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trademark - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-21 21:39

2024-01-09 Tue

#5370. 社会名前学における前途有望な分野は「商標言語学」 [sociolinguistics][onomastics][name_project][socio-onomastics][trademark][goshosan][voicy][heldio]

 「#5360. 社会言語学×名前学=社会名前学」 ([2023-12-30-1]) で紹介した "Names in Society" と題するハンドブック論文の結論部に,今後の社会名前学 (socio-onomastics) の見通しが記されている.その1節を引用する.

Socio-onomastic research has been carried out for over forty years now. In spite of the multifaceted research thus far, many areas have still hardly been touched upon. In the socio-onomastic study of place-names, rural names have been in focus for decades, but urban names still lack comprehensive research. So far we know very little about what place-names --- both official and unofficial --- are used in multi-layered and often multilingual urban environments. The same topic also concerns personal names: How are they used in multilingual contexts? Research into commercial names is still rather scarce due to the young age of the field, and socio-onomastic studies are few. One of the most interesting questions for the future is to investigate the attitudes and stances that people take towards commercial names and how people talk about commercial products and businesses in actual language use. (380--81)


 最後の文で述べられているのは,まさに「商標言語学」 (trademark linguistics) である.「商標言語学」といえば,目下「名前プロジェクト」 (name_project) で一緒に研究している五所万実さん(目白大学)である.これまでも Voicy heldio その他に出演していただき,2023年のリスナー投票では,五所さんとの対談回の2つが第3位と第7位にランクインしている(「#5363. 2023年のリスナー投票による heldio の推し配信回ベスト10が決定!」 ([2024-01-02-1]) を参照).

 ・ 「#667. 五所万実さんとの対談 --- 商標言語学とは何か?」
 ・ 「#671. 五所万実さんとの対談 --- 商標の記号論的考察」

 上記の通り,商標言語学は専門家によって社会名前学における前途有望な分野として見込まれており,今後要注目だ.
 商標言語学および五所さんと関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#5078. 法言語学 (forensic linguistics)」 ([2023-03-23-1])
 ・ 「#5085. 五所万実さんとの Voicy 対談で「商標言語学」を導入しています」 ([2023-03-30-1])
 ・ 「#5092. 商標言語学と英語史・歴史言語学の接点」 ([2023-04-06-1])

 ・ Ainiala, Terhi. "Names in Society." Chapter 25 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 371--81.

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2023-07-15 Sat

#5192. 何に名前をつけるのか? --- 固有名を名付ける対象のプロトタイプ [onomastics][prototype][noun][hypostasis][semiotics][typology][trademark][personal_name][toponymy]

 人は何に名前をつけるのか.理論的には,ありとあらゆるものに名前をつけられる.実際上も,人は言語を通じて森羅万象にラベルを貼り付けてきた.それが名詞 (noun) である.ただし,今回考えたいのはもう少し狭い意味での名前,いわゆる固有名である.人は何に固有名をつけるのか.
 Van Langendonck and Van de Velde (33--38) は,異なる様々な言語を比較した上で,主に文法的な観点から,名付け対象を典型順に(よりプロトタイプ的なものからそうでないものへ)列挙している.ただし,網羅的な一覧ではないとの断わり書きがあることをここに明記しておく.

 ・ 人名
 ・ 地名
 ・ 月名
 ・ 商品名,商標名
 ・ 数
 ・ 病気名,生物の種の名前
 ・ "autonym"

 論文では各項目に解説がつけられているが,ここでは最後の "autonym" を簡単に紹介しておこう.一覧のなかでは最もプロトタイプ的ではない位置づけにある名付け対象である.これは,例えば "Bank is a homonymous word." 「Bank (という単語)は同音異義語である」という場合の Bank のことを指している.ありとあらゆる言語表現が,その場限りで「名前」となり得る,ということだ.この臨時的な名付けには「#1300. hypostasis」 ([2012-11-17-1]) が関係してくる.
 一覧の下から2番目にある病気名などは,名付け対象としてのプロトタイプ性が低いので,言語によっては固有名を与えられず,あくまで普通名詞として通っているにすぎない,というケースもある.確かに Covid-19 は固有名詞ぽいが,ただの風邪 cold は普通名詞ぽい.何に固有名をつけるのかという問題については,通言語学的に傾向はあるものの,あくまでプロトタイプとして考える必要があるということだろう.

 ・ Van Langendonck, Willy and Mark Van de Velde. "Names and Grammar." Chapter 2 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 17--38.

Referrer (Inside): [2023-07-18-1]

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2023-04-06 Thu

#5092. 商標言語学と英語史・歴史言語学の接点 [trademark][goshosan][youtube][voicy][heldio][link][semantics][semantic_change][metaphor][metonymy][synecdoche][rhetoric][onomastics][personal_name][toponymy][eponym][sound_symbolism][phonaesthesia][capitalisation][linguistic_right][language_planning][semiotics][punctuation]

 昨日までに,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」や YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を通じて,複数回にわたり五所万実さん(目白大学)と商標言語学 (trademark linguistics) について対談してきました.

[ Voicy ]

 ・ 「#667. 五所万実さんとの対談 --- 商標言語学とは何か?」(3月29日公開)
 ・ 「#671. 五所万実さんとの対談 --- 商標の記号論的考察」(4月2日公開)
 ・ 「#674. 五所万実さんとの対談 --- 商標の比喩的用法」(4月5日公開)

[ YouTube ]

 ・ 「#112. 商標の言語学 --- 五所万実さん登場」(3月22日公開)
 ・ 「#114. マスクしていること・していないこと・してきたことは何を意味するか --- マスクの社会的意味 --- 五所万実さんの授業」(3月29日公開)
 ・ 「#116. 一筋縄ではいかない商標の問題を五所万実さんが言語学の切り口でアプローチ」(4月5日公開)
 ・ 次回 #118 (4月12日公開予定)に続く・・・(後記 2023/04/12(Wed):「#118. 五所万実さんが深掘りする法言語学・商標言語学 --- コーパス法言語学へ」

 商標の言語学というのは私にとっても馴染みが薄かったのですが,実は日常的な話題を扱っていることもあり,関連分野も多く,隣接領域が広そうだということがよく分かりました.私自身の関心は英語史・歴史言語学ですが,その観点から考えても接点は多々あります.思いついたものを箇条書きで挙げてみます.

 ・ 語の意味変化とそのメカニズム.特に , metonymy, synecdoche など.すると rhetoric とも相性が良い?
 ・ 固有名詞学 (onomastics) 全般.人名 (personal_name),地名,eponym など.これらがいかにして一般名称化するのかという問題.
 ・ 言語の意味作用・進化論・獲得に関する仮説としての "Onymic Reference Default Principle" (ORDP) .これについては「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]) を参照.
 ・ 記号論 (semiotics) 一般の諸問題.
 ・ 音象徴 (sound_symbolism) と音感覚性 (phonaesthesia)
 ・ 書き言葉における大文字化/小文字化,ローマン体/イタリック体の問題 (cf. capitalisation)
 ・ 言語は誰がコントロールするのかという言語と支配と権利の社会言語学的諸問題.言語権 (linguistic_right) や言語計画 (language_planning) のテーマ.

 細かく挙げていくとキリがなさそうですが,これを機に商標の言語学の存在を念頭に置いていきたいと思います.

Referrer (Inside): [2024-01-09-1]

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2023-04-01 Sat

#5087. 「英語史クイズ with まさにゃん」 in Voicy heldio とクイズ問題の関連記事 [masanyan][helquiz][link][silent_letter][etymological_respelling][kenning][oe][metonymy][metaphor][gender][german][capitalisation][punctuation][trademark][alliteration][sound_symbolism][goshosan][voicy][heldio]

 新年度の始まりの日です.学びの意欲が沸き立つこの時期,皆さんもますます英語史の学びに力を入れていただければと思います.私も「hel活」に力を入れていきます.
 実はすでに新年度の「hel活」は始まっています.昨日と今日とで年度をまたいではいますが,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「英語史クイズ」 (helquiz) の様子を配信中です.出題者は khelf(慶應英語史フォーラム)会長のまさにゃん (masanyan),そして回答者はリスナー代表(?)の五所万実さん(目白大学; goshosan)と私です.ワイワイガヤガヤと賑やかにやっています.

 ・ 「#669. 英語史クイズ with まさにゃん」
 ・ 「#670. 英語史クイズ with まさにゃん(続編)」



 実際,コメント欄を覗いてみると分かる通り,昨日中より反響をたくさんいただいています.お聴きの方々には,おおいに楽しんでいただいているようです.出演者のお二人にもコメントに参戦していただいており,場外でもおしゃべりが続いている状況です.こんなふうに英語史を楽しく学べる機会はあまりないと思いますので,ぜひ hellog 読者の皆さんにも聴いて参加いただければと思います.
 以下,出題されたクイズに関連する話題を扱った hellog 記事へのリンクを張っておきます.クイズから始めて,ぜひ深い学びへ!

 [ 黙字 (silent_letter) と語源的綴字 (etymological_respelling) ]

 ・ 「#116. 語源かぶれの綴り字 --- etymological respelling」 ([2009-08-21-1])
 ・ 「#192. etymological respelling (2)」 ([2009-11-05-1])
 ・ 「#1187. etymological respelling の具体例」 ([2012-07-27-1])
 ・ 「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1])
 ・ 「#1290. 黙字と黙字をもたらした音韻消失等の一覧」 ([2012-11-07-1])

 [ 古英語のケニング (kenning) ]

 ・ 「#472. kenning」 ([2010-08-12-1])
 ・ 「#2677. Beowulf にみられる「王」を表わす数々の類義語」 ([2016-08-25-1])
 ・ 「#2678. Beowulf から kenning の例を追加」 ([2016-08-26-1])
 ・ 「#1148. 古英語の豊かな語形成力」 ([2012-06-18-1])
 ・ 「#3818. 古英語における「自明の複合語」」 ([2019-10-10-1])

 [ 文法性 (grammatical gender) ]

 ・ 「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1])
 ・ 「#3647. 船や国名を受ける she は古英語にあった文法性の名残ですか?」 ([2019-04-22-1])
 ・ 「#4182. 「言語と性」のテーマの広さ」 ([2020-10-08-1])

 [ 大文字化 (capitalisation) ]

 ・ 「#583. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった」 ([2010-12-01-1])
 ・ 「#1844. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった (2)」 ([2014-05-15-1])
 ・ 「#1310. 現代英語の大文字使用の慣例」 ([2012-11-27-1])
 ・ 「#2540. 視覚の大文字化と意味の大文字化」 ([2016-04-10-1])

 [ 頭韻 (alliteration) ]

 ・ 「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1])
 ・ 「#953. 頭韻を踏む2項イディオム」 ([2011-12-06-1])
 ・ 「#970. Money makes the mare to go.」 ([2011-12-23-1])
 ・ 「#2676. 古英詩の頭韻」 ([2016-08-24-1])

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2023-03-30 Thu

#5085. 五所万実さんとの Voicy 対談で「商標言語学」を導入しています [trademark][heldio][voicy][terminology][sociolinguistics][youtube][onomastics][semantic_change][sociolinguistics][goshosan]

 先日,言語学の立場から商標 (trademark) を研究している目白大学の五所万実さんと Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で対談しました.その様子は,昨日公開したアーカイヴ放送としてお聴きいただけます.「#667. 五所万実さんとの対談 --- 商標言語学とは何か?」です.



 この hellog としては先日前振りのように「#5078. 法言語学 (forensic linguistics)」 ([2023-03-23-1]),「#5079. 商標 (trademark) の言語学的な扱いは難しい」 ([2023-03-24-1]) で関連する話題を取り上げ,その上で今回の対談に臨んだという次第です.
 今回は対談のパート1ということで,五所さん自身のご紹介,商標の社会における存在感,商標は固有名詞なのかそうでないのか,商標は英語で何というのか,といった導入的な話題となりました.そして,最後は「商標と著作権の違いは何?」という宿題で締めることになりました.今後,パート2,パート3と続いていき,商標についての議論がどんどん深まっていきますので,どうぞ楽しみにしていてください.
 五所さんには,先週より YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」にもご出演いただいています.そこでも商標言語学 (trademark linguistics) に関連する話題に言及していますので,ぜひご視聴ください.YouTube でもすでに2回分が公開されていますが,来週水曜日に第3回が公開される予定です.

