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suffix - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-22 08:43

2024-12-22 Sun

#5718. ギリシア語由来の主な接尾辞,接頭辞,連結形 [greek][suffix][prefix][lexicology][word_formation][combining_form][morphology][latin][french][loan_word][borrowing]

 Durkin (216--19) にかけて,英語に入ったギリシア語由来の要素が列挙されている.接尾辞 (suffix),接頭辞 (prefix),連結形 (combining_form) に分けて,主たるものを列挙しよう.ラテン語やフランス語からの借用語のなかに混じっている要素もあり,究極的にはギリシア語由来であることが気づかれていないものも含まれているのではないか.

[ 接尾辞 ]

 -on (plural -a), -ter, -terion, -ma/-mat- (adj. -matic), the family of -ize/-ise (-ist/-ast, -ism, -asm), -ite, -ess, -oid, -isk, -(t)ic, -istic(al), -astic(al)

[ 接頭辞 ]

 a(n)-, amph(i)-, an(a)-, anti-, ap(o)-, cat(a)-/kat(a)-, di(a)-, dys-, a(n)-, end(o)-, exo-, ep(i)-, hyper-, hyp(o)-, met(a)-, par(a)-, peri-, pro-, pros-, syn-/sys-

[ 連結形 ]

 acro- "high; of the extremities", agath(o)- "good", all(o)- "other, alternate, distinct", arch- "chief; original", argyr(o)- "silver", aut(o)- "self(-induced); spontaneous", bary-/bar(o)- "heavy; low; internal", brachy- "short", brady- "slow", cac(o)- "bad", chlor(o)- "green; chlorine", chrys(o)- "gold; golden-yellow", cry(o)- "freezing; low-temperature", crypt(o)- "secret; concealed", cyan(o)- "blue", dipl(o)- "twofold, double", dolich(o)- "long", erythr(o)- "red", eu- "good, well", glauc(o)- "bluish-green, grey", gluc(o)- "glucose"/glyc(o)- "sugar; glycerol"/glycy- "sweet", gymn(o)- "naked, bare", heter(o)- "other, different", hol(o)- "whole, entire", homeo- "similar; equal", hom(o)- "same", leuc/k(o)- "white", macro- "(abnormally) large", mega- "huge; very large", megal(o)- "large; grandiose" and -megaly "abnormal enlargement", melan(o)- "black; dark-colored; pigmented", mes(o)- "middle", micr(o)- "(very) small", nano- "one thousand-millionth; extremely small", necr(o)- "dead; death", ne(o)- "new; modified; follower", olig(o)- "few; diminished; retardation", orth(o)- "upright; straight; correct", oxy- "sharp, pointed; keen", pachy- "thick", pan(to)- "all", picr(o)- "bitter", platy- "broad, flat", poikil(o)- "variegated; variable", poly- "much, many", proto- "first", pseud(o)- "false", scler(o)- "hard", soph(o)- and -sophy "skilled; wise", tachy- "swift", tel(e)- "(operating) at a distance", tele(o)- "complete; completely developed", therm(o)- "warm, hot", trachy- "rough"

 英語ボキャビルのおともにどうぞ.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2024-11-14 Thu

#5680. laughter の -ter 語尾 [suffix][noun][word_formation][derivation][lexicology][oed]

 laugh (笑う)の名詞形は laughter (笑い)である.動詞から名詞を形成するのに -ter という語尾は珍しい.語源を探ってみても,必ずしも明確なことはわからない.ただし類例がないわけではない.
 OEDlaughter (NOUN1) によると,語尾の -ter について次のように記述がある.

a Germanic suffix forming nouns also found in e.g. fodder n., murder n.1, laughter n.2, lahter n.


 上記の laughter n.2 というのは見慣れないが「鶏の産んだひとまとまりの卵」ほどを意味する.「卵を産む」の意の動詞 lay の名詞形ということだ.
 ちなみに『英語語源辞典』で laughter を引くと,slaughter (畜殺;虐殺)が参照されており,「古い名詞語尾」と説明がある.動詞 slay (殺す)に対応する名詞としての slaughter ととらえてよい.
 他には food (食物)と関連のある fodder n.(家畜の飼料)や foster n.1(食物)にも,問題の接尾辞が関与しているとの指摘がある.稀な接尾辞であることは確かだ.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2024-11-11 Mon

#5677. 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』の接辞リスト(129種) [etymology][prefix][suffix][vocabulary][hel_education][lexicology][word_formation][derivation][derivative][morphology][latin][greek][review]


池田 和夫 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』 研究社,2019年.



 昨日の記事「#5676. 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』の300語根」 ([2024-11-10-1]) に引き続き,同書の付録 (344--52) に掲載されている主要な接辞のリストを挙げたいと思います.接頭辞 (prefix) と接尾辞 (suffix) を合わせて129種の接辞が紹介されています.

【 主な接頭辞 】
a-, an- ない (without)
ab-, abs- 離れて,話して (away)
ad-, a-, ac-, af-, ag-, al-, an-, ap-, ar-, as-, at- …に (to)
ambi- 周りに (around)
anti-, ant- 反… (against)
bene- よい (good)
bi- 2つ (two)
co- 共に (together)
com-, con-, col-, cor- 共に (together);完全に (wholly)
contra-, counter- 反対の (against)
de- 下に (down);離れて (away);完全に (wholly)
di- 2つ (two)
dia- 横切って (across)
dis-, di-, dif- ない (not);離れて,別々に (apart)
dou-, du- 2つ (two)
en-, em- …の中に (into);…にする (make)
ex-, e-, ec-, ef- 外に (out)
extra- …の外に (outside)
fore- 前もって (before)
in-, im-, il-, ir-, i- ない,不,無,非 (not)
in-, im- 中に,…に (in);…の上に (on)
inter- …の間に (between)
intro- 中に (in)
mega- 巨大な (large)
micro- 小さい (small)
mil- 1000 (thousand)
mis- 誤って (wrongly);悪く (badly)
mono- 1つ (one)
multi- 多くの (many)
ne-, neg- しない (not)
non- 無,非 (not)
ob-, oc-, of-, op- …に対して,…に向かって (against)
out- 外に (out)
over- 越えて (over)
para- わきに (beside)
per- …を通して (through);完全に (wholly)
post- 後の (after)
pre- 前に (before)
pro- 前に (forward)
re- 元に (back);再び (again);強く (strongly)
se- 別々に (apart)
semi- 半分 (half)
sub-, suc-, suf-, sum-, sug-, sup-, sus- 下に (down),下で (under)
super-, sur- 上に,越えて (over)
syn-, sym- 共に (together)
tele- 遠い (distant)
trans- 越えて (over)
tri- 3つ (three)
un- ない (not);元に戻して (back)
under- 下に (down)
uni- 1つ (one)

【 名詞をつくる接尾辞 】
 
-age 状態,こと,もの
-al こと
-ance こと
-ancy 状態,もの
-ant 人,もの
-ar 人
-ary こと,もの
-ation すること,こと
-cle もの,小さいもの
-cracy 統治
-ee される人
-eer 人
-ence 状態,こと
-ency 状態,もの
-ent 人,もの
-er, -ier 人,もの
-ery 状態,こと,もの;類,術;所
-ess 女性
-hood 状態,性質,期間
-ian 人
-ics 学,術
-ion, -sion, -tion こと,状態,もの
-ism 主義
-ist 人
-ity, -ty 状態,こと,もの
-le もの,小さいもの
-let もの,小さいもの
-logy 学,論
-ment 状態,こと,もの
-meter 計
-ness 状態,こと
-nomy 法,学
-on, -oon 大きなもの
-or 人,もの
-ory 所
-scope 見るもの
-ship 状態
-ster 人
-tude 状態
-ure こと,もの
-y こと,集団

【 形容詞をつくる接尾辞 】
-able できる,しやすい
-al …の,…に関する
-an …の,…に関する
-ant …の,…の性質の
-ary …の,…に関する
-ate …の,…のある
-ative …的な
-ed …にした,した
-ent している
-ful …に満ちた
-ible できる,しがちな
-ic …の,…のような
-ical …の,…に関する
-id …状態の,している
-ile できる,しがちな
-ine …の,…に関する
-ior もっと…
-ish ・・・のような
-ive ・・・の,・・・の性質の
-less ・・・のない
-like ・・・のような
-ly ・・・のような;・・・ごとの
-ory ・・・のような
-ous ・・・に満ちた
-some ・・・に適した,しがちな
-wide ・・・にわたる

【 動詞をつくる接尾辞 】
-ate ・・・にする,させる
-en ・・・にする
-er 繰り返し・・・する
-fy, -ify ・・・にする
-ish ・・・にする
-ize ・・・にする
-le 繰り返し・・・する

【 副詞をつくる接尾辞 】
-ly ・・・ように
-ward ・・・の方へ
-wise ・・・ように


 ・ 池田 和夫 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』 研究社,2019年.

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2024-11-10 Sun

#5676. 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』の300語根 [etymology][prefix][suffix][vocabulary][hel_education][lexicology][word_formation][derivation][derivative][morphology][latin][greek][review]


池田 和夫 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』 研究社,2019年.



 英語ボキャビルのための本を紹介します.研究社から出版されている『語根で覚えるコンパスローズ英単語』です.300の語根を取り上げ,語根と意味ベースで派生語2500語を学習できるように構成されています.研究社の伝統ある『ライトハウス英和辞典』『カレッジライトハウス英和辞典』『ルミナス英和辞典』『コンパスローズ英和辞典』の辞書シリーズを通じて引き継がれてきた語根コラムがもとになっています.
 選ばれた300個の語根は,ボキャビル以外にも,英語史研究において何かと役に立つリストとなっています.目次に従って,以下に一覧します.

cess (行く)
ceed (行く)
cede (行く)
gress (進む)
vent (来る)
verse (向く)
vert (向ける)
cur (走る)
pass (通る)
sta (立つ)
sist (立つ)
sti (立つ)
stitute (立てた)
stant (立っている)
stance (立っていること)
struct (築く)
fact (作る,なす)
fic (作る)
fect (作った)
gen (生まれ)
nat (生まれる)
crease (成長する)
tain (保つ)
ward (守る)
serve (仕える)
ceive (取る)
cept (取る)
sume (取る)
cap (つかむ)
mote (動かす)
move (動く)
gest (運ぶ)
fer (運ぶ)
port (運ぶ)
mit (送る)
mis (送られる)
duce (導く)
duct (導く)
secute (追う)
press (押す)
tract (引く)
ject (投げる)
pose (置く)
pend (ぶら下がる)
tend (広げる)
ple (満たす)
cide (切る)
cise (切る)
vary (変わる)
alter (他の)
gno (知る)
sent (感じる)
sense (感じる)
cure (注意)
path (苦しむ)
spect (見る)
vis (見る)
view (見る)
pear (見える)
speci (見える)
pha (現われる)
sent (存在する)
viv (生きる)
act (行動する)
lect (選ぶ)
pet (求める)
quest (求める)
quire (求める)
use (使用する)
exper (試みる)
dict (言う)
log (話す)
spond (応じる)
scribe (書く)
graph (書くこと)
gram (書いたもの)
test (証言する)
prove (証明する)
count (数える)
qua (どのような)
mini (小さい)
plain (平らな)
liber (自由な)
vac (空の)
rupt (破れた)
equ (等しい)
ident (同じ)
term (限界)
fin (終わり,限界)
neg (ない)
rect (真っすぐな)
prin (1位)
grade (段階)
part (部分)
found (基礎)
cap (頭)
medi (中間)
popul (人々)
ment (心)
cord (心)
hand (手)
manu (手)
mand (命じる)
fort (強い)
form (形,形作る)
mode (型)
sign (印)
voc (声)
litera (文字)
ju (法)
labor (労働)
tempo (時)
uni (1つ)
dou (2つ)
cent (100)
fare (行く)
it (行く)
vade (行く)
migrate (移動する)
sess (座る)
sid (座る)
man (とどまる)
anim (息をする)
spire (息をする)
fa (話す)
fess (話す)
cite (呼ぶ)
claim (叫ぶ)
plore (叫ぶ)
doc (教える)
nounce (報じる)
mon (警告する)
audi (聴く)
pute (考える)
tempt (試みる)
opt (選ぶ)
cri (決定する)
don (与える)
trad (引き渡す)
pare (用意する)
imper (命令する)
rat (数える)
numer (数)
solve (解く)
sci (知る)
wit (知っている)
memor (記憶)
fid (信じる)
cred (信じる)
mir (驚く)
pel (追い立てる)
venge (復讐する)
pone (置く)
ten (保持する)
tin (保つ)
hibit (持つ)
habit (持っている)
auc (増す)
ori (昇る)
divid (分ける)
cret (分ける)
dur (続く)
cline (傾く)
flu (流れる)
cas (落ちる)
cid (落ちる)
cease (やめる)
close (閉じる)
clude (閉じる)
draw (引く)
trai (引っ張る)
bat (打つ)
fend (打つ)
puls (打つ)
cast (投げる)
guard (守る)
medic (治す)
nur (養う)
cult (耕す)
ly (結びつける)
nect (結びつける)
pac (縛る)
strain (縛る)
strict (縛られた)
here (くっつく)
ple (折りたたむ)
plic (折りたたむ)
ploy (折りたたむ)
ply (折りたたむ)
tribute (割り当てる)
tail (切る)
sect (切る)
sting (刺す)
tort (ねじる)
frag (壊れる)
fuse (注ぐ)
mens (測る)
pens (重さを量る)
merge (浸す)
velop (包む)
veil (覆い)
cover (覆う;覆い)
gli (輝く)
prise (つかむ)
cert (確かな)
sure (確かな)
firm (確実な)
clar (明白な)
apt (適した)
due (支払うべき)
par (等しい)
human (人間の)
common (共有の)
commun (共有の)
semble (一緒に)
simil (同じ)
auto (自ら)
proper (自分自身の)
potent (できる)
maj (大きい)
nov (新しい)
lev (軽い)
hum (低い)
cand (白い)
plat (平らな)
minent (突き出た)
sane (健康な)
soph (賢い)
sacr (神聖な)
vict (征服した)
text (織られた)
soci (仲間)
demo (民衆)
civ (市民)
polic (都市)
host (客)
femin (女性)
patr (父)
arch (長)
bio (命,生活,生物)
psycho (精神)
corp (体)
face (顔)
head (頭)
chief (頭)
ped (足)
valu (価値)
delic (魅力)
grat (喜び)
hor (恐怖)
terr (恐れさせる)
fortune (運)
hap (偶然)
mort (死)
art (技術)
custom (習慣)
centr (中心)
eco (環境)
circ (円,環)
sphere (球)
rol (回転;巻いたもの)
tour (回る)
volve (回る)
base (基礎)
norm (標準)
ord (順序)
range (列)
int (内部の)
front (前面)
mark (境界)
limin (敷居)
point (点)
punct (突き刺す)
phys (自然)
di (日)
hydro (水)
riv (川)
mari (海)
sal (塩)
aster (星)
camp (野原)
mount (山)
insula (島)
vi (道)
loc (場所)
geo (土地)
terr (土地)
dom (家)
court (宮廷)
cave (穴)
bar (棒)
board (板)
cart (紙)
arm (武装,武装する)
car (車)
leg (法律)
reg (支配する)
her (相続)
gage (抵当)
merc (取引)


 ・ 池田 和夫 『語根で覚えるコンパスローズ英単語』 研究社,2019年.

Referrer (Inside): [2024-11-11-1]

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2024-10-07 Mon

#5642. 所有代名詞には -s と -ne の2タイプがある [personal_pronoun][genitive][inflection][suffix][me][analogy][french]

 現代英語の人称代名詞には「~のもの」を独立して表わせる所有代名詞 (possessive pronoun) という語類がある.列挙すれば mine, yours, his, hers, ours, theirs の6種類となる.ここに古めかしい2人称単数の thou に対応する所有代名詞 thine を加えてもよいだろう.また,3人称単数中性の it に対応する所有代名詞は欠けているとされるが,これについては「#198. its の起源」 ([2009-11-11-1]) および「#197. its に独立用法があった!」 ([2009-11-10-1]) を参照されたい.
 多くは -s で終わり,所有格の -'s との関係を想起させるが,minethine については独特な -ne 語尾がみえ目立つ.この -ne はどこから来ているのだろうか.
 所有代名詞の形態の興味深い歴史については,Mustanoja (164--65) が INDEPENDENT POSSESSIVE と題する節で解説してくれているので,そちらを引用しておきたい.

          INDEPENDENT POSSESSIVE

   FORM: --- As mentioned earlier in the present discussion (p. 157), the dependent and independent possessives are alike in OE and early ME. In the first and second persons singular (min and thin) the dependent possessive loses the final -n in the course of ME, but the independent possessive, being emphatic, retains it: --- Robert renne-aboute shal nowȝe have of myne (PPl. B vi 150). In the South and the Midlands, -n begins to be attached to other independent possessives as well (hisen, hiren, ouren, youren, heren) after the analogy of min and thin about the middle of the 14th century: --- restore thou to hir alle thingis þat ben hern (Purvey 2 Kings viii 6). In the third person singular and in the plural, forms with -s (hires, oures, youres, heres, theirs) emerge towards the end of the 13th century, first in the North and then in the Midlands: --- and youres (Havelok 2798); --- þai lete þairs was þe land (Cursor 2507, Cotton MS); --- my gold is youres (Ch. CT B Sh. 1474); --- it schal ben hires (Gower CA v 4770). In the southern dialects forms without -s prevail all through the ME period: --- your fader dyde assaylle our by treyson (Caxton Aymon 545).
   The old dative ending is preserved in vayre zone, he zayþ, 'do guod of þinen' (Ayenb. 194).

   Imitations of French Usage. --- The use of the definite article before an independent possessive, recorded in Caxton, is obviously an imitation of French le nostre, la sienne: --- to approvel better the his than that other (En. 23); --- that your worshypp and the oures be kepte (Aymon 72).
   The occurrence of the independent possessive pronoun (and the rare occurrence of a noun in the genitive) after the quasi-preposition magré 'in spite of' is a direct imitation of OF magré mien (tien, sien, etc.): --- and God wot that is magré myn (Gower CA iv 59); --- maugré his, he dos him lute (Cursor 4305, Cotton MS). Cf. NED maugre, and R. L. G. Ritchie, Studies Presented to Mildred K. Pope, Manchester 1939, p. 317.


 所有代名詞に関する話題は,以下の hellog 記事でも取り上げているので,合わせてご参照を.

 ・ 「#2734. 所有代名詞 hers, his, ours, yours, theirs の -s」 ([2016-10-21-1])
 ・ 「#2737. 現代イギリス英語における所有代名詞 hern の方言分布」 ([2016-10-24-1])
 ・ 「#3495. Jespersen による滲出の例」 ([2018-11-21-1])

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2024-08-09 Fri

#5583. -ster はやはりもともとは女性を表わす語尾だったと考えられる? --- Fransson の反論 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][suffix][etymology][word_formation][agentive_suffix][gender]

 連日の記事で表記の語尾をめぐる論争を紹介している.一昨日の「#5581. -ster 語尾の方言分布と起源論争」 ([2024-08-07-1]),および昨日の「#5582. -ster は女性を表わす語尾ではなかった? --- Jespersen 説」 ([2024-08-08-1]) に引き続き,今回は初期中英語期の姓 (by-name) を調査した Fransson による議論を紹介したい.Fransson は,-ster がもともと女性を表わす語尾だったとする通説に反論した Jespersen に対し,数字をもって再反論している.
 Fransson が行なったのは次の通り.まず調査対象となる時代・州の名前資料から -ester 語尾をもつ姓を収集し,その件数を数えた.結果,その姓を帯びた人々のうち77名が女性で242名が男性だと判明した.しかし,そもそも名前資料に現われる男女の比率は同じではない.女性は名前資料に現われる可能性が男性よりもずっと低く,実際に男女比は12:1の差を示す.この比をもとに,もし名前資料への出現が男女同数であったらと仮定すると,-ester 姓の持ち主の79%までが女性となり,男性は21%にとどまる.つまり,理論上 -ester 姓は女性に大きく偏っているとみなせる.
 地域差もあるようだ.Saxon では -ester 姓はとりわけ女性に偏っているが,Anglia では男性も少なくない.それでも,全体としてならしてみれば,-ester 姓と女性が強く結びついているということは言えそうである.Fransson はここまで議論したところで,通説を支持する暫定的な結論に至る.その箇所を引用しよう (44) .

With regard to the nature of the suffix -ester some elucidation can be obtained from the significations of the present surnames, especially of those that occur most frequently. The most common of them are the following (ranged after frequency; the figure denotes the number of persons that have been found bearing the surname): Bakestere 63, Litester 60, Webbester 47, Brewstere 33, Huckestere 10, Heustere 9, Blextere 8, Kembestere 7, Deyster 7, Sheppestere 7, Bleykestere 6, Thakestere 5, Combestere 5, Dreyster 5. All the trades denoted by these names --- with the only exception of Thakestere --- are of such a character that they can very well be supposed to have originally been carried out only (or almost only) by women. I think, therefore, that we are entitled to conclude that the words in -ester were at first used only of women, and that the old and general theory holds true. This ending, however, was also applied to men in OE, but that this happened so often as it really did, may be due to the fact that women do not appear as frequently as men in the OE sources.


 この後,Fransson (45) は,今回の調査結果から推論されたこの結論は決定的なものではないが,と念を押している.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-08-08 Thu

#5582. -ster は女性を表わす語尾ではなかった? --- Jespersen 説 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][suffix][etymology][word_formation][agentive_suffix][gender]

 昨日の記事「#5581. -ster 語尾の方言分布と起源論争」 ([2024-08-07-1]) に引き続き,-ster の起源について.当該語尾がもともとは女性を表わす語尾だったという通説に対し,Jespersen は強く異を唱えた.実に10ページにわたる反論論文を書いているのだ.議論は多岐にわたるが,そのうちの論点2つを引用する.

The transition of a special feminine ending to one used of men also is, so far as I can see, totally unexampled in all languages. Words denoting both sexes may in course of time be specialized so as to be used of one sex only, but not the other way. Can we imagine for instance, a word meaning originally a woman judging being adopted as an official name for a male judge? Yet, according to N.E.D., deemster or dempster, ME dēmestre, is 'in form fem. of demere, deemer.' Family names, too, would hardly be taken from names denoting women doing certain kinds of work: yet this is assumed for family names like Baxter, Brewster, Webster; their use as personal names is only natural under the supposition that they mean exactly the same as Baker, Brewer, Weaver or Web, i.e., some one whose business or occupation it is to bake, brew or weave. (420)


There is one thing about these formations which would make them very exceptional if the ordinary explanation were true: in all languages it seems to be the rule that in feminine derivatives of this kind, the feminine ending is added to some word which in itself means a male person, thus princess from prince, waitress from waiter, not waitress from the verb wait. But in the OE words -estre is not added to a masculine agent noun; we find, not hleaperestre, but hleapestre, not bæcerestre, but bæcestre, thus direct from the nominal or verbal root or stem. This fact is in exact accordance with the hypothesis that the words are just ordinary agent nouns, that is, primarily two-sex words. (422)


 通説か Jespersen 説か,どちらが妥当なのかを検討するには,詳細な調査が必要となる.この種の問題が一般的に難しいのは,ある文脈において当該の語尾をもつ語の指示対象が女性だからといって,その語尾に女性の意味が含まれていると言い切れない点にある.語尾にはもともと両性の意味が含まれており,その文脈ではたまたま指示対象が女性だった,という議論ができてしまうのだ.
 その観点からいえば,上の文中の「女性」を「男性」に替えてもよい.つまり,ある文脈において当該の語尾をもつ語の指示対象が男性だからといって,その語尾に男性の意味が含まれていると言い切れない.というのは,語尾にはもともと両性の意味が含まれており,その文脈でたまたま指示対象が男性だった,というだけのことかもしれないからだ.
 多くの事例を集め,当該語尾の使用と,その指示対象の男女分布との相関関係を探るといった調査が必要だろう.実際に Jespersen 自身も,そのような趣旨で事例を提示しているのだが,その量は不足しているように思われる.

 ・ Jespersen, Otto. "A Supposed Feminine Ending." Linguistica. Copenhagen, 1933. 420--29.

Referrer (Inside): [2024-08-09-1]

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2024-08-07 Wed

#5581. -ster 語尾の方言分布と起源論争 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][suffix][etymology][word_formation][agentive_suffix][productivity][gender]

 webster, baxter などの職業名や,spinster, youngster などの人名に現われる接尾辞 (agentive_suffix) について,以下の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#2188. spinster, youngster などにみられる接尾辞 -ster」 ([2015-04-24-1])
 ・ 「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1])
 ・ 「#5520. -ester 語尾をもつ中英語の職業名ベースの姓」 ([2024-06-07-1])

 中英語期の職業名に現われる -ster の分布を探ると,イングランド全土に分布こそするが,アングリア地方(東部や北部)で高頻度であるという.この地域分布とも合わせて,そもそも当該語尾の起源が何であるかという論争がかつて起こった.現在の有力な説については,上記の過去記事で取り上げてきた通りだが,改めて Fransson による経緯の要約を読んでみよう (42) .

   It is true that the surnames in -ester occur in the whole of England, but with regard to their frequency there is a distinct difference. The case is that they chiefly belong to the Anglian counties; most instances have been found in Nf (over 100 inst.), Li, Y, La, and St, but many also in Wo and Ess. In the WS counties (Sx, Ha, So) these surnames occur very seldom; thus I have only found 3 inst. in So, 5 in Ha, and 11 in Sx.
   We now come to the difficult question whether the suffix -ester is a feminine ending or not. There has been no difference of opinion about this until recently, when Jespersen propounded an entirely new theory (Linguistica 420--429). According to the general view, -ester was originally a special feminine ending, which, however, was later applied to men as well as to women. This transition from fem. to masc. is usually explained through the supposition that the work that was at first done only by women, was later performed by men, too, and that the fem. denominations were transferred on men at the same time.


 従来問題なく受け入れられていた「通説」が,著名な英語史研究者の Jespersen によって批判され,新説が唱えられたのだという.これ自体が1930年代時点の話しなのだが,このような論争は私にとって大好物である.では,Jespersen の新説とは?

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.
 ・ Jespersen, Otto. "A Supposed Feminine Ending." Linguistica. Copenhagen, 1933. 420--29.

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2024-07-16 Tue

#5559. 古英語の形容詞の弱変化・強変化屈折はどこから来たのか? [oe][adjective][inflection][germanic][noun][personal_pronoun][suffix][indo-european][terminology]

 「#2560. 古英語の形容詞強変化屈折は名詞と代名詞の混合パラダイム」 ([2016-04-30-1]) でみたように,古英語の形容詞の屈折には統語意味的条件に応じて弱変化 (weak declension) と強変化 (strong declension) が区別される.
 それぞれの形態的な起源は,先の記事で述べた通りで,名詞の弱変化と強変化にストレートに対応するわけではなく,やや込み入っている.形容詞の弱変化は,確かに名詞の弱変化と対応する.n-stem や子音幹とも言及される通り,屈折語尾に n 音が目立つ.Fertig (38) によると,弱変化の屈折語尾は,もともとは個別化機能 (= "individualizing function") を有する派生接尾辞に端を発するという.個別化して「定」を表わすからこそ,ゲルマン語派では "definiteness" と結びつくようになったのだろう.
 一方,形容詞の強変化の屈折語尾は,必ずしも名詞の強変化のそれに似ていない.むしろ,形態的には代名詞のそれに類する.いかにして代名詞的な屈折語尾が形容詞に侵入し,それを強変化となしたのかはよく分からない.しかし,これによって形容詞が形態的には名詞と一線を画する語類へと発展していったことは確かだろう.
 Fertig (39--40) より,関連する説明を引いておこう.

   Originally, the function of this new distinction in Germanic involved definiteness (recall the original 'individualizing' function of the -en suffix in Indo-European): strong = indefinite, blinds guma 'a blind man'; weak = definite, blinda guma 'the blind man').
   The other Germanic innovation which may not be entirely separable from the first one, is that many of the endings on the strong forms of adjectives do not correspond to strong noun forms, as they had in Indo-European. Instead, they correspond largely to pronominal forms . . . .


 古英語の名詞,形容詞,そして動詞でいうところの「弱変化」と「強変化」は,それぞれ意味合いが異なることに改めて注意したい.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2024-06-28 Fri

#5541. 中英語の職業名ベースの複合語の姓 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][agentive_suffix][agentive_suffix][compound][suffix]

 目下,私が研究題目として掲げて注目している話題の1つが,現代英語の姓に連なる中英語の by-name である.その中でも職業名に由来する姓に関心を寄せている.
 Fransson (14--15) によると,職業名ベースの複合語となる姓が,中英語では存在感を示している.具体的には複合語の第2要素が著しい役割を果たしている.具体的には -maker, -man, -monger-, -wright の類いが典型だが,調べてみると他にもたくさんある.複合語の第2要素として典型的なものを Fransson の一覧より再掲しよう.

-BATOUR: Orbatour.
-BETER: Coperbeter, Flaxbeter, Goldbeter, Ledbeter, Wodebetere, Wolbetere.
-BIGGERE: Fetherbycger, Shoubiggere.
-BYNDER: Bokbynder.
-BREDERE: Haryngbredere.
-BREYDER: Lacebreyder.
-BRENNER: Askebrenner, Lymbrener.
-BREWERE: Alebrewere.
-BROCHER: Ploghbrocher.
-KARTERE: Heryngkartere.
-KERNERE: Smerekernere.
-CLEVER: Burdclever.
-DRAGHER: Wirdgragher.
-DRAPER: Lyndraper.
-FEUERE: Baiounsfeuere, Orfeuere.
-GRAVER: Orgraver, Selgraver.
-HEWERE: Bordhewere, Fleshhewere, Marlehewer, Silverhewer, Stonhewere, Vershewere.
-HOPER: Goldehoper.
-YETERE: Belleyetere, Bligeter, Brasyetere, Ledyetere, Pannegetter.
-LEGGER: Streulegger.
-LETER: Blodleter.
-LITTSTER: Corklittster.
-MAKER: Aketonmaker, Aruwemakere, Aunseremakere, Belgmakere, Bokmakere, Bordmakere, Botelmaker, Bowemakere, Callemaker, Candelmaker, Kelmaker, Chalunmaker, Chapemaker, Chesemakere, Clokkemaker, Cordemaker, Cottemakere, Delmaker, Dofkotemakere, Elymaker, Flourmakere, Gourdmaker, Hayremaker, Hodemaker, Lepmaker, Maltmakere, Medemaker, Meysemakere, Melemakere, Moldemaker, Netmaker, Oylemaker, Paniermaker, Potmaker, Pouchemaker, Pundermaker, Quyltmaker, Saucemaker, Seggemaker, Sheldmakere, Strengmakere, Walmakere.
-MAKESTERE: Kallemakestere.
-MAN: Butterman, Candelman, Capman, Chapman, Cheseman, Clothman, Elyman, Fetherman, Flaxman, Flekeman, Glasman, Hauerman, Honyman, Laxman, Lekman, Lynman, Meleman, Mustardman, Oilman, Pakeman, Panierman, Redman, Sakman, Saltman, Sherman, Syveman, Slayman, Smeremay, Tailman, Wademan, Waxman, Werkman.
-MARTER: Bukmarter.
-MONGERE: Bukmongere, Ketmongere, Chesemonger, Clothmangere, Cornmongere, Fethermongere, Fishmongere, Flaxmongere, Fleshmongere, Garlekmongere, Gosmanger, Heymongere, Henmongere, Heryngmongere, Hermonger, Horsmongere, Irmongere, Lusmonger, Madermanger, Maltmongere, Melemongere, Otmongere, Sklatemanger, Smeremongere, Taylmongere, Tymbermongere, Waxmongere, Whelmonger, Wolmongere, Wudemonger.
-MONGESTERE: Bredmongestere.
-POLLARE: Felpollare.
-SELLER: Clothseller.
-SLIPER: Swerdsliper.
-SMITH: Ankersmyth, Arowesmith, Balismith, Blakesmyth, Bokelsmyth, Boltsmith, Botsmith, Brounsmyth, Knyfsmith, Copersmith, Exsmyth, Goldsmyth, Hudsmyth, Ledsmyth, Lokersmyth, Loksmyth, Orsmyth, Schersmyth, Shosmyth, Watersmyth, Whelsmyth, Whitesmyth.
-SNITHER: Lakensnither.
-TAWYERE: Whittewere.
-TEWERE: Whittewere.
-THEKER: Ledtheker.
-TOWERE: Whittowere.
-WASHERE: Skynwashere.
-WEBBE: Poghwebbe, Sakwebbe.
-WIFE: Flaxwife, Silkwife.
-WYNDER: Flekewynder.
-WOMAN: Silkwoman.
-WRIGHT: Arkewright, Bordwright, Bowewright, Brandwright, Briggwright, Cartwright, Chesewright, Kystewright, Kittewright, Culewright, Detherwright, Glaswright, Hayrwright, Lattewright, Limwright, Nawright, Orewright, Ploghwright, Shipwright, Syvewright, Slaywright, Tywelwright, Tunwright, Waynwright, Whelwright, Whicchewright.
-WRYNGERE: Chesewryngere.


 関連して「#5520. -ester 語尾をもつ中英語の職業名ベースの姓」 ([2024-06-07-1]) などの記事も参照されたい.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-06-17 Mon

#5530. -(i)tude [word_formation][etymology][latin][french][suffix][noun][adjective][morphology][kdee]



 一昨日の heldio で「#1111. latitude と longitude,どっちがどっち? --- コトバのマイ盲点」を配信した.latitude (緯度)と longitude (経度)の区別が付きにくいこと,それでいえば日本語の「緯度」と「経度」だって区別しにくいことなどを話題にした.コメント欄では数々の暗記法がリスナーさんから寄せられてきているので,混乱している方は必読である.
 今回は両語に現われる接尾辞に注目したい.『英語語源辞典』(寺澤芳雄(編集主幹),研究社,1997年)によると,接尾辞 -tude の語源は次の通り.

-tude suf. ラテン語形形容詞・過去分詞について性質・状態を表わす抽象名詞を造る;通例 -i- を伴って -itude となる:gratittude, solitude. ◆□F -tude // L -tūdin-, -tūdō


 この接尾辞をもつ英単語は,基本的にはフランス語経由で,あるいはフランス語的な形態として取り込まれている.比較的よくお目にかかるものとしては altitude (高度),amplitude (広さ;振幅),aptitude (適正),attitude (態度),certitude (確信)などが挙げられる.,fortitude (不屈の精神),gratitude (感謝),ineptitude (不適当),magnitude (大きさ),multitude (多数),servitude (隷属),solicitude (気遣い),solitude (孤独)などが挙げられる.いずれも連結母音を含んで -itude となり,この語尾だけで2音節を要するため,単語全体もいきおい長くなり,寄せ付けがたい雰囲気を醸すことになる.この堅苦しさは,フランス語のそれというよりはラテン語のそれに相当するといってよい.
 OED の -tude SUFFIX の意味・用法欄も見ておこう.

Occurring in many words derived from Latin either directly, as altitude, hebetude, latitude, longitude, magnitude, or through French, as amplitude, aptitude, attitude, consuetude, fortitude, habitude, plenitude, solitude, etc., or formed (in French or English) on Latin analogies, as debilitude, decrepitude, exactitude, or occasionally irregularly, as dispiritude, torpitude.


 それぞれの(もっと短い)類義語と比較して,-(i)tude 語の寄せ付けがたい語感を味わうのもおもしろいかもしれない.

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2024-06-08 Sat

#5521. simpleton, singleton の -ton [suffix][onomastics][personal_name][name_project][by-name][toponymy][etymology][helkatsu][analogy][link][rifaraji]

 「#5461. この4月,皆さんの「hel活」がスゴいことになっています」 ([2024-04-09-1]) や「#5484. heldio/helwa リスナーの皆さんの「hel活」をご紹介」 ([2024-05-02-1]) などでご紹介した活動的なhel活実践者の1人 lacolaco さんが,note 上で「英語語源辞典通読ノート」という企画を展開されています.『英語語源辞典』(研究社,1997年)を通読しようという遠大なプロジェクトで,目下Aの項を終えてBの項へと足を踏み入れています.特におもしろい語源の単語がピックアップされており,とても勉強になります.
 lacolaco さんは,プログラマーを本業としており,Spotify/Apple Podcast/YouTube にて「リファラジ --- リファクタリングとして生きるラジオ」をお相手の方とともに定期的に配信されています.私自身は言語処理のために少々プログラムを書く程度のアマチュアプログラマーにすぎませんが,「リファクタリング」は興味をそそられる主題です.
 リファラジ最新回は6月4日配信の「#25 GoF③ Singleton パターンには2つの価値が混ざっている」です.プログラムのデザインパターンとしての「Singleton」が話題となっていますが,配信の9:00辺りで,そもそも singleton という英単語は何を意味するのか,とりわけ -ton の部分は何なのかという問いが発せられています.



