アフリカの4つの語族について「#3811. アフリカの語族と諸言語の概要」 ([2019-10-03-1]) で紹介した.先日「#4846. 遺伝と言語の関係」 ([2022-08-03-1]) で参照した篠田に,言語と遺伝子の関係に触れつつアフリカの語族について論じられている節があった.そちらから引用する (87--88) .
突然変異は世代を経るごとに蓄積しますから,同じ地域に長く暮らすほど個体間の遺伝的な違いは大きくなります.ホモ・サピエンスは他のどの地域よりも長くアフリカ大陸で生活していますから,アフリカ人同士は,他の大陸の人びとよりも大きな遺伝的変異を持っています.実際,人類の持つ遺伝的な多様性のうち,実に八五パーセントまではアフリカ人が持っていると推定されています.一方,言語もDNA同様,時間とともに変化していきます.そのスピードはDNAの変化よりもはるかに早く,一万年もさかのぼると言語間の系統関係を追えないほど変化するといわれていますが,同じような変化をすることから,言語の分布と集団の歴史のあいだには密接な関係があることが予想されます.
アフリカには,世界中に存在する言語の三分の一に当たる,およそ二〇〇〇の言語が存在します.それは,アフリカ大陸に長期にわたって人びとが暮らしていることの証拠でもあります.アフリカで話されている言語は大きく四つのグループに分かれており,北から,アフロ・アジア言語,ナイル・サハラ言語,ニジェール・コンゴ言語,コイ・サン言語が分布します.ただし,コイ・サン言語はさらに五つのグループに分かれており,互いの共通性はほとんどないといわれています.遠い昔に分岐した一群の言語族の総称と捉えるべきものです.ともあれ,言語グループの分布の様子と集団の遺伝的な構成には密接な関係があることがわかっています〔後略〕.
また,アフリカの人々の語族,遺伝子,地理的分布が互いに関係することに加え,彼らの生業も相関関係に組み込まれていくるという.アフロ・アジア語族は牧畜民や牧畜農耕民と関連づけられ,ナイル・サハラ語族は牧畜民と,ニジェール・コンゴ語族は農耕民と,コイ・サン語族は狩猟採集民とそれぞれ関連づけられる. *
篠田 (89) は「言語や生業,地理的分布の違いは,過去における集団の移動や融合の結果と考えられるので,化石やDNA,さらには考古学的な証拠や言語の系統を調べることで,現代のアフリカ集団の成立のシナリオを多角的に描くことができます」と同節を締めくくっている.
関連して「#3807. アフリカにおける言語の多様性 (1)」 ([2019-09-29-1]),「#3808. アフリカにおける言語の多様性 (2)」 ([2019-09-30-1]),「#3814. アフリカの様々な超民族語」 ([2019-10-06-1]) ほか africa の各記事を参照.
・ 篠田 謙一 『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』 中公新書,2022年.
日本政府は,新型コロナウィルスの新たな変異株「オミクロン株」の今後の拡大に対する懸念から,南部アフリカの国々に水際強化策を適用し始めた.具体的には,南アフリカ共和国,ナミビア,ジンバブエ,ボツワナ,レソト,エスワティニ,モザンビーク,マラウイ,ザンビアの9カ国からの帰国者には,入国後10日間の待機が求められることになるという(cf. 「#3289. Swaziland が eSwatini に国名変更」 ([2018-04-29-1])).
アフリカのこの一角は,英語(史)に引きつけていえば,重要なESL地域を構成している.南アフリカ共和国を除けば,多くの日本人にとって,なじみの薄い国々が多いだろう.周辺の地図もあまり見慣れていないのではないか.(C)ROOTS/Heibonsha.C.P.C より,南部アフリカの地図を掲載しておきたい.
今回の水際強化策の対象となっている9カ国についていえば,ポルトガル語を公用語としているモザンビークを除いて,すべての国が英語を公用語(少なくとも公用語の1つ)として採用している(アフリカにおける英語公用語事情は「#3290. アフリカの公用語事情」 ([2018-04-30-1]) を参照).確かにこの地域の英語話者人口は多く,「#2472. アフリカの英語圏」 ([2016-02-02-1]) の人口統計を参照すると,数千万人という規模で存在することがわかる.世界的な英語地域の1つといってよい.
南部アフリカの英語化の歴史は,イギリスによる植民地化の歴史と連動している.南アフリカ共和国の英語化の淵源は他国に比べて早く18世紀末にさかのぼるが,他国も19世紀後半にはその流れに巻き込まれることになった.多くが第二次世界大戦後の20世紀半ば以降に独立を果たしたが,旧宗主国の言語である英語が威信ある言語として公用語に採用され,現在に至る.
南アフリカ共和国と英語の接触の歴史は複雑で,これまでも「#343. 南アフリカ共和国の英語使用」 ([2010-04-05-1]),「#407. 南アフリカ共和国と Afrikaans」 ([2010-06-08-1]),「#408. South African English と American English の変種構成の類似」 ([2010-06-09-1]),「#1703. 南アフリカの植民史と国旗」 ([2013-12-25-1]),「#3291. 11の公用語をもつ南アフリカ共和国」 ([2018-05-01-1]) などで紹介してきたので,そちらをどうぞ.
異なる民族間で用いられるリンガ・フランカ (lingua_franca) のことを「超民族語」 (langue véhiculaire) と称することがある.ある民族に固有の言語である点を強調する「群生言語」 (langue grégaire) に対して,「地理的に隣接してはいても同じ言語を話していない,そういう言語共同体間の相互伝達のために利用されている言語」である点を強調した用語である(カルヴェ,p. 33).他の呼称としては,「#1072. 英語は言語として特にすぐれているわけではない」 ([2012-04-03-1]) で用いたように「族際語」という用語もある.
超民族語に関わる話題は,lingua_franca の各記事や,とりわけ「#1788. 超民族語の出現と拡大に関与する状況と要因」 ([2014-03-20-1]),「#1789. インドネシアの公用語=超民族語」 ([2014-03-21-1]) で取り上げてきた.超民族語が非常に多く分布し,今後,社会的な役割が増してくると見込まれるのは,アフリカである.それぞれ通用する地域や人口は様々だが,アラビア語,ウォロフ語,バンバラ語,ソンガイ語,ハウサ語,ジュラ語,アカン語,ヨルバ語,フルフルデ語,サンゴ語,マバ語,リンガラ語,トゥバ語,ルバ語,ンブンドゥ語,ロジ語,アムハラ語,オロモ語,ソマリー語,サンデ語,ガンダ語,スワヒリ語,ニャンジャ語,ショナ語,ツワナ語,ファナガロ語など多数あげることができる(宮本・松田,p. 700) . *
宮本・松田 (706--07) は,アフリカの言語事情の未来は,これらの超民族語にかかっていると主張している.アフリカが複雑な言語問題に自発的に対処していくためには,旧宗主国の西欧諸言語ではなく,植民地時代以前から独自に発展していた超民族語に立脚するのが妥当だろうと.これはアフリカのみならず世界の多様化する言語問題に対する1つの提案となっているようにも思われる.
グローバル化の覇権言語の攻勢下にあっても,「超民族語」を含めて,アフリカの民族諸言語は,新しい次元へと常に昇華していくであろう.同時に,いわゆる「ナイジェリアン・ピジン」(ナイジェリア英語のこと.すでに,クレオール化している)を典型例として,英語やフランス語も,特に話し言葉のレベルで,アフリカの土壌に根付いていくことだろう.これらの言語が運ぶ新旧・内外の文化伝統は,アフリカ人の多言語生活のなかで相補の関係を結び,やがて融和していくに違いない.
だが,異質な文化伝統を無条件に融和させることが最終目的ではない.むしろ,両者の間に生起する摩擦に注目し,不整合な部分を強調しておくことが大切であろう.現代のアフリカは,さまざまな文化の綜合をはかる巨大な実験場となっている.この文化的綜合の事業のなかへ,すべての民族諸言語と民族文化が吸収されるような方策が立てられるべきであろう.この事業で最も大切なことは,だれがそのイニチアチブを握るかという問題である.アフリカ人がこの事業のイニシアチブを握るのであれば,この種の文化的綜合は,決してアフリカの尊厳を損なうものとはならないであろう.その意味でも,民族諸言語,わけても「超民族語」が引き受ける役割は大きい.
アフリカの諸言語は,有史以来,この大陸に住んできた数えきれない諸民族の貴重な文化遺産であり,今を生きている人々にとっては,日々の生活,実存そのものなのだ.それらを封印するのではなく,その壮大な言語宇宙を開くことは,アフリカの文化的再生の必須要件と言うべきであろう.
・ ルイ=ジャン・カルヴェ 著,林 正寛 訳 『超民族語』 白水社〈文庫クセジュ〉,1996年.
・ 宮本 正興・松田 素二(編) 『新書アフリカ史 改訂版』 講談社〈講談社現代新書〉,2018年.
人類の言語の起源がアフリカにあるだろうということは,今日,多くの言語学者が認めているところである.とすれば今日のアフリカの言語分布に関心が湧いてくるわけだが,最も長い歴史を有しているからこそなのか,不確かなことが多い.アフリカの言語分布について大雑把にまとめてみよう.
「#3290. アフリカの公用語事情」 ([2018-04-30-1]) でみたように,現在のアフリカでは約2千もの言語が話されており,言語の多様性は著しく高い(「#3807. アフリカにおける言語の多様性 (1)」 ([2019-09-29-1]),「#3808. アフリカにおける言語の多様性 (2)」 ([2019-09-30-1]) を参照).アフリカの中央・南部で話されている諸言語は,およそ Niger-Kordofanian, Nilo-Sahara, Khoisan の3語族のいずれかに属するが,相互の関係が分かっていないばかりか,世界の他のいかなる語族ともどのような関係にあるか未詳である.言語学者のなかには,世界には2つの言語グループがあり,1つはアフリカの中央・南部の言語群,もう1つはそれ以外のすべてだ,という者もあるほどだ (Comrie 74) .
アフリカで行なわれている4つの語族を紹介しておこう.宮本・松田 (689) のアフリカの語族・諸言語の分布図によると,中央と南部のほとんどのエリアは,Niger-Kordofanian 語族の諸言語によって占められている.Bantu 系を含む多くの言語がここに属し,今から約1万年前には,その分布は西アフリカに限定されていたようだが,その後,南や西へ拡大したといわれる. *
その Niger-Kordofanian 語族の歴史的な拡大の犠牲となったのが,もともと南部に広く分布していた Khoisan 語族の諸言語である.その代表的な言語は Namibia の国語で16万人の話者がいるとされる Khoekhoe (or Damara) だが,同語族の他の言語は衰退してきている.舌打ち音 (click) で知られる語族だ.
アフリカ中央部で,他の語族に取り囲まれるようにひっそりと分布しているのは,Nilo-Sahara 語族の諸言語である.古くから分布はそれほど大きく変化していないとされる.Songhai, Saharan, Chari-Nile などが含まれるが,互いに言語的にそれほど近くはない.
北アフリカを占めているのは,Arabian に代表される Afro-Asiatic 語族である.その名の通りアジア(おそらくはヨーロッパも)の諸言語と関係しており,歴史的にも重要な言語を多く含む.
この4つの語族の担い手については,約1万年前の段階でその祖先とおぼしき集団が確認される.Niger-Kordofanian 語族は West Africans という集団に,Khoisan 語族,Nilo-Saharan 語族,Afro-Asiatic 語族はそれぞれ Bushmen, Nilotics, North Africans という集団に対応するといわれる.逆に,かつてアフリカ中央に居住していたが,現在,対応する語族の存在が確認されない集団としては Pygmies がいる.彼らは,歴史の過程で,西アフリカから拡大した Niger-Kordofanian 語族の Bantu 系諸語に呑み込まれ,言語交代しつつ現代に至っている.
・ Comrie, Bernard, Stephen Matthews, and Maria Polinsky, eds. The Atlas of Languages. Rev. ed. New York: Facts on File, 2003.
・ 宮本 正興・松田 素二(編) 『新書アフリカ史 改訂版』 講談社〈講談社現代新書〉,2018年.
「#3706. 民族と人種」 ([2019-06-20-1]) でみたように,民族と言語の関係は確かに深いが,単純なものではない.民族を決定するのに言語が重要な役割を果たすことが多いのは事実だが,絶対的ではない.たとえば昨日の記事 ([2019-09-29-1]) で話題にしたアフリカにおいては「言語の決定力」は相対的に弱いのではないかともいわれる.宮本・松田の議論を聞いてみよう (695--96) .
伝統アフリカでは民族性を決定する要因として,言語はそれほど重要でなかったようである.言語は,民族性を決定する一つの要因ではあるが,この他にも宗教,慣習,嗜好,種々の文化表象,記憶,価値観,モラル,土地所有形態,取引方法,家族制度,婚姻形態など言語以外の社会的・経済的・文化的・心理的要因が大きな役割を占めていたと思われる.言い換えれば,民族的アイデンティティを自覚する上で,言語的要因が顕著な影響をもち始めるのは近代以降の特徴であり,地縁関係や生活空間の共通性,そこから生じる共通の利害関係,つまり経済・社会・文化的な要因が相互に作用して,むしろ言語以上に地縁関係の発展,集団編成の原動力となった.
ここから,アフリカ人の多言語使用の社会的基盤が生まれた.それは,言語の数の多さ,それらの分布の特徴,言語ごとの話者の相対的少なさ,言語間の接触の強さなどに拠る.しかも,各言語の社会的機能が別々で,それらが部分的に相補的,部分的に競合しているからである.各言語の役割と機能上の相補と競合の相互作用がアフリカの言語社会のダイナミズムを生み出し,この不安定状態が多言語使用を促進しているのだ.
言語間交流により,諸集団が大きくまとまるというよりは,むしろ細切れに分化されていくというのが伝統アフリカの言語事情の特徴ということだが,その背景に「言語の決定力」の相対的な弱さがあるという指摘は,含蓄に富む.人間社会にとって民族と言語の連結度は,私たちが常識的に感じている以上に,場所によっても時代によっても,まちまちなのかもしれない.
ただし,上の引用では,近代以降は「言語の決定力」が強くなってきたことが示唆されている.民族ならぬ国家と言語の連結度を前提とした近代西欧諸国の介入により,アフリカにも強力な「言語の決定力」がもたらされたということなのだろう.
・ 宮本 正興・松田 素二(編) 『新書アフリカ史 改訂版』 講談社〈講談社現代新書〉,2018年.
一説によると,世界の言語の約半数がアフリカで用いられているという.「#401. 言語多様性の最も高い地域」 ([2010-06-02-1]) で示されるように,アフリカには言語多様性の高い国々が多い.元来の多言語・他民族地域であることに加えて,近代以降,西欧宗主国の言語を受け入れてきたこともあり,アフリカの言語事情はきわめて複雑である(関連して「#2472. アフリカの英語圏」 ([2016-02-02-1]),「#3290. アフリカの公用語事情」 ([2018-04-30-1]) などを参照).
歴史を通じてアフリカが著しい言語多様性を示してきたことに関して,昨年改訂された『新書アフリカ史』の第1章に,次のような説明をみつけることができる (34--35) .
アフリカで使用されている言語の分類で最もポピュラーなものは,アメリカの言語学者グリーンバーグの分類である.彼はアフリカの言語を,コンゴ・コルドファン,ナイル・サハラ,アフロ・アジア,コイサンという四つの語族に分類した.そのうち,もっとも広範囲に分布しているのはコンゴ・コルドファン語族(いわゆるバンツー系諸語はここに含まれる)である.この系統の言語には,スワヒリ語,リンガ羅語,ズールー語,ヨルバ語など,サハラ以南のアフリカの主立った言語はたいてい含まれている.
こうして分類されたまったく別系統の言語が,アフリカではモザイク状に入り乱れて地域社会を形成している.その状況を指して「言語的混沌」と形容する言語学者もいるほどだ.何が混沌かというと,二〇〇〇を超える言語数もさることながら,同じ言語集団内で相互にコミュニケーション不能な方言グループが隣接していたり,まったく孤立した言語が遠く離れて類似していたりするからだ.そして一九世紀後半以降の植民地支配の進展と,それと二人三脚で浸透していったキリスト教の伝道活動は,ヨーロッパ列強の政治勢力による境界や,民衆の分断統治の手段として,もともと存在していた混沌状況をさらに深化させていった.
アフリカ社会内部の事情からみると,この混沌状況をつくりだした原因ははっきりしている.それはアフリカ人が行ってきた不断の移住のせいである.彼らは,一族を中心にして,土地を求め牧草を求めて移住を繰り返してきた.ときには難民となりときには他集団を襲撃しながら,アフリカの大地を移動し続けたのである.その結果,さまざまな小言語集団や方言集団が分立した.そして相互に異なる言語集団が,交流する過程で再び言語を変化させつつ,全体としての地域ネットワークをつくりあげていった.
ここでは,アフリカの言語的多様性の内的な主要因は「不断の移住」にあると述べられている.「不断の移住」が諸集団の「交流」を促し,今度はそれが言語の「変化」と様々な言語社会の「分立」とを促進したという理屈だ.この説明は分からないではないが,「交流」がむしろ諸言語の画一化につながるという主張もあることから,もっと詳しい解説が欲しいところである.
社会における人々の移動性や可動性 (mobility) が諸言語・諸方言の差異を水平化する方向に貢献するという議論については,「#591. アメリカ英語が一様である理由」 ([2010-12-09-1]),「#2784. なぜアメリカでは英語が唯一の主たる言語となったのか?」 ([2016-12-10-1]),「#3054. 黒死病による社会の流動化と諸方言の水平化」 ([2017-09-06-1]) を参照されたい.
・ 宮本 正興・松田 素二(編) 『新書アフリカ史 改訂版』 講談社〈講談社現代新書〉,2018年.
昨日の記事「#3289. Swaziland が eSwatini に国名変更」 ([2018-04-29-1]) で,日本人にとって馴染みの薄いと思われるアフリカの1国を取り上げたが,話題をアフリカ全体に広げてみても,やはり馴染みが薄いというところではないか.本ブログでも,「#2472. アフリカの英語圏」 ([2016-02-02-1]) などを書いてきたが,アフリカの扱いは全体的に弱かったと思い,今回はアフリカの公用語事情について紹介することにした.
Ethnologue による2000年時点での調査によれば,アフリカには2058言語が使用されているという.これは,世界中の言語総数6,809の約30%割に相当する数である(ちなみにアジアが32%で1位であり,3位以下は太平洋地域の19%,南北アメリカの15%,ヨーロッパの3%と続く).アフリカ諸国はヨーロッパの植民地支配を被ってきた歴史をもち,その結果としてとりわけフランス語や英語が広く通じるという印象をもって見られるが,その公用語事情は非常に複雑である.公用語が単一が複数か.複数の場合,土着の言語はいかなる立場にあるか.言語政策の内実も国によって様々である.そもそも公用語の定義が国によって揺れている場合もある.以下は,1998年のデータに基づいた2002年の三好 (218--19) による各国・地域の公用語の一覧である.情報が古い可能性もあるので(例えば2011年に独立した南スーダンが入っていないなど),当面は概略として理解されたい. * *
[ アラビア語公用語国・地域 ]
・ アルジェリア (Algeria)
・ エジプト (Egypt)
・ リビア (Libya)
・ モーリタニア (Mauritania)
・ モロッコ (Morocco)
・ スーダン (Sudan)
・ チュニジア (Tunisia)
[ ポルトガル語公用語国・地域 ]
・ アンゴラ (Angola)
・ カボベルデ (Capo Verde)
・ ギニア・ビサウ (Guinea-Bissau)
・ モザンビーク (Mozambique)
・ サントーメ・プリンシペ (São Tom Príncipe)
[ スペイン語公用語国・地域 ]
・ カナリヤ諸島 (Canary Islands)
・ 赤道ギニア (Equatorial Guinea)
[ フランス語公用語国・地域 ]
・ ベニン (Benin)
・ ブルキナファソ (Burkina Faso)
・ コンゴ共和国 (Republic of Congo)
・ ガボン (Gabon)
・ ギニア (Guinea)
・ コートジボワール (Côte d'Ivoire)
・ マリ (Mali)
・ マヨット (Mayotte)
・ ニジェール (Niger)
・ レユニオン (Reunion)
・ トーゴ (Togo)
・ コンゴ民主共和国 (Democratic Republic of Congo)
・ セネガル (Senegal)
[ 英語公用語国・地域 ]
・ ガンビア (Gambia)
・ ガーナ (Ghana)
・ リベリア (Liberia)
・ モーリシャス (Mauritius)
・ ナミビア (Namibia)
・ ナイジェリア (Nigeria)
・ シェラレオネ (Sierra Leone)
・ ウガンダ (Uganda)
・ ザンビア (Zambia)
・ ジンバブエ (Zimbabwe)
[ アフリカ土着語公用語国・地域 ]
・ セイシェル (Seychelles):セイシェル・クレオール・フレンチ (Seychelles Creole French)
[ 複数公用語公用語国・地域(アラビア語+土着語) ]
・ ソマリア (Somalia):アラビア語+ソマリ語 (Somali)
・ エリトリア (Eritrea):アラビア語+英語+ティグリニア語 (Tigrinya)
[ 複数公用語国・地域(フランス語+土着語) ]
・ ブルンジ (Burundi):フランス語+ルンジ語 (Rundi)
・ 中央アフリカ (Central African Republic):フランス語+サンゴ語 (Sango)
・ マダガスカル (Madagascar):フランス語+マラガシー語 (Malagasy)
・ ルワンダ (Rwanda):フランス語+英語+ルワンダ語 (Rwanda)
[ 複数公用語国・地域(英語+土着語) ]
・ ボツワナ (Botswana):英語+ツワナ語 (Tswana)
・ エチオピア (Ethiopia):英語+アムハラ語 (Amharic)+14の土着語
・ ケニア (Kenya):英語+スワヒリ語 (Swahili)
・ レソト (Lesotho):英語+レソト語 (Sotho)
・ マラウィ (Malawi):英語+チェワ語 (Chewa)
・ 南アフリカ共和国 (South Africa):英語+アフリカーンス語 (Afrikaans)+9つの土着語
・ スワジランド (Swaziland):英語+スワティ語 (Swati)
・ タンザニア (Tanzania):英語+スワヒリ語
[ 公用語として土着語を含まない複数公用語国・地域 ]
・ カメルーン (Cameroon):英語+フランス語
・ チャド (Chad):フランス語+アラビア語
・ コモロ (Comoros):フランス語+アラビア語
・ ジブチ (Djibouti):アラビア語+フランス語
・ 三好 重仁 「第9章 2000の言語が話される大陸アフリカにおける言語政策概観」 河原俊昭(編著)『世界の言語政策 他言語社会と日本』 くろしお出版,2002年.217--24頁.
・ 宮本 正興・松田 素二(編) 『新書アフリカ史 改訂版』 講談社〈講談社現代新書〉,2018年.
「#2469. アジアの英語圏」([2016-01-30-1]) に引き続き,今回はアフリカの英語圏の人口統計について.Gramley (307, 309, 311) の "Anglophone Southern African countries", "Anglophone West African countries", "Anglophone East African countries" の表を掲載しよう. * *
country | significant UK contact | colonial status | independence | total population | English speakers | |
---|---|---|---|---|---|---|
percentage | total number | |||||
Botswana | 19th century | 1885 | 1966 | 1,640,000 | --38% | 630,000 |
Lesotho | protectorate | 1966 | 1,800,000 | --28% | 500,000 | |
Malawi | 1878 | 1891 | 1964 | 13,000,000 | --4% | 540,000 |
Namibia | 1878 | 1920 (S. Afr.) | 1990 | 1,800,000 | --17% | > 300,000 |
South Africa | 1795 | 1795 | 1910 | 47,850,000 | > 28% | 13,700,000 |
Swaziland | 1894 | 1902 (UK) | 1968 | 1,140,000 | --4.4% | 50,000 |
Zambia | 1888 | 1924 | 1953, 1964 | 13,000,000 | --15% | --2,000,000 |
Zimbabwe | 1890 | 1923 | 1953, 1980 | 13,300,000 | --42% | 5,550,000 |
Cameroon | 1914 | 1916 | 1960 | 18,500,000 | --42% | 7,700,000 |
Gambia | 1661, 1816 | 1894 | 1965 | 1,700,000 | --2.3% | 40,000 |
Ghana (formerly gold coast) | 1824, 1850 | 1874, 1902 | 1957 | 23,480,000 | --6% | 1,400,000 |
Liberia | USA 1822 | none | 1847 | 3,750,000 | --83% | 3,100,000 |
Nigeria | 1851 | 1884, 1900 | 1960 | 148,000,000 | --53% | 79,000,000 |
Sierra Leone | 1787 | 1808 | 1961 | 5,800,000 | --83% | 4,900,000 |
Kenya | 1886 | 1895, 1920 | 1963 | 39,000,000 | --9% | 2,700,000 |
Tanzania | 1880s | 1890, 1920 | 1961 | 42,000,000 | --11% | 4,000,000 |
Uganda | 1860s | 1888, 1890 | 1962 | 31,000,000 | --10% | 2,500,000 |
In most of these countries a kind of indigenization or nativization is currently taking place, a process in which the domains of the language are expanding and in which increasingly endonormative standards are becoming established for usages which were once stigmatized as mistakes. This is opening the way to wider use of English in creative writing and to the institutionalization of local forms in schools, the media, and government . . . . English may well still be far from being a language of the emotions among the vast majority of its users; indeed, the institutionalization of English may be making it ever more difficult for those without English to close the social gap between "the classes and the masses." All the same, English is more and more firmly a part of everyday linguistic experience.
これら "New Englishes" の使用に関する歴史社会言語学的な事情については「#1255. "New Englishes" のライフサイクル」 ([2012-10-03-1]) を参照されたい.また,アフリカの英語圏のいくつかの地域については,「#343. 南アフリカ共和国の英語使用」 ([2010-04-05-1]),「#412. カメルーンの英語事情」 ([2010-06-13-1]),「#413. カメルーンにおける英語への language shift」 ([2010-06-14-1]),「#514. Nigeria における英語の位置づけ」 ([2010-09-23-1]) で取り上げてきたので,そちらをご覧ください.Gramley の英語史概説書のコンパニオンサイトより,こちらの解説PDFファイルのなかの "colonial expansion into West Africa" の記事も有用.
・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
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