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verb - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-12 07:24

2024-10-05 Sat

#5640. It rains. をめぐって [3ps][impersonal_verb][verb][inflection][voicy][heldio][hellive2024][hel_herald][khelf][sobokunagimon]



 少し前のことになりますが,9月25日(水)の Voicy heldio にて「#1214. 教えて khelf 会長! 天候の it って何? ー 「#英語史ライヴ2024」より」を配信しました.khelf のメンバーを中心に大いに議論が盛り上がりました.khelf や helwa の内部では,このような英語史談義は日常茶飯事であり,さして珍しくもありません.しかし,一般に公開してみましたら,多くの方々よりニッチなオタクの集団として喜んで(?)いただいたようで,喜ばしい限りです.こんな感じで,日々hel活を展開しています.
 なぜ It rains. なのか,という今回の話題をめぐっては,絶対的な答えが示されているわけではありません.むしろ,この謎を題材として談義自体を楽しんでしまおうという趣旨の企画でした.コメント欄も,リスナーさんによる驚きの声で盛り上がっていますので,ぜひお読みください.
 本ブログでは,関連する話題を以下の記事で取り上げてきました.

 ・ 「#4208. It rains. は行為者不在で「降雨がある」ほどの意」 ([2020-11-03-1])
 ・ 「#4210. 人称の出現は3人称に始まり,後に1,2人称へと展開した?」 ([2020-11-05-1]))
 ・ 「#4211. 印欧語は「出来事を描写する言語」から「行為者を確定する言語」へ」 ([2020-11-06-1])

 また,収録のなかでも触れられていますが,khelf による『英語史新聞』第9号(2023年5月12日発行)の第1面下部でも「天候の it ってなんだ?」として取り上げられています.
 優にあと30分は,皆で議論し続けられたと思います.おかげさまで「英語史ライヴ2024」のなかでも勢いのある番組となりました.

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2024-09-17 Tue

#5622. methoughts の用例を再び [3ps][impersonal_verb][verb][inflection][preterite][analogy][methinks][eebo][corpus][emode][comment_clause]

 「#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介」 ([2024-01-24-1]) と「#5386. 英語史上きわめて破格な3単過の -s」 ([2024-01-25-1]) で触れたように,近代英語期には methoughts という英文法史上なんとも珍妙な動詞形態が現われます.過去形なのに -s 語尾が付くという驚きの語形です.
 今回は,methoughts の初期近代英語期からの例を EEBO corpus より抜き出してみました(コンコーダンスラインのテキストファイルはこちら).10年刻みでのヒット数は,次の通りです.

 ALL1600s1610s1620s1630s1640s1650s1660s1670s1680s1690s
METHOUGHTS184   16618377541


 15--16世紀中には1例も現われなかったので表中には示しませんでした.17世紀に入り,とりわけ後半以降に分布を伸ばしてきています.EEBO で追いかけられるのはここまでですが,この後の18世紀以降の分布も気になるところです.
 コンコーダンスラインを眺めていると,methoughts は主節を担うというよりも,すでに評言節 (comment_clause) として挿入的に用いられている例が多いことが窺われます(これ自体は,対応する現在形 methinks の役割からも容易に予想されますが).
 また,methoughts の近くに類義語というべき seem が現われる例もいくつか確認され,評言節からさらに発展して,副詞程度の役割に到達しているとすら疑われるほどです.

 ・ 1676: methoughts she seem'd though very reserv'd, and uneasie all the time i entertain'd her
 ・ 1678: methoughts my head seemed as it were diaphanous
 ・ 1679: nay, they so beautiful, so fair did seem, methoughts i took and eat'em in my dream
 ・ 1695: yet methoughts you seem chiefly to place this vacancy of the throne upon king iames's abdication

 英語史上短命に終わった,きわめて珍妙なこの語形から目が離せません.

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2024-08-06 Tue

#5580. 過去分詞は動詞か形容詞か --- Mond での回答 [prototype][verb][adjective][participle][mond][sobokunagimon][parts_of_speech][category]

 先日,知識共有サービス Mond にて,次の問いが寄せられました.

be + 過去分詞(受身)の過去分詞は,動詞なんですか, それとも形容詞なんですか? The door was opened by John. 「そのドアはジョンによって開けられた」は意味的にも動詞だと思いますが,John is interested in English. 「ジョンは英語に興味がある」は, 動詞というよりかは形容詞だと思います.これらの現象は,言語学的にどう説明されるんでしょうか?


 この問いに対して,こちらの回答を Mond に投稿しました.詳しくはそちらを読んでいただければと思いますが,要点としてはプロトタイプ (prototype) で考えるのがよいという回答でした.
 過去分詞は動詞由来ではありますが,機能としては形容詞に寄っています.そもそも過去分詞に限らず現在分詞も,さらには不定詞や動名詞などの他の準動詞も,本来の動詞を別の品詞として活用したい場合の文法項目ですので,動詞と○○詞の両方の特性をもっているのは不思議なことではなく,むしろ各々の定義に近いところのものです.
 上記の Mond の回答では,動詞から形容詞への連続体を想定し,そこから4つの点を取り出すという趣旨で例文を挙げました.回答の際に参照した Quirk et al. (§3.74--78) の記述では,実はもっと詳しく8つほどの点が設定されています.以下に8つの例文を引用し,Mond への回答の補足としたいと思います.(1)--(4) が動詞ぽい半分,(5)--(8) が形容詞ぽい半分です.

(1) This violin was made by my father
(2) This conclusion is hardly justified by the results.
(3) Coal has been replaced by oil.
(4) This difficulty can be avoided in several ways.


(5) We are encouraged to go on with the project.
(6) Leonard was interested in linguistics.
(7) The building is already demolished.
(8) The modern world is getting ['becoming'] more highly industrialized and mechanized.


 この問題と関連して,以下の hellog 記事もご参照ください.

 ・ 「#1964. プロトタイプ」 ([2014-09-12-1])
 ・ 「#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」 ([2018-12-29-1])
 ・ 「#4436. 形容詞のプロトタイプ」 ([2021-06-19-1])
 ・ 「#3307. 文法用語としての participle 「分詞」」 ([2018-05-17-1])

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2024-07-20 Sat

#5563. 古英語の変則動詞 (anomalous verbs) [verb][oe][conjugation][inflection][paradigm][suppletion][auxiliary_verb][be]

 現代英文法では,動詞を規則動詞 (regular verbs) と不規則動詞 (irregular verb) とに分けるやり方がある.不規則動詞のなかでもとりわけ不規則性の激しい少数の動詞(例えば be, have, can など)は,変則動詞 (anomalous verbs) と呼ばれることがある.これら変則動詞の変則性は,歴史的にはある程度は説明できるものの,相当に複雑であることは確かであり,共時的な観点からは「変則」というグループに追いやって処理しておこうという一種の便法が伝統的に採用されている.
 古英語にも,共時的な観点からの変則動詞は存在した.willan (= PDE "to will"), dōn (= PDE "to do"), gān (= PDE "to go") である.古英語においてすら共時的に「変則」として片付けられてしまう,これらの異色の動詞の屈折表を,Hogg (40) より掲げよう.古くから変則的だったのだ.

Pres.willandōngān
1 Sing.wille
2 Sing.wiltdēstgǣst
Sing.wiledēðgǣð
Pluralwillaðdōðgāð
Subj. (Pl.)wille (willen)dō(dōn)gā(gān)
Participlewillendedōnde---
Past   
Ind.woldedydeēode
Participle---ġedōnġegān


 いうまでもなく bēon (= PDE "to be") も,古英語のもう1つの変則動詞である.この動詞については「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1]) を参照.

 ・ Hogg, Richard. An Introduction to Old English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.

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2024-03-22 Fri

#5443. blow - blew - blown --- 古英語強変化動詞第7類 [oe][verb][conjugation][preterite][morphology][phonetics][paradigm][yod-dropping][sound_change][spelling_pronunciation_gap][voicy][heldio]

 昨日の記事「#5442. 『ライトハウス英和辞典 第7版』の付録「つづり字と発音解説」」 ([2024-03-21-1]) で,「吹く」を意味する動詞 blow の現代英語での活用とその発音に触れた.とりわけ blew と綴って /bluː/ と発音する件に注意を促した.この問題をめぐって,ここ数日間の Voicy heldio でも取り上げてきたので,ぜひ聴取していただければ.

 ・ 「#1023. new は「ニュー」か「ヌー」か? --- 音変化と語彙拡散」
 ・ 「#1025. blow - blew 「ブルー」 - blown」
 ・ 「#1026. なぜ now と know は発音が違うの?」

 blow は古英語においては強変化動詞第7類に属する動詞だった.同じ第7類に属し比較されるべき動詞として know, grow, throw が挙げられる.各々,現代英語で know - knew - known; grow - grew - grown; throw - threw - thrown のように blow とよく似た活用を示す.この4動詞について,古英語での4主要形をまとめておこう(4主要形など古英語強変化動詞の詳細については「#2217. 古英語強変化動詞の類型のまとめ」 ([2015-05-23-1]) や「#42. 古英語には過去形の語幹が二種類あった」 ([2009-06-09-1]) を参照).

 不定詞第1過去第2過去過去分詞
"blow"blāwanblēowblēowonblāwen
"know"cnā_wancnēowcnēowoncnāwen
"grow"grōwangrēowgrēowongrōwen
"throw"þrāwanþrēowþrēowonþrōwen


 第1過去あるいは第2過去の語幹母音に注目すると,もともとの古英語では /eːɔw/ ほどだった.これが千年の時を経て,/eːɔw/ > /eːʊ/ > /eʊ/ > /ˈɪʊ/ > /ɪˈʊ/ > /juː/ > /uː/ のように変化してきたのである.
 現代英語で似た活用をするさらに他の動詞として,fly - flew - flown; draw - drew - drawn; slay - slew - slain がある.ただし,古英語では fly は第2類,drawslay は第6類であり,blow とは所属が異なった.これらはおそらく blow タイプとの類推 (analogy) により,活用が似たものになってきたのだろう.各動詞はそれぞれ独自の歴史を背負っており,変化の記述も一筋縄では行かないものである.

 ・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.

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2024-02-12 Mon

#5404. 言語は名詞から始まったのか,動詞から始まったのか? [homo_sapiens][origin_of_language][evolution][history_of_linguistics][grammaticalisation][noun][verb][category][name_project][onomastics][naming]

 標題は解決しようのない疑問ではあるが,言語学史 (history_of_linguistics) においては言語の起源 (origin_of_language) をめぐる議論のなかで時々言及されてきた問いである.
 Mufwene (22) を参照して,2人の論者とその見解を紹介したい.ドイツの哲学者 Johann Gottfried von Herder (1744--1803) とアメリカの言語学者 William Dwight Whitney (1827--94) である.

   Herder also speculated that language started with the practice of naming. He claimed that predicates, which denote activities and conditions, were the first names; nouns were derived from them . . . . He thus partly anticipated Heine and Kuteva (2007), who argue that grammar emerged gradually, through the grammaticization of nouns and verbs into grammatical markers, including complementizers, which make it possible to form complex sentences. An issue arising from Herder's position is whether nouns and verbs could not have emerged concurrently. . . .
   On the other hand, as hypothesized by William Dwight Whitney . . . , the original naming practice need not have entailed the distinction between nouns and verbs and the capacity to predicate. At the same time, naming may have amounted to pointing with (pre-)linguistic signs; predication may have started only after hominins were capable of describing states of affairs compositionally, combining word-size units in this case, rather than holophrastically.


 Herder は言語は名付け (naming) の実践から始まったと考えた.ところが,その名付けの結果としての「名前」が最初は名詞ではなく述語動詞だったという.この辺りは意外な発想で興味深い.Herder は,名詞は後に動詞から派生したものであると考えた.これは現代の文法化 (grammaticalisation) の理論でいうところの文法範疇の創発という考え方に近いかもしれない.
 一方,Whitney は,言語は動詞と名詞の区別のない段階で一語表現 (holophrasis) に発したのであり,あくまで後になってからそれらの文法範疇が発達したと考えた.
 言語起源論と文法化理論はこのような論点において関係づけられるのかと感心した次第.

 ・ Mufwene, Salikoko S. "The Origins and the Evolution of Language." Chapter 1 of The Oxford Handbook of the History of Linguistics. Ed. Keith Allan. Oxford: OUP, 2013. 13--52.

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2024-01-25 Thu

#5386. 英語史上きわめて破格な3単過の -s [3ps][impersonal_verb][verb][inflection][agreement][analogy][shakespeare][link][methinks]

 昨日の記事「#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介」 ([2024-01-24-1]) の後半で少し触れましたが,近代英語期の半ばに methoughts なる珍妙な形態が現われることがあります.直説法・3人称・単数・過去,つまり「3単過の -s」という破格の語形です.生起頻度は詳しく調べていませんが,OED によると,Shakespeare からの例を初出として17世紀から18世紀半ばにかけて用例が文証されるようです.英語史上きわめて破格であり,希少価値の高い形態といえます(英語史研究者は興奮します).
 OEDmethinks, v. の異形態欄にて γ 系列の形態として掲げられている5つの例文を引用します.

a1616 Me thoughts that I had broken from the Tower. (W. Shakespeare, Richard III (1623) i. iv. 9)
1620 The draught of a Landskip on a piece of paper, me thoughts masterly done. (H. Wotton, Letter in Reliquiæ Wottonianæ (1651) 413)
1673 I had..coyned several new English Words, which were onely such French Words as methoughts had a fine Tone wieh them. (F. Kirkman, Unlucky Citizen 181)
1711 Methoughts I was transported into a Country that was filled with Prodigies. (J. Addison, Spectator No. 63. ¶3)
1751 The inward Satisfaction which I felt, had spread in my Eyes I know not what of melting and passionate, which methoughts I had never before observed. (translation of Female Foundling vol. I. 30)


 methoughts の生起頻度を詳しく調べていく必要がありますが,いくつかの例が文証されている以上,単なるエラーで済ませるわけにはいきません.この形態の背景にあるのは,間違いなく3単現の形態で頻度の高い methinks でしょう.methinks からの類推 (analogy) により,過去形にも -s 語尾が付されたと考えられます.逆にいえば,このように類推した話者は,現在形 methinks の -s を3単現の -s として認識していなかったかとも想像されます.他の動詞でも3単過の -s の事例があり得るのか否か,疑問が次から次へと湧き出てきます.
 実はこの methoughts という珍妙な過去形の存在について最初に教えていただいたのは,同僚のシェイクスピア研究者である井出新先生(慶應義塾大学文学部英米文学専攻)でした.その経緯は,先日の YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」にて簡単にお話ししました.「#195. 井出新さん『シェイクスピア,それが問題だ! --- シェイクスピアを楽しみ尽くすための百問百答』(大修館書店)のご紹介」をご覧ください.



 関連して,井出先生とご近著について,以下の hellog および heldio でもご紹介していますので,ぜひご訪問ください.

 ・ hellog 「#5357. 井出新先生との対談 --- 新著『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)をめぐって」 ([2023-12-27-1])
 ・ heldio 「#934. 『シェイクスピア,それが問題だ!』(大修館,2023年) --- 著者の井出新先生との対談」

 英語史にはおもしろい問題がゴロゴロ転がっています.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.

Referrer (Inside): [2024-09-17-1] [2024-01-26-1]

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2024-01-24 Wed

#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介 [3ps][impersonal_verb][verb][syntax][inflection][hc][agreement][analogy][shakespeare][methinks]

 非人称動詞 (impersonal_verb) の methinks については「#4308. 現代に残る非人称動詞 methinks」 ([2021-02-11-1]),「#204. 非人称構文」 ([2009-11-17-1]) などで触れてきた.非人称構文 (impersonal construction) では人称主語が現われないが,文法上その文で用いられている非人称動詞はあたかも3人称単数主語の存在を前提としているかのような屈折語尾をとる.つまり,大多数の用例にみられるように,直説法単数であれば,-s (古くは -eth) をとるということになる.
 ところが,用例を眺めていると,-s などの子音語尾を取らないものが散見される.Wischer (362) が,Helsinki Corpus から拾った中英語の興味深い例文をいくつか示しているので,それを少々改変して提示しよう.

(10) þe þincheð þat he ne mihte his sinne forlete.
       'It seems to you that he might not relinquish his sin.'
       (MX/1 Ir Hom Trin 12, 73)

(11) Thy wombe is waxen grete, thynke me.
       'Your womb has grown big. You seem to be pregnant.'
       (M4 XX Myst York 119)
     
(12) My lord me thynketh / my lady here hath saide to you trouthe and gyuen yow good counseyl [...]
       (M4 Ni Fict Reynard 54)
     
(13) I se on the firmament, Me thynk, the seven starnes.
       (M4 XX Myst Town 25)


 子音語尾を伴っている普通の例が (10) と (12),伴っていない例外的なものが (11) と (13) である.(11) では論理上の主語に相当する与格代名詞 me が後置されており,それと語尾の欠如が関係しているかとも疑われたが,(13) では Me が前置されているので,そういうことでもなさそうだ.OEDmethinks, v. からも子音語尾を伴わない用例が少なからず確認され,単純なエラーではないらしい.
 では語尾欠如にはどのような背景があるのだろうか.1つには,人称構文の I think (当然ながら文法的 -s 語尾などはつかない)との間で混同が起こった可能性がある.もう1つヒントとなるのは,当該の動詞が,この動詞を含む節の外部にある名詞句に一致していると解釈できる例が現われることだ.OED で引用されている次の例文では,methink'st thou art . . . . というきわめて興味深い事例が確認される.

a1616 Meethink'st thou art a generall offence, and euery man shold beate thee. (W. Shakespeare, All's Well that ends Well (1623) ii. iii. 251)


 さらに,動詞の過去形は3単「現」語尾をとるはずがないので,この動詞の形態は事実上 methought に限定されそうだが,実際には現在形からの類推 (analogy) に基づく形態とおぼしき methoughts も,OED によるとやはり Shakespeare などに現われている.
 どうも methinks は,動詞としてはきわめて周辺的なところに位置づけられる変わり者のようだ.中途半端な語彙化というべきか,むしろ行き過ぎた語彙化というべきか,分類するのも難しい.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.

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2023-11-12 Sun

#5312. 「ゆる言語学ラジオ」最新回は「不規則動詞はなぜ存在するのか?」 [yurugengogakuradio][verb][inflection][conjugation][sobokunagimon][frequency][voicy][heldio][youtube][link][notice][numeral][suppletion][analogy]

 昨日,人気 YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回が配信されました.今回は英語史ともおおいに関係する「不規則動詞はなぜ存在するのか?【カタルシス英文法_不規則動詞】#280」です.



 ゆる言語学ラジオの水野太貴さんには,拙著,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio),および YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」のいくつかの関連コンテンツに言及していただきました.抜群の発信力をもつゆる言語学ラジオさんに,この英語史上の第一級の話題を取り上げていただき,とても嬉しいです.このトピックの魅力が広く伝わりますように.
 概要欄に掲載していただいたコンテンツ等へのリンクを,こちらにも再掲しておきます.

 ・ 拙著 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)
 ・ 拙著 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)
 ・ heldio 「#58. なぜ高頻度語には不規則なことが多いのですか?」
 ・ YouTube 「新説! go の過去形が went な理由」 (cf. 「#4774. go/went は社会言語学的リトマス試験紙である」 ([2022-05-23-1]))
 ・ YouTube 「英語の不規則活用動詞のひきこもごも --- ヴァイキングも登場!」 (cf. hellog 「#4810. sing の過去形は sang でもあり sung でもある!」 ([2022-06-28-1]))
 ・ YouTube 「昔の英語は不規則動詞だらけ!」 (cf. 「#4807. -ed により過去形を作る規則動詞の出現は革命的だった!」 ([2022-06-25-1]))
 ・ heldio 「#9. first の -st は最上級だった!」
 ・ heldio 「#10. third は three + th の変形なので準規則的」
 ・ heldio 「#11. なぜか second 「2番目の」は借用語!」

 「不規則動詞はなぜ存在するのか?」という英語に関する素朴な疑問から説き起こし,補充法 (suppletion) の話題(「ヴィヴァ・サンバ!」)を導入した後に,不規則形の社会言語学的意義を経由しつつ,全体として言語における「規則」あるいは「不規則」とは何なのかという大きな議論を提示していただきました.水野さん,堀元さん,ありがとうございました! 「#5130. 「ゆる言語学ラジオ」周りの話題とリンク集」 ([2023-05-14-1]) もぜひご参照ください.

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2023-08-01 Tue

#5209. 他動性 (transitivity) とは何か? (3) [transitivity][termonology][verb][grammar][syntax][construction][semantic_role][semantics]

 他動性 (transitivity) について,2回にわたって論じてきた.

 ・ 「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1])
 ・ 「#5204. 他動性 (transitivity) とは何か? (2)」 [2023-07-27-1]

 今回は Bussmann (494--95) の用語辞典より transitivity の項を引用する.

Valence property of verbs which require a direct object, e.g. read, see, hear. Used more broadly, verbs which govern other objects (e.g. dative, genitive) can also be termed 'transitive'; while only verbs which have no object at all (e.g. sleep, rain) would be intransitive. Hopper and Thompson (1980) introduce other factors of transitivity in the framework of universal grammar, which result in a graduated concept of transitivity. In addition to the selection of a direct object, other semantic roles as well as the properties of adverbials, mood, affirmation vs negation, and aspect play a role. A maximally transitive sentence contains a non-negated resultive verb in the indicative which requires at least a subject and direct object; the verb complements function as agent and affected object, are definite and animate . . . . Using data from various languages, Hopper and Thompson demonstrate that each of the factors listed above as affecting transitivity is important for making transivtivity through case, adpositions, or verbal inflection. Thus in many languages (e.g. Lithuanian, Polish, Middle High German) affirmation vs negation correlates with the selection of case for objects in such a way that in affirmative sentences the object is usually in the accusative, while in negated sentences the object of the same verb occurs in the genitive or in another oblique case.


 他動性とは,(1) グラデーションであること,(2) 言語によってその具現化の方法は様々であること,が分かってきた.理論的には,対格目的語を要求する,結果を表わす直説法の肯定動詞が,最大限に "transitive" であるということだ.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2023-09-23-1]

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2023-07-27 Thu

#5204. 他動性 (transitivity) とは何か? (2) [transitivity][termonology][verb][grammar][syntax][construction][semantic_role][semantics][philosophy_of_language]

 「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1]) ひ引き続き,他動性 (transitivity) について.
 Halliday の機能文法によると,他動性を考える際には3つのパラメータが重要となる.過程 (process),参与者 (participant),状況 (circumstance) の3つだ.このうち,とりわけ過程 (process) が支配的なパラメータとなる.
 「過程」と称されるものには大きく3つの種類がある.さらに小さくいえば3つの種類が付け足される.それぞれを挙げると,物質的 (material),精神的 (mental),関係的 (relational),そして 行為的 (behavioural), 言語的 (verbal), 存在的 (existential) の6種となる.

Transitivity A term used mainly in systemic functional linguistics to refer to the system of grammatical choices available in language for representing actions, events, experiences and relationships in the world . . . .
   There are three components in a transitivity process: the process type (the process or state represented by the verb phrase in a clause), the participant(s) (people, things or concepts involved in a process or experiencing a state) and the circumstance (elements augmenting the clause, providing information about extent, location, manner, cause, contingency and so on). So in the clause 'Mary and Jim ate fish and chips on Friday', the process is represented by 'ate', the participants are 'Mary and Jim' and the circumstances are 'on Friday'.
   Halliday and Mtthiesen (2004) identify three main process types, material, mental and relational, and three minor types, behavioural, verbal and existential. Associated with each process are certain kinds of participants. 1) Material processes refer to actions and events. The verb in a material process clause is usually a 'doing' word . . .: Elinor grabbed a fire extinguisher; She kicked Marina. Participants in material processes include actor ('Elinor', 'she') and goal ('a fire extinguisher', 'Marina'). 2) Metal processes refer to states of mind or psychological experiences. The verb in a mental process clause is usually a mental verb: I can't remember his name; Our party believes in choice. Participants in mental processes include senser(s) ('I'; 'our party') and phenomenon ('his name'; 'choice'). 3) Relational processes commonly ascribe an attribute to an entity, or identify it: Something smells awful in here; My name is Scruff. The verb in a relational processes include token ('something', 'my name')) and value ('Scruff', 'awful'). 4) Behavioural processes are concerned with the behaviour of a participant who is a conscious entity. They lie somewhere between material and mental processes. The verb in a behavioural process clause is usually intransitive, and semantically it refers to a process of consciousness or a physiological state: Many survivors are sleeping in the open; The baby cried. The participant in a behavioral process is called a behaver. 5) Verbal processes are processes of verbal action: 'Really?', said Septimus Coffin; He told them a story about a gooseberry in a lift. Participants in verbal processes include sayer ('Septimus Coffin', 'he'), verbiage ('really', 'a story') an recipient ('them'). 6) Existential processes report the existence of someone or something. Only one participant is involved in an existential process: the existent. There are two main grammatical forms for this type of process: existential there as subject + copular verb (There are thousands of examples.); and existent as subject + copular verb (Maureen was at home.)


 これらは,言語活動においてとりわけ根源的な意味関係の6種を選び取ったものといってよいだろう.言語哲学的にいえば,これらのパラメータがどこまで根源的な言語カテゴリーを構成するのかは分からない.考え方一つである.
 しかし,機能文法的には当面これらを前提として「過程」が定義され,さらにいえば「他動性」の程度も決まってくる,ということになっている.他動性とはすぐれて相対的な概念・用語ではあるが,このような言語観・文法観の枠組みから出てきた発想であることは知っておきたい.

 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

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2023-07-25 Tue

#5202. 他動性 (transitivity) とは何か? [transitivity][termonology][verb][mood][grammar][syntax][construction]

 『新英語学辞典』 (1267) によると,他動性 (transitivity) は Halliday の文法理論における用語で,法 (mood) と主題 (theme) とともに Halliday 文法における3つの大きな体系網を構成する.他動性とは,他動詞 (transitive verb) と自動詞 (intransitive verb) の区別に対応する概念というよりも,むしろ節に参与する要素間の「関与性」ととらえるほうが適切だろう.
 例えば Sir Chirstopher Wren built this bridge. といった典型的な SVO の文においては,行為者,過程,目標の3者が互いに関与し合っており,他動的であるといわれる.しかし,これは単純で典型的な例にすぎない.いくつの参与者がどのように関与し合っているかのパターンは様々であり,細分化していくと最終的には一つひとつの個別具体的な過程を区別しなければならなくなるだろう.この細分化の尺度を delicacy と呼んでいる.他動性は,したがって,動詞がいくつの項を取り得るかという問題や,伝統文法における「文型」の話題とも関連してくる.
 英文法に引きつけて考えるために,Crystal の言語学辞典より transitivity を引いて,例とともに理解していこう.

transitivity (n.) A category used in the grammatical analysis of clause/sentence constructions, with particular reference to the verb's relationship to dependent elements of structure. The main members of this category are transitive (tr, trans), referring to a verb which can take a direct object (as in he saw the dog), and intransitive (intr, intrans), where it cannot (as in *he arrived a ball). Many verbs can have both a transitive and an intransitive use (cf. we went a mile v. we went), and in some languages this distinction is marked morphologically. More complex relationships between a verb and the elements dependent upon it are usually classified separately. For example, verbs which take two objects are sometimes called ditransitive (as opposed to monotransitive), as in she gave me a pencil. There are also several uses of verbs which are marginal to one or other of these categories, as in pseudo-intranstive constructions (e.g. the eggs are selling well, where an agent is assumed --- 'someone is selling the eggs' --- unlike normal intransitive constructions, which do not have an agent transform: we went, but not *someone went us). Some grammarians also talk about (in)transitive prepositions. For example, with is a transitive preposition, as it must always be accompanied by a noun phrase complement (object), and along can be transitive or intransitive: cf. She arrived with a dog v. *She arrived with and She was walking along the river v. She was walking along.


 他動性については,今後も考えていきたい.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

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2023-06-12 Mon

#5159. 英語史を通じて時制はいかに表現されてきたか [sobokunagimon][tense][future][preterite][progressive][perfect][verb][aspect][grammaticalisation]

 英語史において時制カテゴリーの成因や対応する表現はしばしば変化してきた.例えば,未来のことを指示するのにどのような表現が用いられてきたかを歴史に沿ってたどってみると,古英語から中英語にかけては現在時制を用いていたが,中英語から現代英語にかけては shall/will などを用いた迂言的な表現を用いるようになった等々.
 Görlach (100) は,時制カテゴリーをめぐる英語史上の変化の概略を表にまとめている.以下に引用する.

Tense Expressions in HEL by Goerlach



 ざっくりとした見取り図として参考にされたい.

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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2023-06-01 Thu

#5148. ゲルマン祖語の強変化動詞の命令法の屈折 [germanic][imperative][inflection][paradigm][verb][person][number][subjunctive][mood][reconstruction][comparative_linguistics]

 現代英語の動詞の命令法の形態は,原形に一致する.一方,古英語に遡ると,命令法では原形(不定詞)とは異なる形態を取り,さらに2人称単数と複数とで原則として異なる屈折語尾を取った.
 しかし,さらに歴史を巻き戻してゲルマン祖語にまで遡ると,再建形ではあるにせよ,数・人称に応じて,より多くの異なる屈折語尾を取っていたとされる.以下に,ゲルマン祖語の大多数の強変化動詞について再建されている屈折語尾を示す (Ringe 237) .

 indicativesubjunctiveimperative 
active   infinitive -a-ną
sg.1 -ō-a-ų---participle -a-nd-
 2 -i-zi-ai-zø 
 3 -i-di-ai-ø-a-dau 
du.1 -ōz(?)-ai-w--- 
 2 -a-diz(?)-a-diz(?)-a-diz(?) 
pl.1 -a-maz-ai-m--- 
 2 -i-d-ai-d-i-d 
 3 a-ndi-ai-n-a-ndau 


 とりわけ imperative (命令法)の列に注目していただきたい.単数・両数・複数の3つの数カテゴリーについて,2・3人称に具体的な屈折語尾がみえる.数・人称に応じて異なる屈折が行なわれていたことが理論的に再建されているのだ.
 英語史も含め,その後のゲルマン語史は,命令法の形態の区別が徐々に弱まり,失われていく歴史といってよい.英語史内部での命令法の形態や,それと関連する話題については,以下の記事を参照.

 ・ 「#2289. 命令文に主語が現われない件」 ([2015-08-03-1])
 ・ 「#2475. 命令にはなぜ動詞の原形が用いられるのか」 ([2016-02-05-1])
 ・ 「#2476. 英語史において動詞の命令法と接続法が形態的・機能的に融合した件」 ([2016-02-06-1])
 ・ 「#2480. 命令にはなぜ動詞の原形が用いられるのか (2)」 ([2016-02-10-1])
 ・ 「#2881. 中英語期の複数2人称命令形語尾の消失」 ([2017-03-17-1])
 ・ 「#3620. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (1)」 ([2019-03-26-1])
 ・ 「#3621. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (2)」 ([2019-03-27-1])
 ・ 「#4935. 接続法と命令法の近似」 ([2022-10-31-1])

 ・ Ringe, Don. From Proto-Indo-European to Proto-Germanic. Oxford: Clarendon, 2006.

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2023-05-13 Sat

#5129. 進行形に関する「ケルト語仮説」 [celtic][borrowing][syntax][contact][substratum_theory][celtic_hypothesis][progressive][verb][irish_english][aspect]

 「#4595. 強調構文に関する「ケルト語仮説」」 ([2021-11-25-1]) で参照した Filppula and Klemola の論文を再読している.同論文では,英語における be + -ing の「進行形」 (progressive form) の発達(その時期は中英語期とされる)も基層のケルト語の影響によるものではないかという「ケルト語仮説」 (celtic_hypothesis) が唱えられている.
 まず興味深い事実として,現代のケルト圏で行なわれている英語諸変種では,標準英語よりも広範に進行形が用いられるという.具体的には Irish English, Welsh English, Hebridean English, Manx English において,標準的には進行形を取りにくいとされる状態動詞がしばしば進行形で用いられること,動作動詞を進行形にすることにより習慣相が示されること,wouldused (to) に進行形が後続し,習慣的行動が表わされること,dowill に進行形が後続する用法がみられることが報告されている.Filppula and Klemola (212--14) より,それぞれの例文を示そう.

 ・ There was a lot about fairies long ago [...] but I'm thinkin' that most of 'em are vanished.
 ・ I remember my granfather and old people that lived down the road here, they be all walking over to the chapel of a Sunday afternoon and they be going again at night.
 ・ But they, I heard my father and uncle saying they used be dancing there long ago, like, you know.
 ・ Yeah, that's, that's the camp. Military camp they call it [...] They do be shooting there couple of times a week or so.


 これらは現代のケルト変種の英語に見られる進行形の多用という現象を示すものであり,事実として受け入れられる.しかし,ケルト語仮説の要点は,中英語における進行形の発達そのものが基層のケルト語の影響によるものだということだ.前者と後者は注目している時代も側面も異なっていることに注意したい.それでも,Filppula and Klemola (218--19) は,次の5つの論点を挙げながら,ケルト語仮説を支持する(引用中の PF は "progressive forms" を指す).

(i) Of all the suggested parallels to the English PF, the Celtic (Brythonic) ones are clearly the closest, and hence, the most plausible ones, whether one think of the OE periphrastic constructions or those established in the ME and modern periods, involving the -ing form of verbs. This fact has not been given due weight in some of the earlier work on this subject.
(ii) The chronological precedence of the Celtic constructions is beyond any reasonable doubt, which also enhances the probability of contact influence from Celtic on English.
(iii) The socio-historical circumstances of the Celtic-English interface cannot have constituted an obstacle to Celtic substratum influences in the area of grammar, as has traditionally been argued especially on the basis of the research (and some of the earlier, too) has shown that the language shift situation in the centuries following the settlement of the Germanic tribes in Britain was most conductive to such influences. Again, this aspect has been ignored or not properly understood in some of the research which has tried to play down the role of Celtic influence in the history of English.
(iv) The Celtic-English contacts in the modern period have resulted in a similar tendency for some regional varieties of English to make extensive use of the PF, which lends indirect support to the Celtic hypothesis with regard to early English.
(v) Continuous tenses tend to be used more in bilingual or formerly Celtic-speaking areas than in other parts of the country . . . .


 ケルト語仮説はここ数十年の間に提起され論争の的となってきた.いまだ少数派の仮説にとどまるといってよいが,伝統的な英語史記述に一石を投じ,言語接触の重要性に注目させてくれた点では,学界に貢献していると評価できる.

 ・ Filppula, Markku and Juhani Klemola. "English in Contact: Celtic and Celtic Englishes." Chapter 107 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1687--1703.

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2023-02-22 Wed

#5049. 句動詞の多様な型 [phrasal_verb][syntax][word_order][verb][adverb][preposition][particle][idiom]

 英語には,動詞 (verb) と小辞 (particle) の組み合わせからなる句動詞 (phrasal_verb) が数多く存在している.とりわけ口語で頻出し,慣習的・比喩的な意味をもつものも多い.さらに統語構造上も多様な型を取り得るため,しばしば英語学習の障壁となる.
 例えば runup を組み合わせた表現を考えてみよう.統語的には4つのパターンに区分される.

 (1) A girl ran up. 「ある少女が駆け寄ってきた」
    ran up が全体として1つの自動詞に相当する.
 (2) The spider ran up the wall. 「そのクモは壁を登っていった」
   自動詞 ran と前置詞句 up the wall の組み合わせである.
 (3) The soldier ran up a flag. 「その兵士は旗を掲げた」
   ran up の組み合わせにより1つの他動詞に相当し,目的語を取る.この場合,小辞 up と名詞句の目的語 a flag の位置はリバーシブルで,The soldier ran a flag up. の語順も可能.ただし,目的語が it のような代名詞の場合には,むしろ The soldier ran it up. の語順のみが許容される.
 (4) Would you mind running me up the road? 「道路の先まで車に乗せていっていただけませんか」
   他動詞 run と前置詞句 up the road の組み合わせである.

 runup の組み合わせのみに限定しても,このように4つの型が認められる.他の動詞と他の小辞の組み合わせの全体を考慮すれば,型としては8つの型があり,きわめて複雑となる.

 ・ Cowie, A. P. and R Mackin, comps. Oxford Dictionary of Phrasal Verbs. Oxford: OUP, 1993.

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2023-01-17 Tue

#5013. When Adam delved and Eve span, who was then the gentleman? の動詞形態を英語史する [proverb][verb][conjugation][rhyme][vowel][rhythm]

 昨日の記事「#5012. When Adam delved and Eve span, who was then the gentleman? --- John Ball の扇動から生まれた諺」 ([2023-01-16-1]) で紹介した諺に含まれる動詞の過去形 delvedspan について,英語史の観点から考えてみたい.

 (1) 現代英語の標準的な過去形としては,規則動詞 delved はこの通りでよいが,不規則動詞 span については英和辞書では「古風」というレーベルがついている(学習者表英英辞書では記載がない).この動詞の標準的な活用は spin -- spun -- spun であり,過去形 span はあくまで歴史的な形態ということである.まだ詳しく調べていないが,中英語まで span が普通だったものの,近代英語以降に現代標準に連なる spun が勢力を伸ばしてきたようだ.この辺りの事情については,他のA-B-C型やA-B-B型の不規則動詞と合わせて考えてみることが必要だろう.関連して「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1]) を参照.

 (2) 現代の諺で古い過去形 span が用いられているのは,まず第1に起源の古い諺だからだ.一般に諺では古形が残りやすい.しかし,ここでは合わせて脚韻 (rhyme) の都合を考える必要がある.この諺は韻律的には2行からなっており,統語的区分と連動して When Adam delved and Eve Span / who was then the gentleman? と分割される.2行目末尾の gentleman と脚韻を踏むために,1行目末尾は spun ではなく span でなければならない.中英語当時は韻律を念頭に man : span の脚韻を踏ませていたわけだが,近代英語以降に動詞過去形が spun へ標準化したからといって,ここで spun に差し替えてしまったら,せっかくの脚韻が台無しになる.厳密にいえば,現代英語では gentlemanman は曖昧母音で /mən/ と発音され,span は強い母音を伴って /spæn/ と発音されるので,いずれにせよ脚韻を踏まないのだが,少なくとも視覚韻 (eye rhyme) は踏むので,この程度のズレは許容されるということだろう.

 (3) delved は今でこそ規則動詞(弱変化動詞)だが,本来は不規則動詞(強変化動詞)だった.古英語では delfan -- dealf -- dulfon -- dolfen の4主要形を示しており,この強変化屈折は中英語でも保たれていた.実際,Speake の諺辞典によると最も早い例では次の通り dalfe が用いられている.

c 1340 R. Rolle in G. G. perry Religious Pieces (EETS) 88 When Adam dalfe [dug] and Eue spane ... Whare was than the pride of man?


  ところが,14世紀後半から弱変化化した過去形が現われ始め,やがて近代になると,この諺でも delved が用いられ始めた.

 (4) 標題の現代標準の諺のリズム (rhythm) を示すと次のようになる.

x/x/x//
whenAdamdelvedandEvespan
/x/x/x/
whowasthenthegentleman

 必ずしもきれいではないし,(2) でも述べたように厳密には脚韻も踏まない.一方,中英語のオリジナルの諺を再建するならば,次の通りのリズムとなるだろう.これであれば脚韻もピタッと揃って美しい.
x/x/x/x/
whenAdamdalfandEvespan
(x)/x/x/x/
 whowasthenthegentleman


 以上,標題の諺を英語史してみた.

 ・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.

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2022-12-26 Mon

#4991. -ise か -ize か問題 --- 2つの論点 [spelling][suffix][z][greek][latin][french][verb][oed][academy][orthography]

 昨日の記事「#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史」 ([2022-12-25-1]),および以前の「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) の記事と合わせて,改めて -ise か -ize かの問題について考えたい.今回は文献参照を通じて2つほど論点を追加する.
 昨日の記事で,OED が -ize の綴字を基本として採用している旨を紹介した.<z> を用いるほうがギリシア語の語源に忠実であり,かつ <z> ≡ /z/ の関係がストレートだから,というのが採用の理由である.しかし,この OED の主張について,Carney (433) が -ise/-ize 問題を解説している箇所で疑問を呈している.有用なので解説全体を引用しておこう.

17 /aɪz/ in verbs as <-ise>, <-ize>

The <-ize> spelling reflects a Greek verbal ending in English words, such as baptize, organize, which represent actual Greek verbs. There are also words that have been made up to imitate Greek, in later Latin or in French (humanise), or within English itself (bowdlerise). Some printers adopt a purist approach and spell the first group with <-ize> and the second group with <-ise>, others have <-ize> for both.
   Since this difference is opaque to the ordinary speller, there is pressure to standardize on the <s> spelling, as French has done. To standardize with a <z> spelling as American spelling has done has disadvantages, because there are §Latinate verbs ending in <-ise> which have historically nothing to do with this suffix: advertise, apprise, circumcise, comprise, supervise, surmise, surprise. If you opt for a scholarly <organize>, you are likely to get an unscholarly *<supervize>. The OED argues that the pronunciation is /z/ and that this justifies the <z> spelling. But this ignores the fact that <s>≡/z/ happens to be the commonest spelling of /z/. To introduce more <z> spellings would probably complicate matters for the speller.


 もう1つの論点は,イギリス英語の -ise はフランス語式の綴字を真似たものと理解してよいが,その歴史的な詳細については調査の必要があるという点だ.というのは,フランス語でも長らく -ize は使われていたようだからだ.ここで,フランス語でいつどのように -ise の綴字が一般化したのかが問題となる.また,(イギリス)英語がいつどのように,そのようなフランス語での -ise への一般化に合わせ,-ise を好むようになったのかも重要な問いとなる.Upward and Davidson (170--71) の解説の一部がヒントになる.

          The suffix -IZE/-ISE

There are some 200 verbs in general use ending in the suffix -ISE/-IZE, spelt with Z in American usage and s or z in British usage. The ending originated in Gr with z, which was transmitted through Lat and OFr to Eng beginning in the ME period.

・ Three factors interfered with the straightforward adoption of z for all the words ending in /aɪz/:
   - The increasing variation of z/s in OFr and ME.
   - The competing model of words like surprise, always spelt with s (-ISE in those words being not the Gr suffix but part of a Franco-Lat stem).
   - Developments in Fr which undermined the z-spelling of the Gr -IZE suffix; for example, the 1694 edition of the authoritative dictionary of the Académie Française standardized the spelling of the Gr suffix with s (e.g. baptiser, organiser, réaliser) for ModFr in accordance with the general Fr rule for the spelling of /z/ between vowels as s, and the consistent use of -ISE by ModFr from then on gave weight to a widespread preference for it in British usage. American usage, on the other hand, came down steadfastly on the side of -IZE, and BrE now allows either spelling.


 英語の -ise/-ize 問題の陰にアカデミー・フランセーズの働きがあったというのはおもしろい.さらに追求してみたい.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

Referrer (Inside): [2023-10-10-1]

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2022-12-25 Sun

#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史 [spelling][suffix][z][greek][latin][french][consonant][diphthong][verb][oed][ame_bre]

 動詞を作る接尾辞 -ize/-ise について,いずれのスペリングを用いるかという観点から,「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) で話題にしてきた.今回は OED の記述を要約しながら,この接尾辞の歴史を概説する.
 -ize/-ise はギリシア語の動詞を作る接尾辞 -ίζειν に遡る.人や民族を表わす名詞について「~人(民族)として(のように)振る舞う」の意味の動詞を作ることが多かった.現代英語の対応語でいえば barbarianize, tyrannize, Atticize, Hellenize のような例だ.
 この接尾辞は3,4世紀にはラテン語に -izāre として取り込まれ,そこで生産力が向上していった.キリスト教や哲学の用語として baptizāre, euangelizāre, catechiizāre, canōnizāre, daemonizāre などが生み出された.やがて,ギリシア語の動詞を借用したり,模倣して動詞を造語する際の一般的な型として定着した.
 この接尾辞は,中世ラテン語やヴァナキュラーにおいて,やがて一般的にラテン語の形容詞や名詞から動詞を作る機能をも発達させた.この機能の一般化はおそらくフランス語において最初に生じ,そこでは -iser と綴られるようになった.civiliser, cicatriser, humaniser などである.
 英語は中英語期よりフランス語から -iser 動詞を借用する際に,接尾辞をフランス語式に基づいて -ise と綴ることが多かった.この接尾辞は,後に英語でも独自に生産性を高めたが,その際にラテン語やフランス語の要素を基体として動詞を作る場合には -ise を,ギリシア語の要素に基づく場合にはギリシア語源形を尊重して -ize を用いるなどの傾向も現われた.しかし,この傾向はあくまで中途半端なものだったために,-ize か -ise かのややこしい問題が生じ,現代に至る.OED の方針としては,語源的であり,かつ /z/ 音を文字通りに表わすスペリングとして -ize に統一しているという.
 なお,英語のこの接尾辞に2重母音が現われることについて,OED は次のように述べている.

In the Greek -ιζ-, the i was short, so originally in Latin, but the double consonant z (= dz, ts) made the syllable long; when the z became a simple consonant, /-idz/ became īz, whence English /-aɪz/.

Referrer (Inside): [2023-10-10-1] [2022-12-26-1]

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2022-11-01 Tue

#4936. なぜ間接目的語や前置詞の目的語が主語となる受動文が可能なのか? [passive][syntax][inflection][verb][me][sobokunagimon][word_order]

 一昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,リスナーさんから寄せられた質問に回答する形で「#517. 間接目的語が主語になる受動態は中英語期に発生した --- He was given a book.」を配信しました.ぜひお聴きください.



 原則として古英語では動詞の直接目的語が主語となる受動文しか存在しませんでした.ところが,続く中英語期になり,動詞の間接目的語や前置詞の目的語までもが主語となる受動文も可能となってきました(概要は中尾・児馬 (125--31) をご覧ください).今日はこの配信への補足となります.
 Fischer によれば,現代英語では次のすべての受動文が可能です.

1 The book was selected by the committee
2 Nicaragua was given the opportunity to protest
3 His plans were laughed at
4 The library was set fire to by accident


 英語史研究では,この受動文の拡大に関する議論は多くなされてきました.いくつかの考え方があるものの,概ね受動化 (passivisation) に関する統語規則の適用範囲が変化してきたととらえる向きが多いようです.要するに,受動化の対象が,時間とともに動詞の直接目的語から間接目的語へ,さらに前置詞の目的語へ拡大してきた,という見方です.
 ただし,これも1つの仮説です.もしこれを受け入れるとしても,なぜそうなのかというより一般的な問題も視野に入れる必要があります.受動化とは異なるけれども何らかの点で関係する統語現象においても類似の変化・拡大が起こっているとすれば,それと合わせて考察する必要があります.この辺りの事情を Fischer (384) に語ってもらいましょう.

There are two general paths along which one could look for an explanation of these developments. One can hypothesise that there was a change in the nature of the rule that generates passive constructions . . . Another possibility is that there was a change in the application of the rule due to changes having taken place elsewhere in the system of the language . . . The latter course seems to be the one now more generally followed. Additional factors that may have influenced the spread of passive construction are the gradual loss of the Old English active construction with indefinite man . . . (this construction could most easily be replaced by a passive) and the change in word order . . . .


 統語変化の仮説の設定と検証は,なかなか容易ではありません.そのために英語史という専門分野があり,日々研究が続けられているのです.

 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.
 ・ Fischer, Olga. "Syntax." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Cambridge: CUP, 1992. 207--408.

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