Voicy heldio でお送りする khelf の「声の書評」シリーズ,第5弾はこれまでとは趣向を変え,対談形式でお届けします.上智大学の小河舜さんと khelf 大学院生の疋田海夢さんのお2人に,刈部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)の魅力を語っていただきました.本編で24分弱の音声配信となります.「#1596. 声の書評 by 小河舜さん&疋田海夢さん --- 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」をお聴きください.
本書は,人名や地名といった固有名詞の語源を探る「名前学」(onomastics) の世界への扉を開いてくれる一冊です.お2人の対談では,固有名詞が単なるレッテルではなく,その土地の地理や歴史,人々の暮らしといった豊かな物語を秘めていることが熱く語られます.
昨年度の慶應義塾大学の英語地名史の授業で教員・学生の関係にあったお2人の軽快な掛け合いは,聴いていて飽きることがありません.1つの名前から始まる探求が,いかに多方面へと思わぬ広がりを見せていくか.その知的な興奮が,対話を通じて生き生きと伝わってきます.まさにお2人の名前学と英語史にかける情熱の賜物でしょう.
この小辞典は,調べ物に便利なだけでなく,ページをめくるごとに新たな発見があり,歴史への想像力をかき立ててくれる読み物でもあります.お2人の楽しげな対談を聴けば,きっと英語固有名詞の世界に引き込まれるに違いありません.今回,専門分野のおもしろさを存分に伝えてくださった小河さん,疋田さんに改めて感謝します.
なお,本書については,私自身も heldio 「「#1564. 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」」および 本ブログ「#5981. 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」 ([2025-09-11-1]) でも紹介していますので,合わせてご参照ください.
さらに,heldio/helwa コアリスナーの ari さんが,10月4日付で「#424【通読DEPN】英語固有名詞語源小辞典を読む(その1)」として,本書を通読するシリーズ企画を始められたことも付け加えておきます.いやはや,英語固有名詞が熱い!
・ 刈部 恒徳(編著) 『英語固有名詞語源小辞典』.研究社,2011年.
「#6001. heldio 2025年第3四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 10月7日までオープン」 ([2025-10-01-1]) でご案内したとおり,今年の第3四半期(7月--9月)における Voicy heldio のベスト配信回を決めるリスナー投票(1人10票まで)を実施しました.10月7日をもって投票を締め切りました.今回は25名のリスナーの皆さんよりご投票いただきました.ご投票いただき,ありがとうございました.
投票結果をまとめましたので本記事にて報告いたします.本日の heldio でも「#1595. heldio 2025年第3四半期のリスナー投票の結果発表」として報告しているので,ぜひお聴きください.
今回も主として対談回が上位を独占しました.以下に上位7位までの計33配信回を掲載します(全結果は本記事のソースHTMLをご覧ください).
【 第1位(40%)】
「#1507. またまた嶋田珠巳先生といっしょにコメント返し」
「#1581. 歯科医学×英語史 with 無職さん --- 「英語史ライヴ2025」より」
【 第2位(32%)】
「#1498. いきなり井上逸兵さんと生配信(のアーカイヴ)」
「#1513. 「語源は思考の糧である」 --- 小塚語録より」
「#1576. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 小河舜さん --- 「英語史ライヴ2025」より」
【 第3位(28%)】
「#1495. do の不思議を専門家に尋ねる --- 名古屋オフ会に矢冨弘さん登場」
「#1577. helwa メンバー発信!中高生のあなたへ,私は今こうやって英語(外国語)とつきあっています --- 「英語史ライヴ2025」より」
【 第4位(24%)】
「#1493. 知覚動詞構文と知覚の直接性について --- 名古屋オフ会で村岡宗一郎さんと対談」
「#1533. Wulfstan 版「主の祈り」で古英語音読 --- プチ英語史ライヴ from 横浜」
「#1570. ゼミ合宿飲み会で,継続こそがすべてという話しをしました」
【 第5位(20%)】
「#1497. 『英語語源ハンドブック』の重版決定 --- 昨日お昼の緊急生配信より」
「#1527. crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る(プチ英語史ライヴ from 横浜)」
「#1535. 笑,草,gaers を考える --- 北澤茉奈さんとの対談」
「#1545. 「グリムの法則」は本当はラスクが見つけていた」
【 第6位(16%)】
「#1547. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック for 夏スク「英語史」(後編)」
「#1566. 英語史の用語辞典? --- まずは『英語学・言語学用語辞典』を紹介します」
「#1573. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-3) with Taku さん --- 「英語史ライヴ2025」より」
【 第7位(12%)】
「#1500. that 節を語ろう --- 名古屋オフ会より生配信」
「#1506. 綴字と発音の乖離は歴史の遺産--- 『スペリングの英語史』より」
「#1509. Mrs. の発音はなぜ「ミスターズ」ではないのか --- khelf ゼミ生高野さんの「英語史コンテンツ」」
「#1514. 語源論法に要注意」
「#1518. 現代英語の but,古英語の ac」
「#1534. 10人で千本ノック --- プチ英語史ライヴ from 横浜」
「#1544. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック for 夏スク「英語史」(前編)」
「#1546. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-1) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」
「#1551. 「文藝春秋PLUS」で再び英語史をお話ししてきました」
「#1555. 英語の規範はいかにしてできたのか? --- 昨日 Mond に寄せられた疑問に回答しました」
「#1557. 日本音声学会の音声学セミナーで「現代英語の発音と「大母音推移」」をお話しします」
「#1563. life/live ペアの怪について」
「#1569. 「いのほたなぜ」予約爆撃アワー --- 「英語史ライヴ2025」より」
「#1578. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第21弾」
「#1579. 「大母音推移」は解体していくのか? --- 9月28日(日)の音声学セミナーに向けて」
「#1583. alligator でワニワニパニック --- khelf 寺澤志帆さんと語る」
改めて2025年第3四半期も対談回が圧倒的強さを維持しました.第1位に輝いた「#1507. またまた嶋田珠巳先生といっしょにコメント返し」と「#1581. 歯科医学×英語史 with 無職さん --- 「英語史ライヴ2025」より」は,いずれもゲスト対談者との掛け合いが中心で、知的ながらも親しみやすい雰囲気が好評を博したようです.
第2位に入った「#1498. いきなり井上逸兵さんと生配信(のアーカイヴ)」,「#1513. 「語源は思考の糧である」 --- 小塚語録より」,「#1576. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 小河舜さん --- 「英語史ライヴ2025」より」の3本についても,研究者仲間との即興的なやりとり,あるいはそこから飛び出たメッセージを味わっていただいたものと理解しています.いずれも研究と日常の境界を越えていく heldio らしさが体現されている回だと思います.
第3四半期のもう1つの特徴は,8月2日の「プチ英語史ライヴ from 横浜」や9月13日の「英語史ライヴ2025」など,収録会を複数回開催し,そこでの熱気がリスナーの皆さんにも伝わる機会が多かった点でしょうか.例えば,
・ 「#1577. helwa メンバー発信!中高生のあなたへ,私は今こうやって英語(外国語)とつきあっています --- 「英語史ライヴ2025」より」
・ 「#1493. 知覚動詞構文と知覚の直接性について --- 名古屋オフ会で村岡宗一郎さんと対談」
・ 「#1533. Wulfstan 版「主の祈り」で古英語音読 --- プチ英語史ライヴ from 横浜」
・ 「#1527. crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る(プチ英語史ライヴ from 横浜)」
・ 「#1573. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-3) with Taku さん --- 「英語史ライヴ2025」より」
が上位に入っています.こうした現場の熱が伝わるライヴ回は,リスナー参加型の英語史体験という heldio の方向性を定めるものとなっています.
ほかには,ランキングの中位から下位にかけてを見てもわかるとおり,トピックの多様化がいっそう推し進められました.『英語語源ハンドブック』,グリムの法則,朝カル講座,月刊ウェブマガジン Helvillian,『英語史新聞』,「英語のなぜ5分版」やってます通信など様々です.heldio/helwa リスナーの皆さんの力をお借りして,heldio が英語史を軸にしたネットワーク・メディアとして育ってきたことを実感します.
まとめると,2025年第3四半期は対談・ライヴ・交流など複数の軸が互いに補強し合い,heldio がhel活コミュニティとして成熟してきた四半期だったといえます.
今回のリスナー投票にご参加いただいた皆さん,ご協力ありがとうございました.皆さんからのフィードバックは,今後の heldio 配信に向けて大きなヒントとなります.2025年第4四半期も,英語史の魅力と学びの楽しさをお届けしてきたいと思います.上記の結果を参考に,まだお聴きでない配信回がありましたら,ぜひご聴取ください.
khelf(慶應英語史フォーラム)がお送りする https://voicy.jp/channel/1950] の「声の書評」シリーズ,第4弾です.今回は khelf 顧問で,関東学院大学で教鞭をとられている[[泉類尚貴さん|https://note.com/rui_hel/n/n4b3c4fa34656">heldioに,滝沢直宏(著)『〈英文法を解き明かす〉ことばの実際2 コーパスと英文法』(研究社,2017年)を紹介してもらいました.
泉類さんによれば,本書はコーパス言語学の入門書としてだけでなく,その応用までを視野に入れた実践的な1冊とのことです.コーパス (corpus) とは何か,という基礎的な解説から始まり,実際の研究でどのようにコーパスを活用するのか,具体例を交えて丁寧に説明されています.
特に,これまで感覚的に捉えられがちだった collocation (語と語の慣用的な結びつき)を,統計的な手法を用いて客観的に分析する方法が紹介されている点は,とても有益です.また,大規模なコーパスを利用する際の注意点や,自分でデータを収集する方法など,研究の現場で直面するであろう課題にも目配りされている点は,さすが専門家による解説書というべきでしょう.コーパスを使って本格的に言語研究に取り組みたいと考えている学生や研究者にとって,心強い味方となる1冊です.
収録参加者の khelf メンバーによる正規表現談義も聴き応えがありました.今回は,専門的な立場から本書の核心を解説してくれた泉類さんに感謝いたします.今回の「声の書評」は今朝の heldio 配信回「#1592. 声の書評 by khelf 泉類尚貴さん --- 滝沢直宏(著)『コーパスと英文法』(研究社,2017年)」でお聴きいただけます.
・ 滝沢 直宏 『〈英文法を解き明かす〉ことばの実際2 コーパスと英文法』 研究社,2017年.
khelf(慶應英語史フォーラム)のメンバーがお届けする Voicy heldio の「声の書評」シリーズ,第3弾をお届けします.今回は khelf 大学院生の寺澤志帆さんに,寺澤芳雄(著)『聖書の英語の研究』(研究社,2016年)を紹介してもらいました.
寺澤志帆さんによれば,本書は聖書の英語,特に1611年の欽定訳聖書,The Authorised Version (The King James Version [KJV]) の英語に焦点を当てた専門的な内容でありながら,(頑張れば)一般の読者にも読んで理解できる点が魅力とのことです.近代英語期に関心のある方や,聖書翻訳の歴史を学びたい方にとって必携の一冊と言えます.
特に興味深いのは,近代英語と現代英語で意味が異なる単語です.例えば quick という単語が,かつては「生きている」という意味で主に用いられていたことなど,具体的な例が豊富に挙げられています.このような知識は,近代英語の文献を正確に読み解く上で,たいへん役立ちます.
さらに,英訳聖書の歴史や,版による誤植といった裏話にも触れられており,聖書が多くの人の手を経てきた「生きた書物」であることが伝わってきます.専門的な知見に基づきながらも,読者の知的好奇心を刺激する筆致はさすがというほかありません.
以上,専門家を目指す大学院生ならではの視点で,本書の価値を的確に伝えてくれた声の書評でした.今回の放送は「#1591. 声の書評 by khelf 寺澤志帆さん --- 寺澤芳雄(著)『聖書の英語の研究』(研究社,2009年)」でお聴きいただけます.ぜひコメント等もよろしくお願いいたします.
・ 寺澤 芳雄 『聖書の英語の研究』 研究社,2016年.
この秋,khelf(慶應英語史フォーラム)のメンバーによる hel活 (helkatsu) が活発化してきています.昨日狼煙を上げた heldio での「声の書評」シリーズも,khelf による企画です,今回は khelf 副会長の木原桃子さんにご登場願い,武内信一(著)『英語文化史を知るための15章』(研究社,2009年)を紹介してもらいました.著者は,木原さんの青山学院大学時代の恩師でもあります.ぜひ今朝の heldio 配信回「#1590. 声の書評 by khelf 木原桃子さん --- 武内信一(著)『英語文化史を知るための15章』(研究社,2009年)」をお聴きいただければ.
木原さんは,本書の魅力として,語彙や文法といった英語の内面史を追うだけでなく,その言語が使われている社会や文化と関連づけた英語の外面史,すなわち「英語文化史」を重視する視点を的確に指摘してくれました.単なる「英語史」ではなく「英語文化史」と冠した本書は,その格好の入門書であると.私も本書を最初に読んだとき,同じ印象をもったことを覚えています.
本書は15の章からなり,それぞれがベオウルフ,英語聖書,シェイクスピア,ジョンソンの辞書,OED といった独立したテーマを扱っているため,どこからでも読み進められます.「英語文化史」を鳥瞰的に見渡せる構成は,特にこれから英語史を学ぶ高校生や大学生にとって,興味の入り口を見つけるのに最適だと思います.
木原さんは,武内先生ご自身が写本を作成していることを紹介しつつ,先生の運営されている MANUSCRIPT CHOUMEIAN にも触れています.Beowulf と『平家物語』の意外な関係が論じられている章については,木原さんはこの章を読んで英語史の魅力に目覚めたとのことです.体験に裏打ちされた言葉には説得力がありました.
khelf メンバーが自身の言葉で書籍を紹介してくれるのは,とても嬉しいことです.「声の書評」が,多くの方にとって新たな本との出会いの場となることを期待しています.皆さん,ぜひ本書を手に取ってみてください.
・ 武内 信一 『英語文化史を知るための15章』 研究社,2009年.
Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,khelf(慶應英語史フォーラム)による新しいhel活企画が始まったことをお知らせします.その名も「声の書評」 (voice_review) .英語史に広い意味で関連する書籍を取り上げ,khelf メンバーにその魅力を「声」で語ってもらおうという試みです.文字で読む伝統的な書評とは一味も二味も違う,新しい形の本紹介にご注目ください.まずは,その狼煙となる今朝の heldio 配信回「#1589. 声の書評 by khelf 藤原郁弥さん --- 神山孝夫(著)『市河三喜伝』(研究社,2023年)」をお聴きいただければ.
この企画は,9月13日の khelf & helwa の共催イベント「英語史ライヴ2025」に向けて,khelf の大学院生メンバーたちが発案したものです.「書評」というと,少し堅苦しくて専門的なものを想像されるかもしれません.もちろん学術的な書評は重要なメディアですが,今回の「声の書評」が目指すのは,もう少し間口の広い,カジュアルで開かれたスタイルです.本の概要を紹介しつつも,話し手が「どこに心を動かされたのか」「どんな発見があったのか」「誰にこの本を勧めたいか」といった,個人的な感想や熱い「おすすめポイント」を気軽に語ることができる,そんな場になればと思っています.声のもつ温度や抑揚を通して,その本の魅力がリスナーの皆さんにダイレクトに伝わるはずです.
上掲の今朝の配信回が,「声の書評」シリーズの記念すべき第1弾となります.khelf の藤原郁弥さんが,大阪大学時代の恩師でもある神山孝夫先生(大阪大学名誉教授)が著わした『市河三喜伝 --- 英語に生きた男の出自,経歴,業績,人生』(研究社,2023年)を取り上げて,紹介してくれました.
市河三喜といえば,日本の英語学,英語文献学,そして英語史研究の礎を築いた偉大な学者です.この hellog でも何度もその功績に触れてきました.とりわけ「#5852. 市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩』第2版(研究社,1986年)」 ([2025-05-05-1]) を挙げておきましょう.この巨人の生涯を,神山先生が緻密な調査に基づいて描き出したのが『市河三喜伝』です.
藤原さんの「声の書評」では,特に市河のオックスフォード留学時代の逸話が生き生きと紹介されていたのが印象的でした.市河が当時,私たち英語史研究者から見れば「伝説」というべき大学者たちから直接講義を受けていたという事実も驚きですが,その講義日程までもが詳細に再現されているというのにも興奮します.このように評者の感動をリアルに追体験できるのが,「声の書評」シリーズの最大の魅力だと思います.
「声の書評」は,「英語史ライヴ2025」の折にいくつか収録しましたので,今後そちらを継続的に配信していく予定です.とりわけ向こう数日の heldio にご注目ください.
この企画は,ゆくゆくは khelf メンバーのみならず,hel活に関わる様々な方々と一緒に育てていけたら,と願っています.「この本の書評が聞きたい!」というリクエストはもちろん,「私の好きなこの本について語りたい!」という評者としての立候補もあり得る形にまで育っていくとよいと思います.
heldio での新しい試み「声の書評」.まずはシリーズ第1弾となる今回の配信をお聴きいただき,この新しい書評の形を体験してみてください.そして,もし興味が湧きましたら,実際に書店でその本を手に取っていただけると,私たちにとってこれに勝る喜びはありません.今後の展開に,どうぞご期待ください.
・ 神山 孝夫 『市河三喜伝 --- 英語に生きた男の出自,経歴,業績,人生』 研究社,2023年.
先週「#5997. 「ゆる言語学ラジオ」で『英語語源ハンドブック』が紹介されました --- 人気シリーズ「ターゲット1900」回に再出演」 ([2025-09-27-1]) の記事でお知らせした通り,人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」にゲストとしてお邪魔しまし,『英語語源ハンドブック』をご紹介しました.
それに引き続き,今週も同じく「ゆる言語学ラジオ」に出演させていただきました.今回は「うんちくしりとりパンクラチオン」なる奇矯な雑学ゲームに,水野さん,堀元さんとともに参加しました.結果,「うんちくをしりとりで繋いだら,歴史言語学者が強すぎた.」と題する51分ほどの配信回に仕上がりました.3人でおおいに盛り上がっていますので,ぜひご視聴ください.
全体的に楽しんで笑える動画となっていますが,終わりに近い43分辺りからは民間語源 (folk_etymology) や語源トポスの話題に転換し,「語源の力」についての議論を展開しています(cf. 「#720. レトリック的トポスとしての語源」 ([2011-04-17-1])).ここはぜひじっくりお聴きいただければ.さらに47分過ぎからは『英語語源ハンドブック』と『英語語源辞典』を,堀元さんに再度宣伝していただきました.ありがとうございました!
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
3ヶ月に一度の恒例企画となっていますが,本ブログの音声版・姉妹版というべき毎朝配信の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より,今年の第3四半期にお届けしてきた配信回(全92回)のなかからベスト回を決めるリスナー投票イベントを開催しています.1人10票まで投票できます.投票会場は10月7日(火)23:59 までオープンしています(あるいは以下のQRコードよりどうぞ).この機会に聴き逃した過去配信回を聴取いただき,じっくり選んでいただければと思います.
各配信回へのアクセスは,本記事末尾の一覧あるいは音声コンテンツ一覧よりどうぞ.7月1日配信の「#1493. 知覚動詞構文と知覚の直接性について --- 名古屋オフ会で村岡宗一郎さんと対談」 (2025/07/01) から9月30日配信の「#1584. Helvillian 10月号が公開! --- 特集は「ことばにまつわる大人の自由研究【helwa コンテンツ2025】」」 (2025/09/30) までの92回分が投票の対象となります.
今朝,同じ投票を呼びかける「#1586. heldio 2025年第3四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 10月7日までオープン」を Voicy より配信しました.そちらも合わせてお聴きください.
・ 「#1493. 知覚動詞構文と知覚の直接性について --- 名古屋オフ会で村岡宗一郎さんと対談」 (2025/07/01)
・ 「#1494. Helvillian 7月号が公開! --- 古英語を嗜もう」 (2025/07/02)
・ 「#1495. do の不思議を専門家に尋ねる --- 名古屋オフ会に矢冨弘さん登場」 (2025/07/03)
・ 「#1496. heldio 2025年第2四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 7月10日までオープン」 (2025/07/04)
・ 「#1497. 『英語語源ハンドブック』の重版決定 --- 昨日お昼の緊急生配信より」 (2025/07/05)
・ 「#1498. いきなり井上逸兵さんと生配信(のアーカイヴ)」 (2025/07/06)
・ 「#1499. 『英語史新聞』第12号が公開されました」 (2025/07/07)
・ 「#1500. that 節を語ろう --- 名古屋オフ会より生配信」 (2025/07/08)
・ 「#1501. 「主の祈り」で味わう古英語の文体 --- Helvillian 7月号掲載,小河舜さんによる渾身の記事」 (2025/07/09)
・ 「#1502. 「21」をどのように表現するか? --- 複合数詞の問題」 (2025/07/10)
・ 「#1503. 7月19日(土)午後,朝カルで「深堀り『英語語源ハンドブック』徹底解読術 出版記念・鼎談」を開講します」 (2025/07/11)
・ 「#1504. khelf メンバーによる『英語史新聞』第12号の読みどころ紹介」 (2025/07/12)
・ 「#1505. heldio 2025年第2四半期のリスナー投票の結果発表」 (2025/07/13)
・ 「#1506. 綴字と発音の乖離は歴史の遺産--- 『スペリングの英語史』より」 (2025/07/14)
・ 「#1507. またまた嶋田珠巳先生といっしょにコメント返し」 (2025/07/15)
・ 「#1508. 『The Japan Times Alpha J』の7月11日号で特別記事を掲載していただいています」 (2025/07/16)
・ 「#1509. Mrs. の発音はなぜ「ミスターズ」ではないのか --- khelf ゼミ生高野さんの「英語史コンテンツ」」 (2025/07/17)
・ 「#1510. 「辞書」雑談 by khelf メンバー6名」 (2025/07/18)
・ 「#1511. 言語はどのように生まれたか --- ゆる言語学ラジオの水野太貴さんの『中央公論』連載「ことばの変化をつかまえる」より」 (2025/07/19)
・ 「#1512. 朝カルの『英語語源ハンドブック』著者鼎談の直前収録」 (2025/07/19)
・ 「#1513. 「語源は思考の糧である」 --- 小塚語録より」 (2025/07/21)
・ 「#1514. 語源論法に要注意」 (2025/07/22)
・ 「#1515. 7月26日の朝カル講座 --- 皆で but について考えてみませんか?」 (2025/07/23)
・ 「#1516. 語源学者は複数の語源説があるとき,どのようにしてどちらが正しいと判断するのですか?」 (2025/07/24)
・ 「#1517. etymography 「語誌学」の妄想」 (2025/07/25)
・ 「#1518. 現代英語の but,古英語の ac」 (2025/07/26)
・ 「#1519. コメント返し 2025/07/26(Sat)」 (2025/07/27)
・ 「#1520. あなたの推し接続詞を教えてください」 (2025/07/28)
・ 「#1521. Helvillian 8月号が公開! --- 特集は「辞書からことばの世界をのぞく」」 (2025/07/29)
・ 「#1522. 「英語史」の講義を終えて --- 2025年度前期版」 (2025/07/30)
・ 「#1523. YouTube での英語史ショート動画シリーズ「helshort」をゆるゆると始めています」 (2025/07/31)
・ 「#1524. khelf の英語史専攻大学院生の平均注目年代は?」 (2025/08/01)
・ 「#1525. 本日は「プチ英語史ライヴ from 横浜」で英語史漬け」 (2025/08/02)
・ 「#1526. 「あなたの推し接続詞」を語る回 --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/03)
・ 「#1527. crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る(プチ英語史ライヴ from 横浜)」 (2025/08/04)
・ 「#1528. 『英語語源ハンドブック』重版出来 --- 本書のLPを作りました」 (2025/08/05)
・ 「#1529. あなたの『英語語源ハンドブック』の推しの項目は? (1) --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/06)
・ 「#1530. あなたの『英語語源ハンドブック』の推しの項目は? (2) --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/07)
・ 「#1531. あなたの『英語語源ハンドブック』の推しの項目は? (3) --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/08)
・ 「#1532. Helvillian 8月号の紹介 by 編集委員 --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/09)
・ 「#1533. Wulfstan 版「主の祈り」で古英語音読 --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/10)
・ 「#1534. 10人で千本ノック --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/08/11)
・ 「#1535. 笑,草,gaers を考える --- 北澤茉奈さんとの対談」 (2025/08/12)
・ 「#1536. 『英語語源ハンドブック』の著者の1人小塚良孝さんが ZIP-FM に出演!」 (2025/08/13)
・ 「#1537. I と my/me/mine は補充法 --- 『英語教育』9月号に『英語語源ハンドブック』の書評が掲載されました」 (2025/08/14)
・ 「#1538. 『英語語源ハンドブック』の宴 --- 「いのほた言語学チャンネル」最新回より」 (2025/08/15)
・ 「#1539. 8月23日の朝カル講座 --- guy で味わう英語史」 (2025/08/16)
・ 「#1540. リスナーの皆さんの「推し接続詞」を紹介します」 (2025/08/17)
・ 「#1541. 英語史を通じて接続詞はどんどん増えてきた」 (2025/08/18)
・ 「#1542. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第19弾」 (2025/08/19)
・ 「#1543. 今日から1週間,夏期スクーリング「英語史」」 (2025/08/20)
・ 「#1544. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック for 夏スク「英語史」(前編)」 (2025/08/21)
・ 「#1545. 「グリムの法則」は本当はラスクが見つけていた」 (2025/08/22)
・ 「#1546. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-1) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」 (2025/08/23)
・ 「#1547. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック for 夏スク「英語史」(後編)」 (2025/08/24)
・ 「#1548. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-2) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」 (2025/08/25)
・ 「#1549. 『英語語源ハンドブック』正誤表の公開,そして yes の語源」 (2025/08/26)
・ 「#1550. 夏スク「英語史」が終わりました」 (2025/08/27)
・ 「#1551. 「文藝春秋PLUS」で再び英語史をお話ししてきました」 (2025/08/28)
・ 「#1552. Helvillian 9月号が公開! --- 特集は「ことばにまつわる大人の自由研究」」 (2025/08/29)
・ 「#1553. 9月13日(土)に「英語史ライヴ2025」を開催します」 (2025/08/30)
・ 「#1554. 昨日の朝日サンヤツに『英語語源ハンドブック』が掲載 --- そして英語史ライヴ (live) の語源」 (2025/08/31)
・ 「#1555. 英語の規範はいかにしてできたのか? --- 昨日 Mond に寄せられた疑問に回答しました」 (2025/09/01)
・ 「#1556. khelf 寺澤志帆さんの「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」が好調です --- RSS も用意されています」 (2025/09/02)
・ 「#1557. 日本音声学会の音声学セミナーで「現代英語の発音と「大母音推移」」をお話しします」 (2025/09/03)
・ 「#1558. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第20弾」 (2025/09/04)
・ 「#1559. 10月15日に「いのほた本」が出ます! --- ご予約はちょっとお待ちいただければ」 (2025/09/05)
・ 「#1560. 1週間後は「英語史ライヴ2025」 --- 特設ページもご覧ください」 (2025/09/06)
・ 「#1561. OED の使い道を考える with 泉類尚貴さん --- プチ英語史ライヴ from 横浜」 (2025/09/07)
・ 「#1562. 「英語史ライヴ2025」の千本ノックのための英語に関する素朴な疑問を募集」 (2025/09/08)
・ 「#1563. life/live ペアの怪について」 (2025/09/09)
・ 「#1564. 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」 (2025/09/10)
・ 「#1565. 「英語史ライヴ2025」が明後日に迫りました --- 裏で起こっていることをチラッと」 (2025/09/11)
・ 「#1566. 英語史の用語辞典? --- まずは『英語学・言語学用語辞典』を紹介します」 (2025/09/12)
・ 「#1567. 「英語史ライヴ2025 by khelf & helwa」が始まります」 (2025/09/13)
・ 「#1568. 「英語史ライヴ2025」が終わった帰りの電車で --- 小河舜さん&まさにゃん」 (2025/09/14)
・ 「#1569. 「いのほたなぜ」予約爆撃アワー --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/15)
・ 「#1570. ゼミ合宿飲み会で,継続こそがすべてという話しをしました」 (2025/09/16)
・ 「#1571. khelf 大学院生の研究テーマ」 (2025/09/17)
・ 「#1572. 「いのほたなぜ」が英語部門で第2位をマーク --- 超ざっくり英語史年表もついています」 (2025/09/18)
・ 「#1573. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-3) with Taku さん --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/19)
・ 「#1574. "English" という英単語について思いをめぐらせたことはありますか? --- 9月27日の朝カル講座」 (2025/09/20)
・ 「#1575. おかげさまで『英語語源ハンドブック』の再重版決定! --- 用語解説の「大母音推移」を読んでみます」 (2025/09/21)
・ 「#1576. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 小河舜さん --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/22)
・ 「#1577. helwa メンバー発信!中高生のあなたへ,私は今こうやって英語(外国語)とつきあっています --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/23)
・ 「#1578. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第21弾」 (2025/09/24)
・ 「#1579. 「大母音推移」は解体していくのか? --- 9月28日(日)の音声学セミナーに向けて」 (2025/09/25)
・ 「#1580. 「ゆる言語学ラジオ」『ターゲット1900』回にお邪魔してきました」 (2025/09/26)
・ 「#1581. 歯科医学×英語史 with 無職さん --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/27)
・ 「#1582. 『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語 with ykagata さん --- 「英語史ライヴ2025」より」 (2025/09/28)
・ 「#1583. alligator でワニワニパニック --- khelf 寺澤志帆さんと語る」 (2025/09/29)
・ 「#1584. Helvillian 10月号が公開! --- 特集は「ことばにまつわる大人の自由研究【helwaコンテンツ2025】」」 (2025/09/30)
crocodile の語形や綴字を巡る問題 --- ワニワニパニック --- は,heldio/helwa コアリスナーの lacolaco さんが火をつけた難問である.関連する一連の話題は,以下から追うことができる.
・ lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート C (crew-crocodile)(2025年7月27日)
・ lacolaco さんの「【helwaコンテンツ2025】 crocodileの語形・音変化についての調査~ワニワニパニック~」(2025年8月21日)
・ hellog 「#5948. crocodile の英語史 --- lacolaco さんからのインスピレーション」 ([2025-08-09-1])
・ hellog 「#5951. crocodile の英語史 --- OED で語源と綴字を確認する」 ([2025-08-12-1])
・ hellog 「#5952. crocodile の英語史 --- MED で綴字を確認する」 ([2025-08-13-1])
・ heldio 「#1527. crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る(プチ英語史ライヴ from 横浜)(2025年8月4日)
・ heldio 「#1583. alligator でワニワニパニック --- khelf 寺澤志帆さんと語る」(2025年9月29日)
とりわけ crocodile の異形として cocodril という語形・綴字があったことが気になっていた.そんなときに,先日『シップリー英語語源辞典』でふと crocodile を引いてみたところ,cocodril の謎に対するヒントとなる記述を見つけた.今回は,それを引用して,示唆だけ与えておきたい.
crocodile [krάkədàil] クロコダイル,ワニ,ワニ皮
この語はギリシア語 krokodeilos (ワニ:〔原義〕砂礫の虫,トカゲ)が語源である.このギリシア語は,ヘロドトス (Herodotus, 484?--425?B.C.) 以来,ナイル川に棲む巨大な爬虫類に使われるようになった.彼の Historiae:『歴史』 (II, 69) には,自国の石垣の間にいるトカゲに似ているところからイオニア人がそう名づけた,とある.crocodile にはいろいろな綴りがあり,その一つ cockadrill は,ワニの点滴とされたコカトリス (cockatrice) と混同されたこともある.
ところで,ワニは生き残ったが,コカトリスは中世の博物誌が衰退するととtもに死に絶えた.cockatrice は,ギリシア語 ikhnos (歩み,足跡)から動詞 ikhneuein (追跡する,足跡を追う)を経て成立した ikhneumon (エジプトマングース --- ichneumon 〔エジプトマングース〕として英語に借入 ---)の訳語としてのラテン語 calcatrix が語源であり,原義は「狩猟者」「追跡者」であった.この動物は砂の中のワニの卵を探し出して食べるとエジプト人に信じられていた.ラテン語 calcatrix は calx, calc- (踵)から派生した動詞 calcare (追跡する)からの造語である〔中略〕.《プリニウス (Gaius Pliny, 23--79) の『博物誌』 (VIII, 37) では,ワニが気持ち良く口を開けて寝ている間にコカトリスはのどから腹に飛び込み,内臓をかみ裂くとある.》
また,コカトリスはナイルチドリ (trochilus) と混同された.こちらの語源は trekhein (走る)から派生したギリシア語 trokhilos (小型シギ類)がラテン語化した言葉で,原義は「素早く走り回るもの」である〔中略〕.crocodile bird (ワニチドリ)とも呼ばれるこの鳥には,ワニの歯の間の肉片や食べ物のかすを突くという言い伝えがある.コカトリス (cockatrice) は想像上では鳥,獣,そして最後には爬虫類とされ,ミズヘビとして描かれる際には,英語の cock (ニワトリ)との類推からニワトリの卵から生まれた怪物バシリスク (basilisk) 〔中略〕と同じと見なされた.これはニワトリのとさかと体に,ヘビの尾を持ち,吐く息やひとにらみで人を殺すとされた.
ひとにらみで殺すというバシリスク (basilisk) は,比喩表現では,女性,特に浮気な女性に使われ,このことから cockatrice にも同じく比喩表現が生まれた.例えば,イギリスの劇作家デッカー (Thomas Dekker, 1572?--1632) の The Guls Hornebooke:『しゃれ者の入門書』(1609年)における一章「劇場における当世風紳士の振る舞い方」に,「(負債を取り立てる)執行吏を避けるためにも,朝早く妖婦 (cockatrice) を船で返すためにも」いっそう便利な水辺の家がお勧め,とある.かくして,この生き物を水に返したことになるが,等の女性はそら涙 (crocodile tears:ワニの涙)を流すだろう.女の「そら涙」にほだされると,「餌食」になってしまうこともある.
見せかけの悲しみを表す crocodile tears は,ワニが餌食を誘き寄せるために悲しげに呻くとか,餌食を飲み込みながら涙を流すと考えられたところから生まれた表現である.
今回登場したのは伝説の動物 cockatrice (コカトリス)だ.ヘビとニワトリが合体した動物とも,にらんだり息を吐きかけて人を殺すヘビとも言われる.これが cocodril の語形・綴字に関係しているというのは,ありそうな話しだ.
・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
先日,人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」にゲストとしてお邪魔しました.「accountはなぜ「口座」も「説明」も表すのか?」と題する配信回で,パーソナリティの水野さんと堀元さんとともに,英単語の語源について楽しく語り合ってきました.
今回の企画は,大学受験用の英単語集として名高い『英単語ターゲット1900』に掲載されている単語の語源を深掘りするという,同チャンネルの人気シリーズの一環です.英語史・語源研究の専門家と認めていたただき,お招きいただきました.70分ほどの配信時間で,accord, thought, interest, account, cause, sound, individual の計7語を取り上げています.前回のターゲット1900回への出演の折には,1単語どころか1/3単語にしか注目できなかったことを考えれば,今回は大幅な改善(?)といえます.
今回取り上げた7語はいずれも基本的な単語ですが,歴史を遡ると実に豊かな物語が隠されています.動画のタイトルにもなっている account は,「口座」「説明」「理由」などと多義ですが,「計算する」という語源的な意味に立ち返ることで,その多義性の謎が氷解します.account はラテン語の ad- + computare が元になっており,後者は com- + putare という構成です.putare 自体は「考える,計算する」が原義です.これらの要素が,古フランス語を経て語形を崩しつつ英語に入ってきた次第です.
動画の最後では,拙著『英語語源ハンドブック』についてもご紹介いただきました.この本は,『ターゲット1900』にも収録されている類いの基本語彙のうち,とりわけ重要な約1000語を対象としており,語源記述を中心としつつもボキャビルにも有用なハンドブックとなっています.本書は動画で展開されたような語源話しの集成といってよく,読みあさることで英語語源学を広く深く学ぶことができます.『ターゲット1900』で英単語を学習されている方には,ぜひ本書も傍らに置いていただきたいと思います.
「ゆる言語学ラジオ」さんとは,これまでも何度かご縁がありました.3ヶ月ほど前の hellog 記事「#5892. 制限的付加詞 (restrictive adjunct) と非制限的付加詞 (non-restrictive adjunct)」 ([2025-06-14-1]) でも,同チャンネルの話題に触れたところです.
今回の配信回も,言語への尽きせぬ好奇心を刺激してくれる知的に楽しい内容となっています.水野さんと堀元さんの巧みな話術に引き込まれ,私も時間を忘れて語ってしまいました.ぜひ多くの方にご覧いただければ幸いです.
なお,今回の出演については,昨日の Voicy heldio でも「#1580. 「ゆる言語学ラジオ」『ターゲット1900』回にお邪魔してきました」としてお話ししました.そちらもお聴きいただければ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
6月18日に刊行された『英語語源ハンドブック』(研究社)がおかげさまで好評です.刊行後3ヶ月となる9月18日に,再重版が決定しました.最初の重版は「#5914. 『英語語源ハンドブック』が発売2週間で重版決定!」 ([2025-07-06-1]) でお知らせしたとおりですが,その後も高い評価をいただき続けています.上記「再重版決定」ポスターは,いつものように khelf の藤平さんに制作していただきました(ありがとうございます).
改めてのご案内ですが,本書のために特設ランディングページ (LP)を作っています.本書の特色や読者からの声などをまとめていますので,ぜひ覗いてみてください.
また,昨日公開された「ゆる言語学ラジオ」のターゲット1900回こと「accountはなぜ「口座」も「説明」も表すのか?」では,久しぶりにゲストとして出演させていただき,57分30秒辺りから『英語語源ハンドブック』について紹介しています.ぜひご覧ください.
また,今回の再重版に際する感謝の辞は,先日以下の Voicy heldio からも配信しました.「#1575. おかげさまで『英語語源ハンドブック』の再重版決定! --- 用語解説の「大母音推移」を読んでみます」もお聴きいただければ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
9月13日(土)の「英語史ライヴ2025」にて,朝8時頃から,久しぶりに小河舜さん(上智大学)との「千本ノック」を生配信しました.土曜日の朝にもかかわらず,多くのリスナーの方々にライヴでお聴きいただき,コメントも投げ込んでいただきました.また,千本ノック会場には,有志の 早朝組 helwa メンバーが数名集まっており,質問の読み上げなどをお手伝いいただきました.全体として朝早い時間とは思えない集中力と盛り上がりで,参加者一同,心地よい緊張感のなかで,本編の50分ほどを駆け抜けることができました.
今朝,Voicy heldio で,その様子を「#1576. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 小河舜さん --- 「英語史ライヴ2025」より」としてアーカイヴ配信しましたので,ぜひお時間のあるときにお聴きください.事前にリスナーの方々よりお寄せいただいた素朴な疑問を5問ほど取り上げたにすぎませんが,配信内で小河さんも私もコメントしている通り,いずれも良質で示唆的な質問で,考えさせられました.回答者も早朝で頭が働いていたので,キレの良い配信回になっていると思います.以下,本編(第2チャプター)で取り上げた質問と対応する分秒を一覧します.
(1) 03:07 --- なぜ英語では,ある指示対象が繰り返し現われるとき,それを異なる名詞句で表現するのか?
(2) 14:25 --- なぜ heavy smoker は「体重の重い喫煙者」と解釈されることが少ないのか?
(3) 21:30 --- なぜ in the morning, in the afternoon, in the eveneing なのに夜だけ at night なのですか?
(4) 31:00 --- なぜ英文のメールの挨拶では I hope this email finds you well. などというのですか?
(5) 38:13 --- 「新聞」のローマ字表記について shinbun なのか shimbun なのか? ひどく混乱していませんか?
今後もいろいろな形で「千本ノック」をやっていきたいと思います.皆さんもぜひ投げ込み用の素朴な疑問を用意しておいていただければ!
先日 Voicy heldio でお届けした「#1548. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-2) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」の続編を,今朝アーカイヴより配信しました.「#1573. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-3) with Taku さん --- 「英語史ライヴ2025」より」です.これは去る9月13日(土)の「英語史ライヴ2025」にて,朝の7時過ぎから生配信でお届けしたものです.
今回の超精読会も前回と同様に,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に司会を務めていただきました.現場には,私のほか数名のヘルメイトもギャラリーとして参加しており,早朝からの熱い精読会となっています.40分ほどの時間をかけて,18文ほどを読み進めました.2人の精読にかける熱い想いを汲み取りつつ,ぜひお付き合いいただければ.
以下に,精読対象の英文を掲載します(Baugh and Cable, pp. 81--82) .
It is obvious that the most typical as well as the most numerous class of words introduced by the new religion would have to do with that religion and the details of its external organization. Words are generally taken over by one language from another in answer to a definite need. They are adopted because they express ideas that are new or because they are so intimately associated with an object or a concept that acceptance of the thing involves acceptance also of the word. A few words relating to Christianity such as church and bishop were, as we have seen, borrowed earlier. The Anglo-Saxons had doubtless plundered churches and come in contact with bishops before they came to England. But the great majority of words in Old English having to do with the church and its services, its physical fabric and its ministers, when not of native origin were borrowed at this time. Because most of these words have survived in only slightly altered form in Modern English, the examples may be given in their modern form. The list includes abbot, alms, altar, angel, anthem, Arian, ark, candle, canon, chalice, cleric, cowl, deacon, disciple, epistle, hymn, litany, manna, martyr, mass, minster, noon, nun, offer, organ, pall, palm, pope, priest, provost, psalm, psalter, relic, rule, shrift, shrive, shrive, stole, subdeacon, synod, temple, and tunic. Some of these were reintroduced later.
B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.今後もゆっくりペースですが,続けていきます.ぜひ本書を入手し,超精読にお付き合いいただければ.
本ブログでは,英語の単語の成り立ちを探る語源学 (etymology) の話題を数多く取り上げてきた.その探究の伴侶として,寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』の右に出るものはないと,機会あるごとに推奨してきた.最近では,この辞典の関連書である拙著『英語語源ハンドブック』も上梓され,多くの方に手に取っていただいている.
さて,語源の探求という魅力的な営みをさらに奥深いものにしてくれる,もう1冊の優れた辞典を紹介したい.刈部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)である.
本書は,その名の通り固有名詞 (proper noun) に特化した語源辞典である.個人名,姓,地名,さらには商標といった固有名詞は,私たちが日常的に英語に接する差異の語彙資源の一部でありながら,一般的な語源辞典では立項されないことが多い.その痒い所に手が届くのが,今回紹介する『英語固有名詞語源小辞典』だ.
編著者の刈部先生は,前書きで本書の執筆動機を次のように語っている.
『英語固有名詞語源小辞典』は,編著者が固有名詞の語源を簡便に引ける1冊版の常用辞典があればよいと長年思っていたものを自分で執筆することになったものである.この思いは,寺澤芳雄先生が編まれた『英語語源辞典』(研究社,1997)の編集のお手伝いをした後,一段と強くなった.
なんと,本書のメイキングは『英語語源辞典』と深く関わっていたのである.『英語語源辞典』の編纂に携わったからこそ,固有名詞に特化した辞典の必要性を痛感し,その思いが本書の出版企画へとつながったわけだ.いわば『英語語源辞典』からの貴重なスピンオフといえる.
収録語数は約3,000語である.「小辞典」と銘打たれているものの,読者が引くであろう固有名詞の7--8割はカバーできることを目指したといい,実際に引いてみるとヒット率の高さに驚かされる.見出し語には発音記号が付されており,難読の人名や地名の発音を確認するのにも重宝する.そしてもちろん,語源解説は詳細かつ信頼できるものであり,初出年代も記されている.
先日の記事「#5979. Guy Fawkes から you guys へ --- 「いのほた言語学チャンネル」最新回より」 ([2025-09-09-1]) で,「いのほた言語学チャンネル」の動画「#369. you guys などの guy はもともと○○だった!--意外な歴史」を紹介した.そこで Guy Fawkes の Guy の語源について話した際に,姓である Fawkes のほうは触れずじまいだった.そこで早速『英語固有名詞小辞典』を引いてみると,次のようにあった.
Fawkes /fɔːks/ フォークス:1251 姓.♦中英語 Faukes < 古フランス語 Faukes (主格)(原義)「隼」 < 古高地ドイツ語 Falco 'falcon'.
なんと「鷹」を意味する語に由来するという.英語の falcon (鷹)と同語源の単語が,古高ドイツ語から古フランス語を経て英語に入り,人名として定着したものだったのだ.ちなみに,本書で Fawkes の2つ手前の項目には,アメリカの文豪 William Faulkner の姓 Fa(u)lkner が立項されている.こちらは古フランス語 fau(l)connier に由来し,意味は「鷹匠」 (falconer) である.鷹狩りが中世の貴族の重要な娯楽であったことを考えれば,鷹や鷹匠に関わる名前が姓として定着したのも頷ける.
このように,本書を繙けば,歴史や文化の断片が固有名詞の中に化石のように保存されている様を目の当たりにすることができる.また,数ページにわたる凡例は,単なる本辞典の使い方の説明にとどまらず,英語固有名詞論の概論ともなっており,ここを読むだけでも知的好奇心が大いに刺激される.
『英語語源辞典』や『英語語源ハンドブック』と並べて書棚に置き,気になる人名や地名に出会うたびに手に取ってみてはいかがだろうか.「読める辞書」として,英語史の魅力をさらに豊かにしてくれること請け合いである.
本辞典については,一昨日の heldio でも触れたばかりである.「#1564. 苅部恒徳(編著)『英語固有名詞語源小辞典』(研究社,2011年)」を合わせてお聴きいただければ.
・ 刈部 恒徳(編著) 『英語固有名詞語源小辞典』.研究社,2011年.
一昨日に Voicy heldio でお届けした「#1546. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-1) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」の続編を,今朝こちらのアーカイヴより配信しました.
同著の第62節の第1段落の後半部分,But で始まる部分から段落終わりまでを,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)と超精読しています.21分ほどの時間をかけて,じっくりと10行半ほど読み進めました.2人のおしゃべり,蘊蓄,精読にかける熱い想いを汲み取っていただければ幸いです.
精読対象の英文を,前回取り上げた箇所も含めて掲載します(Baugh and Cable, p. 81) .ぜひ超精読にお付き合いください.
62. The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary.
From the introduction of Christianity in 597 to the close of the Old English period is a stretch of more than 500 years. During all this time Latin words must have been making their way gradually into the English language. It is likely that the first wave of religious feeling that resulted from the missionary zeal of the seventh century, and that is reflected in intense activity in church building and the establishing of monasteries during this century, was responsible also for the rapid importation of Latin words into the vocabulary. The many new conceptions that followed in the train of the new religion would naturally demand expression and would at times find the resources of the language inadequate. But it would be a mistake to think that the enrichment of the vocabulary that now took place occurred overnight. Some words came in almost immediately, others only at the end of this period. In fact, it is fairly easy to divide the Latin borrowings of the Second Period into two groups, more or less equal in size but quite different in character. The one group represents words whose phonetic form shows that they were borrowed early and whose early adoption is attested also by the fact that they had found their way into literature by the time of Alfred. The other contains words of a more learned character first recorded in the tenth and eleventh centuries and owing their introduction clearly to the religious revival that accompanied the Benedictine Reform. It will be well to consider them separately.
B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.今後もゆっくりペースですが,続けていきます.ぜひ本書を入手し,超精読にお付き合いいただければ.
先日の「#5960. 夏スク「英語史」初日の千本ノック(前編)」 ([2025-08-21-1]) に続き,8月20日の11:30より heldio 生配信した「千本ノック」 (senbonknock) の後編をアーカイヴとしてお届けします.後編は32分ほどで,7つの素朴な疑問が取り上げられました.以下に,本編(第2チャプター)で取り上げられた質問と本編チャプター内での対応する分秒を一覧します.
(1) 00:00 --- 英単語のアクセントは必ず守らないと通じないのか?
(2) 05:02 --- なぜドイツ語の Krankenhaus のように単純な単語を組み合わせず,英語は hospital のような全く異なる単語を使うのか?
(3) 08:07 --- なぜ no の後に来る名詞は単数になったり複数になったりするのか?
(4) 12:15 --- なぜ同じ綴りでも発音が違う単語があるのか?
(5) 16:12 --- 「エモい」や「チルい」のような英日ミックスの形容詞は昔からあったのか?
(6) 22:26 --- なぜ英語の文型は SVO (主語ー動詞ー目的語)なのか?
(7) 26:34 --- なぜ w はフランス語では「ドゥブルヴェ」なのに,英語では「ダブリュー」なのか?
素朴な疑問を寄せてくださった夏期スクーリング履修者のバックグラウンドは様々です.それだけに実に多種多様な疑問が寄せられてきて,実にワクワクしました.1つひとつがもっとじっくりと向き合いたいと思わせる問題ですし,実際に英語史の観点から深く論じるに足るトピックばかりです.「千本ノック」はやはり楽しいですね.
夏スクも残すところ今日と明日のみとなりました.残暑が強烈ですが,もう一息,頑張りましょう!.
今朝の Voicy heldio で「#1546. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (62-1) The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary」を配信しました.一昨日,ヘルメイトの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)とともに,久しぶりの Baugh and Cable 超精読会を開きました.1時間を越える熱い読書会となりましたが,1時間以上をかけて読み進めたのは第62節の第1段落のみです.その豊かな読解の時間を heldio 収録してあります.その様子を,前編と後編の2回に分けて,heldio アーカイヴとして配信します.
第62節では,古英語期の比較的早い時期におけるラテン語からの語彙的影響について,具体例とともに論じられています.精読を味わうとともに,2人のおしゃべりも楽しみながら,古英語とラテン語の関係に思いを馳せてみてください.
今朝の配信回で対象とした部分のテキスト(Baugh and Cable, p. 81) を以下に掲載しますので,超精読にお付き合いいただければ.
62. The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary.
From the introduction of Christianity in 597 to the close of the Old English period is a stretch of more than 500 years. During all this time Latin words must have been making their way gradually into the English language. It is likely that the first wave of religious feeling that resulted from the missionary zeal of the seventh century, and that is reflected in intense activity in church building and the establishing of monasteries during this century, was responsible also for the rapid importation of Latin words into the vocabulary. The many new conceptions that followed in the train of the new religion would naturally demand expression and would at times find the resources of the language inadequate.
B&C読書会の過去回については「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をご覧ください.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
昨日の記事「#5959. 2025年度の夏期スクーリング「英語史」講義が始まります」 ([2025-08-20-1]) でお知らせしたように,英語史の集中講義が始まっています.昨日の講義では履修されている皆さんから「英語に関する素朴な疑問」を集め,講義後に11:30より即興で「千本ノック」 (senbonknock) の heldio 生配信を行ないました.60分超の長丁場となりましたが,立ち会っていただいた履修者の皆さん,そして急の生配信ながらもライヴでお聴き頂いたリスナーの皆さん,ありがとうございました.
生配信の様子は音声収録しておいたので,今朝の Voicy heldio にて配信しました.長尺なので前編(本日配信)と後編(後日配信)の2回に分けてお聴きいただきますが,まずは34分ほどの前編をお届けします.以下に,本編(第2チャプター)で取り上げられた質問と本編チャプター内での対応する分秒を一覧します.
(1) 01:25 --- アルファベットの起源は何か?
(2) 09:13 --- なぜ定冠詞と不定冠詞は難しいのか?
(3) 14:30 --- なぜ a は単体だと「エイ」と読むのに,単語としては「ア」と読むのか?
(4) 16:08 --- なぜ英語発祥の地であるロンドンの英語が,必ずしも標準的ではないのか?
(5) 20:28 --- なぜ英語には多くの時制があるのか?
(6) 24:36 --- なぜ発音しない文字(黙字)が入っている単語があるのか?
(7) 26:27--- 文法は現在も変化しているのか?
(8) 29:30 --- なぜ do の過去形は did なのか?
英語史の学び始めの景気づけとして「千本ノック」をやってみましたが,いかがでしたでしょうか.英語史への関心が湧いてきましたでしょうか.残暑厳しい折ですが,6日間の夏スク英語史を駆け抜けていきたいと思います.
heldio/helwa のコアリスナー lacolaco さんによる,note 上のシリーズ「英語語源辞典通読ノート」の最新回が公開されている.『英語語源辞典』の crew から crocodile までの興味深い語源の話題が取り上げられている.
そのなかで crocodile に注目されている記述がその語形とスペリングの奇怪な歴史を浮き彫りにしており,たいへん興味を引かれた.1週間前の土曜日,直接 lacolaco さんと「プチ英語史ライヴ from 横浜」にてお会いし対談する機会を得たので,heldio で生配信した.そちらのアーカイヴ版を,heldio のアーカイヴ配信として公開しているので,ぜひ「crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る」よりお聴きいただければ.
配信内でも述べているように,crocodile の背景には,ギリシア語,ラテン語,フランス語,イタリア語,スペイン語などが関わっている.英語史上の綴字としては現代の標準的な crocodile 系のほか,cocodril 系も普通に使われた時代があった.英語では16世紀以降にラテン語綴字からの影響で crocodile 系に「正規化」されたという経緯があり,まさに語源的綴字 (etymological_spelling) の話題としてみることができる.一方,r の位置を考えると,そこには音位転換 (metathesis) に類する過程も起こっているかのように見える.しかし,r の移動が2音節という長距離に及んでおり,単なる音位転換と見るにも難があるのも確かであり,別に民間語源 (folk_etymology) や類音牽引に関する話題として議論することもできる(cf. 「#5840. 「類音牽引」 --- クワノミ,*クワツマメ,クワツバメ,ツバメ」 ([2025-04-23-1])).
いずれにせよ,crocodile の語形とスペリングは,なかなかの問題含みであり,それだけに英語史研究上おもしろいトピックとなっていると言ってよい.lacolaco さんに語史的いただいたことに感謝しつつ(さすがの KDEE 通読者!),今後も深掘りしていきたい.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
本日8月2日(土),helwa にお入りのヘルメイトさんたちを中心とする10名が横浜の地に集結し「プチ英語史ライヴ from 横浜」と題する heldio/helwa の音声配信イベントを開催します.泉類尚貴さん(関東学院大学)や小河舜さん(上智大学)といった専門家を含む英語史好きの有志が,朝から夕方まで英語史に関するあれこれを語り尽くす様子を,Voicy heldio/helwa より(生)配信するという企画です.
つまり,このイベントは現地参加者のみの閉じたものではありません.hellog 購読者も heldio/helwa リスナーの皆さんも,ぜひ英語史漬けの1日にお付き合いいただければと思っています.
以下に,本日予定している(生)配信スケジュール案を公開します.ただし,ネット事情によりライヴ配信が難しくなったり,当日の場の雰囲気や議論の盛り上がり次第で,配信時間,テーマ,出演者は柔軟に変更していく可能性があります.あくまでスケジュール案である点にご留意ください.
【 午前の部(10:00頃から休憩を入れつつ12:30頃まで) 】
・ helwa (生)配信:OED の使い道を考える
cf. 泉類さんによる Helvillian 8月号の特集記事「OEDの弱点?:構文研究を例に」
・ heldio (生)配信:「あなたの推し接続詞」を語る回
cf. heldio 「#1520. あなたの推し接続詞を教えてください」
・ heldio (生)配信:「crocodile の怪 --- lacolaco さんと語源学を語る」
cf. lacolaco さんによる最新の「英語語源辞典通読ノート」記事
・ heldio (生)配信:Helvillian 8月号の紹介 by 編集委員
cf. 「Helvillian 8月号」
【 午後の部(13:30頃から休憩を入れつつ17:00頃まで) 】
・ helwa (生)配信:You はなぜ helwa に?
cf. プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa)
・ heldio (生)配信:推しの語源の英単語を語る --- 『英語語源ハンドブック』重版記念企画
校閲協力者の小河さん,そして参加者の皆とともに『英語語源ハンドブック』に大注目
・ heldio (生)配信:「主の祈り」で古英語音読 --- Wulfstan ヴァージョン
cf. 小河さんによる Helvillian 7月号の特集記事「主の祈りで味わう古英語の文体」
・ heldio/helwa (生)配信:英語に関する素朴な疑問 千本ノック from 横浜(前・後編)
泉類さん,小河さん,参加者の皆とともに人気シリーズをお届け
ご覧の通り,盛りだくさんの内容です.各回の(生)配信開始のお知らせは,Voicy からの通知機能が便利です.そのために,ぜひこの機会に Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」をフォローしていただければと思います.また,本日のすべての配信回を聴取できるよう,新しい月の初めでもありますので,ぜひプレミアムリスナー限定配信「英語史の輪 (helwa)」(毎週火木土の午後6時配信;月額800円,ただし初月無料)にもお入りください.
配信中は,リスナーの皆さんからのコメントもお待ちしております.現地の熱気を少しでも感じていただければ幸いです.それでは,本日の「プチ英語史ライヴ from 横浜」の配信をどうぞお楽しみに!
本日のイベントのご案内については,今朝の heldio 配信回「#1525. 本日は「プチ英語史ライヴ from 横浜」で英語史漬け」もお聴きください.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow