今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の配信回は「#1022. トートロジー --- khelf 会長,青木くんの研究テーマ」です.言語における tautology とは何か? "A is A" のような一見無意味な形式がなぜ存在し,なぜしばしば有意味となり得るのか? この問題については,khelf(慶應英語史フォーラム)会長の青木輝さんとともに今後ゆっくりと検討していく予定ですが,今回はその頭出しという趣旨での配信でした.ぜひお聴きいただければ.
トートロジーについては,hellog では「#4851. tautology」 ([2022-08-08-1]) としてすでに導入しています.今回は英語辞書から英語のトートロジーの事例をいくつか集めてみました.
・ a beginner who has just started
・ free gift
・ He lives alone by himself.
・ hear with one's ears
・ helpful assistance
・ necessary essentials
・ new innovation
・ real truth
・ She is dumb and can not speak.
・ speak all at once together
・ the modern university of today
・ The money should be adequate enough.
・ They spoke in turn, one after the other.
・ This candidate will win or not win.
・ very excellent
・ widow woman
論理,意味,語用,形式などの観点から様々に分類できそうです.ものによっては periphrasis (迂言法),pleonasm (冗語法),redundancy (冗長),repetition (繰り返し)などと呼び変えるほうが適切な事例もありそうです.また,言葉遊び (word_play) とも関係してきそうです.
言語によってトートロジーの種類は異なるのか? 個別言語におけるトートロジーの起源と発達は? トートロジーの言語的機能は? 謎が謎を呼ぶ,深掘りしがいのあるテーマです.
昨日の記事「#4629. Shakespeare の2重比較級・最上級の例」 ([2021-12-29-1]) で,現代英語の規範文法では許容されない2重比較級・最上級が Shakespeare によって使われていた事例を見た.
それとは異なるタイプだが,現代では普通 more, most を前置する迂言形が用いられるところに Shakespeare では -er, -est を付す屈折形が用いられていた事例や,その逆の事例も観察される.さらには,現代では比較級や最上級になり得ない「絶対的」な意味をもつ形容詞・副詞が,Shakespeare ではその限りではなかったという例もある.現代と Shakespeare には400年の時差があることを考えれば,このような意味・統語論的な変化があったとしても驚くべきことではない.
Shakespeare と現代の語法で異なるものを Crystal and Crystal (88--90) より列挙しよう.
[ 現代英語では迂言法,Shakespeare では屈折法の例 ]
Modern comparative | Shakespearian comparative | Example |
---------------------- | ----------------------------- | ----------- |
more honest | honester | Cor IV.v.50 |
more horrid | horrider | Cym IV.ii.331 |
more loath | loather | 2H6 III.ii.355 |
more often | oftener | MM IV.ii.48 |
more quickly | quicklier | AW I.i.122 |
more perfect | perfecter | Cor II.i.76 |
more wayward | waywarder | AY IV.i.150 |
Modern superlative | Shakespearian superlative | Example |
---------------------- | ----------------------------- | --------------- |
most ancient | ancient'st | WT Iv.i10 |
most certain | certain'st | TNK V.iv.21 |
most civil | civilest | 2H6 IV.vii.56 |
most condemned | contemned'st | KL II.ii.141 |
most covert | covert'st | R3 III.v.33 |
most daring | daring'st | H8 II.iv.215 |
most deformed | deformed'st | Sonn 113.10 |
most easily | easil'est | Cym IV.ii.206 |
most exact | exactest | Tim II.ii.161 |
most extreme | extremest | KL V.iii.134 |
most faithful | faithfull'st | TN V.i.112 |
most foul-mouthed | foul mouthed'st | 2H4 II.iv.70 |
most honest | honestest | AW III.v.73 |
most loathsome | loathsomest | TC II.i.28 |
most lying | lyingest | 2H6 II.i.124 |
most maidenly | maidenliest | KL I.ii.131 |
most pained | pained'st | Per IV.vi.161 |
most perfect | perfectest | Mac I.v.2 |
most ragged | ragged'st | 2H4 I.i.151 |
most rascally | rascalliest | 1H4 I.ii.80 |
most sovereign | sovereignest | 1H4 I.iii.56 |
most unhopeful | unhopefullest | MA II.i.349 |
most welcome | welcomest | 1H6 II.ii.56 |
most wholesome | wholesom'st | MM IV.ii.70 |
Modern comparative | Shakespearian comparative | Example |
---------------------- | ----------------------------- | --------------- |
greater | more great | 1H4 IV.i77 |
longer | more long | Cor V.ii.63 |
nearer | more near | AW I.iii.102 |
Modern word | Shakespearian comparison | Example |
---------------------- | ----------------------------- | --------------- |
chief | chiefest | 1H6 I.i.177 |
due | duer | 2H4 III.ii.296 |
just | justest | AC II.i.2 |
less | lesser | R2 II.i.95 |
like | liker | KJ II.i.126 |
little | littlest [cf. smallest] | Ham III.ii.181 |
rather | ratherest | LL IV.ii.18 |
very | veriest | 1H4 II.ii.23 |
worse | worser [cf. less bad] | Ham III.iv.158 |
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の9月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」も第6回となりましたが,今回の話題は「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」です.
