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connotation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-17 10:25

2023-07-20 Thu

#5197. 固有名に意味はあるのか,ないのか? [onomastics][semantics][sign][semiotics][lexicon][connotation]

 標題の問いについては,多くの議論がなされてきた.例えば人名や地名を考えてみよう.「大谷」や「広島」には,指示対象 (referent) があるだけであり,そこに意味 (meaning) はない,という議論がある.これは「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]) でも前提とした立場だ.
 一方,「大谷」は「大きい」「谷」,「広島」は「広い」「島」という語形成であり,各々の要素も,それを組み合わせた合成物も,それぞれ日本語において確かに意味をもつものと考えることができる.さらにいえば,多くの日本語話者にとって多くの場合,「大谷」にはプロ野球界におけるヒーローのイメージが付随しており,「広島」には平和のメッセージが込められている.このようなイメージ性やメッセージ性は,語彙的意味であるとはいえないまでも,別の観点から何らかの意味であるということができそうだ.何をもって「意味」とするかという難しい議論につながっていくことは不可避である.
 この問題と関連して,Nyström は5つほどの意味を区別している.私のコメントを付しながら解説する.

 (1) 語彙的意味 (lexical meaning):上記の例でいえば「大谷」は「大きい谷」ほどの通常の語彙的意味をもっている.

 (2) 固有名的意味 (proprial meaning):「広島」は,日本の本州西部に位置する県あるいは市を指示する固有名詞である.

 (3) 範疇的意味 (categorial meaning):「ポチ」は(典型的に)犬というカテゴリーに属するメンバーに付けられる名前である.

 (4) 連想的意味 (associative meaning):「大谷」は(多くの人にとって)プロ野球界の希望の星である.

 (5) 感情的意味 (emotive meaning):「広島」は(多くの人にとって)原爆被害の強烈な悲惨さ,平和への願いを喚起する.

 とりわけ (4) や (5) のような含蓄的意味 (connotation) は,内容も程度も個人によって,あるいは集団にとって異なり得るものであり,語彙的意味や固有名的意味にみられる一般性は必ずしもみられないかもしれない.

 ・ Nyström, Staffan. "Names and Meaning." Chapter 3 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 39--51.

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2023-03-11 Sat

#5066. 英語の前置詞としての sans [french][loan_word][preposition][shakespeare][connotation][idiom]

 この1週間は hellog でも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも前置詞 (preposition) に注目する機会がたまたま多く,途中から「前置詞ウィーク」と呼んで発信していました.前置詞にご関心のある方は,ぜひこの数日間の記事や放送回を振り返っていただければと思います..
 今日も同じ流れで,意外性のある前置詞として sans を紹介します.without に相当するフランス語の前置詞でフランス語では sans /sɑ̃/ と発音されますが,英語としては綴字通りに /sænz/ と発音されます.フランス語からそのまま取り入れた慣用表現の前置詞句は,例えば sans doute 「疑いもなく」 /sɑ̃ duːt/ のように,フランス語風に発音されますが,そうでない場合には英語化した /sænz/ で発音されます.英語の文脈では,たいてい古風,あるいは冗談めかした connotation で用いられます.例文を挙げてみましょう.

 ・ Sans teeth, sans eyes, sans taste, sans everything. 「(老いぼれて)歯もなく,目もなく,味もなければ何もなし」(Shakespeare, As You Like It II. vii)
 ・ a wallet sans cash
 ・ There were no potatoes so we had fish and chips sans the chips.
 ・ He came to the door sans shirt.
 ・ She went to the party sans her husband.
 ・ She would not be happy with people seeing her sans makeup.
 ・ He was wearing running shoes, sans socks.


 こうしてみると,なかなか使ってみたくなる前置詞ですね.
 OED の sans, prep. によると,英語での初出は初期近代英語の Kyng Alisaunder です.

c1300 K. Alis. 134 Of gold he made a table Al ful of steorren, saun fable.


 ただし,Shakespeare 以前の用法はいずれも目的語としてフランス単語を伴っており,いわばフランス語の慣用表現をそのまま英語に取り込んだもののようです (ex. sans delay, sans doubt, sans fable, sans pity, sans return).英語において生産的な前置詞として発達したのは,かの言葉遊びの天才がユーモアを交えて再導入したからといってよさそうです.

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2021-11-22 Mon

#4592. 英語における動物の象徴的意味 [mythology][bible][connotation]

 各言語文化において,動物は独自の象徴的意味をもっている.英語の場合,それは聖書,神話,民話などを通じて育まれてきた,慣習的で連想的な意味を有しており,それが母語話者の間で広く共有されているために,文学,ことわざ,言葉遊びなどにおいても多用される.動物名が言及されると,いわば枕詞のように,ある一定のイメージが喚起されるほどに,言語文化に深く根付いているのである.『英語便利辞典』 (pp. 177-78) より,典型的なものを挙げよう.

動物名象徴的意味
ant 蟻cooperation 協力,patience 忍耐
bear 熊maternal protection 母性本能,strength 力
butterfly 蝶beauty 美,balance 均衡
cat 猫independence 自立,agility 敏捷性
deer 鹿gentleness 温和,peace 平和
dog 犬royalty 忠誠,love 愛情
dove 鳩peace 平和,innocence 無垢
elephant 象wisdom 知恵,strength 力
fox 狐camouflage 擬態,cunning 狡猾さ
giraffe キリンintuition 直感力,foresight 先見の明
horse 馬friendship 友情,power 力
lion ライオンcourage 勇気,strength 力
mule ラバstubbornness 頑固,independence 独立
owl フクロウwisdom 知恵,clairvoyance 透視能力
serpent, snake 蛇temptation 誘惑,wisdom 知恵
turtle 亀longevity 長寿,love 愛情


 動物単体の名詞が帯びる象徴的意味のほか,動物の関わる慣用表現やイディオムは思いのほか多い.英語文化に深く根付いており意味が予想できないものも多いので,学習上注意を要する.

 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

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