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pronunciation_spelling - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2017-01-29 Sun

#2834. wimminherstory [political_correctness][pronunciation_spelling][spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap]

 標題の最初の語は woman の複数形 women を表わす PC 的な綴字である.従来の標準的な綴字では,woman/womenman/men からの派生であり,したがって副次的であるという含意を伴うために,それを改善すべくフェミニストが表音的な綴字を作り出したという経緯があった.現在でも主要な英和辞典には見出し語として挙がっているが,ほとんどの英英辞典では見出しが立てられていない.落ちぶれた一時限りの流行語,という扱いなのだろう.今では,歴史的な価値しか残っていない.
 同様に,history に対する herstory も,PC 史ではことのほかよく知られている.「フェミニストの観点からの歴史,女性の歴史」を指すが,やはり現在の英英辞典では扱われていない.
 Hughes (183) が,これらの語の歴史に関して解説を加えている.両語とも,すっかりこけにされてしまったものである.

Wimmin . . . attracted a lot of publicity in 1982--3 before going through the phases of satire and obsolescence prior to fading away. A similar feminist coinage was herstory, briefly institutionalized in the acronym "WITCH --- Women Inspired to Commit Herstory," in Robin Morgan's Sisterhood is Powerful (1970, p. 551). Jane Mills made this telling observation in her compendium Womanwords: "The rewriting or respeaking of history as herstory --- coined by some feminists in the 1970s --- is guaranteed to annoy most men, many women and almost all linguists" (1989, p. 118). Although the currency of herstory has declined, Elaine Showalter showed further creativity in her study Hystories: Hysterical Epidemics and the Modern Media (1997).


 wimmin について,PC 史の観点からは,上の引用に述べられているほかに言うべきことはないが,綴字の問題と関連して,もう少し議論を続けてみたい.この綴字改革(あるいは綴字操作?)の背景にある考え方は,冒頭に述べたように,<women> という綴字は否応なしに <men> を連想させてしまう.視覚的に韻を踏んでいる (eye rhyme) からである.両語の形態・意味的なつながりは,無視し得ないほどに明白である.
 ところが,発音は別の話だ.発音としては,むしろ /mɛn/ と /ˈwɪmɪn/ で韻を踏まない.つまり,発音を忠実に標記するような綴字に変えれば,両語の関係を見えにくくすることができる,ということになる.発音と綴字の乖離 (spelling_pronunciation_gap) は英語における悪名高い特徴だが,<wimmin> はまさにその特徴を逆手に取った pronunciation_spelling の技法の成果なのである.
 現代英語の綴字体系の基本方針が,表音性 (phonography) というよりも表形態素性 (morphography) にあることは,「#1332. 中英語と近代英語の綴字体系の本質的な差」 ([2012-12-19-1]),「#1386. 近代英語以降に確立してきた標準綴字体系の特徴」 ([2013-02-11-1]),「#2043. 英語綴字の表「形態素」性」 ([2014-11-30-1]) などで見てきた通りである.端的にいえば,綴字は音より意味を表わすほうに重点を置くという方針だ.<wimmin> への綴字改革は,その裏をかいて,men との意味の連想を断つのに,その対立項としての表音重視をもってする,という戦略をとったことになる.綴字の担いうる表音機能と表形態素機能という文字論上の対立を,PC という社会言語学的な目的のために利用した例といえるだろう.綴字の政治利用の1形態と言ってもよい.PC がいかなる言語的な素材を戦略的に用いてきたか,その類型論を考える際に,<wimmin> はおもしろい例を提供してくれている.
 women の発音と綴字を巡る話題については,「#223. woman の発音と綴字」 ([2009-12-06-1]),「#224. women の発音と綴字 (2)」 ([2009-12-07-1]),「#246. 男性着は「メンズ」だが,女性着は?」 ([2009-12-29-1]),「#247. 「ウィメンズ」と female」 ([2009-12-30-1]) も参照.

 ・ Hughes, Geoffrey. Political Correctness: A History of Semantics and Culture. Malden, ML: Wiley Blackwell, 2010.

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2013-03-13 Wed

#1416. shewshow (2) [spelling][corpus][ppcmbe][johnson][pronunciation_spelling]

 昨日の記事「#1414. shewshow (1)」 ([2013-03-12-1]) の続編.昨日は Helsinki Corpus を用いて初期近代英語期までの shewshow の分布を調査したが,今回は後期近代英語期における分布を PPCMBE (Penn Parsed Corpus of Modern British English; see [2010-03-03-1]) によって簡単に調査した.
 PPCMBE は,1700年から1914年までの総語数948,895語のコーパスである.これを約70年ずつの3期に分け,見出し語化された pos ファイル群を対象に検索することで shew 系列と show 系列の token 数を数え上げた.結果は以下の通り.


shew 系列show 系列総語数
1700--17698025298,764
1770--18397986368,804
1840--191417162281,327


 大雑把な数え上げではあるが,第1期と第3期は明らかに分布に有意差が出る.1800年前後を境に形勢が逆転し,show が優勢になってきたことがわかるだろう.なぜ形勢が逆転したかという理由については,Johnson の Dictionary (1755) の記述が参考になる."To SHOW" の見出しのもとに次のようにあるので,引用しておこう.

This word is frequently written shew; but since it is always pronounced and often written show, which is favoured likewise by the Dutch schowen, I have adjusted the orthography to the pronunciation.


 つまり,spelling_pronunciation ならぬ pronunciation_spelling の例ということになるのだろうか.show ほどの高頻度語でこのような一種の理性的な過程が作用したというのは不思議にも思えるが,中英語期以来,劣勢とはいえ show 系列が一応は行なわれていたという事実が背景にあったことは,確かに効いているだろう.

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2012-06-23 Sat

#1153. 名詞 advice,動詞 advise [spelling][etymological_respelling][etymology][metanalysis][caxton][loan_word][pronunciation_spelling][sobokunagimon]

 名詞は <advice> /ədˈvaɪs/ で,動詞は <advise> /ədˈvaɪz/ と異なるのはなぜか.発音と綴字の両方にかかわる素朴な疑問が寄せられた.OED や語源辞典の記述を参考に,謎を解いてゆく.
 まず,この語の成り立ちを振り返ってみる.ラテン語の接頭辞 ad- "to" に,vidēre "to see" の過去分詞 vīsum を加えたもので,原義は "according to one's view" ほどである.ここから,俗ラテン語へ *advīsu(m) "opinion" として伝わったのではないかと考えられている.古仏語における語形成もこれと平行的だったと想定されており,ce m'est à vis "this is according to my view" が ce m'est avis "this is my view" と異分析されたものと説明されることが多い.また,俗ラテン語や古仏語では,この名詞より *advīsāre > aviser という動詞が派生した.
 英語へは,14世紀に古仏語から,名詞と動詞の両形が借用された.当初は,いずれの綴字にも,第1子音字として <d> は挿入されておらず,最終子音字も <c> ではなく <s> だった.一方,フランス語側では,14--16世紀に,写字生がラテン語形を参照して <d> を復活させた綴字 advis が現われる([2011-02-09-1]の記事「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」を参照).これを15世紀に Caxton が英語へ導入し,定着させた.同じ15世紀には,第2母音が長音であることを明示するために語尾に <e> が添加された.そして,16世紀には,名詞形について,語尾子音が無声であることを明示するために <s> が <c> へ書き換えられた.まとめれば,14--16世紀にかけての avis > advis > advise > advice という発音および綴字の変化を追うことができる.
 動詞については,フランス語 aviser に由来するものとして <s> は有声子音を表わしたので,上の経路の最終段階に見られる <c> への書き換えを被ることはなかった.もっとも,実際には,初期近代英語で,動詞形に <c> の綴字もあったようで,名詞形との多少の混同はあったようである.
 名詞 advice と動詞 advise の綴字は,etymological_respelling や "pronunciation spelling" ([2011-07-05-1], [2011-07-31-1]) といった複雑な過程の結果であり,その区別は語源的なものではない.同様の例として,名詞 prophecy と動詞 prophesy もある.こちらも,18世紀に確立した非語源的な綴字の対立である.

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2011-07-31 Sun

#825. "pronunciation spelling" [spelling_pronunciation][pronunciation_spelling]

 英語の発音と綴字の乖離を埋める営みとしての spelling_pronunciation についてはこれまで多くの記事で扱ってきた.しかし,同じ目的での営みだが反対の方向を示す "pronunciation spelling" というべき現象については,一般にもあまり取り上げられることがない.
 その理由は,ほとんどが非標準の綴字だからである.アメリカ英語で主に略式に用いられている lite ( = light) や thru ( = through ) は市民権を得ているほうではあるが,やはり与える印象は非標準的である.lite は低カロリーを売りにした飲料の商品名として用いられることが多いが,これは pronunciation spelling の一般的な傾向,"a trade-name or advertising campaign" (Crystal, p. 77) に用いられる傾向を示す例である.商品名は個性的でなくてはならず,みなの知っている標準的な綴字に埋没してしまっては困る.標準的な綴字から逸脱することで存在感をアピールし,名前を覚えてもらうという戦略だ.
 Crystal (77) は,pronunciation spelling の例と考えられる各種の宣伝文句を挙げている.確かに,いずれも公告が出れば目に留まる確率が高そうだ.それぞれ何の商品・サービスか,何となく分かる.

- Miami for the chosen phew (advertising holidays)
- EZ Lern (US driving school)
- Fetherwate
- Hyway Inn
- Kilzum (insect spray)
- Kwiksave
- Heinz Buildz Kidz
- Loc-tite
- No-glu
- Resistoyl
- Rol-it-on
- Wundertowl


 非標準綴字であるということは,いかがわしさを匂わすこともできる.[2011-07-05-1]の記事「海賊複数の <z>」で触れたwarez がその例となるが,これも "pronunciation spelling" の親戚といってよいだろう.
 pronunciation spelling の例が spelling pronunciation に比べて少なく,非標準的とのレーベルを貼られがちなのは,発音に合わせて綴字を変えるということ自体が不自然だからである.綴字は常に保守的であるから,それに合わせて発音が変化することはあっても,その逆は起こりにくい.この不自然さが,一方で目を引く効果を生み出すのであり,他方でいかがわしさを演出するのである.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2015-12-24-1] [2012-06-23-1]

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