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loan_word - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-10-07 10:47

2022-10-06 Thu

#4910. 中英語と古英語の違い3点 --- 借用語の増加,標準の不在,屈折語尾の水平化 [oe][me][loan_word][standardisation][inflection][synthesis_to_analysis]

 古い Wardale の中英語入門書の復刻版を手に取っている.中英語 (Middle English) は古英語 (Old English or Anglo-Saxon) と何がどう異なるのか.Wardale (2--3) が明快に3点を挙げている.

   (a) One of these marked differences is that whereas the latter contained very little foreign element, only a limited number of Latin words and a very few from Celtic and other sources being found, the vocabulary of Middle English has been enormously enriched, especially from Old Norse and French.
   (b) Another point of distinction is that whereas in the O.E. period the West Saxon dialect under Ælfred's encouragement of learning had come to be the standard literary dialect, the others being relegated chiefly to colloquial use, in M.E. times no such state of affairs existed. In them all dialects were used for literary purposes and only towards the end of the period do we find that of Chaucer beginning to assume its position as the leading literary language.
   (c) But more important than these external points of difference, if perhaps less obvious, and more essential because inherent in the language itself, is the modification which gradually made itself seen in that language. English, like all Germanic tongues, has at all times been governed by what is known as the Germanic accent law, that is by the system of stem accentuation. By this law, except in a few cases, the chief emphasis of the word was thrown on the stem syllable, all others remaining less stressed or entirely unaccented. . . . But by [the M.E. period] all vowels in unaccented syllables have been levelled under one uniform sound e . . .

 つまり,古英語と比べたときの中英語の際立ちは3点ある.豊富な借用語,標準変種の不在,無強勢母音の水平化だ.とりわけ,3点目が言語内的で本質的な特徴であり,それは2つの重大な結果をもたらしたと,Wardale (3--4) は議論する.

   The consequences of this levelling of all unaccented vowels under one are twofold.
   (a) Since many inflectional endings had by this means lost their distinctive value, as when a nominative singular caru, care, an a nominative plural cara both gave a M.E. care, or a nominative plural limu, limbs, and a genitive plural lima both gave a M.E. lime, those few endings which did remain distinctive, such as the -es, of the nominative plural of most masculine nouns, were for convenience' sake gradually taken for general use and the regularly developed plurals care and lime were replaced by cares and limes. In the same way and for the same reason the -es of genitive singular ending of most masculine and neuter nouns came gradually to be used in other declensions as when for an O.E. lāre, lore's we find a M.E. lǫres
   (b) The second consequence follows as naturally. The older method of indicating the relationship between words in a sentence having thus become inadequate, it was necessary to fin another, and pronouns, prepositions, and conjunctions came more and more into use. Thus an O.E. bōca full, which would have normally given a M.E. bōke full was replaced by the phrase full of bōkes, and an O.E. subjunctive hie 'riden, which in M.E. would have been indistinguishable from the indicative riden from an O.E. ridon, by the phrase if hi riden. In short, English from having been a synthetic language, became one which was analytic.

 1つめの結果は,明確に区別される -es のような優勢な屈折語尾が一般化したということだ.2つめは,語と語の関係を標示するのに屈折に頼ることができなくなったために,代名詞,前置詞,接続詞といった語類に依存する度合が増し,総合的な言語から分析的な言語へ移行したことだ.

 ・ Wardale, E. E. An Introduction to Middle English. Routledge and Kegan Paul, 1937. 2016. Abingdon: Routledge, 2016.

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2022-09-25 Sun

#4899. magazine は「火薬庫」だった! [etymology][arabic][french][false_friend][semantic_change][italian][spanish][portuguese][borrowing][loan_word]

 英仏語の "false friends" (= "faux amis") の典型例の1つに英語 magazine (雑誌)と仏語 magasin (店)がある.語形上明らかに関係しているように見えるのに意味がまるで違うので,両言語を学習していると面食らってしまうというケースだ(ただし,フランス語にも「雑誌」を意味する magazine という単語はある).
 OED により語源をたどってみよう.この単語はもとをたどるとアラビア語で「倉庫」を意味する mákhzan に行き着く.この複数形 makhāˊzin が,まずムーア人のイベリア半島侵入・占拠の結果,スペイン語やポルトガル語に入った.「倉庫」を意味するスペイン語 almacén,ポルトガル語 armazém は,語頭にアラビア語の定冠詞 al-, ar- が付いた形で借用されたものである.スペイン語での初出は1225年と早い.
 この単語が,通商ルートを経て,定冠詞部分が取り除かれた形で,1348年にイタリア語に magazzino として,1409年にフランス語に magasin として取り込まれた(1389年の maguesin もあり).そして,英語はフランス語を経由して16世紀後半に「倉庫」を意味するこの単語を受け取った.初出は1583年で,中東に出かけていたイギリス商人の手紙のなかで Magosine という綴字で現われている.

1583 J. Newbery Let. in Purchas Pilgrims (1625) II. 1643 That the Bashaw, neither any other Officer shall meddle with the goods, but that it may be kept in a Magosine.

 次の意味変化もじきに起こった.1639年に軍事関係書のタイトルとして,つまり「専門書」ほどの意味で "Animadversions of Warre; or, a Militarie Magazine of the trvest rvles..for the Managing of Warre." と用いられたのである.「軍事知識の倉庫」ほどのつもりなのだろう.
 そして,この約1世紀後,ついに私たちの知る「雑誌」の意味が初出する.1731年に雑誌のタイトルとして "The Gentleman's magazine; or, Trader's monthly intelligencer." が確認される.「雑誌」の意味の発達は英語独自のものであり,これがフランス語へ1650年に magasin として,1776年に magazine として取り込まれた.ちなみに,フランス語での「店」の意味はフランス語での独自の発達のようだ.

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2022-08-15 Mon

#4858. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第18回「なぜ英語には類義語が多いの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][lexicology][synonym][loan_word][borrowing][french][latin][lexical_stratification][contact][hellog_entry_set][japanese]

 昨日『中高生の基礎英語 in English』の9月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第18回は「なぜ英語には類義語が多いの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2022年9月号

 英語には ask -- inquire -- interrogate のような類義語が多く見られます.多くの場合,語彙の学習は暗記に尽きるというのは事実ですので,類義語が多いというのは英語学習上の大きな障壁となります.本当は英語に限った話しではなく,日本語でも「尋ねる」「質問する」「尋問する」など類義語には事欠かないわけなので,どっこいどっこいではあるのですが,現実的には英語学習者にとって高いハードルにはちがいありません.
 3層構造については,hellog でも繰り返し取り上げてきました.こちらの記事セットおよび lexical_stratification の各記事をお読みください.

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2022-07-19 Tue

#4831. 『英語史新聞』2022年7月号外 --- クイズの解答です [khelf][hel_education][hel_contents_50_2022][link][hel_herald][sobokunagimon][notice][prescriptive_grammar][prescriptivism][caxton][printing][semantic_change][loan_word][french][latin]

 7月11日に khelf(慶應英語史フォーラム)による『英語史新聞』第2号が発行されたことは,「#4824. 『英語史新聞』第2号」 ([2022-07-12-1]) でお知らせしました.第2号の4面に4問の英語史クイズが出題されていましたが,昨日,担当者が答え合わせと解説を2022年7月号外として一般公開しました.どうぞご覧ください.



[ Q1 で問われている規範文法の成立年代について ]

 ・ hellog 「#2583. Robert Lowth, Short Introduction to English Grammar」 ([2016-05-23-1])
 ・ hellog 「#2592. Lindley Murray, English Grammar」 ([2016-06-01-1])
 ・ hellog 「#4753. 「英文法」は250年ほど前に規範的に作り上げられた!」 ([2022-05-02-1])
 ・ YouTube 「英文法が苦手なみなさん!苦手にさせた犯人は18世紀の規範文法家たちです.【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 19 】」
 ・ heldio 「18世紀半ばに英文法を作り上げた Robert Lowth とはいったい何者?」

[ Q2 で問われている活版印刷の始まった年代について ]

 ・ hellog 「#241. Caxton の英語印刷は1475年」 ([2009-12-24-1])
 ・ hellog 「#297. 印刷術の導入は英語の標準化を推進したか否か」 ([2010-02-18-1])
 ・ hellog 「#871. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由」 ([2011-09-15-1])
 ・ hellog 「#1312. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由 (2)」 ([2012-11-29-1])
 ・ hellog 「#1385. Caxton が綴字標準化に貢献しなかったと考えられる根拠」 ([2013-02-10-1])
 ・ hellog 「#3243. Caxton は綴字標準化にどのように貢献したか?」 ([2018-03-14-1])
 ・ hellog 「#3120. 貴族に英語の印刷物を売ることにした Caxton」 ([2017-11-11-1])
 ・ hellog 「#3121. 「印刷術の発明と英語」のまとめ」 ([2017-11-12-1])
 ・ hellog 「#337. egges or eyren」 ([2010-03-30-1])
 ・ hellog 「#4600. egges or eyren:なぜ奥さんは egges をフランス語と勘違いしたのでしょうか?」 ([2021-11-30-1])
 ・ heldio 「#183. egges/eyren:卵を巡るキャクストンの有名な逸話」

[ Q3 で問われている食事の名前について ]

 ・ 「英語史コンテンツ50」より「#23. 食事って一日何回?」
 ・ hellog 「#85. It's time for the meal --- timemeal の関係」 ([2009-07-21-1])
 ・ hellog 「#221. dinner も不定詞」 ([2009-12-04-1])

[ Q4 で問われている「動物」を意味する単語の変遷について ]

 ・ 「英語史コンテンツ50」より「#4. deer から意味変化へ,意味変化から英語史の世界へ!」
 ・ hellog 「#127. deer, beast, and animal」 ([2009-09-01-1])
 ・ hellog 「#128. deer の「動物」の意味はいつまで残っていたか」 ([2009-09-02-1])
 ・ hellog 「#1462. animal の初出年について」 ([2013-04-28-1])
 ・ heldio 「#117. 「動物」を意味した deer, beast, animal」

 今回の号外も含め『英語史新聞』第2号について,ご意見,ご感想,ご質問等がありましたら,khelf 公式ツイッターアカウント @khelf_keio よりお寄せください.アカウントのフォローもよろしくお願いします!

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2022-07-08 Fri

#4820. 古ノルド語は英語史上もっとも重要な言語 [youtube][notice][old_norse][contact][loan_word][borrowing][voicy][heldio][link]

 一昨日,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第38弾が公開されました.「え?それも外来語? 英語ネイティヴたちも(たぶん)知らない借用語たち」です.

 今回は古ノルド語 (Old Norse) という言語に注目しましたが,一般にはあまり知られていないかと思います.知っている方は,おそらく英語史を通じて知ったというケースが多いのではないでしょうか.英語史において古ノルド語は実は重要キャラです.歴史上,英語に多大な影響を及ぼしてきた言語であり,私見では英語史上もっとも重要な言語です.
 YouTube では,take, get, give, want, die, egg, bread, though, boththey など,英語語彙の核心に入り込んだ古ノルド語由来の単語に注目しました.しかし,古ノルド語の言語的影響の範囲は,語彙にとどまらず,語法や文法にまで及んでいるのです.英語史上きわめて希有なことです.
 この hellog では,古ノルド語と英語の言語接触に関する話題は頻繁に取り上げてきました.関心をもった方は old_norse の記事群をお読みください.また,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも様々に話してきました.以下,とりわけ重要な記事・放送にリンクを張っておきますので,ぜひご訪問ください.

[ hellog 記事 ]

 ・ 「#3988. 講座「英語の歴史と語源」の第6回「ヴァイキングの侵攻」を終えました」 ([2020-03-28-1])

 ・ 「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1])
 ・ 「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1])
 ・ 「#2693. 古ノルド語借用語の統計」 ([2016-09-10-1])
 ・ 「#3982. 古ノルド語借用語の音韻的特徴」 ([2020-03-22-1])

 ・ 「#170. guesthost」 ([2009-10-14-1])
 ・ 「#827. she の語源説」 ([2011-08-02-1])
 ・ 「#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化」 ([2020-04-08-1])
 ・ 「#4000. want の英語史 --- 意味変化と語義蓄積」 ([2020-04-09-1])
 ・ 「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1])
 ・ 「#1938. 連結形 -by による地名形成は古ノルド語のものか?」 ([2014-08-17-1])
 ・ 「#1937. 連結形 -son による父称は古ノルド語由来」 ([2014-08-16-1])

 ・ 「#1253. 古ノルド語の影響があり得る言語項目」 ([2012-10-01-1])
 ・ 「#3987. 古ノルド語の影響があり得る言語項目 (2)」 ([2020-03-27-1])
 ・ 「#1167. 言語接触は平時ではなく戦時にこそ激しい」 ([2012-07-07-1])
 ・ 「#1170. 古ノルド語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-10-1])
 ・ 「#1179. 古ノルド語との接触と「弱い絆」」 ([2012-07-19-1])
 ・ 「#1182. 古ノルド語との言語接触はたいした事件ではない?」 ([2012-07-22-1])
 ・ 「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1])
 ・ 「#3986. 古英語と古ノルド語の接触の状況は多様で複雑だった」 ([2020-03-26-1])

