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metanalysis - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-03-20 07:25

2018-11-14 Wed

#3488. 膠着と滲出 [terminology][morphology][morpheme][suffix][metanalysis][neologism][word_formation]

 通時的現象としての標題の術語群について理解を深めたい.いずれも,拘束形態素 (bound morpheme) と自由形態素 (free morpheme) の間の行き来に関する用語・概念である.輿石 (111--12) より引用する.

 膠着 [通時現象として] (agglutination) とは,独立した語が弱化し独立性を失って他の要素に付加する接辞になる過程を指す.たとえば,英語の friendly の接尾辞 -ly の起源は独立した名詞の līc 「体,死体」であった.
 一方,この逆の過程が Jespersen (1922: 284) の滲出(しんしゅつ)(secretion) であり,元来形態論的に分析されない単位が異分析 (metanalysis) の結果,形態論的な地位を得て,接辞のような要素が創造されていく.英語では,「〜製のハンバーガー」を意味する -burger,「醜聞」を意味する -gate などの要素がこの過程で生まれ,それぞれ cheeseburger, baconburger 等や Koreagate, Irangate 等の新語が形成されている.


 注意したいのは,「膠着」という用語は共時形態論において,とりわけ言語類型論の分類において,別の概念を表わすことだ(「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1]) を参照).今回取り上げるのは,通時的な現象(言語変化)に関して用いられる「膠着」である.例として挙げられている līc → -ly は,語として独立していた自由形態素が,拘束形態素化して接尾辞となったケースである.
 「滲出」も「膠着」と同じ拘束形態素化の1種だが,ソースが自由形態素ではなく,もともといかなる有意味な単位でもなかったものである点に特徴がある.例に挙げられている burger は,もともと Hamburg + er である hamburger から異分析 (metanalysis) の結果「誤って」切り出されたものだが,それが拘束形態素として定着してしまった例である.もっとも,burger は hamburger の短縮形としても用いられるので,拘束形態素からさらに進んで自由形態素化した例としても挙げることができる (cf. hamburger) .
 形態素に関係する共時的術語群については「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」 ([2011-03-28-1]) も参照されたい.また,上で膠着の例として触れた接尾辞 -ly については「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]),「#1032. -e の衰退と -ly の発達」,「#1036. 「姿形」と -ly」 ([2012-02-27-1]) も参考までに.滲出の他の例としては,「#97. 借用接尾辞「チック」」 ([2009-08-02-1]),「#98. 「リック」や「ニック」ではなく「チック」で切り出した理由」 ([2009-08-03-1]),「#105. 日本語に入った「チック」語」 ([2009-08-10-1]),「#538. monokinitrikini」 ([2010-10-17-1]) などを参照.

 ・ 輿石 哲哉 「第6章 形態変化・語彙の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.106--30頁.
 ・ Jespersen, Otto. Language: Its Nature, Development, and Origin. 1922. London: Routledge, 2007.

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2018-07-18 Wed

#3369. island ならぬ neilond [metanalysis][spelling][etymological_respelling]

 island (島)といえば,英語史では語源的綴字 (etymological_respelling) との関係でよく話題に挙がる.本ブログでも「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1]) および「#3227. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第4回「doubt の <b>--- 近代英語のスペリング」」 ([2018-02-26-1]) のスライドの6ページで取り上げてきた.<s> の挿入はある種の語源の勘違いに基づくものであり,むしろ「非語源的綴字」 (unetymological spelling) と呼ぶべき例である.
 island に関して,もう1つあまり知られていない歴史的な語形があったことを紹介したい.先行する冠詞などの語尾との間における異分析 (metanalysis) の結果生じた,neiland のような語形である.つまり,an eilonda neilond などと「誤って」切り分けられた結果として生じた語形である.中英語では,MEDīlōnd (n.) にも記述があるように,atten "at the" に後続するケースなどでも例があったようだ.私が実地で見つけたのは,The Bestiary からである.Cathegrande (鯨)があたかも1つの neilond (島)であるかのようだと述べられるシーンである.

a1300(a1250) Bestiary (Arun 292) 387: Cethegrande is a fis..ðat tu wuldest seien get, gef ðu it soge wan it flet, ðat it were a neilond.


 また,水上に浮かぶ島ではなくとも,低地を指して,地名のなかでこの語を用いる慣習があったようで,中英語期の地名として Neiland も見えることから,部分的には n を語頭にもつ異分析形も,ある程度は流通していたのかもしれない.このことは,第1音節の語源である īeg-ēa がもはや「水,川」の意味をもつ形態素であるという感覚が薄れていたことを示唆する.そして,それは数世紀後に非語源的な <s> が挿入されて <island> が成立するための前提条件でもあるのだ.

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2017-06-29 Thu

#2985. jade [etymology][loan_word][metanalysis][french][spanish]

 jade (ヒスイ)は,16世紀末から17世紀にかけて,フランス語より借用された語である.フランス語では l'ejade と使われていたように,語幹は母音で始まっていたが,定冠詞との間の異分析 (metanalysis) を通じて le jade と解され,jade がこの語の見出し形と認識されるに至った.このフランス単語自身は,スペイン語の (piedra de) ijada (横腹の石)を借用したもので,ijada はラテン語の īlia (横腹)に遡る.これは,ヒスイが疝痛に効くと信じられていたことにちなむ.
 このようにヨーロッパでヒスイを表わす語形が現われたのは近代に入ってからの比較的遅い時期だが,それはヨーロッパがこの宝玉をほとんど産しなかったからである.一方,アジアではベトナムでヒスイが採れたため,中国などで愛用された.漢字の「翡翠」の「翡」は赤色を,「翠」は緑色を示し,この2色をもつ宝玉を翡翠玉と呼んだのが始まりであり,中国では同じくその2色をもつ鳥「カワセミ」を指すのにも同語が用いられた.
 ヒスイはメキシコにも産するが,先に述べた通り,スペインでヒスイが横腹の病(腎臓病)に効くとされたのは,古代メキシコの何らかの風習がスペイン人の耳に入ったからともされる.
 なお,ヒスイは日本でも産する.新潟県の姫川支流の小滝川や青海川に産地があり,縄文時代中期以降,日本各地,そして中国へと運ばれた.古代より珍重された,霊験あらたかな玉である.

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2017-03-28 Tue

#2892. orange の語源,綴字,発音 [metanalysis][anglo-norman]

 昨日の記事「#2891. フランス語 bleu に対して英語 blue なのはなぜか」 ([2017-03-27-1]) と関連して,同じ掲示板の質問として挙げられた orange の綴字について考えてみたい.
 まずは,この語の語源を追ってみよう.オレンジの原産地は東南アジアであり,その語もその地域に起源をもつのだろう.そこから東進してドラヴィダ諸語(タミール語 nāram)を始めとしてサンスクリット語,ペルシア語,アラビア語を経て,ヨーロッパへは中世のイタリア語に naranza, naranz, narans などの形で入ってきた.ドラヴィダ諸語からイタリア語に至るまで,一貫して語頭に n を示すことに注意されたい.しかし,ヨーロッパに入って間もなく,イタリア語,ポルトガル語,フランス語などでは語頭の n が脱落した形も現われた.例えば,Anglo-Norman では,早くも1200年頃に pume orenge と現われている.1400年頃にフランス語諸変種から英語に借用されたときの語形も,orenge などであった.
 語頭の n が消失した理由については,通常,イタリア語やフランス語において,前置された不定冠詞との間での異分析 (metanalysis) が生じたからとされる (cf. Sp naranja) .英語風にいえば,本来は a norange だったものが an orange と分析されてしまったということだ(「#4. 最近は日本でも英語風の単語や発音が普及している?」 ([2009-05-03-1]) を参照).しかし,先立つアラビア語の段階でも,ときに n の脱落している語形があったようである.
 さて,やっかいなのは母音(字)である.歴史的には変異と変化が著しい.語頭母音(字)については,英語やフランス語ではおよそ o で固定していたが,イタリア語の段階までは a が主流である.OED によれば,o への変化は,地名としての Orange との類推,あるいは「黄金」を意味するフランス語 or との結び付き(すなわち「黄金の果物」)が指摘されているが,実際のところはどうなのか分からない.
 第2音節の母音(字)については,さらに混沌としている.OED によれば,中英語から初期近代英語にかけて,以下の種々の綴字が確認される.

horonge, oronge, orynge, orenge, orange, oreche, orenche, orrange, orrendge, orryge, orrynge, urring, orendge, oringe, orrenge, orringe, aurange, oreng, aurange, oireange, orang, oranȝe, oranje, oreinȝe, oreng, orenge, orenȝe, orenȝie, orenze, oreynȝe, oreynze, organege, oriange, orienge, orinche, oring, oringe, orinye, orrange, orrenge, orriange, orange


 a, e, i, o, y, ea, ey, ia, ie, など何でもありという状況である.語末子音の綴り方も含めて,とにかく多様な綴字があったことが分かるだろう.近代の綴字標準化の結果,最終的に orange が選ばれたわけだが,他の多くの単語の標準綴字と同様に,なぜとりわけこの綴字が選択されることになったのかを合理的に説明することは難しい.
 発音については,Longman Pronunciation Dictionary によると,現代イギリス英語では /ˈɒrɪnʤ/ が普通だが,現代アメリカ英語では /ˈɔːrɪnʤ/ が8割,/ˈɑːrɪnʤ/ が2割を占めるという.綴字にせよ発音にせよ,歴史的にどうも語形が定まりにくい単語のようだ.
 最後に,この語の第2音説の母音字としては a が採用されたわけだが,結果として <a> = /ɪ/ という比較的まれなマッチングが生じることになったことにも触れておく(damage, vintage, Israel などの類例はある).

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2014-11-11 Tue

#2024. 異分析による nauntnuncle [metanalysis][article][personal_pronoun][dialect]

 語境界の n が関与する異分析 metanalysis の英語史からの例を,「#4. 最近は日本でも英語風の単語や発音が普及している?」 ([2009-05-03-1]),「#27. 異分析の例を集めるにはどうすればよいか?」 ([2009-05-25-1]),「#475. That's a whole nother story.」 ([2010-08-15-1]),「#1306. for the nonce」 ([2012-11-23-1]),「#1951. 英語の愛称」 ([2014-08-30-1]) などで取り上げてきた.不定冠詞 an が関わることが多く,数の異分析 (numerical metanalysis) とも称されるが (cf. 「#344. cherry の異分析」 ([2010-04-06-1])) ,所有代名詞の mine, thine が関与する例も少なくない.
 今回は,現代英語では方言などに残るにすぎない非標準的な naunt (aunt) と nuncle (uncle) にみられる異分析を取り上げる.MED aunte (n.)OED naunt, n. によれば,この親族語の n で始まる異形は,a1400 (1325) Cursor Mundi (Vesp.) に þi naunt として初出する.ほかにも þy naunt, my nawnte など所有代名詞とともに現われる例が見られ,異分析の過程を想像することができる.naunt は後に標準語として採用されることはなかったが,Wright の English Dialect Dictionary (cf. EDD Online) によれば,少なくとも19世紀中には n.Cy., Wm., Yks., Lan., Chs., Stf., Der., Wor., Shr., Glo., Oxf., Som. など主としてイングランド西部で行われていた.
 同じように nuncle について調べてみると,MED uncle (n.)OED nuncle, n. に,異分析による n を示す þi nunkle のような例が15世紀に現われる.なお,人名としての Nuncle は1314年に初出するので,異分析の過程そのものは早く生じていたようだ.後期近代英語には,これから分化したと思われる nunky, nunks などの語形も OED に記録されている.EDD によれば,naunt と同じく n.Cy., Yks., Lan., Chs., Der., Lei., Wor., Shr., Glo., Hmp., Wil., Dor., Som., Dev. などの諸方言で広く観察される.
 所有代名詞の minethine に先行される異分析の例は,OED N, n. に詳述されているが,多くは14--16世紀に生じている.後の標準語として定着しなかったものも多いことと合わせて,これらの異分析形が後期中英語期にいかに受容されていたか,そして当時およびその後の方言分布はどのようなものだったかを明らかにする必要があるだろう.現代標準語に残っている異分析の例に加えて,必ずしも分布を広げなかったこのような「周辺的な」異分析の例を合わせて考慮することで,興味深い記述が可能となるかもしれない.
 なお,英語 aunt は,ラテン語 amita から古フランス語 aunte を経由して1300年頃に英語に入ってきたものだが,フランス語ではその後語頭に t を付加した tante が標準化した.『英語語源辞典』はこの t の挿入について,「幼児の使う papa 式の加重形 antante あるいは t'ante thy aunt に由来するなど諸説がある」としている.もし t'ante 説を取るのであれば,フランス語 tante と英語 naunt は音こそ異なれ,同様に異分析の例ということになる.

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2014-08-30 Sat

#1951. 英語の愛称 [shortening][personal_name][suffix][onomastics][metanalysis]

 愛称 (pet name) や新愛語 (term of endearment) は,専門的には hypocorism と呼ばれる.ギリシア語 hupo- "hypo-" + kórisma (cf. kóros (child))) から来ており,子供をあやす表現,小児語ということである.英語の hypocorism の作り方にはいくつかあるが,典型的なものは RobertRob のように語形を短くするものである.昨日の記事「#1950. なぜ BillWilliam の愛称になるのか?」 ([2014-08-29-1]) でみたように,語頭に音の変異を伴うものもあり,EdwardNed (cf. mine Ed), EdwardTed (cf. that Ed?), AnnNan (cf. mine Ann) のように前接要素との異分析として説明されることがある.
 ほかに,愛称接尾辞 (hypocoristic suffix) -y や -ie を付加する Georgie, Charlie, Johnnie などの例があり,とりわけ女性名に好まれる.また,短縮し,かつ接尾辞をつける ElizabethBetty, WilliamBilly, RichardRitchie なども数多い.接尾辞の異形として -sy, -sie もあり,ElizabethBetsy/Bessy, AnneNancy, PatriciaPatsy などにみられる.
 『新英語学辞典』 (542) によれば,歴史的には,接尾辞付加の慣習は15世紀中頃に Charlie などがスコットランドで始まり,それが16世紀以降に各地に広まったものとされる.また,『現代英文法辞典』 (670) によれば,本来は愛称であるから当初は正式名ではなかったが,18世紀から正式名としても公に認められるようになった.
 OALD8 の巻末に "Common first names" という補遺があり,省略名や愛称があるものについては,それも掲載されている.以下,そこから取り出したものを一覧にした(括弧を付したものは,別の参考図書から補足したもの).

1. Female names

AbigailAbbie
AlexandraAlex, Sandy
AmandaMandy
Catherine, Katherine, Katharine, KathrynCathy, Kathy, Kate, Katie, Katy
ChristinaChrissie, Tina
ChristineChris
DeborahDebbie, Deb
Diana, DianeDi
(Dorothy)(Dol)
EleanorEllie
ElizaLiza
Elizabeth, ElizabethBeth, Betsy, Betty, Liz, Lizzie
Ellen, HelenNell
FrancesFran
GeorginaGeorgie
GillianJill, Gill, Jilly
GwendolineGwen
JacquelineJackie
JanetJan
Janice, JanisJan
JenniferJenny, Jen
JessicaJess
JosephineJo, Josie
JudithJudy
KristenKirsty
MargaretMaggie, (Meg, Peg)
(Mary)(Moll, Poll)
NicolaNicky
PamelaPam
PatriciaPat, Patty
PenelopePenny
PhilippaPippa
RebeccaBecky
Rosalind, RosalynRos
SamanthaSam
SandraSandy
SusanSue, Susie, Suzy
Susanna(h), SuzanneSusie, Suzy
Teresa, TheresaTessa, Tess
ValerieVal
VictoriaVicki, Vickie, Vicky, Vikki
WinifredWinnie


2. Male names

AlbertAl, Bert
AlexanderAlex, Sandy
AlfredAlfie
AndrewAndy
(Anthony)(Tony)
BenjaminBen
BernardBernie
(Boswell)(Boz)
BradfordBrad
CharlesCharlie, Chuck
ChristopherChris
CliffordCliff
DanielDan, Danny
DavidDave
DouglasDoug
EdwardEd, Eddie, Eddy, (Ned), Ted
EugeneGene
FrancisFrank
FrederickFred, Freddie, Freddy
Geoffrey, JeffreyGeoff, Jeff
GeraldGerry, Jerry
GregoryGreg
HenryHank, Harry
HerbertBert, Herb
JacobJake
JamesJim, Jimmy, Jamie
JeremyJerry
John
Johnny
JonathanJon
JosephJoe
KennethKen, Kenny
Laurence, LawrenceLarry, Laurie
LeonardLen, Lenny
LeslieLes
LewisLew
LouisLou
(Macaulay)(Mac)
MatthewMatt
MichaelMike, Mick, Micky, Mickey
NathanNat
NathanielNat
NicholasNick, Nicky
PatrickPat, Paddy
(Pendennis)(Pen)
Peter, Pete
PhilipPhil
Randolph, RandolfRandy
RaymondRay
RichardRick, Ricky, Ritchie, Dick
RobertRob, Robbie, Bob, Bobby
RonaldRon, Ronnie
SamuelSam, Sammy
SebastianSeb
Sidney, SydneySid
StanleyStan
Stephen, StevenSteve
TerenceTerry
TheodoreTheo
ThomasTom, Tommy
TimothyTim
VictorVic
VincentVince
WilliamBill, Billy, Will, Willy


 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
 ・ 荒木 一雄,安井 稔 編 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.

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2014-08-02 Sat

#1923. only の意味の but [adverb][shortening][negative][negative_cycle][semantic_change][reanalysis][metanalysis][terminology][clipping]

 現代英語で but は多義語の1つである.用法が非常に多く,品詞だけみても接続詞,前置詞,代名詞,副詞,名詞,動詞までと範囲が広い.このなかで副詞としての用法に注目したい.文語において only の意味で用いられる but がある.例文を挙げよう.

 ・ He is but a child.
 ・ There is but one answer to your question.
 ・ There were a lot of famous people there: Tom Hanks and Julia Roberts, to name but two.
 ・ I heard it but now.
 ・ I don't think we'll manage it. Still, we can but try.


 but のこの意味・用法は歴史的にはどこから来たのだろうか.考えてみれば,He is but a child. という文は He is nothing but a child. とも言い換えられる.後者では but は「〜を除いて」の意の前置詞と分析され全体としては否定構造となるが,前者の肯定構造と事実上同義となるのは一見すると不思議である.しかし,歴史的には only の意味の but は,まさに nothing but のような否定構造から否定辞が脱落することによって生じたのである.短縮あるいは省略の事例である.Stern (264) は次のように述べている.

In English, an original ne--butan has been shortened to but: we nabbað her buton fif hlafas and twegen fiscas > we have here but five loafs and two fishes (Horn, Sprachkörper 90), he nis but a child > he is but a child (NED but 6). The immediate cause of the omission of the negation is not quite certain. It is not impossible that influence from other uses of but may have intervened.


 OED の but, prep., adv., conj., n.3, adj., and pron. の語義6aにも同趣旨の記述が見られる.

By the omission of the negative accompanying the preceding verb . . ., but passes into the adverbial sense of: Nought but, no more than, only, merely. (Thus the earlier 'he nis but a child' is now 'he is but a child'; here north. dialects use nobbut prep., conj., and adv. = nought but, not but, 'he is nobbut a child'.)


 なお,OED ではLangland (1393) がこの用法の初例となっているが,MEDbut (conj. (also quasi adj., adv., and prep.)) 2a によれば,13世紀の The Owl and the Nightingale より例が見られる.
 短縮・省略現象としては,ne butan > but の変化は,"negative cycle" として有名なフランス語の ne . . . pas > pas の変化とも類似する.pas は本来「一歩」 (pace) ほどの意味で,直接に否定の意味を担当していた ne と共起して否定を強める働きをしていたが,ne が弱まって失われた結果,pas それ自体が否定の意味を獲得してしまったものである(口語における Ce n'est pas possible. > C'est pas possible. の変化を参照).この pas の経た変化は,本来の意味を失い,否定の意味を獲得したという変化であるから,「#1586. 再分析の下位区分」 ([2013-08-30-1]) で示した Croft の術語でいえば "metanalysis" の例といえそうだ.
 確かに,いずれももともと共起していた否定辞が脱落する過程で,否定の意味を獲得したという点では共通しており,統語的な短縮・省略の例であると当時に,意味の観点からは意味の転送 (meaning transfer) とか感染 (contagion) の例とも呼ぶことができそうだ.しかし,butpas のケースでは,細部において違いがある.前田 (115) から引用しよう(原文の圏点は,ここでは太字にしてある).

ne + pas では,否定辞 ne の意味が pas の本来の意味〈一歩〉と完全に置き換えられたのに対して,この but の発達では,butan の意味はそのまま保持され,そのうえに ne の意味が重畳されている.この例に関して興味深いのは,否定辞 ne は音声的に消えてしまったのに,意味だけがなおも亡霊のように残っている点である.つまり,この but の用法では,省略された要素の意味が重畳されているぶん,but の他の用法に比べて意味が複雑になっている.


 したがって,but の経た変化は,Croft のいう "metanalysis" には厳密に当てはまらないように見える.前田は,but の経た変化を,感染 (contagion) ではなく短縮的感染 (contractive contagion) と表現し,pas の変化とは区別している.なお,Stern はいずれのケースも意味変化の類型のなかの Shortening (より細かくは Clipping)の例として挙げている(「#1873. Stern による意味変化の7分類」 ([2014-06-13-1]) を参照).

 ・ Stern, Gustaf. Meaning and Change of Meaning. Bloomington: Indiana UP, 1931.
 ・ 前田 満 「意味変化」『意味論』(中野弘三(編)) 朝倉書店,2012年,106--33頁.

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2013-08-30 Fri

#1586. 再分析の下位区分 [reanalysis][metanalysis][exaptation][analogy][terminology][do-periphrasis][negative_cycle]

 過去の記事で,再分析 (reanalysis) と異分析 (metanalysis) という用語をとりわけ区別せずに用いてきたが,Croft (82--86) は後者を前者の1種であると考えている.つまり,再分析は異分析の上位概念であるとしている.Croft によれば,"form-function reanalysis" は連辞的 (syntagmatic) な4種類の再分析と範列的 (paradigmatic) な1種類の再分析へ区別される.以下,各々を例とともに示す.