 『英語語源辞典』には見出しが立っていなかったので,他の辞典等に当たってみました.ここでは OED より singleton NOUN2 の項目をみてみましょう.
 

1. Cards. In whist or bridge: The only card of a suit in a hand. Also attributive.
   1876 If..the lead is a singleton..it may be right to put on the ace. (A. Campbell-Walker, Correct Card Gloss. p. vi)


 初出は1876年で,トランプの「1枚札」が原義となっています.その後「ひとりもの」「1個のもの」「単集合(1つの構成要素しかもたない集合)」などの語義が現われています.語源欄には次のようにあります.

single adj. + -ton (in surnames with that ending). Compare simpleton n.


 問題の語尾の -ton については,OED は,姓にみられる接尾辞 -ton だろうと見ているようです.ここで simpleton を参照せよとあります.確かに singlesimple は究極的には同語根に遡るラテン借用語ですし,関連はありそうです.simpleton の語源欄をみてみましょう.

Probably < simple adj. + -ton (in surnames with that ending), probably originally as a (humorous) surname for a generic character (compare quot. 1639 and note at sense 1).


 地名に付される接尾辞 -ton の転用という趣旨のようです.この -ton は,古英語 tūn (囲われた土地)に由来し,現代の town に連なります (exx. Hampton, Newton, Padington, Princeton, Wellington) .ちなみに,地名に由来する姓は一般にみられるものです.
 この simpleton の初例は1639年となっており,まぬけな人物をからかって呼ぶニックネームとして使われています.

1. An unintelligent, ignorant, or gullible person; a fool.
   In quot. 1639 as a humorous surname for a character who gathers medicinal herbs and is also characterized as stupid, and so with punning reference to simple n. B.II.4a.

      1639 Now Good-man Simpleton... I see you are troubled with the Simples, you had not need to goe a simpling every yeare as you doe, God knowes you have so little wit already. (J. Taylor, Divers Crabtree Lectures 10)


 以上をまとめれば,simpleton という造語は単純まぬけの「単山さん」といったノリでしょうか.言葉遊びともいうべきこの語形成が,後に simple と同根関連語の single にも類推的に適用され,singleton という語ができあがったと想像されます.
 地名と関連して town, -ton については「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1]),「#1395. up and down」 ([2013-02-20-1]),「#5304. 地名 Grimston は古ノルド語と古英語の混成語ではない!?」 ([2023-11-04-1]) を参照.
 なお,やはりhel活実践者であるり~みんさんも,リファラジからの singlton 語源問題について,こちらの note コメントで反応されています.

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2024-06-07 Fri

#5520. -ester 語尾をもつ中英語の職業名ベースの姓 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][suffix][etymology][word_formation][agentive_suffix][latin][productivity]

  標記の行為者接尾辞 (agentive_suffix) について「#2188. spinster, youngster などにみられる接尾辞 -ster」 ([2015-04-24-1]) や「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1]) で取り上げてきた.-ster はもともと女性の行為者接尾辞だったといわれるが,実はこれについては論争もあり,問題含みの形態素である (Fransson 42--45) .
  中英語の職業名ベースの姓を広範に調査した Fransson もこの件について議論している.問題の核心に迫るには,まずは記述が重要であるとして,Fransson はイングランド各地より -ester 語尾をもつ42個の姓を集めた.列挙すると以下の通り (41) .

Bakestere, Blacchester, Blakestere, Bleykestere, Blextere, Bredmongestere, Brewstere, Kallemakestere, Capiestere, Cardestere, Kembestere, Combestere, Corklittster, Cuppestere, Deyster, Dreyster, Fullester, Girdelester, Heustere, Huckestere, Litester, Lokyestere, Madster, Maltestere, Mongestere, Quernestere, Ridelestere, Ropestere, Scherestere, Semester, Sewstere, Sheppestere, Sopestere, Tannestere, Thakestere, Touestre, Upholdestere, Wadester, Webbester, Whelster, Wyggester, Wollestere


 もちろん議論の本番はこれからなのだが,これらの姓の分布が地域によって異なっていたり,名前の主が男性か女性かの比率も異なっているという事情があるようだ.単なる語源や語形成の話しにとどまらず,職業と姓と性という社会的な次元のトピックへと展開していきそうな匂いがプンプンしてきた.深みにはまらないように注意しなければと自身をいさめつつ.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-08-07-1] [2024-06-28-1]

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2024-05-22 Wed

#5504. 接尾辞 -iveOED で読む [etymology][suffix][french][oed][loan_word][oed][adjective][word_formation][noun][conversion][productivity]

 「#2032. 形容詞語尾 -ive」 ([2014-11-19-1]) で取り上げた形容詞(およびさらに派生的に名詞)を作る接尾辞 (suffix) に再び注目したい.OED-ive (SUFFIX) の "Meaning & use" をじっくり読んでみよう.

Forming adjectives (and nouns). Formerly also -if, -ife; < French -if, feminine -ive (= Italian, Spanish -ivo):--- Latin īv-us, a suffix added to the participial stem of verbs, as in act-īvus active, pass-īvus passive, nātīv-us of inborn kind; sometimes to the present stem, as cad-īvus falling, and to nouns as tempest-īvus seasonable. Few of these words came down in Old French, e.g. naïf, naïve:--- Latin nātīv-um; but the suffix is largely used in the modern Romanic languages, and in English, to adapt Latin words in -īvus, or form words on Latin analogies, with the sense 'having a tendency to, having the nature, character, or quality of, given to (some action)'. The meaning differs from that of participial adjectives in -ing, -ant, -ent, in implying a permanent or habitual quality or tendency: cf. acting adj., active adj., attracting adj., attractive adj., coherent adj., cohesive adj., consequent adj., consecutive adj. From their derivation, the great majority of these end in -sive and -tive, and of these about one half in -ative suffix, which tends consequently to become a living suffix, as in talk-ative, etc. A few are formed immediately on the verb stem, esp. where this ends in s (c) or t, thus easily passing muster among those formed on the participial stem; such are amusive, coercive, conducive, crescive, forcive, piercive, adaptive, adoptive, denotive, humective; a few are from nouns, as massive. In costive, the -ive is not a suffix.

Already in Latin many of these adjectives were used substantively; this precedent is freely followed in the modern languages and in English: e.g. adjective, captive, derivative, expletive, explosive, fugitive, indicative, incentive, invective, locomotive, missive, native, nominative, prerogative, sedative, subjunctive.
In some words the final consonant of Old French -if, from -īvus, was lost in Middle English, leaving in modern English -y suffix1: e.g. hasty, jolly, tardy.

Adverbs from adjectives in -ive are formed in -ively; abstract nouns in -iveness and -ivity suffix.


 OED の解説を熟読しての発見としては:

 (1) -ive が接続する基体は,ラテン語動詞の分詞幹であることが多いが,他の語幹や他の品詞もあり得る.
 (2) ラテン語で作られた -ive 語で古フランス語に受け継がれたものは少ない.ロマンス諸語や英語における -ive 語の多くは,かつての -ivus ラテン単語群をモデルとした造語である可能性が高い.
 (3) 分詞由来の形容詞接辞とは異なり,-ive は恒常的・習慣的な意味を表わす.
 (4) -sive, -tive の形態となることが圧倒的に多く,後者に基づく -ative はそれ自体が接辞として生産性を獲得している.
 (5) -ive は本来は形容詞接辞だが,すでにラテン語でも名詞への品詞転換の事例が多くあった.
 (6) -ive 接尾辞末の子音が脱落し,本来語由来の形容詞接尾辞 -y と合流する単語例もあった.

 上記の解説の後,-ive の複合語や派生語が951種類挙げられている.私の数えでこの数字なのだが,OED も網羅的に挙げているわけではないので氷山の一角とみるべきだろう.-ive 接尾辞研究をスタートするためには,まずは申し分ない情報量ではないか.

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2024-05-12 Sun

#5494. 中英語期には同じ職業を表わすにも様々な名前があった [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix]

 中英語期の職業名を帯びた姓 (by-name) について調べている.Fransson や Thuresson の一覧を眺めていると,同一の職業とおぼしきものに,様々な呼称があったことがよく分かってくる.とりわけ呼び方の種類の多いものを,ピックアップしてみた.確認された初出年代と当時の語形を一覧してみよう.

 ・ チーズを作る(売る)人 (Fransson 66--67): Cheseman (1263), Cheser (1332), Chesemakere (1275), Chesewright (1293), Chesemonger (1186), Furmager (1198), Chesewryngere (1281), Wringer (1327)
 ・ 織り手,織工 (Fransson 87--88): Webbe (1243), Webbester (1275), Webbere (1340), Weuere (1296)
 ・ 小袋を作る人 (Fransson 95--96): Pouchemaker (1349), Poucher (1317), Pocheler, Poker (1314)
 ・ 金細工職人 (Fransson 133--34): Goldsmyth/Gildsmith (125), Gilder/Golder (1281), Goldbeter (1252), Goldehoper (1327)
 ・ 車(輪)大工 (Fransson 161--62): Whelere (1249), Whelster (1327), Whelwright (1274), Whelsmyth (1319), Whelemonger (1332)
 ・ ブタ飼い (Thuresson 65--67): Swynherde (1327), Swyneman (1275), Swyner (1257), Swyndriuere (1317), Swon (c1240)
 ・ 猟師 (Thuresson 75--76): Hunte (1203), Hunter (1301), Hunteman (1235)

 このような異形態は,とりわけ語彙論,意味論,形態論の観点から興味をそそられる.しかしそれ以上に,当時の職業の多様性や,人々の自称・他称へのこだわりが感じられ,何かしら感動すら覚える.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.
 ・ Thuresson, Bertil. Middle English Occupational Terms. Lund Studies in English 19. Lund: Gleerup, 1968.

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2024-03-11 Mon

#5432. 複数形の -(r)en はもともと派生接尾辞で屈折接尾辞ではなかった [exaptation][language_change][plural][morphology][derivation][inflection][indo-european][suffix][rhotacism][sound_change][germanic][german][reanalysis]

 長らく名詞複数形の歴史を研究してきた身だが,古英語で見られる「不規則」な複数形を作る屈折接尾辞 -ru や -n がそれぞれ印欧祖語の段階では派生接尾辞だったとは知らなかった.前者は ċildru "children" などにみられるが,動作名詞を作る派生接尾辞だったという.後者は ēagan "eyes" などにみられるが,個別化の意味を担う派生接尾辞だったようだ.
 この点について,Fertig (38) がゲルマン諸語の複数接辞の略史を交えながら興味深く語っている.

There are a couple of cases in Germanic where an originally derivational suffix acquired a new inflectional function after regular phonetic attrition at the ends of words resulted in a situation where the suffix only remained in certain forms in the paradigm. The derivational suffix *-es-/-os- was used in proto-Indo-European to form action nouns . . . . In West Germanic languages, this suffix was regularly lost in some forms of the inflectional paradigm, and where it survived it eventually took on the form -er (s > r is a regular conditioned sound change known as rhotacism). The only relic of this suffix in Modern English can be seen in the doubly-marked plural form children. It played a more important role in noun inflection in Old English, as it still does in modern German, where it functions as the plural ending for a fairly large class of nouns, e.g. Kind--Kinder 'child(ren)'; Rind--Rinder 'cattle'; Mann--Männer 'man--men'; Lamm--Lämmer 'labm(s)', etc. The evolution of this morpheme from a derivational suffix to a plural marker involved a complex interaction of sound change, reanalysis (exaptation) and overt analogical changes (partial paradigm leveling and extension to new lexical items). A similar story can be told about the -en suffix, which survives in modern standard English only in oxen and children, but is one of the most important plural endings in modern German and Dutch and also marks a case distinction (nominative vs. non-nominative) in one class of German nouns. It was originally a derivational suffix with an individualizing function . . . .


 child(ren), eye(s), ox(en) に関する話題は,これまでも様々に取り上げてきた.以下のコンテンツ等を参照.

 ・ hellog 「#946. 名詞複数形の歴史の概要」 ([2011-11-29-1])
 ・ hellog 「#146. child の複数形が children なわけ」 ([2009-09-20-1])
 ・ hellog 「#145. childchildren の母音の長さ」 ([2009-09-19-1])
 ・ hellog 「#218. 二重複数」 ([2009-12-01-1])
 ・ hellog 「#219. eyes を表す172通りの綴字」 ([2009-12-02-1])
 ・ hellog 「#2284. eye の発音の歴史」 ([2015-07-29-1])

 ・ hellog-radio (← heldio の前身) 「#31. なぜ child の複数形は children なのですか?」

 ・ heldio 「#202. child と children の母音の長さ」
 ・ heldio 「#291. 雄牛 ox の複数形は oxen」
 ・ heldio 「#396. なぜ I と eye が同じ発音になるの?」

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2024-03-09 Sat

#5430. 行為者接尾辞 -er は本来は動詞ではなく名詞の基体についた [analogy][reanalysis][agentive_suffix][suffix][morphology][word_formation][dutch][german]

 -er は典型的な行為者接尾辞 (agentive_suffix) の1つである.一般に動詞の基体に付加することで,対応する行為者の名詞を作る接尾辞としてとらえられている.
 しかし,この接尾辞は,本来は名詞の基体について「~に関係する人」ほどを意味する行為者名詞を作るものだった.例えば fisher (漁師)は,動詞 fish に -er がついたものと思われるかもしれないが,語源的には名詞 fish に -er がついたものなのである.
 『英語語源辞典』の -er1 によると,もともとは名詞にのみ付加された接尾辞が,まず弱変化動詞にもつくようになり,さらに強変化動詞にもつくようになったという.なぜ接尾辞の適用範囲が動詞にも拡がったかといえば,まさに上に挙げた fish のような名詞と動詞を兼ねた基体が橋渡しとなり,再分析 (reanalysis) を促したのだろうと考えられる.
 Fertig (35) が,この種の再分析の例として,まさに -er を取り上げている.

An even more striking example is the English/German/Dutch agentive suffix -er (< proto-Germanic *-ārjo-z). Originally, this suffix could only be attached to nouns to produce new nouns with the meaning 'person having something to do with X' (where X is the meaning of the base noun). This use can still be seen in Modern English words such as hatter and is highly productive with place names, e.g. English New Yorker; Dutch Amsterdammer; German Pariser, etc. In the older languages, we see this original use clearly in examples such as Gothic bôkareis/Old English bócere 'scribe', derived from the noun corresponding to Modern English book. As this example suggests, the construction was used especially to designate professions and occupations, and there was very often also a related denominal verb. In Gothic, for example, we find the basic noun dôm- 'judgment', the derived verb dômjan 'to judge' and the noun dômareis 'judge (i.e. person who judges)'. Nouns like dômareis were then reanalyzed as being derived from the verbs rather than directly from the basic nouns.


 この接尾辞については,hellog でも多く取り上げてきた.以下の記事などを参照.

 ・ 「#1748. -er or -or」 ([2014-02-08-1])
 ・ 「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1])
 ・ 「#5392. 中英語の姓と職業名」 ([2024-01-31-1])

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2024-02-29 Thu

#5421. 最上級の -est は比較級の -er にもう1要素付け加わっただけ [superlative][comparison][adjective][suffix][reconstruction][indo-european][analogy]

 へぇ,そうだったのか,という話題.
 Fertig (34) によると,標題の通り,形容詞・副詞の最上級を標示する接尾辞 -est は,比較級の -er を基にした発展版ということらしい.

The superlative suffix -est, for example, is historically a combination of the ancestor of the -er comparative suffix (*-ôz-/*-iz- in proto-Germanic) followed by an originally separate *-to-.


 もともとは *-ôz-/*-iz- と *-to- は別々の役割を果たす別々の接尾辞だったが,これが合わさる機会も多かったので,合わさった結果の形が1つの新しい接尾辞として理解されるようになったということだ.
 これはちょうど現代英語で -ist と -ic が別々の接尾辞とみなされているが,合わさった -istic も1つの独立した接尾辞ととらえられ得る状況に比べられる.例えば cannibalistic において,切り出すべき接尾辞は -ist と -ic の2つと分析するよりも,-istic の1つと分析するほうが実際的だろう.というのは,*cannibalist という単語はないからだ.
 これを教訓とすれば,比較級の -er は -ist に,最上級の -est は -istic に相当するということになろう.分かりやすいような分かりにくいような.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2023-12-21 Thu

#5351. OED の解説でみる併置総合 parasynthesisparasynthetic [terminology][morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix][parasynthesis][adjective][participle][noun][oed]

 「#5348. the green-eyed monster にみられる名詞を形容詞化する接尾辞 -ed」 ([2023-12-18-1]) の記事で,併置総合 (parasynthesis) という術語を導入した.
 OED の定義によると "Derivation from a compound; word-formation involving both compounding and derivation." とある.対応する形容詞 parasynthetic とともに,ギリシア語の強勢に関する本のなかで1862年に初出している.OED では形容詞 parasynthetic の項目のほうが解説が詳しいので,そちらから定義,解説,例文を引用する.

Formed from a combination or compound of two or more elements; formed by a process of both compounding and derivation.

In English grammar applied to compounds one of whose elements includes an affix which relates in meaning to the whole compound; e.g. black-eyed 'having black eyes' where the suffix of the second element, -ed (denoting 'having'), applies to the whole, not merely to the second element. In French grammar applied to derived verbs formed by the addition of both a prefix and a suffix.

1862 It is said that synthesis does, and parasynthesis does not affect the accent; which is really tantamount to saying, that when the accent of a word is known..we shall be able to judge whether a Greek grammarian regarded that word as a synthetic or parasynthetic compound. (H. W. Chandler, Greek Accentuation Preface xii)

1884 That species of word-creation commonly designated as parasynthetic covers an extensive part of the Romance field. (A. M. Elliot in American Journal of Philology July 187)

1934 Twenty-three..of the compound words present..are parasynthetic formations such as 'black-haired', 'hard-hearted'. (Review of English Studies vol. 10 279)

1951 Such verbs are very commonly parasynthetic, taking one of the prefixes ad-, ex-, in-. (Language vol. 27 137)

1999 Though broad-based is two centuries old, zero-based took off around 1970 and missile lingo gave us land-based, sea-based and space-based. A discussion of this particular parasynthetic derivative is based-based. (New York Times (Nexis) 27 June vi. 16/2)


 研究対象となる言語に応じて parasynthetic/parasynthesis の指す語形成過程が異なるという事情があるようで,その点では要注意の術語である.英語では接尾辞 -ed が参与する parasynthesis が,その典型例として挙げられることが多いようだ.ただし,-ed parasynthesis に限定して考察するにせよ,いろいろなパターンがありそうで,形態論的にはさらに細分化する必要があるだろう.

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2023-12-20 Wed

#5350. the green-eyed monster にみられる名詞を形容詞化する接尾辞 -ed (3) [morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix][parasynthesis][adjective][participle][oed][conversion][johnson][coleridge]

 一昨日と昨日に引き続き,green-eyed のタイプの併置総合 (parasynthesis) にみられる名詞に付く -ed について (cf. [2023-12-18-1], [2023-12-19-1]) .
 OED-ed, suffix2 より意味・用法欄の解説を引用したい.

Appended to nouns in order to form adjectives connoting the possession or the presence of the attribute or thing expressed by the noun. In modern English, and even in Middle English, the form affords no means of distinguishing between the genuine examples of this suffix and those participial adjectives in -ed, suffix1 which are ultimately < nouns through unrecorded verbs. Examples that have come down from Old English are ringed:--Old English hringede, hooked: --Old English hócede, etc. The suffix is now added without restriction to any noun from which it is desired to form an adjective with the sense 'possessing, provided with, characterized by' (something); e.g. in toothed, booted, wooded, moneyed, cultured, diseased, jaundiced, etc., and in parasynthetic derivatives, as dark-eyed, seven-hilled, leather-aproned, etc. In bigoted, crabbed, dogged, the suffix has a vaguer meaning. (Groundless objections have been made to the use of such words by writers unfamiliar with the history of the language: see quots.)


 基本義としては「~をもつ,~に特徴付けられた」辺りだが,名詞をとりあえず形容詞化する緩い用法もあるとのことだ.名詞に -ed が付加される点については,本当に名詞に付加されているのか,あるいは名詞がいったん動詞に品詞転換 (conversion) した上で,その動詞に過去分詞の接尾辞 -ed が付加されているのかが判然としないことにも触れられている.品詞転換した動詞が独立して文証されない場合にも,たまたま文証されていないだけだとも議論し得るし,あるいは理論上そのように考えることは可能だという立場もあるかもしれない.確かに難しい問題ではある.
 上の引用の最後に「名詞 + -ed」語の使用に反対する面々についての言及があるが,OED が直後に挙げているのは具体的には次の方々である.

1779 There has of late arisen a practice of giving to adjectives derived from substantives, the termination of participles: such as the 'cultured' plain..but I was sorry to see in the lines of a scholar like Gray, the 'honied' spring. (S. Johnson, Gray in Works vol. IV. 302)

1832 I regret to see that vile and barbarous vocable talented..The formation of a participle passive from a noun is a licence that nothing but a very peculiar felicity can excuse. (S. T. Coleridge, Table-talk (1836) 171)


 Johnson と Coleridge を捕まえて "writers unfamiliar with the history of the language" や "Groundless objections" と述べる辺り,OED はなかなか手厳しい.

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