited thus, unmoved, during so many centuries, through the crises of so many things, that it could only be imagined to await one last crisis---the final overthrow.---The Return of the Native. Bk. I, Ch. I.


 英語における擬人法は,上記の通り,およそ修辞学的・文学史的な観点から話題にされてきたものであり,言語学的・意味論的なアプローチは稀薄だったように思われる.そもそも後者のアプローチとしては,どのようなものがあるのだろうか.探ってみる必要がありそうだ.関連して,「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1]) の「擬人法」を参照.

 ・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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2021-03-27 Sat

#4352. Skelton の口語的詩行 [literature][emode][rhyme][alliteration][onomatopoeia][3sp][skelton]

 教会を揶揄する風刺詩を書いた John Skelton (1460?--1529) は,文学史上,押韻するが不規則な短行を用いた詩型 "Skeltonics" で知られる(ただし文学的に評価されるようになったのは20世紀になってからのこと).歯に衣着せぬ物言いながらも,Henry VIII の家庭教師となり宮廷でも地位を得た.主作品の1つに Colyn Cloute (1522) がある.当時の実力者 Thomas Wolsey 卿を軽口をたいて風刺するリズムが小気味よい.近代英語期最初期の生き生きとした口語的リズムを伝えるテキストとしても興味深い.
 Bergs and Brinton (303) が,初期近代英語に関するハンドブックのなかで当時の「言葉遊び」 (language play) の1例として,Skelton のテキストを挙げている.

His hed is so fat
He wotteth neuer what
Nor wherof he speketh
He cryeth and he creketh
He pryethh and he peketh
He chydes and he chatters
He prates and he patters
He clytters and he clatters
He medles and he smatters
He gloses and he flatters
Or yf he speake playne
Than he lacketh brayn (1545 Skelton, Colyn Cloute A2v)


 詩的技巧としては,脚韻 (rhyme) はもちろんのこと,頭韻 (alliteration) も目立つし,オノマトペ (onomatopoeia) に由来すると考えられる動詞も多用されている.3単現の語尾として従来の -eth と新興の -s が共存しているのも,当時の英語の変化と変異を念頭におくと興味深い.とりわけ調子が乗ってきた辺りで口語的な -s が連発するのも,味わい深い.詩である以上に言葉遊びであり,言葉遊びである以上に当時の生きた口語を映し出すものとして読むことができる.

 ・ Bergs, Alexander and Laurel J. Brinton, eds. The History of English: Early Modern English. Berlin/Boston: Gruyter, 2017.

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2021-03-17 Wed

#4342. Chaucer にみられる4体液説 [chaucer][humours][literature][me_text]

 昨日の記事「#4341. Shakespeare にみられる4体液説」 ([2021-03-17-1]) に続き,西洋古代中世を通じて広く信じられていた4体液説 (the four humours) について.英文学において中世といえば,まず Chaucer の名前が挙がるが,Chaucer 文学においても4体液説は現役である.現役どころか,随所にそのパワーの炸裂をみることができる.
 4種の体液のうち,現代まで最も強く当時の余韻と意味を保持しているのは黒胆汁 (melancholy) だろう.現代英語の melancholy という単語の語源は,ギリシア語 melas/melan- (black) + kholē (bile) に遡り,文字通り「黒胆汁」となる.この体液が過剰だと,人間はふさぎ込み「憂鬱」になるとされた.
 Chaucer における melancholy の最たる事例の1つとして,The Canterbury Tales の Knight's Tale より,恋の病に陥った Arcite が「憂鬱」に犯されているシーンをみてみよう (I(A), 1361--76) .

His slep, his mete, his drynke, is hym biraft,
That lene he wex and drye as is a shaft;
His eyen holwe and grisly to biholde,
His hewe falow and pale as asshen colde,
And solitarie he was and evere allone,
And waillynge al the nyght, makynge his mone;
And if he herde song or instrument,
Thanne wolde he wepe, he myghte nat be stent.
So feble eek were his spiritz, and so lowe,
And chaunged so, that no man koude knowe
His speche nor his voys, though men it herde.
And in his geere for al the world he ferede
Nat oonly lik the loveris maladye
Of Hereos, but rather lyk manye,
Engendred of humour malencolik
Biforen, in his celle fantastic.


 最後から2行目の humour malencolic が問題の箇所である.恋の病に陥った Arcite は,黒胆汁に犯されて狂人のようになっていたという.哀れな騎士の外見と心理を描写するのに,humour が一役買っている事例である.以上,Rogers (186--89) の Chaucer 百科事典より "Four Humours" の項を参照した.

 ・ Rogers, Shannon L. All Things Chaucer: Ann Encyclopedia of Chaucer's World. 2 vols. Westport, Connecticut and London: Greenwood, 2007.

Referrer (Inside): [2021-03-17-1]

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2021-03-16 Tue

#4341. Shakespeare にみられる4体液説 [shakespeare][humours][literature]

 古代・中世ヨーロッパの医学・病理学においては,心身の病態を体液 (humours) に基づいて説明する原理が広く受け入れられていた.とりわけ古代ギリシアの時代よりヒッポクラテスやガレノスが指摘してきた4種の体液 (the four cardinal humours) が重要な役割を果たすとされた.血液 (blood),粘液 (phlegm),(黄)胆汁 (choler,yellow bile),黒胆汁 (melancholy, black bile) の4種である.これらのバランスがよいと健康となるが,不足や過剰が生じると,支配的な体液の種類に応じて特有の病態,気質,気分が現出するという.Crystal and Crystal (230) の説明を引こう.

In early account of human physiology, a person's physical and mental disposition was thought to be governed by a combination of fluids, or humours, within the body. Four humours were recognized: blood, phlegm, choler (also called yellow bile), and melancholy (also called black bile or black choler). The notion transferred readily into a range of seances to do with temperament, mood, inclination, and manner of action . . . , regarded as permanent or alterable features of behaviour.


 ルネサンス以降には解剖学が進歩し4体液説は徐々に廃れていったが,Shakespeare の時代にはまだ後者の影響が色濃く残っていた.Shakespeare からの例の一部を Crystal and Crystal (230) より挙げつつ,登場人物のなかに4体液説の具体的な反映をみてみよう.

