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ireland - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-06-06 08:58

2025-03-28 Fri

#5814. 目次ととも再び紹介,嶋田珠巳『英語という選択 アイルランドの今』(岩波書店,2016年) [irish][irish_english][ireland][language_shift][contact][review][invisible_hand][toc][language_planning]


嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.



 嶋田珠巳先生(明海大学)による,アイルランドの言語事情に関する書籍『英語という選択 アイルランドの今』(岩波書店,2016年)について,「#2798. 嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.」 ([2016-12-24-1]),「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1]),「#2804. アイルランドにみえる母語と母国語のねじれ現象」 ([2016-12-30-1]) で参照してきた.
 今回は,同著の概要をつかむために目次を挙げておきたい.



第一章 アイルランドというフィールド
  I 地点
   民族のことばが英語に取って替わられる
   アイルランドは遠くて近い
   緑のアイルランド
   ほんのすこしの,国,案内
   パブで耳を傾けて
   その土地で感じる文化
  II 自分たちのことば
    アイルランドの二つの言語
    アイルランド語を話しますか
    母語になれない母なることば --- 言語能力と気持ちのねじれ
    アイルランド語でつながる祖先
    英語を手に入れた幸せと不幸せ
    自分たちのことばはアイルランド語
    アイルランド的なありかたのようなもの
    ケルト的悲哀
  III 可能性
    そとに開かれるアイルランド
    フィールドをもつということ
    本書のたて糸,よこ糸

第二章 ことばを引き継がないという選択
  I ことばを取り替えるということ
    アイルランド語を捨てて英語を選んだのか
    個人,コミュニティ,国レベルでの言語政策
    順位づけされる言語
  II 過去から現在
    アイルランドに起こった言語交替
    言語交替の要因
    使用領域への着目
    世代への着目と言語交替の社会心理
  III 現在から未来
    アイルランド語を守る取り組み --- 上からの政策
    いま起こっている言語交替
    親のものとは違う,第二言語としてのアイルランド語
    アイルランド語もさまざまで
    変容するアイルランド語の価値
    アイルランド使用地域の存在

第三章 アイルランド語への思い,英語への思い
    なまの声をきく
    言語交替への思い
    アイルランド語をどう見ているのか
    英語をどう見ているのか
    「英語」それとも「アイルランド英語」?
    英語をどう見ているのか
第四章 話者の言語意識にせまる
    はじめての言語調査
    コミュニティに入る
    フィールドで気づくこと
    言語使用の背後にある話者の意識
    do be 形式の言語外意味
    正しさへの意識
    アイルランドらしさへの意識
    文法形式や語彙に対する意識

第五章 ことばのなかのアイルランドらしさ
  I アイルランド英語のかたち
    特有の語彙
    現地の英語に溶け込むアイルランド語からの借用語
    アイルランド英語に特有の表現
    言語の理
    文法のしくみに「個性」をみる
    アイルランド目線の英語
  II 時の表現
    間違った英語?
    独自の体系
    How long are you here? の意味
    独自の体系
    独特の意味をもつ be after 完了
    be after 完了と have 完了の使い分け
  II 情報構造の表現
    強調構文を手がかりに
    'tis 文は分裂文か
    ことばの内部で働いているしくみ
    アイランド語をみれば合点がいく
    見た目と中身の問題
第六章 ことばが変わること,替わること
  I 言語接触
    接触言語学にとってのアイルランド英語の魅力
    形成と変化をどのようにみるか
    文法のイノベーション
  II ことばの変化と人々の気持ち
    英語と自分たちのことばとの間でゆれるアイデンティティ
    二言語主義の先にみえるものは
    言語の必然? --- 言語の危機と英語の多様性とそれぞれの選択

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参考文献
索引



 言語交替 (language_shift) ,言語接触 (contact),言語政策 (language_planning) など,社会言語学の多くの話題の交差点をなすアイルランド(英)(語)に,ぜひ注目を.

 ・ 嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.

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2025-01-09 Thu

#5736. アイルランド語 (Irish) とアイルランド英語 (Irish English) はまったく異なる言語である [irish][irish_english][ireland][contact][history][sociolinguistics][variety][germanic][celtic]

 標題の2つの言語(変種)は,名前が似ているので,ときに同一物と誤解されることがある.両者ともアイルランド島(特にアイルランド共和国)と結びついていることは確かだが,言語的には完全に異なるものである.
 アイルランド語 (Irish) は印欧語族のケルト語派に属する1言語であり,古来アイルランドの土地と結びつけられてきた.その点ではアイルランドの土着言語といってよい.
 一方,アイルランド英語 (Irish English/Hiberno-English) は,同じ印欧語族に属するとはいってもゲルマン語派に属する1言語である英語 (English) の,そのまた枝分かれした方言の1つである.ちょうどアメリカ英語,インド英語が,それぞれアメリカ訛りの英語,インド訛りの英語と理解してよいように,アイルランド英語はアイルランド訛りの英語である.英語の1変種ということだ.
 語族は同じでも語派が異なれば,事実上,完全に別の言語といってよい.誤解を恐れずにいえば,アイルランド語とアイルランド英語は,日本語と英語ほどに異なる,と述べておこう.
 近代以降,イングランドはアイルランドに対する政治・文化的影響力を獲得していったが,その過程で,外来の英語が土着のアイルランド語を徐々に置き換えていったという歴史がある.かくして,現代までにアイルランドは事実上,英語が支配する土地となった.現在,古来の土着言語であるアイルランド語は,アイルランド島の西部において人口のわずか2%ほどによって話される少数言語となっている.これは「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1]) で見たとおりである.
 アイルランド語とアイルランド英語は完全に別物と述べたが,その上で,後者は前者の風味を含んでいるという事実も指摘しておきたい.アイルランド語が土着言語であるところへ,後から英語が移植されたわけなので,そこで育っていくことになる英語変種も,基層にあったアイルランド語の言語的特徴をある程度ピックアップすることになったので,これは当然といえば当然である.
 嶋田 (184) より「アイルランドの言語史スケッチ」として図示されている関連する略年表を掲げておこう.

1600 北部から東部へイギリスの入植
 | ~(I)アイルランド語と英語の言語接触
 | 〈二言語使用が進む〉
1840s 大飢饉.アイルランド語母語話者の減少
 | 〈母語としてのアイルランド語の継承が困難に〉
1900 〈言語交替の加速化〉
 | ~(II)安定したアイルランド英語の形成から
1970s メディアの広がり,EC加盟,教育の普及
 | ~(III)アイルランド英語と主要英語変種との接触から
2000 経済成長,グローバリゼーション
 |


 締めくくりとして,嶋田 (186) の言葉を引用しておきたい.

アイルランド英語は,昔アイルランドにあったことばではなく,アイルランド語と英語の接触によって生まれた言語が現在まで続いてきたところのことばである.すなわち,アイルランド英語は,アイルランドで育ったことばが脈々と今日まで続いている連続体としてとらえることができる.


 嶋田珠巳先生(明海大学)は,アイルランドの言語事情に詳しい社会言語学者である.とりわけ以下の著書をお薦めしておきたい.
 


嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.



 本ブログでも,関連する記事として「#2798. 嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.」 ([2016-12-24-1]),「#1715. Ireland における英語の歴史」 ([2014-01-06-1]),「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1]),「#2804. アイルランドにみえる母語と母国語のねじれ現象」 ([2016-12-30-1]) を公開してきた.
 先日1月2日の Voicy helwa (有料配信)にて「【英語史の輪 #232】アイルランドの英語史」と題する回を配信した.ご関心のある方は,ぜひそちらもどうぞ.



 ・ 嶋田 珠巳 『英語という選択 アイルランドの今』 岩波書店,2016年.

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