最近 7 日分を以下に表示中 / 今月の一覧
2026-08-16 Sun
■ #6320. 分詞,和製英語,英語史クイズと今回も盛りだくさん --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ第15弾 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][participle][waseieigo][voicy][heldio]
heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズが,抜群の出題センスにより人気を博しています.隔週土曜日に新作が公開されており,8月8日に公開された最新回は第15弾となります.
今回も,日常語彙,現在分詞か過去分詞かという文法に関わる単語語源の問題,和製英語・カタカナ語シリーズ,英語史クイズなど,非常にバランスの取れた構成で飽きさせません.
日常的な英語語彙の話題からスタートし,ドイツ語・オランダ語・イタリア語などとの比較を通じて,とある英単語の語源に迫る問題へと展開していきます.基本語の比較から印欧祖語の系譜にまで思いを馳せさせる流れは見事です.
また,文法項目として重要な interesting と interested の使い分けを,感情誘発動詞の原義から丁寧に紐解く問題や,文房具を中心とした和製英語・カタカナ語のクイズなど,英語学習者が直面しやすいポイントが,今回も巧みに織り交ぜられています.
後半には,新しくシリーズ化されつつある「英語史クイズ」が控えています.英語史クイズとはいっても,季節語という日常的な語彙を話題にしているので,たいへんに取っつきやすい構成になっています.かつての英語において1年がどのように区切られていたのか,そして fall や winter にまつわる語誌など,厳しい猛暑が続く今の季節だからこそ味わい深く感じられる歴史的なトピックが散りばめられています.
作者の sorami さん自身も,毎回推している通り,「授業の小ネタ、ウォームアップ、グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALTの先生を巻き込むのもありですね!」とのことなので,皆さん,ぜひ様々な形でクイズをご活用ください.印刷してそのまま配れるPDFファイルも用意されており,現場への気配りも万全です.
sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年2ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.今年の6月30日に物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.手軽に引けるアプリ版の登場で,さらに身近に語源の世界へアクセスできるようになっています.
今回紹介した第15弾については,heldio 配信回「#1902. 現在分詞と過去分詞 --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ・シリーズ第15弾」でも案内していますので,ぜひそちらもお聴きいただければ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
2026-08-15 Sat
■ #6319. 8月22日(土)の朝カル講座「"riddle" を探って古英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][oe][oe_text][anglo-saxon][riddle][kochushoho][alliteration][oe_poetry]

来週末の8月22日(土) 15:30--17:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座が開講されます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の夏期第2回(通算第17回)となります.今回は「riddle を探って古英語原文の世界へ」と題して,「謎」を意味する単語に迫ります.
現代英語の riddle は「謎,なぞなぞ」を意味する単語ですが,英語史・語源学の観点から紐解くと,アングロサクソン人の「読み書き文化」の原点につながる,文字通り謎に満ちた世界が広がっています.今回の講座では,主に3つの切り口からこの単語を解読していきます.
第1のポイントは,riddle と read の語源的関係です.riddle は,動詞 read に接尾辞が付加された派生語にすぎません.古英語の rǣdan (to read) は本来「解釈する;助言する」などを意味していました.つまり,古代人にとって「読む」とは,与えられた暗号や謎を「解読する」行為そのものだったのです.さらに視野を広げて,write (原義は「引っ掻く」),book (ブナの木),rune (秘密・囁き)などの語源もあわせて紹介します.これらの単語の語源をつなぎ合わせていくと,ゲルマン民族が文字や書物,そして読み書き文化をどのように受容し発展させてきたのか,その文化的背景が見えてきます.
第2のポイントとして,(次の第3のポイントを見据えて)古英詩 (Old English poetry) の世界と頭韻 (alliteration) の役割,そしてルーン文字の文化を覗いてみます.先日,私自身が現地で実物を見てきたスコットランド Dumfriesshire の Ruthwell Cross は,古英詩 The Dream of the Rood の断片がルーン文字で刻まれた,8世紀初頭のものと考えられている有名な石碑です.その訪問体験談や写真を紹介しつつ,アングロサクソン人の詩的言語生活の一端を感じてみます.古英詩は現代詩のような脚韻 (rhyme) ではなく,音節頭の子音を揃える頭韻によってリズムを取っていました.この頭韻が,単なる音の装飾にとどまらず,詩の構造や記憶,さらには解読の鍵としていかに決定的な役割を果たしていたかを解説します.
第3のポイントは,古英語文学における「謎詩」 (Riddles) という独特のジャンルの鑑賞です.古英語期には,事物や自然現象が自ら「私は誰でしょう?」と語りかける詩が数多く残されました.今回の講座では,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)の IX. RIDDLES より,(3) Bookworm (Riddle XLVII) を古英語原文で解読してみます.「本を食う虫」を描いた短い詩ですが,頭韻の配置に注意しながら丁寧に読んでいきます.あわせて,かつては「竜;蛇」を指していた worm の意味変化についても取り上げます.
講義資料で原文や文法解説をしっかりサポートしますので,テキストをお持ちでなくても問題ありません.古英語原文に触れたことがない方でも安心してご参加いただけます.
講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,次回(夏期第3回)の日程と内容は次の通りです.
・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ
皆様のご受講をお待ちしています.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
2026-08-14 Fri
■ #6318. grapholinguistics [writing][graphology][linguistics][linguistics_of_writing][linguistics_of_speech][grapholinguistics][terminology]
昨日の記事「#6317. 「書記言語学」の構想」 ([2026-08-13-1]) で,「書記言語学」なるものを構想(という以前の段階なので「妄想」?)してみたところ,記事を読まれた静岡大学名誉教授の服部義弘先生より,ウィーン大学の Dimitrios Meletis 氏という若手研究者のことを教えていただいた.grapholinguistics (まさに「書記言語学」に相当するもの!)を提唱されている研究者である.
Meletis 氏の業績一覧を見る限り,機能主義的な観点から書記言語の理論を構築することに関心があるようだが,射程はもっと広く,書き言葉の社会言語学・語用論にも注目している.また,認知心理学的な観点からの人間の識字能力に関する洞察や,書記言語のもつ規範性などの社会的価値に関するトピックの言及もある.全体として書記言語を総合的に扱う領域を念頭においているようだ.私にとって新たな読書課題ができた(服部先生,ありがとうございます).
書き言葉 (writing) に関する研究書は,これまでもたくさん出版されてきたのは事実である.タイトル検索をすれば,たくさんの書物が挙がってくる.しかし,近代言語学の歴史において,それを1つの学問領域として構築しようという動きが強まったことはなかったのではないか.
今回,沃野が耕され始めていることを教えてくださった服部先生には,2018年に刊行された『歴史言語学』(朝倉書店)の出版企画でもたいへんにお世話になった.そのなかで私は2章分を担当させていただいたが,そのうちの1つが第5章「書記体系の変遷」で,日英語の書記体系の歴史を対照させながら執筆させていただいたのだった.hellog の過去記事「#3283. 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]が出版されました」 ([2018-04-23-1]) も参照されたい.

・ 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.
・ 堀田 隆一 「第5章 書記体系の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3.朝倉書店,2018年.89--105頁.
2026-08-13 Thu
■ #6317. 「書記言語学」の構想 [writing][graphology][linguistics][double_articulation}[kanji][terminology][sign][semiotics][linguistics_of_writing][linguistics_of_speech][grapholinguistics]
5ヶ月前のことを思い出しながら,そのときに残したメモを頼りに,この記事を書いている.3月7日,オーストラリアの熱帯都市ケアンズに滞在していたときに,熱暑の早朝にふと1つのアイディアが降ってきた.「書記言語学」 (linguistics_of_writing) の構想だ.
現代言語学の分野は,音声言語を第一とする規範に縛られてきた.文献に残されている英語を研究対象とする英語文献学に携わっている者として,書き言葉に肩入れしがちな立場にあることは自認しつつ,あえてこのことを主張したい.従来の言語学はおおかた「音声言語学」 (linguistics_of_speech) だったのではないか,という趣旨での問い直しである.
文字論や書き言葉の研究はもちろん存在してきたけれども,書記言語は音声言語の補助的手段にすぎないと位置づけられるのが一般的だったといってよい.しかし,書記言語は書記言語のまま,独立した体系として理解される必要があるのではないか.「文字論」などという従来の呼び方だけでは,その本質的な射程をカバーしきれない.「書記言語学」くらいの大きなラベルが必要なのではないか,と考えている.
音声言語が調音生理と聴覚に依存するのに対し,書記言語は運筆原理と視覚に依存する.もちろん表音文字体系など,書記言語には音声言語に依存し制約される側面もあるけれども,原則として独立したシステムと考えたい.たとえば音声言語に対応しない黙字や各種記号,正書法上の視覚的配慮が存在するし,書記言語独自の方言(地域・時代の書き方の変異)も存在する.書記言語にあっては,音声言語における音素の弁別素性に対応するものは何なのだろうか.ストロークに対応するのかもしれないが,もっと精妙なもののような気もする.
書記言語学を構想する上で大きな問題となるのが,言語の根本的属性とされる2重分節 (double_articulation) の問題だ.従来の言語学(=音声言語学)では,意味をもたない音素(第2分節)が結合して,意味をもつ形態素(第1分節)を構成するという2重分節の原理が,人類の言語の普遍的な特徴であるとされてきた.しかし,これはアルファベット文化圏に慣れ親しんだ,表音文字主導の「音声言語学」的な見方にすぎないのではないか.
表形態素・表語的な性質を強くもつ文字体系である漢字を例に考えてみよう.象形文字や指事文字には,音素に相当するような「意味をもたない要素」が現われていないように思われる.つまり,そこでは2重分節の原理が当てはまらない.一方で,会意文字や形声文字を考えると,部首などの構成要素が機能している.会意文字における部首は音素ならぬ「意味素」として第2の分節に相当し,形声文字では一方の部首が意味素,他方の部首が音素的要素として機能している.
このようにみてくると,言語において2重分節は必須ではないものの,第2の分節要素を導入することで組み合わせの応用可能性が爆発的に広がる,ほどの捉え方が実態に即していると言えそうだ.表語(あるいは表形態素)を基礎に据えた書記言語学や文字論のアプローチは,言語学の未来のために希望がありそうだと感じている.
なぜ文字の発明が人類史において偉大とされるのか.それは単に「声を記録する道具」を作り出したからではなく,音声言語とは異なる原理で動く「人類の第2の言語」のあり方を発明したからではないか,と私は考え始めている.
日本の書き言葉の歴史における漢文使用を diglossia(二言語併用)の比喩で捉え直すことや,現代日本語における和語・漢語・外来語の文字種使い分けをコードスイッチングとして解釈する視点も,書記言語学の枠組みから迫れるように思う.今後,音声言語学の呪縛から脱却し,独立した体系としての「書記言語学」を構想していきたいと考えている.ケアンズにて突如として湧いた妄想的なアイディアを,5ヶ月ほど冷ましてから公開した次第.
2026-08-12 Wed
■ #6316. khelf のhel活の資産,過年度の「英語史コンテンツ」が復旧 [khelf][khelf_hel_intro][cat_hel_contents_50_2022][cat_hel_contents_50_2023][cat_hel_contents_50_2024][cat_hel_contents_50_2025][hel_herald][helkatsu][links][sobokunagimon][hel_education]
本日は,khelf(慶應英語史フォーラム)によるhel活 (helkatsu) の貴重なウェブ上の資産について,お知らせです.
khelf では,2021年度から2025年度にかけての5年間にわたり,春から夏にかけての風物詩的な名物企画として「英語史コンテンツ」(初年度の2021年度は「英語史導入企画」と呼んでいた)という催しを継続してきました.これは,主として khelf に所属する慶應英語史ゼミの現役学部生・大学院生を中心とし,卒業生やその他の関係者も少数加わったメンバーが日替わりで執筆を担当し,英語史に関する様々な話題をウェブ上に公開していくという熱量あふれる企画です.
企画概要や各年度のコンテンツのタイトル一覧については,khelf HP のこちらのセクションにまとめられており,これまで本ブログでも毎年度の恒例行事としてたびたび関連する話題を取り上げてきました.
しかし,ここ1年ほどの間,過去コンテンツへのアクセスについて問題が生じていました.khelf HP 上に掲載されているコンテンツのうち,最新の2025年度分についてはすべてのコンテンツおよびリンクが正常に機能しているものの,2024年度以前の過去のコンテンツへのリンクが切れてしまっていたのです.
このリンク切れの背景には,所属大学が契約していたオンラインストレージのサービス Box が,諸事情により契約打ち切り・運用終了となったという事情がありました.これにより,もともと Box 上に置かれていたファイル群へのリンクが無効化されるに至りました.
幸いコンテンツのデータ自体は散逸することなく,Google Drive 上に退避させておいたため無事でした.しかし,個々のコンテンツファイルの各々に再びリンクを張り直す作業には膨大な手間がかかるため,リンク切れのまま放置せざるを得ない心苦しい状態が続いていました.
このたび,年度単位でのアクセス環境を再整備しました.個別の各コンテンツファイルへの直リンクの完全復元とまではいきませんが,年度ごとの全体フォルダへの共有リンクを新たに公開・設置しました.これにより,過年度の特定のコンテンツをご覧になりたい場合に,khelf HP 上でタイトルと公開年度さえ確認していただければ,該当する年度のフォルダへアクセスして,お目当てのコンテンツにたどり着けるようになりました.
khelf メンバーが知恵と情熱を絞って作成してきた「英語史コンテンツ」は,英語史の素朴な疑問 (sobokunagimon) に答える教育的・啓蒙的な資産であり,英語史をお茶の間に広めるための宝の山です.これが再びみなさんの手元で閲覧可能な状態に戻ったことは,khelf のhel活にとっても大きな一歩であると感じています.
以下に,2021年度から2025年度までの各年度の「英語史コンテンツ」企画について,(1) コンテンツにアクセスできる年度別オンラインフォルダへのリンク,(2) khelf HP 上の公式ページ,(3) hellog での関連記事集へのリンク,の3点を一覧として掲げます.ぜひ過去の名作コンテンツの数々を探索してみてください.
・ 2021年度の「英語史導入企画」
1. 2021年度コンテンツフォルダ(Google Drive)
2. khelf HP 上の公式ページ
3. khelf_hel_intro_2021
・ 2022年度の「英語史コンテンツ50」
1. 2022年度コンテンツフォルダ(Google Drive)
2. khelf HP 上の公式ページ
3. hel_contents_50_2022
・ 2023年度の「英語史コンテンツ50」
1. 2023年度コンテンツフォルダ(Google Drive)
2. khelf HP 上の公式ページ
3. hel_contents_50_2023
・ 2024年度の「英語史コンテンツ50+」
1. 2024年度コンテンツフォルダ(Google Drive)
2. khelf HP 上の公式ページ
3. hel_contents_50_2024
・ 2025年度の「英語史コンテンツ50」
1. 2025年度コンテンツフォルダ(Google Drive)
2. khelf HP 上の公式ページ
3. hel_contents_50_2025
復旧した過年度のコンテンツをきっかけに,新たな学びや素朴な疑問への発見があれば幸いです.今後とも khelf の活動と英語史コンテンツをよろしくお願いします.
2026-08-11 Tue
■ #6315. 2026度の朝カルシリーズ講座の初回(7月回)「king を探って古英語原文の世界へ」のまとめ [asacul][notice][hel_education][oe][oe_text][anglo-saxon_chronicle][kochushoho][haplology][phonemicisation][phoneme][kenning][synonym][alfred][viking][etymology][kdee][hee][beowulf][anglo-saxon]
7月25日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の夏期第1回(シリーズ通算第16回)となるオンライン講座を開きました.夏期クールのテーマも引き続き「歴史上もっとも不思議な英単語」ですが,今回は「king を探って古英語原文の世界へ」と題し,国家の世襲的君主を表わす基本語 king の起源と発達に迫りました.参考テキストには今期も市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を活用し,今回は古英語のテキストから「王」が登場する箇所を読み解きました.
講座でまず注目したのは,king の語源的背景と仲間となる単語群です.古英語の cyning は「一族,血族」を意味する cynn (現代英語 kin)に,所属・由来を表わす接尾辞 -ing が付いたもので,原義は「一族の者」でした.さらに遡ると印欧語根 *gen(ə)- (生む,生じさせる)に行き着き, generous, gender, nature など膨大な語彙ネットワークと繋がっています.また,古英語の詩にあふれる「ケニング」 (kenning) と呼ばれる隠喩的複合語を取り上げ,古英詩『ベオウルフ』にみられる bēagġyfa (指環を与える者)や goldwine (黄金の友)といった「王」の多彩な表現を紹介しました.
音変化や語彙体系の観点からも興味深い事実を確認しました.語形面では,古英語 cyning から cyng への変化に見られる重音省略 (haplology) や,中英語から近代英語にかけての /kɪŋg/ から /kɪŋ/ への変化,すなわち軟口蓋鼻音の音素化 (phonemicisation) に触れました.また,形容詞における kingly (本来語),royal/regal (フランス借用語),monarchic(al) (ギリシア借用語)という語彙の3層構造にも触れ,なぜ king や queen という基本語がフランス語に置き換えられずに生き残ったのかという問題についても考察しました.
講座の後半では,『古英語・中英語初歩』の pp. 94--98 に収められている『アングロサクソン年代記』 (anglo-saxon_chronicle) より,896年のアルフレッド大王 (King Alfred) に関する記述の一部を読解しました.デーン人(ヴァイキング)の侵略に対抗するため,大王自ら従来の倍の大きさを誇る長船(ロングシップ)の建造を命じたエピソードです.アングロサクソン王国を死守した英雄としてのアルフレッド王の戦いの準備について,古英語の原文を通じて受講者の皆さんと味わいました.
夏期クールの第2回は,8月22日(土)に「riddle を探って古英語原文の世界へ」と題して開講されます.古英語のなぞなぞ文化とこの単語の語誌に迫る予定です.ぜひ朝カルのこちらの公式ページよりお申込みください.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
2026-08-10 Mon
■ #6314. 「3単現」の30の問いが投げかけるもの --- 『なぜさんたんげん』カウントダウン企画の振り返り [3ps][nazesantangen][twitter][nazesantangen_countdown_3sp][langauge_change]
6日間にわたり,『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)のカウントダウン企画の振り返り連載を書いてきました.今回はシリーズの「おわりに」に相当する文章となります.
全30回にわたる X(旧Twitter)でのカウントダウン企画,およびそれを凝縮してお届けした今回の連載を通じて,私が主張したかったことは,「3単現の s」という問題が,決して英語学習上の小さな引っかかりなどにとどまらず,英語史と言語学における第一級の学術的問いであるということです.
私たちは中学校の英語教育の初期段階で,「主語が3人称・単数で,時制が現在のとき,動詞の末尾に -s をつける」と教わります.あまりに機械的に暗記させられるルールであるため,多くの学習者はそれを英語の厄介な学習項目として認識してしまいがちです.しかし,一歩立ち止まって英語史の観点からこの問題を眺めると,この小さな -s の背景には驚くほど壮大な英語史と言語変化のドラマが広がっていることに気づかされます.今回の連載で扱った論点を改めて振り返ってみるだけでも,その射程の広さは明白でしょう.
・ 文法範疇の視点からの -s の解釈
・ 直説法という隠された文法条件と,仮定法における屈折の歴史
・ 「なぜ3単現以外は屈折語尾を失ってゼロ化したのか」という反転した問い
・ 英語の変種・多様性からみた「3単現のゼロ」や「全人称 -s」の実態
・ 歴史的語尾 -eth から -(e)s への移行を駆動した(かもしれない)発音の通言語的頻度,北部方言の南下,類推作用
・ エリザベス1世の混用,シェイクスピアの使い分け,『欽定訳聖書』の文体論的選択,そしてアメリカ英語における方言接触などの社会言語学的側面
・ 数千年前の印欧祖語の指示詞 (*so / *to) の動詞への付着と融合という,究極の起源をめぐる問題
カウントダウン企画や今回の連載で取り上げていない論点が,実はまだほかにもあります.今回の集中的な連載ですら取り上げていない,その他の話題がまだまだあるのです.「3単現の s」はまだまだ深掘りできる話題です.
学校文法の教科書に1行で現われる「3単現の s」という規則が,音韻論,形態論,統語論,方言学,社会言語学,そして印欧語比較言語学に至るまで,言語学のあらゆる領域と結びついている --- このことを含み取っていただければと思います.
「なぜルールを守らなければならないのか」という素朴な疑問は,通時的な視点を得ることで,「なぜそのようなルールが結果として現代英語に生き残ったのか」という英語史的な探求へと昇華されます.英語という言語の「不規則性」や「不合理さ」に見える現象の背後には,常に言葉を話し,書き,変化させてきた人間の歴史の積み重ねが存在するのです.
たかが3単現,されど3単現.何気ない文法規則の1つを深く掘り下げることによって,英語という言語の立体的な姿が見えてきます.30の問いを通じて伝えたかったのは,まさにこの英語史研究の醍醐味そのものでした.本連載が,皆さんにとって英語や言語一般の歴史のおもしろさや深みに触れるきっかけとなれば幸いです.
なお,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)の第1章第5節「なぜ3単現の s をつけるのか」では,本連載で触れた論点の一部にしか触れていません.本連載は,その章への詳しい注として理解していただければ.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
| このページへのアクセス数 | |
| 最終更新時間 | 2026-08-16 00:05 |
Copyright (c) Ryuichi Hotta, 2009--

















