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最終更新時間: 2024-04-24 16:18

2022-09-17 Sat

#4891. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第19回「なぜ単語ごとにアクセントの位置が決まっているの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][stress][prosody][french][latin][germanic][gsr][rsr][contact][borrowing][lexicology][hellog_entry_set]

 『中高生の基礎英語 in English』の10月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第19回は「なぜ単語ごとにアクセントの位置が決まっているの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2022年10月号



 英単語のアクセント問題は厄介です.単語ごとにアクセント位置が決まっていますが,そこには100%の規則がないからです.完全な規則がないというだけで,ある程度予測できるというのも事実なのですが,やはり一筋縄ではいきません.
 例えば,以前,学生より「naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか?」という興味深い疑問を受けたことがあります.これを受けて hellog で「#3652. naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか?」 ([2019-04-27-1]) の記事を書いていますが,この事例はとてもおもしろいので今回の連載記事のなかでも取り上げた次第です.
 英単語の厄介なアクセント問題の起源はノルマン征服です.それ以前の古英語では,アクセントの位置は原則として第1音節に固定で,明確な規則がありました.しかし,ノルマン征服に始まる中英語期,そして続く近代英語期にかけて,フランス語やラテン語から大量の単語が借用されてきました.これらの借用語は,原語の特徴が引き継がれて,必ずしも第1音節にアクセントをもたないものが多かったため,これにより英語のアクセント体系は混乱に陥ることになりました.
 連載記事では,この辺りの事情を易しくかみ砕いて解説しました.ぜひ10月号テキストを手に取っていただければと思います.
 英語のアクセント位置についての話題は,hellog よりこちらの記事セットおよび stress の各記事をお読みください.

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2020-02-25 Tue

#3956. 語形と韻脚がよく一致していた古英語と一致しなくなり始めた中英語 [prosody][meter][syllable][french][loan_word][rsr]

 語形 (wordform) と韻脚 (foot) は,各々独立した単位である.片方は形態音韻論上の単位,もう一方は韻律論上の単位として,各々異なるレベルで役割を担っている.しかし,両者は一致することもよくある.実際,2音節の語形は原則として韻脚に乗るだろう.
 歴史的にみると語形と韻脚の一致度は減少傾向にあるようだ.Ritt (122) が次のように論じている.

It seems that English changed from a language in which isomorphy between feet and wordforms was relatively common into one in which it was the exception rather than the rule. . . . Old English word stress fell, as a rule, on the leftmost syllable of the stem. Furthermore, Old English wordforms tended to consist of a stem plus inflectional endings, so that Old English wordforms would typically consist of one stressed and one or more unstressed syllables. Since this type of structure is practically identical with the optimal foot structure, it is easy to see why Old English wordforms very often tended to coincide with feet. It can be assumed that this tendency of feet and wordforms to coincide remained unchanged until well into the Middle English Period. Then, however, the relationship became unbalanced due to two factors. First, the number of monosyllabic words, which was already high in Old English, increased steadily until monosyllabism became typical of English wordforms. A comparison of Old English texts (Beowulf and The Battle of Maldon) and Middle English ones (The Owl and the Nightingale and Chaucer's Canterbury Tales) shows that in Old English less than half of all wordforms used were monosyllabic, while in Middle English roughly two-thirds were. Second, a large number of French loan words were integrated into the English lexicon, and many of them were stressed on their final syllables. It is easy to see that the combination of these two factors must have decreased the probability of feet to coincide with wordforms considerably.


 古英語の語形は典型的に「1音節の語幹(強勢)+1音節の屈折語尾(弱勢)」という構成なので,2音節の韻脚ときれいに重なることが多い.ところが,中英語にかけて屈折語尾が衰退し,1音節の語形が増えてくると,1つの語形のみで1つの韻脚を構成することができなくなってくる.つまり,形態音韻論と韻律論がかみ合わなくなってくる.さらに中英語期には,異質な強勢規則 (= Romance Stress Rule; rsr) をもつフランス語からの借用語が大量に流入し,英語本来の「強弱」の語形とともに「弱強」などの語形も増えてきた.こうして,語形が従来型の韻脚に必ずしも乗らないことが多くなってきた.つまり,古英語から中英語にかけての一連の変化を通じて,英語は類型的にいって語形と韻脚が一致しやすいタイプの言語から一致しにくいタイプの言語へとシフトしてきたことになる.
 この類型的なシフトは何を意味するのだろうか.様々な含蓄があると思われるが,1つには韻律の作用する場が,形態音韻論上の単位である語(形)というよりも,それより大きな句や節といった統語論上の単位へ移り変わったということがある.形態音韻論上の単位である語(形)の側からみれば,韻律からのプレッシャーがかからなくなり,その分,韻律の要請による語の内部での音変化(特に量の変化)が抑制されるといった効果があっただろう.換言すれば,語(形)がより安定するようになったといえるかもしれない.
 屈折の衰退と語(形)の1音節化については「#655. 屈折の衰退=語根の焦点化」 ([2011-02-11-1]),「#2626. 古英語から中英語にかけての屈折語尾の衰退」 ([2016-07-05-1]) を参照.また,屈折の衰退とフランス借用語の導入という2つの要因は,今回の話題にとどまらず中英語の韻律に様々な形でインパクトを与えたと考えられるが,指摘しておくべきもう1つの重要な点は脚韻 (rhyme) の導入との関係である.これについては「#796. 中英語に脚韻が導入された言語的要因」 ([2011-07-02-1]) を参照.

 ・ Ritt, Nikolaus. Quantity Adjustment: Vowel Lengthening and Shortening in Early Middle English. Cambridge: CUP, 1994.

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2019-04-27 Sat

#3652. naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか? [sobokunagimon][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][stress][gsr][rsr][gvs][phonetic_change]

 学生から出されたおもしろい質問です.意識したことはありませんでした.スペリングでは語頭に <n> と <m> の違いがあるだけですが,発音はそれぞれ /ˈneɪʧə/ と /məˈʧʊə/ となり大きく異なっています.比例的なスペリングでありながら発音が異なるということは,両者が1対1で対応しているわけではなく,複雑な関係を有していることの証左です.
 両単語はそれぞれラテン語の nātūra (本質)と mātūrus (時宜を得た)にさかのぼります.ラテン語の段階では,両単語に関してスペリングも発音も比例的な関係にあり,現代英語のような異なりはみられませんでした.ところが,これらが借用語として英語に入ってきた後に,事件が起こります.
 ラテン語 nātūra は,古フランス語の nature を経て,中英語期の13世紀後半に natur(e) として英語に入ってきました.英語に入ってきた当初は,古フランス語風に /naːˈtyːr/ と第2音節に強勢をおいて発音されていましたが,徐々に発音様式が英語化してくることになりました.発音の英語化とは,大雑把にいえば,強勢が第1音節に置かれるようになり,強勢の置かれなくなった第2音節を構成する音が弱化・短化する過程を指します.これにより /naːˈtyːr/ は /ˈnaːtyːr/ となり,さらに近代英語期にかけて大母音推移 (gvs) を含むいくつかの音変化を経て現代の /ˈneɪʧə/ にまで発展したのです.
 一方,ラテン語 mātūrus は,15世紀半ばに直接英語に mature として借用されました.英語での当初の発音は /maːˈtyːr/ に近いものだったと思われます.ところが,この単語については,その後 nature では起こった発音様式の英語化,すなわち強勢位置の前移動が起こらなかったのです.その結果,強勢の置かれない第1音節は弱まることになり,現代英語の /məˈʧʊə/ の発音に至ったのです.
 つまり,naturemature の分水嶺は,英語に借用された後に発音様式の英語化が起こったか,起こらなかったかだったのです.では,なぜ nature では英語化が起こり,mature では起こらなかったのでしょうか.これは簡単には答えられませんが,一般論としては,早い時期に借用された語であればあるほど,現在までに英語化するのに十分な時間が確保されており,実際に英語化している可能性が高いということはいえます.nature は13世紀後半,mature は15世紀半ばの借用ですから,この時間差が関係している可能性はあります.また,借用時期が近代英語期に近づけば近づくほど,ラテン語やフランス語からの借用語は,原語の発音様式のままにとどまる傾向が強いことも知られています.
 ラテン語・フランス語の強勢規則 (Romance Stress Rule; rsr) と英語の強勢規則 (Germanic Stress Rule; gsr) とは水と油の関係であり,これらが借用語において競合したときに何が起こるかという問題については,「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) をご覧ください.

Referrer (Inside): [2022-09-17-1] [2019-05-22-1]

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2018-06-20 Wed

#3341. ラテン・フランス借用語は英語の強勢パターンを印欧祖語風へ逆戻りさせた [rsr][gsr][stress][germanic][indo-european][gradation][vowel][morphology]

 中英語期以降,ラテン語やフランス語からの借用語が英語語彙に大量に取り込まれたことにより,英語の強勢パターンが大きく変容したことについて「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) で取り上げてきた.
 この変容は,Germanic Stress Rule (gsr) の上に新たに Romance Stress Rule (rsr) が付け加わったものと要約することができるが,さらに広い歴史的視点からみると,印欧祖語的な強勢パターンへの回帰の兆しともみることができる.印欧祖語では可変だった語の強勢位置が,ゲルマン祖語では語頭音節に固定化したが,ラテン語やフランス語との接触により,再び可変となってきた,と解釈できるからだ.そして,その可変の強勢は,基体と派生語の間で母音の質と量をも変異させることにもなった.最後の現象は,印欧祖語の形態論を特徴づける母音変異 (gradation or ablaut) にほかならない.
 Kastovsky (129--30) が,濃密な文章でこの見方について紹介している.

[T]here are . . . typological innovations like the vowel and/or consonant alternations in sane : sanity, serene : serenity, Japán : Jàpanése, hístory : históric : hìstorícity, eléctric : elètrícity, close : closure resulting from the integration of non-native (Romance, Latin and Net-Latin) word-formation patterns into English with a concomitant variable stress system, which reverses the original typological drift towards a non-alternating relation between bases and derivatives and is reminiscent of Indo-European, where variable stress/accent produced variable vowel quality/quantity (ablaut).


 Kastovsky は,英語の形態論の歴史を類型論的に捉えるべきことを主張しているが,これは単なる共時的な類型論にとどまらず,歴史類型論ともいうべき壮大な視点の提案でもあるように思われる.
 上で触れた2つの強勢規則については,「#1473. Germanic Stress Rule」 ([2013-05-09-1]) と「#1474. Romance Stress Rule」 ([2013-05-10-1]) を参照.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

Referrer (Inside): [2018-07-08-1] [2018-07-07-1]

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2017-10-30 Mon

#3108. ノルマン征服がなかったら,英語は・・・? [hel_education][history][loan_word][spelling][stress][rsr][gsr][rhyme][alliteration][gender][inflection][norman_conquest]

