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etymology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-06-26 09:02

2024-06-22 Sat

#5535. 接頭辞 en- と in- の揺れを Chancery English でみる [prefix][latin][french][loan_word][chancery_standard][etymology][spelling]

 英語には ensure/insureencase/incase, entitle/intitle, embed/imbed, enclose/inclose, enwrap/inwrap など,接頭辞が en- と in- で揺れるペアがある.意味や用法が異なる場合もあれば,形態上の英米差を示す場合もあるし,単なる異形・異綴字である場合もある.それもそのはず,この接頭辞の起源は一つなのだ.ラテン語 in- に由来するフランス語の形態が en- なのである.
 この2つの異形態は,歴史的には,現代以上に揺れていたようだ.目下私が注目している15世紀の Chancery English では,相当の揺れがみられる.Fisher et al. (33) を引用する.

   Since prefixes were unaccented, they were subject to the same kinds of irregularities and inconsistencies as the inflectional endings. Adding to the confusion was the lack of standardization of often competing Latin- and French-derived prefixes such as in, im, en, and em.
   Many words with prefixes beginning in in/im in MnE were written with en/em prefixes in Chancery documents. One explanation for this is the continuing French influence; another is the drift towards e as the regular vowel in unaccented syllables, noted above. But the relative strength of each explanation is difficult to determine. In any case, en prefixes where MnE requires in are sometimes preferred in Chancery writing. There are, for example, 33 instances of entent(e) as opposed to one of intent, and that in an ecclesiastical petition (153.8) where the Latin in would be expected. Likewise we have endenture and its plurals 25 times and indenture/indentures only six times, five of them in non-Chancery items (238 and 239). Informed is found once (as a past participle, 146.9), while variants of the infinitive enforme are the clear preference, with 27 listings. Other cases where the en form is preferred include enheritaunce and endented. Prefixes beginning with im in MdE show the same kind of variation, with preferences for empechment and enprisoned.


 Chancery English は現代標準綴字の萌芽を示すと評価されることが多いが,このようにいまだ揺れは相当に大きい.今回は en-/in- をもつ語彙に限ってみたが,他の一般の語彙についても事情はおおよそ同じだ.英語史における綴字標準化の道のりは長かったのである.今回取り上げた接頭辞と関連して,以下の記事も要参照.

 ・ 「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1])
 ・ 「#4241. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-12-06-1])
 ・ 「#3510. 接頭辞 en- をもつ動詞は品詞転換の仲間?」 ([2018-12-06-1])

 ・ Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.

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2024-06-17 Mon

#5530. -(i)tude [word_formation][etymology][latin][french][suffix][noun][adjective][morphology][kdee]



 一昨日の heldio で「#1111. latitude と longitude,どっちがどっち? --- コトバのマイ盲点」を配信した.latitude (緯度)と longitude (経度)の区別が付きにくいこと,それでいえば日本語の「緯度」と「経度」だって区別しにくいことなどを話題にした.コメント欄では数々の暗記法がリスナーさんから寄せられてきているので,混乱している方は必読である.
 今回は両語に現われる接尾辞に注目したい.『英語語源辞典』(寺澤芳雄(編集主幹),研究社,1997年)によると,接尾辞 -tude の語源は次の通り.

-tude suf. ラテン語形形容詞・過去分詞について性質・状態を表わす抽象名詞を造る;通例 -i- を伴って -itude となる:gratittude, solitude. ◆□F -tude // L -tūdin-, -tūdō


 この接尾辞をもつ英単語は,基本的にはフランス語経由で,あるいはフランス語的な形態として取り込まれている.比較的よくお目にかかるものとしては altitude (高度),amplitude (広さ;振幅),aptitude (適正),attitude (態度),certitude (確信)などが挙げられる.,fortitude (不屈の精神),gratitude (感謝),ineptitude (不適当),magnitude (大きさ),multitude (多数),servitude (隷属),solicitude (気遣い),solitude (孤独)などが挙げられる.いずれも連結母音を含んで -itude となり,この語尾だけで2音節を要するため,単語全体もいきおい長くなり,寄せ付けがたい雰囲気を醸すことになる.この堅苦しさは,フランス語のそれというよりはラテン語のそれに相当するといってよい.
 OED の -tude SUFFIX の意味・用法欄も見ておこう.

Occurring in many words derived from Latin either directly, as altitude, hebetude, latitude, longitude, magnitude, or through French, as amplitude, aptitude, attitude, consuetude, fortitude, habitude, plenitude, solitude, etc., or formed (in French or English) on Latin analogies, as debilitude, decrepitude, exactitude, or occasionally irregularly, as dispiritude, torpitude.


 それぞれの(もっと短い)類義語と比較して,-(i)tude 語の寄せ付けがたい語感を味わうのもおもしろいかもしれない.

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2024-06-15 Sat

#5528. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の春期3回が終了しました [asacul][asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][girmms_law]

 1週間前の6月8日(土)17:30--19:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室のシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第3回「英単語と「グリムの法則」」を開講しました.
 4月より毎月1回,全12回のシリーズとして開始しましたが,最初のクール(3回分)が無事に済んだことになります.この春期クールには,40名を超える申込みをいただきました(私の講座としては歴代最多!).対面あるいはオンラインで出席していただいた方々,後日に動画で視聴した方々,ご参加ありがとうございました.毎回参加者より興味深い質問やコメントを多く寄せていただき,終了間際に短時間に回答するだけではもったいないほどなのですが,このように積極的に関わっていただき嬉しく思います.7月からの夏期クールもよろしくお願い致します.
 改めて全12回のシリーズの予定を確認しておきます.

 1. 英語語源辞典を楽しむ(2024年4月27日)
 2. 英語語彙の歴史を概観する(2024年5月18日)
 3. 英単語と「グリムの法則」(2024年6月8日)
 4. 現代の英語に残る古英語の痕跡(2024年7月27日)
 5. 英語,ラテン語と出会う(2024年8月24日)
 6. 英語,ヴァイキングの言語と交わる(2024年9月28日)
 7. 英語,フランス語に侵される(日付未定)
 8. 英語,オランダ語と交流する(日付未定)
 9. 英語,ラテン・ギリシア語に憧れる(日付未定)
 10. 英語,世界の諸言語と接触する(日付未定)
 11. 英語史からみる現代の新語(日付未定)
 12. 勘違いから生まれた英単語(日付未定)

 最初の3回は,シリーズ全体のなかでは,英語語源辞典と英語語彙史の導入の機会となりました.次の夏期クールの3回(第4,5,6回)は,いよいよ英語史本体に入ります.主に古英語期の言語接触に注目することになります.ゲルマン語派に属する英語が,いかにゲルマン語の語彙を保ち続け,いかに大陸の威信言語であるラテン語を受容し,いかにヴァイキングの侵攻に伴い,彼らの母語である古ノルド語の影響を被ったか.激動の英語語彙史の幕開きです.
 7月以降も毎月1回指定の土曜日の夕方 17:30--19:00 に開講していく予定です.すでにお申し込みが可能になっていますので,こちらより詳細をご確認いただければ.春期クールから続いているシリーズではありますが,各クール,各回とも独立性の高い講座ですので,夏期クールより初めてのご参加であっても,まったく問題ありません.


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 このシリーズ講座については,本ブログや Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも予習・復習に資するコンテンツをお届けしてきましたし,これからもお届けしていく予定です.なお,お手元に寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)が置いてあると,ますますエキサイティングに受講できる講座となっています.「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1]))と「#5522. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年6月9日版」 ([2024-06-09-1]) もご参照ください.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.


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2024-06-09 Sun

#5522. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年6月9日版 [link][etymology][review][voicy][heldio][helwa][lexicography][kdee][notice][khelf][hellog][asacul][notice]


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.



 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)の推し活を始めて11ヶ月ほどが経ちました.KDEE (= The Kenkyusha Dictionary of English Etymology) と略称される本辞典は日本の英語史研究の宝といってよい頼もしい存在です.本ブログでも kdee のタグのついた記事にて様々に取り上げてきました.
 KDEE 推しにとって,とても嬉しいお知らせがあります.来たる6月19日に新装版が刊行されることになっているのです.研究社のサイトよりこちらのページをご覧ください.本体価格10,000円(+税)で現行版よりも値上がりしていますが,諸般の事情によるものと漏れ聞いています.それでも,この辞典がさらに普及していくために,今回の新装版刊行はおおいに歓迎すべき出来事だと思います.まだお持ちでない方は,ぜひ現行版あるいは新装版で入手され,英語史や英語語彙の学びに最大限に活用していただければ.
 さて,前回の私の『英語語源辞典』推し活報告は,3ヶ月ほど前のことでした(cf. 「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1])).この3ヶ月の間にも推し活を続けてきましたので,前回の続きとして時系列で報告したいと思います.

 ・ 2024年3月15日 helwa のオンラインオフ会にて「『英語語源辞典』を漫然と読む/飲む」企画の第2回が開催される.
 ・ 2024年4月27日 朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の開講がスタートする.1年かけて全12回の講座を毎月指定土曜日に開催予定.初回は「英語語源辞典を楽しむ」.本シリーズ講座では KDEE 以外の英語語源辞典も参照するがメインは KDEE.なお,2018年にも『英語語源辞典』に注目しつつ朝カルで英語語源講座を開いたことがある(cf. 「#3381. 講座「歴史から学ぶ英単語の語源」」 ([2018-07-30-1])).
 ・ 2024年5月14日 heldio/helwa リスナーの lacolaco さんによる note 上の「英語語源辞典通読ノート」にて,A の項目が踏破された旨が報告される.偉業.
 ・ 2024年5月18日 朝カルのシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第2回「英語語彙の歴史を概観する」が開講される.
 ・ 2024年6月6日 heldio にて「#1101. 『英語語源辞典』凡例読みシリーズ with 藤原郁弥さん&青木輝さん」が配信される.
 ・ 2024年6月8日 朝カルのシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第3回「英単語と「グリムの法則」」が開講される.

 皆さんも,どのような形であれ,ぜひ KDEE 推し活にご参加いただければ!

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2024-06-08 Sat

#5521. simpleton, singleton の -ton [suffix][onomastics][personal_name][name_project][by-name][toponymy][etymology][helkatsu][analogy][link][rifaraji]

 「#5461. この4月,皆さんの「hel活」がスゴいことになっています」 ([2024-04-09-1]) や「#5484. heldio/helwa リスナーの皆さんの「hel活」をご紹介」 ([2024-05-02-1]) などでご紹介した活動的なhel活実践者の1人 lacolaco さんが,note 上で「英語語源辞典通読ノート」という企画を展開されています.『英語語源辞典』(研究社,1997年)を通読しようという遠大なプロジェクトで,目下Aの項を終えてBの項へと足を踏み入れています.特におもしろい語源の単語がピックアップされており,とても勉強になります.
 lacolaco さんは,プログラマーを本業としており,Spotify/Apple Podcast/YouTube にて「リファラジ --- リファクタリングとして生きるラジオ」をお相手の方とともに定期的に配信されています.私自身は言語処理のために少々プログラムを書く程度のアマチュアプログラマーにすぎませんが,「リファクタリング」は興味をそそられる主題です.
 リファラジ最新回は6月4日配信の「#25 GoF③ Singleton パターンには2つの価値が混ざっている」です.プログラムのデザインパターンとしての「Singleton」が話題となっていますが,配信の9:00辺りで,そもそも singleton という英単語は何を意味するのか,とりわけ -ton の部分は何なのかという問いが発せられています.



 『英語語源辞典』には見出しが立っていなかったので,他の辞典等に当たってみました.ここでは OED より singleton NOUN2 の項目をみてみましょう.
 

1. Cards. In whist or bridge: The only card of a suit in a hand. Also attributive.
   1876 If..the lead is a singleton..it may be right to put on the ace. (A. Campbell-Walker, Correct Card Gloss. p. vi)


 初出は1876年で,トランプの「1枚札」が原義となっています.その後「ひとりもの」「1個のもの」「単集合(1つの構成要素しかもたない集合)」などの語義が現われています.語源欄には次のようにあります.

single adj. + -ton (in surnames with that ending). Compare simpleton n.


 問題の語尾の -ton については,OED は,姓にみられる接尾辞 -ton だろうと見ているようです.ここで simpleton を参照せよとあります.確かに singlesimple は究極的には同語根に遡るラテン借用語ですし,関連はありそうです.simpleton の語源欄をみてみましょう.

Probably < simple adj. + -ton (in surnames with that ending), probably originally as a (humorous) surname for a generic character (compare quot. 1639 and note at sense 1).


 地名に付される接尾辞 -ton の転用という趣旨のようです.この -ton は,古英語 tūn (囲われた土地)に由来し,現代の town に連なります (exx. Hampton, Newton, Padington, Princeton, Wellington) .ちなみに,地名に由来する姓は一般にみられるものです.
 この simpleton の初例は1639年となっており,まぬけな人物をからかって呼ぶニックネームとして使われています.

1. An unintelligent, ignorant, or gullible person; a fool.
   In quot. 1639 as a humorous surname for a character who gathers medicinal herbs and is also characterized as stupid, and so with punning reference to simple n. B.II.4a.

      1639 Now Good-man Simpleton... I see you are troubled with the Simples, you had not need to goe a simpling every yeare as you doe, God knowes you have so little wit already. (J. Taylor, Divers Crabtree Lectures 10)


 以上をまとめれば,simpleton という造語は単純まぬけの「単山さん」といったノリでしょうか.言葉遊びともいうべきこの語形成が,後に simple と同根関連語の single にも類推的に適用され,singleton という語ができあがったと想像されます.
 地名と関連して town, -ton については「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1]),「#1395. up and down」 ([2013-02-20-1]),「#5304. 地名 Grimston は古ノルド語と古英語の混成語ではない!?」 ([2023-11-04-1]) を参照.
 なお,やはりhel活実践者であるり~みんさんも,リファラジからの singlton 語源問題について,こちらの note コメントで反応されています.

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2024-06-07 Fri

#5520. -ester 語尾をもつ中英語の職業名ベースの姓 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][suffix][etymology][word_formation][agentive_suffix][latin][productivity]

  標記の行為者接尾辞 (agentive_suffix) について「#2188. spinster, youngster などにみられる接尾辞 -ster」 ([2015-04-24-1]) や「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1]) で取り上げてきた.-ster はもともと女性の行為者接尾辞だったといわれるが,実はこれについては論争もあり,問題含みの形態素である (Fransson 42--45) .
  中英語の職業名ベースの姓を広範に調査した Fransson もこの件について議論している.問題の核心に迫るには,まずは記述が重要であるとして,Fransson はイングランド各地より -ester 語尾をもつ42個の姓を集めた.列挙すると以下の通り (41) .

Bakestere, Blacchester, Blakestere, Bleykestere, Blextere, Bredmongestere, Brewstere, Kallemakestere, Capiestere, Cardestere, Kembestere, Combestere, Corklittster, Cuppestere, Deyster, Dreyster, Fullester, Girdelester, Heustere, Huckestere, Litester, Lokyestere, Madster, Maltestere, Mongestere, Quernestere, Ridelestere, Ropestere, Scherestere, Semester, Sewstere, Sheppestere, Sopestere, Tannestere, Thakestere, Touestre, Upholdestere, Wadester, Webbester, Whelster, Wyggester, Wollestere


 もちろん議論の本番はこれからなのだが,これらの姓の分布が地域によって異なっていたり,名前の主が男性か女性かの比率も異なっているという事情があるようだ.単なる語源や語形成の話しにとどまらず,職業と姓と性という社会的な次元のトピックへと展開していきそうな匂いがプンプンしてきた.深みにはまらないように注意しなければと自身をいさめつつ.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-29 Wed

#5511. 6月8日(土)の朝カル新シリーズ講座第3回「英単語と「グリムの法則」」のご案内 [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][link][lexicology][vocabulary][grimms_law][verners_law][consonant][stress][phonetics][loan_word][french][latin][voicy][heldio]

 新年度より,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.
 これまでに第1回「語源辞典でたどる英語史」を4月27日(土)に,第2回「英語語彙の歴史を概観する」を5月8日(土)に開講しましたが,それぞれ驚くほど多くの方にご参加いただき盛会となりました.ご関心をお寄せいただき,たいへん嬉しく思います.
 第3回「英単語と「グリムの法則」」は来週末,6月8日(土)の 17:30--1900 に開講されます.シリーズを通じて,対面・オンラインによるハイブリッド形式での開講となり,講義後の1週間の「見逃し配信」サービスもご利用可能です.シリーズ講座ではありますが,各回はおおむね独立していますし,「復習」が必要な部分は補いますので,シリーズ途中からの参加でも問題ありません.ご関心のある方は,こちらよりお申し込みください.


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 2回かけてのイントロを終え,次回第3回は,いよいよ英語語彙史の各論に入っていきます.今回のキーワードはグリムの法則 (grimms_law) です.この著名な音規則 (sound law) を理解することで,英語語彙史のある魅力的な側面に気づく機会が増すでしょう.グリムの法則の英語語彙史上の意義は,思いのほか長大で深遠です.英語語彙学習に役立つことはもちろん,印欧語族の他言語の語彙への関心も湧いてくるだろうと思います.『英語語源辞典』(研究社,1997年)をはじめとする語源辞典や,一般の英語辞典も含め,その使い方や読み方が確実に変わってくるはずです.
 講座ではグリムの法則の関わる多くの語源辞典で引き,記述を読み解きながら,実践的に同法則の理解を深めていく予定です.どんな単語が取り上げられるかを予想しつつ講座に臨んでいただけますと,ますます楽しくなるはずです.『英語語源辞典』をお持ちの方は,巻末の「語源学解説」の 3.4.1. Grimm の法則,および 3.4.2. Verner の法則 を読んで予習しておくことをお薦めします.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.



 参考までに,本シリーズに関する hellog の過去記事へのリンクを以下に張っておきます.第3回講座も,多くの皆さんのご参加をお待ちしております.

 ・ 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
 ・ 「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1])
 ・ 「#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内」 ([2024-05-04-1])

(以下,後記:2024/05/30(Thu))



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2024-05-22 Wed

#5504. 接尾辞 -iveOED で読む [etymology][suffix][french][oed][loan_word][oed][adjective][word_formation][noun][conversion][productivity]

 「#2032. 形容詞語尾 -ive」 ([2014-11-19-1]) で取り上げた形容詞(およびさらに派生的に名詞)を作る接尾辞 (suffix) に再び注目したい.OED-ive (SUFFIX) の "Meaning & use" をじっくり読んでみよう.

Forming adjectives (and nouns). Formerly also -if, -ife; < French -if, feminine -ive (= Italian, Spanish -ivo):--- Latin īv-us, a suffix added to the participial stem of verbs, as in act-īvus active, pass-īvus passive, nātīv-us of inborn kind; sometimes to the present stem, as cad-īvus falling, and to nouns as tempest-īvus seasonable. Few of these words came down in Old French, e.g. naïf, naïve:--- Latin nātīv-um; but the suffix is largely used in the modern Romanic languages, and in English, to adapt Latin words in -īvus, or form words on Latin analogies, with the sense 'having a tendency to, having the nature, character, or quality of, given to (some action)'. The meaning differs from that of participial adjectives in -ing, -ant, -ent, in implying a permanent or habitual quality or tendency: cf. acting adj., active adj., attracting adj., attractive adj., coherent adj., cohesive adj., consequent adj., consecutive adj. From their derivation, the great majority of these end in -sive and -tive, and of these about one half in -ative suffix, which tends consequently to become a living suffix, as in talk-ative, etc. A few are formed immediately on the verb stem, esp. where this ends in s (c) or t, thus easily passing muster among those formed on the participial stem; such are amusive, coercive, conducive, crescive, forcive, piercive, adaptive, adoptive, denotive, humective; a few are from nouns, as massive. In costive, the -ive is not a suffix.

Already in Latin many of these adjectives were used substantively; this precedent is freely followed in the modern languages and in English: e.g. adjective, captive, derivative, expletive, explosive, fugitive, indicative, incentive, invective, locomotive, missive, native, nominative, prerogative, sedative, subjunctive.
In some words the final consonant of Old French -if, from -īvus, was lost in Middle English, leaving in modern English -y suffix1: e.g. hasty, jolly, tardy.

Adverbs from adjectives in -ive are formed in -ively; abstract nouns in -iveness and -ivity suffix.