 ・ 「#4454. 英語とイングランドはヴァイキングに2度襲われた」 ([2021-07-07-1])
 ・ 「#1149. The Aldbrough Sundial」 ([2012-06-19-1])
 ・ 「#3001. なぜ古英語は古ノルド語に置換されなかったのか?」 ([2017-07-15-1])
 ・ 「#3972. 古英語と古ノルド語の接触の結果は koineisation か?」 ([2020-03-12-1])
 ・ 「#2591. 古ノルド語はいつまでイングランドで使われていたか」 ([2016-05-31-1])
 ・ 「#3969. ラテン語,古ノルド語,ケルト語,フランス語が英語に及ぼした影響を比較する」 ([2020-03-09-1])
 ・ 「#4577. 英語と古ノルド語,ローマンケルト語とフランク語」 ([2021-11-07-1])

 ・ 「#3979. 古英語期に文証される古ノルド語からの借用語のサンプル」 ([2020-03-19-1])
 ・ 「#2869. 古ノルド語からの借用は古英語期であっても,その文証は中英語期」 ([2017-03-05-1])
 ・ 「#3263. なぜ古ノルド語からの借用語の多くが中英語期に初出するのか?」 ([2018-04-03-1])

 ・ 「#59. 英語史における古ノルド語の意義を教わった!」 ([2009-06-26-1])

[ heldio 放送 ]

 ・ 「#179. 和田忍先生との対談:ヴァイキングの活動と英語文献作成の関係」 (2021/11/26)
 ・ 「#180. 和田忍先生との対談2:ヴァイキングと英語史」 (2021/11/27)
 ・ 「#181. 古ノルド語からの借用語がなかったら英語は話せない!?」 (2021/11/28)
 ・ 「#182. egg 「卵」は古ノルド語からの借用語!」 (2021/11/29)
 ・ 「#105. want の原義は「欠けている」」 (2021/09/14)
 ・ 「#317. dream, bloom, dwell ー 意味を借りた「意味借用」」 (2022/04/13)
 ・ 「#155. ノルド人とノルマン人は違います」 (2021/11/02)

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2022-06-05 Sun

#4787. 英語とフランス語の間には似ている単語がたくさんあります [french][latin][loan_word][borrowing][notice][voicy][link][hel_education][lexicology][statistics][hellog_entry_set][sobokunagimon]

 一昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 にて「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」という題でお話ししました.この放送に寄せられた質問に答える形で,本日「#370. 英語語彙のなかのフランス借用語の割合は? --- リスナーさんからの質問」を公開しましたので,ぜひお聴きください.

 英語とフランス語の両方を学んでいる方も多いと思います.Voicy でも何度か述べていますが,私としては両言語を一緒に学ぶことをお勧めします.さらに,両言語の知識をつなぐものとして「英語史」がおおいに有用であるということも,お伝えしたいと思います.英語史を学べば学ぶほど,フランス語にも関心が湧きますし,その点を押さえつつフランス語を学ぶと,英語もよりよく理解できるようになります.そして,それによってフランス語がわかってくると,両言語間の関係を常に意識するようになり,もはや別々に考えることが不可能な境地(?)に至ります.英語学習もフランス語学習も,ともに楽しくなること請け合いです.
 さて,その1/3のなかでの両言語の内訳ですが,ラテン語がフランス語を上回っており 2:1 あるいは 3:2 ほどいでしょうか.ただし,両言語は同系統なので語形がほとんど同一という単語も多く,英語がいずれの言語から借用したのかが判然としないケースもしばしば見られます.そこで実際上は,フランス語「系」(あるいはラテン語「系」)の語彙として緩く括っておくのが便利だというわけです.
 このような英仏語の語彙の話題に関心のある方は,ぜひ関連する heldio の過去放送,および hellog 記事を通じて関心を深めていただければと思います.以下に主要な放送・記事へのリンクを張っておきます.実りある両言語および英語史の学びを!

[ heldio の過去放送 ]

 ・ 「#26. 英語語彙の1/3はフランス語!」
 ・ 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」
 ・ 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」
 ・ 「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」

[ hellog の過去記事(一括アクセスはこちらから) ]

 ・ 「#202. 現代英語の基本語彙600語の起源と割合」 ([2009-11-15-1])
 ・ 「#429. 現代英語の最頻語彙10000語の起源と割合」 ([2010-06-30-1])
 ・ 「#845. 現代英語の語彙の起源と割合」 ([2011-08-20-1])
 ・ 「#1202. 現代英語の語彙の起源と割合 (2)」 ([2012-08-11-1])
 ・ 「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」 ([2011-09-18-1])

 ・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
 ・ 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1])
 ・ 「#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])
 ・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
 ・ 「#4138. フランス借用語のうち中英語期に借りられたものは4割強で,かつ重要語」 ([2020-08-25-1])
 ・ 「#660. 中英語のフランス借用語の形容詞比率」 ([2011-02-16-1])
 ・ 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])
 ・ 「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1])
 ・ 「#1225. フランス借用語の分布の特異性」 ([2012-09-03-1])
 ・ 「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1])

 ・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1])
 ・ 「#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2)」 ([2015-10-02-1])
 ・ 「#4451. フランス借用語のピークは本当に14世紀か?」 ([2021-07-04-1])
 ・ 「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1])

 ・ 「#1295. フランス語とラテン語の2重語」 ([2012-11-12-1])
 ・ 「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」 ([2011-02-09-1])
 ・ 「#848. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別 (2)」 ([2011-08-23-1])
 ・ 「#3581. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (1)」 ([2019-02-15-1])
 ・ 「#3582. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (2)」 ([2019-02-16-1])
 ・ 「#4453. フランス語から借用した単語なのかフランス語の単語なのか?」 ([2021-07-06-1])
 ・ 「#3180. 徐々に高頻度語の仲間入りを果たしてきたフランス・ラテン借用語」 ([2018-01-10-1])

Referrer (Inside): [2022-09-27-1] [2022-08-30-1]

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2022-05-16 Mon

#4767. 英語史で斬る,日本語のカタカナ語を巡る問題 [youtube][waseieigo][japanese][katakana][borrowing][lexicology][loan_word]

 昨日18:00に YouTube 番組「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第23弾が公開されました.タイトルは「カタカナ語を利用して日本人の英語力+情報収集力を上げる!!【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 23 】」です.
 ちなみに,先週の水曜日に公開された1つ前の第22弾は「ニッポンのカタカナ語を英語史から斬る!【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 22 】」でした.2回かけて「カタカナ語」についておしゃべりしてきたわけです.ぜひ2つ合わせてご覧ください.


 ・ 2021年11月20日,ABEMA Prime での:【横文字】「カタカナ語の輸入は止められない」「日本語で表せない表現も」意識高い系うざい?共有言語でアグリー?賛成派と反対派が議論
 ・ 2022年4月21日,SBSラジオ「IPPO」での:コンプライアンス?アジェンダ?今さら聞けない!カタカナ語

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2022-03-16 Wed

#4706. rhotacism は自鳴音化の1種 [rhotacism][consonant][sound_change][latin][loan_word]

 古英語を含む西ゲルマン諸語,北ゲルマン諸語語,そしてラテン語などの歴史にも観察されてきた rhotacism は,母音間で [s] や [z] などが [r] に変化する音変化である.自鳴音化 (sonorisation) の特殊な例とみることもできるし,広く "lenition" の1種ともみなすことができる(cf. 「#4684. 脱口音化」 ([2022-02-22-1])).Bybee (32) がこのことに言及している.

Another form of sonorization is rhotacism, a change by which an [s] or [z] becomes an [r]. Such a change occurred in Latin as exemplified by the alternation corpus, corpora 'body, nom./acc.sg. and pl.', opus, opera 'work, nom./acc.sg. and pl.' and In Germanic where Old English infinitive cēosan 'to choose' has a past participle coren, and wæs alternates with wǣre/wǣren 'were'. This change involves voicing and loss of fricative closure; it takes place intervocalically.

 英語史においても,また現代英語の語彙を考える上でも,古英語やラテン語での rhotacism の効果を認識しておくことは重要である.引用にも was/were にとどまらず,us/our, lose/lorn, raise/rear, そして究極的には is/are の関係も,rhotacism の仕業である.
 ラテン借用語からは,引用にみえる opus/opera, corpus/corpora の単数形・複数形の例のほか,corpus/corporal, Venus/venereal, virus/viral のような名詞・形容詞の関係にも rhotacism の効果がみてとれる.
 rhotacism の理解をさらに深めるには,次の記事などを参照.

 ・ 「#36. rhotacism」 ([2009-06-03-1])
 ・ 「#393. Venus は欲望の権化」 ([2010-05-25-1])
 ・ 「#3192. 西,北,東ゲルマン語群の間にみられる音韻・形態・統語上の主要な差違」 ([2018-01-22-1])
 ・ 「#3812. waswere の関係」 ([2019-10-04-1])

 ・ Bybee, Joan. Language Change. Cambridge: CUP, 2015.

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2022-03-11 Fri

#4701. スペリング <ae> に対応する音価 [spelling][ligature][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][greek][latin][loan_word][gvs][combining_form][mond]

 現代英語で <ae> というスペリングは稀である.この2文字を組み合わせて1文字とした合字 (ligature) である <æ> に至っては,(発音記号を除けば)ますます稀だ.稀どころか,通常はお目にかからないだろう.近代の印刷では encyclopædiamediæval などのスペリングが普通にみられたが,現在では合字ではなく2文字に分けて encyclopaediamediaeval と綴られるようになり,アメリカ式ではそもそも <ae> すら用いずに <e> で済ませて encyclopediamedieval のスペリングが一般的である.
 古英語以来,<æ> や <ae> のスペリングは盛衰を繰り返してきた.古英語では <æ> はアルファベットを構成する正規の文字であり,ごく普通に用いられた.ところが,12--13世紀には衰退し,対応する母音は単純に <a> で綴られるようになった(cf. 「#3998. なぜ applea は普通の「ア」ではなく「エァ」に近い発音なのですか?」 ([2020-04-07-1])).
 ところが,ギリシア語やラテン語から借用語が大量に流入した16世紀に,それらの古典語に含まれていた aiae が英語においては <æ> の文字で取り込まれることになり,リバイバルを果たした.しかし,上記のように近現代にかけて合字 <æ> は2文字の <ae> で綴りなおされることになり,さらに <e> に簡略化されることも多くなり,現在に至る.現在では <ae> も <æ> も日の目を見ないスペリングに成り果てている (Upward and Davidson 179--80) .
 稀に <ae> のスペリングを保持しているものは,ほぼすべてギリシア語 <ai> を含んだ借用語,あるいはそれがラテン語を経由して <ae> と変化したものに由来するといってよい.英語では古くは原則として <ae> ≡ /eː/ の対応関係があったが,大母音推移 (gvs) を経て,今では <ae> ≡ /iː/ の対応関係が一般的である.Carney (283) より,いくつか単語例を示そう.

 ・ in §Greek words --- aegis, aeon, aesthetic, anaemia, anaesthetist, archaeology, encyclopaedia, leukaemia, paean, etc.;
 ・ in classical names --- Aegean, Aeneas, Aesop, Athenaeum, Caesar, Judaea, Bacchae, Mycenae, Thermopylae;
 ・ the Latin feminine plural in scientific terms --- alumnae, aortae, lacunae,, lamellae, ulnae, etc.

 ところが,<ae> に <r> が後続する場合に関しては独自の事情があり,現在 <aer> ≡ /ɛə(r)/ が成立している.aeration, aerial, aerobic, aerodrome, aeronaut, aerosol, anaerobic などである.ほぼすべてがギリシア語に由来し,近代の借用語・造語として連結形 (combining_form) aero- を含んでいある (Carney 282) .語源的にも意味的にも air /ɛə(r)/ と関連するため, 互いの発音が結びつけられただろうことは容易に想像できる.ちなみに「飛行機」を意味する airplane について,イギリス英語では aeroplane の語形・綴字が根強い.
 なお本記事は,先日「Mond」に寄せられた aerobics などの接頭辞 aero- を,「エアロ」と発音するのはなぜでしょうか?という問いに焚きつけられて執筆した.そちらへの回答もどうぞ.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2022-03-09 Wed

#4699. 英語のスペリング史と言語接触 [spelling][orthography][contact][loan_word][old_norse][latin][french][dutch][greek][lexicology][historiography]

 英語が各時代に接触してきた言語との関係を通じて英語の語彙史を描くことは,英語史のスタンダードの1つである.本ブログでも「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]),「#2615. 英語語彙の世界性」 ([2016-06-24-1]),「#2966. 英語語彙の世界性 (2)」 ([2017-06-10-1]),「#3381. 講座「歴史から学ぶ英単語の語源」」 ([2018-07-30-1]),「#4130. 英語語彙の多様化と拡大の歴史を視覚化した "The OED in two minutes"」 ([2020-08-17-1]) などで繰り返し紹介してきた.
 英語のスペリング史と言語接触 について Horobin (113) が次のように述べている.

English spelling is a concoction of written forms drawn from a variety of languages through processes of inheritance and borrowing. At every period in its history, the English lexicon contains words inherited from earlier stages, as well as new words introduced from foreign languages. But this distinction should not be applied too straightforwardly, since inherited words have frequently been subjected to changes in their spelling over time. Similarly, while words drawn from foreign language may preserve their native spellings intact, they frequently undergo changes in order to accommodate to native English spelling patterns.

 語彙史とスペリング史は,しばしば連動するが,原則とした独立した歴史である,という捉え方だ.これはとても正しい見方だと思う.Horobin は同論考のなかで,英語史の各時代ごとにスペリングに影響を及ぼした言語・方言について次のような見取り図を示している.論考のセクション・タイトルを抜き出す形でまとめてみよう.

[ Old English (650--1066) ]

 ・ Germanic
 ・ Old Norse

[ Middle English (1066--1500) ]

 ・ English dialects beyond London
 ・ French
 ・ Dutch

[ Early Modern English (1500--1800) ]

 ・ Latin
 ・ Greek
 ・ Celtic
 ・ Native American languages

[ Modern English ]

 ・ Continued developments


 ・ Horobin, Simon. "The Etymological Inputs into English Spelling." The Routledge Handbook of the English Writing System. Ed. Vivian Cook and Des Ryan. London: Routledge, 2016. 113--24.

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2022-02-12 Sat

#4674. 「初期近代英語期における語彙拡充の試み」 [slide][contrastive_linguistics][lexicology][borrowing][loan_word][emode][renaissance][inkhorn_term][latin][japanese_history][contrastive_language_history]

 3週間前のことですが,1月22日(土)に,ひと・ことばフォーラムのシンポジウム「言語史と言語的コンプレックス ー 「対照言語史」の視点から」の一環として「初期近代英語期における語彙拡充の試み」をお話しする機会をいただきました.Zoom によるオンライン発表でしたが,その後のディスカッションを含め,たいへん勉強になる時間でした.主催者の方々をはじめ,シンポジウムの他の登壇者や出席者参加者の皆様に感謝申し上げます.ありがとうございました.
 私の発表は,すでに様々な機会に公表してきたことの組み替えにすぎませんでしたが,今回はシンポジウムの題に含まれる「対照言語史」 (contrastive_linguistics) を意識して,とりわけ日本語史における語彙拡充の歴史との比較対照を意識しながら情報を整理しました.

   1. ひと・ことばフォーラム言語史と言語的コンプレックス ー 「対照言語史」の視点から初期近代英語期における語彙拡充の試み
   2. 初期近代英語期における語彙拡充の試み
   3. 目次
   4. 1. はじめに --- 16世紀イングランド社会の変化
   5. 2. 統合失調症の英語 --- ラテン語への依存とラテン語からの独立
   6. 英語が抱えていた3つの悩み
   7. 3. 独立を目指して
   8. 4. 依存症の深まり (1) --- 語源的綴字
   9. 5. 依存症の深まり (2) --- 語彙拡充
   10. オープン借用,むっつり借用,○製△語
   11. 6.「インク壺語」の大量借用
   12. 7. 大量借用への反応
   13. 8. インク壺語,チンプン漢語,カタカナ語の対照言語史
   14. 9. まとめ
   15. 語彙拡充を巡る独・日・英の対照言語史
   16. 参考文献

Referrer (Inside): [2022-05-25-1]

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2021-08-08 Sun

#4486. coffee, cafe, caffeine [sobokunagimon][french][vowel][loan_word][turkish][arabic][assimilation][eebo]

 「コーヒー」は coffee /ˈkɒfi/ だけれども,その飲料に含まれる興奮剤の「カフェイン」は caffeine /ˈkæfiːn/ となる.最初の母音(字)が異なるのはなぜだろうか.こんな素朴な疑問が先日ゼミ生から寄せられた.確かになぜだろうと思って調べてみた.
 コーヒーは茶やビールなどと並んで世界で広く通用する文化語の1つである.飲用としてのコーヒーが文献上初めて現われるのは,10世紀前後のイスラムの医学書においてである.11世紀にアラブ世界で飲用され始め,13世紀半ばには酒を禁じられているイスラム教徒の間で酒に代わるものとして愛飲されるようになった.その頃から酒の一種の名前を取ってアラビア語で qahwa と呼ばれるようになった.16世紀にトルコのエジプト遠征を機に,この飲料はトルコ語に kahve として入り,1554年にイスタンブールに華麗なコーヒー店 Kahve Khāne が開かれた.
 ヨーロッパ世界へのコーヒーの導入は,16世紀後半にトルコを経由してなされた.17世紀になるとヴェネチアやパリなど各地に広まり,イギリスでは1650年にオックスフォードで,1652年にロンドンで最初のコーヒー店がオープンした.政治談義の場としても利用される文化現象としてのコーヒーハウス (coffee house) の誕生である.
 さて,飲料としてのコーヒーはこのようにしてイギリスに入ってきたわけだが,それを表わす名前や語形についてはどうだったのだろうか.OED によると,アラビア語 qahwah からトルコ語に kahveh として入った後,イタリア語 caffè を経てヨーロッパ諸言語に借用されたのではないかという.
 仮にイタリア語形を基準とすると,前舌母音(字)a が保たれたのが,フランス語 café,スペイン語 café,ポルトガル語 café,ドイツ語 Kaffee,デンマーク語・スウェーデン語の kaffe ということになる.一方,後舌母音(字)をもつ異形として定着したのが,英語 coffee,オランダ語 koffie,古いドイツ語 coffee/koffee,ロシア語 kophe/kopheĭ である.後者の o については,アラビア語やトルコ語の ahw/ahv が示す唇音 w/v が調音点の同化 (assimilation) を引き起こしたものと推測される.Barnhart の語源辞書の記述を参照しよう.

coffee n. 1598 chaoua, 1601 coffe, 1603-30 coffa, borrowed from Turkish kahveh, or directly from Arabic qahwah coffee, originally, wine. Two forms of this word (with a and with o) came into most modern languages about 1600: the first is represented by French, Spanish, and Portuguese café, Italian caffè, German Kaffee, Danish, Norwegian, and Swedish kaffe. The second form is represented by English coffee, Dutch koffie, Russian kofe. The forms with o may have had earlier au (see the earliest English form chaoua), from Turkish -ahv-- or Arabic -ahw-.

 OED によると英語での初例は1598年の Chaoua であり,17世紀中にも a をもつ語形が散見される.初期近代英語期の大規模コーパス EEBO で検索しても cahave, kauhi などがわずかではあるが見つかった.しかし,17世紀の早い段階で o をもつ語形にほぼ切り替わったようではある.17世紀前半には coffa が,17世紀後半には coffee が主要形として定着した.
 さて,フランス語では café が「コーヒー」のみならず「コーヒー店,カフェ」を意味するが,このフランス語としての単語が,前者の語義で1763年に,後者の語義で1802年に英語に入ってきた.現代英語の cafe /ˈkæfeɪ/ は通常は後者の語義に限定して使われており,日本語でも同様である.
 最後に caffeine だが,これは1830年にフランス語 caféine から英語に入ってきた.a をもっているのは,フランス語での語形成だからということになる.

 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.

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2021-08-03 Tue

#4481. 英語史上,2度借用された語の位置づけ [lexicography][lexicology][borrowing][loan_word][latin][lexeme]

 例えば,ラテン語 magister は,古英語の早い段階で借用され,若干英語化した綴字 mægester で用いられていたが,10世紀にあらためて magister として原語綴字のまま受け入れられた (cf. 「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1])).
 中英語期と初期近代英語期からも似たような事例がみられる.fastidious というラテン語単語は1440年に「傲岸不遜な」の語義で借用されたが,その1世紀後には「いやな,不快な」の語義で用いられている(後者は現代の「気難しい,潔癖な」の語義に連なる).また,Chaucer は artificial, declination, hemisphere を天文学用語として導入したが,これらの語の現在の非専門的な語義は,16世紀の再借用時の語義に基づく.この中英語期からの例については,Baugh and Cable (222--23) が次のような説明を加えている.

A word when introduced a second time often carries a different meaning, and in estimating the importance of the Latin and other loanwords of the Renaissance, it is just as essential to consider new meanings as new words. Indeed, the fact that a word had been borrowed once before and used in a different sense is of less significance than its reintroduction in a sense that has continued or been productive of new ones. Thus the word fastidious is found once in 1440 with the significance 'proud, scornful,' but this is of less importance than the fact that both More and Elyot use it a century later in its more usual Latin sense of 'distasteful, disgusting.' From this, it was possible for the modern meaning to develop, aided no doubt by the frequent use of the word in Latin with the force of 'easily disgusted, hard to please, over nice.' Chaucer uses the words artificial, declination, and hemisphere in astronomical sense but their present use is due to the sixteenth century; and the word abject, although found earlier in the sense of 'cast off, rejected,' was reintroduced in its present meaning in the Renaissance.

 もちろん見方によっては,上記のケースでは,同一単語が2度借用されたというよりは,既存の借用語に対して英語側で意味の変更を加えたというほうが適切ではないかという意見はあるだろう.新旧間の連続性を前提とすれば「既存語への変更」となり,非連続性を前提とすれば「2度の借用」となる.しかし,Baugh and Cable も引用中で指摘しているように,語源的には同一のラテン語単語にさかのぼるとしても,英語史の観点からは,実質的には異なる時代に異なる借用語を受け入れたとみるほうが適切である.
 OED のような歴史的原則に基づいた辞書の編纂を念頭におくと,fastidious なり artificial なりに対して,1つの見出し語を立て,その下に語義1(旧語義)と語義2(新語義)などを配置するのが常識的だろうが,各時代の話者の共時的な感覚に忠実であろうとするならば,むしろ fastidious1fastidious2 のように見出し語を別に立ててもよいくらいのものではないだろうか.後者の見方を取るならば,後の歴史のなかで旧語義が廃れていった場合,これは廃義 (dead sense) というよりは廃語 (dead word) というべきケースとなる.いな,より正確には廃語彙項目 (dead lexical item; dead lexeme) と呼ぶべきだろうか.
 この問題と関連して「#3830. 古英語のラテン借用語は現代まで地続きか否か」 ([2019-10-22-1]) も参照.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2021-07-30 Fri

#4477. フランス語史における語彙借用の概観 [french][borrowing][loan_word][hfl]

 本ブログでは,英語史における語彙借用について数多くの記事で紹介してきた.英語史研究では,英語がどの言語からどのような/どれだけの語を何世紀頃に借りてきたのかという問題は,主に OED などを用いた調査を通じて詳しく取り扱われてきており,多くのことが明らかにされている.(具体的には borrowing statistics などの各記事を参照されたい.)
 では,英語史とも関連の深いフランス語について,同様の問いを発してみるとどうなるだろうか.フランス語はどの言語からどのような/どれだけの語を何世紀頃に借りてきたのか.私は英語史を専門とする者なので直接調べてみたことはなかったが,たまたま Jones and Singh (31) に簡便な数値表を見つけたので,それを再現したい(もともとは Guiraud (6) の調査結果を基にした表とのこと).

Spanish  511851034332
Portuguese   1192383
Slavic2  1461110
Turkish1  2139614
Persian2  21531
Hindu    1485
Malaysian    41065
Japanese/Chinese    3625217


 ・ Jones, Mari C. and Ishtla Singh. Exploring Language Change. Abingdon: Routledge, 2005.
 ・ Guiraud, P. Les Mots Etrangers. Paris: Presses Universitaires de France, 1965.

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2021-07-29 Thu

#4476. 形態論的透明度の観点からの語彙関係 --- consociation vs. dissociation [lexicology][morphology][etymology][loan_word][word_formation][compound][terminology][lexical_stratification][synonym]

 この概念と用語を知っていれば英語の語彙関係についてもっと効果的に説明したり議論したりできただろう,と思われるものに最近出会った.Görlach (110) が,consociationdissociation という語彙関係について紹介している(もともとは Leisi によるものとのこと)

Words can be said to be consociated if linked by transparent morphology; they are dissociated if morphologically isolated. Consociation is common in languages in which compounds and derivations are frequent (OE, Ge, Lat). Dissociation occurs when foreign words are borrowed, or when derivations become opaque . . . .

 例えば,heartheartyheartiness は形態的に透明に派生されており,典型的な consociation の関係にあるといえる.foulfilthfilthyfilthiness についても,最初の foulfilth こそ透明度は若干下がるが(ただし古英語では音韻形態規則により,ある程度の透明度があったといえる),全体としては consociation の関係といえるだろう.ただ,consociation といっても程度の差のありうる語彙関係であることが,ここから分かる.
 一方,いわゆる英語語彙の3層構造の例などは,典型的な dissociation の関係を示す.「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) からいくつか示せば,ask -- question -- interrogate, fair -- beautiful -- attractive, help -- aid -- assistance などだ.「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1]) も有名だが,cow -- beef, swine -- pork, sheep -- mutton などの語彙関係も dissociation といえる.
eye -- ocular などの名詞・形容詞の対応も,dissociation の関係ということになる.ここから日本語に話を広げれば,和語と漢語の関係,あるいは漢字の読みでいえば訓読みと音読みの関係も,典型的な dissociation といってよいだろう.「めがね」(眼鏡)と「眼鏡」(眼鏡)の関係は,上記の eye -- ocular の関係に似ている.関連して「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1]) も参照されたい.

 ・ Görlach, Manfred.
The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
 ・ Leisi, Ernst.
Das heutige Englische: Wesenszüge und Probleme.'' 5th ed. Heidelberg, 1969.

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2021-07-28 Wed

#4475. Love's Labour's Lost より語源的綴字の議論のくだり [shakespeare][mulcaster][etymological_respelling][popular_passage][inkhorn_term][latin][loan_word][spelling_pronunciation][silent_letter][orthography]

 なぜ doubt の綴字には発音しない <b> があるのか,というのは英語の綴字に関する素朴な疑問の定番である.これまでも多くの記事で取り上げてきたが,主要なものをいくつか挙げておこう.

 ・ 「#1943. Holofernes --- 語源的綴字の礼賛者」 ([2014-08-22-1])
 ・ 「#3333. なぜ doubt の綴字には発音しない b があるのか?」 ([2018-06-12-1])
 ・ 「#3227. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第4回「doubt の <b>--- 近代英語のスペリング」」 ([2018-02-26-1])
 ・ 「圧倒的腹落ち感!英語の発音と綴りが一致しない理由を専門家に聞きに行ったら、犯人は中世から近代にかけての「見栄」と「惰性」だった。」DMM英会話ブログさんによるインタビュー)

 doubt の <b> の問題については,16世紀末からの有名な言及がある.Shakespeare による初期の喜劇 Love's Labour's Lost のなかで,登場人物の1人,衒学者の Holofernes (一説には実在の Richard Mulcaster をモデルとしたとされる)が <b> を発音すべきだと主張するくだりがある.この喜劇は1593--94年に書かれたとされるが,当時まさに世の中で inkhorn_term を巡る論争が繰り広げられていたのだった(cf. 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])).この時代背景を念頭に Holofernes の台詞を読むと,味わいが変わってくる.その核心部分は「#1943. Holofernes --- 語源的綴字の礼賛者」 ([2014-08-22-1]) で引用したが,もう少し長めに,かつ1623年の第1フォリオから改めて引用したい(Smith 版の pp. 195--96 より).

Actus Quartus.
Enter the Pedant, Curate and Dull.

Ped. Satis quid sufficit.
Cur. I praise God for you sir, your reasons at dinner haue beene sharpe & sententious: pleasant without scurrillity, witty without affection, audacious without impudency, learned without opinion, and strange without heresie: I did conuerse this quondam day with a companion of the Kings, who is intituled, nominated, or called, Dom Adriano de Armatha.
Ped. Noui hominum tanquam te, His humour is lofty, his discourse peremptorie: his tongue filed, his eye ambitious, his gate maiesticall, and his generall behauiour vaine, ridiculous, and thrasonical. He is too picked, too spruce, to affected, too odde, as it were, too peregrinat, as I may call it.
Cur. A most singular and choise Epithat,
Draw out his Table-booke,
Ped. He draweth out the thred of his verbositie, finer than the staple of his argument. I abhor such phnaticall phantasims, such insociable and poynt deuise companions, such rackers of ortagriphie, as to speake dout fine, when he should say doubt; det, when he shold pronounce debt; d e b t, not det: he clepeth a Calf, Caufe: halfe, hawfe; neighbour vocatur nebour; neigh abreuiated ne: this is abhominable, which he would call abhominable: it insinuateth me of infamie: ne inteligis domine, to make franticke, lunaticke?
Cur. Laus deo, bene intelligo.
Ped. Bome boon for boon prescian, a little scratched, 'twill serue.

 第1フォリオそのものからの引用なので,読むのは難しいかもしれないが,全体として Holofernes (= Ped.) の衒学振りが,ラテン語使用(というよりも乱用)からもよく伝わるだろう.当時実際になされていた論争をデフォルメして描いたものと思われるが,それから400年以上たった現在もなお「なぜ doubt の綴字には発音しない <b> があるのか?」という素朴な疑問の形で議論され続けているというのは,なんとも息の長い話題である.

 ・ Smith, Jeremy J. Essentials of Early English. 2nd ed. London: Routledge, 2005.

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2021-07-06 Tue

#4453. フランス語から借用した単語なのかフランス語の単語なのか? [code-switching][borrowing][loan_word][french][anglo-norman][bilingualism][lexicology][etymology][med]


 ・ 「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」 ([2011-02-09-1])
 ・ 「#848. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別 (2)」 ([2011-08-23-1])
 ・ 「#3581. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (1)」 ([2019-02-15-1])
 ・ 「#3582. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (2)」 ([2019-02-16-1])

 ところが,現実には英仏要素が混じり合い,いずれの言語がベースとなっているのかが判然としない "macaronic" な2言語テキストなるものがある.いわば,書かれた code-switching の例だ.そのなかに出てくる,語形としては明らかにフランス語に属する単語は,すでに英語に借用されて英語語彙の一部を構成しているものなのか,あるいは純然たるフランス単語として用いられているにすぎないのか.明確な基準がない限り,判断は恣意的になるだろう.英仏語のほかラテン語も関わってきて,事情がさらにややこしくなる場合もある.この問題について,Trotter (1790) の解説を聞こう.

Quantities of medieval documents survive in (often heavily abbreviated) medieval British Latin, into which have been inserted substantial numbers of Anglo-French or Middle English terms, usually of course substantives; analysis of this material is complicated by the abbreviation system, which may even have been designed to ensure that the language of the documents was flexible, and that words could have been read in more than one language . . ., but also by the fact that in the later period (that is, after around 1350) the distinction between Middle English and Anglo-French is increasingly hard to draw. As is apparent from even a cursory perusal of the Middle English Dictionary (MED, Kurath et al. 1952--2001) it is by no means always clear whether a given word, listed as Middle English but first attested in an Anglo-French context, actually is Middle English, or is perceived as an Anglo-French borrowing.


 ・ 「#2426. York Memorandum Book にみられる英仏羅語の多種多様な混合」 ([2015-12-18-1])
 ・ 「#1470. macaronic lyric」 ([2013-05-06-1])
 ・ 「#1625. 中英語期の書き言葉における code-switching」 ([2013-10-08-1])
 ・ 「#1941. macaronic code-switching としての語源的綴字?」 ([2014-08-20-1])
 ・ 「#2271. 後期中英語の macaronic な会計文書」 ([2015-07-16-1])
 ・ 「#2348. 英語史における code-switching 研究」 ([2015-10-01-1])

 ・ Trotter, David. "English in Contact: Middle English Creolization." Chapter 114 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1781--93.

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2021-07-04 Sun

#4451. フランス借用語のピークは本当に14世紀か? [french][loan_word][borrowing][statistics][lexicology][hybrid][personal_name][onomastics][link]


 ・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
 ・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1])
 ・ 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])
 ・ 「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1])
 ・ 「#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2)」 ([2015-10-02-1])
 ・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
 ・ 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1])
 ・ 「#2385. OED による古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])
 ・ 「#4138. フランス借用語のうち中英語期に借りられたものは4割強でかつ重要語」 ([2020-08-25-1]),

 フランス借用語の数についていえば,OED などを用いた客観的な調査に裏づけられた事実であり,上記の「定説」に異論はない.しかし,当然ながらすべて書き言葉に基づく調査結果であることに注意が必要である.もし話し言葉におけるフランス借用語のピークを推し量ろうとするならば,ピークはもっと早かった可能性が高い.Trotter (1789) が次のように論じている.

In charting the chronology of the process, we are again at the mercy of the documentary evidence. The key period of lexical transfer appears to be the 14th century; but that may be, as much as anything else, because of the explosion of available documentation in both Anglo-French and, more particularly, Middle English at that time. In other words, the real dates of the transfers may not be the dates at which they are documented. Some evidence that this is not so is available in the form of English surnames, of Anglo-French origin . . . , and indeed in the capacity of some early Middle English texts to generate hybrids from Anglo-French and Middle English (forpreiseð; propreliche; priveiliche from Ancrene Wisse . . .).