これは素朴な疑問の定番といってよい話題ですね.短い形容詞なら -er,長い形容詞なら more というように覚えている方が多いと思いますが,何をもって短い,長いというのかが問題です.原則として1音節語であれば -er,3音節語であれば more でよいとして,2音節語はどうなのか,と聞かれるとなかなか難しいですね.同じ2音節語でも early, happy は -er ですが,afraid, famous は more を取ります.今回の連載記事では,この辺りの複雑な事情も含めて,なるべく易しく歴史的に謎解きしてみました.どうぞご一読を.
定番の話題ということで,本ブログでも様々な形で取り上げてきました.連載記事よりも専門的な内容も含まれますが,こちらもどうぞ.
・ 「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1])
・ 「#3617. -er/-est か more/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
・ 「#4442. 2音節の形容詞の比較級は -er か more か」 ([2021-06-25-1])
・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])
形容詞・副詞の比較 (comparison) の話題は,本ブログでも様々に扱ってきた.現代英語でも明確に決着のついていない,比較級が -er (屈折比較)か more (句比較)かという問題の歴史的背景については,「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]),「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1]),「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#3617. -er/-est か more/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1]),「#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」」 ([2019-06-17-1]),「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1]) などで取り上げてきた.
短い語には -er 語尾をつけ,長い語には more を前置きするというのが原則である.しかし,短くもあり長くもある2音節語については,揺れが激しくてきれいに定式化できない.実際,辞書や文法書をいろいろ繰ってみると,単語ごとにどちらの比較級の形式を取るのか普通なのかについて記述が微妙に異なるのである.今回は,ひとまず LGSWE の §7.7.2 を参照して,2音節の形容詞について考えてみたい.
2音節の形容詞がいずれの比較級の形式を採用するかは,その音韻形態的構成に大きく依存することが知られている.-y で終わるものについては,-er が普通のようだ.例を挙げると,
angry, bloody, busy, crazy, dirty, easy, empty, funny, gloomy, happy, healthy, heavy, hungry, lengthy, lucky, nasty, pretty, ready, sexy, silly, tidy, tiny
-y で終わる形容詞ということでいえば,何らかの接頭辞がついて3音節になっても,比較級に -er をとる傾向がある (ex. unhappier) .英語史の観点からは,250年ほど前には状況が異なっていたらしいことが注目に値する (cf. 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])) .
一方 -ly で終わる形容詞は揺れが激しいようで,例えば early の比較級は earlier が普通だが,likely については more likely のほうが普通である.ほかに揺れを示す例としては,
costly, deadly, friendly, lively, lonely, lovely, lowly, ugly
などが挙げられる.同じく揺れを示し得るものとして,以下のように弱音節で終わる2音節の形容詞も挙げておこう.
mellow, narrow, shallow, yellow; bitter, clever, slender, tender; able, cruel, feeble, gentle, humble, little, noble, simple, subtle; sever, sincere; secure, obscure
両方の形式で揺れを示しているということは,一方から他方へと乗り換えが進んでいるということ,つまり変化の最中であることを(確証するわけではないが,少なくとも)示唆する.両形式の競合・併存はかれこれ1000年ほど続いているわけだが,いまだに結論が見えない.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
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