 OED の解説を熟読しての発見としては:

 (1) -ive が接続する基体は,ラテン語動詞の分詞幹であることが多いが,他の語幹や他の品詞もあり得る.
 (2) ラテン語で作られた -ive 語で古フランス語に受け継がれたものは少ない.ロマンス諸語や英語における -ive 語の多くは,かつての -ivus ラテン単語群をモデルとした造語である可能性が高い.
 (3) 分詞由来の形容詞接辞とは異なり,-ive は恒常的・習慣的な意味を表わす.
 (4) -sive, -tive の形態となることが圧倒的に多く,後者に基づく -ative はそれ自体が接辞として生産性を獲得している.
 (5) -ive は本来は形容詞接辞だが,すでにラテン語でも名詞への品詞転換の事例が多くあった.
 (6) -ive 接尾辞末の子音が脱落し,本来語由来の形容詞接尾辞 -y と合流する単語例もあった.

 上記の解説の後,-ive の複合語や派生語が951種類挙げられている.私の数えでこの数字なのだが,OED も網羅的に挙げているわけではないので氷山の一角とみるべきだろう.-ive 接尾辞研究をスタートするためには,まずは申し分ない情報量ではないか.

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2024-05-04 Sat

#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内 [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][link][lexicology][vocabulary][loan_word][borrowing][word_formation][voicy][heldio]

 新年度より,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.
 第1回「語源辞典でたどる英語史」は,4月27日(土)の 17:30--19:00 に開講され,おかげさまで盛況のうちに終了しました.こちらの回については,本ブログでも「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1]) および「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1]) で事前・事後に取り上げました.
 第2回「英語語彙の歴史を概観する」は2週間後の5月18日(土)の 17:30--1900 に開講される予定です.対面・オンラインによるハイブリッド開講で,「見逃し配信」サービスもご利用可能です.第1回を逃した方も問題なくご参加いただけます.ご関心のある方は,ぜひこちらよりお申し込みください.


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 第2回は,シリーズ全体のイントロとして,1500年以上にわたる英語語彙史を俯瞰してみます.今後のシリーズ展開に向けて,英語の語彙の変遷について大きな見通しを得ることが目標です.英語語彙史を概観していく過程で,英語史の各時代からいくつかのキーワードをピックアップして『英語語源辞典』(研究社,1997年)をはじめとする各種の英語語源辞典を参照します.同辞典をお持ちの方は,ぜひお手元にご用意しつつ,講座にご参加ください.どんな単語が取り上げられるかを予想しながら講座に臨んでいただければ.

(以下,後記:2024/05/14(Tue))



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2024-05-29-1]

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2024-04-29 Mon

#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][link][voicy][heldio]

 一昨日4月27日の 17:30--19:00 に,予定通り朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」をオープンしました.全12回のシリーズとして毎月1回,指定の土曜日の夕方に開講していきます.


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 シリーズ初回だったこともあると思いますが,一昨日の第1回はたいへん盛況でした.数年来,朝カル講座を開いてきましたが,これまでで最も多くの方々にご参加いただいたように思われます.ハイブリッド形式でしたので,対面で参加された方もいればオンラインで参加された方もいました.講義後の質問タイムでは,多くの有益なご質問やコメントもいただき,ありがとうございました.本日から1週間登録者に開かれる「見逃し配信」にて講義を視聴される方も,多くいらっしゃるかと思います.
 第1回は「英語語源辞典を楽しむ」と題して,シリーズ全体のイントロ回となりました.まずシリーズ全体の狙いをお話しした後,寺澤芳雄(編)『英語語源辞典』(研究社,1997年)(= kdee) を紹介しました.次に,ケーススタディとして具体的に (1) male と female の語源,(2) cow と beef の語源を取り上げながら辞典の記述を精読しました.最後は "Every word has its own history." と締めくくりました.
 次回は,まだシリーズ全体のイントロ続編という色彩が強いですが,5月18日(土) 17:30--19:00 に「英語語彙の歴史を概観する」と題してお話しする予定です.シリーズ講座ではありますが,各回はそれなりに独立していますし,過去回の復習も適宜含めていきますので,シリーズ途中回からのご参加もまったく問題ありません.ぜひご参加いただければと思います.
 今後,様々な英語語源辞典の比較などにも力を入れていきたいと思いますが,中心となるのはやはり『英語語源辞典』(研究社,1997年)です.お手元にご用意していただくと,講座が何倍もおもしろくなるはずです.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.



 シリーズ全体と第1回の予告編として,先日,以下のコンテンツを公表していますので参考まで.

 ・ hellog 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
 ・ heldio 「#1058. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より月一で始まります」



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2024-05-29-1] [2024-05-04-1]

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2024-04-27 Sat

#5479. audience design の導入 with 3Ms [sociolinguistics][audience_design][accommodation_theory][variation][style][3ms][ogawashun][voicy][heldio][etymology][youtube]



 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では,この木・金・土と連日 "3Ms" をお迎えして,賑やかに対談回(単なるおしゃべり?)をお届けしています.ちなみに "3Ms" とは,五所万実さん(目白大学),北澤茉奈さん(杉野服飾大学),尾崎萌子さん(慶應義塾大学大学院生;共立女子大学)のお三方のことです.実は小河舜さん(上智大学)も収録に部分的に同席しています.
 とりわけ金・土の配信会は,聞き手ベースの言語学理論というべき Allan Bell による audience_design の導入回となっており,同理論に楽しく入っていくことができます.

 (1) 「#1061. 聞き手ベースの言語学 --- 北澤茉奈さんとオーディエンス・デザインを導入します」(2024年4月26日配信)
 (2) 「#1062. 21世紀のオーディエンスデザイン with 3Ms & 小河舜さん」(2024年4月27日配信)

 同理論については,この hellog でも「#1934. audience design」 ([2014-08-13-1]) で紹介していますし,「いのほた言語学チャンネル」(旧「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」)でも北澤さんをお招きした回「#84. 新しい時代のオーディエンス・デザイン論・歴史言語学にも導入!---水曜言語学雑談飲み会」で導入しています.そちらもぜひご参照ください.



 ・ Bell, Allan. "Language Style as Audience Design." Language in Society 13 (1984): 145--204.

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2024-04-01 Mon

#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][link][voicy][heldio]

 本日,新年度の幕開きです.2024年度も「英語史をお茶の間に」広げていく活動,hel活 (helkatsu) を積極的に展開していきたいと思います.hellog を読まれている皆さんにおかれましては,hel活にご協力いただけますと幸いです.年度の切り替わりの機会に,note 上の「堀田隆一のプロフィール(2024年4月1日現在)」も更新しました.ご覧ください.
 この4月には様々なhel活企画を展開していきますが,そのうちの1つをご紹介します.4週間ほど後,4月27日(土)の 17:30--19:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」がスタートします.全12回のシリーズとして月1回,指定の土曜日に開講していく予定です.


asacul_20240427.png



 シリーズの趣旨は以下の通りです.

英語は歴史上さまざまな言語と接触し,豊かな語彙を蓄えてきました.英単語の語源を探ると,そこには常に新たな発見があります.その宝庫といえるのが,数多く存在する英語の語源辞典です.本講座では,英語語源辞典の記述を頼りに具体的な単語の語源を読み解きながら,丁寧に英語史をたどっていきます.資料は毎回配布します.


 全12回のタイトル(第4回以降は予定タイトル)は以下の通りです.

 1. 英語語源辞典を楽しむ(2024年4月27日)
 2. 英語語彙の歴史を概観する(2024年5月18日)
 3. 英単語と「グリムの法則」(2024年6月8日)
 4. 現代の英語に残る古英語の痕跡(日付未定)
 5. 英語,ラテン語と出会う(日付未定)
 6. 英語,ヴァイキングの言語と交わる(日付未定)
 7. 英語,フランス語に侵される(日付未定)
 8. 英語,オランダ語と交流する(日付未定)
 9. 英語,ラテン・ギリシア語に憧れる(日付未定)
 10. 英語,世界の諸言語と接触する(日付未定)
 11. 英語史からみる現代の新語(日付未定)
 12. 勘違いから生まれた英単語(日付未定)

 4月27日(土)の第1回は「英語語源辞典を楽しむ」と題して,シリーズ全体のイントロとなる話しをします.とりわけ英語語源辞典の読み解き方に注目します.余裕のある方はぜひ『英語語源辞典』(研究社,1997年)(= KDEE) を入手し,それを手元に置きつつ受講していただければ.
 受講の仕方は,従来通り新宿教室での対面でも可能ですし,Vimeo を利用したオンライン・リアルタイムも可能です.また,1週間限定の見逃し配信サービスも提供されています.ご都合のよい方法でご参加いただければと思います.
 英語の語源を調べるための資料としては KDEE をはじめとして様々な(語源)辞典がありますので,そちらも紹介していく予定です.KDEE を基本に据えつつ,注目した単語(語彙)の語源をじっくり読み解くことによって英語(語彙)史の流れをたどるのが本シリーズの狙いです.特に KDEE は私が強力に推してきた参考資料でもあり,本ブログでも「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1]) などの記事でたびたび取り上げてきました.そちらから関連コンテンツもご参照ください
 新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」へ,多くの皆様の参加をお待ちしています!

(以下,後記:2024/04/24(Wed))



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2024-03-27 Wed

#5448. ゆる言語学ラジオの「ターゲット1900」最新回は evidence の続編 [youtube][yurugengogakuradio][etymology][link]


 「ゆる言語学ラジオ」からこちらの「hellog~英語史ブログ」に飛んでこられた皆さん,ぜひ以下をご参照ください.

   (1) Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 の人気配信回としては「#5363. 2023年のリスナー投票による heldio の推し配信回ベスト10が決定!」をご覧ください
   (2) 本ブログより「ゆる言語学ラジオ」に関係するこちらの記事群もどうぞ
   (3) YouTube 「いのほた言語学チャンネル」<言語学バル>に水野太貴さんをお呼びした最新シリーズの初回「#210. 水野太貴さん(ゆる言語学ラジオ)再登場!ゆる学徒カフェにお邪魔してます!」もご視聴ください
   (4) note 記事,「ゆる言井堀コラボ ー 「ゆる言語学ラジオ」×「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」×「Voicy 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」」にも関連リンクがまとまっています




 昨日公開された「ゆる言語学ラジオ」の最新回は「語源オタクが高校時代に創った暗記法が独特すぎる【ターゲット1900 ⑨】#318」.水野さんと堀元さんのお2人が,英単語の語源をネタに爆笑トークを繰り広げています.
 今回の動画の冒頭や途中(とりわけ26:25付近)で,水野さんには,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 に何度も言及していただきました(ありがとうございます!).
 「ゆる言語学ラジオ」の前回の「ターゲット1900」回は8ヶ月も前のことでしたが,その折には番組にお邪魔させていただきました.「英単語帳の語源を全部知るために,研究者を呼びました【ターゲット1900 with 堀田先生】#247」です.こちらも合わせてご覧いただければ.



 昨年夏の #247 では「ターゲット1900」の1語 evidence のみに注目しました.いな,その第2形態素 -vid- のみに注目して1時間弱を消費しました.「どれだけ進まないのか!」というコメントを数多くいただきまして,内心忸怩たる嬉々とした思いです.いずれにせよ,今回は水野さんが8単語をもカバーされたということで,電信柱の陰より安堵いたしました(その8単語は subject, article, statement, experiment, figure, evidence, industry, economy).
 同僚の井上逸兵さんと私とで毎週(水)(日)にお届けしている YouTube 「いのほた言語学チャンネル」<言語学バル>では,つい先日,水野太貴さんをゲストにお招きしての4回にわたる公開収録シリーズをお届けしたばかりです.ぜひそちらもお時間のあるときにどうぞ.
 
 ・ 「#210. 水野太貴さん(ゆる言語学ラジオ)再登場!ゆる学徒カフェにお邪魔してます!」
 ・ 「#212. ゆる言語学ラジオ・水野太貴さん再登場第2回・出版人/読書人としての水野さんにとっての言語学本」
 ・ 「#214. ゆる言語学ラジオ水野太貴さんの辞書にアウトプット過多の文字はない!」
 ・ 「#216. ゆる言語学ラジオ水野太貴さんがいま考えていること/テクノロジーが変える?言語学/意味を扱うのはレア」

 水野さん,堀元さん,いつもありがとうございます!

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2024-03-15 Fri

#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版 [link][etymology][review][voicy][heldio][helwa][lexicography][kdee][hel_herald][notice][khelf][hellog][fujiwarakun][asacul][yurugengogakuradio][notice]


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.



 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)の推し活を本格的に始めて8ヶ月ほどが経ちます.この期間に様々な媒体でこの辞典を推薦し,話題にしてきました.推し活に加わる方も周囲に増えてきており,喜ばしい限りです.この辺りで推し活履歴を振り返っておきたいと思います.以下,KDEE (= The Kenkyusha Dictionary of English Etymology) の略称も適宜用います (cf. kdee) .

 ・ 2023年7月18日 「ゆる言語学ラジオ」にお招きいただいて収録した YouTube 回「英単語帳の語源を全部知るために,研究者を呼びました【ターゲット1900 with 堀田先生】#247」が配信される.49分30秒辺りから堀田による KDEE の激推しがスタート.その後の数日間,KDEE がオンラインで入手しにくくなるという事態が発生したとか.
 ・ 2023年7月27日 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 にて「#787. 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)のスゴさをご紹介 --- 田辺春美先生との対談」を配信し,制作にも携わられた田辺春美先生(成蹊大学)とともに KDEE の実力を語る.ちなみに,この回は2023年の heldio 配信回のリスナー投票で第8位に入った.
 ・ 2023年8月1日 「研究社note」より「『英語語源辞典』と活版印刷裏話」と題する記事が公開される(研究社編集部の N. A. さんが元研究社印刷社長の小酒井英一郎さんにインタビューして執筆された記事).
 ・ 2023年8月2日 hellog にて「#5210. 世界最強の英語語源辞典 --- 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)」 ([2023-08-02-1]) が公開される.
 ・ 2023年9月6日 heldio にて「#828. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (1)」が配信され,画期的なインタビューシリーズ3部作の開始となる.ちなみに,この回は2023年の heldio 配信回のリスナー投票で第5位に入った.
 ・ 2023年9月12日 heldio にて「#834. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (2)」が配信される.
 ・ 2023年9月20日 heldio にて「#842. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (3)」が配信される.
 ・ 2023年9月22日 hellog にて「#5261. 研究社会議室での3回にわたる『英語語源辞典』をめぐるインタビューが完結」 ([2023-09-22-1]) が公開される.
 ・ 2023年10月23日 heldio にて「#875. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (1) --- 藤原くんと foot を語る」が配信され,藤原郁弥さんとの画期的なシリーズの幕開きとなる.ちなみに,この回は2023年の heldio 配信回のリスナー投票で第2位に入った.
 ・ 2023年10月26日 heldio にて「#878. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (2) --- 藤原くんと foot を語る」が配信される.
 ・ 2023年11月8日 heldio にて「#891. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (3) --- khelf 藤原くんと marble を語る第1弾」が配信される.ちなみに,この回は2023年の heldio 配信回のリスナー投票で第9位に入った.
 ・ 2023年11月11日 heldio にて「#894. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (4) --- khelf 藤原くんと marble を語る第2弾」が配信される.
 ・ 2023年11月14日 heldio にて「#897. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (5) --- khelf 藤原くんと marble を語る第3弾」が配信される.
 ・ 2023年12月15日 heldio にて「#928. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (6) --- khelf 藤原くんと2重語 compute/count を語る」が配信される.
 ・ 2024年1月6日 Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) にて「【英語史の輪 #77】umisio さんと『英語語源辞典』で England と English を精読する」が配信される.heidio/helwa リスナーの umisio さんとの差しでの KDEE 熟読会.
 ・ 2024年1月9日 umisio さんにより上記熟読会の手書きノートが note 上に公開される.
 ・ 2024年1月19日 heldio/helwa リスナーの lacolaco さんが note にて「英語語源辞典通読ノート」と題するマガジンを公開し始める.前代未聞の企画.これまでに11本の記事があり,すでに animal にまで到達している.
 ・ 2024年1月25日 helwa にて「【英語史の輪 #85】「『英語語源辞典』を読む(飲む)会」を画策しています」として,KDEE オンライン読書会の企画案が堀田により初めて提案される.その後,初回が2月20日に実施されることになった.
 ・ 2024年1月31日 heldio にて「#975. 『英語語源辞典』の収録語彙」が公開される.
 ・ 2024年2月2日 heldio にて「#977. 『英語語源辞典』を読むシリーズ (7) --- khelf 藤原くんと同音異義語 bank の項を精読する」が配信される.
 ・ 2024年2月3日 heldio にて「#978. 『英語語源辞典』の語義・初出年代 --- khelf 藤原くんと凡例を読もう」が配信される.凡例を熟読するという稀代な企画がスタート.
 ・ 2024年2月20日 helwa のオンラインオフ会にて「『英語語源辞典』を漫然と読む/飲む」企画が初めて実現する.
 ・ 2024年2月22日 helwa にて「【英語史の輪 #97】「置換」か「駆逐」か」が配信される.この配信回では,上記オンラインオフ会で話題となった KDEE 中の「駆逐」という用語が議論された.
 ・ 2024年3月4日 khelf による『英語史新聞』第8号が発行され,その第1面にて「『英語語源辞典』を使ってみよう」という記事(藤原郁弥さん執筆)が公開される.
 ・ 2024年3月5日 hellog にて「#5426. 『英語史新聞』第8号が発行されました」 ([2024-03-05-1]) が公開され,改めて KDEE が言及される.
 ・ 2024年3月12日 helwa にて「【英語史の輪 #105】近代英語と中英語の anigh に直接の関連はない? --- lacolaco さんも二度見した『英語語源辞典』の記述」が配信される.

 以上がこの8ヶ月間の KDEE 推し活履歴です.今後の主立った予定を2点挙げておきます.

 ・ 本日2024年3月15日の夕方,helwa のオンラインオフ会にて「『英語語源辞典』を漫然と読む/飲む」企画の第2回が開催される予定です.
 ・ 新年度4月より朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」が開講される予定です.毎月1回のペースで指定土曜日に開催されます.KDEE 以外の英語語源辞典も参照しますが,メインはもちろん KDEE.なお,2018年にも『英語語源辞典』に注目しつつ朝カルで英語語源講座を開いたことがあります(cf. 「#3381. 講座「歴史から学ぶ英単語の語源」」 ([2018-07-30-1])).

 皆さんも,ぜひ KDEE 推し活にご参加ください!

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2024-02-23 Fri

#5415. 語彙記載項 (lexical entry) には何が記載されているか? [lexicon][lexicography][lexicology][semantics][dictionary][orthography][etymology]

 私たちが普段使う英語辞書や日本語辞書などでは,見出し語のもとにどのような情報が記載されているだろうか.見出し語それ自体は,アルファベット順あるいは五十音順に並べられた上で,各語が正書法に則った文字列で掲げられているのが普通だろう.その後に発音(分節音や超分節音)の情報が記載されていることが多い.その後,品詞や各種の文法情報が示され,語義・定義が1つ以上列挙されるのが典型である.エントリーの末尾には,語法,派生語・関連語,語源,その他の注などが付されている辞書もあるだろう.個別の辞書 (dictionary) ごとに,詳細は異なるだろうが,おおよそこのようなレイアウトである.
 では,私たち言語話者の頭の中にある辞書 (lexicon) は,どのように整理されており,各語の項目,すなわち語彙記載項 (lexical entry) にはどんな情報が「記載」されているのだろうか.これは,語彙論や意味論の理論的な問題である.
 まず,語彙項目の並びがアルファベット順や五十音順ではないだろうことは直感される.また,文字を読み書きできない修学前の子供たちの頭の中の語彙記載項目には,正書法の情報は入っていないだろう.さらに(私などのように)特別に語源に関心のある話者でない限り,頭の中の語彙記載項に「語順欄」のような通時的なコーナーが設定されているとは考えにくい.
 しかし,発音,品詞や各種の文法情報,語義については,紙の辞書 (dictionary) とは異なる形かとは予想されるが,何らかのフォーマットで頭の中の辞書にも「記載」されていると考えられる.では,具体的にどんなフォーマットなのだろうか.
 これは語彙論や意味論の分野の理論的問題であり.これぞという定説や決定版が提案されているわけではない.直接頭の中を覗いてみるわけにはいかないからだ.ただし,大雑把な合意があることも確かだ.英語の単語で考える限り,例えば,Bauer (192--93) は,Lyons を参照し,他のいくつかの先行研究にも目配りしつつ,次の4項目を挙げている.