HumourTypical dispositionSeen in characterExample
bloodoptimistic, passionate, amorous, courageousHotspur (as described by his wife)In military rules, humours of blood, / He was the mark and glass, copy and book, / That fashioned others (2H4 ll.iii.30)
phlegmdull, indifferent, indolent, apathetic, idleFalstaff and his companions (as described by Prince Hal)I know you all, and will awhile uphold / The unyoked humour of your idleness, (1H4 l.ii.194)
cholerangry, irascible, bad-temperedCassius (as described by Brutus)Go show your slaves how choleric you are ... Must I stand and crouch / Under your testy humour? (JC IV.iii.43)
melancholysad, gloomy, sullen, depressedJaques (as described by Rosalind)They say you are a melancholy fellow. [Jaques] I am so: I do love it better than laughing (AY IV.i.3)


 このように,4体液説の影響は Shakespeare のような近代期でもまだ色濃くみられる.時代的に先立つ Chaucer を含む中世英語英文学において,なおさら色濃いことはいうまでもない.

 ・ Crystal, David and Ben Crystal. Shakespeare's Words: A Glossary & Language Companion. London: Penguin, 2002.

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2021-01-14 Thu

#4280. 19世紀イギリス文学のオンラインコーパス --- CLiC [corpus][lmode][literature]

 先日,大学院生より教わった19世紀を中心とするイギリス文学のオンラインコーパス The CLiC web app を紹介.英文学史上,とりわけ英語小説史上とても重要な同世紀からの小説群が多く登録されている.主要な著者を挙げてみると,Anne Brontë, Anthony Trollope, Arthur Conan Doyle, Beatrix Potter, Benjamin Disraeli, Bram Stoker, Charles Dickens, Charlotte Brontë, Emily Brontë, George Eliot, Henry James, Jane Austen, John Ruskin, Joseph Conrad, Lewis Carroll, Mary Shelley, Oscar Wilde, Robert Louis Stevenson, Rudyard Kipling, Thomas Hardy, William Makepeace Thackeray と華々しい.
 文体論研究を念頭においたコーパスで,作品や著者ごとにサブコーパスを選択できる.まだ本格的に使っていないが,上記インターフェースや説明書きから推察するに,例えば次のようなこともできそう.

 ・ Texts タブにより,テキストそのものを表示できる
 ・ 引用符内外のテキスト(地の文と台詞)を区別して検索対象として指定できる
 ・ Keywords タブにより,参照コーパスを別途設定しつつ,ある作品(群)の keywords を収集・一覧できる
 ・ Clusters タブにより,n-gram による共起表現の検索や計算ができる

 本来は,研究テーマが先にあり,その研究に役立つコーパスが存在するか,あるいは入手可能か,という問いが生じ,その答えが Yes であれば,それをどのように使えるか具体的に考え,そして実際に使ってみるというのが基本的な手順となるだろう.一方,ある新しいコーパスを見つけたら,それはどんなコーパスで,何ができる(できない)のかを問うてみて,その上で○○な研究をする際には使えそうだな,と当たりを付けておく逆の手順も,エクササイズとして有効.

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2020-12-26 Sat

#4261. 初期中英語の鳥たちの論争詩 The Owl and the Nightingale の冒頭12行 [owl_and_nightingale][literature][me_text][rhyme][manuscript][popular_passage][hel_education]

 梟とナイチンゲールが討論を繰り広げる The Owl and the Nightingale は,初期中英語期を代表する英語文学作品の1つとして受容されている.文学のみならず英語史・文献学の観点からも重要なテキストである.1200年前後(1189〜1216年辺りとされる)に南部系の方言で書かれた脚韻詩で,London, British Library, Cotton Caligula A ix と Oxford, Jesus College 29 という2つの写本により現代に伝わっている.主たる校訂本,研究書,オンラインリソースは「#2532. The Owl and the Nightingale の書誌」 ([2016-04-02-1]) で挙げているので,そちらを参照.
 今回は,この作品の雰囲気を示すために冒頭の12行について,Cotton 写本をベースとした Cartlidge 版の校訂本からテキストとおよび現代英語訳を掲げよう.Cotton 写本のイメージはこちらから閲覧できる.  *

Ich was in one sumere dale,I was in a summer-valley, in a
In one suþe diȝele hale:really out-of-the-way retreat, when I
Iherde ich holde grete taleheard an owl and a nightingale having
An hule and one niȝtingale.a huge dispute. This controversy was
5Þat plait was stif & starc & strong,fierce and ferocious and furious, some-
Sumwile softe & lud among;times calm and sometimes noisy; and
An aiþer aȝen oþer sval,each of them swelled up against the
& let þat vole mod ut al;other and vented all her malicious feel-
& eiþer seide of oþeres custeings, saying the very worst thing they
10Þat alre worste þat hi wuste;could think of about their antagonist's
& hure & hure of oþeres songecharacter; and about their songs, espec-
Hi holde plaiding suþe stronge.ially, they had a vehement debate.


 ・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.

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2020-12-15 Tue

#4250. Shakespeare の言語の研究に関する3つの側面と4つの目的 [shakespeare][emode][literature][methodology][philology]

 私自身は Shakespeare の言語を本格的に研究したことはないが,英語史の記述研究においては避けることのできない大きな対象であることは間違いない.言語研究という観点からの Shakespeare への注目は19世紀後半に始まり,現在までに多くの成果が蓄積されてきた.文法書,語彙目録,コーパス,コンコーダンス,データベースも整備されてきたし,論著の数もはかりしれない.現在も主としてコーパスを用いた研究に様々な動きがあるようで,Shakespeare 人気は相変わらずである.
 Busse and Busse (811) に,他の論著に依拠したものではあるが,Shakespeare の言語の研究について,3つの側面と4つの目的を区別する必要があるとして,それぞれ箇条書きされている.まずは3つの側面から.

1. English as it was about 1600
2. Shakespeare's interest in his language
3. Shakespeare's unique use of English


 「Shakespeare の言語」を狭く解釈すれば3のみとなるだろうが,当時の初期近代英語全体のなかにそれを位置づけ,そこからさらに Shakespeare の言葉使いの特徴をあぶり出すという趣旨を含めれば1も重要である.そして,Shakespeare の言語に対する関心や態度という2の側面も当然ながら探りたい.
 次に Shakespeare の言語の研究の4つの目的について.

1. to enable the speaker of Present-day English to share as far as possible in the responses of the original audience;
2. to draw attention to the manner in which Shakespeare handles the language of his time for artistic purposes;
3. to use the language of Shakespearean drama as data on which to base conclusions about Elizabethan English in general; and
4. to provide illuminating information about various aspects of Shakespeare's linguistic background, in particular, the attitude to the language of his time.


 いずれも現代的な言語研究の目的であるとともに,実は多分に philological な目的である.
 関連して 「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1]),「#1763. Shakespeare の作品と言語に関する雑多な情報」 ([2014-02-23-1]) を参照.その他 shakespeare の数々の記事もどうぞ.

