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tense - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-03-22 05:49

2019-02-11 Mon

#3577. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 文法 [aave][variation][variety][morphology][syntax][negative][be][auxiliary_verb][tense][aspect][inversion]

 昨日の記事「#3576. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 発音」 ([2019-02-10-1]) に引き続き,McArthur に依拠して AAVE の言語的特徴について.今回は文法に注目する.

 (1) 他の英語変種にもみられるが,多重否定は普通に用いられる.No way no girl can't wear no platform shoes to no amusement park.

 (2) 存在構文に there ではなく it を用いる.It ain't no food here.

 (3) 複数形,所有格形,3単現の -s,過去の -ed などが省略されることがある.He got three cent. / That's my brother book. / She like new clothes. / They talk all night.

 (4) 疑問文で倒置がなされないことがある.What it is? / How you are?

 (5) be 動詞の否定で do が用いられることがある.It don't all be her fault.

 (6) be の習慣相の用法.They be fightin. / He be laughing.

 (7) 強勢のある been により遠い過去の習慣的な行為を表わす.I béen see dat movie. / She béen had dat hat.

 (8) 時に小辞 a により意志を表わす.I'm a shoot you. (= I'm going to shoot you.)

 (9) steady が,進行形の前位置や,文末の位置において強勢を伴って相的な意味を表わす.We be steady rappin. / We steady be rappin. / We be rappin stéady. (= We are always talking.) / They steady be high. / They be stady high. / They be high stéady.. (= They are always intoxicated.)

 (10) Come が時に準助動詞として用いられる.He come tellin me some story. (= He told me a lie.) / They come comin in here like they own de place. (= They came in here like they owned the place.)

 (11) like を「ほとんど」の意味で副詞的に用いる.I like to die(d). (= I almost died.) / He like to hit his head on that branch. (= He almost hit his head on that branch.)

 確かにこのような英語で話しかけられれば,わかるはずの文も聞き取れないだろうと思われる.しかし,異なる言語というほどの距離感ではないのも事実である.AAVE の位置づけの論争も熱を帯びるわけだ.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2018-08-03 Fri

#3385. 中英語に弱強移行した動詞 [me][verb][conjugation][inflection][tense][preterite][participle]

 動詞の「強弱移行」の過程は,英語の形態論の歴史においてメジャーな話題である.これについて,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]) ,「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1]) ,「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]) などで取り上げてきた.
 しかし,この大きな潮流に逆らう小さな逆流,すなわち「弱強移行」の事例もしばしば指摘されてきた.イギリス英語の dive -- dived (-- dived) に対するアメリカ英語の dive -- dove (-- dived) の例がよく知られているが,歴史的にはその他の例も散見される.
 たとえば,Wełna (425) によれば,中英語期に弱強移行し,今なお過去形か過去分詞形において強変化(不規則)形が用いられ続けているものとして,次のような例があるという(中英語の語形で挙げる).

INFINITIVEPASTPAST PARTICIPLE
chidechidde, chōdechidden
ringringde, rongen (PL)runge
sawesawed, sewsawid, sown
sewsowedsewed, sowen
shew, showshowedshowed, showen
styckestiked, stackesticked, stōken
weerwēred, wōrewēred, worn


 ほかにも,強変化形としては現代まで生き延びなかったものの,中英語期に短期的に弱強移行した経験のある動詞はいくつかあったようだ.珍しい例としては,通常は間違いなく弱変化動詞となるはずのフランス借用語が,過去形において弱変化形のみならず強変化形を取るようになった strive -- strōve/strīved がある.
 主流派に抵抗するこのような反乱分子の存在は,言語史において最も興味深い話題の1つである.

 ・ Wełna, Jerzy. "Middle English: Morphology." Chapter 27 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 415--34.

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2018-06-24 Sun

#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である [oe][verb][conjugation][inflection][suffix][tense][preterite][germanic][morphology]

 ゲルマン語派の最も際立った特徴の1つに,弱変化動詞の存在がある.「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1]) で触れたように歯音接尾辞 (dental suffix) を付すことで,いとも単純に過去形を形成することができるようになった.形態論に基づく類型論の観点からみると,これによって古英語を含むゲルマン諸語は,屈折語 (inflecting languages) から逸脱し,膠着語 (agglutinating language) あるいは孤立語 (isolating language) へと一歩近づいたことになる (cf. 「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1])) .その意味では,弱変化動詞の導入は,やや大袈裟にいえば「類型論上の革命的」だったといえる.von Mengden (287) の解説を聞いてみよう.

It is remarkable that in a strongly inflecting language like Old English (in contrast to both agglutinating and to analytic), there is a suffix (-d-) which is an unambiguous marker of the tense value past. The fact that this suffix -d- is the only morphological marker in all the paradigms of Old English with a truly distinctive one-to-one relation between form and value may indicate that this morpheme is rather young.


 形態と機能が透明度の高い1対1の関係にあるということは,現代英語や日本語のようなタイプの言語を普段相手にしていると,当たり前すぎて話題にもならないのだが,そのようなタイプではなかった古英語の屈折形態論を念頭に置きつつ改めて考えてみると,確かに極めて珍しいことだったろう.-d- が引き起こした革命の第1波は,その後も連鎖的に革命の波を誘発し,英語の類型を根本的に変えていくことになったのである.

 ・ von Mengden, Ferdinand. "Old English: Morphology." Chapter 18 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 272--93.

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2018-06-19 Tue

#3340. ゲルマン語における動詞の強弱変化と語頭アクセントの相互関係 [germanic][indo-european][stress][gradation][exaptation][aspect][tense][suffix][contact][stress][preterite][verb][conjugation][grammaticalisation][participle]

 「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]) で6つの際立ったゲルマン語的な特徴を挙げた.Kastovsky (140) によると,そのうち以下の3つについては,ゲルマン祖語が発達する過程で互いに密接な関係があっただろうという.

 (2) 動詞に現在と過去の2種類の時制がある
 (3) 動詞に強変化 (strong conjugation) と弱変化 (weak conjugation) の2種類の活用がある
 (4) 語幹の第1音節に強勢がおかれる

One major Germanic innovation was a shift from an aspectual to a tense system. This coincided with the shift to initial accent, and both may have been due to language contact, maybe with Finno-Ugric. Initial stress deprived ablaut of its phonological conditioning, and the shift from aspect to tense required a systematic marking of the new preterit tense. From this, two types of exponents emerged. One is connected to the secondary (weak) verbs, which only had present aspect/tense forms. They developed an affixal "dental preterit", together with an affix for the past participle. The source of the latter was the Indo-European participial -to-suffix; the source of the former is not clear . . . . The most popular theory is grammaticalization of a periphrastic construction with do (IE *dhe-), but there are a number of phonological problems with this. The second type was the functionalization of the originally non-functional ablaut alternations to express the new category, i.e. the making use of junk . . . . But this was somewhat unsystematic, because original perfect forms were mixed with aorist forms, resulting in a pattern with over- and under-differentiation. Thus, in class III (helpan : healp : hulpon : geholpen) the preterit is over-differentiated, because the different ablaut forms are non-functional, since the personal endings would be sufficient to signal the necessary distinctions. But in class I (wrītan : wrāt : writon : gewriten), there is under-differentiation, because some preterit forms and the past participle have the same vowel. (140)


 Kastovsky によれば,ゲルマン祖語は,おそらく Finno-Ugric との言語接触の結果,(a) 印欧祖語的な相 (aspect) を重視する言語から時制 (tense) を重視する言語へと舵を切り,(b) 可変アクセントから固定的な語頭アクセントへと切り替わったという.新たに区別されるべきようになった過去時制の形態は,もともとは印欧祖語的なアクセント変異に依存していた母音変異 (gradation or ablaut) を(非機能的に)利用して作ったものと,歯音接尾辞 (dental suffix) を付すという新機軸に頼るものとがあった.これらの形態組織の複雑な組み替えにより,現代英語の動詞の非一環的な時制変化に連なる基盤が確立していったのである.一見すると互いに無関係に思われる現象が,音韻形態の機構において互いに関連していたという例の1つだろう.
 上の引用で触れられている諸点と関連して,「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1]),「#2152. Lass による外適応」 ([2015-03-19-1]),「#2153. 外適応によるカテゴリーの組み替え」 ([2015-03-20-1]),「#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成」 ([2018-06-10-1]) も参照.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

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2018-06-18 Mon

#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧 [verb][conjugation][inflection][vowel][oe][hel_education][tense][preterite]

 現代英語の不規則動詞 (irregular verb) の数は,複合動詞を含めれば,決して少ないとはいえないかもしれない.しかし,英語教育上の基本的な動詞に限れば,せいぜい60語程度である.例えば『中学校学習指導要領』で学習すべきとされる139個の動詞のうち,規則動詞は82語,不規則動詞は57語である.若林 (44--45)が再掲している57語のリストを以下に挙げておこう.

*become*begin*breakbringbuildbuy
catch*comecutdo*draw*drink
*drive*eat*fallfeel*find*fly
*forget*get*givego*growhave
hearkeep*knowleavelend*let
losemakemeanmeetputread
*ride*rise*runsay*seesell
send*singsit*sleep*speakspend
*spring*stand*swimtaketeachtell
think*wind*write


 これらの57個の不規則動詞のうち古英語で強変化動詞に属していたものは,数え方にもよるが,ほぼ半分の29個である(* を付したもの).残りのほとんどは,現代的な観点からは不規則であるかのように見えるが,古英語としては規則的な動詞だったとも言い得るわけだ.
 現代英語の不規則動詞に関する共時的・通時的な話題は,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]),「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1]),「#2210. think -- thought -- thought の活用」 ([2015-05-16-1]),「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1]),「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1]) をはじめとする記事で取り上げてきたので,ご覧下さい.

 ・ 若林 俊輔 『英語の素朴な疑問に答える36章』 研究社,2018年.

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2018-06-10 Sun

#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成 [indo-european][germanic][category][voice][mood][tense][aspect][number][person][exaptation][sanskrit][gothic]

 Lass (151--53) によると,Sanskrit の典型的な動詞には,時制,人称,数のカテゴリーに応じて126の定形がある.ゲルマン諸語のなかで最も複雑な屈折を示す Gothic では,22の屈折形がある.ゲルマン諸語のなかでもおよそ典型的といってよい古英語は,最大で8つの屈折形を示す.なお,現代英語では最大でも3つだ.この事実は,示唆的だろう.時代を経るごとに,屈折の種類が減ってきているのである.
 印欧祖語では,区別されていた文法カテゴリーとその中味は以下の通り.

 ・ 態 (voice) :能動態 (active) ,中動態 (middle)
 ・ 法 (mood) :直説法 (indicative) ,接続法 (subjunctive),祈願法 (optative) ,命令法 (imperative)
 ・ 相・時制 (aspect/tense) :現在 (present) ,無限定過去 (aorist) ,完了 (perfect)
 ・ 数 (number) :単数 (singular) ,両数 (dual) ,複数 (plural)
 ・ 人称 (person) :1人称 (first) ,2人称 (second) ,3人称 (third)

 これらのカテゴリーについて,印欧祖語からゲルマン祖語への再編成の様子を略述しよう.
 態のカテゴリーについては,印相祖語の能動態 vs 中動態の区別は,ゲルマン祖語では(能動態) vs (受動態と再帰態)とでもいうべき区別に再編成された.
 法のカテゴリーに関しては,印欧祖語の4つの区分は,北・西ゲルマン語派では,直説法,接続法,命令法の3区分,あるいはさらに融合が進み,古英語では直説法と接続法の2区分へと再編成された.
 印欧祖語の時制・相のカテゴリーは,基本的には相に基づいたものと考えられている.議論はあるようだが,主として印欧祖語の「完了」が,ゲルマン祖語における「過去」に再編成されたようだ.結果として,ゲルマン祖語では,この新生「過去」と,現在を包含する「非過去」との,時制に基づく2分法が確立する.
 数のカテゴリーは,古英語では両数が人称代名詞にわずかに残存しているものの,概論的にいえば,単数と複数の2区分に再編成された.この再編成については,「#2152. Lass による外適応」 ([2015-03-19-1]),「#2153. 外適応によるカテゴリーの組み替え」 ([2015-03-20-1]) を参照されたい.
 最後に,人称のカテゴリーについては,現代英語の「3単現の -s」にも象徴されるように,およそ3区分法が現代まで受け継がれている.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

Referrer (Inside): [2018-06-19-1]

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2018-04-13 Fri

#3273. Lehman による文法化の尺度,6点 [grammaticalisation][category][tense][future][prototype]

 通時的であれ共時的であれ文法化 (grammaticalisation) を問題にする場合,取りあげている事例がどの程度「文法化」らしいのか,「文法的」なのかを判断する基準が必要である.しかし,そのような基準を設定することは,言い換えれば文法化に定義を与えることにほかならず,自ずから困難な課題であることは論を俟たない.このような基準,ないしパラメータとしては,Lehmann の提案が古典的なものとされている.議論はあるものの,たたき台として重要である.Hopper and Traugott (31) に Lehmann のパラメータが要領よくまとまっているので,そちらを引用しよう.連合関係の軸 (paradigm) から3点,統合関係の軸 (syntagm) から3点である.

   Of relevance on the paradigmatic axis are:
   1. the "weight" or size of an element (Lehmann refers to "signs"); weight may be phonological (Lat. ille 'that' has more phonological weight than the French article le that derives from it) or semantic (the motion verb go is thought to be semantically weightier than the future marker go) --- "Grammaticalization rips off the lexical features until only the grammatical features are left" (1995: 129);
   2. the degree to which an element enters into a cohesive set or paradigm; e.g., Latin tense is paradigmatically cohesive whereas English tense is not (contrast the Latin with its translation in amo 'I love,' amabo 'I will love,' amavi 'I have loved');
   3. the freedom with which an element may be selected; in Swahili if a clause is transitive, an object marker must be obligatorily expressed in the verb (given certain semantic constraints), whereas none is required in English.
   Of relevance on the syntagmatic axis are:
   4. the scope or structural size of a construction; periphrasis, as in Lat. scribere habeo 'write:INF have:1stSg', is structurally longer and weightier and larger than inflection, as in Ital. scriverò, 'I shall write';
   5. the degree of bonding between elements in a construction (there is a scale from clause to word to morpheme to affix boundary, 1995: 154); the degree of bonding is greater in the case of inflection than in that of periphrasis;
   6. the degree to which elements of a construction may be moved around; in earlier Latin scribere habeo and habeo scribere could occur in either order, but in later Latin this order became fixed, which allowed the word boundaries to be erased.


 これらを現代英語の文法事象に照らしてみよう.例えば,現代英語の法助動詞 will による「未来時制」の発達はどのくらい「文法化」的な問題だろうか.「#2317. 英語における未来時制の発達」 ([2015-08-31-1]),「#2208. 英語の動詞に未来形の屈折がないのはなぜか?」 ([2015-05-14-1]) で論じたように,法助動詞 will の発達は文法化の典型例の1つと考えられているが,上記の2から示唆される通り,現代英語の will による「未来時制」は連合関係の観点から,さほど cohesive とはいえないようにも思われ,どこまで時制という文法カテゴリーの成員として扱えるのか疑問が残る.もちろん,これは Yes/No の問題ではなく程度の問題であり,プロトタイプ的に理解する必要はあるだろう.6つのパラメータをすべて満たす完璧な事例だけを「文法化」としてしまうと,多くを見落としてしまうことになる.

 ・ Lehmann, Christian. Thoughts on Grammaticalization. Munich: Lincom Europa, 1995.
 ・ Hopper, Paul J. and Elizabeth Closs Traugott. Grammaticalization. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2018-02-10 Sat

#3211. 統語と談話構造 [syntax][discourse_analysis][oe][information_structure][pragmatics][tense][aspect][word_order][historical_pragmatics]

 近年,統語と談話構造の関係を探る研究が増えてきている.一般的にいって,統語論と語用論のインターフェースが注目されてきているようだ.英語史でいえば,例えば古英語に関して,時制・相と談話構造の関係を探ったり,語順と情報構造の相関を追求する研究が現われている.
 もう少し具体的に述べよう.古英語で,時制 (tense) と相 (aspect) は形態統語的に標示され,従来はもっぱら文法的な問題として扱われてきた.しかし,テキストの語りの中でそれらの表現が用いられる分布を調べてみると,完了相は情報の前景化を担い,未完了相は情報の背景化を担うという傾向が明らかになる.換言すれば,単一,動的,瞬時,有界の性質をもつ出来事は完了相で表わされ,持続,反復,習慣,無界の性質をもつ出来事は未完了相で表わされるという.以上は,Hopper による Anglo-Saxon Chronicle を対象とした分析結果であり,古英語一般に当てはまるかどうかは別問題だが,形態統語的な形式が談話構造の操作に利用される可能性を示すものとして興味深い.
 同じように,比較的自由とされる古英語の語順も情報構造の操作に一役買っていたとみなせる事例が指摘されている.現代英語の "then" に相当する副詞 þa, þonne は,談話のつなぎとして作用することが知られている.同時に,これらの副詞が置かれることにより,その他の文要素の統語的位置が影響を受けることもよく知られている.どうやら問題の副詞の出現,語順の変異,談話構造の3者は,複雑かつ密接に関連し合っているようなのだ.例えば,これらの副詞で文が始まり,その直後に onginnan (to begin) の定動詞形が置かれると,談話の継続が含意されることが多いという.一方,副詞が欠如していれば,談話の非継続が含意されるという.
 また,þa, þonne はときに "focus particles" とも称されるように,情報の焦点化にも関わっているとされる.文中に現われるとき,それより前の部分が話題 (topic) となり,後ろの部分が焦点 (focus) となる.
 通時的な視点から興味深いのは,古英語から中英語にかけて,形態的統語なヴァリエーションが減少し,語順も固定化していくにつれて,それらが担っていた談話構造を操作する機能も衰退していったはずであるということだ.では,談話構造を操作する機能は,他のいかなる手段によって補われたのか,あるいは補われなかったのか.統語論と語用論のインターフェースそのものに,ダイナミックな変化が生じた可能性がある.

 ・ Lenker, Ursula. "Old English: Pragmatics and Discourse" Chapter 21 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 325--340.

Referrer (Inside): [2018-02-18-1]

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2017-07-06 Thu

#2992. 中英語における不定詞補文の発達 [me][infinitive][syntax][tense][passive]

 中英語期では,不定詞補文が著しく発達した.Los (Los, Bettelou. The Rise of the to-Infinitive. Oxford: OUP, 2005.) を参照した Sawada (28) に簡潔にまとめられているように,その発達には,(1) 原形不定詞の生起する環境が狭まる一方で to 不定詞の頻度が顕著に増したという側面と,(2) 古英語では見られなかった種々の新しい不定詞構造が現われたという側面がある.(2) については,5種類の新構造が指摘される.以下に,現代英語からの例文とともに示そう.

 (a) 受動態の to 不定詞: The clothes need to be washed.
 (b) 完了の have を伴う to 不定詞: He expected to have finished last Wednesday.
 (c) 独立して否定される to 不定詞: They motioned to her not to come any further.
 (d) いわゆる不定詞付き対格構文における to 不定詞: They believed John to be a liar.
 (e) 分離不定詞 (split infinitive): to boldly go where no one has gone before.

 このような近現代的な to 不定詞構造が生まれた背景には,対応する that 節による補語の衰退も関与している.というよりは,結果的には that 節の果たした節として種々の機能が,複雑な構造をもつ to 不定詞に取って代わられた過程と理解すべきだろう.しかし,この置換は一気に生じたわけではなく,受動態などの複雑な意味・構造が関わる場合には that 節の補文がしばらく保たれたことに注意すべきである.

 ・ Sawada, Mayumi. "The Development of a New Infinitival Construction in Late Middle English: The Passive Infinitive after Suffer." Studies in Middle and Modern English: Historical Variation. Ed. Akinobu Tani and Jennifer Smith. Tokyo: Kaitakusha, 2017. 27--47.

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2016-11-19 Sat

#2763. 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例 (2) [perfect][preterite][aspect][tense][present_perfect_puzzle][prosody][poetic_license][rhyme]

 「#2750. "Present Perfect Puzzle" --- 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例」 ([2016-11-06-1]) に引き続いての話題.Visser は,中英語における過去形と現在完了形の並列について,フランス語などからの影響もありうるとは述べているものの,主たる理由は詩的許容 (poetic_license) にあると考えている.というのは,両者の並列や交替が脚韻 (rhyme) や韻律 (metre) に動機づけられているとおぼしき例が,実際に少なくないからだ.脚韻の動機づけが感じられる例として,Visser (713) の挙げているものの中からいくつかを抜き出してみる.

 ・ c1386 Chaucer, C. T. H264: His bowe he bente, and sette ther-inne a flo, / And in his ire his wyf thanne hath he slayn, - / This is theffect, ther is namoore to sayn.
 ・ c1390 Gower Conf. Am. (ed. Morley) V p. 245: Wherof this lord hath hede nome / And did hem bothe for to come.
 ・ c1390 Gower Conf. Am. (ed. Morley) V p. 277: whan it came unto the grounde, / A great serpent it hath bewounde.
 ・ c1400 Syr Tryamowre (ed. Erdman Schmidt) 1030: The messengere ys come and gone. / But tydyngys of Tryamowre herde he none.

 同様に,韻律によると考えられる例のいくつかを Visser (717--18) より示す.

 ・ c1250 Floris & Bl. 985: Clarice, joie hire mot bitide, / Aros up in þe moreȝentide, / And haþ cleped Blauncheflur.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. B628: This gentil kyng hath caught a greet motyf / Of this witnesse, and thoghte he wolde enquere / Depper in this.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. H203: And so befel, whan Phebus was absent, / His wyf anon hath for hir lemman sent.
 ・ c1390 Gower, C. A. (ed. Morley) p. 277: And he, which understood his tale, / Betwene him and his asse all softe / Hath drawe and set him up a lofte.

 過去形と現在完了形の並列が主として詩的許容に起因するという説は,それが現われる時期や環境によっても支持される.このような並列の例は,14--15世紀の韻文にほぼ限られているのである.それ以前の古英語や初期中英語では,韻文にせよ散文にせよ,ごく僅かな例しか確認されない.また,後期中英語でも,散文では普通みられない.さらに,過去形と現在完了形の並列がみられる環境では,過去形と現在形の並列も同様にみられるという事実も,詩的許容による説に追い風となる.近現代にかけて,時制・相は論理的なカテゴリーとして重視されるようになり,過去と現在(完了)の区別もうるさくなっていくが,後期中英語では,時制・相のカテゴリーとその形式の問題は,韻律上の要請があれば,当面は棚上げしてもよい程度の重要さでとらえられていたのだろう.
 では,近現代にかけて,この寛容さが失われ,理詰めになっていったのはなぜなのだろうか.これは,言語と社会をめぐる非常に大きな英語史上の問題である.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2016-11-06 Sun

#2750. "Present Perfect Puzzle" --- 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例 [perfect][preterite][aspect][tense][adverb][present_perfect_puzzle][me][french][prosody][poetic_license]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]),「#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle」 ([2016-07-12-1]),及び昨日の記事「#2749. "Present Perfect Puzzle" --- 近現代英語からの「違反」例」 ([2016-11-05-1]) に引き続き,"Present Perfect Puzzle" について.中英語には,このパズルと関連する事例として,過去形と現在完了形の動詞が統語的あるいは文脈的に並列・共起して現われるケースが散見される.両者の間に際立った機能的な区別は感じられないことから,いまだ現代英語のような明確な区別はなかったことを示す例と解釈できる.Visser (2198) から,いくつか例を挙げよう.

 ・ c1386 Chaucer, C. T. E 1956, Adoun by olde Januarie she lay, That sleep til that the coughe hath hym awaked.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. F 1082, His brother . . . Up caughte hym, and to bedde hath hym broght.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. E 2132, er that dayes eighte Were passed . . . Januarie hath caught so greet a wille . . . hym for to pleye In his gardyn . . . That . . . unto this May seith he: Rys up, my wif!
 ・ c1390 Gower, Conf. Am. (Morley) II p. 107, And whan it came into the night, This wife with her hath to bedde dight Where that this maiden with her lay.
 ・ c1430 Syr Tryamowre (ed. Erdman Schmidt) 830, [he] bare hym downe of hys hors, And hath hym hurted sare.

 これらは,"epic (present) perfect" という事例とも解することができるし,韻律の要請による詩的許容 (poetic_license) も関与しているかもしれない.Visser (2198) は,フランス語にも同様の揺れが見られることから,その影響の可能性もありそうだと述べている.

It is not difficult to concur with 1960 Mustanoja and 1970 Bauer in assuming French influence as very likely. (As a matter of fact Modern colloquial French often prefers the type 'Je l'ai vu tomber' to that with the 'passé défini': 'Je le vis tomber.)'


 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2016-11-19-1]

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2016-11-05 Sat

#2749. "Present Perfect Puzzle" --- 近現代英語からの「違反」例 [perfect][aspect][tense][adverb][present_perfect_puzzle][mode]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]),「#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle」 ([2016-07-12-1]) で紹介したように,現代英語には,現在完了と過去の特定の時点を表わす副詞語句は共起できないという規則がある.ところが,近代英語やとりわけ中英語では,このような共起の例が散見される.現代英語にかけて,なぜこのような制限規則が定まったのかという問題,いわゆる "Present Perfect Puzzle" については,様々な提案がなされてきたが,完全には解明されていない.
 Visser (2197) より,近代英語期,さらに20世紀を含む時代からの例をいくつか引こう.

 ・ 1601 Shakesp., All's Well IV, iii, 3, I have delivered it an hour since.
 ・ 1669 Pepys's Diary April 11th, which I have forgot to set down in my Journal yesterday.
 ・ 1777 Sheridan, School f. Sc. I, i, I am told he has had another execution in the house yesterday.
 ・ 1820 Scott. Monastery XXX, The Englishman . . . has murdered young Halbert . . . yesterday morning.
 ・ 1847 Ch. Brontë, Jane Eyre XVI, Indeed I have seen Blanche, six or seven years ago, when she was a girl of eighteen.
 ・ 1912 Standard, Aug. 16, Prince Henry has decided to travel to Tokio by the overland route. Twice already he has visited Japan, in 1892 and 1900 (Kri).
 ・ 1920 Galsworthy, In Chancery IV, I have been to Richmond last Sunday.
 ・ 1962 Everyman's Dictionary of Literary Biography p. 609--10, He [sc. Shakespeare] is, of course, unmeasurably the greatest of all English writers, and has been so recognized even in those periods that were antipathetic to the Elizabethan genius.

 このような現代的な規則から逸脱している例について,Visser (2197) は他の研究者を参照しつつ次のように述べている.

Several scholars (e.g. 1958 F. T. Wood; 1926 Poutsma) account for these idioms by suggesting that the writer or speaker has embarked on the given form before the idea of a temporal adjunct comes into his mind, and then adds this adjunct as a kind of afterthought. Another explanation is based on the assumption that instances like those quoted here may be seen as survivals of a usage that formerly---when there was not yet the strict line of demarcation between the different uses---occurred quite normally.


 ここでは2つの提案がなされているが,前者の "afterthought" 説は理解しやすい.しかし,上記の例のすべてが,後から思いついての付け足しとして説明できるかどうかは,客観的に判断できないように思われる.第2の「古くからの残存」説は,その通りなのかもしれないが,現代英語にかけてくだんの共起制限が課されたのはなぜかという "Present Perfect Puzzle" に直接に迫るものではない.
 このパズルは未解決と言わざるを得ない.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2016-11-06-1]

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2016-11-03 Thu

#2747. Reichenbach の時制・相の理論 [tense][aspect][deixis][perfect][preterite][future][semantics]

 言語におっける時制・相を理論化する有名な試みに,Reichenbach のものがある.3つの参照時点を用いることで,主たる時制・相を統一的に説明しようとするものだ.その3つの参照時点とは,以下の通り(Saeed (128) より引用).

S = the speech point, the time of utterance;
R = the reference point, the viewpoint or psychological vantage point adopted by the speaker;
E = event point, the described action's location in time.


 この S, R, E の時間軸上の相対的な位置関係を,先行する場合には "<",同時の場合には "=",後続する場合には ">" の記号で表現することにする.例えば,過去の文 "I saw Helen", 過去完了の文 "I had seen Helen",未来の文 "I will see Helen" のそれぞれの時制は,以下のように表わすことができるだろう.

                                           
"I saw Helen"        ───┴───────┴───>
(R = E < S)               R, E             S
                                           
"I had seen Helen"   ───┴───┴───┴───>
(E < R < S)                E       R       S
                                           
"I will see Helen"   ───┴───────┴───>
(S < R = E)                S              R, E

 この SRE の分析によると,英語の時制体系は以下の7つに区分される (Saeed 132) .

Simple past(R = E < S)"I saw Helen"
Present perfect(E < S = R)"I have seen Helen"
Past perfect(E < R < S)"I had seen Helen"
Simple present(S = R = E)"I see Helen"
Simple future(S < R = E)"I will see Helen"
Proximate future(S = R < E)"I'm going to see Helen"
Future perfect(S < E < R)"I will have seen Helen"


 SRE の3時点の関係は様々だが,S = R となるのが現在完了,単純現在,近接未来の3つの場合のみであることは注目に値する.非英語母語話者には理解しにくい現在完了の「現在への関与」 (relevance to "now") という側面は,Reichenbach の理論では「S = R」として表現されるのである.

 ・ Reichenbach, Hans. Elements of Symbolic Logic. London: Macmillan, 1947.
 ・ Saeed, John I. Semantics. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.

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2016-08-28 Sun

#2680. deixis [pragmatics][deixis][demonstrative][personal_pronoun][tense][adverb]

 語用論の基本的な話題の1つに deixis (ダイクシス,直示性)がある.この用語は,ギリシア語で「示す,指し示す」を意味する deikunúnai に由来する.Huang (132) の定義によれば,deixis とは "the phenomenon whereby features of context of utterance or speech event are encoded by lexical and/or grammatical means in a language" である.直示表現 (deictic (expression)) には,指示詞 (demonstrative),1・2人称代名詞 (1st and 2nd personal_pronoun),時制標識 (tense marker),時や場所の副詞 (adverb of time and place),移動動詞 (motion verb) が含まれる.
 何らかの deixis をもたない言語は存在しない.それは,deixis を標示する手段がないと,人間の通常のコミュニケーション上の要求を満たすことができないからだ.確かに「私」「ここ」「今」のような直示的概念なしでは,いかなる言語も役に立たないだろう.海辺で拾った瓶のメモに "Meet me here a month from now with a magic wand about this long." と書かれていても,誰に,どこで,いつ,どのくらいの長さの杖をもって会えばよいのか不明である.これは読み手が書き手の意図した deixis を解決できないために生じるコミュニケーション障害である.
 英語の直示表現の典型例として you を挙げよう.通常,話し相手を指して you が用いられ,時と場合によって you の指示対象は変わるものであるから,これは典型的な直示表現といえる.しかし,If you travel on a train without a valid ticket, you will be liable to pay a penalty fare. のように一般人称として用いられる you では,本来の直示的な性質はなりをひそめており,2人称代名詞 you の非直示的用法の例というべきだろう.
 直示表現のもう1つの典型例として,this を挙げよう.指さしや視線などの物理的なジェスチャーを伴って this table と言うとき,この this はすぐれて直示的な用法といえるが,物理的な行動を伴わずに this town と言うときには,この this は直示的ではあるがより象徴的な用法といえる.後者は前者からの発展的,派生的用法と考えられ,実際,ジェスチャー用法 (gestural) でしか用いられず,象徴的 (symbolic) な用法を欠いているフランス語の voici, voilà のような直示表現もある.言い換えれば,象徴的用法のみをもつ直示表現というのはありそうにない.
 以上より,直示表現の用法は以下のように分類される (Huang 135 の図を改変).