 (1) hyperanalysis: "[A] speaker ananlyzes out a semantic component from a syntactic element, typically a semantic component that overlaps with that of another element. Hyperanalysis accounts for semantic bleaching and eventually the loss of syntactic element" (82) .例えば,古英語には属格を従える動詞があり,動作を被る程度が対格よりも弱いという点で対格とは意味的な差異があったと考えられるが,受動者を示す点では多かれ少なかれ同じ機能を有していたために,中英語において属格構造はより優勢な対格構造に取って代わられた.この変化は,本来の属格の含意が薄められ,統語的に余剰となり,属格構造が対格構造に吸収されるという過程をたどっており,hyperanalysis の1例と考えられる.
 (2) hypoanalysis: "[A] semantic component is added to a syntactic element, typically one whose distribution has no discriminatory semantic value. Hypoanalysis is the same as exaptation . . . or regrammaticalization . . ." (83) .Somerset/Dorset の伝統方言では,3単現に由来する -sdo-periphrasis の発展が組み合わさることにより,標準変種には見られない相の区別が新たに生じた."I sees the doctor tomorrow." は特定の1度きりの出来事を表わし,"I do see him every day." は繰り返しの習慣的な出来事を表わす.ここでは,-sdo が歴史的に受け継がれた機能とは異なる機能を担わされるようになったと考えられる.
 (3) metanalysis: "[A] contextual semantic feature becomes inherent in a syntactic element while an inherent feature is analyzed out; in other words, it is simultaneous hyperanalysis/hypoanalysis. Metanalysis typically takes place when there is a unidirectional correlation of semantic features (one feature frequently occurs with another, but the second often does not occur with the first)." (83) .接続詞 since について,本来の時間的な意味から原因を示す意味が生み出された例が挙げられる."negative cycle" も別の例である.
 (4) cryptanalysis: "[A] covertly marked semantic feature is reanalyzed as not grammatically marked, and a grammatical marker is inserted. Cryptanalysis typically occurs when there is an obligatory transparent grammatical marker available for the covertly marked semantic feature. Cryptanalysis accounts for pleonasm (for example, pleonastic and paratactic negation) and reinforcement." (84) .例えば,"I really miss having a phonologist around the house." と "I really miss not having a phonologist around the house." は not の有無の違いがあるにもかかわらず同義である.not の挿入は,miss に暗に含まれている否定性を明示的に not によって顕在化させたいと望む話者による,cryptanalysis の結果であるとみなすことができる.
 (5) intraference: 同一言語体系内での機能の類似によって,ある形態が別の形態から影響を受ける例.Croft に詳しい説明と例はなかったが,範列的な類推作用 (analogy) に近いものと考えられる.interference が別の言語体系からの類推としてとらえられるのに対して,intraference は同じ言語体系のなかでの類推としてとらえられる.

 このような再分析の区分は,機能主義の立場から統語形態論の変化を説明しようとする際の1つのモデルとして参考になる.

 ・ Croft, William. "Evolutionary Models and Functional-Typological Theories of Language Change." Chapter 4 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 68--91.

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2013-05-15 Wed

#1479. his 属格の衰退 [genitive][clitic][synthesis_to_analysis][syntax][metanalysis]

 his 属格については「#819. his 属格」 ([2011-07-25-1]) で取り上げ,その英語史上の重要性を「#1417. 群属格の発達」 ([2013-03-14-1]) で論じた.
 後者では,Janda と Allen の見解の違いに言及した.Janda は名詞句の前接語 (enclitic) としての -'s の発達を媒介した構造として,his 属格をおおいに評価したのに対して,Allen は歴史的な -es 属格の統語的な異分析 (metanalysis) により十分に説明されるとして,his 属格の関与を評価しない.両者の議論には一長一短あるが,his 属格が用いられるようになったある段階で異分析が生じたということは間違いない.
 his 属格の出現と発達についてはさらに議論が必要だろうが,his 属格の衰退についてはあまり注目されない.his 属格は,古英語や中英語に萌芽が見られ,15世紀以降に盛んになり,17世紀まで存続したが,18世紀中頃までには廃れた.廃用となった背景には何があったのだろうか.
 Janda (247--48) は,次のように論じている.

Though 'very rare in the North and infrequent in the rest of the country, [it] gains ground considerably in the 15th century and remains a popular means of expression right down to the 17th' (M:161). 'The use of his . . . as a sign of the genitive . . . had its widest currency in the sixteenth and seventeenth centuries' (P:196). Use of the construction declined gradually thereafter, so that it was virtually lost by the mid-eighteenth century. It has been conjectured that '[t]he pronoun form dropped out partly perhaps because of the antipathy of most stylists from the sixteenth century on to "pleonastic" or repetitive pronouns' (T:125)--and, in general, to any analyticity (periphrasis) in English where it diverged from Latin syntheticity. (247--48)


 つまり,16世紀以降の文体論者が (1) his 属格のもつ冗長さを嫌い,(2) ラテン語のもつ総合性と対置される英語の分析性を嫌ったためではないかという.また,Janda は別の箇所 (250) で,-'s という表記上の慣例が確立すると,機能的にも,(h と母音の弱化による音節性の消失を通じて)音韻的にも等価な his 属格を分析的に解釈する契機が少なくなったのではないかという趣旨のことを述べている.文体的および音韻的な条件の組み合わせにより,his 属格よりも -'s のほうが圧倒的に好まれるようになったということだが,この仮説を受け入れるためには,いずれの条件についても詳細な検証が必要だろう.

 ・ Janda, Richard. "On the Decline of Declensional Systems: The Overall Loss of OE Nominal Case Inflections and the ME Reanalysis of -es as his." Papers from the Fourth International Conference on Historical Linguistics. Ed. Elizabeth C. Traugott, Rebecca Labrum, and Susan Shepherd. Amsterdam: John Benjamins, 243--52.
 ・ Allen, Cynthia L. "The Origins of the 'Group Genitive' in English." Transactions of the Philological Society 95 (1997): 111--31.

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2013-03-14 Thu

#1417. 群属格の発達 [genitive][clitic][synthesis_to_analysis][metanalysis][corpus][ppcme2][syntax]

 近代英語以降の apostrophe s は,名詞につく屈折接尾辞とみなすよりは,名詞句につく前接語 (enclitic) とみなすほうが正確である.というのは,the king of England's daughter のような群属格 (group genitive) としての用法が広く認められるからである.apostrophe s は,語に接続する純粋に形態的な単位というよりは,語群に接続する統語的な単位,すなわち接語 (clitic) とみなす必要がある.
 しかし,apostrophe s の起源と考えられる -es 語尾は,中英語以前には,確かに名詞につく屈折語尾だった.それが名詞句へ前接し,群属格を作る用法を得たのはなぜか.その契機は何だったのか.英語史でも盛んに議論されてきた問題である.
 一つの見方 (Janda) によれば,群属格への発展の途中段階で「#819. his 属格」 ([2011-07-25-1]) が媒介として作用したのではないかという.この説を単純化して示せば,(1) 属格語尾 -es と人称代名詞の男性単数属格 his とが無強勢で同音となる事実と,(2) 直前の名詞句を受ける代名詞としての his 属格の特性との2点が相俟って,次のような比例式が可能となったのではないかという.

king his doughter : king of England his doughter = kinges doughter : X
X = king of Englandes doughter


 しかし,Allen はこの説に同意しない.PPCME2 やその他の中英語テキストを走査し,関与するあらゆる例を検討した結果,his 属格が媒介となって群属格が生じたとする見解には,証拠上,数々の無理があるとする.Allen は,とりわけ,"attached genitive" (歴史的な -es 属格)と "separated genitive" (his 属格)との間に,統語環境に応じての分布上の差がないことを根拠に,中英語の his 属格は "just an orthographical variant of the inflection" (118) であると結論する.
 では,群属格の発達が his 属格を媒介としたものではなかったとすると,他にどのような契機がありえたのだろうか.Allen はその答えとして,"the gradual extension of the ending -es to all classes of nouns, making what used to be an inflection indistinguishable from a clitic" (120) を提案している.14世紀末までに属格語尾が一律に -(e)s を取り得るようになり,これがもはや屈折語尾としてではなく無変化の前接語と捉えられるに至ったのではないかという.また,最初期の群属格の例は,The grete god of Loves name (Chaucer, HF 1489) や þe kyng of Frances men (Trevisa's Polychronicon, VIII, 349.380) に見られるような,出自を示す of 句を伴った定型句であり,複合名詞とすら解釈できるような表現である.これが一塊と解され,その直後に所有を示す -(e)s がつくというのはまったく不思議ではない.
 さらに Allen は,16世紀後半から現われる his 属格と平行的な her 属格や their 属格については,すでに-(e)s による群属格が確立した後の異分析 (metanalysis) の結果であり,周辺的な表現にすぎないと見ている.この異分析を,"spelling pronunciation" ならぬ "spelling syntax" (124) と言及しているのが興味深い.
 Allen の結論部を引用しよう (124) .

A closer examination of the relationship between case-marking syncretism and the rise of the 'group genitive' than has previously been carried out provides evidence that the increase in syncretism led to the reanalysis of -es as a clitic. There is evidence that this change of status from inflection to clitic was not accomplished all at once; inflectional genitives coexisted with the clitic genitive in late ME and the clitic seems to have attached to conjoined nouns and appositives before it attached to NPs which did not end in a possessor noun. The evidence strongly suggests that the separated genitive of ME did not serve as the model for the introduction of the group genitive, and I have suggested that the separated genitive was an orthographic variant of the inflectional genitive, but that after the group genitive was firmly established there were attempts to treat it as a genitive pronoun.


 Allen は Appendix I にて,Mustanoja (160) 等がhis 属格として挙げている古英語や中英語からの例([2011-07-25-1]で挙げた例)の多くが疑わしい例であると論じている.
 なお,群属格については,Baugh and Cable (241) にも簡単な言及がある.

 ・ Janda , Richard. "On the Decline of Declensional Systems: The Overall Loss of OE Nominal Case Inflections and the ME Reanalysis of -es as his." Papers from the Fourth International Conference on Historical Linguistics. Ed. Elizabeth C. Traugott, Rebecca Labrum, and Susan Shepherd. Amsterdam: John Benjamins, 243--52.
 ・ Allen, Cynthia L. "The Origins of the 'Group Genitive' in English." Transactions of the Philological Society 95 (1997): 111--31.
 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2013-02-14 Thu

#1389. between の語源 [etymology][preposition][prescriptive_grammar][metanalysis]

 規範文法では,betweenamong の使い分けについて,前者は「2つのものの間」,後者は「3つ以上のものの間」の意味に使うべし,とされている.この両者の区別の記述は,実際の使用に照らした記述的な観点からは多くの点で不十分だが,守るべき規則としてこだわる人は多い.この規則の拠って立つ基盤は,between の語源にある.語源が "by two" であるから,当然,目的語には2つのものしか来てはならないというわけである.
 では,もう少し詳しく between の語源をみてみよう.古英語では,betwēonum の系列と betwēon の系列とがあった.前者の後半要素 -twēonum は数詞 twā (two) の複数与格形に対応し,後者の後半要素 -twēon は同語の中性複数対格形に対応する.前者の系列は,betwēonan などの異形態を発達させて中英語で bitwene(n) となり,後者の系列は北部方言に限られたが中英語で bitwen となった.語尾音の弱化と消失により,結局のところ15世紀には2系列が融合し,現代の between に連なる形態が確立した.つまり,between は,古英語に遡る2系列の形態が,中英語において融合した結果と要約することができる.古英語で between the seas などの構文は,be sǣm twēonum "by seas two" として現われることから,本来 "by" と "two" は別々の統語的機能を担っていたと考えられるが,"by two seas" のように接する位置に並んだときに,1つの複合前置詞と異分析 (metanalysis) されるに至ったのだろう.類例に,to us-wardto-ward us の異分析がある.
 さて,between には,古めかしい同義語がある.betwixt である.こちらは古英語 betwēox に由来するが,後半要素 -twēox を遡ると,ゲルマン祖語の *twa "two" + *-iskaz "-ish" にたどりつく.「2つほどのものの間」というような,やんわりとした原義だったのだろうか.古英語でも betwux, betyx などの異形態があったが,中英語では bitwix(e) などの形態が優勢となった.1300年頃に,「Dracula に現れる whilst」 ([2010-09-17-1]) や「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1]) で触れたように,語尾に -t が添加され,これが一般化した.なお,現代英語の口語に,betwixt and between (どっちつかず,はっきりしない)という成句がある.
 中英語における異綴りなどは,MED "bitwēne (prep.)" および "bitwix(e) (prep.)" を参照.
 なお,冒頭に述べた betweenamong の規範的な使い分けについて,OED "between, prep., adv., and n." は語義19において,記述的な観点から妥当な意見を述べている.

In all senses, between has been, from its earliest appearance, extended to more than two. . . . It is still the only word available to express the relation of a thing to many surrounding things severally and individually, among expressing a relation to them collectively and vaguely: we should not say 'the space lying among the three points,' or 'a treaty among three powers,' or 'the choice lies among the three candidates in the select list,' or 'to insert a needle among the closed petals of a flower'.


 Fowler's (106) でも,規範的な区別の無効たることが示されている.小西 (176) では,「between を3つ以上のものに用いる用法は次第に容認される傾向があり,特に米国ではその傾向が著しい」とある.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

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2013-02-13 Wed

#1388. inorganic for [preposition][syntax][metanalysis][germanic]

 現代英語の文法に,to 不定詞の意味上の主語を表わすために「for + (代)名詞」を前置させる構文がある.この for は主語を明示するという文法的な機能を担っているにすぎず,実質的な意味をもたないので,"inorganic for" と呼ばれることがある.for . . . to . . . 構文の起源と発達は英語史でも盛んに扱われている問題だが,現代英語のように同構文を広く自由に利用できる言語はゲルマン諸語を見渡してもない.自由奔放な使用例として "Hearne was no critic. A hasty and ill-natured judgment might conclude that it sufficed for a document to appear old for him to wish to print it." などを挙げながら,Zandvoort (265) は inorganic for を含む構文について次のように評している.

Both in familiar and in literary style this construction has branched out in so many directions that not only has it become one of the most distinctive features of modern English syntax, but on occasion, too, one of those that may be employed to give to an utterance a somewhat esoteric turn.


 上で自由奔放と呼んできたのは,"It is absurd for us to quarrel." のような典型的な用法のみならず,様々な統語環境に現われうるからだ.例えば,"The rule was for women and men to sit apart." のような主格補語での用法,"For us to have refused the loan would have been a declaration of economic war." のような条件あるいは結果の用法,"She longed for him to say something." や "I always wanted so for things to be beautiful." のような動詞の後に置かれる用法,"I am not afraid for them to see it." のように形容詞の後に置かれる用法,"There were cries for the motion to be put." のように名詞と関わって目的を表わす用法など.Zandvoort (268) は,inorganic for のこれらの用法を体系的に記述した文法書が見当たらないなかで,Kruisinga の未刊の講義ノートに収められていた,簡潔にして的を射た記述を見つけ,絶賛した.

Prepositional Object and Stem with to.
Type: I shall be glad for you to help us. --- With regard to the facts of Living English it must be understood that the constr. is a supplementary one to the plain object & stem. the two are really parallel: a) the plain obj. & verbal stem are used with verbs; b) the preposit. object & stem is used with nouns & adjectives chiefly, and as a subject & nom. predicate, i.e. in practically all the other functions when a stem with to can be used at all. Finally the prep. obj. with stem is found with verbs, in a more or less clearly final meaning (see quot. in Shorter Acc.: pushing the glasses along the counter nodded for them to be filled).


 "It is absurd for us to quarrel." などの構文の起源については,英語史では "It is absurd for us | to quarrel." → "It is absurd | for us to quarrel." という統語上の異分析 (metanalysis) によるものとされている.Zandvoort (269) は,この異分析が可能となるためには for usabsurd の後ろに現われることが必要であり,英語の語順ではこの条件を満たしているという点を重視する.ドイツ語やオランダ語では,問題の for us に相当する部分は形容詞の前に現われるのであり,異分析はあり得ない.同族言語との比較に基づき,この構文の起源の問題には "the fixity of English word-order" (269) という観点を含める必要があるとの主張は説得力がある.

 ・ Zandvoort, R. W. "A Note on Inorganic For." English Studies 30 (1949): 265--69.

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2013-01-04 Fri

#1348. 13世紀以降に生じた v 削除 [phonetics][etymology][metanalysis][consonant]

 [v] をはじめとする有声摩擦音は母音の前後で失われやすいという音声的特徴がある.有声摩擦音自身が,歴史的には,対応する破裂音の弱化によって生じている場合もある.ラテン語 rīpam "bank, shore", sētam "silk", focum "hearth" の語中破裂音が,スペイン語では riba, seda, fuego "fire" と摩擦音化しており,フランス語では rive, soie, feu のようにさらに弱化あるいは消失している (Bloomfield 374) .
 話題を [v] に限定すれば,英語でも,この子音は母音の前後でしばしば削除されている.現代英語の auger, curfew, had, head, kerchief, lady, lark, lord, poor は,発音に [v] が含まれていないが,いずれも本来は [v] をもっていた.[v] の削除は13世紀以降に生じたものとされている.
 中尾 (401, 410--11) によれば,[v] の削除された環境にはいくつかの種類が認めらられる.ここでは3種類を取り上げよう.1つ目は,a に後続し,k, g, l に前置される環境である.例えば,augerhawk などで,歴史的な [v] が削除されている.前者は古英語 nafogār に遡り,これは nafu "nave" + gār "spear" の合成語である.中英語期に ag に挟まれた結果 [v] が削除され,さらに a naugeran auger異分析が生じたものである(異分析については,[2009-05-03-1]の記事「#4. 最近は日本でも英語風の単語や発音が普及している?」および metanalysis の各記事を参照).後者は,古英語 h(e)afoc の中英語形において [v] が削除されたものである.
 2つ目は d の前位置においてであり,古英語の hæfde "had", hēafdes "head's", hlǣfdige "lady" などにおいて [v] が消失した.
 3つ目は,強勢のある長母音の後位置で,かつ r(C), l, m, n の前位置においてであり,古英語の lāferce "lark" や,古フランス語からの借用語 cuevrechief "kerchief", cuevrefeu "curfew", povre "poor" などにおいて [v] が消失した.
 関連して,ladylord の語史については,「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]) を参照.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
 ・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.

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2012-11-23 Fri

#1306. for the nonce [etymology][inflection][metanalysis][terminology][sir_orfeo][oed][dative][genitive][ormulum]

 for the nonce (さしあたって,当座は;当分)という句がある.The team is called "the Lions," at least for the nonce. のように使われる.この表現には,定冠詞 the のかつての屈折形の名残がみられ,語源的に興味深い.
 現在の形態に直接につながる初例は,1200年くらいの作とされる Ormulum において forr þe naness として現われる.第3語の語頭の n は,直前の定冠詞の初期中英語での単数与格屈折形 þen の語末の n異分析 (metanalysis) されたものであり,語幹の一部と再解釈されて現在に至っている.かつての単数与格屈折語尾が意外なところで化石的に生き残っている例である.
 この句は,形態的にも意味的にも現代英語でいう *for the once に対応するかのように見えるが,歴史的には第3語を once あるいは one's[2009-07-18-1]の記事「#81. oncetwice の -ce とは何か」を参照)に相当する初期中英語の属格に基づく表現に直接由来すると解するには難点がある.OED によれば,属格形は確かに間接的には関与するだろうが,この句は,むしろ古英語に見られる to þam anum や その初期中英語版 to þan ane などと比較されるべき,one の与格を含む表現として始まったのではないかという.後に定着した属格形は,与格形が置換されたものと考えられる.置換の理由としては,「一度」を意味するのに属格に由来する anes, ones と並んで,与格に由来する ane, ene も用いられたことから,両者の交替が自然だったのではないか.
 中英語では,異分析が生じる前の形態と生じた後の形態が共存しており,MED には ōnes (adv.) の語義5と nōnes (n.(1)) の語義1の両方に,この句が登録されている.後者によれば,現在に伝わる「臨時に」と「当座は」の語義のほかに,強意語として "indeed" ほどの語義や,韻律的な埋め草としての意味の希薄な用法があると記載されている.強意あるいは埋め草としての例を,Bliss 版 Sir Orfeo (Auchinleck MS, ll. 51--56) から引こう.

Þe king hadde a quen of priis
Þat was y-cleped Dame Heurodis,
Þe fairest leuedi, for þe nones,
Þat miȝt gon on bodi & bones,
Ful of loue & of godenisse;
Ac no man may telle hir fairnise.


 句として以外にも,nonce には「臨時の」という形容詞としての用法がある.名詞とともに一種の複合語を形成して,言語学の術語として nonce-word (臨時語),nonce-form (臨時形)などと使う.この用法の初例は,OED の編纂者 James Murray が1884年に OED 初版の説明書きに用いたときである.

1884 N.E.D. Fasc. 1, p. x, Words apparently employed only for the nonce, are, when inserted in the Dictionary, marked nonce-wd.


 OED にこの旨が詳しく記載されているのだから,OED による自作自演の用法といってよいだろう.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.

Referrer (Inside): [2015-10-16-1] [2014-11-11-1]

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2012-06-23 Sat

#1153. 名詞 advice,動詞 advise [spelling][etymological_respelling][etymology][metanalysis][caxton][loan_word][pronunciation_spelling]

 名詞は <advice> /ədˈvaɪs/ で,動詞は <advise> /ədˈvaɪz/ と異なるのはなぜか.発音と綴字の両方にかかわる素朴な疑問が寄せられた.OED や語源辞典の記述を参考に,謎を解いてゆく.
 まず,この語の成り立ちを振り返ってみる.ラテン語の接頭辞 ad- "to" に,vidēre "to see" の過去分詞 vīsum を加えたもので,原義は "according to one's view" ほどである.ここから,俗ラテン語へ *advīsu(m) "opinion" として伝わったのではないかと考えられている.古仏語における語形成もこれと平行的だったと想定されており,ce m'est à vis "this is according to my view" が ce m'est avis "this is my view" と異分析されたものと説明されることが多い.また,俗ラテン語や古仏語では,この名詞より *advīsāre > aviser という動詞が派生した.
 英語へは,14世紀に古仏語から,名詞と動詞の両形が借用された.当初は,いずれの綴字にも,第1子音字として <d> は挿入されておらず,最終子音字も <c> ではなく <s> だった.一方,フランス語側では,14--16世紀に,写字生がラテン語形を参照して <d> を復活させた綴字 advis が現われる([2011-02-09-1]の記事「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」を参照).これを15世紀に Caxton が英語へ導入し,定着させた.同じ15世紀には,第2母音が長音であることを明示するために語尾に <e> が添加された.そして,16世紀には,名詞形について,語尾子音が無声であることを明示するために <s> が <c> へ書き換えられた.まとめれば,14--16世紀にかけての avis > advis > advise > advice という発音および綴字の変化を追うことができる.
 動詞については,フランス語 aviser に由来するものとして <s> は有声子音を表わしたので,上の経路の最終段階に見られる <c> への書き換えを被ることはなかった.もっとも,実際には,初期近代英語で,動詞形に <c> の綴字もあったようで,名詞形との多少の混同はあったようである.
 名詞 advice と動詞 advise の綴字は,etymological_respelling や "pronunciation spelling" ([2011-07-05-1], [2011-07-31-1]) といった複雑な過程の結果であり,その区別は語源的なものではない.同様の例として,名詞 prophecy と動詞 prophesy もある.こちらも,18世紀に確立した非語源的な綴字の対立である.

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2012-04-26 Thu

#1095. acknowledge では <kn> が /kn/ として発音される [spelling_pronunciation_gap][blend][contamination][metanalysis][etymology]

 「#122. /kn/ で始まる単語」 ([2009-08-27-1]) の記事で,形態素の頭の /kn/ が歴史的に /k/ を弱化・消失させてきたために,現在,綴字 <kn> に対して発音 /n/ が対応する結果となっていることを説明した.ただし,形態素をまたいで /k-n/ が連続する場合には,/k/ は失われなかった.この例として acknowledge ( ac- + knowledge ) を挙げたが,この語には混成 (blend or contamination) や異分析 (metanalysis) という興味深い現象が関わっている.今日はこの点について触れたい.
 現代英語の綴字 <acknowledge> から判断するに,この語は ac + know + ledge へと形態素分析できるようにみえる.know が語根であり,そこへ接頭辞 ac- と接尾辞 -ledge が付加したかのような体裁をしている.だが,これが全体として動詞として機能しているというのは意外である.というのは,ledge (< OE -lāc) は,knowledgewedlock ([2011-05-12-1]の記事「#745. 結婚の誓いと wedlock」を参照)などに見られる通り,名詞を派生する接尾辞だからだ(ただし,これには音韻的な対応が認められておらず,他説も提案されている).一方,接頭辞 ac- のほうは,前置詞 on に相当する接頭辞が変形したものである.古英語には,oncnāwan (認める;承認する)という語があり,acknowledge との意味上の連続性は疑いえない.
 諸事情をまとめると,acknowledge は次のような語形成を経たのではないかと推測される.まず,古英語に "know" を語根とする oncnāwan という派生動詞が存在した.一方,"know" を語根とする派生名詞として,knoulech(e) が中英語期の早い段階の12世紀に現われた.この名詞は,品詞転換によりそのまま動詞としても用いられており,この語形と動詞としての役割は,意外にも早くから関連づけられていたのかもしれない.oncnāwan に由来する語と knoulech(e) とが中英語後期に混成し,aknowleche という語が生まれた.
 生まれた当初より,語根の頭の /k/ が接頭辞の末尾へ引きつけられたような異分析的綴字 <ack-> が用いられており,すでに接頭辞は,本来語の on- に由来するものではなく,ロマンス的な a(c)- (ex. accept, acquire) として再解釈されていたことがうかがわれる.結果として,/k/ は接頭辞側の音として認識されるようになり,17世紀末から18世紀にかけて know(ledge) などの語で語頭の /k/ が消失した際にも,acknowledge の /k/ は消失を免れたのである.
 語源学的な観点に立てば,acknowledge(ment) は,英語語根 know の派生語のなかで唯一 /k/ 音を保った語ということができるが,混成や異分析という共時的・心理的観点に立てば,保たれた /k/ は,語根に属する音ではなく接頭辞に属する音と考えるべきだろう.

Referrer (Inside): [2012-11-07-1]

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2012-02-08 Wed

#1017. par の派生語 [etymology][derivation][metanalysis][semantic_change]

 ラテン語 pār という形容詞の中心的な語義は "equal, equal to, a match for, of the same rank or age, fit, meet, suitable, proper, right" だが,ここから多くの派生語が生み出され,いくつかは英語にも借用されている.福島 (469--71) より,英語に入った語を列挙すると以下の通り.

compare, comparable, incomparable, incomparably, comparative, comparatively, comparison; par, parity, disparity; pair; peer, compeer, peerage, peerless; disparage, disparagement; umpire


 compare の原義は「同等のものをつき合わせる」であり,現在では廃義となっているが「ライバル」を表わす名詞としても用いられた.同等者を敵とみるか味方とみるかは紙一重で,compeer はむしろ後者のとらえかたを反映しており,「仲間」や「同僚」を表わす.同様に,peer は,親族で世襲される「貴族」の意味を発達させた.英語へ借用された par は「平価,額面価格」を意味する.pair は同類のもの2つからなる1組である.umpire は,[2010-07-25-1]の記事「#454. GVS で二段階を経たように見える brier, choir, friar, umpire」でみたように,non-peer (同等でない者)の最初の n異分析 (metanalysis) され,脱落した語形に由来する.
 さて,ラテン語 pār は,印欧祖語の *perə- "to allot" にさかのぼり,語根の意味は「割り当てる,あてがう」といったところだろうか.「当てる」から始まり,「相応させる」,「比べる」,「同等」,「同位の者」などへと意味が発展し,次々と派生語が生み出されたものとみることができるだろう.
 今回 pār の一連の派生語を取りあげたのは,その意味の広がりが,日本語のある語根の場合とおもしろいほど一致するからである.それについては明日の記事で.

 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.

Referrer (Inside): [2012-02-09-1]

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2012-01-31 Tue

#1009. ルーン文字文化と関係の深い語源 [runic][etymology][metanalysis]

