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terminology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-09-03 05:00

2026-08-20 Thu

#6324. アウトリーチ活動とは何か? --- 英単語 outreach の発展 [helkatsu][outreach][semantic_change][conversion][compound][terminology][japanese]

 近年,学術界をはじめ教育,福祉,医療,文化活動などの現場で「アウトリーチ(活動)」というカタカナ語を頻繁に耳にするようになった.私自身も英語史を広める活動,「hel活」 (helkatsu) を展開するなかで,このアウトリーチという概念を強く意識するようになってきた.本ブログでも「#6161. 『中央評論』の特集「アウトリーチ活動の多様な見方」を読んで」 ([2026-03-10-1]) などで関連する話題に関心を寄せてきた.
 しかし,そもそも英単語の outreach とは何なのか.今回はこの単語の意味変化 (semantic_change) と品詞転換 (conversion) の歴史を振り返ってみたい.
 動詞としての outreach の歴史は古く,古英語期にまで遡る.接頭辞 out- に基本動詞 reach が結合したもので,きわめて古英語らしい典型的な複合語である.原義としては「渡す,提示する」から始まり,そこから「超える,延伸する」,さらには「手を届かせる,手を伸ばす」へと発展し,比喩的に「手を差し伸べる」という語義を獲得するに至った.なお,後期近代英語期には,句動詞としての reach out も同様に比喩的な語義での使用が見られるようになる.
 一方,品詞転換によって生まれた名詞としての用法は,動詞に比べるとぐんと新しいものである.OED (Oxford English Dictionary) によると,名詞用法の初例は1835年のことだ.名詞としての語義の広がりも動詞の発展経路とおおむね軌を一にしており,使われ始めた当初から「届く範囲」という物理的な原義から,比喩的な「手を差し伸べること」に至るまで,幅広い意味で用いられていた.
 私たちの「アウトリーチ」に近い語義に接近するのは,19世紀末のことである.1899年以降,「ある組織が,支援や教育のために,あるいは自らの目的を広く伝えるために,それを知らない人々に向けて働きかけをする活動」という特殊な語義を発展させてきた.OED より該当の定義を引いてみよう.

2.b. spec. The activity of an organization in making contact and fostering relations with people unconnected with it, esp. for the purpose of support or education and for increasing awareness of the organization's aims or message; the fact or extent of this activity. (1899--)


 そして,20世紀中に,福祉・医療・介護・心理・教育といった幅広い分野でこの「手を差し伸べる」の語義が定着し,形容詞的にも用いられ,outreach programs, a YMCA outreach worker, outreach effort, outreach activity などの表現が現われるようになった.
 日本語におけるカタカナ語の「アウトリーチ(活動)」は,英語において後発的に発達したこの名詞・形容詞の語義を近年になって借用したものである.その語感としては,『現代用語の基礎知識2008』の解説が参考になる.そこでは「福祉サービスで規定や通常の限度を超えて手を差しのべようとする活動」と説明されている.アウトリーチ活動の本質は自主性や積極性にあるということだろう.
 言ってみれば「誰からも明示的に求められてもいないのに,自ら枠を飛び越えて行なう活動」であり,見方によっては一種の「お節介」に近い性格をもっているとも考えられる.あるいは,利潤を追求しない企業家精神,とも言えるかもしれない.
 閉じた領域にとどまらず,まだその価値を知らない人々に向けて積極的に手を伸ばしていくことこそが,現在使われている「アウトリーチ」という語の核心なのだろうと解釈している.意味変化の歴史や用法の広がりをたどってみると,単語の輪郭がより鮮明に見えてくる.

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2026-08-14 Fri

#6318. grapholinguistics [writing][graphology][linguistics][linguistics_of_writing][linguistics_of_speech][grapholinguistics][terminology]

 昨日の記事「#6317. 「書記言語学」の構想」 ([2026-08-13-1]) で,「書記言語学」なるものを構想(という以前の段階なので「妄想」?)してみたところ,記事を読まれた静岡大学名誉教授の服部義弘先生より,ウィーン大学の Dimitrios Meletis 氏という若手研究者のことを教えていただいた.grapholinguistics (まさに「書記言語学」に相当するもの!)を提唱されている研究者である.
 Meletis 氏の業績一覧を見る限り,機能主義的な観点から書記言語の理論を構築することに関心があるようだが,射程はもっと広く,書き言葉の社会言語学・語用論にも注目している.また,認知心理学的な観点からの人間の識字能力に関する洞察や,書記言語のもつ規範性などの社会的価値に関するトピックの言及もある.全体として書記言語を総合的に扱う領域を念頭においているようだ.私にとって新たな読書課題ができた(服部先生,ありがとうございます).
 書き言葉 (writing) に関する研究書は,これまでもたくさん出版されてきたのは事実である.タイトル検索をすれば,たくさんの書物が挙がってくる.しかし,近代言語学の歴史において,それを1つの学問領域として構築しようという動きが強まったことはなかったのではないか.
 今回,沃野が耕され始めていることを教えてくださった服部先生には,2018年に刊行された『歴史言語学』(朝倉書店)の出版企画でもたいへんにお世話になった.そのなかで私は2章分を担当させていただいたが,そのうちの1つが第5章「書記体系の変遷」で,日英語の書記体系の歴史を対照させながら執筆させていただいたのだった.hellog の過去記事「#3283. 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]が出版されました」 ([2018-04-23-1]) も参照されたい.


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 ・ 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.
 ・ 堀田 隆一 「第5章 書記体系の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3.朝倉書店,2018年.89--105頁.

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2026-08-13 Thu

#6317. 「書記言語学」の構想 [writing][graphology][linguistics][double_articulation}[kanji][terminology][sign][semiotics][linguistics_of_writing][linguistics_of_speech][grapholinguistics]

 5ヶ月前のことを思い出しながら,そのときに残したメモを頼りに,この記事を書いている.3月7日,オーストラリアの熱帯都市ケアンズに滞在していたときに,熱暑の早朝にふと1つのアイディアが降ってきた.「書記言語学」 (linguistics_of_writing) の構想だ.
 現代言語学の分野は,音声言語を第一とする規範に縛られてきた.文献に残されている英語を研究対象とする英語文献学に携わっている者として,書き言葉に肩入れしがちな立場にあることは自認しつつ,あえてこのことを主張したい.従来の言語学はおおかた「音声言語学」 (linguistics_of_speech) だったのではないか,という趣旨での問い直しである.
 文字論や書き言葉の研究はもちろん存在してきたけれども,書記言語は音声言語の補助的手段にすぎないと位置づけられるのが一般的だったといってよい.しかし,書記言語は書記言語のまま,独立した体系として理解される必要があるのではないか.「文字論」などという従来の呼び方だけでは,その本質的な射程をカバーしきれない.「書記言語学」くらいの大きなラベルが必要なのではないか,と考えている.
 音声言語が調音生理と聴覚に依存するのに対し,書記言語は運筆原理と視覚に依存する.もちろん表音文字体系など,書記言語には音声言語に依存し制約される側面もあるけれども,原則として独立したシステムと考えたい.たとえば音声言語に対応しない黙字や各種記号,正書法上の視覚的配慮が存在するし,書記言語独自の方言(地域・時代の書き方の変異)も存在する.書記言語にあっては,音声言語における音素の弁別素性に対応するものは何なのだろうか.ストロークに対応するのかもしれないが,もっと精妙なもののような気もする.
 書記言語学を構想する上で大きな問題となるのが,言語の根本的属性とされる2重分節 (double_articulation) の問題だ.従来の言語学(=音声言語学)では,意味をもたない音素(第2分節)が結合して,意味をもつ形態素(第1分節)を構成するという2重分節の原理が,人類の言語の普遍的な特徴であるとされてきた.しかし,これはアルファベット文化圏に慣れ親しんだ,表音文字主導の「音声言語学」的な見方にすぎないのではないか.
 表形態素・表語的な性質を強くもつ文字体系である漢字を例に考えてみよう.象形文字や指事文字には,音素に相当するような「意味をもたない要素」が現われていないように思われる.つまり,そこでは2重分節の原理が当てはまらない.一方で,会意文字や形声文字を考えると,部首などの構成要素が機能している.会意文字における部首は音素ならぬ「意味素」として第2の分節に相当し,形声文字では一方の部首が意味素,他方の部首が音素的要素として機能している.
 このようにみてくると,言語において2重分節は必須ではないものの,第2の分節要素を導入することで組み合わせの応用可能性が爆発的に広がる,ほどの捉え方が実態に即していると言えそうだ.表語(あるいは表形態素)を基礎に据えた書記言語学や文字論のアプローチは,言語学の未来のために希望がありそうだと感じている.
 なぜ文字の発明が人類史において偉大とされるのか.それは単に「声を記録する道具」を作り出したからではなく,音声言語とは異なる原理で動く「人類の第2の言語」のあり方を発明したからではないか,と私は考え始めている.
 日本の書き言葉の歴史における漢文使用を diglossia(二言語併用)の比喩で捉え直すことや,現代日本語における和語・漢語・外来語の文字種使い分けをコードスイッチングとして解釈する視点も,書記言語学の枠組みから迫れるように思う.今後,音声言語学の呪縛から脱却し,独立した体系としての「書記言語学」を構想していきたいと考えている.ケアンズにて突如として湧いた妄想的なアイディアを,5ヶ月ほど冷ましてから公開した次第.

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2026-08-05 Wed

#6309. 文法範疇から「3単現」を再考する --- 『なぜさんたんげん』カウントダウン企画の振り返り (1) [3ps][nazesantangen][twitter][nazesantangen_countdown_3sp][terminology][subjunctive][category][person][number][tense]

 昨日の記事 ([2026-08-04-1]) で予告した通り,本日より5回にわたり,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)の刊行に寄せて行なったカウントダウン企画の論点を整理し,「3単現の s」に関する連載を始めます.
 シリーズ第1回となる今回は,私たちが学校文法で当たり前のように習う「3単現」という文法用語そのものを再考してみたいと思います.

1. 問うべきは「なぜ3単現以外には何もつけないのか?」

 英語を学ぶ際,誰もが一度は「なぜ動詞にわざわざ 3単現の s をつけるのか」という疑問を抱きます.しかし,英語史の視点から見れば,実は問うべき真の問いは反転します.本来問うべきは,「なぜ3単現以外には何もつけないのか?」なのです.
 古英語の時代には,1人称にも2人称にも異なる動詞の屈折語尾が付きました.歴史の過程でそれらの語尾が次々と消失していくなかで,「3人称・単数・現在」の屈折のみが語尾を保持し続けた --- 英語史においては,この問いの立て方の転換こそが重要となります.

2. 正しくは「3単現直の s」

 ところで,私たちが親しんでいる「3人称・単数・現在」という条件指定ですが,厳密な文法記述としては実はこれでは足りません.例えば,次の文を見てみましょう.

God save the king. (国王万歳)


 この文の主語は God であり「3人称・単数」です.時制も「現在」を指していると捉えてよいですが,動詞に -s はついていません.なぜなら,この文は仮定法だからです.
 つまり,-s が現れるためには,さらに「直説法であること」という条件を付け加えなければなりません.文法用語として正確を期すならば,「3人称・単数・現在・直説法の s」,略して「3単現直の s」と呼ぶべきなのです.「3単現の s」は語呂も通りも良いものの,厳密に検証すると抜け落ちている条件があることに気づかされます.

3. なぜ仮定法では s をつけないのか?

 では,なぜ仮定法では 3単現であっても -s がつかないのでしょうか.歴史を古英語期に遡ってみましょう.
 古英語において,仮定法(接続法とも呼ばれました)の屈折体系は直説法とは大きく異なっていました.仮定法では時制にかかわらず,単数であれば一律に -e 語尾が,複数であれば -e(n) 語尾がつきました.例えば,古英語の leornian (現代英語の learn)の活用を見ると,3人称・単数・現在・仮定法の形は leornie であり,もともと -s (正確には当時の屈折語尾を構成した þ)が出る余地はなかったのです.
 この古英語の仮定法単数語尾 -e が後に音変化によって消失した結果,現代英語の仮定法現在形は「動詞の原形と同じ形」として残ることになりました.

4. そもそも「人称」「数」「時制」とは何か

 3単現を構成する「人称」「数」「時制」といった要素は,言語学では「文法範疇」 (category) と呼ばれます.これらは各言語固有の「こだわり」,あるいはその言語が世界をどのように切り取っているかという世界観を反映する装置です.

【 人称 (person) 】
 英語の用語で人称は単に person ですから,概念としては「どんな人か」という単純な区分にすぎません.英語の体系は,「私」箱(1人称),「あなた」箱(2人称),そしてそれ以外の「その他」箱(3人称)という3つの領域で世界を分類しています.

【 数 (number) 】
 英語は数えられるモノの名詞について,単数か複数かを文法的に明示することを強制する言語です.名詞において単数・複数を区別する文化は理解しやすいとしても,その名詞の都合が動詞の語尾(屈折)にまで波及し,主語の数に応じて動詞の形を変えさせるという点は,英語の「数」への並々ならぬこだわりを示しています.

【 時制 (tense) 】
 「時制」とは,現実の「時間」そのものではなく,時間関係を言語化するための文法上の制度です.現代英語の動詞の屈折体系において,動詞自体の形態変化で直接表現できる時制は「現在形」と「過去形」の2つしかありません.未来の事態を表す際には willbe going to などの助動詞や迂言的表現を添える必要がある点など,英語の時制体系は非対称の構造を持っています.

 このように,普段何気なく暗記させられる「3単現の s」も,文法範疇の視点や英語史の通時的視点から解きほぐしていくことで,英語という言語がもつ体系性と変化のダイナミズムが見えてきます.
 明日は,助動詞 can に s がつかない理由や,says/has/does などの不規則な音変化,そして名詞の複数形 -s との関係性について考察していきます.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-05-03 Sun

#6215. ScotsScottish English の区別について [scots][scots_engish][sociolinguistics][terminology][variety][world_englishes]

 「#6207. 英語における Scots 「スコッツ語」の初例」 ([2026-04-25-1]) でも少し話題にしたが,標題の ScotsScottish English の用語・概念上の区別は,ややこしい.この区別を理解するには,まずこれらの変種の歴史を学ばなければならないからだ.
 言語学的な特徴に照らして2つの変種が異なるものである,と議論することはある程度可能だが,互いに類似している点や影響を与え合ってきた経緯もあり,必ずしもきれいに区別できるわけではない.むしろ,各変種が置かれてきた社会言語学的文脈を参照して,つまり時代性,標準の有無,話し言葉と書き言葉のメディアの違い,話者のアイデンティティなどの要因を参照して,2つの変種が区別されているものとして捉えるほうが,適切だろう.
 MaClure (23) は,スコットランドにおける英語を概説する文章の冒頭で,この2つの区分を次のように導入している.

Insular West Germanic speech was first established in what is now Scotland in the sixth century. Two phases are clearly identifiable in its history: the first includes the emergence of a distinctively Scottish form, developing independently of the Northern dialect of England though like it derived from Northumbrian Old English, and its attainment to the rank of official language in an autonomous nation-state; and the second, the gradual adoption in Scotland of a written, and subsequently also a spoken, form approximating to those of the English metropolis, with consequent loss of status of the previously existing Scottish tongue. In the course of the linguistic history of Scotland, that is, first one and then two speech forms, both descended from Old English, have been used within the national boundaries. For convenience we will choose to designate the first Scots and the second Scottish English. This situation has no exact parallel in the English-speaking world.


 最後に指摘されている通り,古英語に由来する2つの変種が,現代まで並び立って使い続けられている歴史をもつ地域は,世界を探してもほかにない.世界諸英語 (world_englishes) を視野に入れた歴史を考えるとき,スコットランドは特殊な事例を提供してくれるのである.

 ・ McClure, J. Derrick. "English in Scotland." The Cambridge History of the English Language. Vol. 5. Ed. Burchfield R. Cambridge: CUP, 1994. 23--93.

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2026-03-07 Sat

#6158. Powell による文字の分類 [grammatology][terminology][writing][alphabet][phoneme]


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 上記は,Powell の文字論の本の扉に大きく図示されている "THE CATEGORIES OF WRITING" である.文字の分類の1つの考え方だ.この分類の解説は,p. 52 にまとめられている.

1 Semasiography: Writing in which the signs are not attached to necessary forms of speech. Sematograms, the elements of semasiography, may be arranged in any conventional way.
2 Lexigoraphy: Writing in which the signs are attached to necessary forms of speech. They are (usually) arranged in a linear sequence corresponding to sounds in speech. There are two divisions.
   (i) Logography: the signs represent words (but not sounds), significant segments of speech. A logography would be a system in which logograms, the elements of logography, predominate (sometimes logograms do not follow the same order as words in speech).
   (ii) Phonography: the signs represent sounds. Such sounds are ordinarily nonsignificant elements of speech. There are two kinds of phonographic systems.
     ・ Syllabography: the signs represent syllables, the smallest apprehensible elements of speech. A Syllabography would be a system in which syllabograms predominate.
     ・ Alphabetic writing: the signs represent elements of speech smaller than syllables, although such sounds do not exist in nature as separable elements of speech. In alphabetic writing letters predominate.


 最後のアルファベット(単音文字)の解説において「単音などという単位は自然には存在しないのだが」というくだりにハッとさせられた.「単音文字」というよりは「音素文字」と捉えたほうがよいのだろう.音素 (phoneme) は人間による抽象化の産物であり,それを文字に当てたというところに,アルファベットの最大の言語学的な意義と価値があるのだと思う.

 ・ Powell, Barry B. Writing: Theory and History of the Technology of Civilization. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.

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2026-02-24 Tue

#6147. 言語学用語としての register の初例 [register][terminology][sociolinguistics][oed][youtube][inohota][sociolinguistics]

 昨日の記事「#6146. いのほたで register を紹介しました」 ([2026-02-23-1]) に引き続き,register という用語について.言語学用語としての register の初例を調べるべく,OED に当たってみた.語義 II.9.c がそれに当たり,初出年は1956年とある.この語義の定義と例文をすべて OED から引用する.

II.9.c. Linguistics. In language: a variety or level of usage, esp. as determined by social context and characterized by the range of vocabulary, pronunciation, syntax, etc., used by a speaker or writer in particular circumstances.

   1956 He will on different occasions speak (or write) differently according to what may roughly be described as different social situations: he will use a number of distinct 'registers'. (T. B. W. Reid in Archivum Linguisticum vol. 8 32)
   1962 Interference may..vary according to the social role of the speaker in any given case. This is what the Edinburgh School has called register. (Canadian Journal of Linguistics vol. 7 69)
   1966 Varieties of English distinguished by use in relation to social context are called registers. (G. N. Leech, English in Advertising vii. 68)
   1971 A novel, then, can be seen as an amalgam of registers within a wider register of literary endeavour. (P. Young in J. Spencer, English Language in West Africa 173)
   1972 Chaucer must therefore have used what was, for the London of his time, a more formal, possibly more archaic, register. (Notes & Queries December 446/2)
   1977 They are aware..of the idea of 'varieties' of English, and they probably know the term 'register'---a variety related to a particular use of the language, a particular subject or occupation. (P. Strevens, New Orientations in Teaching of English x. 119)
   1991 An unexpected bonus is a bilingual section on letter-writing in both formal and informal registers. (Times Educational Supplement 15 March 49/2)
   2004 This marker is very often used by Catalan speakers in colloquial register when the speech formality is low. (M. González, Pragmatic Markers in Oral Narr. vi. 224)


 初例の典拠となっている Reid の論文に当たってみると,次のようにあった (32) .

Even if we possessed a separate repertory of utterances for each of the groups of speakers into which the French speech community must be divided, we should still be unable to establish a single linguistic system for any one group. For the linguistic behaviour of a given individual is by no means uniform; placed in what appear to be linguistically identical conditions, he will on different occasions speak (or write) differently according to what may roughly be described as different social situations: he will use a number of distinct "registers"[note 2]


note 2: cf. the levels of diction, indicated in the Report of the Commission set up by the International Council for Philosophy and Humanistic Studies quoted by Professor J. R. Firth in Transactions of the Philological Society. 1951, p.81.


 Reid (1901--81) はオックスフォード大学の教授で,ロマンス語学を専攻していた.引用注にもあるとおり,アイディア自体は Firth の "levels of diction" に遡るが,それを Reid が "register" と名付けなおしたということのようだ.その70年後に「いのほた」でも主題として取り上げられるほどに重要な用語に成長したことになる(cf. 「#404. エンレジスタメント(enregisterment・レジスター化)とレジスターーコンビニ敬語,ファミレス敬語を社会言語学から見ると?」).

 ・ Reid, T. B. W. "Linguistics, Structuralism and Philology." Archivum Linguisticum 8.1 (1956): 28--37.

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2026-02-23 Mon

#6146. いのほたで register を紹介しました [register][enregisterment][terminology][youtube][inohota][sociolinguistics]



 2月17日に配信された「いのほた言語学チャンネル」の回は,「#404. エンレジスタメント(enregisterment・レジスター化)とレジスターーコンビニ敬語,ファミレス敬語を社会言語学から見ると?」と題して,enregisterment という用語・概念を導入しました.
 その基本にあるのが register なのですが,動画でも議論している通り,広く便利な用語・概念である一方,論者によってニュアンスが異なるという点も見逃せません.本ブログでは,Halliday 的な観点からの「#839. register」 ([2011-08-14-1]) を紹介したことがありますが,今回は McArthur の用語辞典からこの用語の定義・解説を改めて読んでみましょう (859) .

REGISTER [1950s in this sense; 14c in origin, through French from Medieval Latin registrum a list or catalogue]. In sociolinguistics and stylistics, a variety of language defined according to social use, such as scientific, formal, religious, and journalistic. The term has, however, been used variously in different theoretical approaches, some giving it a broad definition (moving in the direction of variety in its most general sense), others narrowing it to certain aspects of language in social use (such as occupational varieties only). The term was first given broad currency by the British linguist Michael Halliday, who drew a contrast between varieties of language defined according to the characteristics f the user (dialects) and those defined according to the characteristics of the situation (registers). Registers were then subclassified into three domains: field of discourse, referring to the subject matter of the variety, such as science or advertising; mode of discourse, referring to the choice between speech and writing, and the choice of format; and manner of discourse, referring to the social relations between the participants, as shown by variations in formality. . . .


 基本的には Halliday の流れを汲んだ register の定義となっていますね.以前の記事では「1970年代以降に広まった用語と概念」と紹介しましたが,register のこの語義自体が1950年代からあったというのは初耳でした.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

Referrer (Inside): [2026-02-24-1]

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2026-02-01 Sun

#6124. 「すべての文字は黙字である」 --- silent letter という用語を使うべきか [silent_letter][terminology][spelling][orthography][metaphor][conceptual_metaphor][medium][writing]

 本ブログでは doubt の <b> や sign の <g> などを話題にするときに黙字 (silent_letter) という用語を当たり前のように使ってきた.分かりやすく便利な用語である.しかし,これは不適格かつ不正確な用語であるとして,使用しない綴字論者もいる.
 この用語のどこに問題があるのかを探っていきたいと思うのだが,まずは Carney の "2.6.5 Auxiliary, inert and empty letters" と題する節の冒頭を引くところから始めたい (40) .

All letters are 'silent', but some are more silent than others

Opinions are sharply divided on whether to allow the use of 'silent letters' in a description of English orthography so as to cater for spellings such as the <b> in debt, doubt. If we are to find our way in this controversy, we clearly need to clarify our terminology. The term 'silent letters' is an extension of a metaphor commonly used in the teaching of reading, where letters are often supposed to 'speak' to the reader. When a simple vowel letter, as the <a> in latent has its long value /eɪ/, 'the vowel says its name'. A commonly-used classroom rule for reading vowel digraphs, such as <oa>, <ea>, is: 'when two vowels go walking, it's the first that does the talking' --- a comment on the greater phonetic transparency of the first element in a complex graphic unit. But, as Albrow (1972: 11) pints out, all letters are silent: 'the sounds are not written and the symbols are not sounded; the two media are presented as parallel to each other'. He suggests the term 'dummy letters' for letters with no direct phonetic counterpart but, as far as possible, tries to do without them in his analysis.


 Albrow の言い分は「文字は発声しない,ゆえにすべての文字は定義上黙字だ」ということだろう.これはある種のジョークのようにも聞こえるが,この「文字は発声する」という概念メタファーが,表音文字であるアルファベットという文字種を使う者の心に深く刻み込まれていることを理解しておくことは,実は極めて重要である.というのは,文字や綴字の議論をするに当たっては,発音と文字,話し言葉と書き言葉が,原則として異なるメディアであることを強く認識しておく必要があるからだ.両メディアは,言語使用者が様々な方法で互いに連絡させ合おうとしているのは事実だ.しかし,それは本質的に異なる2つのメディアを関わらせようという営みなのであり,常にうまく行くわけではない.むしろ,対応関係がうまく行かないのが当然だという立場からスタートしてみるほうが有益かもしれないのだ.
 silent letter という用語については,今後も考え続けていく.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Albrow, K.H. The English Writing System: Notes toward a Description. London: Longman, 1972.

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2025-09-17 Wed

#5987. 『最新英語学・言語学用語辞典』(開拓社,2015年)の第7章 --- 英語史用語集 [dictionary][review][notice][linguistics][terminology][glossary][gvs]


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 毎朝配信している Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,先日コメントをいただいた.英語史に関する用語辞典というのはあるのでしょうか,という質問だ.その答えは,あるといえばあるし,ないといえばない,ということになる.
 まず「ない」という側面から.英語史は比較的専門性の高い,いわばニッチな領域である.ある分野の用語辞典が編纂・出版されるには,それなりの需要が見込まれなければならない.しかし,その点ではニッチな英語史という分野の用語辞典は,残念ながら独立した書籍として出版されたものはない.
 次に「ある」という側面について.英語史専門の用語辞典は上記の通り存在しないものの,大は小を兼ねるという通り,1つ上のカテゴリーである「英語学」の用語辞典であれば,日本語でも英語でもいくつか出版されている.それらは,実質的に英語史用語辞典の役割を果たしてくれているといってよい.英語史の主要な術語は,たいてい英語学(用語)辞典に立項されているからだ.代表的な英語学辞典としては,「#5830. 英語史概説書等の書誌(2025度版)」 ([2025-04-13-1]) の下部の「英語史・英語学の参考図書」を参照されたい.
 また,英語で書かれたものでは,より英語史に近い分野,すなわち歴史言語学 (historical_linguistics) に特化した Campbell, Lyle and Mauricio J. Mixco, eds. A Glossary of Historical Linguistics (Salt Lake City: U of Utah P, 2007) という便利な小辞典がある.さらに,英語史概説書の巻末には用語集 (glossary) が付されていることも多く,有用だ.
 さて,今回特におすすめしたいのが,『最新英語学・言語学用語辞典』(開拓社,2015年)である.この辞典の制作には,私自身も執筆者の1人として関わっている.
 この用語辞典の最大の特徴は,英語学・言語学の広範な分野を網羅しつつ,分野ごとに章を立てて用語を解説している点にある.全11章の構成は以下の通り.



 第1章 音声学・音韻論
 第2章 形態論
 第3章 統語論
 第4章 意味論
 第5章 語用論
 第6章 社会言語学
 第7章 英語史・歴史言語学
 第8章 心理言語学
 第9章 認知言語学
 第10章 応用言語学
 第11章 コーパス言語学・辞書学




 第7章「英語史・歴史言語学」に注目されたい.この章 (pp. 238--70) は,それ自体が独立した英語史用語辞典として利用できる.例えば,英語史学習者が必ず出会う用語の1つ,大母音推移 (gvs) の項目を引いてみよう.

Great Vowel Shift (大母音推移) 後期中英語から初期近代英語期に,強勢をもつすべての長母音に起こった大規模な音変化をいう.生起する環境の如何を問わず,非高母音は上昇し,高母音は二重母音化した.高母音の二重母音化と狭中母音の上昇のいずれが先に起こったかについて意見が分かれる.そもそも大規模な連鎖であったかどうかについても異論が出されている.→ DRAG CHAIN; PUSH CHAIN


 限られた字数のなかで,現象の定義,時代,対象,内容,そして学術的論点までが簡潔にまとめられている.このように,英語史のキーワードが約30ページにわたって解説されており,初学者から専門家まで,幅広い読者のニーズに応える内容となっている.
 英語史の学び方は人それぞれだが,信頼できる用語辞典を手元に置いておくことは,学習の羅針盤として大いに役立つはずだ.今回ご紹介した『最新英語学・言語学用語辞典』は,その候補として,自信をもって推薦できる1冊である.

 ・ 中野 弘三・服部 義弘・小野 隆啓・西原 哲雄(監修) 『最新英語学・言語学用語辞典』 開拓社,2015年.

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2025-08-08 Fri

#5947. 日本語において接続詞とは? (3) --- 語形成 [japanese][conjunction][terminology][word_formation][morphology][etymology][greek][pos][adverb]

 一昨日,昨日と,日本語の接続詞 (subjunctive) について『日本語文法大辞典』を参照してきた.今回は,同文献より日本語の接続詞の語形成について概観する (387--88) .

接続詞を語構成的に見ると,他の品詞から転成したもの(動詞=及び,副詞=また・なお,助詞=が・けれども),動詞や名詞や指示語に助詞が下接して慣用的に固定したもの(すると・しかるに・しかし・さて・ゆえに・ところで)などである.古代語でも,本来的な接続詞といえる語はほとんどない.つまり,もともと日本語では接続詞が発達しなかったけれども,時代がさがるにつれて,事柄相互を情緒的に続ける表現を避けて,分析的に対象化した素材を論理的に関連づけようとす傾向が生まれ,この過程で,種々の後の転成や連語化によって接続詞をつくり出したと考えられる.


 日本語の接続詞には,もともとの純然たる接続詞はなく,あくまで他品詞語から派生したものが多いということだ.この事情は,英語の接続詞においても同じである.最も基本的な接続詞といってよい and ですら,印欧祖語で "in" を意味する *en に由来するというのだから,示唆に富む.
 西洋の伝統において,接続詞は古典ギリシア語文法において独立した品詞として認められており,歴史を通じて最も盤石な品詞の1つといってよい.しかし,その起源となると,意外と他の品詞の語などから派生的に生じてきたものにすぎないことも分かってくる.改めて接続詞は不思議でおもしろい.
 日本語文法の話題に戻るが,接続詞を認めずに,それを副詞の一種としてとらえる文法論もあったことは銘記しておきたい.例えば,山田孝雄や松下大三郎は,接続詞という品詞を認めていない.しかし,学校文法では,接続詞は「それ自体の意味内容が稀薄で,先行する表現の意味を受けて後行する表現に関係づけるという,副詞に無い機能が認められる」等の理由から,独立した品詞として認めている(同著,p. 387).

 ・ 山口 明穂・秋本 守英(編) 『日本語文法大辞典』 明治書院,2001年.

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2025-08-07 Thu

#5946. 日本語において接続詞とは? (2) --- 種類と分類 [japanese][conjunction][terminology][pos][semantics]

 昨日の記事 ([2025-08-06-1]) では,日本語における接続詞 (conjunction) について統語論的,形式的な観点から見たが,今回は同じ『日本語文法大辞典』 (387) に依拠して,意味論的な観点から考えてみよう.

 意味上から見た接続詞の機能,つまり先行表現の内容をどのようなものとして受けて,後行する表現にどのように関係づけながら接続するかについては,種々の説が出されているが,次のように類別するのが穏当であろう.
 まず,前件を条件としその帰結として後件が成立すると関係づける「条件接続」と,条件と帰結の関係がなく,単に前件に加えて後件を接続する「列叙接続」とに大別する.「条件接続」は,前件の論理的必然としての帰結,つまり前件の事柄の自然な脈略に沿うありようが後件であることを示す「順態接続」(順接)と,前件の論理的必然としての帰結に矛盾して,つまり自然な脈略のありように逆らって後件が成立することを表す「逆態接続」(逆接)と,前件の成立したことが前提となって後件の成立することを表す「前提接続」とに分けられる.そして,これらのそれぞれは,前件の事態を既に成立したとして受けることを表す「確定条件」と,前件の事態が仮に成立したとして後件に続ける「仮定条件」とに分けられる.「列叙接続」には,二つ以上の事柄を,空間的に並べて述べる「並列的接続」と時間的順序にならべれ述べる「累加」,二つ以上の事柄の中から一つを選択することを示す「選択」,先行する事柄を別のことばで述べる「同列」,先行する事柄の理由などを述べる「解説」,先行する事柄とは視点を変えて述べることを示す「転換」がある.これらをまとめて示し,語例と文例とあげると,次のようである.
〔A〕条件接続 
 (1)順態接続(順接)
  (ア)確定条件 だから,それで,従って,ゆえに
  (イ)仮定条件 それなら,さらば,だとしたら
 (2)逆態接続(逆接)
  (ア)確定条件 しかし,けれども,だが,しかるに,されど,されども,ところが
  (イ)仮定条件 だとしても
 (3)前提接続
  (ア)確定条件 そこで,すると
  (イ)仮定条件 だとすると
〔B〕列叙接続 
 (1)順態接続(順接) 従って,ゆえに
 (2)逆態接続(逆接) ところが,でも,そのくせ,にもかかわらず
 (3)前提接続 と,で
 (4)並列 及び,並びに,また,かつ
 (5)累加 そして,ついで,それから,更に
 (6)選択 それとも,あるいは,もしくは,又は
 (7)同列 つまり,すなわち,例えば,要するに,要は
 (8)解説 なぜなら,というのは,但し,もっとも
 (9)転換 さて,ところで,では


 以上は日本語の接続詞の意味論的分類になるが,これをそのまま英語の接続詞に応用するとどのようになるだろうか.効果的な分類につながるのか,あるいは事情が異なるのか.やや異なるようにも思われるが,参考にはなるだろう.

 ・ 山口 明穂・秋本 守英(編) 『日本語文法大辞典』 明治書院,2001年.

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2025-08-06 Wed

#5945. 日本語において接続詞とは? (1) --- 定義 [japanese][conjunction][terminology][pos][syntax]

 ここのところ接続詞 (conjunction) に関心を寄せている.通言語的に接続詞を定義することがどこまで可能なのかは分からないのだが,少なくとも個別言語において「接続詞」に相当する品詞や語類を定義しようという試みはなされてきた.
 とはいえ,例えば日本語における接続詞をどのように扱うかについてすら,理論的な課題を含み,問題含みである.それほど扱いにくい話題でもあるのだが,今回はひとまず『日本語文法大辞典』 (387) より記述の一部を引用し,議論の出発点としたい.

 接続詞 (せつぞくし) 品詞の一つ.自立語で活用がなく,単独で接続語となる.先行する表現(前件)の内容を受けて後行する表現(後件)に関係づけながら接続する.接続詞が接続するのは,文中に位置する場合,単語と単語,文節(又は連文節)と文節(又は連文節),文頭に位置する場合,文と文,段落と段落が基本である.例①単語と単語「山またを越える」②文節と文節「筆であるいはペンで書く」③文と文「風はやんだ.けれども雨はまだ降っている」④段落と段落とを接続する場合,接続詞は後の段落の冒頭に用いられる.これらを基本的な用法として,前文全体を受けて後文全体に続けたり,前文を受けて後の段落に続けたりするなど,種々のヴァリエーションがある.なお,これらのうち,接続詞によって続けられる文は,接続詞の前でも後でも,一文からなる段落と考えるべきかもしれない.


 接続詞が何を接続するかという点について,語(あるいは,ここに記されてはいないが接辞などの語未満の形態素であることもあり得るだろう)という小さな形態素的単位から,段落という大きな談話的単位にまで及ぶということは,意外と盲点だった.接続詞は,どんな単位でも接続できるという特徴があるらしいのだ.
 日本語にせよ,英語を含む西洋語にせよ,伝統的な品詞区分というものがあるが,そのなかでも接続詞はかなり特殊な部類に入るように思えてきた.2つ以上の言語要素をつなぐ機能語であるだけに「隅に置けない」品詞だと再認識しつつある.

 ・ 山口 明穂・秋本 守英(編) 『日本語文法大辞典』 明治書院,2001年.

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2025-08-05 Tue

#5944. 非従位化 --- 従位節の独立・昇格 [insubordination][syntax][conjunction][subordinator][language_change][terminology][may][pragmatics][speech_act][word_order][inversion]

 接続詞 (conjunction) の歴史を調べるのに Fischer et al. を参照していたところ,非従位化 (insubordination) という興味深い過程を知った (187) .従位接続詞に導かれる従位節が,主節を伴わずに独立して用いられる場合がある.

Sometimes clauses with the formal markings of subordination are used without a proper main clause --- which is what Evans (2007) refers to as 'insubordination'.

(70) O that I were a Gloue vpon that hand (Shakespeare, Romeo & Juliet, II.2)

It is typical for such insubordinate clauses to come with specialized functions --- the insubordinate that-clause in (70) expresses a wish. It is still an unresolved issue, however, exactly how insubordinate clauses originate and develop, and how formal and functional change interact in this.


 これは,May the force be with you! のような祈願の の用法の発達の議論にも関わる重要な洞察だ.may の構文は,従位接続詞を伴わず倒置という手段により従位節を作っているかのようで,その点では少々変わったタイプではあるものの,祈願という「特殊化した機能」をもつ点で類似している.非従位化の事例間の比較研究はあまりなされていないようだが,発達の仕方には共通点があるのかもしれない.関連して「#5937. 従位接続詞以外に従位節であることを標示する手段は?」 ([2025-07-29-1]) も参照.

 ・ Fischer, Olga, Hendrik De Smet, and Wim van der Wurff. A Brief History of English Syntax. Cambridge: CUP, 2017.

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2025-06-28 Sat

#5906. 支柱語 (prop word) の「支柱」とは? [prop_word][pos][pronoun][personal_pronoun][syntax][terminology][existential_sentence][do-periphrasis][cleft_sentence]

 My family is a large one. のような文における one のような語は支柱語 (prop_word) と呼ばれる.「支柱」という発想は,それがないと構文として立ちゆかない統語上の必須項ということだろうか.一方で,このような one は前述の可算名詞を指示こそすれ,それ自体の意味内容は空っぽといえるので,この点では「支柱」の比喩はあまり有効でないように思われる.
 言語学用語としての prop とは何だろうか.Crystal の用語辞典で prop を引いてみた.

prop (adj.) A term used in some GRAMMATICAL descriptions to refer to a meaningless ELEMENT introduced into a structure to ensure its GRAMMATICALITY, e.g. the it in it's a lovely day. Such words are also referred to as EMPTY, because they lack any SEMANTICALLY independent MEANING. SUBSTITUTE WORDS, which refer back to a previously occurring element of structure, are also often called prop words, e.g. one or do in he's found one, he does, etc.


 統語意味論的な観点からは,上記のように substitute word (代用語)と呼ぶのは分かりやすい.
 ただし,意味のない形式上の it などをも指して "prop" と呼ぶとなれば,"empty", "expletive", "dummy" などの形容詞にも近しいだろう.実際 McArthur の用語辞典によれば,"prop" の項目を引くと "dummy" へ参照を促される.その第4項目を引用する(ただし,ここでは特に one は例として挙げられてない).

DUMMY [16c: from dumb and -y]. . . . (4) In grammar, an item that has little or no meaning but fills an obligatory position: prop it, which functions as subject with expressions of time (It's late), distance (It's a long way to Tipperary), and weather (It's raining); anticipatory it, which functions as subject (It's a pity that you're not here) or object (I find it hard to understand what's meant) when the subject or object of a clause is moved to a later position in the sentence, and is the subject in cleft sentences (It was Peter who had an accident); existential there, which functions as subject in an existential sentence (There's nobody at the door); the dummy auxiliary do, which is introduced, in the absence of any other auxiliary, to form questions (Do you know them?).


 意味論的には空疎だが統語論上は必須とされる要素,これが prop の最大公約数的な性質といってよいだろうか.one の他の特殊用法については,以下の記事も参照.

 ・ 「#1815. 不定代名詞 one の用法はフランス語の影響か?」 ([2014-04-16-1])
 ・ 「#5170. 3人称単数代名詞の総称的用法」 ([2023-06-23-1])

 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2025-06-21 Sat

#5899. 「クレイフィッシュ語」? --- ヘルメイトさんたちによる用語開発 [folk_etymology][disguised_compound][contamination][analogy][language_change][lexicology][paramorphonic_attraction][haplology][terminology][helmate][helvillian][helville][helkatsu]

 heldio/helwa のコアリスナーでヘルメイトの mozhi gengo さんが,今朝ご自身の note で「#233. 跳ねてウィンクする鳥? lapwing」を公開されている.そこで crayfish 「ザリガニ」や lapwing 「ケリ(鳥)」という英単語のメイキングに隠されている語形変化を指摘しつつ,このような語を「クレイフィッシュ語」と名付けている.民間語源 (folk_etymology) や偽装複合語 (disguised_compound) の1種といってよい形態音韻変化だが,その結果として生まれた語を「クレイフィッシュ語」と名づけているのが,とても親しみやすい.
 mozhi gengo さんによる今回の記事と提案は,同じくヘルメイトの lacolaco さんによる最新の note 記事「英語語源辞典通読ノート C (crayfish-creature)」から洞察を得たものと想像される.crayfishcray とは何か,と思うかもしれない.しかし,この語に関しては,cray が意味不明なだけでなく,fish も魚とは無関係なのだ.この語は古フランス語の crevice に由来し,中英語で crevise として借用されたが,語幹の一部である vise の方言的異形 vish が契機となって,最終的に fish と誤って解釈されるに至ったということだ.音形の似た別の既存語に引っ張られて,crevicecrayfish にまで化けてしまったということになる.ちなみに,究極的には語源が crab 「カニ」にも関わるというからおもしろい.
 何よりも lacolaco さんの話題提供,そして mozhi gengo さんの洞察という流れがたまらない.ヘルメイトさんたちが話題をつなげて,「クレイフィッシュ語」というタームの創出に至ったわけだ.
 改めてお2人の着眼点の鋭さに注目したい.ここで議論されている現象は,私が以前 hellog で取り上げた「#5840. 「類音牽引」 --- クワノミ,*クワツマメ,クワツバメ,ツバメ」 ([2025-04-23-1]) と同じものである.そこでは,日本語学における「類音牽引」という用語を使ったのだった.これは「ある語が既存の語の音に引きずられて変化する現象」を指す.先の記事では,富山県の方言における「桑の実」を表す語が,「ツバメ」という既存の語に引っ張られて「クワツバメ」へ,さらには「ツバメ」へと変化していく過程を紹介した.
 この「類音牽引」は,英語の専門用語としては直接対応するものがなく,先の記事では Fertig より confusion of similar-sounding words (61) といった説明的な句を引用するにとどまった.英語の用語不足には不満が残っていたのである.そんな折に,別のヘルメイトのり~みんさんが,note にて 「類音牽引って例えば paromophonic attraction みたいな造語は可能なのだろうか?」〔ママ〕とつぶやかれたのである.これまた見事なタームの造語である."paramorphophonic attraction" から pho の重音脱落 (haplology) を経て,"paramorphonic attraction" と持ってきたわけだ.
 ヘルメイトの皆さんは,異能集団である.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2025-06-19 Thu

#5897. 『英語語源辞典』と『英語語源ハンドブック』の関係 [hee][kdee][kenkyusha][etymology][dictionary][lexicography][notice][review][terminology][kenkyusha]

寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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 昨日,共著者の一人として執筆に加わった『英語語源ハンドブック』が,研究社より刊行されました.長年 hellog で探求してきた英語史,とりわけ英単語の語源のおもしろさを,より多くの方に届けたいという思いが,関係者の方々の強力なイニシアチブのもとで,1冊の本として結実しました.
 本書の射程をどこに置くかという議論のなかで,企画当初より常に念頭にあったのは,寺澤芳雄先生が編集主幹を務められた『英語語源辞典』(研究社)です.この辞典は,hellog でも繰り返し述べて推してきた通り,「日本の英語系出版史上の金字塔」です(「#5553. 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)の新装版 --- 「いのほた言語学チャンネル」でも紹介しました」 ([2024-07-10-1]) を参照).この辞典は英単語の語源に関心をもつすべての学習者・研究者にとって必携のレファレンスであり,その学術的価値は計り知れません.
 では,この偉大な『英語語源辞典』がすでに手に入るときに,なぜ新たに『英語語源ハンドブック』を企画したのでしょうか.それは,両者の役割が明確に異なるからです.『辞典』が個々の単語の歴史を深く掘り下げる「縦の探求」のためのツールだとすれば,『ハンドブック』は英語語源の世界全体を広く見渡し,英語史の観点から様々な話題のあいだの関連性を知る「横の探求」を促すためのツールといえます.
 hellog や heldio では,語源学 (etymology) のおもしろさと難しさについてに語ってきました.断片的な証拠を集め,推理を重ねて単語の真相に迫っていく知的な興奮は,語源探求の醍醐味です.しかし,そのためには,いくつかの基本的な探求手法や思考フレームワークを知っておく必要があります.例えば,借用 (borrowing),文法化 (grammaticalisation),メトニミー (metonymy) などの現象・用語の理解は,語源を考える上で土台となる知識です.
 『英語語源ハンドブック』は,この土台作りに貢献する本です.個々の単語の語源解説に終始するのではなく,これらの英語史・語源学の基本的な概念を,具体的な事例と結びつけながら平易に解説することを目指しています.これは,日々 hellog の記事や heldio の音声配信で実践しようと試みているアプローチ,すなわち,専門的な知見をいかに噛み砕き,その魅力を伝えるかという私の関心の方向にも完全に合致します.
 一方で『英語語源辞典』は,そのようにして基本的な知識と見方を身につけた探求者が,個別の事例,すなわち個々の単語の語源に深く分け入っていく際に,最も信頼できるレファレンスとなります.『ハンドブック』で全体像をつかんだ後,自らの知的好奇心に導かれて『辞典』の項目を引けば,そこに記された情報の価値や記述の深さを,より実感をもって味わうことができるはずです.
 このように,『ハンドブック』と『辞典』は,互いに競合するものではなく,むしろ相互に補完し合い,探求者を語源のより深い世界へと導くための理想的な連携関係にあります.『ハンドブック』をきっかけとして語源のおもしろさに目覚め,さらに『辞典』を相棒として本格的な探求の旅に出る --- そのように両書を活用していっていただければと思います.両書とも必携です!
 私がこの2年ほど続けてきた『英語語源辞典』の推し活については,「#5856. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2025年5月9日版」 ([2025-05-09-1]) およびそこからリンクを張った記事をお読みください.

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

Referrer (Inside): [2025-07-02-1] [2025-06-24-1]

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2025-06-14 Sat

#5892. 制限的付加詞 (restrictive adjunct) と非制限的付加詞 (non-restrictive adjunct) [adjective][restrictive_adjunct][relative_pronoun][semantics][youtube][yurugengogakuradio][voicy][heldio][notice][terminology]

 「ゆる言語学ラジオ」の最新回「不毛な対立を避けるために,英文法を学べ!」で関係詞の制限用法と非制限用法が話題とされている.こちらを受けて,先日 heldio でも「#1474. ゆる言語学ラジオの「カタルシス英文法」で関係詞の制限用法と非制限用法が話題になっています」と題してお話しした.
 関係詞に限らず,単純な形容詞を含め,名詞を修飾する付加詞 (adjunct) には,機能的に大きく分けて2つの種類がある.制限的付加詞 (restrictive adjunct) と非制限的付加詞 (non-restrictive adjunct) だ.Jespersen (108) より,まず前者についての説明を読んでみよう.

It will be our task now to inquire into the function of adjuncts: for what purpose or purposes are adjuncts added to primary words?
   Various classes of adjuncts may here be distinguished.
   The most important of these undoubtedly is the one composed of what may be called restrictive or qualifying adjuncts: their function is to restrict the primary, to limit the number of objects to which it may be applied; in other words, to specialize or define it. Thus red in a red rose restricts the applicability of the word rose to one particular sub-class of the whole class of roses, it specializes and defines the rose of which I am speaking by excluding white and yellow roses; and so in most other instances: Napoleon the third | a new book | Icelandic peasants | a poor widow, etc.


 続けて,後者について (111--12) .

Next we come to non-restrictive adjuncts as in my dear little Ann! As the adjuncts here are used not to tell which among several Anns I am speaking of (or to), but simply to characterize her, they may be termed ornamental ("epitheta ornantia") or from another point of view parenthetical adjuncts. Their use is generally of an emotional or even sentimental, though not always complimentary, character, while restrictive adjuncts are purely intellectual. They are very often added to proper names: Rare Ben Johnson | Beautiful Evelyn Hope is dead (Browning) | poor, hearty, honest, little Miss La Creevy (Dickens) | dear, dirty Dublin | le bon Diew. In this extremely sagacious little man, this alone defines, the other adjuncts merely describe parenthetically, but in he is an extremely sagacious man the adjunct is restrictive.


 ただし,付加詞の機能として2種類が区別されるとはいっても,それが形式的に区別されているかといえば,必ずしもそうではないことに注意が必要である.

 ・ Jespersen, O. The Philosophy of Grammar. London: Allen and Unwin, 1924.

Referrer (Inside): [2025-09-27-1] [2025-06-15-1]

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2025-06-02 Mon

#5880. 時制の定義 [tense][category][preterite][future][verb][terminology][aspect][mood][inflection][periphrasis]

 昨日の記事「#5879. 時制の一致を考える」 ([2025-06-01-1]) で時制 (tense) に関連する話題を取り上げた.また,かつて「#3693. 言語における時制とは何か?」 ([2019-06-07-1]) で時制について考えたこともある.
 改めて時制とは何なのだろうか.手元にある International Encyclopedia of LinguisticsTENSE を引いてみた.定義をみてみよう (223--24) .

          Definition
   Tense refers to the grammatical expression of the time of the situation described in the proposition, relative to some other time. This other time may be the moment of speech: for example, the past and future designate time before and after the moment of speech, respectively, while the perfect (or anterior) designates past time which is relevant to the moment of speech. Or it may be some other reference time, as in the past perfect, which signals a time prior to another time in the past---as in I had just stepped into the shower when the phone rang, where the first clause signals a time prior to that of the second. The most commonly occurring tenses are past and future; however, perfect tenses are also common, as are combinations of perfect with past and future. Some languages show degrees of remoteness in the past or future: distinctions are possible between past situations of today vs. yesterday, yesterday vs. preceding days, or recent time vs. remote time. Analogous distinctions are possible in the future but not as common. Tense is expressed by inflections, by particles, or by auxiliaries in construction with the verb; it is rarely expressed by derivational morphology . . . .


 では,その時制がいかにして言語上に表現されるのか (224) .

          Expression
   According to the traditional view, tense is a verbal inflectional category expressing time; however, the possibility of tense being realized also by periphrastic constructions is usually acknowledged. There are several difficulties in applying this view to actual languages. First, the semantics of many inflectional categories contain aspectual and modal as well as temporal elements: e.g., perfective aspect in many languages is restricted to past time reference, and future tenses almost always have modal overtones. Furthermore, if a language has several tense distinctions, they often have rather different modes of expression. An example is the past/non-past and future/non-future oppositions of English; the former is inflectional, and the latter periphrastic . . . .
   An alternative is to view "tense" as a cover term for those inflectional categories whose semantics is dominated by temporal notions. In inflectional systems, then, the most common tense oppositions are past/non-past and future/non-future. Less common, but by no means rare, are distinctions pertaining to degrees of remoteness, e.g. recent and remote past. At least four or five such degrees can be distinguished in certain systems, but the main remoteness distinction is generally between 'today' and 'not today'.
   Tense in finite verb forms normally expresses the relation between the time referred to in the sentence and the time of the speech act (absolute tense); in non-finite verb forms, and sometimes in finite subordinate clauses, tense is relative, expressing the relation between the time expressed by the verb and that of a higher clause. Categories such as perfects and pluperfects, which signal that a situation is viewed from the perspective of a later point in time, have a debated status; they are usually expressed periphrastically, but can also occur in inflectional systems.


 機能の側面から迫るのか,あるいは形式から見るのか,視点によっても時制という範疇の捉え方は変わってくるだろう.また,通言語的に,類型論的に関連現象を整理していくことも必要だろう.

 ・ Frawley, William J., ed. International Encyclopedia of Linguistics. 2nd ed. Vol. 4. Oxford: Oxford UP, 2003.

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2025-06-01 Sun

#5879. 時制の一致を考える [tense][sequence_of_tenses][backshift][terminology][agreement][aspect][category][preterite][latin]

 本ブログでは,これまで「時制の一致」の問題について考える機会がなかった.英文法におけるこの著名な話題について,今後,歴史的な視点も含めつつ,さまざまに考えていきたいと思う.
 別名「時制の照応」 (sequence_of_tenses),あるいは特に時制を過去方向にずらすケースでは「後方転移」 (backshift) と呼ばれることもある.
 手近にある英語学用語辞典のいくつかに当たってみたが,歴史的な観点から考察を加えているものはない.まずは Bussmann の解説を読んで,hellog における考察の狼煙としたい.

sequence of tenses
Fixed order of tenses in complex sentences. This 'relative' use of tenses is strictly regulated in Latin. If the actions depicted in the main and relative clauses are simultaneous, the tense o the dependent clause depends on the tense in the independent clause: present in the main clauses requires present subjunctive in the dependent Cal's; preterite or past perfect in the main clause requires perfect subjunctive in the dependent clause. This strict ordering also occurs in English, such as in conditional sentences: If I knew the answer I wouldn't ask vs If I had known the answerer I wouldn't have asked.


 「時制の一致」については今後ゆっくり検討していきたいが,時制 (tense) という文法範疇 (category) そのものについては議論してきた.とりわけ次の記事を参照されたい.

 ・ 「#2317. 英語における未来時制の発達」 ([2015-08-31-1])
 ・ 「#2747. Reichenbach の時制・相の理論」 ([2016-11-03-1])
 ・ 「#3692. 英語には過去時制と非過去時制の2つしかない!?」 ([2019-06-06-1])
 ・ 「#3693. 言語における時制とは何か?」 ([2019-06-07-1])
 ・ 「#3718. 英語に未来時制がないと考える理由」 ([2019-07-02-1])
 ・ 「#4523. 時制 --- 屈折語尾の衰退をくぐりぬけて生き残った動詞のカテゴリー」 ([2021-09-14-1])
 ・ 「#5159. 英語史を通じて時制はいかに表現されてきたか」 ([2023-06-12-1])

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2026-01-01-1] [2025-06-02-1]

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