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etymology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-09-02 05:00

2026-09-01 Tue

#6336. professional とは何を profess 「公言する」人か? [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][borrowing][latin]

 英語史のアウトリーチ活動を続けていると、自分自身の肩書きについて考えさせられることがある.私は英語史の研究者であり専門家である.専門家といえば,英語では professional であり「プロ」だ.
 professional 「専門職(の)」は名詞・形容詞ともに profession 「専門職」から派生した語だ.遡ればラテン語の動詞 profitērī 「公言する,公然と述べる」に行き着く.pro- 「前へ,公然と」と fatērī 「認める,述べる」(fārī 「話す」に由来)の組み合わせであり,字義通りには「前面に出て言い表わす」という発想である.英語の動詞 profess も同根に遡り,語義はやはり「公言する」である.
 後期中英語期にフランス語を経由して英語に借用された profession(al) の最初期の語義は,「(信仰を公言して)修道会に正式に入ること,誓願を立てること」という,きわめてキリスト教的なものだった.修道士・修道女になるとは,信仰を人前で「公言する」ことにほかならなかった.つまり,かつての profession とは,職業的聖職者になる誓いそのものを指した.
 この宗教的な語義はやがて世俗化し,中英語末から近代英語期にかけて,神学・法律・医学という「学識ある専門職」を指すようになる.さらに後期近代英語期には形容詞 professional が「その道を生業とする」の意で確立し,対義語 amateur 「愛好家」(ラテン語で「愛する」を意味する動詞 amāre と語根を共有)との対比のなかで,現在おなじみの語感が定着していった.
 こうして語史をたどってみると,professional の根底には,「公言する」という行為があったことがわかる.「プロ」とは,単に生計を立てる手段であるだけでなく,「自分はこれを専門とする者だ」と社会に向けて宣言する行為でもあったのだ.アウトリーチ活動という文脈に立ち戻るならば,専門家が自らの専門性を看板に掲げ,それを広く外へ表明していく営みこそが,professional の語源に忠実な姿ともいえる.

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2026-08-29 Sat

#6333. 学術 outreach 活動には share が似合う [outreach][helkatsu][etymology][semantic_field][semantich_change]

 「#6324. アウトリーチ活動とは何か? --- 英単語 outreach の発展」 ([2026-08-20-1]) で触れたように,私や周囲の人々による「英語史をお茶の間に」の活動,通称「hel活」 (helkatsu) は,英語史という学問分野に関するアウトリーチ活動である.
 学術的な話題に関するアウトリーチ活動の根幹には,share 「シェア」の発想があるのではないかと,私は考えている.share は「分け前,取り分」という名詞であるとともに「分ける,分かち合う,共有する,共に用いる」を意味する動詞でもある.アウトリーチの文脈で「知識や知恵のシェア」という場合には,日本語の「お裾分け」の語感が近いように感じている.
 share の語源を遡ると,おおもとは印欧祖語の *(s)ker- "to cut" にたどり着く.そこから,「切り分ける;切り分けられた断片」ほどに語義が展開し,現代的な名詞や動詞の意味に到達した.同音異綴字異義語の shear 「大ばさみ(で刈る)」も同根である.
 ただし,おもしろいことに古英語 sċearu は「刈り込み;剃髪」などの比較的特殊な意味で,現代的な「分け前,シェア」的な語義が発達するのは中英語期になってからのことだ.私たちが注目しているアウトリーチに直接関連する語義は,それなりに新しいものということになる.
 では,古英語では「分け前,シェア」という「意味の場」は存在しなかったのかといえば,そうでもない.別の単語 dǣl (名詞)や dǣlan (動詞)がその意味を担っていた.現代でいうところの deal である.この語は現代では「取引;取り扱い」の語義が前面に出てきている感があるが,原義ははほぼ share と重なるといってよい.語根も share とは異なるとはいえ,印欧祖語 *dail- "to divide" に遡るとされ,ここにはやはり「分け与える」の発想が入っている.中英語以降,名詞も動詞も独自の語義を発展させて現代に至るが,原義に比較的近いところを残しているものとして dealer 「(トランプのカードを)配る人」,a great deal of などの表現における「一部,部分」を挙げておこう.なお,「取引」関連の語義の発達は,取引や交渉というものが,2者が同じ目的を共有する作業だからだろう.
 ここまでのところを考えると,古英語で deal が担っていた意味の場を,中英語では share が担当するようになった,という風に見える.そして,この英語本来語ペアの動きに介入して来ているように見えるのが,ラテン語由来にしてフランス語経由で中英語期に借用されてきた part という単語だ.「分け前;一部」といった先の2語と共通する語義を持っており,語根こそいずれとも異なるが,起源を遡ると印欧祖語 *perə "to grant, allot" に行き着く.根本的な発想はここでも「分け与える」なのだ.現代英語で part の関連語としては,participate 「参加する」や partake 「参加する;共にする」にその原義が感じられる.
 share, deal, part の3つの基本語は,英語史を通じてそれぞれ守備範囲を調整しながら現代まで生きながらえてきたわけだが,いずれも発想の根幹に共通のものがあるのがおもしろい.アウトリーチ活動と相性のよい「お裾分け」系の語彙を構成している.
 関連して,hellog 「#4941. partnerparcener」 ([2022-11-06-1]) および「#524. dealpart のイメージは「分け与えて共有する」」を参照.

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2026-08-15 Sat

#6319. 8月22日(土)の朝カル講座「"riddle" を探って古英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][oe][oe_text][anglo-saxon][riddle][kochushoho][alliteration][oe_poetry][hee]


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 来週末の8月22日(土) 15:30--17:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座が開講されます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の夏期第2回(通算第17回)となります.今回はriddle を探って古英語原文の世界へ」と題して,「謎」を意味する単語に迫ります.
 現代英語の riddle は「謎,なぞなぞ」を意味する単語ですが,英語史・語源学の観点から紐解くと,アングロサクソン人の「読み書き文化」の原点につながる,文字通り謎に満ちた世界が広がっています.今回の講座では,主に3つの切り口からこの単語を解読していきます.
 第1のポイントは,riddleread の語源的関係です.riddle は,動詞 read に接尾辞が付加された派生語にすぎません.古英語の rǣdan (to read) は本来「解釈する;助言する」などを意味していました.つまり,古代人にとって「読む」とは,与えられた暗号や謎を「解読する」行為そのものだったのです.さらに視野を広げて,write (原義は「引っ掻く」),book (ブナの木),rune (秘密・囁き)などの語源もあわせて紹介します.これらの単語の語源をつなぎ合わせていくと,ゲルマン民族が文字や書物,そして読み書き文化をどのように受容し発展させてきたのか,その文化的背景が見えてきます.
 第2のポイントとして,(次の第3のポイントを見据えて)古英詩 (Old English poetry) の世界と頭韻 (alliteration) の役割,そしてルーン文字の文化を覗いてみます.先日,私自身が現地で実物を見てきたスコットランド Dumfriesshire の Ruthwell Cross は,古英詩 The Dream of the Rood の断片がルーン文字で刻まれた,8世紀初頭のものと考えられている有名な石碑です.その訪問体験談や写真を紹介しつつ,アングロサクソン人の詩的言語生活の一端を感じてみます.古英詩は現代詩のような脚韻 (rhyme) ではなく,音節頭の子音を揃える頭韻によってリズムを取っていました.この頭韻が,単なる音の装飾にとどまらず,詩の構造や記憶,さらには解読の鍵としていかに決定的な役割を果たしていたかを解説します.
 第3のポイントは,古英語文学における「謎詩」 (Riddles) という独特のジャンルの鑑賞です.古英語期には,事物や自然現象が自ら「私は誰でしょう?」と語りかける詩が数多く残されました.今回の講座では,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)の IX. RIDDLES より,(3) Bookworm (Riddle XLVII) を古英語原文で解読してみます.「本を食う虫」を描いた短い詩ですが,頭韻の配置に注意しながら丁寧に読んでいきます.あわせて,かつては「竜;蛇」を指していた worm の意味変化についても取り上げます.
 講義資料で原文や文法解説をしっかりサポートしますので,テキストをお持ちでなくても問題ありません.古英語原文に触れたことがない方でも安心してご参加いただけます.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,次回(夏期第3回)の日程と内容は次の通りです.

 ・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ

 皆様のご受講をお待ちしています.
(以下,後記:2026/08/19(Wed))
 今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1907. 8月22日(土)の朝カル講座は riddle を深掘り」をお聴きください.


 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-08-11 Tue

#6315. 2026度の朝カルシリーズ講座の夏期の初回(7月回)「king を探って古英語原文の世界へ」のまとめ [asacul][notice][hel_education][oe][oe_text][anglo-saxon_chronicle][kochushoho][haplology][phonemicisation][phoneme][kenning][synonym][alfred][viking][etymology][kdee][hee][beowulf][anglo-saxon]

 7月25日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の夏期第1回(シリーズ通算第16回)となるオンライン講座を開きました.夏期クールのテーマも引き続き「歴史上もっとも不思議な英単語」ですが,今回は「king を探って古英語原文の世界へ」と題し,国家の世襲的君主を表わす基本語 king の起源と発達に迫りました.参考テキストには今期も市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を活用し,今回は古英語のテキストから「王」が登場する箇所を読み解きました.
 講座でまず注目したのは,king の語源的背景と仲間となる単語群です.古英語の cyning は「一族,血族」を意味する cynn (現代英語 kin)に,所属・由来を表わす接尾辞 -ing が付いたもので,原義は「一族の者」でした.さらに遡ると印欧語根 *gen(ə)- (生む,生じさせる)に行き着き, generous, gender, nature など膨大な語彙ネットワークと繋がっています.また,古英語の詩にあふれる「ケニング」 (kenning) と呼ばれる隠喩的複合語を取り上げ,古英詩『ベオウルフ』にみられる bēagġyfa (指環を与える者)や goldwine (黄金の友)といった「王」の多彩な表現を紹介しました.
 音変化や語彙体系の観点からも興味深い事実を確認しました.語形面では,古英語 cyning から cyng への変化に見られる重音省略 (haplology) や,中英語から近代英語にかけての /kɪŋg/ から /kɪŋ/ への変化,すなわち軟口蓋鼻音の音素化 (phonemicisation) に触れました.また,形容詞における kingly (本来語),royal/regal (フランス借用語),monarchic(al) (ギリシア借用語)という語彙の3層構造にも触れ,なぜ kingqueen という基本語がフランス語に置き換えられずに生き残ったのかという問題についても考察しました.
 講座の後半では,『古英語・中英語初歩』の pp. 94--98 に収められている『アングロサクソン年代記』 (anglo-saxon_chronicle) より,896年のアルフレッド大王 (King Alfred) に関する記述の一部を読解しました.デーン人(ヴァイキング)の侵略に対抗するため,大王自ら従来の倍の大きさを誇る長船(ロングシップ)の建造を命じたエピソードです.アングロサクソン王国を死守した英雄としてのアルフレッド王の戦いの準備について,古英語の原文を通じて受講者の皆さんと味わいました.
 夏期クールの第2回は,8月22日(土)に「riddle を探って古英語原文の世界へ」と題して開講されます.古英語のなぞなぞ文化とこの単語の語誌に迫る予定です.ぜひ朝カルのこちらの公式ページよりお申込みください.

 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-07-31 Fri

#6304. deeranimal を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん [notice][kdee][hel_education][helkatsu][khelf][terasawashiho][voicy][heldio][semantic_change][etymology][french][latin][borrowing][kenkyusha]



 今朝の Voicy heldio にて「#1888. deer と animal --- 『英語語源辞典』読み解きシリーズ by 寺澤さん&lacolacoさん」を配信しました.前回の beast 編に対応する hellog 記事「#6301. beast を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん」 ([2026-07-28-1])) に続く,『英語語源辞典』 (= KDEE) 読み解きシリーズの後半戦となります.
 今回も khelf(慶應英語史フォーラム)の寺澤志帆さんと,heldio/helwa コアリスナーの lacolaco さんによる対談形式でお届けしています.研究社さんのご許可のもと,今回の精読対象である2語の辞典項目画像を以下に掲載します.


kdee_deer_animal.png



 今回の後半戦は,beast の記事の白ダイヤ(注釈部)に突如現れた2つの重要語 deeranimal へと接続・深掘りしていく展開となりました.
 まず,lacolaco さんがリード役となり deer の項目を読み解いていきます.古英語の本来語 dēor は,もともと一般的な「動物」を意味していました.それが中英語期にフランス語から入ってきた beast に押され,やがて「鹿」という特定の動物へと語義が特殊化していった経緯が紐解かれます.lacolaco さんの精読を受け,寺澤さんが補足やコメントを加える形で解説と議論が深まっていきます.
 後半では,寺澤さんがリード役を務めて animal の項目を精読していきます.ラテン語 anima 「空気,息,命,魂」に由来するこの語が,16世紀の近代英語期に(再)導入され,やがて beast に代わって「動物」の代表表現の座に就いていくプロセスの記述を読み解きます.その後,お二人による beast, deer, animal 全体を俯瞰した総合的なディスカッションへと発展していきます.意味変化が実際にはストレートな過程ではなく,複雑な現象であるという重要な洞察も得られました.
 「本来語 deer > フランス借用語 beast > ラテン借用語 animal」という勢力図の遷移と意味変化のグラデーションが,辞書記述を通じて立体的に浮かび上がってきます.「動物」とはいったい何なのか,という悩ましい問いも立ち上がってきました.解説の最後で突如現れた古英語の家畜を表す単語 nēat に,お二人が「これは何だ?」と困惑する一幕もあり,精読のライブ感が伝わってきます.
 なお,lacolaco さんはご自身の note 過去記事でで deeranimal について整理されていますので,合わせてお読みください.

 ・ 「英語語源辞典通読ノート D (deduce-deictic)」
 ・ 「英語語源辞典通読ノート A (angle-animal)」

 語源辞典を1項目ずつ丁寧に読み解くことで,単なる単語の暗記を超えた英語史のドラマが立ち現れてきますね.ぜひお手元に『英語語源辞典』をご用意の上,または本配信をきっかけに1部入手していただき,この知的な冒険の音源をお楽しみください!


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-07-28 Tue

#6301. beast を『英語語源辞典』で読み解く by 寺澤志帆さん&lacolacoさん [notice][kdee][hel_education][helkatsu][khelf][terasawashiho][voicy][heldio][semantic_change][etymology][french][latin][borrowing][gvs][kenkyusha]



 今朝の Voicy heldio にて「#1885. beast --- 『英語語源辞典』読み解きシリーズ by 寺澤さん&lacolacoさん」を配信しました.先日の「#6298. 好評のうちに完結 --- heldio 『英語語源辞典』読み方シリーズ bear 編」 ([2026-07-25-1]) が好評だったことを受け,heldio での『英語語源辞典』 (=KDEE) の読み解きシリーズを本格的に継続することにしました.
 今回も解説を担当してくれるのは,khelf(慶應英語史フォーラム)のメンバーで「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」を日々連載中の寺澤志帆さんです.そして,もう一方,強力な助っ人にもご参加いただきました.heldio/helwa コアリスナーで「英語語源辞典通読ノート」を執筆されている lacolaco さんです.KDEE 通読・精読のトップランナーのお二人による対談という,実に豪華で魅力的なコラボレーションが実現しました.
 今回注目した単語は beast です.研究社さんのご許可のもと,該当する辞典項目を画像として以下に掲載していますので,ぜひ画像を眺めながら,またお手元に辞書がある方は該当ページを開きながら,じっくりお聴きいただければと思います.


kdee_beast_small.png



 beast の項目の精読・解説は,英語史の深さとおもしろさが凝縮された内容となっています.英語史における初出は1200年より前とされる中英語の文献 Ancrene Riwle に遡ります.まず注目すべきは語義の記述順です.KDEE では「動物」が最初にあがり,続いて「獣;野獣」と記載されています.一般的な英和辞典とは異なり,KDEE では歴史的に古く用いられた意味の順に配列されているため,beast は英語に入ってきた当初,現在の animal に相当する一般的・広義の「動物」を意味していたことが分かります.
 語源としては,中英語の best(e) から大母音推移 (gvs) を経て現代の発音・綴字に至っています.この単語自体は古フランス語 beste (現代フランス語 bête)からの借用であり,それは俗ラテン語 *besta(m) に遡ると考えられ,古典ラテン語 bēstia(m) に対応します.対談では,俗ラテン語(話し言葉)と古典ラテン語(書き言葉)を結ぶ「=」記号の持つ深い意味合いや,凡例の読み解きをめぐり,音源を聴いた私も大いに唸らされる精密な議論が交わされました.
 さらに興味深いのは,beast をめぐる意味変化と「取って代わる関係」のドラマです.beast はもともと古英語の本来語 dēor (現代の deer)に取って代わって一般的名称「動物」の座に就きました.しかし近代英語期になると,今度はラテン語由来の animal にその座を追われ,自身の語義は「野獣,獣」へと限定・縮小していったのです.1611年の近定訳聖書では,まだこの過渡期の様相,すなわち一般の「動物」と「野獣」の両義で使われている状態が観察できます.
  なお,おおもとの印欧祖語としては *dhwes- (息をする)にさかのぼる説も示唆されていますが,これは animal の語根の意味「息をするもの」とも響き合い,言語のロマンを感じさせます.
 語源辞典の記号ひとつにまで目を配る精密な読み解きと,そこから広がる言語変化のダイナミズムを,ぜひ音声でお楽しみください.今回の配信は beast をめぐるお二人の対談の前半戦となりますので,近日公開予定の後半戦もお楽しみに!
 また,寺澤さんの直接の記事「386. beast ―『英語語源辞典』読み解き解説第2弾―」もお読みください.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-07-26 Sun

#6299. 2026度の朝カルシリーズ講座の初回(6月回)「ghost を探って古英語原文の世界へ」のまとめ [asacul][notice][hel_education][oe][oe_text][riddle][semantic_change][lexicology][synonym][spelling][gh][flemish][caxton][kochushoho][gvs][ghost_word][etymology]

 1ヶ月ほど前のことになりますが,6月27日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の春期第3回(シリーズ通算第15回)となるオンライン講座を開きました.シリーズ全体のテーマは「歴史上もっとも不思議な英単語」です.今回は「ghost を探って古英語原文の世界へ」と題し,現代英語で「幽霊」を意味するお馴染みの単語 ghost の波乱に満ちた歴史を深掘りしました.参考テキストには,今期継続して活用している市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を用い,古英語の原文のなかに生きる ghost の姿を味わいました.
 今回の講座で大きく取り上げたのは,ghost の意味変化と名義変化です.現代でこそ「幽霊,死者の霊」という意味が主ですが,古英語の gāst は本来広く「生命の根源;魂,霊魂」全般を指す語でした.しかし,抽象的な「魂」の意味領域を本来語の soul やフランス借用語の spirit に譲り渡した結果,ghost は「恐ろしい死者の霊」という限られたニッチに押し込められることになりました.これに伴い,キリスト教の「聖霊」を意味する名称も,かつての Holy Ghost から,現代語訳聖書で一般的な Holy Spirit へと移り変わったのです.
 発音と綴字の観点からも,ghost はきわめて興味深い変化を示してきました.発音面では,古英語の長母音 /ɑː/ (gāst)が,中英語を経て大母音推移をくぐり抜け,現代の2重母音 /oʊ/ に至るという規則的な発展を遂げています.
 一方,不規則でミステリアスなのが綴字に見られる <gh> です.15世紀,イギリス近代印刷の父 William Caxton がフランドル地方から印刷術を導入した際,オランダ・フラマン系の印刷工たちが,自言語の gheest の綴字習慣を英語の gost に持ち込んだとされています.まさに「タイポグラフィーの幽霊」といえます.また,講義では文献学者 Walter W. Skeat による「幽霊語」 (ghost_word) の話題や,辞書盗用を防ぐ「mountweazel 語」などの脱線話にも触れました.
 講座の後半では,『古英語・中英語初歩』の p. 120 に収められている古英語のなぞなぞ詩 The Riddles の第1詩「嵐」に目を通しました(時間不足で詳しく解説できませんでしたが).自然の猛威を描く力強い詩行のなかに,"flǣsc ond gǣstas" 「肉体と霊魂」という形で ghost の複数形が登場します.現代の「幽霊」とは異なり,肉体と対をなす「生きている魂」として機能していた古英語本来の用法を,受講者の皆さんと直接確認しました.
 さて,朝カル講座は夏期クール(7月--9月)へと入っています.第1回は昨日7月25日に「king を探って古英語原文の世界へ」と題して開講されました.8月以降の回についてご関心のある方は,ぜひ朝カルのこちらの公式ページよりお申込みいただければ.

 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-07-25 Sat

#6298. 好評のうちに完結 --- heldio 『英語語源辞典』読み方シリーズ bear [kdee][etymology][terasawashiho][voicy][heldio][khelf][kenkyusha]



 7月中旬,Voicy heldio にて,khelf(慶應英語史フォーラム)のメンバー寺澤志帆さんを講師としてお招きした全3回のシリーズ「『英語語源辞典』読み方講座」が好評のうちに完結しました.本日の記事では,その振り返りとデータの報告,そして今後の展望についてお話しします.
 まず,配信された3回のラインナップを改めて提示しておきましょう.