 (i) stem(s)
 (ii) inflectional class
 (iii) syntactic properties
 (iv) semantic specification(s)


 (i) は stem(s) (語幹)とあるが,言わんとしていることは音韻論(分節音・超分節音)の情報のことである.(ii) は形態論的情報,(iii) は統語論的情報,(iv) は意味論的情報である.最後の項目は,多義の場合には「複数行」にわたるだろう.
 理論言語学の見地からは,ここに正書法欄や語源欄の入る余地はないのだろう.認めざるを得ないが,文字と語源を愛でる歴史言語学者にとって,ちょっと寂しいところではある.

 ・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.
 ・ Lyons, John. Semantics. Cambridge: CUP, 1977.

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2024-02-22 Thu

#5414. dungeon の文化史と語源 [doublet][etymology][semantic_change][literature][french][latin][voicy][heldio]

 NewsPicks 上で岡本広毅先生(立命館大学)が連載している「RPGで知る西洋の歴史」の最新記事が公開されています.「ダンジョンと〈ゴシック〉への入り口---商人トルネコが覗いた闇」です.


「ダンジョンと〈ゴシック〉への入り口---商人トルネコが覗いた闇



 RPG 好きには「ダンジョン」 (dungeon) の響きはたまらないのではないでしょうか.その意味は「地下牢」?「洞窟」?「塔」? なぜ RPG にはダンジョンが付きものなの? ゴシック・ロマンスとの関係は? このような問いに答えてくれる文化史・文学史の記事です.
 記事でも言及されていますが,英単語 dungeon は古フランス語 donjon を借用したものです(1300年頃).古フランス語での原義は「主君の塔」ほどでしたが,それが後に牢獄として利用された背景から,「牢獄」,とりわけ「地下牢」の意味を発達させました.さらには RPG 的な「未知なる危険の潜む空間」(上記記事を参照)という語義にまで発展してきました.文化史的に味わうべき意味変化 (semantic_change) の好例ですね.
 さて,古フランス語 donjon は,さらに遡ると中世ラテン語の dominiōnem に行き着き,これは古典ラテン語の dominium に対応します.「君主の地位;統治権;領地」を意味しました.このラテン単語が直接英語に取り込まれたのが dominion 「領土;支配権」です.つまり,dungeondominion は2重語 (doublet) ということになります.
 関連する話題は,以下の hellog や heldio のコンテンツで取り上げていますので,ぜひどうぞ.

 ・ hellog 「#3899. ラテン語 domus (家)の語根ネットワーク」 ([2019-12-30-1])
 ・ hellog 「#3898. danger, dangerous の意味変化」 ([2019-12-29-1])
 ・ heldio 「#118. danger のもともとの意味は「権力」」
 ・ heldio 「#273. 「支配権」 ― 今だから知っておきたい danger の原義」
 ・ hellog 「#1953. Stern による意味変化の7分類 (2)」 ([2014-09-01-1])

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2024-01-31 Wed

#5392. 中英語の姓と職業名 [name_project][me][onomastics][personal_name][occupational_term][etymology][oe][morphology][lexicology][word_formation][agentive_suffix][by-name]

 「名前プロジェクト」 (name_project) との関連で,中英語期の人名 (personal_name),とりわけ現代の姓 (last name) に相当する "by-name" あるいは "family name" に関心を抱いている.古英語や中英語にみられる by-name の起源は,Clark (567) によれば4種類ある(ただし,古中英語に限らず,おおよそ普遍的な分類だと想像される).

 (a) familial ones, viz. those defining an individual by parentage, marriage or other tie of kinship
 (b) honorific and occupational ones (categories that in practice overlap)
 (c) locative ones, viz. those referring to present or former domicile
 (d) characteristic ones, often called 'nicknames'

 このうち (b) は名誉職名・職業名ととらえられるが,中英語におけるこれらの普通名詞としての使用,そして by-name として転用された事例に注目している.中英語の職業名は多々あるが,Clark (570--71) を参照しつつ,語源的・形態論的に分類すると以下のようになるだろうか.

 1. フランス語(あるいはラテン語?)からの借用語 (French loanword)
   barber, butcher, carpenter, cordwainer/cordiner, draper, farrier, mason, mercer, tailor; fourbisseur, pestour
 2. 本来語 (native word)
   A. 単一語 (simplex)
     cok, herde, smith, webbe, wrighte
   B. 複素語 (complex),すなわち派生語や複合語
     a. 動詞ベース
       bruere/breuster, heuere, hoppere/hoppestre; bokebynder, bowestrengere, cappmaker, lanternemaker, lymbrenner, medmowere, rentgaderer, sylkthrowster, waterladestre
     b. 名詞ベース
       bureller, glovere, glasier, madrer, nailere, ropere, skinnere; burelman, candelwif, horseknave, maderman, plougrom, sylkewymman; couherde, swynherde, madermongere, stocfisshmongere, ripreve, bulleward, wodeward, wheelewrighte

 古中英語の人名をめぐる話題については,以下の hellog 記事でも取り上げてきたので要参照.

 ・ 「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど」 ([2023-08-23-1])
 ・ 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])
 ・ 「#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期」 ([2023-12-08-1])
 ・ 「#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景」 ([2023-12-16-1])
 ・ 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1])

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-03-09-1]

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2024-01-15 Mon

#5376. Middle-earth は2重の勘違いを経た「民間語源」(解釈語源) [etymology][folk_etymology][literature][medievalism][rpg][notice][old_norse][mythology][oe]

 「#5356. 岡本広毅先生の NewsPicks のトピックス「RPGで知る西洋の歴史」」 ([2023-12-26-1]) で紹介した岡本広毅先生(立命館大学)による「RPGで知る西洋の歴史」では,次々と新しい記事が公開されてきています.昨晩公開された最新回は「RPGは「ロマンティック」?---知られざるロマンス史を紐解く①」です.roman, romance, romantic などの語源が解説されています.
 1回前の記事「『ファイナル・ファンタジー』と北欧神話---RPGを彩る伝承の物語」もおもしろいです.


「『ファイナル・ファンタジー』と北欧神話---RPGを彩る伝承の物語」



 この記事では J. R. R. Tolkien の作品に登場する妖精たちの世界 Middle-earth (中つ国)について,関連する「ミッドガル」とともに言及がなされています.

「ミッドガル」は『FFVII』に登場する科学文明の栄えた都市で,世界のエネルギー市場を支配する「神羅カンパニー」という大企業の本拠地でした.薄暗いネオン街や高層ビル,魔晄炉と呼ばれる発電施設など,近未来風の佇まいからは太古の神話世界とのつながりを想像することは容易ではありません.ただ,「ミッドガル」とは明らかに古い北欧語「ミズガルズ」("Miðgarðr") から取られたもので,これは北欧神話における人間の住まう領域を指します(巨人ユミルのまつ毛で作られた「囲い」).ミッドガルに渦巻く欲望や策略は「人間」の本性の一面と関わりますし,都市の荒廃や破壊,再生といったストーリー展開なども神話と重なり合います.なお,J.R.R.トールキン『ホビット』や『指輪物語』の舞台「ミドル・アース」("Middle-earth"「中つ国」)はミズガルズの現代英語版です.北欧とイングランドの人々の民族的ルーツは共通の祖先(ゲルマン人)へと遡るため,北欧神話は英語話者の故郷の物語でもあるのです.


 Middle-earth の由来をさらに詳しく調べてみると,どうやら古ノルド語 miðgarðr とは妙なねじれの関係にあるようです.後者は,古英語期より2回ほど民間語源 (folk_etymology) による変形を受けて,今の形にたどりついているのです.
 古英語には「世界」を意味する middangeard という語がありました.現代風に示すと "mid(dle)" + "yard" という語形成で,原義は「中庭」ほどです.これは古ノルド語 miðgarðr の語形成とも一致します.
 ところが,すでに古英語期より middangeard の第2要素が geard 「庭」ではなく,音形の似た eard 「故郷,祖国」と取り違えられ,形態上の混乱が起こりました(第1の民間語源).さらに中英語期になると,今度はこの eard がやはりよく似た音形の erthe (> earth) 「地,世界」と取り違えられました(第2の民間語源).ちなみに歴史的に第2要素として用いられてきた上記の3つの語は,互いに語源的には無関係です.
 Middle-earth の民間語源による2回のひねりに関しては,Fertig (60) が触れています.

The compound middle earth (re-popularized but by no means invented by Tolkien) can be traced back to early Middle English middelærde and OE middangeard and midanærd. Comparison with related words in other older Germanic languages, such as Old Saxon middilgard, Old High German mittilagart and Old Norse miðgarðr suggests that the second element originally corresponded to the Modern English word yard. We then see two successive folk-etymological identifications of this element, first with the Old English word eard '(native) land, home', then later with earth.


 なお,「民間語源」という用語とその呼称をめぐっては「#5180. 「学者語源」と「民間語源」あらため「探究語源」と「解釈語源」 --- プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) の最新回より」 ([2023-07-03-1]) を参照していただければ.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2024-01-05 Fri

#5366. EnglandEnglish の語源を深掘りする回 [bchel][etymology][voicy][heldio][helwa][anglo-saxon][kdee][link][onomastics][ethnonym]

 本ブログの姉妹版・音声版の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では,有料ではありますが「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」と題するオンライン超精読回のシリーズを,この半年のあいだ,おおよそ定期的にお届けしています.バックナンバーは「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.
 昨日,最新回となる「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (34) The Names "England" and "English"」を配信しました.EnglandEnglish という,英語史上きわめて重要な語の語源に迫る半ページ弱の文章を30分以上かけて解きほぐしています.



 この回を配信した機会を逃さずに,本日午後6時より,Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」での配信となりますが,この話題と関連する生放送を「【英語史の輪 #77】新年会直前,『英語語源辞典』で England と English を精読する」と題してお届けする予定です.


【英語史の輪 #77】新年会直前,『英語語源辞典』で England と English を精読する



 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997)を手元に置いておられる方はそれを目の前に置き,そうでない方は今回のためにスキャンしたこちらの画像を参考に,ぜひ聞いていただけば幸いです.きわめて重要な単語の語源を深掘りしていきます.
 こちらの helwa はプレミアム限定チャンネルですが,この1月より初月無料の試聴サービスを提供しています.日々 heldio の通常配信をお聴きの方々のなかには,プレミアム限定チャンネルは気になっていたけれど課金して参加するにはハードルが高い,まずはどんな雰囲気なのか試聴してみたい,という方もいらっしゃるかもしれません.ぜひこの1ヶ月のあいだ試聴していただき,続けてもよいと思った場合には2月以降もお付き合いいただければと思います.そうでなければ辞めていただくということで,まったくけっこうです.
 余談ですが,上記の予約済の生放送のタイトルにも示されているとおり,helwa ではプレミアムリスナー限定のオンライン新年会を,生放送終了後の午後7時から開催予定です.
 予習・復習のために,今回の話題と関連する hellog, heldio, その他のリソースとして以下を挙げておきます.



 ・ hellog 「#1145. EnglishEngland の名称」 ([2012-06-15-1])
 ・ hellog 「#1436. EnglishEngland の名称 (2)」 ([2013-04-02-1])
 ・ hellog 「#2250. English の語頭母音(字)」 ([2015-06-25-1])

 ・ heldio 「#16. そもそも English という単語はナゾだらけ!」
 ・ heldio 「#251. 複数形 Englishes の出現」
 ・ heldio 「#683. なぜ English のように -ish のつく呼び名はイギリス周辺に多いの? --- 青木輝さんとの対談」

 ・ 「歴史で謎解き!フランス語文法 第45回 国や地域の住民名はどのように決まるの?」




 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2024-01-06-1]

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2023-12-03 Sun

#5333. 古英語地名要素の混乱 --- -ham, -hamm, -holm; -bearu, -beorg, -burg, -byrig, -borough [old_norse][name_project][etymology][onomastics][toponymy][inflection][oe][polysemy][homonymy][synonym]

 古英語の地名は2要素からなるもの (dithematic) が多い.特に第2要素には「村」「町」などの一般名 (generic) が現われることが多い.そもそも固有名は音形が崩れやすく,とりわけ第2要素は語尾に対応するので弱化しやすい.すると,-ham 「村」なのか -hem 「縁」なのか -holm 「河川敷」なのかが形態的に区別しにくくなってくる.-bearu 「木立ち」,-beorg 「塚」,-burg/-byrig/-borough 「市」についても同じことがいえる(スラッシュで区切られた3つの異形態については「#5308. 地名では前置詞付き与格形が残ることがある」 ([2023-11-08-1]) を参照).
 古英語地名学をめぐる,この厄介な音形・綴字のマージという問題は,Clark でも紹介されている.上記の2つの例についての解説を引用する.

(2) OE -hām 'village', OE -hamm 'site hemmed in by water or wilderness' and also the latter's Scandinavian synonym -holm all fall together as [m̩]. Not even pre-Conquest spellings always allow of distinguishing -hām from -hamm: if dat. forms in -hamme/-homme survive, they tell in favour of the latter, but often etymology has to depend upon topography . . . . Distinction between -hamm and -holm is complicated by their synonymity, and their likely interchange in the medieval forms of many Danelaw names. . . . PDE spellings are again often unhistorical, as in Kingsholm < OE cyninges hamm 'the king's water-meadow' . . . . Confusion is further confounded by occasional unhistorical spellings of [m̩] < OE or Scand. dat. pl. -um, as in Airyholme and Howsham . . . . (Clark 486--87)


(4) Reflexes of OE -bearu 'grove' and -beorg 'mound' are partly merged not only with each other but also with those of -burg/-byrig, so that PDE forms in -barrow can represent -bearu or -beorg, ones in -bury can represent -bearu or byrig and ones in -borough can represent -beorg or burg . . . . (Clark 487)


 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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