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personal_pronoun - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-12 07:24

2024-10-07 Mon

#5642. 所有代名詞には -s と -ne の2タイプがある [personal_pronoun][genitive][inflection][suffix][me][analogy][french]

 現代英語の人称代名詞には「~のもの」を独立して表わせる所有代名詞 (possessive pronoun) という語類がある.列挙すれば mine, yours, his, hers, ours, theirs の6種類となる.ここに古めかしい2人称単数の thou に対応する所有代名詞 thine を加えてもよいだろう.また,3人称単数中性の it に対応する所有代名詞は欠けているとされるが,これについては「#198. its の起源」 ([2009-11-11-1]) および「#197. its に独立用法があった!」 ([2009-11-10-1]) を参照されたい.
 多くは -s で終わり,所有格の -'s との関係を想起させるが,minethine については独特な -ne 語尾がみえ目立つ.この -ne はどこから来ているのだろうか.
 所有代名詞の形態の興味深い歴史については,Mustanoja (164--65) が INDEPENDENT POSSESSIVE と題する節で解説してくれているので,そちらを引用しておきたい.

          INDEPENDENT POSSESSIVE

   FORM: --- As mentioned earlier in the present discussion (p. 157), the dependent and independent possessives are alike in OE and early ME. In the first and second persons singular (min and thin) the dependent possessive loses the final -n in the course of ME, but the independent possessive, being emphatic, retains it: --- Robert renne-aboute shal nowȝe have of myne (PPl. B vi 150). In the South and the Midlands, -n begins to be attached to other independent possessives as well (hisen, hiren, ouren, youren, heren) after the analogy of min and thin about the middle of the 14th century: --- restore thou to hir alle thingis þat ben hern (Purvey 2 Kings viii 6). In the third person singular and in the plural, forms with -s (hires, oures, youres, heres, theirs) emerge towards the end of the 13th century, first in the North and then in the Midlands: --- and youres (Havelok 2798); --- þai lete þairs was þe land (Cursor 2507, Cotton MS); --- my gold is youres (Ch. CT B Sh. 1474); --- it schal ben hires (Gower CA v 4770). In the southern dialects forms without -s prevail all through the ME period: --- your fader dyde assaylle our by treyson (Caxton Aymon 545).
   The old dative ending is preserved in vayre zone, he zayþ, 'do guod of þinen' (Ayenb. 194).

   Imitations of French Usage. --- The use of the definite article before an independent possessive, recorded in Caxton, is obviously an imitation of French le nostre, la sienne: --- to approvel better the his than that other (En. 23); --- that your worshypp and the oures be kepte (Aymon 72).
   The occurrence of the independent possessive pronoun (and the rare occurrence of a noun in the genitive) after the quasi-preposition magré 'in spite of' is a direct imitation of OF magré mien (tien, sien, etc.): --- and God wot that is magré myn (Gower CA iv 59); --- maugré his, he dos him lute (Cursor 4305, Cotton MS). Cf. NED maugre, and R. L. G. Ritchie, Studies Presented to Mildred K. Pope, Manchester 1939, p. 317.


 所有代名詞に関する話題は,以下の hellog 記事でも取り上げているので,合わせてご参照を.

 ・ 「#2734. 所有代名詞 hers, his, ours, yours, theirs の -s」 ([2016-10-21-1])
 ・ 「#2737. 現代イギリス英語における所有代名詞 hern の方言分布」 ([2016-10-24-1])
 ・ 「#3495. Jespersen による滲出の例」 ([2018-11-21-1])

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2024-10-01 Tue

#5636. 9月下旬,Mond で10件の疑問に回答しました [mond][sobokunagimon][hel_education][notice][link][helkatsu][adjective][slang][derivation][demonym][perfect][grammaticalisation][h][word_order][syntax][final_e][subjectification][intersubjectification][personal_pronoun][gender]

mond_20240930.png



 10月が始まりました.大学の新学期も開始しましたので,改めて「hel活」 (helkatsu) に精を出していきたいと思います.9月下旬には,知識共有サービス Mond にて10件の英語に関する質問に回答してきました.今回は,英語史に関する素朴な疑問 (sobokunagimon) にとどまらず進学相談なども寄せられました.新しいものから遡ってリンクを張り,回答の要約も付します.

 (1) なぜ英語にはポジティブな形容詞は多いのにネガティヴな形容詞が少ないの?
   回答:英語にはポジティヴな形容詞もネガティヴな形容詞も豊富にありますが,教育的配慮や社会的な要因により,一般的な英語学習ではポジティヴな形容詞に触れる機会が多くなる傾向がありそうです.実際の言語使用,特にスラングや口語表現では,ネガティヴな形容詞も数多く存在します.

 (2) 地名と形容詞の関係について,Germany → German のように語尾を削る物がありますが?
   回答:国名,民族名,言語名などの関係は複雑で,どちらが基体でどちらが派生語かは場合によって異なります.歴史的な変化や自称・他称の違いなども影響し,一般的な傾向を指摘するのは困難です.

 (3) 現在完了の I have been to に対応する現在形 *I am to がないのはなぜ?
   回答:have been to は18世紀に登場した比較的新しい表現で,対応する現在形は元々存在しませんでした.be 動詞の状態性と前置詞 to の動作性の不一致も理由の一つです.「現在完了」自体は文法化を通じて発展してきました.

 (4) 読まない語頭以外の h についての研究史は?
   回答:語中・語末の h の歴史的変遷,2重字の第2要素としてのhの役割,<wh> に対応する方言の発音,現代英語における /h/ の分布拡大など,様々な観点から研究が進められています.h の不安定さが英語の発音や綴字の発展に寄与してきた点に注目です.

 (5) 言語による情報配置順序の特徴と変化について
   回答:言語によって言語要素の配置順序に特有の傾向があり,これは語順,形態構造,音韻構造など様々な側面に現われます.ただし,これらの特徴は絶対的なものではなく,歴史的に変化することもあります.例えば英語やゲルマン語の基本語順は SOV から SVO へと長い時間をかけて変化してきました.

 (6) なぜ come や some には "magic e" のルールが適用されないの?
   回答:comesome などの単語は,"magic e" のルールとは無関係の歴史を歩んできました.これらの単語の綴字は,縦棒を減らして読みやすくするための便法から生まれたものです.英語の綴字には多数のルールが存在し,"magic e" はそのうちの1つに過ぎません.

 (7) Let's にみられる us → s の省略の類例はある? また,意味が変化した理由は?
   回答:us の省略形としての -'s の類例としては,shall'sshall us の約まったもの)がありました.let's は形式的には us の弱化から生まれましたが,機能的には「許可の依頼」から「勧誘」へと発展し,さらに「なだめて促す」機能を獲得しました.これは言語の主観化,間主観化の例といえます.

 (8) 英語にも日本語の「拙~」のような1人称をぼかす表現はある?
   回答:英語にも謙譲表現はありますが,日本語ほど体系的ではありません.例えば in my humble opinionmy modest prediction などの表現,その他の許可を求める表現,著者を指示する the present author などの表現があります.しかし,これらは特定の語句や慣用表現にとどまり,日本語のような体系的な待遇表現システムは存在しません.

 (9) 英語史研究者を目指す大学4年生からの相談
   回答:大学卒業後に社会経験を積んでから大学院に進学するキャリアパスは珍しくありません.教育現場での経験は研究にユニークな視点をもたらす可能性があります.研究者になれるかどうかの不安は多くの人が抱くものですが,最も重要なのは持続する関心と探究心,すなわち情熱です.研究会やセミナーへの参加を続け,学びのモチベーションを保ってください.

 (10) 英語の人称代名詞における性別区分の理由と新しい代名詞の可能性は?
   回答:1人称・2人称代名詞は会話の現場で性別が判断できるため共性的ですが,3人称単数代名詞は会話の現場にいない人を指すため,明示的に性別情報が付されていると便利です.現代では性の多様性への認識から,新しい共性の3人称単数代名詞が提案されていますが,広く受け入れられているのは singular they です.今後も要注目の話題です.

 以上です.10月も Mond より,英語(史)に関する素朴な疑問をお寄せください.

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2024-07-16 Tue

#5559. 古英語の形容詞の弱変化・強変化屈折はどこから来たのか? [oe][adjective][inflection][germanic][noun][personal_pronoun][suffix][indo-european][terminology]

 「#2560. 古英語の形容詞強変化屈折は名詞と代名詞の混合パラダイム」 ([2016-04-30-1]) でみたように,古英語の形容詞の屈折には統語意味的条件に応じて弱変化 (weak declension) と強変化 (strong declension) が区別される.
 それぞれの形態的な起源は,先の記事で述べた通りで,名詞の弱変化と強変化にストレートに対応するわけではなく,やや込み入っている.形容詞の弱変化は,確かに名詞の弱変化と対応する.n-stem や子音幹とも言及される通り,屈折語尾に n 音が目立つ.Fertig (38) によると,弱変化の屈折語尾は,もともとは個別化機能 (= "individualizing function") を有する派生接尾辞に端を発するという.個別化して「定」を表わすからこそ,ゲルマン語派では "definiteness" と結びつくようになったのだろう.
 一方,形容詞の強変化の屈折語尾は,必ずしも名詞の強変化のそれに似ていない.むしろ,形態的には代名詞のそれに類する.いかにして代名詞的な屈折語尾が形容詞に侵入し,それを強変化となしたのかはよく分からない.しかし,これによって形容詞が形態的には名詞と一線を画する語類へと発展していったことは確かだろう.
 Fertig (39--40) より,関連する説明を引いておこう.

   Originally, the function of this new distinction in Germanic involved definiteness (recall the original 'individualizing' function of the -en suffix in Indo-European): strong = indefinite, blinds guma 'a blind man'; weak = definite, blinda guma 'the blind man').
   The other Germanic innovation which may not be entirely separable from the first one, is that many of the endings on the strong forms of adjectives do not correspond to strong noun forms, as they had in Indo-European. Instead, they correspond largely to pronominal forms . . . .


 古英語の名詞,形容詞,そして動詞でいうところの「弱変化」と「強変化」は,それぞれ意味合いが異なることに改めて注意したい.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2024-02-21 Wed

#5413. ゲルマン祖語と古英語の1人称単数代名詞 [comparative_linguistics][personal_pronoun][pronoun][person][germanic][reconstruction][paradigm][oe][indo-european][rhotacism][analogy][sound_change]

 Hogg and Fulk (202--203) を参照して,ゲルマン祖語 (Proto-Germanic) と古英語 (Old English) の1人称単数代名詞の格屈折を並べて示す.

 PGmcOE
Nom.*ik
Acc.*mek
Gen.*mīnōmīn
Dat.*miz



 表の左側の PGmc の各屈折が,いかにして右側の OE の形態へ変化したか.ここにはきわめて複雑な類推 (analogy や音変化 (sound_change) やその他の過程が働いているという.Hogg and Fulk (203) の解説をそのまま引用しよう.

nom.sg.: *ik must have been the unstressed form, with analogical introduction of its vowel into the stressed form, with only ON ek showing retention of the original stressed vowel amongst the Gmc languages (cf. Lat egō/ǒ).
acc.sg.: *mek is the stressed form; all the other Gmc languages show generalization of unstressed *mik. The root is *me-, with the addition of *-k borrowed from the nom. The form could be due to loss of *-k when *mek was extended to unstressed positions, with lengthening of the final vowel when it was re-stressed . . . . More likely it represents replacement of the acc. by the dat. . . . as happened widely in Gmc and IE . . . .
gen.sg.: To the root *me- was added the adj. suffix *-īn- (cf. stǣnen 'made of stone' < *stain-īn-a-z . . .), presumably producing *mein- > *mīn- . . . . To this was added an adj. ending, perhaps nom.acc.pl. neut. *-ō, as assumed here.
dat.sg.: Unstressed *miz developed in the same way as *hiz . . . .


 最後のところの PGmc *miz が,いかにして OE になったのかについて,Hogg and Fulk (198) を参照して補足しておこう.これはちょうど3人称男性単数主格の PGmc *hiz が OE * へ発達したのと平行的な発達だという.*hizz による下げの効果で *hez となり,次に語末子音が rhotacism を経て *her となった後に消失して *he となり,最後に強形として長母音化した に至ったとされる.
 人称代名詞は高頻度の機能語として強形と弱形の交替が激しいともいわれるし,次々に新しい強形と弱形が生まれ続けるともされる.上記の解説を事情を概観するだけでも,比較言語学の難しさが分かる.関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#1198. icI」 ([2012-08-07-1])
 ・ 「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1])
 ・ 「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1])
 ・ 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1])
 ・ 「#3776. 機能語の強音と弱音 (2)」 ([2019-08-29-1])

 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2024-02-16 Fri

#5408. 3人称代名詞はゲルマン祖語の共通基語に遡れない [indo-european][comparative_linguistics][personal_pronoun][pronoun][person][germanic][german][reconstruction]

 英語の3人称代名詞 he, she, it, they (各々は主格の形)の屈折体系は現代でも複雑なほうだが,歴史的にも相当にかき混ぜられてきた経緯がある.対応する古英語の主格形を挙げれば,それぞれ , hēo, hit, hīe となるが,見た目だけでも現代との差が大きいことが分かる (cf. 「#155. 古英語の人称代名詞の屈折」 ([2009-09-29-1])).
 ゲルマン諸語の人称代名詞体系を比べると,全体として類似しているとはいえ,とりわけ3人称の個々の格形については,必ずしも同一の語源に遡るわけではない.ましてや印欧祖語まで遡らせることもできない.つまり,1つの共通基語を再建することができないということになる.3人称代名詞は,この点で1,2人称代名詞や,指示詞,疑問詞などとは事情が異なる.Lass (139) より関連する説明を引用しよう.

