古英語の人名には,現代の family name や last name に相当する「姓」はない.「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1]) で触れたように,姓が現われるようになるのはノルマン征服後のことである.
しかし,家系や所属を標示する発想がまるでなかったわけではない.特に王家の系統については,男性の名前を同じ子音で始める頭韻 (alliteration) の傾向が見られるという.いわば音象徴 (sound_symbolism) で家系を示唆してしまおうという,なんとも雅びで奥ゆかしい伝統ではないか.
Clark (458) が次のように説明し,例を挙げている.
Despite the lack of 'family-names' in the modern sense, kinship-marking was a main motive behind old Germanic naming . . . . Thus, royal genealogies, whose partly mythical character makes them likely to show idealised forms, regularly exhibit runs of alliteration, as in the West Saxon sequence: Cerdic, Cynric, Ceawlin, Cuða, Ceada, Benbeorht, Ceadwalla . . . .
ほかに,男性名について,規則的ではないものの,父や兄弟の名前に含まれる要素を共有する傾向がみられるという (cf. 父称 (patronymy)) .
女性名については,いかんせん記録が少なく,一般的な傾向は指摘しにくいようである.例えば Bede に挙げられている名前一覧でいえば,古英語女性人名は全体の1/7以下にとどまるという.
・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.
英語の姓 (last name) には,標題のように -son のつくものが多いですね.この -son を取り除いても,名 (first name) として通用するものが多いので,この -son には何かありそうです.皆さんすでにお気づきのように,この -son は「息子」の son と同語源です.これはどういうことかといえば,例えばいまだ姓をもたない身分だった John 氏が,あるとき,独自の姓を設けて新しい家系を築こうと思ったとき,自分の息子や孫息子へと男系で継いでいくべき家柄の名前をつけるにあたって,自分の名前を冠して Johnson などとすることは,ありそうなことです.このような名付けを父称 (patronymy) といいます.
しかし,驚くことに -son による父称は英語本来のものではありませんでした.また,英語以外でも父称は中世ヨーロッパ社会(そしてそれ以外でも)の諸言語で広く行なわれていました.では,音声解説をお聴きください.
父称の話題については,##1673,1937の記事セットをどうぞ.人名 (personal_name) の言語学は,その言語文化の歴史をみごとに映し出します.実におもしろい話題です.
固有名詞学 (onomastics) と関連して,本ブログでは地名 (toponym) や人名 (personal_name) の話題を様々に取り上げてきた.一般語と異なり,固有名詞には特有の性質があり,言語体系においても言語研究においてもその位置づけは特殊である.
特徴のいくつかについて「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]) や「#2397. 固有名詞の性質と人名・地名」 ([2015-11-19-1]) で論じた.そこで指摘したとりわけ重要な特徴は,固有名詞は意味をもたないということだ.指示対象 (referent) はもつが,意味はもたない.シニフィエなきシニフィアンと述べた所以だ.言語の内部にありながら外部性を体現しているという特徴も,言語学で扱う際に注意を要する.
ほかに固有名詞には,一般語にはみられない音変化や形態変化をしばしばたどるという性質がある.逆もまた然りで,一般語において生じた形式上の変化から免れていることも多い.この辺りの話題については,「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]),「#1185. 固有名詞化 (2)」 ([2012-07-25-1]) を参照されたい.
固有名詞学の分野をわかりやすく導入してくれているのが,Hough である.とりわけそのイントロが固有名詞(学)の諸特徴をみごとに要約していてすばらしい (213) .
Onomastics is the study of names, its two main branches being toponymy (the study of place-names) and anthroponymy (the study of people's names). Traditionally regarded as a sub-class of nouns having reference but no sense, names occupy a special position within language in that they can be used without understanding of semantic content. Partly for this reason, they tend to have a high survival rate, outlasting changes and developments in the lexicon, and easily being taken over by new groups of speakers in situations of language contact. Since most names originate as descriptive phrases, they preserve evidence for early lexis, often within areas of vocabulary sparsely represented in other sources. Many place-names, and some surnames, are still associated with their place of origin, so the data also contribute to the identification of dialectal isoglosses. Moreover, since names are generally coined in speech rather than in writing, they testify to a colloquial register of language as opposed to the more formal registers characteristic of documentary records and literary texts. Much research has been directed towards establishing the etymologies of names whose origins are no longer transparent, using a standard methodology whereby a comprehensive collection of early spellings is assembled for each name in order to trace its historical development. These spellings themselves can then be used to reveal morphological and phonological changes over the course of time, often illustrating trends in non-onomastic as well as onomastic language. The relationship between the two is not always straightforward, however, since the factors pertaining to the formation and transmission of names are in some respects unique.
固有名詞は,書き言葉ではなく話し言葉(特に口語)の要素を多分に含んでいるという指摘は,なるほどと思った.一方,幾層もの言語接触や言語変化の歴史をくぐりぬけ,古形を残存させていることがあるというのも,固有名詞の一筋縄ではいかない性質を物語っている.方言区分に貢献することがあるとも述べられているが,これについては「#3453. ノルマン征服がイングランドの地名に与えた影響」 ([2018-10-10-1]) で取り上げたケースが具体例となろう.
・ Hough, Carole. "Linguistic Levels: Onomastics." Chapter 14 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 212--23.
昨日の記事「#3902. 純アングロサクソン名の Edward, Edgar, Edmond, Edwin」 ([2020-01-02-1]) に引き続き,人名の話題.以下,主として梅田 (13) より.
標題の単語や人名はいずれも語源素として「高貴な」を意味する WGmc *aþilja にさかのぼる.その古英語の反映形 æþel(e) (高貴な)は重要な語であり,これに父称 (patronymy) を作る接尾辞 -ing を付した æþeling は,現在でも atheling (王子,貴族)として残っている.
æþel は,アングロサクソン王朝の諸王の名前にも多く確認される.「#2547. 歴代イングランド君主と統治年代の一覧」 ([2016-04-17-1]) を一瞥するだけでも,Ethelwulf, Ethelbald, Ethelbert, Ethelred, Athelstan などの名前が挙がる.しかし,昨日の記事でも述べたように,ノルマン征服後,これらの名前は衰退していき,現代では見る影もない.
ところで,ドイツ語で「高貴な」に対応する語は edel であり,「貴族」は Adel である.edelweiss (エーデルワイス)は「高貴なる白」を意味するアルプスの植物だ.形容詞に名詞化語尾をつけた形態が Adelheid であり,古高地ドイツ語の Adalheidis にさかのぼる.これは女性名ともなり,その省略された愛称形が Heidi となる.アニメの名作『アルプスの少女ハイジ』で,厳しい執事のロッテンマイヤーさんは,ハイジのことを省略せずにアーデルハイドと呼んでいる.なお,オーストラリアの South Australia 州の州都 Adelaide は,このドイツ語名がフランス語経由で英語に取り込まれたものである.
一方,Adalheidis は,フランス語に取り込まれるに及び,短縮・変形したバージョンも現われた.Alaliz や A(a)liz である.これが中英語に借用されて Alyse や,近現代の Alice となった.もう1つの女性名 Alison は,フランス語で Alice に指小辞が付されたものである.
「王子」「エーデルワイス」「ハイジ」「アリス」が関係者だったというのは,なかなかおもしろい.
・ 梅田 修 『英語の語源事典』 大修館書店,1990年.
「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1]) と「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1]) で語順の類型論を紹介したが,コムリー他 (23) は人名における姓と名の語順についても類型論上の含意 (typological implication) があると指摘している.
SOV の基本語順を示す日本語や朝鮮語では,「安倍晋三」「キム・ジョンウン」など,言わずとしれた「姓+名」の人名語順となる.肩書きについても平行的であり,「安倍首相」のように「姓+肩書き」となる.このような点に,類型論上の含意を認めることができそうだ.
父称 (patronymy) においても,語順の傾向がみられるという.スコットランド語,アイルランド語,ヘブライ語などは VSO を基本語順とするが,父称においては「子供・孫」を表わす語(以下,赤字で示す)が名前そのものに先行する.それぞれ MacAlister, O'Hara, Ben-Gurion の如くである.
一方,コーカサス地方では SOV の言語が話されているが,そこでは父称は逆の語順となる.アルメニア語の Khachaturian やグルジア語の Basilashvili の如くである.
実は,印欧語の多くが父称に関してコーカサスの言語と同じ語順を示す.チェコ語の Gruberovà,アイスランド語の Sigurðsdottir,スウェーデン語の Andersson,そして英語の Browning などが例となる.このことは,印欧祖語の基本語順がかつて SOV であったことを示唆しているのかもしれない.
類型論はあくまで傾向をとらえるものであり,必ずしも普遍性を強く主張するものではない.しかし,人名語順の傾向も他種の語順の傾向と相関関係を示すのであれば,人名語源研究などにも新たな光が当てられることになるだろう.
関連して,「#2366. なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか」 ([2015-10-19-1]) も参照.
・ バーナード・コムリー,スティーヴン・マシューズ,マリア・ポリンスキー 編,片田 房 訳 『新訂世界言語文化図鑑』 東洋書林,2005年.
「#2842. 固有名詞から生まれた語」 ([2017-02-06-1]) で挙げたリストのなかに macadamize /məˈkædəˌmaɪz/ という単語がある.「〈道路〉をマカダム工法で(砕石で)舗装する」ほどの意味で,この工法を発明したスコットランドの技師 J. L. McAdam (1756--1836) に由来する eponym である.OED によると,1823年に初出している(父称 Mc については,「#1673. 人名の多様性と人名学」 ([2013-11-25-1]) を参照).
ここで想起されるのは macadamia nut (マカダミアナッツ)である.案の定,こちらも,別人ではあるが,やはりスコットランド出身の Macadam 氏に由来するようだ.この人物は John Macadam (1827--65) というスコットランド生まれの化学者・医師で,当時 Secretary of the Philosophical Institute of Victoria という地位に就いていた.では,彼がマカダミアナッツを発見したのかというと,そういうわけではない.何でもオーストラリアに移住していた F. von Mueller という植物学者が,同協会の有能な秘書であり,友人でもあった Macadam 氏の名前をとって,この樹木に macadamia /ˌmækəˈdeɪmiə/ という属名をつけたということらしい(アルバーラ,p. 125).樹木名として,1858年に Mueller が次のように初出させている.
1858 F. von Mueller in Trans. Philos. Inst. Victoria 2 72 Macadamia ... A tree of oriental subtropical Australia, with leaves three in a whorl or rarely opposite.
マカダミアナッツはハワイでよく生産されているので思い違いされやすいが,上の引用にあるとおり,原産地はオーストラリアである.別名 Queensland nut とも言われるように,Queensland 南部を原産地とする.なお,この植物を発見した人物は,上に挙げた Mueller ではなく,アラン・カニンガムなる別の植物学者だということだ.「発見」とはいっても,西洋人による発見のことであり,先住民アボリジニはオーストラリアに渡ってきた4万年ほど前から食していたことだろう.
カリカリ感と香ばしさに優れた酒のつまみである.
・ ケン・アルバーラ(著),田口 未和(訳) 『ナッツの歴史』 原書房,2016年.
「#813. 英語の人名の歴史」 ([2011-07-19-1]),「#1673. 人名の多様性と人名学」 ([2013-11-25-1]) で触れたように,英語人名によく見られる -son (ex. Johnson, Tomson, Williamson, Wilson) は古ノルド語の父称 (patronymy) に由来するというのが英語史の定説である.その根拠は,8世紀後半よりヴァイキングに襲われ,治められたイングランド東北部の the Danelaw に,とりわけ -son をもつ人名が濃く分布していたという事実である.以下に,Crystal (26) からの分布地図を掲載する.
地図中の数は,それぞれの州から生まれ出たと考えられる異なる姓の数を表わす.イングランドの北部と東部に集中していることが明らかである(特に Yorkshire と北部 Lincolnshire では6割を超える人名が古ノルド語の影響を受けたものであることが,中英語期の初期の人名記録からわかっている).この分布の明白なことは,「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) に掲載した古ノルド語由来の地名の分布を表わす地図が伝える明白さに匹敵する.Baugh and Cable (99) も次のように述べている.
It may be remarked that a similarly high percentage of Scandinavian personal names has been found in the medieval records of these districts. Names ending in -son, like Stevenson or Johnson, conform to a characteristic Scandinavian custom, the equivalent of Old English patronymic being -ing, as in Browning.
息子を意味する名詞 son は古英語 sunu として存在しており,ゲルマン諸語にも他のインドヨーロッパ諸語にも同根語が見られる.しかし,これを父称を作る連結形として用いる習慣は古英語にはなかった.一方,北欧諸語では古ノルド語の同根語 sunr を連結形として用いた人名,現代でいえば Amundsen, Andersen, Jacobsen, Jespersen, Nielsen などに相当する人名が多くみられた.英語人名の -son 付加は,古英語後期の古ノルド語との接触によって導入された,古い要素を用いた新しい慣習だったとみなすことができる.
現代英語から -son 付きの人名をランダムに拾い出すと,Acheson, Anderson, Cookson, Davidson, Dickinson, Dodgson, Edison, Ellison, Emerson, Harrison, Henderson, Hudson, Jackson, Jefferson, Johnson, Jonson, Larson, Madison, Magnusson, Robinson など多数が挙がる.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
固有名詞学 (onomastics) は人名や地名の語形・語源などを研究する分野である.とりわけ人名の研究を anthroponomastics,地名の研究を toponomastics (toponymy) として区別する場合もあるが,前者の人名研究は狭義の onomastics として言及されることもある.古今東西の人名の付け方の多様性を垣間見れば,いかにして人名研究がそれだけで1つの独立した分野を構成しうるかがわかる.例えば,Crystal (218--20) によるこの分野への短いイントロを眺めてみよう.
日本や中国を含むアジアで姓と名の区別があるのと同様に,西洋でも last name (surname, family name) と first name (given name, Christian name) の区別がある.ただし,「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1]) で触れたように,英語社会においても日本においても,この区別が通常となったのは,それほど古い時代ではない.それにしても,英語での last name や firs name などという順序に基づく呼称は誤解を招きやすい.例えば日本,中国,ハンガリーなどでは姓→名という順序が普通であり,西洋式の名→姓が普遍的なわけではないからだ.英語では middle name という第3の名前が付けられることもあり,とりわけアメリカではアルファベット1文字の middle name が広くみられる.middle name はヨーロッパでは比較的少ない.また,3つの名前が付けられている場合に,優先的にどの名前で呼ばれることが多いかは,言語社会によって異なっている.英語の David Michael Smith という人は David で呼ばれることが多いが,ドイツ語の Johann Wolfgang Schmidt という人は Wolfgang で呼ばれることが多い.
通言語的に時折みられる名付けとしてよく知られているものに,父称 (patronymy) がある.これは父の名を取るもので,ロシア語で Ivan の息子が Ivanovich,娘が Ivanovna と名付けられ,名と姓の間に置かれるような場合がそれである.アイスランド語では父称の伝統が色濃く,父称そのまま姓となるので,毎世代,姓が変化することになる.ヨーロッパにおける父称は「?の(息)子」を意味する接辞付加で表わされることが多く,言語ごとに以下のような例がある.
LANGUAGE | AFFIX | EXAMPLES |
---|---|---|
English | -ing | Browning, Denning, Gunning |
Norse, English | -son | Anderson, Jackson, Morrison |
Scots | Mac/Mc- | MacArthur, MacDonald, McMillan |
Irish | O' | O'Brien, O'Connell, O'Connor |
Welsh | Ap | Apjohn, Apreys, Powell (< Ap Howell) |
French | Fitz- | Fitzgerald, Fitz-simmons, Fitzwilliam |
Russian | -ovich | Ivanovich, Shostakovich |
Polish | -ski | Korzybski, Malinowski |
Arabic | Ibn | Ibn Battutah, Ibn Sina |
固有名詞学 (onomastics) のなかでも地名学 (toponymy) は,言語学と歴史学が濃密に接する分野である.[2011-07-24-1]の記事「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」でみたように,地名の構成と分布は,民族の歴史的な行動をありありと示してくれることがある.昨日の記事「#1012. 古代における英語からフランス語への影響」 ([2012-02-03-1]) で参照した Martinet の論文は,フランス北部に残る英語式に構成された地名の分布から,標題の疑問に迫る論考である.
英語式の地名の典型の1つに,単音節+ -ing + -ham/-ton」という形態がある (ex. Buckingham, Nottingham, Birmingham; Padington, Islington, Arlington) .-ing は英語の典型的な父称 (patronym) 接辞であり,-ham は home に,-ton は town に対応する.おもしろいことに,フランスにも,フランス語化されている部分はあるが,Tardinghen, Bouquinghen, Tatinghem, Conincthun, Verlingcthun, Audincthun など,明らかに英語地名のモデルに基づいた地名がある.それも,フランス北部の Artois (現在の Pas-de-Calais 県の一部にあたる地方),特に Boulogne から Saint Omer にかけての地域に集中している.Martinet (6--7) の地図によれば,この種の英語地名が77個も確認される.
この英語地名の分布が示唆するのは,かつてこの地方に,後の英語話者と密接に結びつけられる Anglo-Frisian 系の西ゲルマン民族が定住していたということである.彼らはブリテン島に渡る際の中継点としてこの地を通り過ぎただけではなく,この地に住み着いて,南に接する Gallo-Roman (後にフランス語へ発達する言語)に言語的な影響を与え得るほどに存在感を示していた可能性が高い.
Martinet は,以上の証拠と,イギリス海峡の両側に位置する主要な地点間の距離を考慮して,次のような仮説を提案している.
On est tenté de poser Boulogne, au nom celtique, comme le passage normal des deux vagues d'envahisseurs celtes qui ont passé la Manche avant notre ère. La distance de Boulogne au cap Dungeness est indiquée en pensant aux Saxons qui ont peuple le Wessex. / Notre hypothèse n'exclut pas un passage plus direct par la mer du Nord, mais le Jutland est à plus de 500 km des côtes anglaises. (10)
紀元前に2波にわたってイギリス海峡を横断したケルト人の侵略者たちの通常の経路としては,ケルト語の地名を帯びたブローニュを想定したいところだ.サクソン人がウェセックスに植民したことを考えれば,ブローニュからダンジネス岬の距離は適切だろう.この仮説は,北海を越えるより直接の経路を排除するわけではないが,ユットランドはイギリスの海岸から500キロ以上も離れているのだ.
サクソン人が,かつてケルト人の開拓したブローニュから海に出るというルートを利用し,イギリス側ではウェセックス植民に都合のよい,かつ航海距離の短いダンジネス岬に着岸した,というわけだ.従来より,アングロサクソン人は航海に長けていたはずだとの前提から,[2010-05-21-1]の記事「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」の地図で概略的に示したように,北海をはるばる越えてのルートが想定されてきたが,地名分布に支えられた Martinet の仮説も魅力的だ.
(Martinet, p. 9 の地図を掲載)
・ Martinet, André. "Comment les Anglo-Saxons ont-ils accédé à la Grande-Bretagne?" La Linguistique 32.2 (1996): 3--10.
英語の歴史がその話者集団の歴史を色濃く反映しているのと同じように,英語の人名の歴史もまた,その持ち主の集団の歴史を映し出す.人名や地名の語形・語源研究は固有名詞学 (onomastics) と呼ばれるが,今回は特に人名の onomastics に関する充実したサイトを紹介したい.英語人名だけでなく世界中の人名の情報が詰まったサイトである.
サイトは大きく first name についての Behind the Name: The Etymology and History of First Names と surname についての Behind the Name: The Etymology and History of Surnames に分かれており,名前の概要,姓名の検索,近年の人気の名前,歴代イングランド君主の名前など,様々な情報が収められている.
- Behind the Name: The Etymology and History of First Names: 「名」のサイト.
- General Information of English Names: まずこれを読んで概要を.
- List of English First Names and Meanings: 「名」のブラウズと検索.
- Most Popular First Names: 国別,年代別の「名」のランキング.
- Kings and Queens of England Chronologically: 歴代イングランド君主の「名」の一覧.
- Behind the Name: The Etymology and History of Surnames 「姓」のサイト.
- List of English Surnames and Origins: 「姓」のブラウズと検索.
- Most Popular Surnames: 国別,年代別の「姓」のランキング.
特に,こちらの概要ページの "History" は必読である.記述をまとめると以下のようになる.
・ 古英語期の名前は原則として,広くはゲルマン語語彙,狭くは古英語語彙に由来するものだった.これは,古英語語彙の97%がゲルマン系の本来語であることに対応する([2010-05-16-1]の記事「語彙数とゲルマン語彙比率で古英語と現代英語の語彙を比較する」を参照).通常2要素から成り (dithematic) ,戦いに関する語彙が多く用いられた.
・ 8世紀後半より,古ノルド語名が英語に入り始めた.-son をつける父称 (patronym) の習慣は古ノルド語に由来する.
・ 1066年のノルマン・コンクェスト後の数十年の間に大部分の古英語名が Richard, William, Henry などの Norman French 名に置き換えられた.非常に多数が現代英語に継承されている.現代に残る古英語名は Edward, Alfred, Audrey, Edith など少数である.
・ いくつかの古英語名はまた大陸ゲルマン語の同根語に置き換えられた.Robert, Roger など.
・ 13世紀以降,教会の推奨で John, Matthew, Mary, Peter, Luke, Stephen, Paul, Mark などの Christian name がつけられるようになる.洗礼名は聖人の名前に基づくものであり,古代ギリシア語,ラテン語,ヘブライ語起源が多かった.
・ 16世紀,Henry VIII による宗教改革によりカトリック的な聖人の名前は流行らなくなり,代わって聖書に基づく名前が多くつけられるようになった.
・ 特に,17世紀の清教徒たちは Adam, Eve, Daniel, David, Isaac, Michael, Noah, Rachel, Rebecca などの旧約聖書に基づく名前や,Prudence, Charity, Constance, Temperance などの美徳を表わす名詞を採用した.後者の多くは18世紀に廃れたが,現在 Hope, Faith, Joy などが残っている.
・ 17世紀より姓を名として用いる習慣が現われた.この習慣はイギリスよりもアメリカで強い.
・ 18, 19世紀には古い名前が復活し,Miranda, Jessica, Wendy などの文学的名前や Hector, Diana, Arthur などの神話的名前が導入された.
・ Victoria 朝には Ruby など通常の語彙を用いる名前が導入された.
・ 現代の名前は創作名,既存の名前の異綴り (Sidney に代わって Sydney など),他言語からの借用語などにも彩られている.
英語の名前に関しては,[2010-12-08-1]の記事「last name はいつから義務的になったか」や[2009-09-14-1]の記事「オランダ・フラマン語から借用した指小辞 -kin」も参照.
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