hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

ligature - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-11-28 09:26

2021-08-22 Sun

#4500. 文字体系を別の言語から借りるときに起こり得ること6点 [grapheme][graphology][alphabet][writing][diacritical_mark][ligature][digraph][runic][borrowing][y]

 自らが文字体系を生み出した言語でない限り,いずれの言語もすでに他言語で使われていた文字を借用することによって文字の運用を始めたはずである.しかし,自言語と借用元の言語は当然ながら多かれ少なかれ異なる言語特徴(とりわけ音韻論)をもっているわけであり,文字の運用にあたっても借用元言語での運用が100%そのまま持ち越されるわけではない.言語間で文字体系が借用されるときには,何らかの変化が生じることは避けられない.これは,6世紀にローマ字が英語に借用されたときも然り,同世紀に漢字が日本語に借用されたときも然りである.
 Görlach (35) は,文字体系の借用に際して何が起こりうるか,6点を箇条書きで挙げている.主に表音文字であるアルファベットの借用を念頭に置いての箇条書きと思われるが,以下に引用したい.

   Since no two languages have the same phonemic inventory, any transfer of an alphabet creates problems. The following solutions, especially to render 'new' phonemes, appear to be the most common:

1. New uses for unnecessary letters (Greek vowels).
2. Combinations (E. <th>) and fusions (Gk <ω>, OE <æ>, Fr <œ>, Ge <ß>).
3. Mixture of different alphabets (Runic additions in OE; <ȝ>: <g> in ME).
4. Freely invented new symbols (Gk <φ, ψ, χ, ξ>).
5. Modification of existing letters (Lat <G>, OE <ð>, Polish <ł>).
6. Use of diacritics (dieresis in Ge Bär, Fr Noël; tilde in Sp mañana; cedilla in Fr ça; various accents and so on).


 なるほど,既存の文字の用法が変わるということもあれば,新しい文字が作り出されるということもあるというように様々なパターンがありそうだ.ただし,これらの多くは確かに言語間での文字体系の借用に際して起こることは多いかもしれないが,そうでなくても自発的に起こり得る項目もあるのではないか.
 例えば上記1については,同一言語内であっても通時的に起こることがある.古英語の <y> ≡ /y/ について,中英語にかけて同音素が非円唇化するに伴って,同文字素はある意味で「不要」となったわけだが,中英語期には子音 /j/ を表わすようになったし,語中位置によって /i/ の異綴りという役割も獲得した.ここでは,言語接触は直接的に関わっていないように思われる (cf. 「#3069. 連載第9回「なぜ try が tried となり,die が dying となるのか?」」 ([2017-09-21-1])) .

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-12-30 Sun

#3534. <ae> にまつわるエトセトラ [digraph][ligature][spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][diphthong]

 最近の Merriam-Webster の記事として How to Pronounce 'Ae' in English Words が目にとまった.2重字 (digraph) の <ae> あるいは合字 (ligature) の <æ> については,本ブログでは「#2419. ギリシア・ラテン借用語における <ae>」 ([2015-12-11-1])),「#2424. digraph の問題 (2)」 ([2015-12-16-1]),「#2515. 母音音素と母音文字素の対応表」 ([2016-03-16-1]) で扱ってきたが,上の記事はよい補足になる.
 ギリシア・ラテン借用語に典型的にみられる <ae> の綴字は,原則としては /iː/ の長母音に対応する (ex. algae, Caesar, aqua vitae, arborvitae, antennae) .しかし,知らなかったのだが,この /iː/ に加えて,慣用的に2重母音 /aɪ/ で発音される <ae> も少なくないようだ.例として,alumnae, larvae, lacunae, Bacchae などが挙げられている.例外中の例外だが,原則として /aɪ/ で発音される <ae> をもつ唯一の英単語としては,maestro /ˈmaɪstrəʊ/ が挙げられる.後期近代の新しいイタリア借用語ということでの例外だろう.また,例外といえば,単母音で読まれる aesthetic /ɛsˈθɛtɪk/ もある.
 前の母音を「長く」読ませる記号としての <e> という役割に鑑みれば,<ae> を /eɪ/ と発音させる慣習が発達するのも不自然ではない.aegis の本来の発音は /ˈiːʤəs/ だが,並行して /ˈeɪʤəs/ も行なわれているようだ.
 このように <ae> に対する発音の揺れが激しいのは,そもそもこの綴字の生起頻度が低く,特定の発音と結びつけられるのに十分な機会に乏しいためだろう.人を寄せ付けない古典借用語に多いという事実も,この揺れに拍車をかけている.両文字が合わさった合字 <æ> は,古英語ではすこぶる高頻度の文字だったことを思えば,ずいぶんと衰退してしまったのだなあと感慨深いが,現代英語でも発音(記号)としての /æ/ は十分に高頻度だ(「#1022. 英語の各音素の生起頻度」 ([2012-02-13-1]) を参照).20個ほどある母音音素の頻度ランキングで第4位はなかなか立派.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2017-08-21 Mon

#3038. 古英語アルファベットは27文字 [alphabet][oe][ligature][thorn][th][grapheme]

 現代英語のアルファベットは26文字と決まっているが,英語史の各段階でアルファベットを構成する文字の種類の数は,多少の増減を繰り返してきた.例えば古英語では,現代英語にある文字のうち3つが使われておらず,逆に古英語特有の文字が4つほどあった.26 - 3 + 4 = 27 ということで,古英語のアルファベットには27の文字があったことになる.

PDEa bcdefghijklmnopqrst  uvwxyz 
OEaæbcdefghi (k)lmnop(q)rstþðu ƿ(x)y(z) 


 「#17. 注意すべき古英語の綴りと発音」 ([2009-05-15-1]) の表とは若干異なるが,古英語に存在はしたがほどんど用いられない文字をアルファベット・セットに含めるか含めないかの違いにすぎない.上の表にてカッコで示したとおり,古英語では <k>, <q>, <x>, <z> はほとんど使われておらず,体系的には無視してもよいくらいのものである.
 古英語に特有の文字として注意すべきものを取り出せば,(1) <a> と <e> の合字 (ligature) である <æ> (ash),(3) th 音(無声と有声の両方)を表わす <þ> (thorn) と,同じく (3) <ð> (eth),(4) <w> と同機能で用いられた <ƿ> (wynn) がある.
 現代英語のアルファベットが26文字というのはあまりに当たり前で疑うこともない事実だが,昔から同じ26文字でやってきたわけではないし,今後も絶対に変わらないとは言い切れない.歴史の過程で今たまたま26文字なのだと認識することが必要である.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow