最近 7 日分を以下に表示中 / 今月の一覧
2026-04-30 Thu
■ #6212. B&C の第63節 "The Benedictine Reform" (5) と (6) --- Taku さんとの超精読会 [bchel][oe][benedictine_reform][christianity][link][voicy][heldio][anglo-saxon][history][helmate]
英語史の古典的名著 Baugh and Cable の第6版の英文を,helwa メンバーとともにゆっくりと超精読していく読書会を半定期的に開催しています.その毎回の読書会の様子を,Voicy heldio の音声メディアを通じて公開するシリーズを継続中です.2023年7月に開始してから3年弱が経ちましたが,第63節まで進んできています.
今朝の heldio にて,シリーズ最新回を配信しています.「#1796. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (63-5) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」です.明朝の heldio では,その続編となる「#1797. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (63-6) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」も配信予定ですので,合わせて2本に連動する形で本記事を公開します.
今回も,heldio/helwa コアリスナーでヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に精読会をリードしていただきました.いつもありがとうございます.数名のギャラリーとともに,いつもながらの深い読みを堪能することができました.
今回の精読対象の英文を以下に掲載します(Baugh and Cable, pp. 83--84) .B&C の第63節の第2段落の最初から,計1時間ほどかけて15文を読み進めました.
But abuses when bad enough have a way of bringing about their own reformation. What is needed generally is an individual with the zeal to lead the way and the ability to set an example that inspires imitation. King Alfred had made a start. Besides restoring churches and founding monasteries, he strove for twenty years to spread education in his kingdom and foster learning. His efforts bore little fruit. But in the latter half of the tenth century, three great religious leaders, imbued with the spirit of reform, arose in the church: Dunstan, archbishop of Canterbury (d. 988), Athelwold, bishop of Winchester (d. 984), and Oswald, bishop of Worcester and archbishop of York (d. 992). With the sympathetic support of King Edgar these men effected a genuine revival of monasticism in England. The true conception of the monastic life was inseparable from the observance of the Benedictine Rule. Almost everywhere in England this had ceased to be adhered to. As the first step in the reform, the secular clergy were turned out of the monasteries and their places filled by monks pledged to the threefold vow of chastity, obedience, and poverty. In their work of restoration the reformers received powerful support from the example of continental monasteries, notably those at Fleury and Ghent. These had recently undergone a similar reformation under the inspiring leadership of Cluny, where in 910 a community had been established on even stricter lines than those originally laid down by St. Benedict. Dunstan had spent some time at the Abbey of Blandinium at Ghent; Oswald had studied the system at Fleury; and Athelwold, although wanting to go himself, had sent a representative to Fleury for the same purpose. On the pattern of these continental houses a number of important monasteries were re-created in England, and Athelwold prepared a version of the Benedictine Rule, known as the Concordia Regularis, to bring about a general uniformity in their organization and observances. The effort toward reform extended to other divisions of the church, indeed to a general reformation of morals, and brought about something like a religious revival in the island.
このB&C読書会の過去回については,すべてアーカイヴからアクセスできます.各回へのリンクは「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.ご関心のある方は,ぜひ本書を入手して,この精読会の配信回をお聴きいただければ.また,精読会に対面・オンラインで直接参加されたい方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」にお入りください.

・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
2026-04-29 Wed
■ #6211. 寺澤盾先生が PIVOT TALK に出演して【世界の英語と日本人】をお話しされています [pivot][youtube][world_englishes][notice][model_of_englishes][variety][standardisation][lingua_franca][ai][sociolinguistics][notice]
4月25日(土),PIVOT TALK にて「【世界の英語と日本人】英語の始まりは5世紀半ば/20億人超まで広がった理由/英語は語彙が多い/英語が分裂していくシナリオ/標準化の挫折/AI時代にも英語学習は必要か?/10年後の英語と日本人」と題する YouTube 動画が配信されました.英語史研究者の寺澤盾先生(青山学院大学教授,東京大学名誉教授)がゲストとしてお話しされている,50分ほどの貴重な対談です.
お話しの内容は,1ヶ月ほど前に寺澤先生が中公新書として上梓された『世界の英語 --- 5大陸に広がる多様な Englishes』を紹介しつつ,日本の英語学習者の皆が尋ねたくなる質問群に,英語史や世界英語 (world_englishes) の観点から答えられています.
動画の内容は多岐にわたりますが,とりわけ重要なトピックをいくつかご紹介しましょう.
まず,英語がなぜこれほどまでに拡大したのかという問いに対し,寺澤先生は「言語的な特徴によるものではなく,あくまで社会的・歴史的な要因である」と明快に答えられています.5世紀半ばには数十万人規模のマイナー言語に過ぎなかった英語が,1600年頃(シェイクスピアの時代)には600万人,そして現代では20億人を超える話者を抱えるに至った背景には,大英帝国の覇権と,それに続く米国の台頭というパワーの基盤があったという指摘です.
また,現代の英語の状況を Kachru の「同心円モデル」を用いて解説し,非母語話者が母語話者を圧倒的に上回る(約8割が非母語話者!)という現状を浮き彫りにしています.これにより英語はもはや母語話者の独占物ではなくなっている,というパラダイム・シフトに言及されています.
英語をめぐる今後の展望についても刺激的なお話しがありました.英語が各地で独自に進化し分裂していく「遠心力」と,共通語 (lingua_franca) として標準化・簡略化を目指す「求心力」のせめぎ合いについて触れ,さらにはAI同時通訳の発展が英語の地位をどう変えるかという点にも踏み込んでいます.
最後に,日本人が英語とどう向き合うべきかという議論では,話し言葉に関しては特定のネイティブ英語に固執するのではなく,多様な複数形の Englishes を許容する姿勢の大切さを説いています.一方で書き言葉においては依然として標準的な文法や綴字の知識が信頼の指標となるという,現実的でバランスの取れた視点を提供してくれています.
今回の寺澤先生のご出演は,世界英語という現代的な話題も視野に収めた英語史という学問が単なる過去の記録ではなく,現代社会を読み解き,私たちの未来の指針を示すための生きた知恵であることを改めて実感させてくれるものです.50分という動画の時間は一見長く感じられるかもしれませんが,寺澤先生の落ち着いた,かつ情熱的な語り口に引き込まれ,あっという間に過ぎてしまうはずです.
そして,この動画で興味を持たれた方は,ぜひ中公新書より刊行されたばかりの『世界の英語』を手に取ってみてください.寺澤先生による『英語の歴史』,『英単語の歴史』に続く3部作の3番目となる本書は,世界各地で変容し続ける英語のダイナミズムを網羅的に描き出した決定版です.動画と合わせて読むことで,英語という言語がもつ4次元的な広がりが,より鮮明に見えてくることでしょう.hellog 読者の皆さんにも強くお薦めしたい1冊です.
・ 寺澤 盾 『世界の英語 --- 5大陸に広がる多様な Englishes』 中央公論新社〈中公新書〉,2026年.
2026-04-28 Tue
■ #6210. 旅する英語史「旅hel」の動画シリーズが始まりました --- 第1回はアバディーン編 [tabihel][hel_education][youtube][helwa][heldio][helkatsu][notice][old_norse][scottish_english][scots]
新年度の私の「hel活」 (helkatsu) の新機軸として,「旅する英語史 旅hel」 (tabihel) という動画シリーズを立ち上げました.目下,私はスコットランドのアバディーンに滞在しているのですが,旅をし街歩きをしながら英語史に関係する話題を見つけ,ビデオカメラで撮影しつつ,自由にお話ししていこうという Vlog シリーズです.
シリーズ第1弾は,4月13日に半日をかけて撮影した「アバディーン編」です.こちらは一般公開はしておらず,Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」にお入りいただいているメンバーへの限定公開となっております.helwa メンバーの方は,4月16日配信の「【英語史の輪 #0433】旅する英語史「旅hel」アバディーン編をご視聴ください」を経由して,本編動画への URL にアクセスできます.
今回の動画の舞台は,スコットランド第3の都市 Aberdeen です.「花崗岩の街」 (Granite City) としても知られる美しい街並みを歩きながら,いくつかの英語史ポイントを拾い上げました.
例えば,Upperkirkgate という通りの名前です.この gate は,現代英語の「門」ではなく,北イングランドやスコットランドで「道,通り」を意味する古ノルド語に由来すると考えられます.南部の way や street に相当するもので,まさに北部的な語といえます.実は kirk ももう1つの北部ポイントです.
また,町の北を流れるドン川に架かる歴史的な橋 Brig o'Don にも訪れています.ここで注目したいのは橋を意味する brig という語形です.標準的な bridge の最後の子音が -dg- /dʒ/ ではなく -g /g/ となっているのは,やはり古ノルド語の影響を強く受けた北部方言の特徴を色濃く残している証拠です.
動画内では他にも,1593年創立の歴史ある Marischal College を眺めたり,最後には銀行の建物を改装したパブでエールを楽しんだりと,37分にわたる盛りだくさんの内容になっています.Osmo Pocket 3 という小型ビデオカメラを手に,慣れない動画編集に苦戦しながらも,楽しく英語史の視点から街の魅力を切り取ってみました.
この「旅hel」シリーズの立ち上げについては,一昨日の heldio でも「#1792. 旅する英語史「旅hel」アバディーン編の動画を helwa 経由で配信しています」としてお話ししましたが,そこではダイジェスト版となる5分ほどの「音声」もお聴きいただけます.本編動画の雰囲気を味わうことができるかと思います.
本編動画にご関心のある方は,ぜひプレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」にお越しください.helwa は初月無料となっておりますので,ぜひ4月分にお入りいただき,試し聴きしつつ,特に4月16日配信の「【英語史の輪 #0433】旅する英語史「旅hel」アバディーン編をご視聴ください」を経由して動画にアクセスしていただければ.
2026-04-27 Mon
■ #6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』 [notice][kenkyusha][review][hee][etymology][vocabulary][latin][greek][renaissance][heldio][combining_form][latin][greek][word_formation][lexicology][scientific_english][neologism]
4月23日に,研究社より英単語の語源に関する書籍が同時に2冊発売されました.研究社からは,昨年6月に,いまもご好評いただいている『英語語源ハンドブック』が出ていますので,この1年の間に3冊も「英語語源本」が上梓されたことになります.英語語源が活況を呈しているといってよいでしょう.
新しく刊行されたのは次の2冊です.いずれも公式ページから「試し読み」できます.
・ 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』(試し読みあり)
・ 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』(試し読みあり)
以下,各々について簡単にご紹介します.

まずは池田和夫氏による『語根で覚えるコンパスローズ英単語〈新装版〉』です.本書は2019年に刊行され好評を博した旧版の装いを新たにしたもので,その名の通り「語根」にフォーカスした単語集です.ベースとなっているのは同社の『コンパスローズ英和辞典』の語源コラムですが,本書ではそこに200以上の項目が大幅に加筆されており,計300の「(最)重要語根」が網羅されています.
特筆すべきは,語彙学習における語源の実用性を数値で示している点です.1001語レベル以上の単語の7割以上は語源知識が役立つとされており,とりわけ中上級者にとってのボキャビルには語根学習が極めて有効であることが強調されています.音声ダウンロードサービスや,お馴染みの「赤シート」も完備されており,受験対策から一般の学び直しまで幅広く対応する,まさに語源学習の完成版といえる一冊です.

続いて,木下晃吉氏(監修),野中泉氏・森田勝之氏(編著)による『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』です.一見すると専門的な医学徒向けの書に見えますが,英語史の観点からも興味深い一冊です.医学英単語は,ルネサンス期以降に大量に流入してきたラテン語・ギリシア語の要素の宝庫であり,いわば「連結形」 (combining_form) の見本市のような世界だからです.
本書の構成は言語学の観点からも医学の観点からも論理的です.「接頭辞+語根+接尾辞」というパーツ分解の解説に始まり,後半では「Body System 別」(脳神経,呼吸器など)」に語彙が整理されています.専門用語が多用される実用的で長めの例文も付されており,音声ダウンロードを活用することで,難解な合成語のアクセントも効率的に習得できるよう工夫されています.付録の「処方箋用語」などは,医学の門外漢の私にとっては,新鮮な切り口でした.また,編著者の目線に立ち,医学語彙を導入する複数の切り口を,本のなかにいかに配置していくかという問題について考えてみたのも,おもしろい体験となりました.医学については何も分からない私ですが,情報量の多い,密度の高い医学英単語ハンドブックであることは確認できました.
以上,2冊を簡単にご紹介しました.4月24日には,heldio でも「#1790. 研究社より2冊の英語語源本が出ました --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』」と題する配信回でお話ししていますので,そちらも合わせてお聴きいただければ幸いです.また,とりわけ『医学英単語ハンドブック』については,近々に本書をめぐる対談も heldio 配信を予定していますので,ぜひご期待ください.
そして,『英語語源ハンドブック』もお忘れなく!
・ 池田 和夫 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』 研究社,2026年.
・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
2026-04-26 Sun
■ #6208. Doric が英語の文脈で Scottish 訛りにになるのはおもしろい [hellenic][greek][koine][scottish_english][scots][dialect][variety][oed]
英語には Doric という,ギリシア語の Doris (ドーリス地方)に基づく形容詞がある.「ドーリス地方の,ドーリス語の;ドーリス方言」などを原義とする.しかし,Doric には,派生義として「方言の,田舎訛りの;(とりわけ)スコットランド訛りの」もある.スコットランド訛りの英語が Doric と形容されることがあるのだ.さらに細かくいえば,特にスコットランド北東部の方言,Aberdeen の方言などが,典型的に Doric だとされる.この背景には,どんな事情があるのだろうか.
「#1454. ギリシャ語派(印欧語族)」 ([2013-04-20-1]) で触れたように,古代ギリシアの言語の歴史を振り返ると,様々なギリシア語の方言が各地で,そして各ジャンルで用いられていたが,アテネを中心に行なわれ,学術・文学の担い手の言葉となった Attic 方言こそが,後にギリシアのみならずヘレニズム世界へ koiné として広がっていった経緯がある.ここから Doric を含むその他の方言は,社会言語学的に,下位にみなされるようになった.
こうして Doric に宿ることになった「田舎訛り」の語義が,ギリシア語方言に限らず,より一般的に用いられるようになった.そこから今度は英語方言の文脈に特化して,とりわけ「スコットランド訛り」の語義を帯びるようになったのは興味深い.
OED の Doric (ADJECTIVE & NOUN) によると,ギリシア語のドーリス方言を指す名詞用法の派生義として,今では廃義となっているが,近代に使われていものがある.
1.b. † Speech or writing likened to the Doric dialect of ancient Greek for its apparent simplistic, unrefined, antiquated, or rustic character. Obsolete. 1657-1888
このように,ある方言を軽蔑的にみなす名詞・形容詞としての用法が17世紀前半から見られるが,これが英語方言の文脈で「スコットランド訛り」を指すようになったのは,19世紀に入ってからである.まず,「スコットランド訛りの」を意味する形容詞としての用法を覗いてみよう.
1.c. Of or relating to Scots, a variety of English used in (esp. lowland) Scotland (see Scots n. B.1), esp. when regarded as rural or working-class; (now usually) spec. of or relating to the variety of Scots spoken in the north-east of Scotland, esp. Aberdeenshire. 1809-
1809 Were she to stay much in the country, she would acquire some knowledge of our Doric dialect which (I mean in books) is too much neglected by a fastidious generation. (J. Ramsay, Letter 28 September (1966) 263)
1840 The Scottish dialect of low life as first employed in novels by Sir Walter Scott:..it furnished the benefit of a Doric dialect. (T. De Quincey, Style: No. II in Blackwood's Edinburgh Magazine September 398/1)
1933 She has no difficulty in carrying on a conversation, frequently utilising Doric words and phrases. (Scotsman 14 September 10/6)
1993 The North East Scotland Heritage Trust, formed last year to promote the Doric language and culture, is facing an uncertain financial future. (Scotsman 6 April 5)
2023 Flora Garry, one of the most important Doric writers of the 20th Century. (Press & Journal (Aberdeen) (Nexis) 13 September 7)
次に「スコットランド訛り」を意味する名詞としての用法についても,解説と例文を挙げよう.
1.c. Scots (see Scots n. B.1), esp. when regarded as rural or working-class; (now usually) spec. the variety of Scots spoken in the north-east of Scotland, esp. Aberdeenshire. 1832-
1832 He returned thanks in the Doric of his native hills. (Gentleman's Magazine February 159/1)
1870 'My Lord,' commenced John, in his purest Doric..'I wad hae thocht naething o't.' (E. B. Ramsay, Reminiscences of Scottish Life v. 127)
1872 The good doctor dropped into the broadest Doric. (C. Gibbon, For the King vol. I. iii. 22)
1933 He fell readily into the Doric,..using it pithily and with humour. (N. Shepherd, Pass in Grampians iii. 15 in Grampian Quartet (2001))
1966 As one, who has for years fought for the proper recognition of our North-east dialect, the Doric, I welcomed the gesture of the latest report on the problem. (Aberdeen Evening Express 7 September)
2023 A book written and published in Doric by pupils from an Aberdeenshire school has been nominated for this year's Scots Language Awards. (Aberdeen Evening Express (Nexis) 5 September 3)
目下 Aberdeen に滞在しているが,Doric という語を目にしたり耳にしたりする機会がたまにある.
関連して「#5505. 古代ギリシアの方言観」 ([2024-05-23-1]),「#2752. dialect という用語について」 ([2016-11-08-1]) の記事も参照.
2026-04-25 Sat
■ #6207. 英語における Scots 「スコッツ語」の初例 [scots][variety][oed]
Socts は「スコットランド英語」や「スコットランド語」と訳されることもあるが,ともすれば前者は "Scottish (standard) English" の訳語となり得るし,後者は "Scottish Gaelic" の訳語となり得る.誤解のないように独自の名前を与えたいのだが,そうするとそのまま音を借りて「スコッツ語」が無難ということになる.複雑な歴史が関わってくるために,そもそもこれらの言語(変種)が互いに異なることは,必ずしも広く知られているとはいえない(cf. 「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1])).
Scots という英単語が,スコットランドの主に低地地方において千年以上にわたって独自の発展を遂げてきた英語変種を指すものとして用いられるようになったのは,OED の説明によると15世紀末のことである.Scots (ADJECTIVE & NOUN) における名詞としての語義解説といくつかの最初例を挙げよう.
1. A variety of English used in (esp. lowland) Scotland; the variety of this used in parts of the north of Ireland. Frequently also viewed as a distinct language. 1494-
Scots developed from the early northern Middle English that supplanted a Brittonic language in the south of Scotland, and had by the Stuart era spread throughout the nation and taken the place of Latin as the language of record. During the Plantation of Ulster of the 17th cent. it was introduced by Scottish settlers to the north of Ireland, where it survives as Ulster Scots (Ulster Scots n.). From the mid 16th cent. onwards, Scots has become progressively more anglicized.
1494 The figuris of armes [etc.]..translatit owt of Fraynche in Scottis. (Loutfut Manuscript f. 78, in Dictionary of Older Scottish Tongue at Scottis)
a1522 So me behufyt quhilum..Sum bastard Latyn, French or Inglys oyss Quhar scant was Scottis. (G. Douglas in translation of Virgil, Æneid (1957) i. Prologue 118)
1542 It salbe lefull to all or souirane ladyis lieges to haif þe haly write bait þe new testament and þe auld in þe vulgar toung In Inglis or scottis of ane gude and trew translatioune. (Scottish Acts Mary (1814) vol. II. 415/1)
形容詞としての用法も16世紀から始まっている.
3. Designating a variety of English used in Scotland (see sense B.1), or literary compositions, speeches, etc., written or spoken in it; (of words, idioms, grammar, etc.) characteristic of or belonging to Scots. 1533-
1533 Al quhilk onderstandis the scotis tung. (J. Gau in translation of C. Pedersen, Richt Vay To Reader sig. Aiv)
1573 That Scotland neuer bure, In Scottis leid ane man mair Eloquent. (J. Davidson, Ane Breif Commendatioun of Vprichtnes in Respect of the Surenes of the Same, [etc.] sig. A.ivv
1600 The ministers hes peruertit this text be thair Scottis translation. (J. Hamilton, Facile Traictise in T. G. Law, Catholic Tractates (1901) 227)
これ以前,Scots はケルト系の "Scottish Gaelic" を指示する単語として用いられていたというややこしい背景があることにも注意されたい.1500年を境に,徐々に Socts の指示対象となる言語変種が変わってきたことになる.
2026-04-24 Fri
■ #6206. Scots の時代区分 [scottish_english][scots][periodisation]
昨日の記事「#6205. Scots の歴史に注目すべき理由」 ([2026-04-23-1]) を受けて,今後 Scots の歴史についての話題を展開していくのに先だち,Scots の標準的な時代区分 (periodisation) を挙げておきたい.以下は,McClure (46) が,Scots 史研究の伝統を受け継ぎつつ掲げている区分である.
| Old English | to 1100 |
| Old Scots | to 1700 |
| Pre-literary Scots | to 1375 |
| Early Scots | to 1450 |
| Middle Scots | 1450--1700 |
| Early Middle Scots | 1450--1550 |
| Late Middle Scots | 1550--1700 |
| Modern Scots | 1700 onwards |
まず,注目すべきは,Scots の歴史は,イングランドにおける古英語 (Old English) とルーツを同じくすることだ.より詳しくいえば,古英語のノーサンブリア方言とルーツを一にする.したがって,Scots 史の時代区分の最初に Old "English" が含まれているのは,不思議なことではない.そして,1066年のノルマン征服を契機として1100年に置かれることが多い,伝統的な「英語史」における古英語の終点も,Scots 史は共有している.
Scots 史では,その後1700年までを Older Scots,それ以降を Modern Scots と大きく2分する.Older Scots は600年間と長く,その中で下位区分が設けられることになる.1375年辺りで Scots で書かれた文献が本格的に現われてくるという外的条件により,この年より前は Pre-literary Scots の時代と呼ばれる.実際にはこの時代にも文献は少なからずあるのだが,文献のジャンルが限られているという点で,その後の時代とは区別しておきたいという事情が背景にある.
1375年から1450年にかけての Early Scots の時代は,期間としては短いが,この言語変種が文学的に華々しく展開した時代である.その後,1550年までの Early Middle Scots の時代においても,イングランド変種から独立した言語的発達を遂げたが,後に続く Late Middle Scots の時代になると,イングランドの標準的な変種に急速に同化していくことになった.1700年近くになると,書き言葉においては,かつての Scots の面影が稀なほどにまでなっている.
1700年以降の Modern Scots は,それまで Scots が持っていた社会言語学的自律性や規範を失い,その役割は,イングランドの英語変種の土台の上にスコットランド色を追加したというべき変種から発達した "Scottish standard English" に取って代わられることになった.喩えていえば,Modern Scots は Middle English のように,社会言語学的には標準や求心力のない言語変種へと退行していったことになる.
このように,Scots 史は,おおよそ外面史上の考慮により時代区分されているとみてよい.
・ McClure, J. Derrick. "English in Scotland." The Cambridge History of the English Language. Vol. 5. Ed. Burchfield R. Cambridge: CUP, 1994. 23--93.
[ 固定リンク | 印刷用ページ ]
| このページへのアクセス数 | |
| 最終更新時間 | 2026-04-30 01:38 |
Copyright (c) Ryuichi Hotta, 2009--
















