旺文社から発行されている英語の先生向け季刊誌『Argument --- 研究と指導』の2025年第1号(春夏号)に,巻頭エッセイを書かせていただきました.「素朴な疑問を大事に,英語史」と題する1ページの文章です.
『Argument』は高校英語科の教員に向けて限定配布されている情報誌で,その趣意としては次のようにあります.
日常の英語授業・教授法から大学入試・辞書・参考書の活用法,英検指導に至るまで幅広いトピックを先生方と共に考え,英語教育に役立つ情報を発信します.旺文社は先生方の「英語教育ネットワーク」の確立を目指しています.」
学校関係者であればこちらのHPよりより資料請求できますが,ご紹介の号については受付はすでに締め切られているとのことです.
一昨日,『Argument』に寄稿したエッセイと関連づける形で,Voicy heldio にて「#1486. 答えよりも問い,スッキリよりもモヤモヤが大事 --- 旺文社『Argument』春夏号の巻頭エッセイ「素朴な疑問を大事に,英語史」」を配信しました.
今日の hellog 記事では,上記の heldio 配信回の内容をベースに,文章としてまとめ直したものをお届けします.
巻頭エッセイでは,私自身が英語史研究の道に進んだきっかけや,日々の研究・教育活動で最も大切にしている姿勢について述べました.その核心は,「答え」よりも「問い」,そして「スッキリ」よりも「モヤモヤ」が物事の探求において重要である,という点です.
私たちは何か疑問に思うことがあると,すぐにその「答え」を知りたがる傾向があります.インターネットで検索すれば,大概の問いには何らかの答えが見つかる時代です.答えが与えられ,疑問が解消されると,一種の快感が得られます.いわゆる「スッキリ」した状態です.もちろん,この快感自体を否定するつもりはありません.しかし,学問上の探求においては,この「スッキリ」を性急に求めすぎることは,かえって深い理解を妨げることになりかねないのです.
なぜなら,真に価値があるのは,多くの場合「答え」そのものではなく,その答えを導き出すに至った「問い」の立て方にあるからです.陳腐な問いからは陳腐な答えしか生まれません.一方で,「良い問い」を立てることができたならば,その探求は半ば成功したようなものです.これは逆説的に聞こえるかもしれませんが,「良い問い」とは,それ自体がすでに答えへの道筋を,あるいは答えの本質的な部分を内包しているものなのです.問題を正しく設定し,焦点を明確に定める行為そのものが,きわめて創造的な知の営みといえます.
この「答えよりも問いが大事」という考え方は,「スッキリよりもモヤモヤが大事」という姿勢とパラレルです.「スッキリ」が「答え」によってもたらされる一時的な安堵であるとすれば,「モヤモヤ」は「問い」を抱え続け,思考を巡らせている持続的な状態です.この「モヤモヤ」こそが,知的探求のエンジンであり,新たな発見を生み出すための不可欠な基盤となります.すぐに答えの出る問いは,私たちをそれ以上遠くへ連れて行ってはくれません.むしろ,なかなか答えが見つからず,頭の中で様々な可能性が渦巻いている「モヤモヤ」した状態こそが,思考を深め,対象への解像度を高めてくれるのです.
これは,実際には,学問上の探求に限った話ではありません.日々の学習や仕事において,ふと心に浮かんだ「なぜ?」という素朴な疑問を大切に育てること,すぐに「答え」を求めて解消してしまうのではなく,しばらくの間「モヤモヤ」として抱え続け,自分なりに考えてみること,その知的な我慢こそが,私たちをより深い理解へと導いてくれるのではないでしょうか.皆さんの心の中にある「モヤモヤ」は,未来の豊かな実りにつながる貴重な種なのかもしれません.
以下の heldio 過去回でも同趣旨でお話ししていますので,ぜひお聴きいただければ.
・ 「#510. 中高生に向けて モヤり続けることが何よりも大事です」(2022年10月23日)
・ 「#633. 答えを出すより問いを立てよ」(2023年2月23日)
・ 堀田 隆一 「素朴な疑問を大事に,英語史」『Argument』2025年第1号(2025年春夏号),旺文社.2025年5月.1頁.
一昨日の6月22日(日)の朝日新聞朝刊のサンヤツ広告にて,研究社から出版されている標題の3書籍が並んで登場しました.私自身が著者として直接関わっている『英語語源ハンドブック』(2025年)と『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(2016年)の2冊に加え,この2年間強力に推し続けてきた『英語語源辞典』(1997年)も合わせて,私にとっては「夢の共演」のサンヤツ広告となりました.感慨もひとしおです.家宝として額縁に飾りたいほどです.
この3冊のうち『英語語源辞典』と『英語語源ハンドブック』の2冊の関係については,先日の記事「#5897. 『英語語源辞典』と『英語語源ハンドブック』の関係」 ([2025-06-19-1]) で論じました.『辞典』を個々の単語の歴史を深く掘り下げる「縦の探求」の書とするならば,『ハンドブック』は語源の世界全体を広く見渡し,様々な話題のあいだの関連性を知る「横の探求」の書であると述べました.両者は競合するのではなく,むしろ相互補完的な関係にあり,両書を合わせることで英語語源学の探求が格段に豊かになる,というのがその趣旨でした.
では,そこに3冊目として拙著『はじめての英語史』(研究社,2016年)を加えると,どのような効果が現われるのでしょうか.結論から先にいえば,この3冊は英語史を探求するための基本的な「3点セット」になり得るのではないかと考えています.『辞典』と『ハンドブック』が主に単語・語彙の歴史に焦点を当てているのに対し,『はじめての英語史』は,それらの土台となる「英語史」そのものの考え方や全体像を提示する役割を担えるのではないかということです.
『辞典』や『ハンドブック』を読んでいて,例えばある単語の音変化の記述や,借用という現象そのものについて,より広い視点から理解を深めたいと感じることがあるかもしれません.個々の単語の語源(ミクロな視点)を真に味わうためには,英語がたどってきた歴史の大きな流れの理解(マクロな視点)が不可欠です.拙著『はじめての英語史』は,そのマクロな視点を提供することを目的として執筆した英語史入門書です(「#3636. 年度初めに拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』を紹介」 ([2019-04-11-1]) を参照).
また,『辞典』と『ハンドブック』がその性質上,どうしても単語・語彙という側面に光を当てざるを得ないのに対し,『はじめての英語史』は発音,綴字,文法,社会言語学的な背景など,より多角的なトピックを扱っています.「なぜ3単現に -s を付けるのか?」「なぜ不規則動詞があるのか?」「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」といった疑問は,直接的には単語の語源の問題ではありませんが,単語が使用されるコンテクストを形作ってきた点では,語彙の観点からも重要な問いではあります.単語・語彙の歴史は,言語の歴史という大きな織物の1側面です.言語の歴史には,ほかにも音韻史,文法史,社会史などの諸側面があるのです.
読者の皆さんの知的好奇心の羅針盤として,この3冊を次のように位置づけてみてはいかがでしょうか.まず『ハンドブック』を手に取り,英語語源学のおもしろさに触れます.そこから,特定の単語の由来を深く掘り下げたくなったら『辞典』へ手を伸ばします.一方で,その単語が生まれ,使われてきた時代の文法,発音,社会的な状況など,より広い背景に関心が湧いたら,英語史への扉として『はじめての英語史』へ.このように,3冊を相互に参照しながら,英語史の豊かな世界へ足を踏み入れていただければと思います.
朝日新聞の広告で並び立つことになったこの3冊ですが,そこには確かに連携関係があります.ぜひこの機会に「3点セット」を書棚に揃えていただき,英語史,そして語源探求の立体的なおもしろさを味わっていただければ幸いです.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
2025年6月18日(水)に研究社より刊行された『英語語源ハンドブック』.ネット書店で購入された方も,リアル書店で手に取っていただいた方もいらっしゃるかと思います.
このたび,本書のプロモーション企画として『英語語源ハンドブック』フォトチャレンジを始めています.これは,全国のリアル書店で本書がどのように陳列されているか,読者の皆さんに写真に収め,SNS に投稿していただくという企画です(撮影については,事前に書店員さんに許可を取っていただくようお願いします).企画の詳細については,1週間前の記事「#5894. 『英語語源ハンドブック』発売記念企画 (1) --- 「フォトチャレンジ」のお知らせ」 ([2025-06-16-1]) をご覧ください.