 ・ 「#1872. 寺澤志帆さんの『英語語源辞典』読み方講座 (1) --- bear 「産む」の項目を徹底解説」 (2026/07/15)
 ・ 「#1873. 寺澤志帆さんの『英語語源辞典』読み方講座 (2) --- bear 「産む」の項目を徹底解説」 (2026/07/16)
 ・ 「#1874. 寺澤志帆さんの『英語語源辞典』読み方講座 (3) --- bear 「産む」の項目を徹底解説」 (2026-07/17)

 シリーズ初回を紹介した先日の記事「#6288. heldio で khelf 寺澤志帆さんによる3回シリーズ「寺澤志帆さんの『英語語源辞典』読み方講座」が始まりました --- bear 「産む」の項目を徹底解説」 ([2026-07-15-1]) でお知らせした通り,『英語語源辞典』 (kdee) の bear2 「産む」の項目を超精読しながら解説していくという密度の濃い試みを公開しました.
 この3回シリーズの各々について,直近1ヶ月の全 heldio 配信回を対象に Voicy Analytics の数字を確認してみたところ,次のような分析結果が出ました.

 ・ 合計リスナー数:上位約2%以内
 ・ 新規リスナー数:上位5%以内(特に第1回・第3回)
 ・ いいね数:概ね上位2--4%程度

 この数値は,きわめて強い成績です.とりわけ興味深いのは,シリーズ全体としてのリスナーの動態です.第1回で新規リスナーを引き込み,第2回で既存リスナーによるコメント等のエンゲージメントが高まり,そして第3回でもリスナー数を大きく落とすことなく維持できたという点です.
 辞書を精密に読み解くという,すぐれて学術的な企画が,これほど注目を集めたという事実は驚きです.直近1ヶ月で考えれば,本シリーズは heldio の看板企画と呼べる成果を収めたといえます.とりわけ新規リスナーの皆さんが関心を寄せてくださったのが,何より嬉しいニュースです.
 今回のシリーズの好評を受け,『英語語源辞典』を超精読・解説する heldio のシリーズは今後も継続していくことに決定しました! 次回以降の企画では,寺澤さんのみならず,『英語語源辞典』通読挑戦のパイオニアである lacolaco さんの参戦も予定されています.専門的な知見と熱い語源愛が交差する,さらにパワーアップした配信をお届けできるかと思います.ぜひ今後の展開にご期待ください.


寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

Referrer (Inside): [2026-07-28-1]

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2026-07-19 Sun

#6292. 7月25日(土)の朝カル講座「king を探って古英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][hee][etymology][hel_education][helkatsu][heldio][oe][kochushoho][anglo-saxon_chronicle][alfred][viking][suffix][indo-european][word_family][link][voicy][kdee][hee][kenning][beowulf][haplology][phonemicisation][lexicology][lexical_stratification][etymology]


asacul_20260725.png



 7月25日(土) 15:30--17:00 に,今年度4回目となる朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」としては通算第16回目の講義となります.今回はking を探って古英語原文の世界へ」と題して,この大物単語に迫ります.
 現代英語の king は一見すると素朴な日常語ですが,英語史・語源学の観点からその歴史を紐解くと,実にダイナミックで奥深い世界が広がっています.今回の講座では,主に3つの切り口からこの「王」を意味する単語を解読していきます.
 第1のポイントは,印欧語根 *gen(e)- から生み出される広大な語彙の世界です.実は king は,kin (親族)や kind (種類;親切な)などと共通の大きな語根に遡る派生語です.いつものように『英語語源辞典』 や『英語語源ハンドブック』 などの記述を突き合わせながら,印欧語根にまで遡る壮大な単語の家族のつながりを眺めていきます.接尾辞 -ing の歴史についても深掘りします.この辺りは『英語語源辞典』読み方講座に近い内容となります.
 第2のポイントは,古英語期に花開いた「王」の隠喩的複合語,いわゆるケニング (kenning) の世界です.古英語の英雄詩『ベオウルフ』 (beowulf) などを覗くと,王を単に cyning ("king" の古英語形)と呼ぶだけでなく,「指輪をくれる者」 (bēagġyfa) や「黄金の友」 (goldwine) といった詩的な数々の類義語で表現していました.文学的に爛熟した多彩な語彙の魅力を味わいます.
 第3のポイントは,king 周辺の語彙論と同単語の語形変化です.なぜ kingqueen はノルマン征服以降の大量のフランス借用語の波に置き換えられずに生き残ることができたのか,という問題にも触れます.また,かつての古英語の綴字 <c> から中英語の <k> への変化や,軟口蓋鼻音の音素化といった,綴字と発音のダイナミックな変化についても解説します.
 講義の後半には,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)に所収の古英語散文的スト『アングロサクソン年代記』より,アルフレッド大王 (King Alfred) がデーン人(ヴァイキング)との戦いに備えているシーンの短い抜粋部分を読んでみます.丁寧に解説していきますので,古英語初心者の方でも心配要りません.また,上掲書をお持ちでなくても講義資料で関連箇所を引用しますのでご安心ください.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,次回以降の日程と内容は次の通りです.

 ・ 夏期第2回(2026年8月22日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "riddle" を探って古英語原文の世界へ
 ・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ

 いずれの講座につきましても,多くの方の受講をお待ちしております.


 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-07-19 Sun

#6292. 7月25日(土)の朝カル講座「king を探って古英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][hee][etymology][hel_education][helkatsu][heldio][oe][kochushoho][anglo-saxon_chronicle][alfred][viking][suffix][indo-european][word_family][link][voicy][kdee][hee][kenning][beowulf][haplology][phonemicisation][lexicology][lexical_stratification][etymology]


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 7月25日(土) 15:30--17:00 に,今年度4回目となる朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」としては通算第16回目の講義となります.今回はking を探って古英語原文の世界へ」と題して,この大物単語に迫ります.
 現代英語の king は一見すると素朴な日常語ですが,英語史・語源学の観点からその歴史を紐解くと,実にダイナミックで奥深い世界が広がっています.今回の講座では,主に3つの切り口からこの「王」を意味する単語を解読していきます.
 第1のポイントは,印欧語根 *gen(e)- から生み出される広大な語彙の世界です.実は king は,kin (親族)や kind (種類;親切な)などと共通の大きな語根に遡る派生語です.いつものように『英語語源辞典』 や『英語語源ハンドブック』 などの記述を突き合わせながら,印欧語根にまで遡る壮大な単語の家族のつながりを眺めていきます.接尾辞 -ing の歴史についても深掘りします.この辺りは『英語語源辞典』読み方講座に近い内容となります.
 第2のポイントは,古英語期に花開いた「王」の隠喩的複合語,いわゆるケニング (kenning) の世界です.古英語の英雄詩『ベオウルフ』 (beowulf) などを覗くと,王を単に cyning ("king" の古英語形)と呼ぶだけでなく,「指輪をくれる者」 (bēagġyfa) や「黄金の友」 (goldwine) といった詩的な数々の類義語で表現していました.文学的に爛熟した多彩な語彙の魅力を味わいます.
 第3のポイントは,king 周辺の語彙論と同単語の語形変化です.なぜ kingqueen はノルマン征服以降の大量のフランス借用語の波に置き換えられずに生き残ることができたのか,という問題にも触れます.また,かつての古英語の綴字 <c> から中英語の <k> への変化や,軟口蓋鼻音の音素化といった,綴字と発音のダイナミックな変化についても解説します.
 講義の後半には,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)に所収の古英語散文的スト『アングロサクソン年代記』より,アルフレッド大王 (King Alfred) がデーン人(ヴァイキング)との戦いに備えているシーンの短い抜粋部分を読んでみます.丁寧に解説していきますので,古英語初心者の方でも心配要りません.また,上掲書をお持ちでなくても講義資料で関連箇所を引用しますのでご安心ください.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,次回以降の日程と内容は次の通りです.

 ・ 夏期第2回(2026年8月22日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "riddle" を探って古英語原文の世界へ
 ・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ

 いずれの講座につきましても,多くの方の受講をお待ちしております.


 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-06-22 Mon

#6265. 『英語語源ハンドブック』刊行から1年 --- 索引と正誤表の最新版も [notice][hee][etymology][hel_education][helkatsu][link][voicy][heldio]


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 去る6月18日,あの熱狂の発売からちょうど1周年を迎えることとなりました.『英語語源ハンドブック』(研究社)です.
 刊行から1年が経ち,ありがたいことに重版を重ねておりますが,それに伴う正誤表がこちらの研究社公式HPより公開されています.最新版は2026年6月17日に更新されたものとなりますので,お手元の書籍と合わせてご確認いただければ幸いです.
 さらに,本書で言及されている実に4083語もの単語・表現を網羅した索引が,追加資料としてダウンロードできるようになっています.それもこちらの研究社公式HPよりEXCELファイルやPDFフィあるとして入手できます,最新版が,同じく2026年6月17日付けで公開されています.この索引を活用することで,本書の利便性は一層高まるはずです.この索引を用いると,いろいろなことが可能となります.ぜひ「#6084. 『英語語源ハンドブック』の索引の歩き方」 ([2025-12-23-1]) の記事をお読みください.
 最新のリンクを含め,『英語語源ハンドブック』に関する各種情報は,『英語語源ハンドブック』の特設HPに集約されていますので,ぜひ訪れていただければ.
 この1年間,読者の皆さんの手によって,実におもしろく多様な『英語語源ハンドブック』関連コンテンツが制作・公開されてきました.それらの素晴らしい広報活動の足跡も,上記の特設HPに一覧としてまとめられております.皆さんの熱量には本当に脱帽するばかりです.
 関連コンテンツの盛り上がりについては,6月20日に Voicy heldio で配信した「#1847. 『英語語源ハンドブック』発売1周年 --- 読者の皆さんによる関連コンテンツがたくさん」でも詳しくお話ししております.1周年の記念に,ぜひ合わせてお聴きください.
 なお,1周年記念日となる6月18日の夜には,著者3名がオンラインで一堂に会し「居酒屋KKY」を開催しました.その様子は近々に heldio にてオンエアしますので,ご期待ください.
 『英語語源ハンドブック』が,拙著新刊『『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)とともに,多くの人々にとって英語史へのジャンプ台であり続けることを願っています.

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

Referrer (Inside): [2026-08-25-1] [2026-07-05-1]

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2026-06-20 Sat

#6263. 6月27日(土)の朝カル講座「ghost を探って古英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][hee][etymology][hel_education][helkatsu][heldio][me][oe][kochushoho][pchron][adverb][preposition][link][voicy]


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 1週間後の6月27日(土) 15:30--17:00 に,今年度の3回目となる朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の通算第15弾ということで,今回は「ghost を探って古英語原文の世界へ」と題して,皆が気になる単語 ghost を深掘りしていきます.
 現代英語の ghost の最も普通の語義は「幽霊」ですね.この世ではしばしば恐れられている,あの不思議な存在です.しかし,本来は広く「精霊」 (spirit) を表わし,あらゆるものに生命を吹き込むパワーを表わしていましたが,歴史の過程で意味の縮小が起こったことになります.キリスト教の「聖霊」は the Holy Spirit と言いますが,古くは the Holy Ghost と言われたのも,この経緯と関係しています.
 また,発音や綴字の観点からも興味深い事実があります.古英語や中英語では gast のような綴字が普通でした.母音として ā という長母音をもっていたのです.ところが現代では /oʊ/ という2重母音になっていますね.また,後期中英語以降,どこからともなく綴字に <h> の文字が紛れ込み,現代では ghost となっていますね.講座では,<gh> という綴字の様々な謎にも触れていきたいと思っています.その他,動詞としての ghost,「幽霊語」 (ghost_word) の話題,もちろん ghost の語源自体にも触れていきます.
 講座の後半には,本シリーズの「古い英語の原文で味わう」趣旨に沿って,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)より古英語のなかに実際に現われる "ghost" を覗いてみます.丁寧に解説しますので,古英語初心者の方も心配無用です.また,上掲書をお持ちでなくても講座資料として配付しますのでご安心ください.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.
 なお,この先の夏期クールのテーマと日程をお伝えしておきます.夏期もシリーズを継続していきます.そちらの詳細・お申し込みはこちらのページよりどうぞ.

 ・ 夏期第1回(2026年7月25日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "king" を探って古英語原文の世界へ
 ・ 夏期第2回(2026年8月22日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "riddle" を探って古英語原文の世界へ
 ・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ

 いずれの講座につきましても,多くの方の受講をお待ちしております.

(以下,後記:2026/06/22(Mon))
 今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1849. 6月27日(土)の朝カル講座は ghost を深掘り」をお聴きください.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-05-25 Mon

#6237. be についての英語史的雑記 [oe][be][od_dialect][inflection][suppletion][etymology][participle][imperative][oe_dialect]

 be 動詞の話題は,本ブログでも多く取り上げてきた.今回は Lass の古英語に関する手引き書を参照して,とりわけ b- 系列の形態に関する雑記的な洞察を何点か紹介したい.
 まず,be 動詞の諸屈折形の起源による分類を,Lass (170) より引用する.

(a) an s-root (eom, eart, is, sindom = L s-um, e-s, e-s-t, s-unt);
(b) a b-root (bēo, bist, biþ, bēoþ, cognate to Skr bhu- 'remain', Latin perfect of 'be' fū-ī, OCS byti 'be', Gr phú- 'become';
(c) a w-root, in the inifinitive wesan, pres part wesende, preterite wæs, wǣron; this is cognate to OIr feiss/foss 'remain', Skr vásati 'he dwells'. Wesan is a defective cl V verb (as wesan/wæs/wǣron suggest), whose PRET1/PRET2 serve as the only past for the other stems.


 このなかで b- 系列に使用は西ゲルマン語群での発達であり,相対的にいって遅めの系列であるという (Lass 171) .

The incorporation of the b-root into this group seems to be a WGmc innovation.


 また,以下に言及される古英語の現在分詞や過去分詞も b- 系列に属するが,これも古英語期内においてだが,やはり遅咲きだという (Lass 171) .

. . . until the eleventh century the only present participle is wesende, and there is no past participle. After this pres part bēonde and pp be-bēon (> ModE been) appear.


 一方,古英語の b- 系列を含む命令形については,方言分布などもやや複雑で,次のようにある (Lass 171) .

The imperative is usually in b- in earlier texts: sg bēo, pl bēoþ; later wes, wesaþ appear (wes remains buried in wassail < wes hāl 'be healthy'). There is some regional differentiation, with b- imperatives in WS and Merc, and wes Northumbrian, though wes also occurs in WS and Mercian.


 ひるがえって現代標準英語における b- 系列の勢力はどうかというと,歴史的には衰退しているとみることができそうだ (Lass 171) .

The standard ModE system suggests more radical loss of the b-forms than was actually the case; as late as the 1950s some conservative rural varieties in old West Mercian and West Saxon territory (e.g. the W Midlands and West Country) preserve paradigms like I bin, thee bist, Her is (Cheshire and Shropshire), I be, you be, her is, they be (Warwickshire, Somerset), or be for all persons and numbers (Oxfordshire, Buckinghamshire, Somerset).


 b- 系列の形態に焦点を当てた歴史を描いてみるのもおもしろそうだ.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2026-05-16 Sat

#6228. 「again を探って中英語原文の世界へ」 --- 今年度の朝カル英語史シリーズ第2回 [asacul][notice][kdee][hee][etymology][hel_education][helkatsu][heldio][me][oe][kochushoho][pchron][adverb][preposition][link][voicy]


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 1週間後の5月23日(土) 15:30--17:00 に,今年度の2回目となる朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の通算第14弾ということで,今回は「again を探って中英語原文の世界へ」と題して,日常的な副詞 again とその双子の兄弟である前置詞 against に注目します.
 講座では,『英語語源辞典』や『英語語源ハンドブック』を参照しつつ,この単語の語源や意味・形態上の発達を追いかけ,副詞 again と前置詞 against とで棲み分けがなされるようになった背景に迫ります.本来は接頭辞にすぎなかった形態素が,独立した単語となっていくという興味深い歴史をもっているのです.関連して,古英語の前置詞全体についても概観する予定です.
 この単語の発音やスペリングの変化・変異にも注目します.異形が非常に多く,古英語や中英語の辞書ではどの形が見出し語に上がっているのかを予想するのが困難なほどです.
 また,この春期クールでは,2月25日に研究社より刊行された伝説的入門書,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を参考テキストとして活用します.今回はこの入門書に収載されている初期中英語のテキスト Peterborough Chronicle より,again を含む,中世の拷問をおどろおどろしく描写する箇所を少々読んでみたいと思います.
 中英語の原文が初めてという方も心配は要りません.上記参考テキストについても,講座で読む部分については配付資料内で引用しますので,受講に必須ではありませんが,テキストには現代英語訳や辞書も付属していますので,あれば学びが深まると思います.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.See you again!

(以下,後記:2026/05/18(Mon))
 今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1814. 5月23日(土)の朝カル講座は again に注目」をお聴きください.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

Referrer (Inside): [2026-05-20-1]

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2026-05-09 Sat

#6221. 医学専門家と『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)について対談しました [heldio][helwa][review][notice][kenkyusha][etymology][vocabulary][latin][greek][lexicology][scientific_english][word_formation][combining_form][etymology][grimms_law]


野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.



 上掲書については,hellog でも「#6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』」 ([2026-04-27-1]) で紹介しました.そこで少し触れていたように,その後,この本をめぐって,医学専門家で heldio/helwa のコアリスナーの「無職さん」こと,佐久間泰司さんと対談する機会を得ました.そちらの音源を heldio 対談として公開していますので,「#1800. 『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)を片手に「無職さん」と対談」をお聴きください(53分ほどの対談です).



 対談では,専門家である無職さんの視点から,本書の画期的な特徴について多角的に語っていただきました.まず驚かされたのは,従来の医学ラテン語の教本は,格変化などの文法事項から入るものが多く,専門外の学生にはきわめてハードルが高かったという実態です.それに対して本書は,語源 (etymology) と連結形 (combining_form) に特化しており,理系人間にとって非常に馴染みやすく,とっつきやすい構成になっているとのことです.
 医学用語の世界では,解剖学用語はラテン語,疾患名はギリシア語が主流であるという興味深い住み分けについても議論が及びました.無職さんによれば,解剖学用語は国際的にラテン語で統一されている一方,ルネサンス期以降に発達した疾患名などにはギリシア語由来の語彙が流入したという背景があるようです.私のような英語史研究者の視点からは,これらが近代英語期以降の科学語彙の爆発的な増加とどのように関わっているのかという点が最大の関心事となりますが,従来の医学の現場では,これらを単なる記号として「丸暗記」してきたという実情も浮き彫りになりました.
 本書の魅力の一つとして,ギリシア神話に絡めたコラムの充実が挙げられます .例えば眠りの神 Hypnoshypnosis(催眠)の関係など,神話という人間臭い物語から説き起こされる語源解説は,私のような文系人間にとっても読み物としておもしろいものです.無職さんも,こうしたコラムがあることで本を開く心理的障壁が下がり,学習の継続につながると太鼓判を押してくれました.
 一方で,専門家の立場からの要望として,発音記号やアクセント表示の有無,あるいは dent-tooth のような一般語と専門語の結びつきを説明してくれる「グリムの法則」 (grimms_law) の解説があればさらに有意義だったのではないか,といった贅沢なツッコミも飛び出しました.しかし,全体としては,無数の医学用語を要素の足し算で効率よく学べる,これまでにない体系的なハンドブックに仕上がっているという評価で一致しました.
 医学英語はもちろん,科学英語 (scientific_english) や語形成 (word_formation) に興味のある方はもちろん,英語史の観点から語彙の国際性を考えてみたい方にとっても,本書は示唆に富む一冊です.医学関係者ならずとも,ぜひ手に取って,その重厚な語源の世界に触れてみてください.
 また,佐久間さんご自身による関連する note 記事「『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』に見る,医学英語教育の新たな地平」も公開されています.そちらもぜひお読みください.

 ・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.

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2026-05-09 Sat

#6221. 医学専門家と『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)について対談しました [heldio][helwa][review][notice][kenkyusha][etymology][vocabulary][latin][greek][lexicology][scientific_english][word_formation][combining_form][etymology][grimms_law]


野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.



 上掲書については,hellog でも「#6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』」 ([2026-04-27-1]) で紹介しました.そこで少し触れていたように,その後,この本をめぐって,医学専門家で heldio/helwa のコアリスナーの「無職さん」こと,佐久間泰司さんと対談する機会を得ました.そちらの音源を heldio 対談として公開していますので,「#1800. 『医学英単語ハンドブック』(研究社,2026年)を片手に「無職さん」と対談」をお聴きください(53分ほどの対談です).



 対談では,専門家である無職さんの視点から,本書の画期的な特徴について多角的に語っていただきました.まず驚かされたのは,従来の医学ラテン語の教本は,格変化などの文法事項から入るものが多く,専門外の学生にはきわめてハードルが高かったという実態です.それに対して本書は,語源 (etymology) と連結形 (combining_form) に特化しており,理系人間にとって非常に馴染みやすく,とっつきやすい構成になっているとのことです.
 医学用語の世界では,解剖学用語はラテン語,疾患名はギリシア語が主流であるという興味深い住み分けについても議論が及びました.無職さんによれば,解剖学用語は国際的にラテン語で統一されている一方,ルネサンス期以降に発達した疾患名などにはギリシア語由来の語彙が流入したという背景があるようです.私のような英語史研究者の視点からは,これらが近代英語期以降の科学語彙の爆発的な増加とどのように関わっているのかという点が最大の関心事となりますが,従来の医学の現場では,これらを単なる記号として「丸暗記」してきたという実情も浮き彫りになりました.
 本書の魅力の一つとして,ギリシア神話に絡めたコラムの充実が挙げられます .例えば眠りの神 Hypnoshypnosis(催眠)の関係など,神話という人間臭い物語から説き起こされる語源解説は,私のような文系人間にとっても読み物としておもしろいものです.無職さんも,こうしたコラムがあることで本を開く心理的障壁が下がり,学習の継続につながると太鼓判を押してくれました.
 一方で,専門家の立場からの要望として,発音記号やアクセント表示の有無,あるいは dent-tooth のような一般語と専門語の結びつきを説明してくれる「グリムの法則」 (grimms_law) の解説があればさらに有意義だったのではないか,といった贅沢なツッコミも飛び出しました.しかし,全体としては,無数の医学用語を要素の足し算で効率よく学べる,これまでにない体系的なハンドブックに仕上がっているという評価で一致しました.
 医学英語はもちろん,科学英語 (scientific_english) や語形成 (word_formation) に興味のある方はもちろん,英語史の観点から語彙の国際性を考えてみたい方にとっても,本書は示唆に富む一冊です.医学関係者ならずとも,ぜひ手に取って,その重厚な語源の世界に触れてみてください.
 また,佐久間さんご自身による関連する note 記事「『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』に見る,医学英語教育の新たな地平」も公開されています.そちらもぜひお読みください.

 ・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.

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2026-04-27 Mon

#6209. 4月23日,研究社から英語語源本が2冊 --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『医学英単語ハンドブック』 [notice][kenkyusha][review][hee][etymology][vocabulary][latin][greek][renaissance][heldio][combining_form][word_formation][lexicology][scientific_english][neologism]

 4月23日に,研究社より英単語の語源に関する書籍が同時に2冊発売されました.研究社からは,昨年6月に,いまもご好評いただいている『英語語源ハンドブック』が出ていますので,この1年の間に3冊も「英語語源本」が上梓されたことになります.英語語源が活況を呈しているといってよいでしょう.
 新しく刊行されたのは次の2冊です.いずれも公式ページから「試し読み」できます.

 ・ 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』(試し読みあり)
 ・ 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』(試し読みあり)

 以下,各々について簡単にご紹介します.


『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』



 まずは池田和夫氏による『語根で覚えるコンパスローズ英単語〈新装版〉』です.本書は2019年に刊行され好評を博した旧版の装いを新たにしたもので,その名の通り「語根」にフォーカスした単語集です.ベースとなっているのは同社の『コンパスローズ英和辞典』の語源コラムですが,本書ではそこに200以上の項目が大幅に加筆されており,計300の「(最)重要語根」が網羅されています.
 特筆すべきは,語彙学習における語源の実用性を数値で示している点です.1001語レベル以上の単語の7割以上は語源知識が役立つとされており,とりわけ中上級者にとってのボキャビルには語根学習が極めて有効であることが強調されています.音声ダウンロードサービスや,お馴染みの「赤シート」も完備されており,受験対策から一般の学び直しまで幅広く対応する,まさに語源学習の完成版といえる一冊です.


野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.



 続いて,木下晃吉氏(監修),野中泉氏・森田勝之氏(編著)による『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』です.一見すると専門的な医学徒向けの書に見えますが,英語史の観点からも興味深い一冊です.医学英単語は,ルネサンス期以降に大量に流入してきたラテン語・ギリシア語の要素の宝庫であり,いわば「連結形」 (combining_form) の見本市のような世界だからです.
 本書の構成は言語学の観点からも医学の観点からも論理的です.「接頭辞+語根+接尾辞」というパーツ分解の解説に始まり,後半では「Body System 別」(脳神経,呼吸器など)」に語彙が整理されています.専門用語が多用される実用的で長めの例文も付されており,音声ダウンロードを活用することで,難解な合成語のアクセントも効率的に習得できるよう工夫されています.付録の「処方箋用語」などは,医学の門外漢の私にとっては,新鮮な切り口でした.また,編著者の目線に立ち,医学語彙を導入する複数の切り口を,本のなかにいかに配置していくかという問題について考えてみたのも,おもしろい体験となりました.医学については何も分からない私ですが,情報量の多い,密度の高い医学英単語ハンドブックであることは確認できました.

 以上,2冊を簡単にご紹介しました.4月24日には,heldio でも「#1790. 研究社より2冊の英語語源本が出ました --- 『コンパスローズ英単語〈新装版〉』と『語源で学ぶ医学英単語ハンドブック』」と題する配信回でお話ししていますので,そちらも合わせてお聴きいただければ幸いです.また,とりわけ『医学英単語ハンドブック』については,近々に本書をめぐる対談も heldio 配信を予定していますので,ぜひご期待ください.
 そして,『英語語源ハンドブック』もお忘れなく!

 ・ 池田 和夫 『語根で覚える コンパスローズ英単語〈新装版〉』 研究社,2026年.
 ・ 野中 泉(編著)・森田 勝之(編著)・木下 晃吉(監修) 『語源で学ぶ 医学英単語ハンドブック』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

Referrer (Inside): [2026-05-09-1]

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2026-04-18 Sat

#6200. 今年度の朝カル英語史シリーズが始まります --- 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』も参照します [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][link][voicy][heldio][me][oe][kochushoho]


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 新年度が始まりました.今年度も「英語史をお茶の間に」広げていく活動「hel活」 (helkatsu) を精力的に展開してまいります.hellog 読者の皆様も,ぜひそれぞれの現場でhel活を推進していただければ幸いです.
 昨年に引き続き,今年度の私のhel活の柱の1つとなるのが,恒例の朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座です.シリーズ全体のタイトルは昨年のものを継承し「歴史上もっとも不思議な英単語」のままですが,少なくともこの春期クールについては「語源を探って古英語・中英語原文の世界へ!」という副題を添えて,少々装いを新たにスタートします.
 昨年度は,1つの単語を掘り下げることで英語史のパノラマを展望するというスタイルでした.今期もその精神は受け継ぎつつ,そこに「原文の味読」という付加価値を加えたいと考えています.具体的には,去る2月25日に研究社より刊行された伝説的入門書,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を参考テキストとして活用します.
 春期クールの公式の案内文は以下の通りです.

「なぜこの英単語は,こんな意味や使い方をするのか」.その答えは,現代英語の外にあります.春期は,古英語・中英語の短い原文を入口として,英単語の不思議な歴史を探ります.名名文を丁寧に読み解いたうえで,そこから英語史の話題へと縦横に広げていきます.原文に構えず,英語史の物語として楽しめる講座です.(注:市河三喜・松浪有『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を参考テキストとし,そこから原文を選んで味読します.)


 本講座の最大の特徴は,単なる語源解説にとどまらず,その語が実際に過去の文献でどのように息づいていたのかを,実際のテキストを通じて体験していただく点にあります.もちろん,これまで通り『英語語源辞典』や『英語語源ハンドブック』も頻繁に参照しながら,語源の深淵に迫っていきます.
 春期クールは毎月1回,土曜日の 15:30--17:00 に開講されます.オンライン限定の講義ですので,全国どこからでもご参加いただけますし,2週間の見逃し配信もございます.予定されているラインナップは以下の通りです.

 1. 4月25日(土):knight を探って中英語原文の世界へ
 2. 5月23日(土):again を探って中英語原文の世界へ
 3. 6月27日(土):ghost を探って古英語原文の世界へ

 1週間後に開講される第1回は,中世騎士道でおなじみの knight を取り上げます.元々は「少年」や「従者」を意味していたこの語が,いかにして高貴な身分を指すようになったのか,中英語の原文に触れながらその意味変化を辿ります.
 第2回は,日常語の again です.何の変哲もないように見えるこの語には,副詞や前置詞としての用法にとどまらず,多くの話題が隠されています.中英語期のテキストではどのように綴られ,用いられていたのでしょうか.
 第3回は,現代では「幽霊」を指す ghost です.古英語期には「精神」や「魂」を意味していたこの語の変遷を,当時の格調高い原文とともに味わいましょう.

 古英語や中英語の原文と聞くと,難しそうに聞こえるかもしれませんが,心配は無用です.「英語史の物語」を楽しむための材料として,私がナビゲートします.講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.
 本シリーズの開講に向けて,Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1778. 4月25日(土)『古中初歩』による新年度の朝カルシリーズが始まります」をお聴きください.新年度,皆様と一緒に,原文とともに英語史の森を散策していくことを楽しみにしています.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-03-17 Tue

#6168. 「音位転換」で大喜利をしました [word_play][metathesis][consonant][vowel][r][etymology][notice][hel_ogiri]


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 3月5日に第4回英語史大喜利 (hel_ogiri) をX上で開催しました.今回は,音位転換 (metathesis) の例を寄せてくださいというお題でした.正規の並びの2つの音が,言い間違いの結果ひっくり返ってしまったものの,その並びが後に標準的になってしまったという「嘘から出た誠」のような事例です.言い間違いという人間の避けがたい性質によって新たな語形が生まれてしまうというのは,共感を誘うののか,言語変化のなかでも人気のあるトピックです.
 しかし,だからといって面白い例,上手い例がたくさん挙がってくるかといえば,そう簡単なお題でもありません.典型的で教科書的な例はいくつか挙がってきますが,その後が続かないものです.私も大喜利に参加したのですが,限界を感じました.しかし,多くの参加者がもがきながら例を探し,リプライや引用リポストを通じてそれをシェアしてくださったおかげで,おもしろいものが続々と寄せられてきました.以下に,まとめておきたいと思います.

 ・ aks/ask
 ・ beorht → bright
 ・ brand/burn
 ・ brid → bird
 ・ cocodrile → crocodile
 ・ fersc → fresh
 ・ forst → frost (cf. freeze)
 ・ gærs → grass
 ・ hros → horse
 ・ iern(an), yrn(an) → run
 ・ mansk → Manx
 ・ nutrition, nutriment/nurture
 ・ patron → pattern
 ・ purpose/propose
 ・ tax/task
 ・ three/third
 ・ thirl → thrill
 ・ þurh → through
 ・ wæps → wasp
 ・ wal (whale) + ros (horse)
 ・ worht(e) → wrought (cf. work)

 crocodile に関しては「#5999. crocodile の英語史 --- 『シップリー英語語源辞典』の意外な洞察」 ([2025-09-29-1]) を参照してください.
 なお,最初に寄せられた投稿は,り~みんさんによる以下の複雑な事例でした.

lamella (ラテン語)
 ↓ 借入
la lemelle (フランス語)
 ↓ 異分析
l'alemelle
 ↓ 接尾辞(指小辞)の交替
l'alemette
 ↓ 音韻転換 ★ココ★
l'amelette
 ↓ 母音変化
l'omelette
 ↓ 借入
omelette (英語)


 本記事と同じ趣旨で,3月14日の heldio にて「#1749. 音位転換大喜利 --- たくさん集まってきました」をお届けしましたので,ぜひそちらもお聴きいただければ.


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2026-03-01 Sun

#6152. 「偽装複合語」で大喜利をしました [word_play][disguised_compound][lexicology][compound][etymology][notice][kochushoho][kenkyusha][kochukoneta30][hel_ogiri]

 2月16日(月)に私の X アカウント @chariderryu にて,第3回英語史大喜利 (hel_ogiri) を開催しました.今回のお題は,おもしろい偽装複合語 (disguised_compound) を寄せてくださいというものでした.ちょうど『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』のカウントダウン企画「古中英語30連発」の No. 22 として「daisy 「ヒナギク」の語源が古英語の dæges ēage "day's eye" だと知っていましたか?」と投稿した直後に,今回の大喜利も開催しました.
 大喜利開催の協力者でもある heldio/helwa リスナーの ari さんのユーモラスな入れ知恵により,今回の大喜利は,遊び心を込めて「ごん,お前だったのか」選手権と命名されました.ネタ披露のフォーミュラとして,次の「ごん構文」が X 上に飛び交いました.

 ・ Daisy 「ごん,お前… Day (日) の Eye (目) だったのか…」


 過去2回の大喜利に比べ,かなり難易度の高いお題でしたが,英語語源の猛者たちが多くの良質な例を寄せてくださいました.いつものように私の独断と偏見で,おもしろかったもの,勉強になったものをいくつか掲載します.

 ・ Gospel 「ごん,お前… Good (良い) Spell (知らせ) だったのか…」
 ・ Curfew 「ごん,お前… Cover (消す) Fire (火) だったのか…」
 ・ But 「ごん,お前… By (そばに) Out (外に) だったのか…」
 ・ About 「ごん,お前… On (上に) By (そばに) Out (外に) だったのか…」
 ・ Kitchen 「ごん,お前… Cook (料理する) の -ina (場所) だったのか…」
 ・ Don 「ごん,お前… Do (する,置く) の On (上に) だったのか…」
 ・ Lapwing 「ごん,お前… Leap (跳ねる) Wink (ウィンク) だったのか…」
 ・ Answer 「ごん,お前… And (に対して) Swear (誓う) だったのか…」
 ・ Worship 「ごん,お前… Worth (価値) -ship (があること) だったのか…」
 ・ Chameleon 「ごん,お前… Khamaí (地を這う) Léōn (獅子) だったのか…」
 ・ Zebra 「ごん,お前… Equus (馬) Ferus (野生) だったのか…」
 ・ Giraffe 「ごん,お前… Zurnā (ラッパ) Pāy (足) だったのか…」
 ・ Pyjamas 「ごん,お前… Pāy (足) Jāma (服) だったのか…」
 ・ Philip 「フィリップ,お前… Philéō (好き) Híppos (馬) だったのか…」
 ・ Barn 「ごん,お前… Bere (大麦) Ærn (家屋) だったのか…」


 そして,ari さんが,まさかの掟破りのフォーマットで11連発

その bridal は eleven の決まりがあった.11時,neighbor の Marshal が alarm を鳴らすと,一匹の squirrel が vinegar と garlic 塗れの handkerchief を奪い去った.この dismal な光景こそが,求婚に対する彼女の明確な answer だった.


 こんなにたくさん例が集まるとは! ぜひ英単語語源学習とボキャビルにご活用ください.
 皆さんから寄せていただいたのは,大部分が英語からの例でしたが,以下は寄せていただいた日本語からの例です.日本語を主とすると大変なことになりそうですね.

 ・ 聖(ひじり) 「ごん,お前… 日 (ひ) 知り (しり) だったのか…」
 ・ 社(やしろ) 「ごん,お前… 屋 (や) 代 (しろ) だったのか…」
 ・ 仏(ほとけ) 「ごん,お前… 浮屠 (ふと=ブッダ) 家 (け) だったのか…」(諸説あり)


 本記事と同じ趣旨で,2月27日の heldio にて「 #1734. 「偽装複合語大喜利」 --- 皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.ぜひそちらもお聴きください.


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