現代英語は固定語順の言語といわれる.例えば S, V, O の3要素に限って考えても,通常は S+V+O の並べ方しか許容されない.「通常は」確かにそうなのだが,近現代英語の詩,あるいはその他の修辞的な文脈においては,詩的許容 (poetic_license) によって語順規則を破ることが許されることがある.Crystal (98) がいくつかの語順について具体例を挙げている.
SVO the boy saw the man
OVS Johns I invited --- not Smith
VSO govern thou my song (Milton)
OSV strange fits of passion have I known (Wordsworth)
SOV pensive poets painful vigils keep (Pope)
ほかには,フィクションではあるが Star Wars のジェダイマスター,ヨーダの話す「ヨーダ語」 (Yodish) の語順がよく知られている.これについても Crystal (98) から引用しよう.
Sick have I become.
Strong am I with the Force.
Your father he is.
When nine hundred years old you reach, look as good you will not.
現代英語では SVO の語順があまりに自然で盤石であるため,そこから意図的に逸脱した語順は否応なく目立ち,むしろ修辞的な利用価値が高まる,といった事情があるように思われる.
語順 (word_order) については,最近「#5585. 『子供の科学』9月号で小5生からの「なぜ,日本語と英語では語順が違うのですか?」に回答しました」 ([2024-08-11-1]) の記事で取り上げた.また,今朝の heldio より「#1180. 『子供の科学』で日英語の基本語順について回答しました」もお聴きください.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. 2nd. Cambridge: CUP, 2003.
今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の配信回は「#1022. トートロジー --- khelf 会長,青木くんの研究テーマ」です.言語における tautology とは何か? "A is A" のような一見無意味な形式がなぜ存在し,なぜしばしば有意味となり得るのか? この問題については,khelf(慶應英語史フォーラム)会長の青木輝さんとともに今後ゆっくりと検討していく予定ですが,今回はその頭出しという趣旨での配信でした.ぜひお聴きいただければ.
トートロジーについては,hellog では「#4851. tautology」 ([2022-08-08-1]) としてすでに導入しています.今回は英語辞書から英語のトートロジーの事例をいくつか集めてみました.
・ a beginner who has just started
・ free gift
・ He lives alone by himself.
・ hear with one's ears
・ helpful assistance
・ necessary essentials
・ new innovation
・ real truth
・ She is dumb and can not speak.
・ speak all at once together
・ the modern university of today
・ The money should be adequate enough.
・ They spoke in turn, one after the other.
・ This candidate will win or not win.
・ very excellent
・ widow woman
論理,意味,語用,形式などの観点から様々に分類できそうです.ものによっては periphrasis (迂言法),pleonasm (冗語法),redundancy (冗長),repetition (繰り返し)などと呼び変えるほうが適切な事例もありそうです.また,言葉遊び (word_play) とも関係してきそうです.
言語によってトートロジーの種類は異なるのか? 個別言語におけるトートロジーの起源と発達は? トートロジーの言語的機能は? 謎が謎を呼ぶ,深掘りしがいのあるテーマです.
文学において「名前」はしばしば特別な効果をもつ.人名や地名などに,当該文学作品のテーマが複雑な形で埋め込まれることが多いからだ.日常の言語使用における名前の最たる役割は個物を特定して指し示すことであり,この役割自体は文学にもみられるものの,文学に特有の名前の役割というものはありそうだ.
目下読み進めている名前学 (onomastics) のハンドブックの第20章が,この問いを扱っている.同章を書いた Smith は3点を挙げている (296) .
By focusing on the types of associative relationships within a communicative transaction, we can also observe at least three important differences between the ways in which names function in daily speech vis-à-vis imaginative literature. One difference can be seen in the greater degree of prosodic inventiveness in literature. Although we may observe increasing coinages of personal names in recent years, these follow recognizable morphological patterns, but in literature, especially children's literature, we find more play with the sounds of language and fewer restraints --- for example Pooh. Another difference lies in the rhetorical uses of references, the ways in which authors sometimes manipulate the interpretive associations by delaying or totally withholding the identification of people, places, or things. A third difference is the greater frequency and degree to which names in literature may be interpreted symbolically. Our thematic understanding of literature arises largely from the symbolic nature of language, including the many associations possibly evoked by names.
1点目は名前の「音遊び」である.特に児童文学において多用されるとあるが,一般に登場人物の名前とその響きを工夫することはよく行なわれている.
2点目は名前に関する修辞的技法である.名前をあえて出さないでおき効果的なタイミングで明らかにするなどの手法は,レトリックとして有効だ.推理小説などでは,レトリックというよりはトリックとして用いられることもあるだろう.レトリックとしての名前使用には,ほかにどのような例があるだろうか.
3点目は,この記事の冒頭で述べたように,文学では名前に象徴的な意味が付されることが多いという点だ.ここには引喩,翻案,パロディーなどの間テキスト性 (intertextuality) も関わってくるだろう.
日常会話と文学における名前の役割の違いは,ほかにも多々あるだろう.「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として,じっくり考えてみるのもおもしろそうだ.
・ Smith, Grant W. "Theoretical Foundations of Literary Onomastics." Chapter 20 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 371--81.
先日の hellog 「#5206. Beowulf の冒頭11行を音読」 ([2023-07-29-1]) や Voicy heldio 「#783. 古英詩の傑作『ベオウルフ』 (Beowulf) --- 唐澤一友さん,和田忍さん,小河舜さんと飲みながらご紹介」を通じて,古英語で書かれた代表的な英雄詩 Beowulf に関心をもたれた方もいるかと思います.
前回に引き続き,古英語を専門とする唐澤一友氏(立教大学),和田忍氏(駿河台大学),小河舜氏(フェリス女学院大学ほか)の3名と,酒を交わしながら Beowulf 談義を繰り広げました.とりわけこの作品の専門家である唐澤氏に,Beowulf はいかにして現代に伝わってきたのか,その言葉遣いの特徴は何か,その物語はいつ成立したのか等の質問を投げかけ,回答をいただきました.
本編のみで40分ほどの長尺となっており(しかも終わりの方は少々荒れてい)ますが,時間のあるときにお聴きいただければ.
・ heldio 「#797. 唐澤一友さんに Beowulf のことを何でも質問してみました with 和田忍さん and 小河舜さん」
この作品に関心を抱いた方は,本ブログの beowulf の各記事もご覧下さい.
昨日までに,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」や YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を通じて,複数回にわたり五所万実さん(目白大学)と商標言語学 (trademark linguistics) について対談してきました.
[ Voicy ]
・ 「#667. 五所万実さんとの対談 --- 商標言語学とは何か?」(3月29日公開)
・ 「#671. 五所万実さんとの対談 --- 商標の記号論的考察」(4月2日公開)
・ 「#674. 五所万実さんとの対談 --- 商標の比喩的用法」(4月5日公開)
[ YouTube ]
・ 「#112. 商標の言語学 --- 五所万実さん登場」(3月22日公開)
・ 「#114. マスクしていること・していないこと・してきたことは何を意味するか --- マスクの社会的意味 --- 五所万実さんの授業」(3月29日公開)
・ 「#116. 一筋縄ではいかない商標の問題を五所万実さんが言語学の切り口でアプローチ」(4月5日公開)
・ 次回 #118 (4月12日公開予定)に続く・・・(後記 2023/04/12(Wed):「#118. 五所万実さんが深掘りする法言語学・商標言語学 --- コーパス法言語学へ」)
商標の言語学というのは私にとっても馴染みが薄かったのですが,実は日常的な話題を扱っていることもあり,関連分野も多く,隣接領域が広そうだということがよく分かりました.私自身の関心は英語史・歴史言語学ですが,その観点から考えても接点は多々あります.思いついたものを箇条書きで挙げてみます.
・ 語の意味変化とそのメカニズム.特に , metonymy, synecdoche など.すると rhetoric とも相性が良い?
・ 固有名詞学 (onomastics) 全般.人名 (personal_name),地名,eponym など.これらがいかにして一般名称化するのかという問題.
・ 言語の意味作用・進化論・獲得に関する仮説としての "Onymic Reference Default Principle" (ORDP) .これについては「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]) を参照.
・ 記号論 (semiotics) 一般の諸問題.
・ 音象徴 (sound_symbolism) と音感覚性 (phonaesthesia)
・ 書き言葉における大文字化/小文字化,ローマン体/イタリック体の問題 (cf. capitalisation)
・ 言語は誰がコントロールするのかという言語と支配と権利の社会言語学的諸問題.言語権 (linguistic_right) や言語計画 (language_planning) のテーマ.
細かく挙げていくとキリがなさそうですが,これを機に商標の言語学の存在を念頭に置いていきたいと思います.
今週の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,「#624. 「沈黙」の言語学」と「#627. 「沈黙」の民族誌学」の2回にわたって沈黙 (silence) について言語学的に考えてみました.
hellog としては,次の記事が関係します.まとめて読みたい方はこちらよりどうぞ.
・ 「#1911. 黙説」 ([2014-07-21-1])
・ 「#1910. 休止」 ([2014-07-20-1])
・ 「#1633. おしゃべりと沈黙の民族誌学」 ([2013-10-16-1])
・ 「#1644. おしゃべりと沈黙の民族誌学 (2)」 ([2013-10-27-1])
・ 「#1646. 発話行為の比較文化」 ([2013-10-29-1])
heldio のコメント欄に,リスナーさんより有益なコメントが多く届きました(ありがとうございます!).私からのコメントバックのなかで deafening silence 「耳をつんざくような沈黙」という,どこかで聞き覚えたのあった英語表現に触れました.撞着語法 (oxymoron) の1つですが,英語ではよく知られているものの1つのようです.
私も詳しく知らなかったので調べてみました.OED によると,deafening, adj. の語義1bに次のように挙げられています.1968年に初出の新しい共起表現 (collocation) のようです.
b. deafening silence n. a silence heavy with significance; spec. a conspicuous failure to respond to or comment on a matter.
1968 Sci. News 93 328/3 (heading) Deafening silence; deadly words.
1976 Survey Spring 195 The so-called mass media made public only these voices of support. There was a deafening silence about protests and about critical voices.
1985 Times 28 Aug. 5/1 Conservative and Labour MPs have complained of a 'deafening silence' over the affair.
例文から推し量ると,deafening silence は政治・ジャーナリズム用語として始まったといってよさそうです.
関連して想起される silent majority は初出は1786年と早めですが,やはり政治的文脈で用いられています.
1786 J. Andrews Hist. War with Amer. III. xxxii. 39 Neither the speech nor the motion produced any reply..and the motion [was] rejected by a silent majority of two hundred and fifty-nine.
最近の中国でのサイレントな白紙抗議デモも記憶に新しいところです.silence (沈黙)が政治の言語と強く結びついているというのは非常に示唆的ですね.そして,その観点から改めて deafening silence という表現を評価すると,政治的な匂いがプンプンします.
oxymoron については.heldio より「#392. "familiar stranger" は撞着語法 (oxymoron)」もぜひお聴きください.
Cruse (12--13) によると,直感的に意味の異常と理解されるものには,4つの主要なタイプがあるという.意味論的に厳密な分類というよりは,直感的に区分できる分類ということだ.こういう分類は議論のスタートとしてはすぐれていると思う.
A. Pleonasm
Kick it with one of your feet.
A female mother.
He was murdered illegally.
B. Dissonance
Arthur is a married bachelor.
Let us drink time.
Pipe ... ditties of no tone. (Keats: Ode to a Grecian Urn)
Kate was very married. (Iris Murdoch: The Nice and the Good)
C. Improbability
The kitten drank a bottle of claret.
The throne was occupied by a pipe-smoking alligator.
Arthur runs faster than the wind.
D. Zeugma
They took the door off its hinges and went through it.
Arthur and his driving licence expired last Thursday.
He was wearing a scarf, a pair of boots, and a look of considerable embarrassment.
A, B, D はすぐれて意味論的な話題となり得るが,C はむしろ語用論的な話題,もっといえば命題と現実の話題と言えるだろう.
D は日本語では「くびき語法」と言われ,しばしばレトリックやジョークに用いられる.文字通りの意味とイディオム的な意味を引っかけて,2つの異質な表現を1つにまとめるものが多い.例えば「私は家と忍耐を捨てた」「彼は鼻と唇をかんだ」「スカートとスピーチは短いほどいい」のタイプである.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
tautology (類語反復,トートロジー)は,まずもって修辞学 (rhetoric) の用語として発展してきた.ギリシア語の tautó (the same) + lógos (word) に起源をもち,ラテン語を経て,16世紀半ばに英語に借用された.以下『新英語学辞典』の tautology の項目に従って概説を与える.
修辞学では冗語法 (pleonasm) や重言と同義に用いられる (cf. 「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1])).例えば a philatelist who collects stamps, These words come out successively one after another., Will you repeat that again? の類いの表現だ.「#3907. 英語の重言」 ([2020-01-07-1]) に類例がたくさん挙げられているが,それほど日常的で慣用的な語法ということでもある.
tautology の構文の典型は "A is A." という形式である.意味論にいえば,主語概念のなかにすでに述語概念が含まれてしまっているために,新情報が付されないことになり,その限りにおいて文は「無意味」となる.別の角度からいえば,この構文は意味論的に常に真となる."A is A." のほかに Philatelists collect stamps., The man who won won., Lynda loves the boy she loves. のような構文もある.これらは分析文 (analytic sentence) と呼ばれることがある.
tautology は意味論的にいえば上記の通り「無意味」だが,語用論的には必ずしも無意味ではなく,むしろ豊かな含意が生み出されるといわれる.Philatelists collect stamps. の場合,philatelist (切手収集家)は比較的難しい単語であり,その単語の意味を説明するために,この文が発せられている可能性がある.また,The man who won won. については,相手をはぐらかす意図で発せられているのかもしれない.
語用論では,tautology は Grice の協調の原理 (cooperative_principle) のもとで論じられることが多い.tautology の発話者が協調の原理をあえて違反しようとしているわけではないと判断されるのであれば,聞き手はその tautology に隠された意味や意図を見出そうとするだろう.こうして何らかの含意が生み出されるのである.
tautology は意味論的には無意味であっても語用論的にはしばしば有意味となる.この不思議さこそが,tautology が語用論や認知言語学で注目される所以だろう.
関連して「#1122. 協調の原理」 ([2012-05-23-1]),「#1133. 協調の原理の合理性」 ([2012-06-03-1]),「#1134. 協調の原理が破られるとき」 ([2012-06-04-1]) を参照.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
英語には「#4415. as mad as a hatter --- 強意的・俚諺的直喩の言葉遊び」 ([2021-05-29-1]) で紹介したような,俚諺的直喩 (proverbial simile) や強意的直喩 (intensifying simile) と呼ばれる直喩がたくさんあります.その多くは「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1]) でも指摘した通り,頭韻 (alliteration) を踏む語呂のよい表現です.
しかし,これらはあまりに使い古されている "stock phrase" であることも事実で,不用意に使うと独創性がないというレッテルを張られかねません.皮肉屋の Partridge はこれらを "battered similes" であると否定的にみなし「使う前に再考を」を呼びかけているほどです.Partridge (303--05) より列挙してみましょう.
・ aspen leaf, shake (or tremble) like an
・ bad shilling (or penny), turn up (or come back) like a
・ bear with a sore head, like a
・ black as coal - or pitch - or the Pit, as blush like a schoolgirl, to
・ bold (or brave) as a lion, as
・ bright as a new pin, as [obsolescent]
・ brown as a berry, as
・ bull in a china shop, (behave) like a
・ cat on hot bricks, like a; e.g. jump about caught like a rat in a trap
・ cheap as dirt, as
・ Cheshire cat, grin like a
・ clean as a whistle, as
・ clear as crystal (or the day or the sun), as; jocularly, as clear as mud
・ clever as a cart- (or waggon-) load of monkeys, as
・ cold as charity, as
・ collapse like a pack of cards
・ cool as a cucumber, as
・ crawl like a snail
・ cross as a bear with a sore head (or as two sticks), as
・ dark as night, as
・ dead as a door-nail, as
・ deaf as a post (or as an adder), as
・ different as chalk from cheese, as
・ drink like a fish, to
・ drop like a cart-load of bricks, to
・ drowned like a rat
・ drunk as a lord, as
・ dry as a bone (or as dust), as
・ dull as ditch-water, as
・ Dutch uncle, talk (to someone) like a
・ dying like flies
・ easy as kiss (or as kissing) your hand, as; also as easy as falling off a log
・ fight like Kilkenny cats
・ fit as a fiddle, as
・ flash, like a
・ flat as a pancake, as
・ free as a bird, as; as free as the air
・ fresh as a daisy (or as paint), as
・ good as a play, as; i.e. very amusing
・ good as good, as; i.e. very well behaved
・ good in parts, like the curate's egg
・ green as grass, as
・ hang on like grim death
・ happy (or jolly) as a sandboy (or as the day is long), as
・ hard as a brick (or as iron or, fig., as nails), as
・ hate like poison, to
・ have nine lives like a cat, to
・ heavy as lead, as
・ honest as the day, as
・ hot as hell, as
・ hungry as a hunter, as
・ innocent as a babe unborn (or as a new-born babe), as
・ keen as mustard, as
・ lamb to the slaughter, like a
・ large as life (jocularly: large as life and twice as natural), as
・ light as a feather (or as air), as
・ like as two peas, as
・ like water off a duck's back
・ live like fighting cocks
・ look like a dying duck in a thunderstorm
・ look like grim death
・ lost soul, like a
・ mad as a March hare (or as a hatter), as
・ meek as a lamb, as
・ memory like a sieve a
・ merry as a grig, as [obsolescent]
・ mill pond, the sea [is] like a
・ nervous as a cat, as
・ obstinate as a mule, as
・ old as Methuselah (or as the hills), as
・ plain as a pikestaff (or the nose on your face), as
・ pleased as a dog with two tails (or as Punch), as
・ poor as a church mouse, as
・ pretty as a picture, as
・ pure as the driven snow, as
・ quick as a flash (or as lightning), as
・ quiet as a mouse (or mice), as
・ read (a person) like a book, to (be able to)
・ red as a rose (or as a turkey-cock), as
・ rich as Croesus, as
・ right as a trivet (or as rain), as
・ roar like a bull
・ run like a hare
・ safe as houses (or as the Bank of England), as
・ sharp as a razor (or as a needle), as
・ sigh like a furnace, to
・ silent as the grave, as
・ sleep like a top, to
・ slippery as an eel, as
・ slow as a snail (or as a wet week)
・ sob as though one's heart would break, to
・ sober as a judge, as
・ soft as butter, as
・ sound as a bell, as
・ speak like a book, to
・ spring up like mushrooms overnight
・ steady as a rock, as
・ still as a poker (or as a ramrod), as
・ straight as a die, as
・ strong as a horse, as
・ swear like a trooper
・ sweet as a nut (or as sugar), as
・ take to [something] like (or as) a duck to water
・ thick as leaves in Vallombrosa as [Ex. Milton's 'Thick as autumnal leaves that strow the brooks In Vallombrosa']
・ thick as thieves, as
・ thin as a lath (or as a rake), as
・ ton of bricks, (e.g. come down or fall) like a
・ tough as leather, as
・ true as steel, as
・ two-year-old, like a
・ ugly as sin, as
・ warm as toast, as
・ weak as water, as
・ white as a sheet (or as snow), as
・ wise as Solomon, as
・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.
昨日の記事「#4353. 擬人法」 ([2021-03-28-1]) に引き続き,擬人法 (personification) について.昨日からもう少し調べてみているが,擬人法の言語学的な扱いはやはり少ないようだ.あくまで修辞学や詩学の領域にとどまっている.今回は『大修館英語学事典』 (844) より,詩語の1特徴としての擬人法の解説を引用する.伝統的で典型的な例が挙げられているので,参照用に便利.
擬人法
擬人法 (personification) も好んで用いられた技法である.言うまでもなく人間でないものを人間(時に神)にたとえて表現するものである.
a) 自然現象を神話の神の名で表現する
Zephyr (西風),Phoebus (太陽),Cynthia (月),Diana (月),Apollo (太陽),Neptune (海),Boreas (北風),Hesper (宵の明星),など.
b) 抽象名詞の擬人化
たとえば 'ambitious people' という時 'Ambition' にように表現するもので,一種の寓意的表現である.
Gladness danc'd along the sky---Thompson, Epithalanium (喜びは空を踊りながら進んで行った) / Let not Ambition mock their useful toils---Gray, Elegy Written in a Country Church-Yard (野心をして彼らの有益な労役を侮らせるなかれ) / O stretch thy reign, fair Peace---Pope, Windsor Forest (うるわしの平和よ,汝の領土を広げよ).
c) 地名または一般の事物の擬人化
That Thame's glory to the stars shall rise!---Pope, Windsor Forest (テムズの栄光よ星まで届け) / Thy forest, Windsor!---Pope, ibid. (汝の森,ウインザーよ) / And weary waves, withdraw[n]ing from the Fight, die lull'd and panting on the silent Shore (疲れた波は戦いより退きて,物言わぬ岸の上でなだめられ,あえぎながらその身を横たえる).
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
擬人法 (personification) は,文学的・修辞的な技法として知られているが,専門用語というよりは一般用語としても用いられるほどによく知られた用語・概念でもある.広く認知されているがゆえに,学術的に扱おうとするとなかなか難しい種類の話題かもしれない.
とりわけ言語学的に扱おうとする場合,どのようなアプローチが可能なのだろうか.この問題について本格的に考えたこともないので,まず取っ掛かりとして,種々の英語学辞典に当たってみた.最初は『英語学要語辞典』から.
personification 〔体〕(擬人化,擬人法) Fair science frowned not on his humble birth.---T. Gray, Elegy (美しき学問は彼の卑しい素性をいといはしなかった)のように,抽象概念や無生物に人間と同様の性質を与える修辞上の技巧.隠喩の一種で,英文学においては古英詩(特に謎詩)で用いられ始め,中世の道徳劇,寓意詩にもみられる.小説でもその用法は散見され,ゴシック小説では表現上の重要な特性とされている.なお,<+有生>など名詞の素性および選択規則という変形理論の適用により,擬人法を統一的に記述・説明することが可能である.
次に『新英語学辞典』より.
personification 〔修〕(擬人化,擬人法)
無生物や抽象概念を生物扱いしたり,感情など人間特有の性質を持つものとして表現する修辞技巧.擬人化は prosopropeia とも呼ばれ,隠喩 (METAPHOR) の一種で詩で古くから用いられた.Leech (1969) は 'an angry sky' や 'graves yawned' のように,無生物に生物の属性を付与するものを the animistic metaphor, 'this friendly river' や 'laughing valeys' のように,人間以外のものに人間特有の性質を付与するものを the humanizing [anthropomorphic] metaphor と名づけている.I. A. Richards (1929) が指摘しているように,人間以外の生物や無生物に対して抱く感情や思考は,人間相互の感情や思考と共通するもので,従って日常の言語ではもっぱら人間について用いる形容詞・動詞・代名詞を人間以外のものに適用するのはきわめて自然と言えよう.
擬人化は中世の寓意詩にまで遡ることができるが,その伝統を受けついだ Milton は "all things smil'd, With fragrance and with joy my heart oreflowd"---Paradise Lost 8: 265--66 のように,この修辞法を好んで用いた.擬古典主義の時代に入ると,Thomas Parnell, Richard Savage, Edward Young など,18世紀の詩人の言語の大きな特色となり,ますます装飾的な性格を帯びるようになった.しかし,やがてロマン派が台頭し,'the very language of men' を詩の言語たらしめることを標榜した Wordsworth は,慣習的な擬人化を 'a mechanical device of style' として斥けた (Preface to Lyrical Ballads, 1798).
このように,擬人化は詩の言語の伝統的手法であって,散文における比喩表現は直喩 (SIMILE) の形式をとるのがふつうであるが,詩的な散文では効果的に用いられることがある.例えば,Thomas Hardy が Egdon Heath を描写している次のパラグラフでは,観察者の存在を暗示する appeared, seemed, could be imagined 以外の動詞は,闇夜の荒野を擬人化して描き出している: The place became full of watchful intentness now; for when other things sank brooding to sleep the heath appeared slowly to awake and listen. Every night its Titanic form seemed to await something; but it had waited thus, unmoved, during so many centuries, through the crises of so many things, that it could only be imagined to await one last crisis---the final overthrow.---The Return of the Native. Bk. I, Ch. I.
英語における擬人法は,上記の通り,およそ修辞学的・文学史的な観点から話題にされてきたものであり,言語学的・意味論的なアプローチは稀薄だったように思われる.そもそも後者のアプローチとしては,どのようなものがあるのだろうか.探ってみる必要がありそうだ.関連して,「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1]) の「擬人法」を参照.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
昨日の記事 ([2020-11-09-1]) に引き続き強意複数 (intensive_plural) の話題について.この用語は Quirk et al. などには取り上げられておらず,どうやら日本の学校文法で格別に言及されるもののようで,たいていその典拠は Kruisinga 辺りのようだ.それを参照している荒木・安井(編)の辞典より,同項を引用する (739--40) .昨日の記事の趣旨を繰り返すことになるが,あしからず.
intensive plural (強意複数(形)) 意味を強調するために用いられる複数形のこと.質量語 (mass word) に見られる複数形で,複数形の個物という意味は含まず,散文よりも詩に多く見られる.抽象物を表す名詞の場合は程度の強いことを表し,具象物を表す名詞の場合は広がり・集積・連続などを表す: the sands of Sahara---[Kruisinga, Handbook] / the waters of the Nile---[Ibid.] / The moon was already in the heavens.---[Zandvoort, 19757] (月はすでに空で輝いていた) / I have my doubts.---[Ibid.] (私は疑念を抱いている) / I have fears that I may cease to be Before my pen has glean'd my teeming brain---J. Keats (私のペンがあふれんばかりの思いを拾い集めてしまう前に死んでしまうのではないかと恐れている) / pure and clear As are the frosty skies---A Tennyson (凍てついた空のように清澄な) / Mrs. Payson's face broke into smiles of pleasure.---M. Schorer (ペイソン夫人は急に喜色満面となった) / To think is to be full of sorrow And leaden-eyed despairs---J. Keats (考えることは悲しみと活気のない目をした絶望で満たされること) / His hopes to see his own And pace the sacred old familiar fields, Not yet had perished---A. Tennyson (家族に会い,なつかしい故郷の神聖な土地を踏もうという彼の望みはまだ消え去っていなかった) / All the air is blind With rosy foam and pelting blossom and mists of driving vermeil-rain.---G. M. Hopkins (一面の大気が,ばら色の泡と激しく舞い落ちる花と篠つく朱色の雨のもやで眼もくらむほどになる) / The cry that streams out into the indifferent spaces, And never stops or slackens---W. H. Auden (冷淡な空間に流れ出ていって,絶えもしないゆるみもしない泣き声).
同様に,石橋(編)の辞典より,Latinism の項から関連する部分 (477) を引用する.
(3) 抽象名詞を複数形で用いる表現法
いわゆる強意複数 (Intensive Plural) の一種であるが,とくにラテン語の表現法を模倣した16世紀後半の作家の文章に多く見られ,その影響で後代でも文語的ないし詩的用法として維持されている.たとえば,つぎの例に見られるような hopes, fears は,Virgil (70--19 B.C.) や Ovid (43 B.C.--A.D. 17?) に見られるラテン語の amōrēs [L amor love の複数形], metūs [L metus fear の複数形] にならったものとみなされる.Like a young Squire, in loues and lusty-hed His wanton dayes that ever loosely led, . . . (恋と戯れに浮き身をやつし放蕩に夜も日もない若い従者のような…)---E. Spenser, Faerie Qveene I. ii. 3 / I will go further then I meant, to plucke all feares out of you. (予定以上のことをして,あなたの心配をきれいにぬぐい去って上げよう)---Sh, Meas. for M. IV. ii. 206--7 / My hopes do shape him for the Governor. (どうやらその人はおん大将と見える)---Id, Oth. II. i. 55.
ほほう,ラテン語のレトリックとは! それがルネサンス・イングランドで流行し,その余韻が近現代英語に伝わるという流れ.急に呑み込めた気がする.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
・ Kruisinga, E A Handbook of Present-Day English. 4 vols. Groningen, Noordhoff, 1909--11.
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
標題の2つの「言葉のあや」あるいは意味論上の過程は,古来さまざまに定義され,論じられてきたが,しばしば混同されてきた.
『新編 認知言語学キーワード事典』によると,「提喩」と訳されるシネクドキー (synecdoche) は,「包含関係(類と種の関係)に基づいて転義(意味のズレ)が起こる比喩で,上位概念で下位概念を指したり,下位概念で上位概念を指すものを言う」 (238) とある.典型例として,以下のようなものがある.
・ 花見に行った.
・ 空から白いものが降ってきた.
・ 頭に白いものが目立ってきた.
・ John would have a drink with his wife.
・ 今晩のご飯は何ですか.
・ 喫茶店でお茶でも飲もう.
・ One has to earn one's bread.
シネクドキーとは何か,これで分かったような気がするものの,それと「換喩」と訳されるメトニミー (metonymy) との区別が厄介な問題である.実際,両者はしばしば混同されてきた.同事典 (239) より,この区別について解説している箇所を引用しよう.
提喩と換喩は,〈全体と部分の関係〉と〈類と種の関係〉に関して,研究史上,しばしば混乱が見られ,グループμ (Le groupe μ 1970) などは,〈全体と部分の関係 (a part of whole)〉と〈類と種の関係 (a kind of class)〉を正しく区別したにもかかわらず,両者を提喩として一括してしまった.こうした先行研究への批判をふまえて,佐藤信夫 (1978[1992]) は,一連の研究で,〈全体と部分の関係〉を提喩から切り離して換喩とし,〈類と種の関係〉に基づく比喩だけを提喩と扱う考え方を示した.実際,換喩は,全体 A と部分 a の関係において,部分 a は A の一部であって,a だけで A にはならない.例えば,「恩師のところに顔を見せに行く」と言うとき,部分としての「顔」が全体としての「人間」を指すが,「顔」は,それ自体では「人間」ではない.これに対し,提喩は,上位概念 B と下位概念 b の関係において,b は,すでに1つの B にあたる.例えば,「喫茶店でお茶を飲む」において「お茶」が「飲み物」を指すとき,「お茶」も,それ自体「飲み物」であって,この点で,全体と部分の関係と,類と種の関係は,本質的に異なる.こうした観点から見ても,〈全体と部分の関係〉に基づく比喩を換喩とし,〈類と種の関係〉に基づく比喩を提喩として両者を区別することは,妥当なものと言ってよい.
次に,瀬戸を参照した「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1]) で紹介したシネクドキーとメトニミーの定義と事例を挙げよう.
名称 | 別名 | 説明 | 例 |
---|---|---|---|
提喩 | シネクドキ (synecdoche) | 「天気」で「いい天気」を意味する場合があるように,類と種の間の関係にもとづいて意味範囲を伸縮させる表現法. | 熱がある.焼き鳥.花見に行く. |
換喩 | メトニミー (metonymy) | 「赤ずきん」が「赤ずきんちゃん」を指すように,世界の中でのものとものの隣接関係にもとづいて指示を横すべりさせる表現法. | 鍋が煮える.春雨やものがたりゆく蓑と傘. |
synecdoche (← Gk sunekdokhḗ receiving together) 〔修〕(提喩) 換喩 (METONYMY) の一種.部分または特殊なものを示す語句によって全体または一般的なものを表わすこと.部分で全体を表わすことを特に part for whole, L pars prō tōtō ということがある.blade (= sword), hand (= workman), rhyme (= poetry), roof (= house), sail (= ship), seven summers (= seven years) .
ここではシネクドキーはメトニミーの一種ということになっており,しかも前者は全体と部分の関係を表わすという.『新英語学辞典』 (1221) からの引用をさらに続けよう.
現在は主に上記の意味に用いられているが,本来はもっと広い概念を有していた用語で,M. Joseph (1947a) はエリザベス朝の概念として上述のもの以外に次のようなものをあげている.(a) 全体で部分を指す (whole for part, L tōtum prō parte): creature (= man). (b) 種が属を表わす (species for genus): our daily bread (= food); gold (= wealth). (c) 全体を部分に分けて表現する分割表現 (L merismus, partītiō): They first undermined the ground-sills, they beat down the walls, they unfloored the lofts---Puttenham (= A house was outrageously plucked down). (d) 材料で製品を表わす: the marble (= the statue of marble). (e) 職業名で個人を指す換称 (antonomasia): the Bard (= Shakespeare). (f) その他,具象物で抽象物を,抽象物で具象物を表わす表現も提喩とみなすことができよう〔中略〕.
うーむ,ここまでシネクドキーを拡大して解釈すると,メトニミーそのものになってしまうではないか.
最後に McArthur (1014) より synecdoche の定義をみておこう.
In rhetoric, a figure of speech concerned with parts and wholes: (1) Where the part represents the whole: 'a hundred head of cattle' (each animal identified by head alone); 'All hands on deck' (the members of a ship's crew represented by their hands alone). (2) Where the whole represents the part: 'England lost to Australia in the last Test Match' (the countries standing for the teams representing them and taking a plural verb).
『新英語学辞典』と同様,全体と部分の関係を基本とする定義が与えられている.混迷は深い.
・ 辻 幸夫(編) 『新編 認知言語学キーワード事典』 研究社.2013年.
・ 佐藤 信夫,佐々木 健一,松尾 大 『レトリック事典』 大修館,2006年.
・ 瀬戸 賢一 『日本語のレトリック』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉,2002年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ Joseph, Sister Miriam, C. S. C. Shakespeare's Use of the Arts of Language. New York: Columbia UP, 1947.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
「馬から落馬する」「後の後悔」の類いの重言(重ねことば)は,英語では "redundancy", "pleonasm", "tautological expression" などと言及される.Usage and Abusage の "TAUTOLOGY" の項目の下に,この種の句がいろいろと挙げられている.長いリストだが,おもしろいので以下に引用しよう.
adequate enough, and etc., appear on the scene, ascend up, at about (e.g. 3 p.m.), attach together, attached hereto, both alike, burn down and burn up, classified into classes, collaborate together, connect together and connect up, consolidate together, continue on and continue yet, co-operate together, couple together, debate about (v.), descend down, discuss about, divide off and divide up, drink up and drink down, early beginnings, eat up, enclosed herewith (or herein), end up, equally as, file away (commercially), final completion, final upshot, finish up (v.t. and v.i.), first begin, flood over, follow after, forbear from, forbid from, free, gratis, and for nothing, fresh beginner, from hence, from thence, from whence, funeral obsequies, gather together, good benefit, have got (for 'have' or 'possess'), hoist up, hurry up, important essentials, in between, indorce on the back, inside of, join together, joint co-operation, just exactly, just merely, just recently, lend out, link together, little birdling, meet together, mention about, merge together, mingle together, mix together, more inferior, more preferable, more superior, mutual co-operation, necessary requisite, new beginner, new creation, new departure and entirely new departure, new innovation, not a one, (it) now remains, open up (v.t.), original source, outside of, over again, over with (done, ended, finished), pair of twins, past history, peculiar freak, penetrate into, plan on (v.), polish up, practical practice, (one's) presence on the scene, proceed on(ward), protrude out, raze to the ground, really realize, recall back, reduce down, refer back, relax back, remember of, render a return, renew again, repay back, repeat again, repeat the same (e.g. story), (to) rest up, retire back, return back, revert back, revive again, rise up, seldom ever, (to) separate apart, settle up, shrink down and shrink up, sink down, steady on!, still continue, still more yet, still remain, study up, sufficient enough, swallow down, taste of (for taste, v.), termed as, than what, this next week, twice over, two halves (except when from different wholes), two twins (of one pair), uncommonly strange, unite together, used to (do something) before, we all and you all, where at, where to, whether or not, widow woman, young infant
なるほどと思うものもあるが,めくじらを立てるほどでもない例や,語義や語源を厳密に解釈しすぎた語源論法風の屁理屈な例もある (cf. 「#720. レトリック的トポスとしての語源」 ([2011-04-17-1])) .たとえば meet together など together を伴う例が多いが,動詞にその意味が埋め込まれているかどうかは当該の動詞の(統語)意味論の問題であり,記述言語学の立場からは,意味が通時的に変化してきた(あるいは共時的に変異している)と解釈することもできるのである.規範は規範であるというのは認めるにせよ,一方で記述は記述という立場もあり得ることは押さえておきたい.
これらの冗長表現は,論理的には無駄が多いということになるが,修辞的にはある種の効果(強調,念押し,曖昧さの回避など)を担っており,それ自体に存在意義がないというのは言い過ぎだろう.だからといって,私ももちろん手放しに容認しているわけではない.社会的にはスティグマを伴うため,使用が一般的には推奨されない,といっておくのが現実的なところだろう.言葉は一面的には評価できない難しい代物なのだ.
・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.
英語以外の印欧諸語はほとんど文法的性をもっているが,英語にはそれがない.古英語にはあったのだが,中英語以降に完全に消失してしまった.しがって,現代英語には文法的性 (grammatical gender) はなく,あるのは,それに取って代った自然的性 (natural gender) にすぎない.
歴史的な文法的性の消失により,現代英語は言語習得上のメリットを得たといわれるが,それによって印欧語やゲルマン語のプロトタイプから大きく逸脱した「変わった言語」となったこともまた事実である.英語が歴史的に獲得したこの特徴について,規範文法の権化ともいえる Robert Lowth (1710--87) がその重要著書 A Short Introduction to English Grammar において,たいへんおもしろい見解を述べている.すっかり感心してしまったので,すべて引用しておきたい (27--28) .
The English Language, with singular propriety, following nature alone, applies the distinction of Masculine and Feminine only to the names of Animals; all the rest are Neuter: except when, by a Poetical or Rhetorical fiction, things inanimate and Qualities are exhibited as Person, and consequently become either Male or Female. And this gives the English an advantage above most other languages in the Poetical and Rhetorical Style: for when Nouns naturally Neuter are converted into Masculine and Feminine [3], the Personification is more distinctly and forcibly marked.
英語は文法的性がないゆえに,たまに擬人的に名詞に性を与えると,その擬人法がひときわ浮き立つ.一方,最初からすべての名詞に文法的に性があてがわれているような言語では,モノと性との関わりが日常的すぎて,たまに擬人法で効果を出したいと思っても,それを浮き立たせることが難しい.これは,そのような言語のもつ文学・修辞学上の弱みといってよい.
これには指摘されるまで気付かなかった,目から鱗の落ちるような指摘だ.まさに逆転の発想.
Lowth (27--28) は,上に引用した箇所で [3] として注を与えており,そこで具体例を出しながら,このことを丁寧に説明している.
[3] "At his command th'uprooted hills retir'd
Each to his place: they heard his voice and went
(18) Obsequious: Heaven his wonted face renew'd,
And with fresh flowrets hill and valley smil'd." Milton, P. L. B. vi.
"Was I deceiv'd or did a sable cloud
Turn forth her silver lining on the Night?" Milton, Comus.
"Of Law no less can be acknowledged, than that her seat is the bosom of God; her voice, the harmony of the world. All things in heaven and earth do her homage; the very least, as feeling her care; and the greatest, as not exempted from her power." Hooker, B. i. 16. "Go to your Natural Religion: lay before her Mahomet and his disciples, arrayed in armour and in blood:---shew her the cities which he set in flames; the countries which he ravaged:---when she has viewed him in this scene, carry her into his retirements; shew her the Prophet's chamber, his concubines and his wives:---when she is tired with this prospect, then shew her the Blessed Jesus---" See the whole passage in the conclusion of Bp. Sherlock's 9th Sermon, vol. i.
Of these beautiful passages we may observe, that as in the English if you put it and its instead of his, she, her, you confound and destroy the images, and reduce, what was before highly Poetical and Rhetorical, to mere prose and common discourse; so if you render them into another language, Greek, Latin, French, Italian, or German; in which Hill, Heave, Cloud, Law, Religion, are constantly Masculine, or Feminine, or Neuter, respectively; you make the images obscure and doubtful, and in proportion diminish their beauty. This excellent remark is Mr. Harris's , HERMES, p. 58.
上記は,このたび Lowth を漫然と読みながら気付いたポイントなのだが,やはり一家言ある文法家のセンスというのは,ときにまばゆく鋭い.言語における文法的性と自然的性の議論に,新鮮な光を投げかけてくれた.
・ Lowth, Robert. A Short Introduction to English Grammar. 1762. New ed. 1769. (英語文献翻刻シリーズ第13巻,南雲堂,1968年.9--113頁.)
連日話題にしている "aureate termes" (あるいは aureate_diction)と関連して,OED で aureate, adj. の項を引いてみた.まず語義1として原義に近い "Golden, gold-coloured." との定義が示され,c1450からの初例が示されている.続いて語義2に,お目当ての文学・修辞学で用いられる比喩的な語義が掲載されている.
2. fig. Brilliant or splendid as gold, esp. in literary or rhetorical skill; spec. designating or characteristic of a highly ornamental literary style or diction (see quotes.).
1430 Lydgate tr. Hist. Troy Prol. And of my penne the traces to correcte Whiche barrayne is of aureat lycoure.
1508 W. Dunbar Goldyn Targe (Chepman & Myllar) in Poems (1998) I. 186 Your [Homer and Cicero's] aureate tongis both bene all to lyte For to compile that paradise complete.
1625 S. Purchas Pilgrimes ii. 1847 If I erre, I will beg indulgence of the Pope's aureat magnificence.
1819 T. Campbell Specimens Brit. Poets I. ii. 93 The prevailing fault of English diction, in the fifteenth century, is redundant ornament, and an affectation of anglicising Latin words. In this pedantry and use of 'aureate terms', the Scottish versifiers went even beyond their brethren of the south.
1908 G. G. Smith in Cambr. Hist. Eng. Lit. II. iv. 93 The chief effort was to transform the simpler word and phrase into 'aureate' mannerism, to 'illumine' the vernacular.
1919 J. C. Mendenhall Aureate Terms i. 7 Such long and supposedly elegant words have been dubbed ???aureate terms???, because..they represent a kind of verbal gilding of literary style. The phrase may be traced back..in the sense of long Latinical words of learned aspect, used to express a comparatively simple idea.
1936 C. S. Lewis Allegory of Love vi. 252 This peculiar brightness..is the final cause of the whole aureate style.
1819年, 1908年の批評的な例文からは,areate terms を虚飾的とするネガティヴな評価がうかがわれる.また,1919年の Mendenhall からの例文は,areate terms のもう1つの定義を表わしている.
遅ればせながら,この単語の語源はラテン語の aureāus (decorated with gold) である.なお,「桂冠詩人」を表わす poet laureate は aureate と脚韻を踏むが,この表現も1429年の Lydgate が初出である(ただし laureat poete の形ではより早く Chaucer に現われている).
昨日の記事「#3583. "halff chongyd Latyne" としての aureate terms」 ([2019-02-17-1]) に引き続き,Lydgate の発展させた aureate terms という華美な文体が,同時代の批評家にどのように受け取られていたかを考えてみたい.厳密にいえば Lydgate の次世代の時代に属するが,Henry VII に仕えたイングランド詩人 Stephen Hawes (fl. 1502--21) が,The Pastime of Pleasure (1506年に完成,1509年に出版)のなかで,aureate terms のことを次のように説明している (Cap. xi, st. 2; 以下,Nichols 521fn より再引用) .
So that Elocucyon doth ryght well claryfy
The dulcet speche from the language rude,
Tellynge the tale in termes eloquent:
The barbry tongue it doth ferre exclude,
Electynge words which are expedyent,
In Latin or in Englyshe, after the entente,
Encensyng out the aromatyke fume,
Our langage rude to exyle and consume.
Hawes によれば,それは "The dulcet speche" であり,"the aromatyke fume" であり,"the language rude" の対極にあるものだったのだである.
これはラテン語風英語に対する16世紀初頭の評価だが,数十年おいて同世紀の後半になると,さらに本格的なラテン借用語の流入 --- もはや「ラテン語かぶれ」というほどの熱狂 --- が始まることになる.文体史的にも英語史的にも,Chaucer 以来続く1つの大きな流れを認めないわけにはいかない.
関連して,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]),「#1463. euphuism」 ([2013-04-29-1]) を参照.
・ Nichols, Pierrepont H. "Lydgate's Influence on the Aureate Terms of the Scottish Chaucerians." PMLA 47 (1932): 516--22.
標題は "aureate diction" とも称される,主に15世紀に Lydgate などが発展させたラテン語の単語や語法を多用した「金ぴかな」文体である.この語法と John Lydgate (1370?--1450?) の貢献については「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]),「#2657. 英語史上の Lydgate の役割」 ([2016-08-05-1]) で取り上げたことがあった.今回は "aureate terms" の定義と,それに対する同時代の反応について見てみたい.
J. C. Mendenhall は,Areate Terms: A Study in the Literary Diction of the Fifteenth Century (Thesis, U of Pennsylvania, 1919) のなかで,"those new words, chiefly Romance or Latinical in origin, continually sought under authority of criticism and the best writers, for a rich and expressive style in English, from about 1350 to about 1530" (12) と定義している.Mendenhall は,Chaucer をこの新語法の走りとみなしているが,15世紀の Chaucer の追随者,とりわけスコットランドの Robert Henryson や William Dunbar がそれを受け継いで発展させたとしている.
しかし,後に Nichols が明らかにしたように,aureate terms を大成させた最大の功労者は Lydgate といってよい.そもそも aureat(e) という形容詞を英語に導入した人物が Lydgate であるし,この形容詞自体が1つの aureate term なのである.さらに,MED の aurēāt (adj.) を引くと,驚くことに,挙げられている20例すべてが Lydgate の諸作品から取られている.
この語法が Lydgate と強く結びつけられていたことは,同時代の詩人 John Metham の批評からもわかる.Metham は,1448--49年の Romance of Amoryus and Cleopes のエピローグのなかで,詩人としての Chaucer と Lydgate を次のように評価している(以下,Nichols 520 より再引用).
(314)
And yff I the trwthe schuld here wryght,
As gret a style I schuld make in euery degre
As Chauncerys off qwene Eleyne, or Cresseyd, doth endyght;
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
(316)
For thei that greyheryd be, affter folkys estymacion,
Nedys must be more cunne, be kendly nature,
Than he that late begynnyth, as be demonstration,
My mastyr Chauncerys, I mene, that long dyd endure
In practyk off rymyng;---qwerffore proffoundely
With many prouerbys hys bokys rymyd naturally.
(317)
Eke Ion Lydgate, sumtyme monke off Byry,
Hys bokys endyted with termys off retoryk
And halff chongyd Latyne, with conseytys fantastyk,
But eke hys qwyght her schewyd, and hys late werk,
How that hys contynwaunz made hym both a poyet and a clerk.
端的にいえば,Metham は Chaucer は脚韻の詩人だが,Lydgate は aureate terms の詩人だと評しているのである.そして,引用の終わりにかけての箇所に "termys off retoryk / And halff chongyd Latyne, with conseytys fantastyk" とあるが,これはまさに areate terms の同時代的な定義といってよい.それにしても "halff chongyd Latyne" とは言い得て妙である.「#3071. Pig Latin」 ([2017-09-23-1]) を想起せずにいられない.
・ Nichols, Pierrepont H. "Lydgate's Influence on the Aureate Terms of the Scottish Chaucerians." PMLA 47 (1932): 516--22.
9月8日(土)の15:00?18:15に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて講座「英語のエッセンスはことわざに学べ」を開講します.知る人ぞ知る,ことわざは英語表現の醍醐味を味わうのにうってつけの素材なのです.以下の趣旨でお話しする予定です.
どの文化においても,ことわざは人生の機微を巧みに表現するものとして,古くから人々に言いならわされてきました.英語文化においても例外ではなく,古英語期よりことわざが尊ばれ,ことわざ集が編まれてきました.現代に伝わる英語のことわざを学ぶことにより,英語文化で培われてきた人生の知恵を味わえるばかりではなく,英語そのものの深い理解に達することができることは,あまり気づかれていません.ことわざの英語には,太古より存続してきた英語特有の韻律があり,古英語や中英語に起源をもつ英語らしい文法・語法が息づいています.
例えば,「塵も積もれば山となる」に対応する Many a little makes a mickle. は,古英語に典型的な頭韻という詩法と強弱音節の繰り返しという韻律が見事に調和した,言語的にも優れたことわざです.「地獄の沙汰も金次第」に相当する Money makes a mare to go. では,使役の make にもかかわらず to 不定詞が用いられており,現代の文法からは逸脱しているように思われますが,ここにも韻律上の効果を認めることができます.
本講座の前半では,千年以上にわたる英語のことわざの歴史を具体例とともにひもとき,後半では現代まで受け継がれてきた英語のことわざに用いられている様々な言語的な技法を読み解くことにより,現代に残る数々のことわざをこれまで以上に楽しむことを目指します.
英語史の概要はある程度知っているけれども,その知識の骨組みに具体的に肉付けしていこうとすれば,古英語や中英語の原文を読んでいく作業が避けられません.とはいうものの,多くの英語学習者にとって,外国語の古文を読み解くなどということは,あまりに敷居が高いと思われるのではないでしょうか.そこでよい材料となるのが,ことわざです.ことわざには,しばしば古い言葉遣いが残っています.そのようなことわざを題材に,古い音韻,形態,統語,語彙,意味,語法,方言などをつまみ食いつつ,英語史を学ぼうという趣旨です.英語の語彙増強や文法理解にも役立ちますし,英語史の枠をはみ出して,英語学,そして言語学一般の話題への導入にもなります.
もちろん,ことわざの内容自体もおおいに味わう予定です.どうぞお楽しみに.
本ブログでも,時々ことわざについて取り上げてきたので,以下の記事をご覧下さい.
・ 「#564. Many a little makes a mickle」 ([2010-11-12-1])
・ 「#780. ベジタリアンの meat」 ([2011-06-16-1])
・ 「#910. 語の定義がなぜ難しいか」 (1)」 ([2011-10-24-1])
・ 「#948. Be it never so humble, there's no place like home.」 (1)」 ([2011-12-01-1])
・ 「#955. 完璧な語呂合わせの2項イディオム」 ([2011-12-08-1])
・ 「#970. Money makes the mare to go」 ([2011-12-23-1])
・ 「#978. Money makes the mare to go」 (2)」 ([2011-12-31-1])
・ 「#2248. 不定人称代名詞としての you」 ([2015-06-23-1])
・ 「#2395. フランス語からの句の借用」 ([2015-11-17-1])
・ 「#2691. 英語の諺の受容の歴史」 ([2016-09-08-1])
・ 「#3319. Handsome is as handsome does」 ([2018-05-29-1])
・ 「#3320. 英語の諺の分類」 ([2018-05-30-1])
・ 「#3321. 英語の諺の起源,生成,新陳代謝」 ([2018-05-31-1])
・ 「#3322. Many a mickle makes a muckle」 ([2018-06-01-1])
・ 「#3336. 日本語の諺に用いられている語種」 ([2018-06-15-1])
英語の諺の分類には,内容によるもの,形式によるもの,起源によるものなどがあるが,The Oxford Dictionary of Proverbs の序文に掲げられている内容による3分法を紹介しよう (xi) .
Proverbs fall readily into three main categories. Those of the first type take the form of abstract statements expressing general truths, such as Absence makes the heart grow fonder and Nature abhors a vacuum. Proverbs of the second type, which include many of the more colourful examples, use specific observations from everyday experience to make a point which is general; for instance, You can take a horse to water, but you can't make him drink and Don't put all your eggs in one basket. The third type of proverb comprises sayings from particular areas of traditional wisdom and folklore. In this category are found, for example, the health proverbs After dinner rest a while, after supper walk a mile and Feed a cold and starve a fever. These are frequently classical maxims rendered into the vernacular. In addition, there are traditional country proverbs which relate to husbandry, the seasons, and the weather, such as Red sky at night, shepherd's delight; red sky in the morning, shepherd's warning and When the wind is in the east, 'tis neither good for man nor beast.
分類が微妙なケースはあるだろうが,例えば昨日の記事 ([2018-05-29-1]) で紹介した Handsome is as handsome does という諺は,第2のタイプに属するだろうか.
なお,同辞書による諺の定義は,"A proverb is a traditional saying which offers advice or presents a moral in a short and pithy manner." (xi) である.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
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