この企画の先陣を切るべく,発売日の翌日6月19日(木)に,『英語語源ハンドブック』チームメンバーのうちの4人,および研究社の営業担当者2人の計6人で都内の3書店を巡回してきました.巡回したのは,ジュンク堂書店池袋本店,丸善丸の内本店,紀伊國屋書店新宿本店です.これら都心の大規模書店で,どのような陳列状況になっているかを確認し,フォトチャレンジの狼煙を上げるのが目的でした.
当日の巡回の直後,居酒屋で涼を取りながら,チームメンバー4人で「感想戦」を収録したのが,6月20日(金)に Voicy heldio で配信した「#1482. 『英語語源ハンドブック』フォトチャレンジで都心の3書店めぐりをしてきました --- 4人の感想戦です.以下では,この heldio 配信回の内容を要約・補足する形で,書店めぐりの様子と「感想戦」のポイントを報告します.
まず,いずれの書店でも平積みやパネル展示などで,手厚く扱っていただいていたのが感動的でした.書店の方々が事前準備してくださっていたことがよく伝わりました.感謝する次第です.
ジュンク堂書店池袋本店では,専門書が豊富に並ぶなか,本書が語学書の中心に据えられており,存在感は抜群でした.丸善丸の内本店でも,新刊コーナーでの展開に加え,関連書との連携も図られており,書店員さんの熱意を感じることができました.紀伊國屋書店新宿本店では,見えやすい,手に取りやすい位置にドカンと並べていただき,幅広い層の読者にアピールできるよう工夫の凝らされた陳列が印象的でした.
まさにこのリアル書店ならではの創意工夫が,4人の感想戦でのメインの話題となりました.オンライン書店での購入が主流となりつつある現代において,リアル書店がどのように存在感を放っていくべきか,本書の陳列を通して考えさせられました.本書の隣に関連書籍を並べて相乗効果を図ったり,POPを絶妙な位置に立てて本書の魅力をアピールしてくださったりと,書店員さんのアイディアが,読者と本との出会いを演出していることを改めて認識しました.4人にとって,今回の書店めぐりは大人の社会科見学というべきものになりました.
書店でのマナーについても話題に上りました.書店で写真を撮る際には,必ず店員さんに許可を得ること,書店さんの営業の妨げにならないように配慮することが求められます.この hellog 記事をお読みになっている多くの方々におかれましては,ぜひマナーを守りつつフォトチャレンジ企画に参加し,全国津々浦々の書店から『英語語源ハンドブック』の陳列状況をご報告していただけますよう,お願いします.この数日のあいだにも,すでに多くの報告が SNS に上がってきています.
今回の書店めぐりを通じて,リアル書店という場所が単なる「本を売る場」ではなく,文化を育み,人々の知的好奇心を刺激する場であることを強く認識した次第です.書店さんに多謝.
khelf(慶應英語史フォーラム)では,毎年度「英語史コンテンツ50」なる企画を実施しています.現役大学院生・学部生を中心とする khelf メンバーが,休日を除く毎日,順次1つずつ英語史に関するコンテンツを khelf HP 上に公開していく,「英語史駅伝」とでも呼ぶべきイベントです.毎年,企画運営側としては,途中でバトンが途切れないかとハラハラしながら見守っていますが,今年度も何とか最後までつなぎたいと願っています.
2021年度に始まったこのイベントは,今年度で5年目を迎えることになりました.過年度は年度始めの4月などにスタートしていましたが,今年度は諸事情により6月下旬というタイミングからの開始となりました.今回は50件まで続くかどうかは分からない中での見切り発車ではありますが,なるべく長く続けていければと思っています.
2025年度の「英語史コンテンツ50」は,一昨日6月20日(金)にスタートしています.すでに2件のコンテンツが上がっているので,こちらでもリンクを紹介しておきます.
・ #1. 「6月」からはじまる「英語史」探索
・ #2. 品詞を考える --- 名詞と副詞は同じ??
「英語史コンテンツ」はいずれも気軽に読める短いエッセイで,英語史を日常化するための素材としても最適です.今後継続的に公開されてくるコンテンツも,初めて英語史に触れる読者を意識した導入的な話題が多くなってくるはずです.本ブログ hellog や,その姉妹版・音声版である Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」とともに,「英語史コンテンツ50」を訪問することを,ぜひ日々の習慣にしていただければ幸いです.毎日のコンテンツ公開情報は khelf の公式 X アカウント @khelf_keio からもお知らせしていく予定です.ぜひそちらもフォローいただき,リマインダーとしてご利用いただければと思います.
前述の通り,本イベントの実施は,今回で5年目となります.過年度のコンテンツ一覧については,こちらの入り口ページよりアクセスしてください.いずれのコンテンツもアーカイヴ化されており,すべて閲覧・ダウンロード可能ですので,ぜひバックナンバーもご覧ください.以下の hellog 記事では過年度のベスト10コンテンツを紹介していますので,ご参照ください.
・ 2021年度のベスト10:「#4726. 昨年度のコンテンツ企画のベスト10」 ([2022-04-05-1])
・ 2022年度のベスト10:「#5102. 2022年度の英語史コンテンツのベスト10 --- 昨年度の振り返り」 ([2023-04-16-1])
・ 2023年度のベスト10:「#5447. 2023年度の英語史コンテンツ企画のベスト10 --- 昨年度の振り返り」 ([2024-03-26-1])
主として学生による英語史活動の一環としてのイベントですので,温かく見守っていただければ幸いです.hellog 読者の皆さんには,応援のほど,よろしくお願いします.
昨日,共著者の一人として執筆に加わった『英語語源ハンドブック』が,研究社より刊行されました.長年 hellog で探求してきた英語史,とりわけ英単語の語源のおもしろさを,より多くの方に届けたいという思いが,関係者の方々の強力なイニシアチブのもとで,1冊の本として結実しました.
本書の射程をどこに置くかという議論のなかで,企画当初より常に念頭にあったのは,寺澤芳雄先生が編集主幹を務められた『英語語源辞典』(研究社)です.この辞典は,hellog でも繰り返し述べて推してきた通り,「日本の英語系出版史上の金字塔」です(「#5553. 寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)の新装版 --- 「いのほた言語学チャンネル」でも紹介しました」 ([2024-07-10-1]) を参照).この辞典は英単語の語源に関心をもつすべての学習者・研究者にとって必携のレファレンスであり,その学術的価値は計り知れません.
では,この偉大な『英語語源辞典』がすでに手に入るときに,なぜ新たに『英語語源ハンドブック』を企画したのでしょうか.それは,両者の役割が明確に異なるからです.『辞典』が個々の単語の歴史を深く掘り下げる「縦の探求」のためのツールだとすれば,『ハンドブック』は英語語源の世界全体を広く見渡し,英語史の観点から様々な話題のあいだの関連性を知る「横の探求」を促すためのツールといえます.
hellog や heldio では,語源学 (etymology) のおもしろさと難しさについてに語ってきました.断片的な証拠を集め,推理を重ねて単語の真相に迫っていく知的な興奮は,語源探求の醍醐味です.しかし,そのためには,いくつかの基本的な探求手法や思考フレームワークを知っておく必要があります.例えば,借用 (borrowing),文法化 (grammaticalisation),メトニミー (metonymy) などの現象・用語の理解は,語源を考える上で土台となる知識です.
『英語語源ハンドブック』は,この土台作りに貢献する本です.個々の単語の語源解説に終始するのではなく,これらの英語史・語源学の基本的な概念を,具体的な事例と結びつけながら平易に解説することを目指しています.これは,日々 hellog の記事や heldio の音声配信で実践しようと試みているアプローチ,すなわち,専門的な知見をいかに噛み砕き,その魅力を伝えるかという私の関心の方向にも完全に合致します.
一方で『英語語源辞典』は,そのようにして基本的な知識と見方を身につけた探求者が,個別の事例,すなわち個々の単語の語源に深く分け入っていく際に,最も信頼できるレファレンスとなります.『ハンドブック』で全体像をつかんだ後,自らの知的好奇心に導かれて『辞典』の項目を引けば,そこに記された情報の価値や記述の深さを,より実感をもって味わうことができるはずです.
このように,『ハンドブック』と『辞典』は,互いに競合するものではなく,むしろ相互に補完し合い,探求者を語源のより深い世界へと導くための理想的な連携関係にあります.『ハンドブック』をきっかけとして語源のおもしろさに目覚め,さらに『辞典』を相棒として本格的な探求の旅に出る --- そのように両書を活用していっていただければと思います.両書とも必携です!
私がこの2年ほど続けてきた『英語語源辞典』の推し活については,「#5856. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2025年5月9日版」 ([2025-05-09-1]) およびそこからリンクを張った記事をお読みください.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
本日2025年6月18日,ついに『英語語源ハンドブック』が研究社より刊行されます.リアル書店の店頭にも,本書が並び始めている頃かと思います.一人でも多くの方々の手元に届き,英語(史)への関心を高める一助となることを願ってやみません.
先日6月10日の hellog 記事「#5888. khelf の藤平さんに『英語語源ハンドブック』のチラシを作成していただきました」 ([2025-06-10-1]) で,khelf(慶應英語史フォーラム)メンバーの藤平さんが作成してくださった本書紹介チラシを紹介しました.実は,あのチラシは発売前の告知用のもので,第1弾にすぎないのです.藤平さんは発売後のためにチラシ第2弾も作成してくださいました.本日,この場を借りて,その素晴らしいチラシを皆さんに紹介したいと思います.
第1弾のチラシと同様,第2弾も藤平さんのデザインセンスが光る逸品です.読者の期待感を高めてくれるレイアウトですね.この第2弾チラシでは,右側中程に本書の内容が3点で分かりやすくまとめられています.
・ エビデンスに基づいて選ばれた約1000の基本語を徹底解説.意味の変遷,形や発音の変化,単語間の関係を丁寧に紐解くことで英語学習を深めることができる.
・ 見出し約1000語に加えて同根語や類義語などの豊富な関連語も収録.単語の意味や発音の移り変わりを知ることによって,英語学習はより楽しく効率的になる.
・ 執筆・校閲すべてを英語史の専門家が担当.専門的な知見と読みやすさを両立した,類をみない一冊!
ここからも,本書が単なる英語のボキャビル本や語源辞典ではないことが分かります.単語の「意味の変遷」や「形や発音の変化」といった英語史の醍醐味が,本書を通じて体験できることを伝えているのです.英語史ファンにとって,どのページを開いても必ずニヤリとしてしまう,そんな本となっています.
さらに注目すべきは「Amazon ランキング新着【英語部門】第1位」という実績が明記されている点です.本書が正式に刊行された今,この実績の価値は一層高まるはずです.読者の皆さんに安心して手に取っていただける本です.
また,右下部で『英語語源辞典』(研究社)が関連書籍として紹介されているのも見逃せません.『英語語源辞典』は,長年にわたり英語史研究者や英語学習者に支持されてきた学術的な語源辞典であり,1年ほど前に新装版も刊行されています.現在では希少となった活版印刷の伝統技術を受け継いでいることも特筆されています.
本日発売の『英語語源ハンドブック』は,この『英語語源辞典』から派生した本ともいえる位置づけにあり,両書を合わせて活用することで,より深く英語の世界を探求できます.hellog 読者の皆さんにおかれましては,ぜひ両書をお手元においていただければと思います.
第1弾同様,この第2弾のチラシも,『英語語源ハンドブック』の魅力を最大限に引き出してくれています.両チラシは研究社公認のものであり,作成者の許可もいただいていますので,改変しない限り,画像やPDFのデジタル資料としても,印刷した紙の資料としても,hellog 読者の皆さんには,ご自由に閲覧・ダウンロード・利用していただけます.本書の普及のために,ぜひご活用ください.
・ チラシの画像 (PNG) はこちら
・ チラシの PDF はこちら
藤平さんには,発売前の段階から,このように発売後のプロモーションまで見越したチラシを作成していただき,本当に感謝しかありません.ありがとうございました.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
明日の6月18日(水),この1ヶ月ほど広報してきた『英語語源ハンドブック』(研究社)が,いよいよ発売となります.
昨日の記事「#5894. 『英語語源ハンドブック』発売記念企画 (1) --- 「フォトチャレンジ」のお知らせ」 ([2025-06-16-1]) では,発売記念企画の第1弾として「フォトチャレンジ」をご案内しましたが,今日はそれに続く企画の第2弾をご案内します.「Amazon 最速レビュー」です.その名の通り,『英語語源ハンドブック』をいち早く手にしてくださった皆さんに,Amazon レビューにご感想等を投稿していただこうという企画です.
本題に入る前に,まずは1ヶ月ほど前の5月20日の「予約爆撃アワー企画」について触れさせてください.あの企画では,皆さんの熱意と行動力に,関係者一同も本当に驚きました.おかげさまで,本書は Amazon 新着ランキングの「英語」部門で1位を獲得したばかりか,その地位を長らくキープしてきました.また,さらに上の階層の「語学・辞事典・年鑑」部門で2位という結果を残すこともできました.ご協力くださった皆さんに,改めて感謝いたします.
予約段階での盛り上がりが,本書の発売前の認知度を大きく押し上げてくれたことは間違いありません.そして,明日以降に重視したいのは,発売直後の「初速」です.現代の書籍販売,特にオンラインでは,この初速がその後の売れ行きを大きく左右すると言われています.発売後の1,2週間でどれだけレビューが集まるか.これがその後の本書の注目度を決定づけることになります.そこで皆さんに「Amazon 最速レビュー」企画へのご協力をお願いしたい次第です.
参加方法はシンプルです.本書を手にしましたら,ぜひ Amazon の『英語語源ハンドブック』のページでレビューを投稿していただければと思います.いくつかポイントをまとめます.
・ Amazon で購入していなくてもレビューは投稿できます.書店で入手された方もぜひご参加ください.
・ 長文コメントである必要はありません.お忙しい方におかれましては,一言の感想でも,星評価だけでも,大きな力になります.
・ ご自身のブログや SNS 等に書かれた感想をコピペしていただく形も,もちろん歓迎します.
今回皆さんにお願いしたいのは「Amazon に最速でレビューを投稿する」というアクションです.もし本書を応援したいと思っていただけましたら,ぜひこの初速アップにご協力いただけますと幸いです.昨日の「フォトチャレンジ」と合わせて,この発売後のお祭りを一緒に楽しんでいきましょう!
昨日と今日の記事でお知らせした『英語語源ハンドブック』発売記念企画2本については,今朝の heldio で「#1479. いよいよ明日『英語語源ハンドブック』が発売 --- 「フォトチャレンジ」と「Amazon最速レビュー」の2つの企画にご協力ください!」としてもお話ししています.ぜひそちらもお聴きいただければ.
それでは,明日の『英語語源ハンドブック』の発売をお楽しみに!
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
明後日の6月18日(水),私も共著者の1人として名を連ねる『英語語源ハンドブック』(研究社)が,いよいよ発売となります.1ヶ月前より広報活動に努めてきましたが,本ブログや Voicy heldio をはじめ各種 SNS を通じて多くの皆さんから温かいご声援やご期待の声をいただくことができました.心より御礼申し上げます.
さて,『英語語源ハンドブック』の発売を記念して,本書の船出を皆さんとともにさらに楽しむための企画を2つほどご提案します.今日はその第1弾として『英語語源ハンドブック』の「フォトチャレンジ」企画をご案内します.
この企画は,オンラインでの予約が一段落し,いよいよリアル書店に書籍が並び始めるこのタイミングだからこそ意味をもつ企画です.新刊の認知度をさらに高めるために,オンラインでの話題作りと並行して,全国の書店で「実際に本が置かれている」事実を伝えることが重要となります.書店に足を運んでくださる潜在的な読者の方々へ本書の存在を知らせる上で,「フォトチャレンジ」ほど強力なアピールはありません.このアイディアは,khelf メンバーや heldio/helwa リスナーさんとの日々のやり取りのなかでインスピレーションを得たものであり,共著者らや出版社(研究社)も含めて皆で一体となって本書を育てていきたいという思いから生まれたものです.
「フォトチャレンジ」企画の参加方法は至ってシンプルです.
(1) 発売日以降に,お近くのリアル書店へお立ち寄りください
(2) 語学書などの関連する書棚を覗いていただき『英語語源ハンドブック』を見つけたら,ぜひ写真に収めてください
(3) その写真を,ご自身の使い慣れた SNS(X, Instagram, Facebook, note など)でご投稿ください
(4) 投稿の際には,ハッシュタグとして #英語語源ハンドブック および #フォトチャレンジ の2つを添えていただけますと,関係者や読者の皆さんが発見しやすくなりますので大変助かります
撮影される際には,本の表紙だけでなく,それがどのようなコーナーに,どんな本と一緒に並べられているかといった「書棚のコンテクスト」がわかるような引きの写真も大歓迎です.これは,本書が世の中にどのように受け入れられているかを知るための貴重な情報となります.
もちろん,店内が混雑している,あるいは撮影が憚られるような状況もあるかと思います.その場合は,写真なしのテキストのみで,「〇〇県〇〇市の〇〇書店にありました」といったご報告を文章で投稿していただくだけでも,十分に価値のある情報となります.ご無理のない範囲でご参加ください.
ご投稿いただく際に,形式に迷うようであれば以下のテンプレートをご活用ください.〇〇の部分を書き換えたり,一言感想を添えたりと,ご自由に改変いただいてかまいません.
[ 写真付き報告の例 ]
〇〇県〇〇市の〇〇書店で『英語語源ハンドブック』を見つけました!
(ここに書店の棚などの写真を添付)
語源好きにはたまらない一冊です!
#英語語源ハンドブック #フォトチャレンジ
[ テキストのみ報告の例 ]
〇〇書店の語学書コーナーにて『英語語源ハンドブック』の在庫を確認しました.テキストのみですがご報告まで.
#英語語源ハンドブック #フォトチャレンジ
なお,他のお客さんが写り込んでしまったり,通行の妨げになったりすることのないよう,書店での写真撮影についてはマナーを守っていただけますようお願いいたします.事前に書店員さんにお声がけし許可を取ってから撮影するようにしてください.
まずは企画の口火を切るべく,発売日の翌日,6月19日(木)の夕方,共著者数名で都内の大型書店をめぐるツアーを予定しています.その様子は,可能な限り私の X アカウント @chariderryu や Voicy heldio/helwa などでも実況中継していきたいと考えていますので,事前にフォローしていただけますと幸いです.
この「フォトチャレンジ」は,発売直後だけでなく,むしろ中長期的に続けていきたいと思っています.「旅先の町の書店で偶然見つけた」「1ヶ月経って,近所の本屋にも入荷していた」といったご報告なども歓迎します.皆さんと一緒に,全国の書店での『英語語源ハンドブック』探しを楽しめればと思います.
(以下,後記:2025/06/17(Tue))
今回の『英語語源ハンドブック』発売記念企画については,heldio にて「#1479. いよいよ明日『英語語源ハンドブック』が発売 --- 「フォトチャレンジ」と「Amazon最速レビュー」の2つの企画にご協力ください!」として配信していますので,そちらもぜひお聴きください.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
「ゆる言語学ラジオ」の最新回「不毛な対立を避けるために,英文法を学べ!」で関係詞の制限用法と非制限用法が話題とされている.こちらを受けて,先日 heldio でも「#1474. ゆる言語学ラジオの「カタルシス英文法」で関係詞の制限用法と非制限用法が話題になっています」と題してお話しした.
関係詞に限らず,単純な形容詞を含め,名詞を修飾する付加詞 (adjunct) には,機能的に大きく分けて2つの種類がある.制限的付加詞 (restrictive adjunct) と非制限的付加詞 (non-restrictive adjunct) だ.Jespersen (108) より,まず前者についての説明を読んでみよう.
It will be our task now to inquire into the function of adjuncts: for what purpose or purposes are adjuncts added to primary words?
Various classes of adjuncts may here be distinguished.
The most important of these undoubtedly is the one composed of what may be called restrictive or qualifying adjuncts: their function is to restrict the primary, to limit the number of objects to which it may be applied; in other words, to specialize or define it. Thus red in a red rose restricts the applicability of the word rose to one particular sub-class of the whole class of roses, it specializes and defines the rose of which I am speaking by excluding white and yellow roses; and so in most other instances: Napoleon the third | a new book | Icelandic peasants | a poor widow, etc.
続けて,後者について (111--12) .
Next we come to non-restrictive adjuncts as in my dear little Ann! As the adjuncts here are used not to tell which among several Anns I am speaking of (or to), but simply to characterize her, they may be termed ornamental ("epitheta ornantia") or from another point of view parenthetical adjuncts. Their use is generally of an emotional or even sentimental, though not always complimentary, character, while restrictive adjuncts are purely intellectual. They are very often added to proper names: Rare Ben Johnson | Beautiful Evelyn Hope is dead (Browning) | poor, hearty, honest, little Miss La Creevy (Dickens) | dear, dirty Dublin | le bon Diew. In this extremely sagacious little man, this alone defines, the other adjuncts merely describe parenthetically, but in he is an extremely sagacious man the adjunct is restrictive.
ただし,付加詞の機能として2種類が区別されるとはいっても,それが形式的に区別されているかといえば,必ずしもそうではないことに注意が必要である.
・ Jespersen, O. The Philosophy of Grammar. London: Allen and Unwin, 1924.
6月10日(火)の夜に Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) で生配信した「千本ノック」を,helwa アーカイヴとしても配信しました.今回の千本ノックは,6月18日(水)に発売予定の『英語語源ハンドブック』(研究社)の共著者・校閲協力者の4名が集まっての豪華版でした.千本ノックでお馴染みの小河舜氏(上智大学)に加え,千本ノックには初登場となる唐澤一友氏(立教大学)と福田一貴氏(駒澤大学)も参加されました.
84分ほどの長尺となりましたので,アーカイヴでは前編と後編に2分割しています.
・ 【英語史の輪 #301】英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 唐澤一友さん,福田一貴さん,小河舜さん(前編)(約50分)
・ 【英語史の輪 #302】英語に関する素朴な疑問 千本ノック with 唐澤一友さん,福田一貴さん,小河舜さん(後編)(約34分)
英語史研究者4名での千本ノックは初めてでしたが,限定配信かつ深夜便ということで,もちろん学びもありましたが爆笑シーンも多々あり,新鮮な千本ノック回となりました.heldio の通常配信には流しにくいトンデモ回答も続出し,ある意味で聴きごたえのある内容となっています.
今回取り上げた素朴な疑問は,いつも通り,大学生から寄せてもらっていた疑問リストからランダムに選んだ9問です.普段の千本ノックよりもじっくりと議論できたように思います.
(1) なぜ英語は大文字で文が始まるの?
(2) どのような過程で英語はラテン語から変遷していったの?(←勘違いの質問です)
(3) 「What a/an +形容詞+名詞+主語+動詞」や「How +形容詞+主語+動詞」などの感嘆文の語順はどうなっているの?
(4) なぜ「カフェオレ」は(英語の coffee with milk ではなく)フランス語 café au lait なの?
(5) どうしてアルファベットは26文字なの? 日本語は平仮名だけで50音あるので,少なすぎるように感じます.
(6) 英語,スペイン語は English, Spanish などといいますが,日本語,中国語は *Japanish,*Chinish にならないのはなぜ?
(7) <th> は機能語の語頭で有声化したということですが,through ではなぜ無声のままなのですか?
(8) なぜ discuss には about が要らないのか?
(9) 月名が9月以降は -ber になるのはなぜ?
helwa は月額800円のサブスク配信ですが,初月は無料ですので,これを機にぜひお入りいただければ.
先週の土曜日,6月7日に京都の立命館大学で開かれた日本中世英語英文学会西支部例会へ参加してきました.来る6月18日に研究社から出版される『英語語源ハンドブック』の新刊紹介の機会をいただいていたのです.新刊紹介のセッションは以下の通りでした.
新刊紹介 (15:10~15:50)
『英語語源ハンドブック』(研究社,2025年)
唐澤 一友(立教大学教授)
小塚 良孝(愛知教育大学教授)
堀田 隆一(慶應義塾大学教授)
司会 福田 一貴(駒澤大学教授)
共著者の唐澤氏,小塚氏とともに登壇し,校閲協力者のお1人である福田氏に司会を務めていただきました.新刊紹介のために40分という異例の長さのお時間を賜わり,深く感謝いたします.当日,会場には40~50名ほどの参加者が集まってくださり,皆さんの熱心な視線を感じながらのセッションとなりました.今回の記事では,当日のセッションの様子を振り返りつつ,本書のねらいと特徴を改めて紹介したいと思います.
一昨日の記事「#5888. khelf の藤平さんに『英語語源ハンドブック』のチラシを作成していただきました」 ([2025-06-10-1]) でご紹介した広報用のチラシを60部用意して臨んだのですが,すべてなくなりました.また,出来たての『ハンドブック』の見本2部を会場で回覧したところ,多くの方にじっくりと手に取っていただけたようです.その効果もあってか(!?),翌日の Amazon 新刊ランキング「英語」部門で1位に返り咲くことができました.ご参加くださった皆様,本当にありがとうございました.
セッションでは,まず司会の福田氏から,本書がこれまでの類書とどう違うのか,という話から始まりました.従来の語源本と異なり,英語史の専門家3名が集まって制作した点に本書のユニークさがある旨が指摘されました.
これを受けて,唐澤氏は,本書が単なる「語源本」ではなく「英語史入門」として読めるように作られている旨を述べました.個々の単語をきっかけに,その背景にある英語の歴史(音の変化,綴字の変化,意味の変化など)に自然と触れられるように設計されている,ということです.
次に小塚氏は,小学校から大学までの英語の教員や学習者といった,幅広い読者を想定している点に触れました.このような読者層を念頭に,1つひとつの単語の歴史を丁寧に描くことを心がけたとのことです.専門家向けの辞典と,一般的な学習参考書の間のギャップを埋めることこそ,英語史専門家がこの本を書いた意義だと語りました.
堀田からは,企画当初からいわゆる「ボキャビル本」とは異なるものを作りたいと考えていたことを話しました.そのための鍵が,小塚氏のアイディアである「JACET8000の基本1000語」に絞るという戦略でした.誰もが知る単語を入口にしつつも,印欧語根まで遡ったり,そこから広がる別の単語も紹介したりすることで,より専門的な英語史の世界や上級者向けの辞典への「橋渡し」となることを強く意識した,という次第です.専門書では当たり前すぎて説明が省かれがちな「グリムの法則」なども,本書では具体例に即して逐一言及し,丁寧に解説しています.
セッションでは,「基本1000語」を扱う上での工夫や苦労話にも花が咲きました.唐澤氏は,印欧語根まで遡って解説することで語彙のネットワーク的な広がりを感じられるようにした点を,小塚氏は,言語の背景にある社会や文化が垣間見える意味変化の魅力をたくさん盛り込んだ点を挙げていました.堀田からは,各見出し語に付けた「キャッチコピー」決めの舞台裏を紹介しました.なかなか大変な作業で,ウンウン唸りながら,なんとかかんとかひねり出したものが多いなど,打ち明け話しで盛り上がりました.
最後に,この企画の意外な誕生秘話を披露しました.実は今から10年近く前,日本中世英語英文学会の懇親会の3次会の席で,この3名で「こんな本があったらおもしろいよね」と語り合ったのがすべての始まりだったようなのです(このことは,小塚氏のみが記憶していました).学会での雑談がきっかけで生まれた本を,時を経てその学会(の支部)で紹介できたことは,実に感慨深いものがあります.
セッションの締めくくりには,会場で参加していた校閲協力者の小河舜氏(上智大学)からも「専門家にも一般の読者にもちょうど良いバランスの本」「さらなる学習へのジャンプ台になる本」という,嬉しいコメントをいただきました.
この本が,多くの人にとって英語(史)の奥深さに触れるきっかけになってくれることを願っています.
なお,本記事と同趣旨で,6月11日に唐澤氏,福田氏,小河氏とともに4人で heldio にて「#1473. 土曜日の『英語語源ハンドブック』新刊紹介の振り返り」を配信していますので,そちらもお聴きいただければ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
今年度も朝日カルチャーセンター新宿教室にて,英語史のシリーズ講座を月に一度の頻度で開講しています.新シリーズは「歴史上もっとも不思議な英単語」と題して,毎回1つ豊かな歴史と含蓄をもつ単語を取り上げ,『英語語源辞典』(研究社)などの文献を参照しながら,英語史の魅力に迫ります.
春期クールの第3回は,来週末の6月21日(土) 17:30~19:00 に開講される予定です.タイトルとして「autumn --- 類義語に揉み続けられてきた季節語」を掲げています.なぜ「秋」を意味する単語には autumn と fall があるのでしょうか? 両者は何がどう異なるのでしょうか? 他の季節名 spring, summer, winter の各々の語源は? それぞれに動詞用法がありますが,その意味は? 英語には昔から四季があったの? 季節をめぐる疑問は尽きません.今回の講座では autumn を中心に季節に関わる語彙の歴史をひもときつつ,英語話者集団の季節感の変遷をたどります.
また,6月18日(水)に発売予定の『英語語源ハンドブック』(研究社)の「テーマ別」セクションにて,まさに今回取り上げる季節語4語が立項されています.講座ではこちらの記述にも注目する予定です.『ハンドブック』発売直後の講座となりますので,同書そのものについてもいくつかお話しできればと思っています.ご関心のある方は,受講の際に,ぜひ『英語語源辞典』および『英語語源ハンドブック』を傍らに置いていただければ.
受講形式は,新宿教室での対面受講に加え,オンライン受講も選択可能です.また,2週間限定の見逃し配信もご利用できます.ご都合のよい方法で参加いただければ幸いです.講座の詳細・お申込みは朝カルのこちらのページよりどうぞ.皆様のエントリーを心よりお待ちしています.
(以下,後記:2025/06/16(Mon))
本講座の予告については heldio にて「#1478. 6月21日の朝カル講座では季節語に注目します --- 発売直後の『#英語語源ハンドブック』も大活躍するはず」としてお話ししています.ぜひそちらもお聴きください.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
去る6月7日(土)に,立命館大学の衣笠キャンパスにて,日本中世英語英文学会の第41回西支部例会が開催されました.そこで,来たる6月18日(水)に発売予定の『英語語源ハンドブック』を,共著者3名が紹介させていただくというありがたいセッションを設けていただきました.その折に,広報のために紙のチラシ(上掲)を配布いたしましたが,持参した60部はすべて来場者にお持ちいただきました.関係者一同嬉しく思っております.
この素敵なチラシを作成してくれたのは,khelf(慶應英語史フォーラム)メンバーの藤平さんです.藤平さんにはこの場を借りて心より感謝申し上げます.ありがとうございます.研究社の営業担当の方々も含め関係者の皆が異口同音に素晴らしいと評する出来映えのチラシなので,『ハンドブック』の特徴ともども,hellog 読者の皆さんにもじっくりご覧いただきたく,本日の記事で紹介します.
まず目を引くのが,本書のキャッチコピー「約1000の基本語から広がり・深まり・つながっていく」です.この惹句は,本書のコンセプトを的確に表現しています.全体の色使いやレイアウトも洗練されており,公式のものといっても過言ではないほどの完成度ですね(←妙な言い方でした,実際のところ研究社公認のチラシなのです).
チラシでは書の特色が箇条書きで分かりやすくまとめられています.いくつか引用してみましょう.
・ 英語史の専門家による英語語源本
・ エビデンスに基づいて精選された約1000の基本語を徹底解説
・ 授業に使えるネタが満載
・ JACET1000の基本語を徹底解説
・ 英語史の入門書としても活用できる
執筆者・校閲協力者が全員英語史の専門家であること,そして学習基本語約1000語を対象としていることが,本書の大きな柱です .チラシでは,その点が明確に打ち出されています.また,「授業に使えるネタ」や「英語史の入門書」といった具体的な活用法に触れているのも,読者にとって親切なガイドとなります.先日の Amazon 新着ランキング「英語」部門で1位獲得のニュースも,目立つように挿入してくれています,ナイス!
また,このチラシの中程では,研究社公式HPの「試し読み」(PDFへの直接リンク)で公開されている部分より paper の項目をサンプルとして抜き出し,内容の雰囲気を伝えています.これを見ると,単語の語源解説にとどまらず,その背景にある文化史(紙の歴史など)にも触れていることがよく分かります .また,paper がギリシア語で「パピルス」を意味する語に遡ること,そして同じ語源からフランス語経由で入った paper と,ラテン語から直接入った papyrus とが二重語 (doublet) の関係にあることなど,英語史の醍醐味がコンパクトに示されています.
このチラシは,研究社公認のものであり,作成者の許可もいただいていますので,改変しない限り,画像やPDFのデジタル資料としても,印刷した紙の資料としても,hellog 読者の皆さんには,ご自由に閲覧・ダウンロード・利用していただけます.むしろ『英語語源ハンドブック』の存在をあまねく知っていただけるよう,SNS でも,学校・塾の授業でも,各種会合などでも,なるべく広く頒布していただけますと幸いです.本書発売まであと8日ほど.皆さんも,ぜひこのチラシを眺めて,本書への期待を膨らませていただければ幸いです.
・ チラシの画像 (PNG) はこちら
・ チラシの PDF はこちら
今回紹介したチラシについては,本日の heldio 「#1472. 『英語語源ハンドブック』発売まであと8日 --- eight の項を覗き見」の第3チャプターでも触れています.ぜひお聴きください.
合わせて,チラシ作成者,藤平さんの heldio 出演回「#598. メタファーとは何か? 卒業生の藤平さんとの対談」もどうぞ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
5月24日(土)に,今年度の朝日カルチャーセンターのシリーズ講座「歴史上もっとも不思議な英単語」の第2回として「through --- あまりに多様な綴字をもつ語」が,新宿教室にて開講されました.Voicy heldio にて「#1448. 5月24日の朝カル講座では through に注目します」で予告した通りです.
この第2回講座の内容を markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理しました(画像としてはこちらからどうぞ).復習用にご参照いただければ.
一昨日の夜,6月18日に研究社より発売予定の『英語語源ハンドブック』の共著者・校閲協力者である唐澤一友氏,小塚良孝氏,福田一貴氏,堀田隆一の4名が京都は丸太町の鳥どころの個室に集い,『英語語源ハンドブック』(研究社)について語る会を催しました.
この会合は『英語語源ハンドブック』の情報が公開されて以来,著者3名を含む関係者が初めて対面で一堂に会する貴重な機会となりました.しかも,目の前には出来たてホヤホヤの,製本された『英語語源ハンドブック』の実物が置かれていました.この生の手触り感は,5月20日の「予約爆撃アワー企画」の時とはまた異なる,格別の興奮を私たちにもたらしました.そして,この興奮の様子を heldio にて実況生配信した次第です.ライヴでお付き合いいただいたリスナーの皆さん,ありがとうございました.その翌朝(=昨朝),そのアーカイヴ版を「#1469. 『英語語源ハンドブック』の著者対談@京都」として配信しました.32分ほどの音声配信となります.ぜひお時間のあるときにお聴きいただければ.以下では,その配信内容をかいつまんで紹介し,共著者らの語る『英語語源ハンドブック』の魅力と狙いを hellog の読者の皆さんにもお伝えしたいと思います.
本書の企画の根幹をなすアイデアは,「新JACET8000」の最頻1000語を対象とするという点にあります.この着想は,共著者の1人,小塚氏によるものです.従来の語源本が,TOEIC 対策やボキャビルを主眼とし,中上級者向けの難解な単語やラテン語系の接頭辞・接尾辞を中心に扱ってきたのに対し,本書はむしろ逆のアプローチを取ります.というのは,私たちが目指したのは,特定の学習者層に限定されない,すべての英語学習者のために開かれつつ,とりわけ英語教師に資する「虎の巻」となるような一冊だったからです.小学校から大学に至るまで,どの教育段階においても必ず触れるであろう基本的な単語群.その語源を探ることこそが,英語という言語の根幹への理解を深める最も確実な道筋だと考えたのです.
しかし,このアプローチは執筆者にとって大きな挑戦でもありました.予めリストアップされた1000語のなかには,語源的に特筆すべき変化に乏しい単語や,そもそも語源がはっきりしない単語も含まれます.「書けそうな単語を集めてくる」既存の語源本とは異なり,私たちには「逃げ道」がないのです.唐澤氏が「力が試される」と述べていたように ,与えられた素材をいかにして魅力的な語りの俎上に載せるか,まさに英語史研究者としての力量が問われる作業だったのです.
その挑戦から生まれた工夫の1つが,各見出し語に必ず付されている「キャッチコピー」です.たとえば so のような,一見すると語源的な広がりを語りにくい単語に「様々な単語に組み込まれている」,あるいは soft に「五感への意味の広がり」といったコピーを付していくのです.この短いキャッチコピーは,読者の知的好奇心を刺激する導入として機能するだけでなく,私たち執筆者自身が各単語の核心を捉えるための指針ともなりました.ときに編集者の方からも厳しくも温かい指摘を受けながら,一つひとつのキャッチコピーを練り上げた過程は,苦しくも創造的な営みでした.
本書のもう1つの大きな特徴は,種本ともいえる『英語語源辞典』 (kdee) との補完的関係性にあります.KDEE が専門家向けに,印欧祖語から古英語への形態的な流れを中心に記述しており,意味変化については必ずしも網羅的ではなかったのに対し,『英語語源ハンドブック』ではその点を意識的に補っています.なぜその意味が生まれたのか,その背景にある社会や文化の変化にまで踏み込んで解説することを試みました.また,大母音推移 (gvs) やグリムの法則 (grimms_law) といった英語史の基本的な音変化や,綴字の変化についても,KDEE では前提知識として省略されがちな部分を,ハンドブックでは丁寧に解説しています.「英語史入門と専門的な語源研究の世界とを橋渡しする一冊」として仕上がったといえます
400ページを超える分量ながらも,持ち運びやすい比較的コンパクトな判型,目的の単語を探しやすい「ツメ」の採用など,ハンドブックとしての物理的な使いやすさにもこだわりがみられます.巻頭には英語史概説,巻末には英語史の用語解説も付されており,これ一冊で英語史の基礎知識がある程度身につくように設計されています.
校閲協力者の福田氏は,読んでいるうちに自然と『英語語源辞典』の使い方もわかってくるとも評しています.本ハンドブックは「調べる」辞書であると同時に,物語として「読む」本でもあります.毎日1つか2つ,項目を読み進めるだけで,英語の世界がより深く,立体的に見えてくるはずです.英語史の専門家が集い,一般の読者に向けてここまでアクセシブルな形で語源の魅力を伝えようとした本は,これまでになかったものと自負しています.
発売まであと10日ほどです.私たち関係者一同も引き続き,様々な形で本書の魅力をお伝えしていきたいと思います.昨日の記事「#5885. 7月19日(土)「深堀り『英語語源ハンドブック』徹底解読術 出版記念・鼎談」を朝日カルチャーセンター新宿教室にて開催」 ([2025-06-07-1]) で取り上げたとおり,1ヶ月ほど後には,共著者らによる出版記念講座の開催も予定しています.今後も,ぜひ『英語語源ハンドブック』をとりまくイベント全体にお付き合いいただければ幸いです.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
本ブログでもたびたび話題にしている『英語語源ハンドブック』(研究社)が,11日後の6月18日に発売される予定です.その発売からほぼ1ヶ月後の7月19日(土) 15:30--17:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて,共著者の唐澤一友氏,小塚良孝氏,堀田隆一の3名が集まり「深堀り『英語語源ハンドブック』徹底解読術 出版記念・鼎談」を開講します.今回の記事はその告知となります.
たいへんありがたいことに,すでに本書にご期待を寄せていただいている方々も多いと聞いています.本書が皆さんのお手元に届き,ページを繰っていただいているであろう頃合いに,この鼎談講座を開講することになります.講座の目的は,単なる近刊書紹介にとどまりません.副題に「徹底解読術」とあるように,発売後だからこそ語れる本書の魅力と,読者の皆さんに最大限に活用していただくための方法を,90分という時間に凝縮してお届けすることにあります.