Proto-Germanic did not inherit a fully coherent pronoun or determiner system; nothing quite like this reconstructs even for Proto-IE. Rather the collections labelled 'pronouns' or 'articles' or 'demonstratives' in the handbooks represent dialect-specific selections out of a mass of inherited forms and systems. There are clear IE first-, second-person pronoun systems: we can easily identify a first-person nom sg root */H1egh-/ (l eg-o, Go ik, OE ic 'I') and a second-person root in */t-/ (L tu, OCS ty, OE þū). There is also an interrogative in */kw-/ (L qu-is, OE hw-ā 'who?') and a deictic in */to-/ (Go to 'def art, masc nom sg', OE þæ-s 'def art m/n gen sg'). There is no reconstructable third-person pronoun, however. The personal pronouns may be heterogeneous even across Germanic: Go is, OE 'he' are not cognate. But overall the main systems are related, at least in outline.


 これは何を意味するのだろうか? 3人称代名詞が他よりも後発であることを示唆するのだろうか? 冒頭に述べたように,英語史では歴史時代に限っても同語類は大きくかき混ぜられてきたという経緯がある.ということは,言語間・方言間の借用や体系内組み替えが頻繁な語類であるということなのだろうか?

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2023-10-15 Sun

#5284. 単数の we --- royal we, authorial we, editorial we [personal_pronoun][pronoun][singular_they]

 昨今,英文法では「単数の they」 (singular_they) が話題に上ることが多いが,「単数の we」については聞いたことがあるだろうか.伝統的な英文法で "royal we", "authorial we", "editorial we" などとして知られてきた用法である.
 OED, we, pron., n., adj. の I.2 に関係する2つの語義と例文が記されている.いずれも古英語から確認される(と議論しうる)古い用法である.最初期の数例とともに引用する.

I.2. Used by a single person to denote himself or herself.

I.2.a. Used by a sovereign or ruler. Frequently defined by the name or title added.
The apparent Old English instances of this use are uncertain, and may rather show an inclusive plural use of the pronoun; see further B. Mitchell Old Eng. Syntax (1985) §252.

OE Witodlice we beorgað þinre ylde, gehyrsuma urum bebodum & geoffra þam undeadlicum godum. (Ælfric, Catholic Homilies: 1st Series (Royal MS.) (1997) xxix. 420)
OE Beowulf maþelode..: 'We þæt ellenweorc estum miclum, feohtan fremedon.' (Beowulf (2008) 958)
1258 We hoaten all vre treowe in þe treowþe þet heo vs oȝen þet heo stedefesteliche healden and swerien. (Proclam. Henry III (Bodleian MS.) in Transactions of Philological Society 1880-1 (1883) *173 (Middle English Dictionary))
. . . .

I.2.b. Used by a speaker or writer, in order to secure an impersonal style and tone, or to avoid the obtrusive repetition of 'I'.
N.E.D. (1926) states: 'Regularly so used in editorial and unsigned articles in newspapers and other periodicals, where the writer is understood to be supported in his opinions and statements by the editorial staff collectively.' This practice has become less usual during the 20th cent. and is limited to self-conscious and humorous contexts.

eOE Nu hæbbe we scortlice gesæd ymbe Asia londgemæro. (translation of Orosius, History (British Library MS. Add.) (1980) i. i. 12)
OE We mihton þas halgan rædinge menigfealdlicor trahtnian. (Ælfric, Catholic Homilies: 1st Series (Royal MS.) (1997) xxxvi. 495)
?a1160 Nu we willen sægen sum del wat belamp on Stephnes kinges time. (Anglo-Saxon Chronicle (Laud MS.) (Peterborough contin.) anno 1137)


 we の指示対象は何か,あるいは含意対象は何か,という問題になってくるだろう.この点では昨日の記事「#5283. we の総称的用法は古英語から」 ([2023-10-14-1]) で取り上げた we の用法に関する問題にもつながってくる.
 今回取り上げた we の単数用法については,「#1126. ヨーロッパの主要言語における T/V distinction の起源」 ([2012-05-27-1]),「#3468. 人称とは何か? (2)」 ([2018-10-25-1]),「#3480. 人称とは何か? (3)」 ([2018-11-06-1]) でも少し触れているので参考まで.

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2023-10-14 Sat

#5283. we の総称的用法は古英語から [pronoun][personal_pronoun][generic][indefinite_pronoun]

 「#5171. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法」 ([2023-06-24-1]) や「#5181. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法 (2)」 ([2023-07-04-1]) などの記事で取り上げてきた人称代名詞の総称的用法 (generic) について.今回は1人称複数代名詞 we の総称的用法の最初期の例を示したい.
 まず,OED, we, pron., n., adj. の I.1.d の語義がこの用法に相当する.語義説明には "Used indefinitely in general statements in which the speaker or writer includes those addressed, i.e. his or her contemporaries, compatriots, fellow human beings, etc." とある.初例は古英語からのもので,続く中英語からの数例とともに早い事例を挙げてみる.

 ・ OE On ðisum wræcfullum life we sceolon earmra manna helpan. (Ælfric, Catholic Homilies: 1st Series (Royal MS.) (1997) xxix. 258)
 ・ a1275 Þe louerd of monkinne of hire was yboren to bringen us hut of Sunne, elles wue weren for-lore. (in C. Brown, English Lyrics of 13th Century (1932) 55)
 ・ a1400 (a1325) Giue we ilkan þare langage, Me think we do þam non outrage. (Cursor Mundi (Vespasian MS.) l. 247 (Middle English Dictionary))
 ・ c1405 (c1385) We seken faste after felicitee But we goon wrong ful ofte trewely Thus may we seyn alle and nameliche .I. (G. Chaucer, Knight's Tale (Hengwrt MS.) (2003) l. 408)

 古英語から事例があるというのは思いのほか早いとも考えられるが,一方で当然のようにも思われてきた.このような例を眺めていて思うのは,ここで we が通常の「私たち」の語義ではなく,不定・総称の語義で用いられていると解釈する根拠は何かということだ.後者は前者の拡張であり,その点で両語義は連続体を構成する.したがって,各々の例文においていずれの語義が用いられているかという判断は難しいばかりか,往々にして不可能ですらある.
 鍵は we そのものではなく,OED の語義説明でも示唆されている通り,むしろ不定・総称的な「文脈」なのだろう.文の命題が一般性を帯びているものであれば,そこに用いられている we も総称的な用法を帯びてくる,ということではないだろうか.つまり,意味論的というよりは語用論的な次元の問題ということだ.同じことは you, they の総称的用法にも言えるはずだ.

Referrer (Inside): [2023-10-15-1]

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2023-10-13 Fri

#5282. Jespersen の「近似複数」の指摘 [plural][number][numeral][personal_pronoun][personal_name][plural_of_approximation][semantics][pragmatics]

 昨日の記事「#5281. 近似複数」 ([2023-10-12-1]) で話題にした近似複数 (plural_of_approximation) について,最初に指摘したのは Jespersen (83--85) である.この原典は読み応えがあるので,そのまま引用したい.

          Plural of Approximation
   4.51 The sixties (cf. 4.12) has two meanings, first the years from 60 to 69 inclusive in any century; thus Seeley E 249 the seventies and the eighties of the eighteenth century | Stedman Oxford 152 in the "Seventies" [i.e. 1870, etc.] | in the early forties = early in the forties. Second it may mean the age of any individual person, when he is sixty, 61, etc., as in Wells U 316 responsible action is begun in the early twenties . . . Men marry before the middle thirties | Children's Birthday Book 182 While I am in the ones, I can frolic all the day; but when I'm in the tens, I must get up with the lark . . . When I'm in the twenties, I'll be like sister Joe . . . When I'm in the thirties, I'll be just like Mama.
   4.52. The most important instance of this plural is found in the pronouns of the first and second persons: we = I + one or more not-I's. The pl you (ye) may mean thou + thou + thou (various individuals addressed at the same time), or else thou + one or more other people not addressed at the moment; for the expressions you people, you boys, you all, to supply the want of a separate pl form of you see 2.87.
   A 'normal' plural of I is only thinkable, when I is taken as a quotation-word (cf. 8.2), as in Kipl L 66 he told the tale, the I--I--I's flashing through the record as telegraph-poles fly past the traveller; cf. also the philosophical plural egos or me's, rarer I's, and the jocular verse: Here am I, my name is Forbes, Me the Master quite absorbs, Me and many other me's, In his great Thucydides.
   4.53. It will be seen that the rule (given for instance in Latin grammars) that when two subjects are of different persons, the verb is in "the first person rather than the second, and in the second rather than the third" 'si tu et Tullia valetis, ego et Cicero valemus, Allen and Greenough, Lat. Gr. §317) is really superfluous, as a self-evidence consequence of the definition that "the first person plural is the first person singular plus some one else, etc." In English grammar the rule is even more superfluous, because no persons are distinguished in the plural of English verbs.
   When a body of men, in response to "Who will join me?", answer "We all will", their collective answers may be said to be an ordinary plural (class 1) of I (= many I's), though each individual "we will" means really nothing more than "I will, and B and C . . . will, too" in conformity with the above definition. Similarly in a collective document: "We, the undersigned citizens of the city of . . ."
   4.54. The plural we is essentially vague and in no wise indicates whom the speaker wants to include besides himself. Not even the distinction made in a great many African and other languages between one we meaning 'I and my own people, but not you', and another we meaning 'I + you (sg or pl)' is made in our class of languages. But very often the resulting ambiguity is remedied by an appositive addition; the same speaker may according to circumstances say we brothers, we doctors, we Yorkshiremen, we Europeans, we gentlemen, etc. Cf. also GE M 2.201 we people who have not been galloping. --- Cf. for 4.51 ff. PhilGr p. 191 ff.
   4.55. Other examples of the pl of approximation are the Vincent Crummleses, etc. 4.42. In other languages we have still other examples, as when Latin patres many mean pater + mater, Italian zii = zio + zia, Span. hermanos = hermano(s) + hermana(s), etc.


 複数形といっても,その意味論は複雑であり得る.これは,一見して形態論の話題とみえて,本質的には意味論と語用論の問題なのだと思う.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 2. Vol. 1. 2nd ed. Heidelberg: C. Winter's Universitätsbuchhandlung, 1922.

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2023-10-12 Thu

#5281. 近似複数 [plural][number][numeral][personal_pronoun][personal_name][plural_of_approximation][metonymy][t/v_distinction]

 近似複数 (plural_of_approximation) なるものがあるが,ご存じだろうか.以下『新英語学辞典』に依拠して説明する.
 英語の名詞の複数形は,一般的に -s 語尾を付すが,通常,同じもの,同種のものが2つ以上ある場合に現われる形式である.これを正常複数 (normal plural) と呼んでおこう.一方,同種ではなく,あくまで近似・類似しているものが2つ以上あるという場合にも,-s のつく複数形が用いられることがある.厳密には同じではないが,そこそこ似ているので同じものととらえ,それが2つ以上あるときには -s をつけようという発想である.これは近似複数 (plural_of_approximation) と呼ばれており,英語にはいくつかの事例がある.
 例えば,年代や年齢でいう sixties を取り上げよう.1960年代 (in the sixties) あるいは60歳代 (in one's sixties) のような表現は,sixty に複数語尾の -(e)s が付いている形式だが「60年(歳)」そのものが2つ以上集まったものではない.60,61,62年(歳)のような連番が69年(歳)まで続くように,60そのものと60に近い数とが集まって,sixties とひっくるめられるのである.いわばメトニミー (metonymy) によって,本当は近似・類似しているにすぎないものを,同じ(種類の)ものと強引にまとめあげることによって,sixties という一言で便利な表現を作り上げているのである.少々厳密性を犠牲にすることで得られる経済的な効果は大きい.
 他には人名などに付く複数形の例がある.例えば the Henry Spinkers といえば,Mr. and Mrs. Spinker 「スピンカー夫妻」の省略形として用いられる.この表現は事情によっては「スピンカー兄弟(姉妹)」にもなり得るし「スピンカー一家」にもなり得る.家族として「近似」したメンバーを束ねることで,近似複数として表現しているのである.
 さらに本質的な近似複数の例として,I の複数形としての we がある.1人称代名詞の I は話し手である「自己」を指示するが,複数形といわれる we は,決して I 「自己」を2つ以上束ねたものではない.「自己」と「あなた」と「あなた」と「あなた」と・・・を合わせたのが we である.同一の I がクローン人間のように複数体コピーされているわけではなく,あくまで I とその側にいる仲間たちのことを慣習上,近似的な同一人物とみなして,合わせて we と呼んでいるのである.本来であれば「1人称の複数」という表現は論理的に矛盾をはらんでいるものの,上記の応用的な解釈を採用することで言葉を便利に使っているのである.
 もともと複数の「あなた」を意味する you を,1人の相手に対して用いるという慣行も,もしかすると近似複数の発想に基づいた応用的な用法といってしかるべきものなのかもしれない.
 「同じとは何か」という哲学的問題が脳裏にちらついてくるが,言語における近似複数はおもしろい事象である.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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2023-07-04 Tue

#5181. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法 (2) [pronoun][personal_pronoun][generic][indefinite_pronoun]

 「#5171. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法」 ([2023-06-24-1]) に続く話題.LGSWE で関連する話題を調べてみた.§§4.10.1.1--3, 4.10.2 より該当箇所を引用しよう.まず1人称代名詞から.総称的用法といってよいのか微妙なケースではある.

By choosing the plural pronoun we rather than I, a single author avoids drawing attention to himself/herself, and the writing becomes somewhat more impersonal. On the other hand, when we is used to include the reader, it has a rather different effect and the writing becomes more personal. (§4.10.1.1)


 次に2人称代名詞の総称的用法について.

A particular problem in the use of you is that it may refer to people in general, including the speaker/writer. This is found both in speech and writing:
   You've got to be a bit careful when you're renting out though. (CONV)
   I have got this little problem you see. Sometimes I forget. And the trouble with "sometimes" is that you never know when to expect it. (NEWS) (§4.10.1.2)


 3人称代名詞の総称的に用法については,特に記述がなかったので省略する.
 上記を総括する形で,人称代名詞の総称的な用法について次のようにコメントがあった.

When we, you, and they are used with reference to people in general (4.10.1.1--3), they tend to retain a tinge of their basic meaning.


 先の記事でも述べた通り,人称代名詞の総称的な用法に「それぞれの人称の原義がうっすらと残存している」点が味わい深い.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

Referrer (Inside): [2023-10-14-1]

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2023-06-27 Tue

#5174. 不定代名詞・決定詞 [pronoun][personal_pronoun][generic][indefinite_pronoun][determiner][assertion][semantics][logic]

 現代英語には不定代名詞 (indefinite_pronoun) や不定決定詞 (indefinite determiner) という語類の体系がある.不定 (indefinite) の反対は定 (definite) である.例えば人称代名詞,再帰代名詞,所有代名詞,指示代名詞,そしてときに疑問代名詞にも定的な要素が確認されるが,不定代名詞にはそれがみられない.ただし,不定代名詞・決定詞は,むしろ論理的観点から,量的である (quantitative) ととらえてもよいかもしれない.全称的 (universal) か部分的 (partitive) かという観点である.
 Quirk et al. (§6.45) に主要な不定代名詞・決定詞の一覧表がある.こちらを掲載しよう.体系的ではあるが,なかなか複雑な語類であることがわかるだろう.



 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2023-06-24 Sat

#5171. 複数人称代名詞 we, you, they の総称的用法 [pronoun][personal_pronoun][generic][indefinite_pronoun]

 昨日の記事「#5170. 3人称単数代名詞の総称的用法」 ([2023-06-24-1]) に引き続き,人称代名詞の総称的用法 (generic) について.特に we, you, they について,Quirk et al. (§6.21) より紹介したい.導入として次のようにある.

. . . plural pronouns of all persons can function generically with reference to 'people in general':
   Science tells us that the earth goes round the sun. [1]
   We live in an age of immense changes. [2]
   You can never tell what will happen. [3]
   These days you have to be careful with your money. [4]
   They say it's going to snow today. [5]


 このように we, you, they は総称的に用いられるが,もとの人称の機能を完全に失っているわけではなく,それゆえに必ずしも互いに言い換え可能とはならない.
 we を用いた [1], [2] は,話し手,聞き手,第3者を含むすべての人々を指せるので,もっとも指示範囲が広いと考えられる.目下の発話の状況を起点として全人類にまで拡がっていく包含性がある.したがって,ときにその文は受動文で代用され得る.例えば We now know that the earth is round. は It is now known that the earth is round. と換言される.
 you を用いた [3], [4] は,昨日の記事でも触れたように総称代名詞 one のインフォーマル版と考えられる.ただし,you は聞き手の人生一般や特定の状況の経験に訴えかける効果がある.例えば This wine makes you feel drowsy, doesn't it? のような文を参照.さらには,ときに聞き手ではなく話し手を指示するケースもある.it wasn't a bad life. You got up at seven, had breakfast, went for a walk . . .' のような文を参照.
 they を用いた [5] も you と同様にインフォーマルな響きがある.3人称代名詞の本来的な機能を反映して,話し手と聞き手を除いた人々という含みがあり,軽蔑的に「権威筋」「メディア」「政府」などを指すこともある.例えば I see they're raising the bus fares again. Whatever will they be doing next? や They don't make decent furniture nowadays. のような文を参照.
 we, you, they の総称的用法について,それぞれの人称の原義がうっすらと残存しているという点が興味深い.ただ,1つ疑問がある.上記 you の総称的用法が,複数としての you の用法であると言い切ることができるのかということだ.というのは,引用中で "plural pronouns of all persons can function generically with reference to 'people in general'" とあるからだ.単数としての you の用法と理解することはできないのだろうか.関連して「#2248. 不定人称代名詞としての you」 ([2015-06-23-1]),「#2313. 不定人称代名詞としての thou」 ([2015-08-27-1]) を参照.

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2023-06-23 Fri

#5170. 3人称単数代名詞の総称的用法 [pronoun][number][personal_pronoun][gender][generic][indefinite_pronoun]

 3人称単数代名詞の注意すべき用法として総称的 (generic) な使用がある.Quirk et al. (§§6.20, 21, 56) より3種類を挙げよう.

(1) he who . . .she who . . . のような後方照応の表現.文語的あるいは古風な響きをもつ.ちなみに,中性の *it that . . . や複数の *they who . . . はなく,各々 what . . .those who . . . が代用される.

 ・ He who hesitates is lost. ['The person who . . .'; a proverb]
 ・ She who must be obeyed. ['The woman who . . .']

(2) 総称的な単数名詞句を受ける形で(前方照応でも後方照応でも),通常のように3人称単数代名詞を用いることができる.

 ・ Ever since he found a need to communicate, man has been the 'speaking animal'.
 ・ A: Do you like caviar? B: I've never tasted it.
 ・ Music is my favourite subject. Is it yours?

(3) one は "people in general" を表わすフォーマルな表現.インフォーマルには you が用いられる.所有格形 one's と再帰形 oneself がある.しばしば実際上話者を指すこともある.

 ・ I like to dress nicely. It gives one confidence.
 ・ One would (You'd) think they would run a later bus than that!

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2022-12-28 Wed

#4993. 呼称は短化しやすい [address_term][abbreviation][shortening][disguised_compound][personal_pronoun][vocative][honorific]

 呼称 (address_term) や称号の類いは音形が短くなりやすいという.言われてみればそのように思われる.Bybee (42) の短い説明だが,なるほどと思った.

Terms of address also tend to undergo special reduction. Spanish usted 2nd person singular developed out of the longer and more elegant phrase vuestra merced 'your grace'. Old English hlafweard which contains the roots hlaf 'loaf' and weard 'keeper' is reduced to hlaford and eventually lord. Both Mrs. [mɪsɨz] or [mɪzɨz] and Miss [mɪs] are reduced forms of mistress.


 呼称が短化しやすいのは,1つには日常的によく発せられる表現だからだろう.人々の口に頻繁にのぼるからこそ,音形に弱化や短縮が起こりやすいといえそうだ.一般に英語の人称代名詞(一種の呼称といってよい語類)には弱形と強形があるが,高頻度だからこそ短化にさらされやすいわけだし,極端に短化する,つまりゼロになることを嫌い,かえって強化する必要にもさらされるのだろう (cf. 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1]),「#1198. icI」 ([2012-08-07-1]),「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]).
 もう1つは,特に LordMrs. のように称号として用いられ,次に人名が続く場合には,個人を強く特定する力をもつ人名の部分にこそ強勢が置かれるのが自然で,前置される称号が相対的に弱く発音されやすいという事情があるのではないか.
 ところで,上記の lord (古英語の原義は「パンを守る男」)のみならず,lady も古英語の原義が「パンをこねる女」だったように,実は複合語だった.現代英語の共時的な観点からは複合語に見えないため,このような語を偽装複合語 (disguised_compound) と呼んでいる (cf. 「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]),「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1])).英語史ではおもしろい語源の話題としてよく知られているが,なぜこの2語がここまで短化したのかという理由を考えたことはなかった.今回,Bybee の指摘にハッとした次第.呼称は短化しやすいのだ.
 今回の話題と関連して,「#895. Miss は何の省略か?」 ([2011-10-09-1]),「#1950. なぜ BillWilliam の愛称になるのか?」 ([2014-08-29-1]),「#1951. 英語の愛称」 ([2014-08-30-1]),「#3408. Elizabeth の数々の異名」 ([2018-08-26-1]),「#4404. 日本語由来の敬称 san」 ([2021-05-18-1]) なども参照.

 ・ Bybee, Joan. Language Change. Cambridge: CUP, 2015.

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2022-06-08 Wed

#4790. therethey に相当する中英語の it の用法 [personal_pronoun][expletive][syntax][agreement][me][french][german][existential_sentence]

 中英語を読んでいると,it の用法が現代英語よりも広くて戸惑うことがある.例えば there is 構文のような存在文 (existential_sentence) における there の代わりに it が用いられることがある(cf. フランス語 il y a, ドイツ語 es gibt).Mustanoja (132) から解説と例文を示そう.動詞が it ではなく意味上の主語に一致していることに注意.

In many instances it occurs in a pleonastic function carried out by there in Pres. E: --- of hise mouth it stod a stem, Als it were a sunnebem (Havelok 591); --- of þe erth it groues tres and gress (Cursor 545, Cotton MS); --- it es na land þat man kan neven ... þat he ne sal do þam to be soght (Cursor 22169, Cotton MS); --- bot it were a fre wymmon þat muche of love had fonde (Harley Lyr. xxxii 3); --- hit arn aboute on þis bench bot berdles chylder (Gaw. & GK 280); --- bot hit ar ladyes innoȝe (Gaw. & GK 1251).


 関連して「#1565. existential there の起源 (1)」 ([2013-08-09-1]),「#1566. existential there の起源 (2)」 ([2013-08-10-1]),「#4473. 存在文における形式上の主語と意味上の主語」 ([2021-07-26-1]) を参照.
 もう1つは,事実上 they に相当するような it の用法だ.こちらも Mustanoja (132--33) より解説と例を示そう.

Another aspect in the ME use of the formal it is seen in the following cases where it is virtually equivalent to 'they:' --- holi men hit were beiene (Lawman B 14811; cf. hali men heo weoren bæien, A); --- it ben aires of hevene alle þat ben crounede (PPl. C vi 59); --- thoo atte last aspyed y That pursevantes and heraudes ... Hyt weren alle (Ch. HF 1323). --- to þe gentyl Lomb hit arn anioynt (Pearl 895); --- hit arn fettled in on forme, þe forme and þe laste ... And als ... hit arn of on kynde (Patience 38--40); --- þei ... cownseld hyr to folwyn hyr mevynggys and hyr steringgys and trustly belevyn it weren of þe Holy Gost and of noon evyl spyryt (MKempe 3). This use goes back to OE. Cf. also German es sind ... and French ce sont ...


 いずれもフランス語やドイツ語に類似した構文が見られるなど興味深い.中英語の構文は,フランス語からの言語接触という可能性はあり得るが,むしろ統語論的な要請に基づくものではないかと睨んでいる.どうだろうか.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

Referrer (Inside): [2022-12-30-1]

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2022-06-03 Fri

#4785. It is ... that ... の強調構文の古英語からの例 [syntax][cleft_sentence][personal_pronoun][oe]

 学校文法で「強調構文」と呼ばれる統語構造は,英語学では「分裂文」 (cleft_sentence) と称されることが多い.分裂文の起源と発達については「#2442. 強調構文の発達 --- 統語的現象から語用的機能へ」 ([2016-01-03-1]),「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1]),「#4595. 強調構文に関する「ケルト語仮説」」 ([2021-11-25-1]) などで取り上げてきた.
 歴史的事実としては,使用例は古英語からみられる.ただし,古英語では,it はほとんど用いられず,省略されるか,あるいは þæt が用いられた.Visser (§63) より,いくつか例を示そう.

   63---g. The type 'It is father who did it.'
   This periphrastic construction is used to bring a part of a syntactical unit into prominence; it is especially employed when contrast has to be expressed: 'It is father (not mother) who did it'. In Old English hit is omitted (e.g. O. E. Gosp., John VI, 63, 'Gast is se þe geliffæst'; O. E. Homl. ii, 234, 'min fæder is þe me wuldrað') or its place is taken by þæt (e.g. Ælfred, Boeth. 34, II, 'is þæt for mycel gcynd þæt urum lichoman cymð eall his mægen of þam mete þe we þicgaþ'; Wulfstan, Polity (Jost) p. 127 則183, þæt is laðlic lif, þæt hi swa maciað; O. E. Chron. an. 1052, 'þæt wæs on þone monandæg ... þæt Godwine mid his scipum to suðgeweorce becom'). This pronoun þæt is still so used in: Orm 8465, 'þætt wass þe lond off Galileo þætt himm wass bedenn sekenn'.


 中英語以降は it がよく使用されるようになったようだ.
 名詞(句)ではなく時間や場所を表わす副詞(句)が強調される例も,上記にある通りすでに古英語からみられるが,それに対する Visser (§63) の解釈が注目に値する.そのような場合の is は意味的に happens に近いという.

When it was, it is has an adverbial adjunct of time or place as a complement, (as e.g. in 'It was on the first of May that I saw him first'), to be is not a copula, but the notional to be with the sense 'to happen', 'to take place' that also occurs in constructions of a different pattern, such as are found in e.g. C1350 Will. Palerne 1930, 'Manly on þe morwe þat mariage schuld bene; 1947 H. Eustis, The Horizontal Man (Penguin) 41, 'Keep your trap shut when you don't know what you're talking about, which is usually'; Pres. D. Eng.: 'The flower-show was last week' (OED).


 分裂文の起源と発達は,英語統語史上の重要な課題である.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2023-05-30-1]

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2022-05-20 Fri

#4771. 古英語の3人称単数女性代名詞の対格 hie が与格 hire に飲み込まれた時期 [case][personal_pronoun][oe][inflection][paradigm][eme][laeme]

 she の語源説について,連日 Laing and Lass の論文を取り上げてきた(cf. 「#4769. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の紹介」 ([2022-05-18-1]),「#4770. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の評価」 ([2022-05-19-1])) .
 同論文の主な関心は3人称単数女性代名詞主格の形態についてだが,対格と与格の形態についても触れている.古英語の標準的なパラダイムによれば,対格は hīe,与格は hire の形態を取ったが,後の歴史をみれば明らかな通り,与格形が対格形を飲み込む形で「目的格 her」が生じることになった.この点でいえば,他の3人称代名詞でも同じことが起こっている.単数男性与格の him が対格 hine を飲み込み,複数与格の him が対格 hīe を飲み込んだ(後にそれ自身が them に置換されたが).
 3人称代名詞に関して与格が対格を飲み込んだというこの現象(与格方向への対格の水平化)はあまり注目されず,およそいつ頃のことだったのだろうかと疑問が生じるが,単数女性に関しては Laing and Lass (209) による丁寧な説明があった.

By the time ME proper begins to emerge, and to survive in the written record in the mid to late twelfth century, the new 'she' type for the subject pronoun already begins to be found. For the object pronoun the levelling of the 'her/hir' type from the OE DAT/GEN variants is also already the majority for direct object function. For the fem sg personal pronoun used as direct object ($/P13OdF), LAEME CTT has 60 tokens of the 'heo/hi(e)' type across only 7 texts. If one includes hi(e) spellings for IT ($/P13OdI) showing survival of feminine grammatical gender in inanimates, the total rises to 77 tokens across 14 texts. Only 2 texts (with 3 tokens between them) have 'heo/hie' exclusively in direct object function for HER. The other 5 texts show 'her/hir' types beside 'heo/hie' types. Against this are 494 tokens of the 'her/hir' type for HER found across 51 texts. Or, if one includes 'her/hir' type spellings for IT showing the survival of grammatical gender, the total rises to 590 across 58 texts.


 要するに,対格の与格方向への水平化は,意外と早く初期中英語期の段階ですでに相当に進んでいたということになる.おそらく単数男性や複数でも似たような状況だったと想像されるが,これについては別に裏を取る必要がある.
 この問題と関連して関連して,「#155. 古英語の人称代名詞の屈折」 ([2009-09-29-1]),「#975. 3人称代名詞の斜格形ではあまり作用しなかった異化」 ([2011-12-28-1]),「#4080. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか?」 ([2020-06-28-1]) を参照.

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2022-05-19 Thu

#4770. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の評価 [personal_pronoun][sound_change][phonetics][etymology][laeme][cone][orthography][epenthesis][she]

 昨日の記事「#4769. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の紹介」 ([2022-05-18-1]) で,英語史における積年の問題に対する新説を簡単に紹介した.Laing and Lass 論文の結論箇所を引用すると,次のようになる (231) .

(a) For the history of she, we posit an approximant epenthesis of a type already found in OE, spreading to further items in ME, and occurring in all periods of Scots as well as PDE. This turns the word-onset into a consonant cluster with its own history, independent of that of the nuclear vowel (though it seems primarily to occur before certain nuclear types).
   (b) The nuclear vowel derives in the normal way from OE [eo], with no need for 'resyllabification' or the creation of 'rising diphthongs'.
   (c) This account allows an etymology with no interim generation of trimoric nuclei, or the problem of maintaining vowel length when the first element of the nucleus is the first vowel of the diphthong that constitutes it. It therefore allows for the unproblematic derivation of both [ʃe:] (required for PDE [ʃi:]) and [ʃo:] (required for some regional types such as [ʃu:]).
   (d) We claim that the so-called 'she problem' has been a problem mainly because of a misconception of the kind of etymology it is. The literature (and this is true even of Britton's account, which is clearly the best) founders (sic) on the failure to separate the development of the word-onset and the development of the nuclear vowel.
   The mistake has been the attempt to combine a vocalic story and a consonantal story and at the same time make phonological sense. We suggest that in this case it cannot be done, and that by separating the two stories we arrive at a clean and linguistically justifiable narrative.


 ここで議論の詳細に立ち入ることはしないが,この新説に対する私自身の評価を述べるならば,これまで提案されてきた他の説よりも説得力があるとみている.

 まず,LAEME という最新のツールを利用しつつ,圧倒的な質・量の資料に依拠している点が重要である.大きな視点からこの問題に取り組んでいるとよく分かるところからくる信頼感といえばよいだろうか.視野の広さと深さに驚嘆する.
 上記と関連するが,LAEME と連携している CoNE (= A Corpus of Narrative Etymologies from Proto-Old English to Early Middle English) および CC (= the Corpus of Changes) の編纂という遠大な研究プロジェクトの一環として,she の問題を取り上げている点も指摘しておきたい.CoNE は,初期中英語に文証される単語のあらゆる異形態について,音変化や綴字変化の観点から説明尽くすそうという野心的な企画である(「初期中英語期を舞台とした比較言語学」と呼びたいほどだ).she についていえば,その各格形を含めたすべての異形態に説明を与えようとしており,[ʃ] を含む諸形態の扱いもあくまでその一部にすぎないのである.scha, þoe, þie, yo のような例外的な異形態についても,興味深い説明が与えられている.
 そして,"Yod Epenthesis" 説の提案それ自体がコペルニクス的転回だった.she の語源を巡る論争史では [j] をいかに自然に導出させるかが重要課題の1つとなっていた.しかし,新説は [j] を自然に導出させることをある意味で潔く諦め,「ただそこに [j] が入ってしまった」と主張するのである.ただし,新説による [j] の挿入が必ずしも「不自然」というわけでもない.散発的ではあれ,類例があることは論文内で明確に示されているからだ.

 理論的前提が多く,一つひとつの議論については著者らに問いただしてみたい点もあるのだが,全体として説得力があり,かつ刺激的な好論と評価したい.

 ・ Laing, Margaret and Roger Lass. "On Middle English she, sho: A Refurbished Narrative," Folia Linguistica Historica 35 (2014): 201-40.
 ・ Lass, Roger, Margaret Laing, Rhona Alcorn, and Keith Williamson. A Corpus of Narrative Etymologies from Proto-Old English to Early Middle English and accompanying Corpus of Changes, Version 1.1. Edinburgh: U of Edinburgh, 2013--. Available online at http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/CoNE/CoNE.html.

Referrer (Inside): [2022-05-20-1]

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2022-05-18 Wed

#4769. she の語源説 --- Laing and Lass による "Yod Epenthesis" 説の紹介 [personal_pronoun][sound_change][phonetics][etymology][laeme][epenthesis][she]

 3人称単数女性代名詞 she の語源を巡って100年以上の論争が続いてきた.この問題については,hellog でも次の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#792. she --- 最も頻度の高い語源不詳の語」 ([2011-06-28-1])
 ・ 「#793. she --- 現代イングランド方言における異形の分布」 ([2011-06-29-1])
 ・ 「#827. she の語源説」 ([2011-08-02-1])
 ・ 「#829. she の語源説の書誌」 ([2011-08-04-1])

  この古い問題に LAEME という最新のツールを用いて挑んだのが,2014年の Laing and Lass の論文である(LAEME については,「#4086. 中英語研究における LAEME の役割」 ([2020-07-04-1]),「#4396. 初期中英語の方言地図とタグ付きコーパスを提供してくれる LAEME」 ([2021-05-10-1]) をはじめ laeme の各記事を参照).
  she を巡る問題は,端的にいえば,初期中英語期より確認される異形態(現代の標準形 she に連なる形態も含む)に現われる (1) 子音 [ʃ],(2) [eː] および [oː],をどのように説明するのかという2点に集約される.とりわけ,問題解決の鍵となると目されている異形態 [hjoː] などに含まれる [j] が,どのように導出されるかが重要な問題となる.
 従来の説では,問題の [j] は既存の音連続のなかから内在的に導出されることを前提としていた.一方,Laing and Lass の新しさは,[j] は内在的に導出されたのではなく,外在的に挿入されたにすぎないとしたことだ.簡単にいえば,ただそこに [j] が入ってしまったのだ,という説だ.これを前提とすれば上記の (1), (2) のも無理なく解決できるし,LAEME が示す異形態の方言分布の観点からも矛盾は生じないという.
 「ただそこに [j] が入ってしまった」説は,同論文内では "Yod Epenthesis" (= YE) と名付けられている.古英語 [heo] が YE を経由して [hjeo] となり,その後 "eo-Monophthongisation/Merger" (= EOM) を通じて [hjeː] あるいは [hjoː] が導出されるという経路だ(実際には,この最後の過程の背景に中間的な [hjøː] が想定されているらしい).さらに,語頭の [hj] が "Fusional Assimilation" (= FA) を経て [ç] となり,最後に "Palatal Fronting" (= PF) の結果,[ʃ] が出力される,という道筋だ.
 古英語からの流れを図示すれば次のようになる (Laing and Lass 217) .

*heo ((YE)) > *hjeo ((EOM)) >
1 *hjo: ((FA)) > [ço:] ((PF)) > [ʃo:]
2 *hje: ((FA)) > [çe:] ((PF)) > [ʃe:]


 ・ Laing, Margaret and Roger Lass. "On Middle English she, sho: A Refurbished Narrative," Folia Linguistica Historica 35 (2014): 201-40.

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2022-02-25 Fri

#4687. 非標準英語における再帰代名詞とその用法 [reflexive_pronoun][personal_pronoun][world_englishes][variety]

 再帰代名詞 (reflexive_pronoun) は英語史研究において,いくつかの観点から重要な論点となっている.例えば,形態論的には,なぜ「所有格 + self」のものと「目的格 + self」のものが混在しているのかは古典的な問題である(cf. 「#47. 所有格か目的格か:myselfhimself」 ([2009-06-14-1]) や「#2376. myself, thyself における my- と thy-」 ([2015-10-29-1])).単純形と -self 形との競合や棲み分けという語法上の話題もある(cf. 「#2322. I have no money with me. の me」 ([2015-09-05-1])).また,統語意味論的な発達についても興味深い側面がある(cf. 「#2379. 再帰代名詞の外適応」 ([2015-11-01-1])).
 非標準英語を見渡すと,さらにおもしろい事実がたくさんある.例えばイングランド南東部方言,アメリカ英語の口語,またその他の変種では hisself, theirselves などの形態が用いられることがあるが,この場合,再帰代名詞体系は「所有格 + self」で一貫するため,標準英語よりも規則的となる.逆に,オーストラリア英語の1変種やイングランド南東部方言では meself などが用いられることもある (Siemund 609--10) .
 用法の点でも,変種によっては主語と同一指示対象を同じくする間接目的語として -self 形ではなく単純形が使われる変種がある.以下,Siemund (610) より.

 ・ I'm going to buy me biscuits and chocolates.(南アフリカの Cape Flats English)
 ・ He was looking to buy him a house for his family.(米国の Appalachian English)

 次のように,直接目的語としての例も見つけることができる.これは古英語の語法の系統を引くものとも考え得る (Siemund 610) .

 ・ He has cut him.
 ・ He went to bathe him.

 Irish English や Newfoundland English では,主格代名詞の代わりに再帰代名詞が用いられる次のような例がみられる (Siemund 610) .

 ・ I'm afraid himself [the master of the house] will be very angry when he hears about the accident to the mare.
 ・ Is herself [i.e. the mistress] at home yet Jenny?

 このように標準英語から一歩外に出てみると,再帰代名詞の形態にも語法にもヴァリエーションがみられることがわかる.標準英語における形態と語法も,このように相対化して考えてみるとおもしろい.

 ・ Siemund, Peter. "Regional Varieties of English: Non-Standard Grammatical Features." Chapter 28 of The Oxford Handbook of English Grammar. Ed. Bas Aarts, Jill Bowie and Gergana Popova. Oxford: OUP, 2020. 604--29.

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