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me - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-21 08:03

2024-10-07 Mon

#5642. 所有代名詞には -s と -ne の2タイプがある [personal_pronoun][genitive][inflection][suffix][me][analogy][french]

 現代英語の人称代名詞には「~のもの」を独立して表わせる所有代名詞 (possessive pronoun) という語類がある.列挙すれば mine, yours, his, hers, ours, theirs の6種類となる.ここに古めかしい2人称単数の thou に対応する所有代名詞 thine を加えてもよいだろう.また,3人称単数中性の it に対応する所有代名詞は欠けているとされるが,これについては「#198. its の起源」 ([2009-11-11-1]) および「#197. its に独立用法があった!」 ([2009-11-10-1]) を参照されたい.
 多くは -s で終わり,所有格の -'s との関係を想起させるが,minethine については独特な -ne 語尾がみえ目立つ.この -ne はどこから来ているのだろうか.
 所有代名詞の形態の興味深い歴史については,Mustanoja (164--65) が INDEPENDENT POSSESSIVE と題する節で解説してくれているので,そちらを引用しておきたい.

          INDEPENDENT POSSESSIVE

   FORM: --- As mentioned earlier in the present discussion (p. 157), the dependent and independent possessives are alike in OE and early ME. In the first and second persons singular (min and thin) the dependent possessive loses the final -n in the course of ME, but the independent possessive, being emphatic, retains it: --- Robert renne-aboute shal nowȝe have of myne (PPl. B vi 150). In the South and the Midlands, -n begins to be attached to other independent possessives as well (hisen, hiren, ouren, youren, heren) after the analogy of min and thin about the middle of the 14th century: --- restore thou to hir alle thingis þat ben hern (Purvey 2 Kings viii 6). In the third person singular and in the plural, forms with -s (hires, oures, youres, heres, theirs) emerge towards the end of the 13th century, first in the North and then in the Midlands: --- and youres (Havelok 2798); --- þai lete þairs was þe land (Cursor 2507, Cotton MS); --- my gold is youres (Ch. CT B Sh. 1474); --- it schal ben hires (Gower CA v 4770). In the southern dialects forms without -s prevail all through the ME period: --- your fader dyde assaylle our by treyson (Caxton Aymon 545).
   The old dative ending is preserved in vayre zone, he zayþ, 'do guod of þinen' (Ayenb. 194).

   Imitations of French Usage. --- The use of the definite article before an independent possessive, recorded in Caxton, is obviously an imitation of French le nostre, la sienne: --- to approvel better the his than that other (En. 23); --- that your worshypp and the oures be kepte (Aymon 72).
   The occurrence of the independent possessive pronoun (and the rare occurrence of a noun in the genitive) after the quasi-preposition magré 'in spite of' is a direct imitation of OF magré mien (tien, sien, etc.): --- and God wot that is magré myn (Gower CA iv 59); --- maugré his, he dos him lute (Cursor 4305, Cotton MS). Cf. NED maugre, and R. L. G. Ritchie, Studies Presented to Mildred K. Pope, Manchester 1939, p. 317.


 所有代名詞に関する話題は,以下の hellog 記事でも取り上げているので,合わせてご参照を.

 ・ 「#2734. 所有代名詞 hers, his, ours, yours, theirs の -s」 ([2016-10-21-1])
 ・ 「#2737. 現代イギリス英語における所有代名詞 hern の方言分布」 ([2016-10-24-1])
 ・ 「#3495. Jespersen による滲出の例」 ([2018-11-21-1])

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2024-09-27 Fri

#5632. フランス語は英語の音韻感覚を激変させた --- 月刊『ふらんす』の連載記事第7弾 [hakusuisha][french][loan_word][notice][rensai][furansu_rensai][phonology][phoneme][stress][prosody][rhyme][alliteration][me][rsr][gsr]


furansu_202410.png

  *

 9月25日,白水社の月刊誌『ふらんす』10月号が刊行されました.この『ふらんす』にて,今年度,連載記事「英語史で眺めるフランス語」を書かせていただいています.今回は連載の第7回です.「フランス語は英語の音韻感覚を激変させた」と題して記事を執筆しました.以下,小見出しごとに要約します.

 1. 子音の発音への影響
   フランス語からの借用語が英語の発音に与えた影響について導入しています.特に /v/ の確立や,/f/ と /v/ の音素対立の形成について解説します.
 2. 母音の発音への影響
   フランス語由来の母音や2重母音が英語の音韻体系に与えた影響を説明しています./ɔɪ/ の導入など,具体例を挙げながらの解説です.
 3. アクセントへの影響
   フランス語借用語によって英語の強勢パターンがどのように変化したかを論じています.異なる強勢パターンの共存など,英語史の観点から興味深い事例を提供します.
 4. 英語らしさの形成
   英語はフランス語の影響を受けつつも,独自の音韻体系を発達させてきました.その過程で形成されてきた発音の「英語らしさ」について批判的に考察します.

 今回の記事では,フランス語が英語の(語彙ではなく)発音に与えた影響を,具体例を交えながら解説しています.フランス語の語彙的な影響については知っているという方も,発音への影響については意外と聞いたことがないのではないでしょうか.通常レベルより一歩上を行く英語史の話題となっています.
 ぜひ『ふらんす』10月号を手に取っていただければと思います.過去6回の連載記事も hellog 記事で紹介してきましたので,どうぞご参照ください.

 ・ 「#5449. 月刊『ふらんす』で英語史連載が始まりました」 ([2024-03-28-1])
 ・ 「#5477. なぜ仏英語には似ている単語があるの? --- 月刊『ふらんす』の連載記事第2弾」 ([2024-04-25-1])
 ・ 「#5509. 英語に借用された最初期の仏単語 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第3弾」 ([2024-05-27-1])
 ・ 「#5538. フランス借用語の大流入 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第4弾」 ([2024-06-25-1])
 ・ 「#5566. 中英語期のフランス借用語が英語語彙に与えた衝撃 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第5弾」 ([2024-07-23-1])
 ・ 「#5600. フランス語慣れしてきた英語 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第6弾」 ([2024-08-26-1])

 ・ 堀田 隆一 「英語史で眺めるフランス語 第7回 フランス語は英語の音韻感覚を激変させた」『ふらんす』2024年10月号,白水社,2024年9月25日.54--55頁.

Referrer (Inside): [2024-09-30-1]

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2024-08-21 Wed

#5595. poorpoverty [v][sound_change][adjective][inflection][noun][me][french][loan_word]

 「#1348. 13世紀以降に生じた v 削除」 ([2013-01-04-1]) で,形容詞 poor の語形についても触れた.この語は古フランス語 povre に由来し,本来は v をもっていたが,英語側で v が消失したということだった.しかし,対応する名詞形 poverty では v が消失していない.これはなぜかという質問が寄せられた.
 後者には名詞語尾が付加されており,もとの v の現われる音環境が異なるために両語の振る舞いも異なるのだろうと,おぼろげに考えていた.しかし,具体的には調べてみないと分からない.
 そこで,第一歩として Jespersen に当たってみた. v 削除 について,MEG1 より2つのセクションを見つけることができた.まず §2.532. を引用する.

§2.532. A /v/ has disappeared in a great many instances, chiefly through assimilation with a following consonant: had ME hadde OE hæfde, lady ME ladi, earlier lafdi OE hlæfdige . head from the inflected forms of OE hēafod; at one time the infection was heved, (heavdes) heddes . lammas OE hlafmæsse . woman ME also wimman OE wifman . leman OE leofman . gi'n, formerly colloquial, now vulgar for given . se'nnight [ˈsenit] common till the beginning of the 19th c. for sevennight. Devonshire was colloquially pronounced without the v, whence the verb denshire 'improve land by paving off turf and burning'. Daventry according to J1701 was pronounced "Dantry" or "Daintry", and the town is still called [deintri] by natives. Cavendish is pronounced [ˈkɚndiʃ] or [ˈkɚvndiʃ]. hath OE hæfþ. eavesdropper (Sh. R3 V. 3.221) for eaves-. The v-less form of devil, mentioned for instance by J1701 (/del/ and sometimes /dil/), is chiefly due to the inflected forms, but is also found in the uninflected; it is probably found in Shakespeare's Macb. I. 3.107; G1621 mentions /diˑl/ as northern, where it is still found. marle for marvel is frequent in BJo. poor seems to be from the inflected forms of the adjective, cf. Ch. Ros. 6489 pover, but 6490 alle pore folk; in poverty the v has been kept . ure† F œuvre, whence inure, enure . manure earlier manour F manouvrer (manœuvre is a later loan). curfew, -fu OF couvrefeu . kerchief OF couvrechef . ginger, oldest form gingivere . Liverpool without v is found in J1701 and elsewhere, see Ekwall's edition of Jones §184. Cf. further 7.76.


 Jespersen は,形容詞における v 消失は,屈折形に由来するのではないかという.v の直後に別の子音が続けば v は脱落し,母音が続けば保持される,という考え方のようだ.いずれにせよ音環境によって v が落ちるか残るかが決まるという立場を取っていることになる.
 参考までに,v 消失については,さらに §7.76. より,関係する最初の段落を引用しよう.

§7.76. /v/ and /f/ are often lost in twelvemonth (Bacon twellmonth, S1780, E1787, W1791), twelvepence (S1780, E1787), twelfth (E1787, cf. Thackeray, Van. F. 22). Cf. also the formerly universal fi'pence, fippence (J1701, E1765, etc.), still sometimes [fipəns]. Halfpenny, halfpence, . . .


 この問題については,もう少し詳しく調べていく必要がありそうだ.以下,関連する hellog 記事を挙げておく.

 ・ 「#1348. 13世紀以降に生じた v 削除」 ([2013-01-04-1])
 ・ 「#2276. 13世紀以降に生じた v 削除 (2)」 ([2015-07-21-1])
 ・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1])

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. London: Allen and Unwin, 1909.

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2024-08-15 Thu

#5589. 古英語の間投詞 eala [oe][interjection][me][onomatopoeia][doe][latin]

 現代英語の oh におおよそ相当する古英語の間投詞 (interjection) として ēalā というものがある.この語は初期中英語へも ealā として引き継がれたが,後期中英語までには死語となったようだ.一般的に間投詞はそういうものだと思われるが,見るからに(聞くからに)叫び声そのものに基づくとおぼしきオノマトペだ.ラテン語の間投詞 o に対する古英語の注釈としても用いられており,古英語では汎用的な間投詞だったといってよい.
 もう少し細かくいえば,このオノマトペは2つの部分からなっており,実際にそれぞれが独立した間投詞としても用いられる.ēa である.組み合わせ方や重複のさせ方も様々にあったようで,The Dictionary of Old English (DOE) によると eala ea, eala ... la, eala ... ea, eala eala, ealaeala など豊かなヴァリエーションを示す.他の間投詞と組み合わさって eala nu "oh now" のような使い方もあった.
 使い方としては,古英語の例文を眺める限り,呼びかけ,懇願,祈り,嘆き,誓言,疑問,皮肉などに広く用いられており,やはり現代英語の oh に相当するといってよい.勢いとしても強めの用法から弱めの用法まであり,上記のように繰り返して用いれば感情が強くこもったのだろう.
 古英語よりくどめの例文を選んでみた.

 ・ Lit 4.6 1: æla þu dryhten æla ðu ælmihtiga God æla cing ealra cyninga & hlaford ealra waldendra.
 ・ Sat 161: . . . eala drihtenes þrym! eala duguða helm! eala meotodes miht! eala middaneard! eala dæg leohta! eala dream Godes! eala engla þreat! eala upheofen!
 ・ HomU 38 18: eala, eala, fela is nu ða fracodra getrywða wide mid mannum.

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2024-07-22 Mon

#5565. 中英語期,目的語を従える動名詞の構造6種 [syntax][gerund][me][preposition][word_order][case][genitive][article]

 標記について,宇賀治 (274) により,Tajima (1985) を参照して整理した6種の構造が現代英語化した綴字とともに一覧されている.

I 属格目的語+動名詞,例: at the king's crowning (王に王冠を頂かせるとき)
II 目的語+動名詞,例: other penance doing (ほかの告解をすること)
III 動名詞+of+名詞,例: choosing of war (戦いを選択すること)
IV 決定詞+動名詞+of+名詞,例: the burying of his bold knights (彼の勇敢な騎士を埋葬すること)
V 動名詞+目的語,例: saving their lives (彼らの命を助けること)
VI 決定詞+動名詞+目的語,例: the withholding you from it (お前たちをそこから遠ざけること)


 目的語が動名詞に対して前置されることもあれば後置されることもあった点,後者の場合には前置詞 of を伴う構造もあった点が興味深い.また,動名詞の主語が属格(後の所有格)をとる場合と通格(後の目的格)をとる場合の両方が混在していたのも注目すべきである.さらに,動名詞句全体が定冠詞 the を取り得たかどうかという問題も,統語論史上の重要なポイントである.


宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.



 ・ Tajima, Matsuji. The Syntactic Development of the Gerund in Middle English. Tokyo: Nan'un-Do, 1985.
 ・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.

Referrer (Inside): [2024-07-29-1]

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2024-06-19 Wed

#5532. ノルマン征服からの3世紀半のイングランドにおける話し言葉と書き言葉の言語 [me][norman_conquest][latin][french][reestablishment_of_english][bilingualism][diglossia][signet][writing][standardisation]

 中英語期のイングランドはマルチリンガルな社会だった.ポリグロシアな社会といってもよい.この全時代を通じて,イングランドの民衆の話し言葉は常に英語だったが,書き言葉は,書き手やレジスターや時期により,ラテン語,フランス語,英語のいずれもあり得た.しかし,書き言葉としての英語は,中英語後期にかけてゆっくりとではあるが,着実に存在感を示すようになってきた.
 Fisher et al. (xiii) は,イングランドにおけるこの3世紀半の言語事情を,1段落の文章で要領よくまとめている.以下に引用する.

