オタゴ大学の図書館に,新入生のための案内のパンフレットがあり,ふと手に取ってみた.そのなかに,UNIVERSITY JARGON と題するコラムがあった.大学での修学の仕方を手短かに教える内容だ.
UNIVERSITY JARGON
Starting to research your study options and already feeling lost in the jargon? Here are some common terms you're likely to come across.
A DEGREE is the qualification you complete at university. This is your overall PROGRAMME. Your degree will have an abbreviation such as BA, BSc or BCom. That's code for Bachelor of Arts, Bachelor of Science, or Bachelor of Commerce, and so on.
Some PROGRAMMES, such as Health Sciences First Year (HSFY), will lead on to many other degrees.
The SUBJECT you specialise in within your degree is called your Major. When you start your first year at university, choose three or four subjects you'd like to try. One will become your major.
In many degrees you can choose to have a MINOR as well. This is a subject you have stuided at each level, but not in as much depth as your major.
Each subject has LEVELS (100, 200, 300). The first courses youtake are called 100-level papers or beginner papers.
Each subject is divided into PAPERS. They are like topics within each subject --- the building blocks of your degree. They have codes like HIST 104, PSYC 201 and MART 304. The papers you choose each year are your course of study.
When you pass each paper, you get POINTS towards your degree. Papers are generally worth 18 points and a three-year degree needs 360 points. This usually consists of 20 papers, an average of 7 papers per year.
A DOUBLE DEGREE is when you study two degrees at the same time. There are also options to combine two majors from different degrees in a single four-year degree. These COMBINED DEGREES include Arts and Business, Arts and Science, and Business Science.
かなり複雑な履修システムをコンパクトに解説している文章だと思うが,新入生にとって初見で理解するのは容易ではないだろう.読み手の私は大学のシステムを理解しているので,これだけで分かるのだが,実際には凝縮しすぎているように思われる.たとえば major と specialise という jargons の意味は,相互に規定されるものであるから,同じ文に共起することによって,一方でともに理解しやすくなるという事情もあるかもしれないが,他方でいずれもチンプンカンプンとなってしまう恐れがある.
この文章は,個々の jargon を新入生のために解説している文章として読むのが普通だろうが,実は新入生に jargon とは何かを教える文章となっているのではないかとも解釈でき,おもしろい.つまり,ここで新入生を意味不明な jargon の羅列にさらすことによって,大学という特有の世界に誘い,仲間意識を醸成しようとしているのだ,と.
jargon の役割は,その意味が一見して自明ではないところに存する.jargons の羅列やその語彙体系は,独特で魅惑的な世界をちらつかせ,そこに引き寄せられる者のみに入会を許可する社会言語学的な機能をもっている.
関連して「#2410. slang, cant, argot, jargon, antilanguage」 ([2015-12-02-1]) を参照.
一昨日の heldio 配信「#1628. ニュージーランド最古のオタゴ大学の時計台の前より」は,NZの南島のダニーデンに位置するオタゴ大学(University of Otago)のキャンパスからお届けしました.大学のシンボルである時計台の前に広がる芝生より,この地の植民史と英語史に思いを馳せました.
Captain Cook (1728--79) が1769年にニュージーランドに訪れ,先住民のマオリ人と初めて接触した後,この地はヨーロッパ人たちにとって鯨やアザラシの漁場となりました.その後,1840年に正式にイギリスの植民地となり,主にイギリス人による植民が一気に進みました.その後間もない1869年には,ダニーデンにニュージーランド最古の大学としてオタゴ大学が創立されました.このスピーディな展開には驚くばかりです.背後には初期移民たちの宗教上の情熱,啓蒙思想,勤勉さがあったのですが,その程度がいかに凄まじかったかが想像されます.
オタゴ大学の創立,より広くはダニーデンという町の建設に関わった初期移民の顔ぶれを見ると,スコットランド一色であることがわかります.初代学長を務めたのは,熱心な聖職者であった Thomas Burns (1796--1871) です.彼は,スコットランドを代表する詩人 Robert Burns (1759--96) の甥にあたります.
また,私が愛着を感じてやまないのは,このオタゴ大学の時計台が,私の母校でもあるスコットランドのグラスゴー大学の建築様式にインスピレーションを受けているという事実です.ダニーデンの町並み全体が,スコットランドの首都エディンバラを思わせる一方で,この大学の時計台はグラスゴーの雰囲気を纏っているのです!
この大学の歴史を語る上でもう1つ見逃せないのが,女性の入学を許可したことです.1871年の新体制において,オタゴ大学は,イギリス帝国内で初めてすべての階層の女性に学びの扉を開いた大学となりました.
もう1点,同時代の大きな出来事として,この町の急速な経済発展を支えた1861年のゴールドラッシュがあります.これにより,オーストラリア人をはじめとして,遠く中国からも多くの人々が金に惹かれて流入しました.これは,スコットランド英語の影響が強かった,この土地の初期の英語に,オーストラリア英語や,さらに異言語との接触の機会を与えることになりました.ニュージーランド英語史上の重要な契機だったといってよいでしょう.
ダニーデンという都市とオタゴ大学は,英語史のメインストリームからは外れたニュージーランドという場所にありながらも,英語の拡散,変種の移植,方言・言語接触といった,英語史における社会言語学的な話題を凝縮して見せてくれています.
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