近代英語期の英語語彙の増加について,(連日だが)Hughes の調査を参考にしつつ紹介.Hughes は,Shorter Oxford English Dictionary (1933 ed.) に基づいて編集された Chronological English Dictionary を利用して,1500年から1900年のあいだに英語に加わった語を10年ごとに集計してグラフを作成した (404).
以下のグラフは,Hughes のグラフを本ブログ用に改変したものである.Hughes にはグラフ作成のもとになる数値データは与えられていないので,グラフから目検討で数値を読み出し,それを頼りに再びグラフを作成した.したがって,ここに示されているものはあくまで参考までに.
グラフには二つのピークがある.一つ目のピークは約1550?1630年の時期で,およそエリザベス朝の時代 ( Elizabethan Period ) を中心とする.二つ目のピークは約1790?1880年の時期で,およそロマン主義の時代 ( Romantic Period ) に相当する.間にはさまれた王政復古期 ( Restoration Period ) と新古典主義時代 ( Augustan Period ) は比較的,保守的だったとわかる.1450?1950年に加わった語彙の総数は6万語を超え,平均すると年に約120語ということになる.
なお,Hughes によると,年単位でみると1598年(590語)と1611年(844語)がもっとも際だっているという.
・Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000. 403--04.
・Finkenstaedt, Thomas, E. Leisi, and D. Wolf. eds. A Choronological English Dictionary. Heidelberg: Carl Winter, 1970.
昨日の記事[2009-08-02-1]で,和製英語化した借用接尾辞「チック」が異分析であることを示した.日本語の音節構造からすれば,dramatic から語源的に正しい接尾辞 -ic をそのまま「イック」として切り出すことは確かに難しいだろう.日本語では,子音と母音の間で音を分割する発想がないので,「ドラマ+チック」と切り出すのが自然であることは理解できる.あまつさえ,「ドラマ」という語が,英語にも,そこから借りてきた日本語にも存在するわけで,この切り出し方はごく自然ともいえる.
だが,[2009-08-02-1]でも述べたように,ギリシャ語から英語に入った借用語をみると,-ic の直前に来る音は t に限らず,あらゆる子音や母音が来ることができる: archaic, aerobic, silicic, Indic, onomatopoeic, terrific, nostalgic, Turkic, Gaelic, cosmic, electronic, heroic, geographic, Olympic, generic, basic, Gothic, Slavic, toxic
これだけ豊富な可能性があるのだから,「チック」ではなく「リック」「ニック」「ミック」「フィック」などで切り出す可能性もあり得たのではないかという疑問が生じる.この疑問に対する一つの答えとしては,drama --- dramatic に見られるように,t が語幹末の子音として隠れたり現れたりすることがあるというギリシャ語特有の形態論がある.
もう一つの答えは,頻度にあるかもしれない.CD-ROM版の New Shorter Oxford English Dictionary (ver. 1.0.03) で,-ic の直前に様々な子音や母音を入れ,"*tic" のようにワイルドカード検索してみた.円グラフでまとめると下図のようになった.
-tic は全体の36.6%を占めることがわかった.日本語として接尾辞を切り出すとき,この頻度がどれだけ影響したかは確かめようがないが,耳に触れる機会が圧倒的に多い「チック」で終わる英単語が第一に参照された可能性はありそうである.
円グラフのソースとなるデータファイルを参照したい方はこちら.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow