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semantic_change - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-10-30 11:00

2020-10-13 Tue

#4187. Meillet が重視した意味変化の社会語用論的側面 [semantic_change][sociolinguistics][register][semantic_borrowing][language_change]

 「#4183. 「記号のシニフィエ充填原理」」 ([2020-10-09-1]) で引用した Meillet は,その重要論文において,意味変化 (semantic_change) に関する社会言語学な原理を強調している.単語は社会集団ごとに用いられ方が異なるものであり,その単語の意味も社会集団ごとの関心に沿って変化や変異することを免れない.そのようにして各社会集団で生じた新たな意味のいくつかが,元の社会集団へ戻されるとき,元の社会集団の立場からみれば,その単語のオリジナルの意味に,新しい意味が付け加わったようにみえるだろう.つまり,そこで実際に起こっていることは,意味変化そのものではなく,他の社会集団からの意味借用 (semantic_borrowing) なのだ,という洞察である.
 Meillet は,先行研究を見渡しても意味変化の確かな原理というものを見出すことはできないが,1つそれに近いものを挙げるとすれば上記の事実だろうと自信を示している.この「社会集団」を「言語が用いられる環境」として緩く解釈すれば,語の意味変化は,異なる意味が異なる使用域 (register) 間で移動することによって生じるものと理解することができる.これは,意味変化を社会語用論的な立場からみたものにほかならない.Meillet (27) が力説している部分を引用しておこう.

Il apparaît ainsi que le principe essentiel du changement de sens est dans l'existence de groupements sociaux à l'intérieur du milieu où une langue est parlée, c'est-à-dire dans un fait de structure sociale. Il serait assurément chimérique de prétendre expliquer dès maintenant toutes les transformations de sense par ce principe: un grand nombre de faits résisteraient et ne se laisseraient interpréter qu'à l'aide de suppositions arbitraires et souvent forcées; l'histoire des mots n'est pas assez faite pour qu'on puisse, sur aucun domaine, tenter d'épuiser tous les cas et démontrer qu'ils se ramènent sans aucun reste au principe invoqué, ce qui serait le seul procédé de preuve théoriquement possible; le plus souvent même ce n'est que par hypothèse qu'on peut tracer la courbe qu'a suivie le sens d'un mot en se transformant. Mais, s'il est vrai qu'un changement de sens ne puisse pas avoir lieu sans être provoqué par une action définie --- et c'est le postulat nécessaire de toute théorie solide en sémantique ---, le principe invoqué ici est le seul principe connu et imaginable dont l'intervention soit assez puissante pour rendre compte de la pluplart des faits observés; et d'autre part l'hypothèse se vérifie là où les circonstances permettent de suivre les faits de près.


 Meillet の上記の考え方については,「#1973. Meillet の意味変化の3つの原因」 ([2014-09-21-1]) でも指摘した.また,関連する議論として「#2246. Meillet の "tout se tient" --- 社会における言語」 ([2015-06-21-1]),「#2161. 社会構造の変化は言語構造に直接は反映しない」 ([2015-03-28-1]) も参照されたい.

 ・ Meillet, Antoine. "Comment les mots changent de sens." Année sociologique 9 (1906). 1921 ed. Rpt. Dodo P, 2009.

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2020-10-09 Fri

#4183. 「記号のシニフィエ充填原理」 [semantics][semantic_change][bleaching][grammaticalisation][sign]

 文法化 (grammaticalisation) の議論では,原義の強度が弱まる意味の漂白化 (bleaching) が話題になる.これ自体が意味変化 (semantic_change) の一種でもあるが,そのように意味が弱まって漂白化したスキをついて,その形式に対して新たな意味や機能が潜り込んでくるという点,つまり二次的な意味変化が続くという点がおもしろい.Meillet が意味変化の著名な論文 "Comment les mots changent de sens" (p. 7) で,この点に触れている.

En ce qui concerne spécialement le changement de sens, une circinstance importante est que le mot, soit prononcé, soit entendu, n'éveille presque jamais l'image de l'objet ou de l'acte dont il est le signe; comme l'a si justement dit M. Paulhan cité par M. Leroy, Le langage, p. 97: « comprendre un mot, une phrase, ce n'est pas avoir l'image des objets réels que représente ce mot ou cette phrase, mais bien sentir en soi un faible réveil des tendances de toute nature qu'éveillerait la perception des objets représentés par le mot ». Une image aussi peu évoquée, et aussi peu précisément, est par là même sujette à se modifier sans grande résistance.


 ある記号 (sign) について,シニフィエが弱まると,スカスカになったその空隙を埋めるかのように,容易に別の意味や機能が入り込んでくるのだという.シニフィアンの立場からみると,常に確実で強固な相方(=シニフィエ)を欲するということになろうか.
 この点と関連して想起されるのは,「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]) の最後に触れたことである.指示対象はもっているが,本来シニフィエをもたない固有名詞にすら,スカスカのシニフィエを埋めようとする作用が認められるということだ.これは「記号のシニフィエ充填原理」とでも呼びたくなる興味深い現象である.

 ・ Meillet, Antoine. "Comment les mots changent de sens." Année sociologique 9 (1906). 1921 ed. Rpt. Dodo P, 2009.

Referrer (Inside): [2020-10-13-1]

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2020-09-11 Fri

#4155. シネクドキー(提喩)とメトニミー(換喩) [synecdoche][metonymy][rhetoric][semantics][semantic_change][cognitive_linguistics][terminology]

 標題の2つの「言葉のあや」あるいは意味論上の過程は,古来さまざまに定義され,論じられてきたが,しばしば混同されてきた.
 『新編 認知言語学キーワード事典』によると,「提喩」と訳されるシネクドキー (synecdoche) は,「包含関係(類と種の関係)に基づいて転義(意味のズレ)が起こる比喩で,上位概念で下位概念を指したり,下位概念で上位概念を指すものを言う」 (238) とある.典型例として,以下のようなものがある.

 ・ 花見に行った.
 ・ 空から白いものが降ってきた.
 ・ 頭に白いものが目立ってきた.
 ・ John would have a drink with his wife.

 ・ 今晩のご飯は何ですか.
 ・ 喫茶店でお茶でも飲もう.
 ・ One has to earn one's bread.

 シネクドキーとは何か,これで分かったような気がするものの,それと「換喩」と訳されるメトニミー (metonymy) との区別が厄介な問題である.実際,両者はしばしば混同されてきた.同事典 (239) より,この区別について解説している箇所を引用しよう.

提喩と換喩は,〈全体と部分の関係〉と〈類と種の関係〉に関して,研究史上,しばしば混乱が見られ,グループμ (Le groupe μ 1970) などは,〈全体と部分の関係 (a part of whole)〉と〈類と種の関係 (a kind of class)〉を正しく区別したにもかかわらず,両者を提喩として一括してしまった.こうした先行研究への批判をふまえて,佐藤信夫 (1978[1992]) は,一連の研究で,〈全体と部分の関係〉を提喩から切り離して換喩とし,〈類と種の関係〉に基づく比喩だけを提喩と扱う考え方を示した.実際,換喩は,全体 A と部分 a の関係において,部分 a は A の一部であって,a だけで A にはならない.例えば,「恩師のところに顔を見せに行く」と言うとき,部分としての「顔」が全体としての「人間」を指すが,「顔」は,それ自体では「人間」ではない.これに対し,提喩は,上位概念 B と下位概念 b の関係において,b は,すでに1つの B にあたる.例えば,「喫茶店でお茶を飲む」において「お茶」が「飲み物」を指すとき,「お茶」も,それ自体「飲み物」であって,この点で,全体と部分の関係と,類と種の関係は,本質的に異なる.こうした観点から見ても,〈全体と部分の関係〉に基づく比喩を換喩とし,〈類と種の関係〉に基づく比喩を提喩として両者を区別することは,妥当なものと言ってよい.


 次に,瀬戸を参照した「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1]) で紹介したシネクドキーとメトニミーの定義と事例を挙げよう.

名称別名説明
提喩シネクドキ (synecdoche)「天気」で「いい天気」を意味する場合があるように、類と種の間の関係にもとづいて意味範囲を伸縮させる表現法。熱がある。焼き鳥。花見に行く。
換喩メトニミー (metonymy)「赤ずきん」が「赤ずきんちゃん」を指すように、世界の中でのものとものの隣接関係にもとづいて指示を横すべりさせる表現法。鍋が煮える。春雨やものがたりゆく蓑と傘。


 以上より,シネクドキーは類と種の関係,メトニミーは全体と部分の関係を含む広い隣接関係を表わすと理解することができる.
 しかし,『新英語学辞典』 (1221) より synecdoche の項目をみてみると,様子が異なる.

synecdoche (← Gk sunekdokhḗ receiving together) 〔修〕(提喩) 換喩 (METONYMY) の一種.部分または特殊なものを示す語句によって全体または一般的なものを表わすこと.部分で全体を表わすことを特に part for whole, L pars prō tōtō ということがある.blade (= sword), hand (= workman), rhyme (= poetry), roof (= house), sail (= ship), seven summers (= seven years) .


 ここではシネクドキーはメトニミーの一種ということになっており,しかも前者は全体と部分の関係を表わすという.『新英語学辞典』 (1221) からの引用をさらに続けよう.

現在は主に上記の意味に用いられているが,本来はもっと広い概念を有していた用語で,M. Joseph (1947a) はエリザベス朝の概念として上述のもの以外に次のようなものをあげている.(a) 全体で部分を指す (whole for part, L tōtum prō parte): creature (= man). (b) 種が属を表わす (species for genus): our daily bread (= food); gold (= wealth). (c) 全体を部分に分けて表現する分割表現 (L merismus, partītiō): They first undermined the ground-sills, they beat down the walls, they unfloored the lofts---Puttenham (= A house was outrageously plucked down). (d) 材料で製品を表わす: the marble (= the statue of marble). (e) 職業名で個人を指す換称 (antonomasia): the Bard (= Shakespeare). (f) その他,具象物で抽象物を,抽象物で具象物を表わす表現も提喩とみなすことができよう〔中略〕.


 うーむ,ここまでシネクドキーを拡大して解釈すると,メトニミーそのものになってしまうではないか.
 最後に McArthur (1014) より synecdoche の定義をみておこう.

In rhetoric, a figure of speech concerned with parts and wholes: (1) Where the part represents the whole: 'a hundred head of cattle' (each animal identified by head alone); 'All hands on deck' (the members of a ship's crew represented by their hands alone). (2) Where the whole represents the part: 'England lost to Australia in the last Test Match' (the countries standing for the teams representing them and taking a plural verb).


 『新英語学辞典』と同様,全体と部分の関係を基本とする定義が与えられている.混迷は深い.

 ・ 辻 幸夫(編) 『新編 認知言語学キーワード事典』 研究社.2013年.
 ・ 佐藤 信夫,佐々木 健一,松尾 大 『レトリック事典』 大修館,2006年.
 ・ 瀬戸 賢一 『日本語のレトリック』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉,2002年.
 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ Joseph, Sister Miriam, C. S. C. Shakespeare's Use of the Arts of Language. New York: Columbia UP, 1947.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.

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2020-08-29 Sat

#4142. guest と host は,なんと同語源 --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][grimms_law][indo-european][palatalisation][old_norse][loan_word][semantic_change][doublet][antonym][french][latin][old_norse]

 hellog ラジオ版も第20回となりました.今回は素朴な疑問というよりも,ちょっと驚くおもしろ語源の話題です.「客人」を意味する guest と「主人」を意味する host は,完全なる反意語 (antonym) ですが,なんと同語源なのです(2重語 (doublet) といいます).この不思議について,紀元前4千年紀という,英語の究極のご先祖様である印欧祖語 (Proto-Indo-European) の時代にまで遡って解説します.以下の音声をどうぞ.



 たかだか2つの英単語を取り上げたにすぎませんが,その背後にはおよそ5千年にわたる壮大な歴史があったのです.登場する言語も,印欧祖語に始まり,ラテン語,フランス語,ゲルマン祖語,古ノルド語(北欧諸語の祖先),そして英語と多彩です.
 語源学や歴史言語学の魅力は,このように何でもないようにみえる単語の背後に壮大な歴史が隠れていることです.同一語源語から,長期にわたる音変化や意味変化を通じて,一見すると関係のなさそうな多くの単語が芋づる式に派生してきたという事実も,なんとも興味深いことです.今回の話題について,詳しくは##170,171,1723,1724の記事セットをご覧ください.

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2020-07-31 Fri

#4113. 日本語のコロナ関連語録 [japanese][neologism][waseieigo][katakana][borrowing][shortening][false_friend][semantic_change][lexicology][word_formation][sociolinguistics]

 戦争,飢餓,疫病など苦難の時代には,言語も荒波に揉まれてきた.目下のコロナ禍では言語の何が変わるのだろうか.すでにいくつか候補が挙げられるようにも思う.
 たとえば,英語でいえば,「#4105. 銅像破壊・撤去,新PC,博物館」 ([2020-07-23-1]) でみたように,BLM運動との関連で人種差別を喚起させる特定の語句や表現が槍玉にあげられたり,自主的に置換されるという事態が生じている.これは厳密にいえばコロナ禍の直接的な影響によるものではないが,既存の社会問題がコロナ下の不安と憤懣のなかで増幅して爆発した結果とみなすならば,間接的には関与しているといえる.
 日本語では,様々なコロナ関連表現が,きわめて短期間のうちに生まれ定着してきたことは,肌身に感じられるだろう.7月25日(土)の読売新聞朝刊の特別面(11面)に「コロナ時代の言葉たち」と題する特集が掲載されていた.出現順に挙げるとおもしろそうだが,順番は意識せずに一覧を掲げてみる.

3密,8割削減,10万円給付,Go To トラベル,PCR,Skype,WHO,Zoom,あつ森,アクリル板,アビガン,アベノマスク,アマビエ・アマビコ,ウーバーイーツ,ウィズコロナ,ウェブ面接,エクモ,エッセンシャルワーカー,オーバーシュート,オンライン授業,クラスター,クルーズ船,コロナ (COVID-18),ステイホーム,スペイン風邪,チャーター便,テレワーク,ドライブスルー,ニューノーマル,パンデミック,フェースシールド,ライブハウス,リモートマッチ,ロックダウン,医療崩壊,一世休校,院内感染,屋形船,感染経路不明,緩み,休業要請,緊急事態宣言,県をまたぐ移動,抗原検査,抗体検査,行動変容,再生産数,持ちこたえている,自粛警察,社会的距離(ソーシャル・ディスタンス),手作りマスク,手指消毒,手洗い,収束/終息,出口戦略,新しい生活様式,瀬戸際,正念場,接触確認アプリ,接触感染,専門家会議,巣ごもり,大阪モデル,第2波,置き配,昼カラオケ,転売ヤー,東京アラート,濃厚接触,買い占め,飛沫感染,不要不急の外出自粛,武漢,分散登校,無観客,夜の街,臨時休講


 新語(句)の形成法としては,和製英語あり,借用あり,漢熟語あり,省略ありと,なかなかに新旧の方法が入り交じった賑やかな様相を呈している.新語(句)というよりは,既存の語(句)に新たな語義が付け加えられたり,ニュアンスが変化したりという,意味変化の事例も多い.この一覧を用いて語形成や意味論の基本を論じる講義を準備できるのではないかとすら感じた.

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2020-07-17 Fri

#4099. sore の意味変化 [cognitive_linguistics][semantic_change][metaphor][metonymy][loan_word][french][prototype][polysemy]

 Geeraerts による,英語史と認知言語学 (cognitive_linguistics) のコラボを説く論考より.本来語 sore の歴史的な意味変化 (semantic_change) を題材にして,metaphor, metonymy, prototype などの認知言語学的な用語・概念と具体例が簡潔に導入されている.
 現代英語 sore の古英語形である sār は,当時よりすでに多義だった.しかし,古英語における同語の prototypical な語義は,頻度の上からも明らかに "bodily suffering" (肉体的苦しみ)だった.この語義を中心として,それをもたらす原因としての外科的な "bodily injury, wound" (傷)や内科的な "illness" (病気)の語義が,メトニミーにより発達していた.一方,"emotional suffering" (精神的苦しみ)の語義も,肉体から精神へのメタファーを通じて発達していた.このメタファーの背景には,語源的には無関係であるが形態的に類似する sorrow (古英語 sorg)との連想も作用していただろう.
 古英語 sār が示す上記の多義性は,以下の各々の語義での例文により示される (Geeraerts 622) .

(1) "bodily suffering"
   þisse sylfan wyrte syde to þa sar geliðigað (ca. 1000: Sax.Leechd. I.280)
   'With this same herb, the sore [of the teeth] calms widely'

(2) "bodily injury, wound"
   Wið wunda & wið cancor genim þas ilcan wyrte, lege to þam sare. Ne geþafað heo þæt sar furður wexe (ca. 1000: Sax.Leechd. I.134)
   'For wounds and cancer take the same herb, put it on to the sore. Do not allow the sore to increaase'

(3) "illness"
   þa þe on sare seoce lagun (ca. 900: Cynewulf Crist 1356)
   'Those who lay sick in sore'

(4) "emotional suffering"
   Mið ðæm mæstam sare his modes (ca. 888: K. Ælfred Boeth. vii. §2)
   'With the greatest sore of his spirit

 このように,古英語
sār'' は,あくまで (1) "bodily suffering" の語義を prototype としつつ,メトニミーやメタファーによって派生した (2) -- (4) の語義も周辺的に用いられていたという状況だった.ところが,続く初期中英語期の1297年に,まさに "bodily suffering" を意味する pain というフランス単語が借用されてくる.長らく同語義を担当していた本来語の sore は,この新参の pain によって守備範囲を奪われることになった.しかし,死語に追いやられたわけではない.prototypical な語義を (1) "bodily suffering" から (2) "bodily injury, would" へとシフトさせることにより延命したのである.そして,後者の語義こそが,現代英語 sore の prototype となった(他の語義が衰退し,この現代的な状況が明確に確立したのは近代英語期).

 ・ Geeraerts, Dirk. "Cognitive Linguistics." Chapter 59 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 618--29.

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2020-07-07 Tue

#4089. 老年は winter,若年は summer [analogy][semantic_change][metonymy][metaphor][conceptual_metaphor][antonymy]

 昨日の記事「#4088. 古英語で「年」を意味した winter」 ([2020-07-06-1]) のために周辺を調べていたら,現代英語のおもしろい表現に行き当たった.a girl of eighteen summers (芳紀18歳の娘),a child of ten summers (10歳の子供),a youth of twenty summers (20歳の青年)などである.
 古英語の winter は複数形で長い年月を表わすのに用いられるのが通常だった.そこから,an old man of eighty winters (八十路の老人)のような「老年」を表わす表現が生まれてきたわけである.昨日の記事では「年のなかの1季節である冬=年」という部分と全体のメトニミーが作用していることに触れたが,一方で「人生の winter =老年」というメタファーが存在することも間違いなさそうだ.すると,対比的に「人生の summer =若年」というメタファーが類推により生まれてくることも,さほど不可解ではない.summer は,部分と全体のメトニミーはそのままに,とりわけ若年を喚起する年・歳のメタファーとして新たに生じたのである.
 実際,OED の summer, n.1 and adj. の語義4によると「年,歳」を意味する用例の初出は,古英語ではなく,ずっと後の後期中英語である.初期の例とともに引用する.

4. In plural. With a numeral or other quantifier, as two summers, five summers, etc.: used to measure a duration or lapse of time containing the specified number of summers or years; esp. used to denote a person's age. Now chiefly literary and rhetorical.
   Frequently applied particularly to younger people, perhaps with intended contrast with WINTER n.1 2, although cf. e.g. quots. 1821, 2002 for application to older people.

c1400 (?c1380) Cleanness (1920) l. 1686 Þus he countes hym a kow þat watz a kyng ryche, Quyle seven syþez were overseyed someres, I trawe.
1573 T. Bedingfield tr. G. Cardano Comforte ii. sig. E.ii Wee maruaile at flees for theyr long life, if they liue two Sommers.
. . . .
a1616 W. Shakespeare Comedy of Errors (1623) i. i. 132 Fiue Sommers haue I spent in farthest Greece.


 若年を喚起する summer の用法は,したがって古英語以来の winter の用法を参照しつつ,メタファーとメトニミーと相関的類推作用 (correlative analogy) を通じて中英語期に作り出された刷新用法ということになる(相関的類推作用については「#1918. sharpflat」 ([2014-07-28-1]) を参照).多層的な概念メタファー (conceptual metaphor) の例でもある.
 ところで,この summerwinter との対比であるとすれば,季節としては「夏」と解釈してよいのだろうか.そのようにみえるが,実は「春」ではないかと考えている.というのは,「若年=人生の春」のほうが解釈しやすいし,何よりも「#1221. 季節語の歴史」 ([2012-08-30-1]),「#1438. Sumer is icumen in」 ([2013-04-04-1]) で見たように,歴史的には summer は夏ばかりでなく春をも指し得たからだ.冬の反意 (antonymy) は夏なのか,春なのか.そんなことも考えさせる話題である.

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2020-07-06 Mon

#4088. 古英語で「年」を意味した winter [oe][anglo-saxon_chronicle][popular_passage][metonymy][semantic_change]

 古英語の授業で,当時は winter が「冬」に加えて「年」を意味することがしばしばあったことに触れた.具体的には「#3317. The Anglo-Saxon Chronicle にみる Hengest と Horsa」 ([2018-05-27-1]) で引用した,件の年代記の449年の記述の第1文について解説していたときである.

Martiānus and Valentīnus . . . rīcsodon seofon winter. (= Martianus and Valentinus ruled seven years.)


 年代記ではこのように統治者の統治年数などがよく言及されるが,そのような場合,年を数えるのに winter という中性名詞がしばしば使われる.中性名詞の一部は複数主格・対格形が対応する単数の形態と同形となるため,この箇所でも「7年間」の意にもかかわらず形態は winter となっている(ここでは期間を表わす「副詞的対格」の用法で用いられている.cf. 「#783. 副詞 home は名詞の副詞的対格から」 ([2011-06-19-1])).現代英語の year の古英語形である ġēar (これも中性名詞で単複同形)が用いられることも多いが,winter も同様によく用いられるのである.
 「冬」をもって「年」を表わすという上記の事情を授業で説明したら,多くの学生から「詩的」「風情ありすぎ」など多くの反響があった.ということで,以下にもう少し詳しく解説しておきたい.
 確かに本来 winter は1年 (year) を構成する季節の1つにすぎない.しかし,寒冷な彼の地では,冬を越すことこそが1年を無事に過ごすことであり,越冬した回数をもって年や歳を数えるという慣習が発達したものと想像される.古ノルド語や古アイスランド語でも,案の定,事情は平行的である.気候と文化に基づいたメトニミーの好例といえる.
 「年」を意味する winter を用いた表現は,古英語から中英語を経て,近現代英語でも詩的あるいは古風な表現として健在である.いくつか挙げてみると,many winters ago (何年も前に),an old man of eighty winters (八十路の老人),pass two winters abroad (外国で2年過ごす)などとなる.
 中英語からの例は,MED winter (n.) より確認できるが,the age of fifti winter, fif-tene winter of age, o fif-tene winter elde, of eighte-tene winter age, the wei of five hundred winter, fourti winter, yeres and winteres など枚挙にいとまがない.
 なお,動詞 winter は中英語での発達だが「越冬する」を意味する.また,今では廃用となっている過去分詞形容詞 wintered は1600年頃まで「年老いた」の意味で用いられていた.さらに,イングランド北部やスコットランド方言に限られるようだが,現在でも2歳の牛・馬・羊を指して twinter (n., adj.) という言い方が残っている.
 日本語でも「幾星霜」と霜の降りる冬に引っかけた歳月の数え方がある.一方で「幾春秋を経る」という表現もある.言語によってどの季節を代表に取るかは異なり得るとしても,この種のメトニミーは通言語的に普通にみられるのだろう.
 関連して,季節を表わす語については「#1221. 季節語の歴史」 ([2012-08-30-1]) を参照.

Referrer (Inside): [2020-07-07-1]

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2020-06-10 Wed

#4062. ラテン語 spirare (息をする)の語根ネットワーク [word_family][etymology][latin][loan_word][semantic_change][derivation]

 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) と「#4061. spritespright か」 ([2020-06-09-1]) の記事で,ラテン語 spīrāre (息をする)や spīritus (息)に由来する語としての spirit, sprite/spright やその派生語に注目してきた.「息(をする)」という基本的な原義を考えれば,メタファーやメトニミーにより,ありとあらゆる方向へ語義が展開し,派生語も生じ得ることは理解しやすいだろう.実際に語根ネットワークは非常に広い.
 spiritual, spiritualist, spirituous に始まる接尾辞を付した派生語も多いが,接頭辞を伴う動詞(やそこからの派生名詞)はさらに多い.inspire は「息を吹き込む」が原義である.そこから「霊感を吹き込む」「活気を与える」の語義を発達させた.conspire の原義は「一緒に呼吸する」だが,そこから「共謀する,企む」が生じた.respire は「繰り返し息をする」すなわち「呼吸する」を意味する.perspire は「〜を通して呼吸する」の原義から「発汗する;分泌する」の語義を獲得した.transpire は「(植物・体などが皮膚粘膜を通して)水分を発散する」が原義だが,そこから「しみ出す;秘密などが漏れる,知れわたる」となった.aspire は,憧れのものに向かってため息をつくイメージから「熱望する」を発達させた.expire は「(最期の)息を吐き出す」から「終了する;息絶える」となった.最後に suspire は下を向いて息をするイメージで「ため息をつく」だ.
 福島や Partridge の語源辞典の該当箇所をたどっていくと,意味の展開や形態の派生の経路がよくわかる.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.
 ・ Partridge, Eric Honeywood. Origins: A Short Etymological Dictionary of Modern English. 4th ed. London: Routledge and Kegan Paul, 1966. 1st ed. London: Routledge and Kegan Paul; New York: Macmillan, 1958.

Referrer (Inside): [2020-08-14-1]

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2020-06-05 Fri

#4057. stay at homestay home か --- 静的な語義への拡張が遅いイギリス英語 [adverb][ame_bre][semantic_change][preposition]

 標題のタイムリーな話題については,すでに「#4035. stay at homestay home か --- 英語史の観点から」 ([2020-05-14-1]),「#4036. stay at homestay home か --- コーパス調査」 ([2020-05-15-1]),「#4037. stay home の初例 --- EEBO Online corpus より」 ([2020-05-16-1]) で取り上げてきた.今更ながらも,両者の使い分けについて Fowler's および Usage and Abusage の見解をそれぞれ確認しておこう.

home (adv.). Idiomatic uses are very numerous, esp. when home is accompanied by a verb of movement (come, go home; I'll see you home; my son will be home soon; drive the nail home; pressed his advantage home; etc.). When the sense is 'in his or her own home' the British preference is to use at home (he stayed at home; is Jane at home?) and the American home by itself.


home, be. To say that a person 'is home' for 'is at home' is American rather than British usage. The British use the expression, though, where movement is involved: 'We're nearly home.'


 先の記事群で確認した歴史的な経緯と,上記の共時的な記述とはよく呼応している(両書とも規範的な色彩が強いのだが,ここではなかなかに記述的である).イギリス英語では home が単独で副詞として用いられるに場合にしても,動的な語義が基本であり,静的な語義では使いにくいということだろう.歴史的にみれば近代英語期以降,副詞 home は動的な語義から静的な語義へと意味を拡張させてきたのだが,その傾向はイギリス英語ではいまだに鈍いということになろうか.
 ただし,「#4036. stay at homestay home か --- コーパス調査」 ([2020-05-15-1]) でもみたように,アメリカ英語でも stay home の伸張はあくまで20世紀半ばに始まったものであり,比較的新しい特徴であるには違いない.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.

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2020-04-09 Thu

#4000. want の英語史 --- 意味変化と語義蓄積 [semantics][semantic_change][polysemy][gerund]

 昨日の記事「#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化」 ([2020-04-08-1]) で,want が「欠いている」→「必要である」→「欲する」という意味変化を経てきたことを説明した.意味変化といっても様々なタイプがある.古い意味 A が新しい意味 B に完全に取って代わられることもあれば,新しい意味 B が派生した後も古い意味 A が相変わらず残り,結果として両方の意味が並び立っているというケースもある.後者の場合,通時的にみれば複数の語義が蓄積してきたと表現できるし,共時的にみればその語に多義性 (polysemy) があると表現できることになる.want はまさにこの後者の例であり,新参の「欲する」という語義が圧倒的に優勢には違いないが,最も古い「欠いている」の語義も,次に古い「必要である」の語義も一応生き残っている.
 以下,やや古めかしい響きをもつ例文もあるが,(1)--(3) では「欠いている」の語義が,(4)--(6) では「必要である」の語義が認められる.

 (1) She wants courage. (彼女には勇気がない.)
 (2) The time wants ten minutes to four. (4時10分前だ.)
 (3) The sum wanted two dollars of the desired amount. (その金額は希望額に2ドル足りなかった.)
 (4) This dirty floor wants a scrub. (この汚れた床はごしごし磨く必要がある.)
 (5) This CD player wants repairing. (このCDプレーヤーは修理の必要がある.)
 (6) Your hair wants to be cut. (君の髪の毛は刈る必要がある.)

 (5) のように動名詞が続く構文は,意味的には受け身となる点で need の用法と同じである(cf. 「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1])).
 名詞 want も同様で,古い「必要」の語義も周辺的ながら残っている.The homeless are in want of shelter. (ホームレスは雨露をしのげる場所を求めている.)では,wantneed に置き換えても通用する.また「欠乏,不足」の語義も for want of . . . (〜不足のために)という句に残っている.これも for lack of . . . と言い換えることができる.Mother Goose の伝承童謡 (nursery rhyme) に,この句を繰り返す教訓詩として有名なものがある.

For want of a nail the shoe was lost.釘がないので蹄鉄が打てない
For want of a shoe the horse was lost.蹄鉄が打てないので馬が走れない
For want of a horse the rider was lost.馬が走れないので騎士が乗れない
For want of a rider the battle was lost.騎士が乗れないので戦いが出来ない
For want of a battle the kingdom was lost.戦いが出来ないので国が滅びた
And all for the want of a horseshoe nail.すべては蹄鉄の釘がなかったせい


 多義語の学習はしばしば難しいが,なぜその語が多義なのかを考えてみるとおもしろい.過去に意味変化を経てきた過程で,古い語義の上に新しい語義が蓄積されてきた可能性が高いからだ.とりわけ意味変化に強い次の辞典をそばに置いておくと便利である.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.

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2020-04-08 Wed

#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化 [semantics][semantic_change][etymology][old_norse][metonymy][loan_word]

 もしかすると英会話で最も頻出する表現は I want to . . . かもしれない.少なくともトラベル英会話では,少し丁寧な I'd like to . . . と並んで最重要表現の1つであることは間違いない.これさえ使いこなせれば最低限の用を足せるのではないかと思われるほどの基本表現である.実際「#2096. SUBTLEX-US Word Frequency List」 ([2015-01-22-1]) による語彙の頻度リストによれば,want はなんと62位である.超高頻度の単語といってよい.
 実はこの want という頻出語に注目するだけで,かなり多くのことを論じることができる.少々おおげさではあるが「want の英語史」を展開することが可能なのである.というわけで,今日から何回かにわたって「want の英語史」のシリーズをお届けする.初回となる今回は,want の語源と意味変化 (semantic_change) に注目する.
 want は語源的にいえばそもそも純粋な英単語ではない.これほど高頻度の単語が英語本来語でないというのは驚きだが,事実である.この動詞は古ノルド語 (old_norse) からの借用語だ(「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1]) を参照).古ノルド語の動詞 vanta (〜を欠いている)に由来するが,これ自体はゲルマン祖語の *wan-,さらには印欧祖語の * にさかのぼる.月の満ち欠けの「欠け」を意味する wane や,ラテン語 vānus (empty) に由来する vain もこの印欧語根を共有している.原義は「欠けている」である.
 古ノルド語の動詞 vanta が英語では wante(n) として受容されたが,その時期は1200年頃のことである.そこでの語義はやはり「欠いている」であり,ほぼ同時期に名詞として受け入れた際の語義も「欠乏」だった.つまり,当初は「欲する」の語義はなく,中英語期には専ら「欠いている」を意味するにとどまった.
 中英語期も終わりに近づいた15世紀後半に「必要である」の語義が生じた.欠けている大事なものがあれば,当然人はそれを必要とするからだ.この意味変化は,フランス語の il me faut (原義は「私には〜が欠けている」だが,「私には〜が必要だ」の意味で用いられる)にも類例がみられる.近代英語期に入ると,連動して名詞にも「必要」の語義が加わった.さらに続けて,あるものが必要となれば,人はそれを欲するのが道理だ.そこで「欲する」の語義がさらに付け加わわることになった.欠けていれば,それを必要とし,さらにそれを欲するようになるという連鎖は,きわめて自然な因果関係である.メトニミー (metonymy) による意味変化の例といってよい.
 ところで,この「欲する」という新しい語義での初出は OED によると1621年のことである.want to do に至っては初例が1698年である.さらに確かな例の出現ということでいえば,18世紀を待たなければならなかったといってよい.現在では超がつくほど頻度の高い語句となっているが,その歴史はおそらく300年ほどしかないということになる.何とも驚きの事実だ.

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2020-04-06 Mon

#3997. cluster の語誌 [semantic_change][etymology]

 新型コロナウィルス禍でキーワードとなっている集団感染を意味する「クラスター」.河野太郎防衛相が3月24日にこちらのツイートで,関連表現のカタカナ語使用に疑問を投げかけていた.
 この語について語源を調べてみた.この語はゲルマン系の本来語ではなさそうな気がすると思っていたのだが,歴とした本来語だった.clay (粘土),cleat (滑り止め), clout (当て布), clot (粘土などの塊)などとも語源的に関係し,「粘土のようなべたつくもの」を原義とする印欧祖語の語根にさかのぼるという.
 OED の cluster, n によると,古英語での初出の語義は「ブドウの房」である.ラテン語 botrum の訳語として使われている.最初期からの3例を挙げよう.

a800 Corpus Gloss. 318 (O.E.T. 45) Botrum, clystri.
c1000 in T. Wright & R. P. Wülcker Anglo-Saxon & Old Eng. Vocab. (1884) I. 139/7 Bacido, botrus, clyster.
c1000 Ælfric Deut.'' xxxii. 32 [sic]Ðæt biteroste clyster.


 その後,中英語から近代英語にかけて,対象がブドウに限らず他の果物の房に広がり,他の植物や卵などにも拡大した.さらに,動物,人間,星,物,そして抽象物にも拡張された.このような指示対象の拡大は,語の意味変化ではよくみられるパターンである.今や群れや集団であれば何でも使えてしまうといえばそうなのだが,典型的な共起表現というものはある.a cluster of cottages, a small cluster of people, a cluster of stars, clusters of grapes, flower cluster などである(「群れ」の表現については「#1868. 英語の様々な「群れ」」 ([2014-06-08-1]) と「#1894. 英語の様々な「群れ」,日本語の様々な「雨」」 ([2014-07-04-1]) を参照).
 言語学では,子音連鎖について consonant cluster のように使う (cf. 「#3960. 子音群前位置短化の事例」 ([2020-02-29-1])) .そして今回のウィルス禍のような病気の症例についての語義は,1910年に初出している.OED よりその初例を含めて例文を4つ挙げておこう.

Medicine. A number of cases of the same (usually uncommon) disease grouped closely together with regard to time or place (or both).

   1910 Rep. Microbiol. Lab. 1909 (New S. Wales Govt. Bureau of Microbiol.) ii. 51 A cluster of cases of apparently fly-borne typhoid occurred round the house.
   1943 Lancet 7 Aug. 170/2 The measures necessary to combat an outbreak of cholera include..tracing each case or cluster of cases to its source.
   1968 Fresno (Calif.) Bee 4 Aug. a12/7 Cancer clusters occur only now and then.
   2009 N.Y. Times (National ed.) 30 Apr. a14/3 Each time a [bird flu] cluster appears, the public health authorities try to cull all the local poultry, vaccinate birds in a large ring around that, and drop the 'Tamiflu blanket' on people-dosing everyone in the area.


 最後の例文は11年前の「鳥インフルエンザ」に関するものだが,今回のウィルス禍で新たに無数の例文が生まれてしまうことになる.一気に頻度も高まっていることだろう.残念ながら日本語の「クラスター」も然り.

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2019-12-29 Sun

#3898. danger, dangerous の意味変化 [semantic_change][french][loan_word][loan_translation][etymology]

 英単語 danger (危険)は,古仏語で「支配(力)」を意味した dangier, dongier を借用したものだが,これ自体は同義の俗ラテン語 *dominiāriu(m) にさかのぼるとされる.さらには同義のラテン語の dominium に,そして dominus (主人,神)にまでさかのぼる.もう一歩さかのぼると,語源素は domus (家,ドーム)という基本語である.全体としていえば,「家の主人」→「支配(力)」→「危険」のように意味変化を遂げてきたことになる.
 英語での danger の初出は,初期中英語期,1200年頃の修道女マニュアル Ancrene Riwle であり,そこでは「支配(力),傲慢」の意味で用いられている.古いイディオム to be in danger of は「〜の支配下で」を意味した(cf. 古仏語の estre en dangier "to be in the power, at the mercy, of someone").一方,現代風の「危険」という発展的語義が確認されるのは,後期中英語期,1378年頃の Piers Plowman からである.
 形容詞 dangerous のたどった経緯も,名詞 danger とほぼパラレルである.英語での初出はやはり Ancrene Riwle であり,支配者にありがちな性格として「扱いにくい,傲慢な」を意味した.それが,中英語末期にかけて現代的な「危険な」の意味を発達させている.名詞にせよ形容詞にせよ,古仏語から英語に借用された当初は「支配(力)」を意味していたものが,中英語期の間にいかにして「危険」の意味を発展させたのだろうか.
 シップリー (198--99) によれば dangerous の語源と意味変化の経緯は次の通りである.

 タンジュローズ (Dangerose) という名の魅力的な貴婦人が,かつてパリ北西郊外の都市アニエールの領主ダマーズ (Damase) にしつこく言い寄られて不倫を犯した.二人はル・マン (Mans) のティグ (Thigh) という名の第37代大司教の破門にもかかわらず同棲した.ある日,この領主が川を渡っていると,激しい嵐が起こった.稲妻に打たれ,水に飲まれ半焼死・半溺死の状態で地獄に落ちた.ダンジュローズは嘆き悲しんで大司教の足元に身を投げて許しを請い,その後,厳しい隠遁生活をおくった.しかし,彼女の話は広く伝わってしまった.それでフランス人は危機に瀕すると,"Ceci sent la Dangerose." (ダンジュローズのようだ)と言った.フランス語 dangereux, dangereuse (危険な)が派生したとされる.
 この訓戒話は,danger (危険)の一般的に認められている語源説と比べると信憑性に欠ける.danger は,dominion (支配権)と同語源で,ラテン語 dominium (支配,所有)から,後期ラテン語 dominarium (支配,権力),古フランス語 dongier (権力,支配)を経て中英語に借入された.in danger of と言えば,当時の意味は「権力や支配権の思いのままにされる」であった.そうすれば今日の「危険」の意味は,領主に対して領民がいかに恐れを抱いていたかを示している.権力者はまさに被支配者に「危険」をもたらすものだった.


 引用の第1段落は,シップリーの好みそうな民間語源 (folk_etymology) 的な逸話として横においておくとして,第2段落で述べられている意味の展開が実に興味深い.権力者の「支配(力)」は,すなわち庶民にとっての「危険」であるということだ.権力のある支配者は得てして「気位が高い」し「扱いにくい」ものである.度が過ぎれば,下で仕える者にとって「危険な」存在となるだろう.この語の意味変化は,いつの世でも支配・権力とは危険なものだということを思い起こさせてくれる.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

Referrer (Inside): [2019-12-30-1]

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2019-10-15 Tue

#3823. show の元来の意味は「見せる」ではなく「見る」 [verb][semantic_change][causative][passive][voice]

 現在 show の中心的な語義は「見せる,示す」だが,古英語では基本的に「見る」 を意味した.Hall の古英語辞書で ±scēawian をみると,"look, gaze, see, behold, observe; inspect, examine, scrutinize; have respect to,look favourably on; look out, look for, choose; decree, grant" などの訳語が与えられている.最後の "decree, grant" には現代風の語義の気味も感じられるが,古英語の主たる意味は「見る」だった.
 それが,中英語にかけて「見える」や「見せる」など,受動的な語義 (passive) や使役的な語義 (causative) が発展してきた.「見せる人」「見る人」「見られる物」という,この動詞の意味に関わる参与者 (participants) 3者とその態 (voice) を取り巻く語義変化とみることができるが,なぜそのように発展することになったのかはよく分かっていない.語根は印欧祖語にさかのぼり,ゲルマン諸語でもすべて「見る」を意味してきたので,英語での発展は独自のものである.OEDshow, v. に,この件について解説がある.

In all the continental West Germanic languages the verb has the meaning 'to look at' (compare sense 1), and the complex sense development shown in English, in particular the development of the causative sense 'to cause to be seen' (which may be considered the core meaning of all the later sense branches), is unparalleled. Evidence for this development in Old English is comparatively late (none of the later sense branches is attested before the first half of the 12th cent.); however, similar uses are attested earlier (albeit rarely) for the Old English prefixed form gescēawian, especially in the phrase āre gescēawian to show respect or favour (compare quot. OE at sense 26a(a)), but also in senses 'to present, exhibit' (one isolated and disputed attestation; compare sense 3a) and 'to grant, award' (compare sense 18). The details of the semantic development are not entirely clear; perhaps from 'to look at' to 'to cause to be looked at or seen' (compare branch II.), 'to present, exhibit, display' (compare branches II. and IV.), 'to make known formally', 'to grant, award' (compare branch III.), although all of the latter senses could alternatively show a development via sense 2 ('to look for, seek out, to choose, select'). Compare also quot. OE at showing n. 2a, but it is uncertain whether this can be taken as implying earlier currency of sense 24.


 引用にもある通り,古英語にも「見せる;与える」の例は皆無ではない.OED からいくつか拾ってみると,次の如くである.

 ・ [OE Genesis A (1931) 1581 Þær he freondlice on his agenum fæder are ne wolde gesceawian.]
 ・ lOE Extracts from Gospels: John (Vesp. D.xiv) xiv. 9 in R. D.-N. Warner Early Eng. Homilies (1917) 77 Se mann þe me gesicð, he gesicð eac minne Fæder. Hwu segst þu, Sceawe us þone Fæder?
 ・ lOE Anglo-Saxon Chron. (Laud) anno 1048 Þa..sceawede him mann v nihta grið ut of lande to farenne.


 中英語になると,MEDsheuen v.(1) が示す通り,元来の「見る」の語義も残しつつ「見せる」の語義も広がってくる.初期中英語から例は挙がってくるようだ.
 非常に重要な動詞なだけに,意味変化の原因が知りたいところである.ちなみに,show は,意味だけでなくスペリング,発音,活用についても歴史的に興味深い変化を経てきた動詞だ.以下の記事を参照.

 ・ 「#1415. shewshow (1)」 ([2013-03-12-1])
 ・ 「#1416. shewshow (2)」 ([2013-03-13-1])
 ・ 「#1716. shewshow (3)」 ([2014-01-07-1])
 ・ 「#1806. ARCHER で shewshow」 ([2014-04-07-1])
 ・ 「#1727. /ju:/ の起源」 ([2014-01-18-1])
 ・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])

 ・ Hall, John R. C. A Concise Anglo-Saxon Dictionary. Rev. ed. by Herbert T. Merritt. Toronto: U of Toronto P, 1996. 1896.

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2019-09-15 Sun

#3793. 注意すべきカタカナ語・和製英語の一覧 [waseieigo][japanese][katakana][borrowing][semantic_change][word_formation][lexicology][false_friend]

 和製英語の話題については「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1]) を始めとして (waseieigo) の各記事で取り上げてきた.英語史上も「英製羅語」「英製仏語」「英製希語」などが確認されており,「和製英語」は決して日本語のみのローカルな話しではない.ひとかたならぬ語彙借用の歴史をたどってきた言語には,しばしば見られる現象である.
 すでに先の記事で和製英語の一覧を示したが,小学館の『英語便利辞典』に別途「注意すべきカタカナ語・和製英語」 (pp. 450--53) と題する該当語一覧があったので,それを再現しておこう.日本語としてもやや古いもの(というよりも死語?)が少なくないような・・・.

アース(米)ground; (英)earth
アットマークat sign
アドバルインadvertising balloon
アニメanimation
アパート(米)apartment house; (英)block of flats
アフターサービスafter-sales service
アルミホイルtinfoil; aluminum foil
アンカーanchor(man/woman)
アンプamplifier
イージーオーダーsemi-tailored
イエスマンyes-man
イメチェン(イメージチェンジ)makeover
イラストillustration
インクエットプリンターink-jet printer
インターホンintercom
インフォマーシャル(情報コマーシャル)info(r)mercial
インフラinfrastructure
ウィンカー(米)turn signal; (英)indicator
ウーマンリブwomen's liberation
エアコンair conditioner
エキスextract
エネルギッシュなenergetic
エンゲージリングengagement ring
エンジンキーignition key
エンストengine stall; engine failure
エンタメentertainment
オーダーメードcustom-made; tailor-made; made to order
オートバイmotorcycle
オープンカーconvertible
オールラウンドの(網羅的)(米)all-around; (英)all-round
オキシフルhydrogen peroxide
送りバントsacrifice bunt
ガーター(米)suspender; (英)garter
ガードマン(security) guard
カーナビcar navigation system
(カー)レーサーracing driver
ガソリンスタンド(米)gas station; (英)petrol station
カタログ(米)catalog; (英)catalogue
ガッツボーズvictory pose
カメラマン(写真家)photographer
カメラマン(映画などの)cameraman
カンニングcheating
缶ビールcanned beer
キータッチkeyboarding
キーホルダーkey chain; key ring
キスマークhickey; kiss mark
ギフトカード(ギフト券)gift certificate
キャスター(総合司会者)newscaster
キャッチボールをするplay catch
キャッチホンtelephone with call waiting
クーラー(冷房装置)air conditioner
クラクション(car) horn
クリスマス (X'mas)Xmas; Christmas
ゲームセンター(米)(penny) arcade; amusement arcade
コインロッカーcoin-operated locker
ゴーカートgo-kart
コークハイcoke highball
ゴーグルgoggle
ゴーサインall-clear; green light
ゴーストップtraffic signal
コーヒーsたんどcoffee bar
コーポラスcondominium
ゴールデンアワーprime time
コールドマーマcold wave
ゴムバンドrubber band; (英)elastic band
ゴロ(野球)grounder
コンセント(米)(electrical) outlet; (英)(wall) socket
コンパparty; get-together
コンパニオン(案内係)escort; guide
コンビcombination
コンビニconvenience store
サイダーsoda
サイドビジネス(アルバイト)sideline
サイドミラー(米)side(view) mirror; (英)wing mirror, door mirror
サイン(署名)signature
サイン(有名人などの)autograph
サントラsound track
シーズンオフoff season
ジーバンjeans
ジェットコースターroller coaster
シスアドsystem administrator
システムキッチンbuilt-in kitchen unit
シャー(プ)ペン(米)mechanical pencil; (英)propelling pencil
ジャージjersey
シュークリームcream puff
シルバー(お年寄り)senior citizen
シルバーシートpriority seat
シンパ(支持者)sympathizer
スカッシュsquash
スキンシップphysical contact
スタンドプレーgrandstand play
ステッキ(walking) stick
ステン(レス)stainless steel
ストーブheater
スパイクタイヤ(米)studded tire; (英)studded tyre
スピードダウンslowdown
スピードメーターspeedometer
スペルミスspelling error; misspelling
スマートなstylish; dashing
スリッパmules; scuffs
セーフティーバントdrag bunt
セクハラsexual harassment
セレブceleb(rity)
セロテープadhesive tape; Scotch tape
ソフト(コンピュータ)software
タイプミスtypo; typographical error
タイムリミットdeadline
タイムレコーダーtime clock
タキシード(米)dinner suit; (英)tuxedo
タレントpersonality; star
ダンプカー(米)dump truck; (英)dumper truck
チャックfastener; (米)zipper; (英)zip (fastener)
チョーク(車の)choke
テーブルスピーチafter-dinner speech
テールランプ(米)tail light; (英)tail lamp
デジカメdigital camera
デモ(示威運動)demonstration
テレホンサービスtelephone information service
電子レンジmicrowave oven
ドアボーイdoorman
ドクターヘリmedi-copter
ドットプリンターdot matrix printer
トップバッターlead-off batter; lead-off man
トランク(車の)(米)trunk; (英)boot
トランプ(playing) card
トレパン(米)sweat pants; (英)track-suit trousers
ナイターnight game
ナンバープレート(米)license plate; (英)number plate
ニュースキャスターanchor(man/woman)
ニューフェースnewcomer
ネームBリューrecognition value
ネガnegative
ノースリーブ(の)sleeveless
ノート(帳面)notebook
ノルマquota
ノンステップバスkneeling bus
バイキングbuffet; buffet-style dinner; smorgasbord
バイクmotorcycle; motorbike
ハイティーンlate teens
ハイテクhigh tech(nology)
ハイビジョンhigh-definition TV system
ハウスマヌカンsales clerk
バスローブ(米)bathrobe; (英)dressing gown
パソコンpersonal computer
バックアップ(支援)backing; support
バックネットbackstop
バックマージンkickback
バックミュージックbackground music
バックミラーrear-view mirror
バックライト(米)backup light; (英)reversing light
バッターボックスbatter's box
ハッピーエンドhappy ending
パネラーpanelist
バリカンhair clippers
ハローワーク(米)employment agency; employment bureau
パンク(米)flat tire; (英)puncture
ハンストhunger strike
パンスト(米)pantyhose; (英)tights
ハンドマイク(米)bullhorn; (英)loudhailer
ハンドル(車の)steering wheel
ピーマンgreen pepper
ピッチ(速度)pace
ビニール袋plastic bag
ビラflyer; flier
ビル(建物)building
フォアボールbase on balls
プッシュホンpush-button phone; touch-tone phone
ブラインドタッチtouch typing
プラモデルplastic model
ブランド物brand-name goods
フリーサイズone size fits all
フリーターjob-hopping part-timer worker
フリーダイヤル(米)toll-free; (英)freephone; freefone
プリンpudding
プレイガイドticket agency
ブレーキランプbrake light
ブレスレットbracelet
プレゼンpresentation
フレックスタイムflexible working hours; flextime; flexible time
プレハブprefabricated house
ブロックサイン(野球)block signal
プロレスprofessional wrestling
フロント(米)front desk; (英)reception
フロントガラス(米)windsheeld; (英)windscreen
ペイオフdeposit insurance cap; deposit payoff
ベースアップ(米)(pay) raise; (英)(pay) rise
ペーパーテストwritten test
ペーパードライバーdriver in name only; driver on paper only
ベッドシーンbedroom scene
ベッドタウンbedroom suburb
ペットボトルplastic bottle; PET(ピーイーティー)bottle
ヘッドライト(米)headlight; (英)headlamp
ベテランexpert
ベビーカー(米)stroller; (英)pushchair
ベビーベッドbaby crib
ヘルスメーターbathroom scales
ペンションresort inn
ホイールキャップhub cap
ボーイ(ホテルなどの)page; bellboy; bellhop
ホーム(駅の)platform
ホームドクターfamily doctor
ホームヘルパー(米)caregiver; (英)carer
ボールペン(米)ball-point pen; (英)biro
ポジpositive
ホッチキスstapler
ボディーチェックbody search
ホテルマンhotel employee
ボンネット(米)hood; (英)bonnet
マークシートcomputerized answer sheet
マイカーowned car; private car
マグカップmug
マザコンmother complex
マジックインキmarker, marking pen, felt-tip (pen)
マスコミmass communication(s), (mass) media,
マルチ商法(ねずみ講式)pyramid selling
マンションcondominium
ミシンsewing machine
ミスタイプtype; typographical error
ミルクティーtea with milk
メーター(機器)(米)(英)とも meter
メートル(距離)(米)meter; (英)metre
メロドラマsoap opera
モーニングコールwake-up call
モーニングサービスbreakfast special
ユビキタスubiquitous
ラケット(ピンポンの)(米)paddle; (英)bat
ラフな(スタイル)casual; informal
リハビリrehabilitation
リビングキッチンliving room with a kitchenette
リフォームする(家など)remodel
リムジンバスlimousine
リモコンremote control
レトルトretort
レモンティーtea with lemon
ローティーンearly teens
ワープロword processor
ワイシャツ(dress) shirt
ワイドショーvariety program
ワンボックスカーvan
ワンマンautocrat
ワンルームマンションstudio apartment; one-room apartment


 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

Referrer (Inside): [2019-11-19-1]

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2019-08-01 Thu

#3748. 不定詞マーカー atado 「騒動」 [infinitive][preposition][old_norse][etymology][shakespeare][semantic_change][lalme][map]

 「#3741. 中英語の不定詞マーカー forto」 ([2019-07-25-1]) で触れたように,中英語には toforto などと並んで,不定詞マーカーとして at という語も稀に用いられた.この語は馴染みのある前置詞 at とは別物で,古ノルド語の不定詞マーカー at を借用したものとされる.ただし両形態とも結局のところ語源を一にするので,語の借用というよりは,用法の借用というべき事例かもしれない.OED の at, prep. によると,不定詞マーカーとしての用法について次のように記述がある.

VI. With the infinitive mood.
†39. Introducing the infinitive of purpose (the original function also of to; cf. French rien à faire, nothing to do, nothing at do, nothing ado n. and adj.2). Obsolete exc. dialect.
   Corresponding to Old Norse at (Danish at, Swedish att) in gefa at eta to give one at eat, i.e. to eat; but not, like it, used with the simple infinitive; the nearest approach to which was in the phrase That is at say = French c'est à dire.


 MEDat adv. with infinitive を参照すると,at do, at ete, at kep, at sai のような決まった動詞とともに用いられる傾向があるという.MED より最初期の例をいくつか挙げておこう.

 ・ c1280 Chart.in Birch Cart.Sax.2.326: Yat ye land of seint Wilfrai..fre sal be ay; At na nan..In yair Herpsac sal have at do.
 ・ c1300 Horn (LdMisc 108)906: Þe hondes gonnen at erne [Hrl: to fleon] In to þe schypes sterne.
 ・ c1330(?a1300) Tristrem (Auch)543: Ynouȝ þai hadde at ete.
 ・ c1330(?c1300) Guy(1) (Auch)2495: Þat he cum wiþ þe at ete.
 ・ (1399) RParl.3.451a: The Answers of certeins Lordes, that is atte saye, of the forsayd Ducs of Aumarle [etc.].


 古ノルド語の用法に由来するということから察せられるように,不定詞マーカー at は北部方言によくみられた.eLALME の Item 81 として取り上げられており,以下の Dot Map が得られる.明確に北部的な分布だ.

eLALME Dot Map for AT

 ちなみに名詞 ado 「騒動;面倒」は at do の約まったものに由来する.シェイクスピアの喜劇 Much Ado About Nothing 『空騒ぎ』は,要するに much to do about nothing ということである.「すべきこと」→「面倒な仕事」→「騒動」ほどの意味の発展を経たと考えられる.初出は以下の通りで,すでに「騒動;衝突」ほどの意味で使われている.

c1380 Firumb.(1) (Ashm 33)5648: Olyuer wyþ a corde bond him fast, Ac arst was muche ado.

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2019-04-14 Sun

#3639. retronym [synonym][retronym][terminology][lexicology][semantic_change]

 昨日4月13日の朝日新聞朝刊の「ことばサプリ」という欄にレトロニムの紹介があった.レトロニムとは「新語と区別するため,呼び名をつけ直された言葉」のことで,たとえば古い「喫茶」に対する新しい「純喫茶」,同じく「服」に対する「和服」,「電話」に対する「固定電話」,「カメラ」に対する「フィルムカメラ」などの例だ.携帯電話がなかったころは電話といえば固定式の電話だけだったわけだが,携帯電話が普及してきたとき,従来の電話は「固定電話」と呼び直されることになった.時計の世界でも,新しく「デジタル時計」が現われたとき,従来の時計は「アナログ時計」と呼ばれることになった.レトロニム (retronym) とは retro- + synonym というつもりの造語だろう,これ自体がなかなかうまい呼称だし,印象に残る術語だ.
 英語にもレトロニムはみられる.例えば,e-mail が現われたことによって,従来の郵便は snail mail と呼ばれることになった.acoustic guitar, manual typewriter, silent movie, landline phone なども,同様に技術革新によって生まれたレトロニムといえる.ほかに whole milk, snow skiing なども.
 コンピュータ関係の世界では,技術の発展が著しいからだろう,周辺でレトロニムがとりわけ多く生まれていることが知られている.plaintext, natural language, impact printer, eyeball search, biological virus など.
 歴史的な例としては,「#734. pandaBritain」 ([2011-05-01-1]),「#772. Magna Carta」 ([2011-06-08-1]) でみたように,lesser panda, Great Britain, Magna Carta などを挙げておこう.これらも一言でいえば「レトロニム」だったわけだ.術語というのは便利なものである.

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2019-03-16 Sat

#3610. 片仮名で表記する「ツボ」 --- 表意性の消去 [katakana][kanji][japanese][grammatology][semantic_change][doublet][homophony]

 昨日の記事「#3609. 『英語教育』の連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」が始まりました」 ([2019-03-15-1]) で新連載について紹介した.連載タイトルに英語史の「ツボ」と入れたが,この「急所,要点,要領」の語義では片仮名で「ツボ」と表記するのが普通であり,あまり「壺」とはしない.これはなぜだろうか.
 沖森ほか (83) に,現代日本語における片仮名の用途が9点挙げられている.それぞれ簡単に要約すると以下の通り.

 (1) 漢語を除く外来語:ライオン,マーガリン,スーツ,テレビなど(ただし近代漢語は外来語とみなされるので,ラーメン,ウーロン茶などもある)
 (2) 擬音語・擬態語:ワンワン,コケコッコー,ニャーなど
 (3) 自然科学の用語:ヨウ素,アザラシ,バラ科など
 (4) 漢文訓読の送り仮名
 (5) 画数の多い語:会ギ(議),ヒンシュク(顰蹙),ビタ(鐚)一文,ヒビ(罅)が入る,ブランコ(鞦韆),ボロ(襤褸)が出るなど
 (6) 流行語,俗語:ヤバイ(ネット上などで,ヤバい,ヤばい,やバイもある)
 (7) 表意性の消去:コツ(骨)をつかむ,ババ(婆)を引く,ヤケ(自棄)になる
 (8) 対話的な宣伝:「ココロとカラダの悩み」「アナタの疑問に答えます」など新鮮な宣伝効果を狙ったもの
 (9) 外国人の話す日本語,ロボットや宇宙人などのことば:「ワタシ,日本人トトモダチニナリタイデス」「地球人ヨ,ヨク聞ケ.ワレワレハ,バルタン星人ダ」など,情緒のない機械性を表わす

 「ツボ」は,「コツ」「ババ」「ヤケ」などが挙げられている (7) の表意性の消去の例に当たるだろうか.これについて,沖森ほか (83) からもう少し詳しい説明を引用すると,次のようになる.

国語辞典を引くと,それぞれ漢字表記があがっているが,実際に目にする表記は片仮名が一般的なものである.これは,「コツをつかむ」の意で「骨」を当てると《人骨》の意味が表に出すぎて差し支えが生じるためであろう.派生義で用いる場合に,その漢字本来の表意性が面に出るとそぐわない場合に片仮名が選ばれたものと思われる.広島を「ヒロシマ」と書くのも,地名の意を消去して,被爆地としての新たな意味を込める用法かと見られる.


 「ツボ」の場合,「壺」と表記することによって容器の意味が表に出すぎて差し支えが生じるとは特に思われないが,少なくとも容器の意味と急所の意味が離れすぎているために違和感が漂うということなのだろう.語義の発展・派生としては,「くぼみ」(滝壺など)から始まり,形状の類似から「(容器としての)壺」や「鍼を打ったり灸をすえる場所」(足ツボなど)が派生し,後者から「狙い所,要点」が発展したと思われる.このように原義と派生義の距離が開いてしまっている語はごまんとあるが,そのなかには表記上の区別をするものがあるということだろう.共時的感覚としては「ツボ」と「壺」は異なる語彙素といってよい.「表意性の消去」とは,この感覚の反映をある観点から表現したものだろう.
 英語からの類例としては「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]),「#2440. flower と flour (2)」 ([2016-01-01-1]) がある.両語は同一語源に遡るが,語義がかなり離れてしまったために,別々の語彙素ととらえられ,異なる表記が用いられるようになった.この問題は,2重語 (doublet) や同音異義 (homophony) の問題とも関わってくるだろう.

 ・ 沖森 卓也・笹原 宏之・常盤 智子・山本 真吾 『図解 日本語の文字』 三省堂,2011年.

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2018-07-19 Thu

#3370. frequent の意味変化 [semantic_change][latin][french][loan_word][cawdrey][johnson]

 frequent (頻繁な,たびたびの)は,文字通り頻繁に用いられる常用語だが,この語義が発生したのは意外と新しく,初例は近代に入ってからの1596年のことだと知った.この語は,ラテン語の動詞 frequentāre (詰め込む)から派生した形容詞 frequēns (混み合った)がフランス語 fréquent を経て,15世紀半ばに英語に入ってきた.当初の語義は,フランス語に倣った「おびただしい,豊富な」であり,「混み合った,多人数の」の語義でも19世紀まで使われた.「混み合った,多人数の」の例としては,Discourse concerninge the Spanish Fleet Invadinge Englande (1590) の18世紀翻訳において,"There was generally made throughout the whole realm a most frequent assembly of all sorts of people." と見える.
 その後,frequent は「ありふれた」ほどの否定的な含意を発達させ,Shakespeare ではさらに "addicted" 「常習的に耽溺している」 ほどの語義で使われている.The Winter's Tale (1611) からの例として,"I have missingly noted he is of late much retired from court, and is less frequent to his princely exercises than formerly he hath appeared".
 さらにその後,否定的な含意を中立化し,現在通用される「常習的な」「頻繁な」の語義を発達させたが,初例は上述のように16世紀終わりである.ただし,1604年の 英語史上初の英語辞書 A Table Alphabeticall の定義では "often, done many times: ordinarie, much haunted, or goe too" とあり,すでに新しい語義が定着していたようである.
 一方,1755年の Johnson の辞書でも,以下のように「混み合った,多人数の」という古い語義もまだ収録されている(とはいっても,そこに例として挙げられていた句 frequent and full は17世紀の Milton からのものではあったが).

1. Often done; often seen; often occurring.
2. Used often to practise any thing.
3. Full of concourse


 当たり前の単語にも,意味変化の歴史が潜んでいるものである."Chaque mot a son histoire." (= "Every word has its own history.") .

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