形容詞・副詞の比較 (comparison) の話題は,本ブログでも様々に扱ってきた.現代英語でも明確に決着のついていない,比較級が -er (屈折比較)か more (句比較)かという問題の歴史的背景については,「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]),「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1]),「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#3617. -er/-est か more/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1]),「#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」」 ([2019-06-17-1]),「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1]) などで取り上げてきた.
短い語には -er 語尾をつけ,長い語には more を前置きするというのが原則である.しかし,短くもあり長くもある2音節語については,揺れが激しくてきれいに定式化できない.実際,辞書や文法書をいろいろ繰ってみると,単語ごとにどちらの比較級の形式を取るのか普通なのかについて記述が微妙に異なるのである.今回は,ひとまず LGSWE の §7.7.2 を参照して,2音節の形容詞について考えてみたい.
2音節の形容詞がいずれの比較級の形式を採用するかは,その音韻形態的構成に大きく依存することが知られている.-y で終わるものについては,-er が普通のようだ.例を挙げると,
angry, bloody, busy, crazy, dirty, easy, empty, funny, gloomy, happy, healthy, heavy, hungry, lengthy, lucky, nasty, pretty, ready, sexy, silly, tidy, tiny
-y で終わる形容詞ということでいえば,何らかの接頭辞がついて3音節になっても,比較級に -er をとる傾向がある (ex. unhappier) .英語史の観点からは,250年ほど前には状況が異なっていたらしいことが注目に値する (cf. 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])) .
一方 -ly で終わる形容詞は揺れが激しいようで,例えば early の比較級は earlier が普通だが,likely については more likely のほうが普通である.ほかに揺れを示す例としては,
costly, deadly, friendly, lively, lonely, lovely, lowly, ugly
などが挙げられる.同じく揺れを示し得るものとして,以下のように弱音節で終わる2音節の形容詞も挙げておこう.
mellow, narrow, shallow, yellow; bitter, clever, slender, tender; able, cruel, feeble, gentle, humble, little, noble, simple, subtle; sever, sincere; secure, obscure
両方の形式で揺れを示しているということは,一方から他方へと乗り換えが進んでいるということ,つまり変化の最中であることを(確証するわけではないが,少なくとも)示唆する.両形式の競合・併存はかれこれ1000年ほど続いているわけだが,いまだに結論が見えない.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
標記の -lily 副詞の話題について,最近の記事「#4268. -ly が2つ続く副詞 -lily は稀である」 ([2021-01-02-1]),「#4270. 後期近代英語には -ly が2つ続く副詞 -lily がもっとあった」 ([2021-01-04-1]),「#4271. -ly が2つ続く副詞 -lily の事例を Helsinki Corpus で検索」 ([2021-01-05-1]) で取り上げてきた.今回は,昨日の記事「#4281. ICAMET --- 中英語散文コーパス」 ([2021-01-15-1]) で紹介した ICAMET から例を集めてみる.
Perl 対応の正規表現として "\b\S+(?<!s)l[iy]l[yi](ch?)?(e(r|st)?)?\b" を検索式として与え,結果を取り出してみると111の例が挙がってきた.異綴字としてまとめると,以下の41種類である.
folily, folyly, holily, holyly, holyliche, seliliche, holili, hallyly, semlyly, lawlyly, iolily, hoolily, holylye, holylyche, fullyly, worldlyly, worldlily, wilyly, willyly, wilili, vnwortlily, vnreulili, semelily, selyly, selily, selili, sclyly, reulily, reulili, priuelyliche, li3tlyliche, iolyly, hoolyly, holilie, holiliche, hallily, folyliche, folyli, foliliche, folilich, folili
語彙項目としてまとめると,folily (40), fullyly (2), holily (41), iolily (3), lawlyly (2), li3tlyliche (1), priuelyliche (1), reulily (2), sclyly (1), seliliche (8), semlyly (3), vnreulili (1), vnwortlily (1), worldlily (2), wilili (3) となる.これまで集めてきたよりも多くの種類が出てきてくれたので,まずは今回の ICAMET の使用は成功としておきたい.
コンコーダンスラインを眺めると,近くに別の -ly 副詞(-lily ではないもの)が現われるケースが散見された.散文テキストということもあり脚韻というほどではないにせよ,一種の統語的な語呂といった要因が作用している可能性がある.いくつか例を挙げておこう(括弧内は ICAMET のファイル名).
・ And with þis wurd þis knyght was confusid, & holilie and stronglie he tuke þe ordur and vttirly forsuke all þis werld. (Alpha2)[ 固定リンク | 印刷用ページ ]
・ lyghtly and folyly to curse another. (Caxtdoc)
・ how after that they leued chastely, clenly, and holyly in thaire manere (Caxtkni)
・ pacyently and holyly without grudchyng (Caxtpro1)
・ Spoushod is a stat þet me ssel wel klenliche / and wel holylyche loki uor manie skeles (Danayen)
・ firste for to lyue holili, and after to preche trueli (Lollard)
・ Alle þat wolen lyue piteousli or holili in Crist schul suffre persecucyon. (Lollard)
・ Iff any man holily lyue & ri3twysly, Alsso warst synnars despise he nott. (Misfire)
・ whanne þei ben vnmesurably and vnreulili a3ens doom of resoun, (Pecdon1)
・ frely forgife vnto þe þinge þat þou has anese hym mysdone, folily & vnkyndely. (Rollebok)
・ þis wondyrful oned may nou3t be fulfilled parfitely, contynuelly, holyly in þis lyfe, (Rollhor1)
・ þat þay say to þame na wordes of myssawe ne vnhoneste ne of displesance vnauyssedly, / bot serue þame mekely and gladly and lawlyly; (Rollhor1)
・ and ther-for the preste muste go to that body holily and deuoutly with grete reuerence and drede, as mych as he may, (Specchri)
・ not to lyue worldlyly ne lustly ne proudely, but to lyue in bisy trauel to kepe þer sheep & wynne hem heuene; (Wyclif2)
「#4268. -ly が2つ続く副詞 -lily は稀である」 ([2021-01-02-1]),「#4270. 後期近代英語には -ly が2つ続く副詞 -lily がもっとあった」 ([2021-01-04-1]) で取り上げてきた話題の続き.今回は Helsinki Corpus を利用して,通時的に -lily 副詞の用例を集めた.
問題の接尾辞は,古い英語では現代的な -ly のみならず,-li, -lic, -lich, -liche など様々な綴字で現われていた(cf. 「#1773. ich, everich, -lich から語尾の ch が消えた時期」 ([2014-03-05-1]),「#1810. 変異のエントロピー」 ([2014-04-11-1]),「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1])).そこで,歴史的な異綴字を広くカバーする Perl 対応の正規表現として "\B(?<!s)l[iy]l[yi](ch?)?(e(r|st)?)?\b" を設定した.これで Helsinki Corpus に検索をかけたところ,古英語からは該当例が1つも挙がってこなかったが,中英語以降からいくつかの用例が得られた.
[ M1 (1150--1250) ]
・ CMSAWLES(14658): ter hire; turne+d <P 178> ham treowliliche to wit hare lauerd. & to +teos fowr sus
[ M2 (1250--1350) ]
・ CMAYENBI(7376): te+t +tet we loki ine oure herte holylyche +tane holy gost +tet is oure wytnesse.
[ M3 (1350--1420) ]
・ CMBOETH(11516): , "see now how thou mayst proeven holily and withoute corrupcioun this that I ha
・ CMBOETH(49069): is, or elles thei scholden fleten folyly. "For whiche it es that alle thingis se
・ CMCLOUD(50919): peke +tus childly, & # as it were folily and lackyng kyndly discrecion; for I do
・ CMCTPROS(21119): surably, <P 234.C1> for they that folily wasten and despenden the goodes that th
・ CMCTVERS(35881): at moste I thynke. I have my body folily despended; Blessed be God that it shal
・ CMWYCSER(2866): eth herynne +tat God may not iuge folily ony man; and so, as oure wille ha+t ned
・ CMWYCSER(45437): kyng, he wolde not +tus reigne worldlily, ne # hym was owed no sych rewme, si+t
[ M4 (1420--1500) ]
・ CMGAYTRY(5492): +tat Haly Kirke, oure modire, es hallyly ane thorow-owte +te werlde, that es, #
・ CMGAYTRY(8961): +te thre +tat ere firste, awe vs hallyly to halde anence oure Godd, and +te Seue
・ CMROLLPS(48489): . bot be ware that +ge deme # not folily him that is goed, wenand that he be ill
・ CMROLLTR(3701): erue +tam mekely, and gladly and lawlyly, +tat +tay may wyn +tat Godde hyghte to
[ E1 (1500--1569) ]
・ CEFICT1A(24697): that some curatys that loke full holyly be but desemblers & ypocrytis. <S SAMPL
[ E2 (1570--1639) ]
・ CEBOETH2(7618): Looke how proonest thou that most holyly & without spot, that we say God is the
[ E3 (1640--1710) ]
用例なし
以上のように,Helsinki Corpus で確認する限り,歴史的にも -lily 副詞は低頻度だったようにみえるが,この段階で一般的なことを結論づけるのは控えておきたい.各時代に注目したもっと大規模なコーパスを利用し,頻度をとった上で結論づける必要があるだろう.
これまで数回にわたって「-ly が2つ続く副詞 -lily」問題について考えてきたが,語源・語形成の観点から1つ留意しておくべき点がある.今回あるいはこれまでの記事で例示してきた副詞のうち follily, holily, jollily, melancholily, oilily, sillily 等については,外側の -ly を取り除いた後に基体形容詞の末尾に残る -ly は,実は形容詞を作る接尾辞 -ly そのものではなく,語幹の一部だったり,あるいはそれに別の接尾辞 -y が付随したものだったりする.このような語源的組成も -lily 副詞の許容可能性に影響してくるものと疑われるが,どうだろうか.今後も考え続けていきたい.
「#4268. -ly が2つ続く副詞 -lily は稀である」 ([2021-01-02-1]) の記事で,接尾辞 -ly が2つついて -lily の形態を示す副詞が,現代英語においては稀であることを確認した.調音上の都合による haplology (重音脱落)の効果とみてよいだろう.
しかし,古い英語においても同じ「調音上の都合」が効いていたかどうかは別途調べなければならない.というのは,中英語テキストを読んでいると,-lily のような副詞に出会うことがままあるからだ.歴史の過程で haplology を経た形態が一般的になってきたのではないかと,私は疑っている.
まずは,現代の直近の時代である後期近代英語について調べてみたい.同時期のコーパス CLMET3.0 に登場してもらおう.このコーパスに対して,(いろいろ試行錯誤した挙げ句にたどりついた)"\B(?<!s)l[iy]l[yi](ch?)?(e(r|st)?)?\b" という Perl 対応の正規表現にて検索をかけてみた.その結果を,3つの時期ごとに整理したのが以下である.
・ 第1期(1710--1780年): surlily (11 times), livelily (3), sillily (2), immortalily (1), jollily (1) --- total 18 examples
・ 第2期(1780--1850年): surlily (13), holily (3), jollily (2), sillily (2), lovelily (1) --- total 21 examples
・ 第3期(1850--1920年): sillily (2), surlily (2), jollily (1), melancholily (1), lovelily (1), oilily (1), statelily (1) --- total 9 examples
前回の記事 ([2021-01-02-1]) で示した現代英語の BNCweb から取り出した事例と比べてみると分かるように,後期近代英語期にも -lily として現われる副詞の種類には緩い傾向がありそうだ.jollily, sillily, surlily などは低頻度ながらも,どの時期にも現われている.
約1億語からなる BNCweb から取り出せたのは実質的に15例,約3,400万語からなる CLMET から取り出せたのは48例.この単純な調査と比較だけで一般的に結論づけることはできないが,後期近代英語期では現代英語期よりも -lily 副詞が現われていた(許容されていた?)ようにみえる.
接尾辞 -ly の周辺については -ly の多くの記事で扱ってきた.歴史的にみても話題が豊富な接尾辞で,「#1032. -e の衰退と -ly の発達」 ([2012-02-23-1]) や「#1189. 初期近代英語における -ly 副詞の規則化の背景」 ([2012-07-29-1]) などで,そのおもしろさを紹介してきた.
「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) で解説してきたように,現在では生産的な副詞語尾と考えられている接尾辞 -ly は,もともとは形容詞を作る接尾辞だった.その証拠に friendly, scholarly,womanly, daily, weekly, yearly などは主に形容詞として用いられる.しかし,これらの -ly 形容詞から対応する副詞を作るにはどうすればよいかと問われたら,答えられるだろうか.副詞語尾としての -ly をさらに加えて,friendlily などとするのだろうか.