 ・ Busse, Ulrich and Beatrix Busse. "Early Modern English: The Language of Shakespeare." Chapter 51 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 808--26.

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2019-08-12 Mon

#3759. 周縁部から始まった俗語書記文化 [celtic][anglo-saxon][germanic][latin][literature][writing][geography][geolinguistics]

 中世前期のヨーロッパにおける俗語書記文化の発達は,周縁部から順に始まったようにみえる.ラテン語ではなく俗語 (vernacular) で書かれた文学が現われるのは,フランス語では1098年頃の『ローランの歌』,ドイツ語では13世紀の『ニーベルンゲンの歌』というタイミングだが,英語ではずっと早く700年頃とされる『ベオウルフ』が最初である.
 地理的にさらに周縁に位置するアイルランド語については,現存する最古の文書は1106年頃の『ナ・ヌイドレ書』や1160年頃の『ラグネッヘ書』とされるが,その起源は6世紀にまでさかのぼるという.6世紀のダラーン・フォルギルによる「コルムキル(聖コルンバ)頌歌」が最もよく知られている.同じくウェールズ語についても現存する最古の文書は13世紀以降だが,「アネイリン」「タリエシン」などの詩歌の起源は6世紀にさかのぼるらしい.周縁部において俗語書記文化の発達がこれほど早かったのはなぜだろうか.原 (213) が次のように解説している.

 この答えはまさにその文化的周縁性にあるといっていいだろう.フランスの社会言語学者バッジオーニの提唱していることだが,ローマ帝国の周縁部(リメース)とその隣接地帯,すなわちブリタニア諸島,ドイツ北東部,スカンジナビア,ボヘミアなどでは,ラテン語は教養人にとっても外国語でしかなく,その使われ方も古風なままであった.権威ある言語が自由に日常的に用いられないというなかで,地元のことばをそれに代用するという考え方が生まれ,ラテン語に似せた書きことばでの使用がはじまったというわけである.
 したがって,ヨーロッパでは,ローマ帝国の周縁部,その内外で最初に,日常的に用いられる俗語による書きことばが誕生した.こうした俗語が現代の国語・民族語のはっきりとした外部であるヒベルニアでは,六世紀には詩歌ばかりでなく,年代記や法的文書までゲール語で書かれるようになった.カムリー語の法的文書は一〇世紀,聖人伝はラテン語からの翻訳で一一世紀末になって登場するので,ゲール語と比べるとその使用度は低い.ワリアが一部はローマ帝国領内だったということも関係しているだろう.


 周縁部ではラテン語の権威が適度に弱かったという点が重要である.ラテン語と距離を置く姿勢が俗語の使用を促したのである.別の観点からみれば,周縁部の社会は,ラテン語から刺激こそ受けたが,ラテン語をそのまま使用するほどにはラテン語かぶれしなかったし,母語との言語差もあって語学上のハンディを感じていたということではないか.
 そして,そのような語学上の困難を少しでも楽に乗り越えるために,学習の種々のテクニックがよく発達したのも周縁部の特徴である.「#1903. 分かち書きの歴史」 ([2014-07-13-1]) の記事で,分かち書きは「外国語学習者がその言語の読み書きを容易にするために編み出した語学学習のテクニックに由来する」と述べたが,この書記上の革新をもたらしたのは,ほかならぬイギリス諸島という周縁に住む修道僧たちだったのである.

 ・ 原 聖 『ケルトの水脈』 講談社,2007年.

Referrer (Inside): [2019-08-13-1]

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2019-05-25 Sat

#3680. 『ケルズの書』がオンラインに [manuscript][celtic][literature][link][book_of_kells][bible][manuscript][literature][ireland][latin]

 アイルランドとアングロサクソンがみごとに融合した装飾写本の傑作『ケルズの書』 (The Book of Kells) が,オンライン化した.こちらより,写本の精密画像が閲覧できる.この情報は "The Medieval Masterpiece, the Book of Kells, Is Now Digitized & Put Online" という記事で知った.


The Book of Kells, Chi-Rho Page The Book of Kells



 『ケルズの書』は,insular half-uncial 書体のラテン語で書かれた4福音書である.680ページからなる大部のところどころに極めて緻密な装飾が施されており,至高の芸術的価値を誇る.7世紀後半から9世紀にかけて,おそらくアイオナ島のアイルランド修道院で,時間をかけて編纂され装飾されたものだろう.西洋中世の写本といえば,まずこの写本の名前が挙がるというほどのダントツの逸品である.Encyclopaedia Britannica によると,次のように解説がある.

Illuminated gospel book (MS. A.I. 6; Trinity College Library, Dublin) that is a masterpiece of the ornate Hiberno-Saxon style. It is probable that the illumination was begun in the late 8th century at the Irish monastery on the Scottish island of Iona and that after a Viking raid the book was taken to the monastery of Kells in County Meath, where it may have been completed in the early 9th century. A facsimile was published in 1974.


 ダブリンに行かずとも,いながらにしてこの傑作を眺められるようになった.すごい時代になったなぁ・・・.

 ・ Encyclopaedia Britannica. Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite. Chicago: Encyclopaedia Britannica, 2008.

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2019-05-25 Sat

#3680. 『ケルズの書』がオンラインに [manuscript][celtic][literature][link][book_of_kells][bible][manuscript][literature][ireland][latin]

 アイルランドとアングロサクソンがみごとに融合した装飾写本の傑作『ケルズの書』 (The Book of Kells) が,オンライン化した.こちらより,写本の精密画像が閲覧できる.この情報は "The Medieval Masterpiece, the Book of Kells, Is Now Digitized & Put Online" という記事で知った.


The Book of Kells, Chi-Rho Page The Book of Kells



 『ケルズの書』は,insular half-uncial 書体のラテン語で書かれた4福音書である.680ページからなる大部のところどころに極めて緻密な装飾が施されており,至高の芸術的価値を誇る.7世紀後半から9世紀にかけて,おそらくアイオナ島のアイルランド修道院で,時間をかけて編纂され装飾されたものだろう.西洋中世の写本といえば,まずこの写本の名前が挙がるというほどのダントツの逸品である.Encyclopaedia Britannica によると,次のように解説がある.

Illuminated gospel book (MS. A.I. 6; Trinity College Library, Dublin) that is a masterpiece of the ornate Hiberno-Saxon style. It is probable that the illumination was begun in the late 8th century at the Irish monastery on the Scottish island of Iona and that after a Viking raid the book was taken to the monastery of Kells in County Meath, where it may have been completed in the early 9th century. A facsimile was published in 1974.


 ダブリンに行かずとも,いながらにしてこの傑作を眺められるようになった.すごい時代になったなぁ・・・.

 ・ Encyclopaedia Britannica. Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite. Chicago: Encyclopaedia Britannica, 2008.

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2019-05-10 Fri

#3665. 『新日本文学史』の目次 [toc][literature][japanese]

 日本文学史の概説を学ぶのであれば,『原色シグマ新日本文学史』の目次 (4--9) がよくできている.帯に「わずか630円(税込み)」と書いてあるとおり,これだけ安価にオールカラーのビジュアル解説で,しかもよく整理された文学史が読めるというのは,すごいことだと思う.目次シリーズで是非とも取りあげておきたい好著.日本語史との突き合わせには「#3389. 沖森卓也『日本語史大全』の目次」 ([2018-08-07-1]) を参照.さらに,イギリス文学史ともクロスさせようと思ったら「#3556. 『コンプトン 英国史・英文学史』の「英文学史」の目次」 ([2019-01-21-1]),「#3567. 『イギリス文学史入門』の目次」 ([2019-02-01-1]) もご覧ください.



上代の文学
  概観
    時代区分
    文学の誕生
    口承から記載へ
    古代国家の文学
  神話の世界
    口承から記載へ
      神話
      神話の体系化
      『古事記』
      『日本書紀』
      「風土記」
    氏族の伝承と仏教説話
      『日本霊異記』
  祭りの文学
    言霊信仰
      霊力が宿る言葉
      祝詞
      宣命
  詩歌
    古代歌謡
      歌垣・宮廷歌謡
      記紀歌謡
      仏足石歌
      『琴歌譜』
    和歌の発達
      歌集の編集
      『万葉集』
    漢詩文
      漢詩文の作者
      『懐風藻』
    歌学の誕生
      『歌経標式』
中古の文学
  概観
    時代区分
    平安京と漢文学の隆盛
    かな文字の発明と和歌
    かな散文の展開
    女流文学の開花
    平安末期の文学
  詩歌
    漢詩文
      初期――公的地位の確立
      勅撰漢詩集・主な作者
      中期以降――衰退
    和歌
      和歌の復興
      かな文字の普及
      公的地位の復活
      『古今和歌集』
      勅撰和歌集の展開 (1) ――三代集
      勅撰和歌集の展開 (2) ――八代集
      『古今集』後の歌人と私家集
      歌合と歌論
  物語
    物語の誕生
      作り物語りと歌物語
      『竹取物語』
      『宇津保物語』
      『落窪物語』
      『伊勢物語』
      『大和物語』
    『源氏物語』の世界
      『源氏物語』
    『源氏物語』以後の物語
      『堤中納言物語』
    歴史物語
      『栄花物語』
      『大鏡』
      『今鏡』
  日記・随筆
    日記
      『土佐日記』
      『蜻蛉日記』
      『和泉式部日記』
      『紫式部日記』
      『更級日記』
      その他の日記
    随筆
      『枕草子』
  説話・歌謡
    説話
      『今昔物語集』
    歌謡
      『和漢朗詠集』
      『梁塵秘抄』
中世の文学
  概観
    時代区分・背景
    王朝文化への憧憬
    思想・美意識の深化
    文芸の地方化・庶民化
    <語り>の影響
  和歌・連歌
    和歌
      『新古今和歌集』
      『百人一首』
      『金槐和歌集』
      十三代集
      南北朝・室町時代の和歌
      歌論
    連歌
      無心連歌と有心連歌
      『菟玖波集』
      連歌の完成
      『水無瀬三吟百韻』
      俳諧連歌
  物語・説話
    物語
      【擬古物語】
      【軍記物語】
      『保元物語』・『平治物語』
      『平家物語』
      『太平記』
      『義経記』・『曾我物語』
      【歴史物語】
      『増鏡』
      『愚管抄』・『神皇正統記』
    説話
      『宇治拾遺物語』
      仏教説話
      御伽草子
      キリシタン文学
  日記・随筆
    日記・紀行
      『建礼門院右京大夫集』
      その他の日記・紀行
      『とわずがたり』
    随筆・法語
      『方丈記』
      『徒然草』
      法語
  芸能・歌謡
    芸能
      観阿弥・世阿弥
      能
      狂言
      幸若舞・説経節
    歌謡
      小歌
近世の文学
  概観
    時代区分・背景
    文学の大衆化
    町人の文学と武士の文学
    時期区分
  小説
    仮名草子
      主な作品
      作者
    浮世草子
      西鶴の作品
        好色物
        町人物
        武家物・雑話物
        表現・文体
      西鶴以後――八文字屋本
    読本
      前期読本
        上田秋成
      後期読本
        曲亭馬琴
    洒落本
    滑稽本
      前期滑稽本
      後期滑稽本
      一九と三馬
    人情本
    草双紙
      黄表紙
      合巻
  俳諧
    貞門
    談林
    芭蕉
      蕉風
      漂泊と紀行文
      表現・文体
      蕉門の俳人
    天明の俳諧
      蕪村
    幕末の俳諧
      小林一茶
  川柳・狂歌
    川柳
    狂歌
      上方狂歌
      天明狂歌
  芸能
    浄瑠璃
      古浄瑠璃
      義太夫節
      近松門左衛門
      《時代物》
      《世話物》
      《表現・文体》
      全盛と不振
    歌舞伎
      出雲の阿国
      元禄歌舞伎
      浄瑠璃との交流
      江戸歌舞伎
      鶴屋南北
      河竹黙阿弥
    歌謡
    話芸
      笑話
      講釈
  和歌・漢詩文
    和歌と国学
      元禄の和歌革新と古典研究
      国学の成立
      本居宣長
      蘆庵と景樹
      幕末の歌人
    漢詩文と儒学
      初期の漢詩文と朱子学
      古学の流行と文人の登場
      清新の詩の大衆化
      個性的な詩人たち
      狂詩の流行
近代の文学
  概説
    時代区分
    近世から近代へ
    近代の出発
    近代の成立
    大正の文学
    近代から現代へ
    戦争と文学
    戦後の文学
  小説・評論
    近世から近代へ --- 明治初年〜十年代
      移行期の文学
      政治小説
      仮名垣魯文
      『小説神髄』
        意義
    近代の出発 --- 明治二十年代
      文芸批評の成立
      二葉亭四迷
        『浮雲』
      初期の鷗外
      紅露の時代
      北村透谷と『文学界』
    「社会」と「自然」 --- 日清〜日露戦争
      社会矛盾の追求
      自然描写の系譜
      樋口一葉
      泉鏡花
      社会小説
    自然主義 --- 近代の成立 1 --- 明治から大正へ (1)
      日本自然主義の出発
      日本自然主義の性質
      島崎藤村
        『破戒』
        『破戒』以後
      田山花袋
        『蒲団』
      徳田秋声
      島村抱月
    漱石と鷗外 --- 近代の成立 2 --- 明治から大正へ (2)
      特質と共通点
      夏目漱石
        初期の作品
        前期三部作
        後期三部作
      森鷗外
        豊熟の時代
        歴史小説から史伝へ
    耽美派 --- 近代の成立 3 --- 明治から大正へ (3)
      永井荷風
        《「江戸」賛美の美学》
      谷崎潤一郎
    白樺派 --- 大正前期
      武者小路実篤
        「新しき村」の運動
      志賀直哉
        前期短編群
        『暗夜行路』
      有島武郎
        全盛期 --- 『或る女』
        晩年 --- 自殺に至る過程
    新現実主義 --- 大正後期
      新思潮派
      芥川龍之介
        《前期の作品》
        《後期の作品》
        《『鼻』》
        《『羅生門』》
        《『河童』》
        《『歯車』》
      菊池寛
      久米正雄
      佐藤春夫・室生犀星
      新早稲田派
      広津和郎
      葛西善蔵
      宇野浩二
    プロレタリア文学 --- 大正末〜昭和初期
      葉山嘉樹
      小林多喜二
      徳永直
    芸術派 --- 昭和初期
      新感覚派
        横光利一
          《『機械』》
        川端康成
          《『伊豆の踊子』》
      新興芸術派
        井伏鱒二
      新心理主義
        堀辰雄
    昭和十年代の文学
      転向文学
      既成作家の活躍
      『文学界』と『日本浪曼派』
      戦時下の文学
      昭和十年代の作家
        〔中島敦〕
      その他の作家と作品
      評論
    戦後の文学
      老大家の復活
        《『細雪』》
        《『山の音』》
      新戯作派
        太宰治
          《『斜陽』》
      風俗小説
      新日本文学会
    戦後派文学
      《『真空地帯』》
      《『金閣寺』》
      第三の新人
      昭和三十年代
    現代の文学
      昭和四十年代の作家
      評論
      現代文学の動向
      評論
  詩歌
    近代詩 --- 明治〜大正時代
      新体詩
      浪漫詩
      象徴詩(一)
      口語自由詩
      象徴詩(二)
      耽美派
      理想主義の詩
      民衆詩
      近代詩の達成
    現代詩 --- 大正末期〜現代
      現代詩の始まり
      プロレタリア詩
      モダニズム
      戦時体制下の詩
        〔『四季』派〕
        〔『歴程』派〕
        〔戦時下の詩〕
      戦後の詩
      現代の詩
    近代短歌
      和歌の革新
      明星派
      根岸短歌会
      自然主義短歌
      耽美派
      アララギ派
        《アララギ派の歌論》
      反アララギ短歌
      昭和の短歌
      戦後の短歌
      現代の短歌
    近代俳句
      俳句の革新
      正岡子規
        《子規の門人達》
      新傾向俳句
      ホトトギス派
      昭和の俳句
      戦後の俳句
  劇文学
    演劇の改良と創始
    歌舞伎の改良
      〔新歌舞伎〕
    新派
    新劇運動
    戯曲作品
    発展と分裂
    「築地小劇場」
    プロレタリア演劇
    芸術派
    新派の動向
    前進座の出発
    昭和の戯曲
    戦後
    演劇界の動向
    戦後の戯曲
    現代の演劇
    現代の戯曲
    テレビのシナリオ



 ・ 秋山 虔,三好 行雄(編著) 『原色シグマ新日本文学史』 文英堂,2000年.

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2019-03-02 Sat

#3596. 文学の誕生 [literature][japanese][history]

 『新日本文学史』に「文学の誕生」 (12) という文章がある.日本文学がいかにして誕生するに至ったかを説明する文脈ではあるが,おそらく日本文学に限らず一般に通用する説だろう.先にエッセンスを示しておくと,次のような流れで文学が誕生するという.

┌───────────────┐
│ 自然への畏怖                │
│   ↓                      │
│ 神を祭る                    │
│   ↓                      │
│ 神聖な詞章の発達            │
│   ↓                      │
│ 詞章の自立・洗練            │
│   ↓                      │
│ 歌謡・神話などの文学の誕生  │
└───────────────┘

 では,以下に説明の文章を引用しよう.

 日本列島にも,一万年以上前には先土器文化の時代があった.それから数千年を経て縄文時代に入ると,石器や土器などの生産用具を用いた採集生活が営まれるようになった.紀元前三から二世紀ころになると,弥生時代が始まり,水稲耕作の技術が伝来して,採集生活の時代に比べて生産力は一段と高められた.水稲耕作は,組織的な作業を必要とするので,定住化した集団生活がそこに営まれるようになった.共同体的社会が形成され,血縁関係によって結ばれる氏族集団がまとめ上げられていくのである.こうした氏族共同体は,独自の文化を生み出していったが,一方,生産力の上昇に伴ってしだいに統合され,やがていくつかの小国へと進展していった.
 採集生活の時代から,人々は,外界の自然に対する畏怖の念をもち続けていた.その脅威からのがれ,生産の豊穣を祈念するため,そこにあらわれる超人間的な力を神として祭った.これが<祭り>の起源であり,共同体の安定は,こうした祭りによって維持されることとなった.祭りの場で語られる神聖な詞章(呪言や呪詞と呼ばれる)が,文学の原型である.これらの詞章は,日常の言語とは異なる,韻律やくり返しをもつ律文としての表現をもっていた.それはまた,祭りの場の音楽や舞踏とも一体化した,きわめて混沌とした表現であったと思われる.
 しかし,共同体が統合され,小国からやがて統一国家が形成される過程の中で,祭りも統合され,その神聖な詞章もしだいに言語表現として自立・洗練されていった.それが文学の誕生であり,そこに生み出されたのがさまざまな歌謡神話であった.


 ・ 秋山 虔,三好 行雄(編著) 『原色シグマ新日本文学史』 文英堂,2000年.

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2019-02-19 Tue

#3585. aureate の例文を OED より [oed][lydgate][style][latin][aureate_diction][literature][terminology][rhetoric]

 連日話題にしている "aureate termes" (あるいは aureate_diction)と関連して,OED で aureate, adj. の項を引いてみた.まず語義1として原義に近い "Golden, gold-coloured." との定義が示され,c1450からの初例が示されている.続いて語義2に,お目当ての文学・修辞学で用いられる比喩的な語義が掲載されている.

2. fig. Brilliant or splendid as gold, esp. in literary or rhetorical skill; spec. designating or characteristic of a highly ornamental literary style or diction (see quotes.).

1430 Lydgate tr. Hist. Troy Prol. And of my penne the traces to correcte Whiche barrayne is of aureat lycoure.
1508 W. Dunbar Goldyn Targe (Chepman & Myllar) in Poems (1998) I. 186 Your [Homer and Cicero's] aureate tongis both bene all to lyte For to compile that paradise complete.
1625 S. Purchas Pilgrimes ii. 1847 If I erre, I will beg indulgence of the Pope's aureat magnificence.
1819 T. Campbell Specimens Brit. Poets I. ii. 93 The prevailing fault of English diction, in the fifteenth century, is redundant ornament, and an affectation of anglicising Latin words. In this pedantry and use of 'aureate terms', the Scottish versifiers went even beyond their brethren of the south.
1908 G. G. Smith in Cambr. Hist. Eng. Lit. II. iv. 93 The chief effort was to transform the simpler word and phrase into 'aureate' mannerism, to 'illumine' the vernacular.
1919 J. C. Mendenhall Aureate Terms i. 7 Such long and supposedly elegant words have been dubbed ‘aureate terms’, because..they represent a kind of verbal gilding of literary style. The phrase may be traced back..in the sense of long Latinical words of learned aspect, used to express a comparatively simple idea.
1936 C. S. Lewis Allegory of Love vi. 252 This peculiar brightness..is the final cause of the whole aureate style.


 1819年, 1908年の批評的な例文からは,areate terms を虚飾的とするネガティヴな評価がうかがわれる.また,1919年の Mendenhall からの例文は,areate terms のもう1つの定義を表わしている.
 遅ればせながら,この単語の語源はラテン語の aureāus (decorated with gold) である.なお,「桂冠詩人」を表わす poet laureateaureate と脚韻を踏むが,この表現も1429年の Lydgate が初出である(ただし laureat poete の形ではより早く Chaucer に現われている).

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2019-02-18 Mon

#3584. "The dulcet speche" としての aureate terms [lydgate][style][latin][aureate_diction][literature][terminology][rhetoric]

 昨日の記事「#3583. "halff chongyd Latyne" としての aureate terms」 ([2019-02-17-1]) に引き続き,Lydgate の発展させた aureate terms という華美な文体が,同時代の批評家にどのように受け取られていたかを考えてみたい.厳密にいえば Lydgate の次世代の時代に属するが,Henry VII に仕えたイングランド詩人 Stephen Hawes (fl. 1502--21) が,The Pastime of Pleasure (1506年に完成,1509年に出版)のなかで,aureate terms のことを次のように説明している (Cap. xi, st. 2; 以下,Nichols 521fn より再引用) .

So that Elocucyon doth ryght well claryfy
The dulcet speche from the language rude,
Tellynge the tale in termes eloquent:
The barbry tongue it doth ferre exclude,
Electynge words which are expedyent,
In Latin or in Englyshe, after the entente,
Encensyng out the aromatyke fume,
Our langage rude to exyle and consume.


 Hawes によれば,それは "The dulcet speche" であり,"the aromatyke fume" であり,"the language rude" の対極にあるものだったのだである.
 これはラテン語風英語に対する16世紀初頭の評価だが,数十年おいて同世紀の後半になると,さらに本格的なラテン借用語の流入 --- もはや「ラテン語かぶれ」というほどの熱狂 --- が始まることになる.文体史的にも英語史的にも,Chaucer 以来続く1つの大きな流れを認めないわけにはいかない.
 関連して,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]),「#1463. euphuism」 ([2013-04-29-1]) を参照.

 ・ Nichols, Pierrepont H. "Lydgate's Influence on the Aureate Terms of the Scottish Chaucerians." PMLA 47 (1932): 516--22.

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2019-02-17 Sun

#3583. "halff chongyd Latyne" としての aureate terms [lydgate][chaucer][style][latin][aureate_diction][literature][terminology][rhetoric]

 標題は "aureate diction" とも称される,主に15世紀に Lydgate などが発展させたラテン語の単語や語法を多用した「金ぴかな」文体である.この語法と John Lydgate (1370?--1450?) の貢献については「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]),「#2657. 英語史上の Lydgate の役割」 ([2016-08-05-1]) で取り上げたことがあった.今回は "aureate terms" の定義と,それに対する同時代の反応について見てみたい.
 J. C. Mendenhall は,Areate Terms: A Study in the Literary Diction of the Fifteenth Century (Thesis, U of Pennsylvania, 1919) のなかで,"those new words, chiefly Romance or Latinical in origin, continually sought under authority of criticism and the best writers, for a rich and expressive style in English, from about 1350 to about 1530" (12) と定義している.Mendenhall は,Chaucer をこの新語法の走りとみなしているが,15世紀の Chaucer の追随者,とりわけスコットランドの Robert Henryson や William Dunbar がそれを受け継いで発展させたとしている.
 しかし,後に Nichols が明らかにしたように,aureate terms を大成させた最大の功労者は Lydgate といってよい.そもそも aureat(e) という形容詞を英語に導入した人物が Lydgate であるし,この形容詞自体が1つの aureate term なのである.さらに,MEDaurēāt (adj.) を引くと,驚くことに,挙げられている20例すべてが Lydgate の諸作品から取られている.
 この語法が Lydgate と強く結びつけられていたことは,同時代の詩人 John Metham の批評からもわかる.Metham は,1448--49年の Romance of Amoryus and Cleopes のエピローグのなかで,詩人としての Chaucer と Lydgate を次のように評価している(以下,Nichols 520 より再引用).

                 (314)
And yff I the trwthe schuld here wryght,
As gret a style I schuld make in euery degre
As Chauncerys off qwene Eleyne, or Cresseyd, doth endyght;
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
                 (316)
For thei that greyheryd be, affter folkys estymacion,
Nedys must be more cunne, be kendly nature,
Than he that late begynnyth, as be demonstration,
My mastyr Chauncerys, I mene, that long dyd endure
In practyk off rymyng;---qwerffore proffoundely
With many prouerbys hys bokys rymyd naturally.
                 (317)
Eke Ion Lydgate, sumtyme monke off Byry,
Hys bokys endyted with termys off retoryk
And halff chongyd Latyne, with conseytys fantastyk,
But eke hys qwyght her schewyd, and hys late werk,
How that hys contynwaunz made hym both a poyet and a clerk.


 端的にいえば,Metham は Chaucer は脚韻の詩人だが,Lydgate は aureate terms の詩人だと評しているのである.そして,引用の終わりにかけての箇所に "termys off retoryk / And halff chongyd Latyne, with conseytys fantastyk" とあるが,これはまさに areate terms の同時代的な定義といってよい.それにしても "halff chongyd Latyne" とは言い得て妙である.「#3071. Pig Latin」 ([2017-09-23-1]) を想起せずにいられない.

 ・ Nichols, Pierrepont H. "Lydgate's Influence on the Aureate Terms of the Scottish Chaucerians." PMLA 47 (1932): 516--22.

Referrer (Inside): [2019-02-18-1]

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2019-02-01 Fri

#3567. 『イギリス文学史入門』の目次 [toc][literature]

 「#3556. 『コンプトン 英国史・英文学史』の「英文学史」の目次」 ([2019-01-21-1]) に続き,英文学史の目次の第2弾.暗記すると時代の流れがよく呑み込める.



  1. 古期から中世へ(七世紀--十五世紀)
    なぜ「イングランド」か?
    イギリスの詩のはじまり
    中世の英語と文学
    『キャンタベリ―物語』
    その他の中世詩
  2. ルネッサンスが花ひらく(十五世紀--十六世紀)
    ヘンリー八世の宮廷
    人文思想とトマス・モア
    ワイアットとサリー
    栄光女王エリザベス
    フィリップ・シドニー
    エドマンド・スペンサー
    詩人としてのシェイクスピア
  3. 演劇時代の到来(十六世紀後半)
    三つの発生源
    常設の芝居小屋ができる
    トマス・キッドの血なまぐさい悲劇
    大学才人たち
    マーロウの力強き詩行
  4. そしてシェイクスピア登場(一五九〇--一六一三)
    若い劇作家
    創作第一期(一五九〇--五)
    創作第二期(一五九六--一六〇〇)
    創作第三期(一六〇一--九)
    創作第四期(一六〇九--一二)
  5. 時代は清教徒革命に向かう(十七世紀前半)
    ベーコンの新しい思想と散文
    ジェームズ王聖書
    ベン・ジョンソンの気質喜劇
    ジャコビアン・ドラマティストたち
    ベン・ジョンソンと叙情詩人たち
    ダンとその一派
    その他の形而上派詩人たち
  6. 清教徒革命の後(十七世紀後半)
    王政回復期の文学
    孤峰ミルトン
    『失楽園』
    『復楽園』『闘技者サムソン』
    もう一つの清教徒文学
    ドライデンの詩と劇と散文
  7. 十八世紀の散文,詩,そして劇(一七〇〇--一七九八)
    市民社会と<事実>の文学
    スウィフトの風刺文学
    ポープが詩壇の中心に立つ
    大御所ジョンソン博士
    十八世紀の劇作家たち
    夜の時間が長くなる
  8. 小説時代の到来(十八世紀)
    ロビンソン・クルーソー
    リチャードソンの『パメラ』と『クラリッサ』
    フィールディングの『トム・ジョーンズ』
    スターンの『トリスラム・シャンディ』
    スモレットと「悪党小説」
    オースティンと「分別」の小説
  9. ロマン主義の光と影(一七九八--一八三六)
    ブレイクと自由の主張
    ワーズワースと自然詩
    コールリッジの詩と批評
    バイロンとロマン派的パフォーマンス
    シェリーと空霊の歌
    純粋詩人キーツ
  10. ヴィクトリア朝の詩と散文(一八三七--一九〇一)
    時代の予言者カーライル
    テニソンはヴィクトリア朝詩を代表する
    もう一人のヴィクトリア朝詩人ブラウニング
    アーノルドは詩から散文に移った
    美の使徒たち--ラスキンとペイター
    ラファエロ前派の作家たち
    世紀末作家ワイルド
  11. ヴィクトリア朝の小説(一八三七--一九〇一)
    読書が新しいエンターテインメントとなった
    ディケンズ成功の秘密
    社会批判と愛のメッセージ
    サッカレーと『虚栄の市』
    ブロンテ姉妹のロマン主義
    ジョージ・エリオットと社会的義務の小説
    メレディスとエゴイズムの小説
    ハーディの暗い運命観
    外へ向かう視線
  12. 二十世紀の詩と劇
    群小詩人の風土
    ホプキンズと現代詩
    イェイツとケルト復興,およびその後
    エリオットの詩と批評
    オーデンと三十年代詩人
    ディラン・トマスと四十年代,そしてその後
    ショーとイギリス近代劇
    怒れる若者たち
    不条理劇のある部分
  13. 二十世紀の小説
    ジェイムズと小説の手法
    コンラッド--自然と人間の極限状況
    エドワード王朝期を代表する三人
    フォースターとブルームスベリー・グループ
    ウルフと意識の流れの小説
    ジョイスと神話的方法
    ロレンスと生命の哲学
    逆ユートピア小説
    二人のカトリック作家
    「怒れる」作家たちと,その後



 ・ 川崎 寿彦 『イギリス文学史入門』 研究社,1986年.

Referrer (Inside): [2020-03-14-1] [2019-05-10-1]

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2019-01-21 Mon

#3556. 『コンプトン 英国史・英文学史』の「英文学史」の目次 [toc][literature]

 昨日の記事「#3555. 『コンプトン 英国史・英文学史』の「英国史」の目次」 ([2019-01-20-1]) に引き続き,同じ『コンプトン』より今回は「英文学史」の部分の目次 (ix--x) を掲げよう.イギリス史と同じく,要点を押さえたコンパクトな英文学史概説として勧められる.



  古代英文学
    古代の英詩
  中世英文学
    新文学の先駆者チョーサー
  ルネサンス期の文学
    イギリス=ルネサンス期の詩人たち
    スペンサーとマーロー
    劇作の天才シェイクスピア
    ジョンソンとその名作『ヴォルポーニ』
    欽定訳聖書
  17世紀の時代変化
    17世紀の散文
    バニヤンとピープス
    ピューリタン詩人ミルトン
    形而上詩人と王党派詩人
    17世紀後期の巨匠ドライデン
  18世紀 ―― 理性の時代
    アディソン,スティール,デフォー
    毒舌居士スウィフト
    ポープの詩に見る風刺
    詩壇の新声
    近代小説の発端
    ジョンソンとその一派
  ロマン主義運動
    ロマン主義の先駆者たち
    ロマン主義時代初期の大作家たち
    新進のロマン主義者たち
  ヴィクトリア朝の文学
    ヴィクトリア朝の大詩人たち
    ラファエロ前派
    ヴィクトリア朝の小説家たち
    心理小説の出現
    ロマンスと冒険
    19世紀のドラマ
    評論家と歴史家
  現代文学
    20世紀初期の散文
    20世紀初期の詩
    第一次世界大戦の影響
    第一次世界大戦後の英国詩壇
    第二次世界大戦後の文学



 ・ 加藤 憲一・加藤 治(訳) 『コンプトン 英国史・英文学史』 大修館書店,1987年.

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2018-11-10 Sat

#3484. 英詩の形式の変遷 [poetry][prosody][literature][alliteration][rhyme][meter][shakespeare]

 岡崎 (71) によれば,古英語以来,英詩の形式は,リズム,押韻方法,詩行構造,種類という点において大きな変化を遂げてきた.

 a. リズム:強弱から弱強へ
 b. 押韻:頭韻から脚韻へ
 c. 詩行構造:不定の長さ(音節数)から定まった長さ(音節数)へ
 d. 種類:単一の形式から多様な形式へ


 古英語期から中英語期へ,そして近代英語期以降へと,英詩の形式は確かに大変化に見舞われてきた.背景には,英語の音変化や外来の詩型からの影響というダイナミックな要因が関与している.それぞれの時代の代表的な詩型の種類と特徴を,岡崎の要約により示そう.

[ 古英語頭韻詩 ](p. 71)

 a. 1行(長行,long-line)は,二つの半行 (half-line) から構成されている.
 b. 半行の音節数は3音節以上だが,一定していない.
 c. 頭韻する分節音は,第1半行(前半)に最大二つ,第2半行(後半)に一つ.
 d. 半行中で頭韻する分節音を含む音節が強音部となり,強弱の韻律が実現される.

[ 中英語頭韻詩 ](p. 73)

 a. 音節数不定の長行が基本単位(の可能性が高い).
 b. 頭韻する子音を含む語が1行に最小で二つ,最大で四つ.三つの場合が多い.
 c. 頭韻詩ごとに個々の独自の詩型がある.

[ 中英語の様々な脚韻詩 ](p. 75)

 a. 8詩脚の脚韻付連句:1行16音節.弱強8詩脚.2行1組.第4詩脚のあとに行中休止 (caesura) .半行末で脚韻.
 b. アレグザンダー詩行 (Alexandrine) :1行12音節.弱強6詩脚.行末で脚韻.
 c. 弱強5歩格 (iambic pentameter) :1行10音節.弱強5詩脚.行末で脚韻.
 d. 弱強4歩格 (iambic tetrameter) :1行8音節.弱強4詩脚.行末で脚韻.
 e. 弱強3歩格 (iambic trimeter) :1行6音節.弱強3詩脚.アレグザンダー詩行を二分割したもの.
 f. (stanza) :複数行からなる詩行の意味上のまとまり.
 g. 2行連 (couplet) :2行から構成される詩行の意味上のまとまり.
 h. 尾韻 (tail rhyme) :6行1組で脚韻型が aabccb の詩.ラテン語の賛美歌から.
 i. 帝王韻 (rhyme royal) :7行連の弱強5歩格の詩で,脚韻型が abcbbcc.
 j. ボブ・ウィール連 (bob-wheel stanza) :5行の脚韻詩行で,第1行のボブは1強勢,それに続く4行のウィールの各行は3強勢.脚韻型は ababa.
 k. バラッド律 (ballad meter) :4行連 (quatrain) が基本の詩型.弱強4歩格と弱強3歩格の2行連二つから構成される.3歩格詩行の行末が脚韻.

[ 近代英語以降の脚韻詩 ](pp. 76--79)

 ・ 弱強(5歩)格 (iambic pentameter) を中心としつつも,弱弱強格 (anapestic meter),強弱格 (trochaic meter),強弱弱格 (dactylic meter),無韻詩 (blank verse),自由詩 (free verse) など少なくとも11種類の詩型が出現した.
 ・ 詩脚と実際のリズムの間に不一致 (mismatch) がある.詩脚のW位置に強勢音節が配置される不一致型には規則性があり,統語構造をもとに一般化できる.
 ・ Shakespeare のソネット:弱強5歩格「4行連×3+2行」という構成で,ababcdcdefefgg の脚韻型を示す.
 ・ 句またがり (enjambment) の使用:詩行末が統語節末に対応しない現象.行末終止行 (end-stopped line) と対比される.

 英詩の種類の豊富さは,歴史のたまものである.これについては「#2751. T. S. Eliot による英語の詩の特性と豊かさ」 ([2016-11-07-1]) も参照.

 ・ 岡崎 正男 「第4章 韻律論の歴史」 服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.71--88頁.

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2018-05-31 Thu

#3321. 英語の諺の起源,生成,新陳代謝 [proverb][literature]

 昨日の記事「#3320. 英語の諺の分類」 ([2018-05-30-1]) に引き続き,諺の話題.英語の諺の起源は様々である.英語独自に培われてきたものもあれば,他言語ですでに使われていたものを借りてきた場合もある.例えば,英語独自の諺の代表例としては It never rains but it pours (降れば必ずどしゃ降り)が挙げられる.この諺(の変異形)の初例は,The Oxford Dictionary of Proverbs によれば1726年の It cannot rain but it pours である.
 しかし,多くはギリシア語やラテン語などの古典語,あるいはフランス語などで用いられていた諺が,英訳されて入ってきたものである.つまり,「伝統的」とされる英語の諺も,多くが外国産というわけだ.There's many a slip 'twixt cup and lip (コップを口に持っていく間にも多くのしくじりがある;油断大敵)は1539年に初出しているが,ギリシア語やラテン語の原型から借りたものである.また,Nothing succeeds like success (一事成れば万事成る)は,1867年にフランス語から入ったものである.日本語の「井の中の蛙大海を知らず」が1918年に英語に入った,The frog in the well knows nothing of the sea もある.
 上記の例からも分かる通り,すべての諺が古い歴史をもっているかといえば,案外そうでもない.英語の諺でもアメリカで生まれて普段使いされているものもあり,それらは近現代の産物である.例として,1948年に初出の The family that prays together stays together (ともに祈りをする家族の結束は固い)や,1978年に初出の The opera isn't over till the fat lady sings (太った女性が歌うまでオペラは終らない;事は最後の最後までわからない)を挙げておこう.
 上のオペラの諺は最新の諺の1つだが,コンピュータ革命によってもたらされた知恵の1つ Garbage in, garbage out (不良情報を入力すれば,不良情報が出力される)も初出が1957年と若い.There's no such thing as a free lunch (無料の昼飯などない)は1967年の初出だが,すでに広く使われている.
 このように諺は各時代,各地域で新しいものが作られ,一方で古いもので忘れ去られていくものもあり,常に新陳代謝が生じている.その意味では,通時的な振る舞い方は語彙などと異なるところがない.

 ・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.

Referrer (Inside): [2018-08-22-1] [2018-05-27-1]

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