 もう1つは,書き言葉に初出した年代をもって,そのまま英語に初出した年代と理解することはできないということだ(cf. 「#2375. Anglo-French という補助線 (2)」 ([2015-10-28-1])).普通の語ではなく姓(人名)として借用されたフランス語要素を考え合わせるならば,より早い時期に入っていた証拠がある.また,初期中英語期に文証される混種語の存在は,通常のフランス借用語が当時までにそれだけ多く流通していたことを示唆する(cf. 「#96. 英語とフランス語の素材を活かした 混種語 ( hybrid )」 ([2009-08-01-1])).

 ・ Trotter, David. "English in Contact: Middle English Creolization." Chapter 114 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1781--93.

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2021-07-02 Fri

#4449. ギリシア語の英語語形成へのインパクト [greek][loan_word][borrowing][compounding][compound][word_formation][register][combining_form]

 英語語彙史におけるギリシア語 (greek) の役割は,ラテン語,フランス語,古ノルド語のそれに比べると一般的には目立たないが,とりわけ医学や化学などの学術レジスターに限定すれば,著しく大きい.本ブログでも様々に取り上げてきたが,以下に挙げる記事などを参照されたい.

 ・ 「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1])
 ・ 「#552. combining form」 ([2010-10-31-1])
 ・ 「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1])
 ・ 「#617. 近代英語期以前の専門5分野の語彙の通時分布」 ([2011-01-04-1])
 ・ 「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1])
 ・ 「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1])
 ・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
 ・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
 ・ 「#4191. 科学用語の意味の諸言語への伝播について」 ([2020-10-17-1])

 Joseph (1720) が,英語とギリシア語の歴史的な関係について次のように総論的にまとめている.

English and Greek share some affinity in that both are members of the Indo-European language family, but within Indo-European, they are not particularly closely related. Nor is it the case that at any point in their respective prehistories were speakers of Greek and speakers of English in close contact with one another, and such is the case throughout most of historical times as well. Thus the story of language contact involving English and Greek is actually a relatively brief one.
   However, the languages have not been inert over the centuries with respect to one another and some contact effects can be discerned. For the most part, these involve loanwords, as there are essentially no structural effects . . . and in many, if not most, instances, as the following discussion shows, the loans are either learned borrowings that do not even necessarily involve overt speaker-to-speaker contact, or ones that only indirectly involve Greek, being ultimately of Greek origin but entering English through a different source.

 近代英語期以降に,ギリシア語とその豊かな語形成が本格的に英語に入ってきたとき,確かにそれは専門的なレジスターにおける限定的な現象だったといえばそうではあるが,やはり英語の語形成に大きなインパクトを与えたといってよいだろう.極端な例として encephalograph (脳造影図)を取り上げると,これはギリシア語に由来する encephalon (脳) + graph (図)という2つの連結形 (combining_form) から構成される.これを基に encephalography, electroencephalography, electroencephalographologist などの関連語を「英語側で」簡単に生み出すことができたのである.
 化学用語においても然りで,1,3-dimethylamino-3,5-propylhexedrine といった(私の理解を超えるが)そのまま化学記号に相当する「複合語」を生み出すこともできる.ちなみに,完全にギリシア語要素のみからなる化学物質の名称として bromochloroiodomethane なる語がある (Joseph (1722)) .
 さらに,もう少し専門的な形態論の立場からいえば,ギリシア語要素による語形成は,本来の英語の語形成としては比較的まれだった並列複合語 (dvandva/copulative/appositional compound) の形成を広めたという点でも英語史的に意義がある.例えば otorhinolaryngologist (耳鼻咽喉科医)は,文字通り「鼻・耳・咽喉・科・医(者)」の意である.
 dvandva compound については,「#2652. 複合名詞の意味的分類」 ([2016-07-31-1]),「#2653. 形態論を構成する部門」 ([2016-08-01-1]) を参照.

 ・ Joseph, Brian D. "English in Contact: Greek." Chapter 109 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1719--24.

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2021-06-30 Wed

#4447. 英語史であまり目立たないドイツ語 [german][germanic][borrowing][loan_word]

 英語史において高地ドイツ語 (german) が登場する機会は非常に少ない.これは,ある意味では驚くべきことかもしれない.英語もドイツ語も同じゲルマン語派に属する姉妹言語だし,地理的にもイギリスとドイツはさほど隔たっているわけでもないのだから,もっと歴史的な交流があったとしもおかしくないのではないか,という疑問は理解できる.
 しかし,英語史においてドイツ語との接触が話題となってくるのは,せいぜい近代に入ってからのことである.英語とドイツ語の間には,確かにゲルマン語派の仲間としての「系統関係」こそあれ,「影響関係」は薄かったといってよい.(系統と影響の区別および GermanGermanic の区別の重要性については「#369. 言語における系統影響」 ([2010-05-01-1]),「#4380. 英語のルーツはラテン語でもドイツ語でもない」 ([2021-04-24-1]),「#4411. German と Germanic の違い --- ややこしすぎる言語名の問題」 ([2021-05-25-1]) を参照.)
 上記の事情で,本ブログでもドイツ語の存在感は薄く,「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]),「#2621. ドイツ語の英語への本格的貢献は19世紀から」 ([2016-06-30-1]),「#150. アメリカ英語へのドイツ語の貢献」 ([2009-09-24-1]) などで取り上げてきた程度である.
 連日引用している Hendriks の論文のタイトルは "English in Contact: German and Dutch" であり,GermanDutch よりも先に立っているわけだが,High German の扱いは,1/3ページにも満たない1段落のみ,以下にすべてを引用してしまえる程度の分量である.(ただし,Hendriks (1660) も本論の最初に明言している通り,焦点は11世紀から17世紀までの言語接触であり,18世紀以降の近現代史は考慮から外していることに注意が必要である.)

4.3 Influence from High German
The 16th century is frequently noted as the starting point for lexical influence from High German (Serjeantson 1961: 179; Viereck 1993: 70; Nielsen 2005: 182). During this period, German miners were brought to England to develop the mineral resources industry; it has been suggested (Luu 2005: 31) that the necessary contacts required to recruit southern German miners were established in the late 15th/early 16th century in the commercial center of Antwerp. Some of the words having entered the language as a result of this connection are zinc, cobalt, shale, and quartz. Regarding German influence on English dialects, Wakelin (1977: 23) states: "There has been contact with Germany since the Middle Ages, but from the dialectal point of view it is not until the seventeenth century that there is much to note". Again, this is a reference to mineralogy. A detailed, OED-based study of High German lexical influence on English is Carr (1934). Briefly noting loans prior to 1600, the study focuses primarily on cultural loans in English from the 17th-19th centuries. The words identified are frequently technical scientific terms or are from other domains of influence such as religion, the military, philosophy and music.


 ・ Hendriks, Jennifer. "English in Contact: German and Dutch." Chapter 105 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1659--70.

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