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age_grading - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-05-24 05:13

2014-07-11 Fri

#1901. apparent time と real time [age_grading][sociolinguistics][language_change][methodology][terminology][diachrony]

 「#1890. 歳とともに言葉遣いは変わる」 ([2014-06-30-1]) の記事で,age-grading という社会言語学上の概念と用語を紹介した.言語変化の実証的研究において,age-grading の可能性は常に念頭においておかなければならない.というのは,観察者が,現在起こっている歴史的な(したがって単発の)言語変化とであると思い込んでいた現象が,実際には毎世代繰り返されている age-grading にすぎなかったということがあり得るからだ.逆に,毎世代繰り返される age-grading と信じている現象が,実際にはその時代に特有の一回限りの言語変化であるかもしれない.
 では,観察中の言語現象が真正の言語変化なのか age-grading なのかを見分けるには,どうすればよいのだろうか.現在進行中の言語変化を観察する方法論として,2種類の視点が知られている.apparent time と real time である.Trudgill の用語集より,それぞれ引用しよう.

apparent-time studies Studies of linguistic change which attempt to investigate language changes as they happen, not in real time (see real-time studies), but by comparing the speech of older speakers with that of younger speakers in a given community, and assuming that differences between them are due to changes currently taking place within the dialect of that community, with older speakers using older forms and younger speakers using newer forms. As pointed out by William Labov, who introduced both the term and the technique, it is important to be able to distinguish in this comparison of age-groups between ongoing language changes and differences that are due to age-grading (Trudgill 9--10)

real-time studies Studies of linguistic change which attempt to investigate language changes as they happen, not in apparent time by comparing the speech of older speakers with that of younger speakers in a given community, but in actual time, by investigating the speech of a particular community and then returning a number of years later to investigate how speech in this community has changed. In secular linguistics, two different techniques have been used in real-time studies. In the first, the same informants are used in the follow-up study as in the first study. In the second, different informants, who were too young to be included in the first study or who were not then born, are investigated in the follow-up study. One of the first linguists to use this technique was Anders Steinsholt, who carried out dialect research in the southern Norwegian community of Hedrum, near Larvik, in the late 1930s, and then returned to carry out similar research in the late 1960s. (Trudgill 109)


 apparent-time studies は,通時軸の一断面において世代差の言語使用を比較対照することで,現在進行中の言語変化を間接的に突き止めようとする方法である.現在という1点のみに立って調査できる方法として簡便ではあるが,明らかになった世代差が,果たして真正の言語変化なのか age-grading なのか,別の方法で(通常は real-time studies によって)見極める必要がある.
 一方,real-time studies は,通時軸上の複数の点において調査する必要があり,その分実際上の手間はかかるが,真正の言語変化か age-grading かを見分けるのに必要なデータを生で入手することができるという利点がある.
 理論的,実際的な観点からは,言語変化を調査する際には両方法を組み合わせるのが妥当な解決策となることが多い.結局のところ,共時的な調査を常に続け,調査結果をデータベースに積み重ねて行くことが肝心なのだろう.同じ理由で,定期的に共時的コーパスを作成し続けていくことも,歴史言語学者にとって重要な課題である.
 apparent time と real time については「#919. Asia の発音」 ([2011-11-02-1]) でも触れたので,参照を.

 ・ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.

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2014-06-30 Mon

#1890. 歳とともに言葉遣いは変わる [age_grading][generative_grammar][language_change][terminology]

 人の言葉遣いは,一生の中でも変化する.世の中の言葉遣いが変化すれば個人もそれに応じて変化するということは,誰しも私的に体験している通りである.新語や死語などの語彙の盛衰はいうに及ばず,発音,語法,文法の変化にも気づかないうちに応じている.生成理論などでは,個人の文法は一度習得されると生涯固定され,文法変化は次世代の子供による異分析を通じてのみ起こりうると考えられているが,実際の言語運用においては,社会で進行している言語変化は,確かに個人の言語に反映されている.世の中で通時的に言語変化が進んでいるのであれば,同じタイミングで通時的に生きている話者がそれを受容し,自らの言葉遣いに反映するというのは,自然の成り行きだろう.
 しかし,上記の意味とは異なる意味で,「歳とともに言葉遣いは変わる」ことがある.例えば,世の中で通時的に起こっている言語変化とは直接には関係せずに,歳とともに使用語彙が変化するということは,みな経験があるだろう.幼児期には幼児期に特有の話し方が,修学期には修学期を特徴づける言葉遣いが,社会人になれば社会人らしい表現が,中高年になれば中高年にふさわしいものの言い方がある.個人は,歳とともにその年代にふさわしい言葉遣いを身につけてゆく.このパターンは,世の中の通時的な言語変化に順応して生涯のなかで言葉遣いを変化させてゆくのと異なり,通常,毎世代繰り返されるものであり,成長とともに起こる変化である.これを社会言語学では age-grading と呼んでいる.この概念と用語について,2点引用しよう.

age-grading A phenomenon in which speakers in a community gradually alter their speech habits as they get older, and where this change is repeated in every generation. It has been shown, for example, that in some speech communities it is normal for speakers to modify their language in the direction of the acrolect as they approach middle-age, and then to revert to less prestigious speech patterns after they reach retirement age. Age-grading is something that has to be checked for in apparent-time studies of linguistic change to ensure that false conclusions are not being drawn from linguistic differences between generations. (Trudgill 6)

. . . it is a well attested fact that particularly young speakers use specific linguistic features as identity markers, but give them up in later life. That is, instead of keeping their way of speaking as they grow older, thereby slowly replacing the variants used by the speakers of the previous generations, they themselves grow out of their earlier way of speaking. (Schendl 75)


