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helkatsu - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2026-10-12 05:00

2026-10-11 Sun

■ #6376. 形容詞,食事,時間,語順にまつわるクイズ --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ第19弾 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][collocation][word_order][voicy][heldio]



 隔週土曜日という決まったリズムで届けられる sorami さんの語源クイズシリーズ,10月3日に第19弾「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#19~英語の朝昼晩・語順その2~」が公開されました.気づけばシリーズも20回目が目前です.
 今回は全9問.形容詞に始まり,食事と時間の言葉を経て,最後は語順の話題へと着地する構成です.ネタバレにならない範囲で,いくつかの問いを紹介しましょう.
 冒頭は形容詞を答える軽ジャブ問題です.通時的な意味変化 (semantic_change) の話題も復習的に取り上げられます.
 続いて,クイズは1日の食事と時間をめぐる語彙へと進みます.それぞれお馴染みの単語ですが,意外な語源をもっていることがわかります.朝昼晩の言葉を並べてみると,日々の暮らしの言葉にこそ歴史の層が厚く積み重なっていることに気づかされますね.この話題には,皆さん興味を抱くのではないでしょうか
 time と結びつく動詞を選ばせる問題も勉強になります.例えば kill time のように,同じ time でも組み合わせる動詞によって表現の性格ががらりと変わるのがおもしろいところです.語彙を点ではなく,コロケーションという線で捉える感覚が養われます.
 そして最後は,副題にある通り「語順その2」です.前回第18弾の語順の問題を受けて,今回はコスタリカやプエルトリコといったスペイン語地名を入口に,名詞と形容詞の並び順を世界の言語のなかで比べてみるという趣向です.英語の「形容詞+名詞」の順は,実は世界的に見れば当たり前ではない.そんな気づきを中高生が得られるとすれば,これほど贅沢なクイズはありません.
 いつもの通り,sorami さんの note 記事では,「授業の小ネタ,ウォームアップ,グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALTの先生を巻き込むのもありですね!」と述べられています.問題版と解答版の PDF も用意されていますので,全国の英語教員の皆さん,ぜひ授業で活用してみてください.
 sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年4ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.ご好評いただき,先日第4刷が出来したところです.今年の6月30日には物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.今回のクイズをきっかけに,毎日口にする「朝昼晩」の英単語の語源にも興味を持っていただければ幸いです.

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-10-09 Fri

■ #6374. 10月16日,専修大学で「3単現の -s の英語史」をお話しします [notice][hel_education][hel_lecture][helkatsu][nazesantangen][3sp]


10月16日,専修大学で「3単現の -s の英語史」をお話しします



 来たる10月16日(金)の夕刻,専修大学文学部英語英米文学科主催の学術講演会にて,「3単現の -s の英語史」と題してお話しします.お招きくださったのは,khelf や heldio のhel活でも日頃からお世話になっている菊地翔太先生(専修大学)です.菊地先生は,講演会について10月1日に note 記事「堀田隆一先生のご講演「3単現の -s の英語史」(専修大学生田キャンパス)のご案内」を公開してくださっています.ありがとうございます.
 学科主催の講演会ではありますが,一般の方でもご参加いただる会となっています.英語史に関心をお持ちの方,中学校で「3単現の -s」を習って以来モヤモヤを抱え続けてきた方,英語を教えている先生方など,どなたも歓迎です.ぜひ生田キャンパスまで足をお運びください.開催概要は以下の通りです.

 ・ 日時:2026年10月16日(金)5限 (16:35--18:05)
 ・ 会場:専修大学生田キャンパス 2号館 地下1階 Active! Studio 202
 ・ 主催:専修大学文学部英語英米文学科
 ・ 演題:「3単現の -s の英語史」
 ・ 参加:一般の方も参加可です(詳細は上記の菊地先生の note 記事をご確認ください)

 今回の講演は,6月に刊行された拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書),通称『なぜさんたんげん』の第1章第5節「なぜ3単現の s をつけるのか」の内容を,さらに深掘りしていくものです.新書では一般読者向けにコンパクトにまとめましたが,講演会では,そこからさらに一歩も二歩も踏み込んだ論点にも触れていきます.
 講演では,まず3単現の -s に関する共時的な説明を確認します.そこでは「何を」「どのように」には答えてくれますが,「なぜ」には答えてくれません.そこで通時的な視点へと切り替えます.英語史の観点からみると,問うべきは「なぜ3単現に -s がつくのか」ではなく,むしろ「なぜ3単現以外では何もつかなくなってしまったのか」なのです.古英語の動詞 lufian (to love) の屈折表から出発し,屈折語尾の水平化の過程で3単現の語尾だけが生き残った経緯,さらに北部方言に由来する -s が本来の -th を置き換えていった経緯などをたどります.
 後半では,Northern Present Tense Rule,3複現の -s,-th から -s への置換という3つの問題を取り上げ,数あるパラダイムのなかから,なぜ「3単現の -s を唯一の屈折標示としてもつパラダイム」が標準英語に採用されたのかを議論します.そして,現在も世界の英語諸変種に見られる多様な -s の分布に目を向けながら,「正しい英語」という発想を相対化してみたいと思います.たった1文字の語尾に,屈折の水平化,方言接触,標準化,社会的評価といった英語史の主要テーマが凝縮されていることを,皆さんと一緒に味わえればと思います.
 なお,第1章第5節の内容は,NHK出版デジタルマガジンにて無料公開されています(「#6225. 近刊『なぜさんたんげん』の3単現の s を扱った節が公開されています」 ([2026-05-13-1]) を参照).そちらを予習としてお読みいただくと,当日の話がいっそう楽しめるはずです.同じ話題を授業向けにまとめたレジュメとしては「#6258. なぜ3単現にだけ s をつけるのか? --- 教室で使える『なぜさんたんげん』レジュメ」 ([2026-06-15-1]) もどうぞ.
 当日,生田キャンパスで皆さんにお会いできることを楽しみにしています.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-10-05 Mon

■ #6370. 2026年度の「英語史」講義が始まります --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目 [hel_education][hellog][heldio][hellog_entry_set][link][helkatsu][notice]

 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目の1つ「英語史」の秋学期の講義が開講しました.主に専攻の2年生が履修する科目です,今学期は英語史のなかでも特に中英語期以降に注目します.
 今学期の初回講義では,本ブログの記事を組み合わせることにより,改めて英語史の導入を図ります.以下のセクションには多くの情報が詰め込まれていますが,履修生の皆さんは,今回の講義ですべてを消化できなくても,いつでもこの記事に戻ってきてください.一般の hellog 読者の方々も,以下のリンクを通じて,今学期の初回講義を部分的・擬似的に体験できるかと思います.ぜひ以下のリンクを1つひとつたどっていただければ.



1. イントロ
   1.1. 不定冠詞 a と an について: 「#831. Why "an apple"?」 ([2011-08-06-1]),heldio 「#1. なぜ A pen なのに AN apple なの?」
   1.2. 「英語史」講義担当者の紹介: note 「堀田隆一のプロフィール」,heldio 「#1171. 自己紹介 --- 英語史研究者の堀田隆一です」,「#2. 自己紹介」 ([2009-05-01-2])
2. 英語史の世界へようこそ
   2.1. 英語史の魅力4点: 「#4546. 新学期の始まりに,英語史の学び方」 ([2021-10-07-1])
      (1) 英語の見方が180度変わる
      (2) 英語と歴史(社会科)がミックスした不思議な感覚の科目
      (3) 素朴な疑問こそがおもしろい
      (4) 現代英語に戻ってくる英語史
   2.2. 「#4361. 英語史は「英語の歴史」というよりも「英語と歴史」」 ([2021-04-05-1]): 魅力 (2) に通じます
   2.3. 「なぜ英語史を学ぶのか」の記事セット: 様々な角度から「なぜ学ぶのか」を検討してみました(cf. heldio 「#444. 英語史を学ぶとこんなに良いことがある!」や heldio 「#112. 英語史って何のため?」でも取り上げています)
3. 英語に関する素朴な疑問
   3.1. 「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]): 魅力 (3) に通じます
   3.2. 3166件の素朴な疑問
   3.3. これまで hellog で取り上げてきた素朴な疑問集
   3.4. 知識共有サービス「Mond」で英語・言語に関する素朴な疑問に回答しています
   3.5. この講義で Slido (質疑応答サービス)を利用して英語に関する素朴な疑問を募集します(こちらからアクセスしてください)
4. 英語史を日常の風景に
   4.1. 「#5097. hellog の読み方(2023年度版)」 ([2023-04-11-1]): 2009年5月1日より毎日更新している英語史のブログです.この hellog の効果的な使い方の tips をどうぞ.
   4.2. 音声コンテンツ一覧 (heldio & hellog-radio): hellog の音声版というべき Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) .2021年6月2日より毎朝6時に1本10分ほどで英語史の話題をお届けしています.日々の英語史の学びのためにフォローしてください.英語史の話題が日常になります.「#5093. heldio の聴き方(2023年度版)」 ([2023-04-07-1]) および「#5098. 英語史を学び始めようと思っている方へ hellog と heldio のお薦め回一覧(2023年度版)」 ([2023-04-12-1]) も参照.
   4.3. 「#5091. khelf の沿革,活動実績,ミッションステートメント」 ([2023-04-05-1]): khelf HP,公式 X アカウント @khelf_keio,公式 Instagram アカウント @khelf_keio より情報を発信しています.
   4.4. 「#5917. 『英語史新聞』第12号が公開されました」 ([2025-07-09-1]): 世界初の英語史を主題とする新聞の第12号です.
   4.5. 「いのほた言語学チャンネル」(旧「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」): 2022年2月26日より同専攻の井上逸兵先生(英語学・言語学)と一緒に週2回(水)と(日)の午後6時に動画を公開しています
5. 講義の進め方
   5.1. 講義スライド,テキスト,課題,試験,評価
   5.2. 指定テキストは英語史の古典的名著 Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.:「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1])
   5.3. 英語史の読書案内:「#6203. 英語史概説書等の書誌(2026年度版)」 ([2026-04-21-1]),「#4557. 「英語史への招待:入門書10選」」 ([2021-10-18-1]),heldio 「対談 英語史の入門書」
   5.4. 過年度に「英語史」を履修した先輩たちの言葉: 「#5393. 2023年度,1年間の「英語史」の講義を終えて」 ([2024-02-01-1]),heldio 「#974. 1年間の「英語史」の講義を終えて --- 2023年度版」
6. ライヴで寄せられた英語の素朴な疑問に即興で答える「千本ノック」も



 今学期も楽しい英語史ライフを!

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2026-10-03 Sat

■ #6368. 英語史の月刊ウェブマガジン Helvillian の2026年10月号が公開されました [helwa][heldio][notice][helmate][helkatsu][helvillian][link][open_mic]



 なぜフリーレンは Friezen ではないのか.銀行の bank と土手の bank はどこから来たのか.同じ話題に複数の寄稿者が別々の角度から切り込む,そんな響き合いの目立つ号が届きました.有志ヘルメイトによる月刊ウェブマガジン Helvillian 10月号が,9月28日に公開されています.通算第24号となります.創刊から丸2年,素晴らしい継続力です!
 今号も Galois さんによる見出し画像,Lilimi さんによる目次作成に導かれて,本編が始まります.
 トップバッターは ari さんで,寄稿された多数の記事のなかなから7本が目次に上がっています.Don't be quiet. の do の謎に始まり,「フリーレン」をヴェルネルの法則 (verners_law) で読み解く一篇,bank 「銀行」の借用元をイタリア語とフランス語のあいだで考える一篇,on foot や toothbrush がなぜ単数形なのかを問う一篇など,今号も縦横無尽です.
 この「フリーレン」と bank の話題には,ykagata さんと mozhi gengo さんも呼応しています.ykagata さんはドイツ語 frieren の r がかつて s だったという文法的交替の話題を『新訂・中高ドイツ語小辞典』で掘り下げ,ドイツ語 Bank 「長椅子」の語源にも迫っています.mozhi gengo さんは,土手の bank が古ノルド語由来,銀行の bank がフランク語由来であるのに,なぜ古英語由来の bank がないのかと問います.同じ語をめぐって3人の視点が交差するのは,Helvillian ならではの醍醐味です.mozhi gengo さんはほかにも,中動態の行方,ウイスキーやウォッカが「命の水」と呼ばれる理由,yard と garden と「ちゅら海」の関係など,今号も多作です.
 辞典通読勢も着実に歩みを進めています.lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート」は diet, dig, dinner へ.あまねちゃんは通読シリーズを No.11 まで進めつつ,『英語語源ハンドブック』を用いた「日曜日」の語源クイズや,拙著『英語史で解く英文法の謎』に「載りそうで載らなかった」トピックの想像まで,遊び心あふれる5本を寄せています.
 教育の現場からは,sorami さんの中学生向け語源クイズが第16弾から第18弾まで順調に公開されています.みーさんの「小学生と学ぶ英語史」も日々絶好調で,今回目次に上がっているのは water から good までの7本です.川上さんは「時,条件を表す副詞節」で未来のことでも現在形を用いる理由を前後編で論じ,三条市での講座開講も報告しています.kendama_player さんは形態的生産性を整理する記事を寄稿しています.
 ほかにも,Grace さんのトイレ談義の再訪,Lilimi さんの DELF B2 合格の振り返り,しーさんのチャーハンと英語にかけられた「呪い」の話,umisio さんの「伏線回収」論その5,こじこじ先生のオリジナル曲など,多彩な顔ぶれが並びます.巻末は Grace さんによる編集後記で締めくくられています.
 寄稿者の皆さんが各々の持ち場で書き継ぎながら,ときに同じ語をめぐって自然と議論が交差していく.コミュニティとしての成熟を感じさせる号となっています.Helvillian 10月号はぜひ本編でお楽しみください.
 3年目に突入する次号では,どんな響き合いが生まれるのか,今から楽しみです.そして,この hel活の輪に加わりたいと思われた方は,活動拠点となっている Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」を覗いてみてください.

(以下,後記:2026/10/08(Thu))
 Helvillian 10月号のご案内は,声でも「#1957. Helvillian 10月号公開 --- Helvillian 校了後の編集室から」としてお届けしています.ぜひそちらもお聴きください.

[sic]</p><p align="center"><iframe src="https://voicy.jp/embed/channel/1950/8281324" width="618" height="347" frameborder=0 scrolling=yes style=overflow:hidden></iframe></p><p>

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2026-09-25 Fri

■ #6360. 「なぜさんたんげん目撃マップ」の第2次全国制覇達成! --- 3ヶ月の軌跡と奇跡 [notice][nazesantangen][nazesantangen_witness][nhkpb][helkatsu][helmate][outreach][heldio]


「なぜさんたんげん」目撃マップ



 拙著『なぜさんたんげん』こと『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)は,6月10日の発売以来,読者・リスナーの皆さんに支えられて歩んできました.発売直後から呼びかけてきた企画の1つが,「書店で本書を見かけたら,ぜひ目撃情報をお寄せください」という「なぜさんたんげん目撃マップ」です.この3ヶ月間,Voicy heldio ではほぼ毎日のように呼びかけを続け,hellog でも何度か中間報告をしてきました(nazesantangen_witness) の各記事を参照).皆さんから寄せられた書店での目撃情報をもとに,Google Map 上にピンをコツコツと立て続けてきた次第です.
 この目撃マップ企画では,2段階の「全国制覇」目標を設定していました.第1次は,大まかな「地方ブロック」単位(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州・沖縄の8ブロック)ですべてにピンが立つこと,第2次は,より精度の高い「都道府県」単位で47都道府県すべてにピンが立つことです.
 第1次制覇は,「#6271. 「なぜさんたんげん目撃マップ」の第1次全国制覇達成!」 ([2026-06-28-1]) で報告したように,早くも発売2週間で達成していました.このたび,第2次制覇,すなわち都道府県レベルでの全国制覇も達成しましたので,ここにご報告いたします!(実は9月6日の時点で達成していましたので,報告が遅すぎました,すみません.)
 制覇を決定づけたのは,heldio/helwa コアリスナーの umisio さんでした.熊本市のメトロ書店熊本本店に足を運んでくださり,本書が並ぶ書棚を確認してくださいました.これにより,書店の目撃情報が0件だった熊本県に1店が加わり,未達成の都道府県がゼロになりました.発売から3ヶ月というスピードでの第2次全国制覇達成について,著者として率直に驚いています.
 記念すべき9月6日(日)23時30分時点の Google Map データを集計してみました.目撃された書店の数は,全国で137店.内訳を都道府県別・地方別にまとめると,次のようになります.

地方都道府県店数
北海道北海道2
東北青森 1
岩手 1
宮城 2
秋田 1
山形 1
福島 1
関東茨城 4
栃木 1
群馬 3
埼玉 4
千葉 4
東京 26
神奈川13
中部新潟 1
富山 1
石川 1
福井 2
山梨 1
長野 3
岐阜 1
静岡 3
愛知 6
三重 2
近畿滋賀 1
京都 3
大阪 9
兵庫 2
奈良 1
和歌山1
中国鳥取 2
島根 2
岡山 1
広島 2
山口 3
四国徳島 1
香川 1
愛媛 3
高知 1
九州・沖縄福岡 2
佐賀 1
長崎 5
熊本 1
大分 1
宮崎 1
鹿児島2
沖縄 6


 東京都が26店と圧倒的に多く,次いで神奈川県13店,大阪府9店,沖縄県・愛知県が各6店と続きます.一方,青森・岩手・秋田・山形・福島・栃木・新潟・富山・石川・山梨・岐阜・滋賀・奈良・和歌山・岡山・徳島・香川・高知・佐賀・熊本・大分・宮崎の22県は,現時点でまだ1店のみの目撃です.今回,都道府県ごとに1つ以上のピンが立ったことは確認できましたが,密度にはまだこれだけの開きがあります.
 書店の系列別に見ると,次のような分布になっています.

系列店数
紀伊國屋書店23
くまざわ書店21
ジュンク堂書店(MARUZEN&ジュンク堂含む)16
丸善(単独店舗)8
未来屋書店8
三省堂書店6
明屋書店5
大垣書店4
TSUTAYA(ブックエース/ヤマト屋等の併記含む)4
リブロ3
今井書店2
有隣堂2
球陽堂書房2
メトロ書店2
谷島屋2
八重洲ブックセンター2
慶應生協(三田購買部・日吉店)2
九大生協1
文教堂1
宮脇書店1
その他(独立系・単独店)23


 紀伊國屋書店(23店),くまざわ書店(21店),ジュンク堂書店(16店,MARUZEN&ジュンク堂を含む)という大手3系列だけで合計60店となっており,4割強を占めています.一方,「その他」に分類した23店は,知遊堂,廣文館,勝木書店,煥乎堂,書房すみよし,中村興文堂書店など,地域に根ざした独立系書店です.『なぜさんたんげん』が,大手書店だけでなく,こうした街の書店のそれぞれに支えられているということが,今回の目撃マップによってよく分かりました.
 私自身は目下海外に滞在しており,日本の書店の書棚を直接この目で見ることができずにおり,ソワソワしています.そのようななか,これだけの目撃情報が集まったことは,ひとえに本目撃マップ企画,および普段からの「英語史をお茶の間に」の考え方に賛同してくださっている皆さんの,熱心な応援のおかげです.遠方まで足を運んで,熱心に書店の書棚を追いかけてくださったヘルメイトの方々,hellog 読者・heldio リスナーの皆さん,出版社の営業さん,そして本書を書棚に並べてくださっている書店の皆さん,本当にありがとうございます.全国の書店に立っている素晴らしい POP を作ってくださった khelf の藤平桂子さんにも,この場を借りて御礼申し上げます.書店さんに許可を取ったうえで書棚を撮影してくださった,とりわけ熱い協力者の皆さんには,心より感謝いたします.
 さあ,次なる目標は「第3次全国制覇」です.第3次のために特別な数値目標を立てるわけではありませんが,各都道府県のピンの密度をさらに上げていくことが狙いです.とりわけ,1ピンしか立っていないところに複数ピンが立つのを見たいです.「なぜさんたんげん目撃マップ」企画そのものは,引き続き続けてまいります.書店(に限らず,大学図書館,市民図書館,ときには飲み屋やスナックまで!)で本書を見かけましたら,ぜひ heldio のコメント欄などを通じて,引き続き目撃情報をお寄せください.私としても,「英語史をお茶の間に」の hel活・アウトリーチ活動を,これからも一歩ずつ積み重ねていきたいと思います.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-09-24 Thu

■ #6359. continue も content と同根 --- 「継続する」とは「持ちこたえる」こと [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][latin]

 学術アウトリーチに関するキーワードを語源で読み解くシリーズ.昨日の記事「#6358. content 「中身」 --- hel活コンテンツを生み出していくことについて」 ([2026-09-23-1]) で,英単語 content の語源をたどるなかで,ラテン語動詞 tenēre 「持つ,保つ」に行き着いた.今日はこの tenēre つながりで,もう1つの基本語 continue を取り上げたい.
 continue 「続く;継続する」は,同語義のラテン語動詞 continuāre に由来し,フランス語を経由して中英語に借用された語である.このラテン語動詞自体は,より基本的な動詞の過去分詞に基づく派生物であり,おおもとの動詞は continēre (昨日の content の記事を参照),その過去分詞は continuus である.つまり,少しく追加的な派生を挟むものの,昨日取り上げた content/contain と,本日注目している continue とは同根語なのである.実際,『英語語源辞典』によると,14--16世紀においては,continue と contain は,意味はだいぶん異なるように思われるが,しばしば混同されたという.
 continue は,英語に入ってきた当初より「続く;継続する」の意味を持っていた.その点では,中英語期であれ現代であれ,日本語としては「継続する」と翻訳・解釈しておいてかまわない.しかし,ラテン語の原義まで意識すると,ラ・仏・英語に脈々と受け継がれてきた continue の継続観と,日本語の「続く」の継続観とはだいぶん異なっているように思われる.
 日本語の「続く;継続する」は,一度始めた物事を途中で中断せずに長らくつなげていくという語感が強い.さらに現代的な価値観を含めるのであれば,ただ続けるのではなく,常に刷新しながら再生していくという進歩的な語感すらある.日本の諺「継続は力なり」は,このような語感,あるいは道徳観の上に成立しているといってよいのではないか.
 ところが,ラテン語の continuāre なり,さらに基本的な continēre なりは,どちらかというと原義は「持ちこたえる」に近い.変わらず保ち続ける,といった語感だ.
 「続ける」というと,つい何か新しいことを積み重ねながら前進するというイメージを抱きがちだ.特に現代のような変化の時代においては,そのままの持続では足りず,進化しながら継続していくことが重要だと叫ばれる(この考え方は現代日本のビジネス書かぶれかもしれないが).しかし,ラ・仏・英語の continue の語源が伝えるのは,昨日の記事で述べたように,あくまで「雑多な物をバラバラにならないように容器の中にとどめ置く」という発想である.
 英語史のアウトリーチ活動を何年も「続けて」きたが,振り返ってみれば,日々新しいことを付け加えようと努めてきた側面はあるものの,それ以上に重要なこととして,「英語史はおもしろい」という1つの軸に基づいて発信することを,途切れさせずに「持ちこたえる」営みだったようにも思う.

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2026-09-23 Wed

■ #6358. content 「中身」 --- コンテンツを生み出していくことについて [outreach][helkatsu][etymology][latin][conversion][doublet]

 本ブログを始めとする英語史のアウトリーチ活動を続けていると,毎日どんなコンテンツにしようかと悩む.慢性的なネタ切れ状態が続いており,これが解消されることはあまりない.日々,というよりも四六時中ネタ探しをしている感覚がある.日本語では,このように「ネタ」といったり「コンテンツ」といったりするが,前者はテーマに力点があり,後者はできあがった成果物を指すときに使うことが多いように思われる.
 「コンテンツ」というカタカナ語は使い勝手がよい.ブログというメディアだったら「記事」,音声配信だったら「配信回」,動画だったら「動画」などと呼び分けるところを,「コンテンツ」だとひっくるめて表現できるので便利なのだ.ただし,書籍,雑誌記事,ラジオ番組,テレビ番組,映画などの旧メディアの成果物を指して「コンテンツ」という慣用はあまりないように思われる.ウェブを通じて展開される新メディアにふさわしい語感がある.
 このカタカナ語のソースである英単語 content にも「ウェブ・コンテンツ」を指す語義もあるが,もっと一般的に「内容(物)」を指すことができる.注意すべきは,「バッグの中身」や「目次(=本の中身)」の意味で複数形 contents を用いることはよくあるが,多くの用例において不可算名詞として -s なしで使われるのも普通であることだ.上で述べた新メディアの成果物は,英語では contents ではなく不可算名詞的に用いられる content であり,1つ2つと数えたいときには content item(s) のように単位名詞をつけるのが普通だろう.
 さて,content の語源を探ってみよう.ラテン語の動詞 continēre "to hold together" に遡る.「雑多な物をバラバラにならないように容器の中にとどめ置く」というイメージだ.このラテン単語は,動詞としてはフランス語経由で中英語後期に英語に入り,contain となっている(これに -er を付すと container 「容器,コンテナ」となる).一方,同じラテン語動詞の過去分詞に由来するのが,今回注目している content である.英語では16世紀前半に初出している.「なかに含まれているもの」の原義から「内容(物)」を意味するようになった.
 おもしろいのは,同じラテン語形が,英語で「満足した」を意味する形容詞 content をも供給していることである.むしろこの形容詞のほうが,英語での初出は100年以上早い.そこから,この形容詞の品詞転換によって名詞が生まれたのではないかと考えられている.
 しかし,ラテン語のもとの動詞の意味「一緒に保持する」から,名詞語義「内容」が派生することは理解できたとしても,形容詞語義「満足した」についてはどうだろうか.私は調べてみるまでは,「心が良い内容で満たされる」から「満足した」なのだろうとてっきり思っていた.しかし,どうやら事情が異なるようだ.
 ラテン語動詞 continēre には,もう1つ異なる語義があった.「制限する,抑制する」である.容器のなかに納めるということは,閉じ込めて身動きできないようにするということである.対象が物ではなく人だと,分かりやすくなるだろう.その過去分詞の意味は「制限・抑制された」となる.そして,ここがとても重要な意味変化なのだが,「制限・抑制された」とは,ネガティブに見れば束縛された状態だが,ポジティブに見れば「つましくも,それなりに満たされている」状態ともいえる.老子のいう「知足」,すなわち「足るを知る者は富む」という人生観に近い.確かに同じ「満足した」でも,satisfied はストレートだが,content は控えめな満足感である.
 私が毎日のhel活で作り届けているコンテンツについて,自分としては必ずしも満足してないことが多い.もっとよい書き方,語り方があったのではないかと,毎回どこかで物足りなさを感じている.しかし,考えてみれば,この「満ち足りなさ」こそが,次はもっとよいコンテンツを作ろうとする原動力になっているのかもしれない.満足しきってしまわないこと,satisfied ではなく content ほどの満足感で満足することが,継続の秘訣なのかもしれない.

Referrer (Inside): [2026-09-24-1]

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2026-09-22 Tue

■ #6357. 語彙の横の広がりや語順にも注目した出題 --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ第18弾 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][word_order][synonym][voicy][heldio]



 語源というと,1つの単語の来歴をひたすら遡っていく「縦」の探究をイメージしがちです.しかし,意味に注目した類義語の関係など,語彙の「横」の広がりに目を向けることでも,英単語のおもしろさは十分に味わえます.そんな視点を存分に盛り込んだのが,sorami さんによる「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズの第18弾「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#18~train/king/人/語順~」です.9月19日に公開された新作を紹介しましょう.
 まずは train, coach, bus という身近な乗り物の名前をめぐる出題です.単語ごとの語源を丁寧に追うだけでなく,coach と train がそれぞれ別の経路をたどりながら,現代英語ではどちらも「指導者,コーチ」という意味へと収斂していく様子が示されており,語源の縦の深掘りに終始しない,語彙の横の広がりに注目した構成になっています.単語どうしを線ではなく面で捉える視点を養ってくれる好例です.
 続くのは,king にまつわる問題です.「○○の王様」を意味する比喩表現から始まり,さらに視野を広げて,英語,フランス語,ドイツ語など複数の言語における王の名前の対応関係へと話題が及びます.同じ人物を指す名前が言語ごとにどのように姿を変えるのか,という対照言語学的な視点は,中学生にとっても新鮮な驚きとなりますね.
 さらに,person, people, man, human という「人」を表す複数の英単語を比較する問題も用意されています.似たような意味をもつ単語がなぜこれほど複数併存しているのか,その背景には借用の重なりという英語語彙史ならではの事情が潜んでいます.語彙どうしの意味の守備範囲の違いを見極めさせる出題です.
 そして今回最後に控えているのは語順の問題です.世界の諸言語を,主語・動詞・目的語の並べ方によって類型的に比較するという,もはや単なる「英語語源クイズ」の枠には収まらない内容にまで踏み込んでいます.
 英語史において語順に関する話題は最重要テーマの1つです.現代英語は語順が厳格に固定された言語ですが,古英語期には名詞の格変化が豊かだったため,語順は比較的自由でした.屈折語尾が衰退する過程で語順そのものが文法機能を担うようになり,現代のような固定語順が確立していったのです.このあたりの語順をめぐるダイナミックな変化については,拙著英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか(NHK出版)の第1章第1節でも詳しく解説しています.今回のクイズと合わせてお読みください,「英語のなぜ」の背景にある歴史のロマンがより立体的に見えてくるはずです.
 今回もまたまた,作者の sorami さん自ら「授業の小ネタ,ウォームアップ,グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALT の先生を巻き込むのもありですね!」と呼びかけてくださっています.pdf 形式の印刷用資料も用意されていますので,英語の教材として学校の授業やサークルなどですぐにでも活用できます.
 sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年3ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.今年の6月30日には物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.

(以下,後記:2026/09/26(Sat))
 今回紹介した第18弾については,heldio 配信回「#1945. 語彙が横に広がる! --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ・シリーズ第18弾」でも案内していますので,ぜひそちらもお聴きください.



 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-09-21 Mon

■ #6356. 9月26日(土)の朝カル講座「"through" を探って中英語原文の世界へ」 [asacul][notice][kdee][etymology][hel_education][helkatsu][me][me_text][kochushoho][through][hee][spelling][me_dialect][metathesis][doublet]


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 今週末,9月26日(土) 15:30--17:00に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の夏期第3回(通算第18回)となり,夏期クールの締めくくりの回です.今回は「through を探って中英語原文の世界へ」と題して,中英語期の綴字事情を象徴するこの1語に迫ります.
 現代英語の前置詞・副詞 through (#FF5E;を通り抜けて)は,誰もが知る基本語です.ところが後期中英語期の綴字を丹念に集めていくと,驚くべき事実に突き当たります.私が確認した限りで516通りもの異なる綴字が存在するのです.「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1]) で紹介して以来,折に触れて話題にしてきた「515通りの through」ですが,2025年に516通り目の綴字(þurrh)が見つかったことは,「#5738. 516番目の through を見つけました」 ([2025-01-11-1]) で報告した通りです.今回の講座では,この驚異の数字を入口に,中英語期の写字生たちの綴字事情を探ります.through が音位転換 (metathesis) の代表選手とされていることや,<-ough> という綴字を共有しながら発音がまるで異なる though, enough, cough, plough などの仲間たちにも触れる予定です.
 第2のポイントは,through の語源的な仲間たちです.実は through と thorough は同一語源から分かれた2重語 (doublet) の関係にあり,動詞 thrill (原義は「(穴を)貫く」)とも語根を共有します.『英語語源辞典』の各項目を突き合わせながら,この語族のつながりを確認します.
 さらに,語源はまったく異なるものの,through に負けず劣らず異綴字・異形の乱立という運命をたどった単語として borough を取り上げます.-borough, -burg, -burgh, -bury と,地名接尾辞として地域ごとに異なる形を今に残す borough 系との対比を通じて,through の綴字の乱立が中英語期という一時期に集中して噴出し,やがて1つに収束した時間軸の産物であるのに対し,borough の異形は複数の地域方言の違いをそのまま反映して現在まで並存する空間軸の産物であることを見ていきます.
 第3のポイントは,こうした綴字の乱立がなぜ生じたのかという歴史的背景です.1066年のノルマン征服により,英語は公的な書き言葉の座をフランス語に奪われ,長らく話し言葉の世界に押し込められました.13世紀以降,英語が再び書かれるようになったとき,書き手たちは規範となる標準綴字をもたぬまま,各自の「訛った」方言の発音に即して思い思いに綴ったのです.講座では,ノルマン征服から英語の復権に至る略史を年表とともにたどりながら,なぜこれほど自由奔放な綴字が許されたのか,当時の言語事情を探ります.
 講義の後半には,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)の II. The Ormulum より,"Dedication" の冒頭部分を中英語原文で読んでみます.綴字潔癖症ぶりを見せる書き手 Orm の,一風変わった綴字の癖にもぜひ注目してください.講義資料で原文や文法解説をサポートしますので,中英語原文に触れたことがない方でも安心してご参加いただけます.
 講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,今回で夏期クールは最終回となりますが,10月24日(土)からは,秋期クール(全3回)として「歴史上もっとも不思議な英単語」シリーズが継続します.初回は「will を探って中英語原文の世界へ」です.
 また,10月10日(土)には,単発の朝カル講座,拙著『なぜさんたんげん』出版記念の特別講座「英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった!」も開講する予定です.皆様のご受講をお待ちしています.

(以下,後記:2026/09/23(Wed))
 今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1942. 8月22日(土)の朝カル講座は through の516通りの魅力その他をすべて語ります」をお聴きください.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2026-09-18 Fri

■ #6353. medium 「媒体」の語源は「真ん中のもの」 --- アウトリーチ活動における媒体の2つの意味 [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][borrowing][latin][medium]

 私は長らく「英語史をお茶の間に」をモットーに英語史のアウトリーチ活動,「hel活」(helkatsu) を続けてきている.活動を始めた当初は,このブログが事実上唯一の発信の媒体 (medium) だったが,やがて書籍,雑誌,音声配信,動画配信,講演会などの様々な媒体 (media) で発信するようになった.今回は medium という単語の語源に注目してみる.
 この単語は,ラテン語の形容詞 medius 「真ん中の」の中性形が名詞化したものに遡る.つまり「真ん中のもの」を意味した.このラテン単語は,ルネサンス期の16世紀後半に時代に似つかわしく学術用語として英語に入ってきた.幾何学用語として「平均」を,論理学用語として「中名辞」を意味し,堅めの語感をもっていたことが分かる.しかし,時を置かずに,すぐに非学術的な語義が展開していった.「真ん中」「媒体」「(情報伝達の)手段」などである.19世紀にはこの世とあの世を結びつける「霊媒(師)」の語義が加わり,20世紀にかけては新聞・ラジオ・テレビなどの大衆伝達手段が発達するに及んで,特に複数形 media が「マスメディア」を意味するようになった.
 私がhel活で日々頼っている様々な媒体 (media) は,発信者である私と受信者である人々の「真ん中」に立つもろもろの道具である,という見方ができる.しかし,別の見方をすれば,私自身が英語史の世界やその知見と世の中の人々の中間に入って,両者を結びつけようとしている1つの媒体 (medium) として位置づけられることに気付いた(英語史界のいたこか!).
 アウトリーチ活動において,その発信手段をブログにするのか YouTube にするのか,といった第1の意味での媒体について考えることは,もちろん大事である.しかし,どの手段でアウトリーチ活動を行なうかにかかわらず,発信している人自身が,実は第2の意味での媒体なのだ.自分自身が medium であることを認識し,その上で自分に合った media を見つければよいのではないか.ただし,「真ん中」というと華々しいセンターのイメージがあるものの,逆に「中途半端;良くも悪くもない,凡庸な」にも通じるので注意が必要である.
 なお,今回の単語は印欧語根としては *medhyo- に遡り,ここから様々に派生して,amid, middle; mean, mediaeval, median, mediocre, Mediterranean, meridian, intermediate; mse(o)- などの「真ん中」に関する単語が英語語彙に収まっている.

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2026-09-17 Thu

■ #6352. 比較級・最上級 の英語史 --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ第17弾 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][comparison][superlative][voicy][heldio]



 heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる,『英語語源ハンドブック』(研究社)に基づいた英語語源クイズ・シリーズが,隔週土曜日のペースで着実に更新を重ねています.9月5日に公開された最新回は,「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#17~比較級・最上級~」と題する第17弾です.今回は比較級という,英文法の授業で必ず扱われる基本文法事項を切り口にした構成になっています.
 全7問というボリュームです.早速中身に触れてみましょう.冒頭を飾るのは,near と next の語源的な関係を問う問題です.near はもともと nigh「近い」の比較級でした.現代英語の私たちが単純な原級として使っている near は,実は由来をたどれば比較級だったのですね.そして next はその最上級形にあたります.同じ発想は,first と last にも見られます.両語とも,古い時代には別語幹の最上級として機能していたものが,のちに独立した基本語として定着しました.
 中盤では,ラテン語由来の比較級表現に焦点が当てられます.senior や major ,minor ,junior といった語は,形こそ現代英語のなかでは原級のように使われていますが,もとをたどればラテン語の比較級語尾 -ior を伴う正真正銘の比較級です.また,音楽用語として日本語にもすっかり定着している fortissimo や pianissimo は,イタリア語の最上級語尾 -issimo を伴う語形であることも紹介されています.「とても強く」「とても弱く」という意味は,実は文法的には最上級だったというわけです.普段何気なく使っている外来語のなかに,比較級・最上級の化石が埋め込まれているとは,なんとも興味深い話ですね.
 後半では,Health is better than wealth. のような比較級を含むことわざの穴埋め問題や,futon ,hibachi ,satsuma といった,英語にそのまま取り込まれた日本語由来の語彙を扱う問題が並びます.日本語話者にとっては見慣れた単語が英語の辞書にそのまま載っているという事実に,改めて驚かされます.
 そして締めくくりには,「現代の不規則動詞は,かつては規則動詞だった」という,英語史ならではの逆説的な事実に触れる問いが用意されています! 規則・不規則という現代の分類は,あくまで現代英語の断面を切り取った結果に過ぎず,通時的にみれば,むしろ多くの「不規則」のほうが,古い規則性の生き残りであることも少なくないのです.
 sorami さんは今回も,「これからも『英語語源ハンドブック』をもとにした英語クイズを少しずつ投稿していきます.(隔週土曜日更新予定)」と結ばれています.全国の英語教員の皆さん,ぜひこのクイズを授業の小ネタやウォームアップにご活用ください.比較級・最上級という身近な文法事項の背後に,これほど豊かな歴史が眠っているとわかれば,生徒たちの英文法に対する見方もきっと変わるのではないでしょうか.

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-09-15 Tue

■ #6350. routine は「切り開かれた後に踏み固められていった道」 --- 日課ということ [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][french]

 アウトリーチ活動に関連する英単語について語源小咄を展開するシリーズ.hel活として日々 hellog を更新し,heldio を配信する.これはすっかり私の routine 「日課,日常業務」となっている.今回は「ルーチン」として日本語でも使われるようになった英単語の語源に迫る.
 routine は17世紀半ばにフランス語から借用された語で,route 「道,ルート」に接尾辞 -ine が付いた語形成である.route 自体は,さらにラテン語の rupta (via) 「切り開かれた(道)」に行き着く.rupta は動詞 rumpere 「破る,切り開く」の過去分詞(rupture 「破裂」や bankrupt 「破産した」にも同根が見える)であり,route とは,「(森や荒れ地を)切り開いてできた(道)」を意味したようだ.
 今回注目している routine は,この「切り開かれた」道がたどった末路を体現している語と考えられる.当初は切り開かなければならない道だっが,いったん切り開かれると,そこは人々が頻繁に便利に行き交う道に化ける.むしろ,踏み固められた道,決められた道になくのだ.荒々しくも勇ましい原初の rupta の語感が,すっかり牙を抜かれてしまったかのようだ.
 この routine の語源は,日課,そしてそれを身につけることの本質を表わしているように思われる.あることを日課として習慣化することは,道を切り開くがごとき困難を伴う.しかし,一旦最初の困難を乗り越えれば,むしろ水や空気のような存在に近づき,さほどの困難を感じずにこなせるようになる.しかし,だからといって大幅に楽になるかというと,必ずしもそうでもない.半ば自然にできるようになるかもしれないが,おもしろいかどうかば別問題だからだ.ルーチンワークは,えてして,つまらない,味気ない,甲斐がない.踏み固められた道であっても,少なくとも「歩く」ことはしなければならないが,歩く行為はたいていの場合それ自体が愉快なわけでもない.
 私は,いくつかのhel活を日課として定着させようとしてきたが,そのたびごとに最初は道を切り開く困難を感じた.今では踏み固められた道を歩むことができるようになり,ぐんと困難は減ったように思う.しかし,歩みを続けていくこと自体は,それはそれで大変なことである.油断すればすぐに荒れ地に戻ってしまうのではないかという懸念がある.

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2026-09-12 Sat

■ #6347. 10月3日(土),新潟県三条市で川上さんの英語史の市民講座シリーズ開始 [notice][helkatsu][hel_education][sobokunagimon]


市民ゼミ 受講生募集



 この秋,heldio の人気コーナー「やってます通信」でお馴染みのリスナー川上さんが,地元の新潟県三条市にて,英語史をテーマにした市民講座シリーズを開講されます! 中等教育の現場で長らく英語を教えてきた川上さんが,学校の授業では扱いきれない「なぜ?」を存分に語り尽くす全4回の連続講座です.詳細は,川上さんご自身による告知 note 「三条市にて講座を開講します」にも綴られています.
 全4回の構成は,「数字のなぜ」(第1回・第2回),「複数形のなぜ」(第3回),「人称代名詞のなぜ」(第4回)という,いずれも英語学習者なら一度は素朴な疑問を抱いたことのあるテーマが並びます.身近な単語を糸口に,その背後に横たわる英語史の奥深さへと誘う構成になっており,英語がやや苦手な方から,学び直したい大人まで,幅広く楽しめる内容になること間違いなしです.
 講座は,三条市が「市民ゼミ」と銘打っている企画の一環として開催されるます.概要は以下の通りです.

 ・ 日程:10月3日(土)を皮切りに,隔週で11月14日(土)まで全4回,いずれも土曜日 14:30--16:00 の時間帯.
 ・ 会場:三条市中央公民館 講義室
 ・ 受講料:無料
 ・ 定員:30名(応募多数の場合は抽選)
 ・ お申し込み:市民ゼミ 受講生募集より詳細をご確認下さい.明後日,9月14日(月)締め切りですのでお早めにどうぞ!

 三条市民向けの企画ではありますが,居住地を問わず参加できるとのことです.遠方の方でもお申し込みいただけます.
 実をいうと,今回の講座の趣旨や見どころについては,3日前の heldio の対談回にて,川上さんご本人と,市民講座の経験の豊富な kendama_player さんを交えて,たっぷりお話ししています.heldio 「#1928. この秋,川上さんの英語史講座が三条市で」 にて配信中ですので,講座に関心を持たれた方は,ぜひこちらの対談も お聴きいただければと思います.

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2026-09-11 Fri

■ #6346. 「英語嫌い」に英語史が効く理由 --- NHK出版デジマガ・動画公開 [notice][nazesantangen][nhkpb][helkatsu][hel_education][youtube][notice]


NHK出版デジタルマガジン「なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由」



 『なぜさんたんげん』にまつわる新しい発信を2件.9月9日(水)と9月10日(木)の両日,NHK出版より,本書と連動した動画およびその動画に基づいたデジタルマガジン記事が公開されました.タイトルはいずれも「なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由」です.動画は全4回の対談形式で構成されており,お相手は千代田区立九段中等教育学校主任教諭の黄俐嘉先生です.
 今回のプロジェクトで特筆すべきは,プロデューサー,コーディネーター,脚本家,動画編集社,記事編集社,広報担当者――そのすべてを,『なぜさんたんげん』の編集を担当してくださった田中菜乃香さんお一人で担ってくださったという点です.八面六臂のご活躍に,著者として深く感謝申し上げます.今回の狙いは,今まさに英語が苦手な方,あるいはかつて「英語嫌い」だった方に,あらためて英語史のおもしろさを届けることにあります.

 動画は全4回に分かれており,以下よりご視聴いただけます(各5分程度).



 デジタルマガジンの記事は,前半・後半の2本立てで公開されています.

 ・ 前半:なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由
 ・ 後半:なぜ go の過去形は went なの? 英語への向き合い方が変わる,英語史という入り口

 なお,来たる10月10日(土)には,朝日カルチャーセンター新宿教室にて『なぜさんたんげん』出版記念講座も予定されています(詳しくは「#6345. 10月10日(土),朝カルで『なぜさんたんげん』出版記念講座」 ([2026-09-10-1]) をご覧ください).今回の動画・記事とあわせて,1人でも多くの「英語嫌い」だった方に,英語史のおもしろさが届きますように!
 関連して,昨日 heldio にて,今回の動画企画の狙いを田中さんと語り合った対談回[[「#1929. 「英語嫌い」に英語史が効く理由 --- NHK出版田中さんとデジマガ・動画公開記念対談」 も配信しています.デジマガ記事・動画とあわせて,ぜひこちらもお聴きください.

 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-09-07 Mon

■ #6342. 2026度の朝カルシリーズ講座の夏期の第2回(8月回)「riddle を探って古英語原文の世界へ」のまとめ [asacul][notice][kdee][hee][etymology][hel_education][helkatsu][oe][oe_text][anglo-saxon][riddle][kochushoho][alliteration][oe_poetry][metanalysis][trish][rune][ruthwell_cross][alliteration]

 8月22日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の夏期第2回(シリーズ通算第17回)となるオンライン講座を開講しました.テーマは「riddle を探って古英語原文の世界へ」です.「歴史上もっとも不思議な英単語」シリーズの一環として,現代英語で「なぞなぞ,謎」を意味する riddle を手がかりに,英語の読み書き文化の起源と古英語の詩の世界を受講者の皆さんと探訪しました.参考テキストには,引き続き市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を活用しました.
 講座の前半では,まず riddle と read の語源的な深いつながりと語誌に迫りました.両語は同根であり,印欧祖語の *ar(ə)- (合 わせる,整える)に遡ります.古英語の名詞 rǣdels は「助言,考慮,解釈,推測」など実に多義的でした.形態論の観点からは,本来語幹の一部だった末尾の -s が複数形語尾と勘違いされて脱落した「異分析」 (metanalysis) や,派生に伴う母音変化(3音節短化)の事例を確認しました.また,関連語として write (原義は「彫る,刻む」)や book (ブナの木 beech に由来),ゲルマン人の「彫る文字」であるルーン文字 (rune) やスコットランドの Ruthwell Cross の石碑銘文の話題を掲げ,かつてゲルマン人にとって文字を書く行為が物理的な「刻み込み」であり,読む行為が「意味を推測・解釈する」という精神的な営みであったことを浮き彫りにしました.
 講座の後半では,古英詩の形式的特徴である2つの半行構造と「頭韻」 (alliteration) の規則について解説した上で,アングロサクソン人が愛好した「謎詩」 (riddle) というジャンルに焦点を当てました.具体的には『古英語・中英語初歩』の pp. 122--23 に収められている「本の虫,シミ」 (Bookworm, Riddle XLVII) の古英語原文を読解しました.「蛾が言葉を喰らったが,その言葉を飲み込んだところで少しも賢くはならなかった」という,書物の物質性と知恵の受容をめぐるアングロサクソン流のアイロニーとユーモアが効いた作品です.
 次回,夏期クールの最終回(第3回)は,9月26日(土)に「through を探って中英語原文の世界へ」と題して開講されます.かつて516通り以上の綴字が存在したこの単語を軸に,中英語の原文を覗いてみます.
 また,10月10日(土)には特別講座「英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった! --- 『なぜさんたんげん』出版記念」も予定されています.こちらの特別講座の詳細・お申し込みは朝カルの公式ページよりどうぞ.

 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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2026-09-05 Sat

■ #6340. start の原義はただ「始める」のではなく「急発進」 --- 私のアウトリーチ活動はいつでも急発進だった [outreach][helkatsu][etymology][synonym]

 英語史を広める活動,「hel活」 (helkatsu) を展開してきた私自身の経緯を振り返ってみると,「始める」ことの難しさを何度となく実感してきた.
 「始める」を表わす英単語はいくつかあるが,基本語でいえば begin と start の2つがすぐに思い浮かぶ.両語とも古英語でも使われていた生粋の本来語である.ただし,両語が担ってきた語義は当初から異なっていた.「始める」という意味の座を,古くから一貫して占めてきたのは begin のほうである.古英語の動詞 beginnan は,接頭辞 be- と動詞 ginnan 「始める」が組み合わさったもので,接頭辞の機能は当時すでに弱まっており,中立的かつ一般的な「始める」を表わす語として,古英語から現代英語に至るまで安定的に用いられてきた.
 一方の start は,古英語の動詞 styrtan に遡るが,その原義は「始める」ではなかった.もともとは「跳ねる,急に飛び出す,勢いよく動く」を意味する語だった.遡れば印欧祖語の語根 *ster- "stiff" に行き着き,原義は「硬直した,こわばった」である.この語根を共有する他の英単語としては stare, stark, starve など,確かにこわばった語感のものが多い.start は,こわばって固まっていたものが,急に弾け出るイメージの動詞だったようだ.
 start の「急発信」と結びつけられる語義は,現代英語の慣用表現のなかにも残っている.たとえば I started at the sound of thunder. 「私は雷の音にぎくっとした」や She started to her feet. 「彼女はさっと立ち上がった」において,start は急発進のイメージを示している.時代とともに「急」の意味が背景化してきたことは確かだが,今でもこのような表現をみれば原義を思い起こすことができるだろう.なお,関連語 startle「飛び上がらせる,びっくりさせる」も急発進の原義のイメージを現代にまで伝えている.
 学術アウトリーチ活動は,「始めよう」と身構えすぎると,かえって始められないものだと,つくづく思う.考えてみれば,hellog や heldio を始めたときも,事前にあれこれ準備をし,用心を重ねてから始めようとしていた.しかし,十分すぎる準備などそもそも得られないものだ.結局のところ,傍から見ても,自分自身の感覚としても,あれは begin というより start,すなわち「急発進」,もっといえば「見切り発進」だったと思う.
 アウトリーチ活動には,ある程度の準備や計画はもちろん必要だろう.けれども振り返ってみて思うのは,物事は結局のところ「急発進」でしか始まらないものなのではないか.とりわけ新しい一歩を踏み出す挑戦において,覚悟や勇気が求められる場面においては,begin ではなく start にならざるを得ない.Let's begin! ではなく,Let's start! と言っておきたい.

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2026-09-04 Fri

■ #6339. reward 「見返り」が生じるのは,他の誰かが好意的に「見なす」 (regard) から --- 2重語の例 [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][doublet][french]

 英語史を広めるアウトリーチ活動を展開しているが,その「見返り」は何か.もちろん,英語史がお茶の間に広がっていくことが,そのまま私にとってのご褒美となるのだが,それは中長期的な話しである.短期的にはどうだろうか.あるいは,より個人的な報酬は得られるのか.この問題と関連して,今回は「報酬,報い,見返り」を意味する英単語 reward に注目してみたい.
 reward の語源を遡ると,この語はまったく意外な単語と2重語 (doublet) の関係にあることに気づかされる.その相手とは,regard 「見なす,評価する」である.すなわち,起源をたどれば同一の語幹に行き着くにもかかわらず,別々の経路を通って中英語期に個別に借用され,異なる形態・意味に分化した2語である.具体的には,regard は中央フランス語から,reward はノルマン・フランス語から中英語期に,(部分的には関連づけられながらも)それぞれ独立して英語へ入ってきた.
 形態的な分化の背景には,ノルマン・フランス語と中央フランス語のあいだの音対応がある.ノルマン方言はゲルマン語的な /w/ 音をよく保持していたのに対し,中央フランス語ではこれが /g/ 音へと変化した.同じ対応は war と guerrilla (「戦争」を意味するフランス語 guerre に指小辞のついたもの)や,ward と guard (いずれも「守衛」)の対にも見て取れる.英語は,この2つのフランス語方言由来の語形をしばしば両方とも取り込み,意味を分化させることで語彙を豊かにしてきた.
 では,意味の方はどう分かれていったのか.いずれの語も動詞と名詞の用法があるが,regard は動詞としてはほぼ原義通り「じっくり見る,見なす,評価する」という語義を保持してきた.一方,reward は名詞として,まず「見なし,評価」を意味したが,そこから「好意的に」というプラスの価値観が付け加わった.意味の良化 (amelioration) の例といってよい.さらに,「好意的な見なしに対するご褒美」,つまり「報い,報酬」へと意味の特殊化 (specialisation) も経た.今日私たちが「見返り」と呼んでいるものの原義は,突き詰めれば「好意的なまなざしを向けられること」だったのである.日本語の「見+返る」と英語の「re- + ward/gard」の語形成もとてもよく似ている.
 この語源をアウトリーチ活動に重ねてみると,なかなか示唆に富む.アウトリーチ活動における reward 「見返り」とは,本来,金銭的な対価というより,「好意的に見なされること」それ自体だったのではないか.今日の私たちが身近に受け取っている「見返り」は,考えてみれば,日々の SNS 上の「いいね」なのかもしれない.この語源に照らして考えれば,reward の本質は「どう見なされるのか」にこそある.

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2026-09-01 Tue

■ #6336. professional とは何を profess 「公言する」人か? [outreach][helkatsu][etymology][semantic_change][borrowing][latin]

 英語史のアウトリーチ活動を続けていると、自分自身の肩書きについて考えさせられることがある.私は英語史の研究者であり専門家である.専門家といえば,英語では professional であり「プロ」だ.
 professional 「専門職(の)」は名詞・形容詞ともに profession 「専門職」から派生した語だ.遡ればラテン語の動詞 profitērī 「公言する,公然と述べる」に行き着く.pro- 「前へ,公然と」と fatērī 「認める,述べる」(fārī 「話す」に由来)の組み合わせであり,字義通りには「前面に出て言い表わす」という発想である.英語の動詞 profess も同根に遡り,語義はやはり「公言する」である.
 後期中英語期にフランス語を経由して英語に借用された profession(al) の最初期の語義は,「(信仰を公言して)修道会に正式に入ること,誓願を立てること」という,きわめてキリスト教的なものだった.修道士・修道女になるとは,信仰を人前で「公言する」ことにほかならなかった.つまり,かつての profession とは,職業的聖職者になる誓いそのものを指した.
 この宗教的な語義はやがて世俗化し,中英語末から近代英語期にかけて,神学・法律・医学という「学識ある専門職」を指すようになる.さらに後期近代英語期には形容詞 professional が「その道を生業とする」の意で確立し,対義語 amateur 「愛好家」(ラテン語で「愛する」を意味する動詞 amāre と語根を共有)との対比のなかで,現在おなじみの語感が定着していった.
 こうして語史をたどってみると,professional の根底には,「公言する」という行為があったことがわかる.「プロ」とは,単に生計を立てる手段であるだけでなく,「自分はこれを専門とする者だ」と社会に向けて宣言する行為でもあったのだ.アウトリーチ活動という文脈に立ち戻るならば,専門家が自らの専門性を看板に掲げ,それを広く外へ表明していく営みこそが,professional の語源に忠実な姿ともいえる.

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2026-08-30 Sun

■ #6334. 英語史の月刊ウェブマガジン Helvillian の2026年9月号が公開されました [helwa][heldio][notice][helmate][helkatsu][helvillian][link][nazesantangen][helvillain_heal][open_mic]



 有志ヘルメイトによる月刊ウェブマガジン Helvillian 9月号が,8月28日に公開されました.通算第23号となります.
 今号は,Galois さんによる秋の涼しさを感じさせる見出し画像とともに,早速本編の寄稿ラインナップが始まります.
 今号も圧倒的な記事量を誇る ari さんからスタートです.犬に絡めたシリウスの話題に始まり,ベルギーの街ブリュッヘと結びつけた英語史のネタ,チーズフォンデュをめぐる一件(タイトルからは何のトピックか分かりませんが,そこは読んでのお楽しみ)など,いつもの通り縦横無尽です.拙著『なぜさんたんげん』と関連付けた記事や,heldio や Helvillian に注目したファンサイト「Helvillain Heal」を公開されたとの報告までなされ,まさに八面六臂のhel活振りです.
 mozhi_gengo さんは今号でも多作です,迂言的な do の文法化から,turnstile と urchin の語源,ヴェルネルの法則とグリムの法則を絡めたヒンディー語探訪まで,比較言語学的な視点が冴えわたっています.「青椒肉絲の美味しい店」と関連づけたトピックも要注目です.
 辞書通読勢も健在です.lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート」は D ゾーンの dice, dictionary, die まで到達しています.あまねちゃんはこの1ヶ月で通読ノートを第6弾から第9弾まで一気に4本更新し,ひそかに同辞典の「読み解き」にまで手を広げています.August の語源を遡る回や古英語 guma に迫る回も見逃せません.
 教育現場からは,sorami さんの中学生向け語源クイズが第14弾,第15弾を数え,和製英語や不定冠詞 a/an,interested と interesting の使い分けといった実践的なテーマを取り上げています.みーさんの「小学生と学ぶ英語史」も引き続き絶好調で,kendama_player さんも英語史におけるヴァイキングの位置づけに関する仮説の紹介や,服部義弘先生への heldio オープンマイク企画の予告など,教育と研究の橋渡し役を果たしてくれています.
 ドイツ語と英語史の定点観測を続ける ykagata さんは,rain と salad の語源記事に加え,連載「『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語」が開始から1年を迎えたことを報告しています.ドイツ語 gleich 「同じ,すぐに」と英語 alike が同語源であること,そして Zum Wohl 「乾杯」の Wohl と古英語 Wes hal 「乾杯」の hal が実は別語源だという指摘と考察は刺激的でした.川上さんは「英語と歴史」シリーズを続けられ,「英語のなぜ」やってます通信も積み重ね,地道な連載の強みを見せつけています.
 Grace さんは festival という語の成り立ちと「花子」の記号論を論じ,Lilimi さんは仏検準1級の2次試験を振り返り,しーさんは「1000年前にタイムトラベルするなら何を持っていくか」というユニークな視点から「たべっ子どうぶつ」を語り,佐久間さんは梅毒がかつて「フランス病」と呼ばれた歴史を紹介するなど,語学と歴史のはざまを行き来する寄稿が並びます.こじこじ先生の3篇のオリジナル曲も,今号に彩りを添えています.
 umisio さんは今号も多く寄稿しています.学校教育での英語史導入の可能性を論じた記事に始まり,「伏線(未)回収」論シリーズも展開しています.酷暑のなかで頻発する「ボケ」への対処法を熱く語る一篇も,umisio さんらしい肩の力の抜けた味わいです.巻末は,Grace さんによる「あゆみ(2026年9月)」と,umisio さんによる「編集後記(2026年9月)」で締めくくられています.
 今号もまた,寄稿者それぞれの視点から英語史の奥深さを味わえる充実の号に仕上がっています.ぜひ Helvillian 9月号をじっくりとお楽しみください.そして,この hel活の輪に加わりたいと思われた方は,ぜひ Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」へお越しください.

(以下,後記:2026/09/02(Wed))
 今回紹介した Helvilian 9月号については,heldio 配信回「#1921. Helvillian 9月号公開 --- Helvillian 校了後の編集室からで,編集委員のお2人が直々に紹介していますので,ぜひそちらもお聴きください.


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2026-08-29 Sat

■ #6333. 学術 outreach 活動には share が似合う [outreach][helkatsu][etymology][semantic_field][semantich_change]

 「#6324. アウトリーチ活動とは何か? --- 英単語 outreach の発展」 ([2026-08-20-1]) で触れたように,私や周囲の人々による「英語史をお茶の間に」の活動,通称「hel活」 (helkatsu) は,英語史という学問分野に関するアウトリーチ活動である.
 学術的な話題に関するアウトリーチ活動の根幹には,share 「シェア」の発想があるのではないかと,私は考えている.share は「分け前,取り分」という名詞であるとともに「分ける,分かち合う,共有する,共に用いる」を意味する動詞でもある.アウトリーチの文脈で「知識や知恵のシェア」という場合には,日本語の「お裾分け」の語感が近いように感じている.
 share の語源を遡ると,おおもとは印欧祖語の *(s)ker- "to cut" にたどり着く.そこから,「切り分ける;切り分けられた断片」ほどに語義が展開し,現代的な名詞や動詞の意味に到達した.同音異綴字異義語の shear 「大ばさみ(で刈る)」も同根である.
 ただし,おもしろいことに古英語 sċearu は「刈り込み;剃髪」などの比較的特殊な意味で,現代的な「分け前,シェア」的な語義が発達するのは中英語期になってからのことだ.私たちが注目しているアウトリーチに直接関連する語義は,それなりに新しいものということになる.
 では,古英語では「分け前,シェア」という「意味の場」は存在しなかったのかといえば,そうでもない.別の単語 dǣl (名詞)や dǣlan (動詞)がその意味を担っていた.現代でいうところの deal である.この語は現代では「取引;取り扱い」の語義が前面に出てきている感があるが,原義ははほぼ share と重なるといってよい.語根も share とは異なるとはいえ,印欧祖語 *dail- "to divide" に遡るとされ,ここにはやはり「分け与える」の発想が入っている.中英語以降,名詞も動詞も独自の語義を発展させて現代に至るが,原義に比較的近いところを残しているものとして dealer 「(トランプのカードを)配る人」,a great deal of などの表現における「一部,部分」を挙げておこう.なお,「取引」関連の語義の発達は,取引や交渉というものが,2者が同じ目的を共有する作業だからだろう.
 ここまでのところを考えると,古英語で deal が担っていた意味の場を,中英語では share が担当するようになった,という風に見える.そして,この英語本来語ペアの動きに介入して来ているように見えるのが,ラテン語由来にしてフランス語経由で中英語期に借用されてきた part という単語だ.「分け前;一部」といった先の2語と共通する語義を持っており,語根こそいずれとも異なるが,起源を遡ると印欧祖語 *perə "to grant, allot" に行き着く.根本的な発想はここでも「分け与える」なのだ.現代英語で part の関連語としては,participate 「参加する」や partake 「参加する;共にする」にその原義が感じられる.
 share, deal, part の3つの基本語は,英語史を通じてそれぞれ守備範囲を調整しながら現代まで生きながらえてきたわけだが,いずれも発想の根幹に共通のものがあるのがおもしろい.アウトリーチ活動と相性のよい「お裾分け」系の語彙を構成している.
 関連して,hellog 「#4941. partner と parcener」 ([2022-11-06-1]) および「#524. deal と part のイメージは「分け与えて共有する」」を参照.

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