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noun - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-05-16 14:45

2022-05-10 Tue

#4761. -er, -or, -ee などは「行為者接尾辞」というよりは「主語(者)接尾辞」? [semantic_role][terminology][suffix][noun][word_formation]

 本ブログや Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では,-er, -or, -ee などの「?する人(もの)」を意味する名詞を作る「行為者接尾辞」 (agentive_suffix) について,いろいろと取り上げてきた.

 ・ 「#214. -er か -or か迷ったときのヒント」 (heldio)
 ・ 「#215. 女性行為者接尾辞 -ster」 (heldio)
 ・ 「#1748. -er or -or」 ([2014-02-08-1])
 ・ 「#1880. 接尾辞 -ee の起源と発展 (1)」 ([2014-06-20-1])
 ・ 「#1881. 接尾辞 -ee の起源と発展 (2)」 ([2014-06-21-1])
 ・ 「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1])
 ・ 「#4056. deme, demere, demande」 ([2020-06-04-1])
 ・ 「#4222. 行為者接尾辞 -eer」 ([2020-11-17-1])
 ・ 「#4302. 行為者接尾辞 -ar」 ([2021-02-05-1])

 これまで,これらの接尾辞 (suffix) について深く考えずに「行為者接尾辞」 (agentive_suffix) と呼び,記事のためのタグも設定してきた.しかし,Bauer (285--86) の議論を読み,むしろ「主語(者)接尾辞」 (subject suffix) くらいの用語が妥当だと気づいた.前者は意味論的な名付けで,後者は統語論的な名付けである.

There is a class of nominalizations which is sometimes given the name 'agentive nominalization' in the literature . . . . This class is made up mainly of forms such as baker, examiner, killer, where the suffix -er is added to a verbal base. 'Agentive nominalization' is actually a misnomer because such forms do not always denote agents, in any normal sense of the term 'agent'. In words like curler, opener, synthesizer the derivative in -er denotes an instrument; in words like lover the derivative denotes an experiencer or patient. These various semantic effects, however, can be given a unitary explanation if it is said that the derivative is a lexeme which is a typical subject of the verb used in the base: a curler curls, an opener opens, a lover loves, and so on. A better name for this group of nominalizations, therefore, is subject nominalization, although this label will cover more than just -er suffixation.


 明快な議論である.だが,行為者接尾辞 (agentive suffix) という用語もそれなりに定着しており,すぐには捨てがたい.使い続けるにしても,Bauer の指摘を意識しつつ使うことにしよう.

 ・Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.

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2022-02-05 Sat

#4667. 可算名詞と不可算名詞とは何なのか? --- 語彙意味論による分析 [noun][countability][semantics][sobokunagimon]

 英語の名詞には,可算名詞 (countable noun) と不可算名詞 (uncountable noun) がある.前者は不定冠詞 a(n) が付いたり複数形の -(e)s が付くが,後者はそのようなものは付かない.可算名詞の典型は普通名詞の book や集合名詞の family であり,不可算名詞の典型は物質名詞の water や抽象名詞の love である.
 上で「○○名詞」という名詞の種別が,すでに6つも現われた.これらの関係を整理するには,語彙意味論の観点から2つのパラメータを考慮するだけで足りる."bounded" と "internal structure" の2つである.
 "bounded" とは「定まった形をもっている」ということである.例えば,a book は,1冊の本として定まった形をイメージすることができるから "bounded" である.しかし,複数形の books では,何冊あるのか,それぞれがどのような位置関係にあるのかなどの疑問が湧き,全体としての定まった形をイメージすることは難しいので "unbounded" である.waterlove も,それだけでは定的なイメージを持ちにくいという点で,"unbounded" である.
 一方,"internal structure" は,内部に構造があるかどうか,さらに小さい単位へ分割が可能かどうかというパラメータである.a book は1冊だからこれ以上分割できない.しかし books は構成員であるそれぞれの本に分割できる.おもしろいのは a family のような名詞で,通常血のつながった複数のメンバーからなる集団を意味するから,内部構造をもち,個々人へと分割できる.waterlove は,一般的にはそれ自体の内部構造はないとみなされる(物理学や哲学のように,とことん突き詰めれば内部構造があると主張できるかもしれないが,ここではあくまで「一般的な見方によれば」である).
 この2つのパラメータを掛け合わせると次のように整理できる.

[+internal structure][-internal structure]
[+bounded]集合名詞 family普通名詞(個体) book
[-bounded]個体の複数 books
集合名詞の複数 families
物質名詞 water
抽象名詞 love


 このマトリックスの右下の1マスに納まっているのが不可算名詞(つまり [-bounded] かつ [-internal structure])であり,それ以外の3マスに納まっているのが可算名詞である.以上,『日英対照 英語学の基礎』の pp. 129--135 を参照した.

 ・ 三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本孝司・吉村あき子(著) 『日英対照 英語学の基礎』 くろしお出版,2013年.

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2022-01-22 Sat

#4653. 可算名詞と不可算名詞の区別は近代英語期にかけて生じた [noun][countability][semantics][sobokunagimon][article][hc][category]

 先日「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) の記事を投稿したところ,読者の方より関連する論文がある,ということで教えていただきました.私の寡聞にして存じあげなかった Toyota 論文です.たいへんありがたいことです.早速読んでみました.
 論文の主旨は非常に明快です.Toyota (118) の冒頭より,論文を要約している文章を引用します.

Our main question is about how the distinction between mass and count nouns evolved. Earlier English surprisingly has a relatively poor counting system, the distinction between count and mass nouns not being clear. This poor distinction in earlier English has developed into a new systems of considering certain referents as mass nouns, and these referents came to be counted differently from those considered as count nouns. There are various changes involved in this development, and it is possible that factors like language contact caused the change. This view is challenged, asking whether other possibilities, such as a change in human cognition and the world-view of speakers, also affected this development.


 同論文によれば,古英語から初期中英語までは,可算性 (countability) に関する区別は明確にはなかったということです(その種のようなものはあったのですが).これは,可算性の区別をつけていなかったと考えられる印欧祖語の特徴の継承・残存と考えてよさそうです.
 ところが,後期中英語から,とりわけ初期近代英語期にかけて,突如として現代に通じる可算性の区別がつけられるようになってきました.背景には,すでに可算性の区別を獲得していたラテン語やフランス語からの影響が考えられますが,それだけでは比較的短い期間内に明確な区別が生じた事実を十分には説明できません.そこで,言語接触により触発された可能性は認めつつも,内発的に英語における「世界観」(弱めにいえば「名詞の分節基準」ほどでしょうか)が変化したのではないか,と Toyota は提言しています.
 Helsinki Corpus による経験的な調査として注目に値します.仮説として立てられた「世界観」の変化を実証するにはクリアしなければならない問題がまだ多くあるように思いましたが,それでも,たいへん理解しやすい野心的な試みとして読むことができました.私も,俄然この問題に関心が湧いてきました.

 ・ Toyota, Junichi. "When the Mass Was Counted: English as Classifier and Non-Classifier Language." SKASE Journal of Theoretical Linguistics 6.1 (2009): 118--30. Available online at http://www.skase.sk/Volumes/JTL13/pdf_doc/07.pdf .

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2022-01-19 Wed

#4650. 抽象名詞は形容詞に修飾されると可算名詞になりやすい? [noun][countability][adjective][article][sobokunagimon]

 昨日の記事「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) と関連して,ゼミ大学院生が興味深い疑問を振ってくれたので,ここで考えてみたい.
 通常,抽象名詞は不可算名詞として不定冠詞 a(n) を取らないが,形容詞で修飾される場合には具体性を帯び,不定冠詞を伴うことがあるといわれる.例を挙げれば,"Ours was a very happy marriage." "The book was a great success." のようなケースである.
 一方,形容詞を伴っても原則として不定冠詞を取らない「頑固な抽象名詞」もある.院生が言及してくれた『ロイヤル英文法』 (93) を参照していみると,次の語が列挙されていた.確かに good advice, remarkable progress, bitter weather などと不定冠詞は取らない.

advice, applause, behavior, conduct, damage, fun, harm, homework, information, luck, music, news, nonsense, progress, weather, wisdom, work


 この辺りの問題には合理的な説明を施すことは難しいようだ.Quirk et al. (§5.59)によると,不定冠詞が付き得る例文が3つ挙げられている.

Mavis had a good education.
My son suffers from a strange dislike of mathematics. <ironic>
She played the oboe with (a) remarkable sensitivity.


 このようなケースで不定冠詞が付き得る条件ははっきりしておらず,あくまで次のような場合には付きやすいという緩い傾向が指摘できるにとどまる.

(i) the noun refers to a quality or other abstraction which is attributed to a person;
(ii) the noun is premodified and/or postmodified; and, generally speaking, the greater the amount of modification, the greater the acceptability of a/an.


 標題が相当に難しそうな問題であることが分かってきた.

 ・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2022-01-18 Tue

#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか? [noun][countability][semantics][sobokunagimon][article][category]

 名詞の可算性 (countability) は現代英語における重要な問題だが,本ブログでまともに扱ったことがなかったことに気づいた.「#4335. 名詞の下位分類」 ([2021-03-10-1]),「#4214. 強意複数 (1)」 ([2020-11-09-1]),「#4215. 強意複数 (2)」 ([2020-11-10-1]),「#2808. Jackendoff の概念意味論」 ([2017-01-03-1]) 辺りで間接的に触れてきた程度である.私自身,この問題について歴史的に向き合ったことがなかったということもある.
 日本語母語話者として英語を学んできて,なぜこの単語は不可算名詞なのか,と疑問を抱いたことは一度や二度ではない.次に挙げる単語は,そのまま数えられそうでいて英語では数えられということになっており,強引に数えたい場合にはいちいち単位を表わす可算名詞を用いた表現にパラフレーズしなければならない.例えば Quirk et al. (§5.9)によると次の通り.

NONCOUNT NOUNCOUNT EQUIVALENT
This is important informationa piece/bit/word of information
Have you any news?a piece/a bit/an item of good news
a lot of abusea term/word of abuse
some good advicea piece/word of good advice
warm applausea round of applause
How's business?a piece/bit of business
There is evidence that . . .a piece of evidence
expensive furniturea piece/an article/a suite of furniture
The interest is only 5 percent.a (low) rate of interest
What (bad/good) luck!a piece of (bad/good) luck


 英語史の観点からの興味は,可算名詞と不可算名詞の区別がいつ頃生まれたのかということである.意味論的には,名詞の可算性の区別そのものは古英語期にもあったのだろうか.あくまで形式的にいえば,名詞の可算性が顕在化するのは,主として不定冠詞の用法が発達してからのことだろう.不定冠詞が厳密にいつ確立したかは議論のあるところだが,「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) で見たように中英語期以降であることは認めてよいだろう.それ以降は,不定冠詞が付くことができれば可算名詞であり,付くことができなければ不可算名詞であると判定し得るので,調査のしようがあるように思われる.では,上記の単語はその当初から不可算名詞だったのだろうか.そして,単位(可算)名詞を伴う表現もその当初からあったのだろうか.あるいは,可算・不可算の区別自体が,それ以降,徐々に発達してきたものなのだろうか.
 名詞の可算性の顕在化は,主に付随する不定冠詞の有無によって判定し得ると述べたが,それ以外の形式的な判定基準もあるかもしれない.例えば「#2697. fewa few の意味の差」 ([2016-09-14-1]),「#3051. 「less + 複数名詞」はダメ?」 ([2017-09-03-1]),「#3052. そのような用法は昔からあった,だから何?」 ([2017-09-04-1]),「#2035. 可算名詞は he,不可算名詞は it で受けるイングランド南西方言」 ([2014-11-22-1]) で取り上げたような議論も関連してくるのではないか.
 本格的に調べたことがないので,現時点で私に言えることはないが,少しずつ追いかけてみようと思う.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

Referrer (Inside): [2022-01-22-1] [2022-01-19-1]

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2021-12-10 Fri

#4610. marriage, carriage, verbiage [spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][noun][suffix][sound_change]

 ふと思いついた疑問.marriage/ˈmærɪʤ/ と carriage /ˈkærɪʤ/ は2音節で発音されるが,同じ <-iage> の綴字をもつ verbiage /ˈvəːbiɪʤ/ は3音節で発音される.なぜなのだろうか.
 -age はフランス語の名詞を作る接尾辞に由来する.さらに遡るとラテン語 -āticum (中性形容詞語尾)にたどりつく.英語では13世紀から見られ,14--15世紀以降,多用されるようになった.フランス語由来であるから,英語でも当初は強勢を伴って /-aːʒ/ と発音されていた.14世紀にフランス語から借用された中英語形の mariage, cariage も,フランス語にほど近い /mariˈaːʒ/, /kariˈaːʒ/ ほどの3音節の発音だったはずである.
 しかし,時とともにこの2語は「英語化」していった.音変化のルートを想像するに,(1) 強勢が第1音節に移り,(2) 第2,第3音節から強勢が奪われて -iage は /-iɪʤ/ となり,(3) 同部分がさらに弱化・短化・同化を経て /-ɪʤ/ となったのだろう.単語全体としてみれば3音節から2音節に短くなったことになる.
 一方,verbiage は3音節を保っている.上記のルートでいえば (1), (2) までは経たが (3) は経ていないという段階である.この単語は marriage, carriage よりもずっと遅く18世紀にフランス語から借用されてきたために「英語化」が十分に進んでいないということなのだろう.
 ちなみに同じ <-iage> をもつ triage /ˈtriːɑːʒ, triˈɑːʒ/ も18世紀にフランス語から借用された語だが,「英語化」のルートでは (1) の段階にあるか,あるいはまだルートに乗っていない段階にあるといえるだろう.
 <-iage> という綴字に対応する発音の種類は,借用年代と緩く連動しつつ,多様である.

Referrer (Inside): [2021-12-11-1]

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2021-11-09 Tue

#4579. 複数形になると意味が変わる名詞 [plural][number][noun][semantics][homonymy][polysemy]

 『英語便利辞典』をペラペラとめくっていたら「単数と複数で意味の異なる名詞」のページ (p. 473) を発見.知らないものも多かったので,改めて英語の名詞の単複というのは難しいなと思った次第.例えば glass は「ガラス」だけれど,glasses は「眼鏡」というタイプ.

(1) 名詞の複数形が単数形の意味に加えて別の意味をもつもの

appearance出現appearances状況
armarms武器,兵器
bonebones骨格
brainbrains知力
chainchains束縛
colorcolors軍旗
compass羅針盤compassコンパス
custom習慣customs関税,税関
future未来futures(商品・為替)先物
letter文字,手紙letters文学
line行,線lines詩句
manner方法manners作法
mountainmountains山脈
numbernumbers韻文
oiloils油絵
part部分parts才能
quarter四分の一quarters宿舎
spectacle光景spectacles眼鏡
teartears悲嘆
term期間,学期terms条件


(2) 名詞の複数形が単数形の意味とは全く別の意味しかもたないもの

accomplishment成就accomplishments芸能
advice忠告advices報告
air空気airs気取り
arrangement配列,整頓arrangements手配,準備
attention注意attentions求愛
authority権威authorities当局
charge管理,世話charges料金
clothcloths衣服
coppercoppers小銭
damage損害damages損害賠償(額・金)
direction指導,指揮directions指図
forceforces軍勢
glassガラスglasses眼鏡
good????????????goods??????
ground地面grounds構内
height蕭????heights蕭????
humanity人間性humanities人文科学
instruction教えることinstructions指図
look見ることlooks容貌
need必要性needs必要品
pain苦痛pains骨折
physic医薬physics物理学
powerpowers列強,体[知]力
sale販売sales売上高
sandsands砂州
saving拙訳savings預貯金
security安全securities証券
spirit精神spirits火酒
timetimes時代
waterwaters領海,水域
wood木材woods
work仕事works工場


 これらの例において複数形は事実上語彙化しているのだろう.多義語というよりも同音異義語に近いということだ.
 関連して「#4214. 強意複数 (1)」 ([2020-11-09-1]),「#4215. 強意複数 (2)」 ([2020-11-10-1]),「#1169. 抽象名詞としての news」 ([2012-07-09-1]) を参照.

 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

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2021-09-29 Wed

#4538. 固有名の地位 [onomastics][toponymy][personal_name][semantics][noun][category][linguistics][semiotics][sign]

 あまりにおもしろそうで,手を出してしまったら身を滅ぼすことになるかもしれないという分野がありますね.私にとって,それは固有名詞学 (onomastics) です.端的にいえば人名や地名の話題です.泥沼にはまり込むことが必至なので必死で避けているのですが,数年に一度,必ずゼミ生がテーマに選ぶのです.たいへん困ります.困ってしまうほど,私にとって磁力が強いのです.
 固有名詞の問題,要するに「名前」の問題ほど,言語学において周辺的な素振りをしていながら,実は本質的な問題はありません.言葉は名前に始まり名前に終わる可能性があるからです (cf. 「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]),「#1185. 固有名詞化 (2)」 ([2012-07-25-1]) で触れた "Onymic Reference Default Principle" (ORDP)).
 そもそも固有名詞というのは,言語の一部なのかそうでないのか,というところからして問題になるのが悩ましいですね.タモリさんではありませんが,私が「パリ,リヨン,マルセーユ,ブルゴーニュ」と上手なフランス語の発音で言えたとしても,フランス語がよく話せるということになりません.そもそも地名はフランス語なのかどうなのかという問題があるからです (cf. 「#2979. Chibanian はラテン語?」 ([2017-06-23-1])).
 英語史のハンドブックに,Coates による固有名詞学に関する章がありました.その冒頭の「固有名の地位」と題する1節より,最初の段落を引用します (312) .

The status of proper names
   Names is a technical term for a subset of the nominal expressions of a language which are used for referring ('identifying or selecting in context') and, in some cases, for addressing a partner in communication. Nominal expressions are in general headed by nouns. According to one of the most ancient distinctions in linguistics, nouns may be common or proper, which has something to do with whether they denote a class or an individual (e.g. queen vs Victoria), where individual means a single-member set of any sort, not just a person. Much discussion has taken place about how this distinction should be refined to be both accurate and useful, for instance by addressing the obvious difficulty that a typical proper noun denoting persons may denote many separate individuals who bear it, and that common nouns may refer to individuals by being constructed into phrases (the queen). I will leave the concept [賊proper], applied to nouns, for intuitive or educated recognition before returning to discussion of the inclusive concept of proper names directly. Proper nouns have no inherent semantic content, even when they are homonymous with lexical words (Daisy, Wells), and many, perhaps all, cultures recognise nouns whose sole function is to be proper (Sarah, Ipswich). Typically they have a unique intended referent in a context of utterance. Proper names are the class of such proper nouns included in the class of all expressions which have the properties of being devoid of sense and being used with the intention of achieving unique reference in context. Onomastics is the study of proper names, and concentrates on proper nouns; I shall confine the main subject-matter of this chapter to the institutionalised proper nouns associated with English and, in accordance with ordinary usage, I shall call them proper names or just names. Readers should note that strictly speaking these are a subset of proper names, and from time to time other members of the larger set will be discussed. There is some evidence from aphasiology and cognitive neuropsychology that institutionalised proper nouns --- especially personal names --- form a psychologically real class . . . .


 これだけでおもしろそうと感じた方は,仲間かもしれません.ぜひ章全体を読んでみてください.

 ・ Coates, Richard. "Names." Chapter 6 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 312--51.

Referrer (Inside): [2022-03-22-1]

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2021-09-14 Tue

#4523. 時制 --- 屈折語尾の衰退をくぐりぬけて生き残った動詞のカテゴリー [inflection][conjugation][ilame][verb][noun][category][tense][mood][person]

 古英語期(以前)に始まり中英語期をかけてほぼ完遂した屈折語尾の衰退は,英語形態論における史上最大の出来事だったといってよい.これにより英語の言語としての類型がひっくり返ってしまったといっても過言ではない.とりわけ名詞,動詞,形容詞の形態論は大規模な再編成を余儀なくされ,各品詞と結びついていた文法カテゴリー (category) も大幅に組み替えられることになった.
 名詞についていえば,古英語では性 (gender),数 (number),格 (case) の3カテゴリーの三位一体というべき形態論が機能していたが,中英語ではおよそ性と格のカテゴリーが弱化・消失にさらされ,数が優勢となって今に至る.
 動詞については,古英語では人称 (person),数 (number),法 (mood),時制 (tense) が機能的だったが,屈折語尾の衰退の荒波に洗われ,時制以外のカテゴリーの効き具合が弱まった.一応すべてのカテゴリーが現代まで生き延びているとはいえ,結果的に優位を獲得したのは時制である.
 Lass (161) は,近現代英語の動詞のカテゴリーを形態的な区別という観点から整理し,次のように図式化した.

TENSE ─┬─ pres. ── MOOD ─┬─ ind. ── NUM. ─┬─ sing.  ── PERS.  ─┬┬─ 1, 2      -0
        │                     │                    │                        ││
        │                     │                    │                        └── 3    ── -s
        │                     │                    │                          │
        │                     │                    └─ pl.    ─────┬──┘
        │                     │                                          │
        │                     └── subj./imp. ─────────────┘
        │
        │
        └─ past  ────────────────────────────────────── -d

 動詞の定形を決定する最重要カテゴリーとして時制が君臨し,過去形においては法すらも区別されない形態論となっている.Lass (159--61) に古英語,後期中英語,初期近代英語の対応する樹形図もある.比較すると形態論の再編成がよく分かる.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

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2021-05-28 Fri

#4414. なぜ複数形語尾に -es を取る名詞があるのですか? [plural][number][suffix][khelf_hel_intro_2021][sobokunagimon][noun][consonant][assimilation]

 英語の名詞複数形に関する素朴な疑問といえば,foot -- feet, child -- children など不規則な複数形にまつわる話題がまず最初に思い浮かびます.foot -- feet についていえば,私自身も本ブログ内でこれでもかというほど繰り返し取り上げてきました(こちらの記事セットを参照).
 ところが,中学1年生に英語を教える教育現場より意外な情報が入ってきました.複数形に関する生徒からの質問で最も多かったのは「なぜ -o, -s, -z, -x, -ch, -sh で終わるとき,語尾に -es をつけるのか?」だったというのです.なぜ -s ではなくて -es なのか,という疑問ですね.この情報を寄せてくれたのは英語教員をしている私のゼミ卒業生なのですが,今回の「英語史導入企画2021」のために「複数形は全部 -s をつけるだけなら良いのに!」を作成してくれました.生の教育現場からの問題意識と英語史・英語学研究のコラボといってよいコンテンツです.
 名詞の語末音が歯擦音 (sibilant) の場合,具体的には [s, z, ʃ, ʒ, ʧ, ʤ] である場合には,複数形の語尾として -es [-ɪz] を付けるのが原則です.歴史的背景は上記コンテンツで説明されている通りです.もともとの複数形語尾は -s ではなく -es だったのです.したがって「なぜ名詞の語末音が非歯擦音の場合には,もともとの -es が -s になってしまったのか?」という問いを立てるほうが適切ということになります.この新しい問いに対しては,ひとまず「そのような音変化が生じたから」と答えておきます.では,なぜそのような音変化が歯擦音の後位置では生じなかったのでしょうか.これに対して,コンテンツでは次のように回答が与えられています.

中学生への回答として考えられるのは、「発音しにくいから」というものである。 -s、-x、-ch、-sh で終わる語の発音は [s], [z], [ʃ], [ʒ], [ʧ], [ʤ] であり,[s] や [z] と同じ摩擦音である。また、[s] や [z] は歯茎音である一方,[ʃ] や [ʒ] は後部歯茎音で、調音位置も非常に近い。これらのよく似た子音を連続して発音するよりも、母音を挟んだ方が発音しやすいため、綴りの e が残ったと考えられる。


 「発音の便」説ですね.私自身も基本的にはこれまでこのように答えてきました.確かに英語史を通じて音素配列上避けられてきた子音連鎖であり,説明として分かりやすいからです.ただ,今回改めてこの問題を考える機会を得たので,慎重に考察してみました.

 1. 歯擦音+ [s, z] の連鎖が「発音しにくい」といっても,同連鎖は音節をまたぐ環境であれば普通に存在します (ex. this style, these zoos, dish soap, garagesale, watchstrap, page zero) .したがって,調音的な観点から絶対的に「発音しにくい」ということは主張しにくいように思われます.音素配列上,同一音節内で同連鎖が避けられることは事実なので,ある環境において相対的に「発音しにくい」ということは,まだ主張できるかもしれません.ですが,それを言うのであれば,英語として「発音し慣れていない」と表現するほうが適切のように思われます.

 2. むしろ聞き手の立場に立ち,問題の子音連鎖が「聴解しにくい」と考えたらどうでしょうか.複数語尾は,英語史を通じて名詞の数 (number) に関する情報を担う重要な形態素でした.同じ名詞のカテゴリーのなかでも,性 (gender) や格 (case) は形態的に衰退しましたが,数に関しては現在まで頑強に生き延びてきました.英語において数は何らかの意味で「重要」のようです.
 話し手の立場からすれば,数がいくら重要だと意識していても,問題の子音連鎖は放っておけば調音の同化 (assimilation) の格好の舞台となり,[s, z] が先行する歯擦音に呑み込まれて消えていくのは自然の成り行きです.結果として,数カテゴリーも存続の危機に立たされるでしょう.しかし,聞き手の立場からすれば,複数性をマークする [s, z] に関してはしっかり聴解できるよう,話し手にはしっかり発音してもらいたいということになります.
 話し手が同化を指向するのに対して,聞き手は異化 (dissimilation) を指向する,そして言語体系や言語変化は両者の綱引きの上に成り立っている,ということです.この議論でいけば,今回のケースでは,聞き手の異化の効きのほうが歴史的に強かったということになります.昨今,聞き手の役割を重視した言語変化論が存在感を増していることも指摘しておきたいと思います.こちらの記事セットもご覧ください.

 さて,今回の「複数形語尾 -es の謎」のなかで,どうひっくり返っても「発音の便」説を適用できないのは,上記コンテンツでも詳しく扱われている通り,-o で終わる名詞のケースです.名詞に応じて -s を取ったり -es を取ったり,さらに両者の間で揺れを示したりと様々です.緩い傾向として,英語への同化度の観点から,同化が進んでいればいるほど -es を取る,という指摘がなされてはことは注目に値します.関連する話題は本ブログでも「#3588. -o で終わる名詞の複数形語尾 --- pianospotatoes か?」 ([2019-02-22-1]) にて扱っていますので,そちらもどうぞ.
 いずれにせよ,実に奥の深い問題ですね.恐るべし中一生.

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2021-05-20 Thu

#4406. 集合名詞の単数受け/複数受けの問題 [noun][number][agreement][ame_bre][khelf_hel_intro_2021]

 「英語史導入企画2021」のために昨日大学院生からアップされたコンテンツは「"Family is" or "Family are"」です.何の話題か想像できるでしょうか.そう,集合名詞 (collective noun) の数の一致の問題ですね.
 コンテンツでもわかりやすく解説されているとおり,family に代表される種類の集合名詞は,一般に英米変種間で用法に差があるとされます.イギリス英語では「家族という1単位」とみる場合には My family is . . . . のように単数受けし,「家族を構成する複数メンバー」とみる場合には My family are . . . . のように複数受けする.一方,アメリカ英語では,どちらの場合にも My family is . . . . のように単数受けする,といった具合です.
 英語の英米差については,本ブログでも ame_bre の記事で多く取り上げてきました.英米差を示す言語項は様々に指摘されてきましたが,その多くは絶対的な「ルール」というよりも,あくまで相対的な「傾向」にとどまることが多いものです.アメリカ英語的といわれているものがイギリス英語で生じることもありますし,逆のケースもあります.ですので,あくまで傾向ととらえる必要があるのですが,それにしてもなかなか明確な傾向が現われることも少なくないので,やはりおもしろい話題ですね.今回の「集合名詞の扱い方」も,その点で興味深い英米差のトピックとなります.
 複数的・集合的な指示対象をもつ主語に対して,動詞が単数受けなのか複数受けなのかという問題については,私も長らく関心を寄せてきました.本ブログからも,主に歴史的観点から関連する話題として以下を挙げておきましょう(一気に読みたい方はこちらの記事セットからどうぞ).

 ・ 「#312. 文法の英米差」 ([2010-03-05-1])
 ・ 「#930. a large number of people の数の一致」 ([2011-11-13-1])
 ・ 「#1144. 現代英語における数の不一致の例」 ([2012-06-14-1])
 ・ 「#1334. 中英語における名詞と動詞の数の不一致」 ([2012-12-21-1])
 ・ 「#1355. 20世紀イギリス英語で集合名詞の単数一致は増加したか?」 ([2013-01-11-1])
 ・ 「#1356. 20世紀イギリス英語での government の数の一致」 ([2013-01-12-1])

 さらにいえば,21世紀に入ってから話題をさらっている「#1054. singular they」 ([2012-03-16-1]) の問題も,今回の「集合名詞の単数受け/複数受けの問題」と無縁ではないと思っています.

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2021-03-10 Wed

#4335. 名詞の下位分類 [noun][terminology][conversion]

 品詞 (parts of speech) のなかでも,名詞 (noun) は最も基本的なものの1つである.とりあえず「モノの名前」といっておけばおよそ理解できそうな,自然な品詞のように思われる.実際にはそう簡単でもないのだが,細かい前提を抜きにしてとりあえず語り始められる語類にはちがいない.
 名詞を下位分類する方法は立場によっていろいろあるだろうが,Crystal (208) を参考にすると,主として意味論的,副として統語論的な観点から以下のように分類される.

          ┌── Proper
          │                                    ┌── Concrete
Nouns ──┤                ┌──  Count ───┤
          │                │                  └── Abstract
          └── Common ──┤
                            │                  ┌── Concrete
                            └── Noncount ──┤
                                    (Mass)      └── Abstract

 名詞はまず大きく固有名詞 (proper noun) と普通名詞 (common noun) に分かれる.前者には,文のなかで単独で立つことができる,通常不定冠詞を伴ったり複数形になったりしない,通常定冠詞を伴わない,表記上大文字で始める慣習がある等の特徴がある.
 後者の普通名詞は,さらに可算名詞 (count noun) と不可算名詞 (noncount noun) に区分される.前者には,単独で立つことができない,不定冠詞が付き得る,複数形になり得る等の特徴があり,後者には単独で立つことができる,不定冠詞が付かない,複数形にならない等の相反する特徴がある.後者は質量名詞 (mass noun) と呼ばれることもある.
 可算名詞と不可算名詞は,それぞれ意味や指示対象の観点から,具体的なものと抽象的なものに区分される.book, car, elephant は具体的な可算名詞だが,difficulty, idea, certainty は抽象的な可算名詞となり得る.ただし,不可算名詞については,具体・抽象の区別は必ずしも明瞭ではない.例えば structure, version, music などは,文脈によっていずれにも解釈できるからだ (Crystal 209) .
 上記の下位区分は名詞の種類を示すものだが,それぞれ統語的には多かれ少なかれ独自の特徴を示すという点では,理論的に別々の品詞と考えることも不可能ではない.The Athens of the North (= Edinburgh) とか many Smiths とか a Mary Jones などというとき,固有名詞が普通名詞として用いられているわけだが,これを固有名詞の普通名詞的用法と解するのではなく,普通名詞へ品詞転換 (conversion) したものとみなすこともできるのだ.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 210.

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2021-03-06 Sat

#4331. Johnson の辞書の名詞を示す略号 n.s. [johnson][dictionary][lexicography][noun][adjective][verb][latin][terminology]

 Samuel Johnson の辞書 A Dictionary of the English Language (1755) には,名詞を示す略号として,現在見慣れている n. ではなく n.s. が用いられている.名詞 stone の項目の冒頭をみてみよう.



 見出し語に続いて,イタリック体で n. ʃ. が見える.(当時の小文字 <s> はいわゆる long <s> と呼ばれるもので,現在のものと異なるので注意.long <s> については,「#584. long <s> と graphemics」 ([2010-12-02-1]),「#2997. 1800年を境に印刷から消えた long <s>」 ([2017-07-11-1]),「#3869. ヨーロッパ諸言語が初期近代英語の書き言葉に及ぼした影響」 ([2019-11-30-1]),「#3875. 手書きでは19世紀末までかろうじて生き残っていた long <s>」 ([2019-12-06-1]) などを参照.)
 n.s. は,伝統的に名詞を指した noun substantive の省略である.現在の感覚からはむしろ冗長な名前のように思われるかもしれないが,ラテン語文法の用語遣いからすると正当だ.ラテン語文法の伝統では,格により屈折する語類,すなわち名詞と形容詞をひっくるめて "noun" とみなしていた.後になって名詞と形容詞を別物とする見方が生まれ,前者は "noun substantive",後者は "noun adjective" と呼ばれることになったが,いずれもまだ "noun" が含まれている点では,以前からの伝統を引き継いでいるともいえる.Dixon (97) から関連する説明を引用しよう.

Early Latin grammars used the term 'noun' for all words which inflect for case. At a later stage, this class was divided into two: 'noun substantive' (for words referring to substance) and 'noun adjective' (for those relating to quality). Johnson had shortened the latter to just 'adjective' but retained 'noun substantive', hence his abbreviation n.s.


 引用にもある通り,形容詞のほうは n.a. ではなく現代風に adj. としているので,一貫していないといえばその通りだ.形容詞 stone の項目をみてみよう.



 ちなみに,ここには動詞 to stone の見出しも見えるが,品詞の略号 v.a. は,verb active を表わす.今でいう他動詞 (transitive verb) をそう呼んでいたのである.一方,自動詞 (intransitive verb) は,v.n. (= verb neuter) だった.
 文法用語を巡る歴史的な問題については,「#1257. なぜ「対格」が "accusative case" なのか」 ([2012-10-05-1]),「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]),「#1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか」 ([2013-06-25-1]),「#3307. 文法用語としての participle 「分詞」」 ([2018-05-17-1]),「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]),「#3984. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (2)」 ([2020-03-24-1]),「#3985. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (3)」 ([2020-03-25-1]),「#4317. なぜ「格」が "case" なのか」 ([2021-02-20-1]) などを参照.

 ・ Dixon, R. M. W. The Unmasking of English Dictionaries. Cambridge: CUP, 2018.

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2021-02-14 Sun

#4311. 格とは何か? [case][terminology][inflection][category][noun][grammar][sobokunagimon][semantic_role]

 格 (case) は,人類言語に普遍的といってよい文法カテゴリーである.系統の異なる言語どうしの間にも,格については似たような現象や分布が繰り返し観察されることから,それは言語体系の中枢にあるものに違いない.
 学校英文法でも主格,目的格,所有格などの用語がすぐに出てくるほどで,多くの学習者になじみ深いものではあるが,そもそも格とは何なのか.これに明確に答えることは難しい.ずばり Case というタイトルの著書の冒頭で Blake (1) が与えている定義・解説を引用したい.

Case is a system of marking dependent nouns for the type of relationship they bear to their heads. Traditionally the term refers to inflectional marking, and, typically, case marks the relationship of a noun to a verb at the clause level or of a noun to a preposition, postposition or another noun at the phrase level.


 この文脈では,節の主要部は動詞ということになり,句の主要部は前置詞,後置詞,あるいは別の名詞ということになる.平たくいえば,広く文法的に支配する・されるの関係にあるとき,支配される側に立つ名詞が,格の標示を受けるという解釈になる(ただし支配する側が格の標示を受けるも稀なケースもある).
 引用中で指摘されているように,伝統的にいえば格といえば屈折による標示,つまり形態的な手段を指してきたのだが,現代の諸理論においては一致や文法関係といった統語的な手段,あるいは意味役割といった意味論的な手段を指すという見解もあり得るので,議論は簡単ではない.
 確かに普段の言語学の議論のなかで用いられる「格」という用語の指すものは,ときに体系としての格 (case system) であり,ときに格語尾などの格標示 (case marker) であり,ときに格形 (case form) だったりする.さらに,形態論というよりは統語意味論的なニュアンスを帯びて「副詞的対格」などのように用いられる場合もある.私としては,形態論を意識している場合には "case" (格)という用語を用い,統語意味論を意識している場合には "grammatical relation" (文法関係)という用語を用いるのがよいと考えている.後者は,Blake (3) の提案に従った用語である.後者には "case relation" という類似表現もあるのだが,Blake は区別している.

It is also necessary to make a further distinction between the cases and the case relations or grammatical relations they express. These terms refer to purely syntactic relations such as subject, direct object and indirect object, each of which encompasses more than one semantic role, and they also refer directly to semantic roles such as source and location, where these are not subsumed by a syntactic relation and where these are separable according to some formal criteria. Of the two competing terms, case relations and grammatical relations, the latter will be adopted in the present text as the term for the set of widely accepted relations that includes subject, object and indirect object and the term case relations will be confined to the theory-particular relations posited in certain frameworks such as Localist Case Grammar . . . and Lexicase . . . .


 ・ Blake, Barry J. Case. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2001.

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2020-11-10 Tue

#4215. 強意複数 (2) [plural][intensive_plural][semantics][number][category][noun][terminology][countability][poetry][latin][rhetoric]

 昨日の記事 ([2020-11-09-1]) に引き続き強意複数 (intensive_plural) の話題について.この用語は Quirk et al. などには取り上げられておらず,どうやら日本の学校文法で格別に言及されるもののようで,たいていその典拠は Kruisinga 辺りのようだ.それを参照している荒木・安井(編)の辞典より,同項を引用する (739--40) .昨日の記事の趣旨を繰り返すことになるが,あしからず.

intensive plural (強意複数(形)) 意味を強調するために用いられる複数形のこと.質量語 (mass word) に見られる複数形で,複数形の個物という意味は含まず,散文よりも詩に多く見られる.抽象物を表す名詞の場合は程度の強いことを表し,具象物を表す名詞の場合は広がり・集積・連続などを表す: the sands of Sahara---[Kruisinga, Handbook] / the waters of the Nile---[Ibid.] / The moon was already in the heavens.---[Zandvoort, 19757] (月はすでに空で輝いていた) / I have my doubts.---[Ibid.] (私は疑念を抱いている) / I have fears that I may cease to be Before my pen has glean'd my teeming brain---J. Keats (私のペンがあふれんばかりの思いを拾い集めてしまう前に死んでしまうのではないかと恐れている) / pure and clear As are the frosty skies---A Tennyson (凍てついた空のように清澄な) / Mrs. Payson's face broke into smiles of pleasure.---M. Schorer (ペイソン夫人は急に喜色満面となった) / To think is to be full of sorrow And leaden-eyed despairs---J. Keats (考えることは悲しみと活気のない目をした絶望で満たされること) / His hopes to see his own And pace the sacred old familiar fields, Not yet had perished---A. Tennyson (家族に会い,なつかしい故郷の神聖な土地を踏もうという彼の望みはまだ消え去っていなかった) / All the air is blind With rosy foam and pelting blossom and mists of driving vermeil-rain.---G. M. Hopkins (一面の大気が,ばら色の泡と激しく舞い落ちる花と篠つく朱色の雨のもやで眼もくらむほどになる) / The cry that streams out into the indifferent spaces, And never stops or slackens---W. H. Auden (冷淡な空間に流れ出ていって,絶えもしないゆるみもしない泣き声).


 同様に,石橋(編)の辞典より,Latinism の項から関連する部分 (477) を引用する.

 (3) 抽象名詞を複数形で用いる表現法
 いわゆる強意複数 (Intensive Plural) の一種であるが,とくにラテン語の表現法を模倣した16世紀後半の作家の文章に多く見られ,その影響で後代でも文語的ないし詩的用法として維持されている.たとえば,つぎの例に見られるような hopes, fears は,Virgil (70--19 B.C.) や Ovid (43 B.C.--A.D. 17?) に見られるラテン語の amōrēs [L amor love の複数形], metūs [L metus fear の複数形] にならったものとみなされる.Like a young Squire, in loues and lusty-hed His wanton dayes that ever loosely led, . . . (恋と戯れに浮き身をやつし放蕩に夜も日もない若い従者のような…)---E. Spenser, Faerie Qveene I. ii. 3 / I will go further then I meant, to plucke all feares out of you. (予定以上のことをして,あなたの心配をきれいにぬぐい去って上げよう)---Sh, Meas. for M. IV. ii. 206--7 / My hopes do shape him for the Governor. (どうやらその人はおん大将と見える)---Id, Oth. II. i. 55.


 ほほう,ラテン語のレトリックとは! それがルネサンス・イングランドで流行し,その余韻が近現代英語に伝わるという流れ.急に呑み込めた気がする.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ Kruisinga, E A Handbook of Present-Day English. 4 vols. Groningen, Noordhoff, 1909--11.
 ・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
 ・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.

Referrer (Inside): [2022-01-18-1] [2021-11-09-1]

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2020-11-09 Mon

#4214. 強意複数 (1) [plural][intensive_plural][semantics][number][category][noun][terminology][countability]

 英語(やその他の言語)における名詞の複数形 (plural) とは何か,さらに一般的に言語における数 (number) という文法カテゴリー (category) とは何か,というのが私の研究におけるライフワークの1つである.その観点から,不思議でおもしろいなと思っているのが標題の強意複数 (intensive_plural) という現象だ.以下,『徹底例解ロイヤル英文法』より.
 まず,通常は -s 複数形をとらないはずの抽象概念を表わす名詞(=デフォルトで不可算名詞)が,強意を伴って強引に複数形を取るというケースがある.この場合,意味的には「程度」の強さを表わすといってよい.

 ・ It is a thousand pities that you don't know it.
 ・ She was rooted to the spot with terrors.

 このような例は,本来の不可算名詞が臨時的に可算名詞化し,それを複数化して強意を示すという事態が,ある程度慣習化したものと考えられる.可算/不可算の区別や単複の区別をもたない日本語の言語観からは想像もできない,ある種の修辞的な「技」である.心理状態を表わす名詞の類例として despairs, doubts, ecstasies, fears, hopes, rages などがある.
 一方,上記とは異なり,多かれ少なかれ具体的なモノを指示する名詞ではあるが,通常は不可算名詞として扱われるものが,「連続」「広がり」「集積」という広義における強意を示すために -s を取るというケースがある.

 ・ We had gray skies throughout our vacation.
 ・ They walked on across the burning sands of the desert.
 ・ Where are the snows of last year?

 ほかにも,気象現象に関連するものが多く,clouds, fogs, heavens, mists, rains, waters などの例がみられる.
 「強意複数」 (intensive plural) というもったいぶった名称がつけられているが,thanks (ありがとう),acknowledgements (謝辞),millions of people (何百万もの人々)など,身近な英語表現にもいくらでもありそうだ.英語における名詞の可算/不可算の区別というのも,絶対的なものではないと考えさせる事例である.

 ・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.

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2020-11-03 Tue

#4208. It rains. は行為者不在で「降雨がある」ほどの意 [impersonal_verb][verb][noun][3sp][person][middle_voice][indeo-european]

 素朴な疑問のなかでもとびきりの難問の1つが It rains.It とは何かという問いである.昨日の記事「#4207. 「先に名詞ありき,遅れて動詞が生じた」説」 ([2020-11-02-1]) で少し触れたが,いまだに解決には至らない.軽々に扱えない深い問題である.しかし,考えるヒントはある.
 すでに本ブログでも何度か触れてきた國分功一郎(著)『中動態の世界 意志と責任の考古学』では,It rains. のような非人称構文で用いられる動詞,いわゆる非人称動詞 (impersonal_verb) は動詞の原初の形であると論じられている.昨日の記事 ([2020-11-02-1]) で紹介したように,國分は動詞は名詞から派生したものと考えているので,その点ではここの rains のような動詞は,名詞から一歩だけ動詞の領域に踏み込んだ動詞の赤ちゃんのような性質をおおいに保持しているということになる.関係する部分 (169--171) を少々長く引用しよう(以下では原文の太字あるいは圏点を太字で示している).

     It rains は「例外」ではなく「起源」である

 動詞が文法体系において新しいものであり,もともとは,動作名詞によって行為を表現する名詞的構文が利用されていたのだとすれば,現在のわれわれの動詞の捉え方そのものが変更を迫られよう.問題になるのは,いわゆる非人称構文である.
 英語の "It rains" という例文でよく知られる動詞の非人称的使用は,われわれには一種の例外,あるいは破格のように見える.主語として置かれた it が何ものをも指示していないからである.ラテン語の "tonat" (雷が鳴る)やギリシア語の "ὕει" (雨が降る)も同様の表現だが,これら三人称に活用した動詞はいずれもいかなる主語にも対応していない.
 だが,これらの文が例外的に思えるのは,「動詞の諸形態は行為や状態を主語に結びつけるものだ」という考えにわれわれが慣れきってしまっているからに過ぎない.非人称構文は,実際のところ,動詞の最古の形態を伝えるものだからである.
 〔中略〕
 とすると,動作名詞がその後たどった歴史がおおよそ次のように憶測できる.動作を示すことを担っていた語群(動作名詞)が,ある特殊な地位を獲得し,それによって名詞から区別されるようになる.動詞の原始的形態の発生である.しかし,それらはまだ名詞と完全に切り離されてはいない.名詞であった頃の特徴を完全に放棄してはいない.つまり,動作を表すことはできても,自在に人称を表す目印のようなものを直ちに獲得したわけではない.
 こうしてまずは単に動作あるいは出来事だけを表示する動詞が生まれる.コラールの言うところの「単人称 unipersonal」の動詞の創造である.

これはまさに〈単人称〉動詞の創造というべきものであって,ここで〈動詞〉は行為をある程度生命のあるものにしたけれども,しかしなおそれを,個体化された行為者と関連づけることなしに,つまり,非人称的に表現したのである.


 〔中略〕
 動詞を「個体化された行為者」と結びつけたがる今日のわれわれの意識では,こうした文は例外のように思われるが,〈名詞的構文〉から発展した動詞の最初期にあったのは,このような言い回しであったということである.動詞はもともと,行為者を指示することなく動作や出来事だけを指し示していた


 この洞察から,It rains. の謎にも迫ることができそうだ.It rains. は,行為者不在のままに「降雨がある」という事実を言い表わしているにすぎないということだ.It が何を指すのかという問いは私たちにとって自然な問いのようにみるが,その問い方自体を疑ってみる必要がある.

 ・ 國分 功一郎 『中動態の世界 意志と責任の考古学』 医学書院,2017年.

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2018-12-29 Sat

#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化 [prototype][category][pos][noun][verb][adjective][typology][conversion]

 大堀 (70) は,語彙カテゴリー(いわゆる品詞)の問題を論じながら,名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性に注目している.一方の極に安定があり,他方の極に移動・変化がある1つの連続体という見方だ.

語彙カテゴリーが成り立つ基盤は,知覚の上で不変の対象と,変化をともなう過程との対立に見出すことができる.つまり,一方では時間の経過の中で安定した対象があり,もう一方ではその異同や変化の過程が知覚される.こうした対立をもとに考えると,名詞のプロトタイプは,変化のない安定した特性をもった対象である.指示を行うためには,明瞭な輪郭をもち,恒常性のある物体であることが基本となる.これに対し,動詞のプロトタイプは,状態の変化という特性をもった過程である.叙述を行うのは,際立った変化がみとめられた場合が主であり,それは典型的には行為の結果として現れるからである.談話の中での機能という点からこれを見れば,「名詞らしさ」は談話内で一定の対象を続けて話題にするための安定した背景を設け,「動詞らしさ」は時間の中での変化によって起きる事態の進行を表すはたらきをもつ.
 このように考えると,類型論的に形容詞が名詞らしさと動詞らしさの間で「揺れ」を示す,あるいは自立したカテゴリーとしては限られたメンバーしかもたないことが多いという点は,形容詞がもつ用法上の特性から説明されると思われる.形容詞は修飾的用法(例:「赤いリンゴ」)と叙述的用法(例:「リンゴは赤い」)を両方もっており,前者は対象の特定を通じて「名詞らしさ」の側に,後者は(行為ではないが)性質についての叙述を通じて「動詞らしさ」の側に近づくからである.そして概念的にプロトタイプから外れたときには,名詞や動詞からの派生によって表されることが多くなる.


 形容詞が名詞と動詞に挟まれた中間的な範疇であるがゆえに,ときに「名詞らしさ」を,ときに「動詞らしさ」を帯びるという見方は説得力がある.その違いが,修飾的用法と叙述的用法に現われているのではないかという洞察も鋭い.また,言語類型論的にいって,形容詞というカテゴリーは語彙数や文法的振る舞いにおいて言語間の異なりが激しいのも,中間的なカテゴリーだからだという説明も示唆に富む(例えば,日本語では形容詞は独立して述語になれる点で動詞に近いが,印欧諸語では屈折形態論的には名詞に近いと考えられる).
 上のように連続性と範疇化という観点から品詞をとらえると,品詞転換 (conversion) にまつわる意味論やその他の傾向にも新たな光が当てられるかもしれない.

 ・ 大堀 壽夫 『認知言語学』 東京大学出版会,2002年.

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2018-06-26 Tue

#3347. なぜ動詞は名詞ほど屈折を衰退させずにきたのか? [inflection][verb][noun][adjective][phonetics][phonology][consonant][vowel]

 屈折の衰退は英語史上の大変化の1つだが,動詞は名詞に比べれば,現在に至るまで屈折をわりと多く保存している.現代の名詞の屈折(と呼べるならば)には複数形と所有格形ほどしかないが,動詞には3単現の -s,過去(分詞)形の -ed,現在分詞形の -ing が残っているほか,不規則動詞では主として母音変異に基づく屈折も残っている.あくまで相対的な話しではあるが,確かに動詞は名詞よりも屈折をよく保っているといえる.
 その理由の1つとして,無強勢音節(とりわけ屈折を担う語末音節)の母音の弱化・消失という音韻的摩耗傾向に対して,動詞のほうが名詞や形容詞よりも頑強な抵抗力を有していたことが挙げられる.Wełna (415--16) は端的にこう述べている.

Verbs proved more resistant because, unlike nouns and adjectives, their inflectional markers contained obstruent consonants, i.e. sounds not subject to vocalization, as in PRES SG 2P -st, 3P - (-eth) or PAST -ed, while the nasal sonorants -m (> -n) and -n, frequently found in the nominal endings, vocalized and were ultimately dropped.


 「#291. 二人称代名詞 thou の消失の動詞語尾への影響」 ([2010-02-12-1]) で述べたように,近代英語期には,おそらく最も頑強な動詞屈折語尾であった2人称単数の -est も,(形態的な過程としてではなく)社会語用論的な理由により,対応する人称代名詞 thou もろともに消えていった.これにより,動詞屈折のヴァリエーションがいよいよ貧弱化したということは指摘しておいてよいだろう.

 ・ Wełna, Jerzy. "Middle English: Morphology." Chapter 27 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 415--34.

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2018-05-03 Thu

#3293. 古英語の名詞の性の例 [oe][gender][noun][hel_education]

 英語史の授業などで,古英語にも文法性 (grammatical gender) があったと知ると驚く学生が多い.現代英語は印欧語族の諸言語のなかでも珍しく文法性を欠いており,むしろ例外的な言語なのだが,ふだん現代英語のみを相手にしていると,その事実に気づかない.印欧語族の大多数の言語が文法性をもっていることは,「#487. 主な印欧諸語の文法性」 ([2010-08-27-1]) で明らかである.そして,古英語もそのような「普通の」印欧語の1つだった.
 古英語の名詞の性には,男性 (masculine),女性 (feminine),中性 (neuter) の3つがあった.語形により性の判断が付く場合も確かにあるが,原則として共時的には予測可能性は高くない.意味の基準は多少役に立つ場合があり,稀な例外(wīf "woman" が中性名詞で,wīfmann "woman" が男性名詞など)はあるものの,通常,男性を表わす名詞は男性名詞だし,女性を表わす名詞は女性名詞である.どの程度,古英語の名詞の性が予測できるのか,できないのかは,ランダムに掲げた以下の例を参照されたい.

MasculineFeminineNeuter
ǣsc "ash tree"bōc "book"ǣġ "egg"
brōðor "brother"beadu "battle"ċild "child"
cyning "king"benċ "bench"corn "grain"
dōm "doom"clǣnness "cleanness"ēage "eye"
enġel "angel"cwēn "queen"ġeat "gate"
feoh "money"dǣd "deed"hēafod "head"
hæle(þ) "warrior"dohtor "daughter"hūs "house"
here "army"ġiefu "gift"lamb "lamb"
hrōf "roof"hand "hand"land "land"
mann "man"hnutu "nut"mæġþ "maiden"
nama "name"lenġu "length"scēap "sheep"
stān "stone"sāwol "soul"scip "ship"
sunu "sun"sorg "sorrow"searu "skill"
wealh "foreigner"strengþ "strength"þing "thing"
wīfmann "woman"tunge "tongue"wīf "woman"


 関連して,「#28. 古英語に自然性はなかったか?」 ([2009-05-26-1]),「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1]),「#1135. 印欧祖語の文法性の起源」 ([2012-06-05-1]) もどうぞ.

Referrer (Inside): [2020-05-18-1]

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