 Wardhaugh (200-01) に述べられているカナダ英語における age-grading の例を挙げよう.カナダの Ontario 南部と Toronto では,子供たちはアルファベットの最後の文字を,アメリカ発の未就学児向けのテレビ番組の影響で "zee" と発音するが,成人に達すると "zed" へとカナダ化する.これは何世代にもわたって繰り返されており,典型的な age-grading の例といえる.
 また,小学生の言語は,何世紀ものあいだ受け継がれてきた保守的な形態に満ちていると一般に言われる.古くから伝わる数え方や遊び用語などが連綿と生き続けているのである.また,青年期には自分の世代と数歳上の先輩たちの世代との差別化をはかり,革新的な言葉遣いを生み出す傾向が,いつの時代にも見られる.成人期になると,仕事上の目的,また "linguistic market-place" の圧力のもとで,多かれ少なかれ標準的な形態を用いる傾向が生じるともいわれる (Hudson 14--16) .このように,年代別の言語的振る舞いは,時代に関わらずある種の傾向を示す.
 東 (91--92) より,「#1529. なぜ女性は言語的に保守的なのか (3)」 ([2013-07-04-1]) で簡単に触れた age-grading について引用する.

さまざまな社会で、年齢と言語のバリエーションの関係が研究されているが、おもしろい発見の1つは、どの社会階級のグループについてもいえるのだが、思春期(あるいはもう少し若い)年代の若者は社会的に低くみられているバリエーションを大人よりも頻繁に好んで使う傾向があるということであり、これは covert prestige (潜在的権威)と呼ばれている。〔中略〕別な言い方をすれば、年齢が上がるにつれて、社会的に低いと考えられている文法使用は少なくなっていくということになる(これは age grading とよばれている)。


 各年齢層には社会的にその層にふさわしいと考えられている振る舞いが期待され,人々は概ねそれに従って社会生活を営んでいる.この振る舞いのなかには,当然,言葉遣いも含まれており,これが age-grading の駆動力となっているのだろう.
 関連して,「#866. 話者の意識に通時的な次元はあるか?」 ([2011-09-10-1]) も参照.

 ・ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.
 ・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
 ・ Schendl, Herbert. Historical Linguistics. Oxford: OUP, 2001.
 ・ Hudson, R. A. Sociolinguistics. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1996.
 ・ 東 照二 『社会言語学入門 改訂版』,研究社,2009年.

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2013-07-04 Thu

#1529. なぜ女性は言語的に保守的なのか (3) [gender_difference][sociolinguistics][age_grading][covert_prestige][slang]

 「#1363. なぜ言語には男女差があるのか --- 女性=保守主義説」 ([2013-01-19-1]),「#1364. なぜ女性は言語的に保守的なのか」 ([2013-01-20-1]),「#1496. なぜ女性は言語的に保守的なのか (2)」 ([2013-06-01-1]) に引き続き,女性のほうが男性よりも標準形を好む傾向 (The Sex/Prestige Pattern) を示す原因について.
 過去の記事で言及した原因のほかに,Romain (87) は家庭における子供の存在が効いているのではないかと述べている.

Another factor seldom considered is the effect of children, with respect both to employment patterns as well as to language use in families. The Dutch study found that when a couple had children, both parents used more standard language. One of the reasons why women may adopt a more prestigious variety of language is to increase their children's social and educational prospects.


 つまり,育児世代の親は,子供に規範的な言葉遣いを教えようとするために,自らも標準的な語法を多用するようになる,という仮説である.これは母親に限らないことだが,多くの社会で伝統的に父親よりも母親のほうが育児に関わる機会が圧倒的に多いことは事実であり,この差が母親(成人女性)の標準化志向と関連しているのではないかという.
 父親と母親の間の育児機会や子供への期待の差についてはおいておくとして,育児世代の親の年齢層,つまり成人層が若年層よりも標準的な言葉遣いを示すことは広く観察されている.逆の言い方をすれば,若者は社会的に低い変種を好むということだ.これは,大人が標準的な変種に overt prestige (顕在的権威)を認める傾向があるのに対して,思春期やそれ以前の若者は非標準的な変種に covert prestige (潜在的権威)を認める傾向があるとして一般化できる.話者個人の成長という観点からみると,年齢が上がるにしたがって,より標準的な言葉遣いへとシフトしてゆく (age grading) ということだ.
 英語からの例としては,大人になると俗語 (slang) の使用が減る,多重否定 (multiple negation) の使用が減るなどの調査結果が報告されている.例えば,以下はおよそ同じ内容の発言の若者版と大人版である.ともに俗語的表現は含まれているが,その程度の差に注目されたい(東,pp. 94--95).

(1)
An adolescent: Dude, yesterday I went to this store and, man, I couldn't find the shift I wanted anywhere, man, it sucked.
An adult: Yesterday, I went to the store. I couldn't find what I wanted. Gosh! I was frustrated.

(2)
An adolescent: What the fuck is up with you, dumb ass! I told you to take that shift out 3 times. Get your ass out there.
An adult: I told you to take the trash out 3 times now. What the hell are you doing? Get your ass in gear and get out there and empty the dumb thing.


 Romaine による Detroit における多重否定の調査では,その割合が12歳以下で73%,10代で63%に対して,大人では61%へ落ちたという(東,p. 92).
 一般に大人には子供に規範を示す必要という社会的な圧力がかかっており,それにより非標準的な変種の使用を控えるようになるという仮説は,実感にも合っており,説得力がある.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.
 ・ 東 照二 『社会言語学入門 改訂版』,研究社,2009年.

Referrer (Inside): [2014-06-30-1]

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