Until the 14th century there was little association between Chancery and Westminster. Like the rest of his household, Chancery followed the King in his peregrinations about the country, and correspondence up to the time may be dated from York, Winchester, Hereford, or wherever the court happened to pause (as the King's personal correspondence---the Signet correspondence---continued to be throughout the 15th century). It is important to observe that in its movement about the country, the court as a whole must have reinforced the impression of an official class dialect , in contrast to the regional dialects with which it came in contact. For two centuries this court dialect was spoken French and written Latin; after 1300 it gradually became spoken English and written French. The English spoken in court then and for a long time afterward was quite varied in pronunciation and structure. But written Latin had been standardized in classical times, and by the 13th century written French had begun to be standardized in form and to achieve the lucid idiom that English prose was not to achieve until the 16th century. Increasingly as the 14th century progressed, this Latin and French was written by clerks whose first language was English. Latin was the essential subject in school, but the acquisition of French was more informal, and by the end of the century we have Chaucer's satire on the French of the Prioress, Gower's apologies for his own (quite acceptable) French, and the errors in legal briefs which betoken Englishmen trying to compose in a foreign language. By 1400 the use of English in speaking Latin and French in administrative writing had established a clear dichotomy between colloquial speech and the official written language, which must have made it easier to create an artificial written standard independent of the spoken dialects when the royal clerks began to use English for their official writing after 1417.


 なお,最後に挙げられている1417年とは,「#3214. 1410年代から30年代にかけての Chancery English の萌芽」 ([2018-02-13-1]) で触れられている通り,Henry V の書簡が玉璽局 (Signet Office) により英語で発行され始めた年のことである.

 ・ Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.

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2024-06-02 Sun

#5515. 中英語の職業一覧(に近いもの) --- Fransson の著書の目次より [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][me][toc]

 本ブログででは,「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として,中英語の職業名ベースの姓について,多くの記事を書いてきた.主に依拠してきた先行研究は Fransson による Middle English Surnames of Occupation 1100--1350 である.20世紀前半の古い研究だが,この分野の研究としては今でも最も充実した文献の1つである.実際,この研究書の目次を再現するだけで,中英語の職業(名)の幅がおおよそ知られるといってよい.Fransson (5--7) を再現してみよう.



Bibliography
Abbreviations
INTRODUCTION
      A. Scope and Aim. Explanatory Notes
      B. A Short Survey of Middle English Surnames
         1. The Rise of Surnames
         2. Surnames in Latin and French
         3. Classification of Surnames
      C. Surnames of Occupation
         1. Surname and Trade. A Comparison
         2. Specialized Trades
         3. Names not Found in NED. Antedating
      D. The Heredity of Surnames
      E. Two Suffixes of Obscure History
         1. The Ending -ester
         2. The Ending -ier
MIDDLE ENGLISH SURNAMES OF OCCUPATION
   Ch. I. DEALERS, TRADERS
      A. Merchant, Dealer
      B. Pedlar, Hawker, Barterer
   Ch. II. MANUFACTURERES OR SELLERS OF PROVISIONS
      A. Miller, Sifter
      B. Corn-Monger, Meal-Monger
      C. Baker, Maker or Seller of Bread
      D. Cook, Sauce-Maker
      E. Maker or Seller of Cheese or Butter
      F. Maker or Seller of Spices, Garlics, Oil
      G. Maker or Seller of Salt, Soap, Candles, Wax
      H. Butcher, Poulterer
      I. Seller of Fish
      J. Brewere, Vintner, Taverner
   Ch. III. CLOTH WORKERS
      A. Manufacturers of Cloth
         1. Flax-Dresser, Comber, Carder
         2. Spinner, Roper
            a. Spinner, Winder and Packer of Wool
            b. Maker of Ropes, Strings, Nets
         3. Weaver or Seller of Cloth
            a. Weaver, Webster
            b. Maker or Seller of Woollen Cloth
            c. Maker or Seller of Linen or Hempen Cloth
            d. Maker or Seller of Silk, Pall, Curtains
            e. Maker of Sacks, Bags, Pouches
            f. Maker of Quilts, Blankets, Mats
            g. Felt-Maker, Worker in Horsehair
         4. Fuller, Teaseler, Shearman
         5. Dyer and Bleacher of Cloth
            a. Dyer, Lister
            b. Dyer with Woad, Cork, Madder
            c. Blacker, Bleacher, Washer
      B. Manufacturers of Clothes
         1. Tailor, Renovator of Old Clothes
         2. Maker of Cowls, Jackets, Pantaloons
         3. Maker or Seller of Hats, Caps, Hoods, Plumes
   Ch. IV. LEATHER WORKERS
      A. Tanner, Skinner, Currier
      B. Saddler, Girdler
      C. Furrier, Glover, Purse-Maker
      D. Maker of Bellows or Bottles
      E. Parchmenter, Bookbinder, Copyist
      F. Shoemaker, Cobbler
   Ch. V. METAL WORKERS
      A. Goldsmith, Gilder
      B. Coiner, Seal-Maker, Engraver
      C. Maker of Clocks
      D. Copper-Smith, Brazier, Bell-Founder
      E. Tinker, Pewterer, Plumber
      F. Blacksmith, Shoeing-Smith
      G. Locksmith, Lorimer
      H. Needler, Nailer, Buckle-Maker
      I. Maker or Furbisher of Armour
      J. Maker of Military Engines, Swords, Knives
      K. Maker of Bows or Arrows
   Ch. VI. WOOD WORKERS
      A. Sawyer, Maker of Laths or Boards
      B. Carpenter, Joiner
      C. Maker of Carts, Wheels, Ploughs
      D. Maker of Ships, Boats, Oars
      E. Maker of Coffers, Boxes, Organs
      F. Turner, Maker of Spoons, Combs, Slays
      G. Cooper, Hooper
      H. Maker of Baskets or Sieves
      I. Maker of Hurdles or Palings
      J. Maker of Spades or Besoms
      K. Maker of Charcoal, Potash, Tinder
   Ch. VII. MASONRY AND ROOFING WORKERS
      A. Mason, Plasterer, Painter
      B. Thatcher, Tiler, Slater
   Ch. VIII. STONE, CROCKERY, AND GLASS WORKERS
      A. Miner, Quarrier, Stone-Cutter
      B. Lime-Burner, Tile-Maker
      C. Potter, Glazier
   Ch. IX. PHYSICIAN, BARBER
      A. Physician, Surgeon, Veterinary
      B. Barber, Blood-Letter
EXCURSUS. TOPONYMICAL SURNAMES
      A. Surnames Ending in -er
      B. Surnames Ending in -man
A list of Compound Surnames
Index of Surnames




 いかがだろうか.網羅的という印象を受けるのではないだろうか.実際にはこれでも抜け落ちているところはあるのだが,まず参照すべき,信頼すべき文献であるという理由は分かるのではないか.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-08 Wed

#5490. なぜ職業名を表わす姓の種類は近代英語期にかけて減少したのか? [onomastics][personal_name][name_project][by-name][me][mode][occupational_term]

 「#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった」 ([2024-05-06-1]) および「#5489. 古英語の職業名の種類は中英語と同じくらい多様だったか否か」 ([2024-05-07-1]) を受けての話題.前者の記事で,中英語期には多様だった職業名が,近代英語期にかけて種類を減らしていった事実に触れた.
 同様に,職業名を表わす姓 (by-name) も,近代英語期にかけて種類を減らしていったという.これはなぜだろうか.Fransson (32) によれば,"by-name" が世襲の "family name" へ発展していく際に,一般的で短めの職業名が選択されたからではないかという.

As regards surnames of occupation we can notice that they become less specialized towards the end of the period, and if we examine rolls after 1350, we shall be surprised at the rarity of specialized names as compared with the earlier period. The reason for this has nothing to do with what has been said above about trades; it is connected with the heredity of surnames, which now begins to become prevalent. The specialized surname of occupation coincided with the trade of a person and, as a rule, does not seem to have been hereditary, which is probably due to its length and to the fact that it very easily calls to mind the trade itself. The surnames that became hereditary were usually short and denoted common trades, e.g. Smith, Cook, Tailor, Turner, etc.; it is almost exclusively names of this kind that one finds in later rolls. It is true that there are surnames of the specialized type that have survived to modern times, e.g. Arrowsmith, Cheesewright, but they are probably very rare; they owe their existence to the fact that the corresponding trade has died out or that the corresponding substantive has become extinct and its signification been forgotten, e.g. Billiter (= ME Belleyetere), Jenner (= ME Gynour), etc.


 本来的には個人に属していた by-name が家に属する family name へ発展していくにつれて,硬直化し多様性が失われたということだろう.時代は多様性の中世から画一性の近代へと変化していった,とも議論できそうだ.

 ・ Fransson, G.
Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames''. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-07 Tue

#5489. 古英語の職業名の種類は中英語と同じくらい多様だったか否か [onomastics][personal_name][name_project][by-name][doublet][me][oe][anglo-saxon][norman_conquest][occupational_term]

 昨日の記事「#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった」 ([2024-05-06-1]) の内容から,新たな疑問が浮かんでくる.先立つ古英語期には,職業名の種類は中英語期と同じくらい細分化されていて多様だったのだろうか? あるいは,もっと貧弱だったのだろうか.これは言語の話題にとどまらず,文化の問題,アングロサクソン文明のトピックとなる.
 昨日も参照した Fransson (31) は,おそらく古英語期には職業名はもっと貧弱だったろうと推測している.もっと言えば,多くの職業とその名前は,ノルマン征服 (norman_conquest) の影響のもとに,イングランド/英語にもたらされたのだろうと考えている.

Did this specialization exist before the Middle English period? The trade-names that are recorded in the Old English literature have been collected by Klump (Die altengl. Handwerkernamen). It is noteworthy that these are comparatively few in number; they are chiefly general names of trades, usually not specialized. A great number of the names in the present treatise are not represented there. To infer from this that all these did not exist in OE, is of course premature. The case is that we have no documents from that time in which trade-names are common. Much speaks in favour of the opinion, however, that many names of occupation did not come into existence until after the Norman conquest.


 古英語に多くの職業名が文証されないということは,古英語に多くの職業がなかったことを必ずしも意味するわけではない.しかし,Fransson の見立てでは,そのように解釈してよいのではないかということだ.
 中英語期の職業(名)の爆発が,ますますおもしろいテーマに思えてきた.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-05-08-1]

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2024-05-06 Mon

#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった [onomastics][personal_name][name_project][by-name][doublet][me][occupational_term]

 中英語の職業名を帯びた姓 (by-name) について調べていると,当時の職業の細分化されている様に驚く.こんなに細かく職業が分かれているのかと圧倒されると同時に,種類の多さに驚嘆せざるを得ないのだ.
 例えば Fransson (30) の研究によると,調査したサンプルのうち「布」産業に関する職業名に対応する姓は,なんと165種類あるという.「染め物屋」関連や「織物」業界も多く,後者と関連して25の姓がみつかるという.「冶金」方面にも108の姓が見出され,「物作り」や「物売り」も予想されるとおり種類が豊富で,関連付けられた姓は107に及ぶという.
 おもしろいことに,次の近代英語の時代には,ここまでの職業名の細分化や多様性は確認されないという.諸々の事情で通時的な比較は必ずしも単純ではないものの,Fransson (31) は "we can say that --- with the exception of modern factories -- specialization of trades was considerably greater in the Middle Ages than in modern times." と結論づけている.
 では,なぜ中英語期には職業(名)がこのように細分化されているのだろうか.Fransson (31) は,次の4点ほどを指摘し,議論している.

 (1) 中世の技術の著しい発展(製品改良の欲求と,そのための競争ゆえ)
 (2) 職業の名前について英語名と対応するフランス語名が併存していることが多く,一見して名前の種類が豊富に見えることが多い
 (3) ある職業名を帯びた人物が,狭い意味でその職業だけに従事していたわけではない,という事情がある.例えば girdler は「ガードル職人」だが,実際にはガードルだけを作っているわけではなく,同時に他の製品も作っていることが多い.つまり,広く金属製品の職人でもあった.
 (4) 上記と関連して,本業とともにマイナーな副業を営んでいた場合,後者の名前を姓として採用するほうが,姓としては識別能力が高いだろう.Blodleter 「瀉血人」(=床屋)や Vershewere 「韻文刻み」(=石切り)などが,そのような例に当たる.

 中英語期に職業名が細分化されていて多様だという事実を受け止めよう.では,古英語期ではどうだったのだろうか.そして,なぜ近代英語期以降には,この細分化や多様性が見られなくなったのだろうか.興味深い問題である.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-05-08-1] [2024-05-07-1]

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2024-01-31 Wed

#5392. 中英語の姓と職業名 [name_project][me][onomastics][personal_name][occupational_term][etymology][oe][morphology][lexicology][word_formation][agentive_suffix][by-name]

 「名前プロジェクト」 (name_project) との関連で,中英語期の人名 (personal_name),とりわけ現代の姓 (last name) に相当する "by-name" あるいは "family name" に関心を抱いている.古英語や中英語にみられる by-name の起源は,Clark (567) によれば4種類ある(ただし,古中英語に限らず,おおよそ普遍的な分類だと想像される).

 (a) familial ones, viz. those defining an individual by parentage, marriage or other tie of kinship
 (b) honorific and occupational ones (categories that in practice overlap)
 (c) locative ones, viz. those referring to present or former domicile
 (d) characteristic ones, often called 'nicknames'

 このうち (b) は名誉職名・職業名ととらえられるが,中英語におけるこれらの普通名詞としての使用,そして by-name として転用された事例に注目している.中英語の職業名は多々あるが,Clark (570--71) を参照しつつ,語源的・形態論的に分類すると以下のようになるだろうか.

 1. フランス語(あるいはラテン語?)からの借用語 (French loanword)
   barber, butcher, carpenter, cordwainer/cordiner, draper, farrier, mason, mercer, tailor; fourbisseur, pestour
 2. 本来語 (native word)
   A. 単一語 (simplex)
     cok, herde, smith, webbe, wrighte
   B. 複素語 (complex),すなわち派生語や複合語
     a. 動詞ベース
       bruere/breuster, heuere, hoppere/hoppestre; bokebynder, bowestrengere, cappmaker, lanternemaker, lymbrenner, medmowere, rentgaderer, sylkthrowster, waterladestre
     b. 名詞ベース
       bureller, glovere, glasier, madrer, nailere, ropere, skinnere; burelman, candelwif, horseknave, maderman, plougrom, sylkewymman; couherde, swynherde, madermongere, stocfisshmongere, ripreve, bulleward, wodeward, wheelewrighte

 古中英語の人名をめぐる話題については,以下の hellog 記事でも取り上げてきたので要参照.

 ・ 「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど」 ([2023-08-23-1])
 ・ 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])
 ・ 「#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期」 ([2023-12-08-1])
 ・ 「#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景」 ([2023-12-16-1])
 ・ 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1])

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

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2023-12-08 Fri

#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期 [name_project][me][oe][onomastics][personal_name][by-name]

 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1]) で,Clark に拠って,古英語から中英語にかけて人名のあり方が大きく変わったことを確認した(cf. 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])).(1) かつての "idionym" が "baptismal name" へと変容していったこと,そして (2) オプションだった "by-name" が徐々に現代的な "family name" へと発展していったことの2点が重要である.
 中英語人名の新機軸ともいえるこの2点が中英語期のどのぐらいのタイミングで定着・確立したのかを明確に述べることはできない.あくまで徐々に発展した特徴だからだ.しかし,Clark (552) は,1点目は1250年頃,2点目は1450年頃とみている.

This twofold shift in English personal naming was a specifically Middle English process. Among the mass of the population, the name system of ca 1100 was still virtually the classic Late Old English one, modified only by somewhat freer use of ad hoc by-names . . .; but ca 1450 a structure prefiguring the present-day one had been established, with hereditary family names in widespread use, though not yet universally adopted. As for the ousting of pre-Conquest baptismal names by what were virtually the present-day ones, that had been accomplished by ca 1250. This series of changes involved several convergent processes.


 大雑把にいえば,1点目の新機軸は初期中英語期 (1100--1300) の間に固まっていき,2点目の新機軸は主に後期中英語期 (1300--1500) に発展していったと言えそうだ.アングロサクソン的な名付けから現代的な名付けへの変化の中心となる時代は,ほぼきれいに中英語期 (1100--1500) といっておいてよいことになる.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-16-1]

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2023-11-28 Tue

#5328. 用語辞典でみる diglossia (5) [terminology][diglossia][bilingualism][sociolinguistics][hel_education][me][french][latin][prestige]

 専門用語をじっくり考えるシリーズ.diglossia (二言語変種使い分け)も第5弾となる.これまでの「#5306. 用語辞典でみる diglossia (1)」 ([2023-11-06-1]),「#5311. 用語辞典でみる diglossia (2)」 ([2023-11-11-1]),「#5315. 用語辞典でみる diglossia (3)」 ([2023-11-15-1]),「#5326. 用語辞典でみる diglossia (4)」 ([2023-11-26-1]) と比べながら,今回は Pearce の英語学用語辞典を参照する (143--44) ."diglossia" に当たると "polyglossia" の項目を見よとあり,ある意味で野心的である.

Polyglossia A situation in which two or more languages exist side by side in a multilingual society, but are used for different purposes. Typically, one of the languages (usually labelled the 'H' or 'high' variety) has greater prestige than the others, and is used in formal, public contexts such as education and administration. The other languages in a polyglossic situation (usually labelled the 'L' or 'low' varieties) tend to be used in informal, private contexts (and also in popular culture). England was a triglossic society, with English as the 'L' variety, and French and Latin as 'H' varieties. As French died out, England became diglossic in English and Latin (which was maintained as the language of education and the Church).


 最後に英語史における triglossia と diglossia (そして polyglossia)が言及されているのは,さすが「英語学」用語辞典である.英語史における polyglossia を論じる際には,このように中英語期の言語事情が持ち出されることが多いが,この場合に1つ注意が必要である.
 このような議論では,中英語期のイングランドが triglossia の社会としてとらえられることが多いが,英語,フランス語,ラテン語の3言語のすべてを扱えるのは,ピラミッドの最上層を構成する一部の宗教的・知的エリートのみである.英語とフランス語の2言語の使い手となれば,もう少しピラミッドの下方まで下がるが,とうていピラミッドの全体には及ばない.つまり,中英語期イングランド社会の3層構造のピラミッドを指して,ゆるく triglossia や diglossia ということができたとしても,イングランド社会の構成員の全員(あるいは大多数)が,複数言語を操るわけではないということだ.むしろ,英語のみを操るモノリンガルが圧倒的多数を占めるということは銘記しておいてよい.
 ここで思い出したいのは,典型的な diglossia 社会の状況である.それによると,とりわけ H 変種の習得の程度については程度の差はあるとはいえ,当該社会の全員(あるいは大多数)が L と H のいずれの言語変種をも話せるというが前提だった.スイス・ドイツ語と標準ドイツ語,口語アラビア語と古典アラビア語,ハイチクレオール語とフランス語等々の例が挙げられてきた.
 この典型的な diglossia 社会に照らすと,中英語期イングランドは本当に diglossia/triglossia と呼んでよいのだろうかという疑問が湧く.緩い用語使いは,diglossia という概念の活用の益となるのか害となるのか,この辺りが私の問題意識である.

 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

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2023-10-30 Mon

#5299. 中英語人名学の用語体系 [name_project][me][onomastics][personal_name][terminology][by-name]

 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1]) の中英語版をお届けする.中英語になると,人名のあり方がガクンと変わり,それに伴って人名学の用語使いも変わる.Clark (551--52) より,関連する箇所を引用する.

Neither the structure nor the content of the Present-Day English personal-name system owes much to pre-Conquest styles. The typical Old English personal designation consisted of a single distinctive name (or 'idionym'), such as Dudda, Godgifu or Wulfstan; and only occasionally was this supplemented by a qualifying by-name (usually postposed), such as sēo dæge 'the dairymaid' or sē hwīta 'the white(-haired man)' . . . . A Present-Day English 'full name', on the other hand, necessarily involves two components; the second denoting a patrilinear family group and the first (which may consist of one unit or or several), an individual within that group. In Present-Day English usage, moreover, the familial, hereditary component is the crucial one for close identification, whereas in Old English usage, as in early Germanic ones generally, the idionym was central, any addition being optional. Beside this total change of structure, it is trivial that, out of the hundreds of Old English idionyms, only a handful, and those mainly ones which, like Edith, Edmund and Edward, were associated with widely venerated saints, are today represented among Present-Day English first-names.
   The change of system demands a change of terminology. The special term 'idionym', no longer appropriate, will be replaced by 'baptismal name' ('Christian name' is needed for a more specific sense, neither 'forename' nor 'first name' is appropriate until family naming is well established, and 'font name' is unidiomatic). For an optional identifying component, the term 'by-name' will be retained. Only when continuity between generations is demonstrable will the term 'family name' be used ('surname' is rejected as insufficiently precise).


 古英語と異なり,中英語では2つの種類を組み合わせた人名が一般的になってくる.つまり,現代的な「名+姓」という構成が一般的となってくるわけだ.この点で,古英語からの idionym という概念・用語は廃れていくことになる.むしろ,キリスト教社会における名前として baptismal name という概念・用語がふさわしくなってくる.この baptismal name に加える形で,それを限定するために by-name が加えられるようになった,と考えられる.この by-name は実際上家族・家系を表わす役割を果たすことが多い.こうして中英語に,現代に続く人名システムが定まったのである.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-08-1]

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2023-09-24 Sun

#5263. 10月7日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第3回「中英語の綴字 --- 標準なき繁栄」 [asacul][notice][writing][spelling][orthography][me][standardisation][me_dialect][norman_conquest][link][voicy][heldio]

 約2週間後の10月7日(土)の 15:30--18:45 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第3回となる「中英語の綴字 --- 標準なき繁栄」が開講されます.


10月7日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第3回「中英語の綴字 --- 標準なき繁栄」



 今回の講座は,全4回のシリーズの第3回となります.シリーズのラインナップは以下の通りです.

 ・ 第1回 文字の起源と発達 --- アルファベットの拡がり(春・4月29日)
 ・ 第2回 古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ(夏・7月29日)
 ・ 第3回 中英語の綴字 --- 標準なき繁栄(秋・10月7日)
 ・ 第4回 近代英語の綴字 --- 標準化を目指して(冬・未定)

 これまでの2回の講座では,まず英語史以前の文字・アルファベットの起源と発達を確認し,次に古英語期(449--1100年)におけるローマ字使用の実際を観察してきました.第3回で注目する時期は中英語期(1100--1500年)です.この時代までに英語話者はローマ字にはすっかり馴染んでいましたが,1066年のノルマン征服の結果,「標準英語」が消失し,単語の正しい綴り方が失われるという,英語史上でもまれな事態が展開していました.やや大げさに言えば,個々の英語の書き手が,思い思いに好きなように単語を綴った時代です.これは秩序崩壊とみればネガティヴとなりますが,自由奔放とみればポジティヴです.はたしてこの状況は,後の英語や英語のスペリングにいかなる影響を与えたのでしょうか.英語スペリング史において,もっともメチャクチャな時代ですが,だからこそおもしろい話題に満ちています.講座のなかでは中英語原文も読みながら,この時代のスペリング事情を眺めてみたいと思います.
 講座の参加にご関心のある方は,ぜひこちらのページよりお申し込みください.対面のほかオンラインでの参加も可能です.また,参加登録された方には,後日見逃し配信としてアーカイヴ動画へのリンクも送られる予定です.ご都合のよい方法でご参加ください.全4回のシリーズものではありますが,各回の内容は独立していますので,単発でのご参加も歓迎です.
 本シリーズと関連して,以下の hellog 記事,および Voicy heldio 配信回もご参照ください.

[ 第1回 文字の起源と発達 --- アルファベットの拡がり ]

 ・ heldio 「#668. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」(2023年3月30日)
 ・ hellog 「#5088. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」が4月29日より始まります」 ([2023-04-02-1])
 ・ hellog 「#5119. 朝カル講座の新シリーズ「文字と綴字の英語史」の第1回を終えました」 ([2023-05-03-1])

[ 第2回 古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ ]

 ・ hellog 「#5194. 7月29日(土),朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」」 ([2023-07-17-1])
 ・ heldio 「#778. 古英語の文字 --- 7月29日(土)の朝カルのシリーズ講座第2回に向けて」(2023年7月18日)
 ・ hellog 「#5207. 朝カルのシリーズ講座「文字と綴字の英語史」の第2回「古英語の綴字 --- ローマ字の手なずけ」を終えました」 ([2023-07-30-1])

[ 第3回 中英語の綴字 --- 標準なき繁栄 ](以下,2023/09/26(Tue)の後記)

 ・ heldio 「#848. 中英語の標準なき綴字 --- 10月7日(土)の朝カルのシリーズ講座第3回に向けて」(2023年9月26日)

Referrer (Inside): [2024-02-03-1]

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2023-09-21 Thu

#5260. 喜びに満ちた delicious の同根類義語 [eebo][synonym][me][cognate][lexicology][borrowing][loan_word][latin][french][oed][thesaurus][htoed][voicy][heldio]



 今週の月・火と連続して,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」(毎朝6時に配信)にて delicious とその類義語の話題を配信しました.

 ・ 「#840. delicious, delectable, delightful」
 ・ 「#841. deleicious の歴史的類義語がたいへんなことになっていた」

 かつて「#283. delectabledelight」 ([2010-02-04-1]) と題する記事を書いたことがあり,これとも密接に関わる話題です.ラテン語動詞 dēlectāre (誘惑する,魅了する,喜ばせる)に基づく形容詞が様々に派生し,いろいろな形態が中英語期にフランス語を経由して借用されました(ほかに,それらを横目に英語側で形成された同根の形容詞もありました).いずれの形容詞も「喜びを与える,喜ばせる,愉快な,楽しい;おいしい,美味の,芳しい」などのポジティヴな意味を表わし,緩く類義語といってよい単語群を構成していました.
 しかし,さすがに同根の類義語がたくさんあっても競合するだけで,個々の存在意義が薄くなります.なかには廃語になるもの,ほとんど用いられないものも出てくるのが道理です.
 Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (= HTOED) で調べてみたところ,歴史的には13の「delicious 語」が浮上してきました.いずれも語源的に dēlectāre に遡りうる同根類義語です.以下に一覧します.

 ・ †delite (c1225--1500): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightable (c1300--): Very pleasing or appealing; delightful.
 ・ delicate (a1382--1911): That causes pleasure or delight; very pleasing to the senses, luxurious; pleasurable, esp. in a way which promotes calm or relaxation. Obsolete.
 ・ delightful (a1400--): Giving or providing delight; very pleasant, charming.
 ・ delicious (c1400?-): Very pleasant or enjoyable; very agreeable; delightful; wonderful.
 ・ delectable (c1415--): Delightful; extremely pleasant or appealing, (in later use) esp. to the senses; very attractive. Of food, drink, etc.: delicious, very appetizing.
 ・ delighting (?a1425--): That gives or causes delight; very pleasing, delightful.
 ・ †delitous (a1425): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightsome (c1484--): Giving or providing delight; = delightful, adj. 1.
 ・ †delectary (?c1500): Very pleasant; delightful.
 ・ delighted (1595--1677): That is a cause or source of delight; delightful. Obsolete.
 ・ dilly (1909--): Delightful; delicious.
 ・ delish (1915--): Extremely pleasing to the senses; (chiefly) very tasty or appetizing. Sometimes of a person: very attractive. Cf. delicious, adj. A.1.

 廃語になった語もあるのは確かですが,意外と多くが(おおよそ低頻度語であるとはいえ)現役で生き残っているのが,むしろ驚きです.「喜びを与える,愉快な;おいしい」という基本義で普通に用いられるものは,実際的にいえば delicious, delectable, delightful くらいのものでしょう.
 このような語彙の無駄遣い,あるいは類義語の余剰といった問題は,英語では決して稀ではありません.関連して,「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]),「#4974. †splendidious, †splendidous, †splendious の惨めな頻度 --- EEBO corpus より」 ([2022-12-09-1]) もご覧ください.

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2023-03-18 Sat

#5073. 15世紀 Chancery Standard の注目すべき3単語の異綴りを紹介 --- England, merchant, notwithstanding [spelling][me][chancery_standard][me_dialect][standardisation]

 「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1]) で紹介した通り,中英語も終わりに近づいた15世紀の公的な文書ですら,綴字にはまだ相当の変異や揺れがあった.14世紀末に始まりかけていた綴字の標準化は,あくまでゆっくりと進行していたのである.An Anthology of Chancery English のグロッサリーを眺めていると,through 以外にも,異綴りの観点からおもしろい単語はいくつもある.目についた3単語 (England, merchant, notwithstanding) を取り上げ,異綴りを鑑賞してみよう.括弧内の数字は頻度である.

England (35), Englande (10), Engeland (7), Englond (28), Englonde (3), Engelond (1), Inglond (6), Ingelond (3), Ingland (1), Yngelond (2), Ynglond (1)


merchant (1), marchant (8), marchaunt (6), merchaunt (4); (pl.) marchauntȝ (10), merchauntȝ (6), marchaunts (4), merchauntes (3), marchantes (3), merchantes (2), marchantȝ (2), merchandes (1), marchandes (1), marchauntes (1), merchantȝ (1)


notwithstanding (3), notwithstondyng(e) (16), natwiþstandyng (6), notwiþstandyng(e) (3), notwiþstanding (2), notwithstonding (1), notwyþstandyng (1), notwythstondyng (1), notwistanding (1), natwithstandyng (1), naughtwithstandinge (1), nogthwithstondyng (1), nottewithstondyng (1), notwythstondyng (1)


 国号ですらこれだけ揺れているというのが興味深い.もちろんこの3語は氷山の一角である.他も推して知るべし.
 関連して England については「#1145. EnglishEngland の名称」 ([2012-06-15-1]) と「#2250. English の語頭母音(字)」 ([2015-06-25-1]) を,notwithstanding については「#5064. notwithstanding」 ([2023-03-09-1]) を参照.

 ・ Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.

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2023-03-15 Wed

#5070. ソーシャルメディアと中英語の綴字のヴァリエーションは酷似している [spelling][me][nlp][med][social_media][media]

 ソーシャルメディアの書き言葉は,省略やタイポが多い.英語でいえば単語の省略の仕方は一通りではなく,いずれの省略綴字が用いられるかは予測できない.自然言語処理 (nlp) においては,このような省略綴字を正規化するなどの前処理が必要となり,なかなか厄介な問題のようだ.
 一方,中英語の綴字のヴァリエーションも豊富である.綴り方は一通りではなく,いずれの綴字が用いられるかは,方言ごとに緩い傾向はあるものの,完全には予測できない.中英語を読んだり分析する際には,多様な綴字を「正規化」する必要があり,かなり厄介な問題だ.
 両者は,このようにとても似ている."tomorrow" という単語の綴字ヴァリエーションを例に取り,比較してみよう.ソーシャルメディアの例は Vajjala 他 (p. 295) から,中英語の例は MED から取った.

[ ソーシャルメディアからの "tomorrow" の綴字 ]

tmw, tomarrow, 2mrw, tommorw, 2moz, tomorro, tommarrow, tomarro, 2m, tomorrw, tmmrw, tomoz, tommorow, tmrrw, tommarow, 2maro, tmrow, tommoro, tomolo, 2mor, 2moro, 2mara, 2mw, tomaro, tomarow, tomoro, 2morr, 2mro, tmoz, tomo, 2morro, 2mar, 2marrow, tmr, tomz, tmorrow, 2mr, tmo, tmro, tommorrow, tmrw, tmrrow, 2mora, tommrow, tmoro, 2ma, 2morrow, tomrw, tomm, tmrww, 2morow, 2mrrw, tomorow

[ MED からの "tomorrow" の綴字 ]

tōmōrn, tomorne, -moroun(e, -morwen, -morwin, -morewen, -morgen, tomor3en, -moregan, -moreuin, -marewene, -marwen, -marhen, -mar3an, -mar3en, -mær3en, temarwen; tōmōrwe, tomorewe, -moreu, -mor(r)owe, -mor(r)ou, -morou, -moru(e, -mor3e, -marewe, temorwe, tomoruwe, -more3e, -mar3e, -mær3e

 もう主旨はお分かりだろう.ソーシャルメディアを対象とする自然言語処理技術の発展は,中英語研究にも有用にちがいない! 笑い話のようでありながら,いや,なかなかおもしろい比較ではないか.

 ・ Vajjala, Sowmya, Bodhisattwa Majumder, Anuj Gupta, Harshit Surana (著),中山 光樹(訳) 『実践 自然言語処理 --- 実世界 NLP アプリケーション開発のベストプラクティス』 オライリー・ジャパン,2022年.

Referrer (Inside): [2023-03-17-1]

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2023-02-20 Mon

#5047. 「大航海時代略年表」 --- 『図説大航海時代』より [timeline][history][age_of_discovery][me][emode][renaissance][link]

 世界史上,ひときわきらびやかに映る大航海時代 (age_of_discovery) .広い視野でみると,当然ながら英語史とも密接に関わってくる(cf. 「#4423. 講座「英語の歴史と語源」の第10回「大航海時代と活版印刷術」を終えました」 ([2021-06-06-1])).
 以下,『図説大航海時代』の巻末 (pp. 109--10) の略年表を掲載する.大航海時代の範囲についてはいくつかの考え方があるが,1415年のポルトガル軍によるセウタ占領に始まり,1648年のウェストファリア条約の締結に終わるというのが1つの見方である.しかし,下の略年表にみえるように,その前史は長い.

紀元前5世紀スキュラクス,インダス河口からスエズ湾まで航海
4世紀後半ネアルコス,インダス地方からティグリス河口まで探検
111漢の武帝,南越を併合
1世紀カンボジヤ南部に扶南国興る
60--70頃『エリュトラ海案内記』
1世紀前半「ヒッパロスの風」によるアラビア海航海がさかんになる
2世紀扶南とローマ,インドと中国の交易がおこなわれる
166大秦王安敦(マルクス・アウレリウス)の支社日南郡に至る
207南越国建国
4--5世紀東南アジアのインド化進む
399--412東晋の法顕のインド,セイロン旅行.『仏国記』を書く
7世紀前半扶南,真臘に併合される
618唐建国
639アラブ人のエジプト侵入
7世紀後半シュリーヴィジャヤ王国マラッカ海峡の交易を支配
671--95唐の仏僧義浄インド滞在.『南海寄帰内法伝』
750バグダートにアッバース朝おこる.インド洋貿易に進出
875チャンパ(占城)興る
907唐滅亡.五代十国時代に入る
960宋建国.海外貿易の隆盛
969ファーティマ朝カイロに移る.紅海を通じてのアジア貿易.以後エジプトは紅海経由のインド洋貿易を主導する
1096第1次十字軍 (--99) .イタリア港市の台頭
1127南宋興る
1147第2次十字軍 (--48)
1169エジプトにアイユーブ朝成立
1245--47プラノ・カルピーニ,教皇の命によりカラコルムに至る旅行記を著わす
1254リュブリュキ,教皇の命によりカラコルムまで旅行.旅行記を書く
1258モンゴル軍バグダート占領.アッバース朝滅亡.ただしモンゴル軍はシリア,エジプトに侵入できず
1271--95マルコ・ポロのアジア旅行と中国滞在.旅行記を口述
1291ジェノヴァのヴィヴァルディ兄弟西アフリカ航海
1293ジャヴァにマジャパヒト王国成立.モンゴル軍ジャヴァに侵攻
1312ジェノヴァのランチェローテ・マロチェーロ,カナリア諸島に航海
1349(ママ)イブン・バトゥータ,24年にわたるアフリカ,アジア旅行からタンジールに帰る
1336南インドにヴィジャヤナガル王国興る
1345マジャパヒト,全ジャヴァに勢力拡大
1351--54イブン・バトゥータ西アフリカ旅行.『三大陸周遊記』を書く
1360マンデヴィルの『東方旅行記』この頃成立
1368明建国
1372明,海禁政策をとる
1403スペインのクラビーホ,中央アジアに旅行しティムールに謁す.ラ・サルとベタンクール,カナリア諸島に航海
1405鄭和の大航海.1433年まで7回にわたる
1415ポルトガル軍セウタ占領.間もなく西アフリカ航路の探検が始まる
1434ジル・エアネス,ボジャドール岬回航
1453オスマン軍によるコンスタンティノープル攻略
1455ヴェネツィア人カダモストの西アフリカ航海
1475ヴィチェンツァでプトレマイオスの『地理学』刊行
1479スペイン,ポルトガル間にアルカソヴァス条約
1482ポルトガルの西アフリカの拠点エルミナ建設.ポルトガル人コンゴ王国と接触
1488ディアスによる喜望峰発見.大航海時代
1492コロンブス第1回航海 (--93)
1493コロンブス第2回航海
1494スペイン,ポルトガル間にトルデシリャス条約
1498ガマのインド航海.コロンブス第3回航海.南米本土に達する
1500カブラル,インドへの途次ブラジルに漂着
1501アメリゴ・ヴェスプッチ南アメリカの南緯52°まで航海
1502コロンブス第4回航海.中米沿岸航海
1505トロ会議.西回りで香料諸島探検を議決
1508ブルゴス会議で同様な趣旨の議決
1509アルメイダ,ディウ沖で,エジプト,グジャラート連合艦隊撃破
1510ポルトガル,ゴア完全占領
1511ポルトガル,マラッカ攻略
1512ポルトガル人香料諸島に到着
1513バルボア,パナマ地峡を横断して太平洋岸に達する
1519--21コルテスのメキシコ(アステカ王国)征服
1520マゼラン,地峡を発見し,太平洋を横断してフィリピンに至る
1522エルカノ以下18人,最初の世界回航をとげてセビリャ着
1527モンテホのユカタン探検
1528--33ピサロのインカ帝国征服
1529サラゴッサ条約により香料諸島のポルトガル帰属決定
1534カルティエのカナダ探検
1535アルマグロのチリ探検
1537ケサーダのムイスカ(チブチャ)征服
1538皇帝・教皇・ジェノヴァ連合艦隊プレヴェザでトルコ人に敗北
1541ゴンサーロ・ピサロのアマゾン探検.部下のオレリャーナ,河口まで航海 (1542)
1543三人のポルトガル人,種子島着
1545ボリビアのポトシ銀山発見,翌年メキシコでも大銀山発見
1553ウィロビーの北東航路探検
1565ウルダネータ,大圏航路によりフィリピンからメキシコまで航海
1567メンダーニャの太平洋航海.翌年ソロモン諸島発見
1568ジョン・ホーキンズ,サン・ファン・デ・ウルアでスペインの奇襲をうけて脱出
1570ドレイクのカリブ海スペイン基地の掠奪
1571レガスピ,マニラ市建設.キリスト教徒の海軍レパントでオスマン艦隊に勝利
1575フロビッシャー,北西航路探検の勅許を得る
1577--80ドレイク,掠奪の世界周航をおこなう
1578アルカサルーキヴィルでポルトガル軍モロッコ軍に大敗
1584--85ウォルター・ローリのヴァージニア植民計画
1586--88キャベンディシュの世界周航
1595ローリの第1次ギアナ探検.メンダーニャの太平洋探検,マルケサス諸島発見
1598ファン・ノールト,オランダ人として最初の世界周航
1599オランダ人ファン・ネック東インド航海
1600イギリス東インド会社設立.この頃ブラジルに砂糖産業が興り,アフリカ人奴隷の輸送始まる
1605キロスの航海.ニュー・ヘブリデスまで
1606キロク帰国後,あとに残されたトレス,ニュー・ギニア,オーストラリア間の海峡を発見し,マニラに向かう
1610ハドソン,アニアン海峡を求めて行方不明になる
1614メンデス・ピントの東洋旅行記『遍歴記』刊行
1615オランダ人スホーテンとル・メールの航海.ホーン岬発見
1617ローリ第2回ギアナ探検
1620メイフラワー号ニュー・イングランドに到着
1622インド副王の艦隊,モサンビケ沖でオランダ船隊の攻撃を受け壊滅
1623アンボイナ事件.オランダ人によるイギリス人,日本人の殺害.これ以後イギリス人は東インドの香料貿易から撤退し,インドに集中
1637オランダ人西アフリカのエルミナ奪取
1639マカオの対日貿易,鎖国のため不可能になる.タスマンの太平洋航海
1641オランダ人マラッカ奪取
1642--43タスマン,オーストラリアの輪郭を明らかにする
1645オランダ人セント・ヘレナ島占領
1647オランダ,アンボイナ島完全占領.カサナーテのカリフォルニア探検
1648セミョン・デジニョフ,アジア最北東端の岬(デジニョフ岬)に到達.ただしベーリング海峡の存在には気がつかなかった.ウェストファリア条約の締結による三十年戦争の終わり.オランダの独立承認される


 hellog ではこれまでも関連する年表を多く掲載してきた.大航海時代との関連で,以下のリンクを挙げておこう.

 ・ 「#2371. ポルトガル史年表」 ([2015-10-24-1])
 ・ 「#3197. 初期近代英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-27-1])
 ・ 「#3478. 『図説イギリスの歴史』の年表」 ([2018-11-04-1])
 ・ 「#3479. 『図説 イギリスの王室』の年表」 ([2018-11-05-1])
 ・ 「#3487. 『物語 イギリスの歴史(上下巻)』の年表」 ([2018-11-13-1])
 ・ 「#3497. 『イギリス史10講』の年表」 ([2018-11-23-1]) を参照.

 ・ 増田 義郎 『図説大航海時代』 河出書房新社,2008年.

Referrer (Inside): [2024-01-01-1]

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2022-11-01 Tue

#4936. なぜ間接目的語や前置詞の目的語が主語となる受動文が可能なのか? [passive][syntax][inflection][verb][me][sobokunagimon][word_order]

 一昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,リスナーさんから寄せられた質問に回答する形で「#517. 間接目的語が主語になる受動態は中英語期に発生した --- He was given a book.」を配信しました.ぜひお聴きください.



 原則として古英語では動詞の直接目的語が主語となる受動文しか存在しませんでした.ところが,続く中英語期になり,動詞の間接目的語や前置詞の目的語までもが主語となる受動文も可能となってきました(概要は中尾・児馬 (125--31) をご覧ください).今日はこの配信への補足となります.
 Fischer によれば,現代英語では次のすべての受動文が可能です.

1 The book was selected by the committee
2 Nicaragua was given the opportunity to protest
3 His plans were laughed at
4 The library was set fire to by accident


 英語史研究では,この受動文の拡大に関する議論は多くなされてきました.いくつかの考え方があるものの,概ね受動化 (passivisation) に関する統語規則の適用範囲が変化してきたととらえる向きが多いようです.要するに,受動化の対象が,時間とともに動詞の直接目的語から間接目的語へ,さらに前置詞の目的語へ拡大してきた,という見方です.
 ただし,これも1つの仮説です.もしこれを受け入れるとしても,なぜそうなのかというより一般的な問題も視野に入れる必要があります.受動化とは異なるけれども何らかの点で関係する統語現象においても類似の変化・拡大が起こっているとすれば,それと合わせて考察する必要があります.この辺りの事情を Fischer (384) に語ってもらいましょう.

There are two general paths along which one could look for an explanation of these developments. One can hypothesise that there was a change in the nature of the rule that generates passive constructions . . . Another possibility is that there was a change in the application of the rule due to changes having taken place elsewhere in the system of the language . . . The latter course seems to be the one now more generally followed. Additional factors that may have influenced the spread of passive construction are the gradual loss of the Old English active construction with indefinite man . . . (this construction could most easily be replaced by a passive) and the change in word order . . . .


 統語変化の仮説の設定と検証は,なかなか容易ではありません.そのために英語史という専門分野があり,日々研究が続けられているのです.

 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.
 ・ Fischer, Olga. "Syntax." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Cambridge: CUP, 1992. 207--408.

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