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2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,1月12日に一般発売となった新著『文献学と英語史研究』(開拓社)について,共著者である京都大学の家入葉子先生と対談しました.本書の趣旨,章立て,英語史研究の動向と展望などについて17分ほどお話ししています.「#609. 家入葉子先生との対談:新著『文献学と英語史研究』(開拓社)を紹介します」,あるいは以下より直接お聴きください.
共著者2人で著書を紹介するという収録・配信は初めてでしたが,宣伝のために企画したはずなのに,話している私自身が勉強になってしまったというのが率直な感想です.
家入先生は日本の英語史研究の第一人者ですが,ウェブ上でも活発に英語史を中心とした情報を発信されています.
・ メインのHP 「コトバと文化のフォーラム - Castlecliffe」 より,とりわけ「【KOTOBA-カタリナ】ブログ」は専門的な情報も満載です.必読.
・ もう1つのHP 「Yoko Iyeiri(家入葉子)のホームページ」より,とりわけ「研究・授業関連の投稿ページ」にはご著書の一覧が掲載されています.関連記事も英語史を学ぶ者にとってたいへん有用です.
・ 家入先生による英語史導入 YouTube 動画もあります.「京大先生シアター「英語史 ことばが変化し続けることの意味」」よりどうぞ.
・ 家入先生が代表世話役をお務めの英語史研究会も紹介しておきます.
明日の Voicy では家入先生との対談の第2弾をお届けする予定です.英語史コーパスの今昔物語という話題です,お楽しみに! 新著もよろしくお願いいたします.
-age は名詞を作る接尾辞 (suffix) として一見目立たなそうだが,意外と基本的な単語にも用いられている.例えば percentage, marriage, usage, passage, storage, shortage, mileage, voltage, baggage, postage, luggage, breakage, bondage, anchorage, shrinkage, orphanage 等をみれば頷けるだろう.
語源としては,古典時代以降のラテン語 -agium に遡る場合もあれば,同じく古典時代以降のラテン語の別の語尾 -aticum(古典ラテン語の形容詞語尾 -āticus の中性形より)がフランス語に -age として伝わったものに由来する場合もある.いずれももとより名詞を作る接尾辞として機能していた.
この接尾辞をもつ単語は早くも初期中英語期にフランス語やラテン語から借用されていたが,後期中英語期になると peerage, mockage など英語内部で語形成されたものも現われ,この傾向は近代英語期になるととりわけ強くなった.現代英語においてもある程度の生産性を有する接辞で,1949年には signage などの語が作られている.
この接尾辞の主な意味を語例とともに挙げてみよう.
1. 集合: cellarage, leafage, luggage, surplusage, trackage, wordage
2. 動作・過程: coverage, haulage, stoppage
3. 結果: breakage, shrinkage, usage
4. 率・数量: acreage, dosage, leakage, mileage, outage, slippage
5. 家・場所: orphanage, parsonage, steerage
6. 状態: bondage, marriage, peonage
7. 料金: postage, towage, wharfage
このように -age は英語では原則として名詞を作る接尾辞だが,ラテン語の形容詞語尾 -āticus より機能を受け継ぎ,珍しく形容詞としてフランス語より入ってきた savage という語を挙げておこう.
昨年出版された安藤聡(著)『英文学者がつぶやく英語と英国文化をめぐる無駄話』(平凡社)を読了した.英語(文化)史を中心とした教養のエッセイ集である.
本書の2つめのエッセイの題が「最も長い英単語」である (24--31) .本ブログでも関連する記事を3本書いてきた.
・ 「#63. 塵肺症は英語で最も重い病気?」 ([2009-06-30-1]) より pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis
・ 「#2797. floccinaucinihilipilification」 ([2016-12-23-1])
・ 「#391. antidisestablishmentarianism 「反国教会廃止主義」」 ([2010-05-23-1])
この3つの語は当該のエッセイでも触れられているが,もう1つ私の知らなかった長大な語が挙げられていたので,オォっとなった.supercalifragilisticexpialidocious という34文字からなる無意味な語である.OED によると "A nonsense word, originally used esp. by children, and typically expressing excited approbation: fantastic, fabulous." と説明がある.1931年が初出だが,1964年のディズニー映画『メリー・ポピンズ』のなかで呪文として用いられ有名になった語ということだ.
同エッセイでは,特別部門での最長英単語も紹介されている.例えば固有名詞部門としてウェイルズの地名 Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch は58文字からなる.2つの村が合併して両方の名前が接続されたために,このようなことになったらしい.読み方は不明で,そもそも英単語なのかというと怪しいところがあり,アレではある.
同じ文字を繰り返さない pangram 的な最長英単語の部門としては,dermatoglyphics 「掌紋学」と uncopyrightable 「版権を取ることが出来ない」がそれぞれ15文字で最長語候補となる.pangram については「#1007. Veldt jynx grimps waqf zho buck.」 ([2012-01-29-1]) を参照.
Shakespeare が用いた最長単語の部門としては,『恋の骨折り損』より honorificabilitudinitatibus 「名誉を受けるに値する」が挙げられている.
最後に,語頭と語末の間に1マイルもの距離がある smiles が最長英単語であるというのは古典的なジョークである.
英語好きにぜひお勧めしたいエッセイ集.
・ 安藤 聡 『英文学者がつぶやく英語と英国文化をめぐる無駄話』 平凡社,2022年.
英語史の研究者として,英語史の通史を書くというのは1つの楽しみでもあり挑戦でもある.「通史としての英語史」とはいかなるものか.これは新著『文献学と英語史研究』の最終節「本書の終わりにーー通史としての英語史」で取り上げられている話題である.一部を抜き出してみよう (193--94) .
通史の多くは,英語史研究への導入的な役割を果たす.また,多くの英語史研究者にとっては英語史の執筆はある種の帰着点でもあり,しばしば研究者の個性を反映する創造的な営みである.〔中略〕通史の執筆は,先にも「研究経験豊富な研究者が…」と述べたように,英語史研究者の集大成のような仕事の1つであるといってもよい.特に1人で通史を書き上げる場合には,音韻論,形態論,統語論など,それぞれの得意分野での研究経験を踏まえた上で,他分野を含む英語史全般へ視野を広げる必要がある.その上でわかりやすく概説を行うことになるので,その仕事は必ずしも容易なものではない.また執筆する研究者一人一人が,それぞれ異なる分野で研究経験を積み重ねてきた上での著作であるからこそ,通史には個性が現れるのだろう.通史を読む面白さは,ここにある.
同節では,1980年代以降に著わされた,英語で書かれた代表的な英語史通史が多く紹介されている.英語史の学びの参考までに.
英語史概説書・入門書としては,以下の hellog 記事,あるいは Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 の放送回もお勧めしておきます.
・ hellog 「#4727. 英語史概説書等の書誌(2022年度版)」 ([2022-04-06-1])
・ hellog 「#4557. 「英語史への招待:入門書10選」」 ([2021-10-18-1])
・ heldio 「#140. 対談 英語史の入門書」 (2021/10/18)
・ hellog 「#4731. 『英語史新聞』新年度号外! --- 英語で書かれた英語史概説書3冊を紹介」 ([2022-04-10-1])
・ heldio 「#313. 泉類尚貴先生との対談 手に取って欲しい原書の英語史概説書3冊」 (2022/04/09)
・ hellog 「#3636. 年度初めに拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』を紹介」 ([2019-04-11-1])
・ heldio 「#315. 和田忍先生との対談 Baugh and Cable の英語史概説書を語る」 (2022/04/10)
・ hellog 「#4133. OED による英語史概説」 ([2020-08-20-1])
・ 家入 葉子・堀田 隆一 『文献学と英語史研究』 開拓社,2022年.
2週間前の1月12日より,家入葉子先生(京都大学)と堀田隆一(慶應義塾大学)による共著『文献学と英語史研究』が開拓社より発売となっています(A5版,264ページ,税込3,960円).すでに hellog, Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」, YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 などでも紹介しています.著者による本書の案内・解説へのリンクをまとめたこちらのページをご訪問ください.
本書では,第3章「音韻論・綴字」の第5,6節で,類書のなかでは比較的珍しいのですが英語綴字史研究の動向と展望が記述されています.まとめの部分を少し引用します (96--97) .
綴字の研究については,上述の通り,文献学の証拠に直接関わる分野として本質的に重要でありながらも,相対的に軽視されてきた経緯がある.しかし,中英語の方言研究と綴字研究を合流させたことによる「LALME 革命」は,そのような潮流を反転させる契機を作り出した.発音の証拠としての綴字も重要だが,綴字それ自身が自立した媒体として追究に値するという認識が拡がってきている.今後の綴字の変化は,音韻論はもちろんのこと文字論,社会言語学,世界英語などの観点を取り込みながら,豊かな分野に発展していく可能性を秘めている.とりわけ近年の英語史では各英語変種への関心が強まってきており,音韻論・綴字の研究も多元化する変種に焦点を合わせたものが増えてくるだろう.同時に,それらと対照的な位置にある標準変種や標準化という従来の問題も相対化されていくのではないかと予想される.
これは綴字史研究を要約した部分の引用にすぎず,英語綴字史の具体的な問題は同章のなかで多く取り上げられています.綴字の問題に関心のある方は,ぜひ第3章をお読みいただければと思います.同章の著者である私自身の綴字への関心を反映し,類書に比べて綴字問題への言及は多いと思います.
・ 家入 葉子・堀田 隆一 『文献学と英語史研究』 開拓社,2022年.
本ブログでは広く文字論 (grammatology) に関する話題を多く取り上げてきた.標題に掲げているタグなどを辿っていくと多くの記事にアクセスできるが,それでも数が多くて選びにくいと思われるので,ここに記事タイプごとにお勧め記事を厳選し,リンクを整理しておきたい.「文字」に関心のある方にとって,参考になると思います.
[ 話し言葉と書き言葉,文字の性質 ]
・ 「#230. 話しことばと書きことばの対立は絶対的か?」 ([2009-12-13-1])
・ 「#748. 話し言葉と書き言葉」 ([2011-05-15-1])
・ 「#849. 話し言葉と書き言葉 (2)」 ([2011-08-24-1])
・ 「#1001. 話しことばと書きことば (3)」 ([2012-01-23-1])
・ 「#1664. CMC (computer-mediated communication)」 ([2013-11-16-1])
・ 「#1665. 話しことばと書きことば (4)」 ([2013-11-17-1])
・ 「#1829. 書き言葉テクストの3つの機能」 ([2014-04-30-1])
・ 「#2301. 話し言葉と書き言葉をつなぐスペクトル」 ([2015-08-15-1])
・ 「#2417. 文字の保守性と秘匿性」 ([2015-12-09-1])
・ 「#2701. 暗号としての文字」 ([2016-09-18-1])
・ 「#3274. 話し言葉と書き言葉 (5)」 ([2018-04-14-1])
・ 「#3886. 話しことばと書きことば (6)」 ([2019-12-17-1])
[ 文字の種類・歴史 ]
・ 「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1])
・ 「#1822. 文字の系統」 ([2014-04-23-1])
・ 「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1])
・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])
・ 「#1853. 文字の系統 (2)」 ([2014-05-24-1])
・ 「#2389. 文字体系の起源と発達 (1)」 ([2015-11-11-1])
・ 「#2390. 文字体系の起源と発達 (2)」 ([2015-11-12-1])
・ 「#2398. 文字の系統 (3)」 ([2015-11-20-1])
・ 「#2399. 象形文字の年表」 ([2015-11-21-1])
・ 「#2414. 文字史年表(ロビンソン版)」 ([2015-12-06-1])
・ 「#2416. 文字の系統 (4)」 ([2015-12-08-1])
・ 「#3443. 表音文字と表意文字」 ([2018-09-30-1])
[ アルファベットの歴史・特徴 ]
・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
・ 「#490. アルファベットの起源は North Semitic よりも前に遡る?」 ([2010-08-30-1])
・ 「#1861. 英語アルファベットの単純さ」 ([2014-06-01-1])
・ 「#2105. 英語アルファベットの配列」 ([2015-01-31-1])
・ 「#2888. 文字史におけるフェニキア文字の重要性」 ([2017-03-24-1])
[ 文字の伝播と文字帝国主義 ]
・ 「#1838. 文字帝国主義」 ([2014-05-09-1])
・ 「#2429. アルファベットの卓越性という言説」 ([2015-12-21-1])
・ 「#850. 書き言葉の発生と論理的思考の関係」 ([2011-08-25-1])
・ 「#2577. 文字体系の盛衰に関わる社会的要因」 ([2016-05-17-1])
・ 「#3486. 固有の文字を発明しなかったとしても……」 ([2018-11-12-1])
・ 「#3700. 「アルファベットと鉄による文明の大衆化」論」 ([2019-06-14-1])
・ 「#3768. 「漢字は多様な音をみえなくさせる,『抑制』の手段」」 ([2019-08-21-1])
・ 「#3837. 鈴木董(著)『文字と組織の世界史』 --- 5つの文字世界の発展から描く新しい世界史」 ([2019-10-29-1])
[ 絵文字と句読法 ]
・ 「#808. smileys or emoticons」 ([2011-07-14-1])
・ 「#2244. ピクトグラムの可能性」 ([2015-06-19-1])
・ 「#2400. ピクトグラムの可能性 (2)」 ([2015-11-22-1])
・ 「#574. punctuation の4つの機能」 ([2010-11-22-1])
・ 「#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど」 ([2010-11-23-1])
・ 「#3045. punctuation の機能の多様性」 ([2017-08-28-1])
形態論における生産性 (morphological productivity) とは何か? 言語学でも様々な捉え方があり,いまだに議論を呼び続けている問題である.本ブログでも何度かにわたり取り上げてきた(こちらの記事セットを参照).
Morphological Productivity を著わした Bauer (10) は,序章において生産性を巡る8つの "potential problems" を挙げている.
(a) Is it useful to distinguish between 'productivity' and 'creativity' in morphology, and if so in what way?
(b) Are there several meanings for the term 'productivity', an if so do they conflict?
(c) Is productivity a yes/no matter or is it a matter of gradient?
(d) If it is a matter of gradient, does this imply that it is measurable on some scale?
(e) Is there a difference in kind or just a difference in degree between the new use of rare patterns to create words like Vaxen and the new use of normal patterns to create words like laptops?
(f) Does the use of unproductive processes lead to ungrammaticality?
(g) Is the answer to question (f) determined by specific constraints which may have been broken, and does it vary diachronically?
(h) What factors influence productivity if --- as was suggested here --- neither frequency nor semantic coherence do?
この一覧を眺めるだけで「生産性」が相当大きな問題であることが分かってくるのではないか.本当は気軽に使うことのできない用語であり概念でもあるのだが,私もつい使ってしまう.この辺り,意識的にならなければ,と思う.
歴史的な観点からは (g) が興味深いが,私としては時代によって生産性の高い/低い語形成があったり,時代を通じて同一の語形成の生産性が高くなったり低くなったりする現象に関心がある.
・ Bauer, Laurie. Morphological Productivity. Cambridge: CUP, 2001.
標題は1年のこの時期の恒例の話題です.昨年4月に「#4728. 2022年度「英語史」講義の初回 --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目「英語史」が始まります」 ([2022-04-07-1]) として「英語史」の講義を勢いよく始めましたが,先日その講義の最終回を迎えました.履修者に,1年間を振り返って英語史から何を学び取ったかを聞いてみました.いくつか回答をピックアップしてみます.皆さんの学びの参考になればと思います.
・ 「視点は複数存在する」ということを何度も再認識させられた.
・ 「英語にも多様性があることを理解することで,物事を様々な視点から見られるようにする」ことがあるという考えは非常に印象深かった.
・ 長い間英語を学んできたが,その途中でなぜ母音の前には a ではなく an を付くのか,color と colour どっちが正しいのかなど,浮かび上がった疑問に答えてくれる人は誰もいなかった.しかし,そうした英語の大きな疑問から素朴な疑問に至るまで英語のなぜという問いに,この英語史の授業を通じて答えを得ることができた.
・ 英語史を学び,これまでうやむやにしていた細かな疑問が多く解決されました.例えば,古英語の強変化動詞について学ぶことで現代英語の不規則変化動詞についてその規則を理解できるようになったり,名詞の複数形について単複同形が形成された経緯を歴史的に知ることができたり,様々な理解が深まりました.
・ 今年度一年にわたって英語史を学習してきて学べたことは様々ありますが,そのなかでも最も価値があったのは英語をある種相対化して見ることができるようになったことです.
・ 英語史についてだけではなく,言語そのものに対して興味が深まっていったこと,知見が広がっていったことが最も価値のあるものだったのではないかと感じた.
・ 外面史とともに言語をとらえる重要性を学ぶことができた.言語は人々が生み出してきたものであり,その人々の生活,生み出してきた歴史に密着しているものであり,単語や文法といった言語の特徴も当時の人間が抱いていた価値観や関わりによって生まれたものだと反映することで,つながりが理解できた.
・ 英語史を学ぶまで,今や義務教育にまで取り入れられている英語は,他の言語とは一味違う,何が重要なものであるような印象があった.〔中略〕しかし今年度を通して英語を学ぶことで英語はただの一言語に過ぎないということが理解できた.それまでの私にとって英語は義務教育という形から強制され,学ばなければならない無機質なものであるという価値観があった.しかし英語は借用語で他言語から多くの語彙借用をしていること,ある時期には格好つけの知識人層によって英語が捻じ曲げられてしまったことを知ると,英語が人々の手がきちんと加えられた有機的なものであるという感覚が生まれた.
・ 英語史は,歴史である,と強く感じた.言語の歴史であるので,当たり前なのだが,英語は,アメリカ,イギリス,フランス,はたまたアジア圏の国々・・・ありとあらゆる地域が,各時代ごとに,条件とともに混ざりあって完成した,非常に複雑でいろいろな事柄を経験した言語である,というように思われるようになって,英語学習に厚みが増した気がする.
・ 私が今年度英語史の講義を通して最も価値があると感じたのは,英語の成り立ちを知ることで格段に英語に対する興味関心が増え,学習意欲の向上につながるのではないかと思えたことだ.〔中略〕英語史の講義を通して素朴な疑問が英語史を介することでほとんど解決可能な事項だと知り,とても面白く学んでよかったと思った.
・ この講義で,「イギリス英語は保守,アメリカ英語は革新」というステレオタイプな価値観を打破できたことも嬉しく思う.「語源」を大事にしすぎたゆえ,ラテン語綴りを追いかけすぎて英語本来の響きから遠ざかってしまったイギリス英語や,発音と綴りを合わせたいという合理主義が高じて,イギリス英語由来のしがらみを解くことのできたアメリカ英語など,納得できる歴史と擦り合わせながらステレオタイプを打破していく学習は大変面白かった.
・ 私が英語史を学んできた中で,最も価値があったと感じたことは,「ものごとを一つとってみても,そこに至った経緯や背景があり,探求してみると見えていないことも多く見えてくるかもしれない」ということです.〔中略〕英語史を受講させていただいて,物事を追求してみることの面白さというものを感じることができた1年間でした.
・ 私が今年度の英語史の講義を通じて,広い意味で学んだ事柄のうち最も価値があると思った事柄は,少しでも疑問に思ったことをそのままで終わらせない,ということである.
・ 今学期を通して学べたこととしてはやはり英語史を学ぶことで常に自分たちが流動的なものの流れにいるということであり,今日の当たり前はその先の当たり前ではないということが分かったということです.
・ 中学校で英語を習い始めてから大学受験まで,英語(の問題)には必ず一つの正解があると信じて疑わずに生きてきたが,この講義を通じて,言語とは本来通時的に変化し続けるもので,また,共時的にも変異しているということを学んだ.
・ 今年度の英語史の授業を通して学んだことの中で,私にとって一番価値があると思われるものは,普段から疑問に思ったことを突き詰めて考えるということです.
・ 共時態としての英語,通時態としての英語,これらはともに意識的しておくと視野が拡大する,このことを毎度身を以て体感できる講義だった.
・ 英語史通史を学んだことで,英語に対して抱いていたある種の威厳のようなものが,いい意味でなくなったというのが最大の収穫であった.これまで,漠然と英語は「かっこいい」,「世界を支配している言語だ」と考えていた.しかし,英語史の講義を通して,さまざまな側面から英語という言語を俯瞰したことで,その絶対的な感覚がなくなった.
・ これまで英語史で取り上げられた,何故英語は現在のような形になったのかということに関する様々な問題点や経緯は非常に面白かった.ずっと継続して繋がっているというのも魅力的だ.知らない人に話したくなる内容ばかりだった.
・ 1年間英語史を受講して,私が得たことは英語に絶対的な正解はないということである.この授業の初回で「英語の見方が180度変わる」と聞いてしっくりこなかったが,今となってその通りになってしまったと考えている.
・ 何よりも「何事にも絶対なことはなく,その裏には何らかの理由がある」と強く感じさせただけでなく,必ずしもその因果は「必然的」ではなく,「偶然的」な可能性もあると深く考えたためだ.1年間,英語の壮大な歴史を学んでとても興味深いと感じた.
ぜひ過年度の回答もご覧ください.ということで今年度の大学での「英語史」講義はこれにて終了.お疲れ様でした!
・ 「#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2016-01-31-1])
・ 「#3566. 2018年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2019-01-31-1])
・ 「#3922. 2019年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2020-01-22-1])
・ 「#4661. 2021年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2022-01-30-1])
昨日の記事「#5018. khelf メンバーと4人でジェンダーとコロナ禍周りのキーワードで『ジーニアス英和辞典』の版比較 in Voicy」 ([2023-01-22-1]) で紹介しましたが,6つの版を縦に比較した Voicy 放送「#600. 『ジーニアス英和辞典』の版比較 --- 英語とジェンダーの現代史」が,嬉しいことに多く聴かれています.ちょっとした khelf(慶應英語史フォーラム)企画というつもりでの収録でしたが,辞書比較のおもしろさが伝わったようであれば嬉しいです.
今回は身近な語句で辞書の版比較を導入しておもしろさを感じていただくという趣旨でしたが,辞書の版違いを用いるという手法は,現代英語の本格的な通時的研究にも利用できます.英和辞書でも英英辞書でも,「売れ筋」系の老舗辞書であれば,おおよそ定期的に新版が出版されています.例えば老舗でポピュラーな The Concise Oxford Dictionary のシリーズ(最新は12版)を利用すれば,優に100年を超える通時的な観察が可能です.Webster 系の辞書などでは,約200年にわたる英語の記述を追いかけることもできます.私自身も複数の辞書の異なる版を比較して英語史研究を行なってきました.例えば以下の論文では,ひたすら辞書を比較しています.
・ Hotta, Ryuichi. "Thesauri or Thesauruses? A Diachronic Distribution of Plural Forms for Latin-Derived Nouns Ending in -us." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 106 (2010): 117--36.
・ Hotta, Ryuichi. "Noun-Verb Stress Alternation: An Example of Continuing Lexical Diffusion in Present-Day English." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 110 (2012): 39--63.
研究手法としてはシンプルで応用が利きやすいように見えますが,注意が必要です.同一シリーズの辞書であっても編纂方針が一貫しているとは限らないからです.辞書作りは,出版社によって,編纂者によって,その時々の言語学の潮流やニーズによって,記述主義と規範主義の間で揺れ動くものだからです.したがって,研究に先立って辞書批評が必要となります.そのために,研究者には辞書学や辞書の歴史に関する素養も必要となってきます.異なるシリーズの辞書を組み合わせて研究する場合には,さらに慎重な事前評価が求められるでしょう.
今回の『ジーニアス英和辞典』の版比較の heldio 放送は,あくまで導入的なものです.本格的な研究に耐える議論へ発展させようとすれば,同シリーズの辞書の textual criticism が必要となることを強調しておきたいと思います.
昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 では,khelf(慶應英語史フォーラム)の大学院生メンバー3名とともに「#600. 『ジーニアス英和辞典』の版比較 --- 英語とジェンダーの現代史」をお届けしました.ジェンダーとコロナ禍に関するキーワードについて『ジーニアス英和辞典』の初版から最新の第6版までを引き比べ,英語史を専攻する4人があれやこれやとおしゃべりしています.意外な発見が相次いで,盛り上がる回となりました.30分ほどの長さです.ぜい時間のあるときにお聴きいただければと思います.Voicy のコメント機能により,ご感想などもお寄せいただけますと嬉しいです.
今回比較した『ジーニアス英和辞典』の6つの版の出版年をまとめておきます.5--8年刻みで,おおよそ定期的に出版されており,1つのシリーズ辞典で英語の記述を通時的に追いかけることが可能となっています.
版 | 出版年 |
---|---|
G1 | 1987年 |
G2 | 1993年 |
G3 | 2001年 |
G4 | 2006年 |
G5 | 2014年 |
G6 | 2022年 |
昨日,知識共有サービス Mond に寄せられていた1件の英語に関する疑問に対して回答しました.問いは「強調を示す do, does, did は,いつから出現したのでしょうか?」です.こちらより回答をご覧ください.
強調の do とは,典型的には次のような用法です.肯定平叙文において,否定ではなく肯定であることを強く押し出すときに用います.
・ Why didn't you come to the party last night? --- But I díd còme.
・ I díd stùdy very hard, but I didn't pass the exam.
・ I'm sorry we don't have hamburgers, but we dó hàve pizzas.
回答内でも議論しましたが,英語史上いつ強調の do が出現したかを見極めることは簡単ではありません.というのは現代英語と異なり中英語や初期近代英語では,肯定平叙文において強調用法でない do 迂言法 (do-periphrasis) も比較的よく用いられていたからです.do に強勢が落ちるか否かは書き言葉から読み取ることができず,文脈のみに依存して判断しなければならないために,研究者の主観的な読み込みが関与してしまう可能性が高いのです.
この用法は OED では do, v. の 32d の語義として挙げられています.最初の5例文まで引用します.
d. In affirmative sentences, used to give emphasis, esp. in contrast with what precedes or follows.
The stress is placed upon the auxiliary, as in the perfect and future tenses. There may be inversion of order as well.
In many Middle English and early modern English examples it is impossible to be certain that the use is emphatic.
c1390 (a1376) W. Langland Piers Plowman (Vernon) (1867) A. viii. l. 164 (MED) And so bileeue I lelly..Þat pardoun and penaunce and preyers don sauen Soules þat han sunget.
a1500 (?c1450) Merlin (1899) vi. 101 Loke ye, do not lye; and thow do lye, I shall it know wele.
1581 G. Pettie tr. S. Guazzo Ciuile Conuersat. (1586) i. f. 27v But these same..doe manye times more offend..than those who doe commit them [1738 tr. S. Guazzo Art Conversat. 52 Than those who actually commit them].
1600 W. Shakespeare Much Ado about Nothing ii. iii. 188 And so will hee doe, for the man doth feare God, howsoeuer it seemes not in him, by some large iestes hee will make.
a1616 W. Shakespeare Twelfth Night (1623) iii. i. 27 Vio. Thou art a merry fellow, and car'st for nothing. Clo. Not so sir, I do care for something: but..I do not care for you.
OED によると初例はc1390の Piers Plowman からの事例となっていますが,そこでの don sauen (= do save) が強調の do の用法なのかどうなのかを判断するには,より広い文脈を考慮した上での慎重な議論が必要でしょう.権威ある OED といえど,そのまま信じてしまうわけにはいきません.丁寧な検討が要求されるのです.
「#4995. 動名詞構文 there is no ---ing 「---することはできない」は中英語期から」 ([2022-12-30-1]) は現代英語にも続く構文として知られているが,中英語には there was ---ing という興味深い構文が存在した.「---が行なわれた」「---というということが起きた」ほどの意味である.Mustanoja (576) にいくつか例が挙げられている.
The construction there was . . -ing is frequently used in ME for the expression of indefinite agency: --- þer was sobbing (Havelok 234); --- þer was sembling (Havelok 1018); --- thar wes oft bikkyring (Barbour ix 343); --- so greet wepyng was there noon, certayn, Whan Ector was ybroght, al fressh yslayn, To Troye, Allas, the pitee that was ther, Cracchynge of chekes, rentynge eek of heer (Ch. CT A Kn. 2831--4). A similar case is and thus the woful nyhtes sorwe To joie is torned on the morwe; Al was thonkinge, al was blessinge, Which erst was wepinge and cursinge (Gower CA ii 3317--18).
動名詞で表わされる動作の行為者は不定であり,動作そのものに焦点を当てたい場合に用いる構文なのだろう.OED の -ing, suffix1 には特にこの構文に関する記述はなく,MED -ing(e (suf.(1)) にも言及がない.
この構文は,現代でも特に目立った構文として言及されることはないものの,細々とは受け継がれているようだ.there is/was ---ing の例を BNCweb よりいくつか挙げてみよう.
・ 'Well, like I told the foreign gentleman, there was dancing in the sitting room, and this Mrs Heatherington-Scott she was dancing with Mr Merrivale.'
・ There is shooting almost daily in the capital as roaming snipers attack military checkpoints;
・ There was rationing at home and war in Ireland.
・ First there was cheering then jeering.
・ There was knocking on the front door.
・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
言語とカオス理論 (chaos_theory) や複雑系 (complex_system) の関わりについては,これまでの記事でも触れることがあった.過去の記事では,主に言語体系の安定性や言語の統計的振る舞いを念頭に,カオスとの関わりに注目してきた.
たまたま『新編 認知言語学キーワード事典』 (p. 34) を開いていて「カオス (chaos)」の項を発見した.そこではカオス理論の基本が解説された後に,会話の成り立ちとカオスの関係について紹介されている.私にとって斬新な視点だった.以下に引用する.
カオス現象は,例えば,木の葉の落下軌道,昆虫の大量発生,煙草の煙やパチンコの玉の動き,伝染病の流行,株式市況,波の砕け方,雲の動きなど,自然界ではごく普通に見られるが,注目すべきは,カオスという不規則で予測不可能な現象が,比較的単純な決定論的 (deterministic) な規則に従う中で生じるということである.決定論とは,最初の状態が決まれば任意の時点での状態が一義的に決まるというものを言う.ニュートン流の古典物理学では,単純な現象は単純な原因で生じ複雑な減収は複雑な原因で生じるものとされていたが,カオス研究は,決定論的規則に従っている場合には,複雑で予測不可能な現象が生じることを示すもので,古典物理学の常識を覆すとともに,ランダムにしか見えない複雑な現象でも単純な規則性を持つ可能性があり,その過程を明らかにする必要性をわれわれに訴えている.
言語との関連で言うと,カオス的な現象は,会話の成り立ちにおいて端的に現れる.実際,会話に際して一定のルールを定め,そのルールを完全に守って自由会話を始めたとしても,時間の進行とともに,会話の展開や内容は予想できないものになる.また,同じルールでも初期条件を少し変えるだけで,その後に展開される会話の内容が大きく変わるという点でも,カオス的な振る舞いを見せる.また,関連語として,秩序(予測可能な構造)から無秩序(カオス)へ転換するところを「カオスの縁」 (edge of chaos) と言い,カオスの縁は有機的な領域で,情報発生能力が高いところである.
一定のルールを守るとしても,フリートークの場合,会話の成り立ちや進み方は確かに先が読めないことも多い.言語体系とは別軸で,言葉に関わるカオス的な現象は,思いのほかいろいろなところに観察されるのかもしれない.
・ 辻 幸夫(編) 『新編 認知言語学キーワード事典』 研究社.2013年.
2日間の記事 ([2023-01-16-1], [2023-01-17-1]) で標題の諺について考えてきた.今回は Speake の諺辞典と OED より,歴史的なヴァリエーションを拾い出してみよう.
・ c 1340 R. Rolle in G. G. perry Religious Pieces (EETS) 88 When Adam dalfe [dug] and Eue spane ... Whare was than the pride of man?
・ 1381 in Brown & Robbins Index Middle English Verse (1943) 628 Whan adam delffid and eve span, Who was than a gentilman?
・ a1450 in C. Brown Relig. Lyrics 14th Cent. (1924) 96 When adam delf & eue span, spir, if þou wil spede, Whare was þan þe pride of man þat now merres his mede.
・ a1450 T. Walsingham Historia Anglicana (1864) II. 32 Whan Adam dalf, and Eve span, Wo was thanne a gentilman?
・ c1525 J. Rastell Of Gentylnes & Nobylyte sig. Aviv For when adam dolf and eue span who was then a gentylman.
・ 1562 J. Pilkington Aggeus & Abadias I. ii. When Adam dalve, and Eve span, Who was than a gentleman? Up start the carle, and gathered good, And thereof came the gentle blood.
・ 1777 T. Campbell Philos. Surv. S. Ireland xxxii. 308 England..had its Levellers, who, aggrieved by the monopoly of farms, rebelliously asked, When Adam delved, and Eve span, Where was then your Gentleman?
・ 1979 C. E. Schorske Fin-de Siécle Vienna vi. When Adam delved and Eve span Who was then the gentleman? The question had ironic relevance for the arrivé.
・ 2013 New Statesman May (online) An oral peasant culture, such as still survives in the Balkan countryside, is a fertile context for the transmission of history and ideas through ballad and song. This is not so different from 'When Adam Delved and Eve Span', which we've inherited from our 14th-century Peasants' Revolt.
delve の過去形としては,後期中英語の段階から従来の強変化形に加えて新しい弱変化形も現われていたことが分かる.一方,今回の証拠の範囲内では,過去形 span は不変であり,現代標準的な spun に置き換えられた例はない.また,疑問詞として who の代わりに where が用いられているもの,a gentleman や your gentleman のように the 以外が用いられているものもあった.gentleman の代わりの pride of man というのもおもしろい.
最後に,古風あるいはほとんど使われない名詞 delve について一言触れておきたい.これは古英語 gedelf (> PDE delf) に遡る一種の異形とも解釈できるかもしれないが,初出が1590年の Spenser Faerie Queene であることを考えると,Spenser 流の懐古的・擬古的な言葉遣いが反映された,動詞 delve からの品詞転換 (conversion) の事例とととらえることもできそうだ(cf. 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])).見方次第だが,死語の復活に類するものといえる.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
昨日の記事「#5012. When Adam delved and Eve span, who was then the gentleman? --- John Ball の扇動から生まれた諺」 ([2023-01-16-1]) で紹介した諺に含まれる動詞の過去形 delved と span について,英語史の観点から考えてみたい.
(1) 現代英語の標準的な過去形としては,規則動詞 delved はこの通りでよいが,不規則動詞 span については英和辞書では「古風」というレーベルがついている(学習者表英英辞書では記載がない).この動詞の標準的な活用は spin -- spun -- spun であり,過去形 span はあくまで歴史的な形態ということである.まだ詳しく調べていないが,中英語まで span が普通だったものの,近代英語以降に現代標準に連なる spun が勢力を伸ばしてきたようだ.この辺りの事情については,他のA-B-C型やA-B-B型の不規則動詞と合わせて考えてみることが必要だろう.関連して「#2084. drink--drank--drunk と win--won--won」 ([2015-01-10-1]) を参照.
(2) 現代の諺で古い過去形 span が用いられているのは,まず第1に起源の古い諺だからだ.一般に諺では古形が残りやすい.しかし,ここでは合わせて脚韻 (rhyme) の都合を考える必要がある.この諺は韻律的には2行からなっており,統語的区分と連動して When Adam delved and Eve Span / who was then the gentleman? と分割される.2行目末尾の gentleman と脚韻を踏むために,1行目末尾は spun ではなく span でなければならない.中英語当時は韻律を念頭に man : span の脚韻を踏ませていたわけだが,近代英語以降に動詞過去形が spun へ標準化したからといって,ここで spun に差し替えてしまったら,せっかくの脚韻が台無しになる.厳密にいえば,現代英語では gentleman の man は曖昧母音で /mən/ と発音され,span は強い母音を伴って /spæn/ と発音されるので,いずれにせよ脚韻を踏まないのだが,少なくとも視覚韻 (eye rhyme) は踏むので,この程度のズレは許容されるということだろう.
(3) delved は今でこそ規則動詞(弱変化動詞)だが,本来は不規則動詞(強変化動詞)だった.古英語では delfan -- dealf -- dulfon -- dolfen の4主要形を示しており,この強変化屈折は中英語でも保たれていた.実際,Speake の諺辞典によると最も早い例では次の通り dalfe が用いられている.
c 1340 R. Rolle in G. G. perry Religious Pieces (EETS) 88 When Adam dalfe [dug] and Eue spane ... Whare was than the pride of man?
ところが,14世紀後半から弱変化化した過去形が現われ始め,やがて近代になると,この諺でも delved が用いられ始めた.
(4) 標題の現代標準の諺のリズム (rhythm) を示すと次のようになる.
x | / | x | / | x | / | / |
when | Ad | am | delved | and | Eve | span |
/ | x | / | x | / | x | / |
who | was | then | the | gen | tle | man |
x | / | x | / | x | / | x | / |
when | Ad | am | dalf | and | Ev | e | span |
(x) | / | x | / | x | / | x | / |
who | was | then | the | gen | tle | man |
標題の諺は「アダムが耕しイヴが紡いだとき,だれがジェントルマンであったのか」を意味する.14世紀後半のイングランドでは,英仏百年戦争 (hundred_years_war) と黒死病 (black_death) により人々が窮乏生活にあえいでいた.そんな中,1381年に農民一揆 (Peasants' Revolt) が勃発した.この一揆は,すぐに Richard II により鎮圧されたが,英語の復権にあずかって力があった事件として英語史上にも名を残している.
この農民一揆の指導者の1人が John Ball (d. 1381) である(もう1人が Wat Tyler (d. 1381)).Ball は聖職者だったが,階級社会を批判する説教をしたとして破門されていた.彼はロンドンの Blackheath で標題の文句を唱え,群衆を扇動して一揆へ駆り立てたとされる.後に Ball は審問され絞首刑となった.その後500年の時が流れ,19世紀後半の詩人・工芸美術家の William Morris (1834--96) が,社会主義の主張を込めて小説 A Dream of John Ball (1888) を著わし,Ball を有名にした.諺としては,後期中英語から近代英語にかけて知られていたようである.
delve は現代英語では「掘り下げる,徹底的に調べる」を意味し,This biography delves deep into the artist's private life. や If you're interested in a subject, use the Internet to delve deeper. のように用いる.しかし,古英語の語源形 delfan は文字通り「掘る;耕す」の意味で,現代の比喩的な語義が発達したのは17世紀半ばのことである.
農民一揆という歴史的事件から生まれた諺として記憶しておきたい.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
言語学 (linguistics) というメジャーとはいえない学問をポップに広めるのに貢献している YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」.昨日1月14日に公開された最新回では,1つ前の回に引き続き,<ghoti> ≡ /fɪʃ/ の問題を中心に英語の綴字と発音の珍妙な関係が話題となっています(前回の話題については「#5009. なぜバーナード・ショーの綴字ネタ「ghoti = fish」は強引に感じられるのか?」 ([2023-01-13-1]) も参照).2回にわたり私が監修させていただいたのですが,その過程もたいへん楽しいものでした(水野さん,関係者の方々,ありがとうございます!).
ghoti, high, women, nation, debt などの綴字について,水野さんと堀元さんの軽妙洒脱なトークをどうぞ.ものすごいタイトルで「フランスかぶれ・悪筆・懐古厨.綴りの変遷理由が意外すぎる.【発音2】#194」です.
「フランスかぶれ・悪筆・懐古厨」というフレーズですが,英語綴字史のツボのうち3点を実におもしろく体現している表現だと思います.英語の綴字は,中英語以降にフランス語風にかぶれたというのは事実です.また,悪筆というのは写字生個人の悪筆というわけではありませんが,当時の特殊な字体や字形が,現代の観点からは悪筆と見える場合があることを指摘しています(今回は縦棒 (minim) が問題となっていました).懐古厨は,英国ルネサンスと重なる初期近代英語期に古典語(特にラテン語)への憧憬が募ったことを指しています.
フランス語かぶれと(ラテン語)懐古厨は,時代も動機も異なってはいますが,社会言語学的にいえば,いずれも威信 (prestige) ある言語への接近としてとらえることができます.これは,英語綴字史を通じて観察される大きな潮流です.
この2回の「ゆる言語学ラジオ」で取り上げられた話題に関して,私自身も「hellog~英語史ブログ」,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」,YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」,著書などを通じて,様々に発信してきています.ここにリンクをまとめると煩雑になりそうですので,note 上に特設ページ「「ゆる言語学ラジオ」の ghoti 回にまつわる堀田リンク集」を作ってみました.そちらも合わせてご覧ください.
なお,最新回の最後の「おおおっ,オレかよ!」は,「#224. women の発音と綴字 (2)」 ([2009-12-07-1]) のことです.12年前の個人的な仮説(というよりも感想)で,書いたこと自体も忘れていますよ,そりゃ(笑).
Voicy パーソナリティ兼リスナーとして,「ゆる言語学ラジオ」の Voicy 版があることも紹介しておきたいと思います.最新回「フランスかぶれ・悪筆・懐古厨.綴りの変遷理由が意外すぎる.#194」です.
本日『中高生の基礎英語 in English』の2月号が発売となります.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第23回は「なぜ現在分詞と動名詞は同じ -ing で表されるの?」です.
英語の -ing 語尾は多義ですね.現在分詞 (present participle) は,be と組み合わさって進行形 (progressive) を形成したり,形容詞として名詞を修飾・叙述したり,分詞構文を作ることもできます.動名詞 (gerund) としては,動詞を名詞に転換させる生産的な方法を提供しています.つまり,-ing は動詞を形容詞にしたり,副詞にしたり,名詞にしたりと八面六臂の活躍を示しているのです.
しかし,現在分詞の -ing と動名詞の -ing は起源がまったく異なります.古くは形態も異なっていたのですが,歴史の過程で -ing という同じ形に合わさってしまっただけです.今回の連載記事では,この辺りの事情を易しく丁寧に解説しています.また,進行形は近代英語期に確立した比較的新しい文法事項なのですが,なぜどのように成立したのか,その歴史的過程もたどっています.いつものように謎解き風の記事となっています.ぜひご一読ください.
Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の関連する放送回として「#375. 接尾辞 -ing には3種類あるって知っていましたか?」を紹介しておきます.連載記事と合わせて -ing への理解が深まると思います.
言語に焦点を当てた YouTube と Podcast の人気チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の1月10日に公開された最新回は「ghoti と書いてフィッシュと読む?英語学ジョークを徹底解剖【発音1】#193」です.英語の綴字と発音の乖離 (spelling_pronunciation_gap) を皮肉ったものとしてよく知られている話題が紹介されています.私が英語綴字史を研究しているということもあり,このたび続編となる次回と合わせて監修させていただくことになりました(水野さん,お世話になっています!).
<ghoti> という綴字で fish /fɪʃ/ と読める,というトンデモネタですが,これは英語の綴字改革に関心を寄せていたアイルランド出身の劇作家 George Bernard Shaw (1856--1950) が英語の綴字のひどさを皮肉ったものとして紹介されることが多いです.Shaw および <ghoti> の <gh> に関する hellog 記事として,以下を挙げておきます.
・ 「#15. Bernard Shaw が言ったかどうかは "ghotiy" ?」 ([2009-05-13-1])
・ 「#605. Shavian Alphabet」 ([2010-12-23-1])
・ 「#1195. <gh> = /f/ の対応」 ([2012-08-04-1])
・ 「#2085. <ough> の音価」 ([2015-01-11-1])
・ 「#2590. <gh> を含む単語についての統計」 ([2016-05-30-1])
・ 「#3945. "<h> second" の2重字の起源と発達」 ([2020-02-14-1])
なぜ <ghoti> ≡ /fɪʃ/ が成り立つのかについては,ゆる言語学ラジオの2人のトークに勝る説明はありませんので,ここで野暮なことは述べません.
Shaw はこの例を皮肉として挙げたわけで,当然ながら私たち受け取る側も何かしらの違和感を感じています.<ghoti> ≡ /fɪʃ/ のカラクリは説明されれば分かるけれども,かなりの牽強付会だと感じます.この強引さの感覚はどこから来るのでしょうか.
私たちは,現代標準英語の正書法 (orthography) のなかでも特に文字配列法 (graphotactics) が守られていない点に反応しているのだろうと思われます.英語綴字の諸規則は複雑多岐にわたりますが,そのなかでも綴字を構成する文字素 (grapheme) の配列に関する規則があり,それを文字配列法と呼んでいます.<ghoti> ≡ /fɪʃ/ のなかでもとりわけ子音に対応する綴字 <gh> と <ti> について,文字配列法の規則が破られている,つまり不規則だという感覚が生じているのです.
<gh> ≡ /f/ の関係は確かに cough, enough, laugh, rough, tough など比較的頻度の高い語にもみられ,極端に珍しいわけではありません.しかし,この関係が成り立つのは基本的には語末(形態素末)においてであり,このことが文字配列法の規則に組み込まれていると考えられます.つまり,英単語には <gh> ≡ /f/ の関係が語頭(形態素頭)で現われる例がないために,ghoti が文字配列法の規則に違反していると感じられるのでしょう.
同様に <ti> ≡ /ʃ/ の関係も,それ自体は決して珍しくありません.-tion や -tious をもつ単語は多数あり,私たちも見慣れています (ex. nation, station, ambitious, cautious) .しかし,/ʃ/ に対応する <ti> は基本的にそれだけで独立して現われるわけではなく,後ろに <on> や <ous> を伴って現われるのが文字配列法の規則です.<ghoti> の <ti> を /ʃ/ と読ませる際に感じる強引さは,この規則違反に由来します.
英語の文字配列法については以下の記事もご覧ください.
・ 「#2405. 綴字と発音の乖離 --- 英語綴字の不規則性の種類と歴史的要因の整理」 ([2015-11-27-1])
・ 「#3882. 綴字と発音の「対応規則」とは別に存在する「正書法規則」」 ([2019-12-13-1])
ゆる言語学ラジオには Voicy 版 もあり,今回の最新回はこちらとなっています.
Voicy 内ではゆる言語学ラジオも,私の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 も,同じ「語学」セクションにカテゴライズされているチャンネルであるため,たまに両アイコンが仲良く横に並ぶことがあります(笑).
昨日,khelf(慶應英語史フォーラム)により『英語史新聞』最新号となる第4号がウェブ上で公開されました.こちらよりPDFで閲覧・ダウンロードできます.
khelf 公式ツイッターアカウント @khelf_keio を通じてこちらのツイートからも第4号公開を案内していますので,ぜひそちらのリツイートなどを通じて広めていただければ幸いです.「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)にご協力いただけますと嬉しいです.
第4号編集委員会では,年末年始にも熱の入った作業が続けられてきましたが,結果として内容・レイアウトともに満足できる仕上がりとなったと思います.いつものように英語史に関する多様な記事が掲載されています.以下,記事のラインナップを紹介します.
・ 赤い黄金
・ 英語コーパスをもっと気軽に
・ 食べ物・飲み物をめぐる綴り字論争?
・ なぜクッパが複数形なのか
・ 英語史ラウンジ by khelf 「第1回 菊地翔太先生(前編)」
・ 時間とは何か
とりわけ新企画「英語史ラウンジ by khelf」の第1回として,khelf 主催の Voicy heldio 生放送「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」にも参加いただいた菊地翔太先生(専修大学)のインタビュー記事が目玉となっています.菊地先生がどのように英語に関心を持ち始め,さらに英語史の世界へ足を踏み入れたのか,詳しく伺いました.新聞記事として収まり切らないところもありましたので「完全版」記事を khelf HP のこちらのページに掲載していますので,そちらをお読みください.
さて,『英語史新聞』をご愛読いただきまして,このたび第4号まで発行することができました.ここまで続けて来られましたのも読者の皆様のおかげです.今回の号も含めまして『英語史新聞』のすべての号は,教育目的での利用・配布について自由にお取り扱いいただくことができます.むしろ,英語史の魅力を広げるべく活動している発行主体の khelf としましては,電子媒体・紙媒体を問わず,皆様に広く利用・配布していただけますと幸いです.
もし学校の授業などの公的な機会(あるいは,その他の準ずる機会)にお使いの場合には,ぜひこちらのフォームを通じてご一報くださいますと khelf の活動実績の把握につながるほか,『英語史新聞』編集委員の励みともなります.ご協力のほどよろしくお願いいたします.ご入力いただいた学校名・個人名などの情報につきましては,khelf の実績把握の目的のみに限り,記入者の許可なく一般に公開するなどの行為は一切行なわない旨,こちらに明記いたします.フォームへの入力を通じ,khelf による「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)への賛同をいただけますと幸いです.
最後に『英語史新聞』のバックナンバー(号外を含む)も紹介しておきます.こちらも合わせてご一読ください(khelf HP のこちらのページにもバックナンバー一覧があります).
・ 『英語史新聞』第1号(創刊号)(2022年4月1日;2023年1月9日現在1621プレビュー)
・ 『英語史新聞』号外第1号(2022年4月10日;345プレビュー)
・ 『英語史新聞』第2号(2022年7月11日;767プレビュー)
・ 『英語史新聞』号外第2号(2022年7月18日;224プレビュー)
・ 『英語史新聞』第3号(2022年10月3日;690プレビュー)
正月三箇日明けの1月4日,5日,6日と3日間にわたり,hellog 5000回を記念して,私の Twitter アカウント @chariderryu で英語史小ネタ36連投の一人企画を実施しました.ハッシュタグ #英語史小ネタ と #英語史をお茶の間に を付して,hellog の過去記事からの蔵出しという形で,おもしろ英語史話題を次々と投げました.
hellog をお読みの多くの方々にもご覧いただきましたが,数日経って振り返ってみますと,そこそこウケた話題とウケなかった話題の差が浮き彫りになってきました.ウケた話題は,やはり何らかのアピールがあるということかと思います.もともと hellog に絡めた企画でしたし,ここで振り返ってみたいと思います.人気のあったベスト3です.
第1位:第19投稿 (435), "Ye Olde Cheshire Cheese" (cf. 「#1428. ye = the」 ([2013-03-25-1]))
第2位:第15投稿 (340), "en- of 'English'" (cf. 「#2250. English の語頭母音(字)」 ([2015-06-25-1]))
第3位:第35投稿 (187), "Unintelligible English passage due to semantic changes" (cf. 「#1954. 意味変化によって意味不明となった英文」 ([2014-09-02-1]))
企画が終わった後も,細々と Twitter 上で #英語史小ネタ は続けていますので,ぜひフォローいただけると嬉しいです.本ブログと合わせて,そちらもよろしくお願いいたします.
昨年2月26日に,同僚の井上逸兵さんと YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を開始しました.以降,毎週レギュラーで水・日の午後6時に配信しています.最新動画は,一昨日公開された第91弾の「ゆる~い中世の英語の世界では綴りはマイルール?!through のスペリングは515通り!堀田的ゆるさベスト10!」です.
英語史上,前置詞・副詞の through はどのように綴られてきたのでしょうか? 後期中英語期(1300--1500年)を中心に私が調査して数え上げた結果,515通りの異なる綴字が確認されています.OED や MED のような歴史英語辞書,Helsinki Corpus, LAEME, LALME のような歴史英語コーパスや歴史英語方言地図など,ありとあらゆるリソースを漁ってみた結果です.探せばもっとあるだろうと思います.
標準英語が不在だった中英語期には,写字生 (scribe) と呼ばれる書き手は,自らの方言発音に従って,自らの書き方の癖に応じて,様々な綴字で単語を書き落としました.同一写字生が,同じ単語を異なる機会に異なる綴字で綴ることも日常茶飯事でした.とりわけ through という語は方言によって発音も様々だったため,子音字や母音字の組み合わせ方が豊富で,515通りという途方もない種類の綴字が生じてしまったのです.
関連する話題は hellog でもしばしば取り上げてきました.以下をご参照ください.
・ 「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1])
・ 「#54. through 異綴りベスト10(ワースト10?)」 ([2009-06-21-1])
・ 「#3397. 後期中英語期の through のワースト綴字」 ([2018-08-15-1])
・ 「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1])
・ 「#219. eyes を表す172通りの綴字」 ([2009-12-02-1])
・ 「#2520. 後期中英語の134種類の "such" の異綴字」 ([2016-03-21-1])
・ 「#1720. Shakespeare の綴り方」 ([2014-01-11-1])
今回,515通りの through の話題を YouTube でお届けした次第ですが,その収録に当たって「小道具」を用意しました.せっかくですので,以下に PDF で公開しておきます.
・ 横置きA4用紙10枚に515通りの through の綴字を敷き詰めた資料 (PDF)
・ 横置きA4用紙1枚に1通りの through の綴字を大きく印字した全515ページの資料 (PDF)
・ 堀田の選ぶ「ベスト(ワースト)10」の through の綴字を印字した10ページの資料 (PDF)
ユルユル綴字の話題と関連して,同じ YouTube チャンネルより比較的最近アップされた第83弾「ロバート・コードリー(Robert Cawdrey)の英英辞書はゆるい辞書」もご覧いただければと(cf. 「#4978. 脱力系辞書のススメ --- Cawdrey さんによる英語史上初の英英辞書はアルファベット順がユルユルでした」 ([2022-12-13-1])).
昨年5月に Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」企画を始めました.その後順調に回を重ねてシリーズとして定着してきた感があります.heldio リスナーさん,学生の皆さん,一般の方々から広く英語に関する素朴な疑問を募り,それに対して回答したり,回答しあぐねたり,雑談したりしていくラジオ番組仕立ての企画です.正確に数えていませんが,これまでに百本ノックくらいは受けたのではないかと思います.練習の結果,内野ゴロをさばく力はそこそこついてきたかもしれません.
当初はノックを受けるのは私一人で,いわば「個人練習」でしたが,昨年9月からは矢冨弘先生(熊本学園大学)や菊地翔太先生(専修大学))という英語史研究者仲間を巻き込んで「団体練習」でノックを受けています.シリーズ企画の途中から,事前収録から生放送へ切り替わり,またkhelf(慶應英語史フォーラム)主催のイベントとしてもリニューアルしました.
これまで質問を寄せていただいた皆さん,生放送・アーカイヴでお聴きのリスナーの皆さん,巻き込まれた先生方,司会を務める khelf 会長のまさにゃん,広報や準備に携わっている khelf のメンバーの皆さんに,感謝申し上げます.今年も「千本ノック」企画を続けていく所存です.よろしくお願いいたします.
司会のまさにゃんが,自身の note にて「千本ノック」の回顧記事「「英語に関する素朴な疑問 千本ノック(生放送)」 第一回目 まとめ」を掲載していますので,そちらもご覧ください.
以下,これまでの「千本ノック」の放送回を一覧しておきます.初めての方も2度目の方も,カジュアルに,しかしディープに英語史を楽しむことができると思います.とりわけ第14回以降の生放送が,多少の緊張感があってお勧めです.英語史をお茶の間にお届けします.どうぞお聴きください!
1. 【個人・事前収録】「#341. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック」(2022年5月7日放送)
2. 【個人・事前収録】「#342. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 続き」(2022年5月8日放送)
3. 【個人・事前収録】「#350. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 3」(2022年5月16日放送)
4. 【個人・事前収録】「#351. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 4」(2022年5月17日放送)
5. 【個人・事前収録】「#360. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 5」(2022年5月26日放送)
6. 【個人・事前収録】「#369. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 6」(2022年6月4日放送)
7. 【個人・事前収録】「#390. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 7」(2022年6月25日放送)
8. 【個人・事前収録】「#391. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 8」(2022年6月26日放送)
9. 【個人・事前収録】「#398. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 9」(2022年7月3日放送)
10. 【個人・事前収録】「#415. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 10」(2022年7月8日放送)
11. 【個人・事前収録】「#415. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 11」(2022年7月9日放送)
12. 【個人・事前収録】「#446. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(リスナーさんからの質問編) --- Part 12」(2022年8月8日放送)
13. 【個人・事前収録】「#465. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 13」(2022年9月8日放送)
14. 【団体・生放送】「#479. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&堀田隆一) --- Part 14」(2022年9月22日放送)(cf. 司会まさにゃんの note 記事「「英語に関する素朴な疑問 千本ノック(生放送)」 第一回目 まとめ」にて,今回取り上げられた素朴な疑問一覧と頭出し分秒が掲載されています)
15. 【個人・生放送】「#494. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(生放送回) --- Part 15」(2022年10月7日放送)
16. 【団体・生放送】「#515. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&堀田隆一) 第2弾」(2022年10月28日放送)
17. 【団体・生放送】「#550. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&菊地翔太&堀田隆一) 第3弾」(2022年12月2日放送)(cf. 「#4967. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&菊地翔太&堀田隆一) 第3弾」は「補充法」の回となりました」 ([2022-12-02-1]) に,この回で取り上げられた素朴な疑問一覧と頭出し分秒が掲載されています)
(以下は,2023/04/23(Sun) 付で加えた後記です)
18. 【個人・生放送】「#678. 4月7日に「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」を heldio 生放送でお届けしました」(2023年4月9日放送)(cf. 「#5095. 4月7日の heldio 生放送「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」のまとめ」 ([2023-04-09-1]) に,この回で取り上げられた素朴な疑問一覧と頭出し分秒が掲載されています)
19. 【個人・生放送】「#691. 4月20日に「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」を heldio 生放送でお届けしました」(2023年4月22日放送)(cf. 「#5108. 4月20日の heldio 生放送「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」のまとめ」 ([2023-04-22-1]) に,この回で取り上げられた素朴な疑問一覧と頭出し分秒が掲載されています)
20. 【団体・生放送】「#699. 4月28日に「英語に関する素朴な疑問千本ノック(矢冨&堀田&まさにゃん)」(2023年4月30日放送)(cf. 「4月28日の heldio 生放送「英語に関する素朴な疑問千本ノック(矢冨&堀田&まさにゃん)」のまとめ」 ([2023-04-30-1]) に,この回で取り上げられた素朴な疑問一覧と頭出し分秒が掲載されています)
昨日の記事「#5003. 聖書で英語史 --- 寺澤盾先生の著書と講座のご案内」 ([2023-01-07-1]) で,聖書が英語の通時的な比較に適したテキストであることを述べました.内容が原則として古今東西同一だからです.ということは,聖書は通言語的な比較にも適しているということになります.ギリシア語,ラテン語,英語,フランス語,ドイツ語,中国語,日本語などの間で手軽に言語比較できてしまいます.つまり,聖書は対照言語学 (contrastive_linguistics),比較言語学 (comparative_linguistics),そして対照言語史 (contrastive_language_history) の観点からも有用なテキストとなります.
年末に,khelf(慶應英語史フォーラム)の会長のまさにゃんが,自身の note にて「ゼロから始めるフリジア語(シリーズ企画)」を開始しました.フリジア語は年末から始めたにわか趣味とのことです(笑).1日目,2日目,3日目,4日目と,4日分の記事が掲載されています.「創世記」より英語訳 In the beginning God created the heaven and the earth. とフリジア語訳 Yn it begjin hat God de himel en de ierde skepen. を主に比べながら,軽妙な口調でフリジア語超入門を展開しています.
フリジア語 (Frisian) は,比較言語学的に英語と最も近親の言語とされています.この言語について hellog でも以下の記事で触れてきましたので,ぜひご覧ください.
・ 「#787. Frisian」 ([2011-06-23-1])
・ 「#2950. 西ゲルマン語(から最初期古英語にかけての)時代の音変化」 ([2017-05-25-1])
・ 「#3169. 古英語期,オランダ内外におけるフリジア人の活躍」 ([2017-12-30-1])
・ 「#3435. 英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきた」 ([2018-09-22-1])
・ 「#4670. アジェージュによる「フリジア語の再征服」」 ([2022-02-08-1])
Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも「#40. 英語に最も近い言語は「フリジア語」」にて解説しています.ぜひお聴きください.
今年度の大学の英語学系の授業では,寺澤盾(著)『聖書でたどる英語の歴史』(大修館書店,2013年)を用いて様々な英訳聖書の比較を行なっています.聖書はどの時代のものであれ原則として同じ内容なので,通時的に比較するのにたいへん便利なテキストです(同様の理由で通言語的な比較にも適しています).聖書の一節に注目し,現代英語版から始めて近代英語,中英語,古英語へと遡っていけば,大きなショックを受けずに,自然と古い英語の世界に入っていくことができます.英語史を学ぶのに最適なテキストといってよいです.『聖書でたどる英語の歴史』は,そのための手引き書といえます.
キリスト教美術の口絵,英語史・英訳聖書年表に始まり,英訳聖書を通時的に比較する章が11章まで続きます.12--15章は様々な現代英語訳聖書を共時的に比較する章で,聖書を通じて現代英語のヴァリエーションを学ぶことができます.付録も充実しており,エクササイズの答え,OED の使い方,古英語・中英語文法入門,文献案内,グロッサリーと,英語史初心者にたいへん親切な作りとなっています.
この本には,授業のみならず hellog でも度々お世話になってきました.
・ 「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1])
・ 「#1848. 英訳聖書のウェブ・リソース」 ([2014-05-19-1])
・ 「#1870. 「創世記」2:18--25 を7ヴァージョンで読み比べ」 ([2014-06-10-1])
・ 「#2928. 古英語で「創世記」11:1--9 (「バベルの塔」)を読む」 ([2017-05-03-1])
・ 「#2929. 「創世記」11:1--9 (「バベルの塔」)を7ヴァージョンで読み比べ」 ([2017-05-04-1])
著者の寺澤盾先生(青山学院大学教授,東京大学名誉教授)は,目下まさにこの著書の内容に基づいて,NHKカルチャー青山教室にてオンラインによるシリーズ講座「聖書で読み解く英語の歴史物語」を開講されています.全3回のシリーズで,第1回「聖書と英米文化」は昨年11月19日(土)に終了していますが,第2回と第3回はこれから開講の予定です(第2回からの参加も可能です).いずれもオンライン講座となっています.聖書の通時的な比較に関心のある方はもちろん,英語史に興味を持ち始めた方にとっても最適な講座となると思います.
・ 第2回:2023年1月21日(土)15:30--17:30 「英訳聖書の歴史,異なる時期に翻訳された「主の祈り」を読む」
・ 第3回:2023年3月18日(土)15:30--17:30 「異なる時期に翻訳された「主の祈り」を読む」
以上,(寺澤先生ご本人の許可もいただきつつ)講座と著書のご紹介をさせていただきました.ちなみに,私自身は朝日カルチャーセンター新宿教室にて全4回のシリーズ講座「英語の歴史と世界英語」を開講しております(cf. 「#4954. 朝カル講座の第4回(最終回)「英語の歴史と世界英語 --- 21世紀の英語のゆくえ」のご案内」 ([2022-11-19-1])).「英語史をお茶の間に」をモットーに掲げ,今年も英語史活動(hel活)に力を入れていく所存です.
寺澤先生には,昨年出版された『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』(大修館,2022年)の第7章「英語標準化の諸相―20世紀以降を中心に」を執筆いただいた関係で,Voicy heldio で対談しています(cf. 「#4840. 「寺澤盾先生との対談 英語の標準化の歴史と未来を考える」in Voicy」 ([2022-07-28-1])).よろしければこちらもお聴きください.
・ 寺澤 盾 『聖書でたどる英語の歴史』 大修館書店,2013年.
一昨日から hellog 5000回記念ということで,一人で記念イベントを開催しています.私が起きて目覚めている時間帯に限りますが,毎時 @chariderryu というこちらの Twitter アカウントにて #英語史小ネタ あるいは #英語史をお茶の間に というハッシュタグを付けつつ,hellog の過去記事に紐付けた何らかのおもしろい話題を投稿するという正月企画です.一昨日と昨日とで非常に多くの方に読んで反応いただきまして,感謝しております.
合計24のツイートを投稿する予定でしたが,多くの反響をいただいて調子にノリまして,この2日間で26のツイート(および種々の宣伝ツイート)を公表いたしました.これまで最も多くの反響をいただいたのは19番目の投稿でした.これは,hellog の過去記事「#1428. ye = the」 ([2013-03-25-1]) に紐付けた英語史小ネタです.
この2日間でご好評いただいたということもあり,お届けしたい話題はまだまだありますので,調子にノッて3日目に突入したいと思います.ネタはたくさんあっても続けるとキリがないということがあり,難しいところですが(^^;; 今日も毎時何かしらの英語史の話題をお届けしますので,是非いいね,リツイート,便乗ツイート等でこの #英語史をお茶の間に 企画を盛り上げていただければ幸いです.また,よろしければ当 Twitter アカウント @chariderryu のフォローもお願い致します.
上記の企画の一方,本ブログの姉妹版であり音声版の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」も毎朝坦々と配信しています.毎朝6時に広く長く英語史の話題を発信しています.音声配信を始めて1年7ヶ月ほどとなりますが,3000人超のリスナーの皆さんにフォローいただいています(ありがとうございます!).
昨日,今日の放送は,ウクライナ戦争について社会言語学的な観点から切り込んでいます.「#585. ウクライナ人がウクライナ語を学び始めてるってどういうこと? --- 国家と言語の複雑な関係」です.hellog, heldio, Twitter などの媒体で,英語史に直接・間接に関わる硬軟の話題をお届けしていますので,よろしくお願いいたします.
昨日の記事「#5000. hellog 5000回記念,英語史小ネタを24連続ツイートします」 ([2023-01-04-1]) でお知らせしましたが,昨日から今日にかけて私の Twitter アカウント @chariderryu より一人イベントを開催しています.hellog の過去記事に紐付ける形で,#英語史小ネタ と #英語史をお茶の間に というハッシュタグを付けつつ,140文字で収まる英語史の話題を毎時つぶやいていくというお正月イベントです.
例えば,昨日の第7ツイートは,以下の「なぜ digital transformation の略語が DX?」でした.hellog 記事「#4269. なぜ digital transformation を略すと DX となるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-03-1]) に紐付けた英語史小ネタです.そちらの記事も合わせてご覧いただければ幸いです.
今日も毎時,何しかしらの英語史小ネタをひねり出して公開していきます.よろしければ当 Twitter アカウント @chariderryu をフォローしていただければと思います.
合わせて,本ブログの音声版である Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」も毎朝6時に更新していますのでご案内します.おかげさまで昨年中にフォロワー3000人超えの音声チャンネルに成長しました.今朝の放送は以下の通り社会派の話題「#584. 旧ユーゴの言語事情」をお届けしています.ブログで,音声で,英語史やその周辺分野の魅力を日々伝えていきます!
2009年5月1日にこの「hellog~英語史ブログ」を始め,毎日書き続けてきて,今日が5,000回目となります.これまでお読みいただいてきた方々には,いつも応援していただきましてありがとうございます.
周囲の学生や研究者を始め多くの知人から「読んでいるよ」「毎日頑張ってね」などとお声がけいただいてきました.また「英語史の調べ物ではよく hellog にヒットします」という方々にも出会うようになりました.本当にありがたい限りです.
2023年の私の英語史活動(hel活)におけるモットーは「英語史をお茶の間に」ですが,この活動の第1発信基地となるのがこの hellog です.ほかにも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」,本や雑誌,講演会その他の媒体を通じて広く英語史関連の情報を発信していきますが,ベースキャンプは常に hellog です.今後とも本ブログとお付き合いのほど,よろしくお願いいたします.
hellog 5000回を勝手に記念しまして,本日午前8時頃より明日にかけて(私が起きて活動している時間帯に限りますが)毎時1つ計24件の「#英語史小ネタ」を Twitter でつぶやくという一人イベントを開催します.私の Twitter アカウント @chariderryu より発信していきますので,たまにチェックしていただければと思います.各小ネタは hellog の過去の記事に紐付けていますので,hellog でこんな話題やあんな話題も取り上げられてきたのか,と気づいていただければ.
各小ネタのツイートに対して,リツイートや便乗ツイートなど,いかようにも反応していただけますと,盛り上がっておもしろいと思います.その際には,ぜひハッシュタグに #英語史小ネタ や #英語史をお茶の間に を添えていただけると嬉しいです.
引き続き「hellog~英語史ブログ」をよろしくお願いいたします.
日本語に「一年の計は元旦にあり」という諺がありますが,対応する英語の諺はあるのだろうかと疑問が浮かびました.ズバリのものはなさそうです.ただし,近似的な諺として,より一般的な言い方にはなりますが,標題の A good beginning makes a good ending があります.これは1年の営みに限らず,人生のおおよその事々に当てはまることだろうと思います.試験勉強,仕事のプロジェクト,人生計画まで,良いスタートを切るに越したことはありません.今頃ゼミの大学4年生が皆四苦八苦しているはずの卒業論文研究もまさにそうです.
誰しも納得する人生の知恵と考えられますので,実際,この諺は英語でも歴史が古いようです.初期中英語期より類似表現が確認されます.ODP6 による例文を挙げてみましょう.
・ c 1300 South-English Legendary (EETS) I. 216 This was atte uerste me thingth [it seems to me] a god bygynnynge. There after was the betere hope to come to good endynge.
・ c 1350 Douce MS 52 no. 122 Of a gode begynnyng comyth a gode endyng.
・ 1710 S. Palmer Proverbs 1 A good Beginning makes a good End. . . . 'Tis a great point of Wisdom . . . to begin at the right end.
・ 1850 'M. Tensas' Odd Leaves from Life of Louisiana 'Swamp Doctor' 109 I hope my future lot will be verification of the old adage, that a 'bad beginning makes a good endyng', for mine is bad enough.
・ 1934 G. Weston His First Million Women xvi. I was brought up to believe that 'Of a good beginning cometh a good ending.' . . . 'You can't do a good plastering jot if your laths aren't right to begin with.'
動詞に make を使わず,統語的な倒置と前置詞と come を用いる Of a good beginning comes a good ending のタイプも変種として広く行なわれてきたようです.
諺を広く見渡すと,物事の最初や最後に注目するものが目に付きます.以下に列挙してみましょう.
・ It is the first step that is difficult
・ There is always a first time
・ Great oaks from little acorns grow
・ A journey of a thousand miles begins with a single step
・ The mother of mischief is no bigger than a midge's wing
・ All roads lead to Rome
・ Good seed makes a good crop
・ As you sow, so you reap
・ A stream cannot rise above its source
・ Well begun is half done
・ All's well that ends well
・ All good things must come to an end
・ The end crowns the work
・ Everything has an end
・ The opera isn't over till the fat lady sings
・ There is a remedy for everything except death
・ Stone-dead hath no fellow
この辺りを知恵として,今年1年も頑張っていきたいと思います.関連して「#4717. 「終わりよければすべてよし」と「始めよければ終わりよし」 --- 反対の意味の諺にどう向き合いますか?」 ([2022-03-27-1]) も参照.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
年末の記事「#4985. 新著が出ます --- 家入 葉子・堀田 隆一 『文献学と英語史研究』 開拓社,2022年.」 ([2022-12-20-1]) で公表しましたが,来たる1月12日以降に新著『文献学と英語史研究』が発売となります.A5版,264ページ,税込3,960円です.すでに Amazon 等で予約可能となっています.
昨日の元日はたまたま日曜日でしたので,毎週水・日の午後6時に配信している YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の新作動画が夕方に公開されました.第89弾「家入葉子・堀田隆一『文献学と英語史研究』(開拓社,2023年)のご紹介 --- 言語学も同期する中心から周辺へ?」です.こちらで新著『文献学と英語史研究』を紹介していますので,ぜひご覧いただければ幸いです.
英語史の入門書ではなく英語史研究のガイドブックという趣旨の本です.開拓社の「最新英語学・言語学シリーズ」の第21巻として,シリーズの趣旨に沿って,1980年代以降の英語史研究を振り返り,今後の英語史研究の展望を示す内容となっています.
直近40年ほどの英語史研究を概括するといっても,コーパス言語学や社会語用論研究の興隆など多くの新機軸が続々と生じた世代ですので,厚さ1.5cmほどの今回の本ではなかなかカバーしきれません.本書では原則として伝統的な言語学の区分に従って,音韻論,綴字,形態論,統語論の分野ごとに個々の「問題」を取り上げ,その問題のどの側面が研究されてきており,どの側面が未解決なのかを整理しています.個々の問題について,なるべく多くの参考文献を付すことを心がけました.
1例を示します.私が執筆を担当した第3章第6節「大母音推移」では,英語史上よく知られたこの問題が,この数十年間の間にどのように扱われてきて,近年はどのような位置づけにあるのかを,3ページほどの紙幅で概説しています.いくつかのポイントを示します.
・ 大母音推移 (gvs) は,従来考えられてきたような一枚岩の音変化ではないことが明らかとなってきており,近年の研究では「大母音推移」と括弧付きで呼ばれることが多くなってきたこと
・ この音変化の研究史は長いが,それは Krug (2017) によく要約されていること
・ 近年の最も重要な研究として Stenbrenden (2016) が挙げられること
・ 「大母音推移」はその前後の関連する諸々の母音変化と合わせて,全体として記述される必要があること
・ Ritt (2012) が,「大母音研究」にはリズム等時性や主要クラス語の固定強勢といった韻律的な観点からも考察を加える必要があると主張していること
本書は,このように英語史上の各問題について論点を整理し,さらなる考察や調査につながる情報を提示することを目指しています.長く英語史研究のお供としていただければ嬉しく存じます.
執筆者としてはなかなか難産の本でしたので,こうして上梓される運びとなり安堵しています.著者による新著紹介は,note のこちらのページ「新著紹介:家入 葉子・堀田 隆一『文献学と英語史研究』(開拓社,2022年)」からも逐次発信していますので,合わせてご覧ください.
・ 家入 葉子・堀田 隆一『文献学と英語史研究』 開拓社,2022年.
明けましておめでとうございます.「英語史をお茶の間に」をモットーに,本年も「hellog~英語史ブログ」より英語史の情報を発信していきます.姉妹版の音声ブログ Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 も合わせて,皆様には「英語史」の領域を推していただければと思います.よろしくお願いいたします.
年初ということで,昨年2022年に本ブログのどの記事が最もよく読まれたかを公表したいと思います.12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧ください(過年度版は「#4632. 2021年によく読まれた記事」 ([2022-01-01-1]),「#4267. 2020年によく読まれた記事」 ([2021-01-01-1]) と「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) をどうぞ).
「素朴な疑問」系の記事 (sobokunagimon) がよく読まれているようなので,その系列で上位に入っている50記事を以下に挙げてみます(各行末の数字は年間アクセス数).お正月の読み物(ラジオの場合は聴き物)としてどうぞ.50記事をまとめて読みたい方はこちらから.
・ 「#4188. なぜ sheep の複数形は sheep なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-14-1]) (6739)
・ 「#4044. なぜ活字体とブロック体の小文字 <a> の字形は違うのですか?」 ([2020-05-23-1]) (5218)
・ 「#1774. Japan の語源」 ([2014-03-06-1]) (5094)
・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1]) (5084)
・ 「#4199. なぜ last には「最後の」と「継続する」の意味があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-25-1]) (5027)
・ 「#3611. なぜ He is to blame. は He is to be blamed. とならないのか?」 ([2019-03-17-1]) (4645)
・ 「#3485. 「神代文字」を否定する根拠」 ([2018-11-11-1]) (3950)
・ 「#2924. 「カステラ」の語源」 ([2017-04-29-1]) (3651)
・ 「#4304. なぜ foot の複数形は feet なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-02-07-1]) (3557)
・ 「#4017. なぜ前置詞の後では人称代名詞は目的格を取るのですか?」 ([2020-04-26-1]) (3309)
・ 「#2784. なぜアメリカでは英語が唯一の主たる言語となったのか?」 ([2016-12-10-1]) (2951)
・ 「#4219. なぜ DX が digital transformation の略記となるのか?」 ([2020-11-14-1]) (2949)
・ 「#4290. なぜ island の綴字には s が入っているのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-24-1]) (2854)
・ 「#3717. 音声学と音韻論はどう違うのですか?」 ([2019-07-01-1]) (2833)
・ 「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]) (2821)
・ 「#1299. 英語で「みかん」のことを satsuma というのはなぜか?」 ([2012-11-16-1]) (2752)
・ 「#3941. なぜ hour, honour, honest, heir では h が発音されないのですか?」 ([2020-02-10-1]) (2711)
・ 「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) (2709)
・ 「#4186. なぜ Are you a student? に対して *Yes, I'm. ではダメなのですか?」 ([2020-10-12-1]) (2422)
・ 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) (2379)
・ 「#4195. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-21-1]) (2169)
・ 「#4178. なぜ仮定法では If I WERE a bird のように WERE を使うのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-04-1]) (1717)
・ 「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) (1659)
・ 「#3831. なぜ英語には冠詞があるのですか?」 ([2019-10-23-1]) (1564)
・ 「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) (1555)
・ 「#3298. なぜ wolf の複数形が wolves なのか? (1)」 ([2018-05-08-1]) (1553)
・ 「#3852. なぜ「新橋」(しんばし)のローマ字表記 Shimbashi には n ではなく m が用いられるのですか? (1)」 ([2019-11-13-1]) (1505)
・ 「#2618. 文字をもたない言語の数は? (2)」 ([2016-06-27-1]) (1359)
・ 「#4196. なぜ英語でいびきは zzz なのですか?」 ([2020-10-22-1]) (1355)
・ 「#3588. -o で終わる名詞の複数形語尾 --- pianos か potatoes か?」 ([2019-02-22-1]) (1352)
・ 「#2189. 時・条件の副詞節における will の不使用」 ([2015-04-25-1]) (1333)
・ 「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) (1288)
・ 「#4233. なぜ quite a few が「かなりの,相当数の」の意味になるのか?」 ([2020-11-28-1]) (1180)
・ 「#1028. なぜ国名が女性とみなされてきたのか」 ([2012-02-19-1]) (1170)
・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]) (1135)
・ 「#47. 所有格か目的格か:myself と himself」 ([2009-06-14-1]) (1121)
・ 「#4026. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (3)」 ([2020-05-05-1]) (1101)
・ 「#2891. フランス語 bleu に対して英語 blue なのはなぜか」 ([2017-03-27-1]) (1093)
・ 「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1]) (1064)
・ 「#4272. 世界に言語はいくつあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-06-1]) (1055)
・ 「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1]) (1034)
・ 「#3648. なんで *He cans swim. のように助動詞には3単現の -s がつかないのですか?」 ([2019-04-23-1]) (992)
・ 「#3591. ネアンデルタール人は言葉を話したか?」 ([2019-02-25-1]) (973)
・ 「#4276. なぜ say の過去形,3単現形は「セイド」「セイズ」ではなく「セッド」「セズ」と発音されるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-10-1]) (973)
・ 「#4714. 発話行為とは何か?」 ([2022-03-24-1]) (966)
・ 「#4080. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか?」 ([2020-06-28-1]) (919)
・ 「#4387. なぜ名詞(句)が副詞的に用いられることがあるのですか?」 ([2021-05-01-1]) (869)
・ 「#146. child の複数形が children なわけ」 ([2009-09-20-1]) (865)
・ 「#1006. ルーン文字の変種」 ([2012-01-28-1]) (863)
・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1]) (853)
新年は学び始めにふさわしい時期です.英語史に関心をもった方,さらに関心をもちたい方は,保存版記事である「#4873. 英語史を学び始めようと思っている方へ」 ([2022-08-30-1]) とそこからリンクを張っている記事群をご参照ください.
なお,昨年の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 の聴取ランキングは昨日の記事で取り上げています.「#4996. 今年1年間でよく聴かれた放送 --- Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より」 ([2022-12-31-1]) を参照し,ぜひいろいろ聴取してみてください.
本年も,hellog, heldio ともにお付き合いのほど,よろしくお願いいたします.
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最終更新時間: 2024-11-12 07:24
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