 「#119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!?」 ([2009-08-24-1]) や「#3097. ヤツメウナギがいなかったら英語の復権は遅くなっていたか,早くなっていたか」 ([2017-10-19-1]) に続き,歴史の if を語る妄想シリーズ.ノルマン征服がなかったら,英語はどうなっていただろうか.
 まず,語彙についていえば,フランス借用語(句)はずっと少なく,概ね現在のドイツ語のようにゲルマン系の語彙が多く残存していただろう.関連して,語形成もゲルマン語的な要素をもとにした複合や派生が主流であり続けたに違いない.フランス語ではなくとも諸言語からの語彙借用はそれなりになされたかもしれないが,現代英語の語彙が示すほどの多種多様な語種分布にはなっていなかった可能性が高い.
 綴字についていえば,古英語ばりの hus (house) などが存続していた可能性があるし,その他 cild (child), cwic (quick), lufu (love) などの綴字も保たれていたかもしれない.書き言葉における見栄えは,現在のものと大きく異なっていただろうと想像される.<þ, ð, ƿ> などの古英語の文字も,近現代まで廃れずに残っていたのではないか (cf. 「#1329. 英語史における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-16-1]) や「#1330. 初期中英語における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-17-1])) .
 発音については,音韻体系そのものが様変わりしたかどうかは疑わしいが,強勢パターンは現在と相当に異なっていたものになっていたろう.具体的にいえば,ゲルマン的な強勢パターン (Germanic Stress Rule; gsr) が幅広く保たれ,対するロマンス的な強勢パターン (Romance Stress Rule; rsr) はさほど展開しなかったろうと想像される.詩における脚韻 (rhyme) も一般化せず,古英語からの頭韻 (alliteration) が今なお幅を利かせていただろう.
 文法に関しては,ノルマン征服とそれに伴うフランス語の影響がなかったら,英語は屈折に依拠する総合的な言語の性格を今ほど失ってはいなかったろう.古英語のような複雑な屈折を純粋に保ち続けていたとは考えられないが,少なくとも屈折の衰退は,現実よりも緩やかなものとなっていた可能性が高い.古英語にあった文法性は,いずれにせよ消滅していた可能性は高いが,その進行具合はやはり現実よりも緩やかだったに違いない.また,強変化動詞を含めた古英語的な「不規則な語形変化」も,ずっと広範に生き残っていたろう.これらは,ノルマン征服後のイングランド社会においてフランス語が上位の言語となり,英語が下位の言語となったことで,英語に遠心力が働き,言語の変化と多様化がほとんど阻害されることなく進行したという事実を裏からとらえた際の想像である.ノルマン征服がなかったら,英語はさほど自由に既定の言語変化の路線をたどることができなかったのではないか.
 以上,「ノルマン征服がなかったら,英語は・・・?」を妄想してみた.実は,これは先週大学の演習において受講生みんなで行なった妄想である.遊び心から始めてみたのだが,歴史の因果関係を確認・整理するのに意外と有効な方法だとわかった.歴史の if は,むしろ思考を促してくれる.

Referrer (Inside): [2019-12-25-1]

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2015-10-08 Thu

#2355. フランス語の語彙以外への影響 --- 句,綴字,派生形態論,強勢 [french][contact][borrowing][derivation][stress][hybrid][rsr]

 英語史では,フランス語は語彙の領域には多大な影響を及ぼしたが,それ以外では見るものが少ないと言われることがある.しかし,「#2351. フランス語からの句動詞の借用」 ([2015-10-04-1]) で見たように句の単位でも少なからぬ影響を及ぼしてきたし,綴字の領域にも大きな衝撃を与えてきた.
 とはいえ,文法や音韻については,フランス語がたいした影響を与えて来なかったことは事実だろう.以下にリンクを張った記事で触れてきたように,影響が考えられ得る項目もいくつか指摘されているが,強い証拠のないものが多い.一方,ノルマン征服以後,フランス語は英語の社会的な地位をおとしめることにより,結果として下位言語としての英語の文法変化を促進させたという意味で,間接的な影響を及ぼしたと言うことはできるだろう.

 ・ 「#204. 非人称構文」 ([2009-11-17-1])
 ・ 「#1171. フランス語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-11-1])
 ・ 「#1208. フランス語の英文法への影響を評価する」 ([2012-08-17-1])
 ・ 「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1])
 ・ 「#1815. 不定代名詞 one の用法はフランス語の影響か?」 ([2014-04-16-1])
 ・ 「#1884. フランス語は中英語の文法性消失に関与したか」 ([2014-06-24-1])
 ・ 「#1924. フランス語は中英語の文法性消失に関与したか (2)」 ([2014-08-03-1])
 ・ 「#2047. ノルマン征服の英語史上の意義」 ([2014-12-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])

 さて,連日,参照・引用している Denison and Hogg (17) は,フランス語の語彙以外への影響という問題に関して,全体的には僅少であることを前提としながらも,派生形態論と強勢の領域においては見るものがあると指摘する.

. . . we should . . . look at French influence outside the borrowing of vocabulary. It is best to start by saying that French influence is largely absent from inflectional morphology. The only possibilities concern the eventual domination of the plural inflection -s at the expense of -en (hence shoes rather than shoon) and the rise of the personal pronoun one. Although there are parallels in French, it is virtually certain that the English developments are entirely independent.
   The strongest influence of French can be best seen in two other areas, apparently unrelated but in fact closely connected to each other. These are: (i) derivational morphology; (ii) stress.


 フランス語の派生形態論への影響を確認するには,「#96. 英語とフランス語の素材を活かした 混種語 ( hybrid )」 ([2009-08-01-1]) に挙げたような混種語 (hybrid) の例を見れば十分だろう.強勢については,「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や rsr (= Romance Stress Rule) に関する各記事を参照されたい.派生形態論と強勢という2つの領域が "closely connected" であるというのは,現代英語の語形成規則と強勢規則の適用が,語根がゲルマン系かロマンス系かによって層別されている事実を指すものと理解できる.
 まとめると,フランス語の語彙以外への影響として,ある程度注目すべきものといえば,句,綴字,派生形態論,強勢といったところだろうか.

 ・ Denison, David and Richard Hogg. "Overview." Chapter 1 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 1--42.

Referrer (Inside): [2015-10-09-1]

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2015-07-04 Sat

#2259. 英語の語強勢に関する一般原則4点 [stress][prosody][rsr][gsr]

 現代英語において,語強勢を決定づける一般的な規則を得ることは難しい.語強勢の位置を巡る問題の難しさは,英語の歴史に負っている.語強勢の位置は,古英語以前には Germanic Stress Rule (gsr) によって単純明解に決定されていたが,後期中英語以降にラテン・フランス借用語とともにもたらされた Romance Stress Rule (rsr) が定着するに及び,状況が複雑化した (cf. 「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]),「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1])) .そのほか,関連する語どうしの類推作用が働いたり,名前動後 (diatone) などの新しい強勢パターンも生まれた (cf. 「#861. 現代英語の語強勢の位置に関する3種類の類推基盤」 ([2011-09-05-1])) .このようにして,多様な原理に基づいた見かけ上の「例外」が蓄積し,共時的に強勢位置を決定する規則を立てることが難しくなった.
 それでも,完璧は求めるべくもないが,なるべく例外を少なく保つようにして,いくつかの「一般原則」を立てる試みは続けられてきた.Carr (74--75) は,4つの一般原則を示している.

Principle 1: The End-Based Principle
 第1強勢は,後ろから数えて,ultimate (ex. bóx), penultimate (ex. spíder, depárture), antepenultimate (ex. cínema, América) のいずれかに落ちる傾向がある.このことは,語強勢パターンが trochaic であることとも関係する.trochee とは,強勢音節の後にゼロ個以上の非強勢音節が続くパターンのことである.このような trochee の韻脚が,リズミカルに繰り返されるのが英語の韻律的特徴である.

Principle 2: The Rhythmic Principle
 単語の末尾には最多で4つの非強勢音節が現われる可能性があるものの (ex. ungéntlemanliness), 単語の先頭に2つ以上の非強勢音節が現われることはない.それを避けるべく,先頭のいずれかの音節には強勢が落ちる (ex. Jàpanése, not *Japanése) .

Principle 3: The Derivational Principle
 派生語においては,基体で主強勢のあった音節に副強勢が落ちる傾向がある.例えば chàracterizátion の第1音節に副強勢があるのは,基体の cháracterize (それ自体も cháracter からの派生)において第1音節に主強勢が落ちるからである.

Principle 4: The Stress Clash Avoidance Principle
 隣り合う2つの音節の両方に強勢が落ちることは避けられる傾向がある.例えば,Principle 3 によれば *Japànése となるはずのところだが,これだと強勢音節が2つ続いてしまう.ここでは Principle 4 の原則が勝り,強勢音節を連続させない Jàpanése が得られることになる.

 もとよりこれらの原則には少なからぬ例外がつきものである.また,原則間で衝突を起こすケースも少なくない.それぞれの原則は,下位規則を設けることにより,精度を高めていく必要があろう.しかし,この一般原則により,英語語彙の大多数の語強勢が説明されることも事実である.少なくとも英語の語強勢が無法であるとか,ランダムであるという極端な評価が不当であることは間違いない.

 ・ Carr, Philip. English Phonetics and Phonology: An Introduction. 2nd ed. Malden MA: Wiley-Blackwell, 2013.

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2013-05-10 Fri

#1474. Romance Stress Rule [stress][gsr][rsr]

 昨日の記事「#1473. Germanic Stress Rule」 ([2013-05-09-1]) に引き続き,今回は Romance Stress Rule (RSR) を紹介する.Lass (Vol. 3, p. 57) によれば,中英語にかけてロマンス系借用語とともにもたらされて発展した RSR は次のように定式化される.

Beginning at the right-hand edge of the word, select as word-head the syllable specified as follows:
A (i) If the final syllable is (a) heavy, or (b) the only syllable, assign S and construct a foot:
      S               S       S       S
σ̆ σ̄     σ̄σ̆σ̄      σ̄      σ̆
deface    vndertake    twelfth    twig

(ii) If the final syllable is light, go back to the penult.
B (i) If the penult is (a) heavy, or (b) the only other syllable, assign S and construct a foot:
       S   W              S  W     S  W
σ̆ σ̄ σ̆    σ̆σ̆σ̄σ̆    σ̆σ̆
 vnable    occidental    shouel

(ii) I the penult is light, go back to the antepenult.
C Assign S to the antepenult regardless of weight, and construct a foot:
              S   W  W         S  W  W
σ̄σ̆σ̆σ̆σ̆σ̆    σ̆σ̄σ̆σ̆
   histori ographer    industri ouse


 RSR の特徴を3点で示せば,単語の右から数え始め(右利き),形態的に鈍感で,音節の重さにこだわる(音節構造に敏感)ということである.GSR の正反対ということがわかるだろう.中英語以降の英語の強勢規則は,(1) 左利きか右利きか,(2) 形態構造と音節構造のどちらを重視するか,という2点を巡って,不安定な様相を呈する.結果としてみれば,近代英語にかけて RSR が勢力を強めていったのだが,RSR が GSR を置き換えたと言い切るのは必ずしも正しくない.RSR が GSR を包み込んだといおうか,包摂したといおうか,奇妙なかたちで両者の大部分が合一することになったのである.
 両強勢規則は性質を比べると確かに正反対なのだが,実際の語に適用された結果だけ見比べると,多くの場合,効果は同じである.単音節の writ, write などはどちらの強勢規則に照らしても強勢位置はその音節に落ちるより仕方がないし,2音節の wríter, wrítten, belíeve にしても同様だ.3音節の cráftily, sórrier にしても結果としては同じ音節に強勢が落ちる.つまり,GSR と RSR は,かなりの程度,同じ効果を引き起こすのである.
 もちろん,両者が競合するケースは残る.例えば接頭辞の付加された軽い2音節語は,GSR では強勢が第2音節に落ちることになるが,RSR では第1音節に強勢が落ちることになる (ex. begín but not *bégin) .また,/-VCC/ の重い接尾辞をもつ語は,GSR では強勢は接尾辞に落ち得ないが,RSR ではそこに強勢が落ちることになる (ex. sínging but not *singíng) .このようなケースでは,両強勢規則の競合の結果として,不安定な variation が存在することになった.さらにこの不安定な variation は様々なマイナー強勢規則を生み出す契機となり,英語の強勢を巡る状況は現在に至るまで複雑さを増し続けているのである.
 GSR と RSR の競合の歴史については,Lass (Vol. 2, pp. 85--90) と Lass (Vol. 3, pp. 125--28) が参照に便利である.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Cambridge: CUP, 1992. 23--154.
 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

