本日11月20日(土)の 13:00?14:30 に,立命館大学国際言語文化研究所の主催する「国際英語文化の多様性に関する学際研究」プロジェクトの一環として「世界の "English" から "Englishes" の世界へ」のタイトルでお話しさせていただきます(立命館大学の岡本広毅先生,これまでのご準備等,ありがとうございます).Zoom による参加も可能ですので,ご関心のある方はこちらの案内をご覧ください.
また,今朝すでにアップした私の音声ブログ Voicy の番組 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 では,「立命館大学,岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」と題する対談を行なっていますので,そちらもぜひ聴いてみてください.
さて,"World Englishes" に関する講演ということで,本日のブログ記事としても世界の様々な英語のサンプルを示したいと思います.ただし "Englishes" の多様性を示すために部分を切り抜いたランダムなサンプルを挙げるにすぎませんので,その点はご了承を.本日の講演では,以下の例を用いて話し始めたいと思っています.よろしくどうぞ.
・ Northern English (Yorkshire): B. Hines, Kes (1968) [qtd. in Gramley 198]
Hey up, where's tha been? They've been looking all over for thee.
・ Scots Leid: Aboot William Loughton Lorimer (2009) [qtd. in Gramley 201]
Lorimer haed aye been interestit in the Scots leid (syne he wis a bairn o nine year auld he haed written doun Scots wirds an eedioms) an his kennin o the strauchles o minority leids that he got frae his readins o the nautral press durin the Weir led him tae feel that something needit daein tae rescue the Scots laid.
・ Tok Pisin: from Mühlhäusler (1986) [qtd. in Gramley 223]
em i tok se papa i gat sik ["he said that the father was sick"]
・ Hawaiian Creole English: from Bickerton (1981) [qtd. in Gramley 226]
Jan bin go wok a hospital ["John would have worked at the hospital"]
・ Jamaican Creole: "William Saves His Sweetheart" [qtd. in Gramley 238]
nóu wants dér wáz, a úol wíč liedi lív, had wán són, níem av wiljəm. ["Once upon a time there was an old witch, who had a son whose name was William."]
・ AAVE (= African American Vernacular English): A. Walker, The Color Purple (1982) [qtd. in Gramley 269]
I seen my baby girl. I knowed it was her. She look just like me and my daddy.
・ Cape Flats SAfE: Malan (1996) [qtd. in Gramley 300]
Now me and E. speaks English. And when we went one day to a workshop --- and uh, most of the teachers there were Africaans --- and we were there; they were looking at us like that you know. And I asked E., "Why's this people staring at us?" She said, "No, I don't know."
・ Nigerian English: "Igbo Girls Like Money a Lot" (2006) (qted. in Gramley 319)
Igbo girls are hardworking, smart, successful and independent so ain't nuffin wrong in them lookin for a hardoworkin, successful man. if u ain't gats the money, they aint gon want u cos u below their level of achievement.
・ Hong Kong English: Joseph (2004) [qtd. in Gramley 321]
However, as Hong Kong is going through an economic down turn recently, we shall have to see. . . Last year we have raised more than two million Hong Kong Dollars.
・ Singapore English [qtd. in Gramley 328]
The tans [= military unit] use to stay in Sarangoon.
・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
世界の ESL ( English as a Second Language ) 地域は,[2009-10-21-1]の記事で列挙したように多数あり,[2009-06-23-1]で示唆したように今後も増えてゆくことが見込まれ,世界英語へ及ぼす影響は大きいと考えられる.ESL 地域は主に英米植民地化の歴史を背負っており,それゆえにというべきだが日本にとってあまり馴染みのない地域が多い.現代日本にとって比較的関心の強いところでは Hong Kong, India, Malaysia, the Philippines, Singapore などの南・東南アジア諸国が挙げられる.特に India は ESL を論じる場合には欠かすことのできない主要国だが,それ以外の世界の ESL 地域における言語事情については,日本では一般にあまり知られていない.ESL 地域のもつ潜在的な影響力を考えれば,各 ESL 地域について無知でいることは許されない.私自身も言語事情をよく知らない地域が多いし,ESL に言及するときに India の話題だけでは心許ないので,これから少しずつ調べていきたいと思っている.そこで,今回は典型的な ESL 国の1つ Nigeria ( Federal Republic of Nigeria ) に焦点を当ててみたい.
Nigeria は西アフリカのギニア湾に面するアフリカで最も人口の多い国である.人口が多いだけでなく,アフリカの多くの国々と同様に民族の多様性も高い.[2010-06-02-1]の記事で言語の多様性指数 ( diversity index ) を取りあげたが,Nigeria の多様性指数は 0.869 で世界第23位である.1国内に使用されている言語の数でいえば実に521言語を数え,Papua New Guinea, Indonesia に次いで世界第3位を誇る.言語的同質性の高い日本からみると想像を絶する言語事情である.Nigeria で使用されている諸言語の詳細については Ethnologue report for Nigeria を参照.
主要な言語としては,北部の Hausa, Fula,南西部の Yoruba,南東部の Igbo が挙げられる.このうち Hausa は Afro-Aisatic 語族,それ以外は Niger-Congo 語族に属する.政治的に特に重要な言語は Hausa で,国内の lingua franca の1つとなっているが,母語話者と第2言語話者を合わせても総人口(1億4000万を超える)の1/4に届かない.English, Nigerian Pidgin English もそれぞれ1000万人,3000万人ほどの話者を有し,lingua franca として国内でよく通用する.いずれにせよ単独で人口の1/4ほどのシェアを占める言語は存在しないが,政治や教育の場で公式に用いられる言語は英語である.話者数では1000万人ほどにもかかわらず,国のなかで英語が高い地位を確保されているのはなぜだろうか.
1つは歴史的な遺産である.西アフリカ,ギニア湾沿岸へのヨーロッパ人の訪問の歴史は,[2010-06-13-1]で紹介したカメルーンの英語事情に記した通りである.15世紀にポルトガル商船の交易基地が Nigeria 地域にも築かれ,16世紀にはイギリス人との接触により同地域に様々な英語変種が話されるようになった.ただし,イギリス人による植民地が Lagos (旧首都)に正式に設立されたのは1861年のことである.他の多くの植民地と同様に,このイギリス統治時代に標準イギリス英語が政治・教育などの公式な言語となり,1960年の独立後も現在にいたるまでその状況が遺産として受け継がれている.
2つ目に,英語が民族的,政治的に最も中立な言語とみなされているということがある.India の場合と同様に,多民族・多言語国家 Nigeria では公用語をある1つの言語に特定することは民族対立の原因となる.Nigeria には圧倒的な多数派がいないことも,公用語の制定を難しくしている.もし Hausa を採用すれば非 Hausa 系が団結して対抗するだろうし,政治問題そして流血の惨事へと発展する可能性が高い.実際に,Hausa と Igbo が血を流した1967年からの数年にわたる内戦(ビアフラ戦争)では150万の犠牲者が出た.このような国では,ある言語話者にとって「不平等に有利」になる社会状況を作り出すよりは,すべての言語にとって「平等に不利」であるほうが平和的である.そこで,言語的有利を犠牲にして万人にとって(第2言語という意味で)不利な言語である外来の言語たる英語を選ぶということが現実的な解決策になる.
3つ目に,上記のような国内政治的な理由で英語を用いざるを得ない状況のポジティヴな側面を見れば,英語を用いることによって世界とつながる機会が増えることにもなる.英語を公用語に掲げる国家としても外交上有利だし,英語を習得する個人としてもキャリア上有利だろう.
多くの ESL 地域の言語事情は複雑である.このような地域の言語事情を調べると,世界の人々が英語を話したり学んだりする理由も千差万別だということが改めてわかる.[2010-01-19-1]の記事も改めて参照されたい.
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