昨夕,Voicy heldio にて「#893. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(前半)」を配信しました.Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読していくシリーズの特別回としてお届けしました(シリーズについては「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) を参照).
今回精読した第24節の題目は Celtic です.原文(原書で1ページほどの英文)は昨日の hellog 記事「#5309. ケルト語派の記述 --- Baugh and Cable の英語史より」 ([2023-11-09-1]) に掲載しています.そちらをご覧になりながらお聴きいただければと思います.
英語史研究者2人が,まだ明るい時間からグラスを傾けつつ専門分野について語るというのは,何とも豊かな時間です.それを少なからぬリスナーの方々にライヴでお聴きいただいたというのも,ありがたき幸せです.
案の定,60分では語り足りなかったので,続編をプレミアムリスナー限定配信チャンネルにて【英語史の輪 #52】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(後半)」として収録・配信しています.最後に,ケルト語派について学ぶことの英語史上の意義についても議論していますので,よろしければそちらもお聴きください.
さて,ケルト語派に関心を抱いた方は,本ブログでも多くの記事でカバーしています.まずは,celtic, irish, scottish_gaelic, manx, welsh, cornish, breton などのタグ付きの記事群をご参照ください.今回精読した英文の内容と関わりが強い記事として,以下を挙げておきます.
・ 「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1])
・ 「#779. Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1])
・ 「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1])
・ 「#2968. ローマ時代以前のブリテン島民」 ([2017-06-12-1])
・ 「#3743. Celt の指示対象の歴史的変化」 ([2019-07-27-1])
・ 「#3747. ケルト人とは何者か」 ([2019-07-31-1])
・ 「#3757. 講座「英語の歴史と語源」の第2回「ケルトの島」を終えました」 ([2019-08-10-1])
・ 「#3761. ブリテンとブルターニュ」 ([2019-08-14-1])
また,heldio でもケルト語関連の話題は様々に配信しています.以下をリストアップしておきます.
・ 「#692. ケルト語派を紹介します」(2023/04/23)
・ 「#693. 英語史とケルト,英語史とブルターニュ --- 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けて」(2023/04/24)
・ 「#697. イギリスにおけるケルト系言語に対する言語政策」(2023/04/28)
・ 「#715. ケルト語仮説」(2023/05/16)
・ 「#731. ケルト語の書記文化の開花が英仏独語よりも早かった理由」(2023/06/01)
・ 「#696. コーンウォール語は死語? --- ブルトン語の親戚言語」(2023/04/27)
・ 「#714. Manx 「マン島語」 --- 1974年に死語となったブルトン語の親戚言語」(2023/05/15)
今日の配信回をお聴きになり B&C 精読シリーズに関心をもたれた方は,ぜひ本書(第6版)を入手し,シリーズの初回からでも途中からでも参加いただければと思います.間違いなく英語の勉強にも英語史の勉強にもなる本として選んでいます!
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
[2011-06-10-1], [2011-06-14-1]の記事でケルト諸語の話題を取りあげた.今回は,ケルト諸語のなかで事実上の死語となっているコーンウォール語 (Cornish) とマン島語 (Manx) を紹介する.
Cornish は,ミートパイの一種 Cornish pasty でも知られているイングランドの最南西部 Cornwall 地方で話されていた Brythonic (P-Celtic) 系の言語である.Cornish の古い文献は多くは現存していないが,14世紀後半のものとされる8000行を超える韻文が残っている.16世紀,宗教改革の時代に Cornish の衰退と英語の浸透が始まり,1777年に,記録されている最後の話者 Dolly Pentreath が亡くなったことで死語となった.[2011-06-10-1]のケルト語派の系統図で示されるとおり,現在フランスのブルターニュで話されているブルトン語 (Breton) と最も近い言語である.
しかし,"revived Cornish", "pseudo-Cornish", "Cornic" とも称される復活した Cornish が現代でも聞かれる. これは,20世紀にコーンウォールの郷土愛を共有する人々が Cornish を人為的に復活させたもので,実際的な言語ではなく象徴的な言語というべきだろう.文法書や辞書が発行されており,兄弟言語である Breton や Welsh からの類推で語彙を増強するなどの試みがなされている.Price の評価は手厳しい(McArthur 265 より孫引き).
It is rather as if one were to attempt in our present state of knowledge to create a form of spoken English on the basis of the fifteenth-century York mystery plays and very little else.
Ethnologue: Cornish によれば,2003年の推計で数百人の話者がいるとされるが,ここでの Cornish はもちろん "revived Cornish" を指している.
次に,Manx はアイリッシュ海 (the Irish Sea) に浮かぶマン島 (the Isle of Man) で話されていた Goidelic (Q-Celtic) 系の言語である.最古の文献は,1610年頃の祈祷書 (The Book of Common Prayer) の翻訳である.Manx は4世紀にアイルランドからの移住者によって持ち込まれたと考えられ,10--13世紀にはヴァイキングの言語 Old Norse により特に語彙的に影響を受けた.18世紀まではマン島の主要な言語だったが,それ以降は英語の浸透が進んだ.最後の話者 Ned Mandrell が1974年に亡くなり,現在では第1言語としては死語となっている.Cornish の場合と同じように,Manx の人為的な保存・復活の営みはなされているが,象徴的な意味合いを超えるものではない.
言語名は「マン島の言語」を意味する ON manskr が ME Manisk(e) として入ったもので,その語末子音群が音位転換 ( metathesis ) を起こして Manx となった.Ethnologue: Manx を参照.
・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Price, Glanville. The Languages of Britain. London: Arnold, 1984.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
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