01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
[2010-08-26-1]の記事で見たように,迂言的 do ( do-periphrasis ) は,初期近代英語期に疑問文や否定文を中心に発達してきた.英語史の大きな視点から見ると,この発展は総合的言語 ( synthetic language ) から分析的言語 ( analytic language ) へと進んできた英語の発展の流れに沿っている.
do, does, did を助動詞として用いることによって,後続する本動詞はいかなる場合でも原形をとれば済むことになる.主語の人称・数と時制を示す役割は do, does, did が受けもってくれるので,本動詞が3単現形や過去形に屈折する必要がなくなるからである.この流れでいけば,疑問文や否定文に限らず肯定平叙文でも do-periphrasis が発達することも十分にあり得たろう.実際に,16世紀には,現代風に強調を含意する用法とは考えられない,純粋に迂言的な do の使用が肯定平叙文で例証されており,do はこの路線を歩んでいたかのようにみえる.
ところが,[2010-08-26-1]のグラフに示されている通り,肯定平叙文での do の使用は17世紀以降,衰退の一途をたどる.英語史の流れに逆らうかのようなこの現象はどのように説明されるのだろうか.Nurmi ( p. 179 ) は社会言語学的な視点からこの問題に接近した.Nevalainen ( pp. 109--10, 145 ) に触れられている Nurmi の説を紹介しよう.
ロンドン地域における肯定平叙文での do の使用は,17世紀の最初の10年で減少しているとされる( Nevalainen によれば Corpus of Early English Correspondence のデータから示唆される).17世紀初頭といえば,1603年にスコットランド王 James VI がイングランド王 James I として即位するという歴史的な出来事( Stuart 朝の開始)があった.当時のスコットランド英語 ( Scots-English ) では肯定文での迂言的 do の使用は稀だったとされ,その変種を引きさげてロンドンに都入りした James I と彼の周辺の者たちが,その権威ある立場からロンドンで話される変種に影響を与えたのではないかという.
この仮説は慎重に検証する必要があるが,言語変化を社会言語学的な観点から説明しようとする最近の潮流に沿った興味深い仮説である.
・ Nurmi, Arja. A Social History of Periphrastic DO. Mémoires de la Société Néophilologique de Helsinki 56. Helsinki: Société Néophilologique, 1999.
・ Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
[2010-06-24-1]でアルファベットの歴史の概略を記した.今回は,最近見つけたアルファベットの歴史に関する良質なブログ記事を紹介したい.The origins of abc は紀元前4千年紀にシュメール人が用いた楔形文字 ( cuneiform ) から話しを説き起こし,それから5千年後の英語の26文字のアルファベットの使用までの歴史を,写真や図を含めて興味深くまとめている.このサイトの運営者は graphic designer で,typography に夢中な日本在住のイギリス人.現代の <A, a> の1文字ができあがるまでに長い道のりを歩んできたことが要領よく解説されている.
記事によると,アルファベットの究極の起源は,[2010-06-24-1]で述べた紀元前2千年紀前半にパレスチナやシリアで行われていた North Semitic ではなく,もう少し早い時期のエジプトの文字に遡るのではないかという.1999年にエジプトの Wadi el-Hol で 2片の碑文が発見され,そこに後の <A> の文字の起源となる牛の頭をかたどった 'aleph 「牛」の文字が刻まれていたという.(セム語で 'aleph は「牛」を意味し,「家」を表わす beta と合わせてそれぞれ第1文字,第2文字とされ,この文字体系は alphabet と呼ばれることになった.)紀元前19世紀頃にエジプトの地で発達したこの文字体系が,パレスチナやシリアに伝わり,従来アルファベットの起源とされてきた North Semitic に連なったのではないかということである.
現代のローマ字の abc という並び順は古代セム語の順番を踏襲したものだが,その意味や解釈に定説はないようである(橋本,p. 52).ふだん英語史として扱っている時代範囲はせいぜい紀元後の話しである.だが,アルファベットの歴史,文字の歴史の世界に足を踏み入れると,紀元前○千年紀という目の眩む太古の世界に誘われることになり,どうも頭が追いついていかない.同僚にシュメール語の研究者がいるが,古英語や中英語の話しをしていると自分が赤ん坊のような気分になってくることがある.人類の文化の歴史は長い.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
ICEHL-16 の学会でハンガリーに行っていた.ハンガリーの公用語のハンガリー語 ( Hungarian, Magyar ) はヨーロッパにありながら印欧語族でなくウラル語族 ( Uralic ) に属している「アジアの言語」だ.ウラル語族のなかでもフィン=ウゴル語派,ウゴル語群に属する言語で,Ethnologue の情報によると1000万人の話者がおり,ウラル語族としては最大の言語である.またウラル語族のなかで最も古い12世紀の文献が残っている.
当然のことながら語族の異なる英語とは言語類型的に遠く,歴史文化的なつながりもそれほど多くはないので,英語(史)と結びつけるのが困難である.ただ世界の語彙を吸収している英語のことなので,ハンガリー語の単語もいくつか英語に入り込んでいる.OED によるとざっと30語以上はあるようだ.
馴染みのない単語が多いが,ハンガリーの代表料理として goulash 「グーラッシュ」が知られている.タマネギ,パプリカ,キャラウェーを用いたビーフシチューで,見た目はこんな料理.ハンガリー語の gulyās (hūs) "herdsman's (meat)" に由来し,英語には19世紀の終わりに入ってきた.料理の起源は9世紀に遡る.マジャール人( Magyar; ハンガリーの主要民族)の羊飼いが羊の放牧に出かけるときに,肉シチューを乾燥させたものを羊の胃袋で作った袋に詰めて出かけたという.それを水でシチューに戻して食べたようだ.一種のレトルト弁当だ.
goulash にも大量に入っている paprika もハンガリー語から入った.さらに遡ればセルビア語の pàper に指小辞を付加した pàprìka に行き着き,その源はギリシア語の páperi "pepper" である.乾燥した成熟アマトウガラシで辛味が少なく,どんな料理でも真っ赤にしてしまうきつい色だ.原産はスペイン,インド,アメリカなど諸説ありハンガリーではないが,この香辛料はハンガリーの象徴となっており,ハンガリー産の "rose paprika" は世界最良品質のパプリカとされる.paprika は英語へはやはり19世紀の終わりに入ってきた.
他には,ハンガリーの通貨 forint を挙げておこう.ハンガリー通貨としては1946年に制定された新しいものだが,起源は古イタリア語の fiorino に遡り,1252年に Florence で最初に発行された florin 「フロリン金貨」と同根である.硬貨にユリの花模様 ( 古イタリア語 fiore 「花」 ) があることからこの名がついた.厳しい財務状況によりハンガリーのユーロ入りはまだ先のようだ.
現代英語にみられる発音の揺れについて,本ブログではこれまで controversy, harass, Caribbean と具体例を取り上げてきた.揺れ ( fluctuation ) があるということは言語変化の種である変異 ( variation ) があるということであり,音声変化が今まさに起こっていることを示唆するものと考えられる.
[2010-05-31-1]の記事で現代英語に起こっている言語変化の代表的なものを部門ごとに列挙したが,特に発音部門について,現在揺れを示している例,今後の音声変化を示唆する例を一覧にしておくと,言語変化ウォッチャーとしては便利だろうと考えた.そこで,Longman Pronunciation Dictionary の発音傾向調査 ( Pronunciation Preference Polls ) で取り上げられている,揺れを示す語をアルファベット順に取り出してみた.発音傾向調査の結果とともに詳しく解説されている語ばかりなので,音声変化の観点からは「注目語」とみなしてよいだろう.揺れの基準は英米差や世代差に関わるものが多いが,語ごとに異なっているのでこの一覧はあくまで目安と捉えておきたい.また,say は見出しとしては say となっているが,実際の揺れは3単現形 says の発音が [sez] か [seɪz] かという問題なので,個々の例については辞書を参照されたい.
absorb, absurd, accomplish, address, adult, again, ally, almond, alto, amphitheater, applicable, Asia, associate, association, assume, asterisk, ate, attitude, auction, aunt, baptize, bath, because, bedroom, been, bequeath, booth, bouquet, brochure, broom, capsize, caramel, Caribbean, casual, caviar, chance, chromosome, chrysanthemum, cigaret, circumstance, citizen, clandestine, coffee, communal, complex, congratulate, contribute, controversy, costume, coupon, covert, cream, create, creek, crescent, cyclical, data, debris, debut, decade, defect, deity, delirious, demonstrable, depot, deprivation, detail, diagnose, diphthong, direct, direction, discount, dispute, dissect, distribute, donate, drama, drastic, due, during, economic, ecosystem, egotistic, electoral, electronic, envelope, ephemeral, equation, equinox, evolution, exasperate, exit, exquisite, extraordinarily, falcon, false, February, fiance, finance, financial, forehead, formidable, garage, gibberish, giga-, Glasgow, gone, gradual, graph, greasy, H, halt, handkerchief, harass, herb, hero, historic, homogeneous, homosexual, hurricane, ice, idea, ideology, illustrate, impious, incomparable, increase, inherent, innovative, inquiry, insurance, involve, irrefutable, issue, jump, jury, justifiable, juvenile, kilometer, lamentable, lather, lawyer, length, -less, licorice, longitude, lure, luxurious, luxury, maintain, mall, malpractice, marry, masquerade, Massachusetts, mayonnaise, measure, migraine, mischievous, Muslim, necessarily, necessary, nephew, new, newspaper, niche, nuclear, often, ogle, omega, ominous, one, onerous, opposite, oral, orange, ordinary, pajama, palm, patriotic, patronise, perpetual, plaque, plastic, poem, Polynesia, poor, predecessor, premature, Presley, prestigious, presume, primarily, princess, privacy, process, project, protester, puncture, quagmire, quarter, questionnaire, real, really, regulatory, research, resource, respiratory, restaurant, room, route, salt, sandwich, say, scallop, schedule, schism, scone, semi-, shortcut, simultaneous, situation, soot, sorry, soviet, spectator, stereo, strength, student, submarine, subsidence, substantial, suggest, suit, sure, syrup, thanksgiving, thespian, tinnitus, tomorrow, transferable, transistor, transition, translate, tube, tune, umbrella, usage, vacation, vehicle, via, visa, voluntarily, were, white, with, year, yours, youth, zebra
一覧を作成している過程で驚いたのは,アルファベットの8文字目の H がイギリス英語の若年層で [heɪtʃ] と発音されるようになってきているということだ.LPD の以下の調査結果を参照.
Irish English では [heɪtʃ] が標準だということも知らなかった.[h] 音の脱落や spelling-pronunciation による復活については,これまでもいくつかの記事で扱ってきたが,文字名としての H 自身も関わっていたとは・・・.
・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
現代英語英語は文法性 ( grammatical gender ) をもたない点で,印欧諸語のなかで唯一とは言わないまでも稀な言語である.古英語期には男性,女性,中性の3性を区別していたが,初期中英語期以来,屈折語尾の衰退に伴って文法性も曖昧となり,生物学的な性に基づく自然性 ( natural gender ) へ取って代わられた.英語学習者の立場からすると,文法性という一見して理不尽な文法カテゴリーが失われたことによって学習が楽になったことは間違いない.文法性の欠如が現代英語の主要な特徴の1つとされる所以である ( see [2009-09-25-1] ) .
そもそも印欧祖語 ( Proto-Indo-European ) は男性,女性,中性の3性を区別していたとされ,その区別は古英語を含めた多くの言語に引き継がれた.しかし,別の多くの言語は3性の区別を2性に再編成したり,英語のように区別そのものを失った言語も少数だがある.今日は,印欧諸語の文法性の区分を一覧してみよう.
以下は,Wikipedia より Grammatical gender と Noun class: Languages without noun classes or grammatical genders を参考に語派ごとにまとめた表である.[2010-07-26-1], [2009-06-17-1]辺りの印欧語系統図を眺めながら確認されたい.Gender 欄の略記号は以下の通り.
・ MFN = 男性,女性,中性の3性を区別
・ MF = 男性と女性の2性を区別
・ CN = 共性(男性と女性が融合した "common gender" )と中性の2性を区別
・ 0 = 文法性の区別なし
Language | Subfamily | Gender |
---|---|---|
Albanian | Albanian | MF |
Hittite | Anatolian | CN |
Armenian | Armenian | 0 |
Latvian | Italic | MF |
Lithuanian | Balto-Slavic | MF |
Belarusian | Balto-Slavic | MFN |
Bosnian | Balto-Slavic | MFN |
Bulgarian | Balto-Slavic | MFN |
Croatian | Balto-Slavic | MFN |
Czech | Balto-Slavic | MFN |
Macedonian | Balto-Slavic | MFN |
Old Prussian | Balto-Slavic | MFN |
Polish | Balto-Slavic | MFN |
Russian | Balto-Slavic | MFN |
Serbian | Balto-Slavic | MFN |
Serbo-Croatian | Balto-Slavic | MFN |
Slovak | Balto-Slavic | MFN |
Slovene | Balto-Slavic | MFN |
Sorbian | Balto-Slavic | MFN |
Ukrainian | Balto-Slavic | MFN |
Breton | Celtic | MF |
Cornish | Celtic | MF |
Irish | Celtic | MF |
Scottish Gaelic | Celtic | MF |
Welsh | Celtic | MF |
Gaulish | Celtic | MFN |
Old Irish | Celtic | MFN |
Afrikaans | Germanic | 0 |
English | Germanic | 0 |
Danish | Germanic | CN |
Dutch | Germanic | CN |
Low German | Germanic | CN |
Swedish | Germanic | CN |
Faroese | Germanic | MFN |
German | Germanic | MFN |
Icelandic | Germanic | MFN |
Norwegian | Germanic | MFN |
Old English | Germanic | MFN |
Yiddish | Germanic | MFN |
Greek | Hellenic | MFN |
Bengali | Indo-Iranian | 0 |
Persian | Indo-Iranian | 0 |
Hindi | Indo-Iranian | MF |
Punjabi | Indo-Iranian | MF |
Romani | Indo-Iranian | MF |
Urdu | Indo-Iranian | MF |
Gujarati | Indo-Iranian | MFN |
Marathi | Indo-Iranian | MFN |
Sanskrit | Indo-Iranian | MFN |
Catalan | Italic | MF |
Corsican | Italic | MF |
French | Italic | MF |
Galician | Italic | MF |
Italian | Italic | MF |
Occitan | Italic | MF |
Portuguese | Italic | MF |
Sardinian | Italic | MF |
Sicilian | Italic | MF |
Spanish | Italic | MF |
Venetian | Italic | MF |
Latin | Italic | MFN |
Romanian | Italic | MFN |
英語史で大きな統語上の問題はいくつかあるが,そのうちの1つに迂言的 do ( do-periphrasis ) の発達がある.現代英語では助動詞 do は疑問文,否定文,強調文で出現する最頻語だが,中英語以前はこれらの do の用法はいまだ確立していない.それ以前は,疑問文は Do you go? の代わりに Go you? であったし,否定文も I don't go. の代わりに I go not. などとすれば済んだ.do-periphrasis が初期近代英語期に確立した理由については諸説が提案されているが定説はなく,現在でも様々な方面から研究が続けられている.
しかし,do-periphrasis が確立した過程については,少なくとも頻度の変化という形で研究がなされてきた.疑問文や否定文を作るのに do を用いない従来型を単純形 ( simplex ) ,do を用いる革新型を迂言形 ( periphrastic ) とすると,迂言形の占める割合が初期近代英語期 ( 1500--1700年 ) に一気に増加したことが知られている.
以下は,英語史概説書を通じて広く知られている Ellegård による do-periphrasis の発達を示すグラフである.(中尾, p. 74 に再掲されている数値に基づいて作り直したもの.数値はHTMLソースを参照.)肯定平叙文 ( aff[irmative] declarative ) ,否定平叙文 ( neg[ative] declarative ) ,肯定疑問文 ( aff[irmative] interrogative ) ,否定疑問文 ( neg[ative] interrogative ) ,否定命令文 ( neg[ative] imperative ) と場合分けしてある.
疑問文での do-periphrasis の使用が,全体的な発展を先導していったことがわかる.ただし,実際には個々の動詞によって do-periphrasis を受け入れる傾向は異なり,否定文では care, know, mistake などが,疑問文では come, do, hear, say などが迂言形の受け入れに保守的であった.Ogura によると,談話的な要因,社会・文体的要因,音素配列,動詞の頻度などが複雑に相互作用して do-periphrasis がこの時期に拡大していったようだ.
・ Ellegård, A. The Auxiliary Do. Stockholm: Almqvist and Wiksell, 1953.
・ 中尾 俊夫,児馬 修 編 『歴史的にさぐる現代の英文法』第3版,大修館,1997年.
・ Ogura, Mieko. "The Development of Periphrastic Do in English: A Case of Lexical Diffusion in Syntax. Diachronica'' 10 (1993): 51--85.
今日は語源情報を与えてくれるオンライン辞書を紹介したい.専門的なオンラインの英語語源辞書は Online Etymology Dictionary だけだが,一般のオンライン辞書の語源欄にも便利なものがある.英語語源情報ぬきだしCGI(一括版)もどうぞ.
(1) 唯一の本格派オンライン語源辞書
・ Online Etymology Dictionary: Douglas Harper 氏による本格的な語源辞書.初出年あり.英語語源情報ぬきだしCGI(一括版)でもお世話になっています.お薦め.
(2) 語源の勉強になるお薦めの辞書
・ Dictionary.com: 初出年あり.The Random House dictionary や Collins English Dictionary などの複数の辞書の記述を比べられるので便利.お薦め.
・ The Free Dictionary: American Heritage Dictionary of the English Dictionary と Collins English Dictionary に基づいた簡潔な語源説明.比べられて便利.また,thesaurus の情報も一緒に入ってきて有用.単なる類義語だけでなく関連語が一覧されるので,語彙増強にも役立つ.お薦め.
・ Merriam-Webster's Online Dictionary: 老舗辞書の語源欄として有用.初出年あり.
・ スペースアルクの語源辞典: 日本語で分かりやすい.関連語の一覧が出るので,語彙増強に利用できる.
(3) 意味や類義語などを知るついでに語源を軽く知りたいときに
・ Oxford Dictionaries Online - English Dictionary and Thesaurus: 老舗の辞書に簡潔な語源説明あり.Origin 欄で読みやすい説明.
・ Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913 + 1828): 本格派辞書(旧版)の語源欄.
・ HyperDictionary.com: 同じく Webster (1913) の語源欄.ただ,thesaurus の情報も一緒に入ってくるので便利なときも.
・ Wiktionary: 簡潔な語源説明.先頭に語源欄が来る.
・ MSN Encarta Dictionary: 簡潔な語源説明.
(4) 語源に関する読み物
・ Etymologically Speaking: 語源豆辞典.228語しかないが各々に丁寧な説明があり,辞書としてよりも読み物として面白い.
・ hellog の語源の話題: 本ブログでも何かと語源は断片的に扱っているので.検索ボックスに "etymology ○○" (○○は英単語)などとすると引っかかるものがあるかもしれない.
2008年にアメリカの老舗辞書出版社 Merriam-Webster から本格的な EFL 用の英英辞書 Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary ( MWALED ) が出版された.昨日の記事[2010-08-23-1]でそのオンライン版を紹介した.以下に検索ボックスを貼り付け.
Keyword | GA | RP | Examples |
---|---|---|---|
lot | /lɑt/ | /lɒt/ | bomb, cot |
palm | /pɑːm/ | /pɑːm/ | balm, father |
thought | /θɔːt/ | /θɔːt/ | caught, taught |
cloth | /clɔːθ/ | /clɒθ/ | loss, soft |
たまに表面的に利用することがあったが,ちゃんとサイト内を巡ったことはなかった.アメリカの老舗辞書出版社 Merriam-Webster の Merriam-Webster Online の充実振りに驚いた.Unabridged Dictionary こそ有料サービスだが,以下のものはフリーで利用できる.
・ Merriam-Webster Collegiate Dictionary
・ Thesaurus
・ Medical Dictionary
・ Learner's Dictionary: 2008年出版のアメリカ発・初のアメリカ英語 EFL 辞書 Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary ( MWALED ) に対応するオンライン版.以下の検索ボックスから検索可能.最近,老舗のイギリス系 EFL 辞書( LDOCE5 や OALD7 ) は語源に力を入れているが,MWALED は語源は重視していないようだ.
現代英語に残る本来語の数少ない不規則複数形の1つに ox 「雄牛;牛」の複数形 oxen がある.現代の標準変種では,古英語の弱変化名詞に直接に由来する唯一の複数形である.ところが,最近アメリカ英語で oxes が現れ始めている.誤用としてではない.『ジーニアス英和大辞典』によると ox の語義2として次のようにあり,この語義での複数形には oxes もありうるという.
2 牛のような(力強い)人, ずんぐりした人, のろまの人 // a dumb ox ((略式))(ずうたいのでかい)うすのろ.
OED によるとこの比喩的な意味は16世紀からある.現在ではアメリカ英語では ox はこの語義以外にはあまり用いられないようだ.それではということで,British National Corpus (BYU-BNC) と Corpus of Contemporary American English (BYU-COCA) で調べてみた.
BNC では oxes が2例ヒットするが,いずれも ox は不規則複数を取る名詞だと教室で教えているという文脈で oxes を誤用として紹介している例なので,事実上ゼロと考えてよいだろう.
COCA では関与する例が6例あった.いずれも話し言葉かニュース英語で,政治的な文脈において使われており,gore 「(角で)突き刺す,傷つける」という動詞の対象として用いられている.例えば,以下のごとくである.
Now our oxes are being gored more directly, not with malice, but out of some perverse ego game.
The establishment, we are sometimes -- you knows, in some cases, convenient oxes to gore. But I think there's no question they represent an important political constituency in the country.
gore (one's) ox というイディオムは,俗語で "to goad or intentionally try to piss someone off" 「突っついていじめる,嫌がらせをする」という意味を表し,アメリカ英語特有のようである.ここの ox はイディオムの一部として用いられており,特に「うすのろ」という意味ではない(イディオムの意味については こちら を参照.このイディオム中で複数形が oxes でなく oxen が用いられている例が4例あることから,この表現が非歴史的な複数形態 oxes の出現に果たしている役割を疑うことができるかもしれない.
これは,動物としてでなくコンピュータマウスの複数形としての mouses や,触覚としてでなくアンテナの複数形の antennas など,比喩的に発展した意味に規則的な複数の -s が付加されるのと類似する現象だろう.gore (one's) ox の ox は原義の「雄牛」のイメージから一歩遠ざかっており,それが oxes という形態を取ることを可能にしているのではないか.ただし,今のところ「雄牛」の意味の複数形として oxes が侵入しているという証拠は(誤用以外には)ないようだ.
昨日の記事[2010-08-20-1]で,印欧祖語の から現代英語の father にいたる長い音声変化の道のりを示したが,一連の子音変化の最後に起こった摩擦音化について追記したい.d > ð の変化は1400年以降に「強勢のある母音 + d + 音節主音的 r 」という音声環境で起こり始めた.近代英語期には,これに関わる多くの語でいまだ d と ð のあいだに揺れがみられ,特に fader ? father, moder ? mother では揺れが激しかった.最終的には,以下のような多くの語で ð へ移行して現在に至っている.
furder > further, gader > gather, hider > hither, togeder > together, weder > weather, wheder > whether, whider > whither
しかし,d が残った burden, murder, rudder などの語も少数だがある.Shakespeare 辺りでは,いまだに burthen や murther も普通に見られた ( Scragg 32fn ) .
・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.384, 386--87頁.
・ Scragg, D. G. A History of English Spelling. Manchester: Manchester UP, 1974.
ヴェルネルの法則 ( Verner's Law ) については,[2009-08-09-1]の記事で hundred という語を用いて説明した.多くの参考書では Verner's Law の説明に father が用いられているので,今日は father を用いた教科書的な記述を試みる.
Verner's Law は,語によってグリムの法則 ( Grimm's Law ; see [2009-08-08-1], [2009-08-07-1]) の予想に反する形態が出力されてしまう問題に対して,印欧祖語の段階でのアクセントの位置を考慮することで解決を図ろうとして見つけだされた法則である.「父」を表わす印欧祖語の再建形は である.語頭の *p は Grimm's Law に従ってゲルマン諸語へは f として伝わった.古英語の形態は fæder であるから,これについては法則通りである.だが,第2子音を考えると具合が悪い.印欧祖語の *t は Grimm's Law に従えばゲルマン諸語では th に対応するはずだが,実際には古英語の場合の fæder にあるように d に対応している.(ここで現代英語の形態 father を思い浮かべてはいけない.現代の英語の形態に見られる th は後述するように中英語後期からの発達で,Grimm's Law の出力と直接に関連づけるのはアナクロである.)
一見すると Grimm's Law はここで破綻するが,1875年に Karl Verner (1846--96) がこの例外を説明する別の法則を発見した.「アクセントが先行しない,有声音にはさまれた環境における *t は,グリムの法則の予想する *θ にはならず,それが有声化した音である ð になる」というものである.印欧祖語の再建形によればアクセントは第2音節にあり,*t にとってはアクセントが先行しないことになる.さらに有声母音にはさまれているので,上記の環境に合致する.したがって,予想される *θ にはならずに,代わりに *ð へ変化したとして説明される.だが,ここではまだ古英語の fæder にたどり着かない.Verner's Law を経た後に,この語のアクセントが第1音節に移動し(=ゲルマン語派の特徴の1つ),さらに古英語を含む西ゲルマン語群では当該子音 *ð が脱摩擦音化して d となった.こうしてようやく(母音は別として)めでたく古英語の fæder が出力されることになる.
だが,話しはまだ終わらない.古英語で d となった第2子音は,後期中英語期の1400年以降に再び摩擦音化し,ð へと回帰してゆく.入力の印欧祖語形と出力の現代英語形を並べてみると,Grimm's Law と Verner's Law の適用のみを考えればよいように思われるが,実際には Verner's Law の後にアクセント移動,脱摩擦音化,摩擦音化という各種の音声変化を経て結果的に回帰したにすぎない.こうして,ようやく現代英語の father にたどり着くのである.
このように見てきて分かるように,father は (1) 古英語以降にも数々の音声変化を経ているために印欧祖語形から現代英語形に至るまでの道のりが非常に遠く,(2) 現代の綴りに <th> があることから Grimm's Law で予想される出力の *θ や Verner's Law で予想される出力の *ð と現代英語形がアナクロに結びつけられやすい,という事情があり,Verner's Law を解説する例としては father はあまり適切ではない.この語の音声変化は相当に複雑なのである.それで[2009-08-09-1]の記事ではワンステップだけ行程の少ない hundred の例を持ち出したのだが,英語の音声変化が Grimm's Law や Verner's Law のような著名なものばかりではなく,細かいところでいろいろと起こっているのだということを思い出させるには father もよい例かもしれない.まとめとして以下の図を参照.
・寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年. 31--33頁.
ロシアの異常気象と干ばつによる小麦の不作で,小麦の先物価格が高騰している.ロシアはアメリカ,カナダに次ぐ世界3位の小麦輸出国で,国際価格を乱高下させる可能性がある.小麦価格の高騰に関する新聞記事を読んでいると,1ブッシェル当たり7ドルを超えたなどという指標に出くわす.
bushel 「ブッシェル」は穀物・果実などの量を測るのに用いられるヤード・ポンド法の単位である.本来は重量でなく体積の単位であり,35.24リットル( Winchester bushel; 米国および15世紀から1824年までのイングランドで)あるいは36.37リットル( Imperial bushel; 英国で)に相当する.重量単位としては1ブッシェル升の体積に対応する重量を表わすが,穀物によって対応する重量は異なるために,イギリスでは13世紀以来,複数の重量に対応することになっている.小麦の場合には約27kgである.
14世紀,中英語の busshel, bussel は古フランス語 boissiel (現代フランス語の boisseau )からの借用語で,後者は boisse + -el という派生語である.語根の boisse は6分の1ブッシェルの意で,俗ラテン語 ( Vulgar Latin ) の *bostia 「手一杯の分量」,さらにはゴール語 ( Gaulish ) の *bosta に遡るとされる.フランス語から英語に入った -ss をもつ語では,1400年頃までに当該音が /s/ から /ʃ/ へ変化するに伴い,綴字も <ss> から <sh> へと変化した ( see [2010-04-08-1] ) .
さて,bushel と聞いて思い出すのは,Chaucer の The Canterbury Tales のなかの1話 "The Reeve's Tale" である.粉屋が小麦をピンはねするという悪行に対して,オックスフォード大学の神学生2人が粉屋の奥さんと娘を寝取ることで仕返しをするという下世話な物語である.ファブリオ ( fabliau ) と呼ばれるこの種の韻文滑稽譚は,現代の読者が読んでも愉快である.粉屋が神学生2人の馬の手綱をほどいて逃がすという悪戯を働いた後に,まんまと半ブッシェルをせしめてしまうシーンが印象深い ( ll. 4093--94; see the text here. ) .
He half a busshel of hir flour hath take,
And bad his wyf go knede it in a cake.
小麦は現代世界で最も収穫量の多い穀物である.半ブッシェルほどをせしめたくなるほどにブッシェル当たりの価格に一喜一憂するのは,600年前も今も変わっていないということだろう.
[2009-08-19-1],[2009-11-05-1]などで触れたように,近代英語期にはものすごい勢いでラテン単語が英語に借用された.その勢いは中英語期のフランス語借用をも上回るほどである.[2009-06-12-1]で示したように,16世紀だけでも7000語ほどが借用されたというから凄まじい.背景には以下のような事情があった.
16世紀後半,中英語期のフランス語のくびきから解放され,自信を回復しつつあった英語にとっての大きな悩みは,本格的に聖書を英訳するにあたって自前の十分な語彙を欠いていたことだった.そこで考えられた最も効率のよい方法は,直接ラテン語から語彙を借用することだった.さらに,ルネサンスのもたらした新しい思想や科学,古典の復活により,ギリシア語やラテン語といった古典語に由来する無数の専門用語が必要とされ,英語に流入したという事情もあった.かくして16世紀後半の数十年ほどの短期間に,大量のラテン単語が英語に取り込まれた.しかし「インク壺語」( inkhorn term )と揶揄されるほどに難解で衒学的な借用語も多く,この時期に入ったラテン単語の半分は現代にまで伝わっていないと言われる.
現代にまで残ったものは,基本語彙とまでは言わないが,文章では比較的よくみかける次のような単語が挙げられる(以下,Brinton and Arnovick, pp. 357--58 より).
confidence, dedicate, describe, discretion, education, encyclopedia, exaggerate, expect, industrial, maturity
現代までに残らなかったものは,以下のような単語である.当然ながら我々には馴染みのない単語ばかりなので,ラテン語を勉強していない限り意味を推測するのは困難だ.
adjuvate "aid", deruncinate "weed", devulgate "set forth", eximious "excellent", fatigate "make tired", flantado "flaunting", homogalact "foster-brother", illecebrous "delicate", pistated "baked", suppeditate "supply"
どの語が生き残りどの語が捨てられたのかについては,理由らしい理由はないといってよいだろう.ランダムに受容され,ランダムに廃棄されたと考えるのが妥当だ.現代英語に慣れている感覚では,education や expect などの語がなかったら不便だろうなと思う一方で,flantado や illecebrous などは必要のない語に思える.だが,場合によってはまったく逆の状況が生じていた可能性があると想像すると不思議である.現代英語の語彙が歴史の偶然によってもたらされたものだということがよく分かるだろう.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
昨日の記事[2010-08-16-1]で触れた gorgeous の話題の続編.昨日は「素敵な」の語義の拡大をイギリス英語を代表する BNC で見たが,アメリカ英語ではどうだろうかと思い,Corpus of Contemporary American English (COCA) にて調べてみることにした.というのは,『ビジネス技術実用英語大辞典第4版』に "My son is an extremely gorgeous baby." における gorgeous の使い方はアメリカ英語だという説明書きがあったからである.イギリス英語での用法はアメリカ語法 ( Americanism ) の波及という可能性があるということだろうか.
まずは,COCA で話し言葉サブコーパスに限定して調べてみると,興味深いことにこの20年間で確実に gorgeous の使用が増えている.
次に,話し言葉に限らず書き言葉も含めて調べると,やはりこの20年間で劇的に増えている.fiction, magazine, newspaper という書き言葉のジャンルでもかなりの頻度を示していることが,gorgeous の全体的な勢いを物語っている.
話し言葉に限っても限らなくても,ここ15年前後で gorgeous の頻度が倍増したことになる.今回の検索結果は,本来の語義「華麗な,豪華な」と新しい語義「素敵な」とを区別していないが,KWIC ( Keyword in Context ) をざっと眺めてみた限り,後者の語義のほうが多いようである.語義や語法の拡大というのは火がつくときには一気に火がつくのだなということが実感できる例だ.
今回の単純な調査だけでは,イギリス英語での使用増加が Americanisation によるものかどうかは判断できなかったが,少なくとも英米変種で今をときめく口語的形容詞といってよさそうだ.
フィギュアスケートの実況などで女性コメンテーターが Gorgeous! と感嘆するのを聞くことがある.また,イギリス留学中にまだ赤ん坊だった私の娘の髪型を指して,お世話になっていたイギリス人女性が Gorgeous! と口にしていたのを覚えている.「ゴージャス」は日本語にも借用されており「華麗な,豪華な」という意味で定着しているが,日本語では賞賛を表わす叫びとしては用いないと思うので,上記の英語表現を聞くと用法が違うのだなと気づく.OALD7 によると,形容詞 gorgeous の第1語義は以下の通りである.現在では「素敵な」の語義が主要な使い方になっているようだ.
1. (informal) very beautiful and attractive; giving pleasure and enjoyment
形容詞 gorgeous はフランス語の gorgias "fine, elegant" からの借用で,一説によると語幹の gorge が "bosom, throat" であることから "ruff for the neck" 「首を飾るのにふさわしいひだ襟」と関連づけられるのではないかとされている.別の説ではギリシャの修辞家で贅沢品を好んだという Gorgias (c483--376BC) に由来するともされ,真の語源は詳らかでない.OED によるとこの語は15世紀終わりから用いられており「華麗な,豪華な」という語義が基本だったが,賞賛を表わす口語表現としての用法が19世紀後半から現れ出す.ただし,口語表現としての用法が一般化したのは20世紀に入ってからであり,とりわけポピュラーになったのは20世紀も後半から21世紀にかけてのことではないかと疑われる.
そう考える根拠の1つは,20世紀前半の辞書をいろいろと調べたわけではないが,例えば Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913 + 1828) で調べる限り,gorgeous のエントリーに口語的な表現に対応する語義が与えられていない.
もう1つの根拠は,BNCWeb で gorgeous の頻度の統計を取ってみた結果である.いくつか興味深い結果が出た.まず明らかなのは,"informal" というレーベルから当然予想されるとおり,この語は書き言葉よりも話し言葉で頻度が顕著に高いことである.100万語中の出現頻度は,書き言葉で4.8回に対して話し言葉で17.39回である.話し言葉に限定して分布を調べたところ,特に会話文で頻度の高いことが分かった.
そして,何よりもおもしろいのは使用者の性別と年齢の分布である.gorgeous は100万語中,男性には8.89回しか用いられていないが,女性には34.64回も使われている.複数の英和辞書,英英辞書を引き比べて「主に女性語・略式」としてレーベルが貼られているのは『ジーニアス英和大辞典』だけだったが,これほど男女差が明らかであれば他の辞書でも「女性語」のレーベルが欲しいところだ.また,使用者の年齢としては24歳以下が圧倒的である.BNC が代表する20世紀後半のイギリス英語の話し言葉に関する限り,gorgeous は若年層の女性にとりわけポピュラーな表現ということが分かる.一般にはあまりこの語を用いない男性も,若年層に限っては使用頻度が比較的高いという結果も出た.全体として,gorgeous の使用はここ1?2世代の間に使用が拡大していると考えられそうである.
より細かく調査する必要はあるが,以上の情報から判断する限り gorgeous の用法がまさに目の前で変化しているということになる.口語的な賞賛の表現は19世紀末から徐々に発達してきたが,ここ数十年で若年層女子の使用によってブレイクし,それが若年層男性にも拡がりつつある.今後は他の年齢層にも及んできてますますポピュラーになるかもしれないし,一時の流行表現としてしぼんでいくかもしれない.
今後,この用法の行方を見守っていきたい.私も機会があったら(性別・年齢不相応気味に) That's gorgeous! と叫んでみることにしよう.
現代英語の口語で,標題のような表現がある.「そりゃまったく別の話だよ」という意味で,LDOCE5 によると nother, 'nother の見出しのもとに次のような記述がある.
a whole nother ... used humorously when emphasizing that something is completely different from what you have been talking about. It is a changed form of 'another whole':
- Texas is a whole nother country.
- That窶冱 a whole 'nother ball game.
another ( a(n) + other ) を分解して強調の whole を挟み込む際に,a whole other ではなく a whole nother と異分析 ( metanalysis ) して挟み込んだために生じた表現である(異分析の類例は[2009-05-03-1]を参照).Corpus of Contemporary American English (COCA) では結構な数の例が挙がったが,British National Corpus (BNC) では例がなかった.Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary では "US informal" のレーベルが付されていたし,アメリカ英語に多い表現といってよさそうだ.
さて,古い英語をみてみると,a whole nother のように間に形容詞が挟まっているタイプの nother の例こそいまだ見つけていないが,a + nother と異分析している例は早くも1300年頃から現れている.ane nothir sentence や an nother maner などの例を見ると,nother がすでに独立した語として認識されていたことが分かる.ただ,現代英語(米語?)の a whole nother という句が歴史的な異分析の例とどのような関係にあるのか,現段階の調査では不明である.
英語(言語)が変化するというときに普通に想定されているのは,発音,文法,語彙などの言語体系の構成要素が変化するということだろう.これを言語学的変化 ( linguistic change ) と呼ぼう.
しかし,もう1つの意味での変化がありうる.それは社会的な観点における変化で,例えば社会における英語の位置づけであるとか,英語が使用される分野や機会の拡大であるとか,英語という言語の社会的機能の変化を指す.これを社会言語学的変化 ( sociolinguistic change ) と呼ぼう.
英語の歴史や未来を論じる場合にはこの2種類の変化を区別する必要があるが,この2者は互いにどのような関係にあるのだろうか.社会言語学的変化が言語学的変化を誘引してきた例は,間違いなく英語史にある.長らくラテン語やフランス語のくびきのもとで地下に潜っていた英語が,中英語後期よりイギリス国内で復活を遂げてきた.英語がイギリス国内のあらゆる分野・領域 ( domain ) で用いられるようになり,それに応じて綴字の標準化も進んできた.続く近代英語期には,辞書や文法書が数多く著され,英語の規範が確立された.
社会言語学的変化が言語学的変化を牽引する近年の例では,英語が ELF ( English as a Lingua Franca ) として広く使われるようになるに伴い,WSSE ( World Standard Spoken English ) と呼ばれる新タイプの英語変種が現れつつある.WSSE では,地域色の強い語句や発音が避けられる傾向があるという.以上の例は,英語が各時代に要求される社会的機能に対応して言語的に変化が生じるという例だ.
それでは,逆の方向の影響,つまり言語学的変化が社会言語学的変化を誘引する事例はあるのだろうか.これは,慎重に議論すべき問題だろう.この問題は,例えば「英語は文法が単純化したからこそ世界語の地位を獲得できたのだ」というような説を検討する際に関係してくる.以下の2つの命題において「 (1) ゆえに (2) 」という説である.
(1) 英語の文法が単純化した(言語学的変化)
(2) 英語が世界語の地位を獲得した(社会言語学的変化)
英語の未来についての論客の1人である Crystal はこの説は俗説として退けている (7--10) .私も Crystal の意見には賛成で,(1) が (2) をもたらしたという因果関係はないという考えである.しかし,いったん英語が世界語の地位を確立し,世界の相当部分がその潮流に乗るという方向が定まった後では,(1) は (2) を後押しするくらいの効果はあるのではないかとも考えられる.だが,この意見は「 (1) ゆえに (2) 」という直接の因果関係を意図するものではない.
言語学的変化の結果として社会言語学的変化が新たに生じたという明らかな事例は一体あるのだろうか.
・ Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
言語のなかで最も変化しやすい部門は何か.新語や廃語に見られるように言語の語彙項目は短期間で入れ替わるものであり,語彙はおそらく最も変化の激しい部門だろう.音声も同様に変化しやすいことが,英語史を見れば分かる.だが,語彙や音声に負けず劣らず変化の激しい部門として,語の意味がある.
語の意味が変わりやすいのは,語の形態と内容の間に論理的な関係がないことによる.記号表現 ( signifiant ) と記号内容 ( signifié ) の関係は本質的に恣意的 ( arbitrary ) であり,我々が自然と思っているある語とその意味との結びつきは慣習的なものにすぎない.恣意的とか慣習的とかいうことは一時的であることにも通じ,語とその意味の関係は軽微な契機で変化しうるということにもなる.語の意味は本来的に変化することが前提とされているようにも思える.
意味変化には典型的なパターンがいくつかある.そのなかでも特によく取り上げられるのは,互いに関連する4つのパターンである.Brinton and Arnovick (77--80) を参考に例とともに列挙してみよう.
(1) 一般化 ( generalization ): 特殊性を示す限定的な要素が抜け落ちる変化
・ box: from "a small container made of boxwood" to "a small container"
・ butcher: from "one who slaughters goats" to "one who cuts and sells meat in a shop"
・ carry: from "to transport something in a vehicle" to "to move something while holding and supporting it"
・ crisis: from "a turning point of a disease" to "a difficult or dangerous situation that needs serious attention"
・ holiday: from "a holy day" to "a non-work day"
・ sanctuary: from "a holy place" to "a safe place"
・ scent: from "animal odour used for tracking" to "a pleasant smell"
(2) 特殊化 ( specialization ): 集合内の特殊な一員を示す変化や限定的な意味に特化する変化
・ acorn: from "wild fruit" to "the nut of the oak tree"
・ adder: from "a snake" to "a type of poisonous snake"
・ hound: from "a dog" to "a type of hunting dog"
・ lust: from "desire" to "sexual desire"
・ meat: from "food" to "meat"
・ sermon: from "a speech, discourse" to "a talk given as part of a Christian church service"
・ stool: from "a seat for one person" to "a backless seat"
(3) 悪化 ( pejoration ): マイナス評価を帯びるようになる変化.特殊化を兼ねることが多い.
・ admonish: from "to advise" to "To warn or notify of a fault"
・ corpse: from "a body" to "a dead body"
・ cunning: from "knowledgeable" to "clever and good at deceiving people"
・ hussy: from "a housewife" to "a woman who is sexually immoral"
・ judgmental: from "inclined to make judgments" to "inclined to make uncharitable or negative judgments, overly critical"
・ poison: from "potion, drink" to "a substance that can cause death or serious illness"
・ villain: from "a low-born or common person" to "a vile, wicked person"
(4) 良化 ( amelioration ): プラス評価を帯びるようになる変化.特殊化を兼ねることが多い.
・ boy: from "a rascal, servant" to "a male child"
・ knight: from "a boy, a servant" to "a man who is given a special honor and the title of Sir by the king or queen of England"
・ nice: from "silly, simple" to "kind, polite, and friendly"
・ queen: from "a woman of good birth" to "the female ruler of a country"
・ shrewd: from "wicked" to "mentally sharp or clever"
・ steward: from "an overseer of the pig sty" to "someone who protects or is responsible for money, property, etc."
・ success: from "an outcome, a result" to "a correct or desired result"
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
古英語の詩には kenning 「ケニング」と呼ばれる隠喩的な婉曲表現がある.その多くが2つの要素からなる複合語 ( compound ) で,奇抜かつ豊かな発想に基づいた要素の組み合わせにより詩的表現を作り出す.hwælweg "whale's way" 「鯨の道」と表現して比喩的に「海」を指し示す例を取り上げよう.この場合,複合語の主要部「道」と指示対象「海」とは慣習的に連想が働かないが,限定部「鯨」と「海」とは慣習的に結びついている.この限定部「鯨」を介して主要部「道」と指示対象「海」とが初めて間接的に結びつけられるという意味で,比喩的あるいは婉曲的な表現と言えるのである.このように意味論的に厳密に kenning を定義すると,kenning と呼べる表現は古英詩でもかなり限られてくる.しかし,広い意味で隠喩的な婉曲表現ととらえるのであれば,それなりの種類が確認されている.
例題として,次の kenning の指示対象が何かを答えてみてもらいたい.(伏せ字部分をクリックすると答えが現れる.)
kenning | literal sense | meaning |
---|---|---|
beaduleoma | "battle-light" | sword |
famigheals flota | "foamy-necked floater" | ship |
feorhhus | "soul-house" | body |
goldgiefa | "gold-giver" | prince, lord |
hēafodgimm | "head-gem" | eye |
merehengest | "sea-horse" | ship |
sǣwudu | "sea-wood" | ship |
swanrād | "swan-road" | sea |
sweordplega | "swordplay" | fighting |
wælstōwe | "place of slaughter" | battlefield |
woruldcandel | "world-candle" | sun |
昨日の記事[2010-08-10-1]で,toilet の婉曲表現が豊富であることを見た.複数の辞書を引き比べていて感じたが,最近の(特に学習者用)英英辞書は類義語間の使い分けや語法の解説が詳しく,類義語辞典 ( thesaurus ) ならずともそれに準ずる実用的な類義語リストが得られて有用である.それでも,類義語リストの提示に特化した thesaurus にはかなわない.
最近はWeb上にも thesaurus が豊富に転がっており,例えば the Free Online Dictionary, Thesaurus and Encyclopedia や Thesaurus.com などが手軽に利用できる.昨日はWeb辞書は調べていなかったが,追加すべき「トイレ」代替表現がいくつかあるようである.
Web上の本格的な thesaurus として有名なのは,Princeton University の George A. Miller の指揮によって編纂されている WordNet である.自然言語処理の世界では WordNet と連係しながら様々な応用が図られているようだ.現時点では Version 3.0 のデータベースがこちらから検索可能となっており,例えば toilet の検索結果はこの通り である.上位語 ( hypernym ) や下位語 ( hyponym ) へも一瞬のうちにアクセスでき,英語の意味の世界が手軽に扱えるようになったことを実感できる.また,WordNet 3.0 database statistics には英語の名詞の平均語義数が1.24なのに対して動詞の平均語義数は2.17であるなど,有用な情報がある.
語の意味の世界を視覚化したネットワーク図が手軽に得られるようなWeb上のサービスも出てきた.Visual Thesaurus がその1つだが有料.フリーでも以下のような簡便なネットワーク図が得られる.
Visual Thesaurus は有料なので,代わりに私がたまに使っているフリーのものが Visuwords.上記の WordNet のデータベースと連係している.出力されるネットワーク図は以下の通り.以下のイメージをクリックして現われる拡大画像,あるいは Visuwords で直接 toilet を検索した出力で,詳細を確かめてみてほしい.
昨日の記事[2010-08-09-1]で euphemism を紹介した.euphemism の典型例の1つに「トイレ」を表す1群の語句がある.英語に限らずおそらく多くの言語で「トイレ」は直接的に指すのがはばかられる語であり,間接的に指す表現が豊富に発達していると思われる.「トイレ」などの婉曲表現が豊富に発達するのは,直接性を和らげるために様々な方法で作り出された間接的な表現が,しばらく使用されていると再び直接性を帯びるようになってしまい,次なる間接的な表現が必要とされるからである.こうして,かつては間接的だった表現が半死半生のままに累々と語彙のなかに積み残されることになる.一般に,タブー語に対応する婉曲表現が豊富なのはこのような理由による.
では,具体的に英語の toilet に相当する表現を見てみよう.複数の辞書や類義語辞典 ( thesaurus ) で調べて和集合を取ったところ,実に86の語句を収集することができた.壮観.
backhouse, basement, bathroom, bedpan, biffy, bog, can, carzey, chamber, chamber pot, chemical closet, chemical toilet, cloakroom, cloaks, closet, cludgie, comfort station, commode, convenience, conveniences, crapper, donagher, don(n)icker, dunny, earth closet, facilities, facility, gents, gutbucket, head, hopper, jakes, jerry, john, johnny, johnny house, jordan, kahsi, karzy, khaziv, ladies , ladies' room, latrine, lav, lavatory, lavvy, little boy's room, little girl's room, loo, lounge, men's room, middy, Mrs. Chan, necessary, outhouse, piss pot, piss-house, pisser, pot, potty, potty-chair, powder room, privy, public conveniences, relief station, restroom, shitter, shouse, stool, the smallest room, throne, throne room, throttle pit, thunder mug, thunder-bowl, thunderbox, toilet, toilet room, toilette, toot, urinal, washroom, Washroom, water closet, WC, women's room
ただ,ここでは地域変種,使用域 ( register ),含蓄的意味 ( denotation ),トイレの種類の別などは考慮に入れず,フラットに並べただけなので使用上は要注意.(← 後記:denotation ではなく connotation の誤りでした.)
日本語も同様に調べてみた.英語等からの借用語も含めて実に48の表現があり,同じく壮観.
浅草,隠所(いんじょ),ウオーター・クロゼット,ウオッシュルーム,お下(しも),お下屋敷,御手水(おちょうず),お手洗い,おトイレ,厠(かわや),勘考場(かんこうば),潅所(かんじょ),化粧室,後架(こうか),高野(こうや),御不浄,尿殿(しどの),ジョーン,西浄(せいちん),雪隠,洗面所,WC,手水所(ちょうずどころ),手水場,手洗い,手洗所,手洗場(てあらいば),トイレ,トイレット,トイレットルーム,東司(とうす),東浄(とうじょう,とうちん),トワレット,パウダールーム,憚(はばか)り,ひが場,尾閭(びりょ),不浄,不浄場(ば),屁厠(へがわ),便室(べんしつ) ,便所,メンズルーム,用場(ようば) ,ラバトリー,ルー,レストルーム,レディーズルーム
いずれの言語の表現も,昨日の記事[2010-08-09-1]で示した様々な euphemism の作り方が適用されているようだ.
言語使用において直接話題にしにくい内容がある.例えば,ある種の職業,体の部位,性,妊娠,出産,身体機能,病気,老齢,死は,直接口にするのがはばかられる状況が多い.人々がこれらの内容を直接的に指す表現を口にするのを避ける現象は,言語的な禁忌 ( linguistic taboo ) と呼ばれ,あらゆる言語に存在する.しかし,話題にすること自体は必ずしもタブーではなく,直接的でなく間接的に指す表現であれば,それを使用することが社会的に許容されるという状況も多い.このように間接的にやんわりと対象を指示する表現のことを婉曲語法 ( euphemism ) という.
では,euphemism に備わっているという「間接性」はどのように作り出されるのだろうか.おそらく他言語とも比較されるだろうが,英語の場合の euphemism の作り方を列挙してみよう.以下は,Brinton and Arnovick, pp. 80--81 に基づいた分類.
(1) 一般化 ( generalization )
より一般的な意味の表現で代用する.そのものを直接指すのではなく,そのものを含んだ全体を指すことになるので,きつさが消える.ex. growth for cancer, voiding for defecation or urination.
(2) 素性分解 ( splitting features )
1語に詰められている2つ以上の意味素性を分解し,それらを組み合わせて新たな語句を作る方法.意味の因数分解.カプセル化された意味を分解して示すので,そのぶん直接性が薄れる.ex. ethnic cleansing for pogrom, genocide; pre-owned for used.
(3) 借用 ( borrowing words )
特にラテン語やギリシャ語の形態素を用いた難解な語を利用する.受け取り側は「翻訳」の過程を経るので,それだけ間接的になる.ex. expire for die, perspire for sweat.
(4) 比喩的表現 ( figure of speech )
隠喩 ( metaphor) や換喩 ( metonymy ) で暗に示す.ex. belly button for navel, in his cups for drunk.
(5) 意味転換 ( semantic shift )
ある過程を指して関連する別の過程を指す.ex. sleep with for have sex with, go to the bathroom for defecate or urinate.
(6) 音声のゆがめ ( phonetic distortion )
音声形態を変えて,直接性を薄める.ex. gosh for god, darn for damn.
(7) 指小表現 ( diminutives )
指小辞 -y や重複 ( reduplication; see [2009-07-02-1] and [2010-01-21-1] ) を用いて「かわいく」する.ex. tummy for stomach, wee-wee for urination.
(8) 頭字語や頭文字略語 ( acronyms or initialisms )
もとの表現が何だったか忘れられる例もあるくらい間接的になる.ex. TB for tuberculosis, SOB for son of a bitch.
他に何かないかなと考えてみたが,"meta-euphemism" とでも呼べそうな例を思いついた.euphemism という語はそれ自体がイギリス俗語で「トイレ」を指す婉曲表現として使われる.この場合,"euphemism" という言語現象の一般的な名称でもって euphemism の代表例である「トイレ」という語に代えるということなので,euphemism の euphemism である."double euphemism" とか "super-euphemism" と呼んでもよさそうだ.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
英語の英米差については,これまでも様々に話題にしてきた ( see ame_bre ) .特に綴字の差については発音の差と同様に目につきやすいので話題として取り上げられることが多く,本ブログでも[2009-12-23-1]で話題にした.
ameba, center, color, defense, program, traveler など,イギリス綴りとは異なる独自のアメリカ綴字を提案したのは Noah Webster (1758--1843) である.Webster といえば,1828年に出版された The American Dictionary of the English Language があまりにも有名である.この辞書とその子孫は現在に至るまで質量ともにアメリカ英語辞書の最高峰といわれており,これだけでも Webster の圧倒的な影響力が知れよう.Webster の改革した綴字は当然この辞書にも反映されており,辞書とともにアメリカに広く知れ渡ることとなった.
では,Webster はなぜ綴字改革を始めようと思い立ったのだろうか.それを考える前に,イギリスでの綴字の状況を概観しておこう.中英語後期の Caxton による活版印刷術の導入や初期近代英語期の大母音推移 ( Great Vowel Shift ) など,言語内外の変化を経て,英語は綴字と発音の乖離という頭の痛い問題を抱えることとなった.イギリスでは16世紀から正音学者 ( orthoepist ) が現われ始め,数々の綴字改革案を提案したが,いずれも大きな成功を収めるにはいたらなかった( Mulcaster の改革については[2010-07-12-1]を参照).結局,イギリスでは1755年に Samuel Johnson が著した A Dictionary of the English Language をもって現代の綴字がほぼ固定したといってよい.
一方,大西洋を越えた先の植民地,アメリカでも綴字についてはイギリスと歩調を合わせていた.ところが,18世紀後半の独立前後からアメリカの態度が変わってくる.歴史の多くの例が示している通り,政治的な独立の志向と言語的な独立の志向は表裏一体である.アメリカの政治的な独立の前後の時代には,強烈な愛国心に裏打ちされたアメリカ英語信奉者が現われた.Webster もその1人であり,イギリス英語のアメリカ版ではない独立した「アメリカ語」( the American language ) を打ちたてようと考えていたのである.以下は Webster の言葉である.
The question now occurs; ought the Americans to retain these faults which produce innumerable inconveniences in the acquisition and use of the language, or ought they at once to reform these abuses, and introduce order and regularity into the orthography of the American tongue? . . . . a capital advantage of this reform . . . would be, that it would make a difference between the English orthography and the American. . . . a national language is a band of national union. . . . Let us seize the present moment, and establish a national language as well as a national government. (Webster, 1789 quoted in Graddol, p. 6)
表面的には,英語の綴字と発音の乖離の問題に合理的な解答を与えようという旗印を掲げながら,実のところは,アメリカの国家としての独立,イギリスに対する独自のアイデンティティといった政治的な意図が濃厚であった.過去との決別という非常に強い意志が Webster のみならず多くのアメリカの民衆に横溢していたからこそ,通常は成功する見込みのない綴字改革が功を奏したのだろう.
逆にいえば,この例は相当にポジティブな条件が揃わないと綴字改革は成功しにくいことをよく示している.というのは,Webster ですら,当初抱いていた急進的な綴字改革案を引っ込めなければならなかったからである.彼は当初の案が成功しなさそうであることを見て取り,上記の center や color などの軽微な綴字の変更のみを訴える穏健路線に切り替えたのだった.
現代の綴字における英米差が確立した経緯には,Webster とその同時代のアメリカ人が作り上げた「アメリカ語」への想いがあったのである.
・ Webster, Noah. "An Essay on the Necessity, Advantages and Practicability of Reforming the Mode of Spelling, and of Rendering the Orthography of Words Correspondent to the Pronunciation." Appendix to Dissertations on the English Language. 1789. Extracts reprinted in Proper English?: Readings in Language, History and Cultural Identity. Ed. Tony Crowley. London: Routledge, 1991.
・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm.
現代英語の3人称代名詞 it は,古英語では語頭に <h> の付された <hit> という綴字で用いられていた.[2009-09-29-1]に掲げた古英語の人称代名詞体系を見れば分かるとおり,すべての屈折形が <h> で始まっており,非常にきれいな体系をなしている.このなかで特に中性単数主格の <hit> は「軽い」参照機能を果たすときに語頭が弱まり,it へ変化して定着したと考えられている.古英語後期ですでに it の形態が確認されており,1200年頃からは強勢が置かれる環境ですら it が用いられるようになってくる.一方 hit は中英語期に衰退し,1500年頃まで細々と続いていたが,現在では北部方言で強調表現として使われる het, hit などを除いては廃用となっている.これが,古英語 hit が徐々に it に置換された歴史として一般的に語られる記述である.
しかし,その前史として興味深い説がある ( Scragg, p. 42fn ) .古英語の hit はより古い段階ではやはり <h> のない <it> であり,後に他の人称代名詞の屈折に合わせようとする類推作用 ( analogy ) によって <h> が加えられたのではないかという.つまり,[2009-09-29-1]に掲げた「すべてが <h> で始まるきれいな体系」は「きれいにされた」ものではないかという.これによると,it の歴史は,<h> のない形態から開始して,古英語期に類推によって <h> をとるようになったが,後に再び語頭音の弱化で <h> のない形態に回帰したということになる.
他のゲルマン語の同根語 ( cognate ) には,Old Saxon や Middle Low German の it,Low German の et,Gothic の ita,Old High German の ëz, Old Icelandic es があり,いずれも <h> をもっていない.しかし,Old Frisian や Middle Dutch には hit があるので,上記の説を正当化するならば,この2言語でも古英語と同様に類推が起こったと考えなければならないのだろう.
仮にこの説を受け入れるとして,it → hit → it と回帰した現代英語で将来的に再び hit になる可能性はあるだろうか.恐らくないだろう.現代英語の人称代名詞では,<h> を語頭にもつのは男性単数の he の屈折だけになってしまったので,古英語のときに働いた(とされる)「体系の要請する語頭音揃えの圧力」はすでに弱いのだから.
・ Scragg, D. G. A History of English Spelling. Manchester: Manchester UP, 1974.
本ブログでは英単語の語源を多く話題にしている.実際にタグの数で見ると,今まで最も多く話題にしているカテゴリーということがわかる ( see etymology ) .英語にしても日本語にしても,語源というのは本質的に人を引きつける魅力があるもので,雑学の対象にもなりやすい.
だが,語源辞典を引き比べていると,ある単語の語源について記述に食い違いがあったり,記述に「?」が付いていたりと,語源の不確かさが目立ってくるようになる.ある段階までは文献学的な証拠に基づいて過去の意味や形態を断定できるが,それより古い段階になると情報がもやもやとしてきて何が確かな起源なのか分からなくなってくる.そこで,語源学者は自らの文献学的な知識,歴史文化的な知識,そして教養に裏付けられた鋭い直感によって,語源を暫定的に決定することになる.決定の段階では各語源学者の個性が出ることになり,この意味である種の「技芸」と捉えられるかもしれない.ブランショ (5) 曰く,
ここ1世紀以上前から,この学問分野は著しく進歩したが,現代の言語学者には,やや疑わしい学問,言語研究の領域の厳密な類型の中に組みいれることの難しい学問と考えている者もいる.古くからある文献学と明らかに親族関係にあるために,これをむしろ教養人の技芸と認めてしまうのである.
しかし,語源学と「学」をつけて呼ばれうるためには,技芸と言い切ってしまうわけにはいかない.語源学は自らの科学性と自立性を外に向けて示さなければならない立場に立たされている.ここでブランショは,内的語源と外的語源の2つを認め,両者の観点の組み合わせこそが,言語学の他分野にはない語源学の独自の特徴であると説いている.
内的語源学とは,ある語について文献学的に例証される,あるいは比較言語学的に再建される,意味や形態の最古形態を求める作業である.確信度は語によってまちまちで,仮定に留まる場合もある.言語学的な色彩の強い語源学といえるだろう.
一方で外的語源学とは,内的語源で求められた最古形態やそこからの派生形態を,社会や文化などの言語の外側の実在に照らして評価する作業である.換言すれば,仮定された最古形態や派生形態が,その語の用いられた社会的文脈においてどのように機能したかを究明するものである.こちらは,歴史学的な色彩の強い語源学といえるだろう.
ブランショは,この2者の融合を以下のように説いた (21--22) .
これらの手続きは確かに異なってはいるが,必然的に相補的であり,それは語源学者に多様な能力を強く求めるものである.すなわち片や通時的音韻論と通時的形態論であり,片や文化的かつ歴史的文脈に深く通じていることである.これが語源学の特殊性であり,その自立的地位を正当化することなのである.
語源学は自らを科学として独立させるために頑張っている.ブランショの趣旨に賛同するが,本記事を書くのに毎回「語衒学」と誤変換されるのが気になった・・・.
・ ジャン=ジャック・ブランショ著,森本 英夫・大泉 昭夫 訳 『英語語源学』 〈文庫クセジュ〉 白水社,1999年. ( Blanchot, Jean-Jacques. L'Étymologie Anglaise. Paris: Presses Universitaires de France, 1995. )
昨日の記事[2010-08-04-1]で取り上げた Estuary English で進行中といわれている母音推移 ( vowel shift ) がある.1400--1700年頃に起こったとされる大母音推移 ( Great Vowel Shift; see [2009-11-18-1]) と同様に,長母音・二重母音系列に起こっているが,推移の方向は下から上ではなく,むしろ上から下である.結果として Cockney と結びつけられることの多い長母音・二重母音の音価と重なっており,この点では Estuary English と Cockney との境目は曖昧である.以下は Aitchison, p. 193 の図をもとに作成した.
結果として,伝統的な発音に慣れている古い世代や EFL 学習者の聴き手にとっては,以下のような誤解や意味不明な表現が生じてしまうので注意が必要である.
Don't be mean | → | Don't be main [mein] |
The main road | → | The mine [main] road |
It's mine | → | It's moyne [moin] |
See the moon | → | See the moun [maun] |
Don't moan | → | Don't moun [maun] |
A little mound | → | A little meund [meund] |
近年イギリスに出現して影響力を広げつつある英語の変種がある.1983年に Rosewarne によって Estuary English 「河口英語」と名付けられた新しい変種で,伝統的な RP (Received Pronunciation) でもなく Cockney でもない独特な中間的な発音をもち,テムズ河口からロンドンへと勢力を広げている.1994年にイギリスの教育長官が学童に Estuary English の発音をやめさせるキャンペーンを張ったくらいだから,その拡大力の強さが知れる.名付け親の Rosewarne によれば,Estuary English は次のように説明されている.
Estuary English, a new accent variety I first described in 1984, is neither Cockney nor RP, but in the middle between these two. 'Estuary English . . . is to be found in its purest form along the seaward banks of the Thames, whither it has drifted from the eastern end of the capital' (leader article in the Independent on Sunday of 18 June 1995). The heartland still lies by the banks of the Thames and its estuary, but it has spread to other areas, as the Sunday Times announced on 14 March 1993 in a front-page headline 'Estuary English sweeps Britain'. Experts on British English agree that it is currently the strongest influence on the standard spoken form and that it could replace RP as the most influential accent in the British Isles. (Rosewarne 1996: 15 quoted in Jenkins 130--31)
英語のお膝元のイギリスで生じている変種なだけに,議論も活発だ.Rosewarne はいずれ RP が Estuary English を飲み込むかあるいは逆のことが起こるのではないかと予想しているが,論者のなかには Estuary English は話者個人内の文体にすぎず,社会的な変種としては存在しないという者も少なくない.University College London の Estuary English では多くの情報や議論が得られる.Varieties of English の "British English" のページにも Estuary English の言語的な特徴などの有用な情報がある.
・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.
・ Rosewarne, D. "Changes in English Pronunciation and Some Implications for Teachers and Non-Native Learners." Speak Out! Newsletter of the IATEFL Pronunciation Special Interest Group. No. 18 (1996): 15--21.
世界には英語ベースのピジン語やクレオール語が30以上存在するといわれている.[2010-07-15-1], [2010-07-16-1]で見たように,ピジン語やクレオール語の定義や起源に曖昧な点があるので正確に数えることは難しいが,名前がついているものを挙げると30以上になるという.McArthur (177) よりその一覧を再現しよう.
(1) Africa
Gambian Creole or Aku; Krio and pidginized Krio in Sierra Leone; Liberian Creole; Ghanaian Pidgin; Togolese Pidgin; Nigerian Pidgin (creolized in urban areas); Kamtok in Cameroon (creolized in urban areas; see [2010-06-13-1], [2010-06-14-1]); Bioku Pidgin on Fernando Po.
(2) North America (All in the United States)
Afro-Seminole Creole; Amerindian Pidgin (most varieties now extinct); Black English Vernacular (status controversial); Sea Island Creole, or Gullah; Hawaii Pidgin and Creole.
(3) Central America, the Caribbean, and the neighbouring South America
Bahamian Creole; Barbadian Creole; Belizean Creole; Costa Rican Creole; Guyanese Creolese (sic) (see [2010-05-17-1]); Jamaican Creole or Nation Language or Patwa; Leeward Island Creole(s); Nicaraguan Creole; Surinamese Djuka or Aukan, Saramaccan, and Sranan (see [2010-06-05-1]); Trinidad and Tobago Creole(s) or Trinibagianese or Trinbagonian; Virgin Islands Creole; Windward Island Creole(s).
(4) Australasia-Pacific Ocean
Bislama (Vanuatu), Hawaii Pidgin and Creole, Pijin (the Solomon Islands), Kriol or Roper River Pidgin/Creole (northern Australia), Pitcairnese and Norfolkese (Pitcairn Island and Norfolk Island), Tok Pisin/Neo-Melanesian (Papua-New Guinea), Torres Straits Broken/Creole.
世界中にむらなく分布しているというよりは,英米の植民地史を反映して局地的に分布していることがよくわかる.これらの遠心性をもつ「英語」が,求心性をもつ世界標準英語 (World Standard English)や標準英米変種などの主要な標準変種に対して今後どのように位置づけられてゆくかが注目される.というのは,これらの「英語話者」は今後続々と教育の普及などによって post-creole continuum の階段を上り,標準変種を獲得し,かっこ付きでない英語話者となることが見込まれるからだ.しかも,束になれば相当な人口である.
これらのピジン語やクレオール語が話される地域のみを選んで旅したら,英語観が変わってくるかもしれないな・・・.
ピジン語やクレオール語に関するリンクをいくつか張っておく.
・ Society for Pidgin and Creole Linguistics: 学会のサイト
・ Pidgin and Creole Languages: ピジン語・クレオール語入門
・ Tok Pisin Translation, Resources, and Discussion: Tok Pisin/English 辞書あり
・ Jamaican Creole Texts: クレオール語とピジン語関係のリンクもあり
・ McArthur, Tom. The English Languages. Cambridge: CUP, 1998.
昨日の記事[2010-08-01-1]の OANC からの結果に飽き足りずに,語頭を <h> と綴るが /h/ で発音されない単語をより多く探すべく,BNC でも同じことをやってみた.そちらのほうがおもしろい結果が出たので,結果報告する( OANC の面目丸つぶれ?).
216種類の語が得られたが,固有名詞や頭字語が多く,一覧してもあまりおもしろくない(見たい方はHTMLソースを参照).また,品詞のタグ付けに誤りがある例もあったので,今回はあくまで概要を知るための初期調査として理解されたい.一般名詞や形容詞に絞った117例をアルファベット順に示す.
habitual, habituated, habitué, haemoglobin, half, half-hour, hallucination, hallucinatory, hallucinogenic, handful, haphazardly, happy, haute-couture, hazard, heap, heartening, hedonistic, heir, heir-apparent, heiress, heirloom, hell, heparin, hepatic, heraldic, herbaceous, herbalist, hereditary, heretical, hermaphrodite, heroic, heterogenous, heterologous, heuristic, hexadecimal, hexagonal, hi, hiatus, hibiscus, hide, hierarchical, hierarchically, hierarchy, high, higher, hilarious, historian, historic, historically, historically-created, historically-evolved, historicist, historiographical, history, histrionic, hitherto, hockey, hole, holiday, holistic, holoenzyme, holy, home-grown, homogeneous, homologous, hon., honest, honest-to-god, honest-to-goodness, honestly, honesty, honorable, honorarium, honorary, honour, honour-able, honourable, honourably, honoured, honouring, hopeful, horchata, horizon, horizontal, horrendous, horrific, horror, hors-d'oeuvre, horse, hospital, host/target, hotel, hotel-keeper, hour's-worth, hour-an-a-half, hour-and-a-half, hour-glass, hour-long, hourglass, hourglass-shaped, hourly, hours, howitzer, human, humanities, humble, hundred, hydraulic, hydraulically, hydroxyapatite, hydroxyl, hypnotic, hypostasised, hypothesis, hypothetical, hysterical, hysterically
history, honest, honour, hour の関連語はやはり多い.おもしろいところを取りあげると,habitual, hallucination, hepatic, hereditary, heretical, heroic, hierarchical, hilarious, homogeneous, horizon, horrendous, horrific, hypothetical, hysterical あたりだろうか.いずれも第1音節に主強勢がおかれないので語頭の /h/ が特に弱まりやすい.ただ,第1音節に主強勢が落ちる例も少なくないことは確かである.
昨日の OANC での結果として出た herb や homage が BNC では出なかった.いずれの語も /h/ のない発音はアメリカ英語発音のみであるという辞書の記述と一致しているようだ.
それにしても,BNC と OANC の収録語数に差があるとはいえ,イギリス英語からの例の種類の豊富さは際立っている.確かにイギリス英語には h-dropping で名高い Cockney などの方言もあるし,/h/ の不安定さは著しいのではないかと予想はしていた.また,アメリカ英語では綴り字発音 ( spelling-pronunciation ) の傾向が強いことも一般論としては分かっていた.今回の BNC と OANC での初期調査の結果は予想と一致するものだったが,より詳しく調べていくと結構おもしろいテーマに発展してゆくかもしれない.
昨日の記事[2010-07-31-1]で OANC (Open American National Corpus) を導入したことを報告したので,今日はそれを実際にいじってみた報告をしよう.
お題は一昨日の記事[2010-07-30-1]で語頭の h を話題にしたので,それに引っかけて,語頭に <h> の綴字をもつが直前の不定冠詞に an を取る語を取り出してみた.[2009-11-27-1]でも触れたように,heir, honest, honour, hour のような語が /h/ をもたないことでよく知られているが,他にどのような語があるだろうか.今回はフラットな単純検索で,話し言葉と書き言葉を区別するとか,その他の細かい処理は行なっていない.以下に結果を頻度とともに一覧.
word | freq. |
---|---|
heir | 1 |
Henri | 1 |
herb | 2 |
hereditary | 3 |
Hermes | 1 |
historian | 1 |
historic | 6 |
historical | 1 |
HMO | 10 |
homage | 4 |
hommage | 5 |
honest | 24 |
honor | 5 |
honorable | 14 |
honorarium | 1 |
honorary | 13 |
honored | 1 |
honorific | 3 |
hour | 135 |
hourglass | 1 |
hourlong | 3 |
hourly | 1 |
hours-long | 1 |
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2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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