Referrer (Inside): [2018-06-20-1]

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2013-05-09 Thu

#1473. Germanic Stress Rule [stress][gsr][rsr]

 現代英語にまで続いていると考えられる強勢規則の1つ Germanic Stress Rule (GSR) については,相反するもう1つの強勢規則 Romance Stress Rule (RSR) との対比で,「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) ,「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) ,「#861. 現代英語の語強勢の位置に関する3種類の類推基盤」 ([2011-09-05-1]) で取り上げてきた.今回は,もう少し詳しく GSR について見てみよう.
 GSR はゲルマン語を特徴づける強勢規則で,端的にいうと「語幹の第1音節に強勢がおかれる」という原則である (##182,857,187) .古英語ではこの規則はほぼ完全に機能しており,かつ唯一のものだったが,中英語あるいは初期近代英語以降は,台頭してきた RSR と競合し,脅かされながら現在に至っている.GSR を Lass (126) に従って定式化すると次の通り.

(i) Starting at the left-hand word-edge, ignore any prefixes (except those specified as stressable), and assign stress to the first syllable of the lexical root, regardless of weight.
(ii) Construct a (maximally trisyllabic) foot to the right:
  S       S  W 
rætt'rat'    wrīt-an'to write'
     S W     S W W 
ge-writen'written'    bæcere'baker'


 GSR の特徴を3点で示せば,単語の左から数え始め(左利き),接頭辞と語根の区別にうるさい(形態的に敏感)が,音節の重さにはこだわらない(音節構造に鈍感)ということである.印欧祖語の時代には語の強勢位置は自由だったが,ゲルマン語派へ分化してゆく際にこの強勢規則が加えられたと考えられる.結果として,古英語の強勢も少々の例外を除いてこの単純な強勢規則に支配されることになった.
 ところが,中英語にかけて多くのフランス語やラテン語からの借用語が英語語彙へ流入してくるに及び,長らく盤石だった GSR が動揺し始める.ロマンス系の言語に特有の Romance Stress Rule (RSR) が,GSR に覆い被さり,呑み込もうとしたのである.中英語から近代英語にかけて,徐々に着実に,RSR が成長してゆくことになった.RSR については,明日の記事で.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

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2012-12-05 Wed

#1318. 言語において保守的とは何か? [ame_bre][colonial_lag][pronunciation][rsr][gsr][prescriptive_grammar]

 言語における保守 (conservative) と革新 (innovative) については,本ブログでも主として英語の英米差を扱った記事 (ame_bre) ,とりわけ最近の「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]) や colonial_lag に関する記事で触れてきた.ほかに,本ブログ内を「保守 革新」で検索すると,いくつかの記事が挙がる.これらの記事を執筆しながら,言語の保守性とは一体何なのだろうかと考えてきた次第である.
 例として,garage の発音の英米差を考えてみよう.LPD によると,この語の発音の強勢位置は,アメリカ英語では専ら第2音節,イギリス英語では94%が第1音節に置かれる.

Pronunciation of

 この分布について,どちらがより保守的でどちらがより革新的といえるだろうか.1つの見方(おそらく通常の見方)によれば,この語はフランス語 garer "shelter" に基づく派生語であり,フランス語的な第2音節への強勢が基本にあると考えられるので,その位置を保っているアメリカ英語発音こそが保守的であると議論できるかもしれない (cf. Romance Stress Rule) .しかし,別の見方によれば,強勢が第1音節に落ちるのは発音が英語化(ゲルマン語化)している証拠であり,イギリス英語発音こそが英語の伝統的な強勢位置の傾向を体現しているといえ,結果として保守的である,とも議論できるかもしれない (cf. Germanic Stress Rule) .
 また別の見方によれば,より一般的に言語的な規範を遵守する傾向が強い場合に,保守的と表現されることもある.アメリカ英語は相対的に規範遵守の態度が強いと言われるが(例えば,[2011-10-11-1]の記事「#897. Web3 の出版から50年」を参照),その意味では保守的ともいえるのである.たとえ,規範の内容やでき方そのものは,歴史的に革新的だったとしてもである.
 上に述べた3種類の保守性は,それぞれある意味では保守的ではあるが,互いにどこかずれている.この見かけの矛盾を解く鍵は,「基準点」の定め方にある.「保守」を「旧来の風習・伝統を重んじ,それを保存しようとすること」(『広辞苑第6版』)と理解する場合,基準点である「旧来の風習・伝統」が何を指すか明確にしなければ,保守そのものの指示内容も曖昧になる.基準点とは,ある時点において規範として守られている,あるいは少なくとも広く行なわれている語法を指し,その語法がその前段階の語法を引き継いだものであるのか,そこから変化したものであるのかは問わない.
 基準点をフランス語的発音に置けば,garage の第2音節に強勢を置くアメリカ英語発音は保守的とみなせるが,基準点をゲルマン祖語に置けば,第1音節に強勢を置くイギリス英語発音は保守的である.また,言語規範は成立過程がどのようなものであれ,ある程度定着すれば基準点として機能しうるので,以後それを遵守する風潮が続けば,それはすべて保守的といえる.つまり,基準点をどこに置くかによって,保守の指示内容も大きく異なってくるのである.だが,基準点をどこに置くのが正しいかを判断する客観的な指標はない.
 このように,保守(そしてその反意語である革新)とは相対的な用語にすぎない.言語において保守性を論じる場合には,少なくとも何を基準点として論じているのかを明示しなければ無意味だろう.

 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.

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2012-11-08 Thu

#1291. フランス借用語の借用時期の差 [french][loan_word][gsr][rsr][stress][doublet]

 フランス借用語については,french loan_word の多くの記事で取り上げてきた.標題に関連する話題としては,「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]) ,「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1]) ,Norman French と Central French のそれぞれから借用された2重語 (norman_french doublet) などについて述べた.今回は,標題と関係するがこれまでに触れる機会のなかった例や話題を,Schmitt and Marsden (135--36) より,3点ほど取り上げる.
 まずは,Norman French と Central French からの2重語を1対追加.スコットランド英語で聞かれる leal /liːl/ "faithful, loyal, true" は13世紀に Anglo-Norman French より入った.一方,Central French より,同根語 loyal が16世紀に入った.
 同じフランス語でも時代を違えて Old French と French からの2重語としては,feast (C13) と fete (C18) ,hostel (C13) と hotel (C17) がある.それぞれの後者の語には,/st/ という音韻環境において /s/ が脱落するというフランス語での音韻変化が反映されている.
 hostelhotel に関連してもう1つ興味深い点は,早くに借用された前者では,強勢位置が第1音節へと英語化しているが,遅くに借用された後者では,強勢はいまだに原語通りに第2音節に置かれていることだ.これは,適用されている強勢規則が Germanic Stress Rule (GSR) か Romans Stress Rule (RSR) かの違いであると説明できる.GSR と RSR については,「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) や「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) で論じたように,理論的に難しい問題が含まれているが,フランス借用語について大雑把にいえば,中世以前に入った語は GSR に従い,近代以降に入った語は RSR に従う傾向が強い([2010-12-12-1]の記事「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」を参照).以下に例を示す.

Earlier borrowings (--C14)Later borrowings (C15--)
mústardduét
léttucepanáche
cárriagebrunétte
cólorelíte
cóurageensémble
lánguageprestíge
sávagerappórt
víllagevelóur
fígurevignétte


 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

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2012-06-25 Mon

#1155. Postal の言語変化観 [language_change][causation][generative_grammar][contact][sociolinguistics][rsr]

 昨日の記事「#1154. 言語変化のゴミ箱としての analogy」 ([2012-06-24-1]) で言及した Postal は,「#1123. 言語変化の原因と歴史言語学」 ([2012-05-24-1]) で取り上げたように,言語変化の原因を fashion と考える論者である.同時に,言語変化とは "grammar change" (文法変化)にほかならなず,その文法変化は世代間で生じる規則の再解釈であるという生成的言語観の持ち主だ.そして,その文法変化の最初の段階を表わす "primary sound change which is independent of language contact" は,"'nonfunctional' stylistic change" であり,それ以外の原因説明はありえないとする.
 Postal の議論は一見すると単純だが,実は但し書きがいろいろとついている.例えば,社会言語学的な差異化,言語変化の実現と拡散の区別,言語接触による言語変化,英語の Romance Stress Rule の歴史的獲得についても触れている.Postal の議論は,言語変化理論の大きな枠組みの1つとして注目すべきと考えるので,重要な1節 (283--85) の大部分を引用しよう.

SOME REMARKS ON THE 'CAUSES OF SOUND CHANGE'

     It is perhaps not inappropriate to ask what implications the view that sound change consists in changes in grammars has for the much discussed and controversial question of the causes of sound change. Why should a language, independently of contact with other languages, add a new rule at a certain point? Of course there are some scholars who hold that all linguistic change is a result of language contact, but this position seems too radically improbable to demand serious consideration today. Assuming then that some if not all phonological changes are independent of contact, what is their basis? It seems clear to the present writer that there is no more reason for languages to change than there is for automobiles to add fins one year and remove them the next, for jackets to have three buttons one year and two the next, etc. That is, it seems evident within the framework of sound change as grammar change that the 'causes' of sound change without language contact lie in the general tendency of human cultural products to undergo 'nonfunctional' stylistic change. This is of course to be understood as a remark about what we might call 'primary change,' that is, change which interrupts an assumed stable and long-existing system. It is somewhat more plausible that such stylistic primary changes may yield a grammar which is in some sense not optimal, and that this may itself lead to 'functional' change to bring about an optimal state. Halle's suggestion that children may learn a grammar partially distinct from that underlying the utterances they hear and thus, from the point of view of the adult language, reformulate the grammar (while adults may only add rules), may be looked upon as a suggestion of this type. For as he noted, a grammar G2 which results from the addition of a rule to a grammar G1 may not be the optimal grammar of the set of sentences it generates. Hence one would expect that children learning the new language will internalize not G2 but rather the optimal grammar G3. It remains to be seen how many of the instances of so-called 'structural sound change,' discussed in the writings of scholars like A. Martinet, can be provided with a basis of this type.
     It should be emphasized that the claim that contact independent sound change is due basically to the stylistic possibility for adults to add limited types of rules to their grammars does not preclude the fact that these changes may serve social functions, i.e. may be related to group differentiation, status differences, etc. That is, the claim that change is stylistic is not incompatible with the kinds of results reached by such investigators as Labov (1963). These latter matters concern more properly the social explanation for the spread of the change, a matter which seems more properly sociological than linguistic.
     I have been careful above not to insist that all instances of what have been called sound change were necessarily independent of language contact. Although committed to the view that sound change can occur without contact, we can also accept the view that some changes result from borrowing. The view that sound change is grammar change in fact really eliminates much of the importance of this difference. For under the rule interpretation of change, the only issue is the forces which led to the grammar change. Studies of complex cases of phonological grammar change due to contact have actually been carried out recently within the framework of generative grammar. This work, to be reported in a forthcoming monograph (Keyser and Halle, to appear), shows quite clearly that English has borrowed a number of Romance phonological rules. In particular, English has incorporated essentially the Latin stress rule, that which softens Romance k to s in certain environments, etc. This work has important implications beyond the area of sound change and may affect radically concepts of genetic relationship, Mischsprache, etc., all of which will, I think, require reevaluation.


 ・ Postal, P. Aspects of Phonological Theory. New York: Harper & Row, 1968.

Referrer (Inside): [2012-09-12-1] [2012-09-11-1]

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2011-09-05 Mon

#861. 現代英語の語強勢の位置に関する3種類の類推基盤 [diatone][stress][prosody][analogy][gsr][rsr]

 英単語の強勢にまつわる歴史は非常に込み入っている.[2009-11-13-1]の記事「アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」や[2011-04-15-1]の記事「英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」で言及にしたように,中英語以降,Germanic Stress Rule と Romance Stress Rule の関係が複雑化してきたことが背景にある.しかし,語強勢の話題が複雑なのは,通時的な観点からだけではない.現代英語を共時的に見た場合でも,多様な analogy による強勢位置の変化と変異が入り乱れており,強勢の位置に統一的な説明を与えるのが難しい.そして,現代英語の語強勢に関する盤石な理論はいまだ存在しないのである.
 では,韻律論の理論化を妨げているとされる多様な analogy には,どのようなものがあるのだろうか.Strang (55--56) によれば,主要なものは3種類ある.

 (1) GSR に基づく,強勢の前寄り化の一般的な傾向.
   "a tendency to move the stress toward the beginning of a word, as in; /ˈædʌlt/ beside /əˈdʌlt/, /ˈækjʊmɪn/ beside /əˈkjuːmɪn/, /ˈsɒnərəs/ beside /səˈnɔːrəs/" (55).
 (2) 名前動後の語群に基づく機能分化的な傾向(diatone の各記事を参照).
   "Variable stress-placement is exploited for grammatical purposes, in a series of items with root stress in nominals (usually nouns and substantival modifiers) and second-syllable stress in verbs, e.g., absent, concert, desert, perfect, record, subject . . ." (55).
 (3) word-family の構成要素間に生じる強勢位置の吸引力.
   ". . . [analogical pull] of the word family an item belongs to. . . Word-analogy is responsible for variations such as applicable, subsidence (first-syllable stress, or a variant with a second-syllable stress on the model of apply, subside. Secret, borrowed in ME with second-syllable stress, has shifted to first syllable stress; its derivative secretive (a 15c formation), kept the older stress as late as OED, but is now tending to follow the example of the commoner secret, with first-syllable stress" (56).

 3種類の類推は互いに排他的ではなく,むしろ干渉しあうことがある.例えば,名詞と動詞の機能をもつ romance は現代英語では双方ともに第2音節に強勢の落ちるのが主流だったが,アメリカ英語では名前動語化の流れがある.そのように聞くと (2) の影響が作用していると言えそうだが,動詞も合わせて強勢が前化している証拠も部分的にある.とすると,(1) の類推が作用している言えなくもない.(3) の観点からは,romance の強勢前化傾向が引き金となって,romancer, romancist, romantic, romanticism などの強勢が前へ引きつけられるという可能性が,今後生じてくるということだろうか.個々の単語(ファミリー)の問題だとすると,確かに強勢位置のルール化は難しそうだ.

 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2011-04-15 Fri

#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか [stress][romancisation][prosody][french][latin][loan_word][diatone][gsr][rsr]

 英語の強勢パターンの規則は,原則として "left-prominent and morphologically governed" であり,これは Germanic Stress Rule (GSR) と呼ばれる.これは,[2009-10-26-1], [2009-10-31-1]でゲルマン語の特徴の1つとして説明した「語幹の第1音節に強勢がおかれる」に等しい.しかし,[2009-11-13-1]の記事で見たように,主に中英語以降,フランス・ラテン借用語が大量にもたらされるようになり,英語の韻律論に "right to left and phonologically governed" を原則とする Romance Stress Rule (RSR) が加わった.以降の英語韻律論の歴史は,相反する2つの強勢規則が互いに干渉しあう歴史である.そして,相克は現在にまで続いている.
 Halle and Keyser の画期的な研究以降,中英語に導入された RSR が英語の韻律論に大変革をもたらしたとする,上記のような見方が有力となっているが,Minkova によれば,中英語での RSR の効果は過大評価されているきらいがあるという.むしろ,GSR の底力を評価すべきであるという意見だ.このように考える根拠はいくつかある.Minkova (169--73) の議論をまとめよう.

 (1) RSR と GSR は必ずしも相反するものではない.例えば,3音節語では効果が表面的に一致する例がある.máidenhòod (by GSR) and víolènt (by RSR) など.
 (2) 接頭辞に強勢を置かない準規則をもつ GSR は,しばしばロマンス借用接頭辞にも適用され,特に動詞借用語では普通である.現代英語の confirm, deduct, displease, enlist, expose などの強勢位置を参照.(しかし,後に名詞や形容詞では強勢が第1音節に移行した.「名前動後」の話題については,[2009-11-01-1], [2009-11-02-1]を参照.)
 (3) 中英語の比較的早い時期に英語に入ったフランス借用語は,本来語に同化しており,GSR によって強勢が第1音節に移行していた.
 (4) 中英語では RSR と GSR の競合によりフランス借用語が一様に強勢位置の揺れを示すかのようにいわれることがある.これを示す典型的な例として挙げられるのは,Chaucer の詩行 "In dívers art and in divérse figures" (FrT 1486) である.しかし,詳しく調べると語によって揺れの程度は異なるし,韻律上の位置(押韻位置にあるか否か) と強勢の揺れの分布を調査すると,多くの揺れが韻律上の要請に起因するものであることがわかる.実際の話し言葉では,指摘されている広範な揺れはなかったと考えられ,GSR の適用によりすでに第1音節に強勢が落ちていた借用語も多かったろう.

 RSR の導入による中英語韻律論の動揺は言われるほど破壊的なものではなかったという見解だが,RSR が従来とは異なる革新的な強勢パターンをもたらしたことは確かである.特に顕著な革新的パターンは,3音節からなる借用語で真ん中の音節に強勢の落ちるケースである.以下の語は,少なくとも借用された当初は第2音節に強勢が落ちていただろう.calendar, sinister, memento, placebo. また,本来は3音節語だったが,最終音節が消失して2音節語になってからも強勢の位置は変わらずに第2音節に落ちたままの語も少なくなかった.divers(e), legend(e), maner(e), honour(e), montayn(e), natur(e), tempest(e), sentenc(e), solemn(e). これらの語は,従来の英語韻律論からすると異質な強勢パターンに従っており,RSR が英語の韻律に一定の衝撃をもたらしたことは確かである.
 しかし,Minkova は,中英語の段階では全体として従来の GSR がいまだ圧倒的であり,RSR は破壊的な影響力を獲得していないと主張する.英語韻律論に大きな動揺があったとすれば,大量のラテン語借用 ([2010-08-18-1], [2009-08-19-1]) を経た Renaissance 以降のことだろう.

. . . in spite of the influx of 10,000 Romance loanwords, words of Germanic origin continued to constitute the bulk of the core vocabulary of Middle English, accounting for seventy-five to ninety-five per cent of the wordstock, depending on register. It was only during the Renaissance that the balance began to shift in favour of non-Germanic patterns, bringing about the co-existence of two typologically different systems of stress in modern English. (172--73)


 この動揺から,現在にまで続く数々の混乱が生まれた.先述の名前動後もそうだし,同根の派生語間での強勢位置の差異もそうである.以下は後者についての Minkova の言及.

Seen in the larger context of prosodic typology, however, the accentuation of derived Romance words introduced a major new paradigm of stress-shifting in English. For the first time in the history of the language words derived from the same root started to exhibit disparate prosodic contours: móral--morálitèe, párish--paríshonèr, sólemn--solémpnitè, vólume--volúminòus. (173)


 ・ Halle, M. and S. J. Keyser. English Stress: Its Form, Its Growth, and Its Role in Verse. New York: Harper and Row, 1971.
 ・ Minkova, Donka. "The Forms of Speech" A Companion to Medieval English Literature and Culture: c.1350--c.1500. Ed. Peter Brown. Malden, MA: Blackwell, 2007. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009. 159--75.

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2009-11-13 Fri

#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か [stress][orthoepy][romancisation][prosody][gsr][rsr]

 [2009-10-26-1]の (4) で見たように,ゲルマン系の言語として,本来,英語のアクセントは語の第1音節に落ちるはずである.ところが,古英語後期より,ラテン語やフランス語からおびただしい数の借用語が英語に流入し,「第1音節にアクセントあり」の原則が崩れてきた.というのは,ラテン語やフランス語などのロマンス系の言語では,むしろ後方の音節にアクセントが落ちるのが原則だからである.より具体的には,ロマンス語には,後方の音節の重さに応じて,最終音節 ( ultima ),語尾から二番目の音節 ( paenultima ),語尾から三番目の音節 ( antepaenultima ) のいずれかにアクセントが落ちるといる規則がある.英語は,ロマンス系諸語との長い言語接触の歴史から,GSR ( Germanic Stress Rule ) と RSR ( Romance Stress Rule ) を複雑に合わせもつ言語へと発展してきたのである ( Lass 125 ).
 ロマンス諸語からの借用語は,英語に入ってからも,もとの言語のとおりに RSR に即した後方アクセントを示してきただろうと予想されるが,必ずしもそうではない.例えば,近代英語期には,次の語群で GSR に即したかのような語頭アクセントがおこなわれたことが確認されている (Lass 128--29).かっこ内は Lass が参考にした資料の出版年である.

abbreviation (1764), academy (1665, 1687), acceptable (1746), accessory (1687, 1746), accommodate (1764), adjacent (1665, 1710), allegorical (1764), complacency (1665), contribute (1570), controversy (1665), conuenient (1570), corruptible (1746), defectiue (1570), delectable (1570), distribute (1570), diuert (1570), excusable (1570), mischance (1570), obseruance (1570), perspectiue (1570), phlegmatic (1784), proclamation (1570), quintessence (1710), refractory (1687), sequester (1570), splenetic (1784), suggestion (1570), unawares (1710)


 現代標準英語では,上記のいずれの単語においてもアクセントは第1音節にないことに注意したい.Lass によれば,1780年代に GSR が衰退し始め,RSR が優勢になってきたという.また,詳しい根拠は示していないものの,Nevalainen によれば,近代英語期の「比較的教育程度の低い人々」が特に GSR を好んだという.
 現代でもアクセントの位置に決着のついていない語は存在する.上に挙げた controversy は,現在 cóntroversy とも contróversy とも発音されうるが,ラテン語起源であることからの予想に反して,GSR に従った前者が「正しい」と見なされている.近年まさに「論争」を呼んだ語である.
 古英語後期に始まり,近代英語期にも多くの正音学者 ( orthoepist ) を論争へ駆り立てたゲルマン対ロマンスのアクセント対決は,いまだに完全な決着をみないまま,英語母語話者のみならず英語学習者を悩ませ続けている.

 ・Lass, Roger. "Phonology and Morphology." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.
 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 130.

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