昨日の記事「#4643. 19--20世紀の時事風刺漫画雑誌といえば Punch」 ([2022-01-12-1]) で,19--20世紀を代表する自自風刺画雑誌 Punch を紹介した.この雑誌は数々の新語を生み出した(あるいは既存のインパクトのある語を流行らせた)ことでも有名で,英語史上,無視することができない影響力を示してきた.
OED で Punch を初例とする単語を粗々に検索してみると227語がヒットした.例えば,bi-monthly (adj., n,. adv.), brunch (v.), Chunnel (n.), gushy (adj.), hanky-panky (n.), punmanship (n.), snobbism (n.), thought control (n.), trendy (adj., n.), washerette (n.) など,馴染みのあるものも含めて数々の語が挙げられている.
Punch におけるやりとりが語句の発祥となった例,つまり故事成語というべき例もある.curate's egg (玉石混淆,良いところも悪いところもあるもの)は,1895年11月9日の Punch より,次の会話から生まれたものとされる.(ただし OED によれば,この故事成語は実際のところ同年5月22日の Judy 誌が初例と判明しているようだ.Punch が後にその名誉をさらっていったという辺りも,影響力の大きさをうかがわせる.)
Right Reverend Host: I'm afraid you've got a bad Egg, Mr. Jones!
The Curate: Oh no, my Lord, I assure you! Parts of it are excellent!
時代と新語を作り出してきた雑誌である.
・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.
19世紀には英米でユーモアと風刺たっぷりの定期刊行物がはやった.そのなかでも飛び抜けて人気だったのが Punch である.創設者は Henry Mayhew, Mark Lemon, Joseph Stirling Coyne および版画家の Ebeneze Landells である.当時フランスで Charivari (語源不詳)という風刺雑誌が成功を収めており,これにあやかって副題を The London Charivari としたが,本題のほうは「ポンチのような混合物」となることを意図して Punch と定められた(cf. 「#35. finger の語源」 ([2009-06-02-1])).1841年の創刊から1992年まで休むことなく発行された.1996年から2002年まで復刊したが,時代の流れと財政難により,ついに廃刊となった.
この雑誌は英語史的にも価値が高い.というのも,後期近代英語期から現代英語期にかけて,人々の英語(あるいは言語)に対する社会的態度がいかなるものであったかを,風刺を通じて教えてくれる貴重な資料だからだ.要するに,時代の言語習慣を写し出す鏡だったのである (Crystal 93) .
Punch の記事を読むのは,実はとても難しい.風刺を理解するには,その時代の時事的な知識が必要だからだ.並の英語力では読み解けないことも多く,文字通り "philological" な知識が必要とされる.したがって,後期近代英語期(の英語史)の教材としてはうってつけということになる.
以下は,1841年7月1日(木)の創刊号の表紙ページと第1ページ.
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