 ・ 「#112. 商標の言語学 --- 五所万実さん登場」(3月22日公開)
 ・ 「#114. マスクしていること・していないこと・してきたことは何を意味するか --- マスクの社会的意味 --- 五所万実さんの授業」(3月29日公開)

 皆さんもこれを機に商標という身近な対象を言語学的に考えてみませんか? 固有名詞学 (onomastics) や言語と権力の問題とも接点がありますし,意味変化 (semantics) とも関連が深いので十分に英語史マターとなり得る領域です.

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2023-03-24 Fri

#5079. 商標 (trademark) の言語学的な扱いは難しい [trademark][onomastics][eponym][semantic_change][prototype]

 昨日の記事で紹介した「#5078. 法言語学 (forensic linguistics)」 ([2023-03-23-1]) は広く「法と言語」を扱う分野ととらえてよい.そこで論じられる問題の1つに商標 (trademark) がある.商標にはコピーライトが付与され,法的に守られることになるが,対応する商品があまりに人気を博すると,商標は総称的 (generic) な名詞,つまり普通名詞に近づいてくる.法的に守られているとはいえ,社会の大多数により普通名詞として用いられるようになれば,法律とて社会の慣用に合わせて変化していかざるを得ないだろう.商標を言語的に,社会的にどのように位置づけるかは実際的な問題である.
 McArthur の用語辞典を参照すると,trademark が言語学的に厄介であることがよく分かる.

TRADEMARK, also trade mark, trade-mark, [16c]. . . . A sign or name that is secured by legal registration or (in some countries) by established use, and serves to distinguish one product from similar brands sold by competitors: for example, the shell logo for Shell, the petroleum company, and the brand name Jacuzzi for one kind of whirlpool bath. Legal injunctions are often sought when companies consider that their sole right to such marks has been infringed; the makers of Coke, Jeep, Jell-O, Kleenex, Scotch Tape, and Xerox have all gone to court in defence of their brand (or proprietary) names . . . . Although companies complain when their trademarks begin to be used as generic terms in the media or elsewhere, their own marketing has often, paradoxically, caused the problem: 'Most marketing people will try hard to get their brand names accepted by the public as a generic. It's the hallmark of success. But then the trademarks people have to defend the brand from becoming a generic saying it is unique and owned by the company' (trademark manager, quoted in Journalist's Week, 7 Dec. 1990).
   There is in practice a vague area between generic terms proper, trademarks that have become somewhat generic, and trademarks that are recognized as such. The situation is complicated by different usages in different countries: for example, Monopoly and Thermos are trademarks in the UK but generics in the US. Product wrappers and business documents often indicate that a trademark is registered by adding TM (for 'trademark') or R (for 'registered') in a superscript circle after the term, as with English TodayTM, Sellotape®. The term usually differs from trade name [first used c.1860s] by designating a specific product and not a business, service, or class of goods, articles, or substances: but some trademarks and trade names may happen to be the same. Everyday words of English that were once trademarks (some now universal, some more common in one variety of English than another, some dated, all commonly written without an initial capital) include aspirin, bandaid, cellophane, celluloid, cornflakes, dictaphone, escalator, granola, hoover, kerosene, lanolin, mimeograph, nylon, phonograph, shredded wheat, zipper. Trademarks facing difficulties include Astroturf, Dacron, Formica, Frisbee, Hovercract, Jacuzzi, Laundromat, Mace, Muzak, Q-Tips, Scotch Tape, Styrofoam, Teflon, Vaseline, Xerox. The inclusion of such names in dictionaries, even when marked 'trademark' or 'proprietary term', indicates that their status has begun to shift. Trademark names used as verbs are a further area of difficulty, both generally and in lexicography. One solution adopted by publishers of dictionaries is to regard the verb forms as generic, with a small initial letter: that is, Xerox (noun), but xerox (verb).


 商標の位置づけが空間的に変異し,時間的に変化し得るとなれば,言語変化や歴史言語学の話題としてみることもできるだろう.「商標の英語史」というのもなかなかおもしろそうなテーマではないか.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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