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synonym - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-25 11:23

2023-12-03 Sun

#5333. 古英語地名要素の混乱 --- -ham, -hamm, -holm; -bearu, -beorg, -burg, -byrig, -borough [old_norse][name_project][etymology][onomastics][toponymy][inflection][oe][polysemy][homonymy][synonym]

 古英語の地名は2要素からなるもの (dithematic) が多い.特に第2要素には「村」「町」などの一般名 (generic) が現われることが多い.そもそも固有名は音形が崩れやすく,とりわけ第2要素は語尾に対応するので弱化しやすい.すると,-ham 「村」なのか -hem 「縁」なのか -holm 「河川敷」なのかが形態的に区別しにくくなってくる.-bearu 「木立ち」,-beorg 「塚」,-burg/-byrig/-borough 「市」についても同じことがいえる(スラッシュで区切られた3つの異形態については「#5308. 地名では前置詞付き与格形が残ることがある」 ([2023-11-08-1]) を参照).
 古英語地名学をめぐる,この厄介な音形・綴字のマージという問題は,Clark でも紹介されている.上記の2つの例についての解説を引用する.

(2) OE -hām 'village', OE -hamm 'site hemmed in by water or wilderness' and also the latter's Scandinavian synonym -holm all fall together as [m̩]. Not even pre-Conquest spellings always allow of distinguishing -hām from -hamm: if dat. forms in -hamme/-homme survive, they tell in favour of the latter, but often etymology has to depend upon topography . . . . Distinction between -hamm and -holm is complicated by their synonymity, and their likely interchange in the medieval forms of many Danelaw names. . . . PDE spellings are again often unhistorical, as in Kingsholm < OE cyninges hamm 'the king's water-meadow' . . . . Confusion is further confounded by occasional unhistorical spellings of [m̩] < OE or Scand. dat. pl. -um, as in Airyholme and Howsham . . . . (Clark 486--87)


(4) Reflexes of OE -bearu 'grove' and -beorg 'mound' are partly merged not only with each other but also with those of -burg/-byrig, so that PDE forms in -barrow can represent -bearu or -beorg, ones in -bury can represent -bearu or byrig and ones in -borough can represent -beorg or burg . . . . (Clark 487)


 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-09-21 Thu

#5260. 喜びに満ちた delicious の同根類義語 [eebo][synonym][me][cognate][lexicology][borrowing][loan_word][latin][french][oed][thesaurus][htoed][voicy][heldio]



 今週の月・火と連続して,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」(毎朝6時に配信)にて delicious とその類義語の話題を配信しました.

 ・ 「#840. delicious, delectable, delightful」
 ・ 「#841. deleicious の歴史的類義語がたいへんなことになっていた」

 かつて「#283. delectabledelight」 ([2010-02-04-1]) と題する記事を書いたことがあり,これとも密接に関わる話題です.ラテン語動詞 dēlectāre (誘惑する,魅了する,喜ばせる)に基づく形容詞が様々に派生し,いろいろな形態が中英語期にフランス語を経由して借用されました(ほかに,それらを横目に英語側で形成された同根の形容詞もありました).いずれの形容詞も「喜びを与える,喜ばせる,愉快な,楽しい;おいしい,美味の,芳しい」などのポジティヴな意味を表わし,緩く類義語といってよい単語群を構成していました.
 しかし,さすがに同根の類義語がたくさんあっても競合するだけで,個々の存在意義が薄くなります.なかには廃語になるもの,ほとんど用いられないものも出てくるのが道理です.
 Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (= HTOED) で調べてみたところ,歴史的には13の「delicious 語」が浮上してきました.いずれも語源的に dēlectāre に遡りうる同根類義語です.以下に一覧します.

 ・ †delite (c1225--1500): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightable (c1300--): Very pleasing or appealing; delightful.
 ・ delicate (a1382--1911): That causes pleasure or delight; very pleasing to the senses, luxurious; pleasurable, esp. in a way which promotes calm or relaxation. Obsolete.
 ・ delightful (a1400--): Giving or providing delight; very pleasant, charming.
 ・ delicious (c1400?-): Very pleasant or enjoyable; very agreeable; delightful; wonderful.
 ・ delectable (c1415--): Delightful; extremely pleasant or appealing, (in later use) esp. to the senses; very attractive. Of food, drink, etc.: delicious, very appetizing.
 ・ delighting (?a1425--): That gives or causes delight; very pleasing, delightful.
 ・ †delitous (a1425): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightsome (c1484--): Giving or providing delight; = delightful, adj. 1.
 ・ †delectary (?c1500): Very pleasant; delightful.
 ・ delighted (1595--1677): That is a cause or source of delight; delightful. Obsolete.
 ・ dilly (1909--): Delightful; delicious.
 ・ delish (1915--): Extremely pleasing to the senses; (chiefly) very tasty or appetizing. Sometimes of a person: very attractive. Cf. delicious, adj. A.1.

 廃語になった語もあるのは確かですが,意外と多くが(おおよそ低頻度語であるとはいえ)現役で生き残っているのが,むしろ驚きです.「喜びを与える,愉快な;おいしい」という基本義で普通に用いられるものは,実際的にいえば delicious, delectable, delightful くらいのものでしょう.
 このような語彙の無駄遣い,あるいは類義語の余剰といった問題は,英語では決して稀ではありません.関連して,「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]),「#4974. †splendidious, †splendidous, †splendious の惨めな頻度 --- EEBO corpus より」 ([2022-12-09-1]) もご覧ください.

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2023-07-01 Sat

#5178. 名義論的変化の2つのタイプ [lexicology][semantic_change][homonymic_clash][semantics][synonym][semiotics][onomasiology]

 昨日の記事「#5177. 語議論 (semasiology) と名議論 (onomasiology)」 ([2023-06-30-1]) で取り上げたように,意味変化 (semantic_change or semasiological change) とともに扱われることが多いが,明確に区別すべき過程として名議論的変化 (onomasiological change) というものがある.
 Traugott and Dasher (52--53) は,名義論的変化 ("onomasiological changes") について,Bréal の議論を参照する形で,2つのタイプを挙げている.

