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hellog〜英語史ブログ

堀田隆一による,英語史に関する話題を広く長く提供し続けるブログです."History of the English Language Blog" ということで,略して "hellog".英語史と関連する英語学・言語学一般の話題も扱っています.まずは,アクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事あるいは全記事の標題の一覧 (Archives)をご覧下さい.たまにツイッターもやってます

お知らせ 3月14日発売の大修館『英語教育』4月号より,連載「英語指導の引出を増やす 英語史のツボ」が始まっています.平面的だった英語が立体的に立ち上がって見えてくるような,そんな内容の記事をお届けします.初回は「なぜ3単現に -s をつけるのか」という話題です.どうぞご一読ください.hellog 内の紹介記事もどうぞ.2019/03/15(Fri)eigokyouiku_rensai_01_20190314_front_cover_small.jpg

お知らせ 1月5日発売の英語学習誌『CNN English Express』2月号に「歴史を知れば納得! 英語の「あるある大疑問」」と題する拙論が掲載されています.英語史の観点から素朴な疑問を解くという趣向の特集記事で,英語史の記事としては珍しく8頁ほどの分量を割いています.どうぞご一読ください.hellog 内の紹介記事もどうぞ.2019/01/07(Mon)cnn_ee_201902_front_cover_small

お知らせ 去る8月12日に,本ブログベースの拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』の第4刷が刷り上がりました.本書のコンパニオン・ページ及び著者による紹介ページをご覧ください.また,本書の内容に沿ったブログ記事へのリンク (hogusu) はおすすめです.2018/09/02(Sun)hogusu_front_cover_small

お知らせ 私も一部執筆している服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.が2018年3月に出版されました.日本語史と比較対照しながら英語史や英語の歴史的変化について学べます.本ブログ内の#3283の記事にも簡単な紹介がありますのでご覧ください.2018/04/23(Mon)

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お知らせ ご愛読ありがとうございます,4刷が発行されています.本ブログの内容を多く取り込んだ拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』が研究社より出版されました.本の趣旨や補足情報のために,コンパニオン・サイト (naze) を用意していますので,そちらも是非ご覧ください.また,本ブログ内の「#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました」にも紹介があります.2017/11/02(Thu)

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お知らせ Simonn Horobin 著 Does Spelling Matter? の拙訳『スペリングの英語史』が早川書房よりより出版されました.紹介記事として,本ブログ内の「#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました」「#3080. 『スペリングの英語史』の章ごとの概要」もご覧ください.2017/10/01(Sun)

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お知らせ 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』に関連する研究社ベースの連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」が始まっています(そして12回で終わりました).2017/12/21(Thu)


最近 7 日分を以下に表示中 / 今月の一覧

2019-03-19 Tue

#3613. 今後の言語変化論の課題 --- 通時的タイポロジーという可能性 [language_change][methodology][typology][diachrony][contact][speed_of_change][hisopra]

 『言語の事典』をパラパラめくっていて「言語変化」の章の最後に「通時的タイポロジー」という節があった.英語でいえば,"diachronic typology" ということだが,あまり聞き慣れないといえば聞き慣れない用語である.読み進めていくと,今後の言語変化論にとっての課題が「通時的タイポロジー」の名の下にいくつか列挙されていた.主旨を取り出すと,以下の4点になろうか.

 (1) 19世紀以来の歴史言語学(特に比較言語学)は,分岐的変化に注目しすぎるあまり,収束的変化を軽視してきたきらいがある
 (2) 斉一論を採用するならば,共時態におけるタイポロジーを追究することによって通時態におけるタイポロジーの理解へと進むはずである
 (3) 言語変化の速度という観点が重要
 (4) 言語変化しにくい特徴に注目してタイポロジーを論じる視点が重要

 いずれも時間的・空間的に広い視野をもった歴史言語学の方法論の提案である.それぞれを我流に解釈すれば,(1) は歴史言語学における言語接触の意義をもっと評価せよ,ということだろう.
 (2) の斉一論 (uniformitarian_principle) に基づく主張は「通時タイポロジー」の理論的基盤となり得る強い主張だが,言語変化の様式の普遍性を目指すと同時に,そこではすくい取れない個別性に意識的に目を向ければ,それは「通時対照言語学」に接近するだろう.こちらも可能性が開けている.
 (3) と (4) は関連するが,言語変化しやすい(あるいは,一旦変化し始めたら素早く進行するもの)か否かという観点から,言語項や諸言語を分類してみるという視点である.これは確かに新しい視点である.本ブログでも,言語変化の速度については speed_of_changeschedule_of_language_change で様々に論じてきたが,おおいに可能性のある方向性ではないかと考えている.
 タイポロジー(類型論)と対照言語学という2分野は,力点の置き方の違いがあるだけで実質的な関心は近いと見ているが,そうすると「通時的タイポロジー」と「通時的対照言語学」も互いに近いことになる.これらは,近々に開催される HiSoPra* の研究会でこれまで提起されてきた「対照言語史」の考え方にも近い.

 ・ 乾 秀行 「言語変化」『言語の事典』 中島 平三(編),朝倉書店,2005年.560--82頁.

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2019-03-18 Mon

#3612. 講座「英語史で解く英語の素朴な疑問」のお知らせ [notice][asacul][sobokunagimon][hel_education]

 3月30日(土)の15:00〜18:15に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて,「英語の歴史」と題するシリーズ講座の最後となる第3弾として「英語史で解く英語の素朴な疑問」を開講します.以下,お知らせの文章です.

 何年も英語を学んでいると,学び始めの頃に抱いていたような素朴な疑問が忘れ去られてしまうことが多いものです.なぜ A は「ア」ではなく「エイ」と読むのか,なぜ go の過去形は went なのか,なぜ動詞の3 単現には -s がつくのか等々.このような素朴な疑問を改めて思い起こし,あえて引っかかってゆき,大まじめに考察するのが,英語史という分野です.素朴な疑問を次々と氷解させていく英語史の力にご期待ください.

1. 素朴な疑問と英語史の相性の良さ
2. 英語史概略
3. 綴字と発音に関する素朴な疑問
4. 語形に関する素朴な疑問
5. 文法に関する素朴な疑問
6. 語彙に関する素朴な疑問
7. 英語方言その他に関する素朴な疑問


 英語学習・教育に携わる方々であれば,これまで必ず直面してきたはずの数々の「素朴な疑問」に英語史の観点からスパッと切り込んでいきます.3時間たっぷりの講座のなかで,ナルホドと何度も膝を打つ機会があるはずです.冒頭に英語史の概観もおこないますので,英語史という分野に接するのが初めてであっても心配ありません.皆さんの「素朴な疑問」も持ち寄りつつ,楽しみに参加してもらえればと思います.
 なお,おかげさまで前回の「#3606. 講座「北欧ヴァイキングと英語」」 ([2019-03-12-1]) は(狭い教室とはいえ)満席となりまして,嬉しいかぎりですが,希望して受講できなかった方もおられたようです.どうぞ早めにお申し込みください.

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2019-03-17 Sun

#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか? [infinitive][syntax][passive][voice][construction][sobokunagimon]

 標題の He is to blame. は「彼は責められるべきだ;彼には責任がある」という意味のフレーズだが,厳密に態 (voice) を考慮すれば,「彼」は「責められる」立場であるから He is to be blamed. と不定詞も受け身になるべきだと思われるかもしれない.実際,後者でも意味は通じるし,もちろん文法的なのだが,慣習的なフレーズとしては前者が用いられる.なぜだろうか.
 これは,動名詞について解説した「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1]) とも関係する.動名詞と同様に不定詞 (infinitive) も動詞の名詞化という機能をもっている.動名詞や不定詞により動詞が名詞化すると,もともとの動詞がもっていた態の対立は中和し,能動・受動の区別なく用いられるようになる.to blame は,したがってこの形で能動的に「非難すべき」ともなり得るし,受動的に「非難されるべき」ともなり得るのである.区別が中和されているということは,文脈によりいずれにも解釈し得るということでもある.He is to blame. の場合には,意味上,受け身として解釈されるというわけだ.There is a house to let.I have something to say. のような「形容詞的用法」の不定詞も,態の中和という発想に由来する(中島,p. 238).
 ただし,不定詞(や動名詞)の態の中和は,あくまでそれが強い名詞性を保っていた時代の特徴である.近代以降,不定詞(や動名詞)はむしろ動詞的な性格を強めてきており,中和されていた態の対立が復活してきている.その結果,慣習的ではないとはいえ He is to be blamed. も文法的に許容されるようになった.標題のような構文は,古い時代の特徴を伝える生きた化石のような存在なのである.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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2019-03-16 Sat

#3610. 片仮名で表記する「ツボ」 --- 表意性の消去 [katakana][kanji][japanese][grammatology][semantic_change][doublet][homophony]

 昨日の記事「#3609. 『英語教育』の連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」が始まりました」 ([2019-03-15-1]) で新連載について紹介した.連載タイトルに英語史の「ツボ」と入れたが,この「急所,要点,要領」の語義では片仮名で「ツボ」と表記するのが普通であり,あまり「壺」とはしない.これはなぜだろうか.
 沖森ほか (83) に,現代日本語における片仮名の用途が9点挙げられている.それぞれ簡単に要約すると以下の通り.

 (1) 漢語を除く外来語:ライオン,マーガリン,スーツ,テレビなど(ただし近代漢語は外来語とみなされるので,ラーメン,ウーロン茶などもある)
 (2) 擬音語・擬態語:ワンワン,コケコッコー,ニャーなど
 (3) 自然科学の用語:ヨウ素,アザラシ,バラ科など
 (4) 漢文訓読の送り仮名
 (5) 画数の多い語:会ギ(議),ヒンシュク(顰蹙),ビタ(鐚)一文,ヒビ(罅)が入る,ブランコ(鞦韆),ボロ(襤褸)が出るなど
 (6) 流行語,俗語:ヤバイ(ネット上などで,ヤバい,ヤばい,やバイもある)
 (7) 表意性の消去:コツ(骨)をつかむ,ババ(婆)を引く,ヤケ(自棄)になる
 (8) 対話的な宣伝:「ココロとカラダの悩み」「アナタの疑問に答えます」など新鮮な宣伝効果を狙ったもの
 (9) 外国人の話す日本語,ロボットや宇宙人などのことば:「ワタシ,日本人トトモダチニナリタイデス」「地球人ヨ,ヨク聞ケ.ワレワレハ,バルタン星人ダ」など,情緒のない機械性を表わす

 「ツボ」は,「コツ」「ババ」「ヤケ」などが挙げられている (7) の表意性の消去の例に当たるだろうか.これについて,沖森ほか (83) からもう少し詳しい説明を引用すると,次のようになる.

国語辞典を引くと,それぞれ漢字表記があがっているが,実際に目にする表記は片仮名が一般的なものである.これは,「コツをつかむ」の意で「骨」を当てると《人骨》の意味が表に出すぎて差し支えが生じるためであろう.派生義で用いる場合に,その漢字本来の表意性が面に出るとそぐわない場合に片仮名が選ばれたものと思われる.広島を「ヒロシマ」と書くのも,地名の意を消去して,被爆地としての新たな意味を込める用法かと見られる.


 「ツボ」の場合,「壺」と表記することによって容器の意味が表に出すぎて差し支えが生じるとは特に思われないが,少なくとも容器の意味と急所の意味が離れすぎているために違和感が漂うということなのだろう.語義の発展・派生としては,「くぼみ」(滝壺など)から始まり,形状の類似から「(容器としての)壺」や「鍼を打ったり灸をすえる場所」(足ツボなど)が派生し,後者から「狙い所,要点」が発展したと思われる.このように原義と派生義の距離が開いてしまっている語はごまんとあるが,そのなかには表記上の区別をするものがあるということだろう.共時的感覚としては「ツボ」と「壺」は異なる語彙素といってよい.「表意性の消去」とは,この感覚の反映をある観点から表現したものだろう.
 英語からの類例としては「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]),「#2440. flower と flour (2)」 ([2016-01-01-1]) がある.両語は同一語源に遡るが,語義がかなり離れてしまったために,別々の語彙素ととらえられ,異なる表記が用いられるようになった.この問題は,2重語 (doublet) や同音異義 (homophony) の問題とも関わってくるだろう.

 ・ 沖森 卓也・笹原 宏之・常盤 智子・山本 真吾 『図解 日本語の文字』 三省堂,2011年.

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2019-03-15 Fri

#3609. 『英語教育』の連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」が始まりました [notice][hel_education][elt][sobokunagimon][3sp][rensai]

 昨日発売の大修館書店『英語教育』2019年4月号より,「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」と題する連載を開始しました.同誌の昨年9月号に,同じ趣旨で単発の記事を寄稿させていただきましたが,その延長編というようなシリーズになります(cf. 「#3396. 『英語教育』9月号に「素朴な疑問に答えるための英語史のツボ」が掲載されました」 ([2018-08-14-1])) .

『英語教育』2019年4月号


 初回となる4月号の話題は「第1回 なぜ3単現に -s をつけるのか」です.2ページという誌面に,この問題のエッセンスを煎じ詰めて書きました.また,導入の節では,連載開始の挨拶かたがた「英語史を学ぶメリット」を力説しました.ぜひご一読ください.初回ならではの力みには目をつぶっていただき,今後ともよろしくお願い致します.
 連載のタイトルに「英語指導の引き出しを増やす」と前置きしてある通り,また『英語教育』という雑誌の記事であることから,当然ながらまず第一に英語の先生を読者として念頭においていますが,一般の英語学習者や英語学の学生の読者も意識して執筆していますので,英語の教育・学習に関係する方々に広く読んでもらえればと思います.
 英語史の「ツボ」という連載タイトルですが,『広辞苑』によれば「ツボ」とは「急所.要点.かんどころ」の意.毎回この意味をとりわけ強く意識して執筆していきます.よろしくどうぞ.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第1回 なぜ3単現に -s をつけるのか」『英語教育』2019年4月号,大修館書店,2019年3月14日.62--63頁.

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2019-03-14 Thu

#3608. 中英語における <u> の <o> による代用 (4) [spelling][orthography][minim][vowel][spelling_pronunciation_gap][eme][me_dialect][lexical_diffusion]

 昨日の記事 ([2019-03-13-1]) に引き続いての話題.中英語における <u> と <o> の分布を111のテキストにより調査した Wełna (317) は,結論として以下のように述べている.

. . . the examination of the above corpus data has shown a lack of any consistent universal rule replacing <u> with <o> in the graphically obscure contexts of the postvocalic graphemes <m, n>. Even words with identical roots, like the forms of the lemmas SUN (OE sunne), SUMMER (OE sumor) and SON (OE sunu), SOME (OE sum) which showed a similar distribution of <u/o> spellings in most Middle English dialects, eventually (and unpredictably) have retained either the original spelling <u> (sun) or the modified spelling <o> (son). In brief, each word under discussion modified its spelling at a different time and in different regions in a development which closely resembles the circumstances of lexical diffusion.


 このように奥歯に物が挟まったような結論なのだが,Wełna は時代と方言の観点から次の傾向を指摘している.

. . . o-spellings first emerged in the latter half of the 12th century in the (South-)West (honi "honey" . . .). Later, a tendency to use the new spelling <o> is best documented in London and in the North.


 Wełna 本人も述べているように,調査の対象としたレンマは HUNDRED, HUNGER, HONEY, NUN, SOME, SUMMER, SUN, SON の8つにすぎず,ここから一般的な結論を引き出すのは難しいのかもしれない.さらなる研究が必要のようだ.

 ・ Wełna, Jerzy. "<U> or <O>: A Dilemma of the Middle English Scribal Practice." Contact, Variation, and Change in the History of English. Ed. Simone E. Pfenninger, Olga Timofeeva, Anne-Christine Gardner, Alpo Honkapohja, Marianne Hundt and Daniel Schreier. Amsterdam/Philadelphia: Benjamins, 2014. 305--23.

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2019-03-13 Wed

#3607. 中英語における <u> の <o> による代用 (3) [spelling][orthography][minim][vowel][spelling_pronunciation_gap][eme][scribe][anglo-norman]

 標題に関連する話題は「#2450. 中英語における <u> の <o> による代用」 ([2016-01-11-1]),「#2453. 中英語における <u> の <o> による代用 (2)」 ([2016-01-14-1]),「#3513. comesome の綴字の問題」 ([2018-12-09-1]),「#3574. <o> で表わされる母音の問題 --- donkey vs monkey」 ([2019-02-08-1]) で取り上げてきた.今回は,「<u> の <o> による代用」という綴字慣習が初期中英語に生じ,後に分布を拡大させていった経緯に焦点を当てた Wełna の論文に依拠しつつ,先行研究の知見を紹介したい.
 現代英語の monk, son, tongue などにみられる <o> の綴字は,歴史的には <u> だったものが,初期中英語期以降に <o> と綴りなおされたものである.この綴りなおしの理由は,上にリンクを張った記事でも触れてきたように,一般に "minim avoidance" とされる.[2016-01-11-1]の記事で述べたように,「母音を表す <u> はゴシック書体では縦棒 (minim) 2本を並べて <<ıı>> のように書かれたが,その前後に同じ縦棒から構成される <m>, <n>, <u>, <v>, <w> などの文字が並ぶ場合には,文字どうしの区別が難しくなる.この煩わしさを避けるために,中英語期の写字生は母音を表す <u> を <o> で置換した」ということだ.
 しかし,英語史研究においては,"minim avoidance" 以外の仮説も提案されてきた.合わせて4つほどの仮説を Wełna (306--07) より,簡単に紹介しよう.

 (1) 当時のフランス語やアングロ・ノルマン語でみられた <u> と <o> の綴字交替 (ex. baronbarun) が,英語にももたらされた
 (2) いわゆる "minim avoidance"
 (3) ノルマン方言のフランス語で [o] が [u] へと上げを経た音変化が綴字にも反映された
 (4) フランス語の綴字慣習にならって /y(ː)/ ≡ <u> と対応させた結果,/u/ に対応する綴字が新たに必要となったため

 このように諸説あるなかで (2) が有力な説となってきたわけだが,実際には当時の綴字を詳しく調べても (2) の仮説だけですべての事例がきれいに説明されるわけではなく,状況はかなり混沌としているようだ.そのなかでも初期中英語期の状況に関する比較的信頼できる事実を Morsbach に基づいてまとめれば,次のようになる (Wełna 306) .

a. the 12th century English manuscripts employ the spelling <u>;
b. the first o-spellings emerge in the latter half of the 12th century;
c. <o> for <u> is still rare in the early 13th century and is absent in Ormulum, Katherine, Vices and Virtues, Proclamation, and several other texts;
d. from the latter half of the 13th century onwards the frequency of <o> grows, which results in both old <u> and new <o> spellings randomly used in texts composed even by the same scribe.


 当時の「ランダム」な分布が,現代英語にまで延々と続いてきたことになる.手ごわい問題である.

 ・ Wełna, Jerzy. "<U> or <O>: A Dilemma of the Middle English Scribal Practice." Contact, Variation, and Change in the History of English. Ed. Simone E. Pfenninger, Olga Timofeeva, Anne-Christine Gardner, Alpo Honkapohja, Marianne Hundt and Daniel Schreier. Amsterdam/Philadelphia: Benjamins, 2014. 305--23.
 ・ Morsbach, Lorenz. Mittelenglische Grammatik. Halle: Max Niemayer, 1896.

Referrer (Inside): [2019-03-14-1]

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最終更新時間2019-03-19 05:27

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