 [2010-06-24-1]の記事「#423. アルファベットの歴史」及び[2012-01-28-1]の記事「#1006. ルーン文字の変種」で,ルーン文字の起源に触れた.起源については不明な点も多いが,英語に残っているいくつかの語の語源から,ルーン文字文化のなにがしかについて知ることができる.
 ルーン文字の書き方あるいは刻み方について示唆を与える語は,write である.この語は印欧祖語に遡る古い歴史をもっているが,「木または樹皮に傷をつけて,文字などを彫る」という語義をもっていた.類似する語義は,ドイツ語 reißen (引きちぎる)に残る.日本語でも「書く」は「掻く」に通ずる.
 ルーン文字が秘術的に謎めいた文句を引っ掻くものだったとすれば,それを読み解く作業こそが read だったにちがいない.古英語 rǣdan には「(夢・なぞの)意味を読み取る,解釈する」の語義が認められ,単に「読む」というよりも「言い当てる」の含意が強い.この名残は,read one's mind, read the future, read a riddle などの表現に残る.最後の表現にある riddle 自体が,関連する古英語 rǣdels (謎)に由来し,同族目的語の構文といえる.14世紀に語尾の -s が複数語尾として異分析 (metanalysis) され,現在の形態の原型が作られた([2010-04-06-1]の記事「#344. cherry の異分析」を参照).
 ルーン文字で掻いた(書いた)素材といえば,beech (ブナの木)だったかもしれない.母音交替を通じて book にも通じる可能性があることは,[2011-01-19-1]の記事「#632. bookbeech」で触れた.
 最後に,rune 自体の語源だが,伝統的には,古英語 rūn (ささやき,神秘,魔術)に由来すると解釈されてきた.しかし,「秘術」の connotation は,古ノルド語の対応する語にはあったとしても,古英語にはその証拠がない.古英語ではむしろ,キリスト教にすでに同化した語として「知識の共有」ほどの意味で用いられたとする説がある (Crystal 9) .古英語 rūn は現代英語では */raʊn/ となるはずだが,これは残っていない.実のところ,「ルーン文字」としての rune の初出は17世紀末のことで,北欧学者によるラテン語を経由しての再導入である.近現代では,rune は豊かで神秘的な connotation を得て,今なお人々の想像力をかき立てている.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2017-07-05-1]

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2012-01-15 Sun

#993. flat adverb についてあれこれ [flat_adverb][adverb][adjective][swearword][intensifier][metanalysis][hendiadys]

 年が明けて以来,flat_adverb についていくつか記事を書いてきた.調べているうちに諸々の話題が集まってきたので,雑記として書き残しておきたい.

 (1) 「主にくだけた口語で用いられ,本来の副詞より端的で力強い表現」(小西,p. 507);「単純形副詞がよく用いられるのは,文が比較的短く,幾分感情的色彩がある場合で,口語体ではより力強い表現として好まれる傾向がある: It hurts bad. / Take it easy. / Go slow.」(荒木, p. 522)
 (2) 米の口語・俗語で多用されることは既述だが,さらに例を挙げる(荒木,pp. 86, 91).ex. act brave, dance graceful, land safe, work regular, sit tight, mighty dangerous, reasonable busy, moderate good luck, everlasting cold, get ugly drunk, hustlingest busy; I see things different than I used to.; You are plain lucky.
 (3) 歌曲の題名などで臨時的に用いられる.ex. "Love Me Tender", "Treat me nice".
 (4) 副詞としての very の起源が示すとおり ([2012-01-12-1], [2012-01-13-1]) ,名詞を修飾する類義の形容詞の連続において,前の形容詞が後の形容詞を修飾する副詞として異分析される例がみられる (ex. an icy cold drink, a blazing hot fire) .さらに,名詞がなくとも独立して burning hot, soaking wet, dazzling white なども見られる(大塚,p. 589).
 (5) 形容詞と副詞が同形のペアには5種類あり,以下の iii, iv 辺りが典型的に flat adverb と呼ばれるものだろう (Huddleston and Pullum 568) .

i daily, hourly, weekly, deadly, kindly, likely
ii downright, freelance, full-time, non-stop, off-hand, outright, overall, part-time, three-fold, wholesale, worldwide
iii bleeding, bloody, damn(ed), fucking
iv clean, clear, dear, deep, direct, fine, first, flat, free, full, high, last, light, loud, low, mighty, plain, right, scarce, sharp, slow, sure, tight, wrong
v alike, alone, early, extra, fast, hard, how(ever), late, long, next, okay, solo

 (6) flat adverb と -ly adverb では,分裂文 (cleft sentence) で焦点化された場合の容認可能性が異なる.flat adverb は,動詞句と分断されることにより形態だけでは副詞とわかりにくくなるために,容認度が低くなるのではないか(荒木,p. 522).

 *It was slow that he drove the car into the garage. vs It was slowly that he drove the car into the garage.
 *It was loud that they argued. vs It was loudly that they argued.

 ただし,flat adverb が等位接続されたり別の語で修飾されると,副詞であることが明確になり,容認されやすい.ex. It was loud and clear that he spoke.; It was extremely loud that they argued.
 (7) A and B と形容詞を等位接続すると,A-ly B ほどの意となる二詞一意 (hendiadys) の例も,形容詞の副詞化という現象の一種としてとらえることができそうだ(大塚,pp. 531, 589).ex. nice and cool (= "nicely cool"), good and tired (="well tired"), rare and hungry (="quite hungry").

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
 ・ 荒木 一雄,安井 稔 編 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
 ・ 石橋 幸太郎 編 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.

Referrer (Inside): [2016-08-19-1]

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2012-01-13 Fri

#991. 副詞としての very の起源と発達 (2) [etymology][semantic_change][conversion][adverb][adjective][flat_adverb][intensifier][metanalysis]

 昨日の記事[2012-01-12-1]に引き続き,強意の副詞 very の歴史について付言.昨日は,very が統語的に形容詞とも副詞ともとれる環境こそが,副詞用法の誕生につながったのではないかという Mustanoja の説を紹介した.MED も同様に考えているようで,"verrei (adj.)" の語源欄にて,解釈の難しいケースがあることに触れている.

When verrei adj. precedes another modifier, it is difficult if not impossible to distinguish (a) the situation in which both function as adjectives modifying the noun, from (b) that in which the modifier nearest the noun forms a syntactic compound with it (which compound is modified by verrei) and from (c) that in which verrei functions as an adverb modifying the adjective immediately following; some exx. of (a) and (b) now in this word may = (c) and belong to verrei adv.


 例えば,a verrai gentil man という句で考えれば,(a) の読みでは "a true gentle man",(b) では "a true gentleman",(c) では "a truly gentle man" という現代英語の表現に示される統語構造の解釈となる.この種の境目のあいまいな構造から,異分析 (metanalysis) の結果,副詞としての very が発達したと考えられる.
 しかし,ここで起こったのは形容詞から副詞への品詞転換 (conversion) にすぎず,「真実,本当」という原義はいまだ保持していた.とはいえ,「真実に,本当に」の原義から「とても,非常に」の強意の語義への道のりは,きわめて近い.語義間の差の僅少であることは,MED "verrei (adv.)" の 2 の (a) から (d) に与えられている語義のグラデーションからもうかがい知れる.各語義を表わす例と文脈を見比べても,互いに意味がどう異なるのか,にわかには判断できない.
 「真実に」か「とても」かの僅差を実感するには,今日でも用いられる手紙の "sign-off" の文句の例が適当だろう.very の副詞としての用法が発達した初期の例として,Paston Letters の締めの文句 Vere hartely your, Molyns がある.ここでは hartely は "sincerely, affectionately" ほどの意で,vere は「真実に」の原義と,単純に強意を示す「とても」の語義とが共存している例と解釈したい (Room 278) .
 以上のように,very は,フランス語形容詞の借用→形容詞「真実の」→副詞「真実に」→副詞「とても」へ,用法と語義を発展させてきた.しかし,現在,発展の最終段階ともいうべきもう1つの変化が進行中である.それは強意語の宿命ともいえる意味変化なのだが,肝心の強意がその勢いを弱めてきているというものである.以下は,シップリーの mere の項で触れられているコメント.

very (非常に)はほとんど力のない言葉になってしまった。I'm very glad to meet you. (お会いできてとてもうれしい)は,I'm glad to meet you. (お会いできてうれしい)よりも,しばしば誠意に欠ける表現となることがある。


 very の意味変化には,語の一生のドラマが埋め込まれている.いや,一生というには時期尚早だろう.なんといっても,very は,今,最盛期にあるのだから.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.

Referrer (Inside): [2012-01-15-1] [2012-01-14-1]

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