McKeown のシェイクスピアの言語論を読んだ.英語史のハンドブックのなかに納められている,"Shakespeare's Literary Language" と題する9ページほどのさほど長くない導入的エッセーである.結論的にいえば,沙翁の言語は "speaking picture" であるということだ.これは「語る絵画」と訳せばよいのだろうか.言葉によって,あたかも絵画を鑑賞しているような雰囲気に誘う,というほどの理解でよいだろうか.
その効果が最もよく発揮されているのが「独白」であるという.シェイクスピアといえば,確かに独白を思い浮かべる人も多いだろう.エッセーの締めくくりに次のようにある.
There is much more to Shakespeare the poet than the soliloquy or the monologue but there is nothing more Shakespeare than this poetic mode. If we recognize that it derives from a tradition that regards poetry as a "speaking picture" that teaches and delights, we can give some critical substance to the oft made suggestion that Shakespeare, more than anyone else, teaches us what it means to be human. For what is definitive about human beings if not self-consciousness, and what is self-consciousness if not the capacity to act as witnesses to our own lives, to separate ourselves from our experiences, however blissful or devastating, and give them voice?
沙翁については,本ブログでも shakespeare の各記事で取り上げてきたし,Voicy heldio でも話題にしてきた.主要なコンテンツを列挙しておこう.今後も多く取り上げていきたい.
・ hellog 「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1])
・ hellog 「#1763. Shakespeare の作品と言語に関する雑多な情報」 ([2014-02-23-1])
・ hellog 「#2283. Shakespeare のラテン語借用語彙の残存率」 ([2015-07-28-1])
・ hellog 「#4341. Shakespeare にみられる4体液説」 ([2021-03-16-1])
・ hellog 「#4250. Shakespeare の言語の研究に関する3つの側面と4つの目的」 ([2020-12-15-1])
・ hellog 「#4285. Shakespeare の英語史上の意義?」 ([2021-01-19-1])
・ hellog 「#4482. Shakespeare の発音辞書?」 ([2021-08-04-1])
・ hellog 「#4483. Shakespeare の語彙はどのくらい豊か?」 ([2021-08-05-1])
・ hellog 「#5316. Shakespeare の作品一覧(執筆年代順) --- 井出新(著)『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)より」 ([2023-11-16-1])
・ heldio 「#898. 井出新先生のご著書の紹介 --- 『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)」
・ McKeown, Adam. N. "Shakespeare's Literary Language." Chapter 44 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 455--63.
井出新先生(慶應義塾大学文学部英米文学専攻)の新著のコラムに,シェイクスピアの作品一覧表(執筆年代順)が便利に掲載されている (42--43) .「作品一覧表の推定執筆年は,戯曲については Martin Wiggins, British Drama 1533--1642: A Catalogue (Oxford University Press, 2021--) に,詩作については Arden 版シェイクスピア(第3シリーズ)に拠っています」 (43) とのことで,以下に一覧を再現しておきたい(関連して「#1044. 中英語作品,Chaucer,Shakespeare,聖書の略記一覧」 ([2012-03-06-1]) も参照).表中の「判型」は,F = Folio (二つ折り本), Q = Quarter (四つ折り本), O = Octavo (八つ折り本).
*: シェイクスピア存命中に宮廷上演の史料が残っている作品 +: ロンドン法学院,オックスフォード,またはケンブリッジでの上演を示唆する史料が残っている作品
[A] Pembroke's Men [B] Strange's Men [C] Derby's Men [D] Chamberlain's Men [E] King's Men
作品名 | 推定執筆年 | 初版出版年 (判型) [初演の劇団] |
---|---|---|
ヘンリー六世 第二部 Henry VI, Part 2 | 1591 | 1594 (Q) [A?] |
ヘンリー六世 第三部 Henry VI, Part 3 | 1591 | 1595 (O) [A] |
じゃじゃ馬ならし The Taming of the Shrew | 1592 | 1623 (F) [A] |
ヘンリー六世 第一部 Henry VI, Part 1 | 1592 | 1623 (F) [B] |
タイタス・アンドロニカス Titus Andronicus | 1592 | 1594 (Q) [A?] |
間違いの喜劇 The Comedy of Errors | 1592 | 1623 (F) [A?+*] |
リチャード三世 Richard III | 1593 | 1597 (Q) [C?] |
エドワード三世 Edward III | 1593 | 1596 (Q) [?] |
ヴィーナスとアドーニス[詩] Venus and Adonis | 1593--94 | 1593 (Q) |
ヴェローナの二紳士 The Two Gentlemen of Verona | 1594 | 1623 (F) [?] |
ロミオとジュリエット Romeo and Juliet | 1594 | 1597 (Q) [D?] |
ルークリースの陵辱[詩] The Rape of Lucrece | 1593--94 | 1594 (Q) |
リチャード二世 Richard II | 1595 | 1597 (Q) [D] |
夏の夜の夢 A Midsummer Night's Dream | 1595 | 1600 (Q) [D*] |
恋の骨折り損 Love's Labour's Lost | 1596 | 1598 (Q) [D*] |
ジョン王 King John | 1596 | 1623 (F) [D] |
ヴェニスの商人 The Merchant of Venice | 1596 | 1600 (Q) [D*] |
ヘンリー四世 第一部 Henry IV, Part 1 | 1597 | 1598 (Q) [D*] |
ウィンザーの陽気な女房たち The Merry Wives of Windsor | 1597 | 1602 (Q) [D*] |
ヘンリー四世 第二部 Henry IV, Part 2 | 1597 | 1609 (Q) [D*] |
から騒ぎ Much Ado About Nothing | 1598 | 1600 (Q) [D*] |
ヘンリー五世 Henry V | 1599 | 1600 (Q) [D*] |
ジュリアス・シーザー Julius Caesar | 1599 | 1623 (F) [D*] |
情熱の巡礼者[詩] The Passionate Pilgrim | 1598--99 | 1599 (Q) |
お気に召すまま As You Like It | 1600 | 1623 [F] [D] |
ハムレット Hamlet | 1600 | 1603 (Q) [D+] |
十二夜 Twelfth Night, or What You Will | 1601 | 1623 (Q) [D+] |
不死鳥と雉鳩[詩] The Passionate Pilgrim | 1601 | 1601 (Q) |
トロイラスとクレシダ Troilus and Cressida | 1602 | 1609 (Q) [D] |
尺には尺を Measure for Measure | 1603 | 1623 (F) [E*] |
オセロー Othello | 1604 | 1622 (Q) [E+*] |
終わりよければすべてよし All's Well That Ends Well | 1605 | 1623 (F) [E] |
リア王 King Lear | 1605 | 1608 (Q) [E*] |
マクベス Macbeth | 1606 | 1623 (F) [E] |
アントニーとクレオパトラ Antony and Cleopatra | 1606 | 1623 (F) [E] |
アテネのタイモン Timon of Athens | 1607 | 1623 (F) [E] |
ペリクリーズ Pericles | 1607 | 1609 (Q) [E] |
コリオレイナス Coriolanus | 1608 | 1623 (F) [E] |
ソネット集[詩] Sonnets | ?--1609 | 1609 (Q) |
恋人の嘆き[詩] A Lover's Complaint | 1609 | 1609 (Q) |
シンベリン Cymbeline | 1610 | 1623 (F) [E] |
冬物語 The Winter's Tale | 1611 | 1623 (F) [E*] |
テンペスト The Tempest | 1611 | 1623 (F) [E*] |
ヘンリー八世 Henry VIII | 1612 | 1623 (F) [E] |
血縁の二公子 The Two Noble Kinsmen | 1613 | 1634 (Q) [E] |
本書については昨日の Voicy heldio でも「#898. 井出新先生のご著書の紹介 --- 『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)」としてご紹介していますので,ぜひお聴き下さい.
・ 井出 新 『シェイクスピア それが問題だ!』 大修館,2023年.
先日の hellog 「#5206. Beowulf の冒頭11行を音読」 ([2023-07-29-1]) や Voicy heldio 「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」を通じて,古英語で書かれた代表的な英雄詩 Beowulf に関心をもたれた方もいるかと思います.
前回に引き続き,古英語を専門とする唐澤一友氏(立教大学),和田忍氏(駿河台大学),小河舜氏(フェリス女学院大学ほか)の3名と,酒を交わしながら Beowulf 談義を繰り広げました.とりわけこの作品の専門家である唐澤氏に,Beowulf はいかにして現代に伝わってきたのか,その言葉遣いの特徴は何か,その物語はいつ成立したのか等の質問を投げかけ,回答をいただきました.
本編のみで40分ほどの長尺となっており(しかも終わりの方は少々荒れてい)ますが,時間のあるときにお聴きいただければ.
・ heldio 「#797. 唐澤一友さんに Beowulf のことを何でも質問してみました with 和田忍さん and 小河舜さん」
この作品に関心を抱いた方は,本ブログの beowulf の各記事もご覧下さい.
先日「#5194. 7月29日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」」 ([2023-07-17-1]) でご案内した通り,昨日,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回となる「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」を開講しました.多くの方々に対面あるいはオンラインで参加いただきまして感謝申し上げます.ありがとうございました.
古英語期中に,いかにして英語話者たちがゲルマン民族に伝わっていたルーン文字を捨て,ローマ字を受容したのか.そして,いかにしてローマ字で英語を表記する方法について時間をかけて模索していったのかを議論しました.ローマ字導入の前史,ローマ字の手なずけ,ラテン借用語の綴字,後期古英語期の綴字の標準化 (standardisation) ,古英詩 Beowulf にみられる文字と綴字について,3時間お話ししました.
昨日の回をもって全4回シリーズの前半2回が終了したことになります.次回の第3回は少し先のことになりますが,10月7日(土)の 15:00~18:45 に「中英語の綴字 --- 標準なき繁栄」として開講する予定です.中英語期には,古英語期中に発達してきた綴字習慣が,1066年のノルマン征服によって崩壊するするという劇的な変化が生じました.この大打撃により,その後の英語の綴字はカオス化の道をたどることになります.
講座「文字と綴字の英語史」はシリーズとはいえ,各回は関連しつつも独立した内容となっています.次回以降の回も引き続きよろしくお願いいたします.日時の都合が付かない場合でも,参加申込いただけますと後日アーカイブ動画(1週間限定配信)にアクセスできるようになりますので,そちらの利用もご検討ください.
本シリーズと関連して,以下の hellog 記事をお読みください.
・ hellog 「#5088. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」 ([2023-04-02-1])
・ hellog 「#5194. 7月29日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」」 ([2023-07-17-1])
同様に,シリーズと関連づけた Voicy heldio 配信回もお聴きいただければと.
・ heldio 「#668. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」(2023年3月30日)
・ heldio 「#778. 古英語の文字 --- 7月29日(土)の朝カルのシリーズ講座第2回に向けて」(2023年7月18日)
「#2893. Beowulf の冒頭11行」 ([2017-03-29-1]) と「#2915. Beowulf の冒頭52行」 ([2017-04-20-1]) で,古英詩の傑作 Beowulf の冒頭を異なるエディションより紹介しました.今回は Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」と連動させ,この詩の冒頭11行を Jack 版から読み上げてみたので,ぜひ聴いていただければと思います.「#789. 古英詩の傑作『ベオウルフ』の冒頭11行を音読」です.以下に,Jack 版と忍足による日本語訳のテキスト,および写本画像を掲げておきます.
1 Hwæt, wē Gār-Dena in geārdagum, いざ聴き給え,そのかみの槍の誉れ高きデネ人の勲,民の王たる人々の武名は, 2 þēodcyninga þrym gefrūnon, 貴人らが天晴れ勇武の振舞をなせし次第は, 3 hū ðā æþelingas ellen fremedon. 語り継がれてわれらが耳に及ぶところとなった. 4 Oft Scyld Scēfing sceaþena þrēatum, シェーフの子シュルドは,初めに寄る辺なき身にて 5 monegum mǣgþum meodosetla oftēah, 見出されて後,しばしば敵の軍勢より, 6 egsode eorl[as], syððan ǣrest wearð 数多の民より,蜜酒の席を奪い取り,軍人らの心胆を 7 fēasceaft funden; hē þæs frōfre gebād, 寒からしめた.彼はやがてかつての不幸への慰めを見出した. 8 wēox under wolcnum, weorðmyndum þāh, すなわち,天が下に栄え,栄光に充ちて時めき, 9 oðþæt him ǣghwylc þ[ǣr] ymbsittendra 遂には四隣のなべての民が 10 ofer hronrāde hȳran scolde, 鯨の泳ぐあたりを越えて彼に靡き, 11 gomban gyldan. Þæt wæs gōd cyning! 貢を献ずるに至ったのである.げに優れたる君王ではあった.
Beowulf については,本ブログでも beowulf の各記事で取り上げてきました.また,この作品については,先日 Voicy heldio で専門家との対談を収録・配信したので,そちらもお聴き下さい.「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」です.
古英語の響きに関心を持った方は,ぜひ Voicy heldio より以下もお聴きいただければ.
・ 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」
・ 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」
・ 「#735. 古英語音読 --- マタイ伝「種をまく人の寓話」より毒麦の話」
・ 「#766. 古英語をちょっとだけ音読 「キャドモンの賛歌」」
・ Jack, George, ed. Beowulf: A Student Edition. Oxford: Clarendon, 1994.
・ 忍足 欣四郎(訳) 『ベーオウルフ』 岩波書店,1990年.
昨日,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」を配信しました(27分ほどの尺となっています)
出演者の皆さんが Beowulf の専門家といってもよいですが,とりわけ唐澤先生にとってはストライクの話題です,唐澤先生とは一度 heldio で対談しています.そのときには古英語と無関係の「#314. 唐澤一友先生との対談 今なぜ世界英語への関心が高まっているのか?」という話題でお届けしましたが,本来のご専門は古英語とその文学です.
Beowulf の概要については上記の配信よりお聴きいただければと思いますが,ここでも簡単に紹介しておきます.Beowulf は古英語文学の最高傑作とされる英雄詩であり,ヨーロッパにおいて最も早くヴァナキュラーで著わされた叙事詩です.紀元1000年頃のものと推定される唯一写本 Cotton Vitellius A XV に納められたテキストだが,物語としては6世紀初頭の出来事を扱っており,作られたのは8世紀前半と考えられています.テキストの存在は近代まで広く知られることはなく,ようやく19世紀前半に印刷されることになりました.
物語は主人公ベオウルフの冒険と生涯を軸に進んでいきますが,この人物が歴史的存在であるという証拠はありません.ただし,物語の登場人物,場所,出来事のなかには,歴史的に確認できるものが含まれています.
形式,文体,主題の観点からは,Beowulf はゲルマン英雄詩の伝統に乗った作品といえます.主人公が怪物の腕を引き裂く場面や湖に潜る場面を含め多くのエピソードが民間伝承に基づくものです.倫理的価値観としては運命・忠誠心・復讐など明らかにゲルマン的な要素が濃い一方で,キリスト教的な精神も強く,実際にキリスト教の寓意詩であるとの評価も一般的に受け入れられています.
現代英語訳や和訳もあり,映画化もされている古英語文学の至宝です.ぜひ関心をもっていただければ.hellog でも beowulf の各記事で取り上げてきたので,ご覧ください.
今回の heldio 出演者の HP 等へリンクを張っておきます.
・ 唐澤一友先生(立教大学)
・ 和田忍先生(駿河台大学)
・ 小河舜先生(フェリス女学院大学ほか)
昨日「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回がアップされました.「#144. イギリスの地名にヴァイキングの足跡 --- ゲスト・小河舜さん」です.小河舜さんを招いての全4回シリーズの第1弾となります.
小河さんの研究テーマは後期古英語期の説教師・政治家 Wulfstan とその言語です.立教大学の博士論文として "Wulfstan as an Evolving Stylist: A Chronological Study on His Vocabulary and Style." を提出し,学位授与されています.Wulfstan については本ブログより「#5176. 後期古英語の聖職者 Wulfstan とは何者か? --- 小河舜さんとの heldio 対談」 ([2023-06-29-1]) をご覧ください.また,小河さんは今回の YouTube の話題のように,イギリスの地名(特に古ノルド語要素を含む地名)にも関心をお持ちです.
小河さんとは,今回の YouTube 共演以前にも,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で複数回にわたり対談し,その様子を配信してきました.実際,今朝の heldio 最新回でも小河さんとの対談を配信しています.これまでの対談回を一覧にまとめましたので,ぜひお時間のあるときにお聴きいただければ.
・ 「#759. Wulfstan て誰? --- 小河舜さんとの対談【第1弾】」(6月29日配信)
・ 「#761. Wulfstan の生きたヴァイキング時代のイングランド --- 小河舜さんとの対談【第2弾】」(7月1日配信)
・ 「#763. Wulfstan がもたらした超重要単語 "law" --- 小河舜さんとの対談【第3弾】」(7月3日配信)
・ 「#765. Wulfstan のキャリアとレトリックの変化 --- 小河舜さんとの対談【第4弾】」(7月5日配信)
・ 「#767. Wulfstan と小河さんのキャリアをご紹介 --- 小河舜さんとの対談【第5弾】」(7月7日配信)
・ 「#770. 大学での英語史講義を語る --- 小河舜さんとの対談【第6弾】」(7月10日配信)
・ 「#773. 小河舜さんとの新シリーズの立ち上げなるか!?」(本日7月13日配信)
小河さんの今後の英語史活動(hel活)にも期待しています!
(以下は,2023/08/02(Wed) 付で加えた後記です)
・ YouTube 小河舜さんシリーズ第1弾:「#144. イギリスの地名にヴァイキングの足跡 --- ゲスト・小河舜さん」です
・ YouTube 小河舜さんシリーズ第2弾:「#146. イングランド人説教師 Wulfstan のバイキングたちへの説教は歴史的異言語接触!」
・ YouTube 小河舜さんシリーズ第3弾:「#148. 天才説教師司教は詩的にヴァイキングに訴えかける!?」
・ YouTube 小河舜さんシリーズ第4弾:「#150. 宮崎県西米良村が生んだ英語学者(philologist)でピアニスト小河舜さん第4回」
今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,「#759. Wulfstan て誰? --- 小河舜さんとの対談【第1弾】」を配信しました.対談相手の小河舜さんは,この Wulfstan とその著作の言語(古英語)を研究し,博士号(立教大学)を取得されています.対談の第1弾と銘打っている通り,今後,第2弾以降も順次お届けしていく予定です.
Wulfstan は,996--1002年にロンドン司教,1002--1023年にヨーク大司教,そして1002--1016年にウースター司教を務めた聖職者で,Lupus (狼)の仮名で古英語の説教,論文,法典を多く著わしました.ベネディクト改革を受けて現われた,当時の宗教界・政治界の重要人物です.司教になる前の経歴は不明です.
Wulfstan の文体は独特なものとして知られており,作品の正典はおおよそ確立されています.1008年から Æthelred と Canute の2人の王の顧問を務め,法律を起草しました.Wulfstan は,Canute にキリスト教の王として統治するよう促し,アングロサクソン文化を破壊から救った人物としても評価されています.Wulfstan は政治や社会のあり方に関心をもち,Institutes of Polity を著わしています.そこでは,王を含むすべての階級の責任を記述し,教会と国家の関係について論じています.
Wulfstan は教会改革にも深く関わっており,教会法の文献を研究しました.また,Ælfric に2通の牧会書簡を書くように依頼し,自身も The Canons of Edgar として知られるテキストを書いています.
Wulfstan の最も有名な作品は,Æthelred がデンマークの Sweyn 王に追放された後に,同胞に改悛と改革を呼びかけた情熱的な Sermo Lupi ad Anglos (1014) です.
Wulfstan は,アングロサクソン人にとってきわめて多難な時代に,政治の舵取りを任された人物でした.彼にとって,レトリックはこの難局を克服するための重要な手段だったはずです.悩める Wulfstan の活躍した時代背景やそのレトリックについて,小河さんとの今後の対談にご期待ください.
古英語テキストを原文で読むシリーズ.新約聖書のマタイ伝より13章の「種をまく人の寓話」より24--30節の毒麦の話を,古英語版で味わってみよう.以下,Sweet's Anglo-Saxon Primer (9th ed.) の校訂版より引用する.あわせて,1611年の The Authorised Version (The King James Version [KJV]) の近代英語訳と日本語口語訳も添えておく.
[ 古英語 ]
Heofona rīċe is ġe·worden þǣm menn ġe·līċ þe sēow gōd sǣd on his æcere. Sōþlīċe, þā þā menn slēpon, þā cōm his fēonda sum, and ofer·sēow hit mid coccele on·middan þǣm hwǣte, and fērde þanon. Sōþlīċe, þā sēo wyrt wēox, and þone wæstm brōhte, þā æt·īewde se coccel hine. Þā ēodon þæs hlāfordes þēowas and cwǣdon: 'Hlāford, hū, ne sēowe þū gōd sǣd on þīnum æcere? Hwanon hæfde hē coccel?' Þā cwæþ hē; 'Þæt dyde unhold mann.' Þā cwǣdon þā þēowas 'Wilt þū, wē gāþ and gadriaþ hīe?' Þā cwæþ hē: 'Nese: þȳ·lǣs ġē þone hwǣte ā·wyrtwalien, þonne ġē þone coccel gadriaþ. Lǣtaþ ǣġþer weaxan oþ rīp-tīman; and on þǣm rīptīman iċ secge þǣm rīperum: "Gadriaþ ǣrest þone coccel, and bindaþ scēaf-mǣlum tō for·bærnenne; and gadriaþ þone hwǣte in-tō mīnum berne."'
[ 近代英語 ]
[24] . . . The kingdom of heaven is likened unto a man which sowed good seed in his field: [25] But while men slept, his enemy came and sowed tares among the wheat, and went his way. [26] But when the blade was sprung up, and brought forth fruit, then appeared the tares also. [27] So the servants of the householder came and said unto him, Sir, didst not thou sow good seed in thy field? from whence then hath it tares? [28] He said unto them, An enemy hath done this. The servants said unto him, Wilt thou then that we go and gather them up? [29] But he said, Nay; lest while ye gather up the tares, ye root up also the wheat with them. [30] Let both grow together until the harvest: and in the time of harvest I will say to the reapers, Gather ye together first the tares, and bind them in bundles to burn them: but gather the wheat into my barn.
[ 日本語口語訳 ]
[24] ………「天国は,良い種を自分の畑にまいておいた人のようなものである.[25] 人々が眠っている間に敵がきて,麦の中に毒麦をまいて立ち去った.[26] 芽がはえ出て実を結ぶと,同時に毒麦もあらわれてきた.[27] 僕たちがきて,家の主人に言った,『ご主人様,畑におまきになったのは,良い種ではありませんでしたか.どうして毒麦がはえてきたのですか』.[28] 主人は言った,『それは敵のしわざだ』.すると僕たちが言った『では行って,それを抜き集めましょうか』.[29] 彼は言った,『いや,毒麦を集めようとして,麦も一緒に抜くかも知れない.[30] 収穫まで,両方とも育つままにしておけ.収穫の時になったら,刈る者に,まず毒麦を集めて束にして焼き,麦の方は集めて倉に入れてくれ,と言いつけよう』」.
今回は Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」との連動企画として,上記の古英語テキストを「#735. 古英語音読 --- マタイ伝「種をまく人の寓話」より毒麦の話」で読み上げています.ぜひお聴きください.
加えて,マタイ伝の同章の少し前の箇所,3--8節のくだりについて,関連する「#2906. 古英語聖書より「種をまく人の寓話」」 ([2017-04-11-1]) も参照.ほかに古英語聖書のテキストとしては「#2895. 古英語聖書より「岩の上に家を建てる」」 ([2017-03-31-1]),「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1]),「#1870. 「創世記」2:18--25 を7ヴァージョンで読み比べ」 ([2014-06-10-1]) も参照されたい.
・ Davis, Norman. Sweet's Anglo-Saxon Primer. 9th ed. Oxford: Clarendon, 1953.
今回は Geoffrey Chaucer (1340?--1400) の傑作 The Canterbury Tales より The Franklin's Tale 「地方地主の話の序」を読んでみたい.
この作品は,ブルターニュ地方が舞台となっている.ブルターニュといえば,ブリテン島のケルト人の一派が,5--6世紀にアングロサクソン人による侵攻から逃れ,イギリス海峡を南に越えてたどり着いたフランス側の土地である.その地には現在もブルトン人が住んでおり,ブルトン語 (Breton) を話している.
ブルトン人たちは Breton lai (ブルトン・レ)と呼ばれる短い物語詩のジャンルを生み出し,そのジャンルは海峡の両側に伝わっている.フランス側では Marie de France (c. 1160--1215) がフランス語で書いた作品が有名だが,ブリテン島側でも翻案作品が著わされた.今回のチョーサーによる「地方地主の話」は,その1つである.
「地方地主の話の序」の中英語原文を The Riverside Chaucer より,日本語訳を『カンタベリ物語 共同新訳版』より引用する.
THE FRANKLIN'S PROLOGUE
Prologe of the Frankeleyns Tale.
l. 709 Thise olde gentil Britouns in hir dayes 710 Of diverse aventures maden layes, 711 Rymeyed in hir firste Briton tonge, 712 Whiche layes with hir instrumentz they songe 713 Or elles redden hem for hir plesaunce; 714 And oon of hem have I in remembraunce, 715 Which I shal seyn with good wyl as I kan. 716 But, sires, by cause I am a burel man, 717 At my bigynnyng first I yow biseche, 718 Have me excused of my rude speche. 719 I lerned nevere rethorik, certeyn; 720 Thyng that I speke, it moot be bare and pleyn. 721 I sleep nevere on the Mount of Pernaso, 722 Ne lerned Marcus Tullius Scithero. 723 Colours ne knowe I none, withouten drede, 724 But swiche colours as growen in the mede, 725 Or elles swiche as men dye or peynte. 726 Colours of rethoryk been to me queynte; 727 My spirit feeleth noght of swich mateere. 728 But if yow list, my tale shul ye heere.
地方地主の話の序
今は昔,雅びなブルターニュの人たちは,さまざまなできごとを歌に詠み,いにしえのケルトの言葉で技をこらし,楽器に合わせて歌ったり,読み語りを楽しんだりしておりました.そのような話をひとつ覚えていますので,微力を尽くしてお話ししたいと思っております.
けれども,何しろ学がないもので,乱暴な言葉遣いをお許しいただくよう,まずは皆さんにお願いします.まったく,修辞学なんぞ習ったこともなく,あからさまな話し方しかできんのです.パルナッソス山で眠ったこともなければ,マルクス・トゥリウス・キケロを学んだこともない.言葉のあやなどさっぱりで,目もあやな野の花や,染めたり織ったりのあやしか知らんのです.語りのあやは解らんし,その類のセンスも持ちあわせておらん.でも,よろしければ話をお聞き下さい.
なお,上記の中英語原文を今朝の Voicy heldio で読み上げている.中英語に関心がある方,読解に挑戦してみたいと思う方は,ぜひ「#694. チョーサーによるブルトン・レ「地方地主の話の序」を原文で味わってみませんか?」をお聴きください.
・ Benson, Larry D., ed. The Riverside Chaucer. 3rd ed. Oxford: OUP, 1987.
・ ジェフリー・チョーサー(著),池上 忠弘(監訳) 『カンタベリ物語 共同新訳版』 悠書館,2021年.
・ 池上 昌・堀田 隆一・狩野 晃一 「チョーサーの英語」 『チョーサー巡礼 古典の遺産と中世の新しい息吹に導かれて』(池上 忠弘(企画),狩野 晃一(編)) 悠書館,2022年.93--124頁.
目下,東京・上野の国立西洋美術館にて「憧憬の地 ブルターニュ ー モネ,ゴーガン,黒田清輝らが見た異郷」展覧会が開催中です.開催期間は3月18日から6月11日までとなっています.
この開催の機会をとらえ,今学期の私のゼミでは「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」をテーマとして,事前に予習した上で,5月末辺りに課外活動としてゼミの皆で展覧会を訪れる予定です.今後,本ブログでも Voicy heldio でも,関係する話題がチラホラ出てくるかと思います.本記事をお読みの皆さんも,ぜひブルターニュ(展)に関心を寄せていただければと.
フランス北西部ブルターニュ地方では,ケルト語派のブルトン語 (Breton) が伝統的に話されています.ただし,地域の強大言語であるフランス語に押されているという事実があります.これはブリテン諸島の北や西のコーナーで,ケルト系諸語が英語に圧迫されているのと平行的な状況です.
ケルト諸語の分布や歴史については「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1]),「#778. P-Celtic と Q-Celtic」 ([2011-06-14-1]),「#779. Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]),「#3113. アングロサクソン人は本当にイングランドを素早く征服したのか?」 ([2017-11-04-1]),「#3761. ブリテンとブルターニュ」 ([2019-08-14-1]),「#4491. 1300年かかったイングランドの完全英語化」 ([2021-08-13-1]) を含む celtic の記事を参照してください.また,昨日の Voicy heldio では,関連して「#692. ケルト語派を紹介します」を配信しています.
展覧会訪問までの「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」のための予習事項は,主として以下の3点です.
1. 歴史的にみる英語の拡大とケルト諸語の縮小
2. 中英語で書かれたブルトン・レ (Breton lai)
3. 英語とケルト語の言語接触
今朝の Voicy heldio では,本記事と同様の内容でおしゃべりしています.「#693. 英語史とケルト,英語史とブルターニュ --- 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けて」です,ぜひお聴きください.
国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」,およびこれから1ヶ月ほど追いかけていく「英語史とケルト,英語史とブルターニュ」というテーマについて,ぜひご注目ください.
映画『グリーン・ナイト』が公開中です.その原作『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) は14世紀末の中英語ロマンスですが,ほぼ同時代に書かれたジェフリー・チョーサー (Geoffrey Chaucer) の『カンタベリ物語』 (The Canterbury Tales) とは,あらゆる面で異なっています.前者はコテコテのイングランド北西部の英語方言で頭韻 (alliteration) によって書かれており,後者は後に標準英語へと発展していくロンドン英語で脚韻 (rhyme) によって書かれています.
チョーサーはもっぱら大陸由来の脚韻で詩作し,ゲルマン語としての英語に伝統的に受け継がれてきた頭韻には関心がなかったようです.現代の日本の歌謡界になぞらえていえば「私はポップス歌手だけれど民謡や演歌はやりませんよ」といった雰囲気です.このことは,チョーサー自身が本気では頭韻を利用していないこと,また『カンタベリ物語』の「教区主任司祭の話の序」 (ll. 42--47) にて,次のように述べていることからも間接的に知られます (The Riverside Chaucer より).
But trusteth wel, I am a Southren man;
I kan nat geeste 'rum, ram, ruf,' by lettre,
Ne, God woot, rym holde I but litel bettre;
And therfore, if yow list --- I wol nat glose ---
I wol yow telle a myrie tale in prose
To knytte up al this feeste and make an ende.
これを日本語に訳すと次のようになります.
ですが,ぜひともご理解いただきたいのですが,私は南の出身です.ですから "rum","ram","ruf" という具合に言葉の頭で韻を踏むことなどできません.また,神もご存知ですが,私は脚韻も踏むこともまずできません.ですから,よろしければ --- 注釈する気はさらさらないのですが --- 皆様に散文で楽しい話をいたしましょう.それでこのお楽しみの会で編まれるべきものをすべて編み上げて締めくくりましょう
チョーサーは,教区主任司祭という登場人物にやや軽んじた口調で 'rum, ram, ruff' と発言させています.文字通りには頭韻も脚韻もやりませんと読めますが,頭韻を脚韻より劣るものと見なしていると読むことも可能かもしれません.いかがでしょうか.ここでは,池上 (144) の読みを紹介しておきたいと思います.引用で「彼」とは詩人チョーサーのことです.
彼はどうもアーサー王物語の頭韻詩があまり好きでないらしい.時どき頭韻調を使ってみたり,『教区司祭の話 前口上』では,「私は南部の人間なので,ルム・ラム・ルフ (rum, ram, ruf) なんて頭韻を踏む吟唱などは出来ません」(X 四二ー四三)という有名な台詞がある.当時から見ても古くさい,異質の,田舎くさい,違ったジャンルの詩物語と見ているらしいのである.
このような時代と状況下で,なぜガウェイン詩人は主に頭韻を用いて詩作したのか.この辺りがおもしろい問題です.
・ Benson, Larry D., ed. The Riverside Chaucer. 3rd ed. Oxford: OUP, 1987.
・ ジェフリー・チョーサー(著),池上 忠弘(監訳) 『カンタベリ物語 共同新訳版』 悠書館,2021年.
・ 池上 忠弘(訳) 『「ガウェイン」詩人 サー・ガウェインと緑の騎士』 専修大学出版局,2009年.
映画『グリーン・ナイト』が公開中なので,連日この映画およびその原作『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) についての話題をお届けしています.一昨日,映画の字幕監修を務められた岡本広毅先生(立命館大学)と,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の生放送にて対談を行ないました.まだお聴きでない方はアーカイヴより「#544. 岡本広毅先生と『グリーン・ナイト』とその原作の言語をめぐって対談しました」を聴取ください.映画鑑賞のよい予習になると思います.
今回は「#4890. 中英語作品『ガウェイン卿と緑の騎士』より緑の騎士が登場するシーン」 ([2022-09-16-1]) と「#4931. 中英語作品『ガウェイン卿と緑の騎士』より冒頭の2スタンザ」 ([2022-10-27-1]) に引き続き,原作 Sir Gawain and the Green Knight より名シーンを読み上げつつ紹介します.緑の騎士が首切りゲームをふっかけるシーンです.
映画の紹介として「A24が贈るダーク・ファンタジー『グリーン・ナイト』,大塚明夫がナレーションを務めた解説動画解禁」として YouTube 動画(3分15秒)が公開されています.動画の0分50秒辺りから,映画のこのシーンと中英語テキストが導入されます.今回はこの中英語テキストを含む1スタンザ (ll. 279--300) を取り上げます.
今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では「#545. 『ガウェイン卿と緑の騎士』より緑の騎士が首切りゲームをふっかけるシーンを中英語原文で読み上げます」として原文を音読していますので,ぜひお聴きください.
以下に中英語原文(Andrew and Waldron 版)と日本語訳(池上)を掲げます.
'Nay, frayst I no fyȝt, in fayth I þe telle;
Hit arn aboute on þis bench bot berdlez chylder.
If I were hasped in armes on a heȝe stede,
Here is no mon me to mach, for myȝtez so wayke.
Forþy I craue in þis court a Crystemas gomen,
For hit is Ȝol and Nwe Ȝer, and here are ȝep mony.
If any so hardy in þis hous holdez hymseluen,
Be so bolde in his blod, brayn in hys hede,
Þat dar stifly strike a strok for anoþer,
I schal gif hym of my gyft þys giserne ryche,
Þis ax, þat is heué innogh, to hondele as hym lykes,
And I schal bide þe fyrst bur as bare as I sitte.
If any freke be so felle to fonde þat I telle,
Lepe lyȝtly me to and lach þis weppen---
I quit-clayme hit for euer, kepe hit as his auen---
And I schal stonde hym a strok, stif on þis flet,
Ellez þou wyl diȝt me þe dom to dele hym anoþer
Barlay,
And ȝet gif hym respite
A twelmonyth and a day.
Now hyȝe, and let se tite
Dar any herinne oȝt say.'
「いや,正直に申して,戦いを望んでいるのではないのだ.この辺りの席には,ひげの生えていない子供(がき)しかおらぬようだな.わしが甲冑を身にまとい,大きな馬に打ち跨がるならば,力不足でわしに立ち向かえる相手は一人もおるまい.そういう具合だから,わしがこの宮廷で望むのはクリスマスの遊びごと,いまちょうどクリスマスと新年の時期で,ここには元気のよい面々が沢山おるからな.この館で我こそは胆力ありと思う者がいるなら,気性激しく心猛り,臆せず大胆不敵にも打撃を打ちかわす者がいるならば,褒美の品としてこの見事な戦斧をくれてやるぞ.この斧はずしりと重いやつで,思うように扱うのが難しいが,わしがここに坐って甲冑もつけず,最初の一撃を受けることにしよう.わしの言ったことを試してみようという肝のすわった奴がいるならば,すぐさま飛びだしてきてこの武器を手に取るならば,この斧を永久に譲渡し,そいつの物にしてやろう.この床に坐って怯まず,そいつの一撃を受けよう.ただし,わしがそいつに返しの一撃を加える権利をもつということで,
わしの番には,
だが猶予期間を与えよう,
一年と一日の.
さあ,急いだり,さあすぐに,
名乗り出る奴はここにはおらんのか.」
・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
・ 池上 忠弘(訳) 『「ガウェイン」詩人 サー・ガウェインと緑の騎士』 専修大学出版局,2009年.
今週末11月26日(土)の午前10:00--11:00に,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で標記の生放送を配信します.立命館大学の岡本広毅先生との対談という形式でお届けします.
内容は,生放送の前日11月25日(金)に全国で封切りとなる映画『グリーン・ナイト』と,その原作である中英語ロマンス『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) について,その語りの媒体となっているヴァナキュラー,すなわち中英語イングランド北西方言に焦点を当てつつディープに雑談する予定です.映画公開直後ということですので,気を遣いつつも少々のネタバレはOK!?というノリで行きたいと思います(私もまだ観ていないままの対談なのです).緩く次のようなトピックで対談をお届けできればと思っています.
・ ヴァナキュラーな『グリーン・ナイト』について
・ 中英語原典『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) とその時代背景
・ 言語的特色(英語とローカリティ,方言)
・ 原典の紹介,読みどころ
・ 映画『グリーン・ナイト』に関して(ネタバレ注意)
26日(土)の生放送に向けて,事前に岡本先生に対するご質問やコメントなどがあれば,ぜひ上記の Voicy 配信案内を通じてお寄せください.また,生放送時の投げ込み質問にもなるべく対応したいと思っています.生放送に参加できない場合にも,翌朝の heldio レギュラー回で収録の様子をアーカイヴとして一般配信もしますので,そちらで聴取いただければ幸いです.
岡本先生より教えていただいた映画『グリーン・ナイト』の関連情報を,以下に貼り付けておきます.
・ 映画公式サイト
・ 本映画の映像制作・配給会社 Transformer
・ 本映画の特設ツイッター
・ 「A24が贈るダーク・ファンタジー『グリーン・ナイト』,大塚明夫がナレーションを務めた解説動画解禁」
・ 「山田南平が映画「グリーン・ナイト」のイラスト描き下ろし、奈須きのこらコメントも」
heldio では,これまでも岡本先生と3度ほど対談しています.今度の生放送に向けて,以下を聴取し復習・予習していただけると,理解度が倍増すると思います.実際,話す内容は過去回からの延長線上となる予定です.
・ heldio 「#173. 立命館大学、岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」 (2021/11/20)
・ heldio 「#386. 岡本広毅先生との雑談:サイモン・ホロビンの英語史本について語る」 (2022/06/21)
・ heldio 「#478. 英語ヴァナキュラー談義(岡本広毅&堀田隆一)」 (2022/09/21)
さらに,今回の対談でも中心的な話題となるはずの vernacular についても,予習していただけると絶対におもしろくなると思います.以下に hellog の関連記事へのリンクを張っておきます.
・ 「#4804. vernacular とは何か?」 ([2022-06-22-1])
・ 「#4809. OED で vernacular の語義を確かめる」 ([2022-06-27-1])
・ 「#4812. vernacular が初出した1601年前後の時代背景」 ([2022-06-30-1])
・ 「#4814. vernacular をキーワードとして英語史を眺めなおすとおもしろそう!」 ([2022-07-02-1])
・ 「#4885. 「英語ヴァナキュラー談義(岡本広毅&堀田隆一)」のお知らせ(9月20日(火)14:50--15:50 に Voicy 生放送)」 ([2022-09-11-1])
ぜひ肩の力を抜いて11月26日(土)の生放送をお聴きください!
中英語ロマンスの傑作『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) の翻案作品となる映画『グリーン・ナイト』が11月25日より公開されます.この機会を逃さず,大学(院)の授業などで SGGK の原文を読んでいます.
先日 hellog でも「#4890. 中英語作品『ガウェイン卿と緑の騎士』より緑の騎士が登場するシーン」 ([2022-09-16-1]) を紹介しつつ Voicy と連携して読み上げてみました(こちらから聴いてみてください).今回は,同じ趣向ですが,作品冒頭の2スタンザ (ll. 1--36) を中英語原文(Andrew and Waldron 版)に基づいて Voicy 「#514. 『ガウェイン卿と緑の騎士』より冒頭の2スタンザを中英語原文で読み上げます」で読み上げました.以下の原文とともにお聴きください.
Siþen þe sege and þe assaut watz sesed at Troye,
Þe borȝ brittened and brent to brondez and askez,
Þe tulk þat þe trammes of tresoun þer wroȝt
Watz tried for his tricherie, þe trewest on erthe.
Hit watz Ennias þe athel and his highe kynde,
Þat siþen depreced prouinces, and patrounes bicome
Welneȝe of al þe wele in þe west iles.
Fro riche Romulus to Rome ricchis hym swyþe,
With gret bobbaunce þat burȝe he biges vpon fyrst
And neuenes hit his aune nome, as hit now hat;
Ticius to Tuskan and teldes bigynnes,
Langoberde in Lumbardie lyftes vp homes,
And fer ouer þe French flod, Felix Brutus
On mony bonkkes ful brode Bretayn he settez
Wyth wynne,
Where werre and wrake and wonder
Bi syþez hatz wont þerinne
And oft boþe blysse and blunder
Ful skete hatz skyfted synne.
Ande quen þis Bretayn watz bigged bi þis burn rych
Bolde bredden þerinne, baret þat lofden,
In mony turned tyme tene þat wroȝten.
Mo ferlyes on þis folde han fallen here oft
Þen in any oþer þat I wot, syn þat ilk tyme.
Bot of alle þat here bult of Bretaygne kynges
Ay watz Arthur þe hendest, as I haf herde telle.
Forþi an aunter in erde I attle to schawe,
Þat a selly in siȝt summe men hit holden
And an outrage awenture of Arthurez wonderez.
If ȝe wyl lysten þis laye bot on littel quile,
I schal telle hit astit, as I in toun herde,
Wyth tongue.
As hit is stad and stoken
In stori stif and stronge,
With lel lettres loken,
In londe so hatz ben longe.
意味を確認するために Bantock の現代韻文訳および池上による日本語訳も挙げておきます.
When the assault on Troy and the siege had come to an end,
The ramparts smashed to a heap of smouldering ruins,
And that treacherous man Antenor brought to trial
For treason worse than has ever been known on earth,
Then noble Aeneas, with his clan of kindred knights,
Subdued the lands and at length became the lords
Of well nigh all of the wealth in the Western Isles.
Then swiftly, courageous Romulus swept into Rome,
His first concern to found, with fast-growing pride,
The noble city that now upholds his name.
Then Ticius with tents built interim towns in Tuscany,
And Langeberde laid out new homes in Lombardy.
Then the Channel was challenged from France by Felix Brutus,
Who boldly established Britain on her broad green slopes ---
In gladness long ago!
Though hatred, war and hell
Brought turmoil, tears and woe,
Their fortunes rose or fell
In endless ebb and flow.
The famous warrior founded Britain thus,
And bred a race of battle-loving men,
Who caused great torment in those troubled times.
More heart-enthralling things have happened there
Than anywhere else on earth since the ancient days.
But of the rulers reigning there, I have heard,
The noblest of all in honour was Arthur the king.
So now one great adventure will I make known,
Which many men will think a miracle ---
The most astounding tale of Arthur's time.
And if you'll listen to this legend a little while,
I'll tell it as I heard it told in town
In spoken song;
Inspired, I will expound
A story bold and strong,
With letters linked by sound,
As minstrels have made for long.
トロイの包囲攻撃が終わりをつげ,城都が崩壊し灰燼に帰してから,反逆を企てた騎士が裏切りの罪を問われて裁判にかけられたが,これは本当の話である.それは王子アエネーアスとその高貴な一族で,彼らはその後もろもろの大国を征服し,西方の諸島の財宝をほとんど手中にした支配者となった.偉大なロムルスはローマに逸速く侵入すると,まず手はじめに壮大にあの都市を建設し,自らの名前をとって命名したが,今でもその名で呼ばれている.ティシウスはトスカーナ地方に赴き住居を建て,ランゴバルドはロンバルディア地方に家屋をつくり,フェーリークス(幸福な)・ブルートゥスははるかフランス海峡を越えて多くの広大な丘陵にブリテンを創った,
喜び勇んで.
戦闘,災難,不思議なことが
おりおりそこで起り,
喜びと悲しみとがその後,たえず交互におとずれている.
この高貴な武将がブリテンを建国すると,剛胆な者どもが現われ,いくさを好み,幾度も紛争を引き起こした.この国ではその昔より,私が知っているどの国よりも世に驚くべきことがしばしば起っている.それはともかく,この国に居をかまえたすべてのブリテン王のうちで,アーサーこそ最も気高い王であったと聞いている.そこで奇妙な光景だと思うひともいるような世にも珍しい出来事,アーサーに関する話のうちでも途方もなく変った冒険談を語るつもりだ.みなさんがしばしの間,この物語詩に耳を傾けてくださるならば,いますぐに貴族の館で聞いたとおりに語りたいと思う,
言葉を使い.
それは勇壮な力強い物語に
書き留められて定着し,
正しい文字で結ばれて,
この国に長い間伝えられたもの.
・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
・ Bantock, Gavin, trans. Sir Gawain & the Green Knight . Pearl: Two Middle-English Poems. Brimstone P, 2018.
・ 池上 忠弘(訳) 『「ガウェイン」詩人 サー・ガウェインと緑の騎士』 専修大学出版局,2009年.
来たる11月25日に公開予定の映画『グリーン・ナイト』は,中英語テキスト Sir Gawain and the Green Knight (『ガウェイン卿と緑の騎士』;sggk)の本格的な翻案作品です.その字幕監修を,岡本広毅先生(立命館大学)が担当されています.その岡本先生と来週 Voicy 生放送で対談することになっていますので,ぜひお聴きください.詳しくは「#4885. 「英語ヴァナキュラー談義(岡本広毅&堀田隆一)」のお知らせ(9月20日(火)14:50--15:50 に Voicy 生放送)」 ([2022-09-11-1]) をご参照ください.
今回は生放送に先立って,SGGK の中英語原文を少し紹介しておきたいと思います.この作品は,Chaucer などと同時代の14世紀後半のものとされる写本 British Library MS Cotton Nero A.x にのみ現存する 2530行,101スタンザからなる作者不明の韻文テキストです.いわゆるアーサー王物というジャンルの作品です.同写本には,他に Pearl, Cleanness, Patience という作品が収められています.中英語の中西部方言で書かれています.各スタンザは,頭韻を踏む12--37の長詩行の後に,5行の "bob and wheel" と呼ばれる ababa 型の短い脚韻行が続くという形式になっています.
今回は,冒頭に近い ll. 130--50 より,緑の騎士が登場する印象的なシーンを覗いてみることにしましょう.Andrew and Waldron 版からの引用です.
Now wyl I of hor seruise say yow no more,
For vch wyȝe may wel wit no wont þat þer were.
Anoþer noyse ful newe neȝed biliue,
Þat þe lude myȝt haf leue liflode to cach;
For vneþe watz þe noyce not a whyle sesed,
And þe fyrst cource in þe court kyndely serued,
Þer hales in at þe halle dor an aghlich mayster,
On þe most on þe molde on mesure hyghe;
Fro þe swyre to þe swange so sware and so þik,
And his lyndes and hys lymes so longe and so grete,
Half-etayn in erde I hope þat he were,
Bot mon most I algate mynn hym to bene,
And þat þe myriest in his muckel þat myȝt ride;
For of bak and of brest al were his bodi sturne,
Both his wombe and his wast were worthily smale,
And alle his fetures folȝande in forme, þat he hade,
Ful clene.
For wonder of his hwe men hade,
Set in his semblaunt sene;
He ferde, as freke were fade,
And oueral enker grene.
Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の本日の放送「#473. 『ガウェイン卿と緑の騎士』より緑の騎士が登場するシーンを中英語原文で読み上げます」で,この中英語原文を読み上げていますので,合わせてお聴きください.
意味を確認するために Bantock の現代韻文訳より,同じ ll. 130--50 の箇所を引用します.
I've told you enough about the tables there
For you to guess how gorgeous that feast was.
But now another new uproar quickly approached,
That stirred Aurthur's spirit so strongly he started to eat.
For, just as the joyful music was fading away
And the first of the festive dishes was duly being served,
The doors crashed open wide with a terrible din
And a hideous giant charged boldly into the hall!
His body was strong and so broad from neck to waist,
And his legs and arms and thighs so long and thick,
He might have been half a giant and half a man,
But if a man, the biggest of all on this earth
That ever rode on horse; and most handsome too;
For though his breast and back were broad and stout,
His waist was slender and his belly lithe and slim,
And all of his features followed this twofold form ---
Both lust and lean!
By his colouring the court was amazed,
The most staggering sight they had seen,
For the body of that bold knight blazed
Head to foot with flaming bright green!
日本語訳としては,池上より (p. 9) 引用します.
さて食事のもてなしの様子をこれ以上語るのはもうやめておこう,何ひとつ欠けるものがなかったことは誰でもよく分ることだから.突然,また別の新たな音楽が聞こえてきたので,これでどうやら王も食事がとれるのではないかと思われた.そのトランペットの音が途絶え,最初の料理が宮廷内にきちんと出し終えたとたん,そこへ大広間の入り口から恐ろしい形相の騎士が勢いよく乗り込んできた.背丈がこの世で最も高い男であった.首から腰までひどく角張りずんぐりとし,腰部と手足は非常に長くてがっしりしており,この男は現世の半巨人ではないかと思ったが,しかしとにかく一番大柄な人間であり,馬に乗れる者の姿かっこうとしては最も端麗な人物だと言っておこう.彼の身体では背中と胸がものすごく逞しく,腹と腰はともに程よくほっそりして,身体の他の部分もすべて同じように姿かたちの均整がよくとれ,
格好がよかった.
彼の容貌にはっきり見えた
彼の色にみなびっくり仰天した.彼は大胆な(恐ろしい妖精の)戦士のように振舞い,
全身色あざやかな緑であった.
・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
・ Bantock, Gavin, trans. Sir Gawain & the Green Knight . Pearl: Two Middle-English Poems. Brimstone P, 2018.
・ 池上 忠弘(訳) 『「ガウェイン」詩人 サー・ガウェインと緑の騎士』 専修大学出版局,2009年.
khelf(慶應英語史フォーラム)による「英語史コンテンツ50」が終盤を迎えている.今回の hellog 記事は,先日5月20日にアップされた院生によるコンテンツ「どこでも通ずる英語…?」にあやかり,そこで引用されていたイングランドの詩人 Edmund Waller による詩 "Of English Verse" を紹介したい.
Waller (1606--87年)は17世紀イングランドを代表する詩人で,文学史的にはルネサンスの終わりと新古典主義時代の始まりの時期をつなぐ役割を果たした.Waller は32行の短い詩 "Of English Verse" のなかで,変わりゆく言葉(英語)の頼りなさやはかなさを嘆き,永遠に固定化されたラテン語やギリシア語への憧れを示している.一方,Chaucer を先輩詩人として引き合いに出しながら,詩人の言葉ははかなくとも,詩人の心は末代まで残るのだ,いや残って欲しいのだ,と痛切な願いを表現している.
Waller は,まさか1世紀ほど後にイングランドがフランスとの植民地争いを制して世界の覇権を握る糸口をつかみ,その1世紀後にはイギリス帝国が絶頂期を迎え,さらに1世紀後には英語が世界語として揺るぎない地位を築くなどとは想像もしていなかった.Waller はそこまでは予想できなかったわけだが,それだけにかえって現代の私たちがこの詩を読むと,言語(の地位)の変わりやすさ,頼りなさ,はかなさがひしひしと感じられてくる.
OF ENGLISH VERSE.
1 Poets may boast, as safely vain,
2 Their works shall with the world remain;
3 Both, bound together, live or die,
4 The verses and the prophecy.
5 But who can hope his lines should long
6 Last in a daily changing tongue?
7 While they are new, envy prevails;
8 And as that dies, our language fails.
9 When architects have done their part,
10 The matter may betray their art;
11 Time, if we use ill-chosen stone,
12 Soon brings a well-built palace down.
13 Poets that lasting marble seek,
14 Must carve in Latin, or in Greek;
15 We write in sand, our language grows,
16 And, like the tide, our work o'erflows.
17 Chaucer his sense can only boast;
18 The glory of his numbers lost!
19 Years have defaced his matchless strain;
20 And yet he did not sing in vain.
21 The beauties which adorned that age,
22 The shining subjects of his rage,
23 Hoping they should immortal prove,
24 Rewarded with success his love.
25 This was the generous poet's scope;
26 And all an English pen can hope,
27 To make the fair approve his flame,
28 That can so far extend their fame.
29 Verse, thus designed, has no ill fate,
30 If it arrive but at the date
31 Of fading beauty; if it prove
32 But as long-lived as present love.
・ Waller, Edmond. "Of English Verse". The Poems Of Edmund Waller. London: 1893. 197--98. Accessed through ProQuest on May 27, 2022.
新学期の古英語の授業も少しずつ軌道に乗ってきた.時代背景を理解するために,この辺りでアングロサクソン時代の略年表を掲げたい.すでに「#2526. 古英語と中英語の文学史年表」 ([2016-03-27-1]),「#2871. 古英語期のスライド年表」 ([2017-03-07-1]),「#3193. 古英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-23-1]) で類似の年表を掲げているが,バリエーションがあったほうがよいと考えているので今回は Godden and Lapidge (xii--xiii) からの略年表を再現する.
Chronological table of the Anglo-Saxon period
from c. 400 | Germanic peoples settle in Britain |
c. 540 | Gildas in De excidio Britanniae laments the effects of the Germanic settlements on the supine Britons |
597 | St Augustine arrives in Kent to convert the English |
616 | death of Æthelberht, king of Kent |
c. 625 | ship-burial at Sutton Hoo (mound 1) |
633 | death of Edwin, king of Northumbria |
635 | Bishop Aidan established in Lindisfarne |
642 | death of Oswald, king of Northumbria |
664 | Synod of Whitby |
669 | Archbishop Theodore and Abbot Hadrian arrive in Canterbury |
674 | monastery of Monkwearmouth founded |
682 | monastery of Jarrow founded |
687 | death of St Cuthbert |
689 | death of Cædwalla, king of Wessex |
690 | death of Archbishop Theodore |
c. 700 | 'Lindisfarne Gospels' written and decorated |
709 | deaths of Bishops Wilfrid and Aldhelm |
716--57 | Æthelbald king of Mercia |
731 | Bede completes his Ecclesiastical History |
735 | death of Bede |
754 | death of St Boniface, Anglo-Saxon missionary in Germany |
757--96 | Offa king of Mercia |
781 | Alcuin of York meets Charlemagne in Parma and thereafter leaves York for the Continent |
793 | Vikings attack Lindisfarne |
802--39 | Ecgberht king of Wessex |
804 | death of Alcuin |
839--56 | Æthelwulf king of Wessex |
869 | Vikings defeat and kill Edmund, king of East Anglia |
871--99 | Alfred the Great king of Wessex |
878 | Alfred defeats the Viking army at the battle of Edington, and the Vikings settle in East Anglia (879--80) |
899--924 | Edward the Elder king of Wessex |
924--39 | Athelstan king of Wessex and first king of All England |
937 | battle of Brunanburh: Athelstan defeats an alliance of Scots and Scandinavians |
957--75 | Edgar king of England |
859--88 | Dunstan archbishop at Canterbury |
963--84 | Æthelwold bishop at Winchester |
964 | secular clerics expelled from the Old Minster, Winchester, and replaced by monks |
971--92 | Oswald archbishop at York |
973 | King Edgar crowned at Bath |
978--1016 | Æthelred 'the Unready' king of England |
975--7 | Abbo of Fleury at Ramsey |
991 | battle of Maldon: the Vikings defeat an English army led by Byrhtnoth |
c. 1010 | death of Ælfric, abbot of Eynsham |
1011 | Byrhtferth's Enchiridion |
1013 | the English submit to Swein, king of Denmark |
1016--35 | Cnut king of England |
1023 | death of Wulfstan, archbishop of York |
1042--66 | Edward the Confessor king of England |
1066 | battle of Hastings: the English army led by Harold is defeated by the Norman army led by William the Conqueror |
昨日の記事「#4607. 中英語の叙情詩」 ([2021-12-07-1]) で,"Middle English lyric" というジャンルの特徴について見た.特徴の1つとして「"I" が "you" に語りかける」ことが挙げられていた.この点について,昨日も引用した Greentree (388--89) が次のように加えている.
The 'lyric I' who addresses the 'you' implied in Middle English lyrics is a general, typical figure, an 'I' without ego, who may make the reader a participant in the poem. Anonymity helps efface the poets of many medieval lyrics, removing distractions to focus attention on the poem itself. Aspects of style may suggest a particular poet, place or time of composition. Some political verses recount historical events, and some poets describe their situations, but a manuscript's time of compilation does not necessarily reveal the dates when its contents were written, and biographical details may be fictions. These factors can enhance or diminish the reader's appreciation of a work. Acrostics and other devices sometimes reveal a poet's name or the place of composition. However, the lack of details of a poet's life and state of mind spares the reader fruitless speculation, since it is both easier and more profitable to concentrate on the lyric 'I'.
中英語叙情詩の "I" は詩人本人を指示するというよりも,読み手・聞き手を取り込んで作品の中に同化させた1人称単数代名詞として機能している,という見方だ.これにより,詩人が誰かという問いは背景化し,詩の内容そのものに焦点が当てられることになる.作品への没入を誘う1人称単数代名詞の文体的用法とでも言おうか.
中英語叙情詩の特徴が少し分かり始めてきた.
・ Greentree, Rosemary. "Lyric." A Companion to Medieval English Literature and Culture: c.1350--c.1500. Ed. Peter Brown. Malden, MA: Blackwell, 2007. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009. 387--405.
目下,大学院の授業で Bennett and Smithers のアンソロジーより中英語の叙情詩 (Middle English lyrics) を読んでいる.最もよく知られているのは,輪唱の歌詞 Sumer is icumen in だろう(cf. 「#1438. Sumer is icumen in」 ([2013-04-04-1])).現代の歌い手による輪唱を生で聴いたことがあるが,調子と歌詞が明るくすがすがしい.輪唱だけに,頭の中でぐるぐる回ってしまい,口ずさまずにはいられない中毒性がある.
中英語の叙情詩といっても,話題としては世俗的なものもあれば宗教的なものまである.政治詩,恋愛詩,賛美歌を含めカバーする範囲は広い.Sumer is icumen in のように音楽に載せたものもあれば,そうでないものもある.形式も様々だ.基本的に短い詩が多いが,逆にいうと短い詩であれば "lyric" と呼んでしまえるのではないかという感がある.実際,このジャンルを定義づける要素は何かという問いに対して,端的に「短い詩である」という答えもあり得るようだ.Greentree (388) の "Characteristics of Lyrics" に関する説明を読んでみよう.
There are some constants in the genre. Ann S. Haskell notes a 'cluster of characteristics' including brevity, metrical pattern, rhyme scheme, theme and occasional hints of a plot. To John Burrow, the term 'usually means no more than a short poem', but he emphasizes 'the most characteristic axis of lyric poetry: the "I" addressing the "you", and distinguishes that 'I' from any other personal utterance, since the lyric 'I' 'speaks not for an individual but for a type' (Burrow 1982: 61). The voice of the lyric 'I' is always present, sounding many notes: laughing, weeping, expressing countless human feelings, praying, teaching or passing on scraps of knowledge.
このジャンルを定義づける試みがうまくいかないのは,そこでは相反するものが共存しているからである.むしろ,それこそが中英語の叙事詩の特徴なのかもしれない.このことを Greentree (387) が次のように表現している.
'Oh, to vex me, contraries meet in one'
Anyone who seeks the essence and boundaries of the medieval English lyric may find John Donne's line an apt expression of the task's pleasures and exasperations. The Middle English lyric attracts contraries of matter and manner, metre, diction and form. The slightest of structures may bear the weight of serious content with a paradox or exploration of holy mysteries in a form equally suited to celebration. Apparently artless forms may prove sophisticated and lavishly allusive. The disparate members of this genre vary from the glorious to the mundane . . . . Vexation comes from attempts to define the genre, to confine its members within a few descriptive sentences. Every statement can be questions, every adjective is ambiguous, every category has exceptions.
中英語の叙事詩は,そこに一定の傾向は見られるにせよ,かなり緩いジャンルととらえておいてよい.
・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.
・ Greentree, Rosemary. "Lyric." A Companion to Medieval English Literature and Culture: c.1350--c.1500. Ed. Peter Brown. Malden, MA: Blackwell, 2007. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009. 387--405.
・ Burrow, John. Medieval Writers and their Work: Middle English Literature and its Background 1100--1500. Oxford: OUP, 1982.
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