
3月5日に第4回英語史大喜利 (hel_ogiri) をX上で開催しました.今回は,音位転換 (metathesis) の例を寄せてくださいというお題でした.正規の並びの2つの音が,言い間違いの結果ひっくり返ってしまったものの,その並びが後に標準的になってしまったという「嘘から出た誠」のような事例です.言い間違いという人間の避けがたい性質によって新たな語形が生まれてしまうというのは,共感を誘うののか,言語変化のなかでも人気のあるトピックです.
しかし,だからといって面白い例,上手い例がたくさん挙がってくるかといえば,そう簡単なお題でもありません.典型的で教科書的な例はいくつか挙がってきますが,その後が続かないものです.私も大喜利に参加したのですが,限界を感じました.しかし,多くの参加者がもがきながら例を探し,リプライや引用リポストを通じてそれをシェアしてくださったおかげで,おもしろいものが続々と寄せられてきました.以下に,まとめておきたいと思います.
・ aks/ask
・ beorht → bright
・ brand/burn
・ brid → bird
・ cocodrile → crocodile
・ fersc → fresh
・ forst → frost (cf. freeze)
・ gærs → grass
・ hros → horse
・ iern(an), yrn(an) → run
・ mansk → Manx
・ nutrition, nutriment/nurture
・ patron → pattern
・ purpose/propose
・ tax/task
・ three/third
・ thirl → thrill
・ þurh → through
・ wæps → wasp
・ wal (whale) + ros (horse)
・ worht(e) → wrought (cf. work)
crocodile に関しては「#5999. crocodile の英語史 --- 『シップリー英語語源辞典』の意外な洞察」 ([2025-09-29-1]) を参照してください.
なお,最初に寄せられた投稿は,り~みんさんによる以下の複雑な事例でした.
lamella (ラテン語)
↓ 借入
la lemelle (フランス語)
↓ 異分析
l'alemelle
↓ 接尾辞(指小辞)の交替
l'alemette
↓ 音韻転換 ★ココ★
l'amelette
↓ 母音変化
l'omelette
↓ 借入
omelette (英語)
本記事と同じ趣旨で,3月14日の heldio にて「#1749. 音位転換大喜利 --- たくさん集まってきました」をお届けしましたので,ぜひそちらもお聴きいただければ.
2月28日(土)に,今年度の朝日カルチャーセンターのシリーズ講座「歴史上もっとも不思議な英単語」の第11回(冬期クールとしては第2回)が開講されました.今回注目した単語は「that --- 指示詞から多機能語への大出世」です.
現代英語における that は,指示詞,関係詞,接続詞をはじめとする様々な文法的な役割を果たす多義語です.多くの機能はすでに古英語にもみられますが,各々の機能はどのようにして起こり,発展してきたのでしょうか.超高頻度の単語でもあり,いちいち気にしたこともないと思いますが,今回あえて注目し,歴史的発展を追いかけてみました.講義は,that の八面六臂の活躍の秘密に迫る濃密な90分となりました.
朝カル講座第11回の内容を markmap によりマインドマップ化して整理しました.復習用にご参照いただければ.

なお,この朝カル講座のシリーズの第1回から第10回についてもマインドマップを作成してるので,そちらもご参照ください.
・ 「#5857. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第1回「she --- 語源論争の絶えない代名詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-05-10-1])
・ 「#5887. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第2回「through --- あまりに多様な綴字をもつ語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-06-09-1])
・ 「#5915. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第3回「autumn --- 類義語に揉み続けられてきた季節語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-07-07-1])
・ 「#5949. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第4回「but --- きわめつきの多義の接続詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-08-10-1])
・ 「#5977. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第5回「guy --- 人名からカラフルな意味変化を遂げた語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-09-07-1])
・ 「#6013. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第6回「English --- 慣れ親しんだ単語をどこまでも深掘りする」をマインドマップ化してみました」 ([2025-10-01-1])
・ 「#6041. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第7回「I --- 1人称単数代名詞をめぐる物語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-11-10-1])
・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
・ 「#6098. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第9回「one --- 単なる数から様々な用法へ広がった語」をマインドマップ化してみました」 ([2026-01-06-1])
・ 「#6139. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第10回「very --- 「本物」から大混戦の強意語へ」をマインドマップ化してみました」 ([2026-02-16-1])
次回の第12回は3月28日(土)で,今年度の最終回となります.テーマは「be --- 英語の「存在」を支える超不規則動詞」です.開講形式は引き続きオンラインのみで,開講時間は 15:30--17:00 となります.ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の公式HPより詳細をご確認ください.
また,2026年度も朝カルでの英語史講座を継続します.シリーズとしての大テーマも2025年度の「歴史上もっとも不思議な英単語」を引き継ぎますが,新たな試みとして,新刊書『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を参照し,古英語や中英語の原文に挑む機会を増やしていく予定です.詳細はこちらの公式ページよりご覧ください.

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昨日3月13日,大修館書店より月刊誌『英語教育』の4月号が発売されました.今月号より,同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)とともに,新しい連載企画「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点」が始まっています.
本連載は,2人で配信している YouTube 「いのほた言語学チャンネル」から派生した連載企画です.早いもので YouTube での活動も4年を超えましたが,動画でお届けしてきた言葉のダイナミズムや楽しさを,今度は誌面を通じてもお届けしたいと考えています.
連載の趣旨としては,英語教員の方々はもちろん,英語を学ぶすべての読者の皆さんに,社会言語学と英語史という2つのレンズを通して,英語という言語の奥深い魅力を再発見していただくことにあります.見開き2ページというコンパクトな形式ですが,2人の対談回もあれば,片方がトピックを提供してもう片方がコメントを寄せる回もあるなど,バラエティに富んだコンテンツとなっていく予定です.
第1回は「言語学・英語学の世界にようこそ」と題し,2人の自己紹介とともに本シリーズの狙いについてお話ししています.社会言語学がどのように私たちのコミュニケーションに関わるのか,あるいは英語史がいかにして現代英語の「なぜ?」に光を当てるのか,そのエッセンスを詰め込みました.
また,「いのほた」コンビによる出版物としては,昨年10月に『言語学でスッキリ解決! 英語の「なぜ?」』(ナツメ社)も刊行されています.こちらも連載と合わせてお読みいただけますと幸いです.
英語という言語を,単なる暗記の対象としてではなく,人間が作り上げてきた生き生きとした文化装置として捉え直す.そんな知的な冒険を,毎月の連載を通じて読者の皆様と共有できればと願っています.
新年度にむけて,英語(史)の世界を深めていきたいという方は,ぜひ毎月13日前後の『英語教育』の連載をお見逃しなく!
・ 井上 逸兵・堀田 隆一 「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点 第1回 言語学・英語学の世界にようこそ」『英語教育』2026年4月号,大修館書店,2019年3月13日.42--43頁.
・ 井上 逸兵・堀田 隆一 『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』 ナツメ社,2025年.
2月25日に刊行された『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を,この1ヶ月半ほど推しに推しています.本書に関する研究社の公式HPには,本書の内容,目次,試し読みコーナーなどが設けられていますが,ページの下方には「関連記事」や「関連書籍」の案内もあります.本書を手に取る多くの方は広く英語史に関心があるのではないかと思われますので,これらはたいへん有用な情報となるはずです.
とりわけ「関連記事」の1つめとして挙げられている「英語史関連書籍の一覧をアップしました」(2月27日付けで公開)はお薦めです.そのリンク先からダウンロードできる PDF ファイルには,研究社から刊行されている15冊の英語史周辺書籍の一覧が収められています. *
この一覧は,広報の一環として研究社がまとめられたものですが,実はここには khelf(慶應英語史フォーラム)のhel活が関わっています.昨年9月13日に,khelf(慶應英語史フォーラム)および helwa の主催する音声配信イベント「英語史ライヴ2025」が開催され,おおいに盛り上がりました(cf. 「#5984. 昨日の「英語史ライヴ2025」おおいに盛り上がりました!」 ([2025-09-14-1])).イベント当日は,書籍展示のために研究社の担当の方々に会場にお越しいただいたのですが,イベントに先立って,展示するにふさわしい英語史関連書を選別すべく,khelf の大学院生メンバーも準備に関わっていたのです.英語史を専攻する大学院生の目利きが入っており,私自身も事前に確認させていただいた,その書籍の一覧がイベントで配布されたという次第です.
さて,このたび『古英語・中英語初歩』がめでたく新装復刊となりました.この機会を捉えて,半年前に準備されたあの一覧を再利用できないかと思い立ち,研究社の担当に打診したところ,このような形で公開されるに至ったという次第です.
なお,一覧に含まれている書籍のうち5冊については,khelf のメンバーを中心とする英語史を専攻する学徒たちが,Voicy heldio でその内容を紹介する「声の書評」 (voice_review) という新しい企画を,「英語史ライヴ2025」にて実施しました.その配信回はアーカイヴとして残っていますので,以下の hellog 記事を経由してお聴きいただければと思います.
・ 「#6005. khelf の新たなhel活「声の書評」が始まりました --- khelf 藤原郁弥さんが紹介する『市河三喜伝』」 ([2025-10-05-1])
・ 「#6006. 声の書評 --- khelf 木原桃子さんが紹介する『英語文化史を知るための15章』」 ([2025-10-06-1])
・ 「#6007. 声の書評 --- khelf 寺澤志帆さんが紹介する『聖書の英語の研究』」 ([2025-10-07-1])
・ 「#6008. 声の書評 --- khelf 泉類尚貴さんが紹介する『コーパスと英文法』」 ([2025-10-08-1])
・ 「#6012. 声の書評 --- 小河舜さんと khelf 疋田海夢さんが紹介する『英語固有名詞語源小辞典』」 ([2025-10-12-1])
選ばれた英語史関連書籍の一覧です.英語史の学びのために,ぜひご利用ください.一覧へのアクセスはこちらのページよりどうぞ.

先月,2026年2月は,知識共有プラットフォーム mond に寄せられた10件の問いに回答しました.今月も英語史の奥深さを感じさせる鋭い質問が並び,回答する側としても知的な刺激を多くいただいた1か月となりました.
2月の回答を振り返ってみると,話題や分野が多岐にわたっていました.音韻論,形態論,統語論,語用論,語彙論の問い,そして他言語との比較対照から生じた疑問等が寄せられ,多様で刺激的な問答となりました.とりわけ音韻論と形態論が関わる語形成の話題が多かったように思われます.
以下に2月分の10の問いと,対応する mond の回答へのリンクを時系列で示します.未読のものがありましたら,英語史の読み物として楽しんでいただければ.
1. foremost, hindmost の most はなにゆえ後ろについているのでしょうか?(2月3日)
2. 2人称代名詞の親称 thou と敬称 ye の使い分けがまだ健在であった時代の英語では,キリスト教の神に言及するときには thou と ye のどちらを用いましたか?(2月5日)
3. 「ねる」が「ねんね」になるように頭の1音を2回くりかえすタイプの名詞は英語にはありますか?(2月8日)
4. 研究社『英語語源辞典』にて.dusk 「黄昏」の項を引くと,ME dusk(音位転換) < OE dox < Gmc *duskaz と書いてありました.これってつまり,二重に音位転換が起こって,ひっくり返ったものがさらに元へ戻ったということなのでしょうか? 1回の音位転換はよく聞かれますが,2回連続というのはすごく珍しい例なのではないでしょうか!?(2月13日)
5. 英語では語末の -ng, -mb の g, b が発音されず鼻音だけになっていますが,-nd もいったんは [n] だけになりゆりもどした感じですか?(2月15日)
6. ドイツ語では名詞 + -ig による形容詞に -en をつけて動詞化することができますが,英語の名詞 + -y ではできません.これはドイツ語が拡大的であるのか,英語のほうだけ廃れたのかどちらなのでしょうか?(2月17日)
7. なぜ英語では直説法,仮定法ぐらいしか「法」とつくものがないのでしょうか?(2月19日)
8. ma'am は2つの a の間の d が脱落した語形ですが,英語は母音の間の d は明瞭に発音する言語のはずです.この d の脱落した語形の変則性について歴史的に解説をお願いします.(2月21日)
9. Say は say that SV や say "~" のように発言内容を目的語にとることができますが,say me のように人を目的語にとることはできません.したがって,人を主語にした受動態の文は作れないことになります.しかし,「~だと言われている」という意味で,S is said to V という表現は許容されています.例:She is said to be a nurse. 「彼女は看護師だと言われている.」 これはなぜでしょうか.(2月23日)
10. people が person の複数形の単なる代用になったのはいつですか?(2月25日)
とりわけ印象的だったのは,4番目の dusk における2重の音位転換 (metathesis) に関する質問です.ゲルマン祖語の *duskaz が古英語までに dox と音位転換を起こし,さらに中英語以降に再び dusk へと音位転換するプロセスは,一見すると元に戻ったようで,珍しい例と考えられるかもしれません.しかし,回答では,実際にはそれほど珍しいことではないことや,言語の変化と変異の複雑さにも言い及びました.実際,この問答を紹介した X 投稿10問のなかで最も多くの反響をいただきました.この問答からは,言語変化の機微に関する議論が発展し,heldio にて「#1731. 定説は受け入れるのではなく受け止める,そして定説の根拠を学べ」や「#1730. 「A→B」という言語変化の矢印のなかを覗き込むと,そこは魑魅魍魎のうごめく世界」をお話するに至りました.ぜひそちらもお聴きください.
また,2番目の神に対して thou と ye のいずれを用いたのかという問題も,英語史における代名詞の親称・敬称の歴史を考える上で欠かせない論点で,関心が集まりました.
7番目の,英語における「法」の少なさに関する質問も注目を集めました.他言語の観点から英語をみると,質問の幅も広がっておもしろいですね.

先日2月28日(土),英語史の周囲に集まる有志による月刊ウェブマガジン Helvillian 3月号(第17号)が公開されました.春の足音を感じる今号も,圧倒的なボリュームと多角的な視点が詰まった1冊となっています.
今号の「1. 表紙のことば」は,私,堀田が担当させていただきました.滞在先の国際都市メルボルンを流れるヤラ川の早朝の風景です.多言語社会に暮らしてみて感じたことを綴っています.
続く執筆陣はいつものように豪華です.「2. ari」さんは,2月の季節感あふれるクイズや,AI を駆使した最新の英語教育ツール,さらに偽装複合語 holiday をめぐる話題まで,八面六臂の活躍.シリーズ記事も多く,いつもどこからネタを探してくるのかと不思議なほどですね.
「3. Grace」さんは,文字論の本を読みながら思いついたという悪名高い(?) literal 周辺の語彙を散策し,「4. lacolaco」さんの「英語語源辞典通読ノート」は D ゾーンを着実に進んでいます.
インド短期滞在の報告が楽しみな「5. mozhi gengo」さんは,現地の動物園事情から古英語の2月の呼び名 Solmonað,そして『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』の表紙デザインから受けたインスピレーションまで,驚くべき守備範囲の広さを見せています.
新連載や教育現場からの報告も充実しています.「6. sorami」さんによる中学生向け語源クイズは,ヘルメイトによるこの1ヶ月のhel活のなかでも大ヒットといってよいでしょう.「11. みー」さんの1月からシリーズ化が始まっている「小学生と学ぶ英語史」は,次世代に英語史や英語語源の楽しさを伝える素晴らしい試みです.「10. こじこじ先生」による英検と入試の現実的なアドバイスを含め,Helvillian 周りの活動はついに広い意味でのhel活は小中高のすべてをカバーするに至っています.「7. umisio」さんの「日曜研究」シリーズは,教科書・教育問題へ切り込んでおり,筆が止まりません.
「8. ykagata」さんの独英語比較シリーズは,safe や take などの基本語を扱うことが多いですが,そのほか総選挙の報道やラジオ放送の改編といった時事ネタも積極的に取り上げています.「9. あまねちゃん」さんは,note 初投稿ながら,景気のよい Wes hal! の話題などでインパクトを与え始めています.
「12. り~みん」さんの「千本ノック」論は,私が千本ノックを通じて何をしてきたのか,自分でも意味が分かっていなかったことに,1つのヒントを与えてくれた記事でした.「13. 佐久間」さんの歴史から見た生成AI論も,読み応えがあります.今こそ読んでおくべき記事ですね.
「14. 川上」さんは,英語史を硬派に攻める急先鋒ですが,今回はレギュラーの「やってます通信」のほかラテン語の流入を歴史的背景とともに前・後編で詳述しています.「15. 堀田」のセクションでは,メルボルンでの「開封の儀」や「英語史の塔」建設について触れています.
最後は「16. Grace」さんによるこの1ヶ月の helwa 活動報告と「17. umisio」さんによる編集後記です.編集委員でもあるお2方の3月号の総括が,なんともおもしろい.2月を通じて,皆でhel活を走り抜けてきたことがよくわかる締めとなっています.
今月も,寄稿者各々の英語史愛が爆発した号となっています.ぜひじっくりとお読みいただければと思います.
hellog 読者の皆さんも,このようなhel活コミュニティに加わってみませんか? ご関心のある方は,ぜひ気軽にプレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」においでください.毎週火・木・土の午後6時に,heldio と変わらぬ熱量でお会いしましょう!
2月16日(月)に私の X アカウント @chariderryu にて,第3回英語史大喜利 (hel_ogiri) を開催しました.今回のお題は,おもしろい偽装複合語 (disguised_compound) を寄せてくださいというものでした.ちょうど『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』のカウントダウン企画「古中英語30連発」の No. 22 として「daisy 「ヒナギク」の語源が古英語の dæges ēage "day's eye" だと知っていましたか?」と投稿した直後に,今回の大喜利も開催しました.
大喜利開催の協力者でもある heldio/helwa リスナーの ari さんのユーモラスな入れ知恵により,今回の大喜利は,遊び心を込めて「ごん,お前だったのか」選手権と命名されました.ネタ披露のフォーミュラとして,次の「ごん構文」が X 上に飛び交いました.
・ Daisy 「ごん,お前… Day (日) の Eye (目) だったのか…」
過去2回の大喜利に比べ,かなり難易度の高いお題でしたが,英語語源の猛者たちが多くの良質な例を寄せてくださいました.いつものように私の独断と偏見で,おもしろかったもの,勉強になったものをいくつか掲載します.
・ Gospel 「ごん,お前… Good (良い) Spell (知らせ) だったのか…」
・ Curfew 「ごん,お前… Cover (消す) Fire (火) だったのか…」
・ But 「ごん,お前… By (そばに) Out (外に) だったのか…」
・ About 「ごん,お前… On (上に) By (そばに) Out (外に) だったのか…」
・ Kitchen 「ごん,お前… Cook (料理する) の -ina (場所) だったのか…」
・ Don 「ごん,お前… Do (する,置く) の On (上に) だったのか…」
・ Lapwing 「ごん,お前… Leap (跳ねる) Wink (ウィンク) だったのか…」
・ Answer 「ごん,お前… And (に対して) Swear (誓う) だったのか…」
・ Worship 「ごん,お前… Worth (価値) -ship (があること) だったのか…」
・ Chameleon 「ごん,お前… Khamaí (地を這う) Léōn (獅子) だったのか…」
・ Zebra 「ごん,お前… Equus (馬) Ferus (野生) だったのか…」
・ Giraffe 「ごん,お前… Zurnā (ラッパ) Pāy (足) だったのか…」
・ Pyjamas 「ごん,お前… Pāy (足) Jāma (服) だったのか…」
・ Philip 「フィリップ,お前… Philéō (好き) Híppos (馬) だったのか…」
・ Barn 「ごん,お前… Bere (大麦) Ærn (家屋) だったのか…」
そして,ari さんが,まさかの掟破りのフォーマットで11連発.
その bridal は eleven の決まりがあった.11時,neighbor の Marshal が alarm を鳴らすと,一匹の squirrel が vinegar と garlic 塗れの handkerchief を奪い去った.この dismal な光景こそが,求婚に対する彼女の明確な answer だった.
こんなにたくさん例が集まるとは! ぜひ英単語語源学習とボキャビルにご活用ください.
皆さんから寄せていただいたのは,大部分が英語からの例でしたが,以下は寄せていただいた日本語からの例です.日本語を主とすると大変なことになりそうですね.
・ 聖(ひじり) 「ごん,お前… 日 (ひ) 知り (しり) だったのか…」
・ 社(やしろ) 「ごん,お前… 屋 (や) 代 (しろ) だったのか…」
・ 仏(ほとけ) 「ごん,お前… 浮屠 (ふと=ブッダ) 家 (け) だったのか…」(諸説あり)
本記事と同じ趣旨で,2月27日の heldio にて「 #1734. 「偽装複合語大喜利」 --- 皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.ぜひそちらもお聴きください.

昨日2月25日(水),ついに古英語・中英語の伝説的な教科書『古英語・中英語初歩』が新装復刊となりました.1ヶ月前の「#6117. 伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊されます!」 ([2026-01-25-1]) を皮切りに,この hellog でも,また他のメディアでも,本書の1ファンとして今回の復刊を祝い,待ち望んできましたが,ついに入手できるようになりました.
本書は初学者が古英語および中英語の「初歩的知識を得ること」を目的として書かれています.本格的な科学的研究への第一歩として,あるいはそこまで行かなくとも,現代英語を歴史的な観点から深く理解するための入り口として,これほど丁寧で優しい作りとなっている教科書は稀です.
本書の構成は,大きく古英語パートと中英語パートに分かれています.それぞれの部門において,まず綴字・発音,文法,時代背景に関する解説がなされます.とりわけ現代英語から距離のある古英語については,細かく解説されています,その後に実際の原文を読み解く「テキスト編」が続きます,語学書として王道の構成です.特筆すべきは,初学者の便宜のために,各パートの最初のいくつかのテキストには,IPA による発音記号が1単語1単語について丁寧に付されている点です.これは,慣れない古い文字体系に戸惑う読者にとって,きわめて手厚い計らいです.
すべてのテキストに,現代英語訳が付されている点も見逃せません.英語で書かれた古英語・中英語の教科書では,現代英語訳は省略されるのが通例ですが,本書ではあえてこれを完備することで,現代英語との語順や綴字の対比を促す工夫がなされています.日本の英語学習者のツボを押さえた解説と相まって,独学を可能にするための情報が,この一冊の中に完全に閉じ込められています.
巻末には,テキストに現われる単語を網羅したグロッサリー(小辞典)も付いています,この一冊を仕上げれば,より専門的な英語史の世界へと羽ばたく準備が整うとともに,歴史的な観点からの現代英語の理解がぐんと深まるでしょう.今回の新装復刊にあたっては,旧版よりもコンパクトで,鞄に入れて持ち運びやすい現代的な装丁に生まれ変わっています.
定価3,300円(税込)という価格は,この充実した内容からすれば間違いなく「お得」と断言できます.これまで英語史のおもしろさに魅せられながらも,古英語や中英語の原文に踏み込む勇気は出なかったという方々にとって,本書は背中を押してくれる最高の入門書となるはずです.ぜひ、この伝説的入門書を手にとって,英語という言語の懐の深さを体感してください.表紙に扉のデザインが施されており,背景も扉の向こう側もディープでダークな色ですが,これは古英語・中英語の「深遠さ」や「沼」を表わしているものと解釈したいところです.扉を開くには少し怖そうですが,それだけ濃厚な世界が待っているのだと捉えていただければ.
昨日の heldio にて,本記事と同じ趣旨を「#1732. 本日,伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊」として熱量をこめてお届けしました.ぜひそちらもお聴きいただければ.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

今年度は月1回,朝日カルチャーセンター新宿教室で英語史講座を開いています.シリーズタイトルは「歴史上もっとも不思議な英単語」です.日常的でありながらも深い歴史やいわくありげな背景をもっている英単語を毎回1つ選び,『英語語源辞典』(研究社)や『英語語源ハンドブック』(研究社)等の記述を参照しながら,その単語の魅力に迫り,同時に英語史のダイナミズムをも感じていただきます
2月28日(土)の講座は冬期クールの第2回となります.今回取り上げるのは,あまりに多義・多機能で正体が何なのかが分からなくなりそうな that という単語に注目します.1音節の小さな語ですが,ある意味で英文法を背負っているかのような八面六臂の活躍.その起源と発展をたどると,この単語の理解が増し,愛着も湧いてくること間違いなしです.
以下,that をめぐってどんな論点があるのか,ブレスト風に書き出してみます.
・ Is that that that that that that refers to? / That that is is that that is not is not is that it it is.
・ that と定冠詞 the の関係は?
・ 指示詞の th- と疑問詞の wh- の関係は?
・ 直示性の単語たち:this, these, that, those
・ this 単独では人を指せるけれど,that 単独だと失礼になるのはなぜ?
・ those who などと those 人々を指し得るのはなぜ?
・ I think that . . . . などの that 節はいかにして生まれたか?
・ ゆるい副詞節を導く that
・ 関係代名詞の that は,他の関係代名詞と何が異なるのか?
・ that の「省略」,あるいは虚辞の that について
ほかにも論点は挙がってくるものと思われます.that のすべてを90分で語り尽くすことはできませんが,歴史をたどることで,その魅力をあぶり出したいと思います.
講座への参加方法は,今期もオンライン参加のみとなります.リアルタイムでの受講のほか,2週間の見逃し配信サービスもあります.皆さんのご都合のよい方法でご参加いただければ幸いです.開講時間は 15:30--17:00 となっています.講座と申込みの詳細は朝カルの公式ページよりご確認ください.
なお,冬期クールの第3回は以下の通りの予定です.春に向けて,英語史の学びを盛り上げていきましょう!
・ 第12回:3月28日(土) 15:30~17:00 「be --- 英語の「存在」を支える超不規則動詞」
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
先日ご紹介した「#6133. 日英語の「語彙の3層構造」で大喜利をしました」 ([2026-02-10-1]) に引き続き,2月8日(日)に私の X アカウント @chariderryu にて,おもしろい混種語 (hybrid) を寄せてくださいという趣旨のお題を立てて,呼びかけました.ちょうど『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』のカウントダウン企画「古中英語30連発」の No. 14 として「英語も日本語もちゃんぽん(雑種語)がお好き?」と投稿した直後のことでした.
中英語からの例として,英・語幹 + 仏・接尾辞 = goddess (女神),仏・語幹 + 英・接尾辞 = beautiful (美しい),仏・語幹 + 英・語幹 = court house (裁判所庁舎)を挙げつつ,このような混種語で,おもしろい例が,英語にも,そしてとりわけ日本語にもたくさんあるので,皆さんに出していただこうと考えた次第です.集まってきた例は,事実上すべて日本語からの例でしたが,唸らされるようなおもしろい例をたくさん挙げてくださいました.ありがとうございます.以下,独断と偏見で傑作選を掲載します.
【 食物・料理部門 】
・ カレー南蛮そば
・ ツナおろしキムチ和風パスタ
・ うにいくら濃厚クリームパスタ
・ 生バウムケーキショコラクリーム
・ 生チョコトリュフ芳醇ミルクティー(ブルボン)
・ タンドリーチキンブルゴーニュ風パイ包み焼き
【 場所の名前部門 】
・ 横浜アンパンマンこどもミュージアム
・ 白浜エネルギーランド海ゲート駐車場
【 その他,商品名等 】
・ カラオケ大会
・ 京都サンガF.C.
・ キッチン収納棚
・ ドモホルンリンクル
・ サマージャンボ宝くじ
・ スーパーエネルギー回収
・ 仲良しアベック専用シート
・ ルスツリゾートゴンドラリフト券
・ 反復学習ソフト付き正規表現書き方ドリル(技術評論社)
・ クライネ・ソプラニーノ・リコーダー・奏者
【 英語より特別部門:「希羅希羅ネーム」(ギリシア語とラテン語の混種語) 】
・ pseudo-science
・ finalize
・ television
・ sociology
【 大喜利に参加できなかった残念な語 】
・ バカ旦那
思ったよりも日常は混種語にあふれていますね.お寄せくださった皆さん,ありがとうございました.
本記事と同じ趣旨で,2月17日の heldio にて「#1724. 日英語「混種語大喜利」 --- 皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.ぜひそちらもお聴きいただければ.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
2月25日(水)に研究社より『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』が刊行されます.本書の1ファンとして,3週間ほど前より復刊を祝って盛り上げるべく,様々な関連企画を実施しています.ついに刊行1週間前となりました.
先日2月13日(金),研究社のご厚意により本書のホヤホヤの出来上がり見本を,目下滞在中のメルボルンまでお送りいただきました(ありがとうございます!).興奮のあまり,すぐに「開封の儀」を収録し,翌日には YouTube や Voicy で配信しました.盛り上げコンテンツとして興奮の様子が伝わるかと思いますので,ぜひご視聴ください.
・ YouTube heltube 版:「特別配信 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』開封の儀」
・ Voicy heldio 版:「特別配信 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』開封の儀」
・ note でも関連記事を書いています:「メルボルンで「開封の儀」 --- 研究者のちょっと幸せな朝」
この3週間で折に触れていくつかのメディアで関連コンテンツを公開してきましたが,以下にまとめておきます.とりわけ heldio での「『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ」は,古い英語に初めて触れる方にお薦めです.本書を手に取る前に,ぜひお聴きいただければ.
【 hellog 】
・ 「#6117. 伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊されます!」 ([2026-01-25-1])
・ 「#6120. 『古英語・中英語初歩』新装復刊のカウントダウン企画「古中英語30連発」を始めています」 ([2026-01-28-1])
【 heldio 】
・ 「#1706. 伝説の教科書『古英語・中英語初歩』(研究社)が新装復刊
・ 「#1708. 『古英語・中英語初歩』新装復刊のカウントダウン企画「古中英語30連発」を始めています」
・ 「#1710. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (1) --- 古英語の母音」
・ 「#1713. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (2) --- 古英語の子音(前編)」
・ 「#1716. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (3) --- 古英語の子音(後編)」
・ 「#1722. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (4) --- 古英語の強勢」
・ 「#1723. 『古英語・中英語初歩』新装復刊の裏にはヘルメイトたちのドラマがあった」
【 X(旧Twitter) 】
・ 私の X アカウント @chariderryu より,カウントダウン企画「古中英語30連発」を展開しています.
あと1週間,待ちきれないですね!
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
1月31日(土)に,今年度の朝日カルチャーセンターのシリーズ講座「歴史上もっとも不思議な英単語」の第10回が,冬期クールの第1回として開講されました.テーマは「very --- 「本物」から大混戦の強意語へ」でした.
very といえば,最も日常的で無標な強意語 (intensifier) と認識されていると思います,あまりに卑近な単語なので深く考えたこともないかもしれませんが,英語史的にも様々な観点から議論できる,話題の尽きない語彙項目です.講義では,very の起源と発展をたどり,他の類義語と比較し,強意語という語類の特異な性質に迫りました.濃密な90分となったと思います.
この朝カル講座第10回の内容を markmap によりマインドマップ化して整理しました.復習用にご参照いただければ.

なお,この朝カル講座のシリーズの第1回から第9回についてもマインドマップを作成してるので,そちらもご参照ください.
・ 「#5857. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第1回「she --- 語源論争の絶えない代名詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-05-10-1])
・ 「#5887. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第2回「through --- あまりに多様な綴字をもつ語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-06-09-1])
・ 「#5915. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第3回「autumn --- 類義語に揉み続けられてきた季節語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-07-07-1])
・ 「#5949. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第4回「but --- きわめつきの多義の接続詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-08-10-1])
・ 「#5977. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第5回「guy --- 人名からカラフルな意味変化を遂げた語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-09-07-1])
・ 「#6013. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第6回「English --- 慣れ親しんだ単語をどこまでも深掘りする」をマインドマップ化してみました」 ([2025-10-01-1])
・ 「#6041. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第7回「I --- 1人称単数代名詞をめぐる物語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-11-10-1])
・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
・ 「#6098. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第9回「one --- 単なる数から様々な用法へ広がった語」をマインドマップ化してみました」 ([2026-01-06-1])
次回の第11回は2月28日(土)で,主題は「that --- 指示詞から多機能語への大出世」となります.開講形式は引き続きオンラインのみで,開講時間は 15:30--17:00 です.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の公式HPより詳細をご確認の上,お申し込みいただければ幸いです.

2022年の秋に大阪で開催された「コトバの祭典」というべき大規模な展示を覚えていますでしょうか? 私自身もちらっとだけ展示協力の形で関わらせていただいた国立民族学博物館(民博)の特別展「Homō loquēns 『しゃべるヒト』 --- ことばの不思議を科学する」です.本ブログでも,「#4876. 国立民族学博物館で言葉の特別展が始まっています!」 ([2022-09-02-1]) および 「#4955. 国立民族学博物館の特別展「しゃべるヒト」の開催は11月23日(水)までです」 ([2022-11-20-1]) で取り上げたことがありました.
当時,民博に訪問できなかった方,あるいは展示の興奮をもう一度味わいたいという方に朗報です.この度,同特別展示のウェブ版が公開されました.以下よりアクセスしてみてください.
・ 「Homō loquēns 『しゃべるヒト』 --- ことばの不思議を科学する」ウェブサイト
ウェブ版では,実際の展示室で紹介されていたコンテンツが,デジタルアーカイブの形で再構成されています.「コトバで伝わるしくみ」「コトバを操る身体のしくみ」「コトバを身につけるしくみ」「コトバの多様性」「コトバとヒトの関係の多様性」「コトバの研究の多様性」といった多岐にわたるテーマが網羅されており,いながらにして言語学の最前線に触れることができます.
さて,私自身がこのプロジェクトにおいて展示協力として関わらせていただいたのは,「言語の分岐」に関するセクションでした.「英語の300年間」と題する図で,近代における英語の世界的な拡大と,それに伴う多様化(分岐)が示されています.
・ 「言語の分岐 英語の300年間」
ここではイギリス諸島で話されていた英語の諸変種がベースとなって,そこからアメリカ,アジア,アフリカ,オセアニアへ拡散していき,新たな変種が派生していく様子が模式的に描かれています.言語が地理的に離れ,時間の経過とともに独自の進化を遂げていく様子は,言語のダイナミズムを感じさせます.英語史という時間軸の視点と,英語方言学という空間軸の視点が交差する様を味わうことができると思います.
こちらのウェブサイトは,未完成の部分もありますが,今後順次公開されていくことになるとのことです.特別展での展示パネルのテキストや図表がこのように公開されることで,一過性のイベントで終わることなく,言語学や英語史の学習リソースとして永続的に活用できるようになったことは,とても有意義なことです.
民博の展示室で圧倒されたあの日から数年が経ちましたが,こうしてウェブ版として再会してみると,改めてコトバという存在の奥深さに気づかされます.ぜひ皆さんも,このデジタル特別展に訪れてみてください.
なお,当時,特別展を楽しんだ私の感想は,heldio 配信回としても記録されています.ご関心のある方は,「#536. 民博特別展「しゃべるヒト」に訪問中」をお聴きいただければ.
2月9日(月)に「いのほた言語学チャンネル」の最新回が公開されました.「#403. 英語話者は単語を聞いてスペリングがわからないときはどうする?」と題して,「スペリング=漢字」説をご紹介しました.
この説を紹介することになったきっかけは,昨年末の12月28日に回答した質問・応答サービス mond でのとある問答が X(旧Twitter)で大きな反響を呼び,365万インプレッションという驚異的な注目を集めたことにあります.質問は「日本語では漢字がわからなければ仮名で書けるが,英語では正しい綴りを知らない場合,ネイティブはどうしているのか?」というものでした.文字論の観点からも,きわめておもしろいお題でした.
私はかねてより,英語のスペリングは,その機能において漢字に近いという「スペリング=漢字」説を唱えています.英語のアルファベット文字は,表音文字であり,とりわけ1文字1音を原則とする単音文字とされますが,それが1文字以上組み合わさったスペリングという単位になると表語文字の機能を帯び始めます.例えば,doubt のスペリングは確かに単音文字の組み合わせでできていますが,b のように何の音にも対応しない文字が含まれています.doubt というスペリング全体で考えると,それは1つの視覚的な「図像」であり,その図像が「疑」を意味する英単語を表わしています.つまり,スペリング全体として表語文字的な機能を帯びているのです.
日本語で「疑」という漢字をパーツに分解せずパターンの塊として認識するように,英語話者も doubt という5文字の並びを1つの視覚的単位として認識している.つまり,中身を顕微鏡で見ればアルファベットという表音文字の組み合わせですが,スペリングという単位になると,機能的には「漢字モード」として運用されているといってよいのです.
では,質問にあったように,綴字がわからないときはどうするのか.ここで英語における「仮名モード」が登場します.それがフォニックスや,とりあえず音を写し取る暫定的なスペリングです.英語にも「漢字モード」と「仮名モード」という2つのモードの切り替えが存在するというのが,私の見立てです.
動画内では,この文字論的なお話に加え,スペリングの間違いが社会的な規範のプレッシャーを強く受けるという点でも,漢字とスペリングが似ているという側面について井上逸兵さんと議論しています.ぜひご視聴ください.
「スペリング=漢字」説については,heldio でも以下の配信回でお話していますので,ぜひ合わせてお聴きいただければ.
・ 「#606. 英語のスペリングは漢字である」(2023年1月27日)
・ 「#1689. 「スペリング=漢字」説を解説します --- 規範主義の観点から」(2026年1月12日配信)
・ 「#1688. 「スペリング=漢字」説を解説します --- 機能的観点から」(2026年1月13日配信)

本日2月11日の朝日新聞紙上にて,来たる2月21日(土)に開催される朝日カルチャーセンター新宿教室での特別対談講座「AI 時代にこそ必要な「言語学的思考」とは」が紹介されました.先日の記事 「#6113. 朝カルで井上逸兵さんと「AI時代にこそ必要な「言語学的思考」とは」 --- 「いのほたなぜ」出版記念」 ([2026-01-21-1]) でも告知しましたが,新聞という媒体を通じて改めて多くの方にこの特別対談講座のお知らせが届くことを嬉しく思います.
新聞では,次のように紹介されています.
「AI時代」こそ言語学必要
生成AIで言葉の壁が薄れる今,なぜ言語学や語学を学び続ける必要があるのでしょうか?井上逸兵・堀田隆一著「言語学でスッキリ解決! 英語の『なぜ?』」(ナツメ社)=写真=の出版記念講座です.慶應義塾大教授・井上逸兵さん,堀田隆一さんが語り合う「AI時代にこそ必要な『言語学的思考』とは」は21日(土)後6時30分.会員は4235円.教室・オンライン自由講座.(新宿教室)
今回の講座は,昨年10月に刊行した井上逸兵さんとの共著 『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』の出版記念という位置づけです.しかし,単なる本の解説にとどまるつもりはありません.むしろ,本書の根底にある著者2人の言葉への視点を,現代の喫緊の課題である生成AIとの関わりにおいてアップデートする試みとなります.
現在,私たちは生成AIの驚異的な進化を目の当たりにしています.翻訳の精度は上がり,もっともらしい文章が瞬時に生成されるようになりました.一見すると,言語の壁は技術によって克服されつつあるかのように思えます.しかし,ここで私たちは立ち止まって考える必要があります.AIがもっともらしい文字列を出力するとき,そこには人間が言葉を紡ぐときに不可欠な意味や文脈,あるいは相手への配慮といった社会的な営みが存在しているのでしょうか.
井上さんの専門である社会言語学は,言語が社会の中でどのように機能し,人間関係を構築するかを明らかにします.一方,私の専門である英語史や歴史言語学は,言語が時間の流れの中でどのように変容し,現代の姿に至ったのかという通時的な視点を提供します.この2つの視点を交差させながら,AI時代における人間の言葉とは何なのか,という本質的な問いへのヒントが見えてくるはずです.
今回の対談では,AI が生成するテキストが世界を埋め尽くすなかで,私たちの言語感覚がどのように変容し得るのか,そして言語学を学ぶことがいかにして人間らしさを再発見する手助けとなるのかについて,熱く,かつ楽しく議論を展開したいと思います.
言語学的思考は,単なる知識の蓄積ではありません.当たり前だと思っている言葉の裏側にある仕組みや歴史を意識し,批判的に,かつ深く理解するための眼差しのことです.この眼差しもつことで,AI に振り回されるのではなく,AI を使いこなしつつ,より豊かなコミュニケーションを営むことが可能になると考えています.
講座は2月21日(土)の18:30からです.井上さんは新宿の教室で,私はオンラインで登壇いたします.遠方の方も Zoom でご参加いただけますし,2週間の見逃し配信サービスもあります..詳細はこちらの申し込みページをご覧ください.
AI時代の言葉の未来について,皆さんと一緒に考えていきたいと思っています.

・ 井上 逸兵・堀田 隆一 『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』 ナツメ社,2025年.
先日2月6日(金)の正午より,Voicy heldio にて「【生配信】日英語「語彙の3層構造」大喜利!皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.
目下,2月25日に研究社より刊行予定の『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を盛り上げるべく,私の X アカウント @chariderryu より,カウントダウン企画「古中英語30連発」を展開しています.その No. 11 として「英語の語彙は「3階建て」の構造」を紹介したところ,多くの反響をいただきました.
英語の「英・仏・羅」の3層構造は,日本語の「和語・漢語・外来語」に緩く対応します.そこで,X より呼びかけて,日本語でも英語でも「きれいな3層構造」の例をお寄せくださいと募ったところ,言語センスの光る傑作が続々と寄せられました.その傑作選を声で読み上げたのが,上記の配信回です.私が独断と偏見でおもしろいと思った例(金賞・銀賞・特別賞あり)を取り上げさせていただきましたが,それを hellog にも記録として残しておきたいと思います.日本語の3層構造の事例が中心となりましたが,英語についてもいくつかお寄せいただきました.
【 概念・抽象語部門 】
・ ぐちゃぐちゃ・混乱・カオス
・ おそれ・恐怖・パニック
・ こい(したう)・恋愛/愛情・ラブ
【 日常生活・道具部門 】
・ 音入れ・録音機・レコーダー(金賞:TAKAHASHI さん)
・ かぎ・錠・キー
・ こしかけ・椅子・チェアー
・ かなづち・鉄槌・ハンマー
・ おたより・郵便・メール
・ まなびや・教室・クラスルーム
・ つれあい・配偶者・パートナ
【 身体・自然部門 】
・ からだ・身体・ボディー
・ あたま・頭部・ヘッド
・ 天の川・銀河・ギャラクシー
・ すばる・昴星・プレアデス
・ たから・宝物・トレジャー(銀賞:mozhi gengo さん)
【 動詞部門 】
・ 見張る・監視する・モニタリングする(モーラ数の配置が美しい例)
・ 車に乗る・運転する・ドライブする
・ 繰り返す・復唱する・リピートする
・ 打ち込む・入力する・タイプする
【 特異な三層(あるいはそれ以上)部門 】
・ パクチー・香菜(こうさい)・シャンツァイ・コリアンダー・コエンドロ(特別賞:川上さん)
・ 盲腸・虫垂炎・アッペ(俗称・学術語・ジャーゴンの重なり)
【 英語の3層構造 】
・ hurly-burly - confusion - chaos
・ fear - terror - panic/phobia
・ love - affection - eros/philia
・ grasp - seize - capture
・ hallow - deify - consecrate
・ say - mention - refer
・ teacher - tutor - evangelist
・ old - ancient - senior
・ wonderful - surprising - terrific
・ bright - sparkling - splendid
・ great - excellent - superb
いかがでしょうか.「きれいな例」を探すのは意外と難しいものです.単なる言い換えではなく,下層から上層へ向かうにつれて「日常」から「公的」,そして「専門的」あるいは「モダン」へと語感が変わっていくグラデーションが感じられるかどうかがポイントになります.モーラ数・音節数の違いなども意識するとおもしろいですね.
英語史の観点からいえば,このような語彙の層の厚みは,その言語が歩んできた歴史の厚みそのものでもあります.かつて古英語期には1階建てだった語彙の家が,中英語期にフランス語という2階部分が増築され,さらに近代英語期にかけてはラテン語(やギリシア語)の3階が積み上がってきました.
拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』の第5章でも詳しく解説していますが,中英語期はまさに1階と2階が混ざり合っていくダイナミズムを観察できる時代です.近刊書『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を通して,ぜひその歴史の現場を追体験してみてください.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

先月,2026年1月は,知識共有プラットフォーム mond に寄せられてきた10の問いに回答しました.
綴字と発音の乖離 (spelling_pronunciation_gap) に関する話題が5問あり,この分野への関心の高さが窺われます.そのほか,構文の意味や歴史の話題,比較言語学的な問いなど,エキサイティングなトピックが並びました.
とりわけ反響が大きかったのは,7番目のAI時代におけるコーパス言語学の意義に関する問答です.タイムリーな論点でもあり,私としても英語史研究者・歴史言語学者の立場から,この問いに真剣に向き合ってみた次第です.専門内外の方々から多くの反応をいただき,たいへん嬉しく思います.
鋭い質問をお寄せいただいた皆さん,ありがとうございました.以下に時間順に10の問いと,対応する mond の問答へのリンクを張ります.ぜひ未読の問答がありましたら,お読みいただければ.また,mond で回答した話題について,本ブログで補足したり掘り下げる機会もよくありますので,mond タグより訪れてみてください.
1. would you be kind enough to 不定詞 「あなたは to 不定詞するのに十分なほど親切である可能性が万が一ながらあるでしょうか?」は,相手にお前は親切かと尋ねている時点でかなり不遜な表現だと思うのですが,それは質問者が日本人だからでしょうか?
2. gaol ジェイルの変則的なつづりの由来について教えてください.この ao の o は何ですか?
3. climb や bomb など,語末に黙字を持つ場合,ing, er など(動詞の場合)や er, est など(形容詞の場合)を付してもなお読まないままのはどうしてなのでしょうか.
4. 古風な英語では船を she で受けるそうですが、これは古英語の scip (中性名詞)とは関係ない、比較的最近の慣習であると先生のブログで拝見しました。ところでラテン語では女性名詞 navis,ギリシア語でも女性名詞 ναυς です.このような古典語からの影響の可能性はどれほどあるのでしょうか?
5. salmon はつづりに l があるのに l を発音しないことからして,16--17世紀あたりのつづりと発音の混乱が影響している臭いがします.salmon の発音と表記の歴史について教えてください。
6. 英語の Rome の o は二重母音 [ou] を持っていますが,古英語の長母音oは現代語で [u:] になるはずなので,この語は古英語からロームと発音されたのではない,中英語以降の再度の借用語なのでしょうか?
7. 今後特定のジャンルごとにその様式にそった文を出力するAIが発達し,多くの人がそれを利用するようになり,文を人間が作るのでなくAIの作った文を追認するようになった時代において,言語学の一分野であるコーパス言語学というものは学問としての意味をなしうるでしょうか?
8. language の gu は [gw] と発音されますが,フランス語は gu は後代のラテン語の借用語を除いて [g] です.これは often オフトンと同じタイプの綴り字発音ということですか?
9. as ... as 構文の歴史について教えてください.
10. 英語とドイツ語は同じゲルマン系統の言葉なのに,英語には単語別の性別が無いのはどうしてですか?
mond での質問受付についてお知らせがあります.先日の hellog 記事「#6105. mond での質問受付方式を変更します --- スーパーレター(優先パス)の導入」 ([2026-01-13-1]) でお伝えした通り,mond の「スーパーレター」(有料質問)機能を「回答の優先パス」として位置づけることにしています.数ある質問の中から,スーパーレターとしていただいたものを優先的に検討させていただきます(確約ではありませんが,回答の可能性は格段に高まります).もちろん,従来の無料での質問も引き続き歓迎いたしますので,ぜひ鋭い質問をお寄せください.
「#4384. goodbye と「さようなら」」 ([2021-04-28-1]) で,挨拶表現 goodbye の語源周りの話題を取り上げた.いくつかの点で問題含みの表現であることをみたが,綴字の観点からは,なぜ語末に e が付いているのかが気になる.
Carney (153) では,e それ自体の問題というよりも ye という組み合わせに注目しつつ,次のような解説があった.
Final <-ye> occurs irregularly in a few §Basic words. Dye, lye ('soda'), rye, compared with sky, dry, wry, etc. are bulked up with <e> to three letters (the 'short word rule', p. 131). Similarly lexical bye is differentiated from the function word by. Dye and lye are differentiated from the much more common die and lie in present-day spelling, but in earlier centuries there was some free variation between the <ie> and <ye> spellings.
Carney の見解によると,bye の語末の e 付加は,英語正書法における「#2235. 3文字規則」 ([2015-06-10-1]) で説明されるという.内容語は最低3文字で綴られなければならないというルールだ.この表現における bye は単独での語源や意味が何であろうとも,good という形容詞の後に来ている点でいかにも名詞らしい,すなわち内容語らしい.一方,同音異義語の by は前置詞であり,機能語である.この差を出すためにも,そして前者について3文字規則に抵触しないためにも,前者にダミーの e を付すのが適切な解決策となる.
あるいは,この挨拶表現の原型とされる God be with you/ye. の ye の亡霊が bye に隠れていると想像を膨らませてみたいですか? 想像するのは自由で楽しいですね!
・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
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字幕翻訳者&字幕講師の天野優未さんの X アカウント で,『英語語源ハンドブック』および『はじめての英語史』を精読し,実況中継的に感想を述べていただくという,著者にとっては夢のようなプロジェクトが始動しています.毎日のように本の細かなところを取り上げ,コメントをくださるというのは,著者冥利につきます.
・ 「#翻訳者英語語源ハンドブック1日1語感想」のスレッド,あるいはハッシュタグよりこちら
・ 『はじめての英語史』の実況中継スレッド
私も自身の X アカウント から頻繁に反応させていただく機会が増えてきたのですが,翻訳者の視点からの軽妙なツッコミや的を射たご意見が毎度おもしろいく,著者にとっても励みになるのです.例えば,以下のような驚きや納得感を伝えるコメントをいただいています.
【 『英語語源ハンドブック』への感想より 】
【able】早速、「形容詞のableと接尾辞ableはそれぞれ別の語源」とかビックリの事実が!でも、ラテン語habilem(持ちやすい)から古フランス語を経由して頭のhが落ちた、と聞くとちょっと納得が。haveとableがそんなに密接な関係にあるとは…。すっかりableが元から「?できる」の意味で、それを語尾にも付けて…という「合理的なストーリー」を想像してたけど、実は歴史を辿ると「後から人々が覚えやすいように合理的なストーリーが後付けされた」みたいなことって多くて、言語って度々人間の想像を超えてくるなあと改めて思わされる。
でも、*Ten years were agon.って、完了形?受動態じゃなくて?と思ったら、その直後に「have+過去分詞は他動詞に使われたものがやがて完了形全体へと応用されたもので、元来、文の末尾に置かれる過去分詞は常に受動的な意味であり、他動詞の完了形にのみ使われ、自動詞の完了形はbe動詞+過去分詞で表された。」と解説があって納得。疑問に思ったことがすぐに解説される形式、とても親切。
【alive】aliveが名詞の前に置けないことも、on+life→aliveであることも知っていたけど、「名詞の前に置けない理由が、元々on+lifeという前置詞句だったため」は知らなかった!確かに、修飾する前置詞句は名詞の後ろに置かれるもんな!
前から思ってたんだけど、基礎単語だけでなく、英検1級に出てくるような単語のこういう元の意味が解説されてるような『上級英単語語源ハンドブック』があったら、ボキャビルにも役立ちそうで嬉しいな…
【 『はじめての英語史』への感想より 】
文法の話は好きなので、古英語はラテン語みたいに格変化が複雑なことは知ってたけど、それが単純化されたのすら、発音変化の影響だったの!?まだ「はじめての英語史」を10ページ程度しか読んでないけど、数えきれぬほど「英語、音声に振り回されすぎ!」の感想を抱いてる。
「母音連続はよくあるのに、なぜaの時だけ必ず回避する?」「なぜ入る音がn?」という疑問は確かにあって、「通常はoneの弱形であるanで、次に子音が来る時だけaになる」って説明で全て解消されるが、「母音の時はan」の原則が染みついた身としては、「そんなの許されるのか…!?」という衝撃が…
「次が母音の時にanになるのではなく、次が子音の時にaになるのだ」に続く、「3単現の時だけsが付くのではなく、3単現の時以外の語尾が消えてしまったのだ」だ!発想の逆転により、むしろ論理的にクリアになるパターン、大好き!しかも、これも「sに相当する語尾以外は発音しづらかったから消えた」って、また「英語、音声に振り回されすぎ!」の例だ…
「次が母音の時にanになるのではなく、次が子音の時にaになるのだ」「3単現の時だけsが付くのではなく、3単現の時以外の語尾が消えてしまったのだ」に続く、「feetやchildrenが変わってるのではなく、他の単語が-s複数へと変わっただけなのだ」だ!(いつまで続くのか、このシリーズ)
特に「英語,音声に振り回されすぎ!」の名フレーズには感動してしまい,先日 heldio にて天野さんを引きつつ「#1698. 英語,音声に振り回されすぎ」と題してお話ししてしまったほどです.
皆さん,ぜひ天野さんのシリーズにご注目ください.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.

昨日1月28日,英語史の周囲に集まる,有志による月刊ウェブマガジン Helvillian 2月号(第16号) が公開されました.2026年という新たな年の幕開けにふさわしく,今号も驚くべき熱量と多角的な視点が詰まった号となっています.
今号の表紙写真および「1. 表紙のことば」を寄せてくださったのは,しーさんです.マレーシアのクチンからの1枚です(私も訪れたことがあり,Kuching の響き懐かしい!).実は,しーさんは,目下私が一押し中の書籍,2月25日に刊行予定の『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』にも,ある角度から関連しているキーパーソンでもあります.表紙の編集は,編集委員の Galois さんが担当されています.
続く「2. 特集 裏切り」では,ari さんが言葉の本質を問う「凡庸の罠」を,川上さんが「裏切らないユダ」を寄稿されています.いずれも深い思考と調査に基づいた力作.皆さんも,この機会に「裏切り」について考えてみませんか.「3. 英語語源ハンドブック」のセクションでは,ari さんの新連載「Word of the Day」が紹介されています.ハンドブックからランダムに単語を選んで,それについて何か書くぞ,という企画です.ykagata さんの「『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語」シリーズは安定的に回を重ねており,今号では dance から magazine まで,ドイツ語との比較を通じて,語源の話題が縦横無尽に掘り下げられています.
個別の連載陣も充実しています.川上さんの「4. 連載 『英語のなぜ』やってます通信25」シリーズは第25回を数える節目を迎え,lacolaco さんによる「5. 連載 英語語源辞典通読ノート」は D ゾーンへ入っています.さらに,こじこじ先生による「6. 『不規則動詞戦争』OP曲(オーケストラバージョン)」では,不規則動詞の立場に立った英語動詞の歴史が披露されています.Grace さんによる「7. カタカナ表記が果たす役割」では,書籍紹介とともに,日本語の文字論的考察がなされています.
「8. ari」さんのセクションでは,デジタル教材研究会の発表報告からアイルランド英語,英語史クイズ,さらには積読に関する書評まで,その守備範囲の広さに驚かされます.そして,り~みんさんからは,「9. 綴字を規定するパラメタは何か?」を寄せていただきました.川上さんの新年の力作 「なぜ judge の2つの /dʒ/ は異なる綴り字なの?」 とあわせて読むことで,英語の綴字体系の問題の深淵を覗くことができると思います.関連して文字の話題といえば,「10. mozhi gengo」さんです.アルファベットの印欧比較やインドの決済事情を報告されています,2026年は,私も文字論やスペリング論の発信を多くしていきたいと思っているので,今号で関連する話題が多く集まってきており嬉しいです.
そして,新年に気合の入ったスタートを切られたのが「11. みー」さん.「小学生と学ぶ英語史」シリーズの幕開きです.a/ an から始まり,アルファベット順に hair, I まで,子供たちに英語史のおもしろさを届けるこの試みを,私は心から応援しています.
「12. umisio」さんは,動物言語学の知見を交えた国語教科書研究や E テレの批評を通じて,言語教育のあり方を問い直し,「13. ykagata」さんはグリーンランドの地名やドイツ語の借用表現の通報窓口という興味深い話題を提供されています.
最後は Grace さんによる「14. Helwaのあゆみ/活動報告」と,umisio さんによる「15. Helvillian編集後記」で締めくくられます.両記事ともに,1月中に helwa で話題となった「大事件」に言及しています.
ここには書ききれないほど,寄稿者一人ひとりの英語史愛が集結した号となっています.ぜひじっくりとお読みいただければと思います.
さて,2026年も本格的に始動しました.この機会に,hellog 読者の皆さんも「hel活」コミュニティに加わってみませんか? こうした多様なアウトプットの源泉に触れてみたい方は,ぜひプレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」の扉を開いてみてください.毎週火・木・土の午後6時に,heldio と変わらぬ熱量で,さらに濃い内容をお届けしています.
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