hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

tautology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-17 10:25

2024-03-18 Mon

#5439. 英語辞書から集めた tautology (類語反復,トートロジー)の事例 [tautology][voicy][heldio][rhetoric][logic][pragmatics][semantics][khelf][aokikun][word_play][periphrasis]



 今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の配信回は「#1022. トートロジー --- khelf 会長,青木くんの研究テーマ」です.言語における tautology とは何か? "A is A" のような一見無意味な形式がなぜ存在し,なぜしばしば有意味となり得るのか? この問題については,khelf(慶應英語史フォーラム)会長の青木輝さんとともに今後ゆっくりと検討していく予定ですが,今回はその頭出しという趣旨での配信でした.ぜひお聴きいただければ.
 トートロジーについては,hellog では「#4851. tautology」 ([2022-08-08-1]) としてすでに導入しています.今回は英語辞書から英語のトートロジーの事例をいくつか集めてみました.

 ・ a beginner who has just started
 ・ free gift
 ・ He lives alone by himself.
 ・ hear with one's ears
 ・ helpful assistance
 ・ necessary essentials
 ・ new innovation
 ・ real truth
 ・ She is dumb and can not speak.
 ・ speak all at once together
 ・ the modern university of today
 ・ The money should be adequate enough.
 ・ They spoke in turn, one after the other.
 ・ This candidate will win or not win.
 ・ very excellent
 ・ widow woman

 論理,意味,語用,形式などの観点から様々に分類できそうです.ものによっては periphrasis (迂言法),pleonasm (冗語法),redundancy (冗長),repetition (繰り返し)などと呼び変えるほうが適切な事例もありそうです.また,言葉遊び (word_play) とも関係してきそうです.
 言語によってトートロジーの種類は異なるのか? 個別言語におけるトートロジーの起源と発達は? トートロジーの言語的機能は? 謎が謎を呼ぶ,深掘りしがいのあるテーマです.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-08-26 Fri

#4869. 協調の原理と会話の含意 --- 通信スクーリング「英語学」 Day 5 [english_linguistics][pragmatics][semantics][implicature][cooperative_principle][tautology][voicy][2022_summer_schooling_english_linguistics]

 語用論 (pragmatics) は,意味論 (semantics) とともに,言葉の意味を研究する領域ですが,言葉そのものの意味というよりも話者の意味・意図に注目します.辞書的な意味ではなく,話者が言葉を使っている現場において立ち現われてくる生の意味です.会話においては,話し手と聞き手は語用論的に高度な意味作用をライヴで取り交わしているのです.
 語用論は英語学でも発展の著しい領域で話題は豊富ですが,Day 5 では「協調の原理」と「会話の含意」に絞って語用論の考え方の基本を概説します.



1. 協調の原理 (cooperative_principle)
  1.1 「#1122. 協調の原理」 ([2012-05-23-1])
  1.2 「#1133. 協調の原理の合理性」 ([2012-06-03-1])
  1.3 「#1134. 協調の原理が破られるとき」 ([2012-06-04-1])
  1.4 「#4851. tautology」 ([2022-08-08-1])
2. 会話の含意 (conversational implicature)
  2.1 「#1976. 会話的含意とその他の様々な含意」 ([2014-09-24-1])
  2.2 「#3402. presupposition trigger のタイプ」 ([2018-08-20-1])
  2.3 「#3403. presupposition の3つの特性」 ([2018-08-21-1])
6. 本日の復習は heldio 「#452. 協調の原理」,およびこちらの記事セットより




[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-08-08 Mon

#4851. tautology [tautology][rhetoric][logic][semantics][pragmatics][construction_grammar]

 tautology (類語反復,トートロジー)は,まずもって修辞学 (rhetoric) の用語として発展してきた.ギリシア語の tautó (the same) + lógos (word) に起源をもち,ラテン語を経て,16世紀半ばに英語に借用された.以下『新英語学辞典』の tautology の項目に従って概説を与える.
 修辞学では冗語法 (pleonasm) や重言と同義に用いられる (cf. 「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1])).例えば a philatelist who collects stamps, These words come out successively one after another., Will you repeat that again? の類いの表現だ.「#3907. 英語の重言」 ([2020-01-07-1]) に類例がたくさん挙げられているが,それほど日常的で慣用的な語法ということでもある.
 tautology の構文の典型は "A is A." という形式である.意味論にいえば,主語概念のなかにすでに述語概念が含まれてしまっているために,新情報が付されないことになり,その限りにおいて文は「無意味」となる.別の角度からいえば,この構文は意味論的に常に真となる."A is A." のほかに Philatelists collect stamps., The man who won won., Lynda loves the boy she loves. のような構文もある.これらは分析文 (analytic sentence) と呼ばれることがある.
 tautology は意味論的にいえば上記の通り「無意味」だが,語用論的には必ずしも無意味ではなく,むしろ豊かな含意が生み出されるといわれる.Philatelists collect stamps. の場合,philatelist (切手収集家)は比較的難しい単語であり,その単語の意味を説明するために,この文が発せられている可能性がある.また,The man who won won. については,相手をはぐらかす意図で発せられているのかもしれない.
 語用論では,tautology は Grice の協調の原理 (cooperative_principle) のもとで論じられることが多い.tautology の発話者が協調の原理をあえて違反しようとしているわけではないと判断されるのであれば,聞き手はその tautology に隠された意味や意図を見出そうとするだろう.こうして何らかの含意が生み出されるのである.
 tautology は意味論的には無意味であっても語用論的にはしばしば有意味となる.この不思議さこそが,tautology が語用論や認知言語学で注目される所以だろう.
 関連して「#1122. 協調の原理」 ([2012-05-23-1]),「#1133. 協調の原理の合理性」 ([2012-06-03-1]),「#1134. 協調の原理が破られるとき」 ([2012-06-04-1]) を参照.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

Referrer (Inside): [2024-03-18-1] [2022-08-26-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-05-23 Wed

#1122. 協調の原理 [pragmatics][implicature][cooperative_principle][philosophy_of_language][tautology]

 協調の原理 (cooperative principle) とは,哲学者 H. Paul Grice (1912?--88) によって提案された会話分析の用語で,会話において正しく効果的な伝達を成り立たせるために,話し手と聞き手がともに暗黙のうちに守っているとされる一般原則を指す.会話の含意 (conversational implicature) ,すなわち言外の意味が,なぜ適切に理解されるのかという問題にも関わる原則で,近年の語用論の発展の大きな拠り所となっている.Huang (25) に掲載されている "Grice's theory of conversational implicature" を示す.

Grice's theory of conversational implicature

a. The co-operative principle
   Make your conversational contribution such as is required, at the state at which it occurs, by the accepted purpose or direction of the talk exchange in which you are engaged.
b. The maxims of conversation
   Quality: Try to make your contribution one that is true.
     (i) Do not say what you believe to be false.
     (ii) Do not say that for which you lack adequate evidence.
   Quantity:
     (i) make your contribution as informative as is required (for the current purposes of the exchange).
     (ii) Do not make your contribution more informative than is required.
   Relation: Be relevant.
   Manner: Be perspicuous.
     (i) Avoid obscurity of expression.
     (ii) Avoid ambiguity.
     (iii) Be brief (avoid unnecessary prolixity).
     (iv) Be orderly.


 協調の原理は,4つの公理 (maxim) を履行することによって遵守されると言われる.その4つとは,質の公理,量の公理,関係の公理,様態の公理である.聞き手は,話し手が会話において協力的であること,上記の原則と公理を守っていることを前提として,話し手の発話を解釈する.例えば,話し手 A の "How is that hamburger?" という疑問に対して聞き手 B が "A hamburger is a hamburger." と答えたとする.B の発話はそれ自体では同語反復であり情報量はゼロだが,A は B が協調の原理を守っているとの前提のもとで B の言外の意味(会話の含意)を読み取ろうとする.協調の原理のもとでは,B は A の質問に対して relevant な答えを返しているはずであるから,A はその返答を「そのハンバーガーはごく平凡なハンバーガーであり,それ以上でも以下でもない」などと解釈することになる.この会話が有意味なものとして成り立つためには,A による会話の含意の読み取りが必要であり,読み取るに当たっては B が協力的であるという前提が必要である.この前提は事前に両者で申し合わせたものではなく,あくまで暗黙の了解であるから,これは会話の一般原則として仮定する必要がある,ということになる.

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow