「#5217. 「名前プロジェクト」が立ち上がりました」 ([2023-08-09-1]) で,固有名について考えていこうという「名前プロジェクト」 (name_project) を紹介しました.研究者メンバー4名で始めている企画です.4名とは,小河舜さん(フェリス女学院大学ほか),矢冨弘さん(熊本学園大学),五所万実さん(目白大学),そして私,堀田隆一です.
このプロジェクトに関する公開イベントを様々に開催していきたいと思っています.その第1弾として,本ブログでも先日「#5241. ニックネームを語ろう --- 明日9月3日(日)19:00 からの Voicy heldio 生放送企画のご案内」 ([2023-09-02-1]) で告知した通り,去る9月3日に heldio 生放送をお届けしました.そして翌9月4日にはその収録音源をアーカイヴとして配信しました.「#826. ニックネームを語ろう【名前プロジェクト企画 #1】(生放送)」です.60分超の長尺ですので,お時間のあるときにゆっくりお聴きいただければと.
事前にリスナーの皆さんより寄せていただいたニックネームの実例や論考をもとに,プロジェクトメンバーがコメントを加えていくという回でした.何の気なしにニックネームという主題を立ててみたのですが,蓋を開けてみると,まともに考察するにはあまりに広い領域だと分かり慌てた次第です.とっちらかった議論となることを覚悟しつつ生放送に挑みましたが,生放送中にも各メンバーの独自の視点が冴えわたり,論点が徐々に収束してきたように思います.
とはいえ,ニックネームの切り口が多様であることが,改めてよく分かりました.以下,思いついた限りを箇条書きします(これは,Voicy heldio プレミアムリスナー限定配信チャンネルにて9月6日に配信した回「【英語史の輪 #28】heldio/helwa のリスナーコミュニティはブレスト集団である」で口述したものになります).
・ 社会的距離感
・ 指示対象の種類,ドメイン(人,土地,商品,お城,都市の異名,競走馬,その他のコト・モノ)
・ 形成法(cf. euphemism for taboo)
・ 文字表記(文字種による堅さなど;大文字小文字)
・ 音象徴
・ 指小辞などの要素
・ 名付け人は誰か?(他人につけられるのか,自分でつけるのか)
・ 言語別,方言別
・ 通時的変化
・ 当該ニックネームの通用範囲・コミュニティ
・ 1つの指示対象に対するニックネームの種類の多さ,少なさ(愛情や関心が関係する?)
・ 愛称と蔑称
・ 本名は「全体的な」ラベル,ニックネームはある人や物の「特定の部分的な性質を捉えた」ラベル
・ 諱(忌み名),あざな(字),タブー
・ 教室でのあだ名禁止問題
その他の切り口もまだまだあるはずですので,考察を続けていきたいと思います.まずは今回のイベント第1弾に直接・間接に参加していただいた方々に感謝いたします.ありがとうございました.
先日,ゼミで「なぜ他言語から語を借用するのか?」について皆でブレインストームしてみた.主に英語の日本語への借用を念頭においたブレストだったが,様々な理由が考えられ,実にいろいろな意見が出た.結果を整理して提示してみる.
一番さきに思いつく理由は,「新しいモノが舶来してきたときに,そのモノの名前も一緒に取り入れる」ということであろう.実際にブレインストーミングでも,最初にそれが出た(図の右上).モノだけでなく名前も一緒に取り込むことが必要だからという「必要説」は確かに重要な説だが,借用の理由のすべてではない.新しいモノが入ってきたときに,元の言語からその名前を借用するのではなく,自前で単語を作り出したり,既存の単語を流用するというやりかただってあるはずである.
また,コメ,ご飯,白米,稲など,日本の主食をさす単語はすでに十分にあるところへ,追加的に英語の「ライス」が借用されている事態を見れば,「名前が必要だから」という説がすべてでないことはすぐに分かる.洋食屋では「ご飯」ではなく「ライス」と呼ぶのがふさわしいという理由で借用語が用いられるのである(図の右中).
他にどんな理由があるだろうか.この図に付け加えてみて欲しい.
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