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scottish_gaelic - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2023-11-10 Fri

#5310. ケルト語派をめぐって Voicy heldio 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」の対談精読実況生中継を配信しました [voicy][heldio][helwa][celtic][bchel][hel_education][notice][irish][welsh][cornish][breton][manx][cornish][scottish_gaelic][gaulish][link]



 昨夕,Voicy heldio にて「#893. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(前半)」を配信しました.Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読していくシリーズの特別回としてお届けしました(シリーズについては「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) を参照).
 今回精読した第24節の題目は Celtic です.原文(原書で1ページほどの英文)は昨日の hellog 記事「#5309. ケルト語派の記述 --- Baugh and Cable の英語史より」 ([2023-11-09-1]) に掲載しています.そちらをご覧になりながらお聴きいただければと思います.
 英語史研究者2人が,まだ明るい時間からグラスを傾けつつ専門分野について語るというのは,何とも豊かな時間です.それを少なからぬリスナーの方々にライヴでお聴きいただいたというのも,ありがたき幸せです.
 案の定,60分では語り足りなかったので,続編をプレミアムリスナー限定配信チャンネルにて【英語史の輪 #52】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(後半)」として収録・配信しています.最後に,ケルト語派について学ぶことの英語史上の意義についても議論していますので,よろしければそちらもお聴きください.
 さて,ケルト語派に関心を抱いた方は,本ブログでも多くの記事でカバーしています.まずは,celtic, irish, scottish_gaelic, manx, welsh, cornish, breton などのタグ付きの記事群をご参照ください.今回精読した英文の内容と関わりが強い記事として,以下を挙げておきます.

 ・ 「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1])
 ・ 「#779. CornishManx」 ([2011-06-15-1])
 ・ 「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1])
 ・ 「#2968. ローマ時代以前のブリテン島民」 ([2017-06-12-1])
 ・ 「#3743. Celt の指示対象の歴史的変化」 ([2019-07-27-1])
 ・ 「#3747. ケルト人とは何者か」 ([2019-07-31-1])
 ・ 「#3757. 講座「英語の歴史と語源」の第2回「ケルトの島」を終えました」 ([2019-08-10-1])
 ・ 「#3761. ブリテンとブルターニュ」 ([2019-08-14-1])

 また,heldio でもケルト語関連の話題は様々に配信しています.以下をリストアップしておきます.

「#692. ケルト語派を紹介します」(2023/04/23)
「#693. 英語史とケルト,英語史とブルターニュ --- 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けて」(2023/04/24)
「#697. イギリスにおけるケルト系言語に対する言語政策」(2023/04/28)
「#715. ケルト語仮説」(2023/05/16)
「#731. ケルト語の書記文化の開花が英仏独語よりも早かった理由」(2023/06/01)
「#696. コーンウォール語は死語? --- ブルトン語の親戚言語」(2023/04/27)
「#714. Manx 「マン島語」 --- 1974年に死語となったブルトン語の親戚言語」(2023/05/15)

 今日の配信回をお聴きになり B&C 精読シリーズに関心をもたれた方は,ぜひ本書(第6版)を入手し,シリーズの初回からでも途中からでも参加いただければと思います.間違いなく英語の勉強にも英語史の勉強にもなる本として選んでいます!


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2023-08-10 Thu

#5218. スコットランド地名の強勢位置は数世紀を経ても変わらない? [onomastics][toponymy][stress][namae_project][germanic][celtic][scottish_gaelic][pictish][scots_english]

 「#5212. 地名学者はなぜフィールドワークをするのか?」 ([2023-08-04-1]) で言及した Taylor の論文の後半で,スコットランド地名の強勢位置に関する驚くべき見解に出くわした (82--83) .語源を提供した言語が話されなくなって数世紀の時間を経たとしても,地名の強勢位置は保たれる傾向があるということだ.規則ではなく傾向ということのようだが,逆にいえば強勢位置の確認によって語源提供言語がある程度の確率で特定できるということにもつながる.

It is very important to record how a place-name is pronounced, since this can yield vital clues for its correct analysis. For example it is a general, though by no means universal, rule that place-names which are stressed on the first element are in languages of Germanic origin, such as Scots or Norse, while place-names which are stressed on the second or third element are of Celtic origin, such as Pictish or Gaelic. It would be more accurate to say that in both language groups it is the specific element which bears the stress, but that in Scots and Norse names the specific usually comes first, the generic second, while in names of Celtic origin it is usually the other way round. It is a remarkable fact that the original stress pattern of a name tends to survive, even when the original language of coining has not been spoken locally for many hundreds of years.


 これはおもしろい.いろいろな疑問が頭に湧き上がってくる.

 ・ 通言語的に specific/generic の区別と統語位置や強勢位置は相関関係にあるものなのか
 ・ 地名と一般語とでは,歴史的な強勢位置の保持されやすさに差があるのかないのか
 ・ 同じ地名でも現地話者と外部話者との間で強勢位置や発音が異なることがあるが,これは通常語の地域方言による差違の問題と同一ととらえてよいのか

 ・ Taylor, Simon. "Methodologies in Place-name Research." Chapter 5 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 69--86.

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2023-07-26 Wed

#5203. 地名と民間語源 [etymology][folk_etymology][onomastics][toponymy][scottish_gaelic][pictish]

 最近,「名前の言語学」である固有名詞学 (onomastics) に関心を寄せており,そのハンドブックを最初から読み進めている.「名前」現象について,考えたこともなかった角度から考察が加えられており,新鮮で刺激的な機会となっている.
 地名研究の方法論に関する第5章を読んでいたところ,地名の語源を探っている研究者にとっては地名の再形成・再解釈はよくある話だと知った.要するに地名は民間語源 (folk_etymology) の宝庫だということだ(「民間語源」という呼称を巡っては「#5180. 「学者語源」と「民間語源」あらため「探究語源」と「解釈語源」 --- プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) の最新回より」 ([2023-07-03-1]) を参照).
 同章を執筆した Taylorは,スコットランドの地名の研究者であり,スコットランドの Aberdeenshire は Buchan の Deer という名の教会の事例を紹介している.この Deer という名前は The Gaelic Notes in the Book of Deer というスコットランド・ゲール語で書かれたテキストのなかに記録されている.このテキストの中身は,10世紀の福音書抜粋のなかに12世紀になって書き込まれた Deer 教会の資産記録である.
 Deer という名前の由来は,おそらくピクト語で「オークの木」を意味する *derw- と想定されている.しかし,すでに The Gaelic Notes in the Book of Deer の時代には,この名前はスコットランド・ゲール語で「涙」を意味する déar と解釈されるようになっていたらしい.というのは,その教会に祀られている聖ドロスタンが,聖コルンバと別れる際に涙を流したことが,その名前の由来であると,すでに考えられていた節があるからだ.
 確かに地名にはこのように印象的な物語を作り出すべく再解釈されやすい側面があるかもしれない.一般語よりも,ストーリーが注入されやすい,といえばよいだろうか.人々の想像と創造の産物である.

 ・ Taylor, Simon. "Methodologies in Place-name Research." Chapter 5 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 69--86.

Referrer (Inside): [2023-11-27-1]

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2019-07-24 Wed

#3740. ケルト諸語からの借用語 [celtic][loan_word][borrowing][lexicology][welsh][scottish_gaelic][irish]

 歴史的に,アングロサクソン人とケルト人の関係は征服者と被征服者の関係である.通常,水が下から上に流れることがないように,原則としてケルト語から英語への語彙の流入もなかった.小規模な語彙の流入があったとしても,あくまで例外的とみるべきである.
 「#1216. 古英語期のケルト借用語」 ([2012-08-25-1]) で示したものと重なるが,大槻・大槻 (58) より,アングロサクソン時代に英語に借用され,かつ現在まで生き残っているものを挙げると,bin (basket), dun (gray), ass (ass < Latin asinus) 程度のものである.また,ケルトのキリスト教を経由して英語に入ってきたものとしては clugge (bell), drȳ (magician) などがある.
 中英語期以降にも散発的にケルト諸語からの借用がみられた.以下,世紀別にいくつか挙げてみよう(W = Welsh, G = Scottish Gaelic, Ir = Irish) .質も量も地味である.

 ・ 14世紀: crag 絶壁 (G/Ir), flannel フランネル (W), loch 湖 (G).
 ・ 15世紀: bard 吟遊詩人 (G), brog 小錐 (Ir), clan 氏族 (G), glen 峡谷 (G).
 ・ 16世紀: brogue 地方訛り (Ir/G), caber 丸太棒 (G), cairn ケルン (G), coracle かご船 (W), gillie 高地族長の従者 (G), plaid 格子縞の肩掛け (G), shamrock シロツメクサ (Ir), slogan スローガン (G), whisky ウィスキー (G), usquebaugh ウィスキー.
 ・ 17世紀: dun こげ茶の (G/Ir), tory トーリー党 (Ir), leprechaun レプレホーン (Ir).
 ・ 18世紀: claymore 諸刃の剣 (G).
 ・ 19世紀: colleen 少女 (Ir), ceilidh 集い (Ir/G), hooligan ちんぴら(Ir).
 ・ 20世紀: corgi コーギー犬 (W).
 (W).

 以上,大槻・大槻 (58--59) に拠った.関連して「#2443. イングランドにおけるケルト語地名の分布」 ([2016-01-04-1]),「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1]) を参照.

 ・ 大槻 博,大槻 きょう子 『英語史概説』 燃焼社,2007年.

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2018-11-22 Thu

#3496. Highland Clearances と Scottish Gaelic の禁止 [history][celtic][scottish_gaelic][language_death]

 スコットランド高地や島嶼部では,ケルト系の言語である Scottish Gaelic が現在も行なわれている(系統については「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1]) を参照).EthnologueScottish Gaelic によると,2011年の統計で57,400人ほどの話者がいるという.話者人口がわずかなのは Irish や Breton などの他のケルト系諸語とも比較され,絶対数としていえば「赤信号」であることは間違いない.スコットランドでは教育や言語景観について当該言語の振興も進められているが,予断を許さない状況である.
 「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]) で見たとおり,スコットランドの低地では,11世紀という歴史の早い段階から英語が浸透していたが,高地では近代に至るまで Scottish Gaelic が日常的に行なわれていた.この地域が強い英語化の波に洗われるのは,18世紀の2度にわたるジャコバイトの反乱(1715年と1745年)の後に,この地に徹底的な弾圧が加えられた Highland Clearances (ハイランド放逐)ゆえである.これは「スコットランド高地地方の一定の地域から人々を立ち退かせ牧羊地とした囲い込み運動」であり,多くのスコットランド人が立ち退きを余儀なくされ,アメリカへ渡っていった.
 1745年の反乱 "the Forty-five" により,イギリス政府は,現地の人々にゲール語使用を禁止させる強行策に出た.指 (103) の解説を引用する.

一六八八年の名誉革命の際に大陸へ亡命したブリテン王ジェイムズ七世(二世)の支持者たちは,王の名のラテン語に由来してジャコバイトと呼ばれるようになった.彼らは,一七一五年,一七四五年(以下,フォーティファイヴと呼ぶ)に,ジェイムズの子孫を正統なスコットランド王として擁立して,グレートブリテン政府と戦った.二度のジャコバイトの反乱では,反乱が生じた背景やそれを支持した者たちの動機は異なっていたが,当時,ハイランドの人びと全体がグレートブリテン政府に抵抗しているように見なされた.フォーティファイヴの後,政府は反乱に加担したハイランドの氏族長たちの財産を没収し,私兵をもつ権利や世襲的な司法権を剥奪した.そして,ハイランド人の衣装とされていたタータン柄のキルトなどを身につけることを禁止し,彼らの文化であるバグパイプやゲール語の使用も禁じた.違反者は保釈なしの六か月の投獄,再犯者は七年間の流刑という処罰となった.


 同じ18世紀の後半には,これらは解禁されたものの,以降,ハイランドにおける Scottish Gaelic の衰退は免れなかった.指 (105) 曰く,

一八世紀に一時使用禁止となっていたゲール語ではあるが,二〇〇一年時点でのスコットランドでは,約六万人の人びとがゲール語を話すといわれており,同語は「ヨーロッパ地域少数言語憲章」にも含まれている.島嶼地域のスカイ島にはゲール語を学ぶコレッジが設立され,スコットランド本当でもゲール語のラジオ放送やテレビ番組も放映されており,今日,日常的にゲール語に触れる環境が整いつつある.


 確かに Scottish Gaelic は,近年少しずつ「復活」しつつあるようだが,依然として危機的状況にあることは間違いない.決して楽観視はできないだろう.「#2006. 近現代ヨーロッパで自律化してきた言語」 ([2014-10-24-1]) を参照.

 ・ 指 昭博(編著) 『はじめて学ぶイギリスの歴史と文化』 ミネルヴァ書房,2012年.

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