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numeral - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-11 16:26

2023-11-12 Sun

#5312. 「ゆる言語学ラジオ」最新回は「不規則動詞はなぜ存在するのか?」 [yurugengogakuradio][verb][inflection][conjugation][sobokunagimon][frequency][voicy][heldio][youtube][link][notice][numeral][suppletion][analogy]

 昨日,人気 YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回が配信されました.今回は英語史ともおおいに関係する「不規則動詞はなぜ存在するのか?【カタルシス英文法_不規則動詞】#280」です.



 ゆる言語学ラジオの水野太貴さんには,拙著,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio),および YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」のいくつかの関連コンテンツに言及していただきました.抜群の発信力をもつゆる言語学ラジオさんに,この英語史上の第一級の話題を取り上げていただき,とても嬉しいです.このトピックの魅力が広く伝わりますように.
 概要欄に掲載していただいたコンテンツ等へのリンクを,こちらにも再掲しておきます.

 ・ 拙著 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)
 ・ 拙著 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)
 ・ heldio 「#58. なぜ高頻度語には不規則なことが多いのですか?」
 ・ YouTube 「新説! go の過去形が went な理由」 (cf. 「#4774. go/went は社会言語学的リトマス試験紙である」 ([2022-05-23-1]))
 ・ YouTube 「英語の不規則活用動詞のひきこもごも --- ヴァイキングも登場!」 (cf. hellog 「#4810. sing の過去形は sang でもあり sung でもある!」 ([2022-06-28-1]))
 ・ YouTube 「昔の英語は不規則動詞だらけ!」 (cf. 「#4807. -ed により過去形を作る規則動詞の出現は革命的だった!」 ([2022-06-25-1]))
 ・ heldio 「#9. first の -st は最上級だった!」
 ・ heldio 「#10. third は three + th の変形なので準規則的」
 ・ heldio 「#11. なぜか second 「2番目の」は借用語!」

 「不規則動詞はなぜ存在するのか?」という英語に関する素朴な疑問から説き起こし,補充法 (suppletion) の話題(「ヴィヴァ・サンバ!」)を導入した後に,不規則形の社会言語学的意義を経由しつつ,全体として言語における「規則」あるいは「不規則」とは何なのかという大きな議論を提示していただきました.水野さん,堀元さん,ありがとうございました! 「#5130. 「ゆる言語学ラジオ」周りの話題とリンク集」 ([2023-05-14-1]) もぜひご参照ください.

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2023-10-13 Fri

#5282. Jespersen の「近似複数」の指摘 [plural][number][numeral][personal_pronoun][personal_name][plural_of_approximation][semantics][pragmatics]

 昨日の記事「#5281. 近似複数」 ([2023-10-12-1]) で話題にした近似複数 (plural_of_approximation) について,最初に指摘したのは Jespersen (83--85) である.この原典は読み応えがあるので,そのまま引用したい.

          Plural of Approximation
   4.51 The sixties (cf. 4.12) has two meanings, first the years from 60 to 69 inclusive in any century; thus Seeley E 249 the seventies and the eighties of the eighteenth century | Stedman Oxford 152 in the "Seventies" [i.e. 1870, etc.] | in the early forties = early in the forties. Second it may mean the age of any individual person, when he is sixty, 61, etc., as in Wells U 316 responsible action is begun in the early twenties . . . Men marry before the middle thirties | Children's Birthday Book 182 While I am in the ones, I can frolic all the day; but when I'm in the tens, I must get up with the lark . . . When I'm in the twenties, I'll be like sister Joe . . . When I'm in the thirties, I'll be just like Mama.
   4.52. The most important instance of this plural is found in the pronouns of the first and second persons: we = I + one or more not-I's. The pl you (ye) may mean thou + thou + thou (various individuals addressed at the same time), or else thou + one or more other people not addressed at the moment; for the expressions you people, you boys, you all, to supply the want of a separate pl form of you see 2.87.
   A 'normal' plural of I is only thinkable, when I is taken as a quotation-word (cf. 8.2), as in Kipl L 66 he told the tale, the I--I--I's flashing through the record as telegraph-poles fly past the traveller; cf. also the philosophical plural egos or me's, rarer I's, and the jocular verse: Here am I, my name is Forbes, Me the Master quite absorbs, Me and many other me's, In his great Thucydides.
   4.53. It will be seen that the rule (given for instance in Latin grammars) that when two subjects are of different persons, the verb is in "the first person rather than the second, and in the second rather than the third" 'si tu et Tullia valetis, ego et Cicero valemus, Allen and Greenough, Lat. Gr. §317) is really superfluous, as a self-evidence consequence of the definition that "the first person plural is the first person singular plus some one else, etc." In English grammar the rule is even more superfluous, because no persons are distinguished in the plural of English verbs.
   When a body of men, in response to "Who will join me?", answer "We all will", their collective answers may be said to be an ordinary plural (class 1) of I (= many I's), though each individual "we will" means really nothing more than "I will, and B and C . . . will, too" in conformity with the above definition. Similarly in a collective document: "We, the undersigned citizens of the city of . . ."
   4.54. The plural we is essentially vague and in no wise indicates whom the speaker wants to include besides himself. Not even the distinction made in a great many African and other languages between one we meaning 'I and my own people, but not you', and another we meaning 'I + you (sg or pl)' is made in our class of languages. But very often the resulting ambiguity is remedied by an appositive addition; the same speaker may according to circumstances say we brothers, we doctors, we Yorkshiremen, we Europeans, we gentlemen, etc. Cf. also GE M 2.201 we people who have not been galloping. --- Cf. for 4.51 ff. PhilGr p. 191 ff.
   4.55. Other examples of the pl of approximation are the Vincent Crummleses, etc. 4.42. In other languages we have still other examples, as when Latin patres many mean pater + mater, Italian zii = zio + zia, Span. hermanos = hermano(s) + hermana(s), etc.


 複数形といっても,その意味論は複雑であり得る.これは,一見して形態論の話題とみえて,本質的には意味論と語用論の問題なのだと思う.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 2. Vol. 1. 2nd ed. Heidelberg: C. Winter's Universitätsbuchhandlung, 1922.

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2023-10-12 Thu

#5281. 近似複数 [plural][number][numeral][personal_pronoun][personal_name][plural_of_approximation][metonymy][t/v_distinction]

 近似複数 (plural_of_approximation) なるものがあるが,ご存じだろうか.以下『新英語学辞典』に依拠して説明する.
 英語の名詞の複数形は,一般的に -s 語尾を付すが,通常,同じもの,同種のものが2つ以上ある場合に現われる形式である.これを正常複数 (normal plural) と呼んでおこう.一方,同種ではなく,あくまで近似・類似しているものが2つ以上あるという場合にも,-s のつく複数形が用いられることがある.厳密には同じではないが,そこそこ似ているので同じものととらえ,それが2つ以上あるときには -s をつけようという発想である.これは近似複数 (plural_of_approximation) と呼ばれており,英語にはいくつかの事例がある.
 例えば,年代や年齢でいう sixties を取り上げよう.1960年代 (in the sixties) あるいは60歳代 (in one's sixties) のような表現は,sixty に複数語尾の -(e)s が付いている形式だが「60年(歳)」そのものが2つ以上集まったものではない.60,61,62年(歳)のような連番が69年(歳)まで続くように,60そのものと60に近い数とが集まって,sixties とひっくるめられるのである.いわばメトニミー (metonymy) によって,本当は近似・類似しているにすぎないものを,同じ(種類の)ものと強引にまとめあげることによって,sixties という一言で便利な表現を作り上げているのである.少々厳密性を犠牲にすることで得られる経済的な効果は大きい.
 他には人名などに付く複数形の例がある.例えば the Henry Spinkers といえば,Mr. and Mrs. Spinker 「スピンカー夫妻」の省略形として用いられる.この表現は事情によっては「スピンカー兄弟(姉妹)」にもなり得るし「スピンカー一家」にもなり得る.家族として「近似」したメンバーを束ねることで,近似複数として表現しているのである.
 さらに本質的な近似複数の例として,I の複数形としての we がある.1人称代名詞の I は話し手である「自己」を指示するが,複数形といわれる we は,決して I 「自己」を2つ以上束ねたものではない.「自己」と「あなた」と「あなた」と「あなた」と・・・を合わせたのが we である.同一の I がクローン人間のように複数体コピーされているわけではなく,あくまで I とその側にいる仲間たちのことを慣習上,近似的な同一人物とみなして,合わせて we と呼んでいるのである.本来であれば「1人称の複数」という表現は論理的に矛盾をはらんでいるものの,上記の応用的な解釈を採用することで言葉を便利に使っているのである.
 もともと複数の「あなた」を意味する you を,1人の相手に対して用いるという慣行も,もしかすると近似複数の発想に基づいた応用的な用法といってしかるべきものなのかもしれない.
 「同じとは何か」という哲学的問題が脳裏にちらついてくるが,言語における近似複数はおもしろい事象である.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

Referrer (Inside): [2023-10-13-1]

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2023-05-19 Fri

#5135. 不定冠詞の発達の一般経路 [grammaticalisation][article][pragmatics][semantics][historical_pragmatics][unidirectionality][numeral]

 Heine and Kuteva (92) によると,諸言語において不定冠詞 (indefinite article) が発達してきた経路をたどってみると,しばしばそこには意味論的・語用論的な観点から一連の段階が確認されるという.

1  An item serves as a nominal modifier denoting the numerical value 'one' (numeral).
2  The item introduces a new participant presumed to be unknown to the hearer and this participant is then taken up as definite in subsequent discourse (presentative marker).
3  The item presents a participant known to the speaker but presumed to be unknown to the hearer, irrespective of whether or not the participant is expected to come up as a major discourse participant (specific indefinite marker).
4  The item presents a participant whose referential identity neither the hearer nor the speaker knows (nonspecific indefinite marker).
5  The item can be expected to occur in all contexts and on all types of nouns except for a few contexts involving, for instance, definiteness marking, proper nouns, predicative clauses, etc. (generalized indefinite article).


 英語の不定冠詞の発達においても,この一連の段階が見られたのかどうかは,詳細に調査してみなければ分からない.しかし,少なくとも発達の開始に相当する第1段階は的確である.つまり,数詞 one (古英語 ān) から始まったことは疑い得ない.2--5の各段階が実証されれば,文法化 (grammaticalisation) の一方向性 (unidirectionality) を支持する事例として取り上げられることにもなろう.注目すべき時代は,おそらく中英語期から近代英語期にかけてとなるに違いない.
 関連して「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) も参照.

 ・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.

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2022-03-15 Tue

#4705. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第13回「なぜ one, two はこの綴字でこの発音なの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][numeral][spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][hellog-radio]

 この新年度も,1年間続いてきたNHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」での連載「英語のソボクな疑問」が継続されることになりました.読者の方々に毎月ご愛読いただいたおかげと感謝しております.ありがとうございました.ソボクな疑問を歴史的な観点からなるべくわかりやすく解説するというのが連載の趣旨です.引き続きご愛読のほど,よろしくお願いいたします.
 昨日発売された4月号テキストに,連載の第13回が掲載されました.新年度に向けての一発目は「なぜ one, two はこの綴字でこの発音なの?」という綴字と発音の乖離に関する話題です.皆さん,すでに見慣れ,読み慣れている単語ですので不思議など感じないかと思いますが,普通であれば one で「ワン」,two で「トゥー」などとはひっくり返っても読めないはずです.なぜ素直に「オネ」や「トゥウォー」などとならないのでしょうか.そこには,あっと驚く歴史的な理由があったのです.

『中高生の基礎英語 in English』2022年4月号



 one, two に限らず,英語には発音と綴字がかみ合っていない単語がごまんとあります.実のところ基本的な単語であればあるほどチグハグなケースが多いので,初学者にとっては特にキツいのです.規則から入るのではなく,いきなり不規則から入るに等しいわけですから.
 連載記事ではできる限り丁寧な説明を心がけました.同じ問題について本ブログや音声メディアでも取り上げたことがありますので,そちらも合わせて参照し,理解を深めていただければと思います.関連する記事セットよりどうぞ.音声メディアについては,以下より直接お聴きください.


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2022-01-15 Sat

#4646. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第11回「なぜ eleven, twelve というの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][numeral][metathesis]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の2月号のテキストが発売されました.本年度連載中の「英語のソボクな疑問」の第11回の話題は「なぜ eleven, twelve というの?」です.13から19までは X-teen という語形成で「X + 10」という構成原理がわかりやすいのですが,11と12については期待される *oneteen, *twoteen とはなりません.これはなぜなのでしょうか.

『中高生の基礎英語 in English』2022年2月号



 本ブログでは「#3279. 年度初めの「素朴な疑問」を3点」 ([2018-04-19-1]) にて,この問題に簡単に触れました.わからないことも多々あるのですが,そこでの説明を膨らませたのが今回の連載記事です.記事では,その他 thirteenfifteen についての謎にも迫っています.なぜ素直に *threeteen や *fiveteen とならないのか,という素朴な疑問です.ぜひテキストを手に取っていただければと思います.
 数詞というのは非常に身近な語彙ですが,eleven, twelve の問題に関わらず謎が多い語群でもあります.むしろ日常的で頻度が高すぎるからこそ,イレギュラーなことが多いのだろうと思われます.数詞の不思議については,本ブログでも numeral の各記事で取り上げてきましたので,そちらもご覧ください.

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2021-06-22 Tue

#4439. 古英語は混合方言として始まった? [dialectology][dialect][oe_dialect][anglo-saxon][dialect_contact][dialect_mixture][numeral][superlative][be][suppletion]

 一般的な英語史記述によると,古英語は,5世紀半ばにアングル人,サクソン人,ジュート人など西ゲルマンの近親諸民族が,互いに少々異なった方言を携えてブリテン島に渡ってきたところから始まる.当初の「英語」は,これらの民族ごとの諸方言をひっくるめて総称したものと理解してよい.その後,古英語期中に各方言はそれぞれの土地に根付きつつ発展し,ある意味では現代にまで続くイングランド諸方言の土台を築いた.
 上記の見方は,諸方言が5世紀半ば以来,互いに(まったくとはいわずとも)それほど交わってこなかったことを前提としている.しかし,「#2868. いかにして古英語諸方言が生まれたか」 ([2017-03-04-1]) で紹介したように,古英語はそもそも方言接触 (dialect_contact) と方言混合 (dialect_mixture) の産物ではないかという議論もある.8世紀頃の古英語にはまだかなりの言語的多様性が観察されるが,これは古い諸方言が相互接触を通じて新しい諸方言へと生まれ変わる際に典型的にみられる現象といえるのではないか.
 Trudgill (2045--46) は Nielsen を参照しつつ,方言混合に起因するとみられる古英語の言語的多様性の具体例を3点挙げている.

1) Old English had a remarkable number of different, alternative forms corresponding to Modern English 'first', and, crucially, more than any other continental Germanic language. This variability, moreover, would appear to be linked, although in some way that is not entirely clear, to variability and differentiation on the European mainland: ærest (cf. Old High German eristo); forma (cf. Old Frisian forma); formest (cf. Gothic frumists); and fyrst (cf. Old Norse fyrst).
2) Similarly, OE had two different paradigms for the present tense of the verb to be, one derived from Indo-European *-es- and apparently related to Old Norse and Gothic; and the other deriving from Indo-European *bheu and relating to Old Saxon and Old High German. The relevant singular forms in Table 130.1

Table 130.1: Singular forms of the present tense of the verb to be (Nielsen 1998: 80)
 GothicOld NorseOld English IOld English IIOld SaxonOld High German
1SGimemeombeombiumbim
2SGiseseartbistbistbist
3SGistesisbiðis(t)ist


3) Old English also exhibited variability, in all regions, in the form of the interrogative pronoun meaning 'which of two'. This alternated between hwæðer which relates to Gothic hvaóar and W. Norse hvaðarr, on the other hand, and hweder which corresponds to O. Saxon hweðar, on the other.


 上記 1) の "first" に相当する序数詞の形態的多様性については,中英語の話題ではあるが「#1307. mostmest」 ([2012-11-24-1]) も関係する.2) の be 動詞が示す共時的な補充法 (suppletion) については,その起源が方言混合にあるかもしれないという洞察は鋭い.一般に補充法の事例を考察する際のヒントになるだろう.
 古英語における言語上の問題は,文献的にそれ以上遡れないという理由で積極的に話題にするのが難しく,所与のものとして受け入れてしまうことが多い.しかし,文献に先立つ時代に,思いのほか多くの方言接触や方言混合があった可能性を想定してみると,新たな視野が開けてくるように思われる.
 方言接触や方言混合の一般的な解説は「#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization」 ([2013-11-23-1]) をどうぞ.

 ・ Trudgill, Peter. "Varieties of English: Dialect Contact." Chapter 130 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 2044--59.
 ・ Nielsen, Hans Frede. The Continental Backgrounds of English and its Insular Development until 1154. Odense: Odense UP, 1998.

Referrer (Inside): [2022-07-30-1]

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2021-06-12 Sat

#4429. 序数詞 thirddfourthth の関係 [indo-european][germanic][numeral][grimms_law][verners_law][suffix][metathesis]

 6月2日より,音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしています.日々10分弱の英語史の話題を配信していますが,昨日は「third は three + the の変形なので準規則的」という話題を取り上げました(cf. 「#92. third の音位転換はいつ起こったか」 ([2009-07-28-1]),「#93. third の音位転換はいつ起こったか (2)」 ([2009-07-29-1]),「#60. 音位転換 ( metathesis )」 ([2009-06-27-1])).この話題について専門的な補足を加えたいと思います.



 third の末尾の -dfourth など4以上の序数詞の末尾に現われる -th と起源的に同一物であり,それが変形したものであるという趣旨で話しました.大雑把にいえば上記の通りに理解しておいてよいのですが,厳密に議論すればそれなりに込み入った事情があります.
 印欧語族の序数詞の語尾にはいくつかの種類があり,英語の -th に連なる語尾が唯一のものではありませんでした.3の序数詞についていえば,再建された形態としては,-th に連なる語尾を含む *tri-to- もあれば,別に *triy-o という形態もありましたし,さらにこれらの複雑な混成形と考えられる *t(e)r(e)tiyo- もありました.この最後のものが,現代英語の third (< OE þridda) を出力することになります.したがって,thirdd は -th の起源である *-to- と直系の関係にはなく,あくまで「混成」を経由しての間接的な関係というのが正確なところです.典拠として,Mallory and Adams (311) を引用しておきます.

The number 'three', *tréyes (neuter: triha), is also marked by different forms for the different genders and was declined as an -i-stem plural (e.g. OIr trī, Lat trēs, NE three, Lith trỹs, OCS trije [m.], tri [f./nt.], Alb tre [m.], tri [f.], Grk treîs, Arm erek ̔, Hit tēri-, Av θrayō [m./f.], θri [nt.], Skr tráyas [m./f.], trī [nt.], Toch B trai [m.], tarya ([f.]). In some languages we have reflections of a very unusual feminine form, *t(r)is(o)res, i.e. OIr teōir, Av tišrō, Skt tisrás. The underlying derivation of *tréyes is generally sought in either *ter 'further', i.e. the number beyond 'two', or from a *ter- 'middle, top, protruding', i.e. the middle finger, assuming one counted on one's fingers in Proto-Indo-European. Again, the probability that either suggestion is correct is very low. The ordinal number is indicated by a variety of forms similar to *triy-o (e.g. Arm eri 'third', Hit teriyan 'third', tariyanalli- '賊 third officer'), or *tri-to- (e.g. Alb tretê, Grk trítos, Skt tritá-, Toch B trite), or finally *t(e)r(e)tiyo- (e.g. NWels tryddyd, Lat teritius, NE third, Lith trẽčias, Rus trétij, Av θritiya-, Skt tr̥tíya-) which is presumably a conflation of sorts, in various ways, of the previous two while *tris supplies the multiplicative (e.g. Lat ter, Grk trís, Av θriš, Skt tríṣ; despite its apparent phonetic similarity, NE thrice is of a different origin.


 上記の通り,現代英語 third そして古英語 tridda の祖形は *t(e)r(e)tiyo- にあったと想定され,問題の語尾の子音は t だったことになります.この子音は順当に発達すればグリムの法則 (grimms_law) により θ に発達していたはずと想定されますが,強勢が後続していたために同発達がブロックされ,ヴェルネルの法則 (verners_law) に従って有声化して ð となり,これが後に脱摩擦音化して d となりました.この一連の流れは,古英語 fæder (> PDE father) に d が確認されるのとまったく同じ流れです(cf. 「#480. father とヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1])).この点については Lass (214) より引用しておきましょう.

3rd. Go þridja, OE þridda, OIc þriþe. This is not entirely suppletive, as it still obviously contains the root for '3'. But the formation is different from that of the other ordinals, involving a suffix */-tjo:-/ (cf. L ter-ti-us). The E, WGmc forms must go back to a variant with an accented suffix, hence the voiced dental from Verner's Law. ModE third is metathesized from þridda (cf. bird < OE bridd, dirt < Osc drit).


 なお,印欧祖語レベルでは,英語の -th 語尾に連なる */-to-/ は4,5,6の序数詞のみに当てはまり,ゲルマン語において7以上の序数詞にも付されるようになったのは,後の類推 (analogy) によるものです (Lass 215) .現代英語では4以上の序数詞は -th できれいに揃っているように見えますが,もともとはそうではなかったことになります.

 ・ Mallory, J. P. and D. Q. Adams. The Oxford Introduction to Proto-Indo-European and the Proto-Indo-European World. Oxford: OUP, 2006.
 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2020-12-13 Sun

#4248. なぜ threethirteen では r の位置が異なるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][metathesis][numeral]

 語源的に明らかに関連していると思われる語なのに,発音や綴字が微妙に異なっているというのは,よくある話しです.three 「3」を基本として,thirteen 「13」,thirty 「30」,third 「第3の」はそこから派生した語であることは間違いなさそうですが,r の位置が異なっています.基本の three では「th + r + 母音」となっていますが,派生語では「th + 母音 + r」となっています.これはどういうわけでしょうか.音声解説をお聴きください.



 古英語では「3」は þrēo,「13」は þrēo-tīene,「30」は þrī-tiġ,「第3の」は þridda という綴字でした(<þ> は古英語の文字で th を表わします).つまり,すべて「th + r + 母音」だったのです.ところが,中英語期から近代英語期にかけて,派生語における「r + 母音」が位置を逆転させて「母音 + r」に変化していったのです.
 これは「ろれつ」が回らず,発音し損ねたという一種の言い間違いから生じたもので,古今東西でしばしば観察される音位転換 (metathesis) という現象です.通常であれば一過性の言い間違いで終わるところですが,どういうわけか間違った発音のほうが正しい発音として定着してしまうこともあるのです.
 英語の場合,とりわけ r と母音の関与する例が圧倒的に多く,ほかにも bird, grass, horse などが挙げられます.これらは古英語では各々 brid, gærs, hros というように,r と母音の位置が逆転した綴字で現われていました.
 日本語からも例は豊富に挙がります.「さんざか」(山茶花)が「さざんか」となったり,「したづつみ」(舌鼓)が「したつづみ」となったり,昨今「ふんいき」(雰囲気)が「ふいんき」と発音されることが多くなってきているのも,音位転換のなせる技です.
 音位転換という興味深い話題については,##60,92,93,2809の記事セットをご覧ください.多くの例が挙げられています.

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2020-08-26 Wed

#4139. なぜ数詞 two は「トゥー」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][numeral][phonetics][spelling_pronunciation_gap]

 hellog ラジオ版の第19回は,前回の「#4135. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-08-22-1]) に続いて数詞 (numeral) の話題です.前回は one は綴字のどこにも <w> がないのに発音には /w/ が現われる,けしからん,という趣旨でしたが,今回はさらに不審な点を指摘したいと思います.two は綴字に <w> が現われるのに発音には /w/ が出てこないのです.英語がいかに妙ちくりんな言語であるかが,よくわかるかと思います.
 しかし,ここにもちゃんと歴史的背景があります.では,音声の解説をどうぞ.

   Two

 two の関連語で /w/ の後に前舌母音が続く twelve, twenty, twin, twain 等ではしっかり /w/ が発音されるのですが,たまたま後舌母音が続いた two については,母音と /w/ との音声学的な特徴が似ているために,歴史の過程で /w/ が脱落してしまったということです.この脱落は中英語期にはすでに始まっていたようです.
 このように発音はどんどん変わっていくものですが,綴字はその変化のスピードに付いていけず,古い発音を表わした状態に据え置かれることが多いのです.英語における綴字と発音の乖離の問題の大半は「発音は変わったけれども,綴字は昔の状態に取り残されてきた」過程の結果として説明できます.
 この話題について,詳しくは##184,1324,51,3630の記事セットをご覧ください.

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2020-08-22 Sat

#4135. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][numeral][etymology][phonetics][me_dialect][article][spelling_pronunciation_gap]

 hellog ラジオ版の第18回は,なぜ <w> の綴りのない one が /wʌn/ と発音されるのですか,という素朴な疑問です.英語の綴字と発音の関係はメチャクチャと言われますが,one ほどの基本語でそれが観察されるということは,やはりただ事ではありません.しかも,古今東西 <w> の文字なくして /w/ で発音される単語など他に思いつきません.ちょっとひどすぎる単語ということになります.では,その歴史的背景を覗いてみましょう.



 <one> = /wʌn/ は,いくら現代的な観点から共時的に迫っても解決しません.中英語の方言発音とその後のスペリングの標準化の過程に由来する,すぐれて歴史的な問題だからです.言語はこのように,まずもって歴史的な存在なのです.
 言語は確かに体系としての側面があります.だからこそ,現代の理論言語学が成り立っているのです.しかし,それがすべてではありません.言語特徴のなかには,前世代から受け継がれ,必ずしも現代的に再編された体系には適応せず,旧来のまま残っているものもあります.一方,現代の言語には,次の世代を見据えて先取りした新しい言語特徴も部分的に反映されています.言語は,世代ごとにゆっくりとバトンリレーを繰り返していく通時的な存在なのです.
 本来の /aːn/ が,one とその関連語において歴史の過程で環境に応じて /oʊn/, /wʌn/, /ən/, /ə/ などに発展し,それらが現在も姉妹形として共存しているのです.
 そこには半分音声学的な理屈がありますが,もう半分は歴史の戯れです.理屈で説明できるところはしっかり説明し,そうでないところは歴史の戯れとして受け入れる.言語はそれくらいの緩さを示すものなのだと思います.
 この問題と関連して,##86,89,3573,831,2723,3551の記事セットをご覧ください

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2020-08-05 Wed

#4118. once や twice の -ce とは何ですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][numeral][etymology][genitive][adverbial_genitive]

 hellog ラジオ版の第13回です.度数を表わす once, twice が基数詞 one, two と関連することはすぐに分かると思います.であるならば,語尾の -ce が「度」を意味するにちがいないと直感されるでしょう.3以上であれば three times, four times などと表現するので,いわば -ce = times なのだろうと.
 意味的にはおよそその通りです.しかし,この -ce はいったいどこから来たのでしょうか.その答えは,このスペリングだと騙されてしまうのですが,なんと -s なのです.複数形の -s ではありません,アポストロフィつきの所有格の -'s のことです.では,「?の」を表わす所有格の語尾が,なぜ副詞的に用いられる度数・倍数と関係するのでしょうか.以下をお聴きください.



 歴史的には,所有格(英語史の用語では「属格」)は,単に所有を表わすにとどまらず,広く副詞的な機能を担当していました.驚くなかれ,現代英語の always, sometimes, needs などにみられる -s も歴史的には古い属格語尾に由来するのです.複数形の -s に由来するのではないのでご注意を!
 この問題については,##81,84,1793,2135,723,1306,1554,4081の記事セットで深く論じていますので,ご参照ください.

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2020-06-29 Mon

#4081. oncetwice の -ce とは何か (2) [numeral][etymology][genitive][adverbial_genitive][sobokunagimon]

 標題は「#81. oncetwice の -ce とは何か」 ([2009-07-18-1]) を始め「#84. once, twice, thrice」 ([2009-07-20-1]),「#1793. -<ce> の 過剰修正」 ([2014-03-25-1]) で取り上げてきた.先の記事に対して,もう少し正確なところを補足したい.
 古英語では,現代英語の once, twice, thrice に対応する「1度」「2度」「3度」の意味は,対応する基数詞の音韻形態的変異版というべき æne, twiga, þrīwa という語によって表わされていた.æne についていえば,この形態は基数詞 ān (one) の具格形に由来する.これらの数の副詞は古英語に始まり,中英語にも受け継がれた.OED より,各々が単独で用いられた最初例と最終例,および語源欄からの記述を引用しよう.

†ene, adv.
. . . .
Etymology: Old English ǽne, instrumental case of án one. Compare Middle High German eine.
. . . .
OE Beowulf 3019 Ac sceal..oft nalles æne elland tredan.
. . . .
c1325 Chron. Eng. in Ritson Met. Rom. II. 304 Ene heo [the Danes] him [Edmund] overcome.


†twie | twye, adv.
. . . .
Etymology: Old English twiga, etc. (also twiwa, tuwa, etc.) = Old Frisian twîa, tuiia, Old Saxon tuuio (Middle Low German twie, twige), adverb < stem twi- , TWI- comb. form: compare the etymological note to THRIE adv.
. . . .
a900 tr. Bede Eccl. Hist. iv. iv. 278 (Tanner MS.) Þætte twigea on gere seonoð gesomnode.
. . . .
a1450 J. Myrc Instr. to Par. Priests 119 Folowe thow not þe chylde twye.


†thrie | thrye, adv.
. . . .
Etymology: Old English þríwa, ðríga = Old Frisian thrî(i)a, Old Saxon thrîuuo, thrîio. Like twíwa, etc., not found outside the Saxon-Frisian group of West Germanic, and of obscure formation. They seem to have the form of genitival adverbs, twi-a, þri-a, with the gap between i and a variously filled up by w and g (again lost in Middle English), and lengthened by assimilation to þrí, THREE adj. and n. See further under TWIE adv.
. . . .
c950 Lindisf. Gosp. Mark xiv. 30 Ðria [Rushw. ðrige] mec ðu bist onsæcc.
. . . .
?a1500 Chester Pl. (Shaks. Soc.) II. 25 Or the cocke have crowen thrye Thou shalte forsake my companye.


 このように上記の形態の数の副詞が古英語から中英語まで行なわれていたが,初期中英語期になると,属格語尾に由来する -es を付した現代に連なる形態が初出し,伝統的な -es なしの語形を徐々に置き換えていくことになった.「副詞的属格」 (adverbial_genitive) により,度数を表わす副詞であることをより一層明確に示すための強化策だったのだろう.
 中英語では ones, twies, thrise などと s で綴られるのが普通であり,発音としても2音節だったが,14世紀初めまでに単音節化し,後に s の発音が有声化する契機を失った.それに伴って,その無声音を正確に表わそうとしたためか,16世紀以降は <s> に代わって <ce> の綴字で記されることが一般的になった.
 以上をまとめると,once, twice, thrice の -ce は副詞的属格の -es に由来すると説明することはいまだ可能だが,「副詞的属格の -es」が喚起するような,実際に古英語で通用されていた -es 付きの表現に直接由来するという説明は適当ではない.古英語期に,副詞としての æne, twiga, þrīwa が行なわれていた土台の上に,初期中英語期にその副詞性を改めて強調するために属格語尾 -es を付した,というのが事実である.

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2020-05-25 Mon

#4046. 歴史的に妙な ten の短母音 [vowel][numeral][compensatory_lengthening][analysis]

 数詞 ten は /tɛn/ のように短母音を示す.発音と綴字の関係もストレートだし,その発音に慣れてしまっているので疑問すら抱かないが,歴史的にはこの短母音は妙である.
 この語はゲルマン祖語 *teχɑn, *teχun に遡る.この語中の摩擦音が失われ,代償長化 (compensatory_lengthening) を経たことにより,後のゲルマン諸語では長母音を示すことが多い.古ノルド語 tíu,ドイツ語 zehn のごとくである.実際,古英語でもウェストサクソン方言で tīen(e),アングリア方言で tēne といずれも長母音を示し,そこから予想される現代の発達形は *teen */tiːn/ などとなるはずだった.しかし,実際には歴史の途中で問題の母音に短化が生じ /tɛn/ となった.
 ドイツ語では10の zehn はもとより,複合語となる13?19でも dreizehn, vierzehn, fünfzehn のように長母音で一貫している.ところが,英語では10は ten で短母音を示すものの,thirteen, fourteen, fifteen などの複合語では語源的な長母音を示す.むしろ複合語の一部要素が短化するということであれば,古今東西の言語において日常茶飯であり驚きもしないが,どういうわけか英語では分布が逆なのである.
 ten にみられる歴史的な母音の短化は説明が難しいようで,Jespersen (243; §8.412) も "The difference between ten and thirteen, etc., is not easily accounted for." と匙を投げている.
 数詞は閉じた体系的な語彙を形成しているので,内部で種々の類推作用が働くものなのかもしれない.綴字上 tenseven, eleven と eye rhyme を踏んでおり,後者からの影響があったということも考えてみた.また,nine, ninth はともに長母音を示すが,後者の綴字は典型的に短母音を想起させ,ten の短母音化とも関係があるかもしれない,とも考えてみた(cf. 「#3104. なぜ「ninth(ナインス)に e はないんす」かね?」 ([2017-10-26-1])).
 数詞は閉じた体系的な語彙であるとともに,特に小さい数や切りのよい数については頻度が高いという特徴もある.類推による形態的秩序化の方向と高頻度による形態的無秩序化の方向が共存する,独自の世界を作り上げているといえるかもしれない.
 ten と関連して「#3105. tithetenth」 ([2017-10-27-1]) も参照.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. London: Allen and Unwin, 1909.

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2018-05-16 Wed

#3306. we two, you three などの所有格 [genitive][inflection][numeral][syntax][personal_pronoun]

 人称代名詞に数詞が後続する we two 「私たち2人」,you three「あなたがた3人」などの名詞句があるが,この名詞句を所有格とする場合にはどうなるのだろうか.Jespersen (§17.15) を参照してみよう.
 まず,近代英語では,人称代名詞だけが所有格に屈折し,数詞は無屈折のままという事例がある.例えば,Shakespeare では your three motiues, your two helpes, their two estates, our two histories などがみられる.これらの場合には,数詞は意味的に後ろの名詞にかかっているとも解釈できるだろう.
 次に,数詞が所有格マーカーを伴って現われる事例もある.例えば,初期近代の Bullokar などに,our twooz chanc' という表現がみえる.
 そして,もちろん迂言法を利用して of us two, of you three とする方法は常に残されている.
 数詞ではなく,all, both などを用いた we allyou both のような表現の場合にも,歴史的には上記の3種が可能だった.しかし,これらの語は,人称代名詞の後ではなく前に置いて all our . . .both your . . . などと用いられるのが,数詞の場合とは異なる点である.また,all については,古英語の後でも比較的遅くまで alleralder などの属格形が残存していたため,後期中英語の Chaucer でも hir aller cappe, our alder dede などの表現が可能だったことも付記しておこう.
 現代英語では,迂言的に逃げる,あるいはその他の表現を工夫して回避するなどの方策が最もスマートだろうか.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

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2018-04-19 Thu

#3279. 年度初めの「素朴な疑問」を3点 [sobokunagimon][alphabet][numeral][be]

 本年度も大学で英語史概説の講義が始まった.いつも初回には英語の「素朴な疑問」を学生より収集しているが,しばしば多くの学生から重複した疑問が寄せられる.およそ本ブログのどこかで回答したり解説を加えたりしているので,今回とりわけ目に付いた3つの「素朴な疑問」について,簡単なコメントを付し,関連するブログ記事へのリンクを張っておきたい.

[ 素朴な疑問1 ] 英語のアルファベットはなぜ A, B, C . . . Z という並び順になっているのか?

 一言でいえば,英語がラテン語からアルファベットを借りたときに,およそその並び順だったから.そして,そのラテン語はギリシア語からアルファベットを借りたときに,およそその並び順だったから.さらに,そのギリシア語は・・・と続けていくと,最終的には紀元前1700年頃に北セム諸語を表記した原初のアルファベットがおよそその並び順だったから,ということになる.では,その原初のアルファベットにおける並び順の論理はといえば,なかなか一意に定めがたい.以下の記事を参照.

   ・ 「#2105. 英語アルファベットの配列」 ([2015-01-31-1])
   ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
   ・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])
   ・ 「#1832. ギリシア・アルファベットの文字の名称 (1)」 ([2014-05-03-1])
   ・ 「#1833. ギリシア・アルファベットの文字の名称 (2)」 ([2014-05-04-1]

[ 素朴な疑問2 ] なぜ eleven, twelve は,*oneteen, *twoteen などではないのか?

 これも難しい問題だが,英語の属するゲルマン語派において12進法の伝統があったことが関与する.12進法の体系と,後にキリスト教とともにもたらされたと考えられる10進法の体系が衝突し,混合型の数詞体系ができあがったとのだろう.これに関していずれも間接的な視点からではあるが,以下の記事を参照.

   ・ 「#2286. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc.」 ([2015-07-31-1])
   ・ 「#2304. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc. (2)」 ([2015-08-18-1])
   ・ 「#2473. フランス語にみられる20進法の残滓」 ([2016-02-03-1])
   ・ 「#2477. 英語にみられる20進法の残滓」 ([2016-02-07-1])
   ・ 「#2491. フランス語にみられる20進法の起源説」 ([2016-02-21-1])
   ・ 「#2474. 数字における「底の原理」」 ([2016-02-04-1])

[ 素朴な疑問3 ] なぜ be 動詞は is, am, are ほか様々な形があり使い分けなければならないのか?

 古英語では be 動詞に限らず,一般の動詞が主語の文法的・意味的な特性に応じて異なる形に活用しなければならなかったが,後の歴史においてそのような活用が大幅に失われ,現在に至る.しかし,超高頻度語である be 動詞に限っては,古い活用がかなりよく保たれている.したがって,この素朴な疑問を英語史的な観点からパラフレーズすると,「なぜ be 動詞以外では様々な形が消失してしまったのか?」となる.以下を参照.

   ・ 「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1])
   ・ 「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1])
   ・ あわせて,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の「4.2節 なぜ If I were a bird となるのか?」も参照

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2017-12-29 Fri

#3168. 12月,December,師走 [calendar][etymology][numeral][pchron][word_family][month]

 いよいよ本年も終わりに近づいてきているので,この辺りで December (12月)の語源の話題を提供しよう.
 この英単語は,ラテン語で decem (10)を第1要素として作られた合成語 *decemmembris (< *decem-mēnsris < decem + mēnsis) に遡ると考えられる.このラテン単語がフランス語を経由して英語に入ってきたのは中英語の最初期のことで,Peterborough Chronicle の1122年の記述に初出している.古英語では,この月は se ǣrra ġeōla (the earlier Yule) と称されていた.
 decem の印欧語根は *dekm̥ であり,英語本来語としては ten, -teen, -ty, tithe (cf. 「#3105. tithetenth」 ([2017-10-27-1])) 等が関係するほか,実は hundred (そしてラテン語経由で cent その他)も,さらには thousand も関係する.この問題については,「#100. hundred と印欧語比較言語学」 ([2009-08-05-1]),「#1150. centumsatem」,「#2240. thousand は "swelling hundred"」 ([2015-06-15-1]),「#2285. hundred は "great ten"」 ([2015-07-30-1]),「#2286. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc.」 ([2015-07-31-1]),「#2304. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc. (2)」 ([2015-08-18-1]) を参照されたい.
 さて,この印欧語根 *dekm̥ を受け継ぐラテン語からの借用語を挙げれば,decemvir (十大官の一人), decimal (10進法の), decimate (多くの人を殺す), decuple (10倍の), decussate (十字形に交わる), denarius (デナリウス), denier (ドゥニエ貨), dicker (10個の一組), dime (ダイム,10セント硬貨), Dixie (飯ごう), dozen (ダース,12個), duodecimal (12進法の).ギリシア語からは,dean (学部長), decade (10年), decanal (学部長の), dodecagon (12角形), doyen (古参者), Pentecost (ペンテコステ,五旬祭)が英語に入っている.
 日本語で陰暦12月を表わす「師走」(しわす)の語源は未詳とされる.よく知られている民間語源によれば「師馳す」,つまり師匠(の僧)が経をあげるために走り回る月であるという.この解釈は平安末期の『色葉字類抄』にすでに「俗に師馳と云ふ,釈有り」として知られていた.他の説としては,四季の果てる「四極」(しはつ),すべてをなし終える「為果つ」(しはつ)や「年果つ」(としはつ)に基づくとするものなどがある.
 月名シリーズの他の記事も参照.「#2910. 月名の由来」 ([2017-04-15-1]),「#2890. 3月,March,弥生」 ([2017-03-26-1]),「#2896. 4月,April,卯月」 ([2017-04-01-1]),「#2939. 5月,May,皐月」 ([2017-05-14-1]),「#2983. 6月,June,水無月」 ([2017-06-27-1]),「#3000. 7月,July,文月」 ([2017-07-14-1]),「#3046. 8月,August,葉月」 ([2017-08-29-1]),「#3073. 9月,September,長月」 ([2017-09-25-1]),「#3103. 10月,October,神無月」 ([2017-10-25-1]),「#3167. 11月,November,霜月」 ([2017-12-28-1]) .

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2017-12-28 Thu

#3167. 11譛茨シ君ovember?シ碁惧譛? [calendar][etymology][numeral][word_family][month][epenthesis]

 年の瀬に November (11月)の話題というのも妙だが,11月に書き忘れていたので,お許し願いたい.
 この英単語は,ラテン語の数詞 novem (9)に基づいた November あるいは Novembris (mēnsis) が,フランス語を経由して1200年頃に Novembre として英語に入ってきたものである.ラテン語での語形成は *novem-ri-s の子音間に b が添加されて -mbr- となったものだろう(このような語中音添加 (epenthesis) については「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1]) を参照).「月」を表わすこの語の後半要素の起源については,「#3073. 9月,September,長月」 ([2017-09-25-1]) の説明を参照されたい.
 ラテン語novem の印欧語根は *newn̥ であり,英語本来語としてはもちろん nine が関係する.ラテン語からの借用語としてこの語根を保持している単語には nonagenarian (90歳代の), nones (ローマ暦で9日前の日(月によって第5日か第7日に相当する)), noon ((午前6時から数えて)第9時;後に正午の意へ), novena (9 日間の祈り) がある.また,ギリシア語からの借用語としては ennead (九つ一組)がある.
 古英語では Blōdmōnaþ (blood month) と呼ばれ,何やら穏やかではないが,これはアングロサクソン人が冬支度として動物の生贄を捧げた風習と関連するという.
 日本語で陰暦11月を表わす「霜月」は,ストレートに霜降月(しもふりつき)に由来するとも考えられるが,様々な語源説がある.ヲシモノツキ(食物月)の略ともされるし,10月を上の月と考えて11月を下の月としたという説もある.

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2017-11-16 Thu

#3125. 基本語順の類型論 (2) [word_order][syntax][typology][adjective][demonstrative][numeral][world_languages]

 昨日の記事 ([2017-11-15-1]) で,基本語順の類型論について Greenberg の古典的研究に触れた.Greenberg は30の言語を対象に,数種類の語順を比較した.その結果,「(日本語のように)SOV型の言語であれば後置詞をもつ可能性が高い」などの類型論上の含意 (typological implication) が多数認められることを明らかにした.Greenberg (107--08) のまとめた比較表を以下に挙げる.

LanguageVSOPrNANDN Num
BasqueIII-xx-
BerberIxxx-
BurmeseIII-x1--2
BurushaskiIII----
ChibchaIII-x-x
FinnishII----
FulaniIIxxxx
GreekIIx---
GuaraniI-x-0
HebrewIxxx-
HindiIII----
ItalianIIxx3--
KannadaIII----
JapaneseIII----2
LoritjaIII-xxx
MalayIIxxx-2
MaoriIxx--
MasaiIxx-x
MayaIIx---2
NorwegianIIx---
NubianIII-x-x
QuechuaIII----
SerbianIIx---
SonghaiII-xxx
SwahiliIIxxxx
ThaiIIxxx-2
TurkishIII----
WelshIxx3x-
YorubaIIxxxx
ZapotecIxxx-


 1列目は S, V, O の3要素に関する語順であり,I は VSO, II は SVO, III は SOV を表わす.
 2列目は前置詞 (Pr) をもつか,あるいは後置詞 (-) をもつかを表わす.
 3列目は「名詞+形容詞」の語順 (NA) か,「形容詞+名詞」の語順 (-) かを表わす.
 4列目は「名詞+指示詞」の語順 (ND) か,「指示詞+名詞」の語順 (-) かを表わす.
 5列目は「名詞+数詞」の語順 (N Num) か,「数詞+名詞」の語順 (-) かを表わす.

 右肩に番号の付された注については,正確さのために原文より引用しよう (108) .

1. Participle of adjective-verb, however, precedes and is probably as common as adjective following.
2. Numeral classifiers following numerals in each case. The construction numeral + classifier precedes in Burmese and Maya, follows in Japanese and Thai, and either precedes or follows in Malay.
3. In Welsh and Italian a small number of adjectives usually precede.


 全体として,5種類の語順のあいだに弱からぬ相関関係があることを見て取ることができる.対象となった言語は30個にすぎないとはいえ,異なる系統や地域からの言語が選択されており,それなりに信頼することのできる調査結果として受け入れられている.
 関連して,「#2786. 世界言語構造地図 --- WALS Online」 ([2016-12-12-1]) で紹介した The World Atlas of Language Structures (WALS Online) も参照.

 ・ Greenberg, Joseph P. "Some Universals of Grammar with Particular Reference to the Order of Meaningful Elements." Chapter 5 of Universals of Language. Ed. Joseph P. Greenberg. 2nd ed. Cambridge, Mass.: M.I.T. P, 1966. 73--113.

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2017-10-27 Fri

#3105. tithetenth [numeral][doublet][history][reformation]

 標題の2語は,いずれも「10分の1」が原義であり,「十分の一税」の語義を発展させた.語源的には密接な関係にある2重語 (doublet) である(「#1724. Skeat による2重語一覧」 ([2014-01-15-1]) の記事,および American Heritage Dictionary より tithe の蘊蓄を参照).
 昨日の記事「#3104. なぜ「ninth(ナインス)に e はないんす」かね?」 ([2017-10-26-1]) で,ninth に相当する古英語の語形が,2つ目の n の脱落した nigoða という形であると述べた.tenth に関しても同様であり,基数詞 tīen(e) (West-Saxon), tēn(e) (Anglian)に対して序数詞では n が落ちて tēoþa (West-Saxon), tēogoþa (Anglian) などと用いられた.後者 Anglia 方言の tēogoþa が後に音過程を経て tithe となり,近代英語以降に受け継がれた(MED より tīthe (n.(2)) を参照).
 一方,tenth は,初期中英語で基数詞の形態をもとに規則的に形成された新たな形態である(MED より tenth(e を参照).
 tithe は「十分の一税」を意味する名詞としては,1200年ころに初出する.中世ヨーロッパでは,5世紀以降,キリスト教会が信徒に収入の十分の一の納税を要求するようになっていたが,8世紀からはフランク王国で全キリスト教徒に課せられる税となった.教会が教区の農民から収穫物の十分の一を強制的に徴収するようになったのである.9世紀以降,その徴収権は教会からしばしば世俗領主へと渡り,18--19世紀に廃止されるまで続いた.
 ややこしいことに,イングランドでは,ローマ・カトリック教会の聖職者がローマ教皇に対する上納金も「十分の一税」(しかし今度は tenth)と呼ばれていたが,宗教改革の過程で,Henry VII は教皇にではなく国王に納めさせるように要求し,制度として定着した.さらに,都市部に課される議会課税も tenth (十分の一税)と呼ばれたので,一層ややこしい(水井,p. 16).
 我が国の消費税も10%になるということであれば,これは tithe と呼ぶべきか tenth と呼ぶべきか・・・.

 ・ 水井 万里子 『図説 テューダー朝の歴史』 河出書房,2011年.

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