鼎談では,まず本書全体の構成や効果的な読み方のポイントについて解説します.通読するもよし,辞書的に引くもよし,あるいは気の向くままに拾い読みするもよし.それぞれの楽しみ方があるかと思いますが,著者ならではの視点から,より深い「解読術」を伝授したいと思います.
そして,鼎談の醍醐味はここからです.唐澤氏,小塚氏,そして堀田が,それぞれの専門的見地から「イチオシの語源」を取り上げ,深掘り解説します.「え,あの単語とこの単語が繋がるの?」といった語源探求の驚きと興奮を,ライブで共有できれば幸いです.もちろん,執筆の裏話や,こぼれ話も満載となる予定です.3人の英語史研究者が集まれば,話しがどこまで転がっていくかは予想できませんので,私自身も大変楽しみです.
講座は,新宿の教室にお越しいただいての対面受講と,Zoom を利用したオンライン受講のどちらでも可能なハイブリッド形式です.遠方の方や当日のご都合が悪い方も,気軽にご参加いただけます.さらに,後日2週間限定の見逃し配信も用意されていますので,復習にもご活用いただけます.当日は質疑応答の時間も設けたいと思っております.皆さんが日頃抱いている語源に関する疑問を,著者陣に直接ぶつけるまたとない機会となるはずです.
また,当日は会場にて書籍販売とサイン会も予定されています.ぜひお手元の『英語語源ハンドブック』を片手に(あるいは会場でご入手いただき),英語史のロマンと語源探求のおもしろさを一緒に体感できればと思います.英語を学んでいる方,教えている方,そして純粋に言葉の歴史に興味のあるすべての方々のご参加を心よりお待ちしています.
改めて,講座の詳細は以下の通りです.
・ 講座名: 深堀り『英語語源ハンドブック』徹底解読術 出版記念・鼎談
・ 講師: 唐澤 一友(立教大学教授),小塚 良孝(愛知教育大学教授),堀田 隆一(慶應義塾大学教授)
・ 日時: 7月19日(土) 15:30--17:00
・ 形式: 教室での対面受講,または Zoom でのオンライン受講(2週間の見逃し配信あり)
・ 会場: 朝日カルチャーセンター新宿教室
・ 備考: 書籍販売,サイン会あり
お申し込みや詳細の確認は,こちらの公式サイトよりどうぞ.
7月19日,新宿の教室で,あるいは画面越しに,皆さんとお会いできることを楽しみにしています.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
昨日の記事に引き続き,5月30日(金)に YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」で公開された英語史トークの後編(26分ほど)をご紹介します.タイトルは「【ややこしい英語が世界的言語になるまで】文法が確立したのはたった250年前|an appleのanは「発音しやすくするため」ではない|なぜ複数形はsばかりなのか|言語の"伝播"=権力」です.以下,動画を観る時間がない方のために,文章としても掲載します.
後編では,さらに踏み込んで,文法の変化や,英語が今日の「世界語」としての地位を築くに至った背景など,より大きなテーマについてお話ししています.
まず,文法の変化についてです.現代英語の大きな特徴の一つに,語順が厳格に定まっている点が挙げられます.「主語+動詞+目的語」 (SVO) という型が基本であり,これを崩すと文の意味が通じなくなったり,非文法的になったりします.しかし,1000年前の古英語の時代に遡ると,語順はもっと自由でした.名詞の格変化が豊かだったため,語順を入れ替えても文の骨格が崩れにくかったのです.この点では,現代日本語と比較できるタイプだったのです.
現代英語のような固定語順の文法が確立したのは,歴史的にみれば比較的最近のことです.18世紀半ば,いわゆる規範文法の時代に,ロバート・ラウス (Robert Lowth) などの文法学者が「正しい」英語のルールを定め,それが教育を通じて社会に広まっていきました.それ以前は,互いに意味が通じればそれでよい,というような,より自然発生的で流動的な文法が主流だったのです.
次に,名詞の複数形の歴史も興味深いテーマです.現代英語では,名詞の複数形は99%近くが語尾に -s をつけることで作られます.これは非常に規則的で,学習者にとってはありがたい点かもしれません.しかし,これもまた歴史の産物です.古英語では,複数形の作り方は一様ではなく,現代ドイツ語のように,名詞の性や格変化の種類によって様々なパターンがありました.
その名残が,現代英語に不規則複数形として生き残っている単語群です.例えば,ox/oxen のように -n で複数形を作るタイプ,foot/feet や man/men のように語幹の母音を変化させるタイプ,そして child/children のように古英語の名詞複数語尾 -ru に由来する -r- を含むタイプなどです.これらの単語がなぜ現代まで不規則なまま残っているのかというと,きわめて基本的な日常語彙であり,使用頻度が高かったために,-s をつけるという新しい規則の波に飲み込まれずに抵抗し得たからです.
トークでは,不定冠詞 a/an の使い分けについても,学校文法で習う説明とは逆の歴史を明らかにしました.私たちは「次にくる単語が母音で始まるときには,発音の便宜上 an を使う」と学びます.しかし,歴史の真実はその逆です.もともと不定冠詞は,数字の one が弱まった an という形しかありませんでした.つまり,an apple こそがデフォルトの形だったのです.そして,an book のように次に子音が続く場合に,/n/ と /b/ という子音が連続して発音しにくいために,n のほうが脱落して a book という形が生まれたのです.まさに目から鱗が落ちるような事実ではありませんか.
そして最後に,最も大きな問い「なぜ英語は世界語になったのか?」についてお話ししました.この問いに対する答えは,言語そのものの性質 --- たとえば文法が単純だからとか,語彙が豊富だからとか --- とは,ほとんど無関係です.ある言語が国際的な地位を得るかどうかは,ひとえに,その言語を話す人々の社会がもつつ「力」,すなわち政治力,軍事力,経済力,技術力といったパワーに依存します.
英語の場合,18世紀以降のイギリス帝国の世界展開と,20世紀以降のアメリカ合衆国の圧倒的な国力が,その言語を世界中へ押し広げる原動力となりました.これは歴史上,漢文を国際語たらしめた古代中国の力や,ラテン語をヨーロッパの公用語としたローマ帝国の力と,まったく同じ原理です.言語の影響力は,常に社会的な力の勾配に沿って,上から下へと流れるのです.
このように,英語の歴史を学ぶことは,単なる暗記ではなく,現代英語の姿の背後にあるダイナミックな変化の過程と,その背景にある人々の社会や文化を理解する営みです.「言葉の乱れ」を嘆く声も,長い歴史のスケールで見れば,言語が生きている証としての自然な変化の1コマに過ぎないことが見えてきます.
トーク前編と合わせてご覧いただくことで,英語という言語の立体的な姿を感じていただけることと思います.
5月30日(金),YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」にて,前後編の2回にわたり,「英語に関する素朴な疑問」に答えながら英語史を導入するトークが公開されました.フリーアナウンサーの近藤さや香さんとともに,計60分ほどお話をしています.
前編は「【know の K はなぜ発音しない?「英語史」で英語のナゼがわかる】国内唯一慶應だけの必修科目|古代英語はもはや別言語|500通り以上の綴りがある英単語|"憧れ"と"威信"が英語を変化させた」と題して,35分ほどお話ししました.動画を観る時間がない方のために,以下に文章としてお届けします.
今回のトーク番組(前編)では,英語史の魅力や学びのおもしろさを,特に現代英語が抱える様々な疑問と絡めながら,導入的に解説しています.hellog の読者の皆さんにも,きっと楽しんでいただける内容かと思います.
そもそも英語史とは,単に英語という言語の歴史を追うだけではありません.その言語を話してきた人々の社会や文化の歴史,つまりは世界史と密接に結びついた,実に奥深い分野です.私は英語史は「英語」と「歴史」であると考えています.
なぜ英語史を学ぶのでしょうか.それは,現代英語を学習するなかで誰もが抱く素朴な疑問,たとえば,なぜ3単現に -s がつくのか,なぜ不規則動詞はこんなにも多いのか,そしてとりわけ「なぜ英語の綴字と発音はこれほどまでに食い違うのか」といった問いに対して,歴史的な視点から実に鮮やかな説明を与えてくれるからです.私自身,学生時代にこの「腑に落ちる」感覚に魅了され,英語史研究の道へと進むことになりました.今回の番組では,このおもしろさの一端でもお伝えできればと思っています.
さて,番組の中心的な話題となったのは,英語の綴字と発音の乖離の問題です.英語の歴史は約1600年間ほどあり,大まかに古英語(449--1100年頃),中英語(1100--1500年頃),近代英語(1500--1900年頃),現代英語(1500--現在)の4期に区分されます.中英語であれば,訓練を積んだ英語ネイティブならなんとか読解可能ですが,古英語に至っては,用いられている文字も異なり,もはや外国語にしか見えないでしょう.
この長い歴史のなかで,綴字と発音の間にずれが生じる原因は多数ありました.番組では,主な要因を3つほど紹介しました.1つ目は,方言の混交です.特に中英語期には,イングランド内で多様な方言が話されており「標準語」というべきものが存在しませんでした.後の時代に標準化が進んでいく過程で,ある単語の綴字はとある方言から採用され,発音は別の方言から採用される,というようなミスマッチが生じたのです.例えば busy /ˈbɪzi/ という単語の <u> の綴字はイングランド西部方言に由来し,/ɪ/ という発音は北部方言に由来します.build の <ui> という綴字も,同様の混乱が生んだ産物です.
2つ目は,ルネサンス期の学者たちによる「お洒落」な改変です.16世紀,古典語であるラテン語やギリシア語への憧れから,教養ある学者たちが,単語の語源を綴字に反映させようと試みました.その結果,本来発音されない文字が,語源に倣って意図的に挿入されることになったのです.典型的な例が doubt の <b> (ラテン語 dubitāre に由来)や receipt の <p> (ラテン語 recepta に由来)です.当時の読み書きは知識階級の独占物だったため,彼らの決めた綴字が「正しい」ものとして定着してしまいました.そのような綴字は,教育を通じて世代から世代へと受け継がれ,一種の制度として固定化されていきました.綴字改革運動が繰り広げられることしばしばもありましたが,ほぼすべてが成功せずに現在に至ります.
3つ目は,自然な音変化です.know や knife の語頭の <k> が発音されないのは,この例です.かつては /kn/ と発音されていたこの子音連鎖が,17世紀末から18世紀にかけて弱まり,やがて /k/ の音が脱落しました.しかし,その音変化が完了するより前に綴字が固定化してしまっていたため,発音されない <k> が綴字においては現代に至るまで残存しているというわけです.
番組では,中英語期にとりわけ豊かな綴字のヴァリエーションを示した単語として through を挙げました.私が調査したところでは,この単語には実に516種類もの綴字がありました.また,古英語や中英語で用いられていた文字 <þ> (thorn) が,なぜわざわざ <th> という2文字の組み合わせに置き換えられてしまったのか,という話題にも触れました.これには,1066年のノルマン征服以降に英語に流入したフランス単語が放っていた威信が関係します.フランス語にはない文字 <þ> は「野暮ったい」とされ,フランス語風の <th> を用いるのが「お洒落」と見なされるようになったのです.言語の変化とは,必ずしも合理性や利便性だけで駆動するのではなく,こうした「ファッション」というべき非合理的な要因にも大きく左右される,実に人間臭い営みなのです.
このように,英語の歴史を紐解くことで,現代英語の不可解な側面に光を当てることができます.英語史の知識は,英語学習者が抱えるフラストレーションを,知的な好奇心へと転化させる力を持っているといえるのです.
今回の番組は,英語史の導入として,あるいは英語という言語への関心を深めるきっかけとして,多くの方にご覧いただければ幸いです.
今週末6月7日(土)の午後は,近刊書『英語語源ハンドブック』(研究社)をめぐり京都が熱い!
立命館大学の衣笠キャンパスにて,日本中世英語英文学会の第41回西支部例会が開催されます.本日より2週間後の6月18日(水)に発売予定の『英語語源ハンドブック』の共著者3名による新刊紹介セッションが開かれることになっているのです.開催要領は以下の通りです.
IV 新刊紹介 (15:10~15:50) 学而館 GJ 401 教室
『英語語源ハンドブック』(研究社,2025 年)
唐澤一友(立教大学教授)
小塚良孝(愛知教育大学教授)
堀田隆一(慶應義塾大学教授)
司会 福田一貴(駒澤大学教授)
共著者である唐澤一友氏,小塚良孝氏,そして堀田隆一の3名が対面で集合し,公の場で本書について語るのは,本書出版の情報公開後,初めての機会となります.本書の狙いや魅力についてお話しする予定です.なお,司会の福田一貴氏には,小河舜氏(上智大学)とともに,本書の校閲に協力いただいています.
本書の位置づけは,単に英単語の語源を解説する語源辞典の簡略版ハンドブックというわけではありません.むしろ,英語史の知識をいかに英語の教育・学習に活かすか,その具体的な方法を提案することに主眼を置いています.英語教員が授業で披露すれば学生の知的好奇心をくすぐるであろう豆知識や,英語学習者が単語の奥深さに触れることで記憶に定着させやすくなるようなエピソードが豊富に盛り込まれています.語源のみならず,意味・発音・用法の歴史的変遷にも光を当て,巻頭の英語史概説や巻末の用語解説と合わせて読めば,自然と英語史の基礎知識も身につくように編まれています.
本書は日本語で書かれていますが,英語タイトルとして Handbook of English Etymology (= HEE) も設定されています.発売前ではありますが,hellog でもすでに hee のタグを付けて,いくつかの記事を公開してきましたので,そちらもお読みください.
ちなみに,今回の西支部例会には,新刊紹介の直後に目玉企画が用意されています.こちらも合わせてご案内します.
V 企画発表 (16:05~17:50) 学而館 GJ 401 教室
〈仄暗き中世〉の系譜と魅力 --- 中世暗黒化言説を巡って
司会・総論 岡本広毅(立命館大学准教授)
清川祥恵(佛教大学講師)
小澤実(立教大学教授)
大西巷一(漫画家)
こちらの西支部例会にご関心のある方は,公式HPをご訪問ください.
また,『英語語源ハンドブック』の共著者らが京都入りする金曜日以降,Voicy heldio 収録や生配信などもあり得ますので,ぜひ私の heldio および X アカウントをフォローして,続報をお待ちください.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
昨日5月30日(金),YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」にて,前後編の2回にわたり,「英語に関する素朴な疑問」に答えながら英語史を導入するトークが公開されました.フリーアナウンサーの近藤さや香さんとともに,計60分ほどお話をしています.
前編は「【know の K はなぜ発音しない?「英語史」で英語のナゼがわかる】国内唯一慶應だけの必修科目|古代英語はもはや別言語|500通り以上の綴りがある英単語|"憧れ"と"威信"が英語を変化させた」と題して,35分ほどお話ししています.こちらの告知記事,および下記の分秒リストと合わせて,ご視聴いただければ.
00:00 オープニング
01:27 英語史とは何か
03:48 国内唯一 慶應だけの必修授業
04:27 英語史研究者になった理由
07:24 古英語,中英語とは
10:56 なぜ綴りと発音が違うのか
15:25 読まない b や p がある理由
19:25 なぜ綴りと発音を統一しないのか
22:53 読まない k や gh がある理由
28:15 through には500以上の綴りがあった
33:00 英語を変化させた憧れと威信
後編は26分ほどの「【ややこしい英語が世界的言語になるまで】文法が確立したのはたった250年前|an appleのanは「発音しやすくするため」ではない|なぜ複数形はsばかりなのか|言語の"伝播"=権力」です.こちら告知記事もどうぞ.
00:00 オープニング
01:18 child の複数形はなぜ children なのか
05:43 なぜ a apple ではなく an apple なのか
09:20 文法が決まるまでの過程
15:04 なぜ英語が世界的な言語になったのか
19:53 英語史を学んで見えてくるもの
今回の動画を通じて,1人でも多くの方に英語史のおもしろさや意義が伝わればと思います.
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