                                                    ┌─── Gestural
                                                    │
                         ┌─── Deictic use ───┤
                         │                         │
Deictic expression ───┤                         └─── Symbolic
                         │
                         └─── Non-deictic use

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

Referrer (Inside): [2016-11-24-1] [2016-08-30-1]

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2016-07-14 Thu

#2635. ヨーロッパにおける迂言完了の地域言語学 (2) [perfect][syntax][wave_theory][linguistic_area][geolinguistics][geography][contact][grammaticalisation][preterite][french][german][tense][aspect]

 昨日の記事 ([2016-07-13-1]) で,ヨーロッパ西側の諸言語で共通して have による迂言的完了が見られるのは,もともとギリシア語で発生したパターンが,後にラテン語で模倣され,さらに後に諸言語へ地域的に拡散 (areal diffusion) していったからであるとする Drinka の説を紹介した.昨日の記事で (3) として触れた,もう1つの関連する主張がある.「フランス語やドイツ語などで,迂言形が完了の機能から過去の機能へと変化したのは,比較的最近の出来事であり,その波及の起源はパリのフランス語だった」という主張である.
 ここでは,まずパリのフランス語で迂言的完了が本来の完了の機能としてではなく過去の機能として用いられるようになったことが主張されている.Drinka (22--24) によれば,パリのフランス語では,すでに12世紀までに,過去機能としての用法が行なわれていたという.

It is here, then, in Parisian French, that I would claim the innovation actually began. In the 12th century, the OF periphrastic perfect generally had an anterior meaning, but a past sense was already evident in vernacular Parisian French in the 12th and 13th c., connected with more vivid and emphatic usage, similar to the historical present . . . . During the 16th c., perfects had already begun to emerge in French literature in their new function as pasts, and during the 17th and 18th centuries, the past meaning came to replace the anterior meaning completely in the language of the French petite bourgeoisie . . . .


 他のロマンス諸語や方言は遅れてこの流れに乗ったが,拡散の波は,語派の境界を越えてドイツ語にも広がった.特に文化・経済センターとして早くから発展したドイツ南部都市の Augsburg や Nürnberg では,15世紀から16世紀にかけて,完了が過去を急速に置き換えていった事実が指摘されている (Drinka 25) .フランスに近い Cologne や Trier などの西部都市では,12--14世紀というさらに早い段階で,完了が過去として用いられ出していたという証拠もある (Drinka 26) .
 もしこのシナリオが事実ならば,威信をもつ12世紀のパリのフランス語が,完了の過去機能としての用法を一種の流行として近隣の言語・方言へ伝播させていったということになろう.地域言語学 (areal linguistics) や地理言語学 (geolinguistics) の一級の話題となりうる.

 ・ Drinka, Bridget. "Areal Factors in the Development of the European Periphrastic Perfect." Word 54 (2003): 1--38.

Referrer (Inside): [2016-07-15-1]

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2016-07-13 Wed

#2634. ヨーロッパにおける迂言完了の地域言語学 (1) [perfect][syntax][wave_theory][linguistic_area][geolinguistics][geography][contact][grammaticalisation][preterite][greek][latin][tense][aspect]

 英語を含むヨーロッパ諸語では,havebe に相当する助動詞と動詞の過去分詞形を組み合わせて「完了」を作ることが,広く見られる.ヨーロッパ内でのこの言語項の地域的な分布を地域言語学 (areal linguistics) や地理言語学 (geolinguistics) の立場から調査して,その発生と拡大を歴史的に明らかにしようとした論文を見つけた.
 論者の Drinka は,まずヨーロッパの言語地図を見渡したうえで,(1) have による完了を発達させたのは西側であり,東側では be が優勢であることを指摘した.次に,(2) 西側の have 完了の発生と,過去分詞形が受動的な意味から能動的な意味へと再解釈された過程の起源は,ともに古代ギリシア語に遡り,それをラテン語が真似たことにより,後のロマンス諸語やその他の言語へも広がっていったと議論している.最後に,(3) フランス語やドイツ語などで,迂言形が完了の機能から過去の機能へと変化したのは,比較的最近の出来事であり,その波及の起源はパリのフランス語だったと論じている.
 (2) について,もう少し述べよう.ギリシア語では元来,迂言的完了は「be +完了分詞」で作っていた.しかし,「have + 中間分詞」の共起がときに完了に近い意味を表わすことがあったために,徐々に文法化のルートに乗っていった.紀元前5世紀までには「have +アオリスト分詞」という型が現われ,それまでは構文を作らなかった他動詞も参入するほどの勢いを示し,隆盛を極めた.ラテン語や後の西側の言語にとっては,このギリシア語ですでに文法化していた「have + 分詞」のパターンが,文語レベルで模倣の対象となったという.have 完了が世界の言語では比較的まれな構造であることを考えると,ラテン語(やその他の西側の言語)で独立して発生したと考えるよりは,ギリシア語との接触によるものと考えるほうが自然だろうと述べられている (16) .Drinka (20) が have 完了のギリシア語起源論について以下のように要約している.

My claim, then, is that the actual concept of HAVE periphrasis owes its existence largely to the Greek model, that the development of the HAVE perfect in Latin is tied closely to that of Greek, that it arose especially in literary contexts and in the language of educated speakers, and continued to be connected to the formal register in its later history. As a result of this learned calquing of the HAVE perfect from Greek into Latin, including ecclesiastical Latin, the Western European languages were, in turn, given a model to aspire to, a more elaborate temporal-aspectual system to imitate. The Romance languages, of course, all inherited these perfect structures, and, as I will argue elsewhere, most of the Germanic languages appear to have developed their HAVE perfect categories on the basis of this elaborated model, as well . . . . What is particularly fascinating to note is that the western languages have preserved and innovated upon this pattern to different extents, but continually show patterns of areal diffusion as these innovations spread from one language to another.


 英語史との関連で気になるのは,英語の have による迂言的完了の起源と発展について,Drinka が明示的にはほとんど述べていないことである.Drinka は,英語での例も,ヨーロッパ西側の「地域的な拡散」 (areal diffusion) の一環と見ているのだろうか.とすると,従来の説とは異なる,かなり大胆な仮説ということになる.英語史上の関連する話題としては,「#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達」 ([2016-02-20-1]) と「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]) も参照されたい.
 また,上の議論では,ラテン語が迂言用法をギリシア語から「借用」したという言い方ではなく,"model" という「模倣」に近い用語が用いられている.この点については「#2010. 借用は言語項の複製か模倣か」 ([2014-10-28-1]) の議論も参考にされたい.

 ・ Drinka, Bridget. "Areal Factors in the Development of the European Periphrastic Perfect." Word 54 (2003): 1--38.

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2016-07-12 Tue

#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle [perfect][aspect][preterite][tense][adverb][present_perfect_puzzle][pragmatics]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]) で取り上げた Present Perfect Puzzle と呼ばれる英文法上の問題がある.よく知られているように,現在完了は過去の特定の時点を指し示す副詞とは共起できない.例えば Chris has left York. という文法的な文において,Chris が York を発ったのは過去のはずだが,過去のある時点を指して *Yesterday at ten, Chris has left York とすると非文法的となってしまう.この "past-adverb constraint" がなぜ課されているのかを説明することは難しく,"puzzle" とされているのだ.
 1つの解決法として提案されているのが,"scope solution" である.現在完了を作る助動詞 have が現在を指し示しているときに,過去を指し示す副詞の作用域 (scope) がその部分を含む場合には,時制の衝突が起こるという考え方だ.素直な説のように見えるが,いくつかの点で難がある.例えば,Chris claims to have left York yesterday. では,副詞 yesterday の使用域は to have left York までを含んでおり,その点では先の非文の場合の使用域と違いがないように思われるが,実際には許容されるのである.また,この説では,現在完了は,過去どころか現在の時点を指し示す副詞とも共起し得ないことを説明することができない.つまり,*Chris has been in Pontefract last year. が非文である一方で,*Chris has been in Pontefract at present. も非文であることを説明できない.
 次に,根強く支持されているい説として "current relevance solution" がある.現在完了とは,現在との関連性を標示する手段であるという考え方だ.あくまで過去から現在への継続を示すのが主たる機能なのであるから,過去を明示する副詞との共起は許されないとされる.母語話者の直感にも合う説といわれるが,過去と現在の関連性は,実は過去形によって表わすこともできるではないかという反論がある.例えば,Why is Chris so cheerful these days? --- Well, he won a million in the lottery. では,現在と過去の関連性がないとは言えないだろう.また,過去と現在の関連性が明らかであっても,*Chris has been dead. は許されず,Chris was dead. は許される.
 Klein (546) は従来の2つの説を批判して,語用論的な観点からこの問題に迫った.TT (= "topic time" = "the time for which, on some occasion, a claim is made" (535)) と TSit (= time of situation) という2種類の時間指示を導入して,1つの発話のなかで,TT と TSit の表現が,ともに独立して過去の定的な時点を明示 (p-definite (= point-definite)) してはならない制約があると仮定した.

P-DEFINITENESS CONSTRAINT
   In an utterance, the expression of TT and the expression of TSit cannot both be independently p-definite.


 ここで Klein の議論を細かく再現することはできないが,主張の要点は Present Perfect Puzzle を解く鍵は,統語論にはなく,語用論にこそあるということだ.上に挙げてきた非文は,統語的に問題があるのではなく,語用的にナンセンスだからはじかれているのである."p-definite constraint" は,このパズルを解くことができるだけではなく,例えば *Today, four times four makes sixteen. がなぜ許容されないのか(あるいはナンセンスか)をも説明できる.ここでは,動詞 makes (TT) と副詞 Today (TSit) の両方が独立して,現在の時点を表わしている (p-definite) ために,語用論的に非文となるのだという.
 "p-definiteness constraint" は,もう1つのパズルの解き方の提案である.

 ・ Klein, Wolfgang. "The Present Perfect Puzzle." Language 68 (1992): 525--52.

Referrer (Inside): [2016-11-06-1] [2016-11-05-1]

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2016-02-22 Mon

#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 [perfect][preterite][tense][aspect][syntax][auxiliary_verb][adverb][generative_grammar][present_perfect_puzzle]

 「#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達」 ([2016-02-20-1]) で触れたように,中英語期に完了構文が統語的に確立した後も,機能的には過去形との分化は初期近代英語までそれほど明確な形で見られなかった.その証拠に,近代以前には過去の時点を指示する副詞(句)と完了形が共起する例が少なからず文証される.この件について,Mustanoja (504) を引用しよう.

In ME and early Mod. E the functional distinction between the preterite and the compound tenses of the past is not, however, nearly so clear-cut as it is today, and the perfect, for example, may occur in conjunction with adverbs of past time: --- and homward he shal tellen othere two [tales], Of aventures that whilom han bifalle (Ch. CT A Prol. 795).


 しかし,16--17世紀になるとこの状況は変化し,現代英語のように完了形と過去の副詞(句)の共起が許されなくなっていく.フランス語やドイツ語など近隣の諸言語が,同様の複合形を単純過去時制を表わすのに保持してきたのと対照的に,英語ではこの時期を境に完了時制と過去時制が形態・機能ともに明確に区別されるようになったのである.なぜ英語の歴史においては,このような区別が生じたのだろうか.そして,なぜとりわけこの時期に生じたのだろうか.この辺りの問題は,生成文法の理論的な立場から "present perfect puzzle" と呼ばれている.
 英語と近隣諸言語を比較した Yanagi によれば,have に相当する助動詞に V-to-T movement が生じる言語(古い英語,フランス語,ドイツ語,アイスランド語など)については過去分詞も平行して移動するが,そうでない言語(現代英語や大陸スカンディナヴィア語)については過去分詞も移動しない.そして,この各項の統語的な移動の有無が,時制を構成する3要素 (Event Point, Speech Point, Reference Point) の相互関係と連動しており,機能的に過去時制に近づくか,完了時制に近づくかを決定するという.V-to-T movement については,名前こそ異なれ,実質的にほぼ同じ現象について扱った「#1670. 法助動詞の発達と V-to-I movement」 ([2013-11-22-1]) を参照していただきたいが,この一見してきわめて統語的な現象が,時制という機能と密接に関連している可能性があるということは,実に興味深い.とりわけ重要な点は,V-to-T movement が起こったとされる時期と,過去を表わす副詞と完了形の共起が許されなくなり始める時期が,16世紀で符合することである.
 Yanagi の結論部 (96) を引用しよう.

Here it has been argued that the obsolescence of the present perfect puzzle in the history of English can be attributed to the loss of overt verb movement by using the following assumptions: (a) In a language with independent V-to-T movement, perfect participles can move overtly; (b) In a language without independent V-to-T movement, perfect participles cannot move overtly. In addition, the viability of the present analysis was further supported by applying it to modern Germanic and Romance languages. As a theoretical contribution, it is semantically motivated.


 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
 ・ Yanagi, Tomohiro. "A Syntactic Approach to the Present Perfect Puzzle in the History of English." 『近代英語研究』 第20号,2004年.73--103頁.

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2016-02-20 Sat

#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達 [auxiliary_verb][syntax][reanalysis][word_order][tense][aspect][perfect][grammaticalisation][agreement][participle][generative_grammar]

 標記の問題は,英語歴史統語論ではよく知られた再分析 (reanalysis) の例として,また文法化 (grammaticalisation) の例として取り上げられてきた.以下,中尾・児馬 (110--17) に従って,教科書的な記述を施そう.
 古英語では,現代英語の They had their enclosure closed. に相当する「have + 目的語 + 過去分詞」の構文が存在した (þā hīe tō Ðǣm ġemǣre cōmon . . ., þā hæfdon hīe hiera clūsan belocene [Or, ed. Sweet 112/34]) .その構文の意味は現代と異ならず「(目的語)を(過去分詞)の表わす状態としてもつ」ほどであり,目的語と過去分詞は統語的,形態的,意味的に密接な関係にあった.その証拠に,過去分詞は目的語の性・数・格に一致して屈折語尾を伴っていた(上の例では,男性・単数・対格).この段階では,特に新しい時制・相の含意はもっていなかった.
 しかし,8世紀末までに,統語的な変異が現われてきた.目的語と過去分詞の位置が逆転した「have + 過去分詞 + 目的語」構文の登場である.新旧の語順はしばらく共存していたものの,それは現代英語のように They had closed their enclosure.They had their enclosure closed. の意味上の対立を表わすものでは必ずしもなかった.だが,徐々に新しい語順「have + 過去分詞 + 目的語」が多く用いられるようになり,これまで他動詞の過去分詞に限られていたものが自動詞(ただし変異動詞以外)の過去分詞にまで拡がるなどして,「過去分詞+目的語」のつながりよりも「have + 過去分詞」のつながりが意識されるようになった.
 中英語に入ると,過去分詞と目的語の関係が薄れて統語形態的な一致は標示されなくなり,「have + 過去分詞」の塊が複合的な述語動詞として捉えられるに至った.この段階で,「have + 過去分詞」は現代英語につながる統語構文として確立したといってよい.しかし,意味的にいえば,いまだ現在時制や過去時制と明確に区別される新しい時制や相が獲得されたわけではなかった.実際,whilomlong ago など過去を表わす副詞と現在完了構文が共起することは,これ以降 Shakespeare 辺りまで続いており,現代英語の現在完了にみられる「現在との関与性」という時制・相の特徴が確立してきたといえるのは16世紀以降である.
 この構文の起源と発達を,文法化という観点から図式的に記述すると次のようになる(保坂, p. 14 の図を参考にした).

         OE                        ME                    ModE

  have   + NP + pp ----->  have  +   pp   + NP -----> have + pp + NP ===> 完了形
所有動詞                  助動詞   本動詞

 統語ツリーで同じ発達を表現すれば,以下の通り(保坂,p. 149 の構造を参考にした;SC は "Small Clause" を表わす).

Grammaticalisation of Have Perfect

 完了構造には have 完了だけでなく be 完了もある.後者については,「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]),「#1814. 18--19世紀の be 完了の衰退を CLMET で確認」 ([2014-04-15-1]) を参照.Chaucer の用いた完了形について,「#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形」 ([2010-10-13-1]) も参照されたい.

 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.
 ・ 保坂 道雄 『文法化する英語』 開拓社,2014年.

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2015-08-31 Mon

#2317. 英語における未来時制の発達 [tense][future][auxiliary_verb][category][grammaticalisation][bleaching]

 英語における未来時制の発達について,「#2208. 英語の動詞に未来形の屈折がないのはなぜか?」 ([2015-05-14-1]) の記事,及び間接的に「#2209. 印欧祖語における動詞の未来屈折」 ([2015-05-15-1]) の記事で取り上げた.will, shall を用いた迂言的な未来表現がいつ生まれ,いつ確立したかという問題は,英語史の重要案件の1つであるが,諸家の間に様々な議論がある.関連して,現代英語に未来時制は存在するのかという文法範疇 (category) に関わる大きな問題もあり,百家争鳴である.
 通時的かつ形態的な観点からは,未来形という動詞の屈折は昔も今も存在せず,過去形や現在形(正確には非過去形というべきか)とは比べるべくもないといえる.しかし,時制という文法範疇の成員が,互いに形態論的に比較される振る舞いを示さなければならないという決まりがあるわけでもない.共時的かつ機能的な観点からすれば,現代英語の will, shall で示されるわゆる未来時制は,疑いなく受け入れられている過去時制,現在時制と比較される時制の1つであるとは認めてよいように考えている.安井・久保田 (171) も次のように述べており,現代英語における未来時制を肯定している.

英語には元来未来の時を表す時制はなく,OE においては現在時制をもって表していた.PE では「shall (should) or will (would) + 不定詞」の形が未来を表すとき広く用いられ,これを future tense と呼んでいる.shall, will は現在ではその原義を失い,まったく単純未来を表すのに用いる場合もあるので,これらを単なる形式語と認め,不定詞との結合形を future tense と呼ぶことは差し支えない.が,元来が話者の心的態度を示すのに用いられた助動詞であり,現在でもしばしば未来以外の意味に用いられる.


 では,問題の will, shall を用いた迂言的な未来時制の誕生と確立の時期はいつなのだろうか.一般にはその萌芽は古英語にみられると言われる.will, shall が,ある文脈において,元来の法的な意味を弱め,単純に未来時制を表わすに至ったと判断できる古英語の例が,少ないながらも指摘されている (Mustanoja 489) .意味の漂白 (bleaching) の好例であり,文法化 (grammaticalisation) の典型例でもある.しかし,これらの最初期の例は,現代の研究者による文脈の微妙な判断に委ねられており,誕生の時期を客観的に決定することは容易ではない.中英語からの例ですら,多くの場合,元来の法的な意味を読み取ろうとすれば読み取ることができるのである.
 しかし,中英語に入ると,少なくとも単純未来の候補とされる will, shall の用例が増えてくることから,およその通時的展開は推し量ることができる.Mustanoja (490) によれば,初期中英語では shall のほうがより普通の助動詞であり,will はいまだより法的な意味を匂わす機会が多かった.なお,現代風の will, shall の人称による使い分けが規範として言われ出したのは「#451. shallwill の使い分けに関する The Wallis Rules」 ([2010-07-22-1]) で触れたように17世紀のことだが,実際にその使い分けがある程度確立したといえるの19世紀以降のことである(安井・久保田,p. 171).

 ・ 安井 稔・久保田 正人 『知っておきたい英語の歴史』 開拓社,2014年.
 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

Referrer (Inside): [2018-04-13-1]

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