(i) Specialization: one element "becomes the pre-eminent exponent of the grammatical conception of which it bears the stamp" . . . , for example, the selection of que as the sole complementizer in French . . . .
(ii) Differentiation: two elements which are (near-)synonymous diverge. Paradigm examples include, in English, (a) the specialization, e.g. of hound when dog was borrowed from Scandinavian, and (b) loss of a form when sound change leads to "homonymic clash," e.g. ME let in the sense "prohibit" from OE lett- was lost after OE lætan "allow" also developed into ME let . . . .


 Bréal によれば,名義論的変化は,意味変化の話題でないばかりか,単純に名前の変化というわけでもなく,"the proper subject of the 'science of significations'" (95) ということらしい.
 正直にいうと,Bréal の説明は込み入っており理解しにくい.

 ・ Traugott, Elizabeth C. and Richard B. Dasher. Regularity in Semantic Change. Cambridge: CUP, 2005.
 ・ Bréal, Michel. Semantics: Studies in the Science of Meaning. Trans. Mrs. Henry Cust. New York: Dover, 1964. 1900.

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2023-06-04 Sun

#5151. 日本語反対語辞典の「まえがき」より [lexicology][semantics][antonymy][synonym][structuralism][thesaurus][dictionary]

 「反対語」「対義語」「対照語」「対応語」などと称される antonym は,語彙意味論においても関心を集めてきた.私も反対語辞典の類いは好きでよく引くのだが,日本語で常用しているものとして『反対語対照語辞典 新装版』がある.
 反対語といっても「反対」のあり方は様々で,語彙意味論でもまさにその点が問題となる.上記の辞典の「まえがき」 (i--ii) を読めば,その難しさとおもしろさが理解できるだろう.

 単語は一つ一つがばらばらに存在しているのではなく,まとまりをもち,いわばネットワークをなしている.たとえば「父」という単語は,「お父さん」「おやじ」「パパ」などと言い換えることができる.これら四語は,同じものを指している.四語の間には敬意の有無やニュアンスの違いなどがあり,完全に同義であるとはいえないが,同義に近い関係ーー類義の関係ーーにあるということができる.一方,「父」の対として「母」という語がある.そして,「母」にも「お母さん」「おふくろ」「ママ」といったような類義の語が存在する.また,「父」と「母」の両者を包含する語として「親」があり,「親」の対として「子」という語がある.このように,単語は相互に関連して複雑な組織網を形成している.
 反対語の定義はきわめて難しい.同義語・類義語には同じものを指すといった基準があるが,反対語の条件は単純ではない.反対語という場合,まず両者の間に共通する意味がなければならない.「母」が「父」の反対語になるのは,両者が<親>という共通の意味をもっているからである.しかし,共通する意味をもっているだけでは,もちろん反対語にはならない.「母」が「父」の反対語になるのは,男性ではなく女性であるということによる.つまり,男性か女性かという基準から見て反対の意味になるのである.反対語の条件は,
 (1) 共通する意味をもっていること
 (2) その上で,ある基準から見て,反対の意味をもっていること
の二点であるということになるだろう.
 もう一つの例をあげよう.「大勝」の反対語には,「大敗」と「辛勝」とがあげられるが,前者は,(1) 大差で勝負がつくという共通点をもち,(2) 勝ち負けという基準から見て反対の意味をもっており,後者,つまり「辛勝」は,(1) 勝つという共通の意味をもち,(2) 勝ち方が大差か小差かという基準から見て反対の意味をもっている.ある語の反対語は,一つとは限らない.基準が変わると,いくつも存在することになる.
 以上のように説明すると,反対語の判定は比較的容易なように見えるが,一語一語について具体的に考えていく段になると,反対の意味とは何かということが問題になってきて,判断に苦しむことが多い.


 上記で例に挙げられている「大勝」に関する辞典内の図を参照しよう.構造主義的な,きれいなマトリックスとなる.

 <大差> <小差>
<勝利>圧勝(大勝・快勝)←───→辛勝
  
  
  
<敗北>惨敗(大敗・完敗)←───→惜敗


 しかし,多くの場合,そこまできれいなマトリックスにはならない.反対関係はもっと複雑になることも多い.例えば「水」を中心とした語彙の関係図を示そう.


             ┌─┐      
             │油│      
             └─┘      
  ┌─┐         ↑    ┌─┐
  │ │         │    │ │
  │ │         ↓    │ │
  │水│←──────→┌─┐   │ │
  │ │  ┌─┐   │ │   │ │
  │蒸│  │湯│←─→│水│←─→│氷│
  │ │  └─┘   │ │   │ │
  │気│        └─┘   │ │
  │ │         ↑    │ │
  │ │←────────┼───→│ │
  └─┘         ↓    └─┘
             ┌─┐      
             │火│      
             └─┘      


 反対語の意味論については,hellog および heldio より以下を参照.

 ・ hellog 「#1800. 様々な反対語」 ([2014-04-01-1])
 ・ hellog 「#1804. gradable antonym の意味論」 ([2014-04-05-1])
 ・ hellog 「#1968. 語の意味の成分分析」 ([2014-09-16-1])
 ・ hellog 「#4102. 反意と極性」 ([2020-07-20-1])
 ・ heldio 「#353. 反対語っていろいろあっておもしろい!」
 ・ heldio 「#354. long と short は対等な反対語ではない?」

 ・ 北原 保雄・東郷 吉男(編) 『反対語対照語辞典 新装版』 東京堂出版,2015年.

Referrer (Inside): [2024-01-01-1]

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2022-12-09 Fri

#4974. †splendidious, †splendidous, †splendious の惨めな頻度 --- EEBO corpus より [eebo][corpus][synonym][emode]

 「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]) で,初期近代英語期を中心とする時期に splendid の同根類義語が多数生み出された話題を取り上げた.
 そのなかでもとりわけ短命に終わった,3つの酷似した語尾をもつ †splendidious, †splendidous, †splendious について,EEBO corpus で検索し,頻度を確認してみた.参考までに,現在もっとも普通の splendid の頻度も合わせて,半世紀ごとに数値をまとめてみた.

wordcurrent by OEDC16bC17aC17btotal
splendidious?a1475 (?a1425)--1653214117
splendidous1607--16400516
splendious1609--16540112
splendid1624--1511625342665


 廃語となった3語は,現役中にも惨めな頻度だったことがわかるだろう.全体で2例しか挙がってこなかった splendious に至っては「現役」だったという表現すら当たらないかもしれない.この2つの例文を覗いてみよう(斜字体は筆者).2例目では先行する delicious が同じ語尾を取っている.

 ・ 1609: Ilands besides of much hostillitie, which are as sun-shine, sometimes splendious, anon disposed to altering frailtie
 ・ 1656: imagin madam, what a delicious life i lead, in so noble company, so splendious entertainment, and so magnificent equipage


 この splendious などは,事実上その場で即席にフランス単語らしく造語された使い捨ての臨時語 (nonce word) といってよく,「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) で解説した当時の時代精神をよく表わす事例ではないだろうか.「輝かしい」はずの形容詞だが,実際にはかりそめの存在だった.

Referrer (Inside): [2023-09-21-1]

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2022-12-05 Mon

#4970. splendid の語義 [semantics][metaphor][metonymy][adjective][oed][semantic_change][polysemy][synonym][genius6]

 「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) および「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]) で splendid とその類義語の盛衰をみてきた.類義語間の語義については互いに重なるところも多いのだが,そもそもどのような語義があり得るのだろうか.現在最も普通の形容詞である splendid に注目して語義の拡がりを確認しておきたい.
 先月発売されたばかりの『ジーニアス英和辞典』第6版によると,次のように3つの語義が与えられている.

(1) 《やや古》すばらしい,申し分のない (excellent, great) || a splendid idea すばらしい考え / a splendid achievement 立派な業績 / We had a splendid time at the beach. ビーチですばらしい時を過ごした.
(2) 美しい,強い印象を与える (magnificent); 豪華な,華麗な || a splendid view 美しい眺め / a splendid jewel 豪華な宝石.
(3) 《やや古》[間投詞的に]すばらしい!,大賛成!.


 splendid は,昨日の記事 ([2022-12-04-1]) でも触れたように,語源としてはラテン語の動詞 splendēre "to be bright or shining" に由来する.その形容詞 splendidus が,17世紀に英語化した形態で取り込まれたということである.原義は「明るい,輝いている」ほどだが,英語での初出語義はむしろ比喩的な語義「豪華な,華麗な」である.原義での例は,その少し後になってから確認される.さらに,時を経ずして「偉大な」「有名な」「すぐれた,非常によい」の語義も次々と現われている.19世紀後半の外交政策である in splendid isolation 「光栄ある孤立」に表わされているような皮肉的な語義・用法も,早く17世紀に確認される.このような語義の通時的発展と共時的拡がりは,いずれもメタファー (metaphor),メトニミー (metonymy),良化 (amelioration),悪化 (pejoration) などの観点から理解できるだろう.参考までに OED の語義区分を挙げておく.

1.
   a. Marked by much grandeur or display; sumptuous, grand, gorgeous.
   b. Of persons: Maintaining, or living in, great style or grandeur.
2.
   a. Resplendent, brilliant, extremely bright, in respect of light or colour. rare.
   b. Magnificent in material respects; made or adorned in a grand or sumptuous manner.
   c. Having or embodying some element of material grandeur or beauty.
   d. In specific names of birds or insects.
3.
   a. Imposing or impressive by greatness, grandeur, or some similar excellence.
   b. Dignified, haughty, lordly.
4. Of persons: Illustrious, distinguished.
5. Excellent; very good or fine.
6. Used, by way of contrast, to qualify nouns having an opposite or different connotation. splendid isolation: used with reference to the political and commercial uniqueness or isolation of Great Britain; . . . .

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2022-12-04 Sun

#4969. splendid の同根類義語のタイムライン [cognate][synonym][lexicology][inkhorn_term][emode][borrowing][loan_word][renaissance][oed][timeline]

 すでに「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) で取り上げた話題ですが,一ひねり加えてみました.splendid (豪華な,華麗な;立派な;光り輝く)というラテン語の動詞 splendēre "to be bright or shining" に由来する形容詞ですが,英語史上,数々の同根類義語が生み出されてきました.先の記事で触れなかったものも含めて OED で調べた単語を列挙すると,廃語も入れて13語あります.

resplendant, resplendent, resplending, splendacious, †splendant, splendent, splendescent, splendid, †splendidious, †splendidous, splendiferous, †splendious, splendorous


 OED に記載のある初出年(および廃語の場合は最終例の年)に基づき,各語の一生をタイムラインにプロットしてみたのが以下の図です.とりわけ16--17世紀に新類義語の登場が集中しています.

splendid and its synonyms

 ほかに1796年に初出の resplendidly という副詞や1859年に初出の many-splendoured という形容詞など,合わせて考えたい語もあります.いずれにせよ英語による「節操のない」借用(あるいは造語)には驚かされますね.

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2022-11-08 Tue

#4943. 「愛人」の呼称50種 [term_of_endearment][lexicology][synonym]

 英語には数多くの愛称や親愛語 (term_of_endearment) があり,歴史的にも止むことなく生み出され続けてきた.Crystal が,年代順に50の「愛人」の呼称を挙げている.

 darling (c. 888)
 dear (c. 1230)
 sweetheart (c. 1290)
 heart (c. 1305)
 honey (c. 1375)
 dove (c. 1386)
 cinnamon (c. 1405)
 love (c. 1405)
 mulling (c. 1475)
 daisy (c. 1485)
 mouse (c. 1520)
 whiting (c. 1529)
 fool (c. 1530)
 beautiful (1535)
 soul (c. 1538)
 bully (1548)
 lamb (c. 1556)
 pussy (c. 1557)
 ding-ding (1564)
 lover (1573)
 pug (1580)
 mopsy (1582)
 bun (1587)
 wanton (1589)
 ladybird (1597)
 chuck (1598)
 sweetkin (1599)
 duck (1600)
 joy (1600)
 sparrow (c. 1600)
 bawcock (c. 1601)
 nutting (1606)
 tickling (1607)
 bagpudding (1608)
 dainty (1611)
 flitter-mouse (1612)
 pretty (1616)
 old thing (c. 1625)
 duckling (1630)
 sweetling (1648)
 pet (1767)
 sweetie (1778)
 cabbage (1840)
 prawn (1895)
 so-and-so (1897)
 pumpkin (1900)
 pussums (1912)
 treasure (1920)
 sugar (1930)
 lamb-chop (1962)

 このような語彙には,はやりすたりもあったに違いないが,上の一覧には古くから根強く生き延び,現在もバリバリの現役という語が含まれている.息の長さに驚くばかりである.食物や動物の意味領域から転用されてきたものが多いようだ.
 愛称の歴史というのは,語彙論,意味変化,歴史語用論など多方面から迫れそうなテーマである.関連して「#1951. 英語の愛称」 ([2014-08-30-1]),「#2131. 呼称語のポライトネス座標軸」 ([2015-02-26-1]),「#4312. 「呼格」を認めるか否か」 ([2021-02-15-1]) を参照.

 ・ Crystal, D. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. CUP, 2018.

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2022-08-15 Mon

#4858. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第18回「なぜ英語には類義語が多いの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][lexicology][synonym][loan_word][borrowing][french][latin][lexical_stratification][contact][hellog_entry_set][japanese]

 昨日『中高生の基礎英語 in English』の9月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第18回は「なぜ英語には類義語が多いの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2022年9月号



 英語には ask -- inquire -- interrogate のような類義語が多く見られます.多くの場合,語彙の学習は暗記に尽きるというのは事実ですので,類義語が多いというのは英語学習上の大きな障壁となります.本当は英語に限った話しではなく,日本語でも「尋ねる」「質問する」「尋問する」など類義語には事欠かないわけなので,どっこいどっこいではあるのですが,現実的には英語学習者にとって高いハードルにはちがいありません.
 英語に(そして実は日本語にも)類義語が多いのは,歴史を通じて様々な言語と接触してきたからです.英語にとってとりわけ重要な接触相手はフランス語とラテン語でした.英語は,ある意味を表わす語をすでに自言語にもっていたにもかかわらず,同義のフランス語単語やラテン語単語を借用してきたという経緯があります.結果として,類義語が積み重ねられ,地層のように層状となって今に残っているのです.この語彙の地層は,典型的に下から上へ「本来の英語」「フランス語」「ラテン語」と3層に積み上げられてきたので,これを英語語彙の「3層構造」と呼んでいます.
 3層構造については,hellog でも繰り返し取り上げてきました.こちらの記事セットおよび lexical_stratification の各記事をお読みください.
 雑誌の連載記事では,この話題を中高生にも分かるように易しく解説しています.ぜひ手に取っていただければと思います.

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2021-10-08 Fri

#4547. clang association [semantic_change][synonym][psycholinguistics][terminology][etymology][semiotics][pun][clang_association]

 英語史の古典的著書といってよい Algeo and Pyles を読んでいて,語の意味変化 (semantic_change) の話題と関連して clang association という用語を知った.もともとは心理学の用語のようだが「類音連想(連合),音連合」と訳され,例えば clingring のように押韻するなど発音が似ている語どうしに作用する意味的な連想のことをいうようだ.いくつかの英語学用語辞典を引いても載っていなかったので,これを取り上げている Algeo and Pyles (233--34) より引用するほかない.

   Sound Associations
   Similarity or identity of sound may likewise influence meaning. Fay, from the Old French fae 'fairy' has influenced fey, from Old English fǣge 'fated, doomed to die' to such an extent that fey is practically always used nowadays in the sense 'spritely, fairylike.' The two words are pronounced alike, and there is an association of meaning at one small point: fairies are mysterious; so is being fated to die, even though we all are so fated. There are many other instances of such confusion through clang association (that is, association by sound rather than meaning). For example, in conservative use fulsome means 'offensively insincere' as in "fulsome praise," but it is often used in the sense 'extensive' because of the clang with full. Similarly, fruition is from Latin frui 'to enjoy' by way of Old French, and the term originally meant 'enjoyment' but now usually means 'state of bearing fruit, completion'; and fortuitous earlier meant 'occurring by chance' but now is generally used as a synonym for fortunate because of its similarity to that word.


 発音が近い単語どうしが,意味の点でも影響し合うというのは,記号論的にはもっともなことだろう.当然視しており深く考えることもなかったが,記号間の連携というのは,高度に記号を操ることのできるヒトならでは芸当である.ダジャレや,それに立脚するオヤジギャグを侮ることなかれ.立派な clang association なのだから.

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Boston: Thomson Wadsworth, 2005.

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2021-07-29 Thu

#4476. 形態論的透明度の観点からの語彙関係 --- consociation vs. dissociation [lexicology][morphology][etymology][loan_word][word_formation][compound][terminology][lexical_stratification][synonym]

 この概念と用語を知っていれば英語の語彙関係についてもっと効果的に説明したり議論したりできただろう,と思われるものに最近出会った.Görlach (110) が,consociationdissociation という語彙関係について紹介している(もともとは Leisi によるものとのこと)

Words can be said to be consociated if linked by transparent morphology; they are dissociated if morphologically isolated. Consociation is common in languages in which compounds and derivations are frequent (OE, Ge, Lat). Dissociation occurs when foreign words are borrowed, or when derivations become opaque . . . .


 例えば,heartheartyheartiness は形態的に透明に派生されており,典型的な consociation の関係にあるといえる.foulfilthfilthyfilthiness についても,最初の foulfilth こそ透明度は若干下がるが(ただし古英語では音韻形態規則により,ある程度の透明度があったといえる),全体としては consociation の関係といえるだろう.ただ,consociation といっても程度の差のありうる語彙関係であることが,ここから分かる.
 一方,いわゆる英語語彙の3層構造の例などは,典型的な dissociation の関係を示す.「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) からいくつか示せば,ask -- question -- interrogate, fair -- beautiful -- attractive, help -- aid -- assistance などだ.「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1]) も有名だが,cow -- beef, swine -- pork, sheep -- mutton などの語彙関係も dissociation といえる.
 
eye -- ocular などの名詞・形容詞の対応も,dissociation の関係ということになる.ここから日本語に話を広げれば,和語と漢語の関係,あるいは漢字の読みでいえば訓読みと音読みの関係も,典型的な dissociation といってよいだろう.「めがね」(眼鏡)と「眼鏡」(眼鏡)の関係は,上記の eye -- ocular の関係に似ている.関連して「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1]) も参照されたい.

 ・ Görlach, Manfred.
The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
 ・ Leisi, Ernst.
Das heutige Englische: Wesenszüge und Probleme.'' 5th ed. Heidelberg, 1969.

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2021-05-30 Sun

#4416. トイレの英語文化史 --- 英語史語彙論研究入門 [taboo][euphemism][khelf_hel_intro_2021][thesaurus][dictionary][lexicology][htoed][semantics][synonym][slang][hel_education][bibliography][link]

 4月5日より始まっていた「英語史導入企画2021」のコンテンツ紹介記事は,今回で最終回となります.話題は「office, john, House of Lords --- トイレの呼び方」です.トリを飾るに相応しいテーマですね! トイレの英語文化史あるいは英語文化誌というべき内容で,Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (= HTOED) を用いてこんなにおもしろい調査ができるのかと教えてくれるコンテンツです.コンテンツ内の図と点線を追っていくだけで,トイレの悠久の旅を楽しむことができます.
 タブー (taboo),婉曲表現 (euphemism),類義語 (synonym) といった語彙論 (lexicology) 上の問題は,英語史の卒業論文研究などでも人気のテーマです.英語史語彙論研究に関心をもったら,これらのタグの付いた hellog の記事群を読んでみてください.また,以下に今回のコンテンツと緩く関連した記事も紹介しておきます.

 ・ 「#470. toilet の豊富な婉曲表現」 ([2010-08-10-1])
 ・ 「#471. toilet の豊富な婉曲表現を WordNet と Visuwords でみる」 ([2010-08-11-1])
 ・ 「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」」 ([2012-01-14-1])
 ・ 「#1219. 強意語はなぜ種類が豊富か」 ([2012-08-28-1])
 ・ 「#3885. 『英語教育』の連載第10回「なぜ英語には類義語が多いのか」」 ([2019-12-16-1])
 ・ 「#3392. 同義語と類義語」 ([2018-08-10-1])
 ・ 「#469. euphemism の作り方」 ([2010-08-09-1])

 ・ 「#4395. 英語の類義語について調べたいと思ったら」 ([2021-05-09-1])
 ・ 「#3159. HTOED」 ([2017-12-20-1])
 ・ 「#847. Oxford Learner's Thesaurus」 ([2011-08-22-1])
 ・ 「#4334. 婉曲語法 (euphemism) についての書誌」 ([2021-03-09-1])
 ・ 「#1270. 類義語ネットワークの可視化ツールと類義語辞書」 ([2012-10-18-1])
 ・ 「#1432. もう1つの類義語ネットワーク「instaGrok」と連想語列挙ツール」 ([2013-03-29-1])

 ・ 「#4092. shit, ordure, excrement --- 語彙の3層構造の最強例」 ([2020-07-10-1])
 ・ 「#4041. 「言語におけるタブー」の記事セット」 ([2020-05-20-1])

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2021-05-23 Sun

#4409. 色白で美しく公正な白雪姫 --- fair の語感 [khelf_hel_intro_2021][adjective][synonym][semantics][semantic_change][lexical_stratification][bnc][collocation][etymology]

 「英語史導入企画2021」より今日紹介するコンテンツは,昨日学部生より公表された「この世で一番「美しい」のは誰?」です.ディズニー映画 Snow White and the Seven Dwarfs (『白雪姫』)の台詞 "Magic mirror on the wall, who is the fairest one of all?" で用いられている形容詞 fair の意味変化に焦点を当てた英語史導入コンテンツとなっています.
 「美しい」といえばまず beautiful が思い浮かびますが,なぜ問題の台詞では fair なのでしょうか.まず,コンテンツでも解説されている通り fair には「色白の」という語義もありますので,Snow White とは相性のよい縁語といえます.さらに,beautiful が容姿の美しさを形容するのに特化している感があるのに対し,fair には「公正な,公平な」の語義を含め道徳的な含意があります (cf. fair trading, fair share, fair play) .白雪姫を形容するのにぴったりというわけです.
 fair は古英語期より用いられてきた英語本来語で,古く清く温かい情感豊かな響きをもちます.一方,beautiful は,14世紀に古フランス語の名詞 beute を借用した後に,15世紀に英語側で本来語接尾辞 -ful を付加して作った借用語です.フランス借用語(正確には「半」フランス借用語)は相対的にいって中立的で無色透明の響きをもつことが多いのですが,beautiful についていえば確かに fair と比べて道徳的・精神的な深みは感じられません.(ラテン借用語 attractive と合わせた fair -- beautiful -- attractive の3語1組 (triset) と各々の使用域 (register) については,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) をご覧ください.)
 fairbeautiful のような類義語の意味・用法上の違いについて詳しく知りたい場合には,辞書やコーパスの例文をじっくりと眺め,どのような語と共起 (collocation) しているかを観察することをお薦めします.試しに約1億語からなるイギリス英語コーパス BNCweb で両語の共起表現を調べてみました.ここでは人物と容姿を形容する共起語に限って紹介しますが,fair とタッグを組みやすいのは hairlady です.一方,beautiful とタッグを組む語としては woman, girl, young, hair, face, eyes, looks などが挙がってきます.気品を感じさせる fair lady に対して,あくまで容姿の良さを表わすことに特化した beautiful woman/girl という対立構造が浮かび上がってきます.白雪姫にはやはり fair がふさわしいのでしょうね.
 fair に見られる白さと公正さの結びつきは,candid という形容詞にも見られます.candid は第一に「率直な」を意味しますが,やや古風ながらも「公平な」の語義がありますし,古くは「白い」の語義もありました.もともとの語源はラテン語 candidus で,まさに「白い」を意味しました.「白熱して輝いている」が原義で,candle (ロウソク)とも語根を共有しています.また,candidate (候補者)は,ローマで公職候補者が白いトーガを着る習わしだったことに由来します.ちなみに日本語でも「潔白」「告白」「シロ(=無罪)」などに白さと公正さの関係が垣間見えますね.

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2021-05-09 Sun

#4395. 英語の類義語について調べたいと思ったら [khelf_hel_intro_2021][thesaurus][dictionary][lexicology][htoed][semantics][synonym][corpus][methodology]

 英語を学ぶ上で,類義語 (synonym) というのは厄介です.訳語としては同じなのに,実際にはニュアンスの違いがあるというのだから手間がかかります.一般に言語において完全な同義語はないとされますが,意味が微妙に異なる類義語というのは,思っている以上に多く存在します.
 日本語で考えてみれば,類義語の多さにはすぐに気づくでしょう.「疲れる」の類義語を挙げてみましょう.「くたびれる」「くたばる」「へたばる」「へばる」「グロッキー」「バテる」「疲労する」「困憊する」「へとへとになる」「ふらふらになる」「疲れ切る」など,それぞれ独特のコノテーションがありますね.
 英語で「疲れた」といえば,第一に tired が思い浮かびますが,他に exhausted, drained, weary, worn out, shattered, pooped, fatigued などもあります.学習するには厄介ですが,各々独自のコノテーションをもっており存在意義があるようです.昨日の「英語史導入企画2021」のためのコンテンツは,学部生による「「疲れた」って表現,多すぎない?」です.こちらもご覧ください.
 このような類義語に関心をもったら,まず当たるべきは学習者用の英英辞典です.例えば Longman Dictionary of Contemporary English (= LDOCE) などでは,たいてい主要な見出し語(例えば tired)のもとに,THESAURUS という類義語コーナーが設けられており,各類義語の使い分けが簡潔に記されています.
 thesaurus というのは,ずばり類義語辞典のこと.とすれば,類義語辞典そのものに当たるのが早いといえば早いですね.例えば,Oxford Learner's Thesaurus によれば,各類義語のニュアンス,用例,コロケーションが細かく解説されています.以下のように,どんどん記述が続いていきます.かゆいところに手が届く辞典ですね.

Synonyms of

 さらに詳しく調べたいのであれば,各類義語が用いられている「現場」からの事例を多数集めて分析することが必要になります.こうなるとコーパスの利用が有用です.まずは,イギリス英語とアメリカ英語の各々について,BNCwebCOCA というコーパスに当たってみるのがお薦めです.
 「英語史導入企画2021」の開催中ということで,かなり高度な研究ツールながらも歴史的類義語辞典なるもの紹介しておきましょう.Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (= HTOED) です.詳細は「#3159. HTOED」 ([2017-12-20-1]) をどうぞ.

Referrer (Inside): [2021-05-30-1]

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2020-10-03 Sat

#4177. SDGs を始めます [sdgs][binomial][hendiadys][synonym]

 そろそろ SDGs (= sustainable development goals) で英語を勉強しようと思います.いや,英語で SDGs を勉強しようと思います,の間違いでした.まずは用語のマスターから.

SDGs

 以下のようにまとめてみました.公式のロゴ集 (PDF) については,英語版あるいは日本語版をどうぞ.

Goal 1No Povertyあらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
Goal 2Zero Hunger飢餓を終わらせ,食料安全保障及び栄養改善を実現し,持続可能な農業を促進する
Goal 3Good Health and Well-Beingあらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を促進する
Goal 4Quality Educationすべての人々への,包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する
Goal 5Gender Equalityジェンダー平等を達成し,すべての女性及び女児の能力強化を行う
Goal 6Clean Water and Sanitationすべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
Goal 7Affordable and Clean Energyすべての人々の,安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
Goal 8Decent Work and Economic Growth包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
Goal 9Industry, Innovation, and Infrastructure強靱(レジリエント)なインフラ構築,包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
Goal 10Reduced Inequalities各国内及び各国間の不平等を是正する
Goal 11Sustainable Cities and Communities包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
Goal 12Responsible Consumption and Production持続可能な生産消費形態を確保する
Goal 13Climate Action気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
Goal 14Life Below Water持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し,持続可能な形で利用する
Goal 15Life on Land陸域生態系の保護,回復,持続可能な利用の推進,持続可能な森林の経営,砂漠化への対処,ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
Goal 16Peace, Justice and Strong Institutions持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し,すべての人々に司法へのアクセスを提供し,あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
Goal 17Partnerships持続可能な開発のための実施手段を強化し,グローバル・パートナーシップを活性化する


 ロゴも大事ですが,キャッチフレーズとしてはゴロ(語呂)も大事ですね.SDGs の文句は,よく考えられていると思います.たとえば "Good Health and Well-Being" のような binomial あるいは二詞一意 (hendiadys) には注目です.

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2020-07-14 Tue

#4096. 3重語,4重語,5重語の例をいくつか [doublet][etymology][loan_word][borrowing][lexicology][synonym]

 昨日の記事「#4094. 2重語の分類」 ([2020-07-13-1]) で取り上げた2重語 (doublet) の上を行き,3重語,4重語,5重語などの「多重語」の例を,『新英語学辞典』 (344) よりいくつか挙げたい.本ブログ内の関連する記事へのリンクも張っておく.

(a) 3重語 (triplet)

 ・ hale (< ME hal, hale, hail 〔北部方言〕 < OE hāl), whole (< ME hol, hool, hole 〔南部方言〕 < OE hāl), hail (← ON heill) (cf. 「#3817. hale の語根ネットワーク」 ([2019-10-09-1]))
 ・ place (← OF place < L platēa), plaza (← Sp. plaza < L platēa), piazza (← It. piazza < L platēa)
 ・ hotel (← F hôtel < OF hostel < ML hospitāle), hostel (← OF hostel < ML hospitāle), hospital (← ML hospitāle) (cf. 「#171. guesthost (2)」 ([2009-10-15-1]))
 ・ a, an, one (cf. 「#86. one の発音」 ([2009-07-22-1]))

(b) 4重語 (quadruplet)

 ・ corpse (← MF corps < OF cors < L corpus), corps (← MF corps < OF cors < L corpus), corpus (← L corpus), corse (← OF cors < L corpus)

(c) 5重語 (quintuplet)

 ・ palaver (← Port palavra < L parabola), parable (← OF parabole < L parabola), parabola (← L parabola), parley (← OF parlée < L parabola), parole (← F parole < L parabola)
 ・ discus, disk, dish, desk, dais (cf. 「#569. discus --- 6重語を生み出した驚異の語根」 ([2010-11-17-1]))
 ・ senior, sire, sir, seigneur, signor

 なお,日本語からの4重語の例として,カード,カルタ,カルテ,チャートが挙げられている (cf. 「#1027. コップとカップ」 ([2012-02-18-1])).

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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2020-07-13 Mon

#4095. 2重語の分類 [doublet][etymology][loan_word][borrowing][lexicology][synonym]

 同一語源にさかのぼるが,何らかの理由で形態と意味が異なるに至った1組の語を2重語 (doublet) と呼ぶ.本ブログでも様々な種類の2重語の例を挙げてきた(特に詳細な一覧は「#1723. シップリーによる2重語一覧」 ([2014-01-14-1]) と「#1724. Skeat による2重語一覧」 ([2014-01-15-1]) を参照).2重語にはいくつかのタイプがあるが,『新英語学辞典』 (343--44) に従って,歴史言語学的な観点から分類して示そう.

(1) 借用経路の異なるもの.

 ・ sure (← OF sur < L sēcūrus), secure (← L sēcūrus)
 ・ poor(← OF povre, poure < L pauper), pauper (← L pauper)
 ・ filibuster (← Sp. filibustero ← Du. vrijbuiter), freebooter (← Du. vrijbuiter)
 ・ caste (← Port. casta < L castus), chaste (← OF chaste < L castus)
 ・ madam(e) (← OF ma dame < L mea domina), Madonna (← It. ma donna < L mea domina)

(2) 本来語と外来語によるもの.

 ・ shirt (< OE scyrte < *skurtjōn-), skirt (← ON skyrta < *skurtjōn-)
 ・ naked (< OE nacod, næcad), nude (← L nūdus)
 ・ brother (< OE brōðor), friar (← OF frere < L frāter)
 ・ name (< OE nama), noun (← AN noun < L nōmen)
 ・ kin (< OE cynn), genus (← L genus)

(3) 同一言語から異なる時期に異なる形態あるいは意味で借用されたもの.

 ・ cipher (← OF cyfre ← Arab. ṣifr), zero (← F zéro ← It. zero ← Arab. ṣifr)
 ・ count (← OF conter < L computāre), compute (← MF compoter < L computāre)
 ・ annoy (← OF anuier, anoier < L in odio), ennui (← F ennui < OF enui < L in odio)

(4) 同一言語の異なる方言からの借用によるもの.(cf. 「#76. Norman French vs Central French」 ([2009-07-13-1]),「#95. まだある! Norman French と Central French の二重語」 ([2009-07-31-1]),「#388. もっとある! Norman French と Central French の二重語」 ([2010-05-20-1]))

 ・ catch (← ONF cachier), chase (← OF chacier)
 ・ wage (← ONF wagier), gage (← OF guage)
 ・ warden (← ONF wardein), guardian (← OF guardien)
 ・ warrant (← ONF warantir), guarantee (← OF guarantie)
 ・ treason (← AN treyson < OF traison < L traditionis), traditiion (← OF tradicion < L traditionis) (cf. 「#944. rationreason」 ([2011-11-27-1]))

(5) 英語史の中で同一語が,各種の形態変化により分裂 (split) し,二つの異なる語になったものがある.本来語にも借用語にも認められる.

 ・ outermost, uttermost
 ・ thresh, thrash
 ・ of, off
 ・ than, then (cf. 「#1038. thenthan」 ([2012-02-29-1]))
 ・ through, thorough (cf. 「#55. through の語源」 ([2009-06-22-1]))
 ・ wight, whit
 ・ worked, wrought (cf. 「#2117. playwright」 ([2015-02-12-1]))
 ・ later, latter (cf. 「#3616. 語幹母音短化タイプの比較級に由来する latter, last, utter」 ([2019-03-22-1]),「#3622. latter の形態を説明する古英語・中英語の "Pre-Cluster Shortening"」 ([2019-03-28-1]))
 ・ to, too
 ・ mead, meadow
 ・ shade, shadow (cf. 「#194. shadowshade」 ([2009-11-07-1]))
 ・ twain, two (cf. 「#1916. 限定用法と叙述用法で異なる形態をもつ形容詞」 ([2014-07-26-1]))
 ・ fox, vixen

 ・ acute, cute
 ・ example, sample (cf. 「#548. example, ensample, sample は3重語」 ([2010-10-27-1]))
 ・ history, story
 ・ mode, mood (cf. 「#3984. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (2)」 ([2020-03-24-1]))
 ・ parson, person (cf. 「#179. personparson」 ([2009-10-23-1]))
 ・ fancy, fantasy
 ・ van, caravan
 ・ varsity, university
 ・ flour, flower (cf. 「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]))
 ・ travail, travel

 上記の2重語の例のいくつかについては,本ブログでも記事で取り上げたものがあり,リンクを張っておいた.その他の2重語についても両語を検索欄に入れればヒットするかもしれない.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

Referrer (Inside): [2021-03-25-1] [2020-07-14-1]

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2020-07-10 Fri

#4092. shit, ordure, excrement --- 語彙の3層構造の最強例 [lexicology][synonym][loan_word][borrowing][french][latin][lexical_stratification][swearing][taboo][slang][euphemism]

 いかがでしょう.汚いですが,英語の3層構造を有便雄弁に物語る最強例の1つではないかと思っています.日本語の語感としては「クソ」「糞尿」「排泄物」ほどでしょうか.
 英語語彙の3層構造については,本ブログでも「#3885. 『英語教育』の連載第10回「なぜ英語には類義語が多いのか」」 ([2019-12-16-1]) やそこに張ったリンク先の記事,また (lexical_stratification) などで,繰り返し論じてきました.具体的な例も「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]),「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1]) で挙げてきました.
 もっと挙げてみよと言われてもなかなか難しく,典型的な ask, question, interrogatehelp, aid, assistance などを挙げて済ませてしまうのですが,決して満足はしておらず,日々あっと言わせる魅力的な例を探し求めいました.そこで,ついに標題に出くわしたのです.Walker の swearing に関する記述を読んでいたときでした (32) .

A few taboo words describing body parts started out as the 'normal' forms in Old English; one of the markers of the status difference between Anglo-Norman and Old English is the way the 'English' version became unacceptable, while the 'French' version became the polite or scientific term. The Old English 'scitte' gave way to the Anglo-Norman 'ordure' and later the Latin-via-French 'excrement'.


 これに出会ったときは,(鼻をつまんで)はっと息を呑み,目を輝かせてしまいました.
 shit は古英語 scitte にさかのぼる本来語ですが,古英語での意味は「(家畜の)下痢」でした. 動詞としては接頭辞つきで bescītan (汚す)のように長母音を示していましたが,後に名詞からの影響もあって短化し,中英語期に s(c)hite(n) (糞をする)が現われています.名詞の「糞」の語義としては意外と新しく,初期近代英語期の初出です.
 ordure は,古フランス語 ordure から中英語期に入ったもので,「汚物」「卑猥な言葉」「糞」を意味しました.語根は horrid (恐ろしい)とも共通します.
 excrement は初期近代英語期にラテン語 excrēmentum (あるいは対応するフランス語 excrément)から借用されました.
 現在では本来語の shit は俗語・タブー的な「匂い」をもち,その婉曲表現としては「匂い」が少し緩和されたフランス語 ordure が用いられます.ラテン語 excrement は,さらに形式張った学術的な響きをもちますが,ほとんど「匂い」ません.
 以上,失礼しました.

 ・ Walker, Julian. Evolving English Explored. London: The British Library, 2010.

Referrer (Inside): [2021-05-30-1]

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2019-12-16 Mon

#3885. 『英語教育』の連載第10回「なぜ英語には類義語が多いのか」 [rensai][notice][lexicology][synonym][loan_word][borrowing][french][latin][lexical_stratification][sobokunagimon][link]

 12月13日に,『英語教育』(大修館書店)の1月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第10回となる今回は「なぜ英語には類義語が多いのか」という話題を扱っています.

『英語教育』2020年1月号



 英語には「上がる」を意味する動詞として risemountascend などの類義語があります.「活発な」を表わす形容詞にも lively, vivacious, animated などがあります.名詞「人々」についても folk, people, population などが挙がります.これらは「英語語彙の3層構造」の典型例であり,英語がたどってきた言語接触の歴史の遺産というべきものです.本連載記事では,英語語彙に特徴的な豊かな類義語の存在が,1066年のノルマン征服と16世紀のルネサンスのたまものであり,さらに驚くことに,日本語にもちょうど似たような歴史的事情があることを指摘しています.
 「英語語彙の3層構造」については,本ブログでも関連する話題を多く取り上げてきました.以下をご覧ください.

 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1])
 ・ 「#2643. 英語語彙の三層構造の神話?」 ([2016-07-22-1])
 ・ 「#387. trisociationtriset」 ([2010-05-19-1])
 ・ 「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1])
 ・ 「#3374. 「示相語彙」」 ([2018-07-23-1])

 ・ 「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1])
 ・ 「#3357. 日本語語彙の三層構造 (2)」 ([2018-07-06-1])
 ・ 「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1])
 ・ 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1])

 ・ 堀田 隆一 「なぜ英語には類義語が多いのか」『英語教育』2020年1月号,大修館書店,2019年12月13日.62--63頁.

Referrer (Inside): [2021-05-30-1] [2020-07-10-1]

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2019-04-14 Sun

#3639. retronym [synonym][retronym][terminology][lexicology][semantic_change][magna_carta]

 昨日4月13日の朝日新聞朝刊の「ことばサプリ」という欄にレトロニムの紹介があった.レトロニムとは「新語と区別するため,呼び名をつけ直された言葉」のことで,たとえば古い「喫茶」に対する新しい「純喫茶」,同じく「服」に対する「和服」,「電話」に対する「固定電話」,「カメラ」に対する「フィルムカメラ」などの例だ.携帯電話がなかったころは電話といえば固定式の電話だけだったわけだが,携帯電話が普及してきたとき,従来の電話は「固定電話」と呼び直されることになった.時計の世界でも,新しく「デジタル時計」が現われたとき,従来の時計は「アナログ時計」と呼ばれることになった.レトロニム (retronym) とは retro- + synonym というつもりの造語だろう,これ自体がなかなかうまい呼称だし,印象に残る術語だ.
 英語にもレトロニムはみられる.例えば,e-mail が現われたことによって,従来の郵便は snail mail と呼ばれることになった.acoustic guitar, manual typewriter, silent movie, landline phone なども,同様に技術革新によって生まれたレトロニムといえる.ほかに whole milk, snow skiing なども.
 コンピュータ関係の世界では,技術の発展が著しいからだろう,周辺でレトロニムがとりわけ多く生まれていることが知られている.plaintext, natural language, impact printer, eyeball search, biological virus など.
 歴史的な例としては,「#734. pandaBritain」 ([2011-05-01-1]),「#772. Magna Carta」 ([2011-06-08-1]) でみたように,lesser panda, Great Britain, Magna Carta などを挙げておこう.これらも一言でいえば「レトロニム」だったわけだ.術語というのは便利なものである.

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