きわめて生産的な副詞を作る接尾辞 -ly のことである,理屈上は確かに friendlily 等の形はあり得るし,事実,辞書に登録されているものもある.しかし,実際上は滅多にお目にかからない稀な語形である.形容詞と同形の friendly で代用したり,in a friendly manner などと迂言的に表現するのが普通だ./-lɪli/ と類似音が続くと調音的に語呂が悪い (cacophony) のが理由と思われる.結果として,haplology (重音脱落)が生じ,1つの -ly にまとめられてしまうのだろう(cf. 「#2362. haplology」 ([2015-10-15-1])).
-lily が稀であることは現代英語コーパスでも簡単に確認できる.例えば,BNCweb で "*l[i,y]ly_{ADV}" として単純検索してみると,106件が挙がってくる.各語形と頻度を列挙すると,slyly (90), jollily (4), sillily (4), surlily (2), beastlily (1), ghostlily (1), oilily (1), possiblily (1), seemlily (1), uglily (1) となる.最も頻度の高い slily の基体となる形容詞は sly /slaɪ/ であり,その ly はあくまで語幹の一部にすぎないため,今回の関心の対象から外してよい.2位タイの jollily, sillily についても,基体の形容詞 jolly, silly に含まれる -ly は,共時的にはおそらく接尾辞と感じられていないのではないか(語源的にいえば silly の -ly は確かに目下注目している接尾辞に由来するのだが).possiblily については,文脈を確認すると名詞 possibility のミススペリングであることが分かり,これも考慮から外してよい.結果として,-lily 副詞はきわめて稀であることがわかるだろう.
最近,学生から寄せられた素朴な疑問です.-ly といえば形容詞から副詞を作る典型的な語尾と理解されていますが,実は名詞から形容詞を作る際にも利用されることがあります.標題の friendly はもちろん,beastly,fatherly,knightly,scholarly,womanly などが挙げられますし,時間を表す daily,hourly,weekly,yearly なども類例です.
なぜ -ly が形容詞語尾にもなり得るのでしょうか.この謎は,この語尾の歴史をひもとけば解決します.では,音声解説をお聴きください.
そう,実は -ly はもともとは副詞というよりも形容詞を作る語尾だったのです.したがって,friendly のような語形成は,むしろ由緒正しいものといえます.しかし,中英語期にかけて生じた音変化の結果,古英語の形容詞語尾 -līċ と副詞語尾 -līċe の両方の機能を兼ねるようになった中英語の -ly は,むしろ副詞語尾としてその生産力を発揮していくようになります.いつしか -ly は,本来の機能ともいうべき形容詞語尾としてではなく,副詞語尾として認識されるようになりました.
この問題についてさらに英語史的な理解を深めたい方は,ぜひ##40,1032,1036の記事セットもご一読ください.
昨今,エントロピー (entropy) というキーワードをよく聞くようになったが,言語との関連で,この概念が話題にされることはあまりない.本ブログでは,「#838. 言語体系とエントロピー」 ([2011-08-13-1]) をはじめとして,##838,1089,1090,1587,1693 の各記事でこの用語に触れてきたが,まだ具体的な問題に適用したことはなかった.
エントロピーとは,体系としての乱雑さの度合いを示す指標である.データがいかに一様に散らばっているかを表わす尺度と言い換えてもよい.言語への応用は,Gries (112) が少し触れている.
A simple measure for categorical data is relative entropy Hrel. Hrel is 1 when the levels of the relevant categorical variable are all equally frequent, and it is 0 when all data points have the same variable level. For categorical variables with n levels, Hrel is computed as shown in formula (16), in which pi corresponds to the frequency in percent of the i-th level of the variable:
Gries は,300個の名詞句における冠詞の分布という例を挙げている.無冠詞164例,不定冠詞33例,定冠詞103例という内訳だった場合,Hrel = 0.8556091 となり,かなり不均質な分布を示すことになる.
ほかに散らばり具合が問題になるケースはいろいろと考えることができる.例えば,注目語句の出現頻度が,テキスト(のジャンル)に応じて一様か否かを測るということもできるだろう.
また,ある語に異形態や異綴字が認められる場合に,それぞれの変異形 (variants) の分布が均一か不均一かを計測することなどもできる.そのような変異の相対エントロピーが同時代の異なるテキスト(ジャンル)の間でどのくらい異なるのか,あるいは歴史的な関心からは,異なる時代のテキスト(ジャンル)の間でどのくらい異なるのかを,客観的に確かめることができるだろう.標準化その他の過程により,その変異が1つの形へ収斂してゆく場合,エントロピーが減少することになる.
具体的に考えるために,「#1773. ich, everich, -lich から語尾の ch が消えた時期」 ([2014-03-05-1]) で取り上げた,語尾の ch の脱落のデータを参照しよう.先の記事で Schlüter による集計結果の表を掲げたが,今回は,音声環境 (before V, before <h>, before C) の区別はせず,単純に ME II--ME IV の各時代に現れた変異形のトークン数のみを考慮に入れることにする.各変異形の各時代の Hrel を計算した結果の表を下に示す.
I | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) |
---|---|---|---|---|
ich | 853 | 589 | 7 | 0 |
I | 33 | 503 | 1397 | 2612 |
Hrel | 0.2295 | 0.9955 | 0.04531 | 0.0000 |
EVERY | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) |
everich | - | 12 | 10 | 9 |
everiche | - | 12 | 3 | 0 |
every | - | 5 | 112 | 152 |
Hrel | - | 0.9406 | 0.3550 | 0.1962 |
-LY | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) |
-lich | 106 | 33 | 31 | 3 |
-''liche' | 689 | 168 | 70 | 44 |
-ly | 12 | 19 | 1088 | 1444 |
Hrel | 0.4225 | 0.6390 | 0.3123 | 0.1342 |
「#1198. ic → I」 ([2012-08-07-1]) の記事で,古英語から中英語にかけて用いられた1人称単数代名詞の主格 ich が,語末の子音を消失させて近代英語の I へと発展した経緯について論じた.そこでは,純粋な音韻変化というよりは,機能語に見られる強形と弱形の競合が関わっているのではないかと提案した.
しかし,音韻的な要因が皆無というわけではなさそうだ.Schlüter によれば,後続する語頭の音に種類によって,従来の長形 ich か刷新的な短形 i かのいずれかが選ばれやすいという事実が,確かにある.
Schlüter は,Helsinki Corpus を用いて中英語期内で時代ごとに,そして後続音の種類別に,ich, everich, -lich それぞれの変異形の分布を調査した.以下に,Schlüter (224, 227, 226) に掲載されている,各々の分布表を示そう.
I | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
tokens | % | tokens | % | tokens | % | tokens | % | ||
before V | ich | 169 | 100 | 121 | 95 | 4 | 3 | 0 | 0 |
I | 0 | 0 | 6 | 5 | 135 | 97 | 253 | 100 | |
before <h> | ich | 171 | 100 | 105 | 97 | 3 | 2 | 0 | 0 |
I | 0 | 0 | 3 | 3 | 156 | 98 | 316 | 100 | |
before C | ich | 513 | 94 | 363 | 42 | 0 | 0 | 0 | 0 |
I | 33 | 6 | 494 | 58 | 1106 | 100 | 2043 | 100 | |
EVERY | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) | |||||
tokens | % | tokens | % | tokens | % | tokens | % | ||
before V | everich | - | 6 | 86 | 7 | 64 | 9 | 39 | |
everiche | - | 1 | 14 | 0 | 0 | 0 | 0 | ||
every | - | 0 | 0 | 4 | 36 | 14 | 61 | ||
before <h> | everich | - | 0 | 0 | 1 | 20 | - | ||
everiche | - | 1 | 100 | 1 | 20 | - | |||
every | - | 0 | 0 | 3 | 60 | - | |||
before C | everich | - | 6 | 29 | 2 | 2 | 0 | 0 | |
everiche | - | 10 | 48 | 2 | 2 | 0 | 0 | ||
every | - | 5 | 24 | 105 | 96 | 138 | 100 | ||
-LY | 1150--1250 (ME I) | 1250--1350 (ME II) | 1350--1420 (ME III) | 1420--1500 (ME IV) | |||||
tokens | % | tokens | % | tokens | % | tokens | % | ||
before V | -lich | 23 | 12 | 8 | 12 | 12 | 4 | 1 | 0 |
-liche | 162 | 87 | 51 | 77 | 23 | 8 | 21 | 5 | |
-ly | 1 | 1 | 7 | 11 | 251 | 88 | 421 | 95 | |
before <h> | -lich | 13 | 18 | 7 | 21 | 1 | 2 | 0 | 0 |
-liche | 59 | 82 | 24 | 73 | 8 | 14 | 0 | 0 | |
-ly | 0 | 0 | 2 | 6 | 49 | 84 | 76 | 100 | |
before C | -lich | 70 | 13 | 18 | 15 | 18 | 2 | 2 | 0 |
-liche | 468 | 85 | 93 | 77 | 39 | 5 | 23 | 2 | |
-ly | 11 | 2 | 10 | 8 | 788 | 93 | 947 | 97 |
. . . the affricate [ʧ] in final position has turned out to constitute another weak segment whose disappearance is codetermined by syllable structure constraints militating against the adjacency of two Cs or Vs across word boundaries. . . . [T]he three studies have shown that the demise of final [ʧ] proceeds at different speeds depending on the item concerned: it is given up fastest in the personal pronoun, not much later in the quantifier, and most hesitantly in the suffix. In other words, the phonetic erosion is overshadowed by lexical distinctions. Relics of the obsolescent long variants are typically found in high-frequency collocations like ich am or everichone, where the affricate is protected from erosion by the ideal phonotactic constellation it ensures.
関連して,「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) 及び「#832. every と each」 ([2011-08-07-1]) も参照.
・ Schlüter, Julia. "Weak Segments and Syllable Structure in ME." Phonological Weakness in English: From Old to Present-Day English. Ed. Donka Minkova. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2009. 199--236.
[2012-07-29-1]の記事の続編.初期近代英語では,##1172,992,984 の記事で話題にしたような強意の単純副詞が続々と現われた.しかし,口語的な響きを伝えるこのような強意の単純副詞が,英語の標準化や規範主義の潮流のなかで非難され,消えていったのも,同じ時代のことだった.ここには,副詞的に機能する語は副詞の形態(典型的に -ly)をもっているべきであり,形容詞と同形のものが副詞として機能するのは正しくないとする "correctness" の発想が濃厚である.Strang (138--39) は次のように述べている.
Secondary modifiers or intensifiers differed considerably. The old forms, full, right, were still in general use; newer very was known, but not used by everybody even in the 17c. For a more forceful degree of modification, wonderous and mighty were inherited, but such terms wear out quickly, and changes have been considerable. During II [1770--1570], pretty, extraordinary, pure, terrible, dreadful, cruel, plaguy, devillish, take on this role, and most of them have lost it again since. We must distinguish here the built-in obsolescence affecting such items at any time, from the particular factors operating between II and I [1970--1770]. These arose from a sense of correctness which prescribed that forms with the appearance of adjectives should not be used in secondary modification. Very was all right because it did not have this form; but instead of extraordinary, terrible, dreadful, etc., the corresponding -ly forms came to be required.
Strang は,強意副詞としての extraordinary や terrible の廃用は,強意語に作用する「限界効用逓減の法則」 ([2012-01-14-1]の記事「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」」を参照)によるものというよりは,規範主義的な "correctness" に基づく非難によるものだと考えているようだが,この2つの要因を "distinguish" する必要はあるだろうか.概念として区別すべきだということであれば確かにその通りだが,現実には,両者は補完し合っていたのではないだろうか.強意語はとりわけ話し言葉,口語において発達しやすい.そこでは,入れ替わり立ち替わり新しい強意語が現われては去ってゆく.一方で,規範主義はもっぱら書き言葉,文語に基づいた言語観である.そこでは,言語を固定化しようという意図が濃厚である.両者の関係は水と油のような関係に見えるが,火(規範主義)に油(口語的な強意副詞の異常な発達)を注いだと表現するのが,より適切な比喩のように思われる.口語における単純副詞の使用が強意語の発達により目立ってくればくるほど,規範による非難の対象となるし,その非難の裏返しとして,「正しい」 -ly 副詞が奨励されるようになったのではないか.皮肉なことだが,言語変化が活発である時代にこそ,強い規制が生まれがちである,ということかもしれない.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
昨日の記事「#1189. 初期近代英語における -ly 副詞の規則化の背景」 ([2012-07-29-1]) で参照した Nevalainen の論文は,題名の示すとおり,初期近代英語における副詞の様々な話題を取り上げている.雑多な印象を受けるが,全体として次の2点を指摘しているように読める.(1) 初期近代英語には,昨日の引用に記述されているとおり,-ly 副詞の規則化の流れが確かに認められるが,細かくみれば単純副詞も残存(場合によっては拡大すら)しており,いまだ過渡期と考えるべきである.(2) この時期には,-ly 形にせよ単純形にせよ,副詞が多様化し,機能や意味も拡大した.
(1) については,「#984. flat adverb はラテン系の形容詞が道を開いたか?」 ([2012-01-06-1]) や「#1172. 初期近代英語期のラテン系単純副詞」 ([2012-07-12-1]) で触れたとおり,強意語としての exceeding や dreadful などが増加した事実を取り上げている([2012-01-14-1]の記事「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」も参照).また,大部分の単純副詞が中英語期以前から文証されるものの,近代英語で初めて確認されるものもあり,既存語からの類推による副詞創成の例と考えられる (ex. shallow, tight, rough, blunt, dark, quiet, weak, dirty, cheap, bad) .なお,[2012-07-16-1]の記事「#1176. 副詞接尾辞 -ly が確立した時期」で述べた,Donner による中英語での -ly 副詞と単純副詞の意味上の区別について,Nevalainen (251) は,初期近代英語ではこの区別は体系的に見られないとしており,興味深い.
(2) については,この時代に文副詞 (sentence adverb) が増加したこと,特に法副詞 (modal adverb) が多様化したことに触れている (ex. probably, necessarily, undoubtedly, possibly, perhaps) .また,焦点化の副詞 (focusing adverb) として,even が16世紀末に「?さえ」の意味を得たことにも触れ,英語史に通じて見られる adverbialization の流れのなかに位置づけている (254--55) .
Nevalainen は,副詞発達の歴史のなかで,初期近代英語という時期は "the transitional status" (256) を表わしており,"a drift towards a more subjective expression by adverbial means" (257) を示唆するものであると結論づけている.
・ Nevalainen, Terttu. "Aspects of Adverbial Change in Early Modern English." Studies in Early Modern English. Ed. Dieter Kastovsky. Mouton de Gruyter, 1994. 243--59.
[2012-07-12-1]の記事「#1172. 初期近代英語期のラテン系単純副詞」で,-ly 副詞の発達してきた歴史を,単純副詞 (flat_adverb) の発達史と合わせて略述した.加えて,「#1176. 副詞接尾辞 -ly が確立した時期」 ([2012-07-16-1]) と「#1181. 副詞接尾辞 -ly が確立した時期 (2)」 ([2012-07-21-1]) で,-ly 副詞が確立し拡大した背景について述べた.発達,確立,拡大というのはいずれも客観性に欠ける表現ではあるが,厳密な定義は,生産性 (productivity) の定義と同じくらいに難しい.今回は,初期近代英語における -ly 副詞の規則化を話題にするが,規則化 (regularisation) も正確に定義するのが難しい.ここでは規則化という用語への深入りはせずに,-ly が標準英語で最も普通の副詞接辞として認められ,規範文法へも受け入れられてゆく過程として,緩やかにとらえておきたい.
-ly 副詞の規則化については,Nevalainen (244) によくまとまった記述がある.
The generalisation of the adverbial suffix -ly is usually attributed to the effects of standardisation. Fisher et al. (1984: 49) point out that adverbs were already regularly marked by the -ly suffix in the Chancery documents in the fifteenth century. The acceptance of the Chancery Standard was not, however, explicit outside the Chancery itself. At the beginning of the Early Modern English period, it was the printers and educators who began to assume dominant roles in the transmission of the written standard (see Nevalainen--Raumolin-Brunberg 1989: 83--88). The growing feeling for grammatical "correctness" that Knorrek (1938: 104) and Strang (1970: 139), for instance, refer to is well documented in Robert Lowth's Short Introduction to English Grammar. Bishop Lowth writes in 1762:
Adjectives are sometimes employed as adverbs: improperly, and not agreeably to the genius of the English language. As, 'indifferent honest, excellent well:' Shakespeare, Hamlet, 'extreme elaborate:' Dryden, Essay on Dram. Poet. 'marvellous graceful:' Clarendon, Life, p. 18. (Lowth 1762/1775: 93)
つまり,中英語の終わりまでに一般化の流れの見えていた -ly 副詞が,初期近代英語の時代に印刷業者や教育者による英語標準化の動きに後押しされて規則化し,18世紀の規範文法によって駄目を押された,という経緯である.Nevalainen は,その論文で,初期近代英語においても単純副詞は前時代からの余波で活躍しており,いくつか新しく生まれたものもあると報告しているが (250) ,上に引用した記述は全体的な潮流をよく表わしているといえるだろう.
・ Nevalainen, Terttu. "Aspects of Adverbial Change in Early Modern English." Studies in Early Modern English. Ed. Dieter Kastovsky. Mouton de Gruyter, 1994. 243--59.
[2012-07-16-1]の記事「#1176. 副詞接尾辞 -ly が確立した時期」で取り上げた話題の続き.Donner によると,副詞接尾辞 -ly は,中英語の開始までに概ね確立していたということだが,ここで疑問が生じる.さらに溯って古英語での状況はどうだったのだろうか.古英語において,-lice は,形容詞語尾 -lic に,歴史的な奪格語尾に由来する e が付加された屈折的な副詞 (Lass 207) として分析されていたのか,あるいは -lice 全体が副詞の派生語尾として分析されていたのか.
Campbell (275) によれば,「生産性」の程度をどう見るかという問題はあるものの,古英語でもすでに -lice が副詞接尾辞として認識されていたという.
則664. Since adjs. in -liċ normally formed adv. in -liċe, this ending early became regarded as an adverbial suffix, which could be used beside or instead of -e, e.g. heardliċe, holdliċe, hwætliċe, lætliċe (beside hearde, holde, late), the advs. of heard, hold, hwæt, læt.
同趣旨で,Lass (207) も次のように述べている.
Since {-e} was typically added to adverbialize the extremely common adjectives in -līc, the complex {-līc-e} was reinterpreted during OE times as an adverbial ending in itself, and there were thus a number of doublets off the same base: from heard 'hard' the adverbs heard-e, heard-līc-e, from hwæt 'brave' hwæt-e, hwæt-līc-e. (Our ModE adverbial {-ly} is of course the descendant of {-līc-e}.) (Lass 207)
後の時代に示されるような生産性には至っていないものの,-lice は,すでに古英語期に,-e と並んで,いやむしろ -e よりも形態的に明確な副詞マーカーとして機能していたらしい.現代英語の単純副詞と -ly 副詞の選択という問題の起源は,Donner の議論を参照する限り,初期中英語に遡ることができるといえそうだが,両選択肢の発生そのものは,古英語にまで遡ることができるのである.そして,ここには,屈折による副詞形成なのか,派生による副詞形成なのかという問題が関与しており,[2012-07-06-1]の記事「#1166. 副詞派生接尾辞 -ly の発達の謎」で提示された疑問「なぜ英語で -ly のような副詞派生接尾辞が発達したのか」へとつながってゆくように思われる.
・ Donner, Morton. "Adverb Form in Middle English." English Studies 72 (1991): 1--11.
・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.
・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
中英語期のあいだに副詞接尾辞 -ly が確立し拡大し,生産性を増したことについて,##40,981,984,998,1032,1036の各記事で触れてきた.しかし,中英語期のどのくらい早い段階で確立したのか,もう少し具体的に分からないものか.Donner の MED に基づく調査がその答えを実証的に示してくれていたので,紹介したい (2) .
The rise in incidence of the suffix [-ly], as a matter of fact, hardly needs tracing at all. It does indeed enjoy a great increase in use during the course of Middle English, but not, as seems generally assumed, by gradually superseding the flat form. Instead, according to the evidence of the MED, it not only is predominant throughout the period but was already established in that role at the very outset, so that the increase simply reflects the growing number both of new Romance adoptions introduced and of further native constructions recorded in the expanding corpus of writings extant. Adding the suffix to adjectives of whatever origin or substituting it for -ment or -iter when adopting a Romance adverb evidently constituted common practice with the general run of modal adverbs from no later than the closing decades of the twelfth century on.
無論,「確立」というのは「生産性」 (##935,936,937,938) と同じぐらい,正確に定義するのが難しい.しかし,Donner の調査に基づく限り,中英語の最初期にはすでに副詞接尾辞としての -ly が,常識的な意味において確立していたと考えてよいだろう.確立していたところへ,中英語のロマンス系借用語の基体が洪水のように流れ込み,-ly 副詞が拡大したということである.
Donner の論文では,-ly 副詞と単純副詞が併存するケースでは,前者が "modal reference" (3) を,後者が "diminished modality" (3) を含意するという,後に明確に発達する体系の萌芽が,初期中英語にすでに認められるということが主張されている.初期中英語期以降,-ly 接尾辞の形態的なレベルでの確立と拡大の背後で,意味的なレベルでの単純副詞との差別化も徐々に進んでいたことになる.
・ Donner, Morton. "Adverb Form in Middle English." English Studies 72 (1991): 1--11.
単純副詞 (flat_adverb) については,これまでも多くの記事で取り上げてきた.特に「#983. flat adverb の種類」 ([2012-01-05-1]) の (1) では,現代英語で単純副詞と -ly 副詞とが併存する場合には互いに意味を違えることが多いことに触れた.-ly 副詞は,派生的・比喩的な意味を発展させることが多く,元の形容詞の意味プラス・アルファだが,単純副詞はそのような意味を発展させず,むしろ意味上の制約を帯びることが多い.言ってみれば,マイナス・アルファだ.この -ly の比喩性については,「#996. flat adverb のきびきびした性格」 ([2012-01-18-1]) での岡村 (34) の論考に触れた.同趣旨は,Jespersen (48) でも言及されている.
1.55. In several cases we have two adverbial forms, one = the adj and the other with -ly. These are often differentiated, the former being used of time, etc, and the latter usually of manner and often in a figurative sense.
では,現代英語に単純副詞と -ly 副詞が併存するペアは,実際,どのくらいあるのだろうか.Jespersen (48--51) の42対のリストを掲げよう.
cheap(ly), clean(ly), clear(ly), close(ly), dead(ly), dear(ly), deep(ly), direct(ly), due / duly, easy / easily, even(ly), evil(ly), fair(ly), false(ly), fast(ly), fit(ly), flat(ly), free(ly), full / fully, hard(ly), high(ly), just(ly), late(ly), like(ly), loud(ly), low(ly), near(ly), new(ly), plain(ly), pretty / prettily, quick(ly), right(ly), round(ly), scarce(ly), short(ly), sound(ly), still / stilly, straight(ly), strong(ly), swift(ly), wide(ly), wrong(ly)
他に,最上級や序数詞に関連して,most(ly), last(ly), first(ly) など,さらに usual (as in more than usual) / usually, sure(ly), doubtless(ly), needless(ly) なども加えられるだろう.これを作業用のリストとして,現代における意味や用法の差異を調査したり,その歴史を遡ることで,両形の特質が浮き彫りになることが期待される.
なお,上の42ペアのうち,単純副詞の25語,-ly 副詞の23語がBNC頻度順リストの6318語以内に入る ([2011-04-05-1]の記事「#708. Frequency Sorter CGI」より) .また,元となる形容詞42語ののうち40語までが,BNC頻度順リストの6318語以内に入る高頻度形容詞であることを言い添えておく.
現代英語の両者の用法の差異について,関連する話題は「#995. The rose smells sweet. と The rose smells sweetly.」 ([2012-01-17-1]) でも扱ったので,参照されたい.また,中英語における単純副詞と -ly 副詞の併存については「#998. 中英語の flat adverb と -ly adverb」 ([2012-01-20-1]) を参照.
・ 岡村 祐輔 「単純形 loud, quick, slow について」 『山形大学英語英文学研究』第22号,1978年.25--38頁.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 7. Syntax. 1954. London: Routledge, 2007.
[2012-01-06-1]の記事「#984. flat adverb はラテン系の形容詞が道を開いたか?」で,細江 (127) の述べている「ラテン系の形容詞が副詞代用となる例を開いた」がどの程度事実なのかという問題意識をもった.この問題をしばらくおいておいたところ,先日 Schmitt and Marsden (57) に次のような記述を見つけた.
Most adverbs of manner in Modern English have the suffix -ly. This derives from Old English lice (meaning "like"), which went through several changes before it was eventually reduced to -ly. Many adverbs in Modern English derive directly from their Old English versions: boldly, deeply, fully, openly, rightly. Others come from the great period of adverb formation in English in the later 16th century, when many adjectives were simply converted to adverbs with zero inflection. These included many so-called "booster" adverbs, such as ample, extreme, detestable, dreadful, exceeding, grievous, intolerable, terrible, and vehement. But others were supplied with -ly from the start (horribly, terribly, violently), and use of the inflection gradually gained ground. During the 18th century, the pressure for normalization ensured that the suffix became the rule. We still use this suffix regularly today to make new adverbs from adjectives.
つまり,16世紀後半に,形容詞からゼロ派生した単純副詞 (flat_adverb) の増大した時期があったという指摘である.細江の言及も近代英語期を念頭においているようなので,Schmitt and Marsden と同一の事実について語っていると見てよいだろう.ラテン系の形容詞とは明示していないが,例に挙げられている9語のうち dreadful を除く8語までが,(フランス語経由を含む)ラテン系借用語である.
詳しくはさらに多方面の調査を要するが,-ly 副詞と単純副詞の発展の概略は次のようになるだろうか.古英語期より発達してきた副詞接尾辞 -ly は中英語期になって躍進した.一方,古英語の別の副詞接尾辞 -e が消失したことにより生じた単純副詞の使用も,中英語期にすぐに衰えることはなかった.むしろ,初期近代英語期には,ラテン系借用語による後押しもあり,単純副詞の種類は一時的に増大した.しかし,単純副詞には,現代にも続く口語的な connotation が早くからまとわりついていたようで,18世紀に規範主義的文法観が台頭するに及び,非正式な語形とみなされるようになった.その後,-ly が圧倒的に優勢となり,現在に至っている.
なお,副詞接尾辞 -ly に関する話題については,本ブログでも -ly suffix adverb の各記事で取り上げてきたので,参照されたい.
・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.
・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
Fortson (132--33) によれば,印欧祖語には,英語の -ly に相当するような,形容詞から副詞を派生させる専門の語尾は存在しなかった.むしろ,名詞や形容詞の屈折形を用いることで,副詞的な機能を得ており,この方法はすべての娘言語で広く見られる.しかし,このようにして派生された副詞は比較的新しいものであり,印欧祖語にまで遡るものはきわめて少ないという.形容詞から副詞的機能を生み出す屈折形の典型は中性の主格・対格の単数であり,例えば「大きな」に対する「大きく,大いに」は印欧祖語で *meĝh2 が再建されている.これは,Hitt. mēk, Ved. máhi, Gk. méga, ON mjǫok に相当する.古英語でも,形容詞を中性対格単数に屈折させた efen "even", full "full", (ge)fyrn "ancient", gehwǣde "little", genōg "enough", hēah "high", lȳtel "little" は副詞として機能する (Campbell 276) .
この典型から外れたものとして,ほかにも,主格から作られた Lat. rursus "back(wards)",奪格から作られた Lat. meritō "deservedly",具格から作られた Lat. quī "how" などがあり,古英語でも,属格を用いる ealles "entirely", micles "much",与格を用いる ǣne "alone", lȳtle "little" などがある (Campbell 276) .取り得る格形は様々だが,印欧諸語における形容詞由来の副詞は,基本的に屈折による形成と考えられる.
この伝統的な副詞派生はゲルマン諸語にも継承された.屈折が多少なりとも水平化し,主格などとの形態的な区別がつけられなくなった後でも,特別な処置は施されず,「形容詞=副詞」体制で持ちこたえた.英語においては flat adverb がその例である.しかし,英語では,flat adverb とは別に,形容詞と副詞を形態的に区別せんとばかりに -ly が発達してきた.したがって,英語は,この点でゲルマン諸語のなかでは特異な振る舞いを示しているように思われる.
ただし,ゲルマン語派の外を見れば,[2012-03-01-1]の記事「#1039. 「心」と -ment」で取り上げたように,ロマンス語派でも副詞派生接尾辞は発達している.したがって,英語が特異であると断定することは必ずしもできないかもしれない.
関連して,Killie (119) は,英語の現在分詞形容詞が -ly を取るようになった歴史的経緯を調査した論文の冒頭で,英語のこの振る舞いを,ノルウェー語,スウェーデン語,ドイツ語などには見られない特異な現象であると示唆している.しかし,なぜ英語で -ly のような副詞派生接尾辞が発達したのかについては,その論文でも触れられていない.ただし,Killie (127) は,英語史上の一種の drift としての "adverbialization process" に言及しており,-ly 副詞の発達はその一環であると理解しているようだ.
・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.
・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.
・ Killie, Kristin. "The Spread of -ly to Present Participles." Advances in English Historical Linguistics. Ed. Jacek Fisiak and Marcin Krygier. Mouton de Gruyter: Berlin and New York: 1998. 119--34.
[2012-02-27-1]の記事「#1036. 「姿形」と -ly」に対応させて,標題を掲げた.今日は,英語とも間接的に関係する,フランス語の副詞接尾辞についてである.
フランス語では,形容詞の女性形に接尾辞 -ment を付加すると副詞になる (ex. difficilement "difficultly", régulièrement "regularly", sûrement "surely" ) .これらの例は,いずれも基体が(若干変形して)英語へ借用されており,英語ではそれぞれ語尾が -ly に置きかえられている.機能や生産性の点で,フランス語の -ment と英語の -ly の対応は明らかである.フランス語との接触は,英語で -ly が副詞語尾として確立しつつあった時期だったために,副詞語尾としての -ment は,接尾辞単体としても派生語の部品としても,ついぞ英語へは借用されなかった.
さて,このフランス語の副詞接尾辞 -ment は,ラテン語 mens (心)の奪格 mente に由来する (島岡,pp. 68--69) .「姿形」により副詞を作る日英語と「心」により副詞を作るフランス語の対比がおもしろい.mens は女性名詞であるため,これを修飾する形容詞が女性形で前置され,全体として副詞的に用いられた.これは,オヴィディウスによるラテン語の placida mente (静かな心で)のような表現に対応するが,文学的な表現だったようで,東ロマニアには伝わらなかったものの西ロマニアでは広く行なわれるようになった.
上記のように,mens は本来名詞だったので,古仏語では『ローランの歌』にみられるように humle et dulcement (つつましく,穏やかに)のように,並列された最初の要素が形容詞のまま残されている例がある.現代フランス語ではこの用法は見られないが,現代スペイン語では amarga y cruelmente (苦々しく残忍な仕方で)と用いられる.また,背景は異なるが,表面的に似たような構造は英語にも見られる.以下は,岩本・田島 (39) より,Shakespeare から引いた例である.
And I, most jocund, apt and willingly, To do you rest, a thousand deaths would die (TN 5.1.132--3). / And here the smug and silver Trent shall run In a new channel, fair and evenly (1H4 3.1.102).
現代フランス語では -ment は完全に接尾辞化したので,表現に重みを加えるために d'une manière . . . や de façon . . . の迂言形が発達している.ラテン語の placida mente 構造の再来といっていいだろう.なお,英語にも in a . . . manner/way などとする平行的な表現がある.
副詞を作る接尾辞 -ment と同形にて非なるものが,名詞を作る接尾辞 -ment である.こちらはラテン語 -mentum に由来し,名詞接辞 -men と過去分詞接辞 -tum の合わさったものである.フランス語で -ment をもつ名詞は,基体の語源をラテン語にもつものが少ないことから,俗ラテン語や古仏語の段階になって本格的に現われたと考えられる (島岡,p. 60) .この接尾辞は,それによる多くの派生語とともに英語にも入った (ex. appointment, government, harassment, payment, statement ) .英語に入ってからは,本来語の基体をもつ amazement, onement, wonderment のような混種語 ( hybrid ) も形成されている.
・ 島岡 茂 『フランス語の歴史』第4版,大学書林,1993年.
・ 岩本弓子,田島松二 「シェイクスピアにおける単純形副詞 (Flat Adverb) について」『言語科学』第29巻,1994年,29--41頁.
副詞接尾辞 -ly については,「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) をはじめとして,最近では「#1032. -e の衰退と -ly の発達」 ([2012-02-23-1]) でも取りあげた.中英語期以来,副詞の大量生産をもたらしてきたこの -ly の起源を遡ると,その原義が「体,様子」であることがおもしろい.[2009-06-07-1]の記事で解説したので詳しくは繰り返さないが,古英語で -līċ(e) は「形,様子」を意味した(同根の -like も参照).つまり,beautifully は,本来,「美しい体(てい)で」「美しい様子で」の意である.
日本語でも,体や様子などの姿形を指す種々の語が,様態の修飾語を大量生産している.上で訳語に用いた「?の体(てい)で」「?の様子で」のほか,「?風(ふう)に」「?のように」「?ざまに」「?のかっこうで」「?の形で」「?げに」など,枚挙にいとまがない.基体に姿形を意味する接辞を付加して,形容詞や副詞などの修飾語を生み出すという語形成は,ごく自然な語形成なのだろう.beautifully を迂言形で表現すれば,in a beautiful way や in a beautiful manner となる.
英語の -ly はこのように「姿形」から始まったが,徐々にこの原義が感じられなくなり,副詞を作るという抽象的な機能へと発展していった.その結果,姿形とは関係のない,いやむしろ対極にある心情の語に付加して confidently, heartfully, inwardly なども普通に作られるようになった.さらに,時間を表す daily,hourly,weekly,yearly や,順序を表わす firstly, secondly, lastly など,より抽象的な語形成にも貢献した.firstly などの順序副詞は,16世紀に現われ出し,フランス語 premièrement などのなぞりの可能性もある.
「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) や「#981. 副詞と形容詞の近似」 ([2012-01-03-1]) で述べたように,副詞接尾辞 -ly は,中英語期に生産力を高めた.従来の同機能の -e 語尾が音声的に摩耗しつつあり,副詞を標示するには頼りなくなっていたところで,形態的,音声的に明確な語尾 -ly が,有効な副詞接尾辞として機能するようになってきたものと思われる.-e の摩耗と -ly の発達の因果関係は,OED "-ly" suffix2 でも支持されている.
In ME. the number of these direct formations was greatly increased, and when the final -e, which was the original OE. adverb-making suffix, ceased to be pronounced, it became usual to append -ly to an adj. as the regular mode of forming an adv. of manner.
この一連の過程に,関連する出来事をもう1点付け加える必要がある.それは,副詞接尾辞として活躍するようになった -ly が,従来もっていた形容詞接尾辞としての役割を減じていったことである.-ø と -e の対立が失われると,本来 -e のもっていた副詞標示の役割を -ly が肩代わりするようになった.ところが,-ly が副詞標示の役割を本格的に果たそうとすれば,従来の形容詞語尾としての働きがかえって邪魔になる.そこで,形容詞マーカーとしての役割を捨てていった.これを図示すれば,以下のようになる.
狭い体系ではあるが,-ø, -e, -li(c), -li(c)e からなる1つの形態的な体系を考えるとすれば,ほんの小さな -e 語尾の揺らぎという出来事が,体系をがらっと組み替えたことになる.言語は体系であり,言語変化が体系の変化であることがよくわかるだろう.また,英語史のより大きな潮流を意識した視点から見れば,屈折語尾を利用した synthetic な副詞化から,派生語尾を利用したより analytic な副詞化への方針転換とみることもできる.
もっとも,-e 語尾の摩耗を受けた後も,形容詞と副詞が同形のまま共存する flat_adverb は少なからず残ったし,副詞接尾辞としての -ly が発達したからといって,形容詞接尾辞としての -ly が完全に死に絶えたわけでもないことは付け加えておきたい.
最近書いてきた flat_adverb の記事では,主として現代英語の単純形と -ly 形の副詞に焦点を当ててきたが,中英語での状況を Chaucer を頼りに覗いてみたい.
中英語では,確かに -ly 形は増えてきてはいたものの,単純形が現代英語よりもずっと幅を利かせていた.[2012-01-06-1]の記事「#984. flat adverb はラテン系の形容詞が道を開いたか?」の冒頭で概説したように,単純形副詞は形容詞の語幹に副詞接尾辞 -e を付すことによって形成されていたが,中英語ではこの肝心の -e 語尾がしばしば消失にさらされたために,形容詞と形態的な区別がつきにくくなっていた.しかし,だからといってすぐに -ly 形に取って代わられたわけではなく,loude, cleere, faste, faire, smal など多くの語が,いまだに副詞の役を務めていた.例えば,次の couplet の最後の smal は形容詞 "small" ではなく "finely" ほどを意味する副詞である(以下の Chaucer からの引用は,すべて Horobin, pp. 121--23 で挙げられている例を再現したもの).
Of orpyment, brent bones, iren squames,
That into poudre grounden been ful smal; (G 759--60)
ほかにも一見すると形容詞と読み違えてしまいそうな副詞の使用例を挙げよう.
・ That al his love is clene fro me ago (F 626)
・ The fires breene upon the auter cleere (A 2331)
・ Thanne shaltow hange hem in the roof ful hye (A 3565)
韻律上の要請による場合も多かっただろうが,このように単純形は健在だった.ただし,この時代,-ly の勢いが増してきたことは先述の通りで,両形が併用された副詞も少なくない.-ly の前身である -lich(e) という古形を保っている例すら見られ,1つの形容詞に対して最大3種類の副詞形が共存し得たことになる."newly" に相当する以下の例を参照.
・ This carpenter hadde wedded newe a wyf (A 3221)
・ This knyght was comen all newely (RR 1205)
・ that oother of hem is newliche chaunged into a wolf (Boece IV, met. 3)
現代英語では,単純副詞 new は,new-laid eggs, new-mown hay などに複合語に見られるばかりである.wedded newe の collocation については,現代英語の newly-weds (新婚さん)を参照.関連記事「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]) もどうぞ.
・ Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007. (esp